提督「新年の秘書艦夕雲さん」 (39)


 二三五九 提督執務室――


提督「……」カタカタカタ

提督「…………」スッ カチッカチッ


 ポーン… ポーン… ポーン…


提督「……あー」カタカタカ

提督「今年もこんな年越しか……」


「あら、ご不満ですか?」

提督「……夕雲がいなかったら不満だったろうね」

夕雲「まぁ。お上手ね」


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夕雲「それはともかく。あけましておめでとうございます、提督」

提督「あけましておめでとう、夕雲。今年もよろしく頼むよ」

夕雲「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

提督「というわけで、早速初仕事を頼んでいいかな」

夕雲「もちろん。夕雲に任せて?」


 〇一四五 提督執務室――

提督「っあー……とりあえず一区切りかな……」

夕雲「お疲れ様でした。……はい、どうぞ。ホットココアです」

提督「ありがとう。……ふぅ、すまないな、こんな時間まで付き合わせて」

夕雲「いいえ。夕雲の好きでお付き合いしたんですから、提督は気にならさないで?」

提督「そう言ってくれるのは有り難いけどね。去年からそういう君に頼り過ぎな気がするからな」

夕雲「もっと頼ってくれてもいいんですよ?」

提督「そのうち何もできない男になってしまいそうだな……」

夕雲「提督なら夕雲が養ってげてもいいわ」クスクス

提督「勘弁してくれ」ハハハ


 〇一五五 執務室前廊下――

提督「じゃあ、また朝にな」

夕雲「はい。しっかりお休みになってくださいね」

提督「夕雲もな。悪いが一週間もしないうちに出撃もある。寝不足で被弾なんて御免だぞ」

夕雲「そこは艦娘としてしっかりやらせてもらいます」

提督「しっかり、ね。その割には夜更かしが多くないか?」

夕雲「秘書艦としてもしっかりやらせてもらってますから」

提督「そうきたか。なんにしても、無理はするなよ」

夕雲「はい。……おやすみなさい、提督」

提督「うん、おやすみ。夕雲」


 〇六〇〇 鎮守府内 提督仮眠室――

提督「……うぅん」モゾモゾ

提督「ぁー……朝……朝ね……」

提督「〇八〇〇始業……新年早々平常運転、いい職場だ」

提督「いつも通りの飯でも食いに行くとするか」ヨッコラセ


 〇六四〇 鎮守府食堂「間宮」――

  ガヤガヤ
提督「…………」

提督「……なんだこれ」

北上「お、提督じゃん。あけおめー」モムモム

提督「おお、おめでとう、北上。……何食ってるんだ、それ」

北上「んー? 栗金団だよ。提督も食べる? 美味しいよ」

提督「そりゃ美味かろうよ。じゃなくてな、このおせち料理の山は一体……。間宮! 間宮ー!」

間宮「はーい! あら提督! あけましておめでとうございます」

提督「ん、おめでとう。いや、それよりどうしたんだこのおせちの山は」

間宮「え? 提督がご許可くださったんじゃないですか? 『英気を養うためにも新年は贅沢に祝おう』と仰ってたって、そう聞いて私感動しちゃって……」

提督「……誰が言ってた?」

間宮「え? 夕雲ちゃんですけど」

提督「夕雲ぉー!!」


夕雲「はいはい、なんですかぁ? そんな大きな声を出さなくても聞こえてますよ」

提督「うおっ、厨房に居たのか……」

夕雲「どう? 似合います?」クルン

提督「いや、割烹着はとてもよく似合ってるけどな。……いや、おせちなのになんで厨房に」

夕雲「皆さんおせちだけで足りると思います?」

