リリネット「あたしがスタークの足手まとい…?」 (99)

虚夜宮・第1の宮

リリネット「おーっすスタークぅ! 暇だしなんかしよーよー」ニッ!

スターク「ZZZZ……」

リリネット「スターク? おいスタークってば!」ユサユサ

スターク「ZZZZ……」ゴロン

リリネット「……とりゃ!」ゲシッ!

スターク「ぐはぁっ!?」ビクッ!

リリネット「そりゃ! 起きろ! このっ! このっ!」ゲシ!ゲシ!

スターク「バッ、おまっ、キンタマはやめっ、やめろっ!」ガバッ!

リリネット「うっさい! せっかく遊んでやろうと思って呼びかけてんのに、いつまで寝てんのさ!?」

スターク「ふざけんな! 誰もおめーに遊んでもらいたいなんて思っちゃいねーよ!
   ……ったく、こっちは眠みーんだ、遊びたきゃ独りで勝手に遊んでろ」ゴロン

リリネット「なっ……!」ムカッ!

リリネット「ふんっ! ならいーよ別に! スタークなんかずぅーっと独りで寝てれば!?」

バタン!

スターク「……めんどくせーヤツだなったく
   まぁいいか。どうせすぐに帰って来んだろ」

スターク「ふぁ〜あぁ……そんじゃもう一眠りするか……ZZZZ」

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回廊

リリネット「なにさスタークのヤツ! あたしがいなかったら何にもできないクセして!」ムカムカ

リリネット「へへーんだ、いーもんね。あいつがグースカいびきかいてる内に、他の十刃と仲良くなってやるもん」

リリネット「そんであたしを従属官にしたいって十刃が現れて、スタークは慌ててあたしを取り戻しに飛び起きるってわけ」

リリネット「『悪かったリリネット。俺にはお前が居てくれないとダメなんだ。だから俺の所へ帰って来てくれ!』

リリネット「『ようやくあたしの大切さが理解できたみたいだね。しょーがないなーもぉー』」

リリネット「……うん、我ながら完璧なシナリオ!」ニヤニヤ

リリネット「さーてそうと決まれば誰の所に行くかだけど…」テクテク

リリネット「とりあえずハリベルんとこにしとくかなー。たぶん十刃の中じゃ一番まともだし」テクテク

第9の宮

リリネット「……おかしい。第3の宮に向かってたはずなのに、何でここに着いちゃってるワケ!?」

リリネット「第9って言ったら……アーロニーロんとこだよね? うわー、どうしようこれ。引き返そっかなー」

リリネット「けどまた変なとこに出たらやだしなー……かといってむざむざ帰るのも癪だしなー……」ウダウダ

リリネット「……そういやアーロニーロって従属官連れてないんだっけ。なら一応狙い目っちゃ狙い目?」ウダウダ

アーロニーロ「……何をウダウダしてやがる」「サッキカラ鬱陶シイヨ」

リリネット「ひゃあっ!」

リリネット「ちょっ、いきなり後ろから声かけんなよ! ビックリするじゃんか!」

アーロニーロ「自宮の前でウロウロされてちゃこっちが迷惑なんだよ」「用ガ有ルナラサッサト済マセテヨ」

リリネット(うー……こうなりゃ仕方ないかー)

リリネット「いやー実はさ、あんたがいっつも一人ぼっちだから、暇潰しに遊んであげよっかなーって、ね!」ニィ!

アーロニーロ「ワザワザケンカ売リニ来タノ?」「とっとと消えろ」

リリネット「ごめんごめん! ほんとは単に暇だったから遊びに来てみただけだって!」

アーロニーロ「だったら他を当るんだな」「子供ノオ守リハ御免ダヨ」

リリネット「いーじゃんちょっとぐらいー。どうせあんただって暇でしょ?
    ねーねー頼むよーせっかく来たんだしさーねーねーねー!」グイグイ

アーロニーロ「ええい鬱陶しい。服の裾を引っ張るな」「ヤレヤレ……言ッテモ素直ニ帰リソウニナイネ」

リリネット「そんじゃ——!」パァ!

アーロニーロ「ついて来い」スタスタ

リリネット「ほいほーい。おっじゃまっしまーす」テクテク

第9の宮・内部

リリネット「くっら!? 何この部屋薄暗すぎっ!」

アーロニーロ「僕ラニハ闇ノ方ガ性ニ合ッテルンダヨ」

リリネット「だからって暗すぎでしょここ! いっつも寝てるウチのスタークの部屋の方がまだ明るいよ!?」

アーロニーロ「喧シイネ」「ここは俺の宮だ、内装をどうしようがとやかく言われる筋合いはない」

リリネット「て言ってもこんなに薄暗くちゃトランプもできないじゃん」ブーブー

アーロニーロ「んなモンそもそも持ってねーよ」「ホラ、ウロチョロセズニ座リナヨ」つ座布団

リリネット「おっ、サンキュ! なんだ、結構気が利くじゃん」ストン

アーロニーロ「騒ぎまわられるよりはマシだからな」

リリネット「はいはいっと……」キョロキョロ

アーロニーロ「何キョロキョロしてやがる」

リリネット「いや、お茶菓子とかないのかなーって」

アーロニーロ「図々しいにも程があるぞ!」「オ茶ガ飲ミタキャ東仙統括官ノ所ニデモ行キナヨ!」

リリネット「ちぇーっ、まぁいいや」ブー

リリネット「……」

アーロニーロ「……」「……」

リリネット「…………」

アーロニーロ「…………」「…………」

リリネット(やばっ、本気でやることも話すこともないっ……! なんか話題見つけないとっ……!)タラタラタラ

リリネット「あ、あーえーっとさ、アーロニーロ。あんたってなんで従属官連れないの?」

アーロニーロ「急ニドウシタノ?」

リリネット「いや、どーしてかなーって思ってさ」

アーロニーロ「フン、俺に従属官など必要ない」

リリネット「いやでもさ、こんな広い自宮に一人きりっての寂しくない?」

アーロニーロ「別ニ?」

リリネット「ふーん、そんなもんかねー……あ、もし何だったらその、あ、あたしを従属官にしてみないっ?///」カァァ!

リリネット(うわっ、これ言ってて結構ハズいかもっ…!)

アーロニーロ「ほう、これはまた意外な申し出だな」「スタークト喧嘩デモシタノ?」スクッ…

リリネット「ま、まさかっ! ただ単にスタークがあたしのありがたみを分かってないみたいだからっ、ちょっと思い知らせてやろうと思ってっ!」

アーロニーロ「フーン、ソレデワザワザ僕ラノ所ヲ選ブナンテ光栄ダネ」スポッ…

リリネット「べ、別に理由があってあんたの宮に来たわけじゃないしっ!
    ほんとはハリベルのとこに行くつもりがなぜか道に迷って……って、ひゃあっ!?」ビクッ!

リリネット「あ、あんた何出してんのさっ!?」シロクロ

アーロニーロ「何ッテ、見レバ分カルデショ?」「俺の左腕——『喰虚』の捕食腕部だ」ウネウネ

リリネット「だ、だからっ、なんで急に手袋外してこっちに近づいて来てんかって訊いてんのっ!」

アーロニーロ「言っただろう? 俺たちに従属官など不要ってな」「手下ヲ従エルヨリ、食ベ尽クシテソノ能力ヲ得タ方ガ好都合ダカラダヨ」ウネウネ

リリネット「た、食べるって…まさかあたしをっ……!?」ギョッ

アーロニーロ「ダッテ僕ラノ従属官ニナッテクレルンデショ?」「ならおとなしく『喰虚』に喰われて、俺の中で生き続けろ」ウネウネ

リリネット「い、いやぁっ! あんたおかしいんじゃないのっ!?
    他の十刃の所の破面勝手に食べたりして、ス、スタークが黙っちゃいないよっ!」ガクブル

アーロニーロ「貧弱な部下をひとりで放っておいて昼寝してるような奴がか?」ウネウネ

リリネット「そ、それはっ……そうだっ、十刃同士で勝手なマネしたら藍染様だって黙っちゃ……!」ヒッシ

アーロニーロ「本当にそうか?」「藍染サマハ案外ソンナコト気ニシナイカモシレナイヨ?」ウネウネ

アーロニーロ「忘れたのか? ついこの間ルピの野郎がグリムジョーに殺されたのを」「ケドグリムジョーハ無罪放免ダヨネ?」ウネウネ

リリネット「…っ!」

アーロニーロ「ソレニキミハ知ッテルカドウカ分カラナイケド」「昔十刃同士の私闘の末に、虚夜宮を放逐された奴も居たしな」ウネウネ

リリネット「ひっ…や、やめてっ……」ガクブル

アーロニーロ「安心しろ、苦痛を感じる暇もなく一息に呑みこんでやるよ」ゴゴゴゴ…!

リリネット(どうしようっ…こんなことになるなんて…)ウルウル

リリネット(……スタークっ……!)ギュッ!


アーロニーロ「……悪りい、冗談だ」ウネウネ

リリネット「……へ?」キョトン

アーロニーロ「だから、ただの冗談だって言ってんだよ」「チョット脅カシテミタダケダヨ」ウネウネ

アーロニーロ「イクラ何デモ、意味モナク第1十刃ニ喧嘩ヲ売ルヨウナ真似ハシナイサ」ウネウネ

アーロニーロ「ああは言ったが、俺はノイトラ達と違って藍染様の居る所で無断で私闘をやらかす程バカじゃない」ウネウネ

リリネット「……ふ、ふざけんなぁぁっ///」カァァァ!

アーロニーロ「アハハ、ソウ怒ラナイデヨ」「まさか泣くほどビビるとは思わなくてな、つい興が乗っちまった」ウネウネ

リリネット「なっ…泣いてなんかないしっ! いいから早くそのウネウネしてるのしまってよ気持ち悪いっ!」

アーロニーロ「分かった分かった。そう睨むな」

リリネット「ったくもう…嫌な汗かいちゃったし」ブツブツ

アーロニーロ「本気ニシスギダヨ」「大体、お前の様にカスみてぇな霊力しかない破面なんざ喰っても腹の足しにもなりゃしねぇ」

リリネット「なっ…」キッ

アーロニーロ「自覚はあるんだろ? お前と一緒に居てくれる奴なんざスタークしか居ねぇってことぐらいは」

リリネット「た、確かに今はまだ弱いかもしれないけど…あ、あたしだってそのうち!」

アーロニーロ「イヤ、ハリベル辺リハ酔狂ダカラ受ケ入レテクレルカモネ」「『愛』の伝道師サマも頼み込めばいけるかもしれんぞ」クツクツ

リリネット「か、勝手なことばっかっ…!」フルフル

リリネット(あたしが弱いから……あたしがスタークの弱味になっちゃってる……?)

