右手と左手【ラブライブ】 (117)


シリアス展開で描く ことほのうみ です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1452443408


また、内容が途中完全にシリアスなので苦手な方は読む前にご注意ください

スリリングなSSを目指していくつもりなので、どうかお付き合いください


どうしてこんな事になってしまったんでしょうか


今日は穂乃果とことりと一緒に街に繰り出していました

買い物をして、いっぱい遊んでいっぱい笑って、この後は美味しいものを食べに行って

明日も明後日もこんな楽しい毎日が続くのだと……

そう思っていました

なのに……



海未「穂乃果!」

穂乃果「海未ちゃん来ちゃダメぇっ!」

ことり「いやぁぁぁあ」


――――――


―――前日


ことり「ねえ海未ちゃん、明日ヒマ?」

海未「明日ですか?」


お昼を食べ終わり弁当箱を片付けているところに、ことりがそう尋ねてきました。

ことりの話では、明日は新しい服が欲しいからショッピングに付き合ってほしいとの用件でした。

明日は土曜日で学校は休み、μ's の練習もありません。つまり明日は丸1日休みとなっています。


穂乃果「ねえねえ、海未ちゃんも行くでしょ?」

ことり「穂乃果ちゃんも行くって言ってるし一緒に行こうよ」


そう言って、ことりと穂乃果は誘ってくれました


海未「そうですね。明日は特に予定もありませんし 、 朝の稽古が終わってからなら大丈夫ですが……」

穂乃果「やったー!」

ことり「うん、じゃあ決まりだね!」

海未「いや、私はまだ行くとは言ってませんが……」

ことほの「「え、行かないの!?」」ガタッ


そう言うと、急に二人が顔を近づけてきた


海未「ええぇっ!?」

穂乃果「海未ちゃん!? 休日に親友三人でショッピングだよ!シ・ョ・ッ・ピ・ン・グ ! 」

海未「ほ、穂乃果!顔が近いです///」

ことり「海未ちゃん」ウルウル

海未「ことりも上目遣いはやめてください///」

ことほの「「海未ちゃん!!」」

海未「……うっ///」

ことほの「…………」ジー

海未「…………はい、行きます」

ことほの「「いえ~い!」」


二人が嬉しそうにハイタッチをしています

明日は、本を読んだり新曲の歌詞を考えたりしてゆっくり過ごす予定だったのですが……


けっきょく強引に決められてしまいました


やはり二人にはかないません

――――――

期待


――屋上――


海未「はい、今日の練習はここまでです!お疲れ様でした」

穂乃果「疲れたぁぁあ」

ことり「穂乃果ちゃん、お疲れ様♪」

海未「穂乃果もことりもお疲れ様です」

穂乃果「あっ!海未ちゃん、そこのドリンク取ってえ」

海未「それぐらい自分で取ってください」

穂乃果「まあまあそんな堅い事言わずにさぁ、海未ちゃんお願い!」

海未「はぁ、今回だけですよ」


なんだかんだ言いつつも、けっきょく渡してしまいました

穂乃果はμ's のリーダーなのですから、もっとしっかりしてもらわないと困りますね

そんなことを考えている私に、穂乃果が話し掛けてきました


穂乃果「ねえねえ海未ちゃん、このチラシ見て!新しいクレープ屋さんができたんだって!」


穂乃果が見せてきたのはアキバに新しくできたというクレープ屋のチラシでした

目をキラキラさせながら楽しそうに話しかけてきます。


穂乃果「ことりちゃんがバイトしてるお店の近くだから行こうよ!」

海未「ええっと…、誘ってくるのは嬉しいのですが……」

穂乃果「?」

海未「……クレープ、ですか」


ことほの「「ええー!クレープを食べたことない!?」」

海未「はい」シュン

穂乃果「意外、というか……」

ことり「確かに海未ちゃん、自分から進んでそういうお店に行くことってないもんね」

海未「自分から買いに行く事があっても、いつも穂乃果の家の和菓子ばかりですし」

穂乃果「そうだよねぇ、新しいお店も私たちと一緒じゃなきゃ食べに行かないもんね」


あぁ穂乃果もことりも意外そうな顔をしています

そりゃあそうですよね

いくら外食が少ないとはいえ、高校生にもなってクレープのひとつも食べたことがないなんて、驚きですよね


穂乃果「よーし!じゃあ海未ちゃんのためにも明日のクレープ屋さん行きは決まりだね!」バッ

海未「そんなに気合い入れて言わなくても……」

ことり「穂乃果ちゃんはただクレープが食べたいだけなんじゃ……」アハハ

穂乃果「そんなこと……ないよ?」

海未「目が泳いでますよ」


穂乃果「えぇ!いいじゃんクレープ食べに行こうよー!!」


――ジタバタ

そんな効果音が聞こえてきそうなオーバーアクションで穂乃果は私に駄々をこねてきます

これが穂乃果の常套手段

……なんて事は、これっぽっちも考えてないんでしょうけど


これでは誘っているのはどちらなのか、分からなくなりそうです。

そして大抵こういう時、最後は私の方が折れて……


海未「分かりました、行きましょう」


そう言ってしまうのです


でも、ありがたいです

こうでもしてもらわない限り、クレープを食べに行く機会なんて無いでしょうから


新しい事に挑戦することすらためらってしまう恥ずかしがり屋な私を、穂乃果とことりはいつもこうして引っ張っていってくれます

特に穂乃果には、その真っ直ぐな性格に数え切れないくらい引っ張ってきてもらいました


穂乃果「でも、私たちと一緒じゃないとクレープも食べに行けないなんて、海未ちゃんは私たちがいないとほんとダメだなぁ」

海未「……な!?」


まさか穂乃果にそれを言われるとは思いませんでした。でもここは敢えて――


海未「ありがとうございます」


ひとまず、こんな感じで進めていきます

ふむ


凛「なになに?穂乃果ちゃんたち明日はお出かけ?」

穂乃果「あ、凛ちゃん!」

凛「いいないいなぁ、そうだ!凛たちも明日どこか遊びに行こうよ」

花陽「え!?」

凛「かよちんも、いい考えだと思うでしょ?」

花陽「ええ!? でも……」

真姫「…………」スッ


――バシッ


凛「にゃあ!?」

真姫「何言ってるのよ!」

凛「真姫ちゃん後ろからチョップは痛いにゃ、何するにゃあ!?」シャー

真姫「それはこっちのセリフよ!明日は三人で英語の課題やるんでしょ。凛が教えてほしいって言い出したんじゃない」

凛「……にゃ!?」

真姫「まさか忘れてた訳じゃないでしょうね?」

凛「にゃはは(……忘れてたにゃ!!)

真姫(……忘れてたわね)

花陽「そうだよ凛ちゃん、明日は課題を終わらせよう?遊びに行くなら明後日にしてもいいんじゃないかな」

凛「それもそうにゃ!」

凛「うん、じゃあ明日は勉強頑張って、明後日はお出かけって事で決まり!」

花陽「うん!」

凛「て、ことで今日はラーメン食べに行くにゃ!」

真姫・花陽「え!?」

花陽「いい、今から行くの!?」

凛「そうだよ!ささ、早く行こ~」

花陽「えぇ!?ちょっと……」

真姫「ちょっと凛、引っ張らないで!」

凛「これで予定いっぱいだよ!忙しくなるにゃ♪」

真姫・花陽「「ダレカタスケ~」」


にこ「まったく……、練習が終わったばかりだってのに元気ね」

穂乃果「あ、にこちゃんお疲れー」

にこ「…………」ムスー

穂乃果「なんか……、にこちゃん機嫌悪い?」

希「穂乃果ちゃんは気にせんでええんよー、にこっちは凛ちゃんに恋人の予定を奪われて妬いてるだけやから」

にこ「ちょっと!誤解を招くような言い方しないでくれる!?」

穂乃果「えっ!にこちゃん違うの!?」

にこ「あんたは会話に入ってくるんじゃないわよぉ!」

希「まあまあにこっち。休日だからって浮かれるのも分かるけど、そんな場合やないんとちゃう?」

にこ「?」

希「3年生は来週、学年テストがあるんやで?」

にこ「……あ!」

希「成績にも関係してくるからちゃんと勉強しておくようにって、先生も言ってたやろ?」

にこ「そっ、そうね」

希「うちとエリちは普段から勉強してるからええとして、にこっちはそうはいかんやろ?」

にこ「ええっと……」

希「にこっち、まさか忘れてた訳やないよね?」

にこ「…………」

希「…………お勉強しよっか」ニコッ

にこ「はい、教えて下さゃいっ!」

穂乃果(あ、噛んだ……)