提督「あぁ、そりゃそうか……いや、それよりもだな」

夕雲「この状況の話?」

提督「そうだ。こんな許可を出した記憶はないぞ」

夕雲「そうかしら」パサッ

提督「…………『新年の食堂における特別料理の提供に関する許可書』」

夕雲「誰のサイン入りに見えます?」

提督「……俺のサイン入りに見えます」


提督「……いつだ?」

夕雲「クリスマスの前々日だったかしら」

提督「一番ごちゃごちゃしてた時か……」

夕雲「あの時の提督に出したら渋ったでしょう?」

提督「そんなこと――あるかもなぁ……余裕、なかったし」

夕雲「ごめんなさい。許してもらえるかしら」

提督「許すも何も、非があるとしたら気付かなかった俺だ。それに、実際士気の向上に一役買っているようだし、むしろ感謝したいくらいだよ」

夕雲「ありがとうございます。お詫びというわけではないですけど、お料理は腕によりをかけましたから」

提督「そこは心配していないよ。……じゃ、せっかくだ。おせちをいただくとするよ」

夕雲「はい、どうぞめしあがれ」


 ○八〇〇 提督執務室――


提督「さ、仕事始めといこうか。今年も一年、よろしく頼むよ。夕雲」

夕雲「えっ? ……え、ええ、そうね。よろしくお願いしますね、提督」ソワソワ

提督「……? どうかしたのか?」

夕雲「いえ、なんでもないわ。…………あの子たち、遅いわねぇ……」ボソッ


 ガチャッ バーン
巻雲「司令官様! あけましておめでとうございみゃうっ!?」ツルッ

長波「っと……新年早々巻雲は危なっかしいなぁ。提督、今年もよろしくな」ヒョイ

清霜「もぉ、清霜が一番に挨拶しようと思ったのにぃ! しれーかん! あけおめことよろです!」タタタッ

高波「巻雲姉さまは少し慌て過ぎかも、でわひゃあ!」ツルンッ

風雲「貴女は不注意すぎよ。しっかりしてよね。あ、提督、あけましておめでとう」ヒョイー

朝霜「な、なぁ、やっぱアタイはこういう格好は――」オロオロ

早霜「大丈夫……。よく似合ってる。司令官、見てあげて」グイー

提督「なんだなんだなんだ」

夕雲「あらあらあら、ようやく来たのね」


提督「夕雲型勢揃いじゃないか。しかも綺麗な着物まで着て。壮観だな」

夕雲「みんなで提督にご挨拶をと思って。はい、夕雲型、整列!」

提督「む」

夕雲「夕雲型一同、昨年以上に粉骨砕身、一層奮励努力して参ります。本年もよろしくお願いします」

『よろしくお願いしますっ!』ビシッ

提督「うん。こちらこそよろしく頼む」ビシ

夕雲「ふぅ。……本当は始業前に来るように言っておいたんですけど……。貴女たち、何をしていたの?」

風雲「ごめんね夕雲姉さん、朝霜がなかなか晴れ着着るのを渋るのよ」

朝霜「こういう窮屈なのは性に合わないんだよ……」

巻雲「嘘ですよー、司令官様。朝霜、ずっと言ってましたもん。『どれがアタイに一番似合うのかなぁ』って」

早霜「そう。『ヘタなもん司令に見せらんねぇしな』って」

清霜「だからー、とびきり可愛いのを清霜が一緒に選んだの!」

長波「そしていざ当日になってみれば『無理だ! こっ恥ずかしい!』だからな」

高波「とっても可愛いかも、ううん、可愛いですよ、ね?」

朝霜「姉貴ィ!!」カアッ


提督「可愛すぎか」ニヤニヤ

朝霜「司っ……だっ……~~くっ!」ダッ

長波「逃げたぞ! 追え!」ダッ

清霜「逃がさないから!」ダッ

風雲「あっ、こら! 着物でそんな走ったら――!」

早霜「巻雲姉さんが転びます……」

巻雲「ひゃわぁ!?」ステーン

提督「えぇ……」

風雲「ちょっと、巻雲姉ぇ大丈夫?」

高波「あの、騒がしくしてごめんなさいかも、です……」