アーロニーロ「さてと、お前をからかうのにもいい加減飽きたな」「アリガトウ、イイ暇潰シニナッタヨ」

リリネット「……邪魔したね。そろそろ出るよ」スタッ…

アーロニーロ「おっとそうだ、楽しませてもらった礼に」「コレヲアゲルヨ」ガサゴソ

リリネット「え…これって、花火?」

アーロニーロ「ソウダヨ」「以前『こいつ』の——」パカッ

リリネット「!!」

アーロニーロ「——記憶を辿ってる時に、暇潰しに作ってみたんだ。よくできてるだろ?」

リリネット「その顔、確か死神の……!」

アーロニーロ「ああ、そうだ。『こいつ』の妹や弟は花火に興味があったみたいでな
    『こいつ』自身にも簡単な製作知識程度はあったみたいだ。ま、こんな手持ち花火ぐらいしか作れなかったけどな」

リリネット「……へぇ、あんな手してて、意外と器用なんだね、あんた」

アーロニーロ「はっはっは! こちとら33650の能力を持ってるんだぞ?
    この程度のオモチャ作りなんざお茶の子さいさいってもんだ」

リリネット「な、なんか調子狂うなぁその顔で話されると……まぁいいや。その、ありがとね」

アーロニーロ「ああ。それと、帰るんだったら迷わねーよう、せいぜい気を付けろ
    どうも市丸ギンの野郎がまた回廊操作をしてやがるみたいだからな」

リリネット「え、マジで? じゃああたしが第9の宮に来ちゃったのも……でもなんでそんなことを?」

アーロニーロ「知るか。どうせいつもの気まぐれだろ
    『こいつ』の記憶によれば、市丸ギンは瀞霊廷に居た頃から意味もなく人にちょっかい出すのが好きだったみてぇだからな」

アーロニーロ「自宮に戻るつもりなら自分が今歩いてる回廊がどの辺なのか、常に確認しながら行け
    あるいはスタークの霊圧を辿る手もあるが……寝てる時のあいつから霊圧を感じ取れるならな」

リリネット「へっへーん、舐めんなよアーロニーロ? あいつの霊圧ぐらい簡単に探れるっての!
    けどま、忠告サンキュー。あんた結構色んなことに詳しいじゃん、ちょっとだけ見直したよ」ニィ!

アーロニーロ「当たり前だ。何せお前らが藍染様の傘下に加わるずっと前から、俺はこの虚夜宮に居るんだからな」

リリネット「あ、でも別にっ、さっきの嫌がらせのことまで許したわけじゃないからっ!」ギロッ!

アーロニーロ「根に持つなよ。お前の泣きっ面を『認識同期』で虚夜宮中に広めるのだけは勘弁してやったんだぜ?」ニヤニヤ

リリネット「……んあぁっ!?///」カァァァ!

アーロニーロ「これに懲りたら、迂闊に他の十刃の宮までホイホイついていくのはやめることだな」

リリネット「バ、バッカやろぉー!!」

回廊

リリネット「——ったく! アーロニーロのやつ調子に乗りやがって!」プンプン

リリネット「あたしがスタークの弱点?そんなわけっ……」

リリネット「……そんなわけ、ないよね?」

リリネット「…………」

リリネット「……はぁ。こういうこと相談できるのも、やっぱハリベルだけだよねー……」トボトボ

第8の宮

リリネット「考え事してたらまた迷ったぁぁぁー!!」ウガー!

リリネット「しかもここ、よりにもよってザエルアポロの宮じゃん…!」

リリネット「さすがにアイツはやばい、早いとこ離れよ……」クルッ

パカッ

リリネット「うぇっ、ちょっ——うそぉぉぉぉぉーーーー…………」ヒュゥゥゥン…



リリネット「……ぁぁあああああ痛ぁっ!!」ドンッ!

リリネット「いっつぅ……な、なんであんなとこに落とし穴が……!」サスサス

ザエルアポロ「ようこそ、第8の宮へ」ニッコリ

リリネット「うわぁっ!」アトズサリ

ザエルアポロ「おやおや、ずいぶんと警戒されているようだ
     そう身構えることはないじゃないか。僕らは同じ、この虚夜宮に住む破面だろう?」ニコニコ

リリネット「うるさい変態科学者っ! 白々しいこと言ってんじゃないぞっ!
    あの落とし穴確実にあたしをハメるためにあの場所に仕掛けてたでしょ!?」クワッ

ザエルアポロ「ハメるだなんて、心外だなぁ
     お客人が我が宮に入ろうかどうかお悩みのようだったので、軽く背を押して差し上げただけだよ」

リリネット「帰るそぶりしか見せてなかったろっ!?」

ザエルアポロ「まぁそう声を荒げないでくれたまえよ
     実際、何の用もなく他の十刃の宮まで来た訳じゃないんだろう?」

リリネット「べ、別にぃ? 特に行くあてもないただの気まぐれな散歩だけどぉ?」シレッ

ザエルアポロ「フフッ、つれないお客人だ。僕なら君の抱える悩みを解消してあげられるかもしれないというのに」

リリネット「な、悩み……!?」

ザエルアポロ「知っているよ。第1十刃に召し抱えられながら、単体での戦闘力が著しく低い
     他ならぬ自分自身が彼の弱点となっている——そのことで悩んでいるのだろう?」

リリネット「な、なんであんたがそんなことっ…!」

ザエルアポロ「客観的なデータと君の様子から観察したことを分析すれば、自ずとその程度のことは分かるさ
     どうだい? 一週間、いや三日もあればいい。僕のもとに三日、君の身体を預けてくれれば、見違えるほどに霊力を底上げして差し上げるよ?」ニヤリ

リリネット「……そうだね。確かにあんたの科学力があれば……」

ザエルアポロ「だろう?」

リリネット「……んなもん嫌に決まってんだろぉぉぉーっ!!」ダッ



ザエルアポロ「やれやれ、せっかくの機会だというのに遠慮しているようだ
     このままではもてなしの準備をしていたのが無駄になんてしまう」ハァ…

ザエルアポロ「——お前たち、お客人をもう一度こちらへお連れしろ。丁重にな」パチンッ

ドォォォォン!!

従属官共「「「——はいっ! ザエルアポロさまっ!!」」」

リリネット「——ったくふざけんなしっ! 何が悲しくてあいつの実験材料に志願しなきゃいけないのさっ!」ダッダッダッ…

リリネット「大体アーロニーロもザエルアポロも人のこと好き放題言いやがって!
    お前らがあたしの何をわかってるって言うんだよっ……!!」ギリッ

リリネット「……あたしとスタークの、何をわかってるって」ボソッ


……タドタドタドタドタドタッ!


リリネット「……へ?」クルッ

ルミーナ「いたっ! リリネットいたっ!」ピョーン

ベローナ「おつれするっ! ザエルアポロさまのところおつれするっ!」ピョーン

従属官共「おつれするっ……!」「ていちょうにっ!!」「ムリヤリっ!!」「おつれする……」「つかまえる」「てあしおさえるっ!」「オツレスルゥゥゥ!!」

リリネット「ひっ!?」ギョッ!

従属官共「テイチョウニオツレッ!」「ていちょうていちょう」「かみつかめっ!」「てあしおれっ!」「ハラナグレ……」「おつれしろっ!」「おつれおつれ」

リリネット「やっばっ……はやくこっから出ないと……!」

ドォォォォン!!


メダゼピ「グゥゥォオォォォオオオオォォ…!!」

リリネット「うげっ!? デカブツに先回りされたっ…!!」

ベローナ「メダゼピとおせんぼっ!」ピョーン

ルミーナ「みちふさげっ! メダゼピみちふさげっ!」ピョーン

従属官共「メダゼピでかい」「おおきいっ!」「ミチフサグ……」「でかいメダゼピとおせんぼしろっ!」「おさえこめっ!」「ひきちぎれっ!」「フミツブセ」「にぎりつぶせ……」

リリネット「くっそアイツらっ……舐めやがってっ……こうなったらぁ!!」キッ!

ギュッ————!!

メダゼピ「オオオゥゥゥゥゥゥ!!」


リリネット「——虚閃ぉ!!」


ズォオオオオオオォォォォーーーーーン!!!!

メダゼピ「ウグゥッ!!」ユラッ…

リリネット「よっし顔面直撃ぃっ! 後は——」

メダゼピ「……ゥウォォ?」

リリネット「……うっそ、効いてない……?」

メダゼピ「ウガァァァ!!」ブンッ

リリネット「ぃひゃあっ!?」スカッ

ベローナ「おしいっ! はすしたっ!」ピョーン

ルミーナ「メダゼピもっとよくねらえっ!」ピョーン

リリネット「く、くそぉ……このままじゃ……そうだ!」

メダゼピ「グゥゥゥ……!」ギロッ

リリネット「イチかバチかもう一発ぅ——」

ギュッ————!!


リリネット「——虚閃ぉ!!」


ズォオオオオオオォォォォーーーーーン!!!!

ミシミシミシミシ…!!

メダゼピ「ヌゥウウグォッ!?」フラフラ

リリネット「——へへっ! 今度狙ったのはあんたじゃなくて足元の床!
    あたしの虚閃を受けてヒビが入ったところにあんたの重みが乗っかったら——!」ニヤリ!

ドゴォォン!

メダゼピ「グゥオオオォォッ!!」ズブズブズブッ!!

ベローナ「ゆかぬけたっ!?」ピョーン

ルミーナ「そこぬけたっ!?」ピョーン

従属官共「メダゼピおちた」「でもどうたいつかえたっ!」「うでつっぱった……」「アッ!クチアケタッ!」「おこったメダゼピっ!」「虚閃撃つ気っ!」「アブナイゾッ!」

メダゼピ「ウウアァァァァ——」グワッ!

リリネット「なら撃たれる前に頭の横をすり抜けてやるっ!」ダッ

ギュッ————!!

リリネット「とりゃあぁぁぁっ!!」ズザザァッ!

ベローナ「メダゼピよこむいたっ!」ピョーン

ルミーナ「でもおそいっ! リリネットすりぬけたあとっ!」ピョーン

メダゼピ「——ァアオッ!!」


ドゴォオオオオオォォォォーーーーーン!!!!


