【オリキャラ安価6】魔法科高校の劣等生 (566)

このスレは『魔法科高校の劣等生』の世界にオリキャラ(君影歩夢)が入った原作の内容です。

行動は安価で決めます。連続での安価の取得は構いません。
また、自由行動の安価で不自然な物は再安価とさせて頂きます。


【オリキャラ安価】魔法科高校の劣等生: 【オリキャラ安価】魔法科高校の劣等生 - SSまとめ速報
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【オリキャラ安価3】魔法科高校の劣等生:
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【オリキャラ安価4】魔法科高校の劣等生
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【オリキャラ安価5】魔法科高校の劣等生
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1453727208


ー今までの簡単な時系列ー
2095年
4月3日:国立魔法大学付属高校へ入学
4月下旬:歩夢と達也が付き合い始める
同日:人殺しの罪を擦りつけられ、警察に追われ、四葉本邸で使用人として働くことになる(※1)
8月3日:九校戦スタート
8月10日:歩夢が仮装行列で司波深雪となり、モノリス・コードに参戦(※2)
8月17日:雪乃と綾人(※3)を探しに京都へ
10月30日:全国高校生魔法学論文コンペディション開催
同日:大亜細亜連合による侵攻を受ける(※4)
10月31日:日本が大亜細亜連合の鎮海軍港へ戦略級魔法(※5)を撃ち消滅させた(※6)
11月1日:霜月関連が始まる
11月5日:霜月関連終了
同日:那月とお出掛け
11月6日:真夜からの出頭命令に従い四葉本邸へ
同日:道中で襲撃に遭う(※7)
11月6日:歩夢が余命宣告をされる
12月24日:歩夢は達也と初めての夜を過ごす

2096年
1月9日:歩夢は四葉香夜として第一高校へ一時的な編入
2月16日:歩夢と葉月は和解する
2月19日:パラサイトを全て封印する
3月22日(頃):香夜=歩夢であることをリーナに告げる


※1 魔法科第一高等学校は退学
※2 学校の名誉のために世界を1つの閉鎖空間だと考えて流星群を使用する
※3 歩夢と隼人の両親。歩夢に何も告げずに別居していたのは雪乃の裏を抑えるため
※4 横浜事変。通っていた学校の先輩を助けるために※2と同じく流星群を使用
※5 達也の魔法『マテリアル・バースト』
※6 灼熱のハロウィン
※葉月に襲撃される


【オリキャラだけですが、簡単な紹介を】

【君影 歩夢(現代)】
本作品の主人公。
流星群の使用方法を間違ったため、寿命を縮める。

主使用魔法───固定感念
好きなもの───人との上手な付き合い
嫌いなもの───争い


【君影 歩夢(未来)】
故人。
那月の誕生と入れ違いに亡くなる。

主使用魔法───固定感念
好きなもの───友達
嫌いなもの───???


【瓊々木 咲夜】
君影歩夢の身体に入ったもう一つの精神。
実姉である夜永を敬う。

主使用魔法───固定感念
好きなもの───瓊々木夜永
嫌いなもの───歩夢と夜永に害を為す者

【瓊々木 夜永】
自他共に認めるなんでも出来るタイプの天才。
妹の咲夜に思いをかける。

主使用魔法───再幻
好きなもの───生徒と妹
嫌いなもの───生徒と妹に害を為す者


【君影(霜月) 雪乃】
君影歩夢の母。
解離性同一性障害により裏の人格が形成されたが、歩夢の魔法によって表裏一体となる。
十二師族の葉月の創造に憧れ、『幻』を求める。

主使用魔法───???(幻術系統)
好きなもの───深夜と真夜
嫌いなもの───身内に手を出す者


【司波 那月】
歩夢の卵子と達也の精子を人工授精させ、深雪が産んだ子供。
家庭事情に悩まされていたが苦労の末に解決する。
精神を魅了する『月』を求める。

主使用魔法───???(精神干渉魔法)
好きなもの───人との縁
嫌いなもの───人との距離


【葉月】
十二師族時代の『葉月』の先祖返り。
長きに渡った勘違いが解消されたことにより、歩夢と親交を深める。

主使用魔法───創造
好きなもの───万年筆
嫌いなもの───お金が全てな世界

【霜月】
十二師族の唯一の生き残り。
魔法師にとっての魔法を扱う。
『時』を求める。

主使用魔法───時間操作
好きなもの───沙夜と千夜
嫌いなもの───???


【葉月(十二師族時代における)】
故人。
霜月に助けられた経緯を持つ。

主使用魔法───創造
好きなもの───霜月と如月
嫌いなもの───???


【如月】
故人。
霜月に助けられた経緯を持つ。
夜永に一目置いている。

主使用魔法───???
好きなもの───霜月と葉月
嫌いなもの───???


【司波 沙夜】
とある経緯があって、男性恐怖症。
そのせいか、同い年くらいの女性を好む。

主使用魔法───鎌霧
好きなもの───女の子
嫌いなもの───男性


【司波 千夜】
沙夜の妹。
深夜からは娘のような扱いを受けている。

主使用魔法───鎌霧
好きなもの───優しい人
嫌いなもの───身内の危機


【次レスから再開です。】


感情を制限された自分に様々な感情を与えてくれたとある女性

那月とその女性の姿が重なる

胸の奥が苦しくなって、頭が回らない

冷静な思考を崩された

達也は諦める

どうやっても、結局のところ勝てなかった

感無量というか、なんというか

表現しきれない感情が沸き上がる

達也は静かに、閉ざされていた口を開く


【安価です。コンマ一桁
奇数・0:達也『君影歩夢は───歩夢は、俺の大切な人だ』
偶数:達也『詳しいことは深雪から聞いてくれ。俺から話せることは.....歩夢が俺にとって大切な人間だった。ただそれだけだ』

奇数・0の場合は達也から少し話を聞きます。
偶数の場合は深雪から話を聞きます。
安価下。】

ぽい

>>7 2:達也『詳しいことは深雪から聞いてくれ。俺から話せることは.....歩夢が俺にとって大切な人間だった。ただそれだけだ』】

達也『詳しいことは深雪から聞いてくれ。俺から話せることは.....歩夢が俺にとって大切な人間だった。ただそれだけだ』

那月「大切な....人」

達也『付き合っていた、と言えば分かり易いか?』

那月「......」

達也の感情が今もなお、ずっと昔から制限されていたことは那月も知っている

その父が、どういう経緯でそうなったかは知らないが、君影歩夢という女性と付き合っていた

予想自体は見事に的中したが、どうにも理解し難い

那月「政略的な....お付き合いでしたか?」

達也『いや、俺が好きなって、俺が告白した。那月が歩夢のことをどれだけ知っているのかは知らないが、俺にとっては───魅力的だった』

那月「魅力的.....魅了」

さながら吸血鬼のように

君影歩夢は達也に対して魅了の力を所有していた

写真や映像だけでは気付けないポイントである


達也『これ以上のことは深雪に聞いてくれ。俺からはもう話せない』

那月「.....これ以上? まだ何かあるのですか?」

達也『あぁ、まだある。俺と歩夢が過去に付き合っていたという事実よりも、もっと重要なことが。この十四年間、ずっと隠し続けてきたがもういいだろう。この機会で、ようやく分かった。那月は俺の知らないところで───いや、深雪ですら知らないところで成長していたんだな』

那月「ぇ...ぁ...え?」

達也『今まで俺は那月と向かい合えなかった。ずっと背いてきた。深雪も、おそらく隼人さんもそうだろう。葉月や水波、夜永さんは強い。.....いや、俺が弱いだけなのかもしれないが。だから、一つだけ忠告しておく。深雪から話を聞けば、今までの生活には戻れなくなるかもしれない。“距離が溝”になるかもしれない。俺が言えたことではないが、父親としては、おすすめできないな』

那月は首を傾げたまま、凍りついた

───お父様はなにを仰りたいの?

そう、疑問に思う

これ以上踏み込むな、とは解釈しきれない

だが踏み込め、とも解釈できない

いわゆる自己判断

子供が大人になる上で求められる要素の一つ

ここから先は自分の意思で決める

これ以上のことを知るも知らぬも自己責任で、自分が決める

今までやれと言われたことをやってきた那月には難題であった


しかし、もう意志は揺るがない

たとえ親子の縁が切れることになっても

やらずに後悔するのは嫌だ、と決めたばかり

自己判断というか自己消去法

やらないを選択しないなら、やるしかない

那月「聞きます。お母様に全部。そして、それからは自分で決めます。もう依存しません」

依存していた私から自立する私へ

今回の旅が有益に活用された

自分探しの旅とはよく言ったものである

自分の意思で旅をして、自分の意思で観光して

それで今は───自分の意志で向き合った

達也『.....もしも話を聞いて、耐えられなくなったら人を頼れ。夜永さんでもいいし、葉月でも、水波でも、俺でもいい。話くらいは聞いてやれる。アドバイス出来るかどうかは相談相手次第だ。それも自分で選べ。間違った選択をしたのなら、それを教訓にして次回に生かせ。夜永さんは規格外の人間だから教訓を得られずに───いや、それはそれでまた別の教訓を得られるだろう。ともかく、お前には選ぶ権利がある。有効に使えよ』

那月「.....はい!」

初めての親子らしいことをした

父から教えられ、学ぶ


これまではずっと一人

もしくは親以外の人から教えられた

時には夜永に

時には水波に

時には葉月に

母親は深雪でも、育ての親は主にこの三人

信用に足る面々であり、信頼できる

きっと自分が歩むべき道を誤ったときには正してくれるだろうし、道を照らしてくれもするだろう

彼女らは大人なのだ

那月とは違い、大人

一回り以上の人生という名の経験を積んでいる

大人の道標に沿って子供は学び、自立する

依存はもうしない

しかし助けは乞う

きっと助けてくれるだろう

夜永も水波も葉月も───

那月「ありがとうございます、お父様」

司波達也という父親も信用に足る人物だ


【安価です。
1.四葉の屋敷へ今から帰る
2.今晩は君影家(京都)に泊まっていく
安価下。】

2


>>12 2.今晩は君影家に泊まっていく】

達也との電話は非常に有意義であった

含蓄のある言葉も聞けたし、なにより教訓になった

これからするべきことも道標として、教えてくれた

結果は御の字ではないだろうか

そう那月はベッドの上で思う

達也との電話を終えて、那月は「はぁ」と溜め込んでいた息を吐いた後、すぐさまベッドに寝転がった

ふかふかのベッドに体重を掛けて

疲れきった身体を休める

那月「......」

君影歩夢は達也の元彼女

そして親友ではなく友達

友達という段階を踏んで彼女にしたのだろうか

恋愛経験のない那月にとっては理解しがたく、フィクションのイメージが現実にも通用するのなら、親友という段階を踏んでから付き合うのだと勝手に思い込んでいた

考えれば考えるほど分からなくなっていくが、

───まぁ、人それぞれってことだよね

この結論で議題は終わりを迎える


次に議題に挙げたのは『これ以上のこと』について

一体全体、なにが残っているのだろうか

達也曰く、戻れなくなるかもしれない

とのことだったが、那月には見当もつかない

例の君影歩夢はどう関係しているのか

かれこれ十数分

ずっと考えているが、やはり見当すらつかない

真っ暗な天助を仰ぎ、目を閉じる

若干の眠気さえ感じてきてしまった

心なしか、足も痛い

筋肉痛だろう

もう思いにふけるほど頭が回らない

この一日は頑張りすぎた

自分の過大評価に、嘲笑を漏らす

那月「ん....んー」

身体を伸ばしてから、那月は休息の支度を始める


【今回はここまでにします。
ようやくパート6になりました。
お付き合い頂きまして、本当にありがとうございます。
今後もどうぞよろしくお願い致します。

安価です。コンマ1桁
奇数・0:???
偶数:朝
安価下。】

>>15 2:朝】

那月「ん....ぅ....」

秋から冬へと季節が移り変わる今日この頃

目覚ましでも体内時計でもなく

那月は自然によって起こされた

カーテンの隙間から覗く外は薄暗い

太陽はまだ昇っていない

朝方の五時くらいだろうか

今日は日曜日

学生にとっての職務である学校は休み

休日中に学力が低下しないことを目的とした宿題はすべて一昨日の内に片付けてある

予習も復習も必要としない

自惚れになってしまうが、那月は自分が要領のいいタイプの人間であることを自覚している

定期テストでは全教科ほぼ満点

体育ではテストはもちろんのこと、日常的にも無理難題を押し付けられない限りは失敗したことがない

勉強ができて運動ができる

周りからはずっと注目の的である

しかしその注目の的というのは、勉強や体育による功績よりも姓の効果が大きい

勉強や体育よりも、家柄

司波という姓は四葉の姓と同義

あの四葉の令嬢として注目の的の晒されている

幸いなことに虐めはない

怖れて、畏れて、恐れているのだろう

誰もが一線を引いた距離で接してくる

───同学年の生徒も先生も、その他の人も

特に精神的に辛い思いをしたのは深雪との距離

次元的な意味で距離を感じた

一生分かち合えない、と何度も思った

いつしか那月は人との距離を測るようになる

夜永とは、ほぼゼロ距離で

葉月とは、ほぼゼロ距離で

水波とは、少しだけ距離があって

深雪とは、最新の更新によるとかなりの距離

昨日の功績により次元的な差はなくなった


あとはどれだけ距離を縮められるか

ついでに水波ともこれ以上なく、それこそ理想の母娘の関係が築ければと考えている

達也の言っていた『これ以上のこと』を知るのは、あと数時間、もしくは数十時間

日付が変わる前には全てが片付くだろう

人生のターニングポイントとなる今日

良い方に転ぼうが、悪い方に転ぼうが

もう、今までのような生活に戻ることはできない

覚悟を決めた那月は眠気と寒気を感じながらも、強い志を持って、ベッドから起き上がる




那月が朝すべきことを終える頃

葉月は朝食を作り始めていた

那月「(まだ五時過ぎなんだけどなぁ....)」

早起きをしたつもりだったが、葉月はもっと早かった

これが大人なのか、と思いながら、

那月「おはようございます、葉月さん」

葉月「ん。あぁ、うん。おはよう」

肩を少しピクッと反応させて、葉月は挨拶を返した

葉月「朝ごはん、もう少しで出来るから寛いでて。って言っても、私の家じゃないけれどね。私はしょせん、居候───養子の身だから」

那月「養子....?」

葉月「身寄りのなかった私は昔、この家の主である雪乃に引き取られた。そういうことよ」

単純だが複雑な事情がありそうだ、と矛盾した想いを持った那月は詮索をせず、椅子に座る

そのまま効率よく朝食を作る銀髪の大人を後ろからジーッと見続け、十数分

朝食が出来上がったようだ

葉月の作った朝食は和食

これ以上ない、理想的な和食

普段は洋食を朝食として出される身からすると、新鮮であった

那月「いただきます」

葉月「はい、どうぞ」

那月は好奇心に高揚しながらも

行儀よく、食事に箸をつけた


【安価です。
1.葉月「今日はなにをするの?」
2.葉月「昨日、達也とは話せた?」
3.那月「葉月さんは君影歩夢さんについてご存知ですか?」
4.那月「今日、一緒に外に出られますか?」
5.その他
安価下。】

2

>>19 2.葉月「昨日、達也とは話せた?」】

朝食を済ませた二人はティータイムに興じる

葉月「昨日、達也とは話せた?」

那月「はい。十分に」

葉月「ふぅん」

興味ありげに、葉月は相槌を打つ

葉月「どんなことを話したの?」

那月「お父様が、むかしお付き合いしていた人についてです」

葉月「.....達也がむかし付き合っていた人、ねぇ」

那月「ご存知ですか?」

葉月「知ってると言えば知ってるし、知らないと言えば知らない。雪乃を例に出すつもりはないけれど、裏表のある人だったから。正確に言えば『表と裏と表』と言ったところね」

那月「?」

那月は首を傾げたまま、凍りつく

葉月が君影歩夢について知っているのかどうかはともかく、『表と裏と表』の意味が分からなかった


葉月「十数年前の新年なんて悪い気分しかしなかったわね。知ってる? 四葉の慶春会って」

那月「参加はしたことありませんが、話に聞く程度なら」

慶春会とは新年の祝式のようなもの

本家のみならず分家も一堂に会し、重大な発表を行う

葉月の云う十数年前の慶春会は、深雪が次期当主に指名されたときのことだった

葉月「例年は、良い大人たちがお酒を呑んだりして盛り上がるようだけれど、そのときだけは違った。達也がむかし付き合っていた女性───」

那月「君影歩夢さん、ですよね?」

葉月「そこまで知ってたのね.....。そう、その君影歩夢が大人たちを抑制していた。もちろん悪い意味でね。祝式が葬式のような雰囲気に。良い迷惑よね、ほんと」

那月「そ、そんなに怖い方だったんですか....?」

葉月「一過性のもの、というか。まぁ、そのときは深雪や達也と険悪な関係になっていたからね。それが影響して、歩夢は裏に成った。解離性同一性障害ではなく、表がそのまま裏になる。私は関与していないけれど、雪乃のときより厄介だったんじゃないかしら」

那月「か、かいりせい....?」

解離性同一性障害の名が出た時点で、那月の思考は停止していた

葉月「少し難しい話だったわね。話を戻しましょう。昨晩、達也と上手に話せたなら、それに越したことはない。良かったわね」

那月「はい、....それに良いことも教わりました」

葉月「ふふ、そう。頑張ってね」

何を頑張るのかは知らないけど、と葉月は付け足す

しかし那月は励まされ、頑張る気持ちになれた

真摯に深雪からの言葉を受け止める

葉月の何気ない一言が那月の背中を押した


【安価です。残り1回です。
1.葉月「今日はなにをするの?」
2.葉月「魔法の練習はしてる?」
3.那月「葉月さんは君影歩夢さんについてご存知ですか?」
4.那月「今日、一緒に外に出られますか?」
5.その他
安価下。】

>>22 2:葉月「魔法の練習はしてる?】

葉月はコーヒーを

那月は紅茶を嗜むこと十五分

急に話は変わるけど、と葉月は切り出した

葉月「魔法は上手に使えるようになった?」

那月「.....前よりは少し」

那月は悩んでいた

魔法師として、魔法が上手に扱えないことに

素質がまったくない訳では無い

むしろ素質はある方だと証明されている

しかしどんな環境でも、そのポテンシャルが発揮されることは今まで一度もなかった

並々より少し上の結果だけが残る

四葉の───それも本家の人間にあるまじき成果だ

最近になってようやく、人を頼ることにした


まず最初は身近にいた水波に

すると彼女は神妙そうな面持ちで答える

水波「那月様には、やはりCADが合っていないのかもしれませんね。私の方でも、もう少し探してみます」

水波の言う通り、那月がこれまで扱ったCADはいずれも一級品であったが、身体にしっくりくるものとの邂逅は出来ずにいる

言い換えれば、那月の素質が発揮されないのはCADのせいだった

高価なものでも、安価のものでも

那月の魔法力を底上げするような品は見つからない

挙げ句の果てに行き着いた手段は、夜永に相談することだった

すると彼女は笑って答えた

夜永「那月に合うCAD? それなら、何処か特別な空間にあるかもね。大丈夫、すぐに見つかるわ」

と、意味深なことを言われて早数ヶ月

大人の言う『すぐ』とは一体いつなのか

疑心暗鬼になったりもした


そして今───この瞬間

葉月にも相談してみることにする

那月「私に合うCAD....なにか心当たりはありますか?」

葉月「......確証はないけど、まぁ、うん。でも、今の貴女には合わない。だから、もう少し成長した司波那月に合うCADなら心当たりがあるわ」

那月「もう少し成長した私.....」

葉月「魔法面や学面じゃなくて、精神面での成長。痛い思いをいっぱいすれば成長できるかもね」

那月「それは実戦で敗けろ、ということですか?」

葉月「それは経験値的な扱い。少し意味合いは変わるけど、火事場の馬鹿力ってやつに近いのかな。残りの体力が少なくなったときにのみ発動する能力が常時使えるようになったら、貴女に合うCADがきっと見つかる」

つまり───『覚醒』

精神面で成長することにより、魔法力が格段に上がり、ついでに今現在悩んでいるCAD問題についても解決される

葉月の話を要約するとこういうことだったが、那月には難しい話だったようできょとんとしている

葉月「簡単に言うと、焦らなくてもいいってこと」

那月「ぁ....はい!」

そういうことか、と小さく頷いて、返事をした


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:帰る
偶数:葉月とお出掛け
安価下。】

>>26 2:葉月とお出掛け】

那月「そういえば」

と、那月が話を切り出したのは太陽が出た頃合い

時刻は気が付けば七時を回っている

平日なら、学生らしく学校へと出勤する時間である

那月「隼人さんは? 見かけていませんが.....」

葉月「隼人は昨晩遅くに深雪に呼ばれた。話があるんだって。ちなみに私も呼ばれた。けど、断った。深雪に全部任せる、って言ってね」

那月「お母様が.....。用件は?」

葉月「さぁ? 知らない。聞く前に任せるって言って、電話切っちゃったから。でも、大方の予想はつくわ」

───私と『君影歩夢』のことだ

と、那月は勘付いた

昨晩の電話の流れからして、明白であった


那月「私と君影歩夢さん。どんな関係があるのか、葉月さんはご存知ですか?」

葉月「えぇ、もちろん」

即答だった

これまで隠されてきた秘密を隠すつもりがない

余裕そうな表情を浮かべて、那月と目を合わせる

その翡翠色の瞳で、すべてを見透かすように

那月「ぅ....」

那月は蛇に睨まれた蛙のように、縮まった

そして居心地が悪そうに、椅子に座り直す

葉月「まぁ、....もういいわ。君影歩夢についての話はここまでにしましょう。話題の切り替え。これから話すことは、これからについて。とは言っても、十数時間後とかじゃなくて、今からのこと。那月、なにかしたいことはある?」

那月「ぁ...えっと....」

最も行きたいと考えていた清水寺は昨日に観光している

十分に見て回れたかと訊かれれば微妙なところではあるが、大まかには観光できた

それだけで十分であったし、なにより、

那月「(またあの人混みに行くのは.....やだな)」

清水寺の参拝開始時刻は六時

まだ一時間しか経っていないとはいえ、早朝ならではの参拝の良き所もあるはずだ

今頃、観光者であふれているだろう


そう結論付けた那月は、

那月「おすすめの場所とかってありますか? 葉月さんのお気に入りのところに行ってみたです」

葉月「おすすめ.....お気に入り.....。一つだけあるけれど、あそこは入れないでしょうね。年中桜が見られる綺麗なところなのだけれど」

那月「ね、年中桜ですか.....」

それは本当に桜なのか、と疑う

葉月「近いうちに行けると思うから、それまでは我慢しましょうか。行けるようになったら行きましょう。それで、今ぐらいの季節に良い場所ねぇ......」

うーん、と葉月は考え込むこと数秒

葉月「嵐山とか行ってみる? 秋だから紅葉が綺麗だと思うわよ」

那月「嵐山.....はい、そこにします!」

目的地が決まったところで、出発時刻を決め、準備を整えるために分かれる


ー十五分後ー

葉月「それじゃあ、行きましょうか」

那月「はい!」

葉月の先導の元、那月は一晩過ごした家を出る

この家では普段できないことを体験させて貰った、と感慨深く思い、小さく頭を下げた

民家へ対しての敬意の表し

もちろん葉月への敬意も含まれている

ここで過ごした思い出へと、那月は感謝した

葉月「どうしたの?」

那月「いえ、なんでもありません」

葉月「そう?」

昨日に購入した土産やパソコンを家に置いてきたことにより徒手となった那月の手を葉月は取る

那月「.....!」

こうやって手を繋ぐのは久しぶりだ、と那月は思う

葉月に握られているだけでなく、那月もぎゅっと弱々しく握り返した

葉月「まずは駅ね」

クスッと笑みを零した葉月は、目的地へと向かうための段階を踏みに、那月の半歩先を進む


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:男性に絡まれる
偶数:無事観光
安価下。】

ほい

>>31 2:無事観光】

駅を降りて、那月がまず最初に思ったことは、

那月「(人多い.....やっぱり外国の方が.....)」

実際、昨日訪れた清水寺同様に、観光地である嵐山付近には観光客が集まっていた

那月が判断する限りでの比率は3:2

前者が外国人で、後者が日本人である

一概にそうとは言えないが、目測は誤っていない

しかしそれはもう、この京都という土地では当たり前のことであり、那月自身も隣に一見外国人のような銀髪を持つ美女を連れていれば然程気にならなかった

葉月はよく目立つし、人の目を惹く

ただの外国人なら、この土地だけでなく、日本という規模の土地で見ても珍しいものではない

観光地には観光客として、世界中から人が集まるのは至極当然であり、日本に限らず世界中がそうだ

もう見慣れたものであった

生まれ育った田舎ほどではないにしろ、その存在はもうとっくの昔に日常風景に溶け込んでいる


那月は日本という国が世界中から随一の観光名所として扱われる良い待遇に誇らしく、感慨深く想いながら、視線を他人から保護者へと移す

那月「で、嵐山ってなにがあるんですか?」

葉月「左に見ての通り、大自然───紅葉。それと有名なのは、えっと.....なんて言ったかしら.....。なんとか橋が有名よ。那月の住む田舎では見られないような橋。間違っても身を乗り出して、落ちたりしないでね。私が怒られるから」

───あなたの“お母さん”に

と葉月は長台詞に短台詞を俯きながら、付け足した

今朝方から何度か見受けられる葉月の異変に、那月はもう探りを入れるのはやめた

隠し事ゆえのその謎の態度は、今晩になればすべて判明するのだから

那月「橋.....あ、渡月橋ですか? 」

葉月「そんな名前だったような....気がするわ。こっちの方はあまり来なくて。更に言い訳すると、ここに最後に来たのは十数年前だから」

那月「綺麗なところなんですけどねー」

葉月「それはそうだけれど、似たような景色は何処でも見られるし、街並みがやっぱり京都らしいから飽きちゃったって言うのかしら。上京したての学生が東京では遊び場に困らない、って言いながらも、何十年もその地で暮らすと飽きちゃうような.......。うん、そんな雰囲気かな」

まぁまぁな例え話に、那月は納得してしまう


那月「私は......京都、憧れますけどね。京都の街並みは綺麗だと思いますし、名産品も多くありますし、人が多くて賑わっている。楽しい場所で、いいところじゃないですか」

葉月「......そうかもね。私の友達も似たようなことを言っていたわ」

那月「?」

首を傾げながらも、那月は「その友達って───」と、問おうとしたところで葉月が言葉を遮った

葉月「橋、見えてきたよ。あれが.....渡月橋だっけ。それで、橋の下を流れる川の上流がたしか大堰川で、下流が桂川。どういう経緯でその名前が付いたのかは、知らない。夜永なら知ってるかもね」

ついさっきのことを忘れて、那月は壮大な橋と川に釘付けとなっていた

地元の田舎よりも自然に恵まれていて、多くの観光客が携帯端末や専用のカメラで撮影をしている姿が視界に映る

那月も携帯端末を取り出し、写真を撮った

橋をメインにし、川は控えめに

その次は川をメインにし、橋を控えめに

そのまた次は、紅葉も含めて写真を撮った

葉月「撮ってあげようか? ただし、写真の腕に期待はしないでね」

那月「ぅ.....い、いえ....遠慮しておきます。私、写真写りがすごく悪いので.....」

トラウマを蘇らせたかのように、その場で那月はガックリと項垂れた

テンションの落差に葉月は苦笑を漏らして、

葉月「ふふ、じゃあ満足するまで橋と川と紅葉の写真を撮ったら、お店を回りましょうか。そういえばお寺も近くにあったわね。興味ある?」

那月「あんまり」

那月の即答に、今度は葉月が項垂れた

葉月「.....さっきまで京都に興味あるって言ってたのに.....良くないところが遺伝したというか、なんというか。似た者同士ね」

ついつい葉月は小声で愚痴を漏らしてしまう

幸いなことに那月はカメラフォルダを景色の写真で埋めることに熱中していて、耳に届かなかったようだ

独り言を聞かれなかったことからの安心なのか

無邪気にはしゃぐ少女の姿に安心したからなのか

葉月は安堵した

葉月「(.....ほんと、貴女に似たわね)」



葉月「(─────歩夢)」


【安価です。コンマ1桁。
奇数・0:観光
偶数:???
安価下。】

ほい


>>35 8:???】

那月は子供らしく、はしゃいでみせた

しかしそれでも上流階級のお嬢様な振る舞いは隠しきれず、中途半端な形になってしまっているが、本人が楽しめているようなので保護者は良しとする

美少女の存在に周りからの注目が集まる

銀髪の美女ではなく、黒髪の少女

他ならぬ那月へと多くの視線が注がれた

その内の多くは「綺麗だな」などといった他人事であったが、やましいことを考えている者も居た

葉月は後者の方へと敵意を丸出しにして、牽制する

すると悪寒でも感じたのか、一部の人間はそそくさと立ち去って行った

その姿が、葉月には滑稽に思えた

葉月「(達也の苦労が伺えるわね)」

今ではめっきり無くなったが、十数年前は達也もこうして深雪に近づく者を遠ざけていた

今更になって───保護者になってみて、理解した

ガーディアンとまでは行かずとも、保護者というのは大変な立場であると


葉月は那月を視界に止めたまま、周囲の人間の思考を読み取り続ける

那月「葉月さん」

不意に、那月が振り向いた

そして手を振る

こっちに来い、と

そう捉えた葉月は一歩を踏み出して─────

葉月「......」

二歩目は続かなかった

一歩で、止まった

葉月「な、......那月.....?」

震えた声で、葉月は名前を呼ぶ

那月「はい?」

対して、那月は悠長に首を傾げてみせた

葉月「那月っ.....。今から目を閉じて、こっちまで来なさい。絶対に目を開けてはいけないし、今すぐよ。理由は後で話す。だから────」

葉月のいつになく切羽詰まった様子に、那月はようやく危機感を感じた

自分の身に危険が及ぼうとしているのか、それとも他のことなのかは分からない


しかし今は、葉月の命令に従うだけだった

すぐさま目を閉じて、歩み始める

幸いなことに然程距離は空いていなかったし、右往左往しなくても良い直線上に二人の位置関係はあった

那月は早歩きで、那月は目を閉じながら歩く

葉月は念には念を入れようと、幻術で自分以外の目から欺いている日本刀をぎゅっと握りしめる

もしものことがあれば葉月に一太刀浴びせることになるかもしれない

もしも────那月が『碧色の瞳』の能力を暴走という形で使用してしまったときには

しかし、そんなことはなかった

この土地が幸いか、それとも不幸だったのか

那月は消失した

姿を消した

一瞬の間に────瞬きさえも許さぬ時間で

最初からその場にいなかった

そう言われる方が現実味を帯びるだろう

少女の姿はその場から消えていて、葉月は─────


【安価です。霜月と瓊々木のお墓に行きます。コンマ1桁。
奇数・0:葉月も一緒に
偶数:那月一人で
安価下。】

どん


>>39 0:葉月も一緒に】

ー???ー

一歩二歩と足を進めて、感触で気が付いた

舗装されたコンクリートの堅い地面から

舗装されていない柔らかな土質の地面へ

明らかにおかしい、と

那月は恐る恐ると目を開く

葉月の命令に逆らうことになるが、致し方ない

那月「ん.....」

目を開けて、まず最初に見えたのは一枚の花弁

それから、幾千もの木々が視界に入る


那月「これは.....」

手を差し出すと、花弁が手のひらに乗った

薄いピンク色の小さな花弁

新学期の季節によく見かける代表的な種類

季節外れの桜だった

本来なら真逆の季節に位置する春の代表であり、とても今のような季節に見かけるものではない

奇怪な現象に巻き込まれたのか

それとも何かの拍子で気絶して夢の世界なのか

どちらにせよ怪訝な現象であることに変わりない

前者の奇怪な現象にも思い当たる節がなければ、後者の何かの拍子というものにも思い当たる節がないからだ

那月はその場でジッと固まり、現代人らしく携帯端末を取り出した

GPSモードをオンにして、現位置情報を取得する

すると、

那月「ぇ....えぇ......」

最新の携帯端末は電波を受信しなかった

那月の使用する携帯端末は現代科学の結晶

『火の中でも水の中でも、山の頂でも!』

そんな比喩的なキャッチフレーズが付けられていたことを那月は思い出し、溜め息を吐く


電波から隔離された世界

知恵袋に質問することも許されず

知り合いの意見すらも求められないこの世界で

那月はひとしきりに歩くしかなかった

おそらく前方と思われる、先へと

とぼとぼと歩いてると、葉月の一言を思い出した

「年中桜が見られる綺麗なところなのだけれど」

葉月の言っていた場所というのはここなのだろうか

もしやサプライズで、何らかの方法で自分を気絶させた後にこの場所へと連れてきてくれたのか

そう楽観的な思考をすると、那月は些か安心できた

しかし葉月は「今は行けない」みたいなニュアンスの言葉も口にしていた

諸々を含めて、評価をすると、やはり不安が勝る

ここは何処なのだろうか

それについて一心に考えながら歩くこと数分

ようやく景色に変化が訪れた


前方には一つの墓石

そこには『霜月』と『瓊々木』の字が彫られている

他に目立ったものと言えば、墓石の前に置かれた二つのCAD

那月には見覚えがあった

一つは特化型CAD

達也と深雪が揃って、高校一年生のときの九高戦で使用していたCAD

そしてもう一つは汎用型CAD

こちらは横浜事変のときに深雪が持っているのを那月は確認している

この謎の地は両親共々と関係があるのか、と先入観に浸った考えを持つが、よくよく考えるとこれらのCADは高価で持ち主が少ないだけであって、特別製という訳ではない

まだ関係があるのだと決めつけるのは早い

CADについては後で考えることにし、その次

墓石に彫られた『霜月』と『瓊々木』の文字

那月は『瓊々木』の方については知っていた

那月「(夜永さんの苗字が.....瓊々木だったよね)」

もしそうだとすると、『霜月』は必然と夜永の親族の姓ということになる


那月「(霜月.....。確か十一月だっけ、旧暦で)」

「ん」と、那月は身近な存在を思い出す

那月「(葉月さんは八月....。同じ旧暦.....?)」

ただの偶然なのか否か

旧暦の姓を持った一括りのグループ

特段、不思議なことはない

十師族だって────数字のグループなのだから

何はともあれ、この件の鍵を握っているのは夜永

そう分かっただけでも功績であった

那月「......」

改めて墓石からCADへと視線を移す

もしこのCADがセットで母の物だったら

魔法師は遺伝に左右される節がある

自分にも母が九校戦で見せたような瞬間移動を使えるのではないだろうか

不可能ではないはずだ

努力はまぁそこそこに厭わない

少しだけ、と


そんな軽はずみな気持ちでCADに手をかざした瞬間、

葉月「那月。あとにしましょう」

今度は優しく声がかかった

先ほどのような切羽詰まった声色ではない

那月「これ、というか、ここ。ご存知なんですか?」

葉月「えぇ、知ってる。今朝に話した桜が年中見られるところ。まさか.....今の那月が鍵になるだなんて」

那月「.....教えて貰っても?」

葉月「深雪に怒られるかもだけど、仕方ないわね。こうなってしまっては」

葉月は一呼吸置いて、話す

葉月「ここはその墓石に書いてあるように『霜月』と『瓊々木』のお墓。分かると思うけれど、ここは異次元というか、別次元というか.....、不思議な空間で構成された世界。ここに入るための鍵は那月の瞳」

那月「瞳.....?」

那月がそう返すと、葉月は携帯端末を取り出した

アプリのカメラを起動して、内カメラへと切り替える

葉月「はい」

携帯端末を受け取った那月は、鏡代わりとなった自分の面を映し出す


すると、そこに映ったのは見慣れた自分の顔であって、また非なるものだった

那月「これは.....!」

君影歩夢や雪乃、夜永と同じ碧色の瞳

アンジェリーナ・シールズの持つ碧眼とはまた違った美しさを感じた

葉月「その碧色の瞳が鍵で、錠は京都という土地。私にもその原理は分からないのだけれど、化学反応のように、こうやって反応を起こして、初めて来れる場所がここ」

那月「......」

茫然としていた

この意味不明な地に気が付いたら居た時よりも

ずっと困惑して、頭が回らない

両親について迫っていたはずが

今では自分のことに迫っている

そう那月が自覚したのは数分後のことであった


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:急遽、屋敷に帰る
偶数:観光を続ける
安価下。】

ほい

>>47 2:観光を続ける】

人生のターニングポイント

那月にはとってのそれは今夜だ

おそらくなによりも今夜だろう

たとえ次期当主に指名されようと

付随して婚約者が発表されようと

数十年後に両親が寿命で亡くなったとしても

那月のこれからの長い人生を決めるのは今夜である

最初は両親について知れれば良かった

しかし気が付けば君影歩夢という達也の初恋の相手について探りを入れていて、また気が付けば自分について探りを入れていた

那月は要領が良い

もう大体のことは予想出来てしまっている


この結論しか───どう考えても出せなかった

那月「.....」

那月は碧色となった瞳を手のひらで覆う

決め手となったのはやはりこの瞳

達也や深雪にはなくて

夜永や雪乃、そして君影歩夢にあるもの

瓊々木の親戚と思われる『霜月』は雪乃の旧姓

そして特徴的な碧色の瞳は『葉月の翡翠色の瞳』同様に『霜月の碧色の瞳』へと、旧暦の繋がりを示している

詰まるところ、自分は『霜月』の人間

おのずと誰が本当の母親なのかは見えてきた

那月「......これ。今朝、葉月さんが言っていた例のCADですか?」

那月は視線を墓石の傍に置いてあるCADへと向ける


葉月「えぇ、そうよ。それが多分、貴女に最も適したCAD。もう十数年も前のモデルだから時代遅れかもしれないけれど、少なくとも今使ってる物よりは自分の能力が発揮できると思うわ」

那月「貰っても大丈夫ですかね?」

葉月「それは....分からないけど、好きにすればいいんじゃない? バチなんてそうそう当たらないわよ。それよりもまず物騒な世の中から自分の身を守る道具を手に取らないと」

那月「.......」

自分から言い出したこととはいえ、黙って持っていくのには抵抗があった

物騒な世の中から自分の身を守るためとはいえ

自分の立場を確立するためとはいえども

やはりモラル的な問題で歯止めが掛かった

那月「......また来ます」

葉月に聞こえない程度の声量で墓石へと向かって

そう短く言葉をかけた

また改めてこの土地を訪れたときに、このCADについては決める

差し当たっては、“母”に相談するのが良いだろう

この場合の“母”とは─────



ー京都・嵐山ー

何はともあれ、無事に元の地へと二人は戻ってきた

碧色となった瞳を元の状態へと戻すのには相当な苦労があり、時間も伴った

電波を受信するようになった携帯端末を取り出すと、もう十一時を表示している

昼食というにはまだ早い時間であるし、かといって一時間後に昼食をとれる場所を探すとなると、また相当な根気が必要となってくるだろう

観光名所の短所であり欠点

那月の住む地元とはまるで逆とまではいかないにしても、お店のキャパシティ的な話ではまるで逆だった

議論の結果

適度にお腹が空いたらお店を探すことに決めた

至ってシンプルな結論でありながらも、適応した結論

理に適ったとも言える

ひとまず二人は観光を続けることにした

渡月橋から、土産屋が軒並み連なる通りへ


葉月「欲しいものがあったら言ってね。買ってあげるから」

那月「さすがにそこまでして貰うのは.....。大丈夫です、お金ならたくさん貰ってますし、前に当てましたし」

葉月「.....あぁ、そういえば宝くじ当たったんだっけ。水波から話に聞いたわ。私も昔、貧乏だった頃に一回だけ宝くじ買ったことがあったんだけど、赤字もいいところ。もうあれ以降、運に左右されるお金を賭けた勝負───つまりギャンブルからは足を洗ったわ。そこまで深みにはまった訳ではないから、足を洗うって表現も可笑しいかもしれないけど」

ふふっ、と葉月は過去にした悪夢のような経験を澄まし顔で那月に話す

葉月「まぁ、そんな私の体験談はどうでもいいのよ。とにかく私が買ってあげるから。こういうときは大人に従って、甘えなさい。そうね....言い方を変えるのならば、今は大人に奢られなさい。そして、那月が大人になったときにお返しとして子供に奢ってあげる。これでいいでしょう?」

那月「....はい!」

肝に銘じることにした

いつか奢れる立場になったとき、この理屈を思い出して気持ちよく子供に良い思いをさせられるように

と、そんなこんなで石畳の上を並んで歩いてると、気になる出店を見つけた

付近に設置されているのぼり旗には『わらび餅』の字

京都を訪れるに当たって、食べてみたいとずっと考えていた食べ物の一つである


那月「わらび餅.....食べたいです」

葉月「お安い御用よ」

値段もリーズナブルだった

一昔前の葉月なら一瞬の躊躇はあっても、今の葉月には安い買い物だった

葉月「はい」

葉月は出店で購入したわらび餅を那月に手渡す

器には少し多めなきな粉と、ぷるぷるとした半透明な角切りにされたわらび餅が五つ

那月は目を輝かせて、小さなプラスチック製のフォークで餅を取り、葉月の口元へとやった

那月「一緒に食べましょう?」

葉月「.....いただくわね」

少し躊躇したものの、葉月は那月へプレゼントしたわらび餅をいただく

葉月「ん.....うん、おいしい。きな粉も甘くて、お餅は柔らかいし」

短く適切な感想を聞き取った那月は続けて口に含む

那月「んー.....」

思わず口元が綻んでしまう

地元のお店で安売りにされている物とはまるで別で、風味が良くて、しっかりとした美味しさがある

これが本場の味なのか、と那月は思う

葉月「おいしい?」

那月「はい!」

葉月「ふふ、良かった」

わらび餅を食べ終えるのはそれから十分後のこと

つい先程とは一風に変わり、那月の表情は澄んでいる

子供は情緒が不安定

良い意味で葉月は納得し、安堵した


【安価です。
1.昼食
2.土産屋巡り
3.お寺巡り
4.嵐山から離れる
安価下。】

1

>>54 1.昼食】

葉月「そういえば」

と、葉月は不意に話を切り出す

葉月「雪乃のパンって那月は食べたことある?」

那月「ありますよ? 最近はご無沙汰ですが。パン屋さん並みのクオリティで、専門店からすると商売上がったりって感じでした」

葉月「まぁ....そうね。雪乃は高校生のときの進路希望にパン屋で働くって本気で書いてたらしいから。結局は高校三年生の時点で諦めたらしいけれど、パン業界にとっては貴重な人材の夢を高校の教育で撃ち砕かれたんだから良い迷惑よね」

那月「高校三年生までですか.....」

那月は呆れることなく、むしろ尊敬した

君影雪乃という女性は文武両道のこれ極まり、と四葉家前当主の真夜から愉快な昔話として聞いていた

良い大学に入ったり、四葉家に仕えるのでもなく──その学力を十分に発揮できないと思われるパン屋に就職

夢を叶えるための手助けをするのが学校での教育とはいえ、才能の無駄遣いは見過ごせなかったのだろう

担任の先生の苦労がうかがえる

いったいどんな先生が雪乃の進路を正したのか

是非とも会ってみたい、と那月は素直に思う


葉月「まぁ別にパン屋でもいいと思うけどね。悲観的に見過ぎよ。大人になるまでもなく分かると思うけれど、パン屋に限らずどの職業もそれぞれ大変なところがあるんだから。パン屋なんて特に早起きよ? 私が養子として君影家に引き取られた時とか、雪乃は毎日4時くらいに起きて、朝食のパンを作っていたんだから」

那月「悲観的に....そうですね。それで、雪乃さんのパンがどうかしましたか?」

少し脱線してしまった話を元に戻す

葉月「朝ご飯って言ったらなにを思い浮かべる?」

那月「.....? ご飯とお魚とお味噌汁と....今朝、葉月さんが作ってくれた和食ですかね」

葉月「ご飯はお米という認識。つまり『朝ご飯』でお米ではなくパンが出てきた場合、これは『朝ブレット』って言うべきだと思わない? 朝に限らず『昼ブレット』や『夕ブレット』ってね」

那月「随分と捻くれた考えですし、『夕ブレット』に関してはせめて『夜ブレット』と呼ぶべきかと。文字面で見たらタブレットと間違えます。というか、『朝食』と言えば全てが解決しませんか?」

葉月「ふふ、そうね。うん、そうかもしれないわ」

那月「.....え、これだけですか? オチというか、今後は朝食,昼食,夕食で呼んでいくとか」

葉月「なんて呼ぶかは気分次第よ。私はその場に気分で動くことが多いの。だから深雪に招集をかけられたときとかも気分次第によっては行ってたかもね。でも、強いて言うならそうね。那月、お腹空かない?」

那月「.....ぁ、そういえば」

巧妙とは言い難い口車に乗せられ、気が付けば空腹を感じていた

もしかしたら中途半端にわらび餅を胃に入れたことも相まってるのかもしれない

葉月「なに食べたい?」

そう問われて、那月は一瞬の合間を作る

そして、一言

那月「昼ブレットで」


ちょうど通りかかったところに、パンが食べられる食事処があった

メインはパスタ

それにセットでパンが食べ放題なようだ

二人は迷わずに入店する

運が良いことに席は空いていた

窓際の席に座って、メニュー表を眺める

那月「もう一層の事、パスタいりませんね」

葉月「でもパスタがメインのお店よ? 失礼かどうかはともかくとして、期待してもいいんじゃないかしら」

那月「......」

ついつい漏らしてしまった本音を論破されてしまい、那月は黙る

そして散々悩んだ挙句、和風パスタとパン食べ放題のセットに落ち着く

葉月はカルボナーラとパンのセットに決めた


那月「カルボナーラって乳製品ですよね?」

葉月「牛乳とか生クリームとか、.....あとパルメザンチーズも使うわね。それがどうかした?」

那月「.....いえ、大人はみんな───水波さんと夜永さんしか知りませんけど、カルボナーラを選んでいたので」

葉月「あぁ.....なんか....形容し難いものがあるのよ。女子力っていうか、まぁ私たちの年齢の女性が女子って言うのもどうかと思うけれどね。女性力、とでも言いましょうか。みんなしてカルボナーラを選ぶから私もカルボナーラ、みたいな。私の場合はただ単純に味の好みの問題だけどね。水波や夜永も多分、味の好みよ」

那月「そう...なんですか」

まだ子供舌だからなのか、それとも味の好みなのか

那月は乳製品に若干の抵抗がある

飲めないわけでもなければ、使用した料理を受け付けないというわけでもない

他の選択肢がある中でそれを選ぶのに抵抗があるだけ

大人になれば食べれるの料理の幅も広がるのだろうか

そんな淡い期待を胸に、那月は窓の外の景色を眺めた


【安価です。食事後。
1.夕方まで省略(屋敷に戻ろうとする辺りからスタート)
2.観光を続ける
安価下。】


>>59 1.夕方まで省略】

葉月「そろそろ帰ろうか。もういい時間だし」

そう葉月が口にしたのは十七時を回った頃合い

帰るというのは昨晩寝泊まりした君影家ではなく

四葉の本拠地である名もなき村に建てられた屋敷

那月は抗うことも許されず、連行されるのであった

しかし『連行』と言うほど嫌なイメージはない

今の那月は、今まで両親およびその身近な人々が隠蔽し続けた真実を求めている

連行されずとも、赴く

自らの意思で決め、自らの足を運ぶ

それくらいの覚悟はできていたし、またそこで伝えられるであろう事実についても大方の予想がついている

危惧しているのは両親との関係の悪化

ただそれだけであった

那月「葉月さんも一緒に来ていただけるんですか?」

葉月「えぇ。ちょうど深雪に話したいこともあったし、那月に渡したい物もあるからね」

那月「渡したい物?」

葉月「すぐに分かるわよ」

はぁ....、と那月は頷く

葉月「さてさて、お土産もなんだかんだでいっぱいになっちゃったけれど、忘れ物はない? また戻ってくるのは面倒だから嫌だよ?」

那月「大丈夫です。.....忘れ物はありません」

葉月と那月は一旦君影家へと戻ってきていた

目的は那月が昨日購入したお土産の回収

それと『月』の扇子と一枚の写真

これらを持って、那月は家を出る

今度は振り返ったりしなかった

もう未練はない

今の自分が帰るべき場所は────四葉だ


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永が迎えに来る
偶数:水波が迎えに来る
安価下。】

ほい


>>61 3:夜永が迎えに来る】

京都駅から個別車両に乗り込み、村の最寄駅へ

その道中で葉月は電話をかけた

葉月「迎えよろしく。私だけじゃなくて那月もいるから。.....うん、.....そう。大丈夫よ、那月は。......えぇ、分かった。伝えとく」

那月「......」

那月は葉月が誰に電話をかけたのかは知り得なかったが、用件は伝わってくる

迎えの車を呼んでいるのだろう

村には認識阻害の魔法による結界が構築されていて、村へ通じるトンネルには無系統魔法を鍵とした自動ゲートが設けられている

そして村へ続くルートには、決まった地点で特定の波形を持つ想子波を照射しないと入れない仕組みになっている

そのせいで迎えは必須であった

葉月の言葉遣いから察するに、身近な人間に迎えを頼んでいる

那月が知らないだけで仲の良い使用人がいるのか

それとも夜永や水波といった身内の身内か

誰であれ結果こそ変わらずとも、人次第では車内での会話を強いられることになる

夜永は今回のきっかけを与えてくれた人であるので、協力的で肯定的だろう


しかし水波は違う

那月にとって彼女は育母も同然

もしかしたら叱責されるかもしれない

そんな不安が脳裏を過ぎりながら、那月は俯く

葉月「.....うん、わかった。じゃあ、よろしく」

と、そこで葉月の電話が終わった

葉月「那月、迎えは夜永だから安心して」

那月「......!」

那月は心の中で安堵する

とは言ってもその場しのぎにしか過ぎない

結局のところ、今回の勝手な行動については愛のある教育として怒られる

那月は小さなため息を吐いた

葉月「あと夜永から伝言。深雪とすぐに話すことになるって。水波に怒られるよりも先に『お話』のようだね」

那月「お母様と.....お話」

この長い人生における最大の自分との向かい合い

水波に怒られる程度のことは人生という長いスパンでみればどうということはない

自分と向き合うためにこの二日を過ごしたのだ

この二日間はとても有意義なものだろう

数年後、数十年後に思い出しても色褪せない思い出

あとは────

那月「(私がお母様の気持ちを受け止められるか、ね)」


ー小淵沢駅ー

村からの最寄駅に到着した

そこは田舎の象徴であるかのようにまず人が少ない

京都駅では苦労するであろう人捜しもすなりといった

那月「あ、夜永さん」

夜永「元気そうだね、よかった。旅先が旅先だから────田舎暮らしの那月にとっては珍しい人混みだから、病気にでもかかったらどうしようかと思って気が気じゃなかったよ」

那月「確かに人は多かったですけれど....大丈夫です、それくらい。もう私、大人ですし」

夜永「ふふ、そうかもしれないわね」

子供をあしらうかのように夜永は微笑みかけた

しかしそれは那月にとって子供扱いをされたのも同然であり、那月は「む」と表情を固める

そんな子供の表情の変化に夜永は更に苦笑を漏らしながらも、那月と葉月を車へと案内する

全員がシートベルトを締めたところで、車は自動運転で走り始める

それと同時に夜永は口を開いた

夜永「さて、と。那月、私に聞きたいことが幾つかあるんでしょうけれど、今はダメ。まず深雪から話を聞いて。私と話すのはそれから」

那月「.....はい、分かってます」

夜永「優秀ね。怖気付かないだなんて。怖くないの? あなたはこれから『事実』を知るのよ?」

那月「怖い....ですけれど、これもお母様とお父様との距離を縮めるためです。結果はどうなろうと、後悔はしません」

夜永「.....そう」

夜永は口を閉じた

那月も葉月も、口を開かない

車内は沈黙に包まれたまま

しかし無慈悲にも着々と“その時”は迫る


ー四葉本邸ー

屋敷に着いた那月を待ち構えていたのは神妙な面持ちをしている水波だった

笑顔で出迎えることも

勝手な行動に怒りを露わにしている様子もなく

冷静沈着で、ある意味冷たく感じた

水波「那月様、こちらへどうぞ」

那月は水波に導かれる

夜永や葉月は置いてきぼりだ

ここからは人に助けを求めることが許されない

完全な密室でろくに話したこともない母親と二人きり

話す内容はともかくとして

その環境に────那月は憂鬱だった


案内されたのは二つある内の一つの食堂

那月が普段使わない方であった

こちらは大切な催しに用いられる食堂

十数年前に深雪が当主に指名されたのもここである

水波「深雪様は中でお待ちです」

と、言い残して無情にも水波は去ってしまった

あの表情からして水波も君影歩夢となんらかの関係があった

そう思い至るのに苦労はしなかった

那月は何度か扉の前で深呼吸をして、

那月「お母様、失礼致します」

見られていないのにも関わらず貞淑に頭を下げた

返事は聞こえない

しかしそれは防音設備のせいである

つまり頭を下げた仕草同様に、言葉も届いていない

やるだけ無駄だと思われる行為であったが、那月は今までの躾により違和感を覚えることはなかった


扉を開け、食堂に這入る

深雪は当主の席に座っていた

ただ座っているだけでもオーラが滲み出ている

四葉家の当主としての器なのか

司波深雪としれの器なのか

那月に知る由もない

そしてどことなく室温が低下しているのを感じた

ひんやりとしていて、肌に纏わり付くような冷気

言葉を選ばなければ体温を失われる

一発勝負

間違った発言はできない

重圧が那月に伸し掛る

深雪「那月? どうしたの、座って」

那月「はい.....! 失礼します」

今度は視線を感じながら頭を下げて

向かいの席に音も立てずに腰をかけた

深雪「ふぅ......」

深雪は息を漏らす

彼女の中での段階の一つが終わったのだ

そして、どちらにとってもここからが本番

君影歩夢に関する話だ

深雪「まずは.....そうね」


【安価です。
1.深雪「結論から言いましょうか」
2.深雪「母親の定義ってなんだと思う?」
3.深雪「京都は楽しかった?」
安価下。】

1


>>68 1.深雪「結論から言いましょうか」】


深雪「結論から言いましょうか」


深雪「君影歩夢はあなたの『遺伝子上の』母親です」


深雪「遺伝子上の、という意味が分からなそうな顔をしてるわね。無理ないわ。私だってあなたの立場なら困惑するもの」


深雪「ここからは難しい話になってしまうかもしれないけれど、全てを理解する必要はない。大まかに理解して貰えれば十分よ」


深雪「人間ってどうやって生まれるか知ってる?」


深雪「男性と女性の遺伝子が結合したものが始まり。植物で例えるところの種かしら」


深雪「次に環境。植物は土の中。人間では子宮」


深雪「それから植物を育てるときはどうする?」


深雪「そう、栄養。水をあげたり肥料を与えたり。人間も同じで、母体は生まれてくる子供へと栄養を与えるために栄養を取るわ」


深雪「ここら辺で一旦整理しておきましょうか」


深雪「第一に男性と女性の遺伝子を結合させる。あなたの場合は、司波達也と君影歩夢。これで遺伝子上って意味はわかった?」


深雪「分かって頂けたようでなによりだわ」


深雪「次に環境。本来なら君影歩夢の子宮で育てられるはずだった。でも、歩夢は病気を患っていたの。とても重い病気を。これについては後で話すわね。だから、その代わりに私が母体となった。ただ達也さんと歩夢の子を産みたかったからではないわ。母体は私じゃないとダメだったの。これについても後でまとめて話すわね」


深雪「ここまで来たらもう分かるかしら?」


深雪「私が紛れもなく、あなたの母親であることが」


深雪「遺伝子上での母親は君影歩夢」


深雪「でも産んだのは私────司波深雪」


深雪「ここまでで質問はある?」


深雪「......歩夢は今どうしてるかって? あなたの想像通り、亡くなってるわ。あなたと入れ違いにね」


深雪「えぇ、そう。あなたの誕生日は歩夢の命日でもあるの。気付いているかどうかは分からないけれど、あなたの誕生日に水波ちゃんや葉月が哀しそうな顔をしているのはそのせい」


深雪「他に質問は?」


深雪「.....歩夢の病気について? 一言で言ってしまえば、魔法を正しく使用しなかったこと。叔母様の────四葉真夜の『流星群』については知ってるわね? 威力等は十分にある魔法だけれど、使用場所が限られる。トンネルとか個室で使うのが本来の使い方。でも歩夢は世界を一つの密室だと考えて、流星群を使った。許容範囲を優に越してるわ。当然、使用者の身体に傷は深く残った。合計で三度の使用。そして気がついた時にはもう遅かったわ。手の施しようがない手遅れ。その時点で寿命は残り三年と宣告されたそうよ」


深雪「その病気のせいもあって、歩夢は度々身体を壊すようになった。私がその病気に気付いたのは約一年後。その期間、私は何にも知らずに歩夢と接していたわ。......親友失格よね」


深雪「話を戻すけれど、その病気は遺伝子にも強く刻み込まれるようになった。歩夢の子供は必ず持病を持って生まれる。生まれながらにして可哀想な子供」


深雪「それを避ける方法はなかった。四葉の遺伝子操作でもね」


深雪「でも、あなたは持病を抱えていない。それは────ここからが私が母体でなければならなかった理由。私が『完全調整体』であるからよ。四葉の遺伝子操作の粋。私の胎内は歩夢の遺伝子に刻み込まれた病気を消し去ることが出来た」


深雪「.......ごめんなさい」


深雪「私が仮にも母親なんて、嫌よね」


深雪「どんな理由であれ」


深雪「同情してしまうわ」


深雪「今後、私はしたこともないけれど母親面をしないと誓うし、『お母様』との呼び方も強制しない。もし私が嫌いになったら────勝手で申し訳ないけれど、町の方に住んで貰える? 私はここから離れられないの。安心して、生活費は言い値を出すわ。全部私個人の貯金から。あとは.....」


【安価です。
1.那月「.....失望しました」
2.那月「どんな理由であれ、お母様は私の母親です」
3.那月「その他」
1は弱気になっている深雪に失望した、という意味です。
1も2も良好な関係へと進みます

3はご自由にお書き下さい。
受け入れる系の台詞でも突き放す系の台詞でも。
あまりにもここから良好的な関係に繋げるのは難しい、と思った場合は最安価させて戴くことになるかもしれません。ご了承ください。
安価下。】

1


>>72 1.那月「失望しました」】

大方予想通りだった

自分の母親が司波深雪ではなく君影歩夢であること

そして君影歩夢はもう既に亡くなっていること

これらについてある程度の推測を立てていたため、今この状況でヒステリックに取り乱すような真似はしなかった

しかしその代わりにそれなりの怒りは感じていた

実母がどうこうではない

那月「......失望しました」

深雪「全部私の独断よ。達也さんも水波ちゃんも、夜永さんも、雪乃さんも悪くない。私の判断であなたに隠し事をしてきた。だから────」

那月「だから────その弱気なお母様に失望したと言っているのです」

深雪「......!」

那月「私が見てきたお母様はいつも冷静で、四葉家の当主らしく堂々としている方でした。年下で何事も経験不足な.....ましてや娘が言えたことではありませんが、『こんなこと』で弱気にならないで下さい。遺伝子だとか育児だとか関係なく────司波深雪は私を健康体として産んでくれた。それだけで私は貴女のことをお母様と呼ぶ権利があります」

那月は弱気になった深雪へと怒りをぶつけた

生まれて初めて、自分の強い志を持って話した

念願叶った最初の一言が怒声になってしまったのはやや残念だと後悔しているが、那月は過去ではなく未来に生きると決めた

これから母娘らしい関係を築けるように

ありったけの想いを込めて

那月「一つ訊かせて下さい。私のこと嫌いですか? 」

深雪「大好きに決まってるじゃない」

那月「.....そうですか。わかりました、お母様」

物心ついた頃から本人に確認したかったこと

今までずっとろくに顔も合わせず

今までずっとろくに話を交わしたこともない

深雪「那月、ありがとう」

那月「お母様、ありがとうございます」

とある複雑な事情を抱えた母娘はようやく目を合わせて話をすることに成功した


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:深雪「....と言いたいところだけれど、まだ一つだけ君影歩夢に関する大事なことが残ってるわ。詳しいことは私ではなく、夜永さんに聞いて頂戴。口下手な私よりよっぽど上手に話を聞けるはずだから」
偶数:夕食
安価下。】

とぉ

>>74 6:夕食】

ほとんどなし崩し的に和解のようなものをした那月は一旦自室へと戻った

約二日ぶりの自分の部屋

水波が運んでくれたお土産は机の上に置かれている

那月は部屋に入った瞬間に俯いて

溜まっていた息を吐いた

ため息にどことなく近いが、また別のものである

その場で深呼吸を何度かしたのち、スプリングの効いたベッドに倒れる

那月「はぁぁ.....」

今度はため息を吐いた

この二日間の疲れによるものだ

あちこちを観光して、色々なことを知った

危険なことに足を突っ込む危機感

観光地で感じられる幸福感

そして人との親近感

様々な経験が一人の人間としての成長へと繋がった


目を閉じて、旅先での経験を思い出す

清水寺付近を彷徨ったこと

恋愛のおみくじで大吉を当てたこと

葉月と嵐山へ行ったこと

今思い出すとすべてが楽しかったと思えて、数時間前に戻りたいとまで思えてくる

つまりその時の自分は心の底から楽しんでいた

那月「(あー、戻りたい戻りたい戻りたい)」

自分探しの旅の第一弾は大成功に終わると同時に

那月は第二弾の計画を早速立て始めるのであった




それから約三十分後

水波に呼ばれ、もう一つの食堂を訪れる

他ならぬ夕食の件

大事な話は終わったものの、なんだかなし崩し的な母娘の向かい合いだったため、気まずい感情は拭いきれず、しかし一昨日以前の夜よりはマシな夕食の時間になるだろうと期待して扉を開いた

するとまず第一に視界に入ったのは銀髪

つまり葉月であった

更に視界を広げれば夜永と深雪の存在が確認できる

那月にとっては願ってもない待遇であった

気さくに話せる人が二人もいるのだ

初めての『母親』との食事もこれで上手くいくはず

と、那月は楽観視していたのだが、

葉月「......なにそのなし崩し的な和解。もう少し良い方法があったと思うけれど。私ならもう少し上手くやったわね」

夜永「葉月、そういうのは心の中で思うだけにしとけってだいぶ昔に言ったでしょう? ......まぁ、私ももう少し上手くやったと思うけど」

いざ食事が始まると深雪へと非難の声が上がった

なし崩し的な和解が二人には許せなかったようだ


深雪「そんなに言わなくてもいいのに.....。那月が居る場で正直なことを言うのは気が引けてしまうけど、私だってすごく緊張したのよ? 那月と話すのもほぼ初めてみたいなものだったし.....」

葉月「今までの自分を恨むことね」

葉月は容赦なく深雪の心を折りにいった

しかし夜永はここらで可哀想だと思ったのか、フォローに移る

夜永「これから那月に良くしてあげなさい。 今までずっと一人で抱え込んできた結果、心の痛みをトリガーとして『あれ』を使えるようになったらしいから」

深雪「心得ております。那月が嫌がらなければ、ですが.....」

深雪の視線は心地悪そうにしている那月へ

那月「ぇ....あ、はい! お願いします」

気まずさのあまり、会話に耳を傾けていなかったことが幸いしたのか不幸いしたのか適当な返事を返す

葉月「深雪の仕事を邪魔するくらい甘えなさい。深雪はそれに逆らう権利はあるけれど、逆らえないのだから。ね、深雪?」

深雪「多少の融通を効かせることくらいはしてあげられるわ。だから那月、暇になったら声をかけてね」

那月「は、はい.....。分かりました」

少し前の深雪と照らし合わせると別人のような変化

結局は────今の段階では、まだ気さくに話しかけることは出来なさそうだった


【安価です。
1.深雪と話す
2.葉月と話す
3.夜永と話す
4.水波と話す
安価下。】

>>79 4.水波と話す】

少ない人数での、しかしいつもの二倍の人数での食事はそれなりに心地の良いものだった

会話があるだけでこれほどまでにも違うのか

そう那月は感慨深く思う

夕食を終えた那月は自室に戻る途中で数少ない『話せる』相手と遭遇した

もしかしたら相手の方が見計らって遭遇という形に持ち込んだのかもしれないが

水波「那月様、如何でしたか?」

那月「如何でしたかって言われても.....。今後の自分に期待するばかりです。まだお母様と気楽に話せる訳ではありませんし」

今回の件で改善した関係といえば、母娘を隔てていた障害物が無くなっただけに過ぎない

これからはコミュニケーション能力が求められる

那月の不得意分野だ

水波「時間が解決してくれますよ。持続的に、長いスパンで考えれば気楽になりませんか?」

那月「なりま.....せん!」

水波「......ほんと捻くれてるんだから」

呆れた表情をする水波は珍しくない

那月が毎度のように捻くれた考えをするからだ


水波「それで、深雪様のことではなく、京都旅行は如何でしたか? 葉月様の────君影の家に一泊したと伺いましたが?」

那月「楽しかったです。色々なところを見て回れましたし、美味しい物もたくさん食べれましたし。今度、ご一緒にいかがですか?」

水波「深雪様に相談してみますね」

那月「.....意外です。断られると思っていたのに」

水波「京都は.....思い出のある土地ですから。それに、私ももうそろそろ“あの場所”に行きたいですし」

那月「あの場所.....あぁ、桜の」

那月にとって、霜月や瓊々木のお墓よりも印象深く残っていたのは季節外れに満開に咲く桜だった

那月「お花見も兼ねて」

水波「そうですね.....、それなら深雪様も許してくれるかもしれません。一緒に行く、なんて言い出しそうですけれど」

那月「葉月さんや夜永さんも一緒に」

水波「相談してみます」

いつになく前向きに検討してくれる水波に、那月はこれも君影歩夢が絡んでいるのだと確信する


【安価です。
1.君影歩夢について
2.京都での思い出について
3.“あの場所”について
4.その他
安価下。】


>>82 1.君影歩夢について】

確信したついでに、訊いてみることにした

那月「水波さんは君影歩夢さんを知ってますか?」

水波「もちろんです」

即答だった

水波はもう隠すまでもない、と判断しているのか、那月の予想よりもずっと清々しく答えた

水波「私だけでなく、私と同年代以上の方なら歩夢様のことを知っていますよ。彼女も一時期ここで働いていましたから」

那月「水波さんと同年代以上......」

四葉家の幹部クラス以上のみならず、使用人も含め、みんなして那月に隠し事をし続けてきた

腹を立てるとか以前に、感心せざるを得なかった

この十四年間『君影歩夢』の名はたったの一度も耳にしたことがない

見事なまでの統率である


那月「歩夢さんとはどんな関係でしたか?」

水波「端的に言ってしまえば、私のお姉様のような人でした。物心がついた頃から四葉家に仕えていた『つまらない』私に色々なことを教えてくれて、優柔不断で頼りないところも沢山ありましたけれど、“信頼”はできました。それはもう.....深雪様でもなく夜永様でもなく、歩夢様に憧れてしまうくらいに」