提督「いや。賑やかでいいじゃないか。新年から元気でいいことだ」

夕雲「そう言ってくれると助かるわ……。本当に、この子たちは……」ハァ


提督「みんなわざわざ来てくれてありがとうな。今年も君たちには期待しているよ」

巻雲「はいっ。巻雲、いつでも万全の態勢で……あれぇ? 帯がぁー……」ダラン

風雲「あーもう、あとで直してあげるから。提督、私たちはこれで失礼するわね」

提督「うん。ああそうだ、朝霜に『よく似合っていた』と伝えておいてくれ」

早霜「ええ。伝えるわ……録音しながら。ふふふ……」

提督「はは、程々にしてやれよ?」
 キィバタン

夕雲「ごめんなさい、時間をとらせてしまって」

提督「いや。嬉しかったよ。さ、彼女たちのためにもやることをやっていくとしよう」

夕雲「はい」


提督「……ところで」カタカタ

夕雲「はい?」

提督「夕雲は着物じゃないんだな」スイー カチカチッ

夕雲「夕雲は勤務中ですから」

提督「そうか……」ショボン

夕雲「……そんなに夕雲の晴れ着姿が見たかったの?」クスクス

提督「ああ。見たかった」

夕雲「そ、そう……そんなに直球で言われると、流石に恥ずかしいわ」

提督「事実だからな。残念だ。実に残念だ」

夕雲「はいはい。残念でしたね。さ、お仕事を片付けましょう」

提督「うむ、残念だ」カタカタカタ  ッターン

夕雲「…………」


 一二〇〇 提督執務室――


提督「ん……そろそろ昼飯でもとるか。夕雲、一緒に行こうか」

夕雲「あ……その、ごめんなさい、提督」

提督「ん?」

夕雲「申し訳ないのだけど……夕雲、ちょっと妹たちのところに行かなければならないの」

提督「あ、あぁ……そうか。そういうことなら仕方ないな」

夕雲「本当、ごめんなさいね」

提督「いやいや、何も気にすることはないよ。ゆっくりしてくるといい」


 一二一〇 鎮守府食堂「間宮」――


提督「……思えば一人で食事をするのは久しぶりな気がするな。普段は夕雲が一緒だったし、夕雲が居なくても代理の秘書艦と一緒だったし……」

間宮「いらっしゃ……あら、提督」

提督「や。A定食を頼むよ」

間宮「かしこまりました。あ、改めて今日はありがとうございました。あんな豪華な御節を作らせていただけて、給糧艦冥利に尽きます」

提督「いやなに。しかし、間宮に喜んでもらえるとは意外だな。仕事を増やして申し訳ないと思っていたんだが」

間宮「こういうやりがいのある仕事なら大歓迎ですよ! それに、年末から夕雲ちゃんや他の艦娘のみなさんにも手伝っていただいたので、助かりましたし楽しかったです!」

提督「何……? 夕雲のやつ、そんなことまでしてたのか」

間宮「ええ。夕雲ちゃんったら、手際もよくて正確で丁寧で……食堂で働いてほしいくらいです」

提督「やらんぞ?」

間宮「わかってますよぉ。夕雲ちゃんは提督の――って、あら? そういえばその夕雲ちゃんは今日は一緒じゃないんですね」

提督「ああ。巻雲たちのところにいってる」

間宮「なるほど。お正月ですものね。……少し寂しいとか思ってます?」

提督「まさか。姉妹仲がよくていいじゃないか」

間宮「とは言いつつも本当は?」

提督「…………ま、少しな」

間宮「きゃー☆」

提督「ええいやかましい。比叡と磯風のお料理教室に通わすぞ」

間宮「ごめんなさい! それだけは! はい! A定食お待たせしました! エビフライ増量ですよ!」

提督「まったく……」


 一三一〇 提督執務室――


提督「……遅いな」

 コンコン
夕雲「提督? 夕雲です。遅くなってごめんなさい」

提督「お、来たか。入っていいぞ」

