クラリス「修道服を見たい?」 (16)

-事務所-

クラリス「修道服を見たい?」

荒木比奈「そうなんスよ。節目の年ってことで『怪盗セイント・テール』の合同誌に誘われてるんスけど、
     作画の参考にちょーっとクラリスさんの修道服見せてもらえないかなー、と」

クラリス「セイント・テール…修道院に入ってすぐの頃に、名前だけは聞いたことがあります。
     たしか主な舞台がミッション系の学校で、主要人物の1人にシスター見習いがいるという」

比奈  「そうそう。現物見ないで資料で描くのもできるけど、やっぱり見た方が粗がなくなると思って」

クラリス「…事情はわかりました。比奈さんの頼みならば、お引き受けしますわ。
     ただしお見せするのは寮の自室で、ということになりますが」

比奈  「助かるッス。クラリスさんの都合で時間決めてくれれば、それで行くッス」

クラリス「では、明後日の午後5時でどうでしょう?」

比奈  「了解ッス!」

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-クラリスの自室-

比奈  「お邪魔しまーす!」

クラリス「いらっしゃい、比奈さん。お待ちしていましたわ」

比奈  「いやー、整理の行き届いたキレイな部屋ッスねー。
     たまにこういうちゃんとした部屋見ないと、際限なくモノに埋もれてくから怖いんスよ」

クラリス「整理するほどのモノがないだけです。清貧ですから。
     大したものではありませんが、紅茶をお淹れしましたわ」

比奈  「気を使わせちゃったみたいッスね…なんか、申し訳ないッス」

クラリス「たまの来客ですもの。おもてなしもまた、奉仕の形の1つですわ。
     それでは、着替えて参りますね」


比奈  「あー、ここだと市販の紅茶も上品に感じるッス。お仕事でメイドやるとやっぱ違うのかな?
     これに加えて『怪盗セイント・テール』を読みながら優雅な午後ってのもオツなものッスねー。
     ん…アレ?あそこに見えるのは-」

クラリス「お待たせしました。これが私の修道服ですわ」

比奈  「おおー、ビシッ!と決まってるッスね。まさにシスターのイメージぴったり!
     ベールは白じゃなくて紺だけど、ディティールの詰めにはものスゴく参考になるッス」

クラリス「きゃっ…!比奈さん、あの、いきなりそのような所を凝視されてはさすがに困ります…」

比奈  「え?あ゛っ、その、パンツ見たいとかそういうワケじゃなくて、ロン、ロンスカをね!」

クラリス「…ロングスカートだと中身がどうなってるかわからない、ということでしょうか?」

比奈  「そう、ソレ!ナイス!」

クラリス「たしかに、こればかりは写真ではわかりませんわね。予備の1着も出しましょう。
     覗くのは見るのも疲れるでしょうし、たくし上げるのは憚られるので」

比奈  「ホント助かるッス…今描いてるのだと修道服着た子を割とアクティブに動かす予定なんで、
     足の動かし方の描写に気を使わないといけないんスよ」

クラリス「手を抜かずに邁進するのは良いことですわ。向上心は人を成長させます。
     …こうやって、実物を参考にするのはいつものことなので?」

比奈  「昔はそうだったんスけど、最近はどうしても資料本に頼りがちなんスよ…。
     マンガの資料目的で動かないカラダに鞭打って色々見に行ってたんスけど、
     アイドルになった今じゃ迷惑がかかり過ぎて。名前が売れるのも良いことだけじゃないッスね」

クラリス「あら、私なら迷惑でないと?」

比奈  「え゛っ!?や、違っ…!」

クラリス「うふふ…冗談ですわ」

比奈  「もう、心臓に悪いッスよ…。
     そういや、事務所来てから修道服着てないってのは、クラリスさん的に大丈夫なんスか?」

クラリス「大丈夫も何も、教会にいる頃から日曜礼拝でしか修道服は着てませんが」

比奈  「あれ、シスターは修道服以外着ないんじゃないんスか?」

クラリス「よく言われますわ。プロデューサー様にも言われました。
     私がまだ有期誓願の身、という理由もありますが…終生誓願を立てた方でも今では私服を着ることがあります。
     修道会次第なんですが、私は社会奉仕の意識が強いところにいましたから」

