エレン「同棲時代」(398)

エレンへ

毎日ごはんをきちんと食べていますか。

忙しさにかまけて昨日まで気付かなかったのですが、家の裏手は今一面の菜の花です。

開拓地にいた頃に食べたことがあるのを覚えていますか?

少し苦かったと記憶しています。

懐かしいです。

さて、突然ですがあなたがそこから出られる日が決まりました。

○月○日です。

前日にアルミンが必要なものを届けに行きます。

当日は私があなたを迎えに行きます。

みんなで一緒に迎えに行けないのは残念ですが、みんなあなたに会える日を心から待ちわびています。

お身体に気をつけて。

□月□日   ミカサ

およそ2年ぶりに太陽の光に全身をつつまれた。

まぶしい。

地下牢から出たばかりで足元がおぼつかない自分が情けない。

ミカサがオレの右手をつかんで少し前を歩いている。

地下牢に迎えにきたミカサは管轄の兵士に通り一遍の挨拶を済ますとすぐに建物からオレを連れ出した。

そして何かに急かされているかのように早足で歩き出した。

どこに向かっているのか、と訊ねると「あなたの家」とだけ返された。

それ以上何を話せば良いのかわからず黙ってミカサに手を引かれるまま歩いた。

無言のままミカサはどんどん進んでいく。

商店街を抜け、住宅地を抜け、ミカサは森へと入っていく。

周囲に民家など一軒もない、何もない森の奥にオレンジ色の屋根の家がひっそりと建っていた。

裏手に菜の花畑は無い。

「着いた」

「ここか」

「うん。エレン、ごめんなさい。私、早足で疲れたでしょう」

「いや……」

「まずは行水を……地下は埃っぽかったでしょう?あなたを迎えに行く前に一度ここに来てお湯を沸かしたからすぐに用意はできる」

「ああ」

「新しい服もタオルもあるし」

「ありがとう」

「うん。ごはんも用意してる」

「うん」

「じゃあ盥に水を……」

「盥ってこれだよな?」

「あ、エレン、私が……」

「これぐらいできる」

「……じゃあ私、お湯を持ってくる。エレンは適当に水を張ってて」

「おう」

お湯が冷めていないか確認してみる。

当然のことながら少しぬるくなっている。

大きなポットと大きなお鍋をもう一度火にかけた。

湯が沸くのを待ちながらエレンがポンプで井戸から水を汲み上げている音を聞く。

エレンが今、私のすぐ近くにいて水を汲み上げている。

それが信じられないくらい幸せに感じた。

2年前、巨人のこと、王族のこと、壁外のこと、色々なことにけりがついた。

もう戦う必要も無くなった。

平和な毎日がやっと戻ってくるのだと思った。

私もエレンも当時は兵団の宿舎に住んでいたけれど、家を探して一緒に宿舎を出ようなんて話をしていた。

本当に遠い昔のよう。

家が決まりかけた矢先、エレンが地下牢に収容されることが決まった。

エレンの能力、置かれている状況について賛否両論あるのは知っていた。

それでもこんなに酷いことになるとは思わなかった。

私達は楽観視しすぎていたのかもしれない。

エレンを一人の人間と捉える人よりもエレンを一個の兵器と考える人の方が多かった。

下手をすれば自分達の存在を脅かすかもしれない、けれど他の何物にも代え難い強力な兵器。

廃棄か、保存か、結論が出るまでの間、エレンは“物”として一時的に保管されていたのだ。

調査兵団の働きかけ、世論の変化、その他色々なことが影響してエレンの保存が決まった。

不本意ながら“物”としての保存だ。

だからエレンは一生兵団に属したままだし、最低限の監視もつく。

こんな森の奥の家に住まなければならないのもエレンが危険な兵器だとみなされているからだ。

それでも私はエレンが地下から出られて良かったと思っている。

エレンが日の光を浴びる権利は私達が戦って勝ち取った。

これからも状況はより良くなっていく。

そう信じている。

「ミカサー、お湯は?」

「あ、ちょっと待って」

「なんだよ。沸かしなおしてんのか」

「うん」

「でけえ鍋……」

「うん」

「もう、良いんじゃねえの?今日暖かいし」

「うん。運ぼう」グッ

「あ、待てよ。オレも」

「エレンはそっちのポット持ってきて」

「オレも鍋持つ」グイッ

「いや、エレンはポット」グイイッ

「おいっ」

「ポット持ってきて。今はまだ無理しないで」

「無理って何だよ」

「お鍋は体力が戻ったら持たせてあげる」

「ちぇー…お前が思ってるほど体力落ちてねえよ」

「本当?」

「たぶん」

「……」

「お前、手紙に色々書いてただろ。オレ真面目に読んでたんだぞ」

「そう。……手紙、届いてたんだ。きちんと」

「悪かったな。一通も返せなくて」

「あ、いや、そういうことを言ってるわけでは……」

「わかってるよ」

「うん」

「……ありがとな」

「うん」

オレが地下にいる間、ミカサは3日に一度は必ず手紙をよこした。

ミカサからの手紙にいつも日付が書かれていたからオレは日の光も届かず暦もない地下にいながら月日の経過を把握することができていた。

手紙はオレの手に届くときにはすでに開封され、中を確認されていた。

封筒に便箋以外のものは入っていないか、手紙の内容は適切か。

アルミンからの手紙はたまに一部の文字が切り抜かれていることがあって不安な気持ちにさせられた。

ミカサからの手紙は文字が切り抜かれていたことなど一度もなく、何でもないことばかり書いてあった。

“今日は雨が降りました”

“虹が出ました”

“髪を切りました”

“ごはんをきちんと食べていますか”

“身体のために日々の運動を欠かさないでください”

“明かり取りの窓はありますか。あるならできるだけ日の光を浴びてください”

“風邪に気をつけて”

“寒いです”