夕雲「失礼しますね」ガチャッ

提督「珍しいな、夕雲が時間に遅れるなん……て……」

夕雲「ごめんなさいね。思ったより着付けに手間取ってしまって」

提督「…………」

夕雲「提督があまりにも残念そうにするので、着てみたんですけれど」

提督「…………」

夕雲「あの……提督? 夕雲には似合わなかったかしら……」

提督「…………はっ。あまりの可憐さに見とれて意識が飛びかけていたようだ」

夕雲「、んもぅ、お上手ね」テレ


提督「俺の我が儘のためにわざわざ着てくれるなんて……」

夕雲「お正月ですもの。このくらいいいかと思って。それに」

提督「それに?」

夕雲「巻雲さんたちを見てから、実は夕雲も着てみたかったの」

提督「はは、なるほどね」

夕雲「さ、提督、夕雲の晴れ着姿で元気が出たでしょう?」

提督「おぉ、普段の三倍は働けそうだ」

夕雲「素敵だわ。それじゃあ、午後のお仕事と参りましょうか」

提督「とはいえ、せっかく着てもらったのにこのまま仕事ってのもなぁ……」

夕雲「それは……仕方ないですね。夕雲も少し勿体ない気持ちはありますけど」

提督「ほお……」ピン


提督「いたたたたたた、急に腹痛がー」

夕雲「え? ……あの、提督?」

提督「いやー、急にお腹が痛くなってしまったなー、これじゃ仕事ができないなー」チラッ

夕雲「……! あらー、それは大変ですねー。大事をとって今日は午後はお休みにしましょうかー」

提督「いたたたー、すまないが休ませてもらうよー」

夕雲「……はい、では午後はお休みということで」

提督「うむ。そして何故か休むと決めたら腹痛が治まってしまった」

夕雲「それはよかったわ。でもお仕事はお休みにしてしまったし……」

提督「鎮守府に籠もっていてもやることがないなぁ。夕雲、せっかくだし初詣にでも行こうか」ニヤリ

夕雲「あら、いいですね。お正月ですものね」ニコッ


提督「というわけで準備をしてくるよ」

夕雲「夕雲も少しお時間を頂きますね。……まったく、悪い提督ね」

提督「悪い秘書艦がついてるからね」

夕雲「まぁ酷い。夕雲は新年早々悪の片棒を担がされてしまって悲しいわ」

提督「という割にはノリノリだったじゃないか」

夕雲「それは……夕雲も晴れ着で提督と歩きたいと思って」

提督「夕雲……」

夕雲「我が儘な夕雲は嫌い?」

提督「余計好きになった」

夕雲「んもう。やっぱり悪い提督だわ」


 一四三〇 某神社――

 ワイワイガヤガヤ
提督「うお……午後ならマシかと思ったが全然そんなことないな」

夕雲「元日ですもの。仕方ないわ」

提督「夕雲、はぐれるなよ」ギュ

夕雲「提督こそ迷子にならないでくださいね」ギュ

提督「こいつめ」

夕雲「うふふ」


 パンパン
提督「…………」

夕雲「…………」

提督「……よし」

夕雲「何をお願いしたの?」

提督「もちろん、皆の武運長久を」

夕雲「夕雲と同じね。夕雲はもう一つお願いしましたげど」

提督「なんだ、夕雲もか」

夕雲「提督も? 気になるわね」

提督「こっちも夕雲と同じなんじゃないかな」

夕雲「……提督、ナルシストだったの?」

提督「は? ……あ、なるほど。お前なぁ……」

夕雲「冗談よ。でも、やっぱり同じだったみたいですね」クスクス


提督「さて……ん、お神籤か」

夕雲「引いていきましょうか」

提督「こういう運試しみたいなのってあんまりいい思い出がないんだよなぁ……大型建造……羅針盤……うっ、頭が……」

夕雲「これがいい思い出の第一歩かもしれないわ」

提督「どうかな。ま、初詣に着てお神籤を引かないってのもな」チャリン カラカラ