また転載か


――部室前――


穂乃果「あ、絵里ちゃん!今帰り?」

絵里「ええ、これから帰るところよ」

穂乃果「絵里ちゃん!明日はゆっくりしてきてね」


部室に戻ると絵里ちゃんが帰ろうとしているところだった


明日は絵里ちゃんにとって特別な日――

久しぶりに絵里ちゃんの家族がみんな集まるらしい


『久しぶりにおばあさまにも会えるの!』


あまりにも絵里ちゃんが嬉しそうに話すから、みんな気を遣って明日の練習は1日丸々お休みになったの


絵里「明日のこと、気を遣わせちゃたわね」

穂乃果「ううん、亜里沙ちゃんもすごく楽しみにしてたよ!『久しぶりの一家団欒です』、なんて言ってて……」

絵里「ふふっそうね、もう半年近く会ってないかしら」

穂乃果「そっか、じゃあ明日は楽しんできてね!」

絵里「ええ、ありがとう」

はよ


――部室――


海未「では私は弓道部に顔を出してから帰りますね。二人ともお疲れ様でした」

穂乃果「海未ちゃん、ばいばい」

ことり「あっ、海未ちゃん、明日の詳細は後でメールするね」

海未「分かりました、それでは明日楽しみにしてますね」

ことり「うん♪また明日」


そう言って海未ちゃんは部室を後にした


ことり「じゃあ穂乃果ちゃん、私たちも帰ろう……って、あれえ!?」

穂乃果「いや~、今日も疲れたなあ。パンが美味い!」モグモグ

ことり(穂乃果ちゃんパン食べてる…、いつの間に……)

ことり「穂乃果ちゃん、あんまり食べるとまた海未ちゃんに怒られちゃうよ?」

穂乃果「だってお腹すいたんだもん、練習頑張ったんだし自分へのご褒美、……そのくらいいいでしょ?」モグモグ

ことり「それはいいんだけど……」

穂乃果「やっぱりパンはいつ食べても美味しいなあ♪」モグモグ

ことり(穂乃果ちゃんったら……、海未ちゃんに見つからなければ大丈夫とか思ってるんだろうなあ)

ことり(私も帰ろうと思ったんだけど……、帰るに帰れない状況になっちゃったな……)


私は仕方なく、穂乃果ちゃんが食べ終わるまで待つ事にした

でもそうこうしてる間に、穂乃果ちゃんはすでに1個目を食べ終えて、2個目のパンに手を伸ばしてした


ガチャ――

そんな時、部室の扉が開いて海未ちゃんがまた部室に入ってきた


海未「ああ、やはりここに置きっぱなしでしたね」

穂乃果「え!? うう海未ちゃん!?」ササッ

ことり(………あ、パン隠した)

穂乃果「海未ちゃんどうしたの?」

海未「忘れ物をしたので取りに戻ってきたんです」

穂乃果「へえぇ、そうなんだー」ダラダラ

海未「ところで穂乃果」ニコ

穂乃果「……なあに?」ダラダラ

海未「パンの食べ過ぎは良くないですよ」ニコニコ

穂乃果「は、ひゃい!」

穂乃果(あわわ……海未ちゃん真顔なのに笑ってる、さすがにその表情は怖過ぎるよぉぉ)

穂乃果「ま、まだ1個だけだもんっ!」

海未「そうですか」

海未「『まだ1個だけ』と言うことは、まだ食べるつもりだったんですか?」

穂乃果「いや、それは……」

海未「では、今隠したパンはどうするつもりだったんですか?」

穂乃果「うわわ!見つかっちゃった!?」


海未「何考えてるいのですか!? そんなに食べたら太ってしまいますよ!」

穂乃果「少しだけだし大丈夫だよ!」

海未「いいえ、穂乃果は気を抜くとすぐ体重が増えてしまいますからね……」

海未「太ることのないよう日頃から気つけてくださいと、何度も言ってるじゃないですか!?」

穂乃果「うぅ」

海未「それとも本当に太りたいんですか!?」

穂乃果「太る太る言わないでよ!パンを食べるくらいいいじゃん!」

海未「そうですね、パンを食べるのは良しとしましょう。しかし、帰ったらすぐ夕飯の時間なのですよ?」

穂乃果「分かってる、けど……」

海未「どうせ穂乃果のことですから、家でお菓子も食べるつもりだったのでしょう?」

穂乃果「うっ!それは(図星すぎて何も言えない……)

