貴音「真夜中でぇと」 (21)



貴音「………………」


P「………………」


貴音「……あなた様」


P「………………」


貴音「………あなた様?」


P「ん?あ、あぁ、すまん、なんだ?」


貴音「確か、ここに屋台があった筈……ですが」


P「……だけど、跡形もなく、無くなってるな」


P「どうやら、閉店……店をたたんだ様だな」


貴音「……そう、ですか……真、残念でなりません」


貴音「あなた様と交流を深めた、思い出深い場所だったのですが……」



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P「………確かに、寂しい気持ちもあるが」


P「思い出で一番大切なのは、形よりも、思い出をどう想うか、だよ」


貴音「…………………」


貴音「えぇ……真、おっしゃる通り、ですね」


P「あぁ……本当、その通りなんだよ……」


P「……………………」


貴音「……ここのらぁめんで、食欲を満たそうとも思っていたのですが……無理な様ですね」


貴音「久々に、じゃんぼ味噌らぁめんを注文してみたかったです」


P「あれ頼むと、絶対おかわりするもんな……4杯も」


P「まぁ、仕方ないさ……ご飯食べたいなら、他のどこかに寄るか?」


貴音「……いえ」


貴音「折角なのです……私達が好きな場所へ行きたいです」


P「そっか……そうだな」







貴音「………………」


P「………………」


P「……あのさ、貴音」


貴音「はい?」


P「その……手、繋いで歩いてくれないか?」


貴音「……………」


貴音「………ふふっ」くすっ


P「な、なんだよ……恥を忍んで頼んだのに……」


貴音「申し訳ありません、ふふふ……」


貴音「では……」ぎゅっ


P「……ありがとな」ギュッ


貴音「いえ……私も望んでいた所存、嬉しい限りです」





P「……街は、誰も居ないな」


貴音「真……本当に人が居たかどうか疑わしい程に」


P「真夜中だからな……空も真っ黒だ」


貴音「……雲一点なく、多数の星と、満月が伺えますね」


P「…………………」


貴音「……あなた様」


貴音「……今後、月が満ちる時、その時は今日みたく……2人きりで……」


P「…………………」


P「……貴音」


P「その話の返事は、伝えたい場所で、伝えさせて欲しい」


P「……だから、今はその事を忘れて、一緒に居よう」


貴音「………………」


貴音「……承知致しました」





P「……………………」


貴音「……………………」


P「………おっ、この河川敷は」


貴音「……あなた様との馴れ初めの場……ですね」


P「そうそう、まだ貴音が961プロの時代で……確か貴音が泣いてて……」


貴音「ふふふ、私がまだ未熟者だった故……」


P「でも、ウチの事務所に来てからも、偶に影でこっそり泣いてたな」


貴音「!!」


貴音「……見て、おられたのですか?」


P「ははは、感情豊かな時は仕方ないさ」


P「でも、いつも飄々としていた分、泣き顔が愛くるしくて可愛かったぞ、ははは」


貴音「むぅ……いけずです、あなた様」






P「……………………」


貴音「……………………」


P「………あ、いつの間にか家に着いた」


貴音「……最後に見た時以来、特に何も変わっていませんね」


P「まぁな……ここで俺は、寂しく一人暮らしをやってるさ」


貴音「………家族には、会いに行かれないのですか?」


P「たまに会うけど、半年に1、2回くらいだよ」


P「まぁ、明日、会う予定なんだけどな」


貴音「そう……ですか」


P「………寄ってくか?」


貴音「……いえ、大丈夫です」


貴音「今はあなた様と、夜道を散歩したい気分なのです」


P「そうか……分かった」





P「……………………」


貴音「……………………」


P「……あ、居酒屋の前に人の集まりが」


貴音「……何かの打ち上げの様ですね」


P「大学生の集まりかな……仲のいいことやら」


貴音「………えぇ」


貴音「まるで、私がアイドルだった頃の、事務所の仲間達の様です……」


P「…………」


貴音「元気でしょうか?彼女達は?」


P「元気な奴は元気さ」


P「………そっちの皆はどうだ?」


貴音「………元気……というのは、些か違和感を覚えますね」


貴音「とにかく、平穏に過ごしております」


P「………そうか」





P「…………………」


貴音「…………………」


P「……さ、メインイベントだ」


貴音「ここは……765プロ」


貴音「明かりが付いておらず、真っ暗ですね」


P「外から夜中の765プロを見るのは、久々だ……」


貴音「いつもは、残業で中の方に居ましたからね」


貴音「夜遅くまで仕事をしていると、次の日体に堪えたのでは……?」


P「ちょっとな……でも、それよりも」


P「お前達、アイドル達の芸能活動をプロデュースして、成功させたいって気持ちの方が勝ってな」


P「つい、過度に仕事をしてしまって……」




貴音「……仕事熱心な姿には、感銘を受けました」


貴音「しかし、アイドルや職場仲間の皆が、あなた様の健康を心配していたのですよ?」


P「いやぁ、悪い悪い」


貴音「……中にも」


貴音「私は、特に気を掛けて心配しておりました」


貴音「ずっと……あなた様が仕事を続けているまで……ずっと」


P「………貴音」


P「本当に悪かった、辛い思いをさせたな」


貴音「………いえ」


貴音「それが、あなた様なのですから……理解しております故」


P「……本当にありがとう、貴音」





P「…………………」


貴音「…………………」


P「……おっ、これは」


P「765プロ、オールスターライブの宣伝広告……でかいな」