何度も読み返した。

手紙の要望にはできるだけ応えた。

可能な限り牢の中でも運動したし、出されたものは全て食べた。

たとえ死ぬまで会えなくても、返信できなくても、手紙には応えたかったのだ。

幸運にも生きているうちに再会できたが。

「あ、エレン。行水終わった?」

「おう」

「ふふ、おかえりなさい」モフッ

「うおっ」

「どうだった?すっきりした?」ワシャワシャ

「やめろよ。タオルあるって。体拭いたやつ」

「髪を濡らしたまま戻ってくるあなたがわるい」ワシャワシャ

「オレ自分でできるって」グイッ

「そう?」

「自分でできる」ワシャワシャ

「ふふふ」

「何だよ」ワシャワシャ

「何でもない。なんだか楽しくて」

「そうかよ」ワシャワシャ

「うん……」

「……」ワシャワシャ

「……」グス…

「あ、おい……」ワシャ…

「……」ギュッ

「お前、泣い」

「え、エレン」グスグス

「え、あ?」

「会えて……良かった」グスグス

「……そうだな」

「……」グスッグスッ

「……」ギュウッ

思わずミカサの身体を抱きしめた。

熱と弾力を持った身体が確かにオレの腕の中にある。

肩をふるわせて泣きながらオレの腕の中に。

身体を離して、顔を見て、何か言わなければ。

ミカサを泣き止ませなければ。

そう思うだけで身体を離すことはできなかった。

離したくない。

いっそうきつく抱きしめるとミカサもそれに応えるように身体を押しつけてきた。

ふいにミカサが顔をあげてオレを見た。

そのとき初めて自分も泣いていることに気がついた。

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「いちおうこの部屋があなたの寝室」

「こっちの隣の部屋は?」

「そっちは空き部屋になってるので好きに使って」

「へえ」

「何か質問ある?」

「……いや、別にないな」

「……エレン」

「ん?」

「今から少し歩ける?」

「え、ああ」

「じゃあ少し外に出よう。私の家の場所を教えておきたいし、買い物も……今日の夜みんなも来るって言っていたし」

「他の奴らも元気にしてたか?」

「うん。何人か兵団を辞めてしまったけれどみんな元気」

「そうか」

「うん」

「オレ、もう出られるけど」

「そう?じゃあ行こう」

「おう」

エレンと手をつないであたたかな春の日差しの中を進む。

手をつないだら嫌がられるかと思ったけれどエレンはおとなしく私についてきている。

今日だけ、今日だけは手を握っていたかった。

エレンをまたどこかに連れて行かれはしないかと不安だったから。

まず私の家に行った。

そこで一度休憩をしてお茶を飲んだ。

エレンにはたくさんのものを食べて、飲んでもらわなければならないと思う。

エレンは2年前よりも明らかに痩せてしまっている。

行水が終わってエレンの身体に触れて確信した。

たくさん食べさせなければと思い、お昼はお椀になみなみとスープをよそった。

よそってしまった後で、いきなりたくさん食べさせては体の負担になることに思い至った。

食べきれなかったら残して、と言うとエレンは少し笑った。

そしてゆっくりと全部食べた。

無理をさせただろうか。

お茶を飲み終わると家の裏手の菜の花畑を一緒に見た。

やわらかい表情で菜の花を眺めるエレンの目元は少し赤かった。

お昼の前に泣いたからだ。

菜の花を見た後、二人で商店街に向かった。

私の目元も赤いのだろうか。

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「エレン、次の休みはいつなの?」

「えっと……たしか8日後だ。と、思う」

「そう。なかなか一緒の日に休みにならない」

「そうか?」

「うん。そう」

「お、着いたぞ」

「あ、うん……じゃあ、また。また明日も行く」

「ああ。気をつけて帰れよ」

「ええ。エレンも」

「おう」

夏になった。

兵団に戻ってもう3ヶ月経つだろうか。

思っていたよりもすぐになじむことができた。

所属兵科は変わっていなかったし顔なじみが多かったせいもあるだろうと思う。

それに加えてミカサの存在が大きかった。

ほぼ毎日仕事終わりにオレの家に来てオレの世話をやいた。

地下から出されたばかりで何からどうやっていけばいいのかわからなかった時期もこまめにオレを構った。

いつしかミカサが来るのが普通になってしまった。

互いの家の中間地点にある木の下で毎晩別れてそれぞれの家に戻る。

木には今、白い花が咲いている。

何の木かは知らない。

ミカサに「もう来なくても良い」と言わなければならない。

いつもそう思う。

こいつはいつまでオレのもとに通う気なのだろう。

早くやめさせなければ。

一生兵団の監視下にあるオレに関わっていても仕方がない。

ミカサはミカサの人生を生きれば良い。

もう、来なくても良い。

その一言がいつも言えない。

今日こそエレンに「もう来るな」と言われるのではないかと毎日ハラハラしている。

嫌われてはいない、と思う。

でもなぜか「もう来るな」と言われそうな気がしている。

エレンの所に行けないなんて嫌。

絶対に嫌。

本当は別々の家に住んでいることだって嫌。

私はエレンが地下から出てきたら私の家に住むのだとばかり思っていた。

エレンと一緒に暮らしたい。

ずっと、一緒に暮らしたい。

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「なあミカサ」

「ん?」

「お前さ、ここに来ること以外に何かすることないのかよ」

「ない」

「…………」

「…………」

「…………」

「……エレンは何かしてみたいことがあるの?例えば、休みの日、なんかに」

「え……」

「ある?」

「そうだな……」

「ねえ、今度一緒に」ガタッ

バシャッ

「「あっ!」」

「あ、ご、ごめんなさい」

「いや、ほらふきん。ふきん」

「うん。ありがとう」フキフキ

「服は濡れてないか?」

「うん。大丈夫。こぼれたのが水だけで良かった」

「ああ」

「ふきんしぼってくる。エレン、スープのおかわりいる?」

「え、ああ」

「じゃあ、ついでに」

「いや、自分で注ぐよ」

「あ、そう」

「うん」

「美味しかった?」

「ああ」

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エレンは私をあの家から遠ざけようとしている。

今日一緒にごはんを食べていたあのとき、エレンは私にもう来るなと言いたかったのではないだろうか。

そんな気がする。

話をそらそうとあわてて口からでまかせに喋っていたら、あわてすぎて水をこぼしてしまった。

水をこぼしたのが幸いして話はうやむやになったけれど。

わざとではないけれど水をこぼして良かった。

エレンの家からいつもの木の所まで一緒に歩いている間も不安でハラハラしていた。

なぜだろう。

私の勘違いであってほしい。

不安でたまらない。

のどが腫れたみたいに苦しい。

気がつくと目に涙がたまっていた。

エレンは何を考えているのか。

エレンのことを思うと不安でじっとしていられなくなった。

コンコン

コンコン

「?……はい」

「エレン?」

「え、ミカサ?」

ガチャッ

「どうしたんだよ。忘れ物でも…」

「エレン」

「え」

「え、あの、エレン。私は、あなたの家族だと思う」

「は?」

「どうして、ど、なぜ別々の家に住まなきゃ…」

「いや、ちょっ、お前」

「この家に私が」

「は?ちょっと、ちょっと待てって」

「私が一緒に住んではいけない……?」

「いや……」

「え、エレ……」

「……」

「……」

「……入れよ」

「っ……」

「とりあえず……中に」

帰れ、と言うべきだった。

でも言えなかった。

家の中に入れてしまった。

玄関口でしどろもどろに話すミカサの身体が小刻みに震えているのがわかったからだ。

それだけじゃない。

オレがこいつを手放したくなかったからだ。

荷物を部屋に運び終え、借りた荷馬車を返すため再度家を出た。

ミカサには、オレ一人で行くから荷物の整理してろよ、と言ったが一緒に行くと言うので一緒に行った。

ついでに食糧の買い出しをし、帰る頃には夕日が沈みかかっていた。

夕暮れ時でも街中は人の熱気で蒸し暑く、ミカサの頬にも汗で髪がはり付いていた。

はりついている髪を指ではがしたくなる。

森に入り、家に近づくにつれ徐々に涼しくなった。

森の中で「涼しくなった」とミカサがオレの方を見て言ったが、その頃にはだいぶ暗くなっていて顔はよく見えなかった。

家に着いてからはオレが食事の支度をし、ミカサは部屋を片付けていた。

食事を終え、濡れたタオルで体の汗を拭い、オレは早くもベッドに寝ころんでいる。

寝ころんだまま隣の部屋の物音に耳をすます。

ミカサはまだごそごそとやっているみたいだ。

この家は壁が薄いな、と思った。

ミカサが今まで隣の部屋に布団と最低限の衣類くらいしか持ち込んでいなかったから、そのことに気付かなかったのかもしれない。

隣の部屋に背を向けて、今日一日を振り返る。

荷馬車で荷物を運んでいたとき、ミカサと取りとめのない話をした。

少し笑ってオレを見る黒い瞳に夏の濃い青空が映っているように見えた。

森の中でオレに話しかけたときも、あいつは同じように少し笑っていたのだろうか。

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「エレン、お待たせ」

「おう。じゃ、帰るか」

「うん、帰ろう。ねえ、エレン」

「ん?」

「今日のお風呂屋さん、なんだかお湯が熱くなかった?」

「え、そうか?」

「私の方だけ?」

「何かあんのかもな。釜の調子が良いとか悪いとか。よくわからんが」

「そうかも。ねえ、エレン」

「ん?」

「今日もまた曇ってる」