海未「私だって食べ物の事でいちいち言いたくありません」

穂乃果「海未ちゃんが食べ物ひとつに厳し過ぎるんだよぉ」

海未「私は穂乃果のことを思って言っているんです!」

穂乃果「むぐぐ……」

海未「とにかく!パンを食べるのも、ほどほどにしておいてくださいね」

穂乃果「わ、分かったよ……、しょうがないから我慢するよ」

海未「しょうがない、じゃありません!!」

穂乃果「うわーん、ことりちゃあーん」

――――――


穂乃果「もう海未ちゃんったら、いつも穂乃果にだけ厳しすぎるんじゃない!?」

ことり「まあまあ、海未ちゃんも穂乃果ちゃんのことが心配だから、つい厳しくなっちゃうんじゃないかな」

穂乃果「分かってるよことりちゃん。いつも穂乃果のこと気にかけてくれてるって事くらい……」

穂乃果「けど、あんなに太るばっかり言わなくてもいいじゃん!」プンプン

ことり「あはは……」

穂乃果「でも意外だったなあ、海未ちゃんがクレープ食べたことがなかったなんて……」

ことり「やっぱりお家が厳しいのが理由なのかな」

穂乃果「うーん、海未ちゃん真面目だからなあ。しっかり者で、いつも凛としてて……」

ことり「カッコ良くてモテモテで、みんなから憧れの的で見られてて……」

穂乃果「でも実は恥ずかしがり屋さんで」

ことり「そこが可愛いところでもあるんだけどね♪」

穂乃果「そうだね」クスクス

ことり「毎日規則正しい生活をしているから、買い食いもめったにしないよね」

穂乃果「遊びに行くのも何かを言い出すのも、いつも穂乃果かことりちゃんだし」

ことり「そういえば海未ちゃんから誘ってくれたことって、数えるくらいしかないかも……」

穂乃果「よーし! なら穂乃果たちが海未ちゃんを引っ張っていってあげないとね!」

ことり「うん!」

――――――


―――当日


――待ち合わせ場所――


海未「おはようございます」

ことり「あ、海未ちゃんおはよう」

穂乃果「おはよー!海未ちゃん!」

海未「穂乃果が私より先に待ち合わせ場所にいるなんて珍しいですね」

穂乃果「当たり前だよ海未ちゃん、待ち合わせ10分前には来てるのは常識だよ!」ビシッ

海未「では常識を毎朝心掛けてほしいものですね」

穂乃果「うっ、それは……」

海未「はぁ……、休みの日だけ早起きだなんて、小学生ですか!」

穂乃果「せっかくのお休みの日なのに怒らないでよぉお!」

ことり「あはは……、そろそろ行こうよ」


――洋服店・店内――


海未「あの、ことり?」

ことり「キャー♪海未ちゃんかわいい」

海未「話を聞いてますか?」

ことり「海未ちゃん、次はこのワンピースを着てほしいな♪」

海未「………どうしてこんな事に」


確か、最初はカラオケとゲームセンターに行って……

昼前になったので、少し早めのお昼御飯を食べて、それから目的の服を買いに行こうということになって……

そして、ことりがよく来るという洋服店へ来ました

普段は絶対に入らないお店ですが、ことりの買い物に付き合うと言った以上、断る事は出来ません


覚悟を決めて店内へ


そして今、私はことりにモデルになってほしいと言われて無理やり試着をさせられています


海未「というか、ことりが新しい服が欲しいと言ったから来たんじゃないですか」

ことり「そうだっけ?」

海未「そうですよ。なのにことりはぜんぜん自分の服は見ていないじゃないですか!」

ことり「気にしない気にしないっ♪」

海未「ことり!!」

ことり「あ……、もしかして嫌だった?」シュン

海未「……うえ!?」

ことり「ごめんね海未ちゃぁん」ウルウル

海未「…………」


まさかこのタイミングで上目遣いが炸裂するとは思いもよりませんでした

目を潤ませて、今にも泣きそうな顔でこちらを見つめることり……

それを見て私は――


海未「い、嫌なんて……そんなことないですよ」

ことり「えへへっ、良かったぁ♪」


いけません、これではいつものことりのペースです

どうにかして言い逃れを出来ないかと口実を考えていると、隣から試着を終えた穂乃果が出てきました


穂乃果「じゃじゃーん、どうかなことりちゃん?」

ことり「穂乃果ちゃん、スッゴくかわいいよ」

穂乃果「えへへ、そうかな~」

海未「………確かに似合ってますね」

穂乃果「あ、海未ちゃんもかわいい! とっても似合ってるよ」

海未「見ないでください///」



だってさっきからことりが持ってくるのは、いつもは絶対に着ることのない、か…、かわいい系の服ばかり///

しかも、ついでに言えば露出度の高いものばかり

穂乃果ことりは、似合ってるなんて言ってくれましたけど……


海未「やっぱり恥ずかしいです///」




その後、けっきょく穂乃果とことりに言われるがままに買わされてしまいました


二人が真剣に考えて選んでくれた青いワンピース


海未「ふふっ、いつ着ましょう♪」




ことり「それで、これからどうする?」

穂乃果「あ!じゃあそろそろ、あそこに行こうよ!」

ことり「クレープ屋さん♪」

海未「ですね!」

穂乃果「海未ちゃん海未ちゃん! 初めてのクレープだよ、ワクワクするよね」ジュルリ

海未「よだれが出てますよ」

穂乃果「……はっ」ゴシゴシ

ことり「きっと、いちばん楽しみにしてるのは穂乃果ちゃんだね」

穂乃果「だってクレープだよ!あんなに美味しいものを食べた事がないなんて人生損してるよ」

海未「そこまで言いますか」

穂乃果「まあまあ海未ちゃん!早く行こうよ!」


そう言って、穂乃果はいつものように私の手を取って歩き出しました


海未「ちょっと、いきなり引っ張らないでください!忙がなくてもクレープは逃げませんよ」

ことり「そういえば穂乃果ちゃんの言ってるお店って私のバイト先の近くなんだよね?」

穂乃果「うん、そうだよ」

ことり「じゃあこっちの道の方が早いよ」


そう言って、ことりは道案内をしてくれました

そしてことりの促されるまま、私たちは細い路地の入り口にさしかかった


海未「ここを通るのですか?」

穂乃果「道が分からなくなそう。迷子にならない?」

ことり「うん! 確かに路地裏を通るから迷いやすいけど、ちゃんと地形が分かってたら、すごく近道になるの」

穂乃果「そういえば、前にことりちゃん追いかけた時、逃げられちゃったよね」

ことり「……え!?」

海未「なるほど……、あの時はことりがアキバの地形に詳しかったから追いつけなかったのですね」

穂乃果「つまり地の利があった、て事だね」

海未「そういう事ですね」

穂乃果「つまりミナリンスキーさんの方が一枚上手だった訳だ!」

ことり「その話はもう止めてよ!/// 」

――――――


――路地裏――


ことり「ここの通りを横切ったら次は左だよ」

海未「……早い、もうここまで来ましたか」

穂乃果「ほんとだよ。ことりちゃんがいなかったらぜったい迷子になってたよ」

ことり「はい、あとはここを抜ければいつもの通りに出るよ」

海未「え、もう!?」

穂乃果「すごいすごい、本当にあっという間だ!ことりちゃんはアキバのエキスパートだね!」

ことり「そっ、そんなことないよ」

ことり「それにこの辺りの地理のことなら希ちゃんも詳しいみたいだし」

穂乃果「私たちから逃げた時、けっきょく希ちゃんに捕まったっていうあれ?」

ことり「あの時はけっこう全力で走ったと思うんだけど気がついたら先回りされてて……」

穂乃果「うーん、でもそれって足の速さだけじゃないよね?」

穂乃果「こんなにややこしい道を通ったんだからことりちゃんがどのルートを通って、どこから出てくるかなんて分からないでしょ?」

海未「でも、それを完璧に読み切ってことりを追いつめた希って……」


ことほのうみ「「「いったい何者!?」」」




希「へくちっ」

希(………うーん、誰かが噂してるみたいやな)

にこっち「…………」カリカリ

希「あ、にこっち、その問題が終わったら次の教科に移ろか」

にこ「……鬼」ボソッ

希「うーん?何か言ったー?」

にこ「なーんにも言ってないわよぉ?」

希「まだ冗談言えるだけの元気が残っとるみたいやなあ?」

にこ「………くっ」

希「さあさあにこっち、次の教科は数学やで!」

にこ「数学!? に、にににっこにっこにー」

希「………ふざけてる子にはお仕置きが必要やなぁ?」

にこ「ちょっと待ちなさい! あんた楽しんでない!?」

希「そんなことないわよ?」ニコニコ

にこ「ちょっと待って!来ないで、嫌、嫌ぁぁあ!!」



その後、案の定ワシワシされていた

まあ、にこちゃんが希に襲われてることはどうでもいいとして……


真姫「なんで私の家で勉強してるのよ」イミワカンナイ


穂乃果「クレープ、クレープっ♪」

海未「穂乃果!歩くのが早いですよ!」

ことり「穂乃果ちゃん待って~」

穂乃果「ごめ~ん、えへへ」

ことり「ねえ穂乃果ちゃん」

穂乃果「どうしたの?」

ことり「クレープもいいけど、私はチーズケーキのお店にも行きたいな!」

穂乃果「あっ、じゃあケーキじゃないけど美味しいチーズタルトのお店知ってるよ」

ことり「本当!?」

穂乃果「今度一緒に行こうね」

ことり「うん」

穂乃果「海未ちゃんも!」

海未「まったく……、それよりもまずクレープです!」

穂乃果「……っ!」

ことり「………海未ちゃん」

海未「なんですか?」

穂乃果「なんだ、海未ちゃんもクレープ楽しみにしてるんじゃん」

海未「!! 、それは ///」

穂乃果「…………」ニヤニヤ

海未「それは穂乃果がずっとクレープクレープ言ってるからです///」

穂乃果「まあまあ、そんな照れなくていいって♪」

海未「照れてません!///」

ことり「………それよりもさ」

穂乃果「?」

ことり「あの人達、………誰?」


海未「やはり2人も気付いてましたか」

ことり「さっきからずっと付いてきてるよね」

穂乃果「それって、もしかしてストーカー?」


私たちが気づかれないように後ろを振り返ると、いかにも怪しそうな男性二人組がこちらをチラチラと見てきている


穂乃果「とりあえず早く人の多い場所に出たほうがいいよ」

海未「そうですね」


そう言って歩き始めた時――



「ねえねえ君たち!」

「!?」



その男達が話しかけてきた

何やら不穏な展開
>>1
ちなみにこのSSはだれかが死んだりしますか?


突然の事で動揺している私たちをしり目に男性二人組が距離を詰めてきた


男性「マジ可愛いじゃん、てか お前の言った通りだな」

海未(うっ、……酒臭い!?)

男性「だろ!?見かけたときすぐ分かったんだよ」

男性「君たちスクールアイドルのメンバーだよね?」

ことり「いや、……あの」

男性「てか、この後暇? 俺たちと一緒にどこか行こうよ。いい店けっこう知ってるからさ」


私たちの都合など、お構いなしに話が勝手に進んでいく

男達はかなり酔っているみたいで、どんどん話を進めていった

このままじゃまずい……

無理やりにでも話を終わらせてこの人達から離れないと


海未「あの、私たちはこれで……」


そう言って強引に話を終わらせて立ち去ろうとした、しかし……


男性「まあ ちょっと待ってよ」

海未「きゃっ――!?」


私は、男に腕を掴まれ引っ張られた


突然のことで意味が分からなかった

私は抵抗しようとしたが、男の掴む力が強くて振りほどけない

訳が分からずどんどんテンパっていく、その時――


穂乃果「海未ちゃんを離してください!」


二人の間に割って飛び込んできた穂乃果によって、私と男性は突き飛ばされた

私は掴まれてた手がほどけてホッとした。しかし、それも一瞬だった


男性「何すんだよ痛えなテメェ、調子乗んな!」


突然 荒い口調に変わった男の大声に、私たちはビクッと体を震わせた

突如 豹変した男の雰囲気に、三人とも足がすくんて動けなくなる


男性「ちょっとこっち来いよ!!」


男はそう言って穂乃果の腕を掴んだ

穂乃果は必死に抵抗していたが、それがかえって男の火に油を注ぐ形となってしまった


男はいきなり穂乃果の顔を殴りつけた


海未「――っ!!」


予想外の出来事に、私もことりも声を失った


男性 「お前ら調子乗んなよ!」


男はそう言うと、また穂乃果殴りつけた


穂乃果は訳も分からずごめんなさいと、辛そうに訴えている

もうこれはストーカーどころの問題じゃない


暴行だ


穂乃果「いやっ!放して!」


穂乃果は必死に抵抗するが、大人の男性の前では無意味だった

男は穂乃果を掴んだまま歩き始めた

穂乃果は抵抗虚しくズルズルと引っ張られていく



穂乃果が連れ去られていく


どうすればいいのか分からず、どんどんテンパっていく

ことりは真っ青な顔をして怯えている

そういう私も、足がすくんで動けない

どうにかして穂乃果を助けたいと思っても、体が恐怖に支配されて動かない

私はただ呆然と立ち尽くしたまま、離れていく穂乃果の背中を眺めることしか出来なかった。


………何をしているんだ私は

こんな時に友人ひとり助けることも出来ないで、何が親友だ


そうやって自分の無力さを嘆いていると、突然 穂乃果が振り返った。


目と目が合う

涙を流しながら私を見つめている

弱り果てた顔でこちらを見つめる穂乃果の瞳から伝わってくる



――海未ちゃん助けて――



気付いた時には体は動いていた

ラブライブ観直して一から出直して来い


海未「穂乃果を離してください!!」


そうです……、穂乃果から離れてください。

私の大切な親友を

昔からずっと一緒だった私の大事な人から……


穂乃果から、……手を離せ!!