頼りないけど信頼できる

そして深雪や夜永よりも憧れの的

那月は歩夢同様に深雪のことを何も知らない

しかし夜永の優秀さは知っている

その夜永よりも憧れる存在

君影歩夢についての知識がない人間からしたら、いくらなんでもそれは過大評価だと思えてしまう

水波「ちなみにですが、歩夢様は魔法師としても超が付くほどの一流でした。病気を患ってからは弱化するばかりでしたが、それでも葉月さんの“創造“の世界で何度か手合わせをしたときは.....結局、一度も勝てませんでした」

那月「水波さんが一度も......?」

水波「私だけではありません。深雪様や達也様ですら、模擬戦では敵いませんでした。ですが、那月様なら良い勝負ができるかもしれません」


那月「わ、私なんて....無理です。まともに魔法も使えないのに.....」

水波「ポテンシャルは秘めているはずです。あとはそれを引き出すための力。那月様の場合、『きっかけ』というよりは『道具』。自身に適応したCADの存在ですね。“あの場所”に行かれたならもうお分かりかと思いますが、歩夢様が使用していたCADが那月様に適応するんじゃないかと私は考えています。使ってみてはいかがですか? ......バチが当たるかもしれませんが」

葉月と似たようなことを言われ、やはりそうなのかと思い込んでしまう

自分に合ったCADは遺伝子上の母が使用していた物

使ってみたいという願望はあるものの、やはり水波の言った通りバチが当たるんじゃないかと案じてしまう

水波「その問題については深雪様とご相談なさって下さい。同じタイプのCADなら深雪様も所有していますから、魔法式の方さえ書き換えてしまえばなんとかなるかもしれません」

那月「......わかりました。あとで相談してみます」

あとで、とは心の準備ができたのち

和解したとはいえ微妙な形での和解

やはりまだ相談しに行くのには抵抗があった


【安価です。
1.京都での思い出について
2.“あの場所”について
3.その他
4.他の人と話す(深雪・葉月・夜永の中からお選び下さい)
安価下。】

1


>>86 1.京都での思い出について】

京都に君影家があり、水波は歩夢のことを実の姉のように慕っていて、京都旅行をしたことがある

これらのことから導き出されるのは、

那月「水波さんは歩夢さんと京都旅行をしたんですか?」

水波「全部が全部ではありませんが、何度かは。とても楽しかったですよ」

那月「その時のお話聞かせて下さい!」

水波「えっと....まず最初に京都を訪れたのは深雪様が一年生の夏だったから......2095年の8月ですね。九校戦という全国の魔法科高校の魔法競技大会後のことです」

那月「一年生の......? あ、お母様が瞬間移動を使用された九校戦の後ですか?」

水波「瞬間移動? なんの話ですか?」

深雪の側近である水波なら瞬間移動について知っていると踏んでいたのだが、見当違いだったようだ

それともただ誤魔化しているだけなのか

どちらにせよ那月は首を傾げることしか出来なかった


那月「そ、それは置いておいて、初めての京都はいかがでしたか?」

水波「歩夢様とは水族館に行ったりしましたけれど、印象強く残ってるのはハプニングの方で.....。歩夢様が突然倒れたんです。そちらについてもまた後日、時間のあるときにお話ししますね。水族館、楽しかったですよ。今度行きますか? まだあるか分かりませんが......」

那月「是非! 他には何処に行かれましたか?」

水波「観光地ではなく、雪乃さんに教わったパン作りが印象に残っています。無我夢中でパンの作り方を習って、その晩の夕食は悲惨でしたね......。とても8人で食べきれるような量ではなく」

那月「そ、そんなに熱中したんですか? 水波さんが.....珍しい」

水波「あの時は────歩夢様に言わせれば今もですけれど、私は子供でしたから。節度というものを自覚していても、発揮できないというか。ただ、あの時は深雪様も一緒に作っていたので同じですね。那月様のお母様も節度を知らない子供でした」

那月「今の言葉、お母様に言ってもいいですか?」

水波「だ、ダメです! 私が怒られてしまいます.....!」

那月は水波とのスキンシップの内の一つとして、母に密告するという技を覚えた

しかし水波も流石にそれは冗談だと、本気で焦った様子は見せない

あくまでも半信半疑で、保険として焦ったフリをしているだけのように那月は思えた

那月「(本当に言っちゃおうかな......)」


【安価です。
1.深雪と話す
2.葉月と話す
3.夜永と話す
4.自室へ
安価下。】

2


>>89 2.葉月と話す】

水波「もうそろそろ深雪様のところに行かないといけないので、失礼しますね」

気兼ねなく話せる相手との会話終了のお知らせ

しかしそれは水波の仕事の都合の上で仕方がないこと

那月はわがままを言わず、最後に一つだけ訊いた

那月「歩夢さんは私のことをどう思うでしょうか?」

返事はすぐに帰ってきた

水波「誇れる娘、ですかね」

そう言って水波は食堂の方へと赴いて行った

その場でポツリと残された那月は独り、

那月「誇れる娘....か」

神妙な面持ちで呟いた



遺伝子上の母のことを知るため、水波と別れた那月はその足で葉月のもとを訪れた

葉月「で、なに? 歩夢のこと?」

那月「葉月さんから見て歩夢さんはどんな方だったのかな、って」

質問を受けた葉月は「うーん」と唸る

葉月「口頭では説明しにくいのよね。今朝に言った『表と裏と表』っていうのは知ってる人が聞いたら理解できることだけれど、知らない人────那月が聞いたら理解できない。分かりやすく説明するには極端な話をしなければならないわ。そしてその極端な話は君影歩夢に遠からず近からず。つまりそれは歩夢であって歩夢でない、別人を示してしまうのよ。だから説明できない。私の思う歩夢を伝えられない」

哲学的な話をされ、那月は困惑する

しかしそれでも否定的な台詞は聞き取れた

那月「そう....ですか。わかりました」

葉月「できることなら会わせてあげたいけれど、私にそんな力は無いわ。頼るなら.....あの人かな。でも一度、深雪が失敗してるしダメかも」

那月「お母様が失敗?」

葉月「いずれ分かるわよ。それよりも、訊きたい歩夢のことだけ?」

那月「え、あ.....」


【安価です。
1.あの人について
2.“あの場所”について
3.深雪と仲良くするにはどうすればいいか
4.その他
安価下。】

>>92 2.“あの場所”について】

遺伝子上の母を知るために葉月を尋ねた

しかし本人がそのつもりでなくとも教えられないとのことで、那月は理由を失う

そして咄嗟に考えた嘘は、

那月「....あ、あの桜の場所について教えて下さい」

葉月「“あの場所”にそこまで深い事情、無いわよ? ただ行くのに“鍵”が必要なくらいで」

那月「そ、.....それでもです! 教えて下さい!」

強引な押しに葉月は唸る

「うーん」と考えることに約10秒を要して、口を開く

葉月「ごめんなさい、私にもあの場所は分からないのよ。知ってるのは鍵と錠について。あとは.....印象で言うと、あの場所、昔はずっと雨が降ってたわね。そして桜も無かった。今のような景色になったのは────」

歩夢が亡くなってからね

と、葉月は少女から目を逸らして儚げに云った

実母を亡くした那月への配慮だ

しかし当人はどうでもよさそうに、

那月「へー」

適当な相槌を打つだけだった

葉月「え、.....? そこは悲しくなったりするところじゃないの? 暗い雰囲気になることを覚悟していたのだけれど」

那月「いえ、別に.....。そもそもその歩夢さんのことを知らないので何とも言えません。一度でも話す機会さえあれば感情が動くと思うんですけど」

葉月「ふーん、そういうものなのね」

こういうところは達也に似たのね、と葉月はつぶやく

葉月「話を戻すけれど、あの場所はそこまで重要な意味を持った空間ではないわ。ただお墓があるってだけ。他に聞きたいことは?」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:葉月との話を続ける
偶数:夜永と話す
安価下。】

はあっ


>>94 6:夜永と話す】

那月「もう特に」

葉月「そう? じゃあまた何かあったら、私を────って思ったけど、もう深雪を頼れるのか。気が向いたら私を頼って。友達の娘のよしみで相談に乗ってあげるわ」

那月「.......! はい、お願いします!」

和解したとはいえ、まだ気兼ねなく話せるわけではない

近いうちにまたお世話になることを予期して、那月はお辞儀をした後にその場を去ろうとした

そのとき、

葉月「あぁ、そうだ。あと1つ」

那月「はい?」

葉月「人っていつ大人になるんだろうね」

那月「ぇ......うーん?」

葉月「今答えなくてもいいわ。那月なりの答えを見つけたら教えて頂戴」

那月「はぁ.....?」

パッと思いついたのは年齢だった

しかしそんな単純な答えではないと考えを改める

子供と大人の境界線

どうしてそれを葉月が知りたいのか

共々、考えておくことにした



夜永「さてさて」

夜永「なんでも出来るお姉さんではなく、瓊々木夜永としての責務を果たしますか」

夜永「深雪さんと大事なお話をする前に私から話したこと、覚えてる?」

夜永「このあとに話したいことがあるって」

夜永「そう、そのこと。覚えてくれてたのね」

夜永「じゃあまずは深雪さんを見習って結論から」

夜永「瓊々木家は霜月家のただ一つの分家」

夜永「つまり私は雪乃さんと歩夢さん、そして那月の親戚ということになる訳だけど」

夜永「もっと厳密な話をするわね」

夜永「少し話は逸れちゃうけれど、最終的には話は収束するから我慢して」

夜永「知っての通り、私には妹がいます」

夜永「瓊々木咲夜っていう可愛い妹」

夜永「でもね、咲夜はもうとっくに亡くなってるの」


夜永「歩夢さんとまったく一緒の場所で」

夜永「歩夢さんとまったく一緒の時間に」

夜永「これがどういう意味だか分かる?」

夜永「詳しい説明は省くけれど、歩夢さんと咲夜はとある事件で一心同体となった」

夜永「歩夢さんの身体に咲夜の精神が入ったの」

夜永「かくして歩夢さんは二重人格に」

夜永「それによる恩恵は幾つかあったけど、同時に歩夢さんが寿命を縮めたのもある」

夜永「結果的にはマイナスなのかな」

夜永「娘の顔も見ずに亡くなったんだから」

夜永「これは歩夢さんに限る話じゃないわ」

夜永「咲夜も君影歩夢としての立派な構成精神」

夜永「那月は咲夜の娘でもあるのよ」

夜永「だから────」



夜永「私はあなたの叔母ってことになるわね」

那月「へー」

夜永「あまりピンとこなかった?」

那月「きました。私は遺伝子上の精神的には夜永さんの姪ってことですよね?」

夜永「物分りが良くて助かるわ」

那月「で、今度から私は夜永さんのことを叔母様って呼べばよろしいのでしょうか?」

夜永「これまで通りで構わないわ。むしろ呼び捨てでもいいくらい」

那月「......これまで通りにしておきます」

夜永「ふふ、そう? 那月がそれでいいならいいけど」

それなりに心に傷を負うと踏んでいたが、夜永の推測違いで那月は平然としていた

しいて言うのなら、夜永への哀れみの感情

夜永「(......強いわねー、ほんと)」

むしろこちらが気を遣われてしまった、と

夜永は久しぶりに『失敗』をした


【安価です。
1.夜永と話す
2.深雪と話す
安価下。]

2


>>99 2.深雪と話す】

遺伝子上の母親がどんな人なのか

那月は相手を選んで聞きまわった

歩夢のことを姉のように慕っていた水波

歩夢と親交を深めた葉月

歩夢の実姉のような存在であった夜永

この三人に話を聞いても、那月は満足のいく情報を得ることは出来なかった

どんな人だったのか

この質問がいけないのかもしれない

もっと細かく、勉強面や魔法面

そして親交関係について問うべきなのかもしれない

と、そんなことを考えながら那月はサンルームへ

目的はただの気分転換

今の時間帯からするとムーンルームになるが、那月にとってはむしろそっちの方が都合が良かった


月を見てると安心する

それがどういった理屈なのかは自身でも分からないが、理由を求める方が間違っていると先日結論付けた

そんなこんなで一冊の本を抱えてムーンルームに辿り着いた那月であったが、そこには先客が居た

なし崩し的な和解を経て、更に接し辛くなった母

那月「お母様....」

前なら無言でお辞儀をして部屋へと逃げ帰っていた

しかし今は違う────

那月「(────なんてことは無く)」

お辞儀をして、その身を翻した

部屋から立ち去ろうと、扉の取っ手に手を掛けたところで震えた声を発す深雪に止められる

深雪「な、那月.....? 少し話せない?」

母からの命令ではなくお願いに

那月は首を横に振ることは出来なかった


【安価です。
1.これまでの関係について
2.京都で購入したお土産について
3.サンルームで何をしていたか
4.その他

歩夢についての質問は那月編のオチで使う予定ですので、その他を選択する場合は歩夢に関すること以外でお願いします。

安価下。】

>>102 3.サンルームで何をしていたか】

深雪「那月は.....なにをしに来たの?」

那月が決死の覚悟で深雪の向かいに腰をかけて数十秒

大人としての心構えで深雪は話題を振った

那月は一瞬ピクッと身体を震わせたが、すぐに返事をする

那月「気分転換.....を兼ねて、読書をしようかと」

深雪「.....そう。気分転換ね」

那月「お、お母様はなにを?」

深雪「私も同じ、気分転換よ。前までの私と決別するための時間をここで過ごしていたの」

那月「前までの....?」

深雪「私の勝手な都合で那月に苦しい思いをさせたこととか。.....でも、もう苦しい思いはさせないから」

母の心からの台詞を耳にして

那月は深雪なりに辛い思いをしていたんだなと思った

なにはともあれ、これからが重要となる

自分が苦しい思いをしないためにも

母に辛い思いをさせないためにも

こちら側からも歩み寄ることが大切だと感じた


【安価です。
1.那月「お母様、......今夜だけでも一緒に寝たり、なんてことは出来ませんか?」
2.他の話題に移る
安価下。】

1

>>104 1.那月「お母様、......今夜だけでも一緒に寝たり、なんてことは出来ませんか?」】

パッと思いついた案は手始めにしてはなかなか難易度の高いものだったが、これくらい大胆なことをしなければぎこちない関係が続くと考えた那月は、

那月「お母様、......今夜だけでも一緒に寝たり、なんてことは出来ませんか?」

深雪「えっ......えぇ、それは....構わないけれど....」

那月「......! ありがとうございますっ!」

一瞬だけ呆気に取られた表情をした深雪に那月は希望を失ったかのように暗いオーラを隠しきれなかったが、許可が出ると表情は一転して明るくなる

中学二年生にもなって母と一緒に寝るというのは些か恥ずかしいものがあったが、この十四年間で一度も寝たことが無いというのは『可哀想』に部類される

今の那月にとって、深雪と一晩を過ごせるのは何よりも嬉しいことだった

深雪「えっと.....じゃあ、今からの方がいい? それとも....もう少しお話しする?」

那月「もう少し....してから、お願いします」

ベッドの中ではもっと至近距離で話すことが出来る

しかし同時にいつ寝てしまうか分からない

ゆっくりと深雪と話す時間は今しかなく

今のような雰囲気を崩すのは惜しかった

深雪「そう。それならそれでいいのだけれど、何を話すの?」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:京都について
偶数:葉月について
安価下。】

てい

>>106 5:京都について】

那月「お母様は京都に行ったことはありますか?」

深雪「最近はもうめっきり行かなくなったけれど、昔はよく行ってたわ。歩夢のお見舞い、観光、.....あとは事件絡みとかでね」

那月「事件絡み?」

藤林から貰った情報は関東圏ばかりに目を通した

京都を含めた関西圏の情報は切り捨てた

もしあの時の自分が関東に縛っていなかったら

例の京都での事件について知る

────それはつまり、深雪のことをまた一つ知るきっかけになり得たかもしれない

那月「(って、お母様は一言も2095年の出来事だとは仰ってないのに)」

無駄骨で結果が出ない恐れがある

しかしまずそれ以前に

今となっては知る必要のないこと

知ったところでどうにもならない

もう既に目的としていた『きっかけ』となる情報を取得して、和解まで済ましているのだから


それになんだか────

那月「(これ以上お母様について調べるのも気持ちが悪いわよね。ストーカーみたいに思われちゃう)」

京都での事件については機会さえあれば直接体験者の口から聞くことにして、京都絡みで次の話へ

深雪「そういえば。どうして那月は....こう言うのもなんだけど、よりにもよって京都に行ったの? いえ、責めてる訳ではないのよ? ただ、結果だけを見れば私たちは────葉月に言わせれば『なし崩し的な和解』で落ち着いたけれど、もしかしたら悪い方向に転んでいたかもしれない。私や水波ちゃんからすれば京都だけは『よりにもよって』に値するの」

那月「それは....協力してくれる方が京都にお住まいでしたので」

深雪「協力してくれる人? 葉月?」

那月「名前は出せません。暗殺者が依頼人の名前を出せないように」

深雪「あなたは暗殺者ではないでしょう.....」

「歩夢みたいなことを言うのね」

と、深雪は肩をすくめた

深雪「で、誰なの?」

那月「.......」

しばらく黙秘権を行使したが、最終的に那月は名前を出した

深雪からの圧力に耐え切れなかったからではない

問題ないと判断したからだ


深雪「あぁ、藤林さんが......。そう、それならあとでお礼を言っておかないとね。さっきも言ったように、余計なお世話ではなく、私たちに力を貸してくれたのだから」

もしこれで悪い方向に転んでいた場合、藤林が行った情報の提供は深雪にとって『余計なお世話』でしかない

過去に恩があると噂を耳にしたことがあったので報復の類は無いのだろうと予想できたが、この母は何をするか分からない

悪印象があるのではなく、知らないからだ

今のところは好印象

とても報復をするような母には見えない

那月「お母様、京都での観光のお話聞かせて下さい」

深雪「長くなるわよ?」

那月「時間の許す限り、お願いします!」

深雪「.....そう? じゃあまずは初めて京都に行ったときの話でも。あのときは歩夢のご両親────雪乃さんと綾人さんを捜しに行って・・・」

月の灯りが射し込む一室で長い昔話を始めた

その様子は第三者に覗き見されているとも知らずに


水波「......心配して損しました」


涙で霞む那月の姿はかつて慕った人物と酷似する

主人と『姉様』が話しているように見えて

水波は俯いて独り言つ

「いつも私に心配を掛けさせるんだから」

まんざらでも無い笑顔を隠しきれないまま

“二人きり”の空間を邪魔をせずに退散した


【安価です。
1.一旦、自室へ
2.自室へ戻る行動を省略して深雪の部屋へ
(安価の行動を省略するだけで、サンルームから直接行く訳ではありません)
安価下。】

2


>>110 2.深雪の部屋へ】

司波深雪が過去に京都で体験した出来事

それは那月にとって興味深いものであり、実際にはその期待に応えるが如く実のある内容であった

しかしその反面で体験談は長話

一泊二日の旅行帰りもあって那月は睡魔に襲われ、決して区切りが良いとは言えない場所で体験談のお聞かせ会はお開きとなった

自室に戻った那月は眠気に屈することなく、諸々と準備に移った

入浴等を済ませ、お土産の開封

例の新品の扇子を手に取った

題名は『夢の月』

綺麗な名前に反さない出来栄え

プレゼントするために購入したとはいえ、手放すのが惜しいと感じてしまう程である

しかしこれでは元も子もない、と

那月は『夢』を持って部屋を出た



那月「お母様、那月です」

初めて尋ねる母の部屋

存在自体は知っていても、これまでこの部屋を訪ねたことは一度たりとも無かった

ノックをするとすぐに扉は開かれた

お風呂上がりなのか妙に艶かしい母の姿が目に映る

同性である────それも母娘の関係であっても、司波深雪を一人の女性として見ることは容易であった

那月「失礼致します」

「入って」と案内を受け、那月は小さく頭を下げてから入室した

部屋の大きさは那月の部屋と大して変わらない

ベッドの大きさも

テーブルの大きさも

本棚の大きさも変わらない

唯一変わっていると思えた場所は本棚の中身

ここで自分が読書好きなのは遺伝子上の母の影響だということを悟った


深雪「那月、それは?」

部屋を見渡している間、深雪は那月の手元に視線を集中させていた

那月「あっ....これは、プレゼント.....です。お母様にお似合いになるかは分かりませんが」

と言って、那月は扇子を深雪に手渡した

深雪「.....ねぇ、那月。気持ちは本当に嬉しいのだけれど、これって『夢の月』よね?」

那月「そう....ですけれど、何か問題ありましたか? 一応、お母様のお部屋に『月』があったので『夢』をお渡ししたのですが.....」

深雪「あぁ、そっか。そういうこと.....。少し待っててね」

そう言って深雪は那月を椅子に座らせた後、ベッドの傍らに設置してあるライトスタンドの引き出しを開き、一つの扇子を手にする

深雪「私、もう『夢』は貰ってるの。私が持っていないのは『月』。だから、出来れば『月』を貰いたいな、って....」

那月「────!」

那月が一晩過ごしたあの部屋は『母の部屋』

葉月は決して一言たりとも『深雪の部屋』とは言っていない

あの部屋は遺伝子上の母である『君影歩夢の部屋』

あちらの部屋の本棚には本が所狭しと入れられているのに対して、こちらの部屋の本棚にはある程度のスペースの余裕があるのにも合致がいった


那月「ぁ....すぐ戻ってきます.....!」

勘違いに赤面し、那月は俯いたまま部屋を出た

そして自室で遺伝子上の母の私物である『月』を視界に入れてから、新品の『月』を手に取り、深雪の部屋へと舞い戻る

那月「お母様、ではこちらを。私の『月』です」

深雪「その台詞を聞くのは二回目。歩夢も同じことを言ってたわ」

「歩夢の場合は『月』ではなく『夢』をあげる」だったけどね、と深雪は付け足す

那月「......私は歩夢さんに似ていますか?」

深雪「言動共にそっくりよ。もう憎らしいほどに」

那月「に、憎らしい.....」

深雪「深い意味は無いのよ? ただ、もう少しだけでも私に似てくれたら良かったのに、って思っただけ。お父さんが私の実兄な分、私と似通ってる部分も多少なりともあるんでしょうけれど.....分からないわ」

那月「.....」

今思い出すと夜永や水波から言われたことのある「母親譲り」という台詞は全て深雪ではなく歩夢を指していたのかと疑問に思う

その点も問い質すことにして、区切りを付けた

深雪「もう夜遅いわね。寝ましょうか」

那月「はい」

日頃あれだけ鬱陶しいと思っていた天蓋にすら目もくれず、那月は深雪が日常的に使用しているベッドに入った

今まで以上に母の姿が近い

心臓は破裂しそうなくらい鼓動を打っていた

深雪「電気は?」

那月「大丈夫です」

一昔前までは豆電球の存在が必要不可欠であったが、中学に入ると同時にそれは卒業した

部屋が闇に飲まれる

一切の灯りのない部屋で那月は質問した

那月「君影歩夢さんについて教えて下さい」

深雪「私の知る範囲でもよければ」

うっすらと確認できる母の表情はおそらく────


【那月編お終いです。
原作がまだ終了していないのに未来編をやるという暴挙。
達也や深雪はともかく、水波や真夜が原作終了地点で生存してるかどうかってなると不安を感じます。
オリキャラの参加もあるので原作で亡くなるはずのキャラクターが亡くならないなんてことも......。

安価です。
1.歩夢の誕生日編
2.雪乃の過去編
3.先に進む
安価下。】

>>115 1.歩夢の誕生日編】

ー2096年 3月19日ー

葉月「誕生日ってさ」

歩夢「うん」

葉月「一般的には人が産まれた日付を指すけれど、この世に『誕生』したって意味合いでは母親の子宮にその存在が確立された日を指すべきだと思うの」

歩夢「.....うん、それで?」

葉月「つまり歩夢の誕生日は実際のところ、疑惑の誕生日から約10ヶ月前の5月20日辺りが表現として正しい」

歩夢「おー。で、なに?」

葉月「いえ、別にこの気持ちをあなたに伝えたいとか賛同が欲しいとかではなく、誕生日の話題を切り出したかっただけ。私の考えは前座に過ぎないわ」

歩夢「理屈としては正しいと思ったけど」

葉月「そういう賛同の台詞は要らないから。.....それで本題だけれど、あなた明日どうするの?」

歩夢「明日?」

葉月「はぁ.....私がわざわざどうでもいい前置きをしてあげたというのに。人の思いを踏みにじる性格をしてるってことは十分に伝わったわ。それも踏まえて言うけれど、明日は3月20日────君影歩夢の誕生日。どうするの?」

歩夢「どうするもこうするも......」

どうも出来ない

私には────ただ祝われる権利しかないのだから



ー2096年 3月20日ー

何時何分何秒に産まれたのかはともかく

何月何日という観点において、今日は私の誕生日

私は今日で十六歳になった

この日本の法律ではもう籍を入れられる年齢であり、また同時に大人になったとしみじみ思う

────『大人』

それはあまりにも不明確な単語

人はいつになったら大人になるのか

私の中だけでなく、あちこちで論議されてきた議題

深雪ちゃんに一度だけこの質問をしたことがある

すると彼女は、

深雪「二十歳」

年齢が子供と大人の境界線だと主張した

また同じく年下の水波ちゃんに問うと、

水波「十八歳」

年齢こそは違えど、深雪ちゃんと同じく年齢が子供と大人の境界線だと主張した

同じ考えの中ですら人によって選択肢がある

高校を卒業した時点で大人だと主張する人

成人した時点で大人だと主張する人

中学を卒業した時点で大人だと主張する人も、もしかしたら居るのかもしれない


私は行き詰まり、今度は大人に質問をした

誰がどう見ても、考えても、何を取っても大人の大人

雪乃「物事を客観的に見れるようになって、なおかつ冷静さに欠けることのない人間。それが大人よ」

真夜「人の意見を聞けるようになる。これが大人の第一条件だと私は思うわ」

やはり人によって考え方が違う

お母さんの言い方だと、物事を客観的に見れて冷静であれば誰でも大人の括りに分類されるように聞こえる

真夜さんもお母さんと同じく、条件を満たせば誰でも大人の括りに分類される

子供の意見と大人の意見

年齢で隔てるか、その他の条件で隔てるか

お母さんや真夜さんの定義する大人の中に深雪ちゃんは含まれる

しかし深雪ちゃんは年齢を大人の定義として、自分は子供であることを示唆する

考えれば考えるほど分からなくなる

つまり私は夜永さんに相談した

『正解』に相談することを決意した

すると彼女は当たり前のように、

夜永「その質問をし続ける限り、ずっと子供だよ」

と、それだけの返事をして去ってしまった

答えは解った

しかしその過程が解らない

もうこれ以上夜永さんを頼れず、私は諦めた

私は今年もまた────大人になれなかった


【安価です。
1.京都の家で誕生日を過ごす
2.東京の家で誕生日を過ごす
3.四葉の屋敷で誕生日を過ごす

祝ってくれるメンバーが異なります。
1の場合は雪乃・綾人・隼人・夜永・葉月・咲夜。
2の場合は達也・深雪・雫・ほのか・エリカ・美月・幹比古・レオ・真由美・摩利・隼人・咲夜。
3の場合は雪乃・綾人・隼人・夜永・葉月・咲夜・真夜・水波。
多分こんなメンバーだと思います。
一部変更あるかもしれません。
安価下。】


>>119 2.東京の家で誕生日を過ごす】

「誕生日おめでとう」

私は昨年の倍以上の人数に祝された

それはとても嬉しいことではあるのだが、

歩夢「(.....鬱陶しいなぁ)」

どうしても自宅にこれだけの人数が集まるというのは心地の良いものだとは思えなかった

気持ちは本当に嬉しい

けれど、......祝われるのも含めて苦手だ

この一年で習得した愛想笑いを浮かべて、私はただただずっと祝われ続ける

真由美「去年,一昨年と祝ってきたけれど、今年は一番変化のある一年だったわね。雰囲気が変わったわ」

歩夢「雰囲気?」

真由美「貫禄というか.....人としての成長みたいな」

歩夢「.....」

曖昧な返答ではあったが、なんとなく理解できた

それもそのはず

私は母方の血縁者としての能力を開花させたのだから

他の理由としては社会人としての経験を積んだこと

それから......うん、あれとかあれとか

この一年は実に濃厚な一年であったと振り返る


真由美「あ、そうだ。少し話は変わっちゃうんだけどいいかしら?」

歩夢「構いませんけど.....」

真由美「ちょっと言い難いことなんだけど、気を悪くしたらごめんね。うちの狸親父が歩夢ちゃんのことを調べてるようなの。今日もここに来るまでに言われた」

『君影歩夢はどうだったかを聞かせてくれ』

と、七草先輩は申し訳なさそうに話した

父親のことを『狸親父』なんて呼ぶくらいだから、それなりに仲は悪いのだろう

もちろんそれは内面に止めて、外面では品行方正な娘を演じてるんだろうけど

真由美「確かに歩夢ちゃんは優秀で深雪さんに匹敵する魔法力を持っているけれど、うちの父が気にするほどではないと思うの。だから....よっぽどの理由が他にあるんだと思う。差し支えなければ教えてくれない? あ、もちろん父には上手く誤魔化すから安心して」

歩夢「あー.....」

十中八九、『霜月』のことだよなぁ

十師族の当主は十二師族のことを知ってるようだから

でもこの様子だと七草先輩は十二師族を知らない

差し支えない範囲で誤魔化しておくか

歩夢「多分ですが、母が七草先輩のお父様と縁があるのかと」

真由美「歩夢ちゃんのお母様と.....。どんな縁があるのかは知ってる?」

歩夢「そこまでは....。すみません」

真由美「いえ、いいのよ。ありがとう。私の方でも少し調べてみるわ」

歩夢「はい。お願いします」

これにて一件落着

嘘をつかず、見事に『霜月』については隠し通せた

あとは七草先輩が自力でどこまで調べられるか

辿り着いてしまった際には、その時には腹を括ろう

まぁ別にそこまで重要な事じゃないんだけどね

私が元お嬢様だということがバレるくらいで

さて、と.....


【安価です。
1.達也と話す
2.深雪と話す
3.雫と話す
4.ほのかと話す
5.エリカと話す
6.美月と話す
7.幹比古と話す
8.レオと話す
9.摩利と話す

隼人とは誕生日パーティ()が終わってからにします。
安価下。】

1


>>122 1.達也と話す】

歩夢「ね、今日は私の誕生日だけれども」

達也「誕生日プレゼントか?」

歩夢「うん、達也くんはなにをくれるのかなって」

つい先日、私は達也くんから贈り物を頂いている

俗にホワイトデーなるイベントだ

良くない風潮として『男性は3倍返し』なんて噂を耳にしたことがあったが、私は貰えるだけで十分だった

で、貰ったのはクッキー

司波家で作るのは深雪ちゃんに恥ずかしいとかで、この家で兄さんの協力を仰いで作ったらしい

クッキーの出来は良く、本当に味の3倍返しをされた気分になったが、それは自身の内に留めて、1ヶ月に渡る等倍のやり取りとした

ちなみに葉月は、

葉月「たかが1ヶ月で3倍返しなんて、利息が過ぎるわよね」

と、世界的なイベントに物申していた

しかし彼女の言う3倍返しはなんだか闇金などの印象を与えるもので、背筋を凍らせたのは記憶に新しい


そういえばリーナにもお返ししたって言ってたっけ

本来なら対立していたはずの関係が甘くなったものだ

何はともあれ、無事に落ち着いた

達也くんが本命やら義理を想ってお返ししたのかどうかは知らないけれど

達也「誕生日プレゼントは買ってきてある」

歩夢「なにをくれるのかなー? 私の彼氏は彼女にいったい何をあげるんでしょうか」

『彼氏』と『彼女』と言った瞬間、ほのかちゃんから強い視線を感じたのは気のせいではないだろう

肌を突き刺すような視線は痛いが、また同時に優越感を感じた

去年の私なら気絶していたかもしれない

気絶キャラに拍車がかかるところだった

歩夢「期待してもいい?」

達也「来月に迫った俺の誕生日で俺が歩夢のプレゼントに期待してもいいなら」

歩夢「やめておきます」

しかしやはり多少の期待感は拭えない

高校一年生の年齢の女性に達也くんは何を贈るのか

気分を高揚させたまま、プレゼントを受け取る

歩夢「これは.....!」


【安価です。
1.コンサートのペアチケット
2.お財布
3.腕時計
4.その他

安価下。】

>>125 2.お財布】

プレゼントは控えめなピンク色のお財布だった

たしか風水によると、この色は女性の運気を全体的に向上させる効果があったはず

常に持ち歩く物として邪魔には思わないし、付随して運が上がるのなら願ったり叶ったりだ

.....これブランド物なのかな

察してあげられないのが悔やまれる

もう少し勉強しよう、ブランドとかについて

そう決意を新たにするのも程々にし、

歩夢「ありがとうございます。なんか......うん、普通に嬉しくてろくな感想も言えない。ごめんね」

達也「喜んでくれたなら何よりだ。贈る側としてはそのために贈っているんだからな」

歩夢「おぉ.....」

これが惚れ直したって感情なのかな

いや、もとより好きなんだけどさ

でも魅力的に感じるというか、頼れるというか

なんだか私には彼は勿体無い気がしてきた

相応しい彼女になれるように頑張らないと

歩夢「一ヶ月後の誕生日は期待してて」

達也「いいのか? ハードルが高くなるぞ?」

歩夢「大丈夫」

達也「......じゃあ期待しておく」

歩夢「うん!」

腕時計とかお財布とか

人目につくようなお洒落な物を贈ろう

彼女からのプレゼントってことを誇りに思わせたい

そんなことをざっくりと決めたところで、彼氏からの誕生日プレゼントの受け取りの儀式は終了した


歩夢「(.....嬉しすぎて泣きそう)」


【安価です。
1.深雪と話す
2.雫と話す
3.ほのかと話す
4.エリカと話す
5.美月と話す
6.幹比古と話す
7.レオと話す
8.レオと話す
9.摩利と話す

安価下。】

分身魔法を取得したレオ

>>127 5.美月と話す

(レオはミスです。すみませんでした)】

美月「歩夢さんって雰囲気変わりましたよね」

歩夢「.....うん?」

美月「四月に会った頃とは別人のようです」

そういえば柴田さんは『水晶眼』っていう特別な瞳を持ち合わせているらしい

さすがに私や葉月の瞳まではいかなくとも、精霊や人のオーラを識別できるとか

私は精霊ではないので、人としてのオーラを視られた

もしかしたら君影歩夢の身体から湧き出るオーラを識別することにより、咲夜の存在にも気付かれるかもしれない

そうなればおそらく夜永さんとの関係も見破られてしまうだろう

うーん、これはなかなか厄介な

もしもに備えて言い訳を考えておかないと

歩夢「別人.....まぁ、私も人として成長したから。学生から社会人へ。その変化の差だと思うよ」

美月「......そうですね。社会に出ると人は変わるって言いますし。ごめんなさい、詮索するような真似をして」

歩夢「ううん、これくらい詮索の内に入らないよ。魔法の詮索はマナー違反だけれど、今のは人を知るための情報。仕方がないことだから気にしないで」

美月「そう言っていただけると助かります」

一件落着した

今回のことから、柴田さんへの警戒が必要だと教訓になった

一言でいってしまえば危険

私が特別な世界に居るような言い方をすると、

歩夢「(こちら側に足を踏み入れさせないよう、細心の注意をはらって接さないと)」

無いとは思うが『霜月』が火種になった際、柴田さんだけでなく無関係な人間を巻き込まないように

そう心掛けることにした


【安価です。
1.深雪と話す
2.雫と話す
3.ほのかと話す
4.エリカと話す
5.幹比古と話す
6.レオと話す
7.摩利と話す

安価下。】

>>130 1.深雪と話す】

深雪「はい、プレゼント」

歩夢「あ、どうもです.....」

私は軽く頭を下げながら、プレゼントを戴いた

歩夢「開けてもいい?」

深雪「もちろん」

了承を得てから、開ける

それは見るからにケーキ屋さんの箱で

中に入っているのは紛れもなくケーキの類

深雪ちゃんらしいと言えば深雪ちゃんらしかった

ケーキ好きだからね、深雪ちゃん

十中八九そうだろうと決めつけた予想は的中した

ショートケーキ

スポンジと生クリームと苺をふんだんに使ったアレ

ここで一つ問題が

いや、私の病気については大丈夫なんだよ

糖分と塩分の過剰摂取を避け、かつ栄養をしっかり摂ることを義務付けられているだけだから、ショートケーキだけなら主治医の先生も許してくれるはず

問題は生クリーム

私、苦手なんだよね

あのふわふわした感じが


カスタードクリームとかなら好んで食べれたのに

まぁでも、そんなことを祝われる側が偉そうに言えるはずもなく、私は愛想笑いを浮かべて食した

うぅー、甘いよー

深雪「おいしい? 私の好きなお店のものを買ってきたんだけど」

歩夢「うん、おいしい。昇天しそうなくらいに」

深雪「昇天.....?」

歩夢「あ、いや、気が狂いそうなくらいに」

深雪「んん.....?」

歩夢「これも違う。えっと、.....とにかく、大変美味しゅうございました。この味は忘れません。青春の味です」

数少ない思い出の味

十六歳の誕生日でこんな大人数に祝われた思い出の味

青春の一ページにまた記された

でもオチを付けるとしたら、

歩夢「(来年また祝われるなら、カスタードクリームのケーキがいいな。でもショートケーキでカスタードクリームを使ってるのなんてあったっけ?)」

悠長に思いに耽る私であったが

このときの私はまだ知る由もなかった

来年は“親友”から祝われないことに


【安価です。
1.雫と話す
2.ほのかと話す
3.エリカと話す
4.幹比古と話す
5.レオと話す
6.摩利と話す
7.誕生日会終わり
安価下。】

2

>>133 2.ほのかと話す】

ほのか「ね、歩夢」

歩夢「な、なんでしょうか....」

生クリームのせいd....おかげで気分を悪くしているところに、ほのかちゃんから声が掛かった

「あ、そういえば誕生日おめでとう」と、本題をついでのように前置きし、彼女にとっての本題へと移る

ほのか「あんまり大声では言えないんだけど、四葉香夜さんって知ってる?」

歩夢「.....うん」

少し迷った

君影歩夢は魔法科高校には通っていないのだから、四葉香夜について知らなくても何の不思議もない

しかし私が正直かどうか、肯定した理由は別にあった

私が魔法師の端くれであることを彼女が知っているからだ

四葉の姓を持つ子供は四葉真夜が婚約していない関係もあって、居ないとされてきた

そこに突如として四葉香夜が現れたのだ

巷で大いに噂になった

魔法師のみならず一般人にもその情報は行き届いているだろう

少なくとも魔法師が知らないはずがない

もし私がここで否定をしていれば、私は疑われていた

四葉香夜については知らなくても、四葉香夜の名前は知っている

私はそういう意味で、嘘をついた


歩夢「それで四葉香夜さんがどうかした?」

ほのか「ただの私の勘違いだと思うんだけど......。その四葉香夜さんが歩夢に似ていたのよ。雰囲気っていうか、存在っていうか.....」

ぎこちないようにほのかちゃんは述べた

うーん、厄介だなぁ、こういうのは

スピリチュアルな話で誤魔化せるかどうか

歩夢「ほのかちゃん、オーラって知ってる?」

ほのか「オーラ? 占いとかで使われるアレ?」

歩夢「そう、それ。占い師さんが人を見て、その人の『色』を見るの。青色だったら冷静さに長けて客観的な視点で物事を見れる、とかね」

ほのか「つまり歩夢と四葉香夜さんの雰囲気が似てる理由ってオーラが理由なの?」

歩夢「多分だけど」

ほのか「.....うん、そっか。ごめんね、変なこと聞いて」

歩夢「ううん。大丈夫だよ、これくらい」

ほのかちゃんが『占い』の類に関して否定的でなくて良かった

もし相手が水波ちゃんとかだったら「現実的な話じゃない」だとか何とかで一悶着ありそう

ともかく、一件落着したわけだけれど

柴田さんにしろ、ほのかちゃんにしろ

私は疑われやすいようだ

これからは今以上に距離を置いた方がいいのだろうか

でも今以上に会わないって、もうそれ絶交とかの域に達するんだよなぁ

その辺りも新たな課題として

教訓にし、これからについて考えよう


【安価です。
1.雫と話す
2.エリカと話す
3.幹比古と話す
4.レオと話す
5.摩利と話す
6.誕生日会終わり
安価下。】

>>136 6.誕生日会終わり】

日が暮れた頃、誕生日会の終わりを迎えた

静寂に包まれるリビング

ついさっきまで大人数がこの部屋に居たとは思えないほどの変化に私は素直に驚いた

鬱陶しいとまで思っていたのに、寂しい

歩夢「......」

座り慣れたソファで寛いでいると、インターホンが鳴り響いた

兄さんは......、私が出るか

私は一階のリビングで

兄さんは二階の自室で寛いでいる

私が出るのが筋というものだろう

インターホンを鳴らしたのは宅配だった

差出人は.....夜永さん?

なんだろう、と思いながら開封する


歩夢「.....!」

夜永さんからのプレゼントは綺麗なフォトスタンド

その中には思い出の写真が一枚入っていた

掛け替えのない昔の思い出

悲観的に見てしまえばこの写真が示すのは盗撮だが、そんなことを気にする余地もなく嬉しかった

実際に子供の笑顔を浮かべる霜月雪乃らと昼食を共にする私の姿がその写真には映っていたのだから

達也くんからのプレゼントとはまた一風変わった感情に浸ることが出来た

感謝の気持ちを込めて、今度夜永さんのことを昔みたいに『夜永お姉ちゃん』って呼んであげよう

と、その刹那、私にだけ声が響く


ーーーーーーーーーーだめっ! 私が許さない。私の姉さんを取らないで

......シスコン

ーーーーーーーーーーブラコンに言われたくない。とにかく、姉さんに感謝するのは構わないけど、私の姉さんは取らないで。これは譲れない

いや、取るつもりは.....ないけど

ーーーーーーーーーー心移りしたらどう責任を取ってくれるの?

心移り? まるで夜永さんが咲夜に恋してるみたいな言い方やめようよ.....

ーーーーーーーーーー.....前言撤回。で、でも、姉さんを取るのは.....ダメ

......わかった。とりあえずお礼だけは言わせてね。ありがとうございました、って

ーーーーーーーーーーうん、それくらいならいい。あ、そうだ。歩夢、誕生日おめでとう。また一つ歳を取ったね

まだ歳を悲観的に捉える年齢じゃないから楽観的にその言葉を受け取っておくことにするよ


咲夜のシスコンっぷりに若干引きながらも、私は例のフォトスタンドを持って自室まで戻る

しかし私はすんなり部屋に戻ることは出来なかった

自室の扉の前に小さな箱が置かれていたからだ

二階への進入を許した覚えがないので、このプレゼントは兄さんからだろう

意気揚々とそのプレゼントを手に取り、部屋の中へ

フォトスタンドを机上に設置してから、兄さんからのプレゼントをベッドの上の腰をかけて開ける

小さな箱から出てきたのは、

歩夢「.......オルゴール?」

私みたいなキャラクターには勿体無いお洒落な代物

心に響いた

まだ音も鳴らしていないのに

達也くんからのプレゼント同様に、嬉しい

夜永さんからのプレゼントによる感情とはベクトルが違うところから察するに、異性からのプレゼントというところに私の中で境界線があるのだろうか

何はともあれ、ほとんど嬉しいこと尽くしの十六歳の誕生日

このことは忘れまいと深く記憶に記した

来年は────

歩夢「来年こそは大人になりたいな」

目標を定めたところで、私の誕生日は終わった


【番外編・歩夢の誕生日はこれにてお終いです。

今回はこれまでにします。
電撃文庫さんの公式ホームページにて、魔法科高校の劣等生19巻の試し読みが出来るようになりました。
19巻は今月の10日に発売されますが、18巻の続きが気になる方は是非。とても面白いです。
(回し者ではありません!)

余談ですが、卒業式シーズンですね。
ご卒業された学生さんはおめでとうございます。
打ち上げをする学生もちらほらと。
私は打ち上げをするという話を偶然耳にしたのをよく覚えております。


安価です。
1.雪乃の番外編
2.話を進める
安価下。】

>>140 2.話を進める

これから三人称視点が多くなると思うので、練習も兼ねて三人称視点でやります。
一人称のときはまた一言添えます。】

ー3月末ー

深夜「さて」

霜月家本邸の応接室にて、司波深夜は話を切り出した

彼女の視線の行く先には息子の達也と娘の深雪、新年度から正式に深雪のガーディアンを務めることになる水波が高級なソファに腰を掛けていた

深夜「新年度の話をする前に、年度末のことについて話しましょうか。水波ちゃんは無関係ではないけれど、話を振ったりするような真似はしないからリラックスしてていいわよ」

水波「は、はいっ.....!」

水波の叔母に当たる穂波はかつて、深夜のガーディアン兼お世話係をしていた

その関係で、水波が深夜と話すのは初めてではない

しかし話す機会が極端に少なく、また立場の問題もあって水波の体は凍りついていた

そんな少女をよそ目に、深夜は自分の子供たちへと視線を戻す


深夜「学年末試験」

その一言で達也と深雪はピクリと反応を示した

深夜「なにか思い当たる節はありますか?」

意味深な笑みを浮かべて問うその姿は二人にとって、非常に懐かしい姿であった

また同時に、母が憤っていることも悟る

深雪「歩夢に.....、四葉香夜に総合成績で負けたことでしょうか」

長期戦になるのは苦痛でしかない、と

深雪は思い当たる節を述べる

すると深夜は、

深夜「隠そうとはしないのね。その正直な性格は一向に構わないけれど────私に対しては一向に構わないけれど、相手を選ぶことは忘れないで下さい。ポーカーフェースで騙せない人だって居るんだから、言葉で騙せるようにならないとダメだわ」

深雪「......はい」

深夜「一度の説明で理解して戴けたのなら結構です。話を戻しますが、学年末試験における魔法試験は深雪さんが僅差で勝利したようですね。しかし筆記試験は揃いも揃って負け、総合成績では四葉香夜が主席。私がなにを言いたいか分かりますか?」

達也も深雪も、深夜が学生時代に雪乃と成績で競っていた話は耳にしている

だから敏感なのだろうと予想がついた

名前は四葉香夜を名乗っていても、その中身はライバルの娘なのだから


深雪「勉強を怠ったことは.....事実ですが、パラサイトの一件が────」

達也「深雪。それは言い訳に過ぎない。それに、歩夢もパラサイトに関わっている。俺たちだけが特別扱いは筋が通らない」

深雪「っ.....」

達也からの叱責を受け、深雪は縮こまる

深夜「深雪さんの答えは不正解です。達也の言う通り、歩夢さんもあの事件に絡んでいた以上、関係者という接点においてどれほど関わったかは重要ではありません。それに私が問題視しているのは貴女たちではなく、歩夢さんです。それも踏まえて、達也」

達也「......」

深夜「回答拒否。それとも分からないだけなのか。どちらにせよ答えを出していない以上、採点の術もありませんので不正解です。では答えを」

深夜はテーブルの上に置かれた紅茶を一口飲み、喉を潤してから話す

深夜「歩夢さんは四月いっぱい、および三十年前に授業を一週間ほど受け、一月二月と四葉香夜として授業を受けました。深雪さん達と比べて高校課程の授業内容の理解度は低かったはずです。でも歩夢さんは筆記試験で一位を獲った。つまりこれが指し示すものは人並み外れた努力です。私はそれを評価しているのです。達也も深雪さんも、それぞれ頑張りました。しかし歩夢さんはその上をいった。見習えとは言いませんが、一声掛けてみては如何でしょうか」

達也も深雪はただ負けたとしか思っていなかった

しかし母の話を聞いて、心を入れ替えた

労いの言葉の一つや二つを掛けてこそ、友達だと

深夜「理解して戴けたようですね。さて、そろそろ本題に入りましょうか。達也と歩夢さんについて」

話題の転換と同時に二人は安堵した

単純にライバルの娘に子供達が負けたことを根に持っている可能性があったからだ

深夜「言い忘れていましたが、勉強や魔法についてはあとで個別で時間を取ります。もう歩夢さんと勝負するようなことはないと思いますが、もしもに備えて学んでおくことに損はありません」

ふぅと息を吐いた瞬間に突きつけられた現実

気を許して安堵するのはまだまだ先になりそうだと二人は絶望に満ちた表情をする


そんな二人を尻目に深夜は、

深夜「簡潔に言いましょう。達也の感情制限は機能しています。ただし歩夢さん以外のときに限って」

深雪「......!」

達也「.......」

深夜「その様子だと達也は気付いていたようですね。自分の感情制限の錠が外れていることに」

十二月の二十四日に身を持って体験している

君影歩夢という女性に対して、自分にかかっているはずの感情制限の錠が外れて『情』が湧き出たことを

深夜「この話は難しいものではありません。霜月歩夢の影響力に達也の錠が機能しなかったということだけです。特段、日常生活において問題はありません。むしろこちらの方が都合が良いようですし」

達也「........」

深雪「都合?」

深夜「あら、まだ深雪さんには言ってなかったの? ふふっ、思春期というよりは身の安全というか.....。何にせよ、私からしたら興味深い現象です。『錠』が外れて『情』が解き放たれるなんて、予想にもしなかったのですから」

クスクスと笑みを浮かべるのは深夜だけで、他の三人は笑ってなどいられなかった

日常生活に問題無いと宣告されているだけ取り乱さずに済んでいるが、もしものこともある

万が一、歩夢絡みで達也の感情が爆発した場合

そのことを考えると気が気ではなかった

深夜「各自、質問については個別で呼び出す際にして下さい。この場ではしにくい質問もあるでしょうし」

では話は一旦お終い、と

深夜はこの場をお開きとした


【安価です。
1.深夜と達也
2.深夜と深雪
3.深夜と水波
4.葉月と沙夜と千夜
5.霜月と雪乃と夜永と真夜と歩夢
安価下。】

3

>>145 3.深夜と水波】

深夜は水波だけ残るよう指示して、達也と深雪の両名を退出させた

これにより水波は主人の母親と閉鎖された空間で二人きりという状況に陥り、カチコチに固まっていた

一方で深夜は小動物のように小刻みに震える水波に「どうしたものかしら」と話しかけ辛く、沈黙していた

しばらくの静寂が流れ、深夜の紅茶がなくなった

水波は逸早くそれに気付き、

水波「ぁ、あの.....紅茶.....」

深夜「悪いけど、淹れて貰える?」

水波は穂波と遺伝子が酷似している

よって、自分で紅茶を淹れに行くという手段は穂波に仕えられていた頃と同じく却下された

穂波にとって深夜に仕えることが生き甲斐だったように

水波にとっての生き甲斐は主人に────主人の母親に仕えることがこの場限りでの生き甲斐も同然であった


水波にカップを預け、数分後

屋敷の構造が生まれ育った場所と同じだけあって、道に迷うこともなく水波は淹れたての紅茶を運んできた

深夜「ありがとう。.......うん、おいしいわ」

水波「お、恐れ入ります.....!」

紅茶のやり取りが上手く効いたのか、水波の緊張は少しだけ和らいだように深夜は感じた

これ以上ぐだぐだしていても仕方がない、と

深夜は本題に入った

深夜「まずは母親としての責務を重んじて」

水波「......?」

深夜「達也も深雪さんも不甲斐ないところがあると思います。支えてあげて下さいね、あの二人を」

水波「い、いえ....私の方が不甲斐なく、ご迷惑をお掛けすると思いますっ.....」

深夜「それでいいわ。いっぱい迷惑をかけなさい。私がこんなことを言うのも何ですが、深雪さんは次期当主になると思います。たった一人の迷惑くらい許容できないようでは、器ではありません。綺麗事を言いますが、人は支え合って人生を歩むのです。水波ちゃんは深雪さんを支えられると同時に支えられることを意識して下さい」

水波「.......はい!」

柔らかい声色で諭され、水波は元気よく返事をした

深夜も年相応な水波の姿に懐かしさを覚え、また信頼できる存在だということを実感する

深夜「次に、歩夢さんについてです」

水波「歩夢姉さ.....歩夢様について、ですか?」

深夜「えぇ。私が懸念している事態を水波ちゃんにお話します。今年の末に起きるであろう出来事を」

ここから深夜の長い懸念話が始まった

今年の末────君影歩夢に起こる変化について


【本日、電撃文庫様の魔法科高校の劣等生公式Twitterアカウントにて、3月10日に発売する19巻の帯で重大発表があると告知されました。
リーナが動くところを期待しています。

安価です。
1.深夜と達也
2.深夜と深雪
3.葉月と沙夜と千夜
4.霜月と雪乃と夜永と真夜と歩夢
安価下。】

1.深夜と達也

>>148 1.深夜と達也】

深夜「と、私は懸念しています」

人は誰しも長話を嫌う

しかし今回に限って少女はそう思わなかった

聞き手の興味を引く言葉遣いと内容

その二つが相まって、水波は深夜の『語』に惹かれた

その『話し方』には感服せざるを得なかった

内容が内容なら、水波は素直に感心していただろう

だが話の内容は最悪の出来事であった

魔法師として尊敬する人物が悲劇的な人生を歩む

お世話になった身としては見過ごせない出来事だ


水波「私は.....それを回避するために前もって準備をすればよろしいのでしょうか?」

深夜「その必要はありません。最近、達也も深雪さんも人生を軽んじている。そろそろ痛い目に遭って貰わないと。水波ちゃんが動くのは『後』でいいわ。年末に一度あの三人の関係を壊す。その後のフォローをお願いするわね」

水波「........」

深夜「不服そうね。......無理もないけど、あなたの主人が成長するためには仕方がないし、歩夢さんの“本性”を知る機会でもある。我慢して。それともこう言えばいい? 我慢しろ、って」

水波「........懸念に過ぎません」

深夜「そう、これは懸念に過ぎない。だから本気にしないで。水波ちゃんはそれまで私の『予想』を冗談だと受け止めて、胸の内に秘めておいて」

しかしやはり不服そうに

水波は俯いた

深夜「話はお終い。次に達也と話したいから呼んできてくれるかしら。応接室でお母様が待ってるって」

水波「わかり....ました」

不思議とこのときの水波に抵抗の感情は皆無だった

巧みに洗脳されているんじゃないかと自分で疑うほどに

水波は虚ろな気持ちで足取りを重くして部屋を出た

深夜は扉が閉まるまで水波の従順な姿を視界に捉え、

深夜「若いわね」

穂波と酷似した遺伝子の所有者であっても、やはり年齢と比例して積み上げられる経験には及ばないと独りで残念に思う



数分後、応接室の扉がノックされた

深夜「どうぞ」

許可を取ってから数拍置いて、扉が開かれた

深夜「掛けて」

必要最小限の言葉数でたった一人の息子を座らせた

ここまでのやり取りは『昔』を思い出す

達也は深夜のことを他人行儀に『奥様』と呼び

深夜は達也のことを他人行儀に『兵器』と扱う

今でもその関係は変わっていないのかもしれない

しかし寄せる想いは変化を遂げた

今在る彼女は未練を残した成仏のできない幽霊

未練というのはもちろん素直になれない自分だ

息子とこうして再び向かい合うのは『嘘』である

そして自分が息子へとかける言葉も『嘘』である

いつから自分は『嘘つき』になってしまったのか

振り返るとそれは、達也を産んだときまで遡った

深夜「(“如月さん”が憎いわ......運命に抗う能力が)」

ただ一人、心当たりのある運命に左右されない女性

深夜の想いは八つ当たりとして如月へと向かっていた


【安価です。話題。
1.学年末試験について
2.君影歩夢について
3.学校生活について
4.その他
安価下。】


>>152 2.君影歩夢について】

深夜「それで、あなたは後悔していないの? 歩夢さんを選んだことに。光井家や北山家、それからスターズのアンジェリーナ・シールズさん。魅力的な女性はたくさん居るじゃないですか。私がもし口を挟んでも良いとするならば、歩夢さん以外の方をお勧めします」

達也「.....俺の感情を動かせるのは歩夢だけです」

深夜「もしも光井ほのかさんがピンチになったら?」

達也「友達として助けるまでです」

深夜「......水波ちゃんにしろ、子供ですね」

達也「未成年は揃って子供扱いだ」

深夜「でも交通機関では大人料金でしょう?」

達也「一部に過ぎない」

深夜「子供か大人の定義。教えてあげましょうか?」

達也「結構です」

深夜「これは夜永さんからの受け売りですが、自分が子供かどうかを他人に質問している間は子供です」

達也「質問なんて一度たりとも────!」

深夜「ほら、子供じゃないですか。小さなことですぐ感情的になる。友達が暴漢に襲われたりでもしたら、感情的になって人を殺めるんじゃないですか?」

達也「子供か大人の定義は質問をするかどうか」

深夜「定義は一つじゃない。それが私の考え方です」

達也「.......」

深夜「そうやってすぐに黙る。昔と変わりませんね。私の言うことだけを聞く機会のように」

達也「それが家のしきたりだ」


深夜「しきたりとは慣例。慣例とは『慣れた例』。あくまで『例』に過ぎません。それに相手は『例外』の存在ですよ? もう貴方達の本来の母親は死んでいるのですから」

達也「......?」

深夜「もういいわ。あなたが鈍感で可愛くない息子だということは身に染みて解りました。これ以上の議論は無駄です。あなたが鈍感なんですから」

達也「........」

深夜「話を戻します。歩夢さん以外の方とお付き合いするつもりは?」

達也「微塵もない」

深夜「君影────霜月歩夢さん一筋?」

達也「君影歩夢だけだ、俺が心の底から愛せるのは」

深夜「そう」

なら後悔するだけだわ、と

深夜は心の中で呟いた

この時の彼女の感情は残念そのものだった

最悪のシナリオの軌道に乗った瞬間なのだから



深夜「(あんな『猫』と付き合っていて何がいいのか)」



【深夜と達也の掛け合いは難しいです。

何とは言いませんが、伝説になるようですね。
Twitterのトレンドになっていました。

安価です。話題。
1.学年末試験について
2.学校生活について
3.その他
安価下。】

>>155 1.学年末試験について】

深夜「達也がそうやって意固地に歩夢さんを愛するのなら、それはそれで構わないわ。相手の身分は不足が無いわけだし」

相手の母方は『霜月』の人間

日本の魔法師界を引っ張る十師族が一『四葉』としては嘘偽りなく十分な身分の相手であった

深夜「この話はお終い。あとは貴方次第よ。私の言いなりではなく、自分の意志で『そう言ったからには必ず』あの子を幸せにしなさい。それが筋というものよ」

達也は返事をしなかった

反抗している訳ではない

承知の上だったからだ

言われるまでもなく、達也は歩夢を幸せにする

それはずっと前から心に決めていたことだった

深夜「次というか前の前というか。学年末試験、魔法は仕方がないとしても筆記は少し手を抜いたようね」

達也「手は抜いていない。実力で歩夢に負けた」

深夜「努力で負けた。そうでしょう?」

達也「.......」

深夜「慢心。古くから人間がしてきた誤ちよ」

達也「兵器ではなく?」

深夜「兵器に感情があるとでも言うの? マシンガンが自意識を持ち、これくらい撃てば死ぬだろうと慢心して殺しきれず、扱った人間が報復に遭うと?」

達也「俺を兵器扱いしたのは母さんだろう?」

深夜「あくまで比喩的表現に過ぎないわ」


達也「......それで、もっと勉強しろということか?」

深夜「知識はいずれ役に立つ。微分や積分だって役に立つときが来るわ」

達也「専門家にならない限り、深い数学は役に立つとはあまり思えないんだがな」

深夜「役に立つわよ。子供に勉強を教えるときに」

達也「........!」

深夜「解らないところがあったら相談しなさい。それが大人の────親としての務めよ」

達也は呆気にとられた

自分に対して親面をすることなんて、兵器として利用するときを除いて一度たりとも無かった

しかし今、どんな裏があるのかは見当もつかないが、親の務めとして勉強を教えようとしている

不思議で不思議でしょうがなかった

深夜「私はもう何も背負っていない。現実世界に置いてきた子供がどうなろうと知ったことではないわ」

達也「......」

深夜「だから、死人が現実世界に置いてきた子供をどうしようと勝手でしょう? 私はせいぜい死人らしく、困った子供を勝手に助けることしか出来ないの。こういう形でね」

些か納得には欠けたが、納得することにした

納得せざるを得なかった

鋭く冷たい視線で圧力をかけて来る母親を前にしては


達也「魔法について」

深夜「私がアドバイスするようなことは無いわよ。ただ、強いて言うなら負けることね。貴方は勝率だけが高い。もうそろそろ敗北率にも焦点を当てるといいわ」

達也「負けて.....なにを得る」

深夜「決まってるじゃない。自分の弱さよ」

達也「弱さを自覚して、改善するよう努力しろと?」

深夜「改善するなんて器用な真似は貴方には出来ない。改善する必要も無いほど強くなればいいのよ」

達也「俺に勝てる相手は?」

深夜「この屋敷に居るほとんどの人間が貴方より強いわよ。例外は深雪さんと水波ちゃんだけ。格下に見てるかもしれないけれど、沙夜さんや千夜さんだって私達のご先祖様で確かな実力を持っている。誰かに喧嘩でも売ってきたら? 貴方だって年頃の男の子でしょう?」

そういうのは喧嘩の内には入らない、と

達也は間違いを正して深夜の言葉を聞き入れた


【安価です。
1.喧嘩を売りに行く(戦いを挑みに行く)
2.学校生活について
3.その他
安価下。】

>>109 2.学校生活】

しかし流石に喧嘩を売りに行こうとは思えなかった

勝ち負けの問題ではなく、今は深夜と話している

数年ぶりに訪れた奇跡のような機会

これをぞんざいに扱うことは出来なかった

達也「それはまた今度にしておく。今は母さんと話す方が優先だ」

深夜「ふふ、そう。『母さん』....ね」

達也「昔通り、奥様と呼んだ方が良かったか?」

深夜「構わないわ。もう私は死人。しきたりの例外に当たるんだから。敬語も要らないし、気を遣う必要もない。好きなようにして」

あまりにも許容的な深夜に達也は訝しげな視線を向けたが、深夜は自然に笑っていた

ついつい漏らしてしまった心の底からの笑み

何か企んでいるようには見えず

ただただ今の時間を楽しんでいるように見えた


深夜「と、話が逸れたわね。喧嘩を売りに行かないのだったら、それはそれでいいわ。人生はまだ長い。その中で敗北を味わえばいい。実戦での敗北は許しませんけどね」

達也は頷いた

実戦での敗北は深雪を守れなかったことを意味する

唯一残された感情の兄妹愛がそれを許さない

達也の改めた強い意志を感じ取ったのか、深夜は話を切り替える

これ以上、念を押しても意味がないと気付いたからだ

深夜「そういえば学校生活の方は如何ですか? 試験についてはともかく、友人関係とか」

達也「強い仲間に恵まれた」

深夜「千葉家のお嬢さん?」

達也「いや、みんなだ」

深夜「そうですか。それなら一安心ですが、......一つだけ忠告を。貴方が四葉家の人間だと周りに知られたとき、疎遠になる可能性があります。四葉家への畏怖ではなく、どうして今まで隠してきたのか。一線を引いたお付き合いをして下さいね」