従属官共「ああっ!」「はずれたっ!」「かべあたった」「クズレルクズレル……」「かべにあなあいたっ!」「オコラレルッ!」「ザエルアポロさまにっ!」

リリネット「チャンス!」スタタタタ…

従属官共「おこられるおこられる」「ニゲタッ!」「かべのあなからそとでたっ!」「ザエルアポロさまおこる……」「にがしたにがしたっ!」「おこられるっ!」


ザエルアポロ「……逃がしたか」チッ

ザエルアポロ「通路を逃げ続けるだけならば、意のままに内部構成を変えられる僕の宮からは決して逃れられない」ツカツカ

ザエルアポロ「奴の霊力じゃ全力の虚閃を当てても壁に罅が入る程度
     宮を壊して脱出することは不可能と踏んだのだが……役立たず共め!」ドンッ

回廊

リリネット「ふぅ……危なかったぁ」ホッ

リリネット「ザエルアポロのやつ、アーロニーロと違って本気であたしをどうにかしようとしてたし……」

リリネット「まっ! あいつらの追跡もあたしの機転には敵わなかったみたいだけどねっ!」ヘヘン!

リリネット「……」

リリネット「……あたしの虚閃、練習すればもっと強くなるかな?」ボソッ…

第7の宮

リリネット「……なんかもう慣れた」ハァ…

リリネット「ゾマリかぁ……『愛(アモール)』ねぇ……?」

リリネット「まぁでも、せっかく来たんだしとりあえず顔出してみるかー」


リリネット「お邪魔しまーす。ゾマリぃー、いるぅー?」

ゾマリ「…………」

リリネット(うわっ、めっちゃ集中して瞑想してる)

リリネット(取り立てて用があるわけでもないし、邪魔しちゃ悪いから戻ろう)

リリネット「お邪魔しましたー……」

ゾマリ「お待ちなさい」

リリネット「えっ!」ビクッ

ゾマリ「従属官が主以外の十刃の宮を訪れるとは珍しい
   私に何か用があって来られたのではないかな?」

リリネット「い、いやぁ別に……なんとなく散歩の途中で立ち寄ってみただけだし
    瞑想の邪魔しちゃったんじゃない? あははごめんごめん、すぐ帰るからどうぞ続けて」

ゾマリ「遠慮は必要ありません。さぁ、あなたもこちらへ来てお座りなさい」

リリネット(えぇぇ……)

ゾマリ「——して? どういった悩みをお持ちかな?」

リリネット「は、はいっ?」

ゾマリ「『愛』を追求し修練に励む私には、あなたが内に大いなる苦悩を抱えてここへ来たことなど容易に分かるのです」

リリネット「いや、悩みっていうほどのものじゃ……」

ゾマリ「恥じることはありません。虚とて破面とて、時には人と同じように思い悩むこともありましょう
   我らのことを断罪すべき邪悪としか認識していない、傲慢にして愚かなる死神共には到底理解などできないでしょうがね」

リリネット「はぁ…?」

ゾマリ「さぁ、打ち明けてご覧なさい。さすればあなたの悩みも『愛』の導きによって癒されるでしょう」

リリネット(……ダメもとで相談するだけしてみよっかな)

リリネット「実は——」

ゾマリ「——なるほど、よく分かりました
   つまり自らの無力さが原因で、主たる十刃の枷となってしまうのは耐えられない、ということですね?」

リリネット「うん…まぁ、そんなとこかな」

リリネット「あたしって霊力はヘボいし、虚閃の威力もダメダメだから」

リリネット「そのうち死神との戦いが始まったら、あたしとスタークも前線に出ることになるでしょ?
    その時にあたしが不意を突かれたり、集中的に敵から狙われたりしたら、そのせいでスタークが戦いにくくなるんじゃないかって」

ゾマリ「ふむ……確かに、あなたがそのような悩みを抱くのは尤もです」コクン

ゾマリ「ですが先ほども言った通り、その悩みは決して恥ではありません
   あなたの悩みは紛れもなく、あなたから彼への『愛』が強いことの証に他ならないのですから」

リリネット「んなっ……! あ、愛とか関係ないしっ……///」カァァァ!

ゾマリ「『愛』の追求者たる私の前では照れ隠しなど不要です
   『愛』とは本来、我ら虚すべてが皆、等しく有すべきものなのですから」ウンウン

ゾマリ「我々は元来、捨てようのない想いに執着して胸に穴が空き
   その喪失を埋める為に魂魄を食らう虚となってしまった」

ゾマリ「ならば我らが、失くした心——すなわち『愛』を取り戻さんと欲するのは至極当然の理でしょう?」

リリネット「は、はぁ…?」(何言ってんだこいつ)

ゾマリ「大半の虚は自我や理性を喪い、ただ本能のままに魂魄を襲う
   ですが我々破面には自我がある、理性がある。明確な意志で以て『愛』を追求する義務があるのです!」

ゾマリ「だというのに大半の破面もまた! 獣の如き虚とさして変わらぬ愚か者ばかり!
   嘆かわしい、実に嘆かわしいことです——あなたもそうは思いませんか?」

リリネット「えっと……まぁ、確かに、せっかく同じ破面なんだしみんなもっと仲良くしてもいいとは思うけど」タジタジ

ゾマリ「素晴らしいっ!」

リリネット「ひゃっ!?」ビクッ!

ゾマリ「同じ破面でありながらいがみあい憎み合う! そのことの愚かさにあなたは気付いている!」

リリネット「いや、そんな大層なもんじゃ……」

ゾマリ「ならばもう思い悩むことなどありません。あなたはただ自らの『愛』を育むことだけを考えればよいのです」

リリネット「はっ!? なんでそういう話になってんの!?
    あたしはただ、今より少しでも強くなりたいってことを相談に——」

ゾマリ「己の無力さを愛し、受け入れるのです。抗うからこそ苦悩が生まれる」

リリネット「なっ…」

ゾマリ「自覚されている通り、あなたの力は実にか弱い。修練を積んだ所で、今より強くなることはないでしょう」

リリネット「ふ、ふざけんなっ……! 散々わけわかんないこと喋りまくった末に結局それかよっ!?」クワッ!

ゾマリ「そもそも、あなたの本分は自らが戦いに臨むことではないでしょう?
   もしそうならば偉大なる藍染様は崩玉の力を以てして、容易にあなたの力を高めて下さっているはずです」

リリネット「そ、それはっ……」

ゾマリ「藍染様がそうなさらないのであればそれは、あなたに崩玉を使う意味も価値もありはしないということに他なりません」

ゾマリ「自らの器に余る力を得ようなどというのは、その身を滅ぼす驕りにすぎない
   これまで通り己に与えられた役割を受け入れ、ただそれを全うしていくことこそあなたの道なのです」

リリネット「……あんたに相談したあたしがバカだったよ」スクッ…


ゾマリ「——コヨーテ・スタークが、藍染様と出逢う前に自力で破面化してしまったことには憐れみを禁じ得ません」


リリネット「……っ!」ピクッ

ゾマリ「藍染様が居られたならば『自らの力をもう一体の破面として分割する』などという愚行を彼にさせなかったでしょう
   他の破面同様、斬魄刀という形で虚の力を分割してさえいれば、このように思い悩む『あなた』という存在が生まれることも——」

リリネット「だまれっ!!」チャキン!


ザシュッ!


ゾマリ「——このように無力さを思い知ることもなかったでしょうに」ヒュッ!

リリネット(くそっ!『双児響転』か!)「うるさいっ! あたしたちのこと何にも知らない癖にっ!」フルフル

ゾマリ「武器を納めなさい。驕りを捨て、身の程を弁えるのです
   今のあなたには先ほどまでの『愛』が抜け落ちてしまっていますよ?」

リリネット「あたしたちをっ……『スターク』をバカにするのは絶対に許さないっ!!」ギロッ

ゾマリ「……」ジッ

リリネット「……くっ!」クルッ

タッタッタッタッ…

ゾマリ「——本当に気の毒な少女だ
   彼女が私の従属官であったならば、全霊の『愛』で以て正しく支配し導いてやれただろうに」ヤレヤレ

虚夜宮内砂地・青空天蓋の下

リリネット「……何やってんだろ、あたし」トボトボ

リリネット「よくよく考えたら、あんなやつに相談したとこで何にもならないことぐらいわかるのに」

リリネット「はぁ……他へ行く気も、このまま帰る気も起きないや」ゴロン

リリネット「今日も虚夜宮の空は青いなぁ……なーんて、ははっ」

グリムジョー「——こんな所で昼寝か?」ザリッ…

リリネット「うわっ!」ビクッ

リリネット「な、なんだグリムジョーかぁ……急に脅かさないでよ」ホッ

グリムジョー「うるせぇ、ギャーギャー喚くな」チッ

リリネット「あんたこそ、こんなところで何してんのさ?」

グリムジョー「何だっていいだろうが。テメーこそ昼寝なら自宮でやってろ」シッシッ!

リリネット「別に昼寝してたわけじゃ……あっそうだグリムジョー、ちょっと聞きたいんだけど」

グリムジョー「あん?」

リリネット「あのさ、あんたはどうして強くなりたいの?」

グリムジョー「ハァ? んなこと聞いてどうするつもりだ?」

リリネット「べ、別に理由なんてないけど……ただなんとなく気になっただけ」

グリムジョー「なら俺だって理由なんざ無ぇよ。ただ単純に強くなりてぇだけだ」

リリネット「じゃあさ、強くなってどうするの?」

グリムジョー「どうもこうもあるかよ」

グリムジョー「気に入らねぇヤツをぶっ殺す。気に入らねぇことをぶっ壊す」

グリムジョー「そうやって気に入らねぇモンを片っ端からぶっ潰していって——」

リリネット「あー、要するに『好きなように生きるため』強くなりたいってこと?」

グリムジョー「あァ? 何でそうな——いや、まぁ合ってんのか?」

グリムジョー「んなことよりテメーだ。まさかテメー、強くなりてぇのか?」ギロッ

リリネット「いっ、いや……その……うん、そうかな」コクン

リリネット「けどほら、あたしって破面としちゃ戦闘力ダメダメじゃん?
    強くなろうと思って修行とかしてみても、元の霊力がこんなんじゃ無駄な努力かなぁーって……」ボソボソ

グリムジョー「ハッ、くだらねぇ」

リリネット「!?」

グリムジョー「つまんねぇことグダグダぬかしてる暇に、虚の一匹でも自力で倒して喰ってろ。狙った的に虚閃当てる訓練の一つでもしとけ」

リリネット「つ、つまんないって、あたしは真剣にっ……!」

グリムジョー「強くなりてぇってんなら、余計なことゴチャゴチャ考える暇に動けっつってんだよ」ギロッ

リリネット「ひっ…!」

グリムジョー「——昔、くだらねぇことをぬかした連中が居てな。自分から強くなろうとするのを諦めたバカ共だった」

グリムジョー「そいつらが言うには、俺たちは大虚や虚になるより前から、力の底ってのが決められてんだとよ
     強くなれるヤツってのは、そういう風に決められた一握りのモンだけだとかぬかしやがって、上級大虚への進化を諦めやがった」

リリネット「で、でも……それも一理あるんじゃ」オズオズ

グリムジョー「ねぇよ。んな屁理屈は、強くなるのを諦めた負け犬共の言い訳だ」

グリムジョー「自分の限界を悟っただァ? テメーで勝手に線引きして限界決めただけだろぅが」

グリムジョー「限界なんてなァ他人から決められるモンでも、自分で決めるモンでもねぇ
     どこまでも強くなろうと戦い続けてくうちに、自然とブチ当たって——ぶっ壊してまた強くなるためにあんだよ」

リリネット「……かっけー」パチパチパチ

グリムジョー「ハッ! くだらねぇ、分かったらさっさとどこへでも消えろガキ」ケッ

リリネット「うん。なんていうか、その、ありがとうグリムジョー!」ニッ!

