そだちコンジェクチャ (37)

化物語のssです。

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育「次の町に行くバスまでどのくらいかな?」


結構ある

私は次の町に行かなくてはならない。逃げるわけでなく

誰に言っているんだ。私のためだ

時刻表をみるのに決意を使った私は椅子に座る、いやベンチか

青いベンチの端を見つめる。長い引きこもり生活の所為か

視線が外に出るとまったく定まらない。何かに固定したいのだ

でも人がいたら固定はできないので

物体を見つめるのだけど、この子なに?

オレンジと青緑の女の子

いつからいただろう?


余接「僕の石ころ帽子を見破るなんて」

僕って言うんだ。この子

なんか頭がちょっとおかしい子なのかな?

私もおかしいことには自信があるけど


育「その帽子のこと?」


変な帽子


余接「お姉ちゃんはマンガとかテレビ見ないほう?」

育「見ないわ」

余接「そう」

余接「最近じゃ意識高いとか言われちゃうけど、お金が無くてそんなどころじゃねーよとか」

余接「余裕もなにもないからだよ。見れたらみたいよ僕だって」

余接「って言う人もそんな風に言われちゃうのかな?」

育「さぁどうだか」

実際私はそうだけど、言われたことはないし、そんな会話にはならない

会話はしない

してくれる人がいない

この子は話しかけてきた

私は話しかけない

元々そんなに話したいほうじゃないし、頑張らないと無理だし

こんな格好の子供と仲良くならなくていい

足をプラプラさせてこっちを見てる

私なんかに話しかけてくれてありがとうだけど

私はこの町からでていくからね

バスの時間はあるみたいだ。私は気まずくなって目を閉じる

寝るふりをしよう

気にしているんだと自嘲しながら更に目を閉じる

肩に重さを感じて、目を開くと

寄りかかるカラフル


余接「いけない、いけない。僕としたことが寝てしまった」


棒読みの子供

無表情な少女

かわいい格好

寄りかかったままで


育「なあに?」


精一杯、子供向けの声を出す


余接「ほっぺたから匂いがする」


私の頬に近づき、鼻があたる


育「私のほっぺが臭いっていう意味?」

余接「ネガティブだね」

いや、びっくりしたんだよ。だから変なことを

触れられたことに

人に触られるのが怖い

これが治ることはあるのだろうか

もちろん人に触るのも怖い

拒絶されるのが怖い

往々にして私も拒絶するけど


余接「知っている人の匂い、だからか」


知っている人?

この子の知っている人の匂いが私からしているのか

なんだろう。それ

子供だから、まあ本気にしなくていい

でもどんな人と似ているのかな?


育「それってどんな人?」

育「素敵な人?」


私に似ていて勉強が、数学が好きな人なら嬉しい


余接「一言で言うなら変人、いや変態かな」

余接「とにかく変な人だよ」


まあ私に似ているんだ

仕方ない。バス来ないかなあ

余接「バスがくるよ」

育「あれじゃない」


バスが来て

バスに乗らないことを示すために頭を下げる

隣を見る

見られて

遅れてもう一つの頭が下がる

いい子じゃないか

でも変な帽子


余接「かぶる?」

育「ごめんなさい」

頭を下げる

かぶせようとする

そういうんじゃないんだけどね

断ったんだよ。だからごめんって

伝わらないなあ

でもかぶって

10秒だけ耐えて

隣を見て

目を逸らされた

こいつ

余接「そんな無表情でそんな帽子かぶったら変だよ」


知ってるよ。せめて笑ってよ、頑張ったんだから

それにしてもこの子、笑わないな

それには負けないけどね


余接「いえーい」


ジッと見ていたらそう言われた

今、子供達の間で流行っているに違いない

なにが流行るか分からない

帽子はとってくれた

余接「お姉ちゃんも一緒にする?」

育「やめとくわ」


誰かに見られたら死にたくなる

まあ見られたところでどうとでもないか


余接「やりたいでしょ?」

育「やらないの」


だからってやりたいわけはないもの

余接「どこに行くの?」

育「ここ以外のところ」

余接「じゃあこの町を離れるの?」

育「そう」

余接「誰かいないの?」

育「誰が?」

余接「普通町から離れるのなら誰か見送りにきているものだから」


思いもしなかった

育「誰もいない」

余接「わー」


わーってなに?