夕雲「夕雲も引くわね」チャリン カラカラ

提督「はてさて……うわぁ……」

夕雲「……あら、大吉だわ。提督は……随分と渋いお顔をしてるわね……」

提督「凶だってよ」ハァ

夕雲「あらまぁ……。でも、お神籤は内容が大切ですから」


提督「待人:来ない。失物:出ない。学問:実らず。……辛辣過ぎやしないか?」

夕雲「待人:来る。失物:すぐに出る。学問:励めば実る。……いい感じね」

提督「恋愛:身近な人に想われている……」

夕雲「恋愛:身近な人に想われている……」

提督「…………」チラ

夕雲「…………」チラ

提督「……ははっ」

夕雲「……うふふ」

提督「うん、まぁ、悪くないんじゃないかな」

夕雲「いい思い出になったわね」


提督「これは財布にでも仕舞っておこう」

夕雲「悪い運勢のお神籤は結ぶといいって聞きましたけど」

提督「確かにな。でも悪いものこそ戒めとして持ち歩けって話もあるぞ」

夕雲「あら、そうなんですか」

提督「なによりこんな素敵な内容のものを結んでいくなんて勿体ないだろう?」

夕雲「確かにそうね。夕雲もお財布に入れてずっと持ち歩くことにします」


提督「さて……そろそろ戻るか。……サボって黙って出てきたからなぁ。変な騒ぎになってないといいが」

夕雲「それなら夕雲が置き手紙を残しておいたわ」

提督「お、でかした」

夕雲「『夕雲とデートしてきます。提督』って」

提督「お、しでかした」

夕雲「大丈夫よ。夕雲も一緒に怒られますから」

提督「それは大丈夫というのか?」


提督「ああもう、こうなったら自棄酒だ」

夕雲「お酒なんて……あぁ」

<甘酒だよーいかがっすかー

夕雲「あれね?」

提督「そういうこと」

おっさん「いかがです、一杯」

提督「どうも、頂きます」

おっさん「ほい、お嬢ちゃんも」

夕雲「ありがとうございます」

おっさん「娘さんかい?」

提督「は……まぁ、その……」

おっさん「いいねぇ。別嬪さんだねぇ。晴れ着もよく似合ってるよ」

夕雲「ありがとうございます」

おっさん「うちの娘もこのくらいなんだけどねぇ、もう『お父さん、臭い!』とか『一緒に洗濯しないでって言ったじゃん!』とか……」

提督「はは、男親のつらい時期ですね」

おっさん「そちらはとても親子仲が良いようで羨ましい限りですわ」ハッハッハ

提督「……」ズズッ

夕雲「……」ズズッ


提督「どうも、御馳走様です」

おっさん「あいよ。お嬢ちゃん、お父さんは大事にしてやるんだぞ」

夕雲「はい。御馳走様でした」

提督「……」

夕雲「……」

提督「…………」

夕雲「……お父さん」

提督「やめなさい」


提督「はああぁ~……」

夕雲「どうしたの? 大きなため息ね」

提督「なんというか……やっぱり端からはそうみえるんだな、ってね」

夕雲「さっきのこと? 気にすることないわ、お父さん」

提督「だからやめなさい。俺にそんな特殊性癖はない」

夕雲「目覚めるかもしれませんよ?」

提督「……夕雲は俺がそんなでもいいのか?」

夕雲「別に提督の本質が変わるわけではないでしょう?」

提督「そりゃそうかもしれんが……俺も夕雲みたいに器のでかい人間だったらなぁ……」

夕雲「お父さんなら大丈夫よ」

提督「やめてください……」

夕雲「はいはい」クスクス


 一七〇〇 提督執務室――


夕雲「置き手紙を見つけたのが長波さんで助かったわね」

提督「呆れられてしまったがな。まぁ金剛あたりに見られるよりはマシか。……さて、今日はサボってしまったからな。明日はしっかりやらないと。やれるところは片付けておかないとな」