達也「俺は信じてる。あいつらは気にしない....はずだ」

深夜「その迷いを半信半疑と言うのです」

達也「八信二疑くらいだ」

深夜「こう言えばああ言う。でも疑っている部分があることを認めた以上、一線を引いて下さい。さじ加減はお任せします」

達也「あぁ.....分かった」

素直に聞き入れた

そう遠くない未来、『友達』と疎遠になりそうな気がしていたのは達也も同じだ

それが深夜に後押しされてはそうせざるを得ない

自分のために、深雪のために

深夜「鈍感でも物分りは良いようで。それで、友人関係以外ではどうなんですか? 九校戦のお話とか、横浜での一件とか。学校絡みの事件を聞かせて頂戴」

好奇心で物を尋ねてくる母に反抗するつもりはもう無かった

もしかしたらここまでは演技かもしれない

しかし、深夜とこうして話せるのは達也にとって『嬉しい』の部類に入ることだった

長い話をする

入学式から最近のパラサイトまで

達也はダイジェストで要所を深夜に話した


【安価です。
1.その他(なにか希望の話題があれば)
2.深夜と達也の話を終わる
安価下。】

2

>>162 2.深夜と達也の話を終わる】

深夜「なかなか面白かったわ。特に横浜での一件。まさか雪乃が俗世間に干渉するなんて」

四月のブランシュ

八月の九校戦

十月の横浜での出来事

そして新年を迎えて早々に遭遇したパラサイト

どれも興味深く深夜は話を傍聴していたが、最も過敏な反応を示したのは横浜での出来事だった

達也「そんなに驚くことなのか? 正当防衛に過ぎないと思うが」

深夜「そもそも雪乃がおとなしく敵に捕まったとは思えないわ。あの子のことだから.....全てが幻だったんじゃないかしら。自分が収容されるはずの施設から他人まで。お得意の幻術で大亜連合の目を欺いた」

達也「可能なのか? そんなこと」

深夜「この世界が霜月と葉月と如月、そして雪乃によって創られたって言えば事の重大さは分かるかしら? 霜月さんは時間操作だけでこの世界を創ったって歩夢さん達に嘘をついたけれど、実際のところは雪乃を含めた四人によって創られてるの」

達也「.....規模が大きいな」

深夜「それだけのことが出来るってことよ。私たちが夢を描く『魔法』というものは。他人からしたら達也のマテリアル・バーストも『魔法』なんだから」

達也「俺の魔法は理屈を変えることは出来ない。世界の法則を乱すのは俺たちが本来の意味での『魔法』と呼ぶ存在だけだ」


深夜「......結局、私たち四葉は法則の範囲内で突出した一族ってことよ。霜月をはじめとする十二師族は法則の範囲外。今度、昔話を聞かせてあげましょうか? 他の九家の『魔法』について」

達也「ショックを受けたりしないか?」

深夜「人類が衰退したことに? もしかしたらするかもしれないけれど、達也なら大丈夫よ。錠が付いているんだから」

達也「じゃあ、次の機会に」

深夜「楽しみにしておいて」

達也が深夜のことを母親だと認識し

深夜が達也のことを息子だと認識して

このように口約束をしたのは初めての出来事だった

次回の約束を取り付けたところで一段落つく

深夜「また後で呼ぶわ。その時は深雪さんも一緒に」

達也「水波は?」

深夜「血の繋がった家族、水入らずで話しましょう」

水波の同席を否定すると同時に、姉妹同然に育った雪乃の同席および達也の婚約者の同席も否定した


達也も『今』はそれで異論なく、席を立つ

深夜「久々に話せて楽しかったわ」

達也「俺はなにも楽しくなかった。虐められっぱなしだからな」

深夜「人が精神的苦痛を味わっている姿を眺めるのが私の趣味だと言ったはずでしょう? 」

達也「.....そうだったな」

達也は小さく頭を下げて、扉へと向かった

数歩、歩んだところで声が掛かる

深夜「四月からは沙夜さんも千夜さんも学校に通い始めるわ」

達也「遊び相手が居なくなってつまらない、か?」

深夜「あら、直感が冴えるじゃない。珍しい」

達也「超直感で有名な母さんの子だからな」

深夜「なら、私が言いたいことも分かるわよね?」

達也「また近いうちに」

子は返事を待たずして応接室を後にする

対して、母は満足気な表情でその扉の先を見据えた

深夜「この数年で随分と成長したようね」

でもやっぱりまだ子供だわ

と、深夜は息子への愛情を表現した


【安価です。
1.深夜と深雪
2.深夜と夜永
3.葉月と沙夜と千夜
4.霜月と雪乃
5.歩夢と真夜
6.その他の組み合わせ

安価下。】

4

>>166 4.霜月と雪乃】

深夜の居座る応接室とはまた別の応接室にて

霜月と雪乃は対面していた

こうして二人きりになるのは去年の十一月以来だった

霜月「前は歩夢さんの病について」

雪乃「今回も引き続いて、ですか?」

霜月「いえ、今回は那月さんのことです」

雪乃「わざわざ出向いた甲斐があったようで」

二月の中旬

第一高校の敷地内に誘き寄せられたパラサイト

此の世に在るまじき存在の見学に出向いたところで、偶然にも君影歩夢を装った司波那月に遭遇した

本来は無干渉で終えるつもりだったが、興味深い人間と出会ったことでその気は変わり、霜月は場を荒らす

パラサイトが宿主としていた人間を殺し

半ば強制的に宿主が居ない状態にする

居座る席が無くなった複数体のパラサイトは集合体となり、達也らの脅威となった

今思えばあれは危険な賭け

しかしそれを乗り越えたからこそ見出せる事もあった


霜月「もうご存知かとは思いますが、司波那月は歩夢さんと達也さんと深雪さんの間に出来た子供です。更に詳しく話すと、そこに咲夜さんが入ります」

雪乃「.....それで?」

霜月「四葉が追い求める精神の粋。那月さんが何を求めたのかは知りませんが、精神干渉魔法の総結晶を会得したようです」

雪乃「粋ってことは、精神が絡めばなんでも出来るの?」

霜月「はい、なんでもです。精神を凍りつかせることも、精神構造を作り変えることも、精神を固定化させることも容易い。対人戦闘なら雪乃さんの“アレ”よりも強いかもしれません」

雪乃「それは安心することです。私の平和な老後が次々世代の彼女によって護られるんですから」

霜月「そういう意味では、深夜さんは早くに亡くなって幸せだったのかもしれませんね。私たちが創ったこの世界は安定している。今はまだ人々は争いを知らないようです。でも小さないざこざは勃発し始めた。人が人間である証拠ですね」

雪乃「これから兵器が開発され、戦争が起こり、超能力────すなわち魔法が発見され、時が過ぎて私の居る時代へ」

霜月「歩夢さんはこの時代を魔法が『初めて』発見された2000年辺りだと踏んでいるようですが、大きな間違いです」

雪乃「実際のところ、どうなんですか? 私もよく知りません。とにかく昔で、霜月さんが何代も前のご当主様ということくらいしか」

霜月「なんだか嫌味に聞こえるので回答を拒否します。どうしても知りたいというのであれば、沙夜さんや千夜さんにでも聞いてみては如何ですか?」

雪乃「今あの二人は葉月と遊んでるわ。先祖返りってこともあって、容姿が似ていることに驚いてたりして」


霜月「平和になったものですね」

雪乃「昔は戦争ばかりで」

二人は昔を思い出し、小さく笑った

霜月にとってはそれほど昔ではないが、雪乃にとっては三十年前の経験だ

あまりにもインパクトが強く、今でも鮮明に思い出せる

雪乃「今の私が戦争の現地に行ったら足が竦みます」

霜月「今の、ではなく昔もそうでしたよ」

雪乃「そうでしたっけ?」

霜月「あくまで表の雪乃さんの話ですけどね。裏の雪乃さんは進んで戦地に赴いていました」

雪乃「あぁ、そういうことですか.....」

納得したように、雪乃は霜月から目を逸らした

裏は好戦的で表は非好戦的

表裏一体となった今、どっちが秀でるのか

確認してみたいが、やはり前提として戦争は嫌だった

霜月「戦争についてはこの程度で。美味しい紅茶を前にして、余計な調味料は不要です」

雪乃「調味料というよりはスパイスかしら」

霜月「紅茶に香辛料は合わないと思いますが」

雪乃「だからスパイスは不必要です。紅茶に必要なのは砂糖やミルクで、充分に万人受けします」

霜月「魔法師に兵器は必要なく、魔法師に必要なのは魔法。それで兵器として一般人の盾となる、ですか」


雪乃「考え過ぎです」

霜月「ふふ、やっぱり雪乃さんはお母様に似ていらっしゃいますね。性格諸々そっくりです」

雪乃「早くに亡くして正解でした。こんな人間に母親面されるのは酷ですから」

霜月「そう言わずに。対して、雪乃さんと歩夢さんは似ていない。厳密に言えば酷似しているのですが、歩夢さんが『猫』である限り、似ているとは言えません」

雪乃「深夜にも同じことを言われました。私の息子と貴女の『猫』を付き合わせるのは反対だ、って」

霜月「身分や能力としては申し分ない。けれど、歩夢さんは少々、雪乃さんの裏表より厄介な精神を抱えていますからね。.......多分、私にも息子がいたら反対していると思います」

雪乃「返す言葉もありません」

霜月「とにかく年末です。歩夢さんの『猫』はそこで明らかになる。それまでは我慢しましょう。それからが楽しいんですから」

雪乃「......」

戦争をしていた頃にもそんなことを言っていた、と

雪乃は心の中でため息を吐いた

雪乃「(あと九ヶ月.....)」

全てが破綻するまでの時間

長いようで短く、歩夢の症状は劇的に変化するだろう

魔法は完全に禁じられ、日々をベッドの上で過ごす

担当医の夜永からはそう宣告されている

自分の娘が不幸になるのは、半ば嬉しかった

自身の裏が悦び、表が哀しむ

未だに慣れない本来の『自分』にもため息を吐いた



【安価です。
深夜と達也
深夜と水波
深夜と達也と深雪と水波
霜月と雪乃
以外で、何か好きな組み合わせがあればどうぞ
無ければ、諸々終わって、四月に入ります。

ある場合は「達也・深雪・水波・深夜・真夜・霜月・雪乃・夜永・歩夢・葉月」の中からお選び下さい。
ない場合は「無し」など書いていただければ。

安価下。】

達也と葉月

>>171 達也と葉月】

千夜「ほんと葉月さんに似てる.....」

沙夜「そっくりっていうか、本人?」

葉月「だから先祖返りって何度言えば.....」

沙夜と千夜に付き纏われ、葉月はうんざりしていた

奇跡に等しい魔法によって、沙夜と千夜が訴える例の葉月とは少しだけ話したことがある

その時は鏡を見ているかのような錯覚に陥ったことを思い出し、この子達が言っていることも無理はないと、大人の対応をするが失敗に終わる

そんな葉月を助けたのは深夜との会話を終えた達也だった

千夜「あ、達也だ」

沙夜「ぇ.....。ね、千夜、行こ」

千夜「あ、うん。じゃあまたね」

男性に抵抗のある沙夜は千夜の腕を引っ張って、早々に部屋から立ち去った

葉月は救われた立場にあるが、感謝に値しない

ただの偶然にしか過ぎなかったのだから

達也「お取込み中だったか?」

葉月「迷惑していただけよ」

達也「満更でも無さそうだったが」

葉月「斬るわよ」

と、葉月は幻術で隠していた日本刀を達也に見せた

左手で鞘を持ち、右手は柄を握っている

いつでも斬りかかれる居合切りの構えだった


達也「刀のキャラは間に合ってる」

圧力をかけてくる葉月に屈することなく、達也はエリカのことを脳裏に浮かべながら、煽った

葉月「私の方が強いから。その人には違う分野でキャラを確立して貰って」

達也「とは言っても葉月よりも前にエリカは出てるからな。今更だろう」

葉月「刀と魔法の両立。確か達也の記憶によると、千葉エリカは魔法が不得意なのよね? 得意なのはあくまで剣術だけであって。まぁ、剣術だけでも私の方が強いけど」

達也「エリカには二人、お兄さんが居てな」

葉月「刀と魔法の両立をしてるって言うの.....?」

達也「あぁ。多分、葉月より強い」

葉月「....やってみないと分からないじゃない」

達也「パラサイトの一件の際に千葉修次って人の剣術を見たんだが、相当なものだった」

葉月「ま、負けると決まったわけじゃないし」

達也「素の剣術なら負ける.....と思う」

達也自身も驚いていた

まさか自分がここまで葉月に同情するなんて

昨日の敵は今日の友ではないが、可哀想に思えた


葉月は身体と声を震わせ、

葉月「た、達也が私の何を知ってるって言うのよ」

達也「何も知らないが、あれに勝てるのは専門だけじゃないのか? 葉月はあくまで幻術のせんも────」

その刹那、達也の横を斬撃が通った

背後にあったクローゼットは真っ二つに切れ、前倒

葉月「なにか言ったかしら?」

翡翠色の瞳で達也を睨んだ

右手には素人目で見ても業物だと確信できる日本刀

左手には抜かれた鞘が握られていた

達也「いや、なにも」

ほんの少しだけ余所見をしたのは事実

しかし余所見をしていなくとも、刀を抜くシーンは達也でも捉えるのは難しかっただろう

この一撃だけで葉月が専門家であることが伺えた

達也「で、これはどうするんだ?」

真っ二つに裂かれたクローゼットを視界の片隅に入れたまま、達也は葉月に問う


すると葉月はクスッと笑みを零し、

葉月「やっぱり思い通り。達也は幻術に弱いのね」

次の瞬間には葉月が抜いたはずの刀は鞘に収まっていて、クローゼットも元通りとなっていた

達也「全部、幻術だったのか?」

葉月「えぇ、試させて貰ったわ」

達也「.......」

完敗だった、と達也は認める

創造を使わなくとも、ここまでの現実味を帯びた幻術を使えるとは思ってもいなかった

葉月は約半年もの間、歩夢に地獄を見せようとして死体の捏造を行っていたのだ

その幻術の持続性や現実味は折り紙付きである

葉月「それで、ご用件は?」

達也「......いや、さっきとある人がこの屋敷に居る人間の多くが俺よりも強いって言ってたから」

葉月「様子見ってことかしら?」

達也「あぁ。だが、俺には到底勝てそうにない」

葉月「負けを認めるのは良いことよ。無駄な血を流さずに済んだわ。幻術の血さえ流さずに済んだ」

達也「.....参ったな」

葉月「潔く負けを認めた達也に一つだけアドバイス。達也は幻術と相性が最悪に悪い。身体が傷を認めてから発動する“再生”は、幻術では効果的でない。実際には身体が傷ついていないんだから」

達也「なるほど.....」

葉月「私や雪乃は天敵。特に雪乃には気を付けた方がいいわ。あまりにも軽んじていると痛い目に遭う」

達也「分かった。参考になったよ」

葉月「.....せいぜい深雪を護れるようになることね。去年の十一月に創造の世界とはいえ、私に一度殺されているんだから」

達也「万が一になったら葉月を雇う。日給はどのくらいだ?」

葉月「一日三食、従順なメイドさん付きで」

達也「お安い御用だ」

そう言って達也は部屋を出た

もしものことがあれば本当に葉月を雇うことになるかもしれない

お安い御用とはいえ、深雪を護る立場を与えられたのは自分と水波だけだ

葉月に頼るということは甘えるということ

そんなことにならないよう、アドバイスを胸に刻んだ


【安価です。
深夜と達也
深夜と水波
深夜と達也と深雪と水波
霜月と雪乃
達也と葉月
以外で、何か好きな組み合わせがあればどうぞ
無ければ、諸々終わって、四月に入ります。

ある場合は「達也・深雪・水波・深夜・真夜・霜月・雪乃・夜永・歩夢・葉月」の中からお選び下さい。
ない場合は「無し」など書いていただければ。

安価下。】

なし

>>176 なし】


歩夢「──────っ!」

一瞬の油断

それが命取りになるところだった

歩夢の真横を斬撃が通り過ぎ、背後の岩が一刀両断

真っ二つになって地面を揺らす

斬撃というよりは鎌鼬

その切れ味は見事なもので、惚れ惚れしてしまうほど

冷や汗を拭い、歩夢は敵の姿を視界に捉える

翡翠色の瞳でこちらを睨んでくる銀髪の美少女

十二師族が一『葉月』の末裔であり先祖返り

“創造”という唯一無二の強力な魔法の使い手

歩夢と葉月の居る世界も“創造”によるものだった

一から形成される世界

葉月にその知識があれば再現可能

葉月にその知識がなければ妄想で創られる

利便性に富んだ魔法の代わりに、殺傷能力はゼロ

均衡を保つにはどうにも不十分であるが、十二師族の『葉月』はそれを当たり前としていた

よって、先祖返りである葉月もまたそれを当たり前とす

かつて肩を並べて戦った霜月家の末裔である歩夢とは歴然な差がその時点で生まれていた

そしてただでさえ少ないマイナスポイントを補うのは、葉月の左手に握られた日本刀

あれが鎌鼬のような物の発生源

抜刀し、刀を振るだけで岩が斬れるのだ


歩夢はそれに怯えて防戦一方になるのも無理はない

歩夢「(反則でしょ、あれっ!)」

命辛々に鎌鼬を避け、その度に擦り傷が増えていく

体力も限界を迎え始めていた

勝ち負けの拘るつもりは無いが、どうせなら勝ちたい

その一心で、勇気を出して葉月の方へと一歩踏み出した

葉月「もっと直感に頼ってもいいと思うわ」

冷静な声は背後から聞こえ、歩夢は斬られる

どの場面からが創造に上書きした幻術だったのかを知る由もなく、その場にバタりと倒れた

葉月「.......相手にもならなかったわね」

霜月家の血を引いた人間とは思えない呆気なさ

魔法を一切使わせなかったこともある

しかしそれは魔法を一切使えなかった、と捉える

歩夢は戦闘中に発想の機転を利かせない

一旦退くことをまだ知らない

単純な考え方しか出来ない典型的な弱さ

葉月は後が不安になった

葉月「那月が知ったらどう思うか」

こんなに弱い母親を見て、どう思うか

その答えは明確だった



夜永「はい、お疲れ様」

創造の世界から戻ると、歩夢は身体の痛みを訴えた

斬られた傷こそ残っていないが、痛みは確かにある

これはこれで苦痛に値した

夜永「......うん、もういいよ。二人とも、部屋に戻るなり好きにして」

戦闘を終えた二人の表情を見て悟る

今回の実験の目的は歩夢の病気の進行具合

結果は芳しくなかった

葉月が一度たりとも歩夢に魔法を使わせなかったから

しかし同時に葉月が頼れる人間であることが判明する

あれだけの戦闘力があれば歩夢を護れる

彼女を頼りにして、夜永は今回の実験を締め括った


【自由行動です。
1.雪乃と話す
2.夜永と話す
3.葉月と話す
4.外に出る(京都)
安価下。】

3

>>180 3.葉月と話す】

ー4月1日・四葉本邸ー

葉月「達也への誕生日プレゼントは決まった?」

新年度を迎えて数十時間

四月一日の午後に唐突に問われた

歩夢「あ、ううん。まだ何も」

葉月「直前になって慌ただしくされるのは御免よ? 私は歩夢に付き添って行動しないといけないんだから」

新年度より、葉月は君影家と養子縁を結んだ

しかしそれは戸籍上ではなく、あくまで口約束

君影家は葉月に居場所と金銭面のサポートをする代わりに、一人娘の歩夢の用心棒を要求した

葉月にとって女一人を守ることは容易い

それで帰る家と三食の温かいご飯が食べられるのなら、万々歳であった


歩夢「あぁ、うん。すぐに決めるよ」

葉月「もう一層の事、身体でもプレゼントすれば? 達也だって男の子なんだし、それが一番喜ぶでしょう」

歩夢「達也くんはそういう男性ではありません! もっとプラトニックな関係を......」

葉月「もう今更だとは思うけれど......まぁいいわ。歩夢がそうしないって言うならそれはそれでいいや。歩夢の誕生日プレゼントのセンスも見れるし」

歩夢「圧力をかけるのはやめて」

葉月「大方、貰ったお財布の色違いでも考えているのでしょう? 第三者から言わせて貰うと、その選択肢は無いわね」

歩夢「.......! べ、別にそんなこと考えて.....ないもん」

葉月「CADに次いでネックレス。これ以上の共通の品を持つのはちょっと引くわ」

歩夢「.......」

葉月「腕時計が妥当、と言いたいところだけど、魔法師が腕時計を付けるのもちょっとね。すぐに傷が付いて、壊れそうだし」

歩夢「じゃあデートは?」

葉月「誕生日プレゼントにデート? 日常で行うカップルのお出掛けがデートじゃないの? 特別な日にデートに行ったりするものかしら。それこそホテルのレストランを予約して一緒に行く、とかしないと」

歩夢「うーん」

少々口が悪くても、葉月は歩夢の相談に乗った

第三者の視点から真面目に良い点と悪い点を指摘し、歩夢の考える誕生日プレゼントの案を次々に潰していく

あれこれ議論を続けたところで、

歩夢「じゃあ.....手料理とか」

葉月「無難かもしれないわね。達也の家には深雪と水波が居るから、当日は難しくてもその前後日で手を打って貰えば」

歩夢「うん、そうする。ありがと」

葉月「これも用心棒のお仕事の一環よ」

用心棒というよりは深夜にとっての穂波

深雪にとっての水波のような関係

頼もしい限りだと歩夢は思う


歩夢「で、手料理ってなにを作ればいいの?」

葉月「それはもちろん達也の好きな料理よ」

歩夢「.......なんだろう」

葉月「そこからは深雪に相談しなさい。彼女が一番よく知ってるはずだから」

歩夢「そうしてみる。何から何まで本当にありがとう」

葉月「別に.....これくらい大したことじゃないわ」

プイっと葉月はそっぽを向いた

その姿は照れ隠しであることが丸分かりで、歩夢はクスッと苦笑を漏らす

すると葉月が左手に握った日本刀を抜こうとし、歩夢は慌ててそれを止めた

養子として引き取られた本日から

二人の関係は良い方向へと急発展し始める


【安価です。
1.雪乃と話す
2.夜永と話す
3.真夜と話す
4.達也の誕生日までスキップ

原作の時系列は12巻に突入しました。
達也の誕生日の際に、達也の口から12巻のあらすじというかダイジェストを告げます。

安価下。】

4

>>184 4.達也の誕生日までスキップ

原作的に達也の誕生日(4月24日)あたりはバタバタとしていたので、4月30日に達也の誕生日を祝うことにします。
その日は歩夢と達也が付き合い始めてちょうど一年ですので、都合が良いかなと考えた次第です。】

ー4月30日・夕方ー

歩夢「ご飯と夕飯と夕食と晩餐と....どれがいい?」

達也「食事という選択肢しかないんだな」

歩夢「じゃあ一応聞いておくけれど、ご飯とお風呂と私だったらどれがいいの?」

達也「歩夢だな」

歩夢「.....本気?」

達也「冗談だ。俺が葉月に殺されてしまう」

歩夢「.......」

達也「不服そうだな?」

歩夢「別に.....不服とかじゃないから。私の魅力と葉月の戦闘力を天秤に掛けた結果、私の魅力が負けたとかは気にしてないから」

ぷいっ、と歩夢はそっぽを向いてしまう

わざとらしいその姿に達也は、

達也「もし俺が歩夢を本心で選べばどうなるんだ?」

歩夢「え....あぁ....うーん....冗談だと受け止め、る?」

達也「前みたいなことは?」

歩夢「......達也くんが望むなら」

今度は恥ずかしさのあまりに目を合わせられず、歩夢は頬を赤く染め上げて俯いた

達也「とりあえず....食事だな。まだ時間は早いが、早めに済ませて、残りの時間は歩夢と話したい」

歩夢「......待ってて。すぐに作るから」

赤くなった顔を隠したまま、歩夢はキッチンへ

この調理場は三年間、毎日のように立っていた

第二、第三の自宅ではなく、ここは東京の君影家

歩夢と達也の二人きりの空間

まるで同棲、もしくは新婚のようなシチュレーションに歩夢は気が付くと、より一層に緊張した

包丁での怪我を避けつつ、記念日に相応しい食事の準備を始める


【安価です。
1.新年度になって何かあったか
2.今晩のこと
3.葉月のこと
4.その他
安価下。】

1

>>186 1.新年度になって何かあったか】

夕食の下準備を終えた歩夢は達也の隣に座った

恋敵の深雪を意識したのである

しかしこれは空回りへと繋がり、余計に気まずくなる

数十秒の沈黙が君影家のリビング内の空気を悪くした

自分の家に居心地の悪さを感じるなんて思いもしなかったが、ここで引いたら負けを認めるようなもの

そう考えた歩夢は積極的に話題を振った

この約一ヶ月で何か変わったことはあるか

達也らは進級し、一学年下の後輩が出来た

その辺りを歩夢はじっくりと聞きたかった

達也「今年の新入生の総代が七宝拓磨というやつで、こいつがまた厄介で骨が折れた」

歩夢「それは慣用句? それとも本当に骨を折ったの? なら、その七宝っていう人に報復を......!」

達也「物の例えだ。七宝は俺に苦労をかけた。それだけで、決して怪我をした訳ではない」

先入観にとらわれて感情的になる歩夢を宥めて、達也は順を追って話した

達也「例年、総代は生徒会への入会を勧められる。昨年の深雪がそうだったようにな」

達也「だが、七宝はそれを断った。その理由は強くなりたいから、部活をやると」

達也「生徒会は七宝を諦め、次は順当に次席の七草香澄に生徒会への入会を勧めた」

達也「歩夢は七草香澄を知ってるんだったな。七草真由美先輩との繋がりで」

達也「話を戻すが、結果は芳しくなく、香澄も生徒会への入会を断った。生徒会にも尊厳がある」

達也「誰でもいい訳ではない。よって、次は香澄の双子の妹の七草泉美を誘った」

達也「ここに来てようやく、快諾。彼女は深雪に憧れているらしい。生徒会の新人枠はそれで一段落ついた」

達也「それから少し問題があって、つい先日。香澄の挑発を七宝が買い、喧嘩が起きた」

達也「二人は『七』の姓を持つ者同士だ」

達也「それに性格的な面でもいつか喧嘩が起こるんじゃないかと噂になっていた」


達也「七宝は自惚れをして、対戦相手に七草の姉妹を選んだ。香澄だけでなく、泉美もセットだ」

達也「模擬戦の結果、ルール規定以上の殺傷能力がある魔法を七宝が使い、七宝を負けとした」

達也「しかし七宝は駄々をこねたというか、言い訳をしたところで香澄が勝ちを譲った」

達也「これが余計に屈辱だったらしく、七宝はその場から逃げた。その後はよく分からないんだが、ライバルとして認め合ったとか」

七宝拓磨がどういう性格をしているのかは理解できた

だが、歩夢が気になったのは達也の話し方からして主人公な七宝よりも七草の姉妹のことだった

歩夢「あの二人がねー」

達也「意外か?」

歩夢「いや、人は少し見ないうちに変わるものだし、年頃の女の子なら尚更だよ。でも、本当に驚いた。私の予想以上に二人は大人になった気がする」

達也「.....そういうものなのか」

女がどういう生物なのかは未だに理解できていない

特に妹の素行には悩まされている

水波もまた変わるのだろうか

達也の中で大きな不安が生まれた

歩夢「私や深雪ちゃんだってその枠組みに入るからね? せいぜい私が他の男に惚れないよう、私の瞳の中で輝き続けることね」

達也「今度はどの小説の台詞の引用だ?」

歩夢「本心で言ったんだけどなぁ」

パッと思いついた言葉を素敵だと自画自賛し、達也に披露したが彼的にはポイント低かったようだ

達也「かなり省いたが、この一ヶ月であったことはこのくらいだな。退屈はしないが、忙し過ぎるのも考えものだ」

歩夢「私はずっと葉月と遊んでいたから少し羨ましい。彼女は火種を確実に潰しちゃうから」

達也「トラブルに巻き込まれっぱなしの俺からすると羨ましい話だな。叔母上に葉月を深雪のガーディアンに出来ないか相談してみるか......」

歩夢「水波ちゃんのことを信じてあげなよ」

達也「水波のことは信頼している。用心はしておいて損はないということだ」

歩夢「まぁ.....そうだけど」

達也の案が正式に叶うことはない

葉月は歩夢のガーディアンをしているのだから

なんだか申し訳ない気持ちを堪えて歩夢は、



【安価です。
1.夕食にする
2.今晩のこと
3.葉月のこと
4.その他
安価下。】

>>189 2.今晩のこと】

歩夢「ねぇ、達也くん。今晩は泊まっていくの?」

達也が興味ありそうな話題を振る

すると話は簡単に進路を変えて『今晩のこと』になった

達也「深雪にはどちらでもいいと言われている」

歩夢「許可は取ってある、と」

少なくとも凍え死ぬことはなくなった

時間を気にせず、達也と二人きりの時間を楽しめる

気分が高揚してくるのを感じた

歩夢「誕生日プレゼントは私の手料理に加えて二人きりで過ごす時間だけれど、付き合い始めて一年の記念のプレゼントはまだだったね。私を独り占め出来る権利とか」

達也「それは誘っているのか?」

歩夢「さぁ? どうでしょうか」

達也「......変なところで成長したな。前の歩夢ならセクハラとか言って突き放したのに」

歩夢「成長させたのは達也くんが意地悪だからだよ」

どちらも退かずに小さな冗談交じりの口論をした

相手のことが嫌だとかは一切思わず、ただ楽しむために

有意義な時間を過ごした


達也「今夜は泊めさせて貰う。他のことは後で考えよう」

歩夢「他のこと? ふふ、なにかな?」

調子に乗り始めた歩夢に達也は粛清を下した

隣に座る歩夢の耳元で単語を幾つか囁く

次第に歩夢の顔は真っ赤になり、俯いた

歩夢「意地悪なんだから.....」

達也「昔からこうだろう?」

歩夢「.....そうだね。達也くんは昔からそうで、私はそこも含めて惚れたのでした」

達也「そういう正直なところに惚れた」

歩夢「もうっ! やめろよーっ!」

歩夢はクッションを達也に投げつけた

しかしそれは片手であっさり止められ、失敗に終わる

歩夢「はぁ......。なんで惚れたんだろ」

そう俯き気味に呟きながら歩夢はキッチンへと向かった

歩夢「夜ごはんにしよっか」

達也「あぁ」

ついさっきまでの口論は纏まらずして消滅し

歩夢は達也の誕生日を祝うための最終段階へと入った


【安価です。食後。
1.葉月について
2.歩夢「お風呂、入ろ?」
3.歩夢「深雪ちゃん達、今頃どうしてるかな?」
4.その他
安価下。】

3

>>192 3.歩夢「深雪ちゃん達、今頃どうしてるかな?」】

一段と豪勢な夕食を済ました二人は食後の休憩をする

今度の席の配置は向かい同士

歩夢が二の舞にならないよう、達也の隣を避けた

いつの通りの配置で一休みしたところで、

歩夢「深雪ちゃんたち、今頃どうしてるかな?」

ふと思いついた話題を振ってみた

特別な意味はなく、達也と話すための話題に過ぎない

達也「葉月が日本刀を振り回してなければいいな」

歩夢「流石にそれは.....無いと思う。一緒に暮らしてみて分かったけど、味方には優しい子だから。少なくとも深雪ちゃんや水波ちゃんには刀を向けないよ」

達也「そうだといいんだが」

歩夢「まだ信用できない?」

達也「微妙なところだ。葉月が深雪を殺そうと思えば抵抗をさせずに殺せるからな。拮抗すらさせない力というものは誰もが恐れる」

歩夢「つまり葉月が深雪ちゃんのガーディアンをすれば、この上なく頼りになるってこと?」

達也「そうなるな」

このときの達也はつい一月前のことを思い出していた

一日三食、従順なメイドさん付き

腕の立つ魔法師の二十四時間を買うのには安い対価

魔法師の警備会社よりも格安だろう

それでいて警備の質は約束されている

条件次第では兄妹の絆を越えて役に立つかもしれない

達也「(いや、違うな)」

価格が問題ではない

自分が葉月を信用するかどうか

深雪に葉月を付けるときは、葉月を信用したとき

『信用』の基準を考えさせられた


歩夢「あ、でも、深雪ちゃんが葉月の髪で遊びたいって言ってた。あの銀髪は珍しいから」

達也「髪で遊ぶ?」

歩夢「三つ編みとか? 私はよく分からないけど」

達也「女子はそういうことをするのか」

歩夢「いや、私は知らないよ。されたこともしたこともないんだから。一般的な女子同士のスキンシップの一例なんじゃないかな、って私は思うよ」

達也「興味はないのか?」

歩夢「あんまり。大して面白そうじゃないし」

達也「一般的な女子を否定したな」

歩夢「席で静かに読書をするか、窓の外を眺めることしかしてこなかった私に一般的な常識は通用しないよ」

高校時代はともかく、中学時代はずっとそうだった

と、歩夢は感慨深く話す

達也「女子は難しいな。異性だから余計に難しく見えてしまうことを考慮しても、難しい」

歩夢「お母さん程ではないけれど、もしかしたら私に裏の顔があるかもよ? 身近な深雪ちゃんにだってあるかもしれないし、水波ちゃんにだってあるかもしれない。少なくとも結婚に辿りつくほどの信頼関係を築くのであれば、裏も表も知っておいた方がいいよ」

達也「歩夢の裏を教えてくれるか?」

歩夢「残念だけど、私はそこまで器用じゃないから。それに裏あるかどうかなんて不明瞭だし。お母さんのようなハッキリしたものがあればいいんだけど」

達也「そこまで裏にこだわる必要も無いけどな。表だけで歩夢は充分に魅力的だし、なんなら裏は咲夜に担って貰えばいいじゃないか」

歩夢「んーと、えっとね。......そういうことじゃないんだよ。私と咲夜は二心同体。あくまで精神は別々のものだから、融通は利かないの。私にしか分からないことだから達也くんからすれば意味不明だと思うけど」

達也「難しいな。歩夢と咲夜の関係は」

歩夢「一緒に居られることは幸せなんだけどね」

いつでもどこでも咲夜と一緒

それだけで歩夢は何度か救われてきた

寂しいときも咲夜に励まされ

病気を患って暇しているときも話し相手になって貰った


掛け替えの無い存在だと認識したのは二心同体となってすぐの事だった

歩夢「ちなみにだけど、咲夜は葉月と気が合う」

達也「意外だな」

歩夢「孤独を知ってる仲で話が合うんだよ」

葉月は子供の頃に両親共々を亡くしている

それからはずっと一人だった

咲夜も生まれて間も無くに両親を亡くし、立て続けに一時的に敬愛していた姉まで失った

一人でいた時間が長い者同士で気が合っていた

達也「こうやって考えると、十二師族の血は短命なのかもしれないな。雪乃さんのご両親も......歩夢? どうかしたか?」

歩夢「ん、あぁ、ううん。なんでも」

達也「......不謹慎だったかもしれないな」

歩夢「お互い様だよ」

身近な者の寿命の長さは違えど、結局は同じ

特に歩夢にとっては『短命』が深く心に突き刺さった

歩夢「(......早めに言った方がいいんだよね)」

自分の寿命があと三年も無いことをいつ打ち明けるか

タイムリミットが歩夢に迫っていた

【安価です。
1.達也の隣に座る
2.歩夢「お風呂、入ろ?」 (話が進みます)
3.歩夢「ゲームでもする?」
4.その他
5.就寝までスキップ
安価下。】


>>196 3.歩夢「ゲームでもする?」】

どんよりとした空気を打ち砕くために、

歩夢「あ、そうだ。達也くんはゲームとか好き?」

男の子が好きそうな話題を振る

自らの趣味の一つがゲームということもあって、新たな共通点を見出せると思ったからだ

話が合わなくてもプレイさせれば楽しめる

どちらに転んでも良き結果を期待できた

達也「人並み.....なのかは分からないが、そこそこ」

歩夢「どんなゲームが好きなの?」

達也「スピード感のあるゲーム」

歩夢「.....そ、そう」

達也「苦手か?」

歩夢「一瞬の判断で死んじゃうようなゲームは苦手。モンスターを狩りしたり、FPSの類とか」

達也「歩夢はRPGが好きそうだな」

歩夢「うん、好きだよ。ストーリー性もあるし、技を選ぶ猶予もしっかり与えられているし。技術よりも時間と知識を求められるゲームが専らかな」

達也「歩夢らしいな。それで、なんのゲームをやるんだ?」

歩夢「ツイスターゲーム」

達也「.......? すまん、分からない」

歩夢「いや、冗談で様子を見るために言ったんだけど.....まぁ、知らないなら知らないでいいや。達也くんとやるゲームはこれ」

と、歩夢が選択したのはボードゲーム

大人数で遊ぶのに特化したゲームと言えばこれだった

プレイヤー二人に加えてCPUを二人

合計四人でプレイを開始した


歩夢「やったことある?」

達也「この類は無いな」

歩夢「じゃあ説明を交えながらリハーサルね」

プレイヤーは開始時点での所有金は一千万

そしてサイコロを振り、それぞれがとある目的地へと向かって競合して行く

達也「この青いマスは?」

歩夢「お金を貰えるところ。資金を増やせる」

達也「赤いマスは.....その逆か」

歩夢「お金を取られちゃうから気を付けて」

達也「この黄色のマスは?」

歩夢「自分を有利にしたり、敵を邪魔したりするカードがランダムで貰えるところだよ。例えばだけど、自分のサイコロを二個に出来たりする一方で、敵の道を阻んだり。プレイヤーの性格が表れるね」

大雑把な説明を受け、達也はリハーサルを終えた

練習段階では達也はまずまずといったところ

戦法の他に当然ながら運も絡んでくるようだ

特に長期戦となる本番においては、資金を活用して物件を買うことが重要となる

奥が深いゲームだと認識すると同時に興味が湧いた

歩夢「罰ゲームでも設ける?」

達也「さすがに俺が不利すぎないか? 初心者だぞ」

歩夢「ゲームの慣れっていうのはもちろんあるけど、このゲームにおいては運と頭の使い方が大きく絡んでくるから、そこまで差は無いと思うよ」

達也「......どうだかな」

歩夢「まぁ、CPU相手に歴戦を潜り抜けた私に敵なしだけどね」

達也「分かった。罰ゲーム有りで勝負だ」

安い挑発を受け、達也は挑戦に乗った

CPUを含めた戦いなので、最終順位が一位でなくとも上位の方が勝利とルールを決めて戦いの火蓋が切って落とされた


【安価です。コンマ1桁。
奇数・0:歩夢の勝利
偶数:達也の勝利
安価下。】


>>199 5:歩夢の勝利】

一時間に渡る激戦の末に、勝利したのは歩夢だった

一位が歩夢で、二位が達也で、それ以下がCPU

歩夢と達也の最終結果の差は微々たるもの

最後に経験の差が出たと言うところか

歩夢「楽しかった?」

達也「負けたから楽しくない」

歩夢「ふふっ。とにかく、罰ゲームね」

このような形で歩夢が達也に勝ったことは少ない

その表情から察せるように、歩夢は楽しんでいた

歩夢「何して貰おうかなー」

意気揚々と達也への罰ゲームを考える

あれこれと思いつくが、パッとしたものはない

嫌われたら嫌だ、というフィルターが働いていた

悩みに悩み、悩むべくして悩んで

歩夢「決めた」

数分をかけて歩夢は達也への罰ゲームを口にした


【安価です。
達也への罰ゲーム。
あまりにも変であったり、進行上不可能なものは再安値させて頂きます。ご了承ください。

安価下。】

今度はみんなで遊びにいく約束

>>201 今度はみんなで遊びに行く約束】

歩夢「今度はみんなで遊びに行こ?」

達也「それは構わないが......罰ゲームじゃないのか?」

歩夢「私たちのために時間を作って。それが例えどんなに忙しい時でもね」

達也「.......分かった。それでいい」

歩夢「約束だよ?」

達也「あぁ、約束だ」

多忙な達也の予定を約束で取り付けた

これで必ずもう一度だけ

歩夢はこの約束を使う日は決まっている

二,三年後の縮めた寿命を終える間際

最後に一つくらい思い出を作ってもいいはずだ

自分がそこに居たという結果を残したい

約束は約束で、破ったら許さない

未来への布石をゲームで決めたのだった

歩夢「さて、と。ゲームはもういいか」

なにをしよう、と歩夢は自分に問いかける


【安価です。
1.達也と話す
2.達也とお風呂
3.色々飛ばして就寝手前

安価下。】

3

>>203 3.色々飛ばして就寝手前】

入浴等を済ませて、夜も深まってきた頃

歩夢「明日は学校だよね」

達也「明日というか、もう今日だけどな」

歩夢「九重先生のところには行くの?」

達也「そのつもりだ」

歩夢「じゃあ、早く寝ないとね」

万が一にも寝坊をさせてしまったら大変だ

学生の本分は勉強なのだから

ということで、歩夢はそろそろ寝ることを提案した

眠い眠くないに関わらず、体を休めることは大切

日々重労働な達也を労わるためでもあった

歩夢「それで、何処で寝たい?」

達也「選択肢があるのか?」

歩夢「私の部屋か空き部屋の二択」

二つの選択肢に、達也はまず歩夢の部屋のベッドの大きさを確認することを提案した

十代の女子のベッド

深雪と同じく、やはりそれほど大きな物ではなかった

二人で寝れば少し手狭いと感じてしまうほど

裏を返せば不可能ではないが、合理的でもない


歩夢「達也くんが彼女のベッドで寝たいって言うなら......達也くん? どうしたの?」

仕方がない、と歩夢は自らが空き部屋での就寝を提案しようとするが、達也はその話を聞いていなかった

他の物に集中していて、聞こえていなかった

達也の視線は山積みにされた本の一纏まり

ジャンル別されてると思しき一つの山

そこまで行って、一冊を適当に手に取った

達也「戦争に興味あるのか?」

表紙には大きく1世紀半ほど前に行われた世界規模の戦争の見出しが記されていた

歩夢「ううん、ただ知りたかっただけ」

達也「この国の歴史を?」

歩夢「この国に限らず世界の歴史を」

達也「......そうか」

歩夢「意外だった?」

達也「正直、意外だった。戦争はどうしても人が死ぬ。勉強したいことがあるからと言って、歩夢が進んで読むようには思えない」

歩夢「ハッキリ言うなぁ.....」

彼氏が普段自分に対してどのような印象を持っているかを知ると同時に、冗談で済まされるショックを受けた


達也はペラペラと適当に読んでいた本を元の場所に戻し、項垂れる歩夢に焦点を合わせた

達也「もしも再び戦争が起こったらどうする?」

歩夢「大切な人を守るために私は戦う。友達と家族。それ以外は見捨てる覚悟で」

いつだかに夜永から受けた質問

『歩夢さんは何のために魔法を使うのか』

あの時代の人達から話を聞いて見出した自分なりの答え

真っ直ぐ、達也の目を見て歩夢は言うことが出来た

達也「.....この一年で成長したな。昔の歩夢だったら自らを犠牲にして他の命を助けていた」

歩夢「その頃は私にも色々あったから」

自分の命の価値は低い

そして他の者の命の価値は尊い

自殺志願で入学した頃を思い出す

達也「戦争が起こらないためにはどうしたらいい?」

歩夢「人類が滅ぶのが手っ取り早いよ」

達也「違いないな」

物騒だが、的は射ている

軽いジョークのように二人は苦笑を漏らした

そこが一段落の付け目だったのか、

歩夢「それでどうするの? どこで寝たい?」

と、歩夢は達也に訊いた

すると達也はさぞ当たり前のように図々しく、

達也「歩夢と一緒に居たい」

錠が外れて情が湧く

深夜の言っていたことはやはり正しかった


【安価です。
1.早朝(男女の行為あり)
2.早朝(男女の行為なし)

安価下。】

2

>>207 2.早朝(男女の行為なし)】

九重「おや、今日は君影のお嬢さんも一緒なんだね」

歩夢「ご無沙汰しております」

二人が最後に会ったのはパラサイト事件の真っ只中

歩夢が結城香夜としてリーナと決闘した夜のこと

あの時はまともな挨拶も出来なかったため、今回はこうして挨拶をすることにした

その間に達也は多くの修行僧との修行に励む

九重「達也くんのついでに稽古でも受けていくかい?」

歩夢「いえ、私は体術はからっきしですので.....」

九重「でも運動はしておいた方がいいと思うよ。その身体が最も早く唸りを上げるのは体力だ。今のうちから体力を付けておかないと、数年後に苦しい思いをするだろう」

歩夢「......ご存知なんですか?」

九重「年長者の思いつきだよ」

歩夢「.......」

変に見据えられて、見透かされている

お世辞にも気持ちが良いとは言えない

歩夢「では.....少しだけ」

九重「目を使ってくれて構わないからね」

歩夢「はい」

体術はからっきしで、魔法は使えない

必然と歩夢が使える手は一つだった


合図も無しに彼らは歩夢に飛びかかった

しかし歩夢はそちらに目もくれず、圧力をかけるだけ

彼らの手は標的に一歩届かず、その場で気絶した

九重「体術も魔法も使えないのなら、瞳を使う。一年前の君なら考えもしなかった戦法だろう」

歩夢「......」

再び歩夢に修行僧が飛びかかった

今度は先ほどのとは熟練度が違う

歩夢の瞳でも簡単に意識を奪えない相手だ

九重「そして、彼女の存在」

やはり修行僧の手が歩夢に辿り着くことはなかった

歩夢は元より瞳を使っていない

修行僧の行く手を阻んだのは銀髪を揺らす少女

地面に日本刀で一線を引き、牽制をしてみせた

闘いまで勝負を持ち運ばせない

彼女ならではの手段である

歩夢「ありがと、葉月」

葉月「.....別に」

視線を落として葉月は簡素に応対した

見事な太刀筋に九重は数回ほど拍手をし、

九重「君たちは勝負には勝ったけど、目的が達成出来ていない。目的は君影のお嬢さんが運動することだったはずだよ」

つまり勝負はこちらの勝ち、と

九重は笑みを浮かべて言った


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:九重と話
偶数:司波家へ帰る
安価下。】

そいや

>>210 1:九重と話】

九重八雲が住職を勤める九重寺

歩夢と葉月はそのお寺の本堂へと案内された

約一ヶ月間、葉月と共に観光目的として京都のお寺を巡ってきたがこのお寺は一風変わっていた

何処が変わっているのかと訊かれれば答えに苦しむ

強いて言うなら雰囲気

京都のお寺の雰囲気とは決定的に違う部分があった

本堂へ案内された歩夢と葉月は自然な流れで正座をした

九重「こうして見ると滑稽というか秀逸な組み合わせだね。何百年も前に昔に手を組んでいた霜月と葉月が現代で再び手を結ぶなんて」

歩夢「いけないことですか?」

九重「いやいや、むしろ良いことだよ。危険な存在は一塊になっている方が監視し易いからね。もっとも、僕らに君達は監視出来ない訳だけど」

葉月「夜永か雪乃ね」

九重「どちらとは言わないけど、圧力をかけられてね。ほんと頭が上がらないよ、彼女に限らず、彼女らには」

九重は言葉を濁した

そうすることにより歩夢の興味を引くことは出来たが、しかし葉月の興味を引くことは不可能だった

未だに敵意を剥き出しにし、幻術で隠した刀をいつでも抜けるような姿勢を保っている


九重「どちらかを教えることは出来ないけど、二人の話をしよう。まずは瓊々木夜永から。彼女には昔にお世話になってね。今から三十数年前のことだ」

歩夢「三十......」

自分が一時的に母と同級生になった頃より少し前

夜永は目の前の人と会って、何かしらの助けをした

九重「極端に言ってしまえばそのくらい。僕が一方的に瓊々木夜永の世話になっただけ。そして、君影雪乃にも一方的にお世話になった。感謝の度合いでは同じくらいだね」

歩夢「それで.....?」

九重「これ以上は何もない。ただ僕が二人のお世話になったということだけだよ。詳しく話してしまうと、僕に圧力をかけた人物像が浮き出ちゃうからね」

歩夢「.......」

結局なにがしたかったのか

よく分からない人だ、と

歩夢はぎこちなく嫌な気分にさせられた

九重「今回、君達を招いたのは他でもない。僕の代わりに挨拶をして欲しいんだよ。瓊々木夜永と君影雪乃の両名に。よろしくって伝えるだけでいい。特別な暗号とかじゃなく、ただ二人には頭が上がらないだけだよ」

歩夢「それくらいなら.....。分かりました」

九重「頼んだよ」

歩夢「はい」

九重「話は以上だ」

と言って、九重は立ち上がった

歩夢と葉月に何かをすることもなく、たった一つの出入り口を開き、二人の退室を促す

二人は一瞬だけアイコンタクトを取り、素直に出た

余計な詮索をせずに、無抵抗に

葉月「そこそこ信用できる人ね」

歩夢「私は怪しいとしか思わなかったけど」

葉月「敵意が全く感じられなかった。隠している様子もなく、本当に微塵も」

歩夢「.....そう」

私にはそもそも分からなかった、と歩夢は嘆く


葉月「(護られる側が気にする必要無いのに)」


【安価です。
1.司波家で朝食
2.司波家で朝食を飛ばして、その後
安価下。】

2

【かなり訂正です。
作品内の日付の4月30日および5月1日はゴールデンウィーク真っ只中でした。
ですので、4月30日はともかく、5月1日は学校を休みにします。
申し訳ございませんでした。

>>213 2.司波家で朝食を飛ばして、その後】

水波「もう嫌です」

朝食を済ませた水波は歩夢を自室へと連れ込み、疲れ切った表情で弱音を漏らした

何が嫌なのかは容易に想像がつく

歩夢「達也くんと深雪ちゃんのこと?」

水波「......はい」

家では仲睦まじい兄妹の姿を眺めるばかりで

学校ではあの兄妹が家でどうなのかを訊かれる

そんな生活に水波は一ヶ月で挫折したのだった

正確に言えば、水波がこの家に居候するようになって僅か一週間で歩夢に助けを乞うた

その時は達也と深雪を擁護する訳ではないが、フォローという形で水波の憤りに近い熱を沈めた

しかしこうして直接相談されては有耶無耶には出来ない

歩夢「困ったらいつでも私に相談していいから」

水波「.......ありがとうございます」

歩夢「で、差し当たっては何が嫌なの?」

水波「私────他人が居る前で兄妹愛を見せるところです。仲がよろしいのはこの上なく結構なことですが、達也様と深雪様はご友人の前でも家と変わらず......」

歩夢「ほどほどにしろ、と」

水波は力強く頷いた

対して歩夢は対策を練るために神妙な面持ちをする

歩夢「(どうしたものか)」


【安価です。
1.水波からもう少し詳しい話を聞く
2.葉月に相談
3.達也と深雪に話に行く
安価下。】

1


>>215 1.水波からもう少し詳しい話を聞く】

歩夢「参考までに、達也くんと深雪ちゃんはどんなことをしていたの?」

水波「お寛ぎになる際の席は隣同士」

歩夢「うん、いつも通りだね。他には?」

水波「ケーキを食べさせあったり」

歩夢「......ん?」

水波「膝枕をしたり」

歩夢「.....あれ?」

水波「稀にですが、二人でキッチンに立つことも」

歩夢「......私とは遊びだったのかな?」

想定していたのはそこそこな兄妹愛

しかし水波の話を聞く限り、恋人同士のようだった

自分とよりも恋人らしい、と歩夢は呆れを感じる

嫉妬や憤りの類にならなかっただけマシなのか

歩夢は小さなため息で意識をリセットした

歩夢「話の内容とかは?」

水波「学校であったことが多いですね」

歩夢「......なるほど」

達也と深雪は共通の友達が親友である

深雪は雫とほのかのことを

達也はエリカやレオ達のことを

毎日学校で起こったことを話し合っているのだろう

共通認識を持った話題はお互いが楽しめる

この兄妹における最も適切な話題の一つだ


歩夢「ちなみにだけど、私の話は?」

水波「私が聞いた限りでは全く」

歩夢「.....嬉しいような、悲しような」

楽観的に捉えるか、悲観的に捉えるか

非常に難しい決断である

歩夢「とりあえず......うん、わかった。そういうことを含めて、なんとか伝えてみるよ。どう転ぶかは分からないけど」

水波「お願いします」

歩夢「お願いされました」

頼れる『歩夢姉さま』になれたか

その真実は知り得ない

しかし結果として自己満足がそこに残る

歩夢は自己満足のために水波を助けようとしていた

そのためならば自己犠牲も厭わない

歩夢「(とは言ったものの)」

水波の言い分を直接二人に伝えるのは憚られる

使用人のただの文句なのだから

どうにかオブラートに包み、遠回しに旨を伝える

ただでさえ口下手な自分がどこまで尽力できるか

可愛い後輩のためにどこまで尽力できるか

ただただ先行きが不安になるばかりであった


【安価です。
1.葉月に相談する
2.達也と深雪に話に行く
安価下。】

>>218 1.葉月に相談する】

歩夢「ってことなんだけど、どうすればいい?」

葉月「......なぜ私に相談したのかしら?」

歩夢「頼れる人が他に居なかったから」

消去法によって選ばれた葉月は表情をしかめる

そして一度、大きなため息を吐いた

葉月「それで私に相談した、と」

歩夢「うん、何かいい方法はない? どちらも傷付けないで穏便に済ませる方法」

葉月「.......冗談で言ってるのよね? どちらも穏便にすませる方法────みんなが幸せになる手段なんてあるはずが無い。誰かが幸せになるという事は、必然と誰かが不幸になる事を意味するわ」

歩夢「怒るなよー.....」

葉月「怒ってない。でも、みんなが平等になる方法は一つだけある。みんなが不幸になればいいの」

歩夢「それだと誰も救われないよ?」

葉月「幸か不幸か。それは例えるなら貧富の差。幸ある人間は富を持つ。不幸な人間は貧しい暮らしを強いられる。これがどちらも幸の場合、どうなると思う?」

歩夢「富を持つ人間が二人で.....損になる争いを避けて無干渉?」

葉月「逆。人間はどうしても欲が付いて回る。富を持つ者は更なる富を得ようとするわ。お互いが損になる争いを避けることは出来ず、干渉し合う。だからみんなが幸になる人生はあり得ない」

歩夢「.......」

葉月「対して、どちらも最初から貧しい場合。失う物を持っていない者同士。.....もう分かった?」

歩夢「......うん。ありがと」

葉月「少し話は大袈裟だったけれど、根本的なことは変わらないわ。みんなが幸になることはあり得ず、みんなが不幸になることはあり得る。理不尽な世の中よね」

少し大袈裟な話が丁度良かった

勉強になり、教訓となった

みんなが不幸になる道を選択するとすれば、

歩夢「で、どうすればいいの?」

葉月「自分で考えなさい」

冷たい声色で怒られ、歩夢は大人しく引き下がった

斬られることを怖れて引き下がる

歩夢「(不幸に.....か)」

オブラートに包む必要もなく

遠回しに旨を伝える必要もない

結局最後に行き着くところはシンプルな答え

歩夢の足取りは一転して軽く、リビングへと赴く


【安価です。コンマ1桁。
奇数・0:水波の苦情を伝える
偶数:苦情を伝える前に出掛けようと申しだされる
安価下。】

ほい

>>220 7:水波の苦情を伝える】

お互いが平等に不幸になる方法

歩夢が行き着いた結論は至極真っ当で単純な物だった

歩夢「水波ちゃんがもう少し距離を置いて欲しいって」

名出しにより水波は二人に気を遣う

達也と深雪は居候の水波のために改善を強いられる

両者とも己が不幸だと思っているのかどうかは分からないが、これを機に生活が少しだけ変化する

その少しの変化こそが歩夢の考える不幸

第三者の考える不幸であった

居候からの意見に宿主の二人は意識する、と応えた

直後の変化こそ見られないが、今後変化して行く

時間と共に変わって行き、最後は兄離れと妹離れ

歩夢にとってもそこそこな好都合だった

歩夢「(妹付きの結婚は......ちょっとね)」

水波にとっての好都合は未来の歩夢にとっての好都合

思わぬ機会で未来を見通せた

棚から牡丹餅に近い感覚で、後輩のお願いを遂行した




可愛い後輩からの任務を終えると

そのまま深雪から一つ提案をされる

歩夢「え、外?」

深雪「何か用事でもあった?」

歩夢「.....いや、無いけど」

予定では京都に帰るのは夕方から夜にかけて

早朝の現在からはまだまだ時間がある

歩夢「夕方くらいまでなら」

深雪「決まりね。葉月と水波ちゃんも呼びましょう」

ゴールデンウィークの休日

都内も都内、都心部へのお出掛け

春休み時期ほどではないにしても、学生が多いイメージ

若い人向けの施設は混んでそう、と歩夢は憂鬱になる

歩夢「(混んでいると知って、どうしてわざわざ自ら人混みに向かうのか)」

インドア派の歩夢には到底理解できなかった


【安価です。
1.映画
2.ショッピング
3.ゲームセンター
4.その他(大体なんでも)
安価下。】

3


>>223 3.ゲームセンター】

都心部に位置する大規模なアミューズメント施設

メジャーなボーリングやカラオケ、ゲームセンターなど

案の定、人で溢れかえっていた

特に多く見られるのは学生と思しき若者

少数派としては子供連れの家族やカップルが見られる

歩夢らが向かったのはゲームセンター

特別な目的がある訳ではない

ただなんとなく足が運ばれたからである

葉月「......うるさい」

もう出よう、と葉月は歩夢の服の裾を引っ張る

しかし歩夢は少しだけ、とアイコンタクトで応答した

葉月「少しだけだよ?」

歩夢「うん、ありがと」

自分の意見を聞き入れてきれた葉月にお礼を言い、歩夢はゲームセンター内を見渡す

UFOキャッチャーで四苦八苦している人

音楽ゲームを得意げにプレイする人

格闘ゲームを極めようとする人

メダルゲームをのんびりと遊ぶ人

それぞれの目的に応える筐体が充分な数設置されている

歩夢が三十年前に一人カラオケを目的として訪れたアミューズメント施設のゲームセンターは小規模であった

時代の変化

もしくは田舎か都会の差

どちらが正しいのかは不明瞭

しかし確かなのは、遊ぶ施設に変わりないということ

歩夢「なにして遊ぶ?」

葉月「私はこういうのに興味ないから」

歩夢「.......うーん」

素っ気なく返されてしまい、歩夢は頭を抱える

どうせなら一緒に遊びたい

一緒に楽しみを分かち合いたい

審議の末に選んだゲームは、


【安価です。
1.格闘ゲーム
2.メダルゲーム
3.音楽ゲーム
4.UFOキャッチャー
5.その他
安価下。】

3

>>225 3.音楽ゲーム】

歩夢「どうせなら勝負事がいいよね」

ほぼ平等な条件かつスコアの出るゲーム

消去法で、必然と音楽ゲームが選択された

趣味の範囲でピアノに興じる歩夢と葉月、そして水波

お嬢様の嗜みとしてピアノを学ぶ深雪

達也だけが音楽とは無縁であった

しかし歩夢が選択したゲームは音楽の才能が無くとも、他の才能で充分賄える折衷案のようなゲーム

彼にはそれを補う並外れた動体視力がある

リズム感覚は有利になるための才能に過ぎない

最終的に求められるのは動体視力に限る

歩夢「ルール説明だけど、」

筐体には十六個の小さなパネルが設置してある

プレイヤーが選んだ音楽に合わせて、パネルが不規則に光を帯びる

要するに、その光ったパネルをリズム良く押せるかどうかでスコアが決まる、という仕様

単純なルールに四人はすぐに理解した

歩夢「一応、勝負だからね」

罰ゲーム有りとは言っていない

ただ人間の競争本能に拍車をかけるための一言だった



合計で五プレイ

全員のスコアが出た

結果は予想通りというか、当然の結末

一位は刹那の時に生きる葉月

刀使いは伊達ではないようで、たったの一度だけで全国ランキングの一位にまで上り詰めてしまった

二位は達也、三位は深雪、四位は水波

そして発案者がビリに終わった

せめてもの救いが、一位を除いてそれ以外のスコアが拮抗していたことくらいか

二位以降はほぼ同率という結果に落ち着く

しかしそれでも気まずい雰囲気は拭えず、

歩夢「つ、次は.....なにしよっか」

涙目になりながら、意見を募る


【安価です。
1.格闘ゲーム
2.メダルゲーム
3.UFOキャッチャー
4.ボーリング
5.カラオケ
6.その他
安価下。】

>>229 3.UFOキャッチャー】

次に一行が選んだゲームはUFOキャッチャー

才能よりも試行回数やコツを求められるゲームだ

葉月「施設側からしたら、良い客よね」

達也「一番稼げるゲームだからな」

深雪「アームの強弱.....でしたっけ?」

達也「ほとんどの台が弱めに設定されている。景品を持ち上げられるほどの強さは期待できないな」

葉月「試行回数で少しずつズラして、最後に落とす」

つまりゲームセンター側の大黒柱

かなりの黒字をこの機械で出していることだろう

裏を返せば、多くの人間がこの機械に翻弄されてきた

美味しい思いをしてきたゲームセンター側に一矢報いる迷惑な客になれるかどうか

安い挑発をされていることは重々承知の上で、挑戦を受けてみたくなる

四人が狙う景品は薄ピンクのブランケット

歩夢が欲しいと言い出したものだ

当然、プレイ料金は歩夢の財布から出る


葉月「景品の原価って八百円までらしいわ。法律で決まってるとか.....話で聞いたことある」

歩夢「ブランケットの原価が限度いっぱいだとは考えられないから原価云々じゃなくて、五百円で取れたら万々歳かな」

葉月「まぁ、そんなところね」

偶然にも、五百円で一回お得な六プレイが可能

歩夢は真新しい財布から五百円玉を取り出そうとしたのだが、

歩夢「.....あ、そうだ。五百円玉貯金始めたんだった」

深雪「最近始めたの?」

歩夢「四月の頭から。両替してくるね」

と言って、歩夢は近場の両替機へ

千円を崩し、五百円と百円玉を五枚に

遊ぶついでに貯金が出来ることを誇らしげにし、百円玉を連続で投入する

すると残り六プレイとの表示が出た

歩夢「誰からでもいいよ」

そこまで重く考えずに、取れたらいいな程度の感覚

楽しむことを第一目的とし、景品の取得は二の次

気楽なプレイを所望して、他の皆にプレイを促す


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:取れた
偶数:取れなかった
安価下。】

とぉ

>>232 5:取れた】

歩夢「......あ、獲れてる」

気がついたら景品を持っていた

第三者が聞けば摩訶不思議な事態

しかし歩夢はその事に一切の疑問を持たず、当たり前のように出来事を受け入れた

深雪「お姉さんに似て、天才なのかもしれないわね」

歩夢「やっぱりなぁ.....」

当人はその現場を目撃していないが、誰がどのようにしてブランケットを獲得したのかは容易に想像がついた

歩夢「後でお礼言っておかないと」

葉月「一日交代?」

歩夢「そんなところかな?」

葉月「咲夜が表に出てきてくれると、私も楽なのよね」

景品を獲得まで導いた似て々木咲夜

彼女が君影歩夢の表の人格として動いた時、君影歩夢の身体を護るのは必然として実姉の夜永に一任される

非番となった葉月は歩夢に付き添うことなく、自由な一日を過ごせる事と同義であった

葉月「で、次はどうするの?」

目的を果たした一行は、次の目的を探す


【安価です。
1.映画
2.カラオケ
3.カフェで一休み
4.その他
安価下。】

シネマ


>>234 1.映画】

次に一行が向かったのは、同施設内に入った映画館

ゴールデンウィーク効果もあって、主な利用客層は子供連れの家族、および年頃のカップルの姿が多く見られる

深雪「今から映画を観れば、ちょうどお昼ね」

歩夢「お昼時になってから飲食店を探すのも少し大変そうだけど、.....まぁ、大丈夫かな」

アミューズメント施設内には幾つかの飲食店があり、また施設外付近にも飲食店は軒並み揃っている

いくらゴールデンウィーク真っ最中の若者が集まる都心部とはいえ、全店が満席になるということは考えられなかった

映画を観た後の話は程々にし、今からのことを話す

深雪「お兄様、どれになさいますか?」

現在放映されている映画は約十種類

大方の分野は一通り揃っていた

深雪の問い尋ねに達也はみんなに任せる、と一任した

いつもの事だが、これは深雪なりの気遣い

そう答えられると分かっていても、もしものことがある

その時は達也の意見を最優先させなければならないため、こうして毎回尋ねていた

予想通りの返答が帰ってきたところで、深雪はその他の意見を募る

葉月「なんでも」

水波「深雪姉さまがお選び下さい」

消極的な人間ばかりで一向に決まらない

しかしそんな中で歩夢は、

歩夢「私はこれがいいけど.....ちょっと暗いかな」

深雪「......戦争?」

歩夢「1世紀半くらい前のね」

パンフレットには軍艦

史実を基にした海軍の実写映画であった

深雪「.......」

他の三人がなんでもいいと言っている以上、どんな映画でも文句を言う権利はない

この場で唯一、深雪だけが拒否権を所持している

どう活用するかは深雪次第であり、他の三人を救えるのも深雪次第であった


【安価です。
1.戦争の映画
2.甘酸っぱい青春系の映画
3.アニメーション映画
4.ホラー映画
5.恋愛映画
安価下。】

5

>>236 5.恋愛映画】

ー上映後ー

今、巷で話題の王道を行く恋愛映画

コンセプトとしては、男性2人に対して女性1人

主人公と親友、そしてヒロイン枠に幼馴染

三角関係の様子が俳優によって熱演されていた

最終的には主人公とヒロインが結ばれてハッピーエンド

綺麗にオチがつき、その映画は終了した

歩夢「まぁ.....普通?」

葉月「無難な設定だったわね」

歩夢「キャストの選択が功を奏したのかも」

シナリオは至極無難なものであった

これはこれで面白いのだが、パンチが弱い

そこで製作者側はキャストで客層に狙いを定めた

世間で人気のある俳優を使い、ファンを呼び込む

俳優のファンはそれで満足するだろう

すぐさま発達したSNSで情報は拡散され、その映画は高評価として恋愛映画に興味のある層も呼び込める

常套手段であった

期待し過ぎたのが間違いだった、と

歩夢と葉月は少しだけ後悔をし、映画館を出る

歩夢「次は....お昼ご飯?」

深雪「もうそんな時間ね」

映画の上映時間が約2時間

お昼時となり、施設内に組み込まれた飲食店へと足を運ぶ人が目立つようになる

目立つことを嫌う歩夢と水波は意見を貫き通し、個室部屋のある喫茶店のようなメニューが豊富な店を探した

運良くお店はすぐに見つかり、部屋に通される

数分後には一通りの注文を終え、


【安価です。話題。
1.歩夢と葉月の最近の生活について
2.深雪と葉月、水波側の昨晩について
3.その他
安価下。】

2

>>238 2.深雪と葉月、水波側の昨晩について】

料理が運ばれてくるまでの話題は昨晩のことに

歩夢「楽しかった?」

葉月「楽しい.....というか、満足出来たっていう表現が正しいわね。料理も美味しかったし」

昨晩、司波家で出された食事は水波が作ったもの

魔法師として尊敬する相手をもてなすということで、いつもより気合の入った品々を誠意を込めて製作した

その場でも賞賛されたことだが、この場で改めてそう言われてようやく安心したように水波はホッと一息つく

葉月「マイナスポイントとしては、深雪の相手をするのが面倒だったことくらいかしら。幻術を教えて欲しい、とかで夜な夜な水波と一緒に付き合わされたわ」

歩夢「幻術を.....?」

葉月「本格的に教えると少し危険だから、初歩的なことだけを。適性検査を含めて2時間程度ね」

この発言に反応したのは歩夢ではなく、達也

適性検査という項目が気になったようだ

葉月「大したことはしてないわ。例えば.....」

葉月は幻術を解き、得物を出現させた

黒い鞘に収められた日本刀

その場にいる葉月以外の全員が背筋を凍らせる

周りを気にすることなく日本刀をテーブルの上に置き、

葉月「これからこの室内の見える部分を幻術でゆっくり変えていくわ。分かった人はその時点で申告して。歩夢は目を使ったら反則ね」

歩夢「う、うん....わかった」

反則を犯したら斬られるのだろうか

そんな不安が歩夢の脳裏を過ぎった


葉月「始めるわね」

この室内に在る物といえば、葉月の日本刀を含めて数少ない

見える部分というのだから、鞘で隠れた刃の部分が変形したりということは考えられない

考えられるポイントは極わずかであった

数秒が経過すると、幻術をかけている本人にはゆっくりとその姿が移り変わって行くのが分かった

しかし他の四人は未だに気付く気配が無い

葉月「ヒント。装飾品」

その言葉を聞いて、全員がアクセサリーに目をつける

歩夢と達也の首元にかかるシルバーのネックレス

歩夢と深雪の氷結晶型の髪飾り

装飾品といえば、それくらいであった

じっくりと観察が可能な達也と水波に対して、歩夢と深雪は自らの髪飾りは目視出来ない

その場限りで一旦外し、テーブルの上に置く

しかし髪飾りに変化はなく、同時にネックレスにも変化は見られない

この時点で相当な時間が経過し、葉月の幻術は完全にかかってしまった

過去の記憶を頼りに捜すしか道は無い

葉月「どうせ分からないだろうから、あと10秒」

制限時間を儲けられると人はどうしても焦ってしまう

小さな物事であってもそれは例外でなく、キョロキョロと見渡す者が増え始める

葉月「......時間切れ。幻術の才能は無いようね」

歩夢「......で、何処が変わっていたの?」

葉月「下緒よ」

歩夢「さ、さげ.....?」

達也「鞘の部分に取り付けられる紐のことだな」

達也の解説に、一同がテーブルの上に堂々と置かれた日本刀に注目する

鞘に取り付けられた紐の色は元々紫色であった

しかし現在の色は黒色

あまりにも日本刀の主張が激しく、その点の変化は無いと勝手に決めつけていたことが悔やまれる


葉月「適性検査の結果、揃いも揃って才能無し。術者の誘導にまんまと騙されるのは幻術の才能が無いことを物語っているわ」

歩夢「.....難しい」

葉月「それなりに難しい問題を出さないと、私が得を出来ないじゃない。敵に幻術使いがいたら、私が手伝ってあげる。もちろん、それなりの対価を支払って貰うけど。水波の手料理を三食分とかね」