「ああ、最近天気悪いよな」

「聞いた話によると、晴れてたら今日はすごくたくさん星が見えるって」

「へえ。じゃあ残念だな」

「うん。残念」

暮らしが落ち着いてからは家で湯を沸かすよりも風呂屋に行くことの方が多くなっていた。

風呂屋に行くことについては兵団側からも何も言われなかった。

住む場所は定められていたが、その辺はどうでも良いのだろうか。

どこからが駄目なのかいまいち基準がわからないが、まあ良いのか。

兵団以外の場所に出ると興味本位で人が寄ってくるかと思ったが、誰もオレに興味を示さなかった。

というか、巨人になれる奴の顔をよく知っている人がいないようでもある。

辺りが暗いのも影響しているかもしれない。

風呂屋から帰るとだいたいオレもミカサも自分の部屋に直行してさっさと寝る。

いつも店仕舞い直前に行くので、家に着くともう寝る時間だった。

今日ももう寝ようかと思ったが、ふとミカサが星の話をしていたのを思い出した。

窓辺に立ちカーテンを少しずらす。

先ほどまで空を覆っていた雲が晴れ大量の星が見えた。

部屋の境の壁を見る。

あいつはもう寝ただろうか。

寝ていて起こしたとしても怒りはしないだろう。

それくらいすごい星だった。

森の中は周りが暗いのでよけいにすごく見えた。

ミカサを呼びに行くため部屋の扉に向かおうとしたところ、部屋の境の壁を叩く音が聞こえた。

続いて「エレン」と呼ぶ声も。

「エレン、起きてる?」

「起きてる。今お前の部屋に行こうと思ってた」

「星でしょう?」

「そう。それ」

「ねえ、エレン窓開けてみて。虫が入るから明かりは消して」

「明かりとかつけねえよ。星が見えなくなっちゃうだろ」

窓を開けるとミカサが隣の部屋の窓から顔を出しているのが見えた。

オレも顔を出す。

ミカサとどうでも良いようなことをぽつぽつと話しながら星を見た。

こいつは普段からどうでも良いことしか言わない。

あと、この家の壁はやっぱり薄い。

ここまで
話が進むの遅くてごめそ

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いってらっしゃい、と言ってエレンを送り出した。

いってらっしゃいは良い言葉だと思う。

帰ってくる人に向かって言う言葉だから。

エレンは日が暮れる頃には帰ってくる。

これはとても幸せなこと。

エレンが帰ってくるまでに洗濯をし、掃除をし、買い物に行き、食事を作る。

私は今日一日仕事が休みだ。

5日前はエレンが休みだった。

なかなか休みが一緒にならない。

いつもどちらかが休みの日に洗濯、掃除、買い物をまとめてすることになっている。

いつの間にか決まった約束だった。

ただし、下着は各自で洗っていたし、相手の部屋には入らないようにしていたけれど。

これもいつの間にか決まっていた約束だった。

洗濯は、ため込むとなかなか面倒だ。

今はまだ夏だから良いけれど冬になるともっと面倒だと思う。

絶対にすごく寒い。

お母さんやカルラおばさんみたいに、ため込むことなく家事をこなせれば良いのだろうけれどそうもいかない。

私達は2人揃って兵士だ。

仕方ない。

洗濯物はたまるし、食糧は買い貯めしなければならない。

洗濯が終わる頃には太陽が結構高いところに来ていた。

この家はなんとなく私の生家に似ている、と床を掃き清めながら思う。

誰も来ないような森の奥、周りには木しかない。

あの頃は自分の家が見えるところまでが世界の全てだった。

森は危ない所で、危険なものがひそんでいると教えられていた。

私は両親の言いつけを守り、家から離れずに過ごした。

人買いから身を守るためにそう教えられていたのかもしれないと今になって思う。

人買いが家に来ず、エレンが家を訪れていたら私達は友達になっていたのだろうか。

人買いなど、いなければ私はあの森の中を見ることもできたのかもしれない。

ふいに家の裏手の森に興味がわいた。

玄関の方は道がのび、町に続いているが、裏の森の中を進むとどこに出るのか。

掃除を早々に切り上げて探検してみることにした。

子供みたい。

探検なんて。

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ーー

「おかえりなさい、エレン」

「ただいまー」

「エレン、裏の森の奥に入ったことある?」

「え、無いけど」

「今度一緒に行こう」

「は?」

食事の用意をしながら次の休みはいつか、とミカサが尋ねる。

今日の昼頃に森を探検したのだと言う。

森の奥に「なんだか良い場所のような気がする」地点を発見したらしい。

何とも言えない評価だが、ミカサがその場所を気に入っているということはわかった。

表情に出ている。

2人の休日が同じ日になるのはほぼ一ヶ月後だった。

ちょうど秋が始まるくらいの時期だろうか。

その日、一緒にそこに行くことに決まった。

機嫌の良いミカサの顔を見ていると、シガンシナ区にいた頃のことを思い出す。

こいつをこのままこの家に留めていてはいけない。

常にそう思う。

巨人と少数民族の末裔。

お互いに立場が特殊すぎた。

それでもミカサはよそに嫁げばどうにかなりそうではある。

いつか絶対にこの家からミカサを嫁に出す。

そう思っていても、このままずっとシガンシナ区にいた頃のようにミカサと暮らしていたかった。

色々な問題を先送りにしていることがわかっていても今の生活が幸せすぎた。

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ーーー
ーー

「私が言ってた場所、ここ」

ミカサがオレを連れてきた場所は広々とした草原だった。

何の変哲もない。

が、なぜミカサがここを気に入ったのかわかった。

幼い頃2人でよく薪を拾った草原に雰囲気が似ていた。

昼食を持ってきていたので一緒に食べた。

「薪拾ってた場所に似てるよな、ここ」

エレンが言った。

私もそう思う。

生えている植物もこんな感じだった気がする。

薪を拾いに行くとエレンはサボって寝てしまうことがあった。

薪拾いに来ているのになぜ眠ろうとするのか、不思議だった。

そんなに眠りたかったのだろうか。

でも、エレンがサボって寝ていると寝顔観察ができてなんとなく楽しくもあった。

一度眉毛を撫でてみたことがある。

エレンは起きなかった。

睫毛をなぞると、不機嫌な顔をして、起きた。

この草原に2人でいると、シガンシナ区で一緒に暮らしていた頃のことを思い出す。

これからもずっとエレンと一緒に暮らしたい。

そうして奪われた時間を取り戻したいと思った。

草原の中、オレから少し離れたところをミカサがぷらぷらと歩いている。

時折しゃがみこんで草花をしげしげと観察し、たまにオレの方を見てくる。

そうしているミカサを見ていると、何度もシガンシナ区で一緒に暮らしていた頃の姿と重なった。

色んな意味でミカサを遠いところまで連れてきてしまった。

ミカサをオレと出会う前の普通の女の子に戻してやりたかった。

戻さなければならないと思った。

そのためにもこいつをオレのもとに留めておいてはいけない。

その思いが強く胸を締め付けた。

「エレン?」

「……え?」

「気分悪いの?なんだか表情が……」

「は?別になんともねえよ」

「本当に?」 

「本当だ」

「そう……でも」

「でも?」

「気分悪そうな顔してる」

「いや、元からこんな顔だろ」

「……そう」

各自のんびりした後、2人で食糧の買い出しのため町に出た。

エレンの顔色は悪くなく、体調に異常は無いようだった。

それでもいつもと何かが違う。

本当にいつもこんな表情をしていただろうか。

エレンを見ているとわけもわからず不安になった。

あの草原に連れて行ったのが良くなかったのだろうか。

故郷に似たところなんて見たくなかっただろうか。

それとも私が草原をふらふら歩き回っていたのが癇に障ったのだろうか。

エレンはそんなに短気じゃないと思う。

でも考えればいくらでも思い当たる節があるような気がした。

夕食の後、堪えきれず聞いてしまった。

「エレン怒ってる?」

「え、別に」

「あの草原、本当は行きたくなかった?」

「そんなことはないけど」

「……本当に?」

「何だよお前。そんなことねえって言ってるだろ」

「それなら、もし私がまた一緒に行こうと言ったら行ってくれる?」

「まあ、もう一回くらい行っても良いかもな」

「え……」

「あ?」

「それは……あと一回一緒に行ったら、もう一緒に行ってくれないの?」

「いや……そういうわけじゃ」

「……エレン、私は今日もこの家で眠る」

「まあ、そうだよな」

「エレンはそれが嫌?」

「は?別に嫌じゃねえよ」

「明日もこの家にいる」

「……いれば良いだろ」

「明後日も」

「……」

「ずっとこの家で暮らす」

「……いや……それは、ダメだろ」

「……なんで?」

「お前、どっかに嫁ぐだろ」

「どうして?そんなことしない」

「何でだよ。嫁げよ」

「どうして赤の他人と暮らさなきゃいけないの」

「いや、でも」

「エレンと私は家族でしょ?違う?」

「……子供でもできればお前のその考えも変わるんじゃねえの」

「……エレン、本気?」

エレンを居間に残したまま自分の部屋に入った。

扉の音が大きく響いたのでかなりの勢いをつけてしまっていたのだと思う。

子供の作り方を知ったのは訓練兵になってすぐのときだった。

最初の座学の時間がその説明にあてられた。

そのとき初めて、陰茎という普段おちんちんと呼んでいたものを、膣という私がそれまで存在に気付いてすらいなかった穴に挿入するという行為を知った。

その頃はまだ生理も始まっていなかったし、おちんちんからおしっこ以外のものが出てくることも知らなかった。

中におちんちんを入れたまま射精すると子供ができるのだそうだ。