夕雲「夕雲もお手伝いします。とりあえず、まずは着替えてきますね」

提督「は?」

夕雲「え?」

提督「それを着替えてしまうなんてとんでもない」

夕雲「でも、動きづらいわ」

提督「そこをなんとか……」

夕雲「……もう、仕方がありませんね」


 二〇〇〇 提督執務室――


提督「ふぅ……こんなものか」

夕雲「お疲れ様でした。お茶をどうぞ」コトッ

提督「ありがとう」ズズッ

夕雲「今日はこれでおしまい?」

提督「そうだな。あとは明日だ」

夕雲「ふぅ。着慣れない服だと大変だわ。流石に明日も晴れ着というわけにはいきませんね」

提督「見納めか。……うーん、見れば見るほど惜しいな……」

夕雲「もう、ジロジロと見すぎですよ。夕雲は戻って着替えますね」

提督「あ、」

夕雲「何か?」

提督「あー、その……なんだ」

夕雲「……! そういうことね」クスクス

提督「ぐ……そんなにわかりやすいか?」

夕雲「提督のことですから。せっかくの着物……こんな機会滅多にありませんものね?」ギシッ

提督「…………汚れるぞ?」

夕雲「ならやめます?」

提督「……やめるとは言ってない」

夕雲「うふふ。提督も好きなんだから」


 翌一七三〇 提督執務室――


提督「終わらねぇ……」

夕雲「昨日の分が響いてますからね」

提督「やっぱ仕事はサボったらだめだなぁ」

夕雲「当然です。……まぁ、たまになら、いいかもしれませんけど」

提督「……たまになら、ね」

 コンコン
提督「誰かな。あいてるよ」

風雲「風雲です。失礼します。夕雲姉さんは……あ、いた」

夕雲「はいはい、なんですか?」

風雲「夕雲姉さんの着物が見あたらないんだけど、どこに仕舞ったの?」

夕雲「あぁ、それなら朝一番でクリーニングに出したわ。昨日少し汚してしまって」

風雲「汚して? 帰ってきたときはさんなこと――あ、そ、そうなんだ。りょーかい」チラ

提督「……どうした? 俺の顔に何か?」

風雲「い、いえ! なんでもないです! 失礼します!」バタンッ

提督「…………」

夕雲「…………」


提督「……なぁ、これって」

夕雲「はい」

提督「バレてる?」

夕雲「想像はしてるんじゃないかしら」

提督「うわぁ……顔合わせづらいなぁ……」

夕雲「いっそ見せつけてあげればいいのよ」

提督「……アホなこと言ってないで、仕事するぞ仕事」

夕雲「はいはい。ではこれとこれは夕雲が整理して統合しますから、あとで確認をお願いします。こちらは提督に精査してもらったら夕雲がまとめて形にします。それとこの戦闘詳報ですけど、金剛さんと愛宕さんの報告書と合致しない部分があるので戦闘記録の再確認をしてもらってます。提出は少し待ってくださいね。そしてこっちは軍令部からの優先指令です。必ず目を通してくださいね」

提督「…………」

夕雲「何か?」

提督「……いや。今年もやっぱり優秀な秘書艦だな、とね」

夕雲「夕雲を選んでよかったでしょう?」

提督「全くもって。頼りにしてるよ、秘書艦殿」

夕雲「はい。今年もたくさん頼って――いえ」




夕雲「甘えてくれても、いいんですよ?」


おしまい。


遅ればせながら夕雲さん限定グラおめでとう!ありがとう!
この調子で限定ボイスとか改二とか、どうですか運営さん。

よければ前作
提督「うちの秘書艦夕雲さん」
提督「うちの秘書艦夕雲さん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1395405681/)
提督「休日の秘書艦夕雲さん」
提督「休日の秘書艦夕雲さん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434116685/)
もよろしくお願いします。

ではお読みいただいた方、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月18日 (金) 17:45:31   ID: 72yICTSZ

やっぱこの人いいなぁ

でかした~しでかしたの流れで草

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