水波の手料理を気に入った葉月はこの機を逃すまいと、きっかけを作る

すると水波は恐縮そうにし、

水波「私の手料理でもよろしければ、いつでも....!」

縮こまって薄い声で発言した

まさかここまで絶賛されるとは思いもしなかった

使用人としての名利に尽きる

深雪「じゃあまた家に来てくれるのよね?」

葉月「深夜に私の髪で遊ぶことは許さないけど、多少話す程度なら。その時は歩夢も一緒になるかもだけど」

歩夢の人生を遂げるまで、葉月は一連托生の身

昨晩は例外中の例外だっただけだ

いわゆる女子会

次回の開催を予定した所で、タイミング良く料理が運ばれてきた

そこで話は一区切りをつけ、料理に舌鼓を打つ


【安価です。話題。
1.歩夢と葉月の最近の生活について
2.この後について
3.その他
安価下。】

1


>>242 1.歩夢と葉月の最近の生活について】

昼食を食べ終わる頃には、お店も落ち着いてきた

お昼時が終わり、若者は足早にアミューズメント施設へと繰り出している頃だ

今すぐこのお店を離れる理由も無く、一行はそのまま優雅な午後の一時を送ることにした

深雪「そういえば二人共、学校は?」

歩夢「身内に元先生が居るから」

深雪「あぁ.....夜永さんが」

彼女の教師としての専門は魔法の実技だが、一般科目に関しても免許を取得していないだけで充分な素質があった

深雪「葉月も一緒なの?」

葉月「私は教わってない。知ってることを教えられても、それはただの時間の無駄だから」

深雪「そ、そう...」

両親を亡くしてからというもの、葉月は霜月家への復讐のことを考えてきた

しかしそれは四六時中ではない

約半分程度の時間

残りの半分は自分の趣味と家計のやりくり

高額な万年筆を購入した月には、生活が苦しく一日に一食は基本であり、週に二日は無飲食の生活を過ごすことも珍しくない

そんな生活が続いたある日、空腹の憂さ晴らしに選んだのが勉強であった

図書館で本を開いて勉強する

無料でノーリスクハイリターン

利益ばかりの作業に嫌気がさしたことは一度もない

気が付けば高校課程の知識は身に付いていて、今に至る


深雪「勉強が無い日は何をしているの?」

歩夢「葉月と京都を観光。美味しいものを食べたり、お寺を見て回ったり」

深雪「ぁ....京都の家に住んでるんだっけ」

歩夢「うん、夜永さんも含めて」

深雪「羨ましいわね」

歩夢「いつでも歓迎するよ?」

深雪「時間が......あ、お兄様、今年の論文コンペって確か......」

達也「京都で行われる予定だな」

論文コンペは横浜と京都の交互で行われる

去年が横浜だったため、今年は京都

訪れる機会が自然とやって来る

深雪「去年がアレだったから、今年はテロに警戒して京都市内を念入りに見回るかもしれないわ。そこは風紀委員と話してみないとだけど、もし行けたらお世話になるわね」

歩夢「う.....うん。楽しみにしてるよ」

京都は反魔法の意識が強い

論文コンペの会場も民間の意思が反映され、京都は京都でも外れの方に建てられた建物で毎年行われている

去年に習って、今年も何かあるかもしれない

そう考えると少しだけ憂鬱であった

達也「その時は観光を兼ねて、見回りをしようか」

深雪「はい、お兄様」

達也「その時は水波も一緒に」

水波「畏まりました、達也兄さま」

二人の女子を従える達也

歩夢にとっては普通の光景であるが、葉月にとっては異様な光景に見えた

葉月「(ライトノベルの主人公みたいね......)」

若干呆れ気味に葉月はため息を吐いた


【安価です。
1.これからについて
2.学校でのことについて
安価下。】

1


>>245 1.これからについて】

いくら客足が減ったとはいえ、長居をするのはお店側に迷惑がかかるんじゃないかと不安が募る

話題は尽くせないほどあるが、そろそろ今後について話すことにした

達也「夕方に帰る予定だったよな?」

歩夢「うん、だいたい.....十八時くらいまでには」

達也「そこから交通機関を使って、京都に着くのは二十時を少し過ぎるくらいか.....」

いくら葉月が強いとはいえ、女性二人をそんな時間に外を歩き回らせるのも気がひけてしまう

現時刻が十三時を少し回ったところなので、あと三時間程度が適切だと達也は判断する

深雪「あと三時間.....。なにかしたいことはある?」

深雪の問いかけは訪問者の二人へ

歩夢と葉月はアイコンタクトを取るが、しかしどちらも首を横に振る結果に終わる

深雪「目的を決めないまま外を歩き回るのも.....」

歩夢「ゴールデンウィーク真っ最中だからね」

どこもかしこも人で溢れかえっている

そんな中を目的無しに動き回るのは現実的でない

このままアミューズメント施設で時間を潰すか

思い切って自ら人混みに突撃するか

非常に悩ましい事態だった


【安価です。これからについて
1.省略(お別れの辺りまで)
2.お買い物(服とか)
3.ボーリング
4.カラオケ
5.その他
安価下。】

4

>>247 4.カラオケ】

都内某所、大規模なアミューズメント施設の一角

防音機能を完備した部屋が何十と軒並む中、とある一室だけが異様な空気に包まれている

『音』を上手に扱う技術も進歩した現在

その部屋では本格的なミュージックライブのような催し物が開催されていた

歩夢「(アーティストデビューでもすればいいのに)」

参加者の中でも、最も猛威を振るったのは深雪

その容姿と声が相まって、一層に眩しく見えた

歩夢「(歌いたくないなぁ)」

葉月「(......番が回ってくる前に帰ろうかしら)」

水波「(回ってきませんように.....!)」

熱狂的となる部屋の空気の反面で、五人中三人がネガティブな思想へと追いやられていた

一曲に要する時間は四分から五分

利用時間は二時間のため、その時間すべてを深雪に一任することは体力的に難しい

必ず番は回ってくる

三人にとっては地獄のような時間であった

深雪「.....ふぅ。次は────」

歩夢「もう一回歌ってもいいんだよ?」

葉月「せっかくの機会なんだから」

と、二人が深雪にもう一度歌うことを促し、水波がリモコンを手渡す

謀らずとも三人の内にチームワークが出来上がっていた


しかし深雪が歌い続けること約三十分

ついに体力の限界が訪れてしまう

深雪「十分に歌えたし、私はもういいわ」

と言って、深雪は三人の方へマイクを差し出す

歩夢「えっと....『私はもういい』って.....」

深雪「私はもう歌わないって意味よ?」

歩夢「ですよね.....」

青ざめた表情で歩夢は視線を落とす

葉月と水波は、二人で小腹が空いたとき用のメニュー表を空腹でもないのにじっくりと見ている

自然とマイクは歩夢へと手渡された

体感として半年ぶり

時間の規則としては約三十一年越し

一人カラオケに失敗したリベンジのチャンス

小中で受けてきた音楽の授業の成績はそこそこ

しかし、授業態度が評価された可能性も捨てきれない

音痴なりに頑張った結果、成績に反映されたのかも

そう解釈すると歌い辛く、音楽の選択も苦しい

そんな中で歩夢が選んだ曲は────



歩夢「もう二度と歌わない」

葉月「奇遇ね.....私もよ」

水波「....誘われたら断らないと」

悪夢のような利用時間を終えた

三人はぐったりとしていて、その中でも特に水波はこれからの学生生活でこの経験を活かそうと強く思っている節が見られる

深雪「ん....もう時間ですね」

達也「もう十六時だな」

悪夢の時間が終わると同時に、歩夢と葉月の東京旅行の時間も終わりを迎えた

楽しかったような、楽しくなかったような

最後の最後で嫌な思いをしてしまった

しかし総合的に鑑みれば良い思い出ばかり

直後ということで、嫌な思いが強いだけなのだろう

歩夢「じゃあ、私たちはここで。真逆だから」

深雪「次に会えるのはいつ?」

歩夢「会いに来てくれればいつでも」

深雪「夏ぐらいを目処に」

歩夢「準備しとくね」

次に会うのは夏

昨年に引き続いて、恒例の行事になる傾向が感じられる

来年も再来年も、そのまた翌年も

変わらぬ関係でいようと約束を取り決め

五人は二つのグループに分かれ、帰路に着いた



【安価です。コンマ1桁
奇数・0:5月8日
偶数:???
安価下。】

スオミ

>>251 1:5月8日
ここからは歩夢の一人称視点です。】

ー2096年 5月8日ー

桜散り、随分と暖かくなってきた五月初旬

私は少女を引き連れて京都の街に繰り出していた

歩夢「えっと....どこ行きたい?」

那月「歩夢さんが行きたいところなら、どこでも」

歩夢「う、うーん....」

今朝早くに家を訪れた謎の少女

彼女は急用が出来たとかで家を留守にした葉月の代わりに、私の身辺警護を買って出てくれたらしい

なお、今朝目覚めた時点で君影家には私一人だった

家族単位で愛想を尽かされ、いじめられているのかも

歩夢「案内出来る場所は少ないよ?」

那月「私は葉月さんの代わりですから。あくまで私達の役目は歩夢さんを護ることで、今は付き添うだけです」

歩夢「.....大丈夫? 無理してない?」

那月「大丈夫です。こう見えて、私強いですから」

歩夢「街中で魔法を使うのだけはやめてね? 京都の人達はあまり魔法師のことをよく思ってないから」

那月「この時代でも......ぁ、いえ、なんでもないです。わかりました、もしもの時は魔法以外の手段で対処します」

歩夢「参考までに、どんな手段?」

那月「内緒です」

歩夢「.......」

例え那月が葉月ほどの実力者であったとしても、頼り過ぎるのはどうしても気が引けてしまう

年下だし、やっぱり心のどこかで不安が残るから

最悪の場合は目を使うか、逃げるか

年上として、年下の子はしっかり護ってあげないと

どちらが護られる側なのか

そんな認識のズレが生じたところで、最寄駅に到着

歩夢「私が案内出来るのは.....」

四月の頭から終わりにかけて、葉月と観光した各地

ガイドブックに載っているような場所ばかり

つまらない女とか思われたらどうしよう.....

歩夢「清水寺と嵐山なら、どっちがいい?」

那月「(清水寺はこの時代のこの時期でも人は多そうだし、だからと言って嵐山も葉月さんと散々歩き回ったし.....)」

那月「ど、どちらでも」

有名な観光地には惹かれなかったようで

なら、.....うーん


【安価です。コンマ1桁
1・4・5・8:清水寺
2・3・6・9:嵐山
7・0:???
安価下。】

ほい


>>253 1:清水寺】

那月「一つ質問をしたいのですが、構いませんか?」

歩夢「私に答えられることなら」

那月「単純なことですのでご安心下さい。質問というのは、歩夢さんが怒ったことあるかどうかです」

歩夢「怒ったこと.....。腹を立てる止まりかなぁ」

那月「例えば、.....そうですね。歩夢さんの目の前で、達也さんが四葉家の使用人から邪魔者扱いをされた」

歩夢「腹を立てる、だね」

那月「歩夢さんが平和主義者だからですか?」

歩夢「平和主義者なんて大層なものじゃないよ。ただ、話し合いで解決できる問題に感情的になる理由は無いってこと」

那月「聞く耳を持たずに非難を続けたら?」

歩夢「一旦、気絶させる。その後にゆっくり話す」

那月「.......」

歩夢「で、これは心理テストのような物なの?」

那月「歩夢さんの意見を聞きたかっただけです。少し話は変わりますが、幼少期にゲームを禁じらてきた子供が大人になると、どうなるかご存知ですか?」

歩夢「あまり良く知らないけど、噂では幼少期にゲームをしなかった分、反動になって大人の時にたくさんゲームをする、みたいな....」


那月「それと同じかもしれませんね」

歩夢「.....?」

那月「適度に憂さ晴らしを。人や物に当たることはお勧めしませんが、鬱憤を晴らすのは大事なことです」

彼女が伝えたい旨を理解できない

私が鈍感なのか

それとも那月の言い回しが難しいのか

初対面の時からずっとこんな感じだよなぁ

映画を観に行った時には、私よりも早く私の身体の症状に勘付いて糖分や塩分の過剰摂取を避けてくれたし

私の知らない場所で葉月の誤解を解いたり

達也くんの知り合いの子として接してきたけれど、今一度この認識を改める時がやって来たのかもしれない


【安価です。
1.素性を詮索する
2.素性を詮索しない
安価下。】

2.素性を詮索しない


>>256 2.素性を詮索しない】

......ううん、やめておこう

誰にでも知られたくないことはある訳だし

プライバシーというか、マナー....みたいなニュアンスで

歩夢「適度な憂さ晴らしね。前向きに考えてくよ」

那月「その時には葉月さんもご一緒に。随分と歩夢さんの良い影響を受けているようですから」

歩夢「私の影響....ねぇ」

那月「霜月と葉月に限らず、十二師族の血縁者というのはカリスマ性に恵まれていると聞きました。故に他人への影響力が高い。もちろん十二師族同士でも効果は発揮します」

歩夢「つまり私が葉月へ影響を与えると同時に、葉月から私も影響を受けているってこと?」

那月「そうなりますね」

歩夢「ふーん....」

カリスマ性......私にあるのだろうか

突き詰めていくと『カリスマ』とは何なのか

深雪ちゃんのような、誰からでも好かれるタイプ

彼女の言うことには多くの者が二つ返事をする

しかしそこには畏怖の感情が混じっている

氷漬けにされたくないから、とか

特に達也くんを侮辱するような発言は以ての外

やっぱりカリスマとはちょっと違うのかな

余計な感情が人間関係の中に含まれてる


歩夢「カリスマって....なんだと思う?」

那月「身近なところですと、夜永さんとか」

歩夢「あっ....そっか」

なんでも出来る彼女は頼られる

『人』という漢字が支えあっている

などという妄言に近しい由来があるように、人は誰かの協力を得て、そこでようやく成功を成し遂げる

全てが得意分野な彼女に協力出来ないことはない

天才は重宝され、愛される

利用されるというマイナスイメージを除いても、充分

ようやく理解できたような気がした

那月「まぁ....夜永さんは『やり過ぎ』ですけどね」

歩夢「自他共に認める天才だから」

那月「いえ、そうじゃなくて....。彼女の存在が“如月さん”に届くかもしれないというバランス面での話です」

歩夢「如月.....?」

旧暦で表すところの“二月”

かつて霜月と葉月と共闘した一家

時間と幻術と、謎の力

深夜さんが言うところの『魔法師にとっての魔法』

さぞかし凄い“能力”なんだと思う

そしてそのヒントが夜永さんにある

......なんだろう、皆目見当もつかない


那月「いずれ知る機会が訪れるかもしれませんね。しかし“如月さん”さんのテストを受け、結果を得ることになるのは深雪さんですけれど

歩夢「......教えて」

那月「他人の魔法への詮索はマナー違反ですよ?」

歩夢「うっ.....」

年下の叱られてしまった

うーん.....気になる

あとでお母さんに誘導尋問形式で聞いてみようかな、と

そんな無謀なことを思いつくと同時に、清水寺の最寄駅へ到着してしまった

タイミングが良いのか、悪いのか.....

私たちは改札を出て、地上へ

歩夢「ここから少し歩くんだけど、大丈夫?」

那月「大丈夫です」

歩夢「じゃあ行こっか」

那月「あの....手繋いでもいいですか?」

歩夢「はぐれないようにね」

小さな手でギュッと手を握ってくる

か、かわいい.....!

こんな妹が欲しかったと強く思う

さすがにご両親に許可も取らずに、葉月のように養子として迎え入れることは叶わないだろうし

後で後悔しないためにも、今を楽しもう

観光客がそこそこ押し寄せているであろう清水寺へ、私たちは歩き始めた


【安価です。話題。
1.名前について
2.以前、清水寺を訪れたときは何をしたか
3.最近のことについて
4.その他
安価下。】

3


>>260 3.最近のことについて】

清水寺まで徒歩で約15分

正確には産寧坂まで、その時間を要する

その間の、場繋ぎに選ばれた話題は近況について

那月が私の何を知りたいのかは.....定かでない

歩夢「葉月と遊びに行ったり、夜永さんに勉強を教えて貰ったり。最近は咲夜も積極的に表に出てきてくれるから助かるよ」

那月「咲夜さんが表に?」

歩夢「うん、夜永さんにべっとりだから。.....まぁ、私がその光景を見たわけではないけれども」

どうしてか、私が咲夜のことを知ることは出来ない

一方的に咲夜が私のことを知ることの出来る現状、二人の様子は第三者から伺う術のみ

那月「....夜永さんがもし記憶を残したまま過去に行っていたら、卒倒していたかもしれませんね。約三十年もの年月を咲夜さんの居ない場所で過ごしたのですから」

歩夢「三十年.....」

夜永さんは記憶を失ったまま過去に飛ばされた

自分が誰なのか

ここが何処なのか

全てが分からないまま、三十年の歳月

私なら────ううん、私のみならず

自殺を謀るはず

それでもなお、しかし夜永さんは生きていた

きっと何かの糧があったんだと思う


那月「一番の要因は雪乃さんのお母様でしょうね」

那月「彼女はなんでも知っていた」

那月「記憶喪失の女の素性を」

那月「自分がいつ死ぬのかを」

那月「次世代の子が何を担うのか」

那月「そしてその先もずっと」

那月「────魔法師にとっての魔法」

那月「彼女は求めたそうです」

那月「“知”を求めて“知”を得る」

那月「彼女には何処まで見えていたのでしょうか」

那月「“時”の前例がある以上、未知の魔法です」

那月「歩夢さんにも心当たり、......ありますよね?」

歩夢「.......」

深夜さんの言葉を借り、魔法師にとっての魔法

知ることを求めて、“知った”

ずっと先の未来のことまでも

三十年前の時代で夜永さんが私のことを

三十年前の時代で夜永さんが私の彼氏のことまでも

全てを見透かすように言っていたのは、私の祖母が教えていたからなのだろう

そんな空想世界の“千里眼”のような能力

信じられない、と胸を張って言いたい


しかし私には信じる道しか用意されていない

“時”を操る霜月さんの前例があるからだ

歩夢「一つだけ訊いてもいい?」

那月「私が答えられることなら」

歩夢「祖母は自らの寿命についても知っていたの?」

那月「知っていました」

歩夢「.....何が原因で亡くなったのかは知らないけど、原因を事前に知っていたら回避出来たんじゃないの?」

時代には慣れたけれど、記憶喪失のままの夜永さん

まだ小学生で自立のできないお母さん

その他にも祖母を必要としていた人間は居たはず

どうして未来を変えようとしなかったのか

これが世に言う運命の強制力.....なのかな

那月「回避はできたはずです。しかし彼女はそうしなかった。その理由は、運命を変えたくなかったから。運命には反逆しないと志していたようです」

那月「しかしそのポリシーが祟って、如月さんとは折り合いが悪かったそうですけど」

歩夢「ん.....如月?」

なんか度々、話題に出てくるなぁ

話の流れからして.....運命絡み?

如月さんは運命を信じない派だったのかな

那月「雪乃さんのお母様についてはこのくらいですね。十二師族の血縁者の多くの寿命が短いことなんて分かりきっていたことですし」

サラッととんでもないことを言ったな.....

確かに、そうなのかもしれないけど

祖母と祖父と、夜永さんと咲夜のご両親も....か


あと葉月のご両親もそうだし、

歩夢「......」

最も身近な私も例外ではない

私もその括りに分類される

歩夢「それこそ.....運命が古い遺伝子を絶滅させようとしているのかもね」

那月「ふふっ、そうかもしれませんね」

微笑む私たち

笑い事じゃないんだけどなぁ

何より自分のことだし

那月「話を戻しましょう。近況について。他には何をされていますか?」

歩夢「ぇ....うーん、と。他には本を読んだり....リーナに気を遣わせたりかな」

那月「気を遣わせて.....?」

歩夢「身体は大丈夫か、ってね。週3ぐらいのペースで電話をかけてきてくれるよ。軍人さんって暇なのかな、なんて思い始めたり」

那月「リーナさんが.....。そういえば『シリウス』のコードネームについてはご存知ですか?」

歩夢「スターズで一番強い人」

那月「に与えられる称号で、主な仕事は脱走兵の始末だそうです。歩夢さんとの電話は気を遣いながらも、自らのリフレッシュを目的にしているんじゃないですか?」

まぁ、自分に利益は大切だよね

私と話すことでリフレッシュ出来ているのなら、それは喜ばしいことだ

那月「リーナさんを支えてあげて下さいね」

私がリーナに支えられているように

彼女とは知らぬ間に友達になっていたのかもしれない

いや、友達とはこういうものなのか

気が付いたら友達になっているのが友達

なんだか誇らしい


今晩辺りにでもこっちから電話してみようかな

しっかり時差を計算して、彼女が休んでいそうな時間帯を狙ってみよう

那月「.....ぁ、着きましたね」

話の区切りよく、産寧坂に到着した

この坂を上れば清水寺だ

しかし相変わらず平日の早朝だというのに....この人の数

多少はマシなのかもしれないけれど、面倒だなぁ

歩夢「人混みは大丈夫?」

那月「大丈夫ではありませんが.....これくらいなら」

手を繋いでいることを確認し、一歩を踏み出した

先導して、導くように

歩夢「寄りたいお店があったら声かけてね」

那月「はい!」

私と違い、元気いっぱいな少女

どこか深雪ちゃんに似ているせいか、四葉の遺伝子を感じてしまう

私にもし達也くんとの子が出来たのなら

こんな娘に育って欲しいと切実に想う


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:お土産屋
偶数:清水寺と地主神社
安価下。】

うりゃ


>>266 8:清水寺と地主神社】

坂を登りきると、大きな門が私たちを出迎えた

歩夢「この門の名前、知ってる?」

那月「仁王門」

歩夢「丹塗りをしてあるから、別名で赤門とも言うらしいよ。ガイドブックに書いてあった」

手を繋いだまま三重塔や隋求堂、開山堂などを横目に進んで行くと、清水寺の本堂へ

歩夢「大仏とかって興味ある?」

那月「.....ご参拝は混んでいるので、またいずれ」

大仏には興味無いようで

ハッキリ物を言わないところは子供らしくないかも

あれ、でも年齢って一つしか変わらないんだっけ

那月を子供扱いするって事は、私も子供になってしまう

大人の女性として、彼女を大人の女性のように扱おう

本堂に興味が無いとなると、見る場所はただ一つ

清水の舞台から観望の出来る景色

桜も紅葉も咲いていない景色は些か物足りなさを感じたが、それでも私の中での評価は高得点

隣で景色を目に焼き付けている那月も例外ではない


歩夢「落ちないようにね」

那月「清水の舞台から飛び降りるのも文化ですよ」

歩夢「いや、現代においてはただの言い訳だから」

那月「行きましょうか。飽きました」

歩夢「.......」

なんだこの子.....

親の顔が見てみたい

葉月もそこそこな気分屋だけれど、那月はそれ以上

教育というよりは、性格とか遺伝の方が強いのかな?

仕方がなく、私たちは清水の舞台を離れる

次に訪れた場所は北側に位置する地主神社

縁結び系で有名な神社の一つ

やはりここを訪れる客層は女性の方が多い

男性の多くは彼氏として彼女と訪れているようだ

那月「おみくじしましょう」

歩夢「.....前、大凶だった」

那月「所詮、その瞬間の運ですよ」

歩夢「じゃあ....うん」

那月「余談ですが、私は運が良い方です」

歩夢「具体的には?」

那月「宝くじで一千万当たりました」

歩夢「一千万!? い、い、今から宝くじ買いに....!」

どれくらいの出資でその当たりを引いたのかは知らないけれど、運の良さを自負しているということは少額で大金を手にしたのだろう

歩夢「ご、ご両親にはどれくらい取られたの?」

那月「全部私のものです」

歩夢「.......え?」

那月「自由に使いなさい、って言われました」

ますます那月の素性を詮索したくなってしまった

どこの家がそんなことを言うのやら

私が一千万当てたら、どうなるんだろう

君影家は経済的には余裕のある方だから、全部回収みたいな展開は無いはずだけれど

那月「以前、ここを訪れた時は大吉でした」

歩夢「でしょうね。......私は大凶だったかな」

那月「引きましょう!」

歩夢「んー....」

私は二人分のおみくじ代を払い、恋愛運を占う

大吉大吉大吉、と心の中で連呼を続け、

歩夢「これは.....!」

紙を開くとそこには.....


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:大吉
偶数:大凶
安価下。】

てい


>>269 5:大吉】

紙を開くと、そこには大吉の文字が

歩夢「あ.....大吉だ」

思いもよらぬ結果に、つい口に出してしまう

それほど私にはそぐわない結果ということだ

那月「恋愛運の項目はいかがでしたか?」

歩夢「えっと....」

『その恋 長続きせず』

歩夢「......100円だもん。どう足掻いても紙代だよね」

友達同士で盛り上がるための話題料とか

安いものだよ、100円くらい

歩夢「まずまず」

那月「.....そうですか」

視線を少しズラすと、那月のおみくじが見えた

当然そこには大きな字で大吉と書いてあり、各項目の運勢も全体的に良いものだった

私の大吉は大吉の中でも底辺の大吉だったようだ

仕事運とかは良いみたいだけれども

一番重要な恋愛運だけが....ね

那月「女子らしく恋愛話で盛り上がったことですし、次行きましょうか。人多いですし」

歩夢「ん....そうだね。早く行こっか」

改めて手を繋ぎ、私たちは脱出を試みる


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:昼食
偶数:雑談
安価下。】

てい

>>271 5:昼食】

時間が過ぎるのは早いもので、気が付けばお昼時

食事処の席が埋まり始める時間帯だ

歩夢「お腹空いた?」

那月「......食べようと思えば食べられる程度には」

歩夢「もう少し待った方がいい?」

那月「いえ、少し歩けば丁度いいと思います」

歩夢「じゃあ....少し歩きながら決めようか。好きな食べ物とか、今特別食べたい物とかは?」

那月「......カレー」

歩夢「カレーか....」

四月上旬を思い出す

葉月と京都内を観光しようと、外に出ていた時

ミリタリーへの興味に拍車がかかる昨今、やはりあの場所は外せないと提案した舞鶴の地

しかしそこは京都駅から片道で約三時間

当然ながら、その意見は却下された

後日、夜永さんと訪れる約束をしたものの、彼女は私のために京都市内の病院に勤めており、なかなか自由な時間が取れずにいる

......今、この年下の幼気な少女を誘えるかどうか

一応、あそこは海軍関連だからカレーのお店はあるし


歩夢「ね、舞鶴行かない?」

那月「まいづる? .....どこですか?」

歩夢「京都の上の方」

那月「どれくらいかかりますか?」

歩夢「京都駅から片道で約三時間程度」

那月「は、葉月さんが一緒の時に....どうぞ」

少し丁寧で遠回りな拒否

その葉月が一緒に行ってくれないから提案しただなんて、彼女は思いもしないだろう

夜永さんがお休みの時に行こう、そうしよう

あまりにも頑なな行動をすると嫌われそうだ

もうこれ以上、評価を下げる訳にはいかない

那月「さっきはカレーと言いましたが、なんでもいいですよ。歩夢さんがお好きな物で」

カップルにおいて、頻繁に彼女が発する台詞

あれは彼氏の器や気の利かせ方を測っている、なんて噂を耳にしたことがある

私はそういう事を気にしたりはしないけれど、実際の彼氏彼女の関係というのはそういうもので、彼氏に同情してしまう面が多々存在する

大変なんだなぁ、男の人って

歩夢「女性ってアボカド好きなイメージがあるんだけどさ、私はそうでもない。おかしいのかな?」

那月「女性同士の付き合いだったり、お洒落なイメージを獲得するために食べるんだと思います」

歩夢「男性が気を遣ってアボカドを取り扱うお店を訪れるのは必ずしも正しい選択とは限らない、と」

女性同士の付き合い.....ねぇ

一度でも付き合いを疎かにすると、グループというか派閥のようなものから弾き出されたり

きっと私が通っていた学校にも存在していたのだろう

私はどの派閥にも属さない一匹狼だったけれど

......かっこいいな、私


ぼっちは孤独でなく、ただ孤高なだけである

歩夢「で、なにがいいの? 女性の『なんでもいい』と女性同士の『可愛い』だけは信用してないから」

那月「......お蕎麦とか」

歩夢「うん、わかった」

年下に決めさせた

これに対するイメージは人それぞれ

年下の意見を優先させたのか

年下に選択を強要したのか

歩夢「男性に生まれても女性に生まれても、早く生まれても遅く生まれても。人生って難しいものだね」

那月「......?」

首を傾げる那月を横目に、私は行きつけの蕎麦屋へと足を進めた


【安価です。コンマ一桁
奇数・0:食事及び雑談
偶数:???
安価下。】


>>275 0:食事及び雑談】

那月「あ、そういえば」

時刻は十二時を回った頃

私たちは一軒の蕎麦屋へと入店し、注文を済ませる

「今晩のためにお腹は空かせておいて下さい!」

などと言われ、私は抹茶蕎麦の小を選択した

しかし、その牽制のようなものをした当の本人が抹茶蕎麦の大を選択したのだ

これはおかしいのでは? と喧嘩腰に抗議すると、

「成長期です」

真っ当な正論に私は敗北した

せめて中にしておくんだったな、なんて後悔をしたり

朝食はパン、昼食はお蕎麦の日々に痺れを切らした葉月と蕎麦屋に来ることなんてしばらくは無いだろうし

そんなこんなで、注文を済ませた現在

唐突に那月から話題の振りがあった

那月「九島家とは大丈夫ですか?」

奈良に本宅を構え、十師族の役割として京都や奈良方面を監視している九島家は私たちが京都に住んでいることを恐らく知っている

今は廃れたとはいえ、私たちは十師族の手本となった十二師族の末裔

何らかの干渉があってもおかしくない

しかし今のところは、少なくとも私の知るところでは何もされておらず、何もしていない

冷戦状態なのか、そもそも戦まで運ばれていないのか

私には到底分かり得ないことだった


歩夢「お母さんは相手にもしていないようだけど」

那月「....実際問題、相手になりませんからね。歩夢さんの戦力をゼロとしても、他が並外れた魔法師ばかりですから。人数では圧倒的に劣っていても、質に圧倒的な差があります。超えられない壁....みたいな」

歩夢「それは味方の....達也くんたちを入れて?」

那月「雪乃さんと夜永さんと葉月さんだけです。それに、万が一の時には隼人さんが居ますし」

歩夢「......そうだね」

むしろ四葉は足手まとい

那月は言葉を選んだが、そういうことだろう

お母さんと夜永さんと葉月だけで十二分

一方的な戦いが出来るそうだ

九島はリーナと関係があるし、あまり無謀な事はしないで欲しいなぁ

那月「案外、あの殺気を振りまく謎の銀髪少女が居ないという好条件な今日、何か動きがあるかもですね」

歩夢「那月が護ってくれるの?」

那月「少なくとも葉月さんよりは上手く立ち回ってみせます。私の魔法は.....そういうことに向いていますから」

幻術を自由自在に操る葉月よりも上手に立ち回る

それは一体、どんな魔法なのか

私も魔法師の端くれとして、気になる


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:那月の魔法について
偶数:食事
安価下。】

ふぃん

>>278 0:那月の魔法について】

歩夢「もし那月さえ良ければ....なんだけど、その魔法について教えて貰ってもいいかな?」

他人の魔法について詮索する事はマナー違反

それを承知の上で、訊いてみた

那月「構いませんよ。歩夢さんになら」

歩夢「随分と信頼されているようで.....」

那月「私にとって歩夢さんはそういう人ですから」

何か確固たる理由があるようだけれど、覚えがない

何回か一緒に遊びに行ったり、那月が一方的に私の個人情報を知っていたり

その程度の不十分な理由しか心当たりがない

那月「私の魔法は精神干渉魔法です」

歩夢「......精神?」

那月「深雪さんのコキュートスや、歩夢さんの固定感念と同じです。ただ、違うのは応用性。私の魔法は全てに対応しています」

コキュートスさながら、精神を凍りつかせること

固定感念さながら、精神(感情)を固定すること

そして深夜さんのように、精神構造を丸ごと作り変えることも

と、那月は自慢気に話す


那月「欠点という程のものではありませんが、発動条件は限られてきます。条件は一つ。月を見せることです」

歩夢「月を見せる....って、どういうこと?」

那月「反射するのものに月を映し、相手の視界にそれを入れれば条件は成立します。例えば.....」

例題として、那月はお冷の入った器を机の真ん中へ

那月「魔法を使うと、この水面に月が浮かびます。そしてこの月を見た者は、精神を魅了される。発動条件が揃い、無事に私の手玉となる訳です」

歩夢「反射する物だったらなんでもいいんだよね?」

那月「はい、なんでもいいですよ」

歩夢「もしかして....雨の日とかって有利?」

那月「一滴の雨粒にも月を反射させれます。もちろん、水溜りにも。鏡やガラスに反射させる機会が多いですね」

歩夢「おー」

緩い発動条件の割には、随分と強力な魔法だ

羨ましい.....咲夜のコピーでどうにか出来ないかな?

那月「肝心の魔法名ですが、歩夢さんは竹取物語をご存知ですか?」

歩夢「竹を切ったらかぐや姫が出てきて、最後は月に帰る....みたいな話だっけ?」

那月「はい、それです。私の魔法名はそれを参考にさせて頂いて、カグヤと名付けました。輝かしい夜って漢字でも可です」

歩夢「そこにこだわりはないんだね.....」

粋でかっこいい魔法名にしたんだから、そこもこだわればいいのに

それにしても竹取物語から取った名前か.....

いいなぁー、かっこいいなぁー


歩夢「私も使える?」

那月「“時”や“創造”と同じ、と言えば分かりますか?」

歩夢「ぁ....無理なんだ」

咲夜のコピー能力にも限界があるらしく、真夜さんの流星群はギリギリコピー可能な範囲内の魔法

しかし霜月さんの時や、葉月の創造は不可能

もし出来たとしても、この身体が壊れてしまうとか

まぁ、そもそも私はもう魔法を使えない訳だけれども

歩夢「いい魔法だね」

那月「色々な人のお手伝いを経て、会得しました」

私も色々な人にお世話になって、固定感念だからなぁ

一番お世話になったのは他ならぬ夜永さん

魔法式等々、親身になって考えてくれた

深夜さんや真夜さんにも、アドバイスを沢山貰ったし

......本当は今日、恩返しをしたかったんだけど

五月八日、一年に一度だけの母の日に

那月「私の魔法についてはこのくらいです。人の精神を魅了し、自由自在に操る。もし九島家が何かしてきたら、私に任せて下さい」

歩夢「頼りにしてるよ」

よく出来た年下

しっかり者の妹して、駄目な姉を支えて欲しい

......変な妄想ばかり捗ってしまう


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:???
偶数:食事後、外へ
安価下。】

てい


>>282 9:???】

歩夢「那月が幸せに感じる出来事ってなに?」

那月「もちろん、美味しいご飯を食べている時です」

満面の笑みで、那月は即答した

一番最初に余計な言葉が....聞き間違えにしておこう

家族で一緒に居る時間が幸せ、とか言って欲しかった

東京ではずっとホテル暮らしみたいだから

どうしても両親と不仲なんじゃないかと疑ってしまう

歩夢「食べ物以外で」

那月「.....お母様」

歩夢「お」

那月「の、お付きの人と一緒に居る時間」

歩夢「えー.....」

せっかく今、ほんの一瞬だけ期待したのに

秘書のような役割の方と仲良いんだ

那月と深雪ちゃんを重ねると、穂波さんかな?

那月「もちろんお母様やお父様と一緒に居る時間は幸せですが、未だに少し気を遣ってしまって.....。家の都合上、仕方が無いことなんですけどね。むしろゼロ距離の方が難しいくらいに」

歩夢「那月は....嫌なの? そのご両親との距離」

那月「これでもかなり良くなった方なので、これ以上の贅沢は言いません。一緒のベッドで寝れるだけでも有り難いものです」

歩夢「これで良くなった....って」

どんな生活を送ってきたのか、むしろ気になる

聞いたら教えてくれるかなー?

あまり知って心地の良いものでは無さそうだけど


那月「というか、私の事なんてどうでも────」

と、その瞬間

那月「───────!」

少女が一瞬だけ目を見開いた

何かを知って、驚いたように

那月「.....言霊って信じますか?」

歩夢「う、ううん....信じない」

那月「今回を機に、信じることにして下さい。私たちが悠長に話していた話題、実現したようです」

歩夢「話題って....!」

那月の境遇、精神干渉魔法

どちらも『実現』とは不適切な言葉

その他で話題と言えば、ただ一つ

歩夢「九島家の?」

那月「はい。古式魔法の結界ほどではありませんが、私の.....センサーのような物に引っかかりました。九島家の遣いの者です」

歩夢「盗聴とかは?」

那月「されていないようです。それと、今すぐ捕獲をする気配もありませんね。人気がない場所に移動したところを狙うのでしょう」

歩夢「随分と....ご丁寧なことで」

本当に、よりにもよって葉月が居ない日を狙ってきた

幻術で上手に誤魔化すのが一番平和的解決なんだけど...

那月「食事後、水辺に移動しましょう。そこで私の月を使います。平和的な解決を求めて」

歩夢「.....分かった」

約束通り、那月に頼ることにした

確かに彼女の魔法は向いている

今は、彼女に頼るほかないだろう

歩夢「よろしくね」

那月「もしもの時は瞳を使って下さい」

歩夢「うん、了解」

那月「じゃあ....ご飯にしましょうか」

ちょうど運ばれてきた宇治抹茶蕎麦に、那月はすぐに目を奪われ、心も奪われた

......大丈夫か?


【安価です。コンマ1桁
1・2・3・6・8・9:成功
4・5・7・0:失敗
安価下。】

そいや


>>285 7:失敗】

歩夢「......ねぇ」

那月「川に見向きもしないですね」

最寄りの水辺、四条大橋へとやって来た

この下を通るのは鴨川であり、那月の魔法を発動させるのには十二分な条件を満たしている

しかし九島の者は川に見向きもしなかった

簡単な発動条件かと思っていたが、どうやらそうでもないらしい

歩夢「人気の少ない場所で気絶させちゃう?」

那月「.....いえ、撒きましょう。色々と面倒ですし」

歩夢「走って逃げるのは難しいと思うよ?」

那月「人混みを利用しましょう」

歩夢「それでも難しいと思うけどなぁ」

いくらこの地が観光地とはいえ、今日はゴールデンウィーク終わりの平日

人も疎らで、目を欺いて撒くのは難しそうだけれど

那月「彼らもあくまで今回は監視目的のようですし、のんびりと撒く機会を伺いましょう」

歩夢「....うん、わかった」

度々注目を浴びることはあったけれど、ずっと見られている感覚というのは不愉快極まりない

深雪ちゃんや葉月は常にこんな感覚なのだろうか

こういうのも慣れの問題なのかなー、なんて思ったり

那月「次はどこへ行きますか?」

歩夢「.......」

人が多くて、お寺に興味のない那月が楽しめる場所

行ける場所は限られてくる


【安価です。コンマ1桁
奇数:体調不良
偶数・0:目的地へ
安価下。】

っせい


>>288 8:目的地へ】

那月「あ、いいこと思いつきました!」

しかし相変わらず人口密度の高い京都駅にて、私たちはあくまで自然な努力をしたが、その努力虚しく、九島家の者を撒くことは失敗に終わる

大人しく個別電車に乗り、目的地へと向かう最中

またもや那月は唐突に思いついたようだ

那月「相手が九島に因んで、九島で対抗しましょう」

歩夢「.....リーナ関係?」

那月「関係していると言えば関係していますが、リーナさんに限った話ではありません。歩夢さんにも関係あることです」

歩夢「九島......まさか」

那月「はい、仮装行列を使います」

私たち後追いしているであろう彼らがマークするこの個別電車から見ず知らずの人間が出てきたら、驚くだろう

そしてどこかで撒かれた、と捜索を開始する

その時点で私たちの勝利─────なのだけれど、

歩夢「魔法は使えないよ?」

那月「歩夢さんは被験者....魔法を掛けられる側です。無論、私も自身に魔法を掛けますが」

被験者という単語から、私と咲夜は必然と三年ほど前の出来事を思い出してしまう

どうやら那月もその事を知っているらしく、気を遣ってくれたようだ


歩夢「......あれ?」

那月「私は仮装行列を使えます」

.....いよいよ那月の素性が可笑しくなってきた

もう笑うしかない

なんだこのハイスペックな少女は

あえてこれ以上は訊かないでおこう

歩夢「お言葉に甘えさせていただきます」

那月「設定は私が歩夢さんの娘で」

歩夢「前言撤回。もう少しその辺りは話し合おう?」

何度か街中で子供を見かける度に子供が欲しいなんて思ったりしたけれど、冷静に考えてみると早すぎる

いくら人生が残り少ないとはいえ、.....無いよなぁ

世間体というものが私をどう思うかが怖くて恐ろしい

歩夢「私は那月のお姉さん」

那月「私は歩夢さんの一人娘」

歩夢「.....何かこだわりでもあるの?」

那月「歩夢さんは優しい方ですので、私が十五年間悩み続けていた母親に甘えるというシチュエーションを体験させてくれるかな、なんて思ったりです」

歩夢「ぁ....じゃあそれで」

そんな暗い話するなよ.....

首を横に振ったら、私が悪者になっちゃう

子供の意見を聞き入れないのは虐待

ペアレント・ティーチャーなんとかに怒られてしまう

最近の親と教師の会は怖いからなー


那月「あ、もうすぐ着くみたいですね」

歩夢「.....そうだね」

那月「欺くまでの短い間です。数分ですよ」

歩夢「私、頑張る」

那月「そういえば昔、一人称が僕だったって本当ですか?」

歩夢「な、なぜそれを.....!」

那月「あと中学生の頃に中二病だったとか.....」

歩夢「さっきの無し! 中高生の友達って設定で!」

もうPTAに訴えられてもいい

私の黒歴史がこれ以上暴かれる方が問題だ

うわー.....思い出しちゃった

忘れかけていたのに

そして結局、黒歴史を教えた諸悪の根源の身元は教えて貰えず、ただただ私だけが火傷をした

私は意気消沈したまま、仮装行列により変装し、那月であって那月で無い者と目的地の駅へと降りる




結果から言えば、大成功に終わった

九島の者も慌てて後戻りをし、これから京都駅内を歩き回ることだろう

元の姿に戻った私たちは、

那月「これで存分に遊べますね」

歩夢「そう....だけど」

那月「何か問題でもありますか?」

歩夢「ううん、なんでもない」

そういえば私、なんで那月とこんな大切な日を過ごしているのだろうか

今日はお母さんに今までの感謝の気持ちを込めて、精一杯のご奉仕をしようと計画していたのに

せっかくカーネーションが台無しになってしまう

あとで飾っておかないと

那月「それで、ここで何するんですか?」


【安価です。
1.食べ歩き
2.観光
3.本屋・図書館
4.その他
安価下。】


>>292 2.観光】

歩夢「観光....の予定だけど」

那月「美味しいご飯食べましょうよー」

歩夢「さっき食べたばかりでしょ。それに、夕食のためにお腹空かせとかないと」

那月「......」

少女は不機嫌そうに足元の小石を蹴った

ぇ.....え、かわいい.....!

頬を小さく膨らませているところも高得点

益々、妹として欲しくなってしまった

歩夢「それに、そう言ったのは那月だよ」

那月「.....はい」

歩夢「夜までもう少しだから」

那月「......うん」

幼気な少女は優しく私の手を握り直す

......母娘の関係でもいいから、欲しい

こんな可愛い娘を授かったご両親は幸せだなー


那月「で、ここ何処ですか?」

歩夢「金閣寺」

那月「あぁ....あの」

歩夢「行ったことある?」

那月「ありません。興味ないですから」

.....ちょっと性格に難あり、かなぁ

思ったことをすぐ口にしてしまうところとか

歩夢「金色のお寺だよ。綺麗だと思うから、ね?」

那月「機会さえあれば行きます。自主的には赴かないだけで」

歩夢「もっと素直になればいいのに」

那月「歩夢さんだからですよ」

歩夢「そ、それは私が那月にとって特別な人...だから」

なんだこの若いカップルのような掛け合いは

不覚にも那月が可愛いとかじゃなくて、普通にキュンと来てしまった

私にそういう趣好は無いのに

沙夜さんとかなら喜んでくれそうだけれど

那月「行きましょうか」

歩夢「ぁ...うん。バスで行こ。ちょっと距離あるから」

有名な観光スポットの割には、最寄駅から距離がある

そのためバスで赴くのが経済的にも、有限な時間的にも効率的だ

私たちは数分ほどバスを待ち、効率的な移動をした


【安価です。コンマ1桁
1・2・3・5・6・8・9:到着
4・7・0:体調不良
安価下。】

てい

>>295 6:到着】

那月「これって全部、金で出来てるんですか?」

歩夢「木造の建物に金でコーティング...だと思うけど」

那月「へー」

素っ気ない相槌とは裏腹に、那月は興味津々だ

子供らしく、目を輝かせている

気に入ってくれたようでなにより

歩夢「この池の名前知ってる?」

那月「知りません」

歩夢「鏡湖池って言うらしいよ。金閣寺を鏡のように映す湖のような池だから」

那月「逆さ富士.....みたいな?」

歩夢「うん、その系統だね」

なんて話をしながら、見れる場所を順々に回った

何処を拝観しても那月の機嫌は益々高まるばかりで、ご飯のこと以外にも興味を持って貰えたようだ

歩夢「もう少し見たら、次の場所に行こうか。まだ夕方手前で時間あるし、貴重な時間を無駄にしないためにも」

那月「次は音楽です」

歩夢「え、あ、うん。それはいいけれど、......歌うのはやだよ? 聴く専門だから」

那月「オーケストラコンサートを聴きに行きます」

歩夢「チケットは?」

那月「取ってあります。数ヶ月前から」

歩夢「それは....準備のよろしいことで」

友達が居ないから私を誘った説が浮上

......いや、さすがにそんなわけないか

考えすぎだったかな、申し訳ない


歩夢「で、何処の会場?」

那月「東京です」

歩夢「......え?」

面倒だと思ってしまう私は、普通なのだろうか

公演は19時って....終わるのが21時とかでしょ

京都帰ってくるの日付変わる直前じゃないですか.....

どうしても憂鬱な気分を拭いきれないまま、京都駅へと向かった

それにしてもオーケストラコンサートかぁ

何年ぶりだろうか、そういう場所に行くのは

昔お母さんに連れて行って貰って.....2回目かな?

ドレスコードの概念を那月は知っているのだろうか

一旦、家に寄った方がいいのかもしれない


【安価です。コンマ1桁
1.2人の名前について
2.オーケストラコンサートについて
3.雪乃や葉月について
4.その他
安価下。】

1


>>298 1.2人の名前について】

それらしい格好に着替えた私たちは京都駅から新幹線で品川を目指す

そこからは電車で2回の乗り継ぎをし、クラシックコンサートが行われるという会場へ

と、完璧なプランを立てたまではいいのだが、

歩夢「新宿駅....未だに迷うんだよね」

那月「大きいところなんですか?」

歩夢「人も多いし、電車に乗る場所は無駄に多いし。ダンジョンみたいなところだよ」

那月「ダンジョン....」

一回、迷いすぎて終電を逃したこともある

素直に駅員さんに聞いていればあんなことには....

歩夢「でも今日は大丈夫。見当がついてるから」

那月「頼りにしてますね」

歩夢「うん、任せて」

那月が私の身を守り、私が那月を導く


持ちつ持たれつの関係に何かときめくものを感じながら、外の景色を眺める

那月「あと何時間くらいですか?」

歩夢「2時間くらい...だと思う。まだ名古屋手前だし」

那月「あ、じゃあ一つ聞いてもいいですか? 時間はたくさんあることですし」

歩夢「私に答えられることなら」

那月「自分の名前の由来はご存知ですか?」

歩夢「お母さんかお父さんが、娘に『夢』を持って生きて欲しいから『夢』って付けたと勝手に解釈してる」

那月「素敵ですね。それで、夢はあるんですか?」

歩夢「今のところは特に。人生を終えるまでには見つけたいところ。お母さんとお父さんのためにも」

ふわっとした夢ではなく、具体的な夢

それでいて近く、不可能でない目標を

小刻みな目標を持つことは大切だ

最近始めた500円玉貯金も一気に100万円を貯めるのでなく、まずは1万円分から

それから1万ずつ増やしていき、最後には100万へ

夢の前に目標を小刻みに設定していく、みたいな

.....まずは達也くんが18歳になるまで

それまで、恋人同士の関係にヒビを入れないこと

くらいかな、強いて言うなら今の目標は


歩夢「那月の名前の由来は?」

那月「お母様の思い出から」

自分の名前を蔑ろにする訳ではないが、素敵に思える

思い出から名前....いいなぁ

那月「家のしきたりのようなものを無視してますけどね。娘なら母親の名前から一文字、息子なら父親の名前から一文字っていう」

歩夢「.....深雪ちゃんのところみたいだね」

那月「そういう家、少なくないですよ?」

ただただ私が無知なだけだったようだ

私の家もそういうことすればいいのに

って思ったけど、お父さんと兄さんがそれに該当する

綾人と隼人で、『人』が被っている

私も『雪』か『乃』が欲しかったなー

まぁ、『雪』は深雪ちゃんと被ってしまうけれど

那月「少なくとも『美』とか『音』とか入ってないだけ、プレッシャーが少ないですけどね」

歩夢「名前に反する、みたいな?」

那月「はい。月は好きでいられて良かったですが」

歩夢「私も....夢を持たないとなぁ」

名前に入っているくせに、それが無いのは致命的

親孝行を考慮して、ビックな夢を見つけなければ

それと未来の息子か娘ヘの想いを

散々考えるって言った割には、なにも考えてないんだよなぁ

名前を決めるのは難しい

その人間が一生背負っていくものなのだから


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:到着
偶数:クラシックコンサートについて
安価下。】

どうも


>>302 0:到着】

歩夢「駅から直結で会場行けるのは楽でいいね」

那月「迷いようがありませんからねー」

会場が入っている施設に到着したのは18時20分

最低限のマナーを守るとしても、少々余裕がある

歩夢「ご飯食べるところとか、本屋さんもあるみたいだけど」

那月「我慢します」

歩夢「20分くらいで食べ終わるならいいよ?」

那月「......我慢します」

歩夢「美味しそうなお店があるみたいだけど」

那月「......我慢できるもん」

歩夢「ふふ、少し早いけどホール行こっか」

つい溢れてしまう笑みを片手で隠しつつ、那月をコンサートホールの方へと導いた

そして簡単な受付を済ませ、指定された座席へ

那月が用意した席は二階の見晴らしの良い場所

さぞかしチケット代も高かっただろう

......交通費出してるから払わなくてもいいのかな?

いや、ここは大人としてきちんとするべきか.....


悩み悩み、悩みに悩んでいると、席に到着した

那月「ステージ見えますか?」

歩夢「見えるけど、.....もう少しハッキリ見たいかな」

ということで、私は化粧室へと向かう

瞳を使うことを前提として、もしもに備えて持ってきていたコンタクトを入れるためだ

今回は人をどうこうするための瞳でなく、そこそこ遠い物をハッキリ見るために瞳を使う

意気揚々としたまま鏡と向き合い、慎重にコンタクトを入れていると.....


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:七草真由美
偶数:桜井水波
安価下。】

でやっ


>>305 2:桜井水波】

???「歩夢姉さま?」

歩夢「うわっ....あっぶなぁ....」

右目にコンタクトを入れている最中

背後から声をかけられ、私は危うく右目を失明させる危機に直面した

指をグイッと.....アレしたらヤバイよなぁ

考えただけでもゾクッとする

歩夢「.....水波ちゃん?」

振り向かずとも、鏡を使わずとも、声の主である彼女を言い当てられる自信は充分にあった

水波「どうされたのですか? こんなところで」

歩夢「ちょっとオーケストラ鑑賞に」

水波「葉月様と?」

歩夢「ううん、那月と」

水波「那月.....?」

首を傾げる水波ちゃん

あぁ....そういえば会ったことないんだっけ


歩夢「達也くんの同僚の人の娘さん。よく分からないけれど、懐かれちゃって」

ただの暇潰しの相手として、私が一方的に弄ばれているだけかもしれないけど

.....どうしてあの子は私に良くしてくれるんだろうか

葉月との色々も率先して解決してくれたそうだし

あとでご飯でこの話題を釣ってみよう

歩夢「水波ちゃんはどうして? 達也くんや深雪ちゃんも一緒なの?」

水波「私はお休みを戴いたので、1人で」

あの仲睦まじい兄妹が暮らす家から合法的に距離を置けるメイドの貴重な休日

しかしそれに伴い、あの兄妹は2人きりの家で....うん

お互いに限度は守っているそうだけど、少し不安だ

歩夢「ちょっと待ってて。コンタクト入れるから」

せっかくなので、席は離れているはずだが、せめてコンサートホールまでは一緒に行こう、と

私は左目のコンタクトを慎重に入れる作業に移った


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:那月
偶数:席へ
安価下。】

とぅーた

>>308 7:那月】

左目のコンタクトを入れ、一度試運転

鏡に映る私の瞳は、誰がどう見ても碧色ではない

確認を終えた私は振り返り、後ろで待機してくれていた水波ちゃんにコンサートホールへの移動を促す

歩夢「よし、じゃあ戻ろうか。あまり時間も.....」

思わず声が詰まってしまう

背後の少女の強張った表情を見てしまっては

歩夢「.....どうしたの?」

怪訝そうにこちらを見ている

いや、こちらはこちらでも、私ではない

明らかに、私へは焦点が向けられていない

水波ちゃんが見据えているのは、もっと後ろ

私の後ろにあるのはただ一つ──────

歩夢「────!」

思わず、私も声が出せない状況に陥る

大きな鏡に映るのは私でも水波ちゃんでもなく、闇

それは自然と四葉真夜を連想させた


そしてなにより、その闇の中でも目立つのは、

歩夢「月....?」

燦然と輝く夜空に浮かぶのは満月

流星群とは決定的に違い、精神が揺れ動く

水波「歩夢様っ.....見るのはダメですっ!」

???「やっぱり、向いてると思います」

第三者の出現と共に水波ちゃんは数歩こちら側へ、そして私にもたれかかるように意識を失った

歩夢「那月.....これは.....」

那月「水波さんが意識を失っているのは、ほんの数分です。すぐに起きますから安心して下さい」

歩夢「そういうことじゃなくて.....どうしてこんな事をしたのか....を教えて欲しいのだけれど」

那月「少し不都合があっただけです。......水波さんに見つかる訳にはいきません。歩夢さんの前では特に」

歩夢「......!」

那月「開演までには目を覚ましますから」

精神が揺らぐ

深夜さんに脅された時のように

摩訶不思議な感覚に陥った私は、.....意識を失った




那月「.....水波さんは私の魔法に逸早く気付いた」

那月「やっぱり、水波さんは当主に向いています」

那月「多分、お母様よりも」

那月「.....ごめんなさい」





歩夢「ん....」

那月「あ、起きましたか? もう開演しますよ」

歩夢「.....あぁ....うん」

わたし....寝てたんだ

開演までの10分,20分程度の空き時間を仮眠へと費やしてしまうほど、私の身体は疲労していたらしい

まぁ、今日一日、結構動いたもんね

開演までに起きれたから良しとしますか

那月「ここから2時間です」

歩夢「大丈夫。寝ないと思う」

那月「もしもの時は起こしますか?」

歩夢「ぁー.....うん、お願い」

那月「ふふっ、お任せ下さい」

胸を張って微笑む少女は心強い

きっと彼女なら起こしてくれるだろう

.....那月が寝ないという確証は無いけれども


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:京都へ
偶数:寄り道して京都へ
安価下。】

あいく


>>313 3:京都へ】

19時開演のクラシックコンサートは21時に閉演した

終電諸々の都合により、私たちは足早に会場を去る

歩夢「建物の中、もうちょっと見たかったなぁ」

那月「.....ごはん」

フロアガイドを確認する限り、施設に入っていたお店の多くは飲食店だが、中には本屋もあった

もちろん私の目的は本屋さん

さすがにこのお店でのみ取り扱っているような書籍は無いはずだが、見て回るだけでも相当癒される

一方で那月は、私と店種こそ違えど、目的は同じ

どんなお店にどんなメニューが用意されているのか

それを見て回るだけで彼女の気分は高揚していたはず

よって、現在の彼女は少しだけしょんぼりとしている

歩夢「夜ご飯、どこかで買ってく?」

那月「そう....ですね。せっかくですので、駅でお弁当買っていきましょうか」

初台から新宿へ、そして新宿から品川へ

ダンジョンのような駅構内を彷徨うことなく、移動はスムーズに済まされた


那月「終電間近とだけあって、人多いですね」

歩夢「いつもこんな感じだと思うけど.....」

いつ来てもこの辺りは人でごった返している

終電間近であろうとなかろうと、然程変わりない

歩夢「終電逃したら嫌だから、早めに決めちゃおう」

那月「何個まで買ってもいいですかー?」

歩夢「....お好きなだけどうぞ」

いくら成長期の子供とはいえ、那月は女の子

せいぜい1個と半分くらいでお腹いっぱい、とギブアップしたところで、私が残りの半分を食べる

そんな方程式を脳内で組み立ててみたものの、

那月「3つ」

と、お弁当を3つ

那月「あとこれ」

と、サンドウィッチを2つ

私は絶句しつつ、それを会計へと運んだ

自分の分は無し

正確には、那月が残した分を私が食べる

これも大人の義務の一環

.....ご両親、大変なんだろうなぁ

この子だけで食費は馬鹿にならないし

那月「あ、あそこのケーキ屋さん」

いや、ほんと成長期ってすごい

こんな幼気な少女の何処にこれらが入るのだろうか

人間ってすごいな、那月ってすごいな

そんな適当な思いに浸る事こそが救いの道だった

.....食べてよね、ちゃんと



長いようで短いお買い物を終え、私たちは新幹線へ

無事に終電を逃さずに済んだようだ

一段落つき、座席に腰を掛けながら、ふぅと息を吐く

歩夢「大変な1日だったけど、楽しかったよ」

那月「私もです。少しハプニングはありましたけど」

歩夢「あぁ、九島の.....?」

那月「それも含めてです」

歩夢「ふーん.....まぁいいや」

若干、ハプニングの内訳が気掛かりだが仕方ない

これ以上、根掘り葉掘り聞くのは失礼に値してしまう

歩夢「お弁当、食べないの?」

那月「今すぐにでも食べたいところですけど、最後に特別な事をして締め括ろうかなと」

歩夢「特別? サプライズ的なこと?」

那月「特別な空間で夕食にしましょう」

特別な空間....ねぇ

那月にとって特別な空間とはどんな場所なのだろうか

彼女の素性を知らないためか、全く想像もつかない

葉月が居たら、アドバイスをくれたかも

あぁ.....もういいや

今日は疲れた、考えるのも面倒だ

歩夢「その空間で夕食を迎える、ということで」

那月「歩夢さんは驚くかもしれませんねー」

いったいどんな場所なのか

もう大抵のことじゃ驚かないぞ

水平線が見える程の更地とかなら、アレだけど


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:特別な空間
偶数:今日について
安価下。】

そらっ


>>317 8:今日について】

那月「初めて会った時のこと覚えてますか?」

歩夢「半年くらい前だよね、覚えてるよ」

那月「その日に東京を案内して貰いました」

歩夢「あー.....会った時のことは覚えてるけど、何をしたかはあんまり覚えてないや。映画を見たってことくらいしか」

那月「図書館に行って、本屋に行って。未来永劫、色褪せることのない貴重な時間です」

歩夢「そ、そんなに特別な時間だった? ただ本読んだだけだよね?」

那月「歩夢さんと過ごせる時間が私にとっては特別な時間なのです。噂の君影歩夢と過ごすのは楽しいですから」

噂の....って

君影雪乃の娘とか、霜月の人間....だろうか?


