勇者「勇者パーティーの独立を決心した」 (34)

勇者「……もううんざりだ」

女魔法使い「ホントね、王様の命令であちこち引っぱりまわされて……」

女僧侶「自分の時間も満足に持てませんものね」

戦士「オレもせっかく家族ができたのに、一家団らんの時間もねえや」

勇者「…………」

勇者「決断する時が来たのかもしれないな」



ここで彼ら勇者パーティーのこれまでの経緯について紹介しよう。

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ことの始まりは10年前――

遥か昔に倒された、魔王が復活したことから始まった。



魔王「フハハハハハ……! 人間どもよ、我が魔族の糧となるがよい!」



魔王軍は人間たちに対して苛烈な攻撃を加え、全世界を恐怖に陥れた。

しかし、人間側も魔王の侵攻を指をくわえて見ているわけではなかった。

ある王国の国王が“勇者育成計画”を開始したのである。



国王「才能のある若者を集め、魔王打倒のための秘密兵器として育成するのだ!」

騎士団長「かしこまりました!」



プロジェクトを命じられた騎士団長は、みごとにこれをやってのけた。

勇者、戦士、女魔法使い、女僧侶の四人を育て上げ、魔王討伐へ向かわせたのである。



騎士団長「我々が不甲斐ないせいで、お前たちに人類の命運を託すことになってしまった」

騎士団長「どうか、頼む!」

勇者「必ず魔王を倒してみせますよ、団長さん!」

戦士「任せとけ!」

女魔法使い「この時のために訓練してきたんだから!」

女僧侶「そのとおりです!」

そして――



勇者「だあああああっ!」

ザシュゥッ!