私は捨てられていた鉄材を握り締めた。

自分でも驚くほど自然と体が動いてくれた。

手に持った鉄パイプの感触が、あまりにも竹刀と似ていたから……


私は、そのまま男性の背中に力任せに鉄パイプを振りかざした


バシッ――


男は背中を叩かれた衝撃で倒れ、

手が解けて自由になった穂乃果は、そのまま地面に座り込んだ。


海未「……はぁはぁ」

穂乃果「…………海未ちゃん」


こんなところで普段の稽古が生きました

毎日欠かさず続けてきた剣道の練習

本当はこんな時の為に練習してきた訳ではなかったけど……


おかげで穂乃果を守ることができました


もう一人の男性はその光景に驚いたのか、一目散に逃げていきました


海未「………穂乃果」


私は鉄パイプを捨てて穂乃果に歩み寄ろうとした、しかし……

その刹那、倒れていた男がゆっくりと立ち上がった


海未「!」


手放したことを後悔した。

もう一度、鉄パイプを拾い直しそうとした。

しかし男はポケットからあるものを取り出した。



ナイフだ


穂乃果にナイフが向けられている

鋭く光る刃が穂乃果を捉えている


穂乃果「……あ、……ああ」


ナイフを突き付けられた穂乃果は恐怖で凍りついている

穂乃果、逃げて!!

そんな言葉が口に出せず胸の中で渦巻いている



どうしてこんなことになってしまったんでしょうか

確か今日は、穂乃果とことりに誘われて一緒に街に繰り出していて……

買い物をして、いっぱい遊んでいっぱい笑って、この後はクレープを食べに行って……

明日も明後日もこんな楽しい毎日が続くのだと

そう思っていました、なのに……


私たちの日常は簡単に壊れてしまった


海未「穂乃果!」

穂乃果「海未ちゃん来ちゃダメぇっ!」

ことり「いやぁぁぁあ」



そしてナイフが振り下ろされた





海未「穂乃果ぁぁぁあ!!」







死なないで!!