那月「それから度々お会いして、今日。特別な日に特別な人と特別な時間を過ごせました」

歩夢「そう.....。それは良かった....けど」

なんだろう....愛が重いって言うのかな

多少の息苦しさを感じてしまう

那月「今日はいかがでしたか? 私に振り回されて」

歩夢「最後の東京への大移動は振り回されたとしか言いようがないけれど、それでも楽しかったよ。水波ちゃん以外の年下と遊びに行く機会なんて無いし、クラシックコンサートも新鮮で興味深かった」

那月「もしまた私が行こうと言ったら、行ってくれますか? 今度は音楽に限らず、また別の場所に」

歩夢「夜永さんとか葉月の許可も必要だけど、私は一向に構わないよ。あと、調子が良いときなら」

那月「ぁ.....最近、調子の方は大丈夫ですか?」

歩夢「うん、今のところは。夜永さんの診察によると、これから段々酷くなっていくようだけど。今年の九校戦は病室で見ることになるかもって」

那月「.....そうですか」

歩夢「臨場感とかは現地ならではだけど、試合は病室でも見れるからね。じっくり葉月と見させて貰うよ」

那月「きっと良い結果を残してくれるはずです」

在籍期間は1ヶ月足らず

しかしそれでも第一高校は母校....の内に入る

私が去年命をかけて出場したモノリス・コードの件も含めて、是非優勝して頂きたい

4連覇のプレッシャーに押し潰されず、そのプレッシャーを何倍にもして後輩へ引き継いで欲しい

もし99連覇とかになったらとてつもないプレッシャーなんだろうなぁ.....

それまで色々なものが続いてればの話だけど


那月「私も来年出ることになるかもなんですよね」

歩夢「今年じゃないの? 水波ちゃんと同級生だったよね?」

那月「あぁ....いえ、1つ下です。今年受験です」

歩夢「そうだっけ? .....まぁ、頑張って」

彼女の実力なら様々な競技に対応出来るはず

ハイスペック少女は優越に比例して苦労も多い

周りからの期待って重圧だからなぁ

特に深雪ちゃんは一高に限らず期待されている

今年も来年も、九校戦での活躍間違いなし

那月も深雪ちゃんのようなスター選手になれることを、どこかの神社で祈願しておこう

.....あ、その前に受験か

こればかりは本人の頑張り次第

私は北野天満宮に行ってお祈りするくらいが精一杯

是非とも病室で暇しているであろう来年の私に、その圧倒的な魔法力で他校の選手を圧倒して頂きたい

深雪ちゃんに次ぐ第一高校のスターに

そして.....いつか私と葉月の創造の世界で遊ぼう

例の『カグヤ』も見てみたいし

“月”の魔法かぁ...流星群みたいな天体観測用に使えたりしないのかな?


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:到着
偶数:カグヤ
安価下。】


>>371 2:カグヤ】

歩夢「カグヤって観賞用に使えたりしないの?」

那月「可能ですよ。効果は私のさじ加減なので」

歩夢「見せて見せて」

私のお願いに、那月は辺りを見回す

そして、高速で移り変わる夜景と私たちを隔てる窓へ特化型CADを向けた

ん....CAD、私や達也くんと同じやつだ

まぁそこそこ珍しいというか...持ってる人少ないからね

主な原因はその高価な値段のせいで

希少価値があって良いとは思うけれども

那月「このCADは貰った物です。無断で」

歩夢「奪った?」

那月「.....曲解です」

歩夢「ごめん」

那月「いえ....こちらこそ、ごめんなさい」

私が謝るのは当然として、どうしてか那月が謝った

直後、少女は引き金を模したスイッチを押す

夜景は一転して、星空に

真夜さんの流星群を彷彿とさせる

一つ違う点として、その星空には満月が浮かんでいる


見事な夜空に私は言葉を失った

那月「あまり直視するのはオススメ出来ませんので、ご注意を。精神が毒されてしまいます」

歩夢「毒される....って」

そういえばなんとなく気分が悪くなってきた

身体がグラグラと酔った感覚になる.....みたいな

那月「この魔法の作者曰く、精神を虜にしているようです。いわゆる魅了ですね」

歩夢「......気持ち悪くなってきた」

背もたれに体重を預け、目を閉じて深呼吸をする

はぁ.....うん、だいぶ落ち着いてきた

私は目を閉じたまま質問をする

歩夢「でも、もう魅了されているんだよね?」

那月「はい。もう歩夢さんは私の操り人形です」

歩夢「.....笑えないよ」

那月「精神及び感情、記憶までも私の思うがままに」

歩夢「むしろ笑えてくる」

九島のときは効果を見せなかったけれど、これは思った通りチートのような魔法だ

葉月の創造....には届かなくても、なかなか

私の固定感念よりは確実に上

......少しだけショックなのは内緒

那月「もういいですか?」

歩夢「ぁ....うん、ありがと」

満天の星空は夜景へ

カグヤの魔法が解かれた

歩夢「良い魔法だね」

那月「私の素質と作者のセンスのシナジー効果です」

歩夢「羨ましい」

もし私に代わって咲夜が夜永さんと魔法開発をしたら、一体どんな魔法が出来上がるのか

足し算より掛け算

天才の二乗は世界を震撼させるかもしれない

まぁ、そんな機会も使う機会も無いわけだけれど


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:到着
偶数:葉月について
安価下。】

てい

>>324 0:到着】

京都駅に到着したのは日付が変わった直後

残念なことに母の日は終わりを迎えてしまった

まぁ....大切なのは日付じゃなくて気持ちだから

日付はあくまでもきっかけに過ぎない

帰宅次第ご奉仕する事を志し、京都の地を踏みしめる

那月「コンビニとかってありますか?」

歩夢「この辺だと.....ごめん、分かんない。帰りがてらに見つけたところに寄る形でも大丈夫?」

那月「はい、大丈夫です」

時刻は深夜

交通機関は揃いも揃って営業時間外

私たちは歩いて帰ることを強いられた

那月の要望を叶えるのには丁度いいけれども




しばらく徒歩で深夜の街を歩いていると、例によってコンビニを見つけた

那月「待ってて下さい。すぐ戻ってきますから」

とのことで、私は夜空を見上げて待機

今日は奇しくも満月の日

直感的に那月のカグヤを思い出してしまう

.....アレ、中毒性があるなぁ

気分を害すと知っていても、また見たくなる

これは精神を毒されているからなのか

考えること数分

自動ドアが開く音で私は現実に引き戻される

那月「じゃあ行きましょうか」

歩夢「家に?」

那月「特別な場所です」

歩夢「あ、そういえば....」

そう言われて、ハッと思い出す

特別な場所でご飯を食べる話をしていたっけ

歩夢「で、その特別な場所って──────」

よもや景色が一転するなんて想像はつかない

葉月の創造が如く、世界は一転した


灰色の雲に覆われた空

灰色の雲から降り注ぐ小雨

薄暗く、何もない世界

薄暗く、視界が悪い世界

そしてなにより、安心する世界

約一ヶ月住んできた京都の家よりも

約半年と数ヶ月住んできた四葉本邸よりも

約十年間住んできた東京の家よりも

身体が住みやすい環境だと認識しているのではなく、精神がこの場所を本来在るべき居所だと訴えかけているようだ

歩夢「ここは.....」

那月「特別な場所です」

と言いながら、那月は円錐状の障壁を張った

雨水を凌ぐためだと考えられる

那月「ご飯食べましょう?」

いつの間にか敷かれていたレジャーシートの上に用意されているのは、私のお財布から支出されたお弁当

私はなんとも言えないまま、そこに座る

那月「食べながら話しましょうか」

歩夢「う、うん.....」

もう我慢の限界、と言わんばかりに那月は瞳を輝かせてお弁当に有り付いた

那月「.....幸せ」

ご飯の時にだけ見せる満面の笑み

愛や友情よりも食にこだわっていることが察せられる


歩夢「この場所について....だけど」

那月「葉月さんの創造とは少し違います。限りなくそれに近い異質な空間ではありますが、ここは神聖な場所です。特に私たちにとっては」

歩夢「私たち.....?」

那月「私と歩夢さんの共通点です。.....その話は置いておいて、瞳を使って下さい。この何も無い世界に一つだけ物体が存在します」

そう言われて、私は促されるがままに目を使った

薄暗い空気を祓い、見つけたのはお墓のようなもの

歩夢「しも....つき.....?」

墓石には『霜月』と『瓊々木』の文字が彫られている

私とは切っても切れぬ関係にある場所のようだ

でもだったらどうして.....!

.....ううん、素性は詮索しないって決めたばかりだった

ここは堪えて那月の話を聞こう

那月「四葉深夜さんは霜月さんや葉月さん、如月さんの魔法は魔法というより特性のような例外ですが、一貫して彼女らの魔法を“魔法師にとっての魔法”と表現しました」

那月「三家だけではなく、十二師族を総じて」

那月「睦月や弥生、皐月....etc」

那月「時間と空間に並んで、中には感染物質を操る魔法師も居たそうです」

那月「インフルエンザやノロウイルスなど、充分に人を苦しませることの出来る魔法です」

那月「葉月さんと如月さんの死因は病気」

那月「感染物質の魔法師に殺されたと推測できます」


那月「はっきり言って、魔法師の質は衰退しました」

那月「衰退しながらも徐々に力を増している昨今ですが、しかしその一部では突出した魔法師の一族が未だに現代にやや溶け込んで生活しています」

那月「霜月や瓊々木、葉月の一族です」

那月「世の中のバランスブレイカーと言っても過言ではありません」

那月「そして現在、そのバランスブレイカーは一堂に会している訳ですが.....」

那月「京都の某住所に固まる優秀な魔法師」

那月「可能ならば一斉に抹殺したいと考える家も存在しています」

那月「実質、霜月らが生きている限りは魔法師の世界を独占等々が不可能ですから」

那月「昼間に見つけた九島の遣い」

那月「あの家は霜月を邪魔だと思っている程度です」

那月「隠居するなり.....あ、殿堂入りみたいな」

那月「もう凄いのは認めるから、現代の魔法師社会に干渉してくるなよ、と」

那月「一斉に抹殺したいなどと考えているのは七草辺りです」

那月「現当主の七草弘一は四葉真夜と深い関係のある霜月のことを邪魔だと思ってる」

那月「無理もないですけどね」

那月「そもそも現代の裏社会で大きな権力を握っている霜月を怨むのは当然のことですし」

那月「自分が一番になるためには同格の四葉よりも一歩先へ行き、なおかつ偉そうにしている霜月を陥す」

那月「一度、過去にちょっとした戦争をしたそうです」


那月「結果は雪乃さんの圧勝」

那月「霜月と四葉 対 七草ではなく、雪乃さん 対 七草です。あくまで雪乃さんは霜月の人間ではなく、四葉真夜の家族として七草の者を蹴散らした」

那月「紆余曲折ありますが、現在ではどうなっているのか」

那月「雪乃さん一人にも勝てなかったのに、今では夜永さんが居て、謎の銀髪少女が居て、四葉には達也さんや深雪さんが居る」

那月「七草だけでなく、霜月のことを知っている家は総じて緊迫した状況に陥っています」

那月「気をつけて下さい」

那月「何が起こるか分かりませんから」

那月「もしかしたら急に銃撃戦が始まるかもしれませんし、魔法が飛び交うかもしれない」

那月「外出する時は必ず夜永さんか葉月さん、雪乃さんとご一緒に」

那月「私は....頼って頂けるのは嬉しいですが、もう二度と会う機会も無いと思います」

那月「これから先、未来のためにも」

那月「歩夢さんにはここで死なれたら困ります」

那月「主に私が」

那月「一人の少女の存在の有無は貴女にかかっているのを自覚して下さい」

那月「私がわざわざこの時で半年を過ごした意味」

那月「もう未来は変わっています」

那月「リーナさんと仲良くして下さいね?」

那月「支えになってくれるはずですから」

那月「私のルートではこれほど良好な関係にはならなかった」

那月「歩夢さんを支えるのはリーナさん」


那月「そして歩夢さんを.....」

那月「歩夢さんを助けることが出来るのは深雪さんです」

那月「このルートの、私の知る歩夢さんを助けるのはもう手遅れですが、過去の歩夢さんを助けることは可能です」

那月「霜月さんの時間と如月さんの特性」

那月「お母様が失敗した未来にならないためにも」

那月「ずっと苦しかったと言っていました」

那月「あの時に私が如月さんのテストに合格できなかったせいで過去の歩夢さんが苦しい思いをしたって」

那月「大きな変化は私が遂げさせました」

那月「これで深雪さんが成功する可能性も大幅に良い方向か悪い方向か、それは分かりませんが変わったはずです」

那月「精一杯頑張りました」

那月「痛い思いもしました」

那月「でも、それ以上に楽しかったです」

那月「本当に良かった」

那月「お母さんと話せて、楽しかった」

那月「噂の人通りで......」

那月「変に鋭かったり鈍感だったり.....」

那月「そして優しくて、良くしてくれて」

那月「ありがとうございました」

那月「もし深雪さんが成功して過去が変わり、歩夢さんが生存するルートになったら.....」

那月「親子愛に恵まれず、毎晩部屋で一人で泣くような経験を子どもにさせないで下さい」

那月「私、それで瞳の条件満たしたんですからね」

那月「歩夢さんが沙夜さんと千夜さんにされた拷問と釣り合う程に」


那月「.....最後に、謝らせてください」

那月「実は3回ほど歩夢さんの記憶を書き換えています」

那月「重ねて、最後にもう一度」

那月「これで本当に最後です」

那月「私の碧色の瞳に映る満月」

那月「これで.....我儘を聞いてください」

那月「最後の娘の頼みなんですから」

那月「ここは母親として、お願いします」

那月「.....いや....ですよ」

那月「もちろん、わたしだって.....」

那月「でも.....」

那月「私には帰る家がありますから」

那月「お母様もお父様も」

那月「水波さんも夜永さんも、葉月さんも」

那月「私を送り出してくれた方々のためにも」

那月「始まりと終わりが同時に存在するように」

那月「出会いと別れは一緒です」

那月「帰らないといけません」

那月「......泣かないでください」

那月「私だって嫌なんですから」

那月「せっかく会えたお母さんと離れるなんて」


那月「.....一緒です」

那月「お父様とお揃いのネックレス」

那月「CADに続いて貰っちゃいました」

那月「いいですよね」

那月「これくらい」

那月「娘へのプレゼントだと思えば」

那月「.....もういい時間ですね」

那月「本当にこれで最後です」

那月「別れとはこういうものですよね」

那月「最後の後に本当の最後を付け足す」

那月「それではこの辺りでお終いにしましょう」

那月「これ以上長引くと終われません」

那月「......もう悲しい思いをするのは嫌です」

那月「さてさて、私は在るべき時代に戻ります」

那月「お元気で」

那月「あぁ.....もう病気なんでしたっけ」

那月「せいぜい生きて下さい」

那月「娘が生まれるその時までは」

那月「ふふ、冗談です」

那月「娘を苦しませないためにも」







那月「長生きして下さいね?」




【今回はここまでとさせて頂きます。
次回は那月のこの後、もしくは話を進めるかです。
話を進める場合は、時系列的には九校戦なのですが、......やること無いです。
なので夏に少しだけイベントを挟んで、秋の話(14巻)を始めていきます。
秋の話は舞台が京都ですので、色々と都合が良いです。
おおまかなあらすじはその時に。

那月の登場は(一旦)以上となります。
ありがとうございました。

安価です。この後
1.那月のこの後
2.話を進める
安価下。】

1


>>336 1.那月のこの後】

2096年でやるべき事を全て終えた那月は、時を渡るための出入り口まで戻ってきていた

深夜「後悔する前に考えなさい。やる前から分かっていたことでしょう?」

君影歩夢が時間旅行をした時とは決定的に違う条件

それは自分が過去でした出来事の記憶が残るかどうか

歩夢や夜永の場合は残らず、本人が在るべき時代に戻ってきた瞬間に皆一斉に思い出した

那月の場合は前件とは異なり、記憶が残る

しかしそれはあくまでも“約束”を守った場合

如月と結んだ条件は君影歩夢に正体を明かさないこと

無理難題ではない

やろうと思えば可能なことで、また、精神を掌握することの出来る那月には至極簡単な事だった

深夜「.....思い出を消されるのは酷なことよ」

那月「消すほうも酷です」

二人の共通点

それはどちらも大切な人の記憶を弄っていること

深夜は妹の忌まわしき記憶を

那月は約束を果たすために母親の記憶を

唯一決定的に違う点は、目的の差

前者は妹のために

後者は自分のために

そこだけがお互いに分かり合えなかった


深夜「歩夢さんのためにも、穏便に済ませるべきだったと私は思います。正体を明かさなくても、そもそもの目的は果たせていた訳ですから」

那月「知れば知るほど、気になってしまって.....」

深夜「那月さんのことを知った時の反応?」

那月「はい。歩夢さんも経験しているだけあって、理解は早かったです」

歩夢は高校生時代の両親と出会い、特に母親とはそこそこな付き合いをした

その経験の記憶があったおかげで状況の呑み込みは早く、今更ながら早い段階で那月の正体に気が付いた

深夜「.....那月さんがそれでいいなら、いいけれど」

本人が納得した結果に落ち着いたのなら口出しは無用

深夜は他の方法を例に出さず、そこで話を打ち切った

深夜「私が教えられることはない」

那月「.....つめたい」

深夜「唯一私が教えられることは、教わるならご両親に教わるのが一番ということよ」

那月「教えられる息子と娘に育てて下さい。あと、どんな形であれ子供が出来たら優しくさせるように。孫からの切実なお願いです」

深夜「これからの成長次第ね」

那月「私、毎晩一人で泣いてたんですよ?」

深夜「.....」

那月「胸が張り裂けそうになって、それが10年以上」

深夜「.....」

那月「水波さんや夜永さん、葉月さんが優しく声を掛けてくれましたが、それがお母様やお父様との関係に繋がる訳でもなく.....」

深夜「.....気が向いたら、教えとくわ」

那月「お願いしますね」

勝ち誇った表情で那月は祖母に一礼して部屋を出た

那月「(相手が孫だから....優しいのかな?)」

いや、ただ同情しただけかもしれない

考えを改めた那月は、適当な場所に足を運んだ



深夜「(.....友達とかって居ないのかしら)」

自分の場合は少し離れた距離に妹の真夜が居て、近くに雪乃が居た

歩夢に似て友達を作らないことを誇りだと勘違いしているようなら、救いようがない

高校生活で友達が出来ることを誠実に深夜は願った


【安価です。
1.沙夜と千夜と話す
2.雪乃と話す
3.葉月と話す
4.霜月と話す(話が進みます)
安価下。】


>>339 1.沙夜と千夜と話す】

千夜「あ、那月だ」

沙夜「相談事でもしにきたの?」

那月「ぁ....いえ、全部終わった後です」

若い二人に那月は未だ慣れない

彼女の知る彼女達は、2096年辺りにおける深夜と真夜の姿そのもの

葉月の話ではないが、先祖返りなんじゃないかと疑う

千夜「.....しっかり挨拶できた?」

那月「そこそこ」

沙夜「納得いくまでカグヤでやり直せばいいのに」

那月「それでは私が納得出来ませんから」

たった一回のやり直しをしてしまえば、それは負の連鎖に繋がる

最善の手を求めて、何度も何度も繰り返し、せっかくの別れの感動が薄れてしまう

よって若干の不満こそあれど、一回でそこそこな形に収められたのは満足に値していた

沙夜「.....歩夢や深雪の娘とは思えないわね」

那月「似てませんか? 似てるって言われますけど」

沙夜「容姿とか一部の性格は似てるとは思うけれど、言葉遣いとか....ご先祖様への尊敬の念とか」

那月「尊敬はしてませんけど」

沙夜「.....CADを必要とする貴女と、CADを必要としない私。どっちが勝つと思う?」

那月「目を使える私です」

沙夜「歩夢に全部言ってやる! 如月さんに怒られろ!」

千夜「姉さん.....どんどん可哀想な人間になってる」

沙夜「.....!」

妹の声で冷静になった沙夜だが、憤りは隠せない


沙夜「もういいっ! 知らない! 時の狭間に残されて人生を過ごせばいい!」

千夜「時の狭間で人生は無いから安心して。何もない世界で人生と言わずに一生を。時に干渉出来る時代がやって来るまでそこで何百年も一人だから」

那月「.....まじですか」

千夜「霜月さんはそう言ってたよ」

那月「こわ....」

あの霜月が失敗など万が一にも考えられないが、億に一ならあり得るかもしれない

人間は誰しも失敗すると義務付けられているのだから

那月「過去にそういったケースは?」

千夜「十二師族の人達。皐月さんとか」

那月「.....脱走とかって出来ないですよね?」

千夜「少なくとも歩夢や那月の居る時代には無理。さっきは何百年後と言ったけれど、何千年....ううん、多分不可能なことだから。霜月さんが意図的に出さない限りは」

那月「なら安心です」

血筋的な復讐に遭うと危惧したが、可能性がゼロに等しくなり、那月は一安心する

いつまでも守って貰えるとは限らない

現に、ついさっきの時代では自らが前線に出た

現実的な実戦経験はあれが初めてのようなもの

そしてその最初の戦闘で那月はパラサイトに腹部を貫かれ、一度は死にかけた

父親の遺伝子が幸いし、痛みだけで全てを乗り切ったものの、アレは一生慣れることはない

沙夜「もう行こうよ」

千夜「あ....うん。じゃあまたね。もうこの私には会えないと思うけど、機会があれば」

那月「は、はい! ありがとうございました、色々と」

何かと小さなことで二人にはお世話になった

暇な時に話に付き合って貰ったりなど

歩夢との接し方も彼女らのおかげがあってこそだ

那月「尊敬....してます」

人に優しくし、相談に乗ってあげられる器の大きさ

これから大人になるためには必要なこと

思いがけない形でまた一つ学んでしまった

周囲の人間の期待に応えるために、努力をする

名誉ある四葉家の当主に一歩近づくために


【安価です。
1.雪乃
2.葉月
3.霜月(話が進みます)
安価下。】

>>342 1.雪乃】

親元を離れること約半年

人肌が恋しくなり、足早に霜月の部屋へと向かう最中

那月「.....あ」

向かいからやって来るのは祖母の若い姿

彼女にも色々とお世話になったため、ちょうど良い

那月「ありがとうございました。雪乃さんの協力が無かったらどうなっていたか....」

睡眠状態にある歩夢を寝室に運ぶこと

そして那月が食したお弁当のゴミの処理

つい先ほどの出来事を例に出すとしたら、この程度

思い返せば思い返すほど、感謝の気持ちが込み上げてくる

雪乃「手短に話すわね。貴女は“月”を求めたの?」

那月「はい。私が自分の意思でそう判断しました」

雪乃「理由とかって....教えて貰える?」

那月「人との距離を測るためです」

雪乃「複雑な家庭事情だったから?」

那月「歩夢さんの娘だからです」

雪乃「.....そう。納得したわ。ありがとう」

那月「もっと根掘り葉掘り聞かないんですか?」

雪乃「もう充分な理由を聞けたから。私が葉月さんの幻術に憧れて、それだけの理由で“幻”を求めたのと同じようにね。複雑な理由なんて要らないわ」


那月「.....相変わらずですね」

雪乃「あら、未来の私もこんな風なの?」

那月「そんな感じです」

雪乃「ふふっ....そう。未来は面白そうね」

那月「この時代も面白いですよ。これからは少し大変な生活を強いられますが、退屈はしないはずです」

雪乃「子供たちの成長を見守ることにするわ。もう私たちの時代は終わった。大人が出来ることは子供のために環境を整えてあげることだから」

那月「そのお気持ちを忘れず、孫にも優しくしてあげて下さい。深夜さんはちょっと怖いです」

那月の率直な感想に、雪乃は苦笑を漏らした

照れ隠しの証拠だと教えると、那月も自然と笑みが溢れる

長話に差し掛かろうとしたところで、

雪乃「もう行きなさい。キリが無くなっちゃうわ」

那月「はい。......ありがとうございました」

深々とお辞儀をし、那月は祖母のもとを離れる

那月「(帰ったら雪乃さんともお話.....したいなぁ)」

雪乃「(......強い子ね)」


【安価です。
1.葉月と話す
2.夜永と話す
3.霜月と話す(話が進みます)
安価下。】

3


>>345 3.霜月と話す(話が進みます)】

霜月「あら、元の時代にお帰りですか?」

那月「はい。帰れって言われましたので」

霜月「深夜さんに?」

那月「そういうニュアンスで」

霜月「ふふ、言葉の選び方が歩夢さんに似てますね」

那月「そう....ですか? その点において、似てるって言われたのは初めてです」

霜月「少し挑発的というか、.....子供っぽいというか」

那月「......」

嬉しいような、貶されているような

どんな反応をすればいいのか困惑する

那月「子供らしく異議を唱えればいいですか?」

霜月「何歳から大人で、何歳までが子供なのかを証明した上でなら、どうぞ」

那月「いじわる」

霜月「いつの時代も子供を困らせるのは楽しいです」

那月「.....やっぱり苦手です。いつの時代でも」

霜月「好きでも嫌いでも、ご勝手にどうぞ。私にそれを強制する権利はありませんし、力も無い。本心を変えることが出来るのは貴女だけです」

那月「自分に言い聞かせる...ということでしょうか?」


霜月「人への印象は、なかなか変わりません。ですので、『月』を使ってみてはいかがでしょうか? 己に月を魅せてみるというのは」

那月「自分で自分の意思を変える.....」

霜月「あくまでもそういう使い方が出来るんじゃないかと思っただけです。詳しいことは『月』の製作者である夜永さんにでも相談してみて下さい」

発想の逆転までは至らないが、幾分か見方が変わった

自慢の魔法の伸び代および可能性

そしてこれは不可能ではないと確信している

この魔法の製作者は、霜月家の四世代に渡って彼女らの魔法製作に携わっている人なのだから

霜月「新たな道標を見つけたところで、早く帰らないとですね。忘れないうちに」

那月「色々とお世話になりました」

霜月「構いませんよ。身内の好です」

那月「.....ありがとうございます」

霜月「最後に一つだけ。葉月さんの創造の世界で出会った未来の君影歩夢さんについて」

那月「あくまでも私の記憶を頼りにして創られた『噂の君影歩夢』....ですよね?」

霜月「えぇ、そうです。従って、歩夢さんが求めたものは分からず終いです。成果といえば葉月さんの心情が歩夢さんに大きく寄った事くらいでしょうか」

那月「それだけでも十分です。私の存在により、あの時代は影響を受けました。深雪さんが過去の歩夢さんを助けられる可能性が大幅に上昇したはずだと信じています」

霜月「....如月さんを説得できるかどうか。深雪さんに希望を託すしかありませんね」

那月「お母様なら絶対に成功させてくれます」

霜月「そのお言葉、伝えときますね」

那月「お願いします」

霜月「何か困ったことがあったら未来の私に」

那月「いやです」

霜月「時の狭間へ」

那月「ごめんなさいでした」

霜月「ふふ、冗談ですよ」

最後に微笑んだご先祖様の姿

その後は視界が真っ白になり

目を開けると、そこは真っ白な空間


窮屈な部屋に置かれた家具は白で統一され、本棚に詰められた本の文章は白という色で記されている

2095年の11月に来るときも訪れた部屋

那月は迷うことなくドアノブに手をかけ、開く

眩しいほどの光の先には


「おかえり」


自分が帰るべき場所

暖かく、唯一無二の家庭

あの人と一緒にいるとき

あの人と一緒にご飯を食べているとき

あの人の膝の上で寝ているとき

あぁ、そうか

と、実感する


やはりこの家庭が今の自分の全てだと

帰るべき場所には、こんな言葉を


「ただいま」


少女は過去のお土産話を語る


「今夜、久しぶりに一緒に寝てくれますか?」


「私としては久しぶりではないけれど」


「.....ダメ、ですか?」


「ダメじゃないわ。たくさんお話を聞かせてね?」


「はい!」


15年目にして気付く家庭の幸せ

少女が感涙することはなかった

涙はもう流しきっている

辛く、悲しい10数年の間に


那月「.....お墓参りです」

那月「少しの間、返そうと思って」

那月「お父様との思い出、大切にして下さいね」

那月「来年またネックレス取りに来ますから」

那月「そのときは立派な姿をお見せ出来るはずです」

那月「お母様とお父様は私が守ります」

那月「だから安心して下さい」

那月「お母さん」


母親を知るために実行された時間旅行

長い長い一人旅はそこで終わりを迎えた

またその終わりは始まりへ

新たな一歩を踏み出す機会

一人前の魔法師を夢見て、那月は決意を新たにした


【那月編は正真正銘これで終わりです。
次回は夏のお話を少し。
その後は原作12巻・13巻以降に突入します。

安価です。次回のスタート。
1.病室のベッドから(入院)
2.家のベッドから
安価下。】

1


>>350 1.病室のベッドから(入院)】

歩夢「ねぇ」

葉月「ん」

歩夢「話し相手になって」

葉月「無理。本読んでるから」

歩夢「.....お金渡すからゲーム買ってきて」

葉月「読み終わった後でもいいなら」

歩夢「ほんと? やった。あとどれくらい?」

葉月「頑張れば10分。このままだと1時間と少し」

歩夢「頑張って。お駄賃あげるから」

葉月「....うるさいなぁ。静かに読書させてよ。歩夢が私の気分を害すだけ予定は遅れるんだから」

歩夢「ごめん」

葉月「.....今から買ってくる。どのゲームがいいの?」

歩夢「お任せします」

葉月「歩夢の苦手なジャンルにする」

歩夢「いじわる」

葉月「私に任せたんだから、文句は言わないで」

歩夢「んー」

葉月「何かあったら遠慮なく目を使ってね。私がすぐ駆けつけられるとも限らないんだし」

歩夢「この病院には夜永さんが居るから大丈夫だよ。市内の治安もそこそこ良いから」

葉月「人生は突拍子も無いことの連続って本に書いてあったわ。.....じゃあ行ってくる」

歩夢「いってらっしゃい」

2096年の夏

歩夢は度重なる体調不良の末、担当医の夜永がすぐに駆けつけられるよう入院という形式をとった


それからは体調を崩すことなく、すこぶる好調な日々に反して、退屈な日々が続いていた

毎日側で黙々と読書をする葉月

週に2度か3度、連絡をくれるリーナ

両親や兄は2日に一度のペースでお見舞い

最近では達也や深雪とも連絡をあまり取っておらず、若干疎遠な雰囲気を醸し出していた

歩夢「(どうして病院のベッドに居るとかを言及されるよりかはずっとマシだけどね)」

なんだかんだで半年ほどあの2人には隠し事をしている

時間が経てば経つほど打ち解け辛く、最近の雰囲気も相まって憂鬱で仕方がなかった

退屈な日々に憂鬱な隠し事

やるべき事を見つけ、隠し事をその時だけでも忘れられる手段として、歩夢はゲームを選んだ

葉月に選択権を委ねたのは失敗だったかもしれないが、彼女の最近の動向を鑑みれば希望はある

尖っていた性格も丸くなり、お遣いも大抵のことなら受け入れてくれるようになった

歩夢の希望するジャンルはRPG

ゆっくりまったりストーリー性のあるゲームを望んだ

しかし現実は手厳しく、

歩夢「あ、おかえり。早かったね」

葉月「偶然にも近くにあったから。はい、これ」

歩夢「ありがとー!」

葉月「独断と偏見で、歩夢を困らせるために選んだ」

歩夢「ん...恋愛シミュレーション?」

葉月「青春を謳歌できなかった貴女にぴったり」

歩夢「いやぁ...それはいいんだけどさ....」

葉月「なに?」

歩夢「これ、女の子を口説く系だよね。別に男性を口説くゲームを求めていた訳ではないけれど、これはこれで....うーんって感じ」

葉月「とりあえずやってみたら?」

歩夢「う、うん....ありがとね、ほんと」

お遣いを終えた葉月は栞を挟んだ本を開く

返事を返す必要も無いと判断したのか、そのまま椅子に腰をかけて本の世界に浸る

歩夢「(.....とりあえずやるかぁ)」

葉月の気持ちを無駄にしないためにも、ひとまずはプレイしてみてから、労をねぎらうことにした







1時間ほどのプレイを終えた歩夢は、

歩夢「ね、ねぇ....このゲーム....だけど」

葉月「つまらなかった?」

歩夢「逆。ビックリするくらいおもしろい」

葉月「そう。なら良かったんじゃない?」

歩夢「ありがとう、このゲームと会わせてくれて」

葉月「.....そんなに?」

歩夢「お陰様で、裏表のない素敵な人と出会えたよ」

葉月「でも女の人でしょう?」

歩夢「結婚する。まだ付き合ってないけど」

葉月「夜永と咲夜みたいなことを言い始めたわね....」

歩夢「こんな青春したかったなー」

葉月「まずは性別からアウトね」

歩夢「攻略される側でも可だよ」

葉月「達也が攻略する側?」

歩夢「そうなる....けど、難しいんじゃないかな」

葉月「性格とか?」

歩夢「うん。完璧に再現する必要は無いんだけど、このゲームに感情移入し過ぎちゃって。どうしてもこれっぽくしたいって気持ちは拭えない」

葉月「ふーん.....あ」

歩夢「気付いた?」

葉月「却下。創造はこんなことに使わない」

歩夢「えー」

葉月「こればかりはお金を積まれてもしないから」

歩夢「売店のケーキ1つ」

葉月「お金と物はイコールよ」


歩夢「売店のお菓子とスイーツと雑誌」

葉月「だーめ」

歩夢「.....もう無いね」

葉月「しょせん病院の売店だから」

歩夢「その割にはコンビニ並のスイーツ置いてるんだよなぁ。おかしいでしょ、明らかに」

葉月「面談者用よ。私とか」

歩夢「昨日のモンブラン美味しそうだった」

葉月「また目の前で食べましょうか?」

歩夢「葉月の健康のためにもそれは許さない」

葉月「褒めても無駄よ」

歩夢「......」

創造を悪用したシチュレーションの再現は諦め、歩夢は再びゲーム内での青春を謳歌する

攻略キャラクターは6名

これならしばらくは退屈せずに済む

このゲームを選んでくれた葉月を恋のキューピッドとして称え、歩夢はお気に入りの女の子に話しかける


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:黒羽姉弟
偶数:津久葉夕歌
安価下。】

ほい


>>355 1.黒羽姉弟】

ゲームを始めて2時間が経過した夕方目前の時間帯

不意に葉月は本の世界から現実世界へと引き戻される

葉月「ん....誰か近づいてきた」

歩夢「誰か....って、お医者さん?」

葉月「纏ってる雰囲気と足音から察するに、偵察とかを専門にしてる魔法師。只者では無いわね」

歩夢「.......」

葉月「人数は2人。どうするの?」

歩夢「2人....ね」

2人組かつ魔法師の心当たりは幾つかある

しかしこのタイミングで、ここを訪れる者は限られる

歩夢「(千葉さんや柴田さん、七草先輩とか、七草姉妹、十文字辺りはあり得ないとして....)」

歩夢「(達也くんや深雪ちゃんなら葉月が気配だけで特定できるはずだし.....)」

葉月「あと10秒くらい」

歩夢「九島の可能性は?」

葉月「ゼロじゃない」

歩夢「幻術で騙そう」

葉月「無人の病室? それとも別人の病室?」

歩夢「任せる」

葉月「あ、でも病院内は魔法の使用を禁ずるって....」

歩夢「いいよそれくらい!」

葉月「さいてー」

歩夢「ぅ....」

葉月「斬れば解決よ。幸い、ここは病院だし」

歩夢「そういう問題じゃないと思うけどなぁ」

魔法を使わず、的確に撃退する方法

葉月の提案は撃退というより撃滅だが、そこに目的の差異は無い


歩夢「擦り傷まで。というか、威嚇が望ましい」

葉月「相手が何もしなければ気絶で済むわ」

歩夢「何かしてきても気絶で済ませて」

葉月「注文の多いご主人様ね」

歩夢「できない?」

葉月「もういい。斬る。貴女を」

扉へと向かって刀を構えていた葉月は回れ右し、歩夢に幻術で覆われた刀を向ける

歩夢「き、気まぐれにも程があるって.....!」

葉月「だいたい私がこんな狭苦しい病室に閉じ込められているのは貴女のせいで────」


亜夜子「あの」


歩夢「ぁ....」

葉月「ん.....」

2人の切羽詰まった熱は一瞬で冷め、来訪者の方へと視線が向けられる

亜夜子「お邪魔でしたでしょうか?」

歩夢「あ、いや....」

亜夜子「また日を改めて伺わせて戴きますね」

歩夢「違うの、待って!」

亜夜子「と、冗談はここまでにして。そちらの方は.....歩夢さんのご友人ですか?」

歩夢「友達っていうか....家族っていうか....」

亜夜子「詳しいことは存じませんが、親しい仲ということですね。歩夢さんの“それ”も知っているようですし」

そこそこ豪奢なフリフリのドレスを身に纏い、歩夢の病室を訪れたのは四葉家の分家の一つである黒羽の姉

そちらばかりに目がいってしまうが、扉のすぐ側には弟の姿もあった


歩夢「色々と聞きたいことはあるけれど、まずはどうしてここに?」

亜夜子「噂を聞いたものですから。歩夢さんが魔法を酷使されてお身体を悪くしたという悪質な噂を」

歩夢「あぁ....うん。じゃあその言葉遣いは.....」

今年のお正月に2人が対面した時には、勝手に達也を賭けて模擬戦に持ち込むほど高圧的な態度だったはず

それが今ではその字の通り、歩夢を敬った言葉遣い

同情の姿勢の表れなのか、と歩夢は疑う

亜夜子「お正月には大変失礼を致しました。その身体に更に負担をかけるような真似をしてしまって。今思い出せば体調が悪いことくらい想像がついたのに....」

歩夢「う、うん....」

亜夜子「達也さんや深雪お姉さまにこの事は?」

歩夢「.....伝えてない」

亜夜子「何か事情があるのですか? 私が言えたことではありませんが、婚約者に伝えないというのは......。幸か不幸か、その噂は達也さんや深雪お姉さまの方までは届いていないようです。お早めに伝えたほうがよろしいかと」

歩夢「(なんだこの子.....良い人か?)」

つい半年と少し前に感じた第一印象は、現在感じた第二印象にいとも容易く塗り替えられた

歩夢「でも少し疎遠になっちゃって。遠距離恋愛の難しいところだよ」

亜夜子「.....嫌味ですか?」

にっこりと微笑みながら見せる憤り

やっぱり彼女にも四葉の血が流れていることを実感すると同時に、厄介な性格をしていると悟る


歩夢「ま、まぁ....この話は私が解決することだから」

亜夜子「.....そうですね」

歩夢「それで、ご用件は?」

亜夜子「事実を確かめにきたのと、お見舞いです」

亜夜子が視線を送ると、後ろで待機していた文弥がフルーツの入ったカゴをベッドの傍らの机に置く

歩夢「あ、お気遣いありがとうございます」

亜夜子「これくらい当然ですわ。お気になさらず、ご安心して果物の味覚を楽しんで下さいませ」

歩夢「恋敵を一刻も早く殺そうと毒とか....」

亜夜子「そんな野暮なことは致しません。やるなら正々堂々と教育されていますので」

歩夢「そう....ですか」

亜夜子「早く病気を治して下さいね? 正々堂々と勝負するためには治して戴かないと困りますから」

歩夢「.....うん」

治す治さないの病気ではない

というより、病気かどうかも怪しいところ

然るべき物には相応の対価

人知を超えた魔法を3度も使用したのだ

病気程度で済まされるはずもなく、歩夢の身体は全体的に衰え、寿命の尽きが着々と迫っていた

亜夜子「それでは私たちは失礼します。夏休み間近とはいえ、九校戦も控えておりますし、お仕事の方も滞っていますので」

歩夢「あ、頑張って。緊張するかもだけど、亜夜子さんや文弥くんなら大丈夫だよ」

亜夜子「ありがとうございます。ご期待に沿えるよう、尽力致します」

歩夢「力を尽くすのは良いことだけれど、程々にね」

亜夜子「その時は私もこの病院のお世話になりますわ」

歩夢「ほんと笑えないから....」

亜夜子「それでは」

彼女は恭と一礼をし、弟と共に病室を去った

歩夢「......」

誰も居なくなった病室の扉をジッと見つめながら、歩夢は新しい事実を受け入れた

知り合い以上友達未満の人間でさえ、自分の“状況”を知るだけであのように接し方が変わる

悪い方から良い方へと

ならば、良い方からはどちらに向くのか

理に適って、良い方から悪い方へと向くのだろうか

亜夜子の訪問により、より一層伝えるのが怖くなった

背中を押されたはずが、後ずさりへ

小刻みに身体を震わせながら歩夢はその想いを胸の内に隠した


葉月「.......」


【夏休みの短編は以上となります。
次からは大まかなあらすじの後、原作の流れに歩夢たちを絡ませていきます。】

【原作14巻の内容です。

1.真夜「京都に潜伏している周公瑾を捕縛して」
ー9月23日ー

2.達也「京都方面に詳しい九島烈に協力して貰おう」
(九島家はパラサイトを参考にして擬似パラサイト(パラサイドール)を作っており、実験として九校戦のある競技に投入。製作過程で周公瑾が細工をしていて、パラサイドールは暴走。達也がすべて無力化する。達也が無力化していなかった場合、選手に被害が出ていた。)
ー同日ー

3.九島烈と話すために生駒(九島家のある場所)へ。
協力関係を築く。
ー10月6日ー

4.九島光宣(九島烈の孫)と伝統派(大雑把に言ってしまえば周公瑾の手下)が潜んでいそうな場所を観光する
ー10月7日ー

5.七草家当主「七草と周公瑾の協力を四葉に知られる訳にはいかない。呼び出して殺せ」
名倉(真由美のガーディアン)「はい」
ー10月8日ー

6.名倉、周公瑾に殺される
ー10月11日ー

7.伝統派が京都付近を根城にしているため、控えた論文コンペの見回りを兼ねて京都を訪れることにする
ー10月12日ー

8.ガーディアンの名倉が殺されたことを疑問に思い、真由美が達也に捜査の協力を仰ぐ
ー10月15日ー

9.達也・深雪・水波・幹比古・エリカ・レオが見回りに京都へ
ー10月20日ー

10.達也・深雪・水波・合流した光宣は市内の見回り
幹比古・エリカ・レオはその他へ
ー同日ー


かなり大雑把ですが、こんな感じです。
歩夢と葉月をどちらかに合流させます。
安価です。コンマ1桁。
奇数・0:達也たち
偶数:幹比古たち
安価下。】

せいや


>>361 0:達也たち】

葉月「そういえば今日だっけ」

歩夢「.....あ、今日か。達也くんたちが来るのって」

葉月「会いに行く?」

歩夢「外出許可取らないと怒られちゃうから」

葉月「申請するかしないかって聞いてるの」

歩夢「.....してみる。多分無理だけど」

眩い未来設計が崩れ始めてから約1年が経過した

最初はレベルの高い魔法を使用した際にのみ吐血で済まされていたが、現在では体調を悪くしている日の方が圧倒的に多い

ほぼ毎日風邪を引いているような状態だったが、偶然にも達也らが訪れるこの日の体調は普通だった

いつもの歩夢からしたら良く、しかし周りから見れば顔を真っ白にしている姿は具合が悪そうに見える

他人との距離を適度に置けば、怪しまれる心配は皆無に等しい

夜永「本当なら外出許可は出せないんだけどね。お出掛けの最中に体調を崩すことだってあり得るし」

葉月「本当ならってことはいいの?」

夜永「一番ダメなのはストレスを溜めること。これまでも何度か短時間の外出許可を出していたように、窮屈な病室から出て、身体を外に出すのはリフレッシュ効果が期待されるのよ。入院患者とかなら、尚更ね」

葉月「......」

夜永「今がお昼前だから.....5時間。それまでに病院に戻るか家に戻るか。最悪、ホテルでも構わない。ただしホテルを利用した場合は私に連絡してね。そこらの医者に歩夢さんを見せるわけにはいかないから」

葉月「家に連れて行った場合は?」

夜永「私に連絡、または雪乃さんに相談するか。雪乃さんは医療関係の勉強をしていたこともある。応急的な環境は作り出せるはず」

葉月「わかった」

夜永「.....葉月だけが頼りだからね。歩夢さんのことを......妹のことをよろしく」

一蓮托生の君影歩夢と瓊々木咲夜の精神


君影歩夢の身体を毎日診断してきた夜永だからこそ、その身体の衰えはハッキリと分かった

予想よりも早くその身が滅ぼされていることに

原因は幾つか考えられるが、一番の要因はストレス

達也や深雪と疎遠関係になっていること

そして、言い出そうにも言い出せない秘密

どちらも大切に人たちへの想いが負担をかけていた

夜永「(......そういえばアレもあったわね)」

2年前に起こした歩夢の罪

2年越しの悪いタイミングでその凶報は入った

夜永「(気にしていなければいいのだけれど)」

罪は罪でも、夜永が話に聞く限りアレは事故に等しい

責め立てられる義理が無ければ、気に負う義理も無い

夜永「(.....周りの環境次第、ね)」

全ては環境に掛かっている

歩夢の寿命は達也と深雪の対応に左右されると言っても過言では無かった



外出許可が下りた歩夢は葉月と外に出ていた

かなり久しぶりとなる外出は気分が高揚する

葉月「もうそろそろ休憩でも挟む?」

歩夢「ううん、大丈夫。今日は体調いい日だから」

葉月「顔真っ白だけどね。身体の軸も不安定だし」

歩夢「大丈夫だから」

葉月「.....そう」

本人がそう言うならこれ以上心配はしない

ただしそれは口に出すかどうか

葉月はガーディアンとして常に周囲に警戒しつつ、夜永との約束で歩夢の体調を気遣わなければならない

不思議と面倒な役割を割り当てられても、嫌な気分はしなかった

半年ほど一緒に過ごした影響なのか

それとも不幸な彼女に同情しているのか

そのどちらなのか、またはどちらでもないのかは不明瞭である

葉月「達也は伝統派が潜んでいそうな場所を回るって言ってたわ。.....何処に行く?」

歩夢「......達也くん達が取ったホテルかな。ロビーで待たせて貰えば確実に会えるでしょう? あの人の性格だから効率を狙って2つのグループに別れているだろうし、情報の共有は小刻みにするタイプだから」

葉月「歩夢の為にもそれがいいのかもしれないわね」

無作為に歩き回っても埒が明かない

それなら体力の少ない歩夢のことも考慮して、待たされるような事があってもホテルのロビーで待機するのが堅実だと判断する

葉月「確かホテルは.....」

歩夢「CRって言ってたね」

葉月「.....何処?」

歩夢「端末で調べよっか」

観光地に家を構え、病院を家のように扱っている2人にとっては観光名所付近に建てられるホテルについては疎かった

情報端末で場所を調べた2人は日陰を通りつつ、リフレッシュ効果を望んでホテルへと向かった


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:達也らと遭遇
偶数:少し待つ羽目に
安価下。】


>>366 6:少し待つ羽目に】

ーCRホテルー

歩夢「葉月はいつ以来?」

葉月「2週間ぶりくらい」

歩夢「魔法の開発は進んでる?」

葉月「私には分からないわ」

CRホテル内のロビーの端の方で2人は待機していた

話題は葉月が最近、達也と会ったことについて

先日、葉月に達也からの依頼の連絡が届いた

内容は新作魔法の環境を創って欲しい、というもの

新作の魔法はコツを掴めるかどうかであり、また失敗した時の反動も大きいため、葉月の創造が採用された

葉月「相談は夜永にしてるみたいだから」

歩夢「妥当」

葉月「咲夜が聞いたら怒りそうだけどね。忙しい姉さんにこれ以上負担をかけるな、って」

歩夢「言いそう。というか、絶対に言う」

葉月「同性だからこそ距離感が無いのかしら。達也と深雪、歩夢と隼人には薄い壁があるのに」

歩夢「それを除いてもあの2人は相当だと思うけど」

葉月「世も末ね」

歩夢「いや、だからあの2人は特別なんだって」

葉月「あの年齢で特別も何も無いと思うけど」

歩夢「うーん.....まぁ、そうかなぁ」

仲の良い兄妹、姉妹

実に微笑ましいものだが、限度というものがある

その限度とは一体どこまでなのか

2人はこの議題について数十分間語り合った





歩夢「だから深夜さんと真夜さんは.....」

話は深夜と真夜に姉妹まで至り、白熱してきた頃、

葉月「....ぁ」

歩夢「ん.....」

葉月に続いて、歩夢もそちらへと視線をやる

そこには達也と深雪、水波と光宣の姿

九島光宣に協力して貰っていることは事前に情報を得ていたので、大した驚きは見せなかった

葉月「今ならまだ戻れるけど」

歩夢「せっかくだから」

葉月「日本人の悪いところ」

歩夢「期間限定って言葉に弱い、みたいな?」

葉月「せっかくだからって理由を付けたがる」

歩夢「日本に限らないと思うけど。リーナもせっかくだから◯◯しようって言ってたし」

葉月「馬鹿ばっかり」

素っ気なく吐かれた毒舌を聞かなかったフリをして、歩夢はソファから立ち上がり、ホールの方へと向かう

その半歩後ろには葉月がピッタリと張り付き、挙動不審に見えない程度に辺りを警戒している

目視出来たのか、達也ら一行の視線は2人へ

深雪「待っててくれたの?」

歩夢「此処でなら会えるかなって」

深雪「そう。久しぶりね、歩夢。......痩せた?」

歩夢「夏バテだよ」

深雪「食欲不振が続いたのね」

咄嗟の嘘は罷り通り、深雪は嘘を信じこんだ

しかし深雪の傍に控える水波はそれを虚言だと見抜き、切なげに俯く


深雪「こちらは九島光宣くん。今回の件で京都案内をして貰っているの」

歩夢「君影歩夢と申します」

光宣「深雪さんからご紹介に預かりました、九島光宣です。....失礼ですが、君影雪乃さんの....?」

歩夢「母をご存知なのですか?」

光宣「つい先日にも祖父とお会いしていたので」

歩夢「そう....ですか」

光宣は霜月のことを知らない

あくまでも君影雪乃は、九島烈のそこそこ親しい知り合いとして認識しているようだ

達也「ここでは話しにくいこともある。部屋に....」

チェックインを済ませた達也が移動を促そうとした時、エントランスからぞろぞろと見慣れた人影が

別行動を取っていた友人たち

しかしその中には見慣れない人影も一つあった

将輝「司波さん」

深雪「お久しぶりです。一条さんも京都にいらっしゃっていたのですね」

将輝「こちらこそご無沙汰しております。来週の論文コンペの下見をと思いまして」

余所行きの微笑みを向ける深雪に反して、将輝は緊張している様子

九校戦で彼女に敗北したことよりも、彼女に一目惚れした時の印象の方が大きく、それが充分に現れている

達也「挨拶も程々にしておけよ」

歩夢にはあまり馴染みのない達也の口調

男友達にはこんな接し方をするのか、と

歩夢「(1年半も付き合ってるのに......)」

まだ知らない恋人の姿に一抹の寂しさを感じた


【ここからは少しダイジェストで。

1.エリカらと一条将輝が一緒に居る理由
・達也たちと別行動を取り、伝統派が潜んでいそうな場所を見回っていた幹比古・エリカ・レオは、論文コンペの会場である新国際会議場付近の山から押し殺したような殺気を感じ取る
・敵の数は九人。三人は順調に敵を無力化していくが、最後の一人に苦戦する。そこに下見に来ていた一条将輝の偶然助けられ、行動を共にして達也らのホテルを訪れる

2.得た情報について
・達也らは横浜事変で大亜連合侵攻軍を手引きした者(周公瑾)が京都方面で伝統派に匿われている情報を得て、操作しに京都を訪れた
・周公瑾の名前を将輝に告げると、将輝は横浜で彼と出会っていることを思い出す(アニメ描写あり)
・周公瑾の潜伏場所が伏見より南、宇治より北と大方の予想がつく

要所としてはこの程度です。
この翌日に達也・深雪・水波・将輝は周公瑾を捜しに、幹比古・エリカ・レオは本日に続いて論文コンペ会場付近の安全確保のため動きます。】


会議中、歩夢と葉月は別室で待機

彼女らに協力の要請が無かったからだ

葉月「一言くれれば手伝うのに、とか思ってないでしょうね? 今の貴女は集団の足を引っ張るだけよ」

歩夢「達也くんたちだけで充分でしょ。私たちが出る幕なんて....多分、無いよ」

葉月「私はともかく、貴女は確実に無いでしょうね」

歩夢「葉月には理由があるの?」

葉月「敵が歩夢を攻撃したとき。正当防衛が理由」

歩夢「じゃ、じゃあ....敵が達也くんたちを攻撃したとき、私は目を使って相手を無力化する」

葉月「身体に負担を掛けることは無いけれど、そもそもその現場に居合わせられないわ。この件が解決するまで、歩夢は病室に閉じ込める」

歩夢「......」

恋人を信頼しているからこそ、言い返さなかった

自分が出る幕は無い

葉月の言う通り、足手まといになるだけ

事実、無力な自分に出来ることは皆無に等しい

1年前なら、と邪に考えてしまう

葉月「情報の共有、終わったみたいね」

歩夢「ん.....」

二つの部屋を遮る襖が開かれた

二つの部屋を遮る音の障壁も同時に解かれる


エリカ「ねぇ深雪、さっきから気になってたんだけど、歩夢の隣に居る白いのは誰?」

葉月「白い....?」

癇に障ったのか、葉月は左手に握る刀を握りしめた

その事を察知したのか、深雪は慌てて間に入る

深雪「こちらは.....」

慌てて仲介したものの、自己紹介が出来ない

『葉月』という苗字は特殊であるからだ

なんとなく深雪の雰囲気から察したエリカは、

エリカ「言えない素性ってことね」

葉月「千葉エリカ......」

エリカ「自己紹介はしてくれないの?」

葉月「匿名」

エリカ「......」

挑発的な葉月に対して、エリカは一歩下がった

エリカ「体の軸がブレてない....。貴女も剣士なの?」

一歩下がった理由は間合いを取るため

あの位置だと避けることが難しく、先制を取られた時点で勝敗が決するところであった

葉月「どうでしょうね。少なくとも.....歩夢?」

入り難い二人の間に歩夢が入り、二人を冷静にさせた

歩夢「友達だから」

葉月「.....私は出てる。帰るときに声を掛けて」

歩夢「あ....」

エリカに一瞥の眼差しを向け、そのまま葉月はスタスタと部屋の外へ

達也や深雪の居る空間において、万が一の襲撃にも咄嗟に駆け付けずに済むと判断したのだろう

残された一行の空気はどんよりと淀めいた


【安価です。
1.歩夢と達也
2.歩夢と深雪
3.歩夢と水波
4,歩夢とエリカ
5.歩夢と将輝
6.葉月と達也
7.葉月と深雪
8.葉月と水波
9,葉月とエリカ
安価下。】

はあっ

>>371
選択肢9個でややこしかったですね。
申し訳ありません。
コンマではなく、1〜9のどれかをお選び下さい。

安価下。】

3


>>373 3.歩夢と水波】

水波「夏バテは無理があったと思います」

歩夢「.....嘘だと見抜かれるのも時間の問題?」

水波「そうではなく、ご自身から告白するべきです」

歩夢「わかってる....わかってるんだけど、どうしても.....言い出せなくて」

水波「今なら怒られるだけで済むかもしれません。リスクは後になれば後になるほど増していく一方ですよ」

歩夢「......」

年下に諭され、歩夢は黙る

自分に甘え、周りに甘え、環境に甘えた結果

一年もの間、大切な人達に隠し事を続けている

テストで0点を取ったとか生易しいものではなく

君影歩夢の寿命に関する重大事項

今から告白したところで、怒られるのは間違いない

縁を切られる可能性だって考えられる

歩夢「退屈に終えるのだけは.....嫌だな」

水波「だったら早く言ってください。今日中に!」

歩夢「きょ、今日.....?」

水波「0時を過ぎたら私から言います」

歩夢「......がんばりゅ」

水波「舌足らず?」

歩夢「噛んだだけ」

水波「今更かわいいアピールですか?」

歩夢「.....こ、この半年で変わったね。悪い方向に」

あんなに良い子だったのに....と、歩夢は心に傷を負う

すべては司波家に居候を始めてから

あの家でストレスを身の内に貯めるようになってから

迅速かつ適切な対応が求められる

水波「もう手遅れだということをお忘れなく」

カウンセリングを夜永に丸投げすることを胸に

歩夢は年下に諭され、説教されて、恐喝された


【安価です。
1.歩夢と達也
2.歩夢と深雪
3.歩夢とエリカ
4.歩夢と将輝
5.葉月と達也
6.葉月と深雪
7.葉月と水波
8.葉月とエリカ

達也と深雪に告白するかどうかの流れは別にやります
安価下。】


>>375 4.歩夢と将輝】

将輝「君影さん」

歩夢「......一条くん」

人気の無い場所で頭を抱えていた歩夢に声を掛けたのは、引きつった表情をしている一条将輝

寿命を縮める原因を作った一人だが責める道理は無い

歩夢「なにかご用でしょうか?」

将輝「いえ、以前お会いしたときより元気が無さそうだったので」

歩夢「あ....。つまらないことで悩んでいるだけです」

将輝「相談に乗りましょうか?」

歩夢「ご好意は有り難いですが、私事ですので」

拒否の旨を伝えると、将輝は引き下がる

学生ながらにして大人の対応

常識を弁えた紳士的対応

人間として有るべき対応

いずれにしても大助かりであった

将輝「一つお聞きしてもよろしいですか?」

歩夢「はい。私に答えられることなら」

将輝「君影さんから見て、司波達也はどういう人間ですか?」

歩夢「深雪ちゃん....じゃなくて?」

将輝「司波達也です」

彼を恋敵として認識しているのか

弱味につけ込むのは『争』であれば当然のこと

どんなに小さな情報でも有意義に使えるかもしれない


そんな想いに応えるため、歩夢は少しだけ話す

歩夢「達也くんは真面目です」

将輝「他には....?」

歩夢「そこそこ周りに気を遣えたり」

将輝「......」

歩夢「周りには女の子がいっぱい居たり」

将輝「本質的な情報を.....」

歩夢「強い。一条くんでは勝てないかも」

将輝「.....! それだけで充分です」

歩夢「もう少しありますよ?」

将輝「いえ、励みになりました」

歩夢「.....そうですか」

将輝「ありがとうございました」

スタスタと足早に去っていく将輝

純真な彼の後ろ姿を目で追い、「はぁ」と一息つく

歩夢「.....真面目だなぁ、一条くんも」

真面目に恋をし、真面目に努力ができる

自分とは違う環境に歩夢は嫉妬の感情を抱いた


【安価です。 残り2回
1.歩夢と達也
2.歩夢と深雪
3.歩夢とエリカ
4.葉月と達也
5.葉月と深雪
6.葉月と水波
7.葉月とエリカ

達也と深雪に告白するかどうかの流れは別にやります
安価下。】

7


>>378 7.葉月とエリカ】

どうしてあの場面で感情的になってしまったのか

取るに足らない千葉エリカを敵視してしまったのか

葉月は一階のロビーで物思いに耽ていた

従って注意力は散漫となり

そこそこな速さで近付く影にも一瞬遅れて反応する

葉月「ん」

小さな物体

それは自動販売機で購入したと思われる缶コーヒー

何者かによって投擲され、反射的に右手で受け取る

葉月「熱っ....」

直後、反射的に受け取ってしまった事を後悔した

嫌がらせなのか、缶コーヒーは暖かい

こんなことなら安全策として斬るか、避けるか

唯一取った行動がハズレだったことに不快を感じる

葉月「.....嫌がらせかしら?」

エリカ「対価よ」

葉月「人様の時間を戴くために、これ?」

エリカ「130円分」

葉月「.....2分10秒」

エリカ「1秒につき1円....。随分なぼったくりね」

葉月「私は高いのよ」

エリカ「それでいい。聞きたいことも特に無いし」

「だったらどうして」と

葉月が聞くよりも先に、エリカは葉月の隣に座る


なんだこの図々しさは....、と呆れる葉月を他所に、

エリカ「左手に握ってるのは?」

葉月「質問は.....。ご予想の通り」

エリカ「流派は?」

葉月「強いて言うなら我流」

エリカ「お手合わせ」

葉月「死ぬわよ?」

エリカ「.....力の差が分からないほど馬鹿じゃないわ」

葉月「懸命ね」

エリカ「歩夢との関係は?」

葉月「契約」

エリカ「....契約?」

葉月「役目と言った方がいいかもしれないわね」

エリカ「内容を聞いてるんだけど」

葉月「教えられない。ただ、私がしたいことをしているだけ。私は私のために刀を振るう。そして私は歩夢を護りたい。つまり私は私が護りたい歩夢のために刀を振るうってこと」