そして、もし訓練兵の身分で子供をつくった者がいれば、罰を与えると言われた。

孕ませた男は一定期間の拘禁と罰金。

孕んだ女は兵団を追い出されて罰金。

ただし女の方は産んだ子供が入団して、きちんと卒業できればお金が少し戻ってくると言われた。

その話を聞いて私もエレンもアルミンも震え上がった。

私達には払えるお金なんて無かったし兵団を追い出されてしまったら行くところも無かった。

見知らぬ者と密室に入り込まないように、と3人で約束しあってその日は別れた。

そして同日の夜、女子訓練兵だけ抜き打ちの頭髪検査という名目で講堂に集められたのだった。

実際は頭髪検査など行われず、教えられたのは堕胎方法と避妊方法だった。

まず種々の堕胎方法を説かれた。

次に避妊方法の講義が始まった。

完璧な避妊法など存在しない、初めにそう言われた。

しかし、妊娠の確率を下げる方法はある。

逆に妊娠の確率を上げる方法も。

要は排卵日を避けろという話だった。

妊娠したいのなら排卵日前後になるべくたくさん性行為をしろと言われた。

男子訓練兵には教えなかったが生理前の数日間と生理中は妊娠の可能性が低くなる。

将来結婚して子供を作るとき、そして訓練兵であるのにどうしても性交を避けられない事態に陥ったとき、この知識を役立てるように。

ただし生理周期が狂うこともあるし、周期が狂っていなくても妊娠することはある。

「妊娠しない時期」など無く「妊娠しにくい時期」が存在するだけなのだ。

しかし男子訓練兵は「妊娠しにくい時期」を「妊娠しない時期」と捉えて安易に体を求める可能性が高い。

堕胎にしろ出産にしろ大きな負担を強いられるのは、女子だ。

男子は妊娠しないから深く考えずに興味本位で関係を持とうとする。

だから今日この場で得た知識は決して外に漏らさないように。

そう締めくくられ女子は宿舎に戻された。

私は今まで、この女子だけの秘密を誰にも話したことが無い。

エレンにも、アルミンにも。

妊娠しない時期など無く、妊娠しにくい時期があるだけだ。

エレンはこのことを知らない。

そして、私の体は今、妊娠しにくい時期のはずだった。

確実とは言えなくとも妊娠する可能性は、低いのだ……

ここまで
次からどんどんいかがわしくなっていくと思うから苦手な人はそっ閉じでよろしく

微笑まし羨ましい
少しずつ慣らしていくのエロいな……

エレンに触られたところが少しヒリヒリする。

でも朝起きたら私達は何事も無かったかのように一緒に食事をする。

何事も無かったかのように話す。

一緒に家を出て、各々帰宅する。

そして夕食をとる。

居間には魔法がかかっているようだと思う。

そこでは私もエレンも夜のことを忘れていられる。

少なくとも忘れているふりができる。

今日もまた、夜になる。

エレンの部屋の扉を叩き、返事を待たずに開いた。

「お前、勝手に入ってくんなよ」

「入っちゃ駄目だった?」

「駄目とは言わねえけど……」

「そう。良かった」

「……」

「では、下着を脱ぐ」

「……」

「エレン」

「あ?」

「……あの、脱いだのでベッドに」

「え、ああ……来いよ」

「うん」

「……」

「今日は自分でタオル持ってきた」

「……そうか」

「じゃあ、あの……お願い」

「わかってるよ」

「うん」

「……お前さ」

「ん?」

「この蝋燭部屋に持って帰らねえの」

「うん。部屋にもあるから大丈夫」

「そうか」

「……」

「……」

「……エレン」

「あ?」

「あの……どうしても、指でしなきゃ駄目なの?」 

「え……?」

「あ、変なこと聞いてごめんなさい。別に答えなくても」

「指だと痛かったか?」

「いえ、そういうわけでは……」

「じゃあ何だよ」

「何でもない」

「やっぱり痛かったんだろ?痛いなら言えって」

「違う」

「じゃあ何だよ。言ってみろよ」

「……私におちんちん入れるの嫌?」

「は……?」

「入れたくない?」

「それは……」

「だから指入れるの?嫌だから?」

「……いや、そんなんじゃねえだろ」

「じゃあ何?正直に言ってほしい」

「だって……お前、初めてだよな?」

「何が?」

「いや、誰かと……こういうことすんの」

「え?うん」

「だからお前の、慣れてねえから……いきなり入れたら……入らねえだろ」

「……そうなの?」

「まあ……たぶん」

「私、入らないの?」

「いや……今はな」

「……」

「……」

「……私が慣れてないから」

「え?」

「だからあんなにぬるぬるになるの?」

「は?」

「いつもお尻までぬるぬるする。それも慣れてないから?」

「は?え?それはお前、濡らさねえと入らねえだろ」

「……そうなの?」

「いや、そうじゃねえの。たぶん」

「エレンは……」

どうしてそんなことを知っているの?

思っただけで聞くことはできなかった。

私以上に私の体の仕組みを知っているなんて。

エレンは他の女の人と行為に及んだことがあるのだろうか。

誰と?

いつ?

お金を払ってそういった経験を出来る場所があることくらいは私も知っている。

エレンも行ったことがあるのだろうか。

知ったところで私にどうこう言う権利はないけれど。

私に触れるあの指を知っている人が他にもいるのかもしれない。

単純に、悲しい。

悲しい、悲しい、悲しい。

叶いそうもない夢だけれど仮に子供を産むとしたら私はエレン以外の人の子供は欲しくないと思っている。

でもエレンは違うのだろうか。

よくわからない。

夜のエレンは特にわからない。

私に触れてくれる。

きっと嫌われてはない。

でも私にこの家から出て行けと言う。

たぶん、そんなに好かれてもない。

じゃあどうして私に触れるの?

考えが堂々巡りになっていつも結論は出ない。

いつの間にエレンの知らない所がこんなに増えたんだろう。

エレンのことを一番知っているのは私だと思っていたのに。

エレンのことを誰よりも理解することができていれば、ずっと一緒にいられたのだろうか。

近いうちにエレンのそばにはいられなくなる。

その日までに何としてでもエレンの精液を体の中に入れておきたい。

これ以上ないくらいエレンのそばにいたことを体に記憶させたい。

こんなことを考えるのはおかしいだろうか。

きっと、おかしいと思う。

お母さんとお父さんみたいに恋をして、愛し合った人達に許されるべき行為を踏みにじっている。

この気持ちは、たぶん恋ではないと思う。

どういう気持ちなのか自分でもよくわからない。

でも家族としての情愛の域を越えていることは私にもわかっていた。

エレンは……と言ったきりミカサは喋るのをやめてしまった。

続きを話し始めるのを少しの間待ってみたが、口を開く気配が無いので昨日と同じように脚を開かせた。

先ほどの会話を思い返すと不安がよぎる。

ミカサは慣らすことも濡らすことも知らなかった。

確かに座学で習うようなことではない。

オレだって同期の話を聞きかじった程度しかわかってない。

座学の時間に見せられた図の中でオマケ程度にしか扱われていなかった陰核が実は性感帯だとか、そこはちんこみたいに皮が剥けるだとか、処女は痛がるとか血が出るかもとか……

ミカサもそのことは知っているのだろうか。

性行為の際に性器が濡れることも知らないこいつの言う避妊法は信じて良いのか。

ミカサがオレに嘘をつくとは思えない。

でもミカサ自身間違った知識を信じている可能性は大いにあり得る。

もし子供が出来てしまったら?

オレたちの子供なんて生まれてしまったらその子は確実に実験動物扱いされる。

オレもミカサも立場が特殊すぎる。

だからミカサをオレのもとにとどめておいてはいけない。

子供なんて作れるはずがない。

ミカサを信じられなければ、この関係をやめれば良い。

簡単な話だ。

そんなことはわかっている。

それなのにやめられない。

結局、自分の欲望に抗えない。

ミカサの体中に噛みついて歯形を付けたい。

いつからこいつをそんな風に思うようになったのか。

気がついたら離したくなくなっていた。

誰かが、オレを殴り殺してくれれば良いのに、と思った。

ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー

お昼、トイレに行くと生理が始まっていた。

今夜からしばらくエレンの部屋には行けない。

せっかく指を入れられるようになったのに、間が空いたらまた戻ってしまわないか不安。

昨夜、エレンには変な所を触られた。

変な所、といってもどこを触られたのか、はっきりとはわからない。

今まであんな感覚を味わったことがなかった。

そこに手を触れられるとお腹の筋肉が引きつって意図せず脚が少し浮いた。

エレンもびっくりして、痛かったか、と聞いた。

でも私は痛みを感じたわけではなかった。

だから首をぶんぶん横にふった。

エレンはもう一度そこに触れた。

痛みではない。

強いてこの感覚を表すなら「熱い」が一番近い気がする。

声を出すまいと口を押さえていたけれど、堪えきれずにむせた。

エレンはかなり困惑していた。

私も混乱した。

エレンはその場所に触れるのをやめて性器全体を揉むように撫でていた。

たぶん私に指を入れるかどうか迷っていたと思う。

しばらく撫でた後、私のぬるぬるした部分をなぞり、ゆっくりと指を入れてくれた。

入る瞬間がゾクッとくる。

入れられた後はかすかに異物感がある。

エレンの指に慣れればこの異物感も無くなるのだろうか。

「熱い」あの場所に触れられると何故か喉元と足の裏も熱くなった。

ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー

夜、隣の部屋からコツコツと壁を叩く音が聞こえた。

続いてオレの名を呼ぶ声も。

ミカサだ。

返事をすると「今日から何日かそっちに行けない」と言われた。

聞いた瞬間、心臓が早鐘を打ち始めた。

何でだ?

