女「告白マッシュアップ!」(93)



△0年後 / 放課後 / 201番教室


女「何、急に空き教室に呼び出したりして?」

男「う、うん…………」

女「言うことあるなら早く言ってよ。私、この後予定あるんだよね」

男「わ、悪い」

女「もう!」

女(なんてね。本当は予定なんて無いんだけど、こうでも言わないと黙ってるだろうし)

男「……よし、言うぞ!」

女「うん」(全くもう、私がいないとダメなんだから)ドキドキ



●10年後 / 夕方 / 二人の家


十年後の男(以下、十男)「ただいま、ハニー!」

十年後の女(以下、十女)「おかえり、ダーリン。今日は早いのね!」

十男「他の人には秘密だよ、ハニー。すごいことがあったんだ!」

十女「えー何なのダーリン? ワクワク」

十男「課長に昇進が決まりましたあ!」

十女「やだ、すっごーい! おめでとう! でも実は、私もすごい秘密があるの!」

十男「何かなハニー? ワクワク」

十女「まだ誰にも言ってないのよ、ダーリン。今日産婦人科に行ったんだけど――」



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


刑事1「調べは上がってんだぞ!」机バーン!

二十年後の女(以下、廿女)「……」

刑事2「さっさと吐けヤゴラア!」壁ドーン!

廿女「……」

刑事1「お前が亭主を殺したことは間違いないんだ」

刑事2「ずっと黙りこくりやがって。なんか言ってみろやゴラア!」

刑事1「今言えば、悪いようにはしないからさ。自白しなさい」

廿女「……わかった」



△0年後 / 放課後 / 202番教室


マッド物理教師「つ、ついに完成したぞ! タイムリープマシンが!」

マッド科学部員1「これは任意の三点の時間の人間の意識を入れ替えられるマシンです」

マッド科学部員2「でもなんで三点なんですか?」

マッド「なんでだろうね? 二点でよかったんだけど、ガイアが俺に囁いている気がしてね」

科学部1「ッ! なんてマッドなんだ……」

科学部2「名前の省略も『マッド』だけ。狂気。混じりっ気無しの狂気……」

マッド「よし起動するぞ!」ポチッ

科学部1「ッ! 先生ダメです!誰をタイムリープさせるのか指定していません!」
ピカッ!(※タイムマシンが動く音)



△0年後 / 放課後 / 201番教室


『ピカッ!』
廿女「テメエ口臭いんだよ!」

男「」ポカーン

廿女「あ、あれ!? ここどこ!?」

男「ど、どうしたの女さん?」

廿女「……あ、あなた、なの?」

男「え?」

廿女「この教室……セーラー服……。もしかして今から告白しようとしてる?」

男「そ、そうだけど」



廿女「さよなら!」ダッ!

男「ちょっ、えっ、待ってよー、田畠さーん!?」


□20年後 / 黄昏時 / 取調室


『ピカッ!』

十女「なんと!」

刑事2「何が『なんと』だコラァ!?」床ダーン!

十女「うおっ!? ビックリしたあ、あんた誰?」

刑事1「……? 錯乱してるのか?」

十女「錯乱なんてしてません! してるのはあ、もっと別のもの! キャハッ、聞きたい?」



●10年後 / 夕方 / 二人の家


『ピカッ!』
十男「……どうしたの?」

女「……?」

十男「産婦人科行って、それで?」

女「え、なにセクハラ? キモ」

十男「」ガーン

女「ていうかアンタ広末君!? この家何!? 何この状況!?」

十男「どうしたんだい、ハ、ハニー!?」

女「ハニー!? いつの時代よここは!?」



△0年後 / 放課後 / 202番教室


マッド「な、なんてこったい!? 浮かれていて下手こいた」

科学部1「落ち着いてください先生!」

ガラララッ 廿女(訳が分からない、ここは過去なのか? まずは身を隠さねば)

科学部2「何の用ですか?」

廿女「えっ、あっ、か、カクレンボ中です!」

科学部2「ああ、愚かな文系の下等遊戯ですね、お好きにどうぞ」

廿女(ムカつく……それにしても何やっているんだろう?)