リリネット「そうだよね! アーロニーロやゾマリなんかに何言われたって、気にせず努力すればいいんだ。何でもっと早く気付かなかったんだろ!」テクテク

リリネット「さってと、確かグリムジョーは……虚閃の練習しろとか言ってたっけ?」

リリネット「練習って言っても虚夜宮の柱や壁でするわけにいかないし、どっかその辺に手頃な瓦礫でも転がって——」キョロキョロ

ノイトラ「——何だァ? 誰かと思えばスタークの野郎が飼ってるペットじゃねぇか」

リリネット「あっ、ノイトラ! 誰がペットだ誰がっ!」ムッ

ノイトラ「おぅおぅペットが吠えてやがるwこんな所を一匹でフラついてるってこたァ、ついに捨てられたか?w」ニヤニヤ

リリネット「ち、違うしっ! ただの散歩だしっ!」

テスラ「だとすれば不用心なことだな。君のような者をひとりで放っておくとは」

リリネット「なっ、どういう意味よっ? あたしが弱いから一人歩きは危ないって言いたいわけっ?」キッ

テスラ「自覚があるのなら軽率な行動は慎むべきだ。君に何かあれば不利益を被るのは——」


ブンッ—


リリネット「ひっ、ええっ!?」ペタリ

ノイトラ「——飼い主サマの方なんだぜペェッ〜〜ト? 尻餅なんざついてる場合かよ
   例えば俺がこの腕を少し動かしただけで、おめぇの頭は首から転げ落ちるワケだ」

リリネット「ちょっ、待っ……!!」

テスラ「ノ、ノイトラ様……!?」

ノイトラ「そうなりゃ野郎はどうなる? 帰刃もできなくなりゃ当然十刃にゃ居られねぇ、あっという間に1の数字から転落ってことよ」ニヤリ

リリネット「……あ、あんたがそんな小物じみたマネするとはお、思えないけどっ?」タラリ…

ノイトラ「そいつァ光栄だねぇwだが生憎、俺はその気になりゃどんな手でも使うぜ?」

リリネット「うっ……あぁっ……!」ガタガタ

テスラ「ノイトラ様、まさか本気で……?」

ノイトラ「何をいまさらビビッてやがるテスラ?
   ネリエルのヤツを放り出してやった時だってどうともならなかったろうが?」チッ

ノイトラ「どのみち藍染サマは十刃同士の殺り合いでごちゃごちゃ言うようなタマじゃねぇよ
   強ぇヤツが油断した隙に出し抜かれて消えるってだけだ。殺られる方が甘ぇんだよ」

テスラ「ですが……」

リリネット「……ノ、ノイトラは何で、そんなに『最強』になりたいの?」ボソッ

ノイトラ「あ? 決まってんだろ、戦い続けるためだ」

リリネット「戦い続ける……? 強くなるために戦うんじゃなくて、戦うために強くなるの?」

ノイトラ「おうよ。『最強』ってヤツの周りにゃ、必ず戦いの種が転がってやがる」

ノイトラ「そいつを殺して『最強』になろうとするヤツや、殺られた仲間の復讐を果たそうとするヤツが、常にどこかでそいつを狙って息を潜めてやがる」

ノイトラ「面白ぇもんだろ? 『最強』になりさえすりゃ、いくらでも戦い続けられんだぜ?」ニヤリ

リリネット「そんなに戦い続けて……いったいどうすんのさ?」

ノイトラ「そいつも決まってんだろーが。戦い続けて最期にゃ死ぬだけだ」

リリネット「死ぬだけって、なんでそんなっ……」シロクロ

ノイトラ「『最強』になって戦い続けて、戦いの中で死ぬ。これに勝る生き方なんざ無えよ」

リリネット「わ、わけわかんないっ……!」

ノイトラ「おめぇみてぇなガキにゃ分かんねーだろうよ——お遊びはヤメだ、行くぞテスラ」スタッ…

テスラ「……! はい、ノイトラ様!」

リリネット「ちょ、待ってよ! 一方的に脅しつけといて勝手に帰るわけ!?」ガタッ!

ノイトラ「あァん?」クルッ

リリネット「あたし、その……今よりもっと強くなりたいんだよ!
    そのためにできることを今考えてて、そしたらあんたが来たからっ——」

ノイトラ「——そいつはつまり、おめぇがこの俺と殺り合いてぇってことか?」ニヤリ

リリネット「ううん、違う違う」

ノイトラ「は? じゃあ何だよ?」

リリネット「あのさノイトラ、お願いがあるんだけど、その……虚閃の練習するマトになってくんない?」テヘッ!

ノイトラ・テスラ「ハァッ!?」

リリネット「ほら、ノイトラの鋼皮って歴代の十刃の中で一番硬いじゃん?
 大きな岩や瓦礫で練習するよりも、人型の的を狙う方がいい修行になるかなぁーって」テヘペロ!

ノイトラ「本気でぶっ殺すぞガキィ!?」クワッ

テスラ「ふざけるな! あろうことかノイトラ様を的代わりにしたいだと!?」

リリネット「あはっ……やっぱダメ?」

ノイトラ「ったりめーだクソがっ!! 何で俺がおめぇの遊びに付き合ってやんなきやいけねーんだ!?」

リリネット「遊びじゃないし! 本気だし!」

テスラ「だとすればなおのこと恥を知れ! ノイトラ様に万一のことでもあればどうなるか——!」


ノイトラ「——あ?」ピクッ


リリネット・テスラ「えっ?」

ノイトラ「おいテスラ——おめぇ今なんつった?」ツカツカ…

テスラ「い、いえ私はただ……!」

ノイトラ「おめぇ俺がこいつにケガさせられるって言いてぇのかっ!?」ブン!

テスラ「ぐぁはっ!!」ボコン!

リリネット「テ、テスラぁ!!」

ノイトラ「このガキのままごとみてーな虚閃食らってっ!
   この俺の鋼皮に傷が付くとでも言いてぇのかっ! あァんっ!?」ギロッ!

テスラ「だ、断じてそのようなつもりではっ……ただ私はあくまで可能性の話としt」

ノイトラ「無えよ可能性なんざっ! 1%だってありゃしねぇ!!」

ノイトラ「おいガキィ!!」ギロッ!

リリネット「ひゃいっ!?」ビクゥ!

ノイトラ「撃ってみろ」

リリネット「い、いいの?」

ノイトラ「グズグズすんなっ! 胸でも腹でも頭でも、好きなところへブチ込んでこい!」チョイチョイ

リリネット「よ、よっしいくぞー!」

ギュッ————!!


リリネット「——虚閃ぉ!!」


ズォオオオオオオォォォォーーーーーン!!!!


テスラ「ノイトラ様っ……!?」

リリネット「どうよっ!?」ガッツ!

ノイトラ「——なんだァ? そいつが全力かァ?」ニヤリ

リリネット「……!!」

リリネット「す、すごいっ…傷どころか焦げ目一つ付いてないっ……」

ノイトラ「ったりめーだっつってんだろーが! オラ次撃ってこいっ!」

リリネット「えっ? 次?」シロクロ

ノイトラ「この俺が直々に相手してやってんだ!
   シケた花火みてーな攻撃がまともな虚閃になるまで、何発でも撃ってこいって言ってんだよっ!!」

リリネット「よ、よーしそこまで言うならやってやるっ! 行くよノイトラっ!」

リリネット「ハァ…もう…ハァ…ムリ…ハァ…!」グッタリ

ノイトラ「もうへばりやがったのか? 根性の無えガキだ」フンッ

リリネット「だって…ハァ…ハァ…こんなに…れんぱつ…ハァ…するの…は…初めて…!」

テスラ「ノイトラ様……そろそろ……」

ノイトラ「あァ、こいつはもうダメみてーだからな——おいペット」

リリネット「だ、だからっ…ペットじゃ…ハァ…ない…!」

ノイトラ「調子乗んじゃねぇ、ペットだおめぇは
   あんだけ同じ箇所に撃ちまくって結局焦げ跡の一つも付けらんねぇザコが」スタッ…

ノイトラ「もし本気で強くなりてぇんなら、練習だ何だとつまんねぇ小細工する前に実戦で鍛えろ」

ノイトラ「戦いの中に身を置きゃ嫌でも強くなる——何せそうでなきゃ死んじまうからな」ニヤリ

ノイトラ「死にたくなけりゃ強くなれ。強くなりたきゃ戦え
   戦うのが怖いってんなら諦めろ——今まで通り飼い主サマに守ってもらうこったw」スタスタ…

テスラ「お待ちください、ノイトラ様……リリネット、君も早く宮へ戻ることだ」タッタッタッ…


リリネット「ハァ……ハァ……ふぅ……」ゴロン

リリネット「強くなりたきゃ戦え、かぁ……」

リリネット「あたしは戦えるよう強くなりたいんだけど……なんだか本末転倒ってやつじゃない?」

回廊

リリネット「疲れたぁー……ぼちぼち帰るかなぁ」テクテク

リリネット「そういやあたし、なんで色んな十刃に会いに行ってたんだっけ?」

リリネット「強くなりたいから……じゃなくて、始めはなんか違う目的があった気がするけど、まぁいっか。帰って寝よ」ファーア

リリネット「えーと、今あたしが居る辺りはっと——」キョロキョロ

リリネット「あっ……」ビクッ

ウルキオラ「……」カツ カツ

リリネット(うわっ……ウルキオラだ。この辺て第4の宮の近くだったんだ)

リリネット(どうしよう、ある意味一番話しかけづらい十刃なんだよね……)

ウルキオラ「……」カツ カツ

リリネット(けどせっかくの機会だし……!)