エリカ「プロの警備なの?」

葉月「警備よりは傭兵の方が適切ね」

エリカ「歩夢は優秀な魔法師よ。どうして歩夢が傭兵紛いの貴女を雇う意味が.....」

葉月「時間。その質問には答えない」


エリカ「...少しくらいサービスしてくれてもいいのに」

葉月「その質問には答えられない。サービスよ」

エリカ「....なるほどね。雰囲気は察したわ」

何が理由で雇ったのかは分からない

けど、傭兵紛いの警備を雇う理由が存在している

それ以上は時間があったとしても聞くつもり無かった

踏み込んではいけない雰囲気

そして葉月の左手に込められる想い

不意を突いても勝てないと分かっている相手の気分をこれ以上害するのは自身の身の危険にも繋がるからだ

エリカ「貴女って案外、普通なのね」

葉月「.....」

エリカ「最後に名前を聞かせて」

葉月「.....もう時間は過ぎてる」

エリカ「そ。ならいいわ」

ソファから立ち上がり、エリカはエレベーターの方へ

後ろに注意を払おうとせず、無警戒のまま歩く

葉月「最後に私から」

声が届くと、エリカは振り返った

そして空中に投擲された冷めた缶コーヒーはエリカの手中に収められる

葉月「コーヒーは嫌い。次はお茶にして」

2分10秒分の130円を返された

一瞬戸惑ったが、エリカはすぐに理解する

彼女の性格が気まぐれだということを


【安価です。 残り1回
1.歩夢と達也
2.歩夢と深雪
3.歩夢とエリカ
4.葉月と達也
5.葉月と深雪
6.葉月と水波

達也と深雪に告白するかどうかの流れは別にやります
安価下。】

5


>>382 5.葉月と深雪】

深雪「エリカとなにを話していたの?」

葉月「他愛も無い雑談よ」

深雪「そう。隣、座ってもいい?」

葉月「ダメ」

拒否の旨を伝えるが、深雪はそれを無視

ついさっきまでエリカが座っていた場所に腰をかけた

葉月「.....ダメって言ってるのに」

深雪「ふふっ」

ぷくっと膨れっ面をする葉月に深雪は笑みを漏らした

初めて会ったときと比べてずっと普通の女の子らしい

これも歩夢の影響なのか

はたまた、元からこういう少女なのか

深雪「ぎゅーって抱きしめたい」

葉月「触れた瞬間に斬る」

深雪「歩夢が悲しむんじゃないかしら」

葉月「歩夢を悲しませているのは貴女よ」

深雪「どういうこと?」

葉月「大切な人にする隠し事は胸が痛むって話」

深雪「それは....誰にでもあって当然の隠し事?」

葉月「これ以上は言えないわ。歩夢に訊いて」

深雪「......隠し事ね」

真剣な面持ちで話す葉月

深雪はこれが冗談ではないと悟る


本当に胸を痛め、苦しんでいるのなら

深雪「どんなことでも受け入れるわ」

葉月「友達だから?」

深雪「大切な人だからよ」

葉月「それは友達を経て、大切な人でしょう?」

深雪「そう....なるわね」

葉月「二人の記憶、少し前に覗かせて貰ったわ」

深雪「去年の十一月....だったかしら」

葉月「貴女たちっていつ友達になったの?」

深雪「え....?」

葉月「友達同士になった経緯が無かった。自然と付き合いが二人を引き寄せあっただけ。友達という経緯を飛ばして、大切な人同士だと認識しあってる」

深雪「......」

葉月「大切な人同士なのは私でも分かる。でも、友達同士だと公言するのは無理があるわ」

深雪「でも大切な人同士って友達以上の関係よね」

葉月「友達は裏切る。しかし大切な人は裏切れない。深雪、言葉には責任を持った方がいい。歩夢の隠し事を受け入れるって話、今なら聞かなかったことにしてあげる」

深雪「大切な人だからこそ、裏切れない....?」

葉月「そうよ。そして今なら、まだ友達になれる。大切な人から友達へと下げた方がいい。貴女が隠し事を裏切りだと認識して、お互いがマイナスになる前に」

深雪「.....そんなに重大なことなの?」

葉月「君影歩夢を見る目が変わるわ」

深雪「考えさせて」

葉月「期限は12月31日まで」

深雪「.....年末まで、ね」

区切りが良い

そんな単純な理由で深雪は『期限』を聞き入れた

葉月「(.....まだ楽観視しているようね)」

どこか心の奥底で余裕を持っている

そう悟った葉月は、

葉月「私は役目を果たす。今だけは歩夢の味方よ」

深雪「役目.....?」

葉月「歩夢を物理的に傷付けるのは許さないから」

深雪「は、葉月....?」

葉月「問答無用で斬る。これだけは覚えておいて」

歩夢の身辺警護を役目としている葉月は釘を刺す

相手が深雪や達也であろうと、変わりない

嫌なことはさせるな

それが最大限の葉月の温情であった

言い残し、葉月はエレベーターの方へ

世話を焼かせる主人の限界時間が迫っていた

病院に戻る時間は残されていない

二人が戻るべき場所は一箇所に絞られた

【安価です。コンマ1桁
奇数・0:達也・深雪と会話
偶数:会話よりも前に葉月に連れ出される
安価下。】

とうっ


>>385 8:会話よりも先に葉月に連れ出される】

時間が過ぎるのはあっという間で、気が付けば夕方

そのほとんどが移動や待機時間に費やされている

よって実感が無く、また物足りなさを感じさせた

歩夢「も、もう時間なの? もうちょっとだけ.....」

葉月「夜永から言われているの。よろしくって」

歩夢「.....そうだよね。葉月も....うん」

自主的に歩夢と行動を共にしている訳ではない

ほぼ行動に制限をかけられた身

相手の立場のことを考えると、己の愚かさに気付いた

歩夢「今日中にあの事を言わないとダメみたい。水波ちゃんに脅されちゃった」

葉月「悪いけど.....」

歩夢「電話で話すよ。嫌だけど、それしか無いよね」

葉月「.....なら、しっかり身体を休める時間を作るために早めに帰らないと、ね?」

歩夢「うん」

差し出された右手に、歩夢は左手で手を取った

彼女なりの優しい気遣い

近くに頼れる人が居るのを感じさせてくれた

ホッと安心する気持ちを新鮮に、挨拶を済ませる

放課後にする「また明日」に似た意味合いで

水波にはアイコンタクトでその旨を伝えた

結果は渋々だが、しかし快く了承

出来る限りのサポートも期待して良いようだ

葉月「帰りましょうか」

歩夢「病院....はもう無理だね」

葉月「久しぶりの家に」

ここ半年ほど帰っていなかった君影家へ

間取りはあまりよく覚えていない

新居を訪れるときの気持ちがよく分かった

もし数年後に新居を構えるとしたら────

歩夢「(今みたいな高揚感に浸れるのかな)」

夢見る彼氏との夫婦関係での二人暮らし

そんな日が来ることを夢のまた夢に、夢見て

ジメジメとした外気の中を歩み始めた


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:体調を崩す
偶数:達也と深雪に連絡
安価下。】


>>383 3:体調を崩す】

案の定、歩夢は体調を崩した

それはホテルを出てほぼ直後のこと

一人歩きもままならない主人に葉月は迷惑をかけられ、現在進行形で彼女をおんぶすることにより、甚大な迷惑が降りかかっていた

歩夢「.....ごめんね」

葉月「今更....よ」

深雪の言った通り、歩夢はここ半年で痩せた

BMI数値の平均には遠く及ばない

しかしそれでも人体というのはそこそこ重い

華奢な身体で一人を背負うのは大変なことだった

歩夢「重い?」

葉月「重くない訳がないでしょう?」

歩夢「そうだよね」

葉月「......この借りは大きいから」

歩夢「うん。何かで返す」

葉月「今返して。あそこのソフトクリーム食べたい」

歩夢「時間があるならいいけど」

葉月「何事にも余裕を持って行動するものよ」

病院を出た時点から計測を開始したストップウォッチ

4時間25分もの時間が経過していた

家までの距離は20分弱


多少の休憩くらいは簡単に挟めそうだった

葉月「お財布」

歩夢「.....はい」

逆らうに逆らえない状況に、歩夢は大切な財布を渡す

葉月は受け取ると、歩夢を椅子に座らせて売店へ

1分足らずで葉月は戻ってきた

歩夢「なにそれ」

葉月「夕張メロンとバニラのミックス」

歩夢「美味しい?」

葉月「うん」

歩夢「貴女の笑顔が見れて幸せだよ」

つい半年前までは限りなく節約を志していた葉月

しかし今では、随分と羽振りが良くなった

金銭的な余裕は笑顔に繋がる

切羽詰まった様子よりはよっぽど良い

嘘偽りなく、歩夢は葉月の成長に胸を撫で下ろした

葉月「食べる?」

歩夢「怒られちゃうよ」

葉月「ストレスを貯めるのが一番ダメなこと。たまにはこういう事でストレスを解消しないと」

歩夢「.....いいのかなぁ」

葉月「咲夜が何も言ってこないのが良い証拠よ」

歩夢「なるほど」

「じゃあ一口だけ」と

数ヶ月ぶりの氷菓子に舌鼓を打つ


歩夢「間接キスだね」

葉月「感想はそれだけ?」

歩夢「ううん。美味しかったよ。ありがとう」

葉月「どういたしまして」

再びソフトクリームを口に運ぼうとする葉月

しかし頬を赤く染めて一時停止した

歩夢「.....食べないの?」

葉月「歩夢が変なこと言うから」

歩夢「恋人かよ」

葉月「達也と別れて私と付き合う?」

歩夢「今の関係で満足しちゃってるから」

葉月「冗談よ。私も貴女とはごめんだし」

歩夢「そういえば、どんな人が好みなの?」

葉月「頭の良い人。強さとかはどうでもいいわ」

歩夢「頭の良い人....。達也くんとか?」

葉月「その程度ではダメね。異性ではまだ会ったことないけれど、同性なら夜永とか咲夜とか」

歩夢「あー....」

葉月「納得した?」

歩夢「私も結婚したいくらいに」

葉月「達也と夜永ったらどっちを取る?」

歩夢「どちらかしか助けられない、みたいな話?」

葉月「命はかけない。結婚するかどうかの話」

歩夢「達也くん」

葉月「達也と咲夜。どちらと一生を過ごすか」

考えるよりも先に、答えを口にしていた

脊髄反射のように答えていた

歩夢「咲夜と一生を過ごす」

即答に対して、葉月は満足気に微笑んだ


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:家に到着し、一休み
偶数:家に到着し、電話
安価下。】


>>391 2:家に到着し、電話】

歩夢「ん....お疲れ様でした」

目を覚ますとそこは自室だった

もう既に懐かしい光景の中に見覚えのある銀髪の姿

他ならぬ葉月に、ここまで運んでくれたお礼を言う

葉月「いいわね、背負われる方は気楽で」

歩夢「寝ちゃったことは謝るから。許して」

葉月「交換条件よ。私も許して欲しいことがある」

歩夢「お財布の中身を全部使ったとか?」

葉月「そうじゃなくって、さっき深雪と話したの」

歩夢「深雪ちゃんと?」

葉月「えぇ。歩夢は深雪と達也に隠し事をしている。年末までにそのことを受け入れる準備をしておいて、って」

歩夢「つまり深雪ちゃんの準備が出来次第じゃないと打ち明けられないの? 限度が年末と決まっているだけで」

葉月「私が話したのは深雪だけ。だから深雪にだけはまだ黙っておいて。達也には話しても構わない。これが私が提示する交換条件。これで水波が納得してくれるかどうかは交渉次第ね」


歩夢「.....そっか。うん、わかった」

葉月「許してくれる?」

歩夢「許すも何も、怒ってないよ。むしろ重ねてお礼を申し上げたいくらい。ありがとう、葉月」

葉月「じゃあ許してあげる、おんぶの件」

中立の立場で穏便に事を済ませようとした葉月

今回は若干裏目に出てしまった感が否めないが、結局は歩夢の言葉の選択次第

いかに誠意を見せられるかが鍵となる

歩夢「じゃあ....電話するか」

葉月「達也に? それとも一旦、あちら側のフォローをしてくれる水波に?」

歩夢「うーん、と」

どっちでもいい、というのが本音だった

水波の要領に良さは今更確認するまでもない

臨機応変にベストな形で対応してくれるだろう

それを踏まえた上で、どうするか


【安価です。
1.達也に電話
2.水波に電話
安価下。】

2


>>394 2.水波に電話】

あの子ならきっとしっかりフォローをしてくれる

でも、念には念を入れて

事前に伝えておくのに損は無いはずだ

と、一秒に満たない思考時間

心の底から大切だと思える場面で即決した

歩夢「(後悔するよりは、ずっと良い選択だよね)」

念には念を入れるための連絡だ

予防線を張ったにすぎない

歩夢「まず水波ちゃんに連絡するよ。葉月が私に言ったこと、伝えて貰える?」

葉月「.....えぇ。私の招いた事態だもの」

歩夢「そんな悪印象な言葉を選ばなくてもいいのに」

ともあれ、葉月の了承も取れた

数少ない連絡先の中から桜井水波をコールする

歩夢「.......」

葉月「......おかしいわね」

歩夢「うん」

いつもなら十秒足らずで彼女は電話に出ていたはず

しかし今回に限っては二十秒待っても出ない


葉月が怪しむ頃には、とっくに歩夢も怪しんでいた

葉月「事件かしら?」

歩夢「.....達也くんが居るからね」

葉月「事件の源には彼。解決するのも彼だけれど」

歩夢「でも、やっぱり不安だなぁ」

葉月「見てこようか?」

歩夢「ううん。大丈夫。もしかしたら水波ちゃんだけが出れない状況かもしれないし。三十分後くらいにもう一回かけてみよう」

葉月「なら、二十分間寝なさい。疲弊してるわ」

歩夢「お言葉に甘えて」

葉月「でも中途半端な休憩って疲れるだけよね」

歩夢「それを知りながらどうして促したし」

葉月「善意よ」

歩夢「反論できない」

拗ねる子供のように歩夢はベッドに寝た

もしこのまま寝れなくても多少の疲労回復は見込める

少なくとも間違った選択ではないはずだ

葉月「本貸して」

歩夢「お好きなものをどうぞ」

葉月「......全部戦争じゃない」

歩夢「お母さんとか夜永さんの部屋に行けば?」

葉月「たかが二十分の休憩でそこまでするのは面倒」

と、適当に積み上げられていた本を一冊手に取る

ペラペラと紙を捲る音が響く中、歩夢は眠りに落ちた






ー???ー

夜永「お疲れ様」

水波「私は何もしていませんが....」

夜永「周囲に障壁を張ってくれただけで充分よ」

水波「.....」

優しい声を掛けられ、本来ならば好意を受け取る場面

しかし目前に描かれた残酷な描写は障害を起こした

素直にその気持ちを受け取れない

目の前で人が何人も傷付いて、倒れているのだ

いくら相手が伝統派であっても────

水波「(いえ、これは.....)」

この場合、相手は問わない

自分の気分を害すのは

軍勢に対して一人で真っ向勝負を仕掛けた瓊々木夜永

圧倒的な力量の差を見せつけられた


天変地異のような魔法戦が繰り広げられ、

水波「(そして今から────)」

夜永が最初の魔法を使ってから十分が経過した

天変地異は全て元に戻る

元が元通りになり、元通りが元に戻る

ゲシュタルト崩壊を起こしかねない魔法は水波を酷く混乱させた

水波「......っ」

震えた右手を震えた左手で覆う

恐怖から来る震えは瞬く間に全身へ

最前線で暗躍する魔法師の実力

それは水波を、

夜永「大丈夫?」

肩に手を置かれて水波はハッと目を覚ます

震えは収まり、靄が晴れたように視界が明るくなる

水波「大丈夫....です」

夜永「そう? ならいいけど」

見透かしている

たった今、自分が何を恐れたのか

見越した上で何も言わない

ズルい、と素直な感情を抱いた

だが、そのことに関してとやかく言っても仕方がない

自分が成長する以外で恐怖を克服することは出来ない


無意識に水波は余計な言葉を発していた

水波「夜永さんよりも強い人って────っ!」

なんでもありませんっ! と訂正するが、無駄に終わる

夜永は少し首を傾げた後に、

夜永「近場だと雪乃さんとかかな。葉月さんとは違って殺傷能力のある幻術が彼女の魔法だよ」

水波「それってもう....幻術じゃないですよね?」

夜永「私が幻術だと定義したからいいのよ」

『固定感念』

その魔法名が水波の脳裏に浮かんだ

彼女がとある生徒のために作った魔法

その性能は悍ましいものを感じさせる

きっと達也では再現出来ないだろう

ならば概念に干渉するような魔法だってあり得る

彼女になら、可能かもしれない

水波「私に魔法を教えていただけませんか?」

彼女を恐れないために、実力をつける

彼女対策として、彼女を頼った

大切な主を守るために

血が滲むような努力を決意した



ー自宅ー

歩夢「うーん。出ないね、電話」

葉月「取り込み中なのよ」

歩夢「.....じゃあ達也くんも一緒?」

葉月「それは知らないわ」

歩夢「......」

改めて電話を掛けるが、繋がらない

達也も一緒なのか、それとも一緒ではないのか

それだけでも分かれば大助かりなのだが、仕方ない

歩夢「達也くんや深雪ちゃんにも掛けてみよっか」

葉月「一緒に夕食とかがオチだと思うけど」

歩夢「余計なお節介かな? 細かくて迷惑な女?」

葉月「うん。私が彼氏だったら着信拒否にする」

歩夢「やめておこう。夜にまた」

葉月「それが最善策ね」

せっかく出来た心構え

それを後回しにすればするほど、不安が募り

そして後退を続けるのみ

いつの間にか覚悟は霧散していた


【安価です。コンマ1桁。
奇数・0:翌日
偶数:???
安価下。】

はあっ


>>401 0:翌日
達也側で話を進めます。
1.今日も二手に分かれて周公瑾の調査
2.しかし光宣が体調を崩し、水波の監視下のもと留守番
3.七草真由美と合流し、並行してガーディアンの名倉がどうして死んだのかを調査
4.名倉の魔法が水(血でも可)を針にして相手に浴びせる魔法が得意だと判明する
5.嵐山公園付近に周公瑾が潜んでいた情報をもとに、嵐山公園へ
メンバーは達也・深雪・真由美・将輝】


公園の坂を登りきったところに『松林の道』という案内板を見つけた達也は迷わずそちらへと向かった

迷いの無さが、真由美に軽い違和感をもたらす

真由美「ねぇ、達也くん」

達也「何でしょう。少しペースが速すぎましたか?」

真由美に声を掛けられて、達也が足を止める

将輝と深雪も同時に止まった

真由美「そうじゃないけど」

言われてみて、真由美は自分の息が結構上がっていることに気がついた

達也と将輝は分かるとして、深雪まで息を乱していないことに彼女は何とも言えない理不尽を覚える

だが涼しい顔でそんな素振りは見せない

意地というものがあったからだ

真由美「達也くん、何処か当てがあるの? さっきからどちらに行こうか迷っている様子が無いけど」

指摘を受けて、自分の態度が不自然なものであることに達也は気付いた

確かに真由美の言う通りだ

不信感を抱かせる真似を自分がしてしまったのだから、誤魔化し続けるのは得策ではない

だからといって、真由美まで巻き込んでしまうのは何となく躊躇われた

何と言って誤魔化そうか

彼は少しだけ、悩んだ


少しというのは、長時間悩む必要がなかったからだ

深雪「お兄様!」

深雪が干渉領域を広げる

彼らに向かって飛んできた鬼火が、深雪の対抗魔法によって消滅する

達也「一条!」

将輝「任せろ!」

達也が前、将輝が後ろ

二人はすぐ深雪と真由美を挟んで守る陣形を取った

しかしそれは無意味に終わる

何かの魔法で移動を制限されたのではない

第三者によって、襲撃を仕掛けた敵は無力化される

???「この程度なら貴方達でも対処できたかしら」

達也「どうして此処に?」

???「たまたま通り掛かったから。珍しい二人も連れているようだし」

将輝「......!」

真由美「私たちをご存知....いえ、というより貴女は.....」

???「一方的に知られているのは気分が悪いかしら。それじゃあ簡単かつ短いご挨拶を」

大人びた現役大学生かと見間違うような綺麗な女性

襲撃した敵を一瞬で一網打尽にした張本人

その正体は、

雪乃「君影雪乃と申します」

あの人と同じ姓を持つ女性に、二人は驚いた



ー甘味屋ー

雪乃「改めまして。娘が世話になっているみたいね」

真由美「いえ、歩夢ちゃんはしっかりした子です」

雪乃「気の利いたお世辞が言えるのね。貴女のお父さんはお世辞についてからきしだったのに」

真由美の父は歩夢のことを悪い意味で気に掛けていた

それはもう監視と呼べるほどに

その事について、三月下旬に真由美は歩夢に質問した

何か接点があるんじゃないか、と

すると返ってきたのは有耶無耶で信憑性に欠ける言葉

隠すに値する接点

それ以上、真由美は訊かなかった

妹のような存在を想いやっての結果だ

しかし思いがけぬタイミングで機会が訪れてしまった

行方不明と噂されていた歩夢の母親がこうも堂々と目の前に現れたのだから、言いたいことはたくさんある

真由美「どうして歩夢ちゃんの目の前から消えたりしたのでしょうか? 」

雪乃「何処にでもある家庭の事情よ」

真由美「教えていただけますか?」

雪乃「そうね.....。端的に言ってしまえば、私の未熟さが招いた結果ね。私が未熟なせいで歩夢と隼人には辛い思いをさせた。だから感謝してるわ。歩夢を支えてくれた貴女達には」

質問にはしっかり答えている

これ以上の言及は良しとしない

未熟さについて問い質せば、それはもう自分の立場からはみ出た厄介者としての認識を持たれてしまう


真由美はここで納得し、引き下がった

真由美「続いてですが、私と一条さんをご存知なのですか?」

雪乃「えぇ。一条将輝さんとは初めましてだけれど、真由美さんとは一度だけ。小さい頃だったから覚えていないかもしれないけどね」

真由美「父とは....どのようなご関係で?」

雪乃「彼が一方的に敵意を剥き出しにしているだけ。迷惑しているのはこちらの方よ。まったくいつまで経っても大人にならないんだから」

不貞腐れたような言葉は真由美を驚愕へと導いた

あの父をこんなにも堂々と貶せる人間など、そうそう居ないだろう

少なくともこれまで会ってきた人は皆、本心を隠した敵意の無い仮面を付けた言動をしていた

雪乃「他に質問は?」

真由美「ぁ....ありがとうございました」

気圧されている

そう自覚したのはお礼を述べた後

真由美は心の中で敵わない、と呟く

雪乃「一条将輝さんは?」

将輝「強いて言うなら、君影歩夢さん。彼女、だいぶ体調が悪そうでしたが、何かの病気ですか?」

雪乃「心配してくれているのね。ありがとう。でも、大丈夫よ。季節の変わり目は体調を崩しやすい。ただそれだけだから」

将輝「そうでしたか。お大事に、とお伝え下さい」

雪乃「あら、お優しい。今度貴方のお父さんに会ったら伝えておくわね。御宅の息子さんは父親似ず、優しい子だと」

将輝「ご冗談を」

七草家の当主と同じく一条家の当主も同等に平気で貶してみせた雪乃に、将輝も真由美のように気圧される

さっきの一件も加味して、この場に居る当人を除いた四人が彼女に勝てないことを悟った

雪乃「さて。貴重なお話も出来たし、私はこれで。お代はこれでよろしくね。あとはお好きにどうぞ」

懐から甘味屋では馴染みの薄い一万円札を取り出し、達也に手渡しする

一瞬躊躇った達也だったが、厚意を素直に受け取る

雪乃「余ったお金は.....お賽銭にでも使ってみたら?」

半分以上のお金が賽銭箱行きになることを強いて、若々しく、到底二児の母とは思えない女性は去る

残された四人はおもむろに一箇所に視線を合わせた

達也「なにか追加で頼むか」

三人は元より、達也に同意した


【本来なら嵐山公園での敵襲で撃退はするが、その後の後処理として警察に事情聴取され、一日が終わる流れとなっておりますが、雪乃の登場で早めに切り上げました。
この後は一条将輝は実家へ戻り、達也たちは容態を悪くした九島光宣のもとに戻り、捜査は終了となります。
次の日は月曜日ということもあり、達也と真由美以外は東京へ。達也はもう一日だけ捜査をします。

ここからは深雪らが帰った日曜日の夜、達也と真由美の夕食シーンからスタートです。】


達也「どうしたんですか? こんな時間に」

ドレスアップした真由美を前に、達也は質問した

時刻は二十時を越えた辺り

突然シングルへと部屋を移した達也の部屋に、真由美が訪れたのだ

格好も含めて、疑問に思うのは当然だった

真由美「達也くん、お食事、まだでしょ? 一緒に食べに行かない?」

達也「ここのレストランですか?」

真由美「ええ、地下のフレンチ。さっきフロントに訊いたらまだ空きがあるって言うから予約しちゃった」

達也「....分かりました。着替えますので、ロビーで待っていただけませんか」

真由美「そのままでも良いのに」

達也「そういうわけにはいきませんよ」

真由美の格好はカクテルドレスというほどフォーマルなものではないが、Aラインの黒ワンピースの上に同色総レースのワンピースを重ねたシックでありながら華やかな装いであり、靴やアクセサリーもそれに相応しいもので、同席するのに普段着というわけにはいかない

達也は苦笑しながら、真由美が去ったのを確認して着替えへと取り掛かった



真由美「達也くん、似合ってるわ」

達也「先輩ほどではありません」

達也の言葉は謙遜ではなく本心だった

彼が着ている物はもしもの場合に備えて持ってきた、最低限のドレスコードを満たすスーツとネクタイでしかない

達也「座りましょうか」

このレストランは達也が予想したほどフォーマルなものではなかった

ウェイターはおらず、ウェイトレスの案内があっただけだ

達也「どうぞ」

達也が真由美の背後に回って椅子を引く

真由美「あら、ありがとう」

真由美は肩越しににっこり笑って椅子に座った

向かい側に腰をかけた達也は、真由美がメニューを手に取るのを待って、自分も開く

最近では割と珍しい、紙に印刷された物だ

真由美「達也くん、何にする?」

達也「俺はコースにしようと思います」

真由美「じゃあ私もそれに」

初めて訪れるお店では無難の選択をした二人

コース料理の一品目が運ばれてくるまでの間、


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:特筆するほどの無い会話で終わる
偶数:???
安価下。】

やあっ


>>408 3:特筆するほどの無い会話で終わる】

二人は近況について話し合った

片方は高校生だが、もう片方は大学生

新年度から半年が経過した落ち着いた頃合い、積もる話もたくさんあった

九校戦や一週間後に控えた論文コンペについてなど

絶えない会話で機嫌を損ねることなく、食事を終える

しかし波乱が起こったのはデザート終了後のコーヒーを楽しんでいる最中だった

真由美がこの後、バーに行こうと言い出したのだ

達也「今更言うまでもありませんが、俺は高校生ですよ」

真由美「ふふ、大丈夫よ」

実に無邪気な我儘により、達也は連行された





バーに入る直前、真由美が振り返って達也の耳元に口を近づけ、小さな声で我儘を上乗せした

真由美「ここでは先輩禁止ね。真由美って呼んで?」

達也「.....何故です?」

ワンテンポ遅れた返事

彼はらしくもなく、真由美のペースに乗せられていた

真由美「先輩だと如何にも学校の先輩後輩でしょ? 私も達也さんって呼ぶから」

もしかしたら楽しみたいだけなのかもしれない

真由美「それに学生だって思われたら厄介だからね」

取って付けたような理由を足して、真由美は達也の腕を取りバーの中へ引っ張って行く

そこはカウンター席のみのこじんまりとした店だった

客は、奥に一組のカップルだけ

バーテンダーは入店した二人の姿を横目に見るだけで、年齢の確認などはしてこない

達也は真由美をカウンターの反対端に座らせ、自分は隣に座る

真由美「アレキサンダーを一つ。達也さんは何にする?」

達也「サマー・デライトを一つ」

良く日に焼けたバーテンダーが達也を睨んだ

しかし何も言わずに頷いて、メジャーカップを手に取った

真由美「なんでノンアルコールなの?」

達也「ご容赦下さい、真由美お嬢様」

真由美「えっ!?」

達也「護衛の私がいざという時に動きを鈍らせてはいけませんので」

真由美「えっ? えっ?」

おそらく真由美は恋人ごっこを楽しみたかったのだろう

だが思い通りに操縦されるのは達也の主義に反する

と、その時、真由美に前にお酒が置かれた

続いて、達也の前にもノンアルコールのお酒が

ぎこちない動きをする真由美を他所に、達也は一口


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:???
偶数:しばらく楽しんでから部屋に戻る
安価下。】

ほい


>>411 3:???】

機嫌取りをそこそこに済ませると、真由美が口を開く

しかしその所作には幾らかの重みを感じる

きっと話しにくいことなのだろう

真由美「歩夢ちゃんとはどうなの?」

達也「依然変わりなく───と言いたいところですが、遠距離恋愛は無理があったようです」

真由美「ということは....あんまり?」

達也「はい。強いて言えば疎遠な関係です」

真由美「そっか....。でも一年と半年くらいだもんね。あの歩夢ちゃんにしては長続きした方じゃないかしら。あ、今すぐ二人が別れるとかじゃなくってね」

達也「えぇ、分かってます」

真由美「それにしても一年半かぁ.....。さぞかし仲良しで幸せな日々を過ごしたことを承知で聞くけれど、"あのこと”については教えてもらった?」

若干の声色の変化

真由美の所作が重く感じられたのは“あのこと”が関係しているのだろう

達也「“あのこと”とは?」

真由美「ほら、....歩夢さんが中学生のときの」

達也「.....中学2年生のときの失踪紛いのアレですか?」


真由美「ん? あぁ、ううん。私もそのことについて心配はしたんだけど、歩夢さんが大丈夫だって言ったから、多分、その事情については私よりも達也さんの方が良く知ってるんだと思う」

達也「なら、.....」

真由美「歩夢さんが中学3年生のときの」

達也「中学3年生......」

中学生の頃の話はそこそこ聞いてきたが、中学生3年生の頃の話はあまり聞かされたことがない

せいぜい受験勉強をせずに合格したことぐらいか

真由美「その様子だと聞いてないみたいね。てっきり聞いてるんだと思っていたけど」

達也「なにかそんな重大なことがあったんですか?」

真由美「うん。でも、私からは言えない。きっちり歩夢さんから聞くべきよ」

達也「.....分かりました」

真由美「言葉は選んでね。最近あった凶報も合わせて、歩夢さんは感傷的になってるはずだから」

達也「凶報についても歩夢から訊くべきでしょうか」

真由美「うん、もちろん。当人の許可を得ずに話せないわ。当人なら許可云々の縛りも無いでしょうし」

達也「触りだけを事前に聞くことは?」

真由美「.....それくらいなら。ただし、その代わりしっかり歩夢ちゃんを気遣ってあげてね」

達也「はい」

誰しも突然の情報には驚き、怯むもの

心の準備をして貰えるなら教えることも吝かではない

本当に触りの部分だけを、真由美は達也に告げた

真由美「歩夢さんが絶命を志願した出来事」

人生で二度目の絶命志願

一度目は自分だけが助かってしまった忌まわしき実験

真由美「魔法科高校に進学を決めた理由」

真由美「親身になって聞いてあげてね」

二度目の絶命志願は─────

真由美「きっと今も苦しんでいるはずだから」

彼女が中学生3年生の、秋まで遡る


【この後についてです。
1. 10月27日、論文コンペを明日に控えた日。
達也らは警備も兼ねて現地に前日入りする。
2. 同じく周公瑾を追っていた黒羽亜夜子と文弥から周公瑾の潜伏場所(国防陸軍宇治第二補給基地)を聞く。
3. 達也は一条将輝を呼び出し、潜伏場所である国防陸軍の基地に踏み込む

安価です。助っ人。
1.葉月
2.夜永
3.雪乃
お好きな方をどうぞ。】

1


>>414 1.葉月】

国防陸軍宇治第二補給基地に警報が鳴り響いた

それだけでなく、一つや二つではない発砲音までが聞こえてくる

大尉「何事だ!」

大尉が部屋の外へと怒鳴った

外に控えていた部下が血相を変えてその質問に答える

部下「基地に侵入者です! 賊は三名! いずれも魔法師と思われます!」

大尉「何ぃっ!?」

部下「その中でも特に刀を持った女が.....!」

大尉「刀だと? そいつも魔法師なのか!?」

部下「恐らく...いえ、魔法師です!」

恐怖が入り混じった熱意のある台詞

こんなにも切羽詰まった部下の姿は見たことがなかった


大尉「状況は?」

部下「補給物資を破壊しながらこちらに向かってきております!」

大尉「クソ....こんなときに」

と、大尉がやけくそに言葉を吐き捨てると同時に、

公瑾「ちょうどいい」

匿われていた周公瑾が立ち上がった

大尉「はっ? 周先生、何を.....」

公瑾「ちょうど良い機会です。皆さんは侵入者を排除してください。基地の全勢力を使って」

周公瑾がそう言うと、大尉と部下が感電したように身体を震わせる

その出来事は二人に限らず、基地内にいる周公瑾が洗脳した者全員に同様の現象が見られた

公瑾「それでは私はここで。お世話になりました」

大尉「はっ! お気をつけて」

否定的な発言どころか思想すら湧き上がらない

首筋に蜘蛛に噛まれたような跡が、そうさせていた






基地に侵入した二人は目の前の惨状に絶句していた

達也が保険として呼んでいた助っ人の功績が、二人を絶句させるまでに至ったのだ

将輝「おい、アレはなんだ」

達也「....予想以上だ」

白で統一された基地内の通路は赤で塗り替えられた

他ならぬ軍人が血飛沫を流し、染み付いた色

惨劇と言っても差支えがないそれは、達也と将輝に多大な精神的なダメージを与えた

魔法という常軌を逸した異能が、彼女の剣技に劣る

奇しくも血飛沫の中で舞うそれは人の心を魅了した

手の届かぬ場所にある『月』とはまた別の形で

葉月「(世も末ね)」

次々と現れる『人』を一閃で薙ぎ払いながら、葉月は心の中で悪態をついた

国を守る機関がこの程度では、頼りない

たった一人の人間を護ることを役目としている彼女にとって、一人の人間の命は尊く、その他大多数の人間の命は非常に見窄らしく同情の余地なしと判断した

特別扱い───── しているのだろう


この半年間ですっかり影響を受けてしまった

病院のベッドでいつまでも虚空を見つめる女性に

葉月「(最期まで私だけが味方でいないと.....!)」

この先起こるであろう未来の詳細を誰よりも知っている葉月は、一人で色々なものを抱えていた

役目を果たすためにあの人の側に居て、ずっと読書をして時間を過ごしていた訳ではない

今後をどう上手にやるかを考えるのに必死だった

全ては君影歩夢と司波那月のため

同情の余地あり、と判断した二人のためだ

『可哀想』という憐憫が葉月を動かす

今やっていることは八つ当たりに近い

重い物を背負って息苦しい生活を強いられてきた自分への、ちょっとしたご褒美である

───── 刀を振るうのは清々しい気分

生まれ持っての狂気に近い

罪のない人間を裁いていくのが、甲斐へと繋がった

葉月「.....誰にも邪魔させない」

盛大に返り血を浴びた葉月は上辺の虚空を見つめる

翡翠色の瞳は確かに、歩夢と同じものを捉えていた






「う.....ぅ....」

僅かに息のある兵士

右手には銃の存在が確かにある

視界の状況は最悪

うっすらと誰かの姿を認識できるのが不幸中の幸いか

周囲を見渡す限り、自分以外の全員が銀髪の少女の刀によって為す術もなく息絶えている

どうして自分だけがまだ息をしているのか

じっくりと考えている暇はなかった

一矢報いるためにも、眼前の二人を

何かに夢中になっている二人に、一矢報いるために

朦朧とした意識の中

兵士は立ち上がり、手を振りかざした

銃のトリガーを引く力はもう残っていない

なら、撲殺紛いのことを

おそらく無駄に終わるだろう

だが、無駄だと分かっていてもやらなければならなかった

そうでないと一生後悔する

命が絶える最後の一瞬までも


「うおおおおおおおぉぉぉ!!!」

雄叫びでようやく男二人はその存在に気付いた

CADを構えるが、間に合うかどうかの瀬戸際

しかし自衛のためにはやらなければならなかった

二人が同時に兵士を妨げようとしたとき、

葉月「達也!」

返り血を浴びた少女の、聞いたこともない声

それに驚いたからではない

翡翠色の瞳に睨まれたからだ

蛇に睨まれた蛙のように

身体が竦んで、動けない

「─────ッ! 」

隣の男はそんな男の姿に怯んでしまった

良きライバルだと認めざるを得ない彼が、怯む姿に

しかし息絶えそうな兵士の動きだけは止まらない

撲殺紛いのことを果たすまで残り0.5秒を切った

と、そのときだった

兵士の身体を急な脱力感が襲ったのだ

全身から力が抜けてゆく兵士の最期の猛攻は空振り

侵入者の一人に傷をつけることは叶わなかった





将輝「何が....起きたんだ」

達也「......」

急に倒れた兵士を見て、二人はその場で立ち尽くす

何度もつい先程のことをフラッシュバックするが、その原因を突き止めるまでには至らなかった

しかし何らかの外力はあったのは確か

その第一に考えられる要因といえば、

葉月「私はなにもしてないわよ」

達也「なら、あのときどうして俺を止めた」

葉月「.....」

達也「理由はあるが、言えない。それでいいのか?」

葉月「.....早く行きなさい」

またもや聞いたことのない震えた声

達也が思えたことではないが、葉月は基本的に無感情で、少なくとも人前で自身の感情を大きく揺さぶるような真似はしてこなかったはずだ

それが今晩に限って、度々見られる

たまたまストレスのようなものが溜まっていたのか

それとも何かの私怨で動かされているのか

当人の本意を確かめる術は無かった

達也「行くぞ」

将輝「あ、あぁ」

達也に声をかけられて、ハッと将輝は思い出したように我に返り、達也の後を追って先へと突き進む

残された葉月は翡翠色の瞳を手で覆い隠して、血の海となったその場にへたり込む

手で覆い隠しきれない隙間からは小粒な涙が数滴溢れた

葉月「......やっぱり視ていたのね」

虚空に浮かぶ確かな存在

それをハッキリと、葉月は翡翠色の瞳で視認した





???「........」

ベッドに横たわるのはいかにも病弱な少女

目元には濡れたタオルが敷かれている

温めたはずのタオルはすっかり冷たくなっており、心地悪さを少女に与える

我慢の限界ではなく、目的を果たした

そのため少女は目元のタオルを取り、身を起こす

ゆっくりと閉じた目を開くと、そこには碧色の瞳が

一瞬でも気を抜けばこの世に非ざる物まで見えてしまうというのがデメリットだが、その分メリットも大きい

ある程度離れた物までなら視えるというのが利点

そして、視える物に多数の効果は適用される

圧力をかけて標的を気絶へと追いやったり

実力の伴わない人間が標的となれば、間違いない

そういったことに使える便利な瞳だが、今の少女の手助けをしている能力は身体能力の一時的向上

歩くこともままならない彼女を、動かしてきた

少女はおもむろに机の上に置かれた携帯端末へ

迷うことなく連絡帳を開く

数少ない連絡先の中で、一際目立つ名前

『四葉 真夜』を一切の躊躇いなく選択した

コールを始めてから数秒の時間

色々なことが脳裏に浮かんだ

しかし思い出を思い出す期間も一瞬で終わりを迎える

歩夢「お願いがあります」

───── 君影歩夢の決意は固く改められた


【この後について。
1.達也と将輝は周公瑾を追う。
2.周公瑾の逃亡先には九島光宣が居て、後から来た達也と将輝に追い詰められて自害を選ぶ。
3.後日談。論文コンペの優勝は九島光宣がプレゼンテーションし、見事優勝。
原作14・15巻の古都内乱編は以上となります。
だいぶ省きましたが、大体こんな雰囲気です。

次回からは原作16巻の四葉継承編です。
色々と変わります。】



歩夢「もう....日付変わった?」

ベッドに横たわる歩夢の傍で、椅子に腰をかけその姿をジッと見つめるのは暗闇の中でも圧倒的な存在感を生み出している銀髪の少女

葉月「あと五分くらいよ」

一年前の彼女からは想像もつかない優しい声色

随分と環境の変化による影響を受け、殺気立ったその性格も丸くなったと窺える

つまり否定をされた歩夢は、暗闇に霞む真っ白な天井を視野に入れていた目を閉じて、大きく溜め息をついた

歩夢「あと五分で、.....約束の日だね」

葉月「えぇ」

大事な人に隠し事を始めて一年と二ヶ月弱

いよいよ葉月と深雪の約束の日が迫っていた

彼女が約束を反故にしないことは、これまでの経験則からして容易に予想がつく

そのことを踏まえ、歩夢は残り四分後に迫った大晦日の晩に達也と深雪の両者に全てを話す

十月末に水波とした約束は果たせず、しかしこの計画を話すと、説得には時間がかかったものの、最終的には了承してくれた

深雪に考える時間を与えることが、決め手となった

不本意ではあるが、そうするべきだと判断した水波からは今度こそ、と念を押され、だが念を押されるまでもなく歩夢はそうするしかなかった

明日の晩、四葉真夜は司波深雪、黒羽文弥、津久葉夕歌、新発田勝成の次期当主候補の中から、その世代で最も優秀な人間を指名する

本命は瓊々木夜永であったが、彼女は謹厚に辞退

「私は何かをするより、何かをする人のお手伝いの方が向いてると思うので」

この台詞には、真夜がその身をもって体験していることだったので、真っ向からの否定は出来なかった


本命の選択が叶わなければ、次点として司波深雪

彼女も十分過ぎるほどの素質を持っているため、次点という表現も程々に、結論は即決した

次に、次期当主指名に付随するのが婚約者の存在

心苦しいことを承知で、数年後に寡夫となった達也を婚約者として仕立て上げるのが当初の予定だった

しかし二ヶ月前、歩夢からの申し出によりその案は棄却され、過程を省くことにした

葉月「自分から達也との婚約を破棄するだなんて、部外者の私が言えたことではないけれど、本当にそれで最期まで幸せでいられるの? 今ならまだ取消せるわ。真夜にも私から言ってあげるから」

歩夢「勝手なのは承知の上。でも、寿命の短い私と結婚するよりは、ずっとそっちの方がいい。目前のことより先を見据えないと」

葉月「寿命の短い貴女が見るべきなのは目前。先を見据えるのは私たちよ。だから、歩夢は目前の幸せだけを目標にして」

歩夢「私は大事な人たちを守るために魔法を使うって決めた。それは人生の志と同義。私は大事な人たちに守るために生きる。これが魔法師としての、私の答え」

葉月「っ......!」

言い返さなかった

その志にまで至った経緯を知っているからだ

そして強く志したことも知っている

生半可な説得では、その答えを覆らせない

葉月「もう寝なさい。日付も変わったわ」

歩夢「うん。.....おやすみ、葉月」

意固地なまでの答えは覆せない

なら、事が起きるのを待つしかない

那月の記憶では、今晩の出来事でほぼ絶縁状態

お互いを避け合う関係にまで発展するはずだ

付け入る隙はここしかなかった


葉月は同じことを幾度も頭の中でシミュレーションし、様々なパターンを考慮する

そんなことをしていると、歩夢は眠りについた

葉月「─────ぁ」

思わず腑抜けた声が漏れてしまう

自らの手が歩夢の艶やかな髪を撫でていたからだ

無意識にしてしまうこの行為は、自分の素直な気持ち

改めてそれを認識した葉月は、

葉月「私だけが味方だから、安心して」

例え達也や深雪が敵に回ったとしても

雪乃や真夜、水波が歩夢の判断を咎めても

私だけが貴女の味方でいる、と

撫でられるだけの弱い歩夢に声をかけた



【安価です。この後について
1.真夜と当主候補の食事会(当主指名含む)の模様
2.食事会の模様を省略し、婚約者発表から始める

多数決で先に2票入った方に致します。
1はほぼ原作通りです(多少カットします)。】

2

2

>>426>>427
2.食事会の模様を省略し、婚約者発表から始める。

婚約者発表までの経緯です。

1.達也は黒羽貢(亜夜子と文弥の父)から自らの出生について知る。
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1424530625
>>764辺りの話です。
2.その後、真夜・達也・深雪・亜夜子・文弥・夕歌・勝成の七名で食事会。
3.慶春会(元旦に行われる四葉の集まり)で唐突に次期当主指名されるのは驚くかもしれない、ということで、食事会にて次期当主の指名(正式な指名は慶春会にて)。
4.最初に文弥と亜夜子から次期当主は深雪が良いと推薦。続いて、夕歌と勝成も深雪を推薦。
5.深雪が次期当主に指名される。

こんな雰囲気です。】


紙を破り捨てる乾いた音が食堂内に響く

まるで時が止まったかのように誰も動かず、ただただその残忍な光景を見届け、そして気付かされた

大切な契りが──────破棄された現実を

深雪「なに....してるの....? その紙、なに?」

わずか数秒で行われた惨状に、深雪は震えた声で問う

つい先ほどまではその紙に大きく『婚姻届』と書いてあったことを、深雪と達也は覚えている

しかしその姿は瞬く間に消え去り、無残にも紙くず同然と化した二人が望まぬ結果だけが残った

深雪に問い掛けに、歩夢は答えず俯くまま

代わりに、傍観していた真夜が重い口を開く

真夜「歩夢さんと達也さんの婚約は破棄です。そして深雪さん、あなたの婚約者は達也さんです」

深雪「歩夢と....お兄様が.......それで私と.....?」

物事の整理が追いついていないのは達也も同じ

声にこそ出していないが、これまでにない困惑な状況であることに差異はなかった

真夜「歩夢さん」

歩夢「.....はい」

責任を感じる真夜に促され、ようやく歩夢が口を開く

歩夢「四葉香夜として一年生を終えて、四月から。私がなにをしてきたか知ってる?」

深雪「なに、って....」

それ以上の言葉は紡がれなかった

言葉を選ぶのに手間取ったのではない

知らなかったからだ

大事な人がこの半年あまり、なにをしてきたのか

想像もつかないほどに、知らなかった


歩夢「四月と五月はそこそこ外出も出来たけど、それ以降はずっとベッドの上で寝てた。十月に会ったとき、アレってかなり久しぶりの外出だったんだよ」

淡々と述べられていく情報に、二人の表情は固まる

歩夢「私は魔法師として魔法を使って、魔法によって寿命を大きく縮めた。あと一年か二年か。とにかく、もう外に出て一緒に遊ぶことは出来ないかな」

よくよく見ると、歩夢の瞳は碧色へと変わっていた

『身体能力の飛躍的向上』

そうでもしないと立っていられない、ということか

達也は遅ればせながら、気付いた

深雪はまだその情報を受け入れられていないようだ

歩夢「たとえ結婚できたとしても、私と達也くんの結婚生活は長続きしない。だから、その椅子は深雪ちゃんに譲る。お幸せに。もしそのときまで私が生きていたら──────」

テーブルを叩く音に、言葉は遮られた

痛覚を麻痺させるまでに、憤った深雪の仕業である

深雪「それは....いつ知ったの? だいぶ前から知ったような言い振り、だけれど」

歩夢「去年の十一月に」

深雪「あのときからっ!?」

昨日のことのように思い出せる昨年の十一月

様々な体験をしたことを、今でも鮮明に思い出せた

深雪「ど、どうして今まで.....黙っていたの?」

歩夢「.......」

深雪「ねぇ、答えて。.....歩夢っ!」

怒声に逸早く反応したのは、歩夢ではなく葉月

翡翠色の瞳の少女が、深雪に日本刀を向けた

葉月「一歩でも動いたら斬る。達也もよ」

深雪「っ.....。葉月.....貴女も、知っていたの?」

葉月「私だけじゃないわ。知らないのは貴女達だけ。黒羽の姉弟も知っていたし、水波も知っていたわ」

深雪「水波ちゃん....も?」

その場から動かず、深雪は振り返る

水波は俯いたまま、小さく頷いた


深雪「どうして今まで──────ぅっ!」

あまりの憤りに深雪は一歩、思わず踏み出してしまう

焦りと痛みは同時にやってきた

胸元から下腹部にかけて、大量の鮮血を流す

おびただしい量に怯え、その恐怖は心に染み付いた

そして遠退く意識は、強制的に現実へと戻される

深雪「──────!」

傷は跡形もなく消えている

しかし、痛みと恐怖は未だ残ったまま

すっかり深雪は怖じけづいてしまった

葉月「ここで争っていても仕方がないわ。十月に言った通り、歩夢のことを受け入れるか、縁を切るか。どちらにするか早く決めなさい。考える時間はたくさんあったでしょう?」

迫る刃先に、深雪の頭は混乱を強いられた

この二ヶ月間、何度も歩夢のことを考えてきた

しかしまさか残された寿命がこんなにも短いとは、冗談のような予想さえもしなかった

早く決めろ、と言われても整理が追いつかない

深雪「私の質問に答えて。どうして、黙っていたの?」

時間稼ぎを兼ねた、決定打となる質問

深雪の決断は、歩夢の返答に委ねられた

数秒の間を置いて、歩夢が短絡的に答えた


歩夢「心配をかけたくなかったから」

深雪「心配をかけ合えるくらいの仲だと思ってたのは、私だけみたいね.....!」

歩夢「.....」

深雪「一月に亜夜子ちゃんと模擬戦をした時、歩夢が体調を悪そうにしてたのも.....。少し体調を崩しただけ、って嘘だったのね」

歩夢「.....うん」

深雪「.....もう、貴女のことは....信用、できないわ」

歩夢「そう。.....私の思った通り」

深雪「なにが、思った通りなの....?」

歩夢「私のこと、信じないんでしょう?」

深雪「──────っ!」

至近距離で挑発的なことを言われて、深雪は本能的に一歩を踏み出そうとしたが、それは自我で踏みとどまる

刻み込まれた恐怖が身体を自制した

葉月「少しは利口になったかしら」

刀を鞘に収め、葉月は深雪に背を向ける

葉月「貴女は歩夢を受け入れない。なら、縁を切るしかない。もう歩夢には関わらないで。また斬るから」

深雪「あなたは、そちら側なのね」

葉月「あと数年間だけ、歩夢の味方でいるわ。間違った道も、一緒に歩き続ける。そう決めたから」

隙のない背中を目で追うことしかできず、葉月は歩夢の手を取ると出入り口の扉から出て行こうとする

深雪にはもう止める理由が無かった

彼女らを信用できない以上、なにも出来ない

信頼と縁を失い、親友を二人減らした

胸の痛みは、段々と強くなっていくばかり

婚約者云々と比較にならないほど、深雪は傷ついた

大晦日の夜、深雪は歩夢と決別を強いられた


【安価です。
1.歩夢の決意
2.達也の想い
安価下。】

1


>>432 1.歩夢の決意】

君影歩夢は一時期、この屋敷で使用人をしていた

その時の名残として専用の一人部屋が用意されている

その部屋は未だ健在であるが、『慶春会』という行事において、歩夢の立場はあくまでも来賓としての扱い

お客様として『霜月家』は招待されていた

よって歩夢が何と言おうと、寝泊まりする部屋は客室に限られ、それは雪乃や綾人、隼人も同様だった

馴染みのない部屋で歩夢はベッドに横たわっている

ここまで導いてくれた葉月には「しばらく一人にさせて」とお願いをし、席を外して貰っている

おそらく彼女は『お願い』に対して遵守し、明日の朝まで歩夢を一人にさせるだろう

物分りの良い、理解してくれる人だった

だからこそ比較をしてしまう

葉月と深雪を比べて、どちらと居る方が心地良いか

理解してくれる人と、理解してくれない人

後者は自分の責任である

信用しなかった結果、信用されない結果を招き、それが派生して理解してくれなくなった

今や理解をする努力さえしてくれないだろう


自分のせいで──────自業自得で

深雪が怒りの感情を露わにしたのは、婚約者を譲ったことでも寿命を縮めたことでもない

ただ一つ、隠し続けてきたからだ

一年以上前の自分を呪いたくなる

悪いのは流星群を伝授した真夜でも、それをコピーした咲夜でも、無茶な使い方をさせた引き金でもない

全部、自分の判断でしてきたことだ

しかし今更、後悔しても仕方がない

──────私が見ないといけないのは目前の幸せ

理解してくれる人が言っていた通り、歩夢が見なければならないのは先ではなく目の前のこと

もともと薄い霧に包まれていた視界が悪化し、深い闇に包まれた視界の中、どうやって目前の幸せを見据えるのか

幸せを掴む前に、まずは闇を晴らさなければならない

魔法師として、人間として

その闇を晴らす方法はおのずと限られてくる

十中八九、縁の修復だろう

切られた縁の復縁は至難を極める

特に相手が自分のことを理解してくれないのなら尚更

本音は全て虚言に、戯言は虚言に、虚言は虚言に

何を言っても信じてくれない

そう、心の中で自信を持てた

引きつった笑みを浮かべることもできない

言葉が通じない相手に、想いを伝えられないからだ

ならば魔法師として、魔法で語り合う

そんな安直な案もすぐに棄却される


勝率が低い以上、無闇なことは火に油だ

なら原点に戻って人間として、人間として────

なにも思いつかなかった

話す、もしくは魔法で語り合う

その二択に限られ、どちらも絶望的

見込みが皆無であった

そう納得したとき、視界の闇が多少晴れた気がした

諦めることにより晴れる闇

復縁を諦め、別の道を歩む

それもまた人生なのだから、当然だろう

深雪との絶縁は分岐点に過ぎない

そちらの道が闇に包まれているのなら、見通しの良い晴れた道を選ぶのが人間としての性

ただ、それは歩夢を大きく変える選択だった

今までの自分を否定し、新たな自分で再スタート

中学から高校へと進学するときを思い出す

“あのこと”を忘れ、再スタートを切ろうとした心構え

残念ながら失敗に終わった新しい自分であったが、今回は成功する見込みがあった

大事な大事な親しい友人が居なくなったのだから

否定され、理解さえもされなくなった

なら、根本的な部分から覆してしまえばいい

自分が変わればいいのだ

再スタートではなく、新しい自分がスタートする

歩夢は強く志し、今までの自分は無理やり閉じ込める

幸か不幸か、都合の良い理由はすぐに思い浮かんだ

この選択が歩夢の無色透明なヒビの入ったガラスを粉々になるまで砕き、闇に溶け込むよう色を染めたのであった


「ふふっ」


脆くて儚い歩夢の精神は─────崩壊した


【安価です。残り二回
1.達也の想い
2.葉月の夜
3.夜永の慧眼
安価下。】

3


>>436 3.夜永の慧眼】

ー四葉本邸 書斎ー

深夜「それで先生、頼んでいたことは?」

決して安くない代償を払い、魔法師にとっての魔法の力を借りて『理』に触れた深夜は、早速本題に入った

夜永「都合の良い時だけ先生と呼ぶのはやめなさい」

しかし返ってきたのは冗談混じりな叱責

額を指先で小突かれた深夜は、

深夜「私はいつでも先生のことを尊敬していますよ」

夜永「いつも小馬鹿にされていたような」

深夜「あの頃は私も若かった、ということで」

不服そうに頬を膨らませる夜永に手こずる深夜に、隣の椅子に座る双子の妹から援護射撃が入る

真夜「夜永さん、おふざけはその辺りで」

苦労をかけさせられる子供の相手を終えたばかりの真夜の表情には、幾らかの疲労が見られる

明日の慶春会のためにも悪ふざけは早めに切り上げた方が良い、と彼女の先生と実姉は悟る

夜永「約束通り」

真剣な声色と共に、夜永はファイルを深夜に手渡す

その中には子供たちにとって大切な書類が一枚

他ならぬ歩夢が破ったはずの婚姻届だった

深夜「流石ですね」

このことを見越していた深夜は、夜永の才能を信頼してたった一枚の婚姻届の複製を依頼していた

夜永にとって生徒の字を複写するのは難しくない

よって、歩夢が破ったのは予め夜永によって複製されていた偽物の婚姻届

本物であるオリジナルは深夜の手元に渡った


真夜「それにしても姉さんが....ねぇ。ずいぶんと子供たちに甘いじゃない」

深夜「子供の不幸で喜ぶようでは大人失格よ。これからは真夜も表向きは達也の母親なんだから」

真夜「母親歴十分程度の私にはまだ分からないわね」

深夜「なんて伝えたの?」

真夜「打ち合わせ通りよ」

前々からこの日のために、二人は話し合っていた

達也は真夜の息子として、深雪は深夜の娘として人生を歩み、相応の歳になったとき、二人は籍を入れる

納得させるのには少し手間取ったが、概ね問題はない

従兄妹同士の合法的な婚約には誰も口出しはできず、唯一の問題点である歩夢の動きも予想の範疇

思い通りに事が運び、一旦、一段落がついた

真夜「これからはどうするの?」

深夜「少し様子を見るわ。達也と深雪が他人の力を借りないで熟考したら、私と真夜が助言する。大人としての役目はそこで終わり」

真夜「大人として、ね。親としての役目は?」

深夜「適宜、親が親らしいことをするだけよ」

真夜「そう」

双子の妹である真夜の苦笑混じりの納得した様子に、深夜はあえて追求しなかった

それなりに彼女自身に自覚があったからだ

なんだかんだで自分は子供たちに甘く、未熟な子供たちをほおっておくことも出来ず、今回の『喧嘩』にも自ら関与するため実行に移した

感情的になると考えるよりも先に行動してしまう悪い癖が未だに発揮されているのかもしれない


真夜「姉さん、もう時間が」

深夜「大切な妹と娘と、息子のような甥と.....歩夢さんは変に刺激を与えるのは悪影響でしょうから、葉月さんと」

夜永「雪乃さんとは?」

深夜「あの子とはいつでも話せるわ。今は、限られた時間を有効に使わないと」

約束の刻まで残り二時間弱

限られた時間を有意義に使おうとすると、話したい人間の中から取捨選択を強いられる

本来なら分家の当主との会談も希望していた

しかしその時間はなく、また死人との対面は相手の混乱を招いてしまう、と自己完結し、諦めた次第だ

深夜「真夜、またあとで。夜永さんもまたいずれ」

短い別れの挨拶を切り出すと、深夜は書斎の扉を開き、屋敷の何処かへと迅速に消えていった

その姿を最後まで見届けた夜永と真夜は、

夜永「大人になりましたね」

真夜「昔からあんな感じだと思いますよ」

夜永「教壇の上からじゃないと見えないものもある、ということです」

真夜「先生の立場じゃないと見えないもの.....」

夜永「知る必要はありません。真夜さんは妹らしく、最も距離の近い側で見ていればいいんです。妹から見た姉の姿は唯一無二ですから」

真夜「.....そうね」

成長し、大人として、また親としての志を持った深夜

成長し、大人として、また親としての志を今後持ち合わせていくであろう真夜

大切な生徒の成長した姿に、夜永は誇らしい感情を抱くと同時に、その感情を表に出してしまう

真夜「何か良いことでもありましたか?」

夜永「内緒よ」

かつての生徒と教師の関係のように、夜永は答えた


【安価です。残り1回。
1.達也の想い
2.葉月の夜
3.深夜が誰かと話す
安価下。】

2


>>440 2.葉月の夜】

実質部屋を追い出された葉月は、まるで人影の無い『村』を彷徨いていた

特別な目的も、特別な理由もなく、ただただ気まぐれで夜風に当たろうと外に出たら、こんなところまで足を運んでしまった次第だ

身体は気温に伴い、低下する一方

深雪や水波なら自分の周りに障壁を張って冷え切った夜風をシャットアウトするところだろうが、葉月にはそれが出来なかった

突出した剣技と幻術の二つを兼ね備える代わりに、葉月はほぼ一般的な魔法というものを使用できない

せいぜい軽い物を浮かせたり、熱を操る程度だ

ましてや自分の周りに障壁を張るだなんてことは夢物語に等しく、何度か“想像”の世界で優越感に浸った黒歴史が掘り起こされる

魔法を使えない葉月は冷え切った身体を少しでもマシにするべく、何の考えも無しに建物の中に入った

その建物はあくまでも仮の村の一部に過ぎない

住居人どころか家具すら配置されていなかった

あるのは家を模した空間のみ

偶然か否か、その光景は葉月の記憶に干渉した

数年前の、霜月へ復習を誓うきっかけとなった出来事

葉月は儚い記憶を鮮明に蘇らせた





「ごめんね、せっかくの誕生日なのに」

一年に一度は必ず耳にする母の言葉

娘の誕生日を盛大に祝えないことを悔やみ、しかし出来る限りのお祝いを限られた予算内に実行する母

娘は物心ついた頃にはその生活を受け入れていた

派手なお祝いをされるより、たった一人の家族に祝われる方がずっと楽しく、有意義で愛のある生活に不満を漏らすことも、不満を感じることも無かった

精一杯な愛情を貰った晩、娘は母に昔話を聞かされる

『葉月』が上流階級の家であること

本来は現存しているだけで貴重価値があり、莫大なお金を手に入れられるような家庭が、現在こんな生活を強いられている理由

母は涙を流しながら話した

十二師族間で起きた熾烈を極める戦争

同盟を組みながらみ、裏切り行為に走った『霜月』

おかげで『葉月』は堕ちるところまで堕ち、こんなにも貧しく日の光を浴びれないような暗い生活を送っていることを

娘は話を聞くたびに嫌な気持ちになった

強いて言うならそれが、不満だろうか

嫌だな、と思い続けて早十四年

その話を十五度目聞くことはなかった

母が病にかかり、まともな環境すら用意できない娘は衰弱の一途を辿る母を側で見守り続けた

同じ話を十四度

最期の最後で、母は違う話をした


「あなたは先祖返り。十二師族時代の『葉月』と同じ力を持っているの。その銀色の髪を初めて目にした時、涙が出たわ。私の母が、その母の母も。ずっと長い期間、あなたの存在を待ちわびたのだから」

危篤状態となった母は無理をして、言葉を紡いだ

「想像を使えて、家宝の刀を持つことができる。あなたしか居ないわ。私たちをこんな目に遭わせた『霜月』を.....お願いね」

最期の言葉は掠れ、そこで母の灯火は消えた

人生丸々怨念を抱き続けた悲哀な母に娘は涙を流すことしか出来ず、実行に移すまで時間がかかった

どのようにして『霜月』を絶やすか

ただ捩伏せるだけでは母が報われない

まずは社会的に抹殺してから──────




幻術で作った巧妙な死体を歩夢に見つけさせ、その姿を警察の視界に収める

社会的な抹殺はそれだけで十分だった

しかしなんだかんだで歩夢は別の道を歩むことになったものの、幸せに等しい生活を送った

その姿が、葉月には憎らしくて堪らなかった

いつも苦労し、涙を流すのはこちら

不公平な世の中に八つ当たりを考えた矢先、未来からやってきた実母を亡くした娘に出会う

あれが良い刺激になり、改心に繋がったのか

過去と向き合う覚悟ができた

当事者から話を聞くと、当事者は裏切られても裏切られなくても、どちらでも良いとのこと

馬鹿げた話を受け入れた葉月は、次に居場所を探した

母の怨念に沿う自分を失った今、在るのは何を目的にする自分なのか

それについても、未来からやってきた娘に助言された


役目として憎かったはずの歩夢のガーディアンになり、暖かい家庭で一年弱の日々を過ごす

同情の余地はいくらでもあった

今や、歩夢を助けたい

その一心で、『恋』にも負けない感情を抱く

私と歩夢の邪魔をする者は許さない

そう思っての、十月末の軍基地への乗り込みである

平穏な日々を脅かす者たちを半殺しにし、平穏な日々を取り戻したかと思ったら三十分ほど前の出来事だ

より強固な関係を築くためには、二人の関係を一度真っ白な白紙に戻さなければならなかった

葉月「もうちょっと良い方法があったかも」

と、希望的観測を独りごちる

しかしもう起こってしまった出来事は戻せず、それを可能にする人間に頼るのも蛇の道

これから次第、なのか

自分が誠心誠意はどこまで通用し、尽くせるのか

歩夢や深雪というよりは、那月のために

葉月は自分自身が今更、あの少女の月に魅せられたのではないかと錯覚してしまい、苦笑を漏らした

葉月「そんなはずないわよね」

質素な家の中に、葉月の声は響いた


【安価です。翌日(1月1日)。
1.早朝から
2.慶春回から
安価下。】


>>445 2.慶春会から

途中で登場する堤琴鳴は新発田勝成のガーディアンです。】

ー2097年、元旦ー

達也も深雪も、今日は朝から目が回りそうになるくらい忙しかった

早起きは二人とも慣れているから苦にならないが、和風着せ替え人形のような扱いを受けたのには心底辟易した

達也は無論のこと、深雪も自分で着付けができるから、着物を着る時でもこうして全てやってもらうというのに慣れていない

白粉を塗りたくられそうになったので、達也は断固拒否したが、深雪はそうもいかなかった

ただ、塗りたくられるといっても舞台役者のように顔面真っ白にされるわけでなく、和装版のナチュラルメイクのレベルである

とにかく一時間以上好きにいじり回され、ようやく解放されたときには二人とも心底落ち着くことができる家へ帰りたくなっていた

「達也兄さん」
「深雪お姉さま」

控えの間の椅子で着物が着崩れないよう座面の高い椅子に座り多少ではあるが寛いでいる二人に、こちらもようやく支度が終わったのか羽織袴姿の文弥と、振袖姿の亜夜子が声を掛けた

文弥「達也兄さん、深雪さん、あけましておめでとうございます」

亜夜子「達也さん、深雪お姉さま、あけましておめでとうございます」

礼儀正しく新年らしい挨拶を告げる二人に、達也と深雪が立ち上がった

達也「文弥、亜夜ちゃん、あけましておめでとう。いや、もう亜夜子ちゃんとは呼べないかな?」

亜夜子「達也さん、新年早々からからかわないでください。良いですよ、達也さんにだけ.....」

調子よく達也のからかいに対して亜夜子もそれ相応の対応をしようとしたところで、亜夜子の言葉が途切れる

二拍ほどの間を空けて、深妙な表情と若干低めの声色で亜夜子は別の考えを示した


亜夜子「それとも強がっているだけでしょうか?」

隣の文弥が「姉さんっ」と、止めに入ろうとしたが、亜夜子は自分の考えを押し通した

無論、隣の文弥も達也の虚勢に、無理していつも通りを演じているのではないかと疑っていた

文弥が聞きづらかったことを亜夜子が聞き、文弥ではなく亜夜子が達也の返答を待った

深雪が俯き気味なことも相まって、控え室には暗雲のような雰囲気が立ち込める

達也「質問に答える前に、一ついいか?」

亜夜子「はい。なんなりと」

達也「葉月から聞いたんだが、文弥と亜夜子ちゃんは歩夢のことを知ってた、というのは事実か?」

亜夜子「その葉月.....さんが何方かは存じ上げませんが、それは事実です。私たちだけでなく、夕歌さんや分家のご当主様方の間では周知の事実でした。情報源は使用人の方々の間の噂話。四葉外に情報が漏れていない、というのが唯一の救いでしょうか」