どうしてこの部屋に来られないんだ?

オレ、何かしたか?

黙っているとミカサがまたなにやら話し始めた。

「たぶん、ひと月近くそっちには行けないと思う」

「行けそうになったらまた連絡する」

「おやすみなさい」

ここで会話、というかミカサの一方的な発言は終わった。

ミカサは自分のベッドに入ったのだろう。

隣から物音はしない。

もう眠っただろうか。

オレはなかなか寝付けない。

ミカサが来ないことと昨夜のことは何か関わりがあるだろうか。

昨日、たぶんミカサの陰核、クリトリスを発見した。

発見、というとおかしいかもしれないが今までどこにあるかよくわかっていなかった。

昨日触れたところがそうだと思う。

昨夜、濡らしている最中に一カ所だけ硬くなっている場所を見つけた。

そこは皮を被っている、というより瞼のように襞が重なり、内側に何かを隠しているように見えた。

割れ目全体を引き上げるようにして襞の重なりをずらすと、小さくつるりとした突起が出てきた。

たぶん陰核だ。

ここを触ると女はよがると言っていたのは誰だったか。

愛液で指を濡らしてそこに触れた。

途端にミカサの体が跳ね上がった。

ミカサは弄っている最中、ほとんど声をあげないから良いのか嫌なのかよくわからない。

痛かったのかと尋ねると首を横にふった。

表情を見ると痛くはなかったように思えた。

だからもう一度触れた。

するとミカサは激しく咳き込んだ。

びっくりした。

嫌だったのだろうか。

これ以上触って良いものか悩んだ。

悩んだが、指を入れずに帰してしまうと、この性器がまた何も知らない頃に戻ってしまうような気がした。

愛液は十分で尻に伝うほどしっかり濡れていた。

たぶん入れても大丈夫だ。

この体にオレを忘れさせたくない、というつまらない感情もあったと思う。

結局は昨夜も小指を差し込んだ。

挿入したまま探ってみると、硬くなっていたクリトリスは硬さを失い肉に埋もれてしまっていた。

無理をさせただろうか。

刺激が強すぎたのではないか。

痛かったのではないか。

今も痛みを感じているのではないか。

だから今夜は来られないのか。

直接聞きたかった。

壁を叩いてみた。

ミカサはもう眠ったしまったのか、呼びかけてみても返事は無かった。

ここまで
>>124ミカサを少しずつ開発する話を書きたくてスレ立てたんだぜ
エロまでの前置きがやたらと長くなったけど

>>1だけどずっと放置してすまんこ
今までのノリで行って良いか迷ったけどこのままのノリで最後まで一気にいく

エレンがなかなか中で出せない。

射精できないわけではない、と思う。

中に出せないだけで、どうやら抜いた後に出ているらしい。

あまりまじまじ見ては悪い気がするので詳しいことはよくわからないけれど。

それに、かつての小さく弱々しいおちんちんと今のおちんちんが似ても似つかないというのもあり、私はおちんちんに及び腰になっていた。

だから詳しいことはわからない。

いつもおちんちんを出し入れしては苦しそうにしている。

その顔を見ると、とても申し訳なく思う。

言い訳をするならば、性行為がこんなにも辛く苦しい困難を伴うということを私は知らなかったのだ。

おちんちんは指よりも奥まで来る。

出し入れされるとお腹の中が持ち上がるみたいで、最初は痛かった。

今は痛くない。

慣れた。

痛くはないけれど、中でこすれて、熱に浮かされているみたいにぞくぞくする。

おちんちんでお腹の中をひっかかれると身体中がしびれる。

エレンが苦しそうに呼吸をしているとき、私も同じように息を切らしている。

どうやら、この出し入れする作業がなければ精液は出ないらしい。

私がエレンに慣らしてもらったように、こうすることでエレンも慣らしているのだと思う。

私も慣らしてもらうとき苦しかった。

そして、相変わらずいくのには慣れない。

出し入れされているときも、もう少しでいってしまうのではないかと思って逃げたくなる。

エレンも射精するとき同じ思いをしているのかもしれない。

もしかしたら出し入れしながら怖いと思っているかもしれない。

それでも私はエレンにやめても良いと言うことができない。

怖がっているならば、せめて抱きしめて安心させてあげたいと思う。

思うだけで一度も抱きしめたことはないけれど。

許可無く触れると怒られそうな気がする。

普段ならエレンを怒らせても怖くもなんともない。

でも、ベッドの上で怒られたら立ち直れそうにない。

以前は、夜ミカサが部屋に来なければそれなりに普通の生活を送れていたと思う。

自分の部屋を出て、居間に入れば過ちがリセットされたような気分になっていた。

だが今はもう、そうは考えられない。

部屋を出ても罪悪感は消えないし、いつも考えがまとまらない。

常に何かに追われているような焦燥感にかられている。

ミカサとの会話も減った気がする。

それとも、もともとこんなもんだったか。

よくわからない。

よくわからないが、ほぼ無言で食う夕食は、まずいと思う。

黙りこくってパンをちぎっているミカサを盗み見る。

目があうのが怖くて最近はこんな方法でしかミカサを見ることができなくなっていた。

疲れたような顔をしてミカサがパンを口に入れ、飲み込むまでを見届けてから、ふと壁にかかった暦を見た。

なんとなく日付を目で追う。

そこで初めてオレとミカサの次の非番が同一日だということを知った。

突然心臓を握りつぶされるような痛みを感じ、散らばっていた思考が急にまとまった気がした。

久しぶりにミカサに語りかけた。

「おい」

「……え?」

「お前、今度いつオレの部屋に来るんだよ?」

「え、あの、そういう話は、今……ここでは……」

「次の休み、同じ日だよな。知ってたか?」

「うん」

「お前、それまでにオレの部屋来るだろ。来れるよな?今までのペースなら」

「たぶん……うん……休みの何日か前くらいには」

「じゃあお前、今度の休みにどこかよそに引っ越ししろよ」

「……え?」

「……オレも約束は守る」

「あの、それは……」

「絶対に来いよ。休みの前までに」

「でも、引っ越しって……どこに」

「それは今から探す。いざとなれば官舎って手も」

「……」

「……」

「……わかった。エレンがそう言うのなら」

ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー

「ミカサ!」

「え……あ、アルミン……」

「ね、僕の家の近所、一つ空き部屋が出たんだけど、ミカサそこに来るつもりない?」

「それは……もしかして、エレンからそう言えと言われたの……?」

「え。違うけど」

「そう……」

「……」

「……」

「なんかその言い方、僕がエレンの言いなりみたいで嫌だな……」

「あ、ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃ……ただ、ちょっと……」

「ちょっと?」

「……アルミン、私のこと好き?」

「うん」

「うん……知ってる」

「はは……で、何?」

「あ……あの、最近気付いたんだけど」

「……」

「実は……エレンは私のこと好きじゃないかもしれない」

「えー……そんなことないよ」

「でも……そんなこと……ある。わかる」

「うーん。なんだか二人とも疲れてるなとは思うけど」

「……そう?」

「うん。だからちょっとお互いに一人の時間があった方が良いかなとは思ったよ」

「……」

「二人だけだと喧嘩しちゃったら大変だと思うし」

「喧嘩は、してない……と、思う」

「そっか」

「うん……」

「でも、色々あるんでしょ?まあ言わなくてもいいけどさ」

「……」

「君が家を出たくないなら、エレンを定期的に僕の家に家出させてもいいよ」

「……」

「ころあいを見て家に返すからさ」

「うん……」

「……」

「でも……私、引っ越そうかな」