リリネット「や、やっほーウルキオラ! こんなところで会うなんて奇遇だねー!」ノシ

ウルキオラ「……」カツ カツ

リリネット「無視すんなー! こっちを見もせずに通り過ぎるとかさすがに傷つくぞー!?」クワッ

ウルキオラ「……何故」カツ…

リリネット「へ?」キョトン

ウルキオラ「何故貴様が、独りでこんな所に居る?」ジッ…

リリネット「な、なぜってそれは……!」アセアセ

ウルキオラ「貴様が死ねば、スタークは十刃を落とされる」

リリネット「いきなり話が飛躍しすぎでしょっ!?」

ウルキオラ「第1の序列を与えられた破面を無為に失えば、藍染様の計画に支障を来す」

ウルキオラ「その程度のことも理解できんのか?」

リリネット「や、それくらいわかってるよ! さっきもノイトラにおんなじこと言われ……
    ……ってないない! やだなぁノイトラになんて会ってないよー!?」ピューピュー

ウルキオラ「身の程を知れ、ゴミが」

リリネット「っ!」ビクッ

ウルキオラ「貴様はあくまで第1十刃『コヨーテ・スターク』がその力を発揮する為の鍵に過ぎん」

ウルキオラ「貴様自身には毛程の価値すらも無いということを今一度肝に銘じておけ」

リリネット「ちょっ、何もそこまで——!」

ウルキオラ「貴様らの存在理由は藍染様のお役に立つことだ。俺を含めた、この虚夜宮の全ての虚もな」

ウルキオラ「それを全うできなければ、貴様らに生きている意味などない」

リリネット「なっ…ふ、ふざけんなよウルキオラっ!」キッ

リリネット「確かに藍染様はあたしたちの恩人だよっ? あの人のおかげで、あたしたちは孤独から脱することができた
    スタークのこと信じて1番の数字をくれたし、その恩に応えるためなら藍染様のために死神とだって戦っていけるさっ!」

リリネット「けど『スターク』があたしを……『リリネット』があいつを作り出したのは、藍染様に出逢う前から孤独を生き抜くためだっ!」

リリネット「あたしたちの生きる意味をっ……あんたが勝手に決めつけないでよっ!!」ギロッ!

ウルキオラ「決めつけているんじゃない。決められているんだ」

リリネット「……っ!」

ウルキオラ「藍染様の傘下に加わることを選んだ瞬間から、もはや己の存在理由を決める権利など貴様らには無い」

ウルキオラ「生きる意味も死ぬ意味も、全ては藍染様によって決められる」

ウルキオラ「藍染様の為に生きることが貴様らの義務であり、藍染様の為に死ぬことが貴様らの使命だ」

リリネット「あんたはっ……それでいいのっ……?」フルフル

ウルキオラ「その問いに答える意味も無い」カツッ…

リリネット「……虚にも、胸の穴を埋めるために『心』を求める権利はあるって、ゾマリのやつは言ってたけど」ボソッ

ウルキオラ「……」カツ カツ

リリネット「あんたには……失くした心を取り戻したいって気持ちはないの?」

ウルキオラ「……」カツ カツ…

リリネット「……行っちゃった」

第3の宮前・青空天蓋の下

リリネット「……話しかけなきゃよかった」

リリネット「なんだろ……ゾマリと話した時はすごく腹立ったけど……
    ウルキオラと話してると、なんかすごく虚しくなってくる」

リリネット「……はぁ」

クッカプーロ「アンアン!」バッ

リリネット「わぁっ!」ペタン

クッカプーロ「アン! アンアンアン!」ペロペロ

リリネット「あんたヤミーのっ……ってちょっ、くすぐったいっ、や、やめっ……!」モゾモゾ

アパッチ「——あぁん? お前ら人ん家の前でなに戯れてやがんだ?」

リリネット「あっ、アパッチ、こっ、こいつ何とかしてっ……!」モゾモゾ

クッカプーロ「アゥウン!」ペロペロ

アパッチ「アッハッハ! ずいぶん懐かれてんじゃねーかリリネット!
    いっそそのまま散歩にでも連れてってやったらどうだよオイ?」ケラケラ

リリネット「ふ、ふざけてないでっ……やっ、こ、こらやめっ……!」モゾモゾ

アパッチ「ったくしゃーねーなー。おいコラ犬っころ!
    散歩なら飼い主に頼め! こいつ困ってんだろ?」ヒョイ

クッカプーロ「クゥ〜ン……」シュン

リリネット「はぁ…はぁ…た、助かった……!」ホッ

アパッチ「んで? スタークの相方とヤミーのペットが揃って、ハリベル様の宮の前でなーにやってんだよ?」

リリネット「あ、あたしはたまたま通りかかっただけでっ……そいつがいきなり飛び出して来たんだよ」

クッカプーロ「アン!」

アパッチ「なんだそんだけか。んじゃ騒がしいからとっとと帰んな
    ハリベル様は寡黙なお人なんだよ、お前らがうるさいと迷惑だろ?」

リリネット「……自分が一番やかましいくせに」シレッ

アパッチ「あぁん!? 今なんっつたよコラ!!」クワッ

リリネット「ほーらアパッチが一番やかましいじゃん!」

クッカプーロ「アンアン!」

アパッチ「ケンカ売ってんのかてめーら!」ギロッ

リリネット「あっ、ところでさアパッチ。今ってハリベル中に居る?」

アパッチ「急に話変えんな! ——まぁ居らっしゃると思うが、それがどうした?」

リリネット「んじゃさ、ちょっと寄らしてもらってもいい?」

アパッチ「なんだぁ? たまたま通りかかっただけじゃなかったのかよ?」

リリネット「いや、まぁ大した用事じゃないんだけどさ……」

第3の宮

アパッチ「うぃーっす。今帰ったぞー」ノシ

ミラ「いちいち言わなくてもわかるよバカが
  アンタは入ってきただけでバカのオーラを振りまいてるからな」

アパッチ「あぁんだとぉてめぇミラ・ローズ!? てめぇに比べりゃアタシなんてマシな方だねっ!!」ギロッ

ミラ「ハッwバカはこれだから困るねーw自分がバカだと周りまでバカに見えてくるってんだからw」

アパッチ「うっせぇおもて出ろやっ!!」

ミラ「おぅいいよバカは死ななきゃ治んないって言うしなぁっ!!」

スンスン「二人まとめて死んでくれると助かるのですけど」ボソッ

アパッチ・ミラ「てめぇもおもて出ろスンスンっ!!」クワッ

リリネット「よくこんなうるさいやつらと一緒に暮らせるなぁハリベルは……」シミジミ

クッカプーロ「クゥ〜ン……」

ミラ「あ? なんだリリネットとヤミーの犬っころじゃないか」

スンスン「宮まで訪ねてくるなんて、私たちに何か御用?」

リリネット「スンスンたちにっていうか、その、ハリベル居る?」キョロキョロ

ミラ「ハリベル様なら奥だよ。なんだ、ハリベル様に用があって来たのか?」

アパッチ「言っとくがくれぐれも粗相のないようにしろよ?
    もしハリベル様に迷惑かけたら承知しねーからな!」ギロッ

リリネット「大丈夫だってー。たぶんアパッチよりはあたしの方がずっとマシだと思うし」

アパッチ「どういう意味だオラ!?」

ミラ「そのまんまの意味だろ。アンタのオツムじゃそんなことも分かんねーんだなw」

アパッチ「ミラ・ローズてめぇぇぇ!!」

スンスン「——おつむの足りないあちらの二人は置いといて、さっさと済ませてきなさいな」

リリネット「うん! ありがとね!」ニィ!

アパッチ・ミラ「おいそこ聞こえてんぞぉ!?」クワッ

リリネット「あ、そうだ話してる間だけこいつ見ててよ」

クッカプーロ「アン♪」

アパッチ・ミラ「調子乗んなぁぁぁ!!」

ハリベル「——リリネットか」

リリネット「うん! こんちわーハリベル!」ノシ

ハリベル「ひとりか」

リリネット「うっ……みんなそれ訊くんだね
    あたしってよっぽどスタークのおまけっ思われてるのかな……」

ハリベル「済まない、他意はなかったのだが……何かあったのか?」

リリネット「うぅー、まぁ、なんというかそんなに大したことじゃないんだけどさ……」ソワソワ

ハリベル「——私でよければ、聞き役ぐらいはできるぞ」

リリネット「……っ! 実は——」

ハリベル「——成程な」

リリネット「……ごめん、いきなり押しかけてこんなつまんない愚痴聞かされても、迷惑なだけだよね」

ハリベル「気にするな。誰かに話さずにはいられなかったのだろう」

リリネット「うん、まぁ……ね。こんなこと聞いてもらえるの、ハリベルぐらいだったから」

ハリベル「先に言っておくぞ。お前が抱えている葛藤に対する『答え』のようなものを、私に期待しているのなら諦めろ」

リリネット「……っ!」ハッ

ハリベル「お前に教えてやれる『答え』など、私は持ち合わせていない」

リリネット「わ、わかってるよそんなことっ! ごめんっ、やっぱ迷惑だったみたいだから帰——!」スタッ!