魔王「ぐはっ! こんな……バカな……ッ!」



死闘の末、ついに勇者たちは魔王を打ち倒した。

彼らは名実どもに人類のヒーローとなったのである。

国王は当然ながら彼らを特別な待遇で迎えた。



国王「勇者たちよ。これからも勇者パーティーとして私を助けてくれ」

勇者「もちろんです、陛下。これからもバリバリ働かせていただきます」

戦士「オレたち四人はいつも一緒だ!」

女魔法使い「なんたって、みんなに愛されてるんだものね」

女僧侶「これからも力を合わせて頑張りましょう!」



ところが――

勇者たちのスケジュールは多忙を極めた。



ほぼ毎日のように国内外を飛び回り、魔王討伐の冒険譚を語らされる。

式典・祭典の類には必ず呼び出され、

時には他国との会談の場に出席させられることもあった。

むろん、剣や魔法の指導も引き受けさせられた。



自由な時間などまるでなく、彼らの疲労とストレスは蓄積する一方であった。

そんなある日、彼らの育ての親ともいえる騎士団長から重要な話を聞かされることとなる。



騎士団長「ずいぶんと疲れているようだな」

勇者「はい……なにしろ、休む暇もなくて……」

騎士団長「すまん……。まさかこんなことになってしまうとは」

騎士団長「陛下はお前たちを政治の道具として扱っている節がある」

騎士団長「私も陛下には諫言を繰り返しているのだが、聞く耳を持って下さらず」

騎士団長「それどころか、私を煙たがるようになってきた」

勇者「だったらもう、口出しはしない方がいいです」

勇者「下手をすると、あなたが騎士団を辞めさせられてしまいますよ」

騎士団長「……いや」

騎士団長「私はこれ以上、陛下のやり方にはついていけない」

騎士団長「よって騎士団を辞め、私設戦士団を作り独立するつもりでいる」

勇者「なんですって!?」

戦士「本当か!?」

騎士団長「こんなこと冗談でいえるものか」

騎士団長「騎士団の中にも私に賛同してくれている者がある程度いる」

騎士団長「そして、陛下の呪縛から逃れ、自由な立場で国の治安を守ろうと思ってる」

勇者「なら俺たちも――」

騎士団長「待った」

騎士団長「もし私についてくるのなら、お前たちの生活も大きく変わることになる」

騎士団長「四人でよく話し合ってから決めて欲しい」

勇者「……分かりました」



四人は勇者パーティーとして活動を続けながらも、騎士団長の独立話に乗るかを話し合い、

ついに――

勇者「…………」

勇者「決断する時が来たのかもしれないな」

勇者「よし、決めた!」

勇者「俺たち四人は、団長さんについていこう! 独立しよう!」

勇者「団長さんとともに、“勇者”ではない自由な立場からこの国を守ることにしよう!」

戦士「そうだな!」

女魔法使い「決まりね!」

女僧侶「これでやっと、この辛い生活が終わるんですね……」

自分たちの決断を伝えるべく、騎士団長宅を訪ねる四人。



勇者「団長さん、答えが決まりました」

騎士団長「そうか……四人とも、入ってくれ」

騎士団長「今、私の妻子は買い物に出かけてるからちょうどいい」

勇者「お邪魔します」

騎士団長「答えを――聞かせてもらおうか」

勇者「はい」

勇者「俺たちはあなたに――」



ワァァァ…… ワァァァ……



勇者「……なんだ?」

女魔法使い「大変! この家が兵士たちに取り囲まれてるわ!」

女僧侶「どうも私たちの行動は筒抜けだったみたいです!」

勇者「なんだって!?」

勇者たちが外へ出ると、そこには国王がいた。



国王「ここまでだ、騎士団長」

国王「勇者たちをそそのかし、自分の戦力にしようとは……これは立派な反逆だ」

騎士団長「くっ……」

勇者「陛下! 団長さんは我々のことを考えて――」

国王「おっと、君たちもおかしな真似はよしたまえ」

国王「君たちの大好きな騎士団長の家族の生命が危ぶまれることになる」

女魔法使い「買い物に出ていたところを捕えたのね!」

女僧侶「なんて汚い……!」

国王「君ら勇者パーティーはもはや我が国にとってなくてはならない存在だ」

国王「国家存亡の危機になりふりかまっていられるものかね」

国王「君が密告してくれたおかげで助かったよ……戦士君」

戦士「へへっ、どうも!」

勇者「戦士!? 密告って、どういうことだ!?」

女魔法使い「あたしたちを裏切ったの!?」

女僧侶「どうして……!」

戦士「おいおい、オレには家族がいるんだぞ?」

戦士「私設戦士団? そんなバクチみてえな道を歩めるわけねーだろ!」

戦士「オレは陛下のために働くぜ! 今までも、そしてこれからもな!」

国王「――というわけだ。君たちもこれ以上、ことを荒立てたくまい。降参したまえ」

勇者「……そうします」



こうして騎士団長と勇者パーティーの独立計画は、はかなく消えた。

国王「さっそくだが勇者よ、君たちにはしてもらわねばならないことがある」

勇者「なんでしょう?」

国王「実は、君たちが私のもとから独立したがっていたり解散するかもしれぬと……」

国王「国民の間で噂になっていてね」

国王「皆、非常に不安がっておるのだ」

国王「だから勇者パーティーは独立も解散もせぬと、国民の前で謝罪をしてもらおう」

勇者「……はい」

勇者パーティーの謝罪は、その日のうちに行われた。





ワイワイ…… ガヤガヤ……





大勢の国民が見守る中、勇者パーティーの四人がその前に出る。

戦士「今日は王国暦136年1月18日だ」

戦士「オレたち勇者パーティーのことで国中を騒がせてしまった」

戦士「そして、大勢の方々に心配と迷惑をかけちまった」

戦士「このままだと勇者パーティーが空中分解になりかねない状態だと思ったので」

戦士「今日はオレら四人がしっかり顔を揃えて、みんなに報告すべきと思い」

戦士「このような時間をいただくことができた!」

女魔法使い「このたびはあたしたちのことでお騒がせして、本当に申し訳なかったわ」

女魔法使い「みんなと一緒にまた今日から笑顔を作っていきたいと思うわ」

女魔法使い「あたしはみんなに夢を与える魔法使いとして、再出発するわ」

女魔法使い「これからもよろしくお願いします」

勇者「今回の件で勇者パーティーが国民の皆さんに支えられているということを」

勇者「改めて強く感じました」

勇者「本当に申し訳ありませんでした。これからもよろしくお願い致します」

勇者「…………」ハァ…

女僧侶「このような報告する場を設けていただき、本当に感謝しています」

女僧侶「今回、国王陛下に謝罪する機会を戦士さんが作って下さり」

女僧侶「今、私たちはここに立てています」

女僧侶「私は勇者パーティー四人で集まれたことに心から安心しています」

戦士「これからオレたちは何があっても前を見て、ただ前を見て進みたいと思う!」

戦士「皆さん、どうぞよろしく!」バッ

勇者「…………」ペコッ

女魔法使い「…………」ペコッ

女僧侶「…………」ペコッ



ワァァァァァ…… パチパチパチ……

謝罪が終わり――



国王「分かったかね?」

勇者「!」

国王「“勇者”は自分の意志で勇者を辞めることは許されんのだ」ニィッ

勇者「とてもよく分かりました……」



この事件の後、騎士団長は権力と財産を全て没収された挙げ句国外追放となり、

勇者たちは相変わらず国王の手となり足となり活動を続けている。

……

……

……

側近「偉大なる魔王よ……魔族のため再来を果たしたまえ……」ゴゴゴ…

『いやだぁぁぁっ! もう私は復活したくないぃぃぃ!』

『安らかに眠らせておいてくれぇぇぇ!』

側近「ダメです。魔王様は魔族の希望なのですから」

側近「“魔王”は自分の意志で魔王を辞めることなど許されないのですよ」

『だれか助けてぇぇぇ……!』





おわり

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