科学部1「先生、そういえば僕らの内誰もタイムリープしてませんね」



マッド「ああ、未設定の場合はマシンの周囲十メートル半径の人を適当に対象者とするんだ」

マッド「おそらくこの辺の誰かが、今頃移動しているはずだ。設定だと十年後か二十年後に」

科学部1「ッ! なんてマッドな仕様なんだ!」

廿女(タイムリープ? もしやこのガリヲタ三人衆が関係あるのか?)

科学部2「呑気に話している場合じゃないでしょう! 電源を切るんですよ!」

廿女「ちょ、ちょっと待って一体何を――」

マッド「そ、そうだ! 電源を切ればタイムリープも終わる!!」ブチッ
ピカッ!



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


『ピカッ!』
廿女「!?」

刑事2「何が『!?』だコラァ!?」女が座ってる椅子の足バシーーン!

刑事1「『!?』の部分ってどうやって発音してんだお前?」

廿女(なんだ……幻覚か。何も変わらない……全部、元のまま……)


●10年後 / 夕方 / 二人の家


『ピカッ!』
十男「あ、あの、君?」

十女「どしたのダーリン? 怖い顔よ」

十男「う、うん……なんでもないよ」

十女「変なの! そう言えば私もいま変なおっさんのマボロシを見たわ!」



△0年後 / 放課後 / 202番教室


『ピカッ!』
女「!? ここ……どこ?」

マッド「校内にタイムリープの経験者がいるかもしれん、探しに行くぞ!」ガラララッ

女「あれ、物理のクソ松だ」

科学部1「カクレンジャー、そこのマシンに触るんじゃありませんよ」

科学部2「ぶほっ! カクレンジャーて。ぶふふ」ガラララッ(戸を閉める音)

女「3組のアンガールズ……。ここは科学部の根城か。でもなんで? てかさっきのは?」

女「タイムリープとか言ってたなあいつら。……するとこのマッシーン。……怪しい」

女「えーい、電源入れてスイッチ押してみちゃえ」ブチッ、ウィィイイイン ポチッ
ピカッ!



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


刑事2「コラァ!?」天井ドゴーン!

女「」

刑事1「おう姉さん。こいつは半分サイボーグだからよ、あんまり怒らせないでくれや」

女「は、え? サイボーグ? SF?」

刑事1「おいおい、精神異常者の振りか?」

女「いや、そういうわけじゃ」

刑事1「残念だけど、この2035年じゃ精神異常者かどうかは完全な判別が可能だ」

女「2035年!?」



●10年後 / 夕方 / 二人の家


『ピカッ!』
廿女「あ……」

十男「それでハニー、君の言いたいことってのは」

廿女(違う! やっぱりさっきのは幻覚なんかじゃない。私の意識は過去に戻っている)

廿女(さっきは20年前の高校。もし、これがキリよく10年前だとしたら……)

十男「ハニー?」

廿女「うるさい!!」

十男「そんなー」

廿女(あの子は今、私の腹に?)



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


女(私の身体、随分老けた。私の手なのに、お母さんみたいな手になってしまった)

女「さっきのも夢じゃない、私の頭だけタイムスリップしてるんだ。……やっぱSFじゃん」

刑事1「いつまでもふざけたことを言っているなよ」

刑事2「なんだコラ!? ヲオ!?」窓バリーン

女「そんなに怒んないでよ、怖いなあ」

女(原因はあの機械? 20年後の私は何をしたの? 今どこに? 私の身体は? それと、)

女(もしかして将来の私は、男君のこと『ダーリン』て呼んじゃうの?)



