美作武史「決闘を申し込む」ランスロット「またアイドルの世界か…!」 (111)


315プロ事務所・ラウンジ


美作武史
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ランスロット
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http://i.imgur.com/Ab2RQZH.png



――ガアァン!!


鋼同士が発した鋭く重い衝突の響き。



武史「……!!」

ランスロット「…………っ!」



切り上げを受け止めた剣が腕ごと弾かれて、握る拳からすり抜けていく。



ランスロット(意表を突かれた――――が!)


戦闘状況における経験値。

与えられた鋼の音と衝撃が、躯に刻まれた戦闘本能を目覚めさせた。



ランスロット「ハアッ!!」

武史「ち!!」


返す刀。
柄を一層強く捉えなおし、騎士は反撃を打ち下ろす。

青い軌跡を曳くその剣閃を、しかしスーツの男は身を転じて躱し、そのまま半回転を利して横薙ぎを見舞った。


――ギィン!!


再び鋼の衝突音。…………受け止める。


武史「疾いな……」

ランスロット「……重いな」


つばぜり合いの刹那。二人の男はわずかな感嘆を零した。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1452417400



スーツの男の獲物は大振りの三段ロッド。
最先端の技術で以て作られた高強度のカーボンスチール製特殊警棒。


騎士はそのような近代の棍棒には触れたことが無かったが、男が縮めた状態のそれを取り出した点、ひいてはそのロッドを振り伸ばした点から携行の利便性を追った武器だと認識した。

ならば軽く、振りやすい武器のはず……少なくとも剣よりは一撃が軽いはず。

そう考えていたからこそ、予想外の重さに驚いた。


その“攻”の重さは、男の実力によるものか。

ランスロット(……鍛えている)






武史(動きが鋭い。戦闘に熟達しているな)


一方男も、異界の騎士の真剣に対するのは無論これが初めてであった。

武装解除しようと剣を弾いた時、跳ね返ってきた重さ。それは作りものではない生々しい武具の手応えだった。

重く鋭い真物の剣。

それを目の前の男は軽々と振るい、自分の打撃に対応してきた。

その速さは男がくぐってきた修羅場を偲ばせるもので。


武史「改めて真剣勝負を申し込む!」


最強を目指す自身の血が湧きたった。


武史「はっ!」

ランスロット「くっ!?」


飛び出した前蹴りが騎士の上腹部を撃った。されど騎士は、自ら後ろに跳びその衝撃を浅くしている。
……跳躍は騎士の得意とするところであった。



ランスロット「いいだろう。来るなら……来い!」

武史「せああああっ!!!」



ロッドを構え裂帛の気合とともにスーツの男は騎士に肉薄する。

ぶつけられた熱い戦意に呼応するように、騎士もまた戦場の高揚感を昂ぶらせる。


――ガァン!!


衝突。三度鋭い金属音がこのラウンジに響き渡る。



武史「せい! はぁっ!」

ランスロット「そこだっ!! せあっ!」


――ガキッ、ギンッ! キィン!

袈裟切り、胴、左斬。

繰り出される剣閃を互いに捌き、さらに獲物を猛らせる。


一合、二合、三合――――八合、九合、十合。

獲物がぶつかり合う度、剣音が打ち鳴らされる。

青い軌跡が閃き、空気が断たれ、火花が弾けて消えていく。



ランスロット(これは俺達の剣技とはベースが違うな。対人戦に特化しているのか……しかもこれは磨かれている!)

ランスロット(わかるぞ。お前もひたすら鍛錬の道を歩んできたことが)

武史「はっ!!」


――ギンッ!!



ランスロット「甘い!」

突きだされたロッドを弾き、騎士は逆銅の軌道でスーツの男に剣を振るう。

男は素早く戻したロッドで右からの剣を防御。


武史「ふっ!!」

ギャキキ!!


そして力点をずらし、受け止めた剣を下に向かって滑らせる。

三段ロッドの鍔が剣を噛み。

男はそのままロッドを円形に回した。


ランスロット「な……っ!」


剣がぐるりと回され床を叩く。

――――いなされた。


武史「せいやあっ!!」

機を逃さず繰り出される横薙ぎ。


騎士はそれを上体を逸らせて躱す。

ロッドの切っ先が前髪を掠めるも、なお騎士の目は見開かれていた。



ランスロット「やるな!」


ざざあっ、と床に足を擦らせ体勢を立て直す、騎士の脳裏によぎるものがあった。今と同じような丁々発止の記憶。

……騎士団の仲間たちとの鍛錬。

まっすぐで、清澄な剣戟。

工夫と心構えを共有し、共に励んだ修行の日々。人を助けたいという思い一つで騎士になったあの弱虫の友人。


腕に力が入った。



ランスロット「こちらからいかせてもらおう!」

武史(なんだ……!?)



高揚が外に現れ出たかのように。青いオーラが騎士の体から立ち昇る。

瞬間、弾かれたように騎士は突出し、豪壮な一撃をスーツの男に繰り出した。


――ガッギィィン!!!


武史「ぐぅっ!!?」


それはあまりにも重い衝撃。正面から受け止めた男の体が後方に滑る。



手に痺れが走る。

業界最高の強度を誇る特殊警棒は無事だが、握った手の方はそうはいかない。



ランスロット「たああっ!」

追撃がスーツの男に迫る。


武史(後の先を…………!)


ロッドの切っ先を向け、向かい来る騎士の五体の強張りを、重心の偏りを見極め……

――ガキィン! キンッ!

男は最小限の動きで剣を捌いていく。

が、オーラを立ち昇らせ迫る騎士の勢いを止めることはかなわず、一歩、二歩とさらに後ろに押されていく。



ランスロット「守りの方も得手のようだな!」

武史「そういう仕事だったからな……!」


一瞬の言葉の交錯の後、獲物が交差する。

騎士の一撃に弾きだされるようにスーツの男は後方へ跳んだ。


ランスロット(――そこだ! 跳躍の着地際。まだ体勢が整わず、間合いが広まり切ってない内に叩く!)


後ろに距離を取る男に向かって騎士は飛び出し、間合いを縮める。


ランスロット(むッ!?)


しかし、その瞬間彼は目を見開いた。


武史「……!」



眼前のスーツの男が、右手の警棒を放り投げたのだ。

しかもこちらに向けての投擲ですらなく、無造作に宙に捨てるように。


ランスロット(なにを……!)


しかしその行為への疑問は一瞬後氷解する。


武史「ふっ……はっ!!」


男は着地後、即座に更に後方へと身を跳ねさせて、アクロバットなバク転で以て距離を稼いだ。


ランスロット(確かにその軽業には手の獲物が邪魔だったか)

ランスロット(だが距離を取ってなんとする!)


なお接近する騎士とその剣。
対し、男は空手のまま向き直り、袈裟切りの手刀を撃ちださんと腕を振り上げた。


武史「来い……」

ランスロット(素手で……そうか……!)


騎士はそれを認めると、同じく剣を振り上げた。



彼我の距離が縮んで消えて。

致命の間合いで互いの腕が振り下ろされる。




武史「――!」

ランスロット「――ッ!」


徒手空拳と剣の間合いの差。威力の差。
……勝負あった。

油断とも言えない確信が騎士の胸に湧く。




……が。

斬撃が4分まで振られたその時。

こちらに手刀を落としていた男のその手が宙の警棒を掴んだ。


ランスロット(なっ!?)


彼はロッドを、バク転の後受け止められるよう斜め後方にあらかじめ投げていたのだ。


武史(ここだ――――!!)


交錯のその刹那。獲物は男の手に戻り、剣よりも早く先に三段ロッドが騎士の眉間を打つ――


――ガキィン!!


武史「っ!?」

しかし、騎士の剣は超高速でその軌道を変じさせ、迫った一撃を防御した。



武史「ぐ……っ!!」ギリギリ

ランスロット「む、うぅ……!!」ギリギリ


獲物を軋ませ、拮抗する両者。



武史(速い……! なんだ今の剣の速さは。今までのものとは質が違う)

ランスロット(斬り下ろしの最中に武器を拾うとは……騎空団にも大道芸人や軽業師がいたが、今の技は彼らのそれに近い)



武史「今の技法の名は?」

ランスロット「……サザンクロス」


一度に一回の攻撃。
その速度と密度を上げ、一度に二回、ひいては三回の攻撃を可ならしめる。そのような技(アビリティ)を騎士は持っていた。

とどめのために無意識で発動していたその技により、彼は“二回目”の剣の振りを防御に回すことがのだ。

戦場に生きた彼の経験が今の窮地を救ったと言える。「なにかしてくるだろう」と剣士の勘が嗅ぎとっていた。


ランスロット「そちらこそ今の奇襲……この世界の剣術か?」

武史「……単なるスイングジャグリングの応用だ」


武史「名は?」

ランスロット「なに? 今言っただろう」

武史「技じゃない。アンタの名前だ」

ランスロット「ふ……ランスロットだ。あ、くれぐれもランちゃんとは呼んでくれるな」

武史「ランスロット? なんだそれは。円卓の騎士を気取ってるのか?」

ランスロット「円卓……? わからないが」

武史「俺の名は美作武史だ」

ランスロット「ミマ、サカタ、ケシ?」

武史「タケシ・ミマサカと言った方がいいか……? いや、そうだな。アンタが『ランスロット』と言うんなら、俺は『武蔵』とでもするか」

ランスロット「ムサシ……なんだ言いやすい名を持ってるじゃないか」



ロッドと剣を弾きあって二人は距離をとる。


武史「ははは……!」

ランスロット(高揚しているな……ムサシよ)



闘いを通じて通い合う心がある。

お互いに素性がわからないまま剣戟を繰り広げていても。


――

――――


数分前



まぶたにまばゆい光が焼きつき、そして消えていく。

気がつくとランスロットは、ここ315プロダクションのラウンジに腰をおろしていた。


ランスロット「なんだ……? ここは?」

ランスロット「ヴェインは? 騎空団のみんなは?」

ランスロット「いきなり場所が変わった…………これはもしや」


じゃらり、と鎖の音。
戒めの鎖がいまだ腕に付いている。見れば格好はあの囚われの身のままだ。


ランスロット「この鎖は……! またイザベラ――!?」

ランスロット(いや。待て。あいつはもういないはずだ。落ち着け……心を静かに保つんだ)

ランスロット(どうにも記憶が曖昧だな。転移の影響か?)