貴音「それ程、765プロは大きな存在になったという事ですね」


P「あぁ、事務所アイドルの数も増えてきたし」


P「子会社も出そうって話もあるらしい……それに、世界進出の話もチラついてるって」


貴音「なんと」



P「765プロは、これからも大きくなり続けるさ……」


P「何より、色々な所との交友関係も広くなって来た」


P「沢山の仲間と支え合っていけば、どんな困難も乗り越えていけるさ」


P「心配しなくても、逞しくやっていけるよ」


貴音「………えぇ」




P「……………………」


貴音「……………………」


P「………あぁ、ここは」


貴音「……………………」


貴音「………あなた様」ぎゅっ


貴音「この病院に近付くのは、少し抵抗が……」


P「……………………」


P「確かに、辛い思い出が詰まった場所だな」


P「貴音にとって……もちろん、俺にもだ」


貴音「………………」


P「………明日、ここへ行く予定なんだ」


貴音「!!」


貴音「どこか、具合でも悪いのですか!?もしや、持病でも……」





P「いや、ただの健康診断さ……家族と一緒にな」


貴音「………そう、ですか」


貴音「……やはり、ここは良い気分になれません……」


P「まぁな……でも、俺にとっては良い所かもしれない」


貴音「……何故ですか?」


P「……お前に会えるまでの、通過予定の場所だからだ」


P「ここに入院するって事は、お前に近くって事だからな」


貴音「………………」


P「………さて、場所を移そう」


P「もうすぐ、俺が一番行きたかった場所だ」


貴音「………………」




P「…………………」


貴音「……………………」


P「さぁ、着いたぞ」


貴音「………この場所は……この公園は」


P「………俺が貴音に告白した場所だ」


P「……ちょっと歩き疲れた、ベンチにかけよう」


貴音「えぇ……」


P「………………」


貴音「………………」


P「………貴音」


貴音「……はい」


P「昔ここで、俺がお前に気持ちを告白した様に」


P「さっきの質問の答え……もとい、俺が今思ってる気持ちを伝えるよ」


貴音「………………」


P「………貴音」


P「次から満月の時、俺に会いに来なくていい」





貴音「……………」


貴音「………迷惑、でしたか」


P「………そうじゃないさ」


P「今日、お前が会いに来てくれて、俺は本当に幸せだった」


P「お前と別れてから、数年ぶりに若い姿のお前と再会したんだ……心の底から歓喜したさ」


P「今でも、離れたくない、ずっと一緒に居たいと思ってる」


貴音「…………………」


P「………でも、それはもうちょっと先延ばしにしたいと思うんだ」


P「今は家族や、こっちにいるお前と俺の最高の友達、他にも色んな友人」


P「その人達との時間を優先して、もう少しこの世界で大切に過ごしたいと思う」


貴音「………………」


貴音「………私も」


貴音「私も……あなた様と、早く同じ時を共に過ごしたい……です」


P「……あぁ、俺もだ」


P「一番一緒に過ごしたいのは、誰よりもお前だよ」


P「だけど、それはあと少ししたら、叶う事なんだ」


P「貴音がわざわざ出向いて来てくれなくて、大丈夫だよ」


P「今は、ただ向こうで待ってて欲しい……」





貴音「………………」


貴音「……寂しいです……あなた様のいない世界は……」


P「…………………」


貴音「……ですが」


貴音「あなた様は、まだこの世界でやるべき事、したい事がある様ですね」


貴音「……わかりました、私はいつまでも待ち続けます」


P「貴音……ありがとう」


P「本当に……本当に、今日は来てくれて嬉しかった」


P「ありがとう貴音……心から愛してる、大好きだ」


貴音「………私も、同じ気持ちです」


貴音「心から……想っております、あなた様」


P「貴音……絶対に、絶対に向こうに行ったら一番に会いに行く」


P「約束だ……そしたら、ずっと一緒にいような……貴音」


貴音「……はい……お待ちしております」


貴音「…………あなた様」




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孫「じいちゃん、どうだった?健康診断の結果」


P「……まだまだ健康、入院しなくても大丈夫らしい」


孫「へー、相変わらず元気だね」


P「ははは、まぁな……だけど、歩くのがキツかったり、耳が遠いのは辛いけどな」


孫「今度、一緒に補聴器買いに行こっか」


P「プロデューサーの仕事が忙しんじゃないか?」


孫「仕事し過ぎて、今週は強制的に休む様注意されてさ……」


P「ははっ……変な所は、俺や父さんと似たんだな」


孫「ははは、仕事人間な一家だよ……俺達は」


P「………………」


P「……なぁ」


孫「ん?」







P「若い頃は仕事ばかりして、先立った婆さんに、よく心配させてしまったが……」


P「そんな自分と一緒にいて、婆さんは本当に幸せだったんだろうか……」


孫「………………」


孫「幸せじゃなかったら、この病院での死に際に」


孫「じいちゃんに、あんな笑顔で『幸せでした』なんて言えないよ」


P「………そうか」


P「ありがとな……よし、じゃあ、病院の次にもう一箇所行かなくては……」


孫「どっか行くの?車で送るよ」


P「おぉ、すまないな」


孫「どこに行くの?」


P「……婆さんの墓まで頼む」


孫「え?婆ちゃんの墓参り?時期外れだなぁ……なんか用でもあるの?」


P「最愛の妻に」


P「もう少し、この世界に居そうになるから、報告しにな」










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