△0年後 / 放課後 / 201番教室


十女「ダアァアリィン!」ギュッ

男「うぎゃっ、急に抱き着かないでよ」

十女「ここにいればいるって思ってた!」

男「そりゃここから出て行ったんだからね」

十女「うわーダーリン、わっかいなー。17だもんねー」

男「同い年だよ。あの、田畠さん、用事があるんじゃ」

十女「え? そんなんあったっけ? 多分嘘じゃないかな」

男「嘘なんだ。じゃあ、僕にちょっと時間をくれないかな」



●10年後 / 夕方 / 二人の家


十男「ハニー、今日の君、おかしいよ。一体何があったんだい?」

廿女「ねえ、あなた。私のこと大事?」

十男「当然」

廿女「それなら、私の言うこと何でも聞く?」

十男「モチロンだよ!」

廿女「アタアッ!」バチーン

十男「痛っ」

廿女「バカめ、その甘さが貴様を殺すんだ!」ボカスカドゴォォッ!



△0年後 / 放課後 / 201番教室


十女「そんなことより、若ダーリン。ちょっと、10年早いけどいいお知らせがあるの!」

男「えっ」

ガラララッ 科学部1「ッ! 先生、不埒な男女のまぐわいです!」

科学部2「カクレンジャー! マシンに触ったな!」

男「いきなり何の用ですか?」

科学部1「部屋に戻ったら、タイプリープマシンが起動してたんですよ」

マッド「これだ、これ! お前このマシンに触ったろう!?」

十女「ああ、これ。気付いたらこういう感じでスイッチ押してたわ」ポチッ
ピカッ!



●10年後 / 夕方 / 二人の家


十女「あ、戻った。 ……ハッ、ダーリンどうしたの、ボコボコよ」

十男「君がやったんじゃないか……」

十女「そんな、私がダーリンを殴るなんてそんな、と思ったら手に血がベッター!」

十男「いつまでとぼけてるんだ!」

十女「違うのダーリン。私だけど私がやったんじゃ」

十男「もう君の話なんて聞きたくないよ」

十女「そんなぁ!」

十男「そんな顔したって無駄だからね」ツーン



△0年後 / 放課後 / 201番教室


『ピカッ!』
廿女「この粗チン野郎!」ボスッ

マッド「ぐふっ! そんな、ひ、ひどいよう」バタリ

廿女(! また時間を移動した。ここはあの教室、ということは20年前か)

科学部1「お前、先生になんてことを」

男「もう、僕らの邪魔しないでくださいよ!」

科学部2「先生はなあ、タイムリープマシンを発明した偉大な物理教師なんだぞ!」

廿女「さっきのガリヲタ……。これ、タイムリープマシン?」

科学部1「はい、一人の人の現在と他の2つの時間の意識を交換できるんです」



廿女(……)

男「先生、大事な用事があるんです、どうか邪魔を」

マッド「ありおりはべりいまそかりまじからまじかりまじかるまじかれ……」ブツブツ

科学部2「ああっ、先生が古典文法らしきものを暗唱している。限界ギリギリなんだ」

男「なんで物理教師が?」

科学部1「あなたたちのせいだ! クソ文系の邪な呪術が先生の精神を冒してるんです!」

科学部2「何ボケッとしてるんですか、カクレンジャー。謝りなさい!」

廿女「………………え、謝る?」



科学部2「当ったり前でしょう。先生の身体と心につけた傷の罪を詫びるのです」

廿女「ふざけるな!!」

男「!?」

廿女「ふざけるなふざけるな! 私に謝ることなんかない!」ボスッ!

マッド「ぐはっ」ドサッ

廿女「……。これが、あれば!」ダッ!

男「あっ、田畠さん! 待って」ダッ!

科学部1「おい! マシンを返せぇ!」ダバダバ!