ランスロット(俺は何をしていた? そうだ。あの幽世から来たりしものを倒し、フェードラッヘに平穏を取り戻し……)

ランスロット(地下牢でクリスマスや新年のあいさつを団長にして……いや、なんだそれは。あまりに馬鹿げている。この記憶は違うな)



ランスロット「……この感覚は何度か経験した事があるな」


世界を渡った時と同じような状況。


ランスロット「整然として、見慣れない風景……ミスタルシアではないようだ」

ランスロット「となると……あの……トウキョウだったか、アイドルの彼らがいた世界か? そうだな。そっちの方が空気が近い」



ランスロット「今度はビィは共に来ていないか……あのアイドルの彼らに会うことができれば話は早いんだがな」

ランスロット「誰かいないか!」



……シーン



ランスロット(静寂か)

ランスロット「この建物はなんなんだ? ここは談話室のように見えるが、大掃除でもしたかのように机や椅子が端に寄せられているな」

ランスロット「やはりこの世界も新年なんだろうか?」


言いつつ端に置かれたテーブルに近づき、そこに載せられているものを見る。

四角いケースが何枚も置かれている。


ランスロット「これはツバサ達!? こっちにはピエールが真ん中に映っている……」

ランスロット「煌びやかだ……そうか。活躍しているんだな。はは……! 良かったな」


空の上にもアイドル文化は広まり始めている。外見ほど楽な職業でもないということを彼は少しだけだが知っていた。



ランスロット「これは手がかりにもなりそうだ。とりあえず、少しの間拝借して、どこに行けば彼らに会えるか人々に訊いてみるとしよう」


ジャラジャラと鎖が音を立てる。


ランスロット「しかしこの格好はまずいだろうな。身なりを整えなくては。まったく……新しい鎧を賜るところだったのに」


とりあえず耳障りな鎖を外そうと彼は剣を一振り取り出した。



武史「何をしているんだ?」

ランスロット「はっ!」



そこでランスロットに声がかけられた。



――……


新年のあいさつに来た。
身分はまだ新アイドル候補。審査中の状態にある彼は、日課の鍛錬の後、新年を迎えてさらに高まった己の意志を今一度伝えたいと思い、この315プロへと足を運んだ。

無論、315プロ社長に連絡してからである。


『そうか!!! 審査が終わってなお体に沸き立つパッションをぶつけようとは素晴らしい!!! よぅし!!! 来たまえ!!! 私ももう一度候補者諸君のパッションあふれる顔を見たくなってきたぞ!!!』



返答はどこまでも熱く、情熱迸るものだった。

そうしてここに来たのだがアイドル達は新年の餅つき大会に行っているらしく、社長は新年のあいさつ回りで事務所を空けており、一人残っていた事務員も


賢「あー!! ちょっと待っててくださいね! ちょっとあっちでくつろいでいてください。オモチ食べたらすぐ戻るんで!」


と言って出ていってしまった。



武史(関係者がいないのに俺を残していいのか。元警備員だから信頼されているのか? それともこの事務所がおおらか過ぎるのか)

武史(おもしろい。無事番を務めて見せよう)





……そうして彼はラウンジにて、枷を付け、剣を取り出す不審者を目撃した。


武史「……」

ランスロット「……」




「人がいたか!」

「なんだお前は」

「俺は……そうだな、なんて説明したものか……自分でも不明瞭なところが多すぎるからな……前はどのようにしたんだったか」

「アイドルか?」

「アイドル? 違う! 俺はアイドルではない!」

「候補生にはいなかったな?」

「候補生……何の話だ? 俺はもう正式な騎士となっている」

「胡乱すぎるな。騎士? ……確かに、その鍛えぶりは較べ合いたくも……、――! おい、なんだその剣は」

「剣? これがどうした」

「その輝き、真剣だろう。……何をするつもりだ」

「ああ、鎖を外そうとしていたんだ」

「鎖……逃げてきたのか。いや……待て、もういい。動くな。ひとまずその剣を捨てろ」

「なに?」

「捨てろ」

「馬鹿を言うな。この剣を手放すことはできない。騎士の誇りだからな」

「最後だ。捨てろ。さもなくば捨てさせるぞ」

「貴様……その敵意、まさか誰かに操られているのか? あいつらのように。くそ、倒すことで解放できればいいが……」

「警告した」


三段ロッドが振り伸ばされる音。

瞬間、剣が跳ねあげられ……決闘が始まった。

――

――――

武史「……くくっ」

思わず口の端が上がる。


剣腕は本物。

おそらくは当代でも最高クラスの剣士。

まさか、新年のアイドル事務所のラウンジで目見えることができるとは思わなかった。

目の前の不審者が何処の誰かは知らないが……その力はまだまだこんなものではないだろう。






ランスロット「……ふ」

強い。まだ実力を測りかねている。

魔物相手というよりは、人を倒すため、制圧するために研がれた剣法だという印象を受ける。

その理合い。その技術。

時に神秘を感じさせるその剣捌き――実際には棒捌きだが――は、騎士の剣術よりも秀でている部分がある。実に興味深い。


ランスロット「だが、臆しはしない」

武史「あんたの底を見たいな。だが……先に抑えさせてもらうぞ。はは」



ランスロット「どうした?」

武史「年明け早々から斬り合いとは……ふふ、相当切り合いが好きみたいじゃないか」

ランスロット「好きだろ?」

武史「大好きです」



言いつつ、武史は脇に避けられた一脚のイスに近づき、それをランスロットに向けて蹴りだした。


ランスロット「!」ダッ!!


向かい来るイスにひるまずランスロットは突進。それを衝突の直前で跳躍して躱す。

宙で身をひねり、回転しつつランスロットは剣撃を武史に見舞った。


武史(読み通り……!!)

両脚を強張らせ、ロッドを構える。


武史「せいやあーッッ!!!」


ガァン!!


ランスロット「っ!?」


跳ばれ、さらに反撃がこちらに繰り出される……そして、それを『地に足を付けた』状態の自分が跳ね返す。――うまくいった。



溜めた一撃に弾き返され、ラウンジの床に転がるランスロット。

軽やかに回転し、瞬時に体勢を立て直すが。


武史「せあああっ!!」

ランスロット「くっ……!」


機を逃がさんとする追撃が、猛烈な勢いで迫りきた。




ガン! ガキィン!!


立ち上がれないまま、騎士は渾身の打擲を受け止め、捌いていく。

身に刻まれた戦場の経験値が、最適に体を動かした。




武史「ぜあッッ!!!」

ランスロット「はあっ!!」


三度目の打ち下ろしに、剣を横合いからぶつけて滑らせる。

――バシィ!

ランスロットは男の三段ロッドを床に衝突させ、自身の剣で挟み込んだ。


武史「ぐっ!?」

ランスロット「ふっ!」


ドッ!


武史「……っっ!」


武史の動きが止まり、そこに跳ねだした蹴りを当て、間合いを離す。

ランスロットは立ち上がり、剣を構え……そして逆襲を開始した。



ランスロット「参る!」


ヒュッ ――ヒュヒュヒュン!!

青い軌跡が幾筋も宙に曳かれ、高速の連撃がスーツの男に収束していく。



武史(試される時は今!)

カッ ――ガガガギィン!!

受け止める。受け止める。受け止める。

腕に剣が掠めても、剣圧に髪が煽られても。一切の曇りなく目を見開き、向かい来る騎士とその剣影に相対する。



ランスロット(揺れない……! 真の武人だな!)

武史(―――― 千日の稽古をもって鍛となし、万日の稽古をもって錬となす)

武史(強敵とのイメージトレーニング。あの心の中の最強と何千何万試合ったことか)

武史(押されはしない……!)



剣と魔法の世界ではない。ましてや戦国の時代ではない。現代の日本で『最強』を追い続ける狂気。

そのともすれば異質としか見られない気位が、今の彼を剣の暴風からまだ活かしていた。



武史(しかし、これは!)

ランスロット「たあっ! たああああっ!!!」


攻撃が終わらない。否、連撃が終わらない。

受けるのがせいぜいで、反撃の糸口が見つからない。


武史(なんという速度! 『サザンクロス』という理法、一体どれだけ持続する……!!)

武史(こちらも切り札を……いや!)