比奈  「あー…あんまり厳格じゃあ、アイドルになるのを許してもらえる気はしないッスね」

クラリス「それに、一度イメージの固まってしまった服は何かと不都合も招きます。警察官の方と同じですね。
     ですから共同生活の枷にならないよう、問題にならない範囲で私服も許容されています。
     このような判断が為されたのは比較的近年のことですし、今も厳格なところでは修道服のみで通してますから、
     比奈さんやプロデューサー様の認識が誤っているというものでもありません」

比奈  「教会も一見変わってないようで、時代に合わせて変わってるんスねー。勉強になるッス」

クラリス「あら、それはどこも同じですわ。
     比奈さん、漫画は皆ペンとインクで描いてるのではないのですか?」

比奈  「え?いやぁ、今はデジタル入稿が便利なのもあってパソコンで描いてる人の方が多いッスね。
     もちろんペンとインクでバリバリ描いてる人もいますし、私もアイドルになる前は丸ペン一本でしたけど、
     番組収録直前にトーン屑とインク汚れ見えて焦ったりしたんで、デジタルに乗り換えたッス」

クラリス「それと同じです。環境が変われば人は変わります。それを許さなければ、逆に人が歪んでしまいますから。
     願わくば、その変化が『貧すれば鈍す』形でないことを。
     …教会の経済苦を発端にアイドルになった私に、祈る資格があるかわかりませんが」

比奈  「立派なことじゃないッスか。少なくとも、私はそう思ってますから。
     あ、もう着替えて大丈夫ッスよ。描くものは描いて、撮るものは撮れましたから」

クラリス「…あの、比奈さん」

比奈  「なんすかー?」

クラリス「こちらの服の確認はよろしいので?」

比奈  「こちらって言われ…て…も…………」

クラリス「あら、大丈夫ですか?口をパクパクなさってますけど。
     もしかしてこの部屋、酸素が薄くなってたりするのかしら」

比奈  「だ……だ…だって、それ、セイント・テールのステージ衣装じゃないッスか!!
     そんなシロモノどうしたんすか!?」

クラリス「衣装倉庫にあったものを、頼みこんでお借りしましたの。
     一昨日の夜に相談を受けてから、比奈さんのお力になれないかと思いまして、
     できる限りの手を尽くしてみたんです」

比奈  「じゃあ、リビングにあった新装版の方の『怪盗セイント・テール』って…」

クラリス「ええ、一昨日の帰りにまとめ買いしました。
     その際にお店で偶然、この作品が昔ミュージカル化されていたことを知りまして。
     昨日事務所でそれとなくプロデューサー様に聞いたら、私達の事務所の前身が興業元だったと…
     ダメ元で衣裳部に駆けこんだら衣装は無事、今日だけという約束でお借りさせていただけた次第です」

比奈  「めちゃくちゃ気ィ使わせてる上に無理もさせてるじゃないッスか!!
     いや、ほんともう、なんかスンマセン…」

クラリス「人のために手を尽くすのは私の望みですもの。謝る必要はございませんわ。
     ただ、ご迷惑になるならこの衣装は今すぐお返しして、ここに至る件も忘れていただければ…」

比奈  「お願いします!!見せてください!!めっちゃ見たいです!!!
     ただのコスプレ衣装じゃない、公式監修入ったミュージカル衣装とか一生に一度見れるかわからないんで!」

クラリス「頭を上げてくださいな。私は運が良かっただけで、大したことはしていませんわ。
     ですが…せっかくの機会ですもの、見る以上の経験もしてみませんか?」

比奈  「え?見る以上って…ちょ、なんで靴下脱がすんスか!?」

クラリス「暴れないでください比奈さん、貴重な衣装が傷モノになってしまいますわ。
     ああ、足が冷えるのですね。なら先に手袋からいきましょうか」

比奈  「ひぃぃぃ…!」

-教会-

シスター「こんにちわ…って、クラリスちゃんじゃないの!」

クラリス「お久しぶりです。有期誓願の更新に参りました」

シスター「アイドルのお仕事で忙しいだろうにまぁ…終生誓願に切り替えるならまだしも、
     更新だけならメールなりなんなりで連絡くれればやっちゃうよ?」

クラリス「お心遣い、感謝しますわ。ただ、今日は他に野暮用もあるんです」

シスター「野暮用?」

クラリス「私がここに封印していったものを引き揚げようかと」

シスター「封印…ああ、アレか。大事に保管してあるよ」

クラリス「ありがとうございます」

シスター「よっし、これだね。…マンガ本だよね、これ」

クラリス「ええ、私の大好きな作品ですわ。
     教会関係以外ではじめて両親から贈られたものなので、思い入れも深くて。
     ただ、これをきっかけに修道院入りしたと、安直に思われるのが嫌だったんです」