ハリベル「だが参考程度、という話ならば、私個人の意見を聞かせるぐらいはできる」

リリネット「!」

ハリベル「それを聞いてどうするかはお前次第だ。それでも構わないか?」

リリネット「うんっ!」

ハリベル「——私たちの住む世界は過酷だ」

ハリベル「弱い者は強い者に駆逐され、強い者もまたより強い者によって淘汰される」

ハリベル「故にここで生きていく限り、私たちは皆強くならなくてはならない」

リリネット「強く……」

ハリベル「そうだ。生きるため、闘うため、何かを手に入れるため、何かを守るため——
    力無き者が望みを叶えることはできない。何かを得たければ、強くなるしかない」

ハリベル「たとえそれが、『誰かと共に生きたい』というささやかな願いだったとしてもだ」

リリネット「……」

『弱さに憧れてた』

『一緒に居た仲間はみんな、私たちの傍に居るだけで霊圧に身を削られ、消えていった』

『こんな孤独を生きるぐらいなら、強さなんていらなかった』

『弱ければ、みんなと一緒に居られたのに』

『弱くなりたかった』


リリネット「でもさ……!」

『弱くなれないなら、同じくらい強い仲間が欲しかった』

『そして私たちは、藍染様のもとへ迎え入れられた』

『けど今度は、強くならなきゃいけなくなった』

『強い彼ではなく、弱い私の方が』


『強くならなきゃ、彼と一緒に戦えない』

『強くならなきゃ、彼と一緒に生きられない』



リリネット「強くなろうと努力すれば……必ず強くなれるのっ……?」フルフル

ハリベル「——そうとは限らない」

ハリベル「努力することで誰もが皆、平等に力を手にできるほど、この世界は甘くはない」

リリネット「けど、ノイトラやグリムジョーはっ…」

ハリベル「酷な言い方になるが、奴らとお前とは違う」

リリネット「うっ…!」

ハリベル「闘争の中へ身を置き戦闘本能を研ぎ澄ますことで、ある程度強くはなれるだろう
    かといって十刃に匹敵する程の力を得るのは、おそらくお前には無理だ」

ハリベル「口惜しいだろうが、理解はできるだろう?」

リリネット「……うん」

ハリベル「だからこそ、お前はお前のペースで強くなっていけばいい」

リリネット「えっ?」

ハリベル「力を付けるのには時間がかかる」

ハリベル「まだ力が十分でない間は、スタークに守られていてもいいだろう」

ハリベル「自分より強い者に守られることを恥じる必要はない
    本来、力を持つ者はその強さに伴う責務として、より弱い者を守るべきだと、私は考えている」

リリネット「で、でもそれじゃ結局、あたしはあいつの足手まといのまま——!」

ハリベル「では訊くが、スタークは本当に、お前のことを足手まといと思っているのか?」

リリネット「!」

ハリベル「——私も他人のことを言えた口ではないが、奴はほとんど自宮から出ない
    私などよりもお前の方が遥かに、奴のことを知っているし理解している筈だが」

リリネット「……そう、だけど」

リリネット「あたしの知ってるスタークは、弱い仲間を邪魔に思ったり、嘲笑ったりするやつじゃない……けど!」

リリネット「スタークがそうは思ってなくてもっ……あたしは自分が足手まといだってことわかってる。だからっ!」

ハリベル「強くなろうとする意志は大事にしておけ。だがその為に気負いすぎることもない」

リリネット「気負い……」

ハリベル「強くなろうとする理由があり、闘おうとする覚悟もあるのなら、後は地道に進むだけだ」

ハリベル「結果ばかりを急いて盲進すれば、いずれ足元を掬われる
    自分の身に何かあってからでは手遅れだ。その時後悔する破目になるのは——お前だけではないだろう?」

リリネット「……うん!」スタッ!

リリネット「ありがとうハリベルっ! なんてゆーかこう、色々話せてスッキリしたっ!」ニィ!

ハリベル「気にするな。私は何もしていない、ただ話を聞いただけだ」

アパッチ「ほーれほーれ犬っころ!こっちだこっち」ヒョイヒョイ

クッカプーロ「アン!アンアン!」トコトコ

ミラ「ハッ! ずいぶんペットの扱いに慣れてんじゃないかアパッチ
  あんたのレベルは犬とおんなじようなもんだから、相性がいいんだろうねぇww」ニヤニヤ

アパッチ「あァん? 寝ぼけたこと言ってんじゃねーぞミラ・ローズ!
    おいコラ犬っころ、あいつの方行けあいつの。あいつの方がお前に近いぞ!」

クッカプーロ「アウゥン…?」

ミラ「アハハwwせっかくのお友達だろ? もっと仲良くしてもらえよアパッチww」

アパッチ「ミラ・ローズてめぇコラ! 調子乗ってんじゃねーぞあァ!?」ギロッ!

スンスン「キャンキャンと品の無い野良犬たちだこと。早く野たれ死なないかしら」ボソッ

アパッチ・ミラ「つーかてめぇも見てねーで世話しろやっ!」クワッ!

リリネット「——ごめんごめーん待たせちった!」

アパッチ「あァ!? チッ、ようやく戻りやがったか」

ミラ「そんじゃさっさとこの犬っころ連れて帰んな。生憎うるさい負け犬は一匹で十分なんでね」

アパッチ「どういう意味だおいコラ?」ギロッ!

ミラ「おっと誰とも言ってないのに、何だ自覚あんじゃないかい?ww」ニヤニヤ

スンスン「ついでにあの二人も引き取って下さらない?」

リリネット「いやいらない。そんじゃまたねー」ノシ

アパッチ・ミラ「おいてめぇらっ!!」クワッ!

回廊

リリネット「さーてと」チラッ

クッカプーロ「クゥ〜ン…」

リリネット「仕方ないなぁ……ヤミーんとこまでついてってあげるよ」

クッカプーロ「アンッ!」

第2の宮

アビラマ「おいそこのガキィ! オメーだオメー、犬連れてチンタラ歩いてるそこのッ!
    ここで何してやがる!? ここが“大帝”バラガン・ルイゼンバーン陛下の宮と知っての狼藉かぁッ!?」ビシッ!

リリネット「あー…」

クッカプーロ「アゥゥ〜ン…」

クールホーン「あんらぁ? この娘アレじゃないのホラ、スタークんとこの」シゲシゲ

ニルゲ「一緒に居るのは、ヤミーの犬か?」

フィンドール「正解(エッセァークタ)ッ!! その通りだニルゲ、こいつはヤミー・リヤルゴの従属官・破面�35クッカプーロ
     では次の問題だ、『何故この一人と一匹が、我らが大帝の宮をうろついているのか?』誰か分かる者はいるかッ?」

リリネット「いや、その、迷ってたまたま来ちゃっただけなんだけど」

アビラマ「迷っただぁ!? すっとぼけてんじゃねーぞッ!
    何かよからぬ企みがあって潜入したに違いねぇッ! そーだろそーに決まってらッ!!」クワッ

リリネット「いやほんとだし……なんか知らないけど回廊操作されてるみたいで」

ニルゲ「回廊操作だ? 誰が何のためにそんなこと」

リリネット「アーロニーロは市丸ギンの仕業だろうって言ってたけど」

フィンドール「正解ッ!! 恐らくそれに間違いないだろう」

アビラマ「あぁんだ、ガチで迷子かよ。くだらねー
    オラオラ、なら別に用はねーだろ? さっさと帰りやがれ」シッシッ

リリネット「あんたに呼び止められなかったら普通にそうしてたよ!」ムッ

クッカプーロ「アン!」

クールホーン「でも、なんでまたそのワンちゃんまで一緒に連れてるワケぇ〜?」パチパチ

リリネット「んー、さっきハリベルの宮の辺で出くわしちゃってさ
    しょーがないからヤミーんとこまで連れてってやろうと思って」

フィンドール「なるほどな、事情は分かった。ならば速やかにここを去るべきだ
     他の者ならばいざ知らず、よりにもよってキミがここへ来ているのはいささかマズい」ヒソヒソ

リリネット「えっ、なんで?」キョトン

クールホーン「んもぉ〜ニブい娘ねぇ〜」ヒソヒソ

ニルゲ「自分の立場を考えろ! お前は第1十刃の片割れなんだぞ?
   そんなヤツがご自分の宮に勝手に入り込んでいるとお知りになったら、陛下はどう思われる?」ヒソヒソ

リリネット「どうって、『おーおースタークんとこの美少女が紛れ込んで来たわい』とか?」

フィンドール「不正解(ノ・エス・エッセァクタ)、そんな訳があるか」ヒソヒソ

アビラマ「だぁ〜〜〜もぅめんどくせぇッ!! オメーが居たら陛下が気分を害されんだよッ!!」クワッ!

クールホーン「声がデカいわよバカっ!!」
ニルゲ「声がでけぇんだよアホッ!!」
フィンドール「声が大きいぞマヌケッ!!」

アビラマ「なぁッ…オメーらもでけぇよッ!!」

ジオ「おいバカお前らっ…! こんなとこでなに大声出してんだっ…!」アタフタ

ポォ「さわぐな、陛下のご機嫌、損ねルヨ…」ノソノソ

フィンドール「ん、済まん、俺としたことが——とにかくだ、分かったら一刻も早く帰ることだ」

リリネット「わ、わかったよっ……行こっ!」

クッカプーロ「アンアン!」トコトコ


使い虚「ギィィ……」ガサゴソ


フィンドール「ん? どうし……なっ!?」ハッ

ジオ「なになに……お、おい嘘だろっ!?」ギョッ

クールホーン「冗談じゃないわよぉ……! どういう風の吹き回しっ……?」ヒソヒソ

アビラマ「知るかよッ! ったく厄介な話になりやがったぜッ……!!」ヒソヒソ

リリネット「え? なんかあったの?」キョトン

ニルゲ「……陛下がお会いになるそうだ。お前にな」

リリネット「う…えぇっ!? な、なんでっ!?」

クールホーン「知らないわよ私たちだって!
    いい? とにかく、滅多な事やらかすんじゃないわよっ?」ヒソヒソ

ポォ「陛下がその気にナレば、お前一瞬でオワリ。ワカルな?」ギロッ

ニルゲ「場合によっちゃ俺たちにまで飛び火しかねんからな……絶対に下手打つんじゃねぇぞ?」ギロッ

ジオ「そっちの犬は置いてけ。何かあってからじゃ遅いからな」

リリネット「うぅ……なんであたしが……」

クッカプーロ「アゥ〜ン……」

リリネット「あんたよりあたしの方が気ぃ重いよ……」ハァ…

バラガン「…………来たか」

アビラマ「陛下ッ! リリネット・ジンジャーバックをお連れいたしましたッ!」ビシッ

バラガン「ウム……貴様らは下がっておれ」クイッ

フィンドール「ハッ!」ビシッ

アビラマ・フィンドール(いいな? 絶対に事を起こすなよ?)チラッ カツ、カツ、カツ…

リリネット(うぅ〜……)ソワソワ

バラガン「……どうした? 儂に何か、言うべきことがあるんじゃアないか?」ギロッ

リリネット「……っ! あ、うん!」ビクッ!