ランスロット「そこっ!」

横一閃。しかしその一閃は空を斬った。

美作武史は前へと身を跳びこませ、騎士の脇をすり抜けたのだ。


ランスロット(逃すかっ!)


ぐいっ!


ランスロット「んっ!?」


男を目の端で負ったその瞬間、剣を握ってない方の左腕が引っ張られた。

腕にはめられた枷から伸びる鎖。

それを身を転じさせる男に掴まれた。


武史「ふんっ!」


後方の男に鎖を引かれ、体が回る。

ランスロット「この……」

騎士は鎖を引き返そうとし。


――ばしっ

瞬間、その意識の隙間を突いて足が払われた。


武史「むぅん!」

ランスロット(投げだと!?)


ランスロットは背中から後方宙返りするように投げられ。


――ガシャアン!!


寄せられたテーブル類に盛大にぶつかりながら床に叩きつけられた。

だがダメージなど大したものではない。


ランスロット「くっ……甘いぞ! これしきで!」


武史「……!!」

ランスロット(なに!? この男、倒れたテーブルに鎖を――!!)


ジャララララ――ギャキ! ギャキッ!!






武史「武芸百般」

武史「縛法だ」


ランスロット「くぅっ…馬鹿な…! ムサシ貴様!」



投げられた際のわずかなひるみ。

その数瞬で男は騎士の両腕をテーブルに縛り付けた。


武史「……ギリギリだったな。まだやるか」


三段ロッドを持ち直した武史は騎士を見下ろし、声をかける。

囚われのランスロット。



ランスロット「……」

武史「……」


ランスロット「いや、これも意外と快適だ」

武史「っ!?」




瞬間、騎士は跳ねとび、跳躍の勢いそのまま身をひねり、テーブルによる強襲を繰りだした。




どごっ!!


武史「ぐあっ!!??」

ランスロット「いくぞっ!!」

武史「このっ、ふざけるな!」ビュッ!

ランスロット「ふんっ!!」ガキーン!


テーブルの面で打撃を防御。


ランスロット「はぁあああああッ!!」グオオオオッ!!


そのまま宙で身を翻しつつ、テーブルの回転攻撃を繰り出すランスロット。


武史「つ……強い!!」


圧される。

あの状態でここまで。


武史「一体どんな修羅場をくぐってきた……!?」

ランスロット「数えきれないな。……手負いと思って侮るなよ」

武史「ぐっ!!」


――ごっ!

重い一撃に窓際まで弾き飛ばされる。




武史(なんという膂力!)

武史「……はっ」


攻撃を受け止め続け、息が切れた。


武史「重たいな……」

ランスロット「終わりだムサシ!!」



武史「俺の体の何もかも」


ランスロット「――!」ダダダッ!!


ランスロットが突進する。

対する武史は片手を窓に遣り。


武史「っ!!」


があっ! と勢いよく開け放した。外気が微かな向かい風となってランスロットの頬を掠めていく。



ランスロット「おおおっ!!」

抱えたテーブルの重さ。勢いがついた際は瞬時には止まれない。

だから窓の開放にいぶかしさを一瞬覚えても、彼は止まることなく加速してテーブルを振りまわした。


武史「大振りだ!」


しかし大きな獲物による一撃は至極、読みやすい。

美作武史は跳躍すると、窓枠の大きなフレームを蹴り上方へと飛んだ。


――グワアッッ!! ダンッ!

ランスロット「……!!」

横回転に振りまわされたテーブルを踏みつけ、飛びこえて、武史は騎士の後方へと着地する。


武史「はあっ!!」

ランスロット「なっ!!」


――ドガッ!

振り向こうにも、勢いを殺し切れないランスロット。そこにしなった回し蹴りが入り、彼はさらに前方へと弾き出された。


先の窓は開け放されている。


ランスロット(落とすつもりか! なめるな!)


心に蘇ったのは騎空艇での日々。

あの空の世界は下に落ちては還ってこれない。

騎士と言うよりは騎空団の一員として。激しく揺れる艇での体勢維持には習熟していた。


ランスロット「は……あっ!」


重心を下方に、勢いをいなし回転させる。

健脚でもって床を蹴り、向かう方向を変える。


そうして騎士はスーツの男に向き直り、さらなるテーブルの一撃を放つ。


……しかし美作武史も構えていた。



ランスロット(反撃すら読んで)

武史(――いたわけじゃない。あんたの強さを信じただけだ)




互いの腕が振られ、攻撃が交錯する。





武史「ぬたあん」






――バキィィン!!!


火花が散った。



それは無心の一撃だった。自らの武器の切っ先まで命を宿らせた、瀬戸際の一太刀だった。

高純度の騎士の闘気に触発され、この現代の武士の感覚もまた高まっていたのだ。


しかし。果たして。

砕かれたのは……鎖だった。


金属の四角い輪の欠片が宙に舞う。


ランスロット「……っ!」

武史「ぬ……!」


獲物の重さ。それによる振りの速度の差。

武器同士の衝突はタイミングがずれて、騎士の腕の戒めを砕かせたのだ。



すぐさま後方に跳び、片方の戒めも外すランスロット。

美作武史も全力の一振りの後の硬直から脱すると、さらに攻めに向かう。


ランスロット「すばらしい一撃だった! ムサシ……お前はいい剣士だ」

武史「てあああっ!!」


ランスロットは剣を持ち直し、戦意を横溢させて迎え撃つ。


――ガン! ガキン!!


再開される剣戟。


ランスロット「ふん!! たあっ!!」

武史「はあ!! ぜぇいっ!!」



打ち合わされる鋼の剣と鋼の杖。


ランスロット(呼吸が……)

武史(合ってきたな!)


干戈を交えるうちに互いの剣法が学ばれ、致命の一撃を遠くする。



ランスロット・武史(出すか……!)


戦意に昂ぶる獰猛な笑みを押し殺し、両者は各々を弾き合った。


ざざあっと床を滑り、身を屈ませる美作武史。

跳躍し、転がったテーブルを踏み台にランスロットは上に飛んだ。




闘志に満ちた両者の視線がぶつかりあう。そして互いの真価が封切られた。





空に身を躍らせる騎士。


――ジャキィィン!

ランスロット「おおおおっ!!」


彼は差していたもう一振りの騎士剣を閃かせ、





地に身を沈ませる武士。


――ガシャシャギン!

武史「せあああっ!!」


彼は収めていたもう一振りの三段杖を振出した。




ランスロット・武史(『二本目』……!!)


――ガガッ!!!


ランスロットが双剣を振り下ろし、

対し、二本の警棒……否、二刀でもって美作武史はそれを受け止める。



武史「双剣使いだったか!」

ランスロット「そっちこそ……! 二刀流を隠していたな」

武史「出すヒマがなかっただけさ。それに……二刀流というのは違うな」

ランスロット「何?」

武史「『武蔵』なら、二天一流とするのが道理!!」



気迫に満ちた声とともに、武史はランスロットを押し返す。

わずかに間合いが空き、そこに二刀の連続攻撃が放たれる。


――ギン! キィィン!

ランスロット「むっ! くっ!」

双剣を十字に交差させ、その鋭い二閃を防ぐランスロット。


ランスロット(伊達で二本振るっているわけではないか……!)



ランスロット(剣筋がまるで揺れていない。威力が一本を両手で振るった時と遜色がない)


一振りの剣を扱う場合、柄尻を持って梃子の原理で振るう。

左手を力点とし、鍔元を握った右手を支点として。


二刀流の場合、一振りの剣を片手で扱うため、その原理が使えず力も分散してしまう。

よって打ちが浅くなる。――というのが定説であり、事実。


しかし、今の美作武史の攻撃はその欠点をまるで感じさせないほど重く鋭いもので。


ランスロット(誠実に、ひたむきに……二刀に向き合ってきたんだな)


彼の鍛錬の日々を偲ばせた。
……異境の騎士は知る由もなかったが、現在、この国に二刀の扱いに習熟している者などほとんどいない。

それでもなお、友情にも似た親近感が胸に湧く。……闘志を鈍らせるものにはならないが。


ランスロット「たあっ!!」

右で薙ぎ、左で切り上げ。双剣士の青い斬撃が繰り出される。

――シャシャッ!!

しかしそれらは、左手のロッド一本で捌かれ、受け流された。



ランスロット(なるほど。一振りを防御に専念させる使い方か)

武史「はあっ!!!」

ランスロット「っ!」バッ!


武史は足を狙い右のロッドを振るうが、ギリギリで跳ばれそれは空を切った。



――ギン!


回避の跳躍の最中、ランスロットはなお剣を振るう。

その攻撃を左で弾く美作武史。



武史「強いな! 強すぎるな! ランスロット!!」

ランスロット「お前もやるな。その独特な理合い、学びたい。常に学び……常に成長していかねばな」



両者は笑い合った。


武史「お前のような強敵に巡り合えてうれしいよ。……だが勝つのは」

ランスロット「俺だ。我ら白竜騎士団の名誉とフェードラッヘの栄光のため、俺は勝つ」

武史「ああ、来い!!」


美作武史は二本の警棒を交差させる。

ランスロットは一振りを地面と平行に構え、一振りを下段に流す。


両者は高速で接近し――そして再度、衝突。




両者の戦意は高まり切って、瞬間、怒涛の剣戟の轟音がこのラウンジを震わせた。




――ガガガガギギガガギャギャギャガギガガギギギギガギィン ! ! ! ! !