シスター「それで封印、ね。でも引き揚げるってことは…」

クラリス「もう少しで、おおっぴらに読める時が来るので。
     新装版も買ったんですが、ちょっと違う感じがしたので」

シスター「まぁ、慣れ親しんだものじゃないとしっくりこないってコトはあるよね。
     初版の実名入りサイン本ってのも、またスゴイけど」

クラリス「筋金入りですから。こんな写真もあったりして」

シスター「どれどれ。…!!ウチのと違うこの白い修道服の子って、まさか!」

クラリス「ええ。20年来の夢が叶うなんて、思ってもみませんでした」


クラリス(身勝手に巻き込んでしまった形になってごめんなさいね、比奈さん。
     でも私の燻っていた心に火を点けたのは、貴方なんですよ?
     環境が人を変えるって、こういうことでもあるんです)

-トレーニングルーム脇・休憩室-

デレP 「で、この写真に至る、と」

比奈  「なーんでこんなにコトが大きくなっちゃったんスかねー」

デレP 「むしろオレが聞きたいんだけどなソレ。
     衣装部が当時の衣装一式を発掘した現場に企画担当も居合わせてて、
     その担当が提出した20周年企画に迷わずクラリスがこの写真をブン投げるってさ…。
     経営統合する前の興業だったから、ぶっちゃけ衣装は残ってないものと思ってたぞ」

比奈  「先に言っときますけど、私はホントに聖良ちゃんの衣装描く参考にしたいだけだったんスよ。
     その写真もクラリスさんが強引に衣装着せて撮られただけで…」

デレP 「でも、騒いだだけで抵抗しなかったんだろ?」

比奈  「えーっと…それはまぁ、その、たしかにもう二度目はないかなーって…」

デレP 「おかげで一生にあと最低20回は着れるワケだな。その代わり大変だぞ?
     クラリスのやる役と違って、この主人公めっちゃアクションするからな」

比奈  「わかってるッス…というか、今現在進行形でわからされてるッス」

デレP 「トレーナーさん総出の特訓とか、ホント容赦ないもんなー。
     オレが見に来た時点でもう死にそうだったし。
     それにポニーテールを地毛でやるために髪も伸ばさないと」

比奈  「しかもそこに原稿被るんスよね…ただの合同同人誌のつもりが、
     気付いたら公式スタッフ参加のガチ記念本になるとかプレッシャーかかりまくりッスよ」

デレP 「ハタから見ればプレッシャーかけた火付け人は比奈なんだけどなー」

比奈  「でぇすよねー!…あー、でもマンガの主人公役って嬉しいっちゃ嬉しい…」

デレP 「そう言うと思ってな、ちょっと衣装室行ったらこんなもん出てきた」

比奈  「…これ、ドラマ版の方のらんま1/2のヤツじゃないッスか!!」

デレP 「他にも色々出てきてな。どうよ、着てみる?」

比奈  「着たら絶対また地獄の特訓ループじゃないッスか!着ません!!」

デレP 「でも、次の機会はないかもしれないぞ?」

比奈  「う゛っ…で、でも今は無理ッス!!」

デレP 「今は、かー。いやー、人って変わるもんだよな。
     いっそ『マンガ実写化に定評のあるアイドル』まで行っちゃう?」

比奈  「そ、そんな炎上かネタキャラの二択が確定する道はマジ勘弁ッス!
     あぁもう、ホントに芽美ちゃんみたいに手品で逃げれないかなぁコレ!!」
[END]

これにて終わりでございます。
今年は『怪盗セイント・テール』最終回から20年目というタイミングだったり。
ミュージカル復活はともかく何がしか動きは期待したいですが、昨年のなかよし60周年で
グッズ製作(ただしプレバン限定販売)とか既にしちゃってるのでどこまで動くのやら…

修道服を着ない修道女、というのは本当にいます。環境が人を変えるという実例ですが、
「フランスのトレドでは私服どころか化粧や煙草もOKだぞ!」とまで行くと適応力凄すぎるなとも思ったり。
クラリスさんや『天使にラブソングを』みたいに修道服着てるけどやってることは違う、という方向性と合わせると
「見た目もやってることもさっぱり修道女っぽくないけど実は修道女です」という形にまで行くかもしれません。

…でも修道服萌えェ!!(本音)

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