魔王「世界の半分をやろう!」介護ヘルパー「受け取れませんねぇ」 (24)

ヘルパー「ヘルパーは利用者さんから物を受け取ってはいけないって決まりがあるんですよ~」

魔王「ほう…その決まりとは絶対的なものか。この我の褒美が受け取れぬと申すか!!」

ヘルパー「受け取っちゃったら私、魔王さんの担当外されちゃいますよ」

魔王「むむ…」

ヘルパー「あと魔王さんも足が悪いんですから、世界征服も程々にしといた方がいいですよ~」

魔王「むむむ…」

ヘルパー「それではお時間になりましたので、失礼しますね~」

魔王「………」



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魔王「勇者との抗争による足腰の衰えに危機感を覚え、入浴介助の為ヘルパーを雇って半年…」

側近「ヘルパーさんを雇う前はひどかったですね。配下の魔物は介護のコツを知らぬ者ばかりで、力加減を知らぬわ介護事故を起こすわ、腰を痛めるわ介護疲れで欝になるわ」

魔王「だがヘルパーにより入浴中の安全は守られ、あれだけ苦労していた背中の洗身の悩みも払拭された」

側近「えぇ、本当にありがたい限りです」

魔王「これは何としてもヘルパーに褒美をやらねば気がすまぬ! 前回は世界の半分をやろうとして断られたが…」

側近「その上、お体の調子まで心配して下さいましたね」

魔王「世界の半分をやれば上司にバレてしまうからな。我も反省した。側近、我の言うものを用意するのだ!」

側近「かしこまりました」

ヘルパー「いやぁ~…ちょっと受け取れないですねぇ」

魔王「何故だ! 宝石は嫌いか!」

ヘルパー「とても綺麗で素敵なんですけど、ヘルパーは利用者さんから物を受け取ってはいけないんですよ~」

魔王「黙っていればバレまい!」

ヘルパー「ふふ。魔王さんの宝石のようにぴかぴかしたお気持ち、有り難く受け取りました」

魔王「何を! 我は魔王、この世を暗黒に包む者だぞ!」

ヘルパー「あ、ごめんなさい。お時間なので失礼しますね~」

魔王「むむむ……」

魔王「何故だ! 何故バレぬのに駄目なのだ!」

側近「介護者の決まりのようですからね。決まりに忠実な良いヘルパーさんと言えるでしょう」

魔王「では法を変えるぞ! 側近、福祉課に命令を出すのだ!」

側近「御意」

ヘルパー「ごめんなさい、受け取れません」

魔王「何故だ! 法改正したから、受け取っても問題はないぞ!」

ヘルパー「介護者の良心として…ですかねぇ」

魔王「介護者の良心…だと?」

ヘルパー「利用者さんから物を受け取るのがオーケーになってしまうと、例えば利用者さんから金銭をだまし取るヘルパーも出てくるじゃないですか」

魔王「お主はそんなことせんだろう」

ヘルパー「しませんけど…あ、お時間なので失礼します~」

魔王「むむむぅ……」

側近「早速、法律を元に戻したのですね」

魔王「まぁヘルパーの言う通り、悪質な介護者が出てはまずいからな」

側近「高齢者は判断力が落ちていますからね」

魔王「しかし、どうすれば良いのか…」

側近「…そうだ、目に見えぬものはどうでしょうか」

魔王「…ほう?」

ヘルパー「いやぁ、ちょっとそれは」

魔王「何だと! 力が要らぬと申すのか!」

ヘルパー「介護ヘルパーは戦闘職じゃないですからね~」

魔王「しかし肉体を使う仕事だろう! 我の暗黒の力を使えば、お主の肉体は闘神の如く強靭なものとなるであろう!!」

ヘルパー「魔王さんその力使うのに、MPどれくらい使うんですか?」

魔王「人間1人を強化するのだからな。全体の3分の1といったところか」

ヘルパー「介護ヘルパーが利用者さんに力使わせちゃ駄目じゃないですか~」アハハ

魔王「む…しかし我にとっては……」

ヘルパー「あ、お時間なので失礼します。また宜しくお願いしますね~」

魔王「むううぅぅ~…」