達也「.....そうか」

改めて自分たちだけが知らなかったことを身に感じ、達也は昨晩の出来事に加えて、追加で落ち込む要因を獲得した

それについては深雪も同様に、実母からの説教染みた対談により多少はマシな心構えだったはずが、応急処置程度の脆い心構えにヒビが入る

なんとも言えない雰囲気からどんよりとした雰囲気となったところで、タイミングを見計らったかのように別室からの空気がその部屋に流れ込む


会場とはまた別の扉から入ってきたのは、かなり消耗したように見える水波だ

水波「達也様、深雪様。ご案内いたします」

深雪「大丈夫? かなり疲れているみたいだけど」

水波「いえ、大丈夫です。少々お急ぎください」

この役目が終われば少しは休めるのだろう

案内役を早めに終わらせてやるのが今の水波のためだと考えた達也は、深雪に目で促し、

達也「自分でも分からない。だが、お前たちにそう見えているのなら、そうなんだろう」

後ろで佇む双子に対して、達也は先程の質問に答えた

己のことを一番よく知る自分でさえも分からず、それは即ち解答欄に空白で提出するも同義

ならば他人が客観的に見た自分への印象の方が、少なくとも空白の答えよりは信憑性がある

自分自身で己のことを知れるまでは、今の自分は『強がっている』と、達也は約一日ぶりとなる認識をした





会場内の雰囲気は例年とはまるで真逆に命が懸かっているかのような重圧で重苦しい雰囲気に包まれていた

所々に欠席があり、真っ青な表情でその場に居るのがやっとな大人も数名見受けられ、平然としていられる人間の方が圧倒的に少なかった

「親子揃って迷惑極まりないわね」

少数派の誰かがポツリと呟いた

本来なら私語は厳禁であり、叱責されるのが常

しかしこの場に限っては叱責しようとする者が皆して具合を悪そうに俯いており、この状況に慣れている者たちはその発言を肯定して窘めなかったからだ

このような雰囲気を作り出した元凶は、四葉家現当主の右脇に並ぶ四人の内の一人の白眼視した少女である

彼女を退出させればこの場の雰囲気は一気に回復し、例年のような新年を祝う楽しい会に変貌を遂げるだろう

だが、誰も元凶を絶とうとはしなかった

圧力に屈している者は論外として、その圧力に耐えている者たちは彼女に手を出したら自分の身が危ないと悟っていたからだ

少数派の多くが雪乃の裏表を知らずとも危険で冷酷な面があることを知っており、三十年弱前の慶春会の参加者は今年の慶春会が悪夢の再来だと感じとっていた

そんな居心地の悪い会場だと知る由もない控え室に居る者たちは、依然として体裁を保ちながら威風堂々な姿を装い、会場入りする

達也や深雪も例外でなく、威風堂々と貞淑優雅に会場入りをし、押し潰されそうな空気に息を呑んだ

生理的に後ずさりしたくなる重い足を意識的に前へ前へと運び、具合を悪そうにする水波に案内されるがまま、真夜の左隣の席に着いた

それから何組か会場入りの儀をし、所々の欠席には目を瞑った上で、真夜が新年の挨拶を切り出した

真夜「皆様、改めて、新年おめでとうございます」

未婚にも拘らず金糸をふんだんに使った華麗な黒留袖を着た真夜の発生により、幾分か雰囲気が和む


真夜「本日はおめでたい新年に加えて、あと三つ。皆様に良い報せを伝えることができます。私はこれを、喜ばしく思います」

と前置きをして、真夜はまず新発田勝成に目を向けた

達也たちと同じく羽織袴を身につけた勝成の隣には、深雪たちと同じく振袖姿の堤琴鳴が会場内の雰囲気とはまた別として、居心地悪そうに座っている

真夜「この度、新発田家ご長男の勝成さんが、堤琴鳴さんと婚約されました」

所々から囁かれる発言の内容は「まさか」というものより、「やはり」や「ようやく」の類であった

真夜「これから先、楽しいことばかりでなく色々と苦労もあるでしょうが、今は若い二人の前途に盛大な祝福をお願いします」

一座から拍手が湧き上がる

達也が右奥の方へと視線を寄せてみると、あの人も無愛想な表情ながらも、二人を祝福していた

真夜「次に、皆様が最も関心を寄せていらっしゃるであろうことを、ここで発表させていただきます」

一座が水を打ったように、静寂で満たされる

真夜「ふふ、皆様お分りのようですね」

焦らすように笑うが、その瞳の奥には一抹の不安を感じさせる揺らぎがあるのを会場内の数名は見逃さなかった

真夜「私の次の当主は、ここにいる司波深雪さんにお任せしたいと思います」

一拍置いて、先ほどよりも大きな拍手が巻き起こる

拍手は主に、本家の使用人の間で盛んであった

真夜「ご挨拶とかは、また別の機会に。この慶春会では、そのような固いお話をする場ではありませんので」

あくまでも笑顔を振りまく真夜であったが、横目に見える少女の表情は今朝から変わることがない

だが、最後の三つ目の発表では細やかな表情の変化が窺えると確信しており、少女を視界に捉えながら話す


真夜「そして最後のお知らせです。次期当主の深雪さんは、この度、私の息子である司波達也....を婚約者として迎えました」

拍手もどよめきも起こらなかった

分家や使用人からすれば不可解な点は二つあるのにも関わらず、不満の声を漏らすものが誰一人として居ない

真夜ですら予見していた更なる威圧感に無反応ではいられなかったのだ

不満や疑問の声を出せない者に代わり、真夜の右に座る雪乃が代役として質問を投げかけた

雪乃「皆様に代わって私が代弁させて頂きます。四葉さんは司波達也さんのことを『私の息子』と仰ったようですが、その辺りの説明を」

真夜「ちょうど良い機会ですから、その辺りも説明したいと思います。どんな形であれ、霜月様のご質問には答えないといけませんからね」

普段の二人の関係を知っている者からすれば、茶番劇のように見えただろう

しかし今は正式な儀式の場であることから、上家の霜月と下家の四葉の関係はくっきりと浮き出ている

真夜「司波達也は、『事件』前に採取した私の卵子を用い、姉の深夜を代理母とした私の息子です。故あって姉の許に預けてありましたが、今晩、私の息子として迎えることに致しました」

真夜の虚言に、雪乃はお辞儀をした

これ以上の質問がなく、先を進めても良いという合図である

その様子を眺めていた者は信憑性の高さから、早くも達也のことを真夜の息子として認識を改めていた


葉山「達也様、深雪様。この度はおめでとうございます」

モーニングコートを着た葉山が二人の前で平伏する

深雪「ありがとうございます」

深雪は淑やかに返礼しただけだったが、

達也「ありがとうございます。ですが、顔を上げてください」

達也にはその大袈裟な作法が心地悪かったようだ

達也「自分は本家の仕事やしきたりをまるで知りません。葉山さんには色々と教えていただきたいです」

あくまでその場限りのものであるが、達也は殊勝な口上でこの場を切り上げようとした

葉山「光栄にございます。ご不明なことは、この老骨に何なりとお訪ねください」

しかし葉山はこの芝居を、まだ終わらせるつもりはないようだ

葉山「そういえば達也様、覚えておいででしょうか。この慶春会の席で、新しい魔法のご披露をいただける約束を」

真夜「新しい魔法? 達也、それは完成しているの?」

と、真夜が芝居とは思えない好奇心に満ちた声色と目つきで食いついてきた

達也「はい」

いつもの調子で「ええ、まぁ」と答えようとして、達也は危ういところで態度を見繕うことに成功した

真夜「本当!? 是非見せて頂戴!」

真夜が当主の威厳もなく、少女のようにはしゃいだ

深雪「おにいさ...達也さん、わたしも拝見したいです」

この騒ぎに、深雪まで便乗してきた

完璧な包囲網に達也は逃げ場を失い、

達也「分かりました。支度がありますので、少し席を外します」

最早、達也に断るという選択肢はなかった


達也はこの魔法を半年ほど前から制作を開始し、未熟な自分の力量を補うために支援を受けてきた

知識面では夜永に、実行面では葉月に

夜永はあくまでもヒントをくれるだけであったが、天才を自称するだけあってそのヒントは全て有用的なものであった

葉月にはその環境作りをして貰い、失敗した際の怪我のリスクを全て省き、水波の朝昼晩の食事と引き換えにコツを掴む作業を繰り返した

そしてようやく一月前に成功を収め、想像の世界で成功したことはつまり現実世界での成功を意味した

達也「新魔法『バリオン・ランス』は生物を対象とした致死性の魔法です。その為、デモンストレーションはいささか血生臭いものになってしまいます。無用な殺傷をお好みでない方は、しばらく別室にてお寛ぎになるのがよろしいかと存じます」

達也の向かいには、猪が入れられた檻が置かれている

どういう魔法であれ、殺傷と明言しているからには血生臭い演出になることは明らかだった

何名かは目を合わせたりなどの所作を見せるが、その場から離れることはなかった

警告を皆が受け入れた、と達也が思い込んだところで凍えた声がその場を支配した

歩夢「私は失礼します」

これまで当主である真夜よりも存在感を発揮しながらも、無言であった霜月歩夢

彼女は一礼をすると、部屋を出ようと入場口であった扉から出て行こうとする

水波「わ、私も失礼します」

使用人である水波も慌てた動作で一礼をし、歩夢に付き添う形でこの部屋を後にした

達也と深雪、真夜はその別人のように切り替わった歩夢の後ろ姿を最後まで見届け、その事実から目を逸らすことしか出来なかった


【達也の魔法につきましては、『バリオン・ランス』と検索していただければ知れると思います。

安価です。コンマ1桁
1・4・6・0:原作17巻の内容へ
2・5・8:達也と葉月
3・7・9:夜永と達也
安価下。】

ほい


>>454 6:原作17巻の内容へ

原作16巻の終わりにて、達也が真夜の息子であること及び達也と深雪の婚約が世間に公表されました。

幹比古は達也と深雪が四葉の人間であることに恐れをなすのではなく、今までどうして黙っていたのか。
その理由で少し敬遠になるが、エリカとレオのサポートもあって和解。

ほのかも雫の手を借りて、達也のことを諦めないと深雪に宣言をして和解します。】


どうなることかと懸念された学校生活だったが、達也と深雪は自分たちが考えているよりもずっと良い友人たちに恵まれていたことを実感した

しかしその分、目に見えない大きな物を失った感覚は肥大化し続け、達也と深雪に重くのしかかった

どこか気を落としている二人を励ますために、エリカらは和解の意味も込めて、クリスマス以来となる行きつけ喫茶アイネ・ブリーゼでお茶していくことを企画する

達也と深雪もこの好意に快く了承し、生徒会と風紀委員、部活を終えたいつものメンバーは放課後に喫茶店を訪れていた

ほのか「えっと、つまり、言い方が悪いかもしれませんが、家の都合で達也さんと歩夢の関係を....?」

達也「その理由が六割程度だな」

ほのか「...これ以上は訊かない方がよろしいですか?」

相手は四葉ということで、二年弱の付き合いがあっても聞き辛いことは当然存在し、認識を改めてから間も無い今は特に探り探りな状態だった


達也「いや、もう少し話せるよ。歩夢についてだ」

深雪「おに.....達也さん、よろしいのですか?」

達也「雪乃さんと夜永さんには許可を取ってある」

未だ慣れない妹の呼び声に達也は平静を装い、これからこれに慣れていかなければならないことを実感しながら、深雪の質問に答えた

歩夢の家の事情は知る人ぞ知るシークレット情報

いくら気の許せる友人たちとはいえ、話しても良いことと悪いことがあるのを深雪は達也に伝えた

しかし達也は歩夢の家の事情を話すつもりは毛頭無ければ、今から話すことはまた別の件だった

多数の友人の視線を一斉に浴びながら、達也は話す

達也「歩夢は病気だそうだ。本人曰く、寿命は残り二年程度。歩くこともままならず、今もおそらく病院のベッドで寝ている」

ある程度の心構えをしていたとはいえ、歩夢のことを知る友人たちは驚愕に満ちた表情をするよりも、無反応に身体の体温が低下していくようだった

オーバーなリアクションも取れず、過剰な演出をする余裕もなく、ただただ驚いているようだ

幹比古「それは.....本当のことかい?」

達也「本当のことだ」

幹比古「.....そうか」

これ以上本当かどうかを問い質しても達也の返答は変わらないだろうし、何度も同じことを聞くのはショックを一番受けているであろう達也を傷付けると幹比古をはじめとした全員が勘付く

ただ一人、エリカはまた別のことに気付く


エリカ「あ、だからあの白いのは.....」

達也「白いの?」

エリカ「ほら、京都行った時に歩夢の隣に居た人。役目で傭兵がどうこうって言ってたけど。病弱な歩夢を護る役目ってことだったのね」

あくまでも形式上だけだと思っていた歩夢と葉月の関係が、思っていたよりもずっと深い関係になっていることに達也は一つ気付かされた

もしかしたらそれは一方的な想いが関与しているのかもしれないが、歩夢との和解にはやはり葉月が鍵となることを心に留める

達也「答えられる範囲でなら質問に答えるぞ」

雫「じゃあ、はい。それはいつから?」

達也「一昨年の十一月だ」

エリカ「あの論文コンペが終わった直後くらいね。原因というか、病因は?」

達也「魔法だ」

レオ「危ない魔法を使った、とかか? あの君影さんなら大抵の魔法を使いこなしそうだけどな」

達也「使用した魔法は規定を順守する分には問題ない。歩夢は有効範囲を拡大してしまっただけだ」

レオ「具体的な部分までは言えねぇか」

達也「あぁ、すまない」

レオ「いや、それだけ聞ければ十分だ」

一通りの質問が終わったのか、全員は各々が頼んだ飲み物で喉を潤し、一息ついた

入学式で出会ってから二年弱の期間、ほぼ全員が中身の無い表面上だけの付き合いをしてきた

彼女は一ヶ月で高校を懲戒処分されているし、九校戦や論文コンペ、お正月ぐらいにしか顔を合わせる機会がなかった

そんな彼女の寿命が二年と伝えられて、それぞれ思うところがあり、心の整理が追いつかない

だが一時は今のようにこの喫茶店で一緒にお茶をし、特筆するほどのない雑談で時間を潰したこともある

一切の思い入れが無いわけではなかった

ほのか「歩夢のいる病院、教えていただけますか?」

達也「少し遠いが」

達也は端末でほのかに歩夢のいる病院の住所を送った

彼自身がまだその病院を訪れた経験は無い

慶春会で一方的に顔を合わせたきりである


雫「私も教えて」

ほのかからその住所を受け取ろうとはせず、雫は達也からその病院の住所を受け取った

引き続いてエリカやレオ、幹比古や美月も病院の住所を受け取り、その場所を確認する

美月「京都....ですね」

ちょっとした気持ちで赴くのには適さない距離である

お見舞いに行くなら週末、と考えた矢先、

達也「お見舞いはしばらく避けて貰えるか? もう少しの間、そっとしておくべきだ。俺の判断だから、それが正しいとも限らないがな」

エリカ「そっとしておく考えに至った経緯は? よっぽどのことがあったんでしょう?」

達也「それは」

達也が腹を割って話そうとしたところに、深雪から制止がかかる

深雪「私がお話し致します」

一言ことわってから、エリカの質問に答えた

深雪「私たちが歩夢の寿命について知ったのはつい一週間前なの。一年以上もの間、私たちに黙っていたことに私がついカッとなっちゃって。間違ったことはしていないと今でも思っているけれど、仲直りしたいというのが本音よ」

エリカ「歩夢が傷付いたから、そっとしておくってこと?」

深雪「傷付いて人が変わったようだったわ。今は尖った氷のナイフのようだから、もう少しだけ氷が溶けるのを待つか、刃先が丸くなるのを待つか。ごめんなさい、もう少しだけ待って」

エリカ「.....わかった」

深雪の説得に、エリカはギリギリ納得いったように椅子に座りなおす

そのまま一口ミルクティーを飲んで、口を閉じた

達也「すまないな、新年早々に色々と迷惑をかけて」

レオ「黙ったままにされるよりはマシだぜ」

ほのか「話してくださってありがとうございます!」

頼りになる友人に恵まれた、と達也は安堵した

目先の問題は晴れていないが、心強い味方ができた

味方の想いを糧に、達也は真っ白な歩夢との仲直りを目標とする計画書の製作に取り掛かるのであった


【安価です。
1.師族会議
2.喫茶店でお茶をした後、達也・深雪・水波
安価下。】


>>459 2.喫茶店でお茶をした後、達也・深雪・水波】


心強い友人に恵まれた達也と深雪は喫茶店でお茶をした後、寄り道をせずに真っ直ぐ家へと向かった

彼らも今や、世間からは普通の家庭で生まれ育った優秀な魔法師としてではなく、“あの”四葉で生まれ育った優秀な魔法師として眼差しを向けられている

非難や迫害のようなものは一切ないが、どうしても人を見る目というのは変わってしまい、近所付き合いも程々に、他人の思惑を疑ってしまう節がある

そんな彼らが唯一、事が公表される前後で相変わらず心身ともに休める場所は『家』に限られた

同居者は二人を除いて、メイドが一人

彼女は元々、彼らの親戚という立場で『達也兄さま』『深雪姉さま』と、年上の身内に敬意を払いながら学校生活を送ってきた

しかし達也と深雪の事情が世間に公表されたことにより、水波自身も四葉の血筋と疑われるんじゃないかという懸念は的中し、冬休み明けの登校日初日から懸念通りの質問を繰り返された

そこで代わりの嘘として、水波は四葉に支援して貰っている身だとクラスメイトに告白した

魔法師の仕事は危険なものが多く、殉職した魔法師の子女を雇い主や同僚が引き取って育てる例は珍しくないので、水波は真夜から宣告されていた通りの対応で事を穏便に済ませる


事情が公表される前後で変わらぬ平穏に似た生活を取り戻せたのは達也や深雪だけでなく、水波にもそれなりの苦労を乗り越えた末に現在があった

水波も同様に迫害等の対象にならないことに二人は安堵しながらも、しかし未だ最も重大な闇は晴れないまま、二人は今日も夜の時間帯に帰宅した

水波「おかえりなさいませ」

あらかじめ水波には友人たちとお茶をしてから帰ると伝えてあったので、夕食の支度を済ませ、勉強か読書か、それとも達也らが知らない娯楽で時間を潰していたであろう水波が二階の階段から降りてきた

深雪「夕食は何時頃にいたしますか?」

達也「一時間後くらいだな」

深雪の質問に達也が答え、水波が恭しく一礼した

ダイニングに一時間後、集合することを取り決め、達也はそのまま着替えとそのまま休憩を兼ねて部屋へ

深雪は水波を引き連れて(水波が勝手に着いてきた)、着替えと休憩をしに部屋へと向かった





一時間後、水波の手料理が振舞われた

しかし振舞われたと言っても、ほぼ一年近くこの手料理を毎日食べているので新鮮味こそ皆無だが、優秀なメイドだと称されているだけあって飽きることなく、水波の方から趣向を凝らしているというのは有難いことだった

有意義な夕食を終えた後、達也と深雪と水波の三人がリビングでコーヒーと紅茶をそれぞれ片手に一息ついていた

水波は主人らにお茶を用意するなり部屋に引っ込むつもりであったが、深雪から一緒にお茶をしようと誘われては断りたくても断れなかった

深雪の隣に水波、深雪の向かいに達也

去年までなら深雪は達也の隣に座っていた

しかしあの一件以降、二人の関係はグレードアップしたとはいえ、このような場面ではむしろグレードダウンしているのが現状である

深雪にそういう願望が無いわけではない

ただ、達也の好きな人が未だに歩夢であり、尚且つ歩夢との蟠りがある以上、野暮な真似が出来ないだけだ

こうして若干の距離を置いているのも暗黙の了解に深雪が勝手に動かされているだけであった

達也「そういえばもうすぐ師族会議だな」

特別なにかのきっかけがあった訳ではない

なんとなく、達也の脳裏に二月に控えた全世界が注目する『師族会議』が浮かび上がった

達也らも無関係という訳ではなく、十師族に名を連ねる『四葉』であるなら尚更のこと、ただの魔法師よりもずっと間接的な関係は強い

しかし現当主の息子として名を轟かせた達也や次期当主に指名された深雪がその会議に参加することはない


参加するのは十師族の現当主

四年に一度、錚々たる顔ぶれが一堂に会するということだ

深雪「何も無いといいですね」

心の底から湧き上がるような強き想い

達也は、深雪の一言に頷くしかなかった


しかしただ一人、水波は─────

水波「(参加されるのが十師族“だけ”なら、ですね)」

主人らの反応を見る限り、知らされていない情報

二人の不安の音とは別に、水波は安心しきっていた

たとえテロ行為が行われたとしても、その場所には『霜月』が居るのだから、四葉に害が及ぶ心配は皆無とみて間違いない

心配に表情を引きつらせる二人を蔑ろにし、水波はつい表に出てしまいそうになる安堵の表情を隠すため、ティーカップに注がれた紅茶を一口飲んで、心を落ち着けるのであった


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永
偶数:師族会議
安価下。】

ほい


>>464 1:夜永
1月27日:師族会議にテロを企てた顧傑が横須賀から密入国。
1月28日:テロが引き起こされると知ったリーナは上司に直談判するが、上司はリーナに亡命の意思が多少なりともある、と危惧してナンバー2のベンジャミン・カノープスを派遣する(1月29日に日本到着)。】

ー1月29日ー

夜永「USNAが日本に?」

昨年に引き続いて医者としての仕事に勤しむ夜永に、唐突に真夜から一報が入った

その内容はアメリカの魔法師部隊スターズのベンジャミン・カノープスが日本に非正式的に来国したとのこと

時期を鑑みれば残り一週間に差し迫った師族会議絡みであるのは間違いないと夜永は確信し、

夜永「.....でも私、お仕事ありますので」

真夜『私は信頼のできる夜永さんに情報を受け渡しているだけですよ。お願いをする訳ではありません』

生徒のお願いは基本的に無視できず、見返りを問わずして引き受けてしまうの欠点は自他共に認めるところ

しかし依頼や任務となれば、夜永は己を忘れずして受託するかどうかを冷静に自己判断することが可能だ


真夜『ちなみにですが、スターズにお知り合いは?』

夜永「今の時代だとリーナくらいです。一昔前でしたら、私がスターズを動かせる程度には」

真夜『.....まさかスターズを動かせる人間が私の恩師だなんて。光栄な限りね、私たち生徒を蔑ろにして海外の組織にまで手を伸ばしている点を除けば』

夜永「その先生は現在あまり暇ではないのですが」

真夜『あぁ、そうね。夜永さんを待つ患者さんはたくさんいらっしゃるものね』

ふふっ、と冗談めいて笑ってみせた

昔から馬鹿にされ続けてきているので今更なんとも思わないが、今は立場の都合もあって時間が無いのは本当の事で、夜永は本題を催促した

真夜『本題です。ベンジャミン・カノープスは一昨日、横須賀から日本へ密入国したとある人間を追って非正式に来日したようです』

夜永「とある人間? テロリストとかでしょうか」

真夜『────顧傑』

その名前に聞き覚えは確かにあった

生徒の未来を奪った同類

妹の身体を殺した張本人

十月の件で暗躍していた周公瑾の上司に当たる人物

夜永は彼をこの手を汚して殺す機会を伺っていた

一昨年の十一月からずっと、待ちわびていた

身の回りの事が落ち着いたら周りの反対を押し切って、海外をくまなく探し回ろうとも考えていた

そんなところに、相手の方から来てくれたのだ

アメリカの魔法師軍隊程度、相手にするのも恐くない

スターズよりも先に、顧傑を殺す


夜永「止めないで下さいね」

無意識に湧き上がる殺気と怨念

これまでに無いほど夜永は好戦的な瞳をしていた

真夜『止めませんよ。むしろ一矢報いて頂きたいくらいです。顧傑の直近の目的は師族会議が行われるホテルにテロを仕掛け、魔法師が自分の身を守る反面、何の罪も無い一般人が巻き込まれて死者を出し、魔法師への迫害を強く促すことです』

夜永「事前に防ぎますか? それとも見逃しますか?」

真夜『夜永さんを優先させます。師族会議でテロは起こさせましょう。顧傑は必ずその現場付近に隠れて見ているはずですから、その場を夜永さんがどうにかして頂ければ』

夜永「.....すみません、私のために」

真夜『構いませんよ。全てが滅されて、ようやく過去の私も報われるはずですから。夜永さんのため、と言っておきながら、私のためでもあります。可愛い生徒の我儘を聞いて頂けますか?』

夜永はみすみすと真夜の未来が奪われるのを見過ごし、そのことに気付いたのは全てが終わった後だった

過ぎてしまったことはどうにも出来ず、『再幻』を使うにしても10分置きに魔法をかけ続けるのにはお互いに苦労する

深夜も真夜も当時は苦しんでいたものだが、その頃、夜永も心を痛めていた

雪乃の母親から聞いていなかった未来の出来事とはいえ、もう少し未来の生徒を注意深く観察しておくべきだった

今でもその当時の痛みを覚えており、名誉を挽回するチャンスを当事者から正式に我儘という形で貰ったのなら、引き受けるしかあるまい

夜永「妹も生徒も、平等に救ってみせます」

真夜『そう言って下さると信じていましたよ、先生』

都合の良いときだけ先生呼ばわりはもう慣れたものであるが、今回ばかりは真夜の声色も手伝って、その真意が伺えた

本当に、心の底から感謝しているようだ

結果に関わらず────いや、結果も含めて信頼し、感謝しているのだろう


夜永「(顧傑ね....。葉月から“アレ”借りようかしら)」


【安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永と葉月
偶数:師族会議
安価下。】


>>428 7:夜永と葉月】

夜永「......」

残りの休憩時間を利用して飲み物でも買いに行こうと病院内を歩いていると、この辺りでは珍しい銀髪の少女にばったり遭遇した

彼女は真っ白かつ細長い脚の膝から真っ赤な血を流し、夜永に縋る思いでここまでやって来たようだ

葉月「怪我した。治して」

夜永「なにをして、怪我したの?」

葉月「外を散歩してたら」

夜永「......」

深くは追求せず、夜永は葉月を個室へと連れ込んだ

病院内での魔法の使用は褒められることではない

極端に軽い魔法なら医療機器に支障をきたさないが、ある程度以上の魔法は患者の生命維持に関わる

幸い、葉月の怪我は浅いものだった

これくらいなら継続的に軽い魔法で治せるだろう


夜永「魔法使えないんだっけ」

葉月「うん」

夜永「幻術以外は何も?」

葉月「頑張れば小石を浮かせられるくらいには」

夜永「魔法師を名乗るには足らずね」

葉月「幻術と刀を使えるんだからいいでしょ」

夜永「えぇ、十分ね。十分すぎるほどに」

と、そんな会話をしながら夜永は葉月の患部に治癒魔法を施した

夜永「これで良し。継続的に治癒魔法を....あと2回くらいかな。3時間置きに魔法をかけましょう。それで完璧に治るはずだから」

葉月「わかった」

つい去年までの彼女なら「私に命令しないで」なんて言っていたが、今ではすっかり素直になった

気を許せる存在として認めてもらえたようだ

葉月「じゃあ私は歩夢のところに戻るから」

夜永「もう離れないようにね」

葉月「今、雪乃いるから」

夜永「なら戻らなくてもいいよ。外で遊んできたら? 交通事故には気をつけてね。最近、携帯端末のアプリに熱中して交通事故とか起こりやすいみたいだから」

葉月「え、えぇ、わかってるわ」

夜永「.....もう既に轢かれかけてないわよね?」

葉月「だって、」

夜永「なんでもいいけど、とにかく気をつけてね」

ゲームに熱中し過ぎないよう念入りに注意し、夜永は葉月を見送った

半年ほど前から見せるようになった少女らしい姿

これまで無理をしていた彼女を今は自由に遊ばせる

なかなか良い効果が出てきているようだ

夜永「葉月はいいとして、歩夢さんがなぁ.....」

病室で、だんまりと読書をしている君影歩夢を碧色の右目で捉えながら、夜永は伸びをした

夜永「ん...んー.....ふぅ。今はお仕事お仕事」

もう間も無く終わる終了時間内に夜永自身の目的を果たすために、自動販売機へと急ぎ足で向かった


【次回からは師族会議をやります。
原作ベースであまり省ける箇所が無いので、更新は明日以降になります。】


【日本でテロが行われると知ったリーナは来日したいと上司に申告したが却下されたので、せめてテロが起こることを達也や深雪に伝えようと電話し、達也と深雪はテロが行われることを知ります】

ー2月4日ー

今日から二日間の予定で師族会議が開催される

師族会議は日本魔法界のサミットだ

十師族を魔法師のリーダーと仰がない古式魔法師も、師族会議の影響力を否定できない

特に今年は二日目に十師族選定会議、次の四年間の十師族を決定する会議が予定されており、魔法師たちの関心はいやが上にも高まっていた

第一高校の生徒たちも、今日は登校早々、朝からそわそわと落ち着きがない

彼らはまだ高校生の身分だが、いずれ魔法師として身を立てていく者として無関心ではいられない

特に十師族と師補十八家、次の十師族に選ばれる、あるいは選ばれない可能性のある家の関係者は、会議の結果が気になって何も手に付かないに違いない

それが一高生徒の認識だったから、深雪がいつも通り二年A組の教室に姿を見せた時、生徒たちは意外感に硬直し、静まり返った

深雪「おはよう、雫、ほのか」

深雪がいつも通り前の席の雫と、雫の隣に立っているほのかに挨拶をする

それでクラスメイトにかかっていた呪縛が解けた

ほのか「深雪!? なんで学校に来ているのっ?」

悲鳴にも似た声をほのかが上げると、それを皮切りに教室は大きなざわめきに包まれた


深雪「何でって....今日は平日じゃない。高校生が学校に来るのは当たり前よ? それともわたし、いつの間にか仲間外れにされていたの? いじめられているのかしら」

「困ったわ」という風に片手を頬に当てて首を傾げた

思わぬ反撃を受けて、ほのかが目を白黒させている

雫もどう援護して良いか分からず思案顔だ

しかし二人の困惑は、長くは続かなかった

深雪「ごめんなさい、冗談よ」

張本人がすぐにクスッと笑ったからだ

深雪「わたしが欠席すると思ったのでしょう? 今日から、師族会議だから」

ほのか「そ、そうよ!」

再起動したほのかが、勢いよく深雪に詰め寄る

ほのか「深雪、会議場に行かなくてもいいの!? だって今日は選定会議なんでしょう? 次期当主だったら、あっ.....」

しまった、という表情でほのかが口に手を当てる

聞き耳を立てていたクラスメイトも、一斉に目をそらす

深雪「そんな気を使わなくてもいいのに....」

深雪が困惑気味の表情を浮かべる

だが、つい先日まで彼女のことを腫れもの扱いしていたクラスメイトとしては、気にせずにはいられない


雫「それで深雪、行かなくてもいいの?」

深雪「呼ばれてないものに行くのも、おかしな話でしょう? 師族会議の開催場所は出席者以外秘密なのよ。二日目の選定会議に出席する師補十八家の皆様も、今日の時点では大体の場所を聞かされているだけで、具体的に何処の会議室を使うかはご存じないはずよ」

ほのか「でも深雪は.....」

意外感を露わにしているほのかへ、深雪はニコッと微笑みかけた

ほのかの舌と喉が麻痺する

深雪「わたしは呼ばれてない。だから、会議が何処で行われているかも知らないの。何が話し合われるか気にならない訳じゃないけれど、大体の地域も分からなければ行きようが無いでしょう?」

雫「それはそうだね」

赤面したまま何も言えなくなっているほのかの代わりに、雫が深雪の言葉に頷いた





同じ頃、二年E組の教室でも同じ騒ぎが起こっていた

美月「あれっ? 達也さん、どうして登校してきているんですか?」

達也「おはよう、美月。どうしてとはご挨拶だな」

美月「えっ、あのっ、すみません.....」

達也は特に不快感を抱いた訳ではなかったが、彼がそう言うのも当然のことだ

達也も高校生で長期病欠していた訳ではないから、月曜日にいきなり「どうして登校してきたのか」と尋ねる方が常識的ではない

だがこの日、常識を何処かに置き忘れてきたのは美月だけではなかった

レオ「あれ、達也、学校に来てもいいのか?」

達也「お前もか.....」

二度続いて同じような質問をされては、今後が思いやられた

あと二度三度は同じことが続くことを覚悟して、この場で二人に説明をした

達也「十師族の血縁者だからといって、師族会議に参加できるというものでもない。例えば十文字家の当主代理だった十文字先輩は当然、師族会議に参加していただろうが、七草先輩は師族会議に同行したことも無かったはずだ」

レオ「......そんなもんか?」

拍子抜け、という風にレオが聞き返した

達也「少なくとも俺のところは、何の通達も無かったな。それに傍聴すら許されないだろうから、もし行けても待っているだけというのがオチだ」

レオ「お達しに従うしかないということか」

達也「あぁ、そういうことだな」

一段落がつくと、達也は自分の席に座った


そこで改めて教室中を見渡し「あれ?」と感じる

達也「エリカは今日休みか?」

美月「まだ....来てないようですね」

始業まで時間はまだそこそこある

この時点でそう聞くのはおかしな話だったが、いつものエリカは達也よりもずっと早く登校してきていたのだ

いつも通りでない日に限って、いつも通りでない光景に、達也は不快感ではなく不審感を抱いた

「風邪ならいいんだが」と呟いて、始業まで友人たちとの雑談に興じた

結局エリカは始業時間になっても学校に来ることはなかった




エリカ「久しぶりに歩夢から連絡があったと思えば」

昨晩、エリカのもとに歩夢から一通のメールが届いた

その内容は、明日京都に来て欲しいとの旨が書かれており、また、他言無用であることを念押しされた文面であった

確認しようが無いことから、もちろん達也や深雪にこのメールをひっそりと共通しようと思った

しかし考えた末にそれは良くないと判断し、エリカは学校には風邪で休講すると伝え、単身京都を訪れた

エリカ「えっと、確か病院は....」

一月上旬に達也から教えられた病院

そこに歩夢が入院しているはずだ

携帯端末を取り出して京都駅構内を歩いていると、あまり印象の良くない『白』が視界に入った

エリカ「騙された、という訳かしら」

葉月「騙せた、という訳ね」

印象が悪いのはお互い様

エリカは始発でわざわざ京都に赴いたことを少し後悔し、病院へと案内してくれる葉月の後に続いた




肌寒い空気に触れながら、二人は歩いた

病院までは約十五分

その間に、エリカは葉月に幾つか聞いた

エリカ「まず、どうしてアタシを呼んだのか」

葉月「頼りになる人が他に居なかったから」

予想外の返答に、また騙されているのかと疑う

しかし横から覗く葉月の表情は真剣そのものだった

エリカは一瞬躊躇いながら、深く掘り下げた

エリカ「それはどういう意味?」

葉月「そのままの意味よ。今日と明日、歩夢の居る病院を何者かに襲われたらアウトということ」

エリカ「役目で歩夢を護っているんじゃなかった?」

葉月「力が無いと護りたいものも護れないわ」

エリカ「だから.....あ」

根本的な部分を問い質そうとして、エリカは視線を葉月の左手に向けた

つい四ヶ月前までは何らかの魔法で覆い隠していた刀を持っていない

今の葉月は手ぶらな状態だった

エリカ「刀は.....どうしたの?」

葉月「人に貸したわ。どうしてもって言うから」

エリカ「貴女も襲われたらアウトじゃない。ここがそこまで治安の悪い場所だとは言わないけれど、歩夢が襲われる可能性を考慮しているのなら.....」

葉月「だから」

葉月はその場でパタリと立ち止まった

手を握りしめ、視線を逸らして、弱々しく言う

葉月「た、助けて....ください」

自信に満ち溢れていた四ヶ月前とは違い、今の刀を持たない葉月は恥を忍んで助けを乞いた

もっと偉そうに「助けなさい」とでも言うと思っていたエリカは予想外な『白』の言動に、思わず吹き出してしまう

エリカ「ふふっ...くく....いいわ、わかった。でも、私にも出来ないことは当然あるわよ?」

葉月「笑わないでっ!」

一生の不覚と言わんばかりに、葉月は項垂れた

しかしその甲斐もあってエリカには上機嫌でお願いを聞いてもらうことに成功し、結果としてはプラスかマイナスかで言えば充分にプラスで終わることができた

こうして葉月の意外な一面を晒すことにより、今日と明日の二日間、エリカは歩夢と葉月を護ることになった


【安価です。
1.師族会議1日目
2.葉月とエリカ
安価下。】

1


>>478 1.師族会議1日目
一条剛毅(いちじょう ごうき)
二木舞衣(ふたつぎ まい)
三矢元(みつや げん)
四葉真夜(よつば まや)
五輪勇海(いつわ いさみ)
六塚温子(むつづか あつこ)
七草弘一(さえぐさ こういち)
八代雷蔵(やつしろ らいぞう)
九島真言(くどう まこと)
十文字和樹(じゅうもんじ かずき)

全員名前に欄を姓にします。】

場所は箱根にある、それなりに高級なホテルの貸し会議室

開始時刻間際になり、次々に円卓の席が埋まっていく

日焼けで赤銅色に染まっている長身の身体をラフなセーターに包んだ、一見、海の男風の男性は一条家当主、一条剛毅

髪をアップにした上品な和服姿の熟女は二木家当主、二木舞衣

ポロシャツの上からジャケットを羽織ったラフなスタイルの、小柄でがっちりした初老の男性は三矢家当主、三矢元

ワインレッドのフォーマルなワンピースを纏う美女は四葉家当主、四葉真夜

整ってはいるが地味な容貌の、垢抜けないビジネスマン風の男は五輪家当主、五輪勇海

栗色のストレートショートヘア、パンツスーツ姿のグラマーな女性は六塚家当主、六塚温子

一九八〇~一九九〇年代のエリートビジネスマンを思わせるやや古風でスマートな紳士は七草家当主、七草弘一

ノーネクタイのスーツ姿で髪を立て気味の七:三分けにした男性は八代家当主、八代雷蔵

海外ブランドのスリーピースを着こなした白髪の紳士は九島家当主、九島真言

羽織袴姿の剃髪した男性は十文字家当主、十文字和樹


これが現在の十師族、各家当主だ

なお十文字和樹のみ、息子の克人を伴っている

当主全員が円卓に付くと、最後に一人、ドアから存在感を醸し出す女性が入室した

その容姿はせいぜい大人びた大学生程度でレディーススーツに身を包んだ、この中で最も歴史ある家名を受け継ぐ霜月家当主、霜月雪乃

彼女が円卓から離れた席に座るのを待つと、

九島「十文字殿、お加減はもうよろしいのか?」

最初に口を開いたのは、最年長の九島真言だった

十師族は各家対等で、そこに上下関係は無い

その理念はホテルに用意させた円卓からも明らかだ

しかし会議をする上で、議長役がいなくては何かと不都合が生じる

そこで白羽の矢が立ったのはこの場で唯一対等な立場でない霜月だったが、彼女は面倒だからと以前理由を付けてから見届け人のような立場にある

相談の末、最年長の者が進行役を務める不文律が出来上がった

九島がまず十文字和樹の健康状態について訊ねたのは、彼がこのところずっと長男の克人を代理として師族会議を欠席していたからだ

他家の当主が和樹に会うのは、実に三年ぶりのことだった

十文字「それについて、皆様にご報告したいことがあります」

九島の言葉を受けて、和樹が立ち上がった

座ったままの発言がスタンダードである師族会議で彼のこの態度は、何か重大な発表を予感させた


十文字「突然ですが、私、十文字和樹はこの場をもって十文字家当主の座を息子の克人に譲ります。ついては皆様に、その立会人になっていただきたい」

隣の者と顔を合わせたり和樹の顔をじっと見つめたり、各当主の反応は様々だったが、誰一人勝手なお喋りをしていないのは共通していた

九島「それはまた、随分と急なお申し出だ」

十文字「以前から考えていたことです。克人が成人を迎えてから、とも考えましたが、魔法師として使い物にならない私がいつまでも当主の座に居座っているのは、十文字家のみならず十文字にとっても好ましいことではないと思い決断しました」

一条「魔法を使えない、と言われると?」

こう訊ねた一条剛毅は、師族では口にしにくい話題を切り出す役回りが多い

十文字「私は三年前より、魔法力低下の病に罹っていました。既に二年前の段階で実践に堪えられなくなり、当主の仕事を事実上克人に任せておりました。そして三ヶ月前、遂に魔法技能を失ってしまったのです」

爆弾発言に、一座がどよめいた

七草「魔法力低下の病、ですか? そんなものがあるとは初めて聞きました。失礼かとは存じますが、魔法師にとって大きな問題です。詳細は判明していますか? 治療法は無いのですか?」

こう訊いた七草弘一は、師族会議での発言一、二を争うほど多い

十文字「七草殿、その心配はご無用です。この病は我が十文字家に固有のものですから」

七草「貴家特有のもの? それは確かでしょうか」

四葉「七草殿」

尚も問い詰めようとした七草を、やんわりと窘めたのは四葉真夜だった

四葉「それ以上はお控えになった方がよろしいかと」

二木「そうですね。他家の事情に深入りしない。それは十師族のみならず、魔法師に広く適応されるルールです。四葉殿の仰るとおり、もうお止めになっては? 十文字殿は、他家の魔法師が罹ることは無いと仰せなのですからそれで良いではありませんか」

真夜の意見を支持した二木舞衣は九島真言に次ぐ年長者として、師族会議ではストッパー役を務めることが多い


七草「分かりました。十文字殿、申し訳ございませんでした」

七草がおとなしく引き下がる

真夜だけならともかく、二木にまで意地を張る理由は、彼には無かった

十文字「いえ、気にしていません」

七草にそう答え、十文字は真夜と二木に目で一礼する

十文字「それで、皆様。十文字継承の件、如何でしょうか」

改めて問う十文字に、

四葉「私どもの立会いなどなくとも、十文字家のことは十文字家でお決めになればよろしいことかと存じますが......私は構いませんわ。喜んで、克人殿への継承の承認になりましょう」

六塚「私も構わない。むしろ、光栄なことだと思う。喜んで承認とならさせていただく」

真夜がそう言うと、六塚温子がそれに続いた

彼女は真夜に憧れを抱いているところがあり、議論が割れたとき、真夜の側に付くことが多い

七草「私も他家の家督継承にとやかく物言いをつけるつもりはありません。克人殿の当主就任を祝福させていただきます。和樹殿も残念ではありますが、これまでの魔法界へのご尽力、お疲れ様でした」

先ほどの一幕があったから余計にその必要を感じたのか、七草弘一が積極的に支持を表明した

真夜と七草の二人が一致して十文字の申し出を受けたことで、残る当主も次々と克人に祝辞を述べ、現十文字家当主に労いの言葉をかける

その場に居合わせた他家当主九名の支持を受けたことにより、無事家督継承が済まされると思いきや、もう一つ段階を踏むのが師族会議の暗黙のルールだった


十文字「霜月様は、如何でしょうか」

緊迫感のある問い掛けに対し、

霜月「私は構いませんよ」

膝上に置いた観光雑誌に目を向けながら、霜月雪乃はマイペースに返答した

今回の会場は箱根ということで箱根の雑誌だが、四年前、八年前と別の場所で行われた際にはその場所の観光雑誌を同じように開いていた

彼女が初めて霜月家当主として参加した二十四年前からあの様子はずっと変わらず、実質日本の魔法界の実権を握っている彼女に誰も口出しは出来なかった

九島「では克人殿。新たな十文字家当主として、その席に座られよ」

最後に九島真言がそう促して、十文字家の当主交代は認知された


【ここから少しダイジェストにします。
1.反対政府活動及び侵略行為の監視状況を報告し合う。
2.北陸・山陰を一条家、東北を六塚家、阪神・中国を二木家、四国を五輪家、沖縄を除く九州が八代家、京都奈良・滋賀・紀伊方面を九島家が分担。
三矢家は今も活発に活動し国防軍の魔法師にノウハウを提供している第三研の運用を、他の『三』の各家と協力して行っている。
七草家及び十文字家は伊豆を含む関東地方、四葉家は担当する家がない東海及び岐阜・長野方面を監視している。
3.真夜が伊豆方面に不審な動きがあることを七草と十文字に指摘し、詳細を話す。

「先週北米航路で横須賀港に到着した小型貨物船が、現在沼津港に停泊しております。その貨物船をUSNA大使館が所有するクルーザーが観察しておりました。現在、大使館のクルーザーは姿を消しておりますが、貨物船への監視は続いているようです」

この小型貨物船というのに顧傑が乗り込んで、来日。
クルーザーの行方を七草が探すことを公言し、各家の監視状況の話は終わりです。】


定例の報告が一段落したところで、会議室の空気が変わった

七草「九島殿。一つ、この場でお話させていただきたいことがあるのですが」

混乱を臭わせる発言は、やはり七草弘一のものだった

九島「七草殿、どうぞ」

ため息を堪えているような表情で、九島が促す

七草「では、お時間を頂戴します」

そう前置きして、七草は真夜に視線を向けた

またか、という空気が六塚と八代からも漂う

七草が真夜に何かと突っかかるのは、師族会議お馴染みの光景と言っても良かった

七草「四葉殿、次期当主の決定、おめでとうございます」

四葉「ありがとうございます」

お互いに、顔に愛想笑いを貼り付けている

七草はその中に挑発的な眼光を宿し、真夜はそれを冷ややかな目で見返している

どういう訳か二人とも、既に臨戦態勢だった

そしてここまで観光雑誌に目を向けていた雪乃もまた、その雰囲気を聡って雑誌を閉じた

七草「しかし、次期殿とご子息の婚約の件は、承服致しかねます」

四葉「何故でしょう? 結婚という私事に師族会議の承諾を得る必要は無いと思っておりましたが。違いまして?」

賛同の声が差し挟まれる前に、七草が真夜に反論する


七草「確かに唯の婚姻でしたら、私もこのようなことは申しません。しかし貴重な魔法師が才を失われるおそれがあるとするなら別です。近親婚が魔法師の資質にどのような影響を与えるか。これは以前から研究が進められながら、まだ結論が出ていないテーマです。無害だと言う研究者もいれば、むしろ有益だとする研究者もいる。ですが遺伝子異常によるリスクが想定されている以上、血が近すぎる婚姻は避けるべきとされてきました。現にナンバーズ(数字の入った姓を持つ家)の間では法で認められている従兄弟同士の婚姻も避けられる傾向にあります」

八代「傾向があるというだけで、禁止されてはいないでしょう。実例もありますよ」

うんざりした声で七草に反論したのは、真夜ではなかった

七草「ええ。八代殿の仰るとおり、二十八家に限っても従兄弟同士のご夫婦はいらっしゃる。ですがあのケースは、御父上同士が異母兄妹でした。今回の四葉殿のケースと同例に論じることは出来ません」

六塚「従兄弟同士でないというだけで再従兄弟同士や夫が父親の従兄弟というケースは比較的よく見られますよ。血が遠くても血縁婚を重ねていけば、リスクは近親婚と同じになるのではありませんか?」

七草の主張に六塚が異を唱えるが、

七草「リスクがゼロになることはあり得ません。全ては程度の問題なのですよ、六塚殿」

六塚の弁舌は、七草を怯ませることは出来なかった

七草「私が四葉家の次期殿の婚約に懸念を抱くのは、お母上同士が一卵性の双子の姉妹という極めて近い血を持つ者同士だからです。つまり、遺伝子的には異父兄妹の婚姻と同じです。そうではありませんか?」

感情的な背景のある論理に、六塚は黙り込む

殺伐とした空気の中、黙る者の方が多く、失言が揚げ足を取る状況で、


【安価です。コンマ1桁。
奇数・0:雪乃が口を開いた
偶数:原作通りに

どちらも原作通りの展開になります。
安価下。】

そらっ


>>486 7:雪乃が口を開いた】

ここまで必要最低限の一言しか口にしていない雪乃が、「ふぅ」と息を吐いて七草の勢いを止めた

霜月「発言させていただいても構いませんか?」

やんわりとした声色で、議長らしいことをしていた年長者の九島真言ではなく、現在の場を仕切っている七草弘一に訊く

『霜月』を前にようやく一瞬怯んだ七草だったが、外面にはその様子を晒さず、平静を装って許可した

霜月「今から私が言うことは決定事項です。私が独断でそう決めました。構いませんね、七草さん?」

七草「く.....」

二人がまだ若かった時代、一度だけ七草弘一は雪乃に真っ向から刃向かったことがある

何百という大勢に一人という比較的小規模な戦闘が繰り広げられたが、そこで七草家は雪乃に傷一つ与えることすら叶わず敗北した

その時の傷は今でも残っており、雪乃にやられた兵士は今もなお植物状態で病院のベッドで寝ている者や、一生治らない傷を植え付けられた者もいる

悪夢のような出来事は未だに鮮明な記憶として残されており、家の上下関係を除いても彼女には逆らえなかった

霜月「七草家と一条家にチャンスを与えるということで、如何でしょうか。七草真由美と司波達也が結ばれる可能性と、一条将輝と司波深雪が結ばれる極僅かな可能性をハッキリさせるためにも」

四葉「それはどういう意味でしょうか」

霜月「七草真由美が司波達也へ恋愛感情を抱いているということです。そして一条将輝もまた司波深雪に恋愛感情を抱いている。そうですよね、お二人さん?」

雪乃の視線は七草と一条へと向けられた

七草「そのようです」

一条「仰る通りです」

二人の確認を取った上で、雪乃は続けて話した


霜月「完全に平等とは行きません。そもそも四葉さんの方で二人の婚約が済まされているのですから」

一条「それを踏まえた上で、チャンスとは?」

霜月「今話題に挙がっている四名はまだ若いです。心変わりが無いとも限りません。ですので、アプローチをかけることぐらいは大目に見て貰おうかな、と」

もっともらしいことに一同が頷く

肝心の真夜は少し遅れで頷き、

四葉「構いませんわ、それで。そもそも親とは子供の幸せを切実に願う者ですから、心変わりをしたというのなら無理に引き止めません。過度なアプローチを程々にして頂けるのなら、許可しましょう」

達也と深雪は十七年間もの間、兄妹としてきた

兄妹愛は並々ならぬもので、非常に強固なものだ

そのアドバンテージに屈せず一条将輝と七草真由美がそれぞれアプローチをかけることに成功する可能性は限りなく低いだろう

しかし曲がりなりにも二人が婚約しているところに異議が申し立てられたのだ

それくらいの四葉への優位性は当然であった

霜月「それでは、そういうことで」

聞くに堪えない話が長続きするかと怯えていた数名からすれば早めに結論が出て何よりだった

一条や七草も相手の家の許可を取った上でアプローチをかけれるとなれば、だいぶ気も楽になった

たとえその確率が低くても、希望が見える程度には

そして真夜は、

四葉「(まぁ、話を素早く終わらせるという点に関しては、まずまずね。那月さんの存在が未来に有り続ける限り、そして歩夢さんや葉月さんが居る限り、あの二人が心変わりすることは無いわ)」

十師族の中でただ一人、未来の片鱗を知る者はこのやり取りに何の意味が無いことを、確信していた


【安価です。
1.霜月の話(歩夢について)
2.師族会議を進める
安価下。】

2


>>489 2.師族会議を進める
九島家は周公瑾を匿っている時期がありました。
途中で名前が出る神田議員とは、人間主義者で反魔法主義者の政治家です。】

弘一が投げ込んだ毒気に一同が疲れを見せたので、師族会議は一旦休憩となった

そして10分後に再開したその冒頭、今度は真夜が爆弾を炸裂させた

四葉「皆様、私から一つ、申し上げたいことがあるのですが」

九島「ほう。四葉殿から問題を提起されるとは珍しい。一体どのようなお話だろうか」

促されると、真夜は七草弘一に微笑みかけた

真夜と弘一以外の十師族当主の背筋に、戦慄が走る

それはこの二人の確執をそれほど目にしていない克人も同様だった

真夜が、おもむろにその艶やかな朱唇を開く

四葉「皆様は周公瑾という名の青年をご存知でしょうか」

その一言を発した瞬間、九島真言の身体が強張った

七草弘一は何の反応も見せながったが、その無反応は心当たりがあると言っているも同然だった


六塚「しゅうこうきん....ですか?」

八代「四葉殿、それは三国志で有名な呉の周瑜のことではありませんよね?」

六塚温子と八代雷蔵の質問に、真夜は笑顔のまま首を横に振った

四葉「横浜中華街を根城にしていた、大陸出身の古式魔法師です。道士、と言うのでしたわよね、九島殿?」

九島「あ、ああ。大陸の古式魔法師はそのように呼ばれることが多い」

九島真言は身体が震え出さないよう全力で自分を押さえつけている

六塚「九島殿、如何なされた? 顔色が悪いようだが」

九島「いや、なんでもない、六塚殿」

六塚温子は九島真言の不審な態度に首を傾げながら、真夜へ顔の向きを戻した

六塚「それで、周公瑾なる者が何か?」

四葉「反魔法国際政治団体『ブランシュ』。香港系国際犯罪シンジケート『無頭竜』。横浜事変を起こした大亜連合軍破壊工作部隊。そして東京を中心に吸血鬼事件で世間を騒がした『パラサイト』。これらを手引し、援助して我が国に混乱をもたらした黒幕、と申しますか、黒幕の日本における代理人を務めていた人物です」

ざわついた空気が会議室を満たした

ざわめく声が上がった訳ではない

この部屋にいるのはわずか十一名

隣の者と勝手にお喋りをするような軽い話題ではない

それでも、十師族の当主から落ち着きを奪うだけの衝撃が、真夜の発したセリフにはあった


八代「四葉殿」

真夜の向かい側で、八代雷蔵が軽く手を挙げた

八代「今『務めていた』と過去形で話されたのは、周公瑾が既に処分済みだからですか? それとも国外へ逃亡済みだからですか?」

四葉「周公瑾は昨年十月京都にて、一条将輝殿および九島光宣、そして霜月様の協力を得て、達也が仕留めました」

九島真言が意外感を表した

一条剛毅はこの件を将輝から報らされていたが、真言は光宣から聞いていなかったからだ

また、霜月がこの件に協力の姿勢を見せたことに関しては誰も疑問を覚えなかった

周公瑾が『京都』で仕留められたことが、十師族の当主を納得させた

八代「一条家の将輝殿、四葉家の達也殿、九島家の光宣殿......なんとも頼もしいことです」

二木「そうですわね。優秀な次世代が育ってくれていることは、本当に喜ばしいことです。日本魔法界の将来は安泰だと思えます」

二人の発言に、他の数名が頷いて同意した

しかしその和やかな雰囲気は、真夜のセリフですぐ霧散することになる

四葉「七草殿。貴方は、周公瑾と共謀関係にありましたね?」

円卓が静まり返る

五輪「......四葉殿、それは確かな根拠があっての御言葉ですか?」

五輪勇海が掠れた声を絞り出す

七草弘一はまだ、何も言わない


四葉「七草殿。貴方が配下の名倉三郎を使い、周公瑾とコンタクトを取り、昨年四月に民権党の神田議員を間接的に使嗾して反魔法師運動を煽っていたことは調べがついています。何か反論がおありですか?」

七草「......四葉殿、私も、根拠を伺いたいですね」

冷ややかに二人は睨み合った

十文字「発言してもよろしいでしょうか」

その張り詰めた空気の中、最年少の克人が声を上げる

自分に集まる視線をものともせず、克人は落ち着いた口調で証言を始めた

十文字「七草殿が反魔法師運動を煽っていたのは事実です。私はそれを七草殿ご本人から伺いました」

その証言に、克人に向いていた視線が弘一に向かう

六塚「七草殿、何か弁明はありますか?」

鋭い詰問に、七草弘一は余裕のある笑みを浮かべた

七草「十文字殿が仰られたことは事実ですよ。四葉殿の仰られたことも概ねその通りです。ただし、順序に誤解があるようですね」

一条「順序? それが何だと言うのだ」

一条剛毅が吐き捨てるように言葉を叩きつける

だが、七草弘一の笑みは崩れなかった

七草「私が周公瑾とコンタクトを取ったのは、魔法師全般を対象とするマスコミ工作を止めさせる為でした。無論、取引材料は必要でしたが、日本魔法界の不利益になるような代償は差し出しておりません」

四葉「ああ、そうでしたね。反魔法師運動を煽った後に、周公瑾と手を組まれたのでした」

真夜があっさりと、七草弘一の主張を認める


四葉「ですが周公瑾がそれ以前からこの国に害をなしていたのは紛れもない事実でしてよ? そのような者と手を組んだという事実そのものが、十師族として相応からぬ行うだと私は思うのですけど。皆様、そうではありませんこと?」

真夜の余裕が崩れなかったのは、まさにそこが問題だったからだ

一条「然り」

一条剛毅が短く賛同を示す

六塚「四葉殿の仰る通りです」

六塚温子が、

八代「残念ながら、その通りですな」

八代雷蔵が、

十文字「七草殿、私はあの時も、止めるべきだと申し上げました」

十文字克人が、

五輪「七草殿にもお考えがあったのでしょうが.....」

五輪勇海が、

三矢「私には七草殿を弁明できない」

三矢元が、

二木「七草殿。どのような意図があろうと、超えてはならない一線、手を組んではならない相手というのがございます」

二木舞衣が、真夜を支持する

弘一は笑顔のまま、追い詰められていた

剛毅の、温子の、雷蔵の、克人の、勇海の、元の、舞衣の目が、まだ態度を明らかにしていない九島真言へと向かう

しかし最後に、舞衣が弘一に告げた言葉は九島真言にも当てはまる

弘一とは事情が異なるとはいえ、真言も周公瑾と結託していたからだ


真言の苦悩はドアをノックする音によって中断された

???「入れてもらっても構わないだろうか」

防音されているはずの扉の向こう側から聞こえてきた声は、全員がよく知る老人のものだった

扉に最も近い位置に座っている克人が立ち上がり、一座を見回す

頷く者はいても、首を横に振る者はいなかった

しかし若干一名が、むっとした表情を浮かべている

十文字「構いませんでしょうか?」

霜月「構います。開けないで」

十文字「......」

予想だにしない展開に、克人は息が詰まるようだった

四葉「箱根といえば温泉ですが、何処か良い場所は見つかりましたか? 会議が終わり次第、もしよろしければご一緒に」

霜月「十文字さん、扉を開けて下さる?」

ため息混じりの真夜の説得に、雪乃はすぐ改心し、克人に扉を開けるよう促した

克人は出入り口に歩み寄り、ノックされたドアを開く

扉の向こうに居たのは、引退したはずに九島烈だった

二木「老師、ご無沙汰致しております。それにしても、本日は如何なされまして?」

丁寧に烈を迎え入れる

克人が自分の席を勧めたが、烈は笑って手を振った


九島烈「すまないが、今の話は聞かせてもらった」

いきなりな本題に動揺が顔に出る者が数名いた

九島烈「皆が弘一を責めるのは当然だ。だが、責任を問うのは待ってもらいたい」

烈は弘一のことを『七草殿』ではなく名前で呼んだ

そうすることで、自分の発言が師族会議の元メンバーとしてのものではなく、日本魔法界の長老だった者の発言と、今は何の権限も無い老人の発言と知らせていた

九島烈「反魔法師運動を煽動したことについては、私も弘一から相談を受けていた。そして私は弘一を止めなかった」

円卓を囲んで視線が飛び交う

真夜、弘一、真言を除く、剛毅、舞衣、元、勇海、温子、雷蔵、克人は、烈の真意を測りかねていた

いや、真言にも父親の真意は分からなかった

烈の心情を察しているのは、真夜と弘一、そして離れた位置から静観する雪乃だけだった

九島烈「それに周公瑾と関係を持ったのは、我が九島家も同様だ。弘一は周公瑾と結託しても陰謀を語り合うだけで具体的な行動は起こしていないが、私はパラサイトを利用した無人魔法兵器に周公瑾から提供された技術を使い、罪もない若人をその実験台にしようとした。真夜の息子が止めてくれていなかったら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない」

烈から向けられた視線に、真夜は微かな笑みを浮かべて頷いた

彼女は徹底的に弘一を叩くつもりでいたが、そのことに強く執着していたわけではない

烈が弘一をかばうというのであれば、その師弟愛を台無しにするつもりはなかった


九島烈「私がしたことに比べれば、弘一の行いは陰謀ごっこに過ぎない」

一条「しかし、老師」

一条剛毅が言いかけた言葉を、烈が目で制する

九島烈「九島家は、十師族の座を退く。それでこの場は収めていただけまいか」

九島「先代.....」

九島真言が呆然とした表情で父の顔を見上げる

烈はその名の通り、苛烈な眼差しを息子に向けていた

九島烈「真言、お前には周公瑾に直接便宜を図った罪がある。周公瑾から送り込まれた道士の件で、四葉殿のご子息にも一条家のご子息にも、あろうことか霜月家にも迷惑をかけている。本来であれば、私ではなくお前が言い出さなければならないことだったのだ」

九島「先代.....父上!」

九島烈「真言、お前には失望した」

四葉「もうよろしいではありませんか」

烈を宥めたのは、真夜だった

四葉「九島家が全ての責任を負われるというのであれば、四葉家はそれで納得しましょう。七草殿には今後の貢献で不祥事を償っていただければ結構ですわ」

烈が師弟の愛情だけで弘一をかばっているのではない

情というなら真言は実の息子だ

現在、日本で最も力を持つ魔法師集団は国防軍の魔法師部隊ではなく、四葉家及び七草家

四葉家と七草家は日本魔法界の双璧である


しかしその実態は霜月家と親密な関係にあることにより、その恩恵を受けている四葉家の方が圧倒的に力を有している

霜月家は現当主の雪乃及びその娘の歩夢が主戦力だと七草家を含めた他家は考えているが、実際のところは雪乃と夜永と、養子として迎えられた十二師族の生き残りである葉月だった

双璧をなしているのはあくまで形だけで、七草家がこうして双璧をなしているつもりであるのも四葉家と霜月家の掌の上である

形式上でも双璧をなす七草家を十師族から除外するのは好ましくない

十師族を頂点とした日本魔法界の秩序を維持するためにも、七草家を十師族に留め置くことが必要だ

六塚「四葉殿がそう仰るのであれば.....」

八代「確かに今、七草家に十師族を抜けられると、穴が大きすぎますな」

二人が真夜に相次いで賛同した

七草弘一を見る目は以前冷ややかなものであるが、他にも反対の声は上がることはなかった

九島烈「真言、行くぞ」

命じられて、真言がのろのろと十師族の席を立った

九島烈「皆、失礼したな」

烈が軽く目礼をして会議室を出て行った

真言は、肩を落としてその後を続くしかなかった


【ここからダイジェストです。
九島家が抜けたことにより空いた一つの席。
四葉家は七宝家をその席に座らせるよう推薦します。
一応『仮』としてその日は七宝家の当主である七宝拓巳がその席に座り、翌日の師族会議二日目に正式に十師族のメンバーとして選ばれます。】


ー2月5日 師族会議2日目ー

二木「さて、それでは師族会議を再開致しましょう」

三矢「人間主義者対策ですな」

舞衣の言葉にを、元がそう受ける

一条「いや、その前に伊豆の不審船の件を聞きたい」

そこに異議を差し挟んだのは剛毅だった

五輪「一条殿.....昨日の今日ですよ?」

勇海が呆れ顔で嗜めるが、

一条「もしテロリストの船なら、向こうが待ってくれるとは限らない」

剛毅は譲らなかった

七草「構いませんよ、五輪殿」

その声に、一晩でいつもの調子を取り戻した弘一が応える

一条「では、お聞かせ願おう」

弘一の方はいつも通りだったが、剛毅は以前どおりに付き合うつもりは無いようだ

剛毅のような人間にとって、敵との内通はそれだけ許しがたい行為だった

七草「四葉殿のご指摘を受けた貨物船に、魔法師の反応はありませんでした。武器弾薬も、船内には残っていません」

一条「船内には?」

七草「爆薬が輸送されていた可能性があるということですよ。当該船が逃走用に確保されている可能性もありますので、引き続き監視させるつもりです」

十文字「USNAの動向は如何ですか?」

剛毅に代わって、次は克人が弘一に訊ねる


七草「現地工作員、つまりUSNAに寝返った連中は見つかりましたが、大した練度ではありません。到底、USNA本国から仕事を任せられたとは思えません」

五輪「つまり.....本命の狩人は何処かに隠れているということですか」

七草「四葉殿からお聞きしたクルーザーは領海外に確認しました。案外、そこに隠れているのかもしれません」

弘一の回答に、勇海が思案の表情を浮かべた

五輪「海の上なら、私が少し突いてみましょうか? 自然災害に偽装すれば関係なかった場合でも言い訳はできます」

六塚「USNAのハンターよりも、問題は国内に侵入したかもしれないテロリストだろう」

勇海の提案に、温子が反対意見を出す

八代「確かにそうですな。いるという確証は無いが、同時にいないという確証も無い。何処に潜んでいるかわからないというのが一番質が悪い」

雷蔵は、温子の意見を支持した

八代「案外、この師族会議を狙っているかもしれませんぞ」

それは全くの偶然だったはずだ

だが、事実として

雷蔵がそう言った直後、激しい音と振動が会議室を襲った






霜月「もう....待ちくたびれたわ」

突然な異常事態に

霜月「そろそろ良いところ見せないと」

雪乃は左手に握られた鞘から右手で日本刀を引き抜き

霜月「“あの人”の名を汚してしまうわね」

その澄んだ碧色の瞳には何の迷いも無かった




【まず結果から。
このテロによって被害は死者22名、負傷者34名。
無傷だった利用客は33名。内の27名が魔法師です。
自分を守ることにのみ汲々とした魔法師の利己的な態度は、世論の激しい非難を浴びることになります。