願ったのはそれだけだった


私は、いつの間にか男の腕にしがみついていた

咄嗟の事で片手で刃の部分を掴んでしまっている


ナイフを掴んだ左手から血が流れ出す

男も、私を引き離そうと体のあちこちを叩いてくる 


痛い、叩かれた顔も体も、ナイフをつかんだ左手も……

でも、ぜったいこの手は放さない



放したら、また穂乃果が傷付いてしまうから


その後も、私は手を放すことはありませんでした


そのまま、もみ合っている間に騒ぎを聞きつけた大人たちが来てくれて、その男は取り押さえられ、私たちは保護されました。


私は力が抜けて座り込んだ

体中が痛い、殴られたところが痛みでジンジンする

左手の出血も止まらない、でも……


生きてる


ふと視界に2人の姿が映った


二人も無事だ

穂乃果もことりも恐怖と安堵感でぐちゃぐちゃになって、ずっと泣き続けている



二人とも……、もう泣かないでください



海未「もう全部終わったんですから………」


――――――


それからの事は、あまり覚えていない。


路地裏で暴行を受けた私たちは、そのまま助けに入ってくれた大人たちに保護された。

恐怖と緊張感から解放された私たちは、言葉を交わすこともなく、ただただ茫然とするしかなかった。

途中、警察の人に話を聞かれたけど、そのとき何を喋ったのかは忘れちゃった。


私はそのまま病院に連れていかれ手当てを受けた

あんなに酷い目にあったのに軽い傷で済んだのは友達のおかげだと、お医者さんに言われた。


治療を終えて待合室に戻ると、お父さんとお母さんと雪穂が家族全員で向かえに来てくれていた。

みんなに泣きながら強く抱きしめられた。

お父さんとお母さんが、こんなに大泣きしている所を見るのは初めてだった

帰りの車の中では雪穂がずっと手を握っててくれた。

普段見ない家族の姿を見て、本気で心配かけたんだとすぐ理解することができた



けど、何も考えられなかった



部屋に戻った私はそのままベッドに倒れ込んだ


全部夢だったらいいのに

目が覚めたら、全部 穂乃果の勘違いで無かったことになってればいいのに

そんな意味のないことを期待してしまう



ダメだ、今は何も考えたくない


――――――


穂乃果「…………ん」


目を閉じた暗闇の中で、少しずつ意識が覚醒していく

目を覚ますと私は自分の部屋にいた。いつの間にか寝てたみたい。


雪穂「 ―――――― 」

ことり「 ―――――― 」


部屋の外で雪穂とことりちゃんが話す声が聞こえる。

ことりちゃんが無事なことは分かっていた

けど、やはりどうしても再確認してしまう

そうやって確認して、ホッと胸をなで下ろした


ガラッ――


ことり「穂乃果ちゃん入るよ」


そんな時、ことりちゃんが部屋に入ってきた

私は顔を見られたくなくて、咄嗟に寝返りをうってしまった

部屋に入ってくるのはことりちゃんだけじゃない……、他の人の足音も聞こえる。きっとμ's の皆だろう。

目を閉じていても分かる。きっと私のことを心配して来てくれたのだろう。


ことり「……まだ寝てるみたい」

希「よく寝てるね……」

にこ「本当に心配したのよ」


にこちゃんは、そう言って私の頭を撫でてくれた

普段はぜったいそんなことしない癖に……

本当に心配かけちゃったんだね

面白いな


絵里「とにかく穂乃果が無事で良かったわ」

穂乃果「――っ!」


絵里ちゃんの声だ


絵里ちゃんも来てくれたんだ


今日は久しぶりにおばあさまに会えるからって、あんなに嬉しそうに言ってたのに

自分の家族の事を優先してくれても良かったのに


申し訳ない気持ちでいっぱいになる

絵里ちゃんだけじゃない

みんな、それぞれ予定があったのに……

それなのに、私のために駆けつけてくれたんだ……


なのに私はそんな仲間たちに背を向けて、寝たふりをしている

今起きてみんなにご心配おかけしましたって言えばいいのに

いつもの私らしく振る舞えばいいだけなのに、それが出来ない


…………最低だ、私


そうやって自分を蔑んでいたら、いつの間にか眠りについていた

――――――


薄れていく意識の中で、ことりちゃんは今までの経緯を説明してくれた。


まず私たちが暴力事件に巻き込まれたこと。海未ちゃんが体を張って私たちを助けてくれたこと。

そのせいで海未ちゃんがいっぱいケガしちゃったこと……



本当は分かってるよ。これは夢じゃないんだって事くらい……

全部現実なんだってことくらい……


分かっているけど、つい目を背けてしまう



事件のことは噂になってるみたいだけど、学校側が働きかけてくれたお陰で、事件の大体は伏せてくれたらしい

だから、スクールアイドルのメンバーだということも広まっていないということ

知っているのは理事長と先生とμ's のメンバーくらい

だから、これからの学校生活には何の支障も無いと言ってくれた


そして、最後に海未ちゃん事を伝えてくれた


海未ちゃんはあの後、病院で治療を受けて命に別状はなかったみたい

ただ、今は警察署で取り調べを受けているらしい

いくら私を守るためとはいえ、海未ちゃんも男の人に怪我を負わせちゃったから事情聴取のために呼び出されたらしい

今日は帰ってこれないということも……


寝てるハズの私に、ことりちゃんは全部丁寧に説明してくれた

本当はことりちゃんも辛いはずなのに……


とにかく海未ちゃんが無事だということが分かって、私は胸をなで下ろした


なのに、どうしてこんなに不安になるんだろう

もしかしたら、もう海未ちゃんは戻ってこないんじゃないか

もう海未ちゃんに会えないんじゃないか

そのことが、どうしても頭をよぎる



そんなことないって分かってる



…………分かってるのに


――――――


穂乃果ちゃんの家を後にした私たちは帰路についた。

もう外は暗くなってきていて、街灯には少しずつ明かりが灯り始めている。


さっきまでの楽しかった時間が嘘みたい

三人で遊んでいた事が、かなり昔の事のように感じる


みんなが無言で歩く中、希ちゃんが口を開いた


希「穂乃果ちゃん、嘘を付くのがほんま下手やな」

にこ「まったくよ……、狸寝入りしてるのがバレバレなのよ」

凛「やっぱり落ち込んでたね……」

真姫「逆に元気でいられたら、それはそれで心配になるけどね」

絵里「穂乃果にはショックが強すぎたのよ」

希「そうやね……、あの子は、大事なものは全部大切にしようとする子やから……」

花陽「心配だな……、私たちこれからどうすればいいんだろう」

絵里「とにかく今は穂乃果の気持ちの整理がつくまで待つしかないわね」

花陽「そうだね……今は信じるしかないよね……」

ことり「…………」


みんな優しいな

みんな穂乃果ちゃんのことが心配なはずなのに、いつも通り振る舞おうとしてる


…………なのに私は


絵里「ことり?」

ことり「私のせいだ……」

希「待ってことりちゃん、その先は言っちゃ駄目 ――」

ことり「私が2人を誘わなかったら」

絵里「そんなことないわ」

ことり「そんなことある!私が近道しようなんて言わなければこんなことにはならなかった!!」

希「そんなに自分を責めたらあかんよことりちゃん……」

希「今日の事はことりちゃんのせいやない、穂乃果ちゃんのせいでも海未ちゃんのせいでもない」

希「誰も悪くない」

ことり「でもっ!」


でも、どんどん自分を責める言葉ばかり出てくる


あの時、私は何もできなかった……


襲われてる穂乃果ちゃんを見ながら、私は震えることしかできなかった

海未ちゃんが身を挺して穂乃果ちゃんを助けてくれなかったら、私は大切な友達を失うところだった

そう思うと、自分を蔑まずにはいられなかった


ことり「あのとき私が二人を誘わなければ」

ことり「あのときクレープを楽しみにする穂乃果ちゃんを止めていれば」

ことり「あのとき私が近道をしようなんて言わなかったら」


みんなが深刻な顔で私の話を聞いている


そりゃそうだよね

だってこれは言い訳だから……

今それを言っても何も変わらない事は分かってる、けど……

そうでもしないと自分を保てそうになかったから


にこ「あんたねぇ」


不機嫌なにこちゃんの声で一気に空気がピリついた


にこちゃんが近づいてくる。真姫ちゃんが間に入ってくれたけど関係なかった。

俯いてる私に掴みかかってきた、その時――


「いい加減にしてよ!!」


一同「!?」


叫んだのは花陽ちゃんだった


花陽「しっかりしてよことりちゃんっ!」


突然の大声にみんなの視線が花陽ちゃんに向けられた

普段、大声を出さないだけに全員が静まり返った


花陽「信じられないことが起きてショックなのは分かるよ、でも……」

花陽「ことりちゃんは穂乃果ちゃんの幼なじみなんでしょ!?」

花陽「だったらこんなとき、一番しっかりしなきゃ駄目なんじゃないの!」

花陽「こんなとき、誰よりも穂乃果ちゃんを信じてあげなきゃいけないんじゃないの!?」

ことり「…………」

花陽「…………」

にこ「……花陽、あんた何で泣いてるのよ?」

花陽「……え」


そう言われてようやく気付いたのか、花陽ちゃんは慌てて涙を拭って続けた


花陽「……私も考えたの。いきなり大切な友達がいなくなったらって」

花陽「そしたらね、とっても怖くなった。凛ちゃんが私の側からいなくなったらどうなるんだろって想像しただけで怖くなって……」

凛「……かよちん」

花陽「だから、だからね……」

にこ「花陽!………もういいわよ」


にこちゃんはそう言って、泣きながら続けようとする花陽ちゃんをとめた


凛「大丈夫だよかよちん、凛はどこにも行ったりしないよ」

花陽「凛ちゃん」

ことり「………あ」



寄り添い合う二人の姿が、自分と重なった


私は似た景色を知っている

いつも私の隣にいてくれた友達の姿――、辛いときも苦しいときも互いに支え合って、一緒に成長してきた親友の姿


私が辛いとき穂乃果ちゃんはいつも側にいて励ましてくれた


そして今は穂乃果ちゃんが苦しんでる


だったら、私が穂乃果ちゃんにできることは――



ことり「私、戻るね」

絵里「………そう」

ことり「自分に何ができるか分からないけど、それでも私は穂乃果ちゃんの側にいる」

絵里「……なら、穂乃果のこと頼むわね」

にこ「あっ、ことり!!」

ことり「…………」

にこ「その……、いきなり怒ったりして悪かったわ」

ことり「………にこちゃん」

にこ「何よ?」

ことり「にこちゃんに本気で怒ってくれて、ことりは嬉しかったです」

にこ「何よそれ……ほら、早く穂乃果のところに行ってあげなさいよ」


そう言われて、私はもと来た道を引き返した

――――――

――――――


『ことりちゃん!』

『あ、穂乃果ちゃん待ってたよ、じゃあ行こっか♪』

『え? ……ねえことりちゃん、海未ちゃんがまだ来てないよ?』

『海未ちゃんは来ないよ』

『何、言って……』

『穂乃果ちゃんあのね……、海未ちゃんはもういないの』

『ことりちゃん何言ってるの……』

『海未ちゃんはもう私たちとは一緒にはいられないの』

『意味が分からないよ!そうだ、海未ちゃんを探しに行かなくっちゃ!』

『駄目だよ穂乃果ちゃん!』

『離してよことりちゃん』

『残念だけど受け入れなきゃいけないの。穂乃果ちゃんは、これから海未ちゃんがいなくても頑張っていかなくちゃならないの』

『嫌だ!私、海未ちゃんがいないと嫌だよ!早く探しにいかなきゃ! ねえ、海未ちゃん居るんでしょ!?』



『海未ちゃん、海未ちゃん――――


――――――

穂乃果「海未ちゃん!」


叫びながら、飛び起きた


穂乃果「……っ! 夢か……」


私は自分の部屋にいた。

あれからずっと眠っていたみたい

ということは帰ってきてから、ずっとベッドの上に居ることになる。


穂乃果「あれ?…私なんで泣いてる……」


時間は6時を少し回ったところだった。

外はうっすらオレンジ色に染まっている。


でも、それが夕焼けなのか朝焼けなのかは分からない

今が、朝なのか夕方なのかすら分からない程までに時間感覚が狂っていた。


穂乃果「………いったい何時間、寝てたんだろう」


そうつぶやいて視線を時計からテーブルに移した。

テーブルの上には、食事が用意されていた。

どうやら私が寝てる間に持ってきてくれたみたい

お盆の上に、おにぎりと漬け物といった消化の良いものが用意されている

その中には、私が毎日食べているパンも添えられている


穂乃果「気を遣ってくれたんだな……」


でも、それに手をつけることはなかった

食欲がないから、……そう言って私はまた横になる


みんな今どうしてるんだろう?


また意味のないことを考え出す


みんな、あの後どうしたんだろうか?

今日は学校のある日なのかな?