魔王「暗黒の力も駄目となると、もう我に残された手札は…!!」グヌヌ

側近「ヘルパーステーションの方にお歳暮とか贈っておきますか?」

魔王「ヘルパーに直接褒美をやりたいのだ!」

側近「ふむ…」

魔王「どうすれば良いのだ…ヘルパーが男なら姫をさらってきて、あてがうこともできるのだが…」

側近「では王子でもさらえばどうでしょうか」

魔王「駄目だ! そんなことをしては全世界に我がソッチ系だと思われる!」

側近「ヘルパーさんが男同士とか好きな人かもしれませんよ」

魔王「むむ…そうか、では早速」

側近「間に受けないで下さい。というか魔王様、やることがいちいち大げさなのでは?」

魔王「大げさ…だと!?」

ヘルパー「さーて、お風呂掃除も終わったし…あとは記録書いて仕事終了かな」

魔王「ヘルパーよ…」

ヘルパー「あら魔王さん、どうしました~」

魔王「これ…褒美だ」

ヘルパー「あら、飴玉」

魔王「こ、このようなもので悪いのだが…」

ヘルパー「…ありがとうございます、魔王さん」ニコニコ

魔王「!!」パアァ

魔王(受け取ってもらえた!!)

魔王(そうか飴玉なら受け取るのか! よし、ヘルパー用の飴玉を買っておくか!!)

<ヒソヒソ

魔王(む? あれはヘルパーと側近、何を話しておるのだ?)


ヘルパー「すみません、魔王さんにこれ頂いたんですが…。お返しします」


魔王「!!」


側近「受け取って頂けないのですか? 飴玉を受け取った位で、問題にはなりますまい」

ヘルパー「こちらも毎回断るのは心苦しいものがあるんですが、やっぱり……」

側近「そうですね。ヘルパーさんの都合を考えずに押し付けてしまい、申し訳ありません」

ヘルパー「あ、でも返したとなると魔王さん傷ついてしまうと思うので! 魔王さんにはわからないように戻しておいて下さいますか」

側近「かしこまりました。こっそり飴入れに戻しておきます」


魔王「……」

魔王「ううぅ…」グスッ

側近「どうされたのですか、魔王様」

魔王「ヘルパーに、褒美をやれない…」グスグス

側近「おや…見られてしまいましたか」

魔王「ヘルパーにお礼がしたい、何かあげたい……」グスッグスッ

側近「……」

側近「魔王様、魔王様の様子を拝見して気付いたのですが……」

魔王「何だ?」ズズッ

ヘルパー(さて、記録も書いたし仕事終わりかな)

魔王「ヘルパー…」オズオズ

ヘルパー「あら魔王さん、浴後の疲れは取れましたか~?」

魔王「うむ…、そ、それでだな」

ヘルパー「?」

魔王「その…えぇと…」





魔王「いつも――ありがとう」

ヘルパー「――!」

ヘルパー「…ふふ、魔王さん。私、魔王さんの担当になって、今日が1番嬉しいです」

魔王「そ、そうか?」

ヘルパー「えぇ…魔王さん色んな形でご褒美を下さろうとして、その気持ちも嬉しかったんですけれど…」

ヘルパー「私が1番嬉しいのは――『ありがとう』のお言葉だったんです」

魔王「そうか…そうだったのか」

それから…


ヘルパー「それでは魔王さん宅に行ってきますね~」

上司「ヘルパーさん、最近魔王さんの家に行くのが楽しそうね」

ヘルパー「そうですね! 魔王さんの入浴介助は、こちらも気分良く入らせて頂いています」

上司「まぁ、それは良いことね~」


そう。給料安い、汚い、きついの3Kと言われてている介護ヘルパーだけど――


ヘルパー「魔王さーん、今日も宜しくお願いします~」

魔王「いつもありがとう」ニコニコ


利用者さんの『笑顔』と『ありがとう』が、ヘルパーを元気にするのだ。


ヘルパー「こちらこそいつもありがとうございます、魔王さん!」


終わり

「ありがとう」の言葉はとても大事。
高齢ネタが好きなので、去年のキングオブコントはうしろシティのネタで1番笑いましたね。


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