「そっか……それもいいと思うよ」

「そう?」

「うん」

「あ……」

「え?」

「わ、私もアルミンのこと、とても好き、なので……」

「はは……ありがと」

ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー

今夜でミカサに触れるのは終わりだ。

だらだらと続いていたこの変な関係も。

もっと早くにこの関係を終わらせることができたのかもしれない。

でも、言い出せなかった。

休みがたまたま同じ日で、引っ越しに都合が良いというなんとも言えない理由がなぜかオレを後押しした。

明日、ミカサの荷物を運び出す。

今夜、一度だけ中に出せば良い。

他のことは考えるな。

それが良いことか悪いことかはこの際どうでもいい。

とにかくそうしなければミカサは出て行かない。

それが事実なんだから。

そう約束したんだから。

蝋燭の灯りの下でミカサの頬にまつげの影ができている。

影が一瞬、涙に見えてむしょうに腹が立った。

いつものようにすました顔をしてミカサが下着を脱ぐ。

いつものようにオレはスカートの中に手を入れた。

今夜、エレンは確実に膣内に出してくれると言った。

期待だろうか、不安だろうか、怖れだろうか。

下着にかけた手が震えていた。

エレンにばれないように素早く脱いだ。
身体を倒し、脚を開く。

濡らすのもそこそこに、挿入された。

いつもより早いタイミングだったと思う。

十分に濡れていなかったからか、少し痛かった。

おちんちんに痛いことをされるのは久しぶりだ。

そして、今日が最後だ。

今夜の精液を一生お腹に抱いて私は生きていく。

確実に、こぼさないように、精液を搾り取らなければ。

唐突にエレンが私の体の奥を突いた。

結合部から背筋を通り、喉元から脳へ、ビリビリとしびれが走った。

いつもより確実に激しい。

エレンは本気だ。

怒ったような、怖い顔をしている。

私をまっすぐに見てくれている。

私の瞳から目をそらさずに。

エレンを抱きしめたい。

それができないのなら逃げ出したい。

そのどちらも、私は実行することができない。

大人しく、無抵抗に、背中をベッドにくっつけたまま、開いた脚の指先に力を込めた。

何も考えずに性行為に耽ることは、これほどまでに難しいのか。

ミカサの顔を見る。

避妊の問題が頭をよぎる。

明日の引っ越しを考える。

ミカサの今後が気になる。

唇を舐めたい。

服を脱がしたい。

駄目だ。

何も考えるな。

考えるな。

気になることを全て胸の奥に押し込んで、頭の中を空にする。

ひたすらミカサの身体を貪ることだけを考える。

ガツガツと激しく、獣のように、突き上げた。

ふと思う。

ミカサは痛くないだろうか。

いや、違う。

何も考えるな今は。

とにかく中に出すことだけを考えろ。

馬の種付けのように。

子供を作る気がないくせに。

こんなことをしていて良いのか。

駄目だ。

考えるな。

考えるな。

何も考えるな。

ひたすら黒い瞳を見つめる。

見つめ返される。

熱を出したときのように瞳が潤んでいる。

ふいに、ミカサの体が跳ねた。

次の瞬間、膣口が激しく収縮を始めた。
ミカサの顔に困惑と恐怖の色が浮かんだ。

エレンにしてもらっている間中、突き上げられる刺激に気が狂いそうだった。

こんなにきつくされたことは今までになかった。

膣の奥が執拗にこすられる度に喉が焼けつくように熱くなった。

性器全体が揺すぶられる。

熱い。

いくときの、あの感覚が秒毎に強くなる。

腰がビリビリと痺れる。

逃げることも、止めることもできず、されるがまま、いった。

今までの感覚がぬるいと思えるほど苦しいいき方をした。

必死で声を抑えた。

声を出すとエレンはやめてしまうかもしてない。

今までにも私が声をあげて、エレンがやめてしまったことがあった。

それだけはさせてはならない。

エレンと一緒にいられないのなら、私はどうしてもお腹にエレンの精液が欲しい。

エレン、やめないで。

恐怖に似た思いが私に声を出すことを禁じた。

喉元まで出かかった喘ぎ声を飲み込む。

呼吸があまりにも難しい。

事実、私は呼吸の仕方を忘れてしまっていたように思う。

息を吸って、吐く、その簡単な行為ができなかった。

声を出すまい、と思うと空気を吸うことしかできなくなった。

空気も、声も、痺れも、私の体内に蓄積されていくばかり。

どうやってその体勢になったのかよく覚えていないけれど、気がつくと横向きにうずくまってきつく目を閉じていた。

苦しい、くるしい、くるしい。

息苦しさが収まらずますますパニックになった。

エレンが何かを言っているようだけれど、気のせいかもしれない。

そのまま一度意識が途切れた。

ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー

気がつくと毛布にぐるぐる巻きにくるまれていた。

エレンが脚をさすってあたためてくれている。

起き上がる。

エレンが何か言うより先にまず謝った。

「ごめんなさい……」

「いや、それよりお前、大丈夫か。身体は。めまいとか」

「それは大丈夫」

「医者に診てもらったりとかは……」

「大丈夫。あの、今のは、単純に焦って息のしかたがわからなくなったからで……」

「そう、なのか……そんなことあんのかよ」

「ある」

「……」

「だから、えっと、大丈夫なので……大丈夫。続き、できる」

「大丈夫ってお前な……」

「本当に、本当に大丈夫だから」

「……」

「……」

「いや……」

「……」

「もう、やめよう」

「…………え?」

「やめにしないか。こんなことするの」

「え、どうして……エレン、私はまだできる。大丈夫」

「でもな……でも、そういう問題じゃなくてだな……」

「でも……」

「オレは、やめたい」

「……え?」

「最初お前が言い出したときに……オレがきちんと断れなかったのが悪かったよ」

「え?……え?」

「オレが悪いと思う」

「……」

「やっぱり中では出せそうにねえよ」

「エレンは……」

「ごめんな」

「したくない?したくなかった?」

「そうだな……もう、やめたいと思う」
「……そう、だったの」

「……」

「ごめんなさい……」

「いや、お前は悪くない」

「……」

「……」

「部屋に……戻る」

「ああ」

やっと言った。

やめよう、と。

今更遅いという思いはある。

だが、一秒でも早くこの言葉はミカサに伝えられるべきで、言ったことに後悔はしていない。

後悔しているとしたら、それは言うのが遅すぎたことに対してだ。

ミカサの身体をむちゃくちゃにした。

ミカサを汚した。

もっと早くに拒めていれば。

やはり、今更遅いのだ。

でも、言わなければならなかった。

なぜ、もっと早くに言えなかったのか……

なんかオレ、思考がまとまってねえな……

ミカサが部屋を出た後、突っ立ったまま同じことを何度も繰り返し考えた。

“後悔”と一言で片付けるにはあまりに複雑で巨大な感情に溺れて動くことができなかった。

絶えずこのまま死んでしまいたいという思いがちらつく。

胸の中に渦巻くこの感情は後悔なのか、怒りなのか、悲しみなのか、何なのか。

わけがわからず突っ立っている。

突然、大きな音が家中に響いた。

二度目に響いた音で、それが何の音かわかった。

開いた扉を力任せに閉じる音だ。

部屋を出て玄関を見やる。

力が強すぎた反動で、扉が開いてしまっている。

半開きの扉からパラパラと雪が降り込んでいた。

ミカサの部屋の方を見た。

こちらも半開きだった。

中をのぞき込む。

ミカサはいなかった。

エレンは私としたくなかったらしい。

それなのに私は強引に関係をせまったとうことだろうか。

つまり、私はエレンを陵辱した……?

……ということであっているだろうか……?