裂く、斬る、薙ぐ、打つ、突く、捌く、いなす、外す、弾く、断つ――――



二人は刃の風となって渦巻き、巡り。

高速の死闘による荒涼たる世界をこの世に現しめた。


――――ガガガガ!!!


ランスロット「……!」


修羅場の一刹那、感じるものがあった。

……『奥義』を出すコンディションが備わった。


武史「おおおっ!!!」

ランスロット「でぇやあああっ!!!」


――――ゴワッッ!!!

武史「ぬぐっ!?」


圧倒的に強烈な双剣の衝撃。青く煌めく波動が烈風となってラウンジを席巻し、端に寄せられたテーブル類を崩していく。

防いだものの美作武史はそのブレードインパルスの剣威になすすべなく壁に激突する。


武史「勝、負を、つける、に至っては、いない……!」


無論それは騎士も承知だった。奥義を放つ最後の一溜めを完了させるための隙が欲しかったに過ぎない。


ランスロット(命を奪いはしない。だが、倒させてもらうぞ)

ランスロット「悪いなムサシ、終わらせる。覚悟はいいか」


青いオーラが激しくランスロットから立ち昇った。



高まるオーラに窓が、床が、天井が振動する。

ランスロット「はあああ……っ!!」





武史(大技か…………)

視界に映るのは荒涼たる世界。

しかし妙な充足があった。

最強を目指す舞台。それを求めてアイドル界に飛び込もうとしたのだから。



武史(ここ こそが。戦いの場こそが。俺の唯一の場所。ゆえに不安は無し)

武史(ただ俺の全てをぶつけるだけ)


猛るランスロットと対照的に、美作武史の気配は濃く深く沈んでいく。



いかなる技が来ようとも、いかなる威力であろうとも、先に攻を叩きこむのは自分。

奥義が放たれる刹那を制し、勝利を喰らう。

今の俺なら出来る。


……そんな確信の涼やかな風が武史の胸に吹いた。




勝負は極点に至り。


二対の獲物が鈍く照り映えた。









ランスロット・武史(いくぞっ!!!)







瞬間両者は弾け飛び――――









すぐさま動きを止められた。







武史「うっ……!?」


攻撃を繰り出そうとした瞬間、喉元にあてられた冷たく硬い感覚。それが動きを縫いとめた。

背後から……何者かに割って入られた。


「――――収められよ。戦の世でもあるまい。ここは大恩あるプロデューサー殿が務めておられる場所である」

武史「お前は候補者の一人……!」

忍「風間忍である」


風間忍
http://i.imgur.com/tBI0ooy.jpg






ランスロット「これは……!?」


体が重い。そして……高まっていたあのオーラが封じられたかのように消え去ってしまった。

奥義を放つ一瞬前に、飛来した一枚の札。それが体に貼り付き力を奪った。


「ああ、そこまでそこまで。まったくハデに散らかしたねぇ、お前さん方」

ランスロット「あなたは?」

雨彦「俺は葛ノ葉雨彦。元清掃員。そのクーポン券はお前さんに贈ろう」

ランスロット(クーポン……俺に貼られたこの札、よくみたら何かの券か)


葛ノ葉雨彦
http://i.imgur.com/nSOU00W.jpg



勝負に介入した二人のアイドル候補生によって、この戦闘は幕を引かれた。



――

――――

――――――




三条悟朗
http://i.imgur.com/uF8yBTy.jpg


悟朗「はーい、みんなでお片づけなー!」

武史「……確かに俺たちのせいだが」

ランスロット「か、片付けか。少し苦手だな……」

悟朗「だーいじょうぶ、みんなでやればすぐ終わる!」

雨彦「来る前よりもキレイにな。掃除は生きる場所づくり」

ランスロット「仕方が無い……やろう」

武史「尻拭いから逃げるのは、道ではないな」

悟朗「互いに親近感覚えるのは結構だよ。だが、そんな情でどうして争いに発展させるかねぇ」

武史「最初は不審者だと思ったんだ。まぁ、今も少し怪しさを覚えているが」

悟朗「ああ、まぁな。なんだっけランスロットくん? 異世界から来たって話。いいねそういうの。子供の心を惹きつける」

ランスロット「事実なんだけどな。以前はピエール達に協力してもらって……帰ることができたんだったか? いやあそこはミスタルシア……あれ?」

悟朗「思い出ドロボウにでもあったかい? 記憶があやふやみたいだな」

ランスロット「うーん……少し混乱しているかもな。しかし、フェードラッヘのためにも一刻も早く帰らなければ」

ひとまずここまで
書きたかったところはほとんど書いた
アイマスは普通にバトルもできるようになってどんどんすごいコンテンツになっていく

書いてて楽しくなって予想外に長くなりました
続き投下していきます



雨彦「お前さん」

ランスロット「何か?」

雨彦「不思議な星の下に生まれてるねぇ。さぞ波乱万丈な人生だろう」

ランスロット「……かもしれないな」

雨彦「白竜、蛇……『ツツ』か。異界と繋がるのもむべなるかな」

ランスロット「何か知っているのか? あなたは何者なんだ。先ほど俺を抑えた札……あれは呪術では?」

雨彦「待て待て、俺は単なる掃除屋だよ。元ね。それに知っているのはお前さんの方だ」

ランスロット「む?」

雨彦「前はどうやって元の世界に戻ったんだい。手がかりくらい覚えてるだろう」

ランスロット「手がかり……」



武史「そういえば……なあ」

忍「我か?」

武史「どうやって俺の背後を取った。直前まで気配がまるで感じられなかった……元特殊メイクアップアーティストと聞いたが、本当か」

忍「うむ。我は特殊メイクを生業としてきた。虚言ではない」

武史「いや、だが、どう見ても忍者」

悟朗「こーらっ、掃除サボんなって! 子供の方がまだテキパキ動くぞ?」

武史「っ! すまない。……って、あいつが消えている!」

悟朗「身のこなしが軽いね。大泥棒でもやってたんじゃないか? ……いや、それはおれか」



――……


悟朗「掃除終わりっと」

雨彦「こびりついた闘気も殺気もすっかり消えた。清々しい」



想楽「餅食べず もちつもたれつ お片づけ。おつかれさまだねー。こっちに座るといいよー」

鞠王「掛けたまえ。駄菓子を食べるとよい」



北村想楽
http://i.imgur.com/g3UnSrK.jpg

安藤鞠王
http://i.imgur.com/Er0LseX.jpg



武史「どうも」

悟朗「集まってきたな、候補生」

想楽「でも社長はまだかなー?」

武史「そのようだな」

悟朗「んじゃ、迷子のランスロットくんをどうするか、先に考えとこうか」

ランスロット「迷子か…確かにそうだな」


武史「そもそも、皆ランスロットが異世界から来たと信じているのか」

想楽「そりゃさっき話を聞いた直後は妄言吐いてると思ったけどねー、ランちゃん、君ゲームのキャラクターだよねー?」

ランスロット「ランちゃんと呼ぶな……ゲーム?」

想楽「前にこの315プロダクションのアイドルが主演で映画にもなってたよー。みんな忘却済みー?」

悟朗「映画ね。あー、あれか『グランブルーファンタジー』」

ランスロット「そうだった。確かツバサ達もあの時映画の撮影と……」

武史「信憑性はあるとみていいか。あの剣の腕……そういった世界で磨かれたというなら納得だ」

想楽「浮世はおもしろいことが起きるよねー。すべて世はことが無くなってない」

ランスロット「…………勘弁してもらいたいよ」


悟朗「わかった。オッケー、信じよう。でも、どうしてもっかい来ちゃったんだい?」

ランスロット「わからない。俺の意志じゃない」

想楽「事故みたいな一人旅だねー。僕もそういった旅をしてみたいな。それで、前はどういう風に渡ってきたのー?」

ランスロット「急にまばゆい光に包まれて、気がついたらこっちに来ていた。星晶獣の仕業だと思うが」

想楽「星晶獣かー。本当にグラブル通りだねー」


ランスロット「グラブル……一体俺たちの世界はここでどういう扱いを受けているんだ?」

想楽「ふふ、今、お正月を狙ってCMバンバン流してるから見てもらった方が早いよ」ポチッ



――――――――――――――――――――――――――

『ねえママ“グラブる”ってなに?』

『えっ? なに急に。…そういうことはパパに聞きなさい』

『パパに聞いたらママに聞けって』

『……』

『……』

『“グラブる”ってなに?』

『……』

『パパもママも“グラブってる”の?』

『……よせよ』

『ぼくも“グラブる”!』

『食べなさい』


――さあ、グラブル

――――――――――――――――――――――――――


ランスロット「……なんだこれは」



武史「内容を推しはかることができないな」

想楽「色んなパターンあるからねー。ほら。動画でも確認できるから見せてしんぜようー」



『ねえ雑誌で見たんだけどさ、女子も一人でグラブるってホント?』

『してたとしても言うワケなくない? グラブってるよって』


ランスロット「……」


『見たヤツがいるんだよ。アイツとお前がグラブってるの』

『グラブろうがどうしようかアタシの勝手でしょ?』


ランスロット「…………」





ランスロット「グラブるってなんなんだ」

武史「い、いやわからん……」

想楽「ふふふふふ」



ランスロット「頭が痛くなってきた……」

鞠王「そなた」

ランスロット「ん?」

鞠王「その破れた服、少々私に預けるのだ。繕おう。確かな装いを纏って初めて菓子を味わう余裕が生まれる」

ランスロット「直してくれるのか?」

鞠王「ノブリスオブリージュというわけではないが、洋裁は得意とするところだ。民草を護る騎士がそのような有様であるのはいけない」

ランスロット「……恩に着ます」

鞠王「うむ。礼を言われるまでも。これは私の責務の一つであるゆえ」

武史「……上着を貸す」

ランスロット「ありがとう」


武史(貴族と騎士……。仕えることで見える境地もあるのか)


忍「もぐもぐ」

忍「……」シュン!