μ's の練習休んじゃったな……

無視しちゃったこと、今度会ったら謝らないとな……



考え出したら止まらなくなる




海未ちゃんはどうなったんだろう







――海未ちゃんがいない――




穂乃果「……っ!!」


不意にさっきの夢を思い出した


呼吸が乱れて、動悸が止まらなくなる

想像するだけでたまらなく怖くなる

突然、訳の分からない衝動に駆られてようやく気づいた


私にとって海未ちゃんはそれ程までに大きな存在だったんだ



『海未ちゃんは私たちがいないとほんとにダメだなぁ』



この間の会話を思い出した

どんどん胸が苦しくなっていく



私、ほんとにバカだ

本当に必要としていたのは私の方なのに



涙が込み上げてくる

呼吸が上手くできない




海未ちゃんに会いたい


読んでるよ
続きを早く

――――――

気が付くと、私は暗闇の中にいた

周りには誰もいない
私一人だけだ……

周りを見回しても真っ暗で闇に包まれている


急に不安になって、みんなの名前を呼んだ

家族、学校の友達、μ's の仲間たち

思いつく限りの名前を叫んだ

でも誰も答えてくれない


叫んでも叫んでも暗闇が晴れることはなかった

闇が押し寄せてくる


突然怖くなって、咄嗟に両手で自分の顔を覆った

でも、そうしたところで何も変わらない

あるのは暗闇だけ



怖い

独りになるのが怖い



思えば、私の周りにはいつも誰かがいてくれた

友達がいて、家族がいて、学校に行けばみんなが話しかけてきてくれて、そんな毎日が楽しくて……

それが当たり前だと思っていた



あの日、いきなり突きつけられた大切な友達が失われる感覚


日常が壊されて初めて気付いた

側にいてくれる人が、どれだけ大きくてかけがえのない存在かということ



ようやく気付くことができた、だから……




お願い、誰か返事をして

――――――

支援

はよ


相変わらず、私は暗闇の中にひとり……

怖くて寂しくて、ひとりでいるのが心細くて泣きそうになる



だけど、少しだけ変化があった


穂乃果「……あ、…えっ?」


いつの間にか、自分の手が温かくなっている事に気付いた


穂乃果「…………あったかい///」


いつからそのぬくもりを感じてたのかは分からない

でも、その温かい感覚に私はすごく安心した

手から伝わるそのぬくもりに、体全体が包み込まれるような感じがした



この手の感じ



私はこの感覚を、このぬくもりを知っている


幼い頃からずっと感じてきた右手のぬくもり


どんなときでも、ずっと私の隣にいてくれた




その人の名前は―――――



海未「あ、起きましたね」


穂乃果「…………海未……ちゃん?」


私はベッドの上で目を覚ました

少しずつ意識が覚醒していく

ぼやけた視界で、こちらを見つめる海未ちゃんを捉えた


海未ちゃんはベッドの横で、私の手を握ってくれている


海未「大丈夫ですか?ずっとうなされてましたよ」

穂乃果「え……あっ……」

海未「まだ寝ぼけているのですか?」

穂乃果「…………」


ずっと会いたかった人が、目の前にいる


いつからいたの?

怪我は大丈夫なの?


聞きたいことが多すぎて言葉が上手く出てこない


海未「穂乃果……、さっきからずっとうなされていたんです。本当に心配したんですよ」ニコッ


そう言って海未ちゃんは笑いかけてくれた


穂乃果「……っ!」


その笑顔が私の瞳に映った


瞳に光が戻ってくる


その笑顔が見たかった

その声が聞きたかった


いろんな想いが溢れてくる




私はいつの間にか海未ちゃんを抱きしめていた


穂乃果「海未ちゃん!」


勢いよくベッドから飛び出した私を、海未ちゃんはバランスを崩しながらも優しく受け止めてくれた


穂乃果「海未ちゃん海未ちゃん海未ちゃん!」

海未「…………はい」


私は、何度も何度も名前を呼んだ


穂乃果「海未ちゃん!」

海未「はい」

穂乃果「海未ちゃん!」

海未「はい」

穂乃果「海未ちゃんっ!」

海未「はい………私はここにいますよ」


そう言って海未ちゃんも私を抱きしめてくれた


ずっと求めていた海未ちゃんのぬくもり

久しぶりに感じたそのぬくもりはとってもあたたかくて、優しくて、すごく安心する

私は海未ちゃんの胸の中でたくさん泣いた

泣いて、喚いて、叫んで、何度も名前を呼んだ


いっぱい無茶言って、いっぱいめちゃくちゃ言って

閉じ込めていた思いを一度言い始めると止まらなかった

押さえ込んでいた想いがどんどん溢れてくる

でも、それを海未ちゃんは全部受け止めてくれた



抱きしめる力が自然と強くなっていた

――――――

海未「落ち着きましたか?」


気持ちが落ち着いたところで海未ちゃんがそう尋ねてきた

話しかけてくるタイミングがドンピシャで、ホントこういうときにスゴく助かる


穂乃果「うん、すっきりした。海未ちゃんありがと」グスッ

海未「それは良かったです」

穂乃果「海未ちゃん、大好きだよ」

海未「もう、穂乃果///」


海未ちゃんは照れながらも、そっと頭を撫でてくれた


海未「…………」

穂乃果「…………」


抱き合ったまま、しばらく沈黙が流れた


海未「………ご心配おかけしました」

穂乃果「ううん……もう会えないと思ってた」


それを聞いた海未ちゃんが急にこちらを見つめてきた

目と目が合う、そして――


海未「ふふっ、何を言ってるんですか」



笑われた


穂乃果(えっ、今 笑われた!?)


穂乃果「ちょっと海未ちゃん!?」

海未「…………」クスクス

穂乃果「私、本気で心配してたんだよ!」

穂乃果「警察の人に連れていかれたって聞いて、もう帰ってこないと思ってたんだよ! 本当にもう会えないと思ってたんだよ」

海未「ふふっ、ごめんなさい。でも……」


海未ちゃんは笑いを堪えながら続けた


海未「やっぱり、そんな事だろうと思ってました」

穂乃果「ほぇ?」

海未「あのですね、私は確かに警察署に行きました」

海未「けど、それは事情聴取のためです。事情聴取を兼ねて警察署に一晩泊まる事になったんです」

海未「それも一晩だけの話で、今日の朝にはちゃんと家に帰ってこれたんです」

穂乃果「え、そうなの?」


納得する私を見て、海未ちゃんはため息をついた


海未「どうせ穂乃果のことですから、変な方向に勘違いして落ち込んでいるんだと思いましたよ」

穂乃果「じゃあ私たち、また一緒にいられるんだね!」

海未「はい」

穂乃果「やったぁ!良かった良かったー!」

海未「はぁ……、まったく! あなたは本当に馬鹿ですね!」バッ――

穂乃果「うわあっ!?」


今度は海未ちゃんの方から抱きしめてきた


海未「本当に馬鹿ですっ!」


穂乃果「――っ!」


思わず、私も海未ちゃんを抱きしめた



穂乃果「おかえり、海未ちゃん」

海未「ただいま、穂乃果」

涙出てきた…


グウゥゥゥウ ――

穂乃「…………あ!」


安心したらお腹が鳴っちゃった


穂乃果「…………」

海未「…………」


グウゥゥゥウ ぐるぐるるる ――


穂乃果「あはは///」


まさかこのタイミングでお腹が鳴るなんて……

自分のお腹の音を聞いて、帰ってきてから何も食べていない事を思い出した。


海未「ふふっ」


海未ちゃんも思わず吹き出している

もうっ!お腹の音のせいで、せっかくのいい雰囲気が台無しだよ!


海未「では穂乃果もお腹がすいているみたいですし、食事にしましょうか」


腹を立てていた そんな私に気づいたのか、海未ちゃんはそう言ってくれた


穂乃果「食事って……、なに食べるの?」

海未「そろそろ届くはずです」

穂乃果「どういうこと?」


ガラッ――


ことり「二人ともお待たせ~♪」

穂乃果「ことりちゃん!?」


本当にびっくりした
 

だってことりちゃん、何食わぬ顔で入ってくるんだもん

私まだぜんぜん気持ちの整理ができてないのに……


ことり「穂乃果ちゃんおはよう♪」

穂乃果「お、おはようございますっ!」

海未(……なぜ敬語?)


いつものことりちゃんだ……

いつものふわふわな笑顔で話しかけてくる


ことり「ささ、座って座って!」


そう促されて私はテーブルの前に座った

少しだけ肌寒い部屋に、いつもの光景が戻ってくる


穂乃果(どうしよう、何か話しかけないと)