わからない。

わからない。

ただ、私は本当に、思っていた以上に、さらにそれ以上に、エレンから好かれていなかった。

好かれていなかった。

むしろ嫌われていたのではないか。

とんでもない罪を犯した。

エレンの家にいてはいけないと思った。

衝動的に家を出た。

猛然と走る。

自然と足がアルミンの家の方に向かう。

しかし、思い直す。

すぐに見つかってしまうのではないか、と。

方向を変えた。

方向を変えて気付いた。

エレンが私を探す必要なんて無いことに。

すぐにミカサの後を追った。

うっすら積もった雪の上に残された足跡をたどる。

町に出た辺りから足跡がよくわからなくなってしまった。

でもこの方向なら行き先はほぼ決まったようなものだ。

迷わずアルミンの住居に向かった。

着いた先で、とにかく扉を叩いた。

アルミンが出てくるまで叩いた。

出てきた姿が明らかに寝起きだったことに嫌な予感がした。

ミカサはいなかった。

行く宛てもなくとりあえず走り続け、迂回するルートでエレンの家の裏の方に着いた。

エレンに見つけてもらおうとでも言うのだろうか。

きっとエレンは私を見たくもないだろう。

泣いた。

泣きながら、家から離れて森の奥に進んだ。

アルミンと話し合い、朝までにミカサが見つからなければ憲兵に届けることになった。

オレはまた外を探す。

アルミンは家で待機してミカサを待つ。

言いたくないことが多すぎて、事情説明は要領を得ないものだったと思う。

それでも、なんとなく話が通じている印象をうけた。

たぶんオレとミカサの関係がなんか妙なことに気付いていたのだと思う。

ミカサが行きそうなところを一通り回って、一旦家に戻った。

薄着すぎて寒かった。

適当に上着を着込む。

ミカサもたぶん寒そうな格好で出て行っただろう。

上着をとるために、ミカサの部屋に入る。

荷物がまとめてある。

そういえば夜が明けたら荷物を運び出す予定だったな。

殺風景な部屋だった。

掛かっていた上着を手に取り、なんとなく机の上に目をやった。

見覚えのある箱が置かれていた。

丁寧にリボンがかかっている。

書き損じだオレへの手紙が入っていた箱だ。

ただの書き損じではない。

涙でインクがにじんだものだと言っていた。

そんな話をしたのはこの家に荷物を運び込んだ日だったか。

ミカサの頬に髪が貼り付いていたのを思い出す。

空が濃い青色の夏だった。

あのときはまだ、こんなおかしな関係になっていなかった。

束の間の幸せだったように思う。

なぜ今はこんなことに。

星がきれいだと笑っていた夜もあった。

一緒に裏の森の奥まで行ったこともある。

森の奥まで進むと開けた場所に出る。

なんとなく故郷の草原に似ていた。

そこに行ったときもミカサは笑っていた。

あの草原はまだ探していなかったことに気付く。

もしかしたらミカサはそこにいるかもしれない。

というか、ミカサがいるとしたら、もうそこしかないような気がしていた。

寒い。

気付けば肩にうっすら雪が積もっている。

森の奥の草原しか、私が行っても良い場所を思いつくことができなかった。

とりあえず、大きな木の下に避難する。

膝を抱えて座る。

おでこを膝に押し付けた。

エレン、お父さん、お母さん、おじさん、おばさん。

ごめんなさい。

みんなに謝らなければならない。

謝ってすむ話ではない。

誰かが私のことを呼ぶ声が聞こえた。

いや“誰か”ではない。

声がした方を見る。

エレンだ。

私に近付きながら「帰るぞ」と言った。

どうすればいいかわからなくなって、また泣いた。

やはりミカサは草原にいた。

白っぽい服が夜闇に目立つ。

上着を羽織らせ手をひいて立たせた。

手を繋いだままアルミンのもとにむかった。

ミカサの手があまりに冷えていたので、こいつだけ家に戻してオレ一人でミカサ発見の報告に行こうか迷った。

が、また失踪されてはかなわない。

だから一緒に連れて行った。

無言ですすり泣きながら、うなだれて歩くミカサの手をひくのは罪人を連行するようで嫌だった。

ミカサは罪人じゃない。

こいつは何も悪くない。

ミカサの体が冷えているのも気になっていた。

アルミンのところに行って帰ってくるまでの間、肩を抱いてやれば少しは冷えもおさまるのではないかと思い続け、ついに実行しないまま家に着いた。

寝室から持ってきた毛布でミカサをくるみ、火を入れた居間の暖炉の前に座らせた。

オレは少し離れたところに立ったままミカサを見ていた。

あと何時間、私はこの家にいられるのだろう。

救助された遭難者のような格好で座ったままそればかりが気になっていた。

家を出てしまえばエレンと話す機会もなくなるだろうか。

それならば、今きちんと謝罪をしなければ。

もう今しかない。

それなのに、なかなか言い出せない。

声を出すとつられて涙が出そうだった。

グズグズしているとエレンに先を越された。

「悪かったな。お前に……嫌な思いさせて」

「え……」

「オレが悪かったんだ」

「え、エレン、違う。……ごめんなさい」

「お前は謝らなくていい」

「そうじゃない。エレン、ごめんなさい」

「いや……」

「避妊、できない本当は。嘘ついた」

「そうか。それは……オレも薄々感づいてた」

「そ、それに……私は、あなたを、汚した」

「……は?」

「わ、私、あなたが私と……その、せ、性行為したくないなんて思ってなくて」

「いや、それは……そうだな……」

「ごめんなさい……ごめんなさい……エレンは……あの、そ、それなのに私、あなたに無理に、関係、を……」

「え?いや……は?」

「エレン、私のこと嫌だったんでしょう……?」

「いや、お前のことは嫌じゃ……ないけど……ないけどだな」

「いい、わかってる。本当に……ごめんなさい……」

「いや、わかってねえって」

「え、エレン……も、いいから……ほんとに、ひっ…く、うっ……ぅ」

「お、おい……泣くなよ……」

「うっ、ご、ごめんなさ……ごめ…ひっ、う」

「……オレは、お前のこと嫌いじゃないし」

「……」

「いや、お前のこと好きなんだよ」

「え、エレ……む、ムリはしなくていい。大丈夫。も、泣かない」

「無理じゃねえって」

「で、でも」

「好きだから、お前と寝るのやめられなかった。……最低だよな」

「え、あの……え……?」

「できることならお前と一緒にいたかったし、子供も欲しかった」

「……」

「でも、わかるだろ。子供生まれてもな……オレもお前も立場が……オレなんか地下牢に軟禁されてたんだぞ」

「エレン……」

「子供がかわいそうだ」

「……」

「でも、お前だけなら……お前だけでも普通の……」

「……どうして」

「どうしてって、いや、お前」

「……」

「……」

「エレン、戦わなければ勝てないと私に言ったのは、誰……?」

「は?……お前、何だよ」

「あなたが今言ったこと、以前私も考えた」

「そうだろうな」

「でも、それで諦めようなんて思わない」

「……」

「エレン、言った。戦えって」

「……」

「だから私は生きてる」

「……」

「エレン、私は……あなたが私といてくれるなら、戦いたい」

「……」

「一緒に」

いつの間にかミカサは毛布を椅子の上に畳み、オレの真正面に立っていた。

真剣な顔でオレに語りかける。

ミカサが話し終えると再び沈黙が訪れた。

ミカサはオレと一緒にいてくれると言う。

オレは、こいつと一緒にいても良いのだろうか。

今までに諦めてきたことをすべて、もう一度望むことができるだろうか。

それが許されるだろうか。

沈黙の中、互いに相手の出方をうかがう。

オレが先に動いた。

衝動的にミカサを抱き寄せ、唇と唇をくっつけた。

舌で唇を割るより先にミカサが口を開き、オレの舌を舐める。

先を越されたのが悔しくてミカサの舌を噛んでやった。

のどの奥でミカサが小さく声をあげたので、舌を噛むのをやめ、まっとうに口を吸った。

エレンと口をくっつけてから耳鳴りのようなものが止まらない。

エレンの腕、体温、声、息、唇……情報量が多すぎて、いつベッドのある寝室に移ったのかよくわからない。

しかも、どちらの寝室なのかすら判別できなかった。

辺りを見回しても、視覚情報を思うように処理できない。

エレンがそばにいることだけは、わかった。

きっと私はとても緊張している。

エレンと離れたくないと思い、ベッドに座ってしつこく頬ずりをした。

その間、エレンは私の髪を撫でていた。

しばらくして暖かい両手が私の頬を挟んだ。

ドキドキする。

口づけが再開された。

二人でもつれ合い、酔っ払いのように壁にぶつかりながらベッドまでたどり着くと、ミカサは頬をこすりつけてきた。

動物めいたその行動に、なごんだ。

しばらくはミカサのやりたいようにさせながら、まっすぐな髪に手を通して感触を味わっていたが、顔を見たくなった。

両手で頬を挟む。