リリネット「えっと、勝手に宮に入ってごめん! 散歩してたら道に迷っちゃって、迷惑にならないうちに帰ろうと思ったんだけど……!」ソワソワ

バラガン「……フン、礼儀を知らぬ小娘が」

リリネット「!!」

バラガン「伺いもなく儂の城に来ておきながら、今度は挨拶もなしに帰るつもりじゃったのか?」

リリネット「い、いやっ、そのぉ……うん、ごめんなさい……」シュン

バラガン「フン、まぁいい。こちらも退屈しておった所だ
    部下共の顔も見飽きたが、かといって他の虚共をわざわざ呼びつけるのも大儀じゃからな」

リリネット「は、はぁ……?」(よかった、怒ってるわけじゃないみたい……)

バラガン「わざわざ散歩なんぞと洒落込んどったのなら、貴様も退屈しておったんじゃろう?」

リリネット「えっと、そ、そう、かも……」(そうだ、元はと言えばあたし、暇潰しがしたかったんだっけ)

バラガン「話してみろ」

リリネット「え?」キョトン

バラガン「ヤミーの痩せ犬を連れておったんじゃ。大方、ここへ来るまでに他の連中とも会ってきたんじゃアないか?」

リリネット「う、うん、まぁ……」

バラガン「有象無象の破面ならまだしも、貴様が他の十刃と出くわして、会釈だけで見過ごしてもらえるとは思えん
    つまらんやり取りの二、三言ぐらいは交わしてきたんじゃろう? 退屈しのぎだ、聞かせてみろ小娘」

リリネット(か、勘弁してよっ……! ただでさえこいつと話すの肩が凝るってのにっ……!)

リリネット「で、でもあんまし聞いて楽しい話じゃ……」アハハ…

バラガン「それを判断するのは儂だ。余計な気を回さんでも、ハナから期待なんぞしとらん
    所詮は退屈しのぎじゃと言ったろうが。分かったらつべこべ言わず、さっさと話してみろ」クイッ

リリネット「わ、わかったよ……」

リリネット「——とまぁこんな感じに、9番から順番に十刃と会ってきたわけなんだけど」

バラガン「フン、成程な。つまり儂のもとへ来たのは、ヤミーの所へ痩せ犬を連れて行く『ついで』という事か」ギロッ

リリネット「うへっ!? そそ、そんなことないよっ!!」ギクッ

バラガン「…………」ジッ…

リリネット「うー……」ソワソワ

バラガン「……フハハハッ、なァに、気にするな小娘」クツクツ

バラガン「この儂の城に『ついで』で足を踏み入れる恥知らず——いや命知らずなんぞ、久しく居らんかったわ」ニヤリ

リリネット「あははは……」ヒヤヒヤ

バラガン「案の定、話の内容は退屈極まりなかったがな」フン

リリネット「なっ、だから言ったじゃん!」カァァ!

バラガン「まァよいわ、直に始まる戦いまでの暇は潰せたからな」

リリネット「よくな——えっ? 直に? 戦いが始まるって……」ポカン

バラガン「なんじゃ、分からんのか?」

バラガン「ついこの間、ウルキオラが人間の女を連れてきたじゃろう」

リリネット「あっ、グリムジョーの腕を直した子! 確か、井上織姫……だったっけ?」

バラガン「ボスが何を考えとるのかは知らんが、この局面でわざわざ十刃を使ってまであの人間の女をかどわかして来よったんだ」

バラガン「近々、何らかの形でこちらから攻め込む為の下準備と考えるのが妥当じゃろうて」

リリネット「あの子の持ってる力って、なんだかすごいんだよね……単なる治療能力でも、時間や空間の操作でもないんでしょ?」

バラガン「あァ、『事象の拒絶』なんぞと大層な事をボスは言うとったが、儂からすればあんなモンは役に立たん」

リリネット「えっ、でも」

バラガン「無論、その能力を無制限に行使できるのであれば話は別じゃろうが、恐らくあの女は己の持つ力をほとんど使いこなせておらん」

バラガン「もし奴が、あらゆる存在も喪失も意のままに拒絶できるのであれば、それこそ虚夜宮ごと儂らを拒絶し消してしまえばよかろう?」

バラガン「そもそもウルキオラ如きに容易く捕まる訳もあるまい」

リリネット「確かに……」

バラガン「それにヤミーとの交戦記録によれば、奴は攻撃する時わざわざ矮小な飛び道具を使っておるそうじゃアないか」

バラガン「つまりあの女はせっかくの能力を修復と断絶、即ち『治療』と『防御』にしか活かせておらんという事じゃ」

バラガン「その程度の蟻一匹捕える為に、十刃を三体も四体も動かしたのはどういう了見か。何か思いつくか小娘?」ギロッ

リリネット「えっと……成長して扱いこなせるようになったら危険だから?」

バラガン「ならば生かしておく必要はあるまい」

リリネット「じゃあ、能力を使いこなせるようになった上で利用しようとしてるんじゃない? ほら、崩玉の覚醒を促すとか」

バラガン「そんな悠長な真似をしておる内に、死神共との戦いの方が終わってしまうじゃろうな」

リリネット「じゃあなんなのさ!?」ムカッ!

バラガン「一見役に立ちそうに見えるが、実際には現時点であの女を使ってできる事なんぞそうはない
    となれば一番有り得るのは、あの女をダシにして敵に揺さぶりをかける事ぐらいじゃろう」

バラガン「敵側からしてみれば、あの女の能力が儂らの手に渡るのは見過ごせんじゃろうしな」

リリネット「揺さぶりって……たったそれだけ?」

バラガン「だから言っとるんだ。この局面でわざわざあの女を攫ってきたという事は、直にこちらから何か仕掛ける為の布石じゃろう、とな」

リリネット「すごい……そんなことまでわかるんだ」ホエー

バラガン「笑わせるな小娘が、誰に向かってぬかしおるか?」ギロッ

リリネット「いっ、さ、さすがはバラガン陛下っ……!」

バラガン「——まァ、単なる気まぐれというのが一番有り得るがな、あの男に限っては」ムスッ

リリネット「へ?」

バラガン「フン、いささか駄弁に興じ過ぎたか。もう貴様に用は無い、とっとと失せろ」

リリネット「なっ……わ、わかったよ!」クルッ

リリネット(へんっ、自分勝手な頑固ジジイめっ!)

リリネット(けどま、正直息苦しかったしさっさと帰ろ)スタスタ…


バラガン「あァ、ひとつ忠告しておいてやろう小娘」

リリネット「!!」ビクッ

バラガン「『強くなりたい』なんぞという願望は、貴様の身には余る幻想だ
    貴様如きがそんなものを追い求めても、くだらん死に方をするのがオチじゃぞ」

リリネット「……」

バラガン「全てのものにはその領分というモンが決められとる」

バラガン「蟻には蟻の。草木には草木の。獣には獣の。人間には人間の。死神には死神の。破面には破面の、弁えるべき領分がな」

バラガン「己に与えられた領分の中で、みじめに這い蹲って生きることこそ貴様らの定めよ」

リリネット「……」

バラガン「だが、それら全ての命も思想も、所詮は等しく無意味な事だ。この儂の眼から見ればなァ」

バラガン「この世界に於いて唯一絶対の理、それは儂だ。“大帝”の持つ力だけが、この世界で永劫不変の価値を持つ」

バラガン「蟻よ、肝に銘じておけ。貴様もまた、“大帝”の理の下で生かされているに過ぎんということをな」

リリネット「……言われなくてもわかってますよ。『第2十刃』陛下サマ」ニィ!

バラガン「……!」ギロッ!

リリネット「そんじゃお邪魔しましたー!」スタタタタ…



バラガン「……赤子風情が、小生意気な口を叩きおって」フン

リリネット(ふぅ……ちょびっとスッキリした!)

リリネット(一応バラガンは大物っちゃ大物だから、いくらスタークの相方だからって非力な美少女相手に本気で怒りをぶつけてきたりはしないと踏んだけど)

リリネット「ノイトラもアーロニーロも脅してきただけで本気じゃなかったみたいだし
    ……そう考えたら、ガチであたしを実験体にしようとしてたザエルアポロが異常なだけだよね、多分」ハァ…

クッカプーロ「アン、アン!」ダッ!

リリネット「うぉっ、びっくりした。だから急に飛びつくなって!」ペタン

ポォ「戻ったカ」

ジオ「お前、何もやらかさなかったろうな?」

リリネット「だーいじょーぶだって! あたしもそうガキじゃないんだからさ」

ニルゲ「いやガキだろ」

アビラマ「本当に本当なんだろうなぁ? もし陛下に無礼を働いてたら承知しねーぞッ!」クワッ!

クールホーン「けどま、大丈夫なんじゃなーい? こうして無傷で戻ってきてるんだし
    もし本気で陛下を怒らせちゃったなら、この娘が今ここに居られるワケないでしょ?」

フィンドール「正解ッ!! その通りだクールホーン。どうやら俺たちの心配は杞憂に終わったらしい」

リリネット「ったく、みんな疑り深いなぁ……そんじゃあたしらはもう行くから。ほら、ついておいで」チョイチョイ

クッカプーロ「アン!」トコトコ

ポォ「——陛下も気まぐレなお方ダ。一言ご命令アレバ、あんなガキひとり一瞬で始末デキタヨ」

クールホーン「隙だらけだったものね〜、あ・の・娘。てんで無警戒」

ジオ「軽く20回は殺せたな、あんだけ隙がありゃ。まぁ仮に隙がなかったとしても15回は殺せただろうけどな」

ニルゲ「むしろ、よくもあそこまで警戒心無くこの宮を歩けたモンだぜ。俺たちがいつでも殺れる状態で接してたってのによ」

アビラマ「まーよ、まともに戦えもしねーあんなガキ一匹、ぶっ殺す価値もねーってこったろ」

フィンドール「正解——たとえ第1十刃の半身だとしても、陛下にとってはわざわざ始末するに値しない程度の存在、ということだ」

第0の宮

リリネット「ほら、ヤミーの宮に着いたよ」

クッカプーロ「アン!」ダッ

リリネット「あっ、ちょっ!」

ヤミー「あぁん? なんだお前ら」ノソリ

リリネット「あっ、おーっすヤミー! その子連れて来——」

クッカプーロ「アーン!」バッ

ヤミー「ウゼーなぁおい」シッシッ

クッカプーロ「アゥン…!」シュン

リリネット「うわっ! ちょ、可哀そうじゃんっ!?」

ヤミー「あぁ? つーかお前なんでこのバカ犬と一緒に居るんだぁ?」

リリネット「それはっ、その子が天蓋の下うろうろしてたから、あんたのとこまで送ってってやろうと——!」ヨシヨシ

クッカプーロ「クゥ〜ン……」ショボン

ヤミー「チッ、余計なことしやがるぜ。どうせほっといても腹が空きゃ勝手に帰ってくんだよコイツは」

リリネット「そんな言い方しなくたっていいじゃん! あんた、この子の飼い主でしょ!?」

ヤミー「あぁ!? ふざけんじゃねぇ、そいつが勝手に付きまとってくるから置いてやってるだけだ。面倒まで見てやるつもりはねぇよ!」

リリネット「なっ……あんたってやつはっ……!!」キッ

ヤミー「おっ、なんだぁ? なんか文句でもあんのか?」ズン

リリネット「っ!」ビクッ

リリネット「……あんた、ひと月前より大きくなった?」

ヤミー「ヘヘッ、おうよ」ニヤリ

ヤミー「腕ぇきっちりくっつくまでに余計な時間食っちまったが、ようやくここまで霊圧が回復してきたぜ」

クッカプーロ「アン、アン!」

ヤミー「ったく、だから俺は『生け捕りにするか?』って訊いたのによぉ
   ウルキオラのヤツは堅物すぎんだよ、藍染さんに言われたことしかやろうとしねぇ。結局二度手間じゃねぇか」