安価です。コンマ
利用客が原作通り死者にならずに済むかどうか。
奇数・0・ゾロ目:死者ゼロ、負傷者数名
偶数:死者数名、負傷者数十名
安価下。】

ほい


>>502 3:死者ゼロ、負傷者数名】

爆発は、会議室のすぐ外で起こった

扉が吹き飛び、壁を紅蓮の炎がなめる

しかしその炎は、すぐに鎮火した

六塚「十文字殿、お見事だ」

師族会議のメンバーは、一人もかすり傷一つ負っていない

熱も衝撃も、克人の対物耐熱シールドによって完全に阻まれていた

十文字「六塚殿こそ」

炎を消したのは六塚温子の熱量制御

熱を操る『六』の魔法師にとって、鉄骨を溶かすことも出来ない炎を消し去るなど朝飯前だった

二木「外へ出た方が良いでしょう。生き埋めになると、脱出に余計な手間がかかります」

二木舞衣が建材の酸化反応を禁じることで延熱と有毒ガスの発生を防ぎながら、落ち着いた声で提案する

三矢「賛成です。かなり大規模な自爆テロが仕掛けられているようだ」

三矢元が複数の魔法を待機させた状態で、舞衣の言葉に頷く

一条「パペット・テロか! 酷い真似を」

剛毅は今も続いている自爆テロに激しく舌打ちした

パペット・テロとは人間を操り人形にして行わせる自爆テロのことだ

人間を人形化する手口は魔法または薬物による精神捜査と、肉体のコントロールを魔法で奪う方法がある


剛毅が感知したのは肉体を遠隔操作する魔法の気配

一階のロビーと各階の廊下をゆっくりと歩き回るその気配は、下に行くほど多い

四葉「如何なさいますか、霜月様?」

微笑みながら、真夜は雪乃に問い掛けた

すると雪乃はようやく腰を上げ、昨日今日とずっと手元にかけていた幻術を解いた

その様子を側から見ていた各家の当主は驚きに満ちた表情をし、また、不可解な疑問を胸にする

雪乃が手にしていたのは一本の業物

彼女が武器を扱うところを見るのは、その場に居た長い付き合いの者達ですら初見であった

霜月「私が責任を持って宿泊客を脱出させます」

四葉「代わりに、私達が警察への対応をする」

霜月「聞くまでもありませんが、如何でしょうか」

雪乃は警察への対応を免れる

十師族は自分たちが助かるために魔法を使用し、一般人を見捨てたという噂を事前に断ち切ることが出来る

聞くまでもなく、話し合う必要もなく

また、返答する必要もなかった

全員の意見が一致したのを察した雪乃は久々に、右手の握った刀を一閃した

かつて憧れた人が持っていた日本刀

何度か素振りをさせて貰った経験が今、活かされた

数メートルの空間を物ともせず、壁は紙のように斬り裂かれ、砕け散った

真夜を除く当主の面々が愕然とその光景を眺める中、

霜月「後の事は、よろしくお願い致します」

と言って、白煙の中に繰り出して行った

彼女としてはあくまでショートカットという認識で

扉を使わず、全方面の壁を切り崩して救出に向かった

あまりにも大雑把なやり方に、

四葉「(どっちがテロリストなのか分からないわね)」

あのまま行けばこのホテルは倒壊を免れないだろう

建て替えることを視野に入れた真夜は、他の当主と共に倒壊する前にこのホテルを脱出することに専念した


【十師族会議が行われているホテルでテロが起きたことを知った達也・深雪・水波・香澄・泉美・七宝琢磨・真由美・七宝琢磨は現場へと向かいます。

安価です。終わった後。
1.雪乃と達也・深雪
2.葉月とエリカ
安価下。】

1


>>505 1.雪乃と達也・深雪】

一体なにが起こったのか

それが達也らの第一感想だった

眼前に広がるのは縦に崩壊したホテルの瓦礫の山

それを取り囲むように出来た警察とマスコミ、そしてテロの引き金にもなった関係者が慌ただしく事情聴取に追われていた

ただのテロにしては被害が大きすぎるような気がするし、救急車らしきものが一台も見当たらず、救急隊員が一名も見つからないのは異常な出来事だった

深雪「達也さん、これは.....」

達也「近くを見回ろう。犯人は現場に戻る、とも言うからな。水波、この辺りは任せた」

水波「はい、達也兄さま」

信頼のできる人物にこの場を任せ、達也と深雪は人混みを抜け、比較的人気の少ない場所へ移動した

達也「師族会議を狙うほどの奴だ。さっきはああ言ったが、現場に戻ってくる可能性は無いだろうな」

深雪「では、どうして?」

達也「建物が崩れた跡。瓦礫の中に鋭い刃物で斬られたような、綺麗な断面の物があった。一つや二つじゃなく、大量に。こんなことが出来るのは一人しか居ないだろう」

説明を受けて、深雪が理解しようとしたその時だった

薄暗い路地から、一人の女性がこちらへとやって来た


雪乃「残念だけれど、一人じゃなくて、一本の刀よ」

深雪「雪乃さん.....」

左手に握られた刀を見て、深雪は反射的に一歩下がる

あの刀に良い思い出が無いからだ

一度ならず二度も斬られている

あの痛みは一生忘れることが出来ないだろう

二度とも、致命傷でまさに死ぬ瞬間というものを味あわされたのだから

深雪は怯える姿勢を見せる一方で、達也は良い機会だとその場に居たはずの雪乃に幾つか質問をぶつけた

達也「雪乃さんはどうして師族会議に?」

雪乃「霜月家当主として参加することを義務付けられているから。役割は現代の日本の魔法界がどのように推移していくのかを見届ける立場よ。たまに我儘を言って、霜月に都合良くして貰う事もあるけど」

口ぶりからして、その我儘は可決されている

いかに十師族が霜月雪乃の意見を蔑ろに出来ないかが分かったような気がした

達也「現場に居たのなら、事情聴取は?」

雪乃「十師族の皆様に任せたわ。その代わり、私が一般の宿泊客を全員助けることと引き換えにね」

達也「......! テロの目的は....」

雪乃「日本における魔法師の糾弾のようなもの。反魔法師運動を促進させようとしていたのでしょうね」

テロの目的は殺害ではなく、反魔法師運動を促進させ、魔法師の立場を著しく低下させること

その真意に気が付いた達也は、次に優先順位を二番目に落としていた雪乃の一言を掘り下げる

達也「それで宿泊客の被害はどうなりましたか?」

雪乃「全員助けたわ。負傷者は何名か出してしまったけれど、それでも擦り傷。もちろん巻き込んでしまった時点で、軽傷も重傷も根本的な部分は変わらないんだけどね」

深雪「何名ほどいらしたのですか?」

雪乃「八〇人弱。あぁ、十師族を除いてね」

深雪「そんなに....」

雪乃の働きが無ければ、死者及び負傷者は数十名に至る大惨事になっていたかもしれない

首謀者の思惑通り、魔法師の立場に大きな影響が出ていたかもしれないと考えるだけでも、末恐ろしい


雪乃「私が教えられるのはここまで。首謀者の目的を叩いたことだし、私は夜永と合流してから帰るわ」

深雪「夜永さんもいらしているのですか?」

雪乃「えぇ。この事件の首謀者と、ね?」

首謀者についてはリーナから聞いていた

四葉と因縁深い、崑崙方院の生き残り

顧傑がこの近くに居るという情報は、達也と深雪の冷静さを欠くようなところまではいかなかった

夜永の戦闘能力は未だ未知数な面があり、その辺りは確かに不安であったが、そもそも達也と深雪に顧傑を倒せという命令も、個人的な因縁も薄い

今回のテロ事件でも死者が一名も出ていない結果論を鑑みると、自分達の立場もそれほど危うくはならず、今はこの場に待機しても良い結論に至った

雪乃「行くのなら止めるけど、そのつもりは無いようね。安心したわ、死者を出さずに済んで」

達也「.....足手まといになりそうなので」

雪乃「懸命ね」

ただでさえ雪乃の魔法には幻術が絡んでいることしか分からず、深夜や真夜から危険だと念入りに忠告されている

それに刀が手に握られていることも考えると、無闇な行動の選択肢は自然と消去された

雪乃「まぁ、今から行っても遅いんだけどね。夜永が倒してるか、倒されているか。どちらにせよ顧傑が今回で無力化されることは無いわ。今回は挨拶程度。大人の事情があるのよ。具体的には顧傑を倒した手柄をUSNAに譲渡する代わりに、夜永が私怨を完遂させ、尚且つUSNAに私たちの存在を認識させたり」

達也「私怨?」

雪乃「真夜に聞いて」

と、雪乃は最後に返答して去って行ってしまった

彼女の功績は偉大なものである

ついでに真夜から詳しい話を聞けるのだから、これ以上彼女の時間を貰う理由は見つからない


だが、最後に

深雪は一つ、訊いていた

深雪「ぁ.....歩夢の、容態はどうですか?」

雪乃「相変わらずよ」

相も変わらず、病院のベッドの上で寝ている

容態に進歩があったのかどうかは分からない

しかし雪乃の口ぶりからして、容態に変化は無く、未だに身体の完治に希望の光が見えない状態である

悪化していないだけマシだと喜ぶべきか

深雪「......治るといいですね」

達也「.......」

実妹から向けられた言葉に、達也は返答出来なかった


【安価です。コンマ1桁。夜永と顧傑について
奇数・0:本当に挨拶程度
偶数:少しだけ戦う
安価下。】

ほい


>>510 9:本当に挨拶程度】

崩壊したホテルと少人数の怪我人

そして一名も出なかった死者

その中途半端な結末となってしまったテロを引き起こした首謀者は、現場から東へ九キロ離れた小田原の、とある一軒家からその様子を視ていた

どうして、というのが終始の顧傑の感想だ

彼が見据えていたのはあくまでもホテルの外面

内面で何が起きていたのかは、何もわからなかった

予想とは真逆の結果に計画の変更を余儀無くされたが、とにかく今必要なのは情報である

あの中では誰が何をして、一般人を救助したのか

それを見つけない限りは、今後も自分の故郷を滅ぼした四葉への報復は叶わないと顧傑は考えた

だが今現場へ行くのはリスクが伴う

もちろん簡単にバレるようなヘマはしない

しかし念には念を入れて、憂い無しで計画を遂行させたいという願望が彼の足を現場とは真逆の方向へと運ばせた

────時間はある、焦る必要はない

自分に言い聞かせるように俯いて、目的も無しに一本道の人混みを早歩きで前へ前へと進んでいると、

「と、すみません」

人混みでは良くあること

自分がずっと俯いていたのなら、尚更に

女性と肩がぶつかった


ほんの一瞬の出来事だったので違和感も無く、再び一歩踏み出そうとしたその時、

顧傑「........!」

左腹部に突き刺さるのは、一本のククリナイフ

湾曲した刀身が深く刺さっており、至急、医者に見せる必要があると直感で気付いたほどである

こんなことをしたのは一人しか覚えがない

ついさっき肩がぶつかった女だ

顧傑は腹部のナイフを極力手で隠すようにし、自然を装って振り返った

あの女は、おそらくもう立ち去っているだろう

こんな人混みの中を立ち止まっているのは自分くらいだ

脅威は一つのみならず、二つも

ホテルで一般人を全員救出して見せた謎の人物と、殺気を感じさせずにそこそこの傷を負わせた女性

何より、素性がバレているのが危険だ

顧傑は足早にその場を立ち去る

その額には、うっすらと冷や汗が滲んでいた


【達也は十文字克人の指揮の下、一条将輝と共にテロの首謀者(顧傑)の無害化を真夜に依頼される。
ですが、顧傑は夜永が倒すというオチを目標にしたいので、
「達也さんは夜永さんの邪魔にならない程度に、働いて下さい。もちろん情報のサポートはします。もう既に夜永さんが顧傑に一矢報いていることですしね」
こんな雰囲気で、達也も十師族の付き合いと面目で駆り出されたという体にします。

安価です。
1.2月5日(テロの日)、葉月とエリカ
2.2月6日、達也がエリカに呼び出される
安価下。】

2


>>513 達也がエリカに呼び出される】

ー2月6日ー

テロから一夜明けた今朝

生憎の小雨模様であるが達也は毎朝通り九重寺で日課をこなし、深雪と水波を伴って学校へ登校した

昇降口で二人と分かれ、教室へと向かう途中、

達也「エリカ、もう病気はいいのか?」

友人の姿を見つけ、達也は労いの言葉をかけた

彼女は昨日、一昨日と風邪で学校を休んでいたのだ

あまりにも師族会議とのタイミングが良すぎるような気もしたが、余計な詮索はするべきではないだろう

彼の友人としての台詞にエリカは、

エリカ「今、時間いい?」

病み上がりの雰囲気を一切感じさせず、至って真面目なトーンで達也を屋上近くの踊り場まで誘った

それほど重要な話だというのは、薄々感付いている

エリカと遭ったのだって、偶然ではなく、彼女が達也に話があったから待ち伏せしていたのだ


人気の無い踊り場まで移動するなり、エリカは達也の動揺させる一言を口にした

エリカ「歩夢に会ってきた」

達也「.....昨日と一昨日か?」

エリカ「えぇ。白いのに呼ばれてね」

『白いの』と言われても、すぐにピンときた

エリカは葉月の姓も名前も知らず、外見の印象で彼女のことをそう呼んでいるのだ

もし達也も『葉月』を知らなかった場合、『白』と呼称していただろう

達也「それで要件は何だったんだ?」

エリカ「自慢の刀を誰かに貸した。だから、歩夢を護る人が居ないとかで、アタシが呼ばれたの」

達也「あぁ....」

葉月の刀は雪乃が手にしていた

肌身離さず携帯している刀が無いだけで、葉月は恥を忍んで、顔見知りな知人に助けを求める

この情報は、達也にとって有益だった

もし彼女が達也の行く手を阻んだ場合、刀をどうにかしてしまえば、彼女は華奢な少女となる

問題はどうやって刀をどうにかするか、だが、それはまた別に機会に考えればいいと、ひとまず置いておくことにした

達也「それで、歩夢はどうだった?」

エリカ「目立った『異常』は見られなかったけど、口数が減っているのは確かだったわ。入学式の時より、よそよそしさを感じさせる、っていうか.....」

達也「.....そうか、わかった」

端的に可愛い表現をすれば、人見知りの状態

しかし現実は、達也や深雪が元旦に目にした時のような、友情に冷めた歩夢だろう

せめて歩夢の記憶を一方的に有している咲夜と話せれば、事の進展が見込めるかもしれない


エリカ「達也くんや深雪はまだ会いに行かない方がいいかもね。今は時間を置いた方が良いと思う」

達也「あぁ、しばらくは距離を取るよ。......また、なのかもしれないけどな」

遠距離恋愛の頃も、距離を取っていた

連絡もほぼ毎日から、しばしばに移り変わって行ったのも、今思えば歩夢が病気の事情を受け入れ始めたからだろうか

エリカ「この事を深雪には?」

達也「俺から伝えておく。家でゆっくりな」

こうして朝の呼び出しは終わった

わずか五分にも満たない時間で済まされた話は、達也を一層に迷わせ、考えを改めさせた

達也「(......顧傑の件が済んだら、夜永さんにも相談してみるか)」

咲夜と話すためには、夜永に頼るのが確実で、尚且つ葉月の監視網を潜れるかもしれない

一ヶ月続いた蟠りがようやくほんの少しだけ、解消へ向かって進展したような気がした


【この日の夜、達也と深雪は十文字家に呼ばれます。
そこに待っていたのは克人と真由美で、克人は顧傑の捜索の責任者兼名目上の指揮者で、真由美は七草智一(七草家の長男で、顧傑の捜索の指揮者)との情報の共有をするための連絡係です。
顧傑の捜索具合についての情報を交換するため、ほぼ毎日会うことを約束します。
安価です。コンマ1桁
奇数・0:達也・真由美
偶数:達也・深雪(もしかしたら水波も)
安価下。】

そい


>>517 6:達也・深雪】

深雪「エリカが歩夢に.....?」

達也「昨日と一昨日、会ってきたらしい。形式上では歩夢のボディーガードとして、葉月に依頼されてな」

十文字克人の呼び出しは、予定よりも早く済まされた

次に会うのが明後日の十八時、ひとまず魔法大学の正門前に集合となった

合流した後に、何処か情報の漏れない場所へ移動し、そこで情報交換をするのだと考えられる

真由美とも三ヶ月前に会ったばかりで、積もる話こそ多くは無かったが、話せないことはあった

歩夢との関係は、まだ伝えていない

彼女もまた、歩夢のことを良く知っている

もし協力して貰えれば、大きな力となるだろう

それこそ三ヶ月前の周公瑾の一件で、ついでとはいえ彼女には貸しがある

貸し借りを気にしないタイプだとは思うが、後押しの一手として、あの貸しは適応されるはずだ

まずは顧傑の件を解決してから

目の前の事件を解決されたら、協力を仰ごうと、達也は今晩の会合で決心した


深雪「それで歩夢の状態は?」

達也「病状については、雪乃さんが仰っていた通りだと思う。目立った印象という点では、口数が減っていた、とエリカは言っていた。余計な刺激を与えるのも避けた方が良いかもしれない」

深雪「そう....ですか」

余計な刺激とは、会いに行ったり、だろう

門前払いなのは目に見えているが、もし葉月が通してくれた場合、歩夢にどんな影響を与えるか分からない

信頼関係がズタズタになっている現状、達也の言う通り余計な動きは避けた方が良いはずだ

深雪「それで、どうなさいますか? ずっとこのまま、とはいきませんよね」

達也「顧傑の件が終わったら、夜永さんを通して咲夜と話してみる。歩夢があれから何を考えているのかを知っているからな」

深雪「一方的に記憶を共有しているのは大きいですね。わたしたちが接触を試みたこともバレませんし」

達也「それと、七草先輩にも声をかけてみる。俺たちの知らない歩夢を先輩は知っている」

周公瑾の一件の際に、達也と真由美は一対一での話し合いの機会を設けた経験がある

そのときに言われたのが、歩夢が中学三年生の秋に起きた出来事について達也は知っているかどうか

その情報もまた、武器になるかもしれない

しかしその出来事については本人に聞けと言われてしまった以上、咲夜に聞くしかないだろう

その他の情報を真由美に聞き出す計画を達也は企む


達也「全てが思い通りにはいかないだろう。だが、もう後戻りは出来ない。時間を巻き戻すなんてことは、そうそう出来たことじゃないからな」

深雪「......すみません、わたしの所為で」

達也「咄嗟の事だった。俺が聞きたいことを深雪が聞いて、こうなったんだ。仕方がない。今は目の前のことに集中して、落ち着いたら歩夢と────」

一拍置いて、達也は続けて口にした

達也「友人になろう」

決して他人事ではないとはいえ、先走ってこんな結末を迎え入れた元凶は自分にある

しかし彼はこんなにも心身に、寄り添ってくれている

深雪は、達也を敬愛ではなく愛している理由を、改めて苦しいほどに認識させられた


【箱根のホテルで起きた事件では、死体に爆弾を運ばせるという手段を顧傑は用いていました。
このことについて、千葉寿一(横浜事変のときに出てきた刑事さん)と部下の稲垣は死霊魔術の専門家を探していたところ、情報提供してくれたのが藤林響子です。
彼女はこれから千葉寿一らが会いに行く『人形師』と呼ばれる近江円磨(おうみ かずきよ)は死体を操り人形に変える禁断の魔法を使うと噂されていることを伝えます。
また、近江円磨は大漢出身の魔法師(顧傑)と浅からぬ交流があることも伝えます。

安価です。
1.2月8日、真由美と達也(二人きりです)
2.2月11日、一条将輝が第一高校に一時的に編入
安価下。】

2


【2月8日に、千葉寿一と部下の稲垣は人形師と呼ばれる近江円磨と面会し、死霊術について尋ねます。

>>521
2.2月11日、一条将輝が一時的に第一高校に編入】

ー2月11日・月曜日ー

いつものように深雪と水波の三人で登校した達也は、教室に向かう途中、校内が妙にざわついているのを感じた

一人の魔法師によって『魔法師』への世論が大きく変わるような結末は免れたが、それでも魔法師の卵は自分らが糾弾されるのを恐れ、浮き足立っている印象が先週は感じられた

しかし今は、不安と同等な好奇心が存在している

リーナが留学してきた日の雰囲気に、とても似ていた

それは二年E組の教室も例外ではなく、

美月「おはようございます」

達也「おはよう、美月。皆、落ち着かないようだが、何かあったのか?」

朝の挨拶を返しながら、達也は彼女が何か知っていない訊ねる

美月「私もハッキリしたことは知らないんですけど......何でも三高の一条さんが当校に来ているようですよ」

達也「一条が?」

大声を上げこそしなかったものの、達也も驚きを禁じえない話だった

将輝が東京に来ているというだけなら、驚くには値しない

彼が克人の下でテロリストの捜索に当たるという話を達也は真夜から聞いていた

そのために学校を長期欠席してしばらくこちらに住むというのも予測可能圏内の話だ


しかし、それだけなら一高に来る必要はない

一高のある八王子は同じ東京都内とはいえ、十文字家の屋敷からは遠く離れている

克人が籍を置いている魔法大学があるのは練馬で、これも決して近くはない

何かのついでに一高に立ち寄るというのも考え難い

達也「美月は誰からその話を聞いたんだ?」

エリカ「あたし」

答えは達也の背後から返ってきた

達也「エリカは、見たのか?」

エリカ「ううん。教頭に連れられて校長室に入ってくところを見た、っていう子が居ただけ。複数人の目撃者が居るから、間違いないと思う」

達也「校長室か......」

まさか、という懸念を達也は抱く

達也「(ややこしいことにならなければいいんだが)」

真夜から、師族会議で話し合われた内容を聞いている

限りなく遺伝子の近い従兄妹同士の婚約に意義が唱えられ、一条将輝にアプローチのチャンスが与えられたことを達也と深雪は知っている

深雪は迷惑そうな表情で他家事に意義を申し立てるのはマナーがなってない、などと主張したが、それはあえなく消え去った

自分と達也の『恋人愛』と『兄妹愛』が今更揺らぐことは無いと確信しているが、迷惑なのには変わり無い

それに、自分は人から恋人を奪っているのだ

彼女のためにも筋を通さなければならない

と、同時刻二年A組で深雪は感じていた

「皆さんご存知の通り、一条くんは第三高校の生徒ですが、この度お家の事情により一ヶ月ほど東京で生活することになりました」

しかし表にその感情を出すわけにはいかない

深雪は、心の中でため息を吐きながら、彼を歓迎した


【安価です。
1.下校時刻、達也・深雪・将輝が真由美と克人の待ち合わせ場所へ。
2.会合終了後、達也と将輝
3.2月14日へ
安価下。】


>>524 1.下校時刻、達也・深雪・将輝が真由美・克人との待ち合わせ場所へ】

その日の放課後、達也は二年A組の教室を訪れた

深雪「お兄様、お迎えに来てくださったのですか?」

彼の接近を敏く感じ取った深雪が、廊下に出て達也を出迎える

生徒会室へ行くのに達也が深雪を迎えに来るのは、その逆に比べれば珍しいことだった

達也「ああ。一条に話しておくこともあったからな」

しかし達也の回答は、深雪を少しがっかりさせるものだった

深雪「一条さんですか? 分かりました。お呼びしますね」

だからといって、彼女はそれを態度に表すような真似はしない

深雪は笑顔で身を翻し、教室の中に戻っていく

その場に立ち尽くすこと十秒足らず

深雪が将輝を連れて、達也のもとに戻ってきた

将輝「それで、何の用だ?」

達也「任務の件で、十文字先輩がミーティングを開くことを伝えておきたくてな。ミーティングといっても十文字先輩と七草先輩との情報交換なんだが、来るか?」

将輝「そうだな....。差し支えなければ、参加させて貰おう」

一瞬の考え込む様子が彼にはあったが、決断は早く、その会に参加させて貰える側としての旨を伝えた

捜索にあたって意思の疎通と情報の共有は必要不可欠

彼が悩んだのは、一高生と一高卒業生のミーティングに三高生の自分が加わると雰囲気を乱してしまうかと懸念したが、今はそんなことを気にしている場合ではない、と思い直したのだった


達也「今日のミーティングは十八時からだ。俺たちは生徒会の仕事があるから生徒会室へ行くが、一条は先に店へ行くか?」

将輝「いや、部活の見学や図書館で時間を潰してる。仕事が終わり次第、連絡してくれ」

会話が一段落つくと、達也は深雪を伴って生徒会室へ赴いてしまった

その二人の仲睦まじい後姿を将輝は、見て見ぬフリをすることに苦しんだ

気が付けば姿が見えなくなるまで

恋敵を打ち破るのは難しい、と

年頃の男らしく、恋に悩む姿勢を見せた


【この日のミーティングは挨拶で終わります。

顧傑の始末の任務を遂行中のUSAN軍、ベンジャミン・カノープスは顧傑を公海上に誘導し、始末しようと企みます。
2月12日、顧傑の情報を掴んだ黒羽亜夜子・文弥・達也は殲滅に赴くが、上記の通りベンジャミン・カノープスの企みに反するため、USNA軍が妨害し、見事に顧傑に逃げられます。

安価です。
1.2月14日、夜永・達也・深雪
2.2月17日、千葉寿和が...
安価下。】

1


>>527 1.2月14日、夜永・達也・深雪
深雪は出てこないです、申し訳ありません。】

夜永「今日は何の日か。達也くんは知ってる?」

達也「煮干しの日です」

夜永「ふふ、そうだね。煮干しの日。そう言うんじゃないかと思って、きちんと煮干し買ってきたよ」

ガサガサと鞄の中身を漁る夜永を見て、言い繕った虚言を撤回し、世界的な記念日を提言した

達也「バレンタインデー、でもありますね」

正直に答えた達也に夜永はクスッと笑みを浮かべ、

夜永「チョコレートは貰った?」

達也「えぇ、まぁ」

夜永「欲しい?」

達也「頂けるのなら」

夜永「意地っ張りな姉妹と違って、正直で嬉しいよ」

と言って、夜永は鞄の中から小包を差し出す

まだ開けていないので確かなことは言えないが、少なくとも煮干しではないようで達也は安堵した

達也「ありがとうございます」

夜永「お礼よりも、今食べて欲しいな」

昨年、同じような台詞を七草真由美から言われている

あの時はカカオ100%の苦いチョコレートだったか

苦い記憶を鮮明に蘇らせながら、丁寧に包みを剥くと、そこには思い出として記憶に刻まれていたフォンダンショコラだ


達也「......これは?」

夜永「達也くんにとっては残念かもしれないけれど、咲夜からのプレゼントよ。あくまで今は幼馴染の関係として、貴方に。大抵の事はそつなくこなせる咲夜が唯一苦手な料理に着手して、歩夢さんの記憶を頼りに作った物だから、感想を聞かせてあげたいの」

達也「そういうことなら」

包みの中にはプラスチック製の小さなフォークが付属していたため、食器を取りに行く必要がない

達也はその場で、咲夜の手製のプレゼントを味わった

達也「美味しいです。あの時に食べた物と全く同じ、とはいきませんが」

決してあの時と比べて美味しいだとか不味いのではなく、独断で多少のアレンジを加えたのだろう

個性が際立っていて、咲夜らしいと思った

達也「夜永さんが手伝ったんですか?」

夜永「ううん、手伝ったのは葉月だよ。と言っても、冷蔵庫からチョコレートを取り出したりする程度の事だけどね。最近の歩夢さんの身体の調子は良いみたいだから」

達也「回復の兆し、とはまた別ですよね」

夜永「残念ながら、ね。千葉エリカさんの来訪が良い刺激になったみたい。私としては『お友達』を呼んで貰いたいところだけれど、それに嫉妬してしまう人が居るから」

達也「......」

夜永「とにかく今は目の前のことに集中して。歩夢さんと『お友達』になるのはその後。深雪さんとも話し合って、その結論が出たんでしょう?」

お正月に会って以来、一切の面識が無かったはずにも関わらずプライベートな部分まで知られていることに達也は今更驚かなかった

達也はテーブルに置かれたカップを手に取り、苦いコーヒーで喉を潤し、一度思考のリセットを試みる

見透かされている『怖れ』を綺麗さっぱり忘れ、

達也「それで今日のご用件は?」

学校帰りを見計らって三人の前に現れた夜永に、達也は重要かと思われる用件を問い質した

深雪と水波の現状は二階の部屋で待機

夜永が達也と二人きりで話したいと申し出たのだった


夜永「強いて言えば、真夜さんが来月に沖縄で行われる慰霊祭に参加して欲しいみたいなことを話していたことを教えてあげようかと思って」

達也「それは四葉としての仕事ですか?」

夜永「うん、政府側へのアピールだね。ただ、それはあくまでもついでのお仕事。本当のお仕事はまた別にあるっぽいよ。私は知らないけど」

達也「深雪も一緒にでしょうか?」

夜永「本当のお仕事は貴方向け。慰霊祭については、四葉家次期当主である深雪さんがメインかな。まぁ、居るだけで良いと思うよ。参加することに意味があるんだから」

あれから五年の月日が経った今、慰霊祭には何かの縁があるのかもしれない

兄妹にとって、姉同然の接してくれたあの人の眠る場所に訪れるのも良い機会だろう

夜永「それに卒業旅行のシーズンだしね。もしかしたら卒業旅行に行く先輩方とも会えるかもしれないし、貴方たちにとっても進級祝いで良いでしょう? 遊んできなよ、たまにはさ。息抜きも大切だよ」

ポジティブ志向な後押しもあり、達也は仕事を兼ねて沖縄に遊びに行くという思考になりつつあった

仕事を終わらせて、若干トラウマな過去を払拭し、節目を迎えるごとに旅行を計画すれば妹は喜ぶはずだ

夜永「あ、でもでも。北海道も良いところだよ。沖縄だけを贔屓にしないでね。旅行を計画する際には、是非北海道を! 昔の伝手を使って安くするよ」

達也「随分と北海道の肩を持ちますね」

夜永「咲夜が好きなところだからね。美味しい食べ物もたくさんあるし、綺麗な場所もたくさんあるし。ね、進級祝いに北海道行かない? 四葉の仕事なんてどうでもいいよ。歩夢さんも葉月も説得して連れて行くからさ」

達也「沖縄の仕事はどうするんですか?」

夜永「私が言えば真夜さんも雪乃さんもやってくれるよ。すこーし脅せばいいだけだもんね」

達也「魅力的な提案ですがお断りします」

確かに夜永の力があれば自分たちは晴れて北海道に行くことも難しくないだろう

しかし帰宅後、叔母から何を言われるか分からない


体裁上の母となった真夜は少し馴れ馴れしいのだ

決してそれが不愉快ではないが、以前とのギャップに達也はどのように接すればいいのかを考えさせられる

そろそろ実母に相談しに行くのが吉だろうか

達也「顧傑の件が終わったら、母に会いに行かせて貰ってもよろしいですか?」

夜永「いいよ、深夜さんも貴方達に話があるみたいだしね。具体的には歩夢さんについて」

達也「わかりました」

貴方達に水波が含まれているのかは少し怪しいところだが、深雪は含まれているはずだ

母としてのアドバイスは参考にする価値が十分にある

夜永「プレゼントもあるそうだよ。お楽しみに。多分、チョコレートの期待はしない方が良いと思う」

達也「プレゼント......」

夜永「それも歩夢さんに関係あるもの。私は知ってる。知りたい?」

達也「何を要求されるか分からないので、いいです」

夜永「大したことじゃないよ」

と、夜永はおもむろに立ち上がった

細い女性らしい右手の指先を達也の額に触れ、

夜永「妹を傷つけたら承知しない。それだけを誓って貰いたいの。私の生徒や知り合いを傷つけるのは事情次第なら許す。けど、妹を傷つけるのは何が理由でも許さない。そこに、傷ついたという事実があるなら」

気が付けば夜永の右目は碧色に輝いており、さっきまでの雰囲気とは真逆な殺気が溢れ出ていた

達也は背中に嫌な汗が湧くのを感じて、頷いた

すると夜永はにっこりと笑って、改めて鞄をガサガサと漁り始めた

今度は何が出てくるんだ、と疑問を持つ達也は、次の瞬間には強張った表情をしていた

夜永「自分の言葉には責任を持とうね」

バレンタインデーのプレゼントは、煮干だった


【安価です。
1.夜永・達也 (継続)
2.夜永・深雪
3.夜永・水波
4.2月18日
安価下。】

1


【訂正です。

夜永「強いて言えば、真夜さんが来月に沖縄で行われる慰霊祭に参加して欲しいみたいなことを話していたことを教えてあげようかと思って」

達也「それは四葉としての仕事ですか?」

夜永「うん、政府側へのアピールだね。ただ、それはあくまでもついでのお仕事。本当のお仕事はまた別にあるっぽいよ。私は知らないけど」

達也「深雪も一緒にでしょうか?」

夜永「本当のお仕事は貴方向け。慰霊祭については、四葉家次期当主である深雪さんがメインかな。まぁ、居るだけで良いと思うよ。参加することに意味があるんだから」

あれから五年の月日が経った今、慰霊祭には何かの縁があるのかもしれない


達也らが参加するのはお彼岸の法要と夏に開催される慰霊祭の打ち合わせでした。
来月、沖縄で慰霊祭は行われません。】


>>532 1.夜永・達也】

しぶしぶ煮干しを受け取った達也は神妙そうな表情をしながら、『宣言』の対価を要求した

達也「それで、プレゼントとは?」

夜永「婚姻届。達也くんと歩夢さんが記入したやつ」

達也「......どちらが偽物だったんですか?」

夜永「役所に届けるのは正式なもの。まぁ、私が模写したものを出しても何の問題も無いけれど、やっぱりその辺りは雰囲気というか名目を大事にしたいものだと思って」

ここで深夜が夜永に婚姻届の模写を依頼したことを達也は悟り、尚更、今直面している仕事を片付け、実母に会いに行かなければならなくなった

達也「顧傑の方はどうなっていますか?」

夜永「ここまでは計画通りだし、これからも計画通りだよ。ひたすら決められたレールの上を歩くだけ」

達也「段取りを教えて戴けると非常に助かるのですが」

夜永「若いうちは迷いなさい。私はいいの。ほら、私って過去でたくさんの時間を過ごしてきたから。年齢こそ十九だけれど、経験した時間で言うと貴方達のお母さんと同じくらいだし」

達也「迷った結果、レールから外れるような行動をするかもしれませんよ」

夜永「それはそれで歓迎だよ。達也くんが私の想像を超えて、一回り成長したっていうことだから。イレギュラーな事態には私が経験を活かして対応する。幸い、私の教えで成長した教え子に頼れることだしね」

つい最近の顧傑を逃してしまった出来事も含めて、すべて夜永の想像の範疇だったらしい

この人が想像の出来ないイレギュラーな事態

単純な好奇心で、疑問に思う


達也「もし俺が夜永さんにチョコレートを要求したら、驚きますか?」

夜永「驚きません」

達也「もし俺が夜永さんに求婚したら驚きますか?」

夜永「驚くっていうか、ちょっと軽蔑するかも。ただでさえ今は不安定な蟠りを抱えてるんだから、私に求婚するのは深雪さんとの婚約を取り下げて、なおかつ歩夢さんに好きな人が出来たって伝えに行くくらいのことはして貰わないと」

眼前で一切の笑みを崩さない彼女に対して、達也がただならぬ感情を抱いているのは確かである

彼女も霜月の血を引いており、その影響力が災いして感情の錠が外れているせいで

友人達に感じる個性ではなく、達也は瓊々木夜永には恋愛にまでは発展しない程度の魅力を感じていた

夜永「私が驚きそうなシリーズはお終い?」

達也「何をしても無駄みたいなので」

夜永「そう。賢明というか、やっぱり正直だね」

ふふ、と余裕そうに笑う夜永の驚いた表情を観れるのは、やはり先になりそうだ

と、達也は心の底で思った


【安価です。
1.夜永と深雪
2.夜永と水波
3.先に進む
安価下。』

1


>>536 1.夜永と深雪】

一通りの話が済まされると、夜永の話し相手は達也から深雪へとバトンが回された

どこか緊張気味な深雪が夜永の正面に座ると、なんだか面談をされているような感覚に陥る

深雪「あ、あの......」

夜永「ん、なに?」

深雪「お兄様とどのようなお話をされていたのか、差し支えが無ければ教えて頂けないでしょうか」

夜永「終始煮干しのお話....かなぁ」

深雪「煮干し?」

夜永「2月14日は煮干しの日だって達也くんが言うから。咲夜からはチョコレートを。私からはお望み通り煮干しをプレゼントしたわ」

呆気に取られている深雪を他所に、続けて夜永が深雪に一つの質問を投げかけた

夜永「ねぇ深雪さん。目標や目的、希望なんてものは貴女にあるのかしら?」

深雪「仰っている意味は少し解釈し辛いですが、将来の夢とかでしょうか? それなら────」

夜永「あぁ、ううん。そういう話はいいの。将来の夢じゃなくって、近い未来の目標。今年中にあの料理を上手に作れるようになりたい、とか。今年度はもう少しで終わっちゃうから、今年いっぱいで。それと歩夢さんに関することは無しで」

そう言われて、深雪は少しの間考え込んだ

やりたいことは沢山あるし、上達したいことも気が遠くなるほど沢山ある


しかしそれは長い人生の間に出来れば良いことであって、今年中にやりたいこととなると、

深雪「来年度からは高校三年生ですし、今まで通り努力を怠らず勉学や魔法に励むこと.....ですね」

夜永「......学生の本分は勉強であるけれど、同時に遊ぶことが出来るのも学生の特権だよ。と言っても、例えば雪乃さん辺りの年齢の方々が街中で可愛い雑貨を見つけても可愛いと言えなくなるように、年齢に見合った遊びが今ならではって意味ね」

深雪「年齢に見合った遊び......」

夜永「ちなみに私は、今では立派な大人に成長した生徒とお酒を飲むこと。まぁ、特にあの三人はお酒に弱いらしいから程々にね。一晩を通して、甘酸っぱい思い出で彼女たちを虐めるのが今から楽しみでならないわ」

深雪「お酒.....いいですね。昔は先生であった夜永さんだけが飲めたのでしょうか?」

夜永「うん、貴女たちはまだ未成年だからお酒はダメだよって何度注意したことか。気が付けばその立場も真逆になっていて、感慨深いものがあるわね」

あと一ヶ月に迫った誕生日を迎えても自分は17歳で、お酒を飲める成人には一歩届かない

深雪「(年齢に見合った今だから出来ること......)」

学業は真っ向から否定されてしまったので、残るのはやはり誘導されたように『遊び』に限られる

夜永「まぁ、そこまで思いつめなくてもいいけどね。学業へ心身に取り組むことを否定した私が言えたことじゃないけど、小刻みな目標を立てないと人生に疲れちゃうよ。問題集も厚いのじゃなくって、薄いのをやったほうが効果的なようにね。まずは目先の小さなことから。本格的に本家で仕事をするとなると、貴女は今とは真逆なくらいに狭く苦しい生活を強いられることになるんだと思う。貴女の選択によっては何千、何万人もの人が路頭に迷う可能性だってあるんだから」

深雪「.....余計、思いつめるようになりました」

夜永「うーんと、だから何万もの人を路頭に迷わせないためにも何かをする。何かをする前にアレをして、これをして。逆算していくと良いと思うよ。最後には今だからこそ出来ることに辿り着くはずだから。今だから親友と遊べる、とかね」

その言葉を聞いて、深雪は開き直った

あまり深く考えすぎず、大雑把な回答を

深雪「遊びます。友達とたくさん」

夜永「その暁には深夜さんにしてあげて。あの人は素直じゃないから中途半端な反応を見せるだろうけど、きっと心の中では喜んでいるはずだから」

深雪「はい!」

近頃の思い詰めて何所か暗かった深雪の表情は、夜永の誘導により多少は明るくなったのだった


【安価です。
1.夜永と水波
2.話を進める
安価下。】

1


>>540 1.夜永と水波】

夜永「今だからこそ念を押しておくけど、貴女の役目は司波深雪さんを護ること。それはいい?」

水波「はい。心得ております」

夜永「なら話は早いんだけどね」

一呼吸置いて、真っ直ぐこちらを見つめてくる水波にプレッシャーを与えるように、夜永は話した

夜永「一週間前のテロ以降、反魔法主義団体の活動が活発になり始めているわ。今までは抑制されていた反感が顧傑の煽りによって爆発した感じかな。それで近頃、反魔法主義者は魔法科高校に通う生徒を襲う計画を企てているみたい」

水波「深雪様が四葉の次期当主として名乗りを上げたから、より一層に狙われる心配がある......でしょうか」

夜永「その辺りは五分五分かな。あえて避けてくるかもしれないし、執拗に狙ってくるかもしれない」

水波「でも、相手は人間主義者ですよね? 魔法を糾弾するということは、私たちに利があるはずです」

夜永「もし襲われたら魔法で撃退しても構わないわ。貴女たちの帰路の大半は路上に設置された監視カメラでカバーされているから、自己防衛を主張するのも容易でしょうし。でも、問題はここからなのよ。つまり私たちの敵と判断される団体の間でアンティナイトが流通しているみたいなの」

水波「アンティナイト......!」

夜永「魔法を使えない魔法師はただの人間。ようやく同じ土俵に立たされる訳だけど、もちろん人間主義者らは武装してくるはずよ。特に拳銃なんて使われたら一溜まりも無いわね。と言うことで、これ」

夜永は水波に小さな機械を手渡した


受け取った水波は首を傾げつつ、

水波「ボイスレコーダー......?」

夜永「もし襲われて、尚且つアンティナイトを使われたらそれを使って。それに入ってるのは人が不快に感じる音。いわゆるモスキート音みたいなものだよ」

水波「大人に効くのでしょうか?」

夜永「すこーしだけ私が改良してあるから。年齢問わず、近くに居る耳に障害を持ってない普通の人間なら、みんな耳を塞いで蹲ると思うよ」

つまり諸刃の剣で、ボイスレコーダーを携帯している自分には特段な被害が被られる

主人である深雪も同様に不快な思いをするはずであるが、それで敵を麻痺させることが出来るのなら、あとは警察が到着するまで堪えるだけだ

夜永「まぁ、帰り道は気を付けてね。深夜さん譲りの深雪さんの直感を頼っていつもと違う道で帰宅するのも手段としては有効なはずだよ。もちろん達也くんが側に居るのならそんなことを気にする必要は無いと思うけど、子供より先を見据えて万が一に備えるのが大人としての────今では、せいぜい貴女たちよりも幾つか年上のお姉さんとしての特権だから」

教師として在ったのは今から三十年以上も昔の事で、相手が水波や達也、深雪には先生としての立場より年上のお姉さんという立場の方がずっと親しみがあった

子供の扱い────特に今の水波ぐらいの年頃の子供への扱いには慣れて居ることもあり、顔の様子を伺いがちな水波の視線にも気付いてやんわりと受け答えしているのも功を奏し、水波はほっと胸を撫で下ろした

信頼の出来る人物という認識がグレードアップし、絶対に彼女は自分を裏切らない優しいお姉さんとなる

夜永「(.....なんだかすごい懐かれちゃったわね)」

明るい愛想を振りまく水波に、夜永は心の中で複雑な感情を抱いていた


決して慕われることが嫌だとか、彼女が本来慕うべき人物は主人である深雪だと強要するつもりも無い

ここまで妹以外の他人に慕われたのが初めてだったことに、夜永は戸惑いを感じていたのだ

受け持った生徒は皆、自分のことを有能だと認めつつも、どこか馬鹿にしているような生意気な態度を取る人物ばかりだった

若い感性で惹かれあった教師と生徒の関係は垣根を超えて、同年代の友人のような状況を作り出していたが、水波は素直に夜永のことを尊敬して敬う姿勢を崩すことがない

夜永「(......まぁ、こういうのも悪くないわね)」

あの時とは相手も状況も、立場も違うのだ

これはこれで、経験に新たな経験が一つ追加された

満更でもない笑顔で、水波のことを歩夢と同じ親戚の妹のような目で見てしまう夜永だった


【安価です。
2月17日、簡潔に言いますと千葉寿和が殺されます(精神的な死亡のようなもの)。
1.助ける
2.助けない
安価下。】

1

>>544 1.助ける

安価です。コンマ1桁
奇数・0:夜永が助ける
偶数:葉月が助ける
安価下。】

ほい


>>546 0:夜永が助ける
2月17日、稲垣(千葉寿和の部下)が行方不明になり、千葉寿和はエリカや千葉家の門下生に聞き回ると、鎌倉で姿を目撃したという情報を得て、千葉寿和は鎌倉にある『人形師』の館を訪れます。】

ー2月17日ー

寿和が玄関に足を踏み入れると、自動的に照明が点る

こういうギミックも窓がほとんど無い住居も、今では珍しいと言うほどではない

寿和は靴を履いたまま、廊下の奥を進んだ

丈の長い詰め襟の服を着た白髪の老人が廊下の奥で彼を待ち構えていた

外見から推測されう年齢は五十代後半から六十代前半

髪の毛こそ真っ白だが、黒い肌に小皺以上の皺やひび割れ、たるみ、シミは見られない

肌の色と顔立ちから見て、インドシナ半島の出身か、と寿和は思った

いずれにしても『人形師』こと近江円磨ではない

老人「近江先生はただ今外出中ですが、警察の方がいらしたらお通しするようにと言われております」

その老人は英語訛りが感じられる日本語でそう言いながら頭を下げた

寿和「失礼ですが貴方は?」

寿和は気勢が削がれていくのを自覚しながら、尋ねる


老人「私は近江先生の古い友人でグエンと申します」

やはりベトナム系か、と寿和は思った

ただし偽名でなければ、とも

グエン「お知り合いの方はこちらです」

寿和「稲垣のことですか?」

勢いは失っても、緊張感は無くしていない

寿和は警戒心を顔に出さないよう注意しながらグエンと名乗った老人に訪ねた

グエン「稲垣さん。おお、そうですね。近江先生も稲垣さんと言っていました」

老人は寿和を先導しながら、背中を向けたまま答えた

老人が扉を開くと、寿和の目に横たわる稲垣の姿が飛び込んできた

ベッドの上で弱々しく、苦しげに息をついている

寿和「稲垣!」

寿和は部屋の中に駆け込もうとして、それが老人に背中を向けることになると咄嗟に気づき思い止まった

老人は寿和の不自然な挙動を気にした様子もなく、稲垣が寝ているベッドの脇に進んだ

寿和は老人と稲垣を同時に視界に収めるようにして、その隣へ歩み寄った

寿和「これは一体どういうことですか?」

老人の顔を見下ろしながら、怒気を隠せぬ語調で問う


グエン「お友達は呪(カース)を受けていらっしゃる」

寿和「かーす?」

グエン「失礼。何者かの呪術の所為で生命力を奪われているということです」

寿和「呪術だって.....?」

寿和が当惑したのは、それが意外だったからではない

寿和は稲垣が『人形師』から魔法よる攻撃を受けていると考えていた

だがこの状況は『人形師』が稲垣を治療しているようではないか

グエン「近江先生はお友達が倒れていたところを見つけて、この屋敷に運び入れ呪術を緩和する応急処置w施しました。その所為で連絡できなかったのです。電話も呪(カース)の通りになってしまいますから」

一応、老人の言葉は筋が通っているような気がする

しかし、それが真実だという証拠は全く無い

単に辻褄だけを合わせているとしか寿和には聞こえなかった

しかし、こちらに何の敵対姿勢も見せていない相手に手荒な真似はしにくい

取り敢えず車に戻って応援を呼ぼうと考えた

しかし彼は、その決断を行動に移せなかった

稲垣「けい.....」

インターホンの音が屋敷中に鳴り響いた

稲垣の弱々しい声は相殺され、寿和の意識は衰弱している稲垣よりもインターホンを鳴らした人物の方に向く


寿和「近江円磨.....ではありませんよね」

グエン「.....何方でしょうか」

家の留守を任されたグエンにも心当たりが無い様子から察するに、予定に無い客のようだ

こうして二人が立ち止まっている間にも、インターホンは数度鳴らされる

寿和「.....どうして出ないんですか?」

稲垣に背を向け、寿和はグエンを睨みつける

右手は愛刀を握っており、もしグエンが変な素振りを見せれば一閃されることだろう

グエン「少々お時間をいただきます」

グエンは寿和に背を向けて、一歩、二歩と部屋の出入り口へと向かった

寿和は決して前方にだけは警戒を怠らず、しかしその警戒が仇となった

後方のベッドに寝ていた稲垣の右手が寿和の左手を掴んだのだ

最初は実に弱々しいものだったが、次の瞬間には万力の強さで寿和の手首を締め上げていた

寿和の心が驚愕に覆われる

ここまで衰弱した────死者と見間違うほど精気が失せた状態で、こんな力が出せるはずがなかった

稲垣の左手が布団の下から跳ね上がる

その手には圧力注射器のような物が握られている

反射的に、寿和は刀を持った右手で稲垣の左手を防いだ

なんとか稲垣からの攻撃は防げたが、これでグエンに向いていた警戒は全て解けてしまう


寿和「────ッ!」

スタンガンのようなものを握った手が寿和に迫ると、

グエン「!」

寿和「.....!」

二人は時間差がありながらも、非常に僅差の時間差で部屋の異常に気がつく

二人の視界に入る壁がドロッと溶け出したのだ

まるでセメントに戻ったかのように、柔らかく、そのコンクリートの壁は下がり、隣の部屋と繋がった

グエン「お前は.....!」

その瞬間を境に、グエンの意識が隣の部屋でCADを構えていた女に向く

二週間ほど前に、わざと自分にぶつかり、一切の殺気を感じさせずに自分にナイフを突き刺した通り魔であると一瞬で理解した

寿和は何が起こったのかを理解するのに少しの時間を要したが稲垣の手を振りほどき、グエンの手に握られていたスタンガンをはたき落とす

それから一歩でグエンの後方に回り込み、突如として現れた女と寿和でグエンを挟み込んだ

女「今殺すつもりは無いわ。逃げたいのなら、どうぞご自由に」

グエン「.....お前は何者だ?」

女「そちらの刑事さんが血眼になって貴方を殺そうとするかもしれない。まだ色々と企んでいる計画があるのなら、ここは退くのが身の為だと私は思います」

グエンの質問に答えず、女はグエンが退くよう促した

一秒に満たない時間をおいて、グエンは背後に警戒を怠らずその場を後にする


惨めな老人を碧色の右目で捉えながら、女は釘のような長細い鉄製の針を衰弱している稲垣の身体に打ち込んだ

それは電気を纏っており、身体に電気を流し込まれた稲垣は麻痺状態になりベッドに固定される

寿和「な、......」

女「藤林響子さんの魔法ね。被雷針って言うみたいだけど....まぁそんなことはどうでもよくって。その人、もう既に亡くなっています。ただし『人形』のように操られているから......せめて貴方の手で殺してあげて下さい」

寿和「......」

さっき腕を掴まれた時、稲垣からはただならぬ握力と瘴気のようなものを感じ取った

間違いなく彼はもう既に亡くなっていて、『人形』のように操られていると助言してくれた彼女は正しい

寿和が稲垣が近づく中で、女は目を逸らした

後ろを振り向いて、上司が部下を殺す光景を視界に入れず、事が終えるのを待った


【グエン=顧傑(グ・ジー)です。】



寿和「お礼は....何と言って良いのか」

女「私がしたのは所詮、善良なる一般市民をお守りする警察の真似事です。救える命は救う。ただそれだけで、それ以上でもそれ以下でもありません」

寿和「そ、そうですか.....。それで、何かでお礼をしたいのですが、.....あ、お住まいはこの辺りですか? もしよろしければ送っていきますが」

女「部下の方はよろしいのですか?」

寿和「えぇ、今は地元の警察に任せます。明日辺りにでも弔ってやろうかな、と」

女「.....東京のアイネ・ブリーゼという喫茶店までお願いします。人と待ち合わせをしていて」

「分かりました」と寿和は頷き、女性を車に乗せる

アイネ・ブリーゼとは、確か妹が行きつけにいている喫茶店だったはずだと寿和は気付いた

また、第一高校の生徒である妹が行きつけにしているのなら、第一高校付近にあるのだろうと推測する

心の奥底にモヤモヤとした何かを抱えたまま、第一高校を目標に車を走らせる

車内で、女は夜永と名乗った

姓は名乗らず、ただそれだけを

問い質せば教えてくれるかもしれないが、そこまで気にする必要は無いだろう

彼女は命の恩人であり、部下の後始末という一生に一度の機会を譲ってくれたのだ

最低限のお礼として、邪険には扱えない


寿和「えっと......失礼ですがご職業は?」

夜永「医者です」

寿和「.....! 見たところ、かなりお若いようですが」

夜永「五十代目前ですよ」

寿和「え....」

夜永「ふふ。五十代目前と同等の経験と知識を積んだ十九歳です。御宅の妹さんの二つ上ですね」

寿和「あ、あぁ....博学とかそういう.....。って、うちの妹のことを知っているんですか?」

夜永「えぇ。家族がお世話になっていますから。聞くところによると、貴方にもお世話になったようですが」

その話を聞いて、思い当たる節は幾つかある

横浜事変の時、妹の友達数人と顔を合わせたはずだ

こんな偶然もあるのだと感じていると、夜永の方からその話を掘り下げられる

夜永「君影歩夢。随分とお世話になったそうで」

寿和「......親戚か何かでしょうか」

夜永「妹のような存在です」

妹のような存在を一時的に拘束してしまった自分は、恩人に圧力をかけられても仕方がない

正義のためにやったとはいえ、心苦しいものがある


寿和「あれ、でも、彼女。去年の二月だか三月に急に指名手配が解除されていましたね。上からの圧力が当時は噂されていましたが」

夜永「四葉の圧力です」

寿和「なっ....!」

夜永「四葉真夜の息子である司波達也の婚約者でしたからね。もちろん死体が幻術によって作られた偽物であることを見抜けなかった警察の落ち度を揉み消す意味も絡んでいたようですけど」

寿和「そ、そんなことが.....」

短い間に知らされる情報に寿和は参ったという表情をして、冤罪による逮捕を申し訳なく思う

今取り掛かっている事件が終わり次第、お詫びに行くことを前向きに検討するのであった

夜永「......」

高速で移り変わる外の景色を右目で捉えつつ、右目は未だに顧傑の追跡を続けている

「ふぅ」と息を吐いて、目を閉じた

次に目を開けた時にはコンタクトの下は左目同様の色に戻っており、右目には外の景色が写っていた


ーアイネ・ブリーゼー

エリカ「ん、あれ。兄貴? あ、また違う女.....じゃなくって、その人、教育実習生の」

寿和「エリカ、人聞きの悪いことを....って、どうしてエリカがここに居るんだ? それに教育実習生.....?」

エリカ「誰かに呼び出されたのよ。.....そういえばパラサイトが学校に侵入した時も、貴女は何かしてたわね。達也くんと何かをして、追い払ってたし.....」

寿和とエリカの怪訝そうな視線は夜永に向けられた

夜永「詳しいお話は中で」

恩人の言う事に逆らえない寿和は夜永の後に続き、その様子を伺っていたエリカは小さなため息を吐いてから入店した

店内で幾つかの注文を終えると、鎌倉での事の顛末をエリカに全て打ち明けた

すると複雑な表情をしたエリカは夜永を外に連れ出し、

エリカ「.....ありがとうございました」

頭を下げて、お礼を言った

血こそ繋がっていない異母の兄だが、それでもそこそこ仲良くはしていて、もし彼が亡くなったと聞けば、しばらく自室に引きこもる程度のことはしただろう

あれでも大切な兄には違いない

心の底から、夜永に感謝の言葉を告げた


エリカ「それでお礼は.....」

夜永「お礼、してくれるの?」

エリカ「あまり高い物は難しいかもしれませんが、出来る限りの事はします。人の命を救って貰ったんですから、当然です」

夜永「じゃあ一つ忘れて欲しいことがあるんだけど、いいかな? ほんの些細な事なんだけどね」

エリカ「パラサイトの時のですか?」

夜永「ううん、二週間くらい前に真っ白な髪をした女の子に頭を下げられたでしょう? そのことを忘れて欲しいの」

エリカ「ぇ、あの白いの...あぁ、白い髪をした方とお知り合いですか? 随分と親しい間柄のような言い振りですが」

夜永「妹みたいな存在だよ。これ以上の詮索は家庭の事情だから避けて頂くとして、あの子が頭を下げるなんてよっぽどで恥ずかしい思いをしたかもしれないからさ。忘れてくれると嬉しいなー、なんて」

エリカ「そ、それくらいなら....はい」

人の命を救って貰った対価として要求されたのは、あの偉そうにする白髪の少女が頭を下げた瞬間の記憶を抹消することであった

完全に抹消とまではいかないが、少なくとも再び彼女と合間見えた際にこの話を持ち出さないように気をつける事は十分に可能だ

夜永「それと。ここからは私の個人的なお願いなんだけど、千葉エリカさんの戦闘力を高く評価して、人を護って欲しいんだけどいいかな?」

予想外のお礼の要求に、エリカは困惑する

人を護る経験は何度か経験があり、つい最近の出来事だと京都で友人を護った経緯がある

しかしプロほどの活躍が出来るかどうかと聞かれれば微妙なところで、確かな実績のある彼女がその役目を全うした方が効率的かつ確実だと進言する

夜永「私が出掛けている間、貴女にお願いしたいの。護って欲しい人は一人。普段は他の人が常に一緒に居てくれているから安全なんだけど、その日はちょっとした総力戦みたいになりそうだから」

エリカ「そ、それで...その人って.....」

次の夜永の一言にエリカは意表を突かれたように硬直したが、その依頼を二重の意味で断れるはずもなく、了承した


【安価です。
1.深雪たちが反魔法主義者に襲われる
2.1を飛ばして顧傑を討伐する話
安価下。】

>>558 2.1を飛ばして顧傑を倒す。
例によって、深雪・水波・泉美が反魔法主義団体数十数人に襲われます。アンティナイトにより危機を悟った三名でしたが、水波は夜永から貰っていたICレコーダーの中身を使用して、顧傑が潜伏していた場所の捜査に出向いていた達也が到着するまで時間を稼ぎます。

ー2月18日ー

深雪「み、水波ちゃん、なに...この音.....!」

水波「っ.....」

諸刃の剣とは、その名の通りだった

黒板を爪で引っ掻くような音の強化版が周囲に広まると、敵味方関係無しに全員が耳を塞いだ

当事者である水波もあまりの不快音に耐え切れず咄嗟に両手で耳を塞いでしまい、『それ』は地面に落とされ、音をオフにするには音を聴かなければならない

人とはリスクを防止したくなる生き物であることから、水波が取った行動はただ一つだった

革靴でICレコーダーを軽く蹴ると、反魔法主義団体の方に転がった

距離が離れたことにより幾分か音が聞こえにくくなったとはいえ、それでも両耳は塞いだままである

反魔法A「こ、こっちにやるな!」

地面を滑ってきた害悪な『それ』から最も近かった男が蹴り返すと、『それ』は再び水波の近くへ

水波「や、やめてくださいっ.....!」

蹴り返すと、また蹴り返され

途方も無い茶番を続けていると、


達也が登場し、反魔法主義団体の十数名は無力化され、警察に引き渡すことになります。
深雪たちが襲われたことを鑑みて、第一高校は翌日から23日まで臨時休校とし、他の魔法科高校も同じように休校とします。

達也「(それにしてもこの音......何かに使えるかもしれないな)」

翌朝、少し如何わしい(?)ことをして、達也の『眼』が良くなり(視力的な問題ではなく)、顧傑の居場所を突き止めます。
そのまま九重寺に行き、九重八雲に協力を要請すると彼は快諾し、一緒に顧傑を捕らえることになります。
達也は十文字克人らに顧傑の潜伏場所を話し、早速、部隊の展開を開始します。
また、USNAは既に顧傑の潜伏場所を突き止めており、達也らよりも早くに部隊の展開をしていました。

達也らの目的:顧傑を捕まえたい
USNAの目的:顧傑を殺したい

USNAは達也らよりも先に顧傑を追い詰めようと、頑張ります。】


顧傑の車を追いかけていた克人が、後方の不審なワゴン車に気付いたのは、グレネードが発車された後だった

四台に分乗した追跡部隊の最後尾にいたのが、部隊全体にとっては幸いだったと言えるだろう

克人の魔法障壁は、次々と襲いかかるグレネードを寄せ付けなかった

克人「七草殿、最早一般市民を気に掛けている段階ではありません」

克人は一台先を行く智一を通信機で呼び出して告げた

克人「後ろの不審車は私が何とかします。顧傑を拘束して下さい」

智一『分かりました。十文字殿、お任せします』

智一との通信が切れるのと同時に、克人は運転手に「止まれ」と命じた

彼が乗っていた車の運転手は七草家の従う魔法師だった

十文字家の配下でも、克人の部下でもない

だが運転手は克人の声を聞くなり考える間も無くブレーキを踏んでいた

克人がドアを開けて道路に降り立つ

後方から砲撃を行なっていたワゴン車も車体の側面を見せて止まっていた

窓から突き出される砲口の向こうに人影が無かったことに、克人が気づいたかどうか

克人が右手を前に突き出した

発射に伴う音も閃光も無く飛来したグレネードが、空中に張り巡らされた対物耐熱障壁に阻まれ燃え尽きる


【克人はこの後、顧傑の部下を倒しつつその場を智一に任せ、顧傑を追います】


バイクに乗った達也と将輝は、二台のセダンを引き連れて相模川河口の新港に到着した

セダンにはそれぞれ五人の魔法師が乗っている

一騎当千で知られる十文字家、その配下にある十名の戦闘魔法師

戦力としては充分だ

達也と将輝は並んでバイクを駐め、港の入り口に立った

堤防に囲まれた新港には四艘の漁船が停泊していた

いずれも沿岸用の小型船だ

将輝「沖で乗り換えるだろうか」

達也「その可能性はある」

将輝の独り言じみた疑問の言葉に対し、達也は律儀に答えを返した

それが将輝には意外で、少し照れくさかったのかもしれない

将輝「司波、顧傑の位置は分かるか?」

彼は些かぶっきらぼうな口調で達也に問いかけた

達也「こちらに向かっている」

それを一々指摘するほど、達也は物好きではなかった

将輝「予想通りか」

彼らをこの場に向かわせた克人と智一は正しかった


【この後、顧傑を乗せた車は達也や将輝が待機する場所へ向かう途中で西へ進路を変え、それに気付いた達也は将輝を連れて追いかけようとしますが、原作ではその行く手を傀儡となった千葉寿和が阻みます】


達也と将輝の行く手を阻んだのは傀儡だった

精気を失い、何処と無く瘴気を感じさせる『それ』は正に人形のようだった

達也「十師族会議の時に出現したパペット・テロと同じ原理のようだな。一条、」

「どうする」と言いかけたところで、

上空から襲来によって傀儡とされた人間が一閃される

達也「.....!」

刀を携え、そこに現れたのは千葉寿和だった

きちんとした面識こそ無いが、昨年度の論文コンペの際に横浜で一目見ている

どうして彼がここに居るのかは、問うまでもなかった

何かの経緯があって、彼はここに居る

寿和は達也と将輝に背を向け、傀儡の勢を見据えて、

寿和「ここは俺に任せて、先に行ってくれ」

それは殉死を示唆する発言だった

しかし彼がどの程度の実力者なのかは、今更見極める必要が無い

この大勢を相手にしても、せいぜい擦り傷が良いところだろう

達也「お任せします」

そう言って達也は将輝を一瞥し、走り出した

一瞬遅れて将輝は寿和の視界に入ってないことを承知で、軽く頭を下げて、彼の武運を祈って達也の続く

寿和「あぁ、そうだ。君の知り合いに『夜永』って人が居ると思うんだが、もし会ったら伝えておいてくれ! これだけで恩を返せたとは思っていない。俺でよければいつでも手を貸す。例え、仕事で殺人犯を追跡している真っ最中だとしても、と」

達也「────分かりました」

彼が夜永にどんな恩があるのかは分からない

ただ一つ確かな事は、自分の知らない場所で彼女は舞台を整えているという事実だけだ


今回もまた、外堀を埋めたのだろう

顧傑を自らの手で殺すために、寿和に恩を植え込んだ

このタイミングで自分と将輝が傀儡に襲われることを計算に入れ、更にそこに寿和が手助けに来る

ならば一体、自分は何をやるのが正解なのか

様々な行動が脳裏に浮かぶ

ただ前に突き進むのか

寿和の言葉を無視してこの場の敵を殲滅するのか

それとも待機、後退か

自分はあの人に何を求められているのだろか

何をすると計算されているのか

達也「(いや、考えても無駄だな)」

一秒に満たない思考を棄て、達也は走った

こう考えていることも計算の内なのだろう

これから自分が何をするのかは自分で決める

それが結果的に、夜永の計算の内に必然として成る

何をしても彼女の『計算外』には成らない

達也「(最初から分かっている結果に、何も感じない)」

自分は大吉のおみくじを引くと知っている

テストを受ける前から自分が取れる点数を知っている

これから誰が何をするのかが予想の通りに行われる

────感情に錠を付けられた自分でも分かる

これほどつまらない人生は他に無いだろう

全てが予想通りにいく人生に退屈を感じる

自分よりもよっぽど『可哀想』な才能を持っていることに、達也は『同情』した

これも彼女が霜月の人間であるからなのだろう

友人にする同情とは違い、心の底から

心底、彼女を惻隠した


【安価です。コンマ1桁
奇数:達也・将輝
偶数:夜永・雪乃
0:エリカ・歩夢
安価下。】

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