顔を覗き込んだ。

どちらからともなく、唇を重ねた。

オレがミカサの舌を追いかけると、その分だけ誠実にミカサはやり返してくる。

その誠実さが愛おしいと思う。

もっと奥までミカサの口内を味わいたい。

そう思ったとき、頬に添えた左手が歪な傷跡に触れた。

ミカサの頬の傷は深かった。

跡が残った。

オレが付けた傷だった。

ミカサに触れるのが急に怖くなってきた。

それでも口づけを続けていると、ミカサの方から唇を離した。

つかの間、オレの顔を訝しげに見つめ、ふと目を伏せた。

ミカサの両手がオレの左手を包む。

照れたように笑い、ミカサが指先に口づけた。

カーテンの隙間から白い光が滲んでいる。

じきに夜が明ける。

ミカサだってオレたちの関係の危うさには気付いている。

それでもこうして口づけをくれる。

こいつに報いたい。

初めて、ミカサのシャツのボタンに、ふるえる手をかけた。

エレンが私のシャツの前を開けていく。

冷たい空気が肌をなでた。

丸く膨らんだ胸の下で心臓がうるさい。

エレンは私の身体を気に入るだろうか。

シャツを脱がなくても行為はできる。

でも、エレンが私の服を脱がせようとする理由はなんとなくわかった。

なぜなら私もエレンの服を脱がせたかったから。

シャツを脱がされ、肌着も脱がされ、上半身が赤裸になってから、私もエレンの着ていた服をグイグイ引っ張った。

私はやはり緊張しているらしい。

うまくできなくて、やっと脱がせ終わったときエレンの髪はボサボサになっていた。

責任を感じてエレンの髪をなおしていると、再び口づけをされてそのままベッドに倒れ込んだ。

苛立った声で、オレの髪はどうでもいいだろ、と言われた。

スカートと下着を脱がされながら、確かに今は髪のことなどどうでもいいような気がした。

ミカサの服を脱がせ、白い胸が露わになったとき、どうしようもなく乳房に吸いつきたい衝動にかられた。

が、とりあえずはこらえた。

ミカサに赤ん坊扱いされそうな予感がしたからだ。

こんなときまで母親面されたくはない。

ことの最中にオレの髪をなおそうとしてくるので少しイラついた。

やはり胸を吸わなくて正解だったと思う。

下を脱がすと、すでに結構濡れていた。

ミカサの反応を見つつ、柔い粘膜に愛液を塗り広げた。

今までに何度もやってきた行為だ。

それなのに、今初めてミカサを知ったような気分だった。

そろそろと指を挿入してみる。

すんなりと抵抗なく入った。

こいつの身体はオレのことを覚えている。

入れるときよりも、抜くときの方が抵抗を感じる。

膣肉が熱く指に絡みつき、離さない。

ひくひくと蠢きながらこの身体は待ちわびている。

指ではないものを。

不安になるほど柔らかい内腿を持ち上げ脚を大きく開かせた。

互いの性器をすり合わせると、口づけに似た音が聞こえた。

探るように慎重に挿入し、肌を密着させる。

弱々しい朝日の中、白く冷たく浮かび上がって見えたミカサの身体は、驚くほど熱く柔らかかった。

熟れた木の実のような唇に、迷わずキスをした。

エレンにおちんちんを挿入され、そのまま口づけされた。

エレンの舌が私の口の中をゆっくりと引っ掻き回す。

舌で舌をこすられたとき、お腹の底から全身へ、しびれが走った。

私の身体が、私の身体じゃないみたいにはねる。

おちんちんの出し入れをされたわけではないのに、キスで、いってしまった。

初めてわかった。

いく、というのは恐怖ではない。

快感だ。

ヒクヒクと収縮を繰り返し、いっとき鈍くなっていた膣の感覚が再び鮮明になる。

エレンのおちんちんは、まだたしかに私の中にいる。

早く奥までおちんちんを押し込んでほしい。

もう一度、いかせてほしい。

エレンの腕の中なら、何も怖くない。

息苦しささえ、ひどく幸せなものに感じた。

このままずっと抱きしめて、キスをしてほしい。

もっと気持ちよくなりたい。

それなのにエレンはキスをやめてしまった。

やめないで。

そう言いたかったのに、喉から出たのは自分の声じゃないみたいな喘ぎ声だった。

エレンが私の頬をぺちぺちと叩き、息をしろ、とうるさく言っているのが聞こえた。

「おい、大丈夫か。ミカサ。息、しろよ。吸って、吐け。ゆっくりな」

「あ、ぅ……んっっ」

「お、おい!大丈夫かよ。落ち着けって」

「え、エレ……だいじょぶ…で、も、いま、う、うごかさないで…あっ」

「は?!」

「ぅ……エレン、お、落ち着いて……いまうごかされると、また……いっ…ぅ」

「は?また?……また、イっちゃいそう……?なのか?」

「ん……」

「お、おう……そうか……すまん」

「ううん、あやまらないで……わたし、もっと……あの……ぁ……」

「え?」

「あの、息、しようとすると、こ、声、でる」

「え、ああ」

「だから、声、だしても、やめないで」

「……」

「きもちいい……ので、もっと、きもちよくしてほしい。エレンも……あ、えっと…ど、どうぞ」

そう言ってミカサはおずおずとオレの背に手を回した。

オレが拒まないとわかると腕に力を込めて身体を引き寄せる。

ミカサがオレの唇を舐め、はにかむ。

ミカサの「きもちいい」という言葉が気持ちを昂らせる。

むっちりとした下半身に陰茎を突き立て何度も内側を引っ掻いた。

押し込む度にミカサの喉から声が押し出される。

快感なのか何なのかわからないまま、夢中でミカサの身体に溺れた。

どさくさに紛れてミカサの柔らかく尖った乳首に吸い付いて、甘く噛んだ。

一際高い声があがり、ヒクヒクと子宮が精液を吸い上げようとする。

ミカサの身体が望む通りに、膣内で射精した。

ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー

目が覚めるとすでに日が高かった。

ちょうどお昼頃だろうか。

エレンは私を抱きしめたまま、まだ眠っている。

エレンを起こしてしまわないように、目が覚めたときの体勢を保ち、再び目を閉じた。

エレンと一緒に寝ているというこの状況をじっくり味わいたかった。

寝たふりをしながらぼんやり色んなことを考えた。

お腹の中で出されたら、果たしてそれを私は感知できるのか、という疑問の答が今回の性行為でわかった。

中で出されたら、わかる。

エレンのおちんちんが中で暴れたから。

エレンは一回私の中で出した後、さらにもう一度出してくれた。

最中、何度も口づけもしてくれた。

あまりに幸せで、気が狂いそうだった。

二回の中出しの後、ぴったりと抱き合って寝た。

その頃になってようやく私は周囲の状況を把握できるようになり、ここが自分の部屋だということに気付いた。

ここは、私の部屋だった。

……今でもここは私の部屋だろうか。

本来ならば今頃はもう私はこの家を出ていなければならない。

ここで寝たふりなどしている場合ではないはずだった。

でも、昨日、いや、今朝、色々と状況が変わった。

と、思う。

けれど、私の身の振り方について二人で話し合って新たに結論を出したわけではない。

不安が胸を締め付ける。

今までに色々なことを言ってきたけれど、やはり私はエレンと離れたくない。

エレンが身じろぎした。

目を覚ましたようだ。

私は寝たふりを続行した。

目を覚ますとミカサがまだ眠っていたので妙な優越感を覚えた。

が、ミカサの寝顔を見て優越感は消え去った。

こいつ、狸寝入りじゃねえか。

ベッドの足下の方で丸まっていた服をごそごそと引っ張り出して着た。

服を着ても、ベッドの外は寒かった。

いや、ベッドの中が暖かすぎたのか。

ミカサの分の服も引っ張り出して枕元に置いてやった。

ミカサも狸寝入りをやめたようで、布団の中に服を引っ張り込んで着始めた。

ベッドに腰かけてミカサが服を着終わるのを待つ。

ミカサには色々と言わなければならないことがある。

「服、着たか?」

「あ、エレン、待っててくれてたの?うん。服着たのでこっち見ても大丈夫」

「おう。あのさ、今まで色々と、その、苦労かけたな」

「そんなことない」

「そうか……ここの荷物だけどな、お前まとめただろ」

「……うん」

「けど、もしお前が嫌じゃなければ……荷解きしないか。この家で」

「え……」

「お前が良ければ、このままここにいてほしい。お前と……所帯を持ちたい」

「……いいの?」

「いいぞ」

「じゃあ、ここにいる」

「ずっと?」

「うん。ずっと」

おわり

なんかダラダラ書き続けてすまんこ
半年もかかるとは思わなんだ
保守とかどうもありがとう

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年08月04日 (木) 20:13:50   ID: Fftlp8mf

ちょーよかった!!最高!!また別の作品も見てみたいです!!(個人的にエレペト)

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