そんなことを考えてたら、ことりちゃんが私たちの食事を運んできてくれた


テーブルの上に、三人分の食べ物が次々と並べられていく


穂乃果「あ、おにぎり!美味しそう♪」


食べやすいよう消化の良いものや、小さく小分けにしたものを用意してくれた


穂乃果「やったぁ!じゃあいただきま――

ことり「あっ、待って!あと穂乃果ちゃんにはコレも♪」

穂乃果「?」


ことりちゃんはそう言うと

私のお盆の上にパンを添えてくれた


穂乃果「あ…、これって……」


お盆の上に並んだ食べ物を見て、あることに気付いた。


おにぎりと漬け物と、私が毎日食べているパン


見たことがある。確か前にも用意されてたっけ………


あのとき、私の為に用意してくれた食事

食欲がないからと言って、手をつけなかった―――



あの食事は、ことりちゃんが用意してくれたものだったんだ


こんな私のことを、ことりちゃんはずっと待っていてくれたんだ

何も言わなかったけど、ずっと側にいてくれたんだ


そう思うと、どんどん胸が熱くなる


気がつくと私は勢いよくかぶりついていた


穂乃果「美味しい、すごく美味しいよ」

ことり「………うん」


こんなの毎日食べてるはずなのに、いつもと変わらない味のはずなのに……


なんでこんなに美味しいんだろう

なんでこんなにも涙が溢れてくるんだろう


私は泣きながら、がむしゃらに食べ続けた

そんな私を、二人は静かに見守ってくれている


穂乃果「むぐっ!」


勢いよく食べてたら喉につっかえちゃった


苦しそうにしていると、ことりちゃんは何も言わずに私の背中をさすってくれた

海未ちゃんはそっとお茶を手渡してくれた


その些細な気遣いが優しくて、私の心を満たしてくれる


それだけで十分だった

その優しさを感じて私は独りじゃないということに、ようやく気付くことができた



私にはそばにいてくれる人がいる


でも その存在があまりに近すぎて、見失いそうになるくらい大きくて

当たり前になっていた

そのくらい私の一部になっていたから……



相変わらず涙は止まらない

でも私は二人の優しさに応えたくて、だから今できる精一杯の笑顔で……


穂乃果「いやあ、今日もパンが美味い!」


そう応えた

――――――

ご飯を食べ終わると、ことりちゃんのお母さんがお迎えに来てことりちゃんは帰っていきました


ことり「穂乃果ちゃん、また明日」


その言葉が深く胸に響いた


明日もことりちゃんに会える

明日も、いつもと変わらない毎日がやってくる



それだけで嬉しかった

こんな親友が欲しかったなぁ…


海未「私もそろそろこれで……、穂乃果?」

穂乃果「…………」

海未「穂乃果!」

穂乃果「な、何?」

海未「…………」

穂乃果「……?」

海未「今日はこのまま穂乃果の家に泊まっていってもいいですか?」

穂乃果「……え?」

海未「いいですよね?」

穂乃果「もっ、もちろんいいよ!」

海未「それではお母さまにそう伝えてきますね」

穂乃果「……うん」


海未ちゃんが帰ってしまったら、私はこの部屋に一人っきりになる

そう思ったら怖くなった

一人になることがすごく不安になった


海未ちゃんはそんな私の思いを汲んでくれたのか、そう言ってくれた


穂乃果「海未ちゃん、ありがとう」

――――――

やっぱり幼馴染みっていいなぁ‥……


海未「穂乃果、今日は同じ布団で寝ませんか?」

穂乃果「海未ちゃんからそう言ってくるなんて珍しいね」



その夜はベッドで一緒に寝ることになった

正直すごく嬉しかった


穂乃果「海未ちゃ~ん」ギュー

海未「ちょっと抱きつかないでください、眠れないじゃないですか」

穂乃果「あ……ごめん」シュン

海未「でも手を繋ぐくらいならいいですよ」

穂乃果「ほんとっ?」


そう言って海未ちゃんは手をつないでくれた


穂乃果「……あったかい」

海未「穂乃果は手汗でびっしょりです」

穂乃果「そ、そんなことないもん!」

海未「…………」

穂乃果「…………」

海未「……ふふっ」

穂乃果「あはは」クスクス


そう言って、小さく笑い合った



穂乃果「ねえ海未ちゃん、体は大丈夫?」


聞かないようにしてたのに、つい訪ねてしまった

理由は着替えてた海未ちゃんの後ろ姿を見てしまったから

海未ちゃんは全身アザだらけで

左手には包帯が巻かれていて、まだ傷口がふさがっていないのか少し赤く染まっている

生々しくて、怪我の酷さを物語っていた


目を逸らしたくなる

触れてはいけないような気がしたけどけど、やっぱり聞かずにはいられなかった


穂乃果「体痛くない?」

海未「はい、……大丈夫ですよ」

穂乃果「…………嘘だ」

海未「はい、嘘です」

穂乃果「……やっぱり」

海未「でも痛くないと言っても、穂乃果は私のことを気遣ってくれるのでしょう?」

穂乃果「当たり前だよ」

穂乃果「海未ちゃんはこういう時、周りに心配かけないよう 本当のことは言わないって知ってるもん」

海未「……そうですか」

海未「でも、穂乃果こそあまり自分を責めないでくださいね?」

穂乃果「大丈夫だよ」

海未「いいえ、……こういうとき、穂乃果は必ず自分のことを責めてしまいますから」

穂乃果「…………」

海未「そのくらい分かってますよ」

穂乃果「バレバレだね。私も、海未ちゃんも……」


海未「お気遣いありがとうございます」

穂乃果「ううん……、それにお礼を言うのは私の方だよ」

海未「確かに痛いです。しかし この傷は穂乃果のことを本気で守った証拠ですから」

穂乃果「…………」

海未「だから悔いはありません」

穂乃果「…………」

海未「それよりも、穂乃果に泣いている顔は似合わないのですから」

海未「…………もっと笑っていてください」

穂乃果「そっか、海未ちゃんありがと」ニコッ

海未「…………」

穂乃果「……海未ちゃん?」

海未「穂乃果」

穂乃果「なあに?」

海未「少し私の話を聞いてもらってもいいですか」

穂乃果「いいよ、付き合うよ」


海未ちゃんは少し呼吸を整えた後、話し始めた

私は天井を見ながらそっと耳を傾けた


海未「私はずっと疑問に思っていた事があるんです」


海未「あの時……、路地裏で穂乃果を助けた時……」

海未「なぜ私の体は動いてくれたのか、どうして穂乃果を助ける事が出来たのか……」

海未「その理由をずっと考えていました」

穂乃果「そうなんだ……」

海未「あの後、警察署でたくさんの人に言われました。すごく勇気のある女の子だね、と……」

海未「でも本当はそんなことないんです」

海未「私も、ことりと同じですごく怖かったんです」

海未「すごく怖くて、ただ立ち尽くす事しかできなかったんです」

海未「自分が傷つくことを恐れていた弱い人間なんです」

海未「だから私は勇気のある人間なんかじゃない。ぜんぜん強くなんかないんです」



気が付つくと、海未ちゃんは私の方を向いて話していた

暗い部屋の中、至近距離で目と目が合う

海未ちゃんは真剣な顔で、真っ直ぐこちらを見つめている


海未「でも、ようやくその理由が分かりました」
 
穂乃果「どういうこと?」

海未「私は穂乃果がいなくなるのが怖かった」

海未「今ここで動かないと、もう穂乃果に会えなくなるんじゃないか……」

海未「二度とその笑顔が見れなくなるんじゃないか……」

海未「そう思うと たまらなく怖くなった」

海未「だから穂乃果が傷付く所を見るのは耐えられなかったんです」

穂乃果「…………」

海未「私は穂乃果を守りたかった」

海未「あなたのその笑顔を………」

海未「いつも無邪気に、いつも楽しそうに私に笑いかけてくれる、その笑顔を無くしたくなかった」

穂乃果「………海未ちゃん」

海未「ずっと私の側に居てほしい」

海未「ずっと私の隣で笑っていてほしい」

海未「………ただ、それだけで良かった」

海未「そう思えるくらい、あなたは私にとって大切な存在だった」

穂乃果「…………」

海未「命を懸けてでも守りたいと思えるほど、あなたは私にとって大事な人で、かけがえのない存在だったんです」
 
海未「だから穂乃果、本当に無事で良かった!」


すべてを言い終えると、海未ちゃんは私を抱きしめてきた


今までで一番強い力で抱きしめてくる


穂乃果「痛いよ海未ちゃん」


思わず胸が熱くなる

あまりにもあたたかくて、あまりにも力強くて、痛いくらい優しいから……

もう涙を止めることはできなかった



穂乃果「私の方こそ、守ってくれてありがとう」

――――――


気が付くと、私はまた暗闇の中にいた

前と同じ、暗闇の中


やっぱり周りには誰もいない

闇が押し寄せてくる


でも、もう怖くない


私には側にいてくれる人がいる

どんな時でも寄り添ってくれる人がいる


私は独りじゃないから


だから、もう大丈夫
 



私はそっと目を閉じた


――――――

たぶん次の更新で終わると思います


待ってます

海未ちゃんほんまいい娘や

レス感謝です。内容が内容なだけに、ここまでコメントを自粛してました。

少しだけ更新していきます


―――数日後


穂乃果「二人ともおはよー!!」

海未「おはようございます」

ことり「穂乃果ちゃんおはよう」


もう、あれから数日が経ちました


学校に復帰した私たちですが、学校生活は方はお母さんのお陰で騒ぎになることはなく

クラスのみんなも気を遣ってくれたみたいで、学校生活に何の支障もありませんでした。