睨んでみる

全然動じない


余接「じゃあ僕がお姉ちゃんの友人を演じようか?」


いや・・・別に

嬉しいと思ったけれど、それはどうなのだろう?

余接「あんまり・・・いたことがないんだけど」

育「それは分かるよ」

余接「お姉ちゃん、僕のど渇いたな」

育「そう」

余接「友達でしょ?」


友達ってそうなんだ。難しいな

なにがいいんだろう

お茶は子供だから駄目かもしれない

炭酸系も苦手かもしれない

これでいいか


余接「おしるこって」

余接「おしるこって」

育「2回言う?」


でも飲むんだ


余接「いいセンスだね」

育「ありがとう」

余接「お姉ちゃんのこと、心配になるんだけど」


お金はちゃんとくれた

余接「僕、携帯持っているんだ」


今時の子供は持ってるよね


余接「お姉ちゃんは?」


これが最近の携帯か


余接「持ってないんだね」

余接「写真を撮れるんだよ」

育「それは知ってる」

余接「一緒に撮ろうよ」

育「バス停を?なんで?」

余接「ポンコツだね。自分達を撮るんだよ」

育「撮りにくいじゃない。誰かに頼む?」

余接「・・・いや大丈夫だよ」


顔を近づけ、シャッター音が鳴り、画面を見てみる


余接「無表情だね」

育「2人ともね」

余接「お姉ちゃん、これに懲りずに頑張ってね」


ピースまでしたのに

育「そういえばあなた、どこに行くの?」

余接「行かないよ」

育「じゃあ何しているの?」

余接「基本はお仕事だよ」


嘘をつくな


育「誰の子?」

余接「誰かの子」

育「どこの子?」

余接「どこかの子」


バス来て

私にはきつい

あいつならきっとうまくやるだろう

妹達がいるから

私はひとりだ

育「お母さんは?」

余接「いないよ」

育「どこかに行ってるから?」

余接「どこにもいないよ」


どこにも


育「大変だね」


私らしくなく笑顔になって励ましてみる


余接「笑顔が歪んでいる」

余接「自信がないんだね」

余接「持続性がない」

育「ああ、そう」

見せたことないもの。見たことないもの

自分の笑顔なんて

いつもの顔に戻るだけ


余接「素敵な怖い顔だね」


これは良い評価をもらったらしい


余接「そんな目付き、皺になっちゃうよ」

育「目が?」

余接「バカじゃない」

余接「普段冗談を言うタイプの人が言うと、もの悲しくなるよね」

余接「それはもう冗談みたいに」

育「それで何がいけないの」

余接「お姉ちゃんが友達がいなくて、アレな子っていうのはいけないことではないよ」


私はカッとなっているのか


余接「ずっとそうだったの?」

育「ずっとそう。10周年は堅い」

余接「アニバーサリーだね。おめでとう」


頑張らなくていいところで頑張るのが私だ


育「そういえばもうずっとおめでとうなんて言われてない」

育「誕生日でもそう。普段の日もまったく人と話さないし」

育「インターホンなんか鳴ってもほぼでないし」

余接「断交だね」

育「電話なんてもちろんなくて」

余接「断線だね」

育「郵便箱も開けない」

余接「郵便局の人、困るね」

育「これで女子高生だものね。先はないかもしれないわ」

育「言うとおりに人としてもだいぶあれだしね」


もういいよ。何を言ってるんだろう

余接「でも家族の人は?」

育「いない」


いない


育「私はドアを毎日ノックしていたの」

育「でも返ってきたことはなかった」

育「帰ってくることはなかった」

育「私は何回も大丈夫?って言ったけど」

育「それも返ってこなかった」

育「唯一、私のつくったご飯だけがそのまま返ってきたの」

育「私、どうしようかと思ってどうしようもできなかった」


何を言っているのだろう

でももう流石にこの子でも頭のおかしい人だと思って

どこかに行ってくれるかもしれないな


余接「大変だね」


無表情なままで言う


余接「ところで」

余接「僕に心があると思う?」

余接「僕はそれしか言うことができないんだ」

余接「本当ならお姉ちゃんに同情したりするのがいいのだろうけど」

余接「思うことができなくてごめんね」

育「違う」

余接「違う?」


さっき私は同じことをこの子に言った

大変だねって

そんなこと言うなら

私のほうがないに決まっている

より救いのない


育「私はこれからも駄目かな」

余接「希望も絶望も感じない人はどうなんだろうね」