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


刑事1「よくわかった。お前は記憶喪失になったとでも言いたいんだな」

女「言ってない。頭だけタイムスリップしたの」

刑事1「……色んな犯罪者を見てきたが、俺はあんたみたいなクズが一番嫌いだ」

女「こういう強引なのは違法なんじゃないの? テレビで見たよ」

刑事2「どこまでふざけた奴なんだ……!」

女「大体私が何したっての、ちゃんと説明してよ」

刑事1「……いいだろう、全部話してやる」



刑事1「罪状は殺人。殺したのはテメエの主人だ。おい」

刑事2「はい」ピラッ

女「この写真、広末君?」

刑事2「死亡推定時刻は一昨日の22:30頃。場所は自宅のアパート。包丁でメッタ刺し」

刑事2「発見されたのは昨日の昼。会社に出勤しなかっため不審に思った同僚により発見」

刑事1「家にあんたや現金通帳の類は無し。我々はすぐに捜索を開始した。」

刑事2「お前の足取りは軽快かつ明快だった。即金を降ろし、即高飛び用のチケットを購入」

刑事2「行先はジャマイカ。で、今朝、空港にて確保」



刑事1「質問は?」

女「なんでジャマイカ?」

刑事2「問題はそこじゃねえだろ!」

女(そうだ、そんなことどうでもいい)

刑事2「チッ、またダンマリかよ」

女(二十年後の私は、彼を殺した? 嘘だ、あの時は『ハニー』とか呼ばれてたのに)

女「……なら、どうしてそんなこと?」

刑事2「だからそれを聞いてんだバーカ!」



△0年後 / 夕方 / 廊下


男「どうしてこうなったんだ!」ダバダバ!

科学部1「察しの悪い人だ」ダバダバ!

科学部2「あの女はマシンを使って時空改変をするつもりなんですよ!」ダバダバ!

科学部1「それと、あの女何かおかしいところは有りませんでしたか?」

男「うん、いきなり出てったり抱きついてきたり、おかしいところばっかだよ」

科学部1「ッ! やはりそうか!」

男「まーた思わせぶりなことを。ホントはみんなで僕をからかってんでしょ?」

科学部2「ハアハア…あれが、からかっている人間の走りに見えますか!」



廿女(これさえあれば……)ダバダバ!

科学部1「畜生、ハアハア、なんてスピードだ」

男「確かに、とても追いつけない!」

科学部2「執念だ! 今の彼女は彼女じゃないんです」

男「どういうこと?」

科学部1「ッ! 奴は文系じゃなくて体育会系だったんだ!」

科学部2「違います」

廿女「いつまで追いかけてくるのよ!」ヒュン!