海未ちゃんの手の包帯も先週ようやく取れて、私たちにはいつもの日常が戻ってきました。



海未「また寝坊ですか!? 今日も時間ギリギリじゃないですか!」

穂乃果「大丈夫だよ海未ちゃん、ギリギリだけど待ち合わせの時間には間に合ってるよ!」

海未「10分前行動が常識じゃなかったんですか!?」

穂乃果「うっ、まあ細かいことはいいじゃん!あんまり時間を気にし過ぎてたらストレスでハゲちゃうよ!」

海未「なっ!? 今はハゲのことは関係ないじゃないですか!ハゲは先に言った方がハゲなんですよ!」

穂乃果「穂乃果はハゲてないよ!」


しばらく学校を休んでいた穂乃果ちゃんも海未ちゃんも、元気になって戻ってきてくれました。


今日も、前と変わらず三人一緒です


でも……


穂乃果・海未「「 ギャー ギャー 」」

ことり「二人とも元気過ぎるよ~!」


ことり「ねえ二人とも、そろそろ行かないと学校に遅れちゃうよ?」

海未「そっ、そうですね///」

ことり「…………ねえ海未ちゃん」

海未「なんですか?」

ことり「手の傷、残っちゃったね」

海未「そうですね」

穂乃果「…………」

ことり「………穂乃果ちゃん?」

穂乃果「…………」


海未ちゃん、やっぱり手の傷残っちゃったんだ……

やっぱり、申し訳ない気持ちになる

ごめんね、私のせいで…………


海未「穂乃果!」

穂乃果「なっ、なに!?」

海未「…………」

穂乃果「…………」

海未「私のせいで手に傷が残ってしまって申し訳ない」

穂乃果「へ!?」

海未「………みたいなことを考えていたんでしょう?」

穂乃果「なんで分かったの!?」

海未「穂乃果が考えていることくらい分かりますよ」

穂乃果「ええっ!?」

海未「それに私は傷のことは気にしていません。だから穂乃果が負い目を感じる必要はありませんよ」

穂乃果「でも……」

穂乃果「だってだって、海未ちゃん女の子なんだよ!?」

穂乃果「いくら穂乃果の為とはいえ、傷が残っちゃって……やっぱり申し訳ないって思っちゃうよ」

海未「…………」

穂乃果「…………」

海未「前にも言いましたけど、これは穂乃果のこと本気で守った証拠なんです」

海未「だからこの傷は私の誇りというか……」

海未「穂乃果がちゃんと生きてくれてるという証なんです!」

穂乃果「……海未ちゃん」

海未「だから悔いはありませんよ」

穂乃果「…………分かった」

海未「穂乃果……」

穂乃果「ありがとう海未ちゃん!大好き!!」ギュー

海未「もう、抱きつかないでください///」

海未ちゃん(´;ω;`)



私には大切な二人の親友がいます



ことりちゃん

昔からずっと一緒にいる私の一番の親友

ずっと私のそばにいてくれた大切なともだち



そして海未ちゃん

真面目でしっかり者で、いつも凛としててすごく格好良いいのに、実は恥ずかしがり屋さんで……

私の事を一番に考えてくれてて、でもいつも厳しくて

そして………


私の命を守ってくれた人




穂乃果「ねえ、手繋ごうよ」


私は、二人にそう言った


海未「ええっ、今ですか!?」

ことり「そうだよ、他の人もたくさんいるよ?」

穂乃果「えぇ!? いいじゃん繋ごうよ!!」

ことり「もぉ、しょうがないなぁ」

海未「本当に世話のやける幼なじみですね」


なんだかんだ言いつつも二人は手を繋いでくれました




私の右手を海未ちゃんが


私の左手をことりちゃんが




繋いだ両手から伝わる二人のぬくもり

それを確かめたくて、私は二人の手を思いっきり握りしめた


穂乃果「ねえ、海未ちゃん ことりちゃん」

ことり・海未「?」

穂乃果「私ね……、こんな私だけど、二人にずっと側にいてほしい」

ことり・海未「…………」

穂乃果「わがままだけど、駄目かな?」

海未「穂乃果……」

ことり「穂乃果ちゃん……」

海未「…………はぁ」

穂乃果「……えっ、ため息!?」

ことり「もう、穂乃果ちゃんったら」クスクス

穂乃果「ことりちゃんまで!?」

穂乃果「ちょっと二人とも、私は真剣に話してるんだよ!?」

海未「まったく、何を今さら……」

穂乃果「え?」


海未「そんなこと改めて言わなくても当たり前です!」

穂乃果「海未ちゃん」

ことり「そうだよ穂乃果ちゃん、私たちはずっと一緒だよ!」

穂乃果「ことりちゃん」



穂乃果「ありがとう!二人とも大好き!!」



――――― 終わり


海未「ところで二人とも」

穂乃果「どうしたの?」

海未「あの……」モジモジ

ことり「?」

海未「今日は学校サボりませんか?///」

穂乃果・ことり「「サボり!?」」

穂乃果「ううう海未ちゃん!?一体どうしたの!?」

ことり「…………」ポカーン

海未「いやっ、そんなに驚かなくても……」

ことり「いや、驚くよ。まさか海未ちゃんがサボろうと言い出すなんて思わないよ」

穂乃果「どうかしたの?」

海未「ちょっと行きたい場所があるんです」

ことり「行きたい場所?」

海未「はい」

ことり「でも……」

穂乃果「分かった、行こう」

ことり「穂乃果ちゃん!?」

穂乃果「だって海未ちゃんが学校を休んでまで行きたいって言うくらいなんだし、私は付き合うよ」

ことり「穂乃果ちゃん……」


穂乃果「それに学校休めるし♪」

ことり(あ、それが本音なんだ)

海未「大丈夫ですよ!」ニコッ

海未「休むといっても半日だけです。午後からはちゃんと学校に行きますよ」

穂乃果「えぇ!? せっかくなんだから1日休もうよぉ!?」

海未「駄目です。こういう事は1度やってしまうとクセになってしまいます!」

海未「それに穂乃果はただでさえ授業中寝ているのですから、学校にはちゃんと行ってもらいます!」

穂乃果「分かったよぉお」

ことり「それで? 海未ちゃんの行きたいところって?」

海未「私たちが初めて会った場所です」

ことり「あっ、あの公園!」

穂乃果「賛成!」


ことり「でも、学校が終わってからでも行けるんじゃ?」アハハ

海未「なんとなく、今すぐにでも行きたい気分なんです」

ことり「そっか」クスクス

海未「では、そうと決まれば早く行きましょう!」グイッ

穂乃果「うわわっ!? 海未ちゃんいきなり引っ張らないでぇえ!?」

ことり「あ、海未ちゃんが穂乃果ちゃんをリードするなんて珍しいね♪」

海未「ふふっ、そんな日もありますよ!」

穂乃果「でも、そんなに忙がなくても……」

海未「穂乃果はいつもこうして私の手を引っ張ってくれたんですよね」

穂乃果「…………」

海未「言っておきますが、私はこの手を離すつもりはありませんよ」

穂乃果「海未ちゃん……」



そう言って私たちは手を繋いだまま走り出した

私を引っ張る海未ちゃんの手は、傷が残る前もずっと温かかった。


海未「さあ穂乃果!行きますよ!!」ニコッ


海未ちゃんはそう言って、振り向きながら笑いかけてきた

楽しそうで、嬉しそうな、海未ちゃんの笑顔がとても眩しかった


――トクン


穂乃果「っ――!//」


―― トクン トクン


急に胸の鼓動が早くなった


穂乃果「あれ? なんだかすごくドキドキする///」

海未「穂乃果?」

穂乃果「あ、海未ちゃ―――


―― ドクンッ


穂乃果「うっ、あぁぁ……」

海未「大丈夫ですか? 顔が赤いですよ?」

穂乃果「うわわぁ ///」カアア


どうして海未ちゃんを見てるだけで、こんなにも胸が高鳴るんだろう……

ドキドキして張り裂けちゃいそう

前まで、こんなことなかったのに……



穂乃果「この気持ちはいったい何なんだろう?///」



――――― 本当に終わり

よかった乙!またよろしく


以上で『右手と左手【ラブライブ】』は完結となります


最後まで読んでいいただいた方、本当にありがとうございます

また、途中レスや感想を下さった方は本当に感謝です

稚拙な文章でしたが最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました


この話の続きをぜひ書いてほしいな

乙です
μ'sはいろんな組み合わせがあるけど2年生組の絶対に切れない絆は本当に素晴らしいし羨ましい

感想 本当にありがとうございます。
以下、過去作になります。もしよろしければどうぞ。

雪穂「凛さんと」凛「雪穂ちゃん」【ラブライブ】
雪穂「凛さんと」凛「雪穂ちゃん」【ラブライブ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1449838837/)

いいね。
最後はクレープを食べて締めてもよかったのではと思ったが。

続編期待



続編期待してます

乙です。

最後は穂乃果が落ちて終わりか。

ぜひ続きを書いてほしい。
続きがあるとしたら先送りになったクレープを食べに行く約束と穂乃果とことりが服を着るんでしょうか

非常に続きが気になる、続編書いてくれ!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年01月26日 (火) 00:39:46   ID: wMGKTRCN

丁寧な書き方だとは思ったのですが、個人的には少し冗長が過ぎるようにも感じる部分もありました。
ただやっぱり、纏まりがあって分かりやすいことほのうみの関係性がとても良かったです。ごちそうさまでした。

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