余接「少なくともお姉ちゃんは僕よりもマシなんだ」

余接「そんなことを」

余接「僕なんかに言われちゃ駄目だ」

余接「手遅れな物に言われてもなにもならない」

余接「まだ全然なんとかなるんだよ」

余接「逃げ無ければ」


不思議なことを言う子供。でも


育「私、逃げることには自信があるもの」

育「私はすぐ逃げちゃうの」

育「なにもかも」

育「家族といるとき」

育「家族がなくなったとき」

育「学級会のとき」

育「なくなったとき」


置き去りにしたんだ

これからもそうなのだろうと予想できてしまう

私のこの先、ずっと1人なんじゃないかな


余接「その分戦ったんじゃない?」

余接「僕はそう思うよ」

余接「逃げっぱなしなら何回も逃げない」

余接「何回も立ち向かわないと何回も逃げれない」


手を伸ばして


余接「帽子」


この子の手が空中でさ迷う

子供から帽子を奪いとる。最低だ

でも私の目を隠せるのはこれしかなかった


余接「泣いている?」

育「いいえ」

これは本当。泣いていない

目を隠したかった

私は私がどんな表情をしているか解らないのだから

分からないものを見せるわけにはいかないから

私は解答しない、できない

私になにがある?

逃げ切らなかったのはなぜ?

立ち向かったのはなぜ?

全くわからない

今言える唯一のことは


育「私は嫌いな人がいる」

余接「お姉ちゃん?」

育「ほんとなんで私なんかを心配してくれるの?ムカツクなぁ」

余接「どうしたの?」

育「かまわないでよ」

余接「えっ?」

余接「迷惑なのかな」

育「あっ」

育「ごめんなさい。あなたのことを言ったのではなくてね」

育「私の知り合いを思い出してたの」

余接「僕の知っている人もそうなんだ」

余接「いいよ、いいよ。そんなことしなくてもって」

余接「でもしちゃう」

余接「僕はバカなんじゃないかなって思うんだ」

余接「バカなんだろうけどね」

余接「いつかどうかなっちゃうのに」

育「心配?」

余接「全然だよ」

育「世の中にはそんな人は中々いなくて」

育「素敵な人だと思う」

余接「そうかな?会ってみたい?」

育「どうかな?嫌われちゃうかもね。そんな人なら」

余接「そんなことしないよ。僕もお姉ちゃんの言う人に会ってみたいな」

育「うーん。仲良くないから」

余接「仲良くなればいいじゃない」

育「それはまだ、難しいの」

嫌いだ

助けてくれなかった

嫌いだ

心配なんかしてくれて

嫌いだ

一緒に勉強したのに

嫌いだ

仲良くなれなかった

嫌いだ

見返してやる

嫌いだ

負けたくない

嫌いだ

私を不幸だと思っていることに

そうだ

こんな私でもどうにかなったって思わしてやる

私の嫌いな人、大嫌いだ。あなたを根拠にしてやろう

私は幸せになりました

そうなったらいいよ

私は不幸なままでした

そうなったとしても

それを証明してみせよう。予想から定理にしてそれを見せてあげる

あなたも好きでしょう?証明問題

卑小で卑屈で卑怯そして頭がおかしい私の

人として終わっているかもしれない私の答えを

育「でもこの町に住んでいるから会えるかもね」

育「その人にあなたが運悪く会ったとしたら」

余接「意地悪するんでしょ?頑張るよ」

育「してもいいけど嫌ってはダメだから」


私の最後の持ち物なのだから


余接「お姉ちゃん名前は?」

育「名前聞いてなかったんだ」

育「育」

余接「育お姉ちゃん、僕は余接」

育「どんな漢字?」

余接「余る接続で余接」

育「素晴らしい名前ね!」

余接「へえ」

余接「バスだよ」

育「見送ってくれてありがとう」

育「余接ちゃん」

余接「なに?」

育「あなたにはきっとあると思う」

育「カージオイドみたいにね、綺麗な形の曲線があるわ」

余接「なにそれ」

育「あなたの知っている人なら解ける」


分からなかったら嫌いになってやる


育「うーん、分かった。聞いてみるよ」

余接「バイバイ」

育「じゃあね」

余接「いえーい」

育「やらないって」


心のなかではやってあげるけどね

心臓の形を見出して

いつか答え合わせができるといい



余接「さあて、お兄ちゃん家でもいこうかな」

これで終りです。ありがとうございます。

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