ヤミー「あん時さっさとあの女ぁ捕まえてきてりゃ、俺の腕だってもっと早く治ったってのによぉ」

リリネット「……あんたはいいよね。食べて寝て、霊圧を溜め込むだけで強くなれるんだからさぁ……」ハァ

ヤミー「あぁん?」

リリネット「なんつーかさ、ズルくない?」

リリネット「あたs——他の虚や破面が苦労して強くなろうと頑張ってるのに、あんたやアーロニーロは能力で簡単に強くなれるなんてさ」

ヤミー「んなこと言ったってしゃあねぇだろが。こちとら、たまたまこういう能力を持ってたんだからよぉ」

リリネット「そりゃわかってるけど……なんか腑に落ちないっていうか」

ヤミー「ゴチャゴチャうるせぇガキだなぁオイ。そんならザエルアポロの野郎にでも頼んで新しい能力の一つでも開発してもらえよ」

リリネット「あんたがあたしの立場だったらそれする?」ジトォ

ヤミー「まぁ、しねぇわなぁ」ボリボリ

クッカプーロ「クゥン…」

ヤミー「そんじゃあの新入りみてぇに、藍染さんに改造してもらうってのはどうだ?」

リリネット「新入りって——ワンダーワイスのこと? いや、だから改造とかそっち方面はナシの方向で行きたいんだけど」

ヤミー「知らねぇよクソが。鬱陶しいからどっか行きやがれ、俺はこれからメシ喰うとこだったんだよ」ムスッ

リリネット「はいはい、わかったよ。けど、この子にも餌あげなよ?」

クッカプーロ「アン!」ハァハァ

ヤミー「チッ、うるせぇな。どうせ俺の喰い残しを勝手に食べやがるんだからほっときゃいいんだよ……」ノソノソ

クッカプーロ「アンアン! アン!」トコトコ

リリネット「あっ、クッカプーロ、またね! 今日は疲れてるからあれだったけど、今度暇なときには一緒に遊んだげるよっ!」ノシ

クッカプーロ「アォン!」ピョン!

ヤミー「飛び跳ねてねぇでさっさとついてこいバカ犬っ! 置いてくぞオラッ!」

クッカプーロ「アンアン!」トコトコトコ…


リリネット「……なんだかんだで仲良いのかな?」

回廊

リリネット「十刃の宮全部制覇しちゃったけど……」トボトボ

リリネット「結局、あいつ以外にあたしの相棒なんて務まらないってことがよーくわかったよ……」ハァ

リリネット「ま、わかりきってたことだけどね」


ゴォォォォ……


リリネット「わっ! な、なに今の感じ!?」

リリネット「どっか遠くの方で霊圧が揺れたみたいだけど……」

リリネット「……まぁいいや。とりあえず今度こそ帰ろっと」

リリネット「そうそう! アーロニーロからもらった花火があるんだったっけ!」ポン

リリネット「……えへへ。スタークと花火するのなんて初めてだなぁ」ニコ!

第1の宮

リリネット「ただいまぁ……」

スターク「おう、遅かったじゃねーか」チラッ

リリネット「ようやく戻ってこれたぁ……ってあれ? 起きてたんだ」

スターク「ふぁ〜あ……ちょうど今目ぇ覚ましたトコだ」ゴシゴシ

リリネット「……ひょっとして、あたしの帰りが遅いのを心配してくれてた?」

スターク「バカ言え、今起きたっつってんだろーが。変な勘違いしてんじゃねーよ」

リリネット「ふ〜〜〜ん、そっかぁ〜。今起きたとこなんだぁ〜」ニヤニヤ

スターク「勘違いすんなっつってんだろ。ニヤニヤすんじゃねー気持ち悪りーな」

リリネット「えっへへ! だよね〜あたしの勘違いだよね〜?」

スターク「ったく……にしてもお前、ずいぶんくたびれてるみてーだな。どこほっつき歩いてたんだ?」

リリネット「いや〜今日はホント色んなことがあったわ。聞きたい?」チラッ

スターク「別に興味ねーぞ」

リリネット「またまたまた〜、素直じゃないなぁスタークは」ツンツン

スターク「お前妙に機嫌良いな……ザエルアポロに変な薬でも打たれてきたんじゃねーか?」

リリネット「な〜に言ってんのさ〜。あたしはいつだって元気っ娘でしょ!」ニィ!

リリネット「あっ、そうだスターク! おみやげがあるんだった!」ゴソゴソ

スターク「みやげだぁ? どこに行ってきたみやげだよ——って、こりゃ花火か?」

リリネット「えさくたっ! アーロニーロが暇潰しに作ったんだってさ」ニィ!

スターク「何が“正解”だ、ヘッタクソな発音の癖しやがって
   にしてもお前、アーロニーロん所に何しに行ってたんだ?」

リリネット「うん、まぁちょっとね。それよりさスタークっ、さっそく火ぃつけてみよーぜ!」ワクワク

スターク「室内でやる気かよ……っつーかそれ以前にお前これ、湿気っちまってんぞ」

リリネット「えっ、うそっ!?」

スターク「握りしめすぎて手汗でやられたんじゃねーか? お前はすぐにはしゃぐからよ」ヤレヤレ

リリネット「んなわけあるかバカ! ちゃんと懐にしまっ——!!」ハッ

リリネット(げっ! まさかザエルアポロの従属官から逃げてる最中に汗で……!?)

スターク「思い当たるフシがあるみてーだな」

リリネット「……うん」ショボン

スターク(ったく……なんつーツラしてやがんだよ)ボリボリ

スターク「ちょっと貸してみろ」

リリネット「えっ、あっ! い、いいよスターク! あたしの汗で汚れてるし——」アタフタ

スターク「いまさら何言ってんだ、お前の汗なんざ俺にとっちゃどうともねーよ」シゲシゲ

スターク「——ほら、こいつはまだ使えそうだぜ」ポイッ

リリネット「うぉっと……線香花火かな、これ?」

スターク「みてーだな。にしてもアイツ、意外に器用じゃねーか」

リリネット「あたしもおんなじこと言ったよ……でもこれ一本だけかぁ」

スターク「いーじゃねーか、一本でも使えるやつが残ってたんだからよ
   どうせ線香花火なんてもんは、しんみり一本燃やすぐらいがちょうどいいんだしな」

リリネット「……そだね」クスッ


リリネット(あたしとスタークはふたりでひとり)

リリネット(だからこの花火は、ひとり分あればいい)

リリネット(花火はひとつだけだけど、あたしたちはひとりじゃないんだから——)

スターク「——悪りぃ、リリネット。花火で遊ぶのは後にしてくれ」

リリネット「へっ……?」キョトン

スターク「入って来いよ」


サッ


ルドボーン「——失礼致します」スタッ…

リリネット「わっ! ル、ルドボーン……!?」ビクッ

スターク「葬討部隊——それも隊長さん直々に訪問たぁね。いったい何の用だ?」

ルドボーン「『第1十刃』コヨーテ・スターク様、藍染様より緊急招集が発せられました」

スターク「招集? わざわざ俺にか?」

ルドボーン「いいえ。全十刃の皆様に対して、です
     既に他の宮にも伝令を向かわせております故、スターク様も直ちに集合願います」サッ

スターク「——ったく、めんどくせー話になりそうだな」ボリボリ

リリネット「緊急招集なんて……っ!」ハッ!


−−
−−−

バラガン『まァよいわ、直に始まる戦いまでの暇は潰せたからな』

バラガン『この局面でわざわざあの女を攫ってきたという事は、直にこちらから何か仕掛けるつもりじゃろう』

−−−
−−

リリネット(ひょっとしてっ……!?)

スターク「——だから、なんつー顔してんだよ、お前は」コツン

リリネット「わっ!」

スターク「んじゃまぁ、よくわかんねーけど、とりあえず行ってくら。お前は昼寝でもして待ってろ」

リリネット「あ、あのさスタークっ……」

スターク「そんなに深く考えんなよ。どーせどうにでもなるようなこったろ」

リリネット「でもっ……」

スターク「リリネット」ジッ

リリネット「…!」

スターク「心配すんな。そんなには待たせねーよ」

スターク「俺だって眠みーしな。会議ならテキトーにやり過ごして、帰ってきてからもう一眠りするさ」

スターク「だから俺が帰るまで——待ってろ」

リリネット「……うん、わかった」コクン

リリネット「そんじゃスターク、行ってらっしゃい!」ノシ

スターク「おう。行ってくる、リリネット」ノシ


リリネット「……そうだよね。余計な心配したって仕方ないよ」

リリネット「あいつの帰る場所は、あたしの帰る場所と同じ」

リリネット「なにがあっても——最後には必ず、ふたり一緒に居るはずだもん!」ニコ!

虚夜宮・長テーブルの広間

ザエルアポロ「——侵入者らしいよ」カツ カツ

バラガン「侵入者ァ!?」ズカズカ

ゾマリ「……22号地底路が倒壊したらしい」カツ カツ

バラガン「22号ォ! またずいぶん遠くに侵入したもんじゃのォ!!」ドカッ

ザエルアポロ「同感だね。いっそ、いきなり玉座の間にでも侵入してくれたら、面白くなったんだけど」ニヤリ

アーロニーロ「……」「……」ズブッ コポォ…

ハリベル「……」カツ カツ

ノイトラ「ヒャァッハァ!! そいつはいいや!!」ガタッ!

スターク「……ったく、こっちは眠みーんだ。高けー声出すなよ」ジロッ

ウルキオラ「……」スッ

グリムジョー「……チッ」ドカッ

ヤミー「フン……」ドカッ



藍染「——おはよう、十刃諸君」

藍染「敵襲だ」



藍染「まずは——紅茶でも淹れようか」


BLEACH SS 【Entre la lucha:Dos lobos solitarios】

〜Fin〜

以上で終了です
遅くまでお付き合いいただきありがとうございました

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