武史「む、うまか棒がいつの間にか減っている……!」


悟朗「話を戻すけどさ。元の世界に戻るための手がかりってあるのか?」

ランスロット「今回も星晶獣の仕業だろうから、この世界でまた星晶の力を使って戻るしかないだろうな」



想楽「星晶に星晶獣。そんなのこの世界にあるかなー」

ランスロット「前回はピエールのカエルの人形が……」

雨彦「テレビ」

ランスロット「なに?」

雨彦「画面見てみなよ。星晶の力だろ、『あれ』」

ランスロット「っ!?」



CMが終わり、画面に映し出されていたのはここからほど近い新年の神社の様子。

一見普通の光景。

――しかし画面の端。背景の空に、巨大なカエルのぬいぐるみが飛び去っていくのが見えた。



ランスロット「あれは!?」

武史「ぼんやりとした姿だった。一瞬しか映らなかった……だがあれは……!」

ランスロット「どうしてだ……倒したはずなのに! なぜあのぬいぐるみに宿る星晶獣が目覚めている!?」

雨彦「魂は在らず。しかしどうもしつこい思念がこびりついてるようだな。キュキュッと落としてやらねえと」

想楽「なにか映ったっけ? よく気付いたねー」

雨彦「なに、汚れが見逃せない性分でね」



ランスロット「いったいなにが起こっている……」



バンッ!!


瑛流「ちょいとゴメンよぉ!」

礼生「探せ探せー!!」


白石瑛流
http://i.imgur.com/njgi0we.jpg

猪狩礼生
http://i.imgur.com/knCrWSh.jpg


悟朗「おっ、キミ達は候補生の。また増えたな。社長全員に声をかけたか」

武史「おい……何をしている」


ガサゴソ ガサゴソ


瑛流「やー! つかぬことを聞くけども! ここになんかエレぇもんが戻ってこなかったかい?」

想楽「エレぇもん? えれぇ騒がしい人は今しがた戻ってきたけどもー」

瑛流「はっは! こりゃァ一本とられたァっ! って言ってる場合じゃあねぇんだよなぁ!」

鞠王「探し人か? 失せ物か? 何を探しているか述べたまえ」


瑛流「でっかいカエルのぬいぐるみさァ!!」

礼生「俺の法則によると、50%の確率でこっちに戻ってきてる可能性がある!!」


ランスロット「なに……?」



武史「カエルとは先ほど飛翔していたあれか」

ランスロット「どういうことだ!」

瑛流「やー! いじくってたら動きだしちまってなァ!!」

礼生「太陽みたいに輝いたんだ!!」

想楽「うーん?」


ランスロット「まばゆい光……!? それは!!」

瑛流「こっちにいないんだったら、どっかに逃げたってコトさね! あんたカエルを目撃したんならどこに行ったか一つ教えちゃあくれねェか!」

武史「見たといっても一瞬だった。あそこはこの近くの神社だったな」

瑛流「そっか。こうなったら! 探知機こさえて千里を走らなきゃかあ!? この事務所のモン勝手に動かしちゃァまずいもんな!」

ランスロット「待ってくれ! まばゆい光というのはいつ光った!? というかなにがあったんだ!」

礼生「おお!? お前誰だ! その剣本物か! いや待て! どっかで見たことあるぞ!!」

ランスロット「質問に答えてくれ!!」

瑛流「こっちゃァちょいと取り込み中でね! 悪い! 後してもらえると助かるねぇ!」

ランスロット「大事なことなんだ!!」

悟朗「おいおい、大声で言い合うなって。落ち着こうぜ」

瑛流「落ち着いて、茶ァしばいてる時じゃなくてねぇ!」


ランスロット「茶などどうでもいい!」



「そこまで!!」


ランスロット「!」

瑛流「!」


クリス「会議は踊る、されど進まず。静粛に皆さん。一つ一つ検証を進めていくことしか真実に近づく術は無いのです」

クリス「いつでも心に海を持ち、深く、広い姿勢でことに当たるのです」

クリス「さて……なにがありました? 話を統合するとしましょう」



古論クリス
http://i.imgur.com/ttMFcoG.jpg



武史「元海洋学者の……今来たのか」

ランスロット「――そうだな。冷静さを欠いた。しかし『アイドル候補生』というのは何人いるんだ。覚えられなくなってきたぞ」

悟朗「安心しなよ。これで全員だ」

想楽「なにがあったか、紐解いていくとしようかー」

瑛流「あれ? ……こりゃァ、まず事情をみ~んな説明しないといけない流れなのかい?」

――……


瑛流「――僕らは315プロ社長から連絡をもらって、この315プロに来たのさァ」

礼生「だが! 社長はいなかった!」

武史「お前達は俺より前に来ていたんだな」

瑛流「それで、待っててって言われて。僕は時間つぶしにキャッチボールに誘われてねェ」

悟朗「ふーん、それでいっしょに付きあってやったのかい?」

瑛流「おーうっ! 付き合って自動キャッチボールマシンを作ろうとしたのさぁ!!」

武史「マシンだと!?」

想楽「わーいきなり話が飛躍したねー」




――……

――――…………

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



礼生「なに! 自動キャッチボールマシンだって!! 本当に作れるのか!?」

瑛流「チョチョイノチョイさ! ボールを捕捉して投げ返すだけだろう? エンドレスでやれるぜェ!」

礼生「そうか……! 是非作ってくれ! 将来のチームメイト達のためにもそういった練習装置は必要だ!」

瑛流「任せなよォ!! っつっても、ボディのベースになるもんが欲しいねぇ。動きの元になる五体があるモンが」

礼生「ボディか! 確かに大事だな。鍛えた下半身がなくちゃ球威など生まれないからな!」

瑛流「おっと……! なんかボロボロのカエルのぬいぐるみを発見!! 事務員さん、これはなんだい!」


賢「え、それは確か、映画CMの撮影の後ピエール君が持って帰ってきた、『カエールのそっくりさん』……」



瑛流「ちょいと借りてっていいかい?」

賢「いいと思いますよ。ピエール君はやさしいですし」


礼生「そんなちっこいぬいぐるみをボディにするのか?」

瑛流「ベースさァ。そしたら、まず動力源に小型のインプロージョン機関を搭載するかねェ!」

礼生「おおっ! なんかすごそうだな! いや! 俺の目によれば、これは本当にすごい!」

瑛流「広いとこでやったほうがいいかねェ。爆発させるのもおそろしいし、外に行こう!」







――【カエールそっくりさん改造中】

ビビビビ、ピピー!!


瑛流「うーむ!? うーん! なんか取り付けた計器が変な反応してるねぇ?」

カエール「……」

礼生「なんだ失敗か!? だけどへこたれちゃあダメだ!! 前を向け!」

瑛流「よし来たァ! このカエルの秘密、解明してやる!」

礼生「そうだ! 絶対の法則を見つけ出せ!!」



瑛流「わかってきたァ!!」

瑛流「どうやらこう電流を流して! こう電磁パルスを当てて! こっちからマイクロウェーブを発射して、あっちからレーザー光に晒して! その上で荷電粒子をこーんな風に走らせれば!!」


カエール「……!!」ゴゴゴゴゴ


瑛流「ほら、計器の数値がどんどん上がっていくぜ!」

礼生「おお!」

瑛流「こいつはなんだァ? 波長を人の脳波パターンに近づけると妙な反応を……どういうカラクリだァ?」

礼生「もっと突き詰めよう!」

瑛流「おうよ! とりあえず閾値を測るか! エネルギー倍率ドン!!」グイーッ



カエール「…………!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ


カエール「…………!!!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコ!!!!!