ドガッ
男「うわ、消火器投げてきたっ」 

科学部2「彼女の中身はおそらく、未来から来たどうしても過去を変えたい彼女です」

科学部1「偶然タイムリープマシンのターゲットに指定されてしまゲフッ!」バタッ

科学部2「科学部1! そんな流し場の石鹸で科学部1の眉間をゴハッ!」バタッ

男「危ないよ田畠さん。そんなことしちゃいけなグホッ!」バタッ

廿女「よし、邪魔者は消えた!」

廿女「これで、これで、あの子もあの人も――」



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


刑事1「なぜ殺したか、あんた本当に知らないって言うのか」

女「うん」

刑事1「……そうか。おい、そのファイルくれ」

刑事2「はい」

女「それなに?」

刑事1「あんたの知らないことさ」

女「芝居がかってるね」

刑事2「他人事みたいな顔しやがって!」



刑事1「旦那さんとは随分仲が悪かったんだってな」パラパラ

女「嘘だあ、なんか凄いラブラブだったよ」

刑事1「そんな話聞いたこともない。少なくとも今のアパートに越してからは」

刑事1「毎晩喧嘩していたそうじゃないか。隣人はノイローゼ寸前だったぞ」

女「……」

刑事1「これならうっかりある日どちらがどちらを刺しても無理からぬことだ」

刑事1「でも、何を毎晩飽きずに喧嘩していたんだろう?」

刑事1「下世話な話だが、仕事だからな。いろいろ調べてみたんだ」



刑事1「そしたらなんとこの夫婦、付き合いは高校からという長年の仲」

刑事1「まあ、そんだけずーっと一緒にいりゃ飽きて夫婦仲も綻ぶかもな」

女「そんなわけない!」

刑事1「どうして?」

女「そりゃ飽きもすりゃ喧嘩もするだろうけど、あの、えと、私たち、うー」

刑事1「何が言いたいんだ?」

女「あー! そんなわけないったらないの!」

刑事1「まあ、そうかもしれない。だとしたら原因は? 愛さえ意味を失くす理由とは?」



刑事1「あれ、ところでこの夫婦、10年以上もずっと二人っきりだったんだろうか」

女「そうだ、子どもは? 私に子どもはいないの?」

刑事1「この写真に見覚えは?」ピラッ

女「ボロボロに焼け焦げた部屋、煤で真っ黒な壁紙のダサい花柄……見覚えある」


●10年後 / 夕方 / 二人の家


十女「ねえダーリン、壁のお花ばっか見てないで私の秘密を聞いてよ」

十男「……」

十女「耳まで塞いじゃって、もう」

十女「ねえ!! いい知らせがあるんだってば!!」



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


刑事1「写真はまだまだある、さあ正解はどれかな?」パラパラ

女「ねえ、このおじさんのねちっこい喋り方って何とかならないの?」

刑事2「最高にクールな言い回しだろ?」

女「……。あ、この写真」

刑事1「……」

女「おもちゃ、ゲーム機、ランドセル、の燃え滓」

刑事1「もっとよく見ろ」

女「おもちゃに書かれた名前、プラスチックが溶けてて読めないや」



刑事1「読めないときたか」

女「おじさん読めんの?」

刑事1「よく見ろ」

女「読めないって」

刑事1「ほら、もっと近くで見ろ」

女「だから読めな」

刑事1「なんでやねーん」女の頭を机にゴスッ!

女「ぶっ」



刑事1「お前の」ゴスッ!

女「ちょっ」

刑事1「子供の」ゴスッ!

女「やっ」

刑事1「名前だろうが」ゴスッ!

女「いっ」

刑事1「いつまでボケてんだ、よ」ゴスッ!

女「ガハッ。ゴホッ、ウエェェ!」



刑事1「俺はあんたみたいなクズが一番嫌いだ」

刑事1「テメエのダンナを殺しておいて反省どころかいつまでも素面でボケてやがる」

刑事1「あんたは頭がおかしいんじゃないよ、鬼畜なんだ」頭グリグリ

女「うう……デタラメ言いやがって……」

刑事1「なら資料に基づいてあんたがなぜ旦那を殺したのか、俺の考えを話してやる」

刑事1「4年前のある夜、あんたらの家は火に包まれた。原因はストーブの誤作動」

刑事1「帰宅途中の旦那は連絡を受けて家に急行」

刑事1「燃え盛る家に着いて、妻子がまだ中にいると聞き果敢に突入」



刑事1「そして、妻だけを背負って帰ってきた」

女「子供は、 ……死んだの?」

刑事1「おう。中で何があったのかわからんが、外の野次馬たちは見ていたそうだ」

刑事1「助け出されるなり絶叫しながら罵り合うあんたら夫婦を」

女「それから4年も喧嘩し続けた……」

刑事1「凄いエネルギーだよな。そして、最後の一押しがこれだ」ヌチョリ

刑事1「夫のスマホに残された部下の女との交際を匂わせるメール」ヌトォ…

女(へー未来のスマホってコンニャク状なんだ)



刑事1「子供の喪失で冷め切っていた癖に、いっちょ前に嫉妬心を燃え上がらせ、」

刑事1「積年の恨みも合わさりついに包丁を取り、旦那を刺した」

女「……嘘」

刑事1「はははは。よくそこまでボケてられるな!」

女「しょ、証拠は!? 今のただの考えなんでしょ!?」

刑事1「あるよ、最初に言っただろ」

刑事1「刺されて抵抗した夫の爪には加害者の皮膚がたっぷり残っていたんだ」

刑事1「凶器の包丁も先ほどそれらしいのが発見されたそうだ」



女「そんな……」

刑事1「それから旦那が付けた傷が、あんたの腕に残ってるだろ」

女「!」

刑事1「ちょっと袖をめくって腕を見せてくれ」

女「イ、イヤ」

刑事1「見せてくれよ」

女「イヤアアァッ!」

刑事1「ははははは!」