瑛流「うん? また計器がぶれやがるな。……なんか別の力が干渉してるのか? お、もしかしてひっついてるこの結晶の欠片みたいのがコアに……」

礼生「ビルドアップの機能もあるのか! すごいな!」

瑛流「は? なに言ってやがんのさァ。ボディアーマーはこれから……おお!? なんだぃこの光は!!」

礼生「すげぇまぶしい!! 恒星みたいだ!!」


瑛流「ああ、まぶしかった……ってあれ?」



カエール(大)「……………………………」ど ぉ ~ ん 




瑛流「でかくなったすげー」




カエール「…………  け"  ろ"  っ"  け"  ろ"  ~"  ん"  (低音)」




礼生「しゃべった!? この世の法則を突破したぞコイツ!!」





カエール「………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴ




瑛流「浮いた!! 飛行機構はまだつけてねぇのに!!」



カエール「……――――!!!」ヒュー――ン


礼生「おい。飛んで行っちゃったぞ」

瑛流「…………」

礼生「…………」

瑛流「世の中ってのはおもしろいことが起きるねェ」

礼生「ああ。俺の中の法則にフィードバックしとかなくちゃな、この経験」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



礼生「ということがあったんだ」

ランスロット「…………」

武史「…………」


悟朗「お前らのせいじゃねえか!」


瑛流「恐いねェ。だが陳腐なセリフを言わせてもらえるんなら、失敗は成功の母だ。許してくんない!」

礼生「俺たちはあのカエル人形を回収しようとしてる!! ちゃんと責任をとっている!!」

想楽「天才と 馬鹿と罪人 紙一重」

ランスロット「エネルギーを注いだことにより、カエールに残っていた星晶の力の残滓が再び荒ぶり始めたのか……?」

雨彦「寝た子を起こしちまったか」

悟朗「まったく、手のかかる子どもだな」

瑛流「だな」

礼生「本当にな!」

悟朗「キミタチは心に童心残しすぎ。反省しなよー。俺は悪くねぇっ! とか言うなよ?」

礼生「なんかお前そのセリフ似合うな!」



想楽「星晶獣って暴れるんじゃなかったっけ? 危なくない?」

ランスロット「ああ、危険だ……」



ランスロット(おそらく……星晶の力が高まり、光が溢れだしたその時だろう。次元の扉が開いたのは)

ランスロット(またこっちに俺が来てしまったのはそういう理由(ワケ)だったか……」


鞠王「――して、騎士ランスロット。卿はどうする」


ランスロット「……」

鞠王「どうやら原因がこちらの世界の人間にもあるようだが……民草に暴を振るう輩が解き放たれた様子」

ランスロット「……」

鞠王「であれば、騎士の出番であろう?」

ランスロット「ああ。あなたの言う通りだ。俺は行く」

鞠王「ははは。よい顔だね。繕いは一通り終わった。纏っていかれますよう」

ランスロット「かたじけない」バサッ

武史「あのでかいカワズを斬りに行くのか?」

ランスロット「ああ。野放しはあまりに危険だ……どうやら前回の搾りかすで意思すら定まっていないようだが、それでもな」

ランスロット「前回の繰り返しというなら、星晶の力が高まっているアイツを倒せばまた次元の扉が開くはず」



想楽「カエルを倒して帰るー? 言葉遊びみたいだねー」

悟朗「で、あのカエルを捕まえる方法はあるのかい?」

ランスロット「魔物が跳梁していれば街のどこかで騒動が起きるだろう。そこを当たれば……いやしかし、人々に被害が出てしまってからでは遅いな。どうするか」

武史「場所さえわかれば……」



忍「――かの妖は現在神社から南下し、現在は鷹城会館の上空を高高度で浮遊している」



ランスロット「何!」

瑛流「うぉう!? なんだい急に現れたねぇ!」

武史「なぜわかるんだ」


忍「屋上より索敵し、視認した。討伐に向かうのであれば急がれよ」


ランスロット「ああ、行こう! 手伝ってもらって悪いな……!」

忍「礼など不要。貴殿も忠義の刃を捧げる相手がおられるのであろう。……協力は惜しまず」

ランスロット「……そうだ。俺の刃は、臣下の剣。帰らなければならない」

武史「俺も行こう」

ランスロット「ムサシ……」

武史「興味がある。お前の達が相手にしている異界の魔物の強さは如何程のものか、確かめたい」

ランスロット「ありがとう。心強いよ」



瑛流「僕もあのカエルに取り付けた装置の電磁波をキャッチする探知機をこさえるからさァ、いっしょに探すとしようかぁ!」

想楽「汚れのに目ざとい人も連れてった方がいいんじゃないかなー」

雨彦「ああ、俺にできることがあるってんならお掃除の協力、してやるさ」

礼生「なんだみんな行くのか! 良いチームって気がするな…………俺もこんな…………よし!! みんなでカエル拾いにいくぞ!!」


ランスロット「みんな……来てくれるのか」


――

――――

――――――



クリス「なんと!! 海が! 海が無いのですか!! そちらの世界は!!」

ランスロット「ああ、雲の大海を騎空艇で飛ぶんだ」

クリス「なんと奇怪な……それでは人類の祖はどこから現れ進化していったのです?」

ランスロット「お、俺は学者じゃないからな……あ、でも、水が溜まった海もあるんだぞ? アウギュステに」

クリス「ではそこでしか人はあの偉大な海を感じられないと。私はその世界で生きられるか不安ですね」

ランスロット(空の底に大海がある、か。まさか本当だったとはな)

クリス「しかし興味も出てきました。海を感じられないその世界で、人々は果たしてなにを思い、どう生きるのか……その生態が気になります。是非研究したい」

ランスロット「あなたは、騎空団にいたアウギュステの監視員だった彼と気が合いそうだな」



礼生「なあランスロット!! お前白竜騎士団ってチームを率いてるんだろ!?」

ランスロット「ああ。団長を務めている。ジークフリートさんのように出来ているかはわからないが。追いつけるよう鍛錬の日々さ」

礼生「強いリーダーがいれば、強いチームができる! そうだよな! オレもがんばるぜ!」

ランスロット「レオ、君もチームを作りたいのか?」

礼生「そうなんだ! そのためにアイドルになる!」

ランスロット「アイドルというのはすごいんだな……。どんなチームにしたいか。作るんなら目標となるものがあった方といい思うぞ?」

礼生「目標? そうだな強くて大正義なキャッツみたいなチームに憧れるけど、気に食わない部分もあるっちゃあるからなー! スターの球団は……、うん……」

ランスロット「スター? そこは良くないチームなのか」

礼生「大型補強はもうしねーのかなーあそこ……」




瑛流「お、探知機に反応ありだァ! こりゃあ、ここらへんをプカプカしてるぜぇ!」

悟朗「お尋ね者はやっぱ捕まるのが道理だな。で、どこだい?」

雨彦「西だな。邪な……なんかイヤな汚れの気配、あっちから漂ってる。だろ、メイクさん」

忍「うむ。確認した。あの鷹城出版のオフィスビルの屋上に昇れば皆も視認できよう」シュタッ


想楽「あざやかな 奇想を競って アイドルに。いやー、流石は芸能界。自分らしく生きられていいねー。色んな個性が見える」

鞠王「私たちはまだ選考中の身であるがな」


武史「居所がわかった。行こうランスロット」

ランスロット「ああ、ムサシ。心強いなお前達は」

悟朗「なーあ、ムサシってのはなんだ? こっちの名前は美作武史だろ?」

ランスロット「なに?」

武史「ああ……名乗りの時、美作武史じゃわかりにくいと思ったんで、武蔵と言ったんだ」

悟朗「ランスロットって聞いて武蔵って答えたのか? なんだそういうノリだと思ったのか」

武史「……そんなところだ」



悟朗「そういうコミュニケーションもありだよな。んじゃ、おれ三条悟朗は『石川五右衛門』かな」

忍「とくれば我、風間忍は……『風魔小太郎』……いや、忘れていただこう」

瑛流「おもしろいじゃないかァ! そんじゃ僕白石瑛流はエレキテルの『平賀源内』だな!」

想楽「ふむー僕は北村想楽だからねー。北村季吟、河合曽良どっちにしようか。『松尾芭蕉』でいこうかなー」

雨彦「俺は葛之葉雨彦。葛の葉ときたら狐さんだな。『安倍晴明』みたく日も月もあからさまに名前に入れてるわけじゃないがね」

礼生「じゃあオレ、猪狩礼生は『ガリレオ・ガリレイ』ってとこか! オレ流天動説レッツスピーク!!」

鞠王「駄菓子あればこそ、民草の心は潤うもの。安藤鞠王である私は『マリー・アントワネット』だろうか」

クリス「そのような流儀に則るのであれば……私、古論クリスは『クリストファー・コロンブス』としましょう」


ランスロット「み、耳慣れないな。この世界の偉人なのか?」

武史「ああみんな、有名人だ……ランスロットもそうだ。円卓最強の英傑だ」

ランスロット「そうなのか……! ははっ! 英傑とはなんかうれしいな!」

クリス(王の妃と不義密通して円卓の騎士を分裂させてしまいましたがね……)



武史「あのカエルを倒せば、帰れるんだったな?」

ランスロット「そうだ」

武史「……そうか。強いヤツがいっぱいいるんだろうな、そっちの世界では」

ランスロット「ああ。色んなヤツがいる。しかしムサシ……いや、タケシ」



――『オレはここでトップアイドルになると決めたんです』



ランスロット「……お前はここで仲間を得て、トップを目指すんだろう?」

武史「選考の結果次第ではな。……いや、どんな結果になろうとも、か。どんな結果であっても俺は前に進むのみ」

ランスロット「ああ。がんばろう。お互いにな」


礼生「ラーンスロットォ! 早く行こうぜっ外人選手は協調性がないと思われるぞ!」

ランスロット「今行く!」


――……

DRAMATIC STARS
http://i.imgur.com/HCrHj6G.png
http://i.imgur.com/eCTu1JP.png
http://i.imgur.com/GWJQijX.png


輝「見たんだって! マジ! テレビの端をススーって!」

翼「本当にカエールが? あの時みたいにですか?」

輝「おう! ボヤっとしてたけどな。どんな理由(ワケ)あってまたモンスターになっちまったか知らねえけど、放っておくわけにはいかないだろ!」

薫「正直信じがたいが……事実なのであれば、天道の言う通り放置しておけないだろうな」

輝「だろ! 桜庭! 珍しく意見があったな!」

薫「『知っている』者の責任だ。あの空の上。グランブルーファンタジーの世界とこっちの世界が繋がることを知っているのは……僕たちだけだからな」




「ええ! あっちのモンスターがこっちに来てるの!? しぶりんそれホント!?」

「うん……! 生中継の背景に映ったの一瞬だったけど、わかった。なんていうか……雰囲気で。ね、みく、わかったよね?」

「にゃー!! みくはナンにも見てないにゃー!!」

「ホントに~? めんどいな~……甘酒で酔っぱらって幻覚を見たとかじゃないんだよね?」

「凛ちゃんはしっかりしてます! きっと本当なんです! みなさん、がんばりましょう!」

「がんばりましょうったってなにするのさ……」

「あれは夢にゃー!!」



薫「……ん?」

輝「いくぜ桜庭! 探さねえと!」

薫「あ、ああ……了解した」




――

――――

――――――



高層ビル・屋上



ゴオオオオオ…


鞠王「すごい風だ。これがビル風というものか」

クリス「高層ビルの頂ですからね。しかし、この屋上への業務エレベーター、よく動かせましたね」

忍「なに侵入は容易きこと……否、違う、知人がいたのでな。頼んだのだ」

武史「……いややはりアンタ忍者」

忍「して、かの妖は見えたか」

ランスロット「――ああ、見えた。あそこを漂っている」




カエール「…」フラフラ



悟朗「あそこか! お尋ね者発見!」

想楽「ホントにいたんだねー。でもなんかぼやけてて霧の固まりみたいに見えるね」

ランスロット「力の残滓が不安定に膨れ上がってしまっているのか……」

武史「だが僥倖だ。あのような有様ならば、化物が空を飛んでいるとは見え難い。無用な混乱が起きずにすんだ」

瑛流「ぼん~やり浮いてるだけみたいだねェ! こりゃあ回収も案外カンタンにいきそうじゃないかい」





雨彦「いやそんな簡単にはいかなそうだ」

鞠王「む?」

雨彦「痛みは恨みになって、恨みは妄執と化す。しつこい油ヨゴレみたいにな。……来るぞ。お前さんの存在を感じたようだ」

ランスロット「わかっている……!」




カエール「――――!!!」ゴオオオオオオオオオオ!!!




クリス「むっ!?」

武史「いきなり接近してきたぞ!!」

礼生「この気迫! デッドボールの時猛ダッシュしてピッチャーに食いかかるあの……!」


ランスロット(お前を倒したのは俺だ。……その記憶はあるんだな。お前も恨みに突き動かされたイザベラと根っこは同じ)



ランスロット「自分が撒いた種だ。俺が斬り払わなくてはならない」



カエール「…………  け"  ろ"  っ"  け"  ろ"  ~"  ん"  ! ! ! ! 」ゴオオオオオオ!!!



ランスロット「白竜騎士団団長ランスロット!! 推して参る!!」


――ジャキキィン!!



疾駆。二振りの騎士剣を構え、ランスロットは緑の魔物に突進していく。



ランスロット「おおおおっ!!」


カエール「…………!」カッ!!!


ランスロット「ぬぐっ!?」


衝突の瞬間。緑の魔物は体から光を放ち、衝撃をバラまいた。



――ゴオオオオオッ!!!


クリス「なんという暴風……!!」

悟朗「おおう!? こりゃすごいな!」




ランスロット「くっ! これしきで!」




武史「ランスロット! ヤツは上に逃げたぞ!」

ランスロット「ああ! わかっている!」



カエール「…………!!」



ランスロット「どうした……来ないのか。やられた記憶が残っているのか?」

カエール「…………!!」カッ!!



騎士の上を取った緑の魔物は発光し、再び波動を降り注がせた。



ランスロット「ぐぐっ……!!」

武史「ランスロット!!」

ランスロット「平気だ! みんなは離れていてくれ!!」

ランスロット「しかし……前はこんな技は持っていなかった気がするが……!」



想楽「あれじゃないかなー? 魔改造の影響」

瑛流「ああー、マッシブに動けるようにハイパワーな動力搭載しちゃったからか!? なんてこったい!! こーゆう失敗多いんだよなァ僕は!!」




ランスロット「おおおっ!!」


右の剣を投擲するランスロット。


カエール「……っ!!」ドスッ!!


放たれた剣は矢の如く、緑の魔物に突き刺さる。


礼生「おお! いい肩をしてるな!!」




カエール「――――……!!!」グラァ


――バシュー!!


揺らめいた緑の魔物。騎士の水のオーラが通った剣を受け、それに散らされるように体から緑の波動が吐き出されていく。



雨彦「膨れ上がった魔性の気が、風船みたいに破裂していってるねぇ」

忍「やはり不安定な存在か……」




ランスロット「とどめだ!」

ビルの端へ落ちていく緑の魔物に向かって、騎士は接近する。



カエール「…………」



武史「……!?」ゾクッ

武史(なんだ危険な気配が)




ランスロット「てああああっ――――――!」


カエール「――!!!!!!」


ビビビィィー――――!!!


騎士が剣を振りかぶったその瞬間だった。……緑の魔物の双眸が煌めき、強烈な光の柱が飛び出したのは。


ランスロット「なっ――」

ランスロット「ぐはああっ!!?」




礼生「うおおっ!!? ビーム! ビームを出したぞ!?」

瑛流「大丈夫かいっ!? こりゃぁ荷電粒子循環させた影響かねぇ」

想楽「ホントなに余計な強化してくれてるのさー……」


ランスロット(不覚……! 不意を突かれる……とは……)



武史「ランスロット!!」


――ガシャシャギン!!


2本のロッドを振出した武史が助太刀に駆ける。




カエール「……け"ろ"っ"け"ろ"~"ん"っ"!"」ゴアッ!!


ランスロット「ぐあっ!?」



しかし助太刀の刃が届く前に、緑の魔物は騎士に向かって突進し、強烈な体当たりを見舞った。

緑の魔物の頭に張り付けられたまま、騎士はそのまま体を空にさらわれてゆく。




ランスロット(しまった、剣が……!!)


不意打ちのビームをまともに食らい痺れが残る体。そこに体当たりの衝撃が加わって、左手の剣が零れ落ちた。



クリス「剣が!」

雨彦「……」ヒュッ!



瑛流「おいおい! 剣が下に落ちて行っちゃったぜ!?」

クリス「危険です! こんな高層ビルの屋上から刃物を落としては下にいる人々に」

雨彦「当たりはしねぇさ。……呪を掛けた」

礼生「は? なんて言った!?」

雨彦「いや。……ともかく。あの剣士さん、丸腰になっちまったな。なんとかしねぇとだ」

悟朗「おれが下に行って剣取ってくるよ」

鞠王「私も行こう。あれは……騎士の誇りであるから」

武史「任せたぞ」

悟朗「おう。落し物の扱いには慣れてる。心配するな」



武史(下に降りて、見つけて、回収してここに戻ってくる。迅速にそうしても……決着のその時まで間に合うかわからない)

武史(あの状況で丸腰のままどれほど持つ)


武史「くそ! せめて……獲物を渡すことができれば!」

瑛流「あー、こりゃぁやっぱ僕のせいだよなぁ! 作ったおもちゃ爆発させちまうことはあったけど、今回はサスガに罪悪感湧いちゃうねェ!」

想楽「爆発ってあなたマッドサイエンティストなのー?」

瑛流「おもちゃ屋だい! ……いや、そうだ! みんなちょいと耳を貸してくんない!」




――ゴオオオオオ!!


緑の魔物に掴まったまま、騎士は都会の上空を連れ回される。



ランスロット「くそ……!」ガッ! ゴッ!

カエール「――!!」


何発か素手による打撃を行ってはみているが、こんな不安定な状態での攻撃はたいして効果があるわけもない。


この状態から脱すること。武器を取り戻すこと。


しなくてはならないことはそれだ。



ランスロット(それができれば……この緑の魔物を倒せる)


カエール「…………」




奇妙な膠着状態のままランスロットは魔物をにらんだ。


ランスロット「……ん?」


……そして気付いた。


ランスロット「お前。前回のピエールのぬいぐるみではないんだな」



カエール「…………!!」


様々な機器が取り付けられている他、この緑の魔物には以前と違う点があった。

ボロボロなのだ。


あの315プロ事務所のラウンジで見た、ケースの表を飾るピエールの写真。彼の腕に抱かれたカエルのぬいぐるみ。

そして、前回この世界に来た時に見たあの巨大化したぬいぐるみ。


それはこんな風にボロボロではなかった。



ランスロット「そうか……『カエールのそっくりさん』だったな」

ランスロット(ピエール達とともに倒したあの暴走したカエールとは違う。しかしならなぜ俺にここまで敵意を剥いている?)


カエール「……!!」グワッ!!


ランスロット「うわっ!?」


急上昇するカエール(のそっくりさん)。

一瞬、宙に身が踊り……そこで騎士は緑の魔物の胸に輝く『それ』を発見した。


ランスロット(今、日に煌めいたあれはもしや星晶の欠片……!?)

ランスロット(そういえば、前回この世界から帰る時……最後に星晶石を置いてきたままだった)

ランスロット(あの星晶はカエールを暴走させたもの。そうか! 『敗れた記憶』は星晶石の方に還っていたのか!)




残された星晶にランスロットへの恨みが宿り、ボロボロなれど前回の寄り代と似た『ボディ』を得て――その敵は再びランスロットに挑んできた。



ランスロット「戦うべきはあの星晶の力。思念は星晶に宿っている……!」


星晶は俺たちの世界のものだ。

確かに再び起こすきっかけを作ったのは、あの奇妙な発明家のアイドル候補生かもしれないが……

根本の原因は空の世界の力にある。


《星の民》が振るった、その空の強大なる力。



ランスロット「ならば、なおさら……俺が鎮めなければ!」


ランスロット「おおおおおっ!!!」


――ドガッ!!


上昇の最中。騎士は両手を組み合わせ渾身の力を込めて緑の魔物を打った。


カエール「……――!!」


その気迫の一撃に、魔物の体はぐらりと揺れる。



不規則な動きをしながら、緑の魔物はゆっくりと下降し始める。



ランスロット(どうにかして剣を取り戻さなくては)

ランスロット(刺した方の剣、あれを……!)



カエール「けろ……け"ろ"~"っ"!!!」


――バシュゥゥッ!!!


ランスロット「くっ!!」




剣を狙ったその時、魔物の体が発光し衝撃がほとばしった。


ランスロット(先ほどより威力は無いが……! この密着状態では……響く……!!)

ランスロット(剣が遠い――!)


ひゅっ


ランスロット「っ?」


その時、黒い箱がランスロットの視界の端をよぎり。


――――ぼぉん!!!!


カエール「……!!!???」


――緑の魔物の体が爆発した。




ランスロット「な、なんだいきなり!?」


伝わる爆発の震えの中。ランスロットは下方から響く声を聞く。




礼生「よっしゃー! ナイスコントロールだ!! 流石はオレだ!!」

クリス「爆弾を投げたのですか?」

瑛流「爆発“させる”モンを投げてもらったのさァ! あのカエルに取り付けた機械の回路に、サージ電流で負荷を掛けてだなァ……ま! 爆発させんのはオテノモンさァ!」

想楽「爆発させるのが得意ってどうなんだろねー」


武史「ランスロット! 今だこっちに跳べ!」


ランスロット「支援してくれたんだな、感謝するっ!」バッ!



――ザザァッ!

ふらつく魔物の頭からランスロットは下に飛び降り、再び屋上に戻る。



武史「仕留められるか?」

ランスロット「ああ。問題ない」

武史「流石だ。それでこそ俺の好敵手だ。…………使え」


美作武史は自分の2本のロッドを……否、二刀を騎士に差しだした。


ランスロット「ありがとうタケシ。その誇り、少しの間借り受ける」

武史「ああ!」

ランスロット「俺たちの世界の魔物だ。……俺が倒す」

雨彦「おう。鬼鬼相殺。それが道理だ。ま、やるこたぁいつもと同じだろ? 気楽にやんなよ」ポンッ

ランスロット「アメヒコさん……」



――ブワッ!!


ランスロット「っ! これは!」


瞬間、騎士の躯から青いオーラが噴出し、五体に力が湧き上がった。


雨彦「あの時片付けちまったお前さんの力。返しておこう」

ランスロット「ああ……確かに受け取りました!」

忍「忠義の剣の極致。見届けさせていただく」

雨彦「さぞかし美しいんだろうねぇ」

ランスロット「……見ていてくれ」

武史「――行け! ランスロット!」




カエール「…………  け"  ろ"  っ"  け"  ろ"  ~"  ん"  ! ! ! 」ゴアアアッ!!




再び空へ浮かび上がる緑の魔物。

ランスロットの姿を認めた彼の者は、再び双眸に光を滾らせる。



ランスロット「――――!!」



そして、騎士はその敵意の眼差しに微塵も臆すことなく疾駆し…………そして飛んだ。






――――――「『ヴァイス・フリューゲル』!!!」





――……


男児「えー! この剣おれのもんだしー!」

悟朗「だよなー! その剣似あってるよキミ。でもその剣友達のところに戻りたいって言ってるから、ちょっと聞いてあげない?」

男児「ウソだー!」

悟朗「はっは! おれはウソつかないぞー! ウソつかないってウソもつかないぞー!」

女児「ねー、返してあげよ? お菓子くれたし、いい人だよー」

鞠王「はっは。良き笑顔で食べる。実にうれしい」

男児「お菓子……んー……ちぇっ! しょーがないか。重くて動かせないし……いいや。返す」

悟朗「おお! 返してくれてありがとう! あー……、でもこれからはお菓子に釣られないように。恐い人もいるからな」


鞠王「私は恐い人ではないぞ?」

悟朗「いや、そりゃわかってる――ん?」

鞠王「どうしたのだい」

悟朗「おい、あれ。空」

鞠王「おお……!」



輝「いた! ほら! あそこ!」

薫「どこだ……?」

翼「あのビルの上のあたりのちっちゃい影です!! ほら薫さん!!」

薫「あれか。確かに。言われてみれば」

輝「……あれ? 光に包まれて……」

薫「なんだ? 散り溶けていってるように見えるが……?」

翼「もしかして、もう一件落着しちゃったんですか?」




・・・




「ねえ! 見て!!」

「光ってます! 凛ちゃんあれって!」

「うん、蒼い『剣』の光……だよね、あれ」

「消えていくみたいっ!」

「え! そうなの! やったにゃ!」

「良かったー。なんか知んないけど、終わったぽい。新年早々面倒なコトに巻き込まれずにすんだー」

「ホント、なにが起きたんだろねー?」

(もしかしたら……私たち以外にもあの世界に触れた人がいたのかな?)


――――

――――――
魔物は再び鎮められた。


カエール「…………」


瑛流「お! ちっちゃくなって、元のぬいぐるみに戻ったか! よ~しよし! そんじゃぶっ壊れた機械を剥がしていくかねェ!」

想楽「こうして見るとかわいいぬいぐるみだねー」

ランスロット「星晶の力で動かされていただけだからな。この子もピエールの元に返してやってくれ」

礼生「おう! 戻しておく!! 社長にあいさつしに事務所に帰るしな!」


雨彦「お前さん。異界に繋がる扉、開いたみたいだが?」」

ランスロット「そうか! この光に飛び込めばまた元の世界に戻れるな!」

忍「帰還なされるのだな。息災で」

クリス「もっと海のことを知っていってほしかったですが。空の世界でもお元気で」

ランスロット「ああ。……しかし、もう一本の剣が」


悟朗「おーい! 剣いただいて……おほん、持ってきたぞー!」

想楽「おおーグッドタイミングだねー」

ランスロット「ありがとう。恩に着るよ!」

鞠王「――Adel sitzt im Gemut,nicht im Geblut」

ランスロット「なに?」

鞠王「これはフランスでもイギリスでもないドイツの言葉だが。とても気に入っている。氏より意志――『高貴さは生まれではなく心に宿る』」

ランスロット「心……」

鞠王「友達よ。騎士の魂ゆめゆめ揺らすことなく。私もがんばるゆえ」

ランスロット「わかった。その言葉刻んでいくよ。ありがとう、友よ」



武史「ランスロット」

ランスロット「タケシ……」

武史「素晴らしい剣技だった。もう少しお前とは打ち合って……その技の妙所を知りたかった」

ランスロット「ははっ。決着つけられなかったものな」

武史「まだ実力の全てを見せたわけじゃないだろう?」

ランスロット「それを言うなら、俺だって貴殿の技を全ては見せてもらってはないぞ」

武史「まあそうではあるが…………ふっ、またの機会か」

ランスロット「そうだな。また、もし会えたらその時は試合をしよう」

武史「わかった。再戦だな」

ランスロット「ああ、再戦だ」


武史「それでは、さらばだ。ランスロット。もっと強くなってきてくれ」

ランスロット「お前も……くじけることのないよう」





ランスロット「世話になったな! またなみんな!!」




歩んでいく騎士の身体が光の中へと消えていく。



だんだんと光は輝きを増し、現れた時と同じようにそれは一際強く輝いて、アイドルの“一歩手前”の9人を包む。



武史(そういえば……転移の影響か、記憶があやふやだと言っていたな)


武史(このまばゆい光。確かに身体の中まで沁み入って前後不覚になりそうだ)



煌々と、轟々と、輝く光。

もしかしたら……光り終わった後。自分達はこのことに対する記憶を忘れてしまうかもしれない。

そんな想念が頭をよぎる。



武史(だが……それでも構わない)




武史(あの騎士と出会ったことで最強を目指す意志は一層強まった)

武史(あいつの剣。ここに刻んで――――振り向かない)



そうだランスロット。

――――俺は負けはしないんだ。






これにてお終いです。すごく楽しく書けた
SideM、空の上とガッツリ絡んでくれてありがとう

新アイドル誰が来ても歓迎します! 本音を言うと全員来てほしいですが!
2016年も盛り上がってくれれば嬉しいですね

訂正
>>9
彼は“二回目”の剣の振りを防御に回すことがのだ。

彼は“二回目”の剣の振りを防御に回すことができたのだ。


感想ありがとうございます
思えばちょうど1年前、ニコ生でドラスタに声帯来たんですね。いつか新アイドル達にも声帯が来るんでしょう
書いてみたら新アイドルすごく楽しいキャラクターをしてたんで、物語の幅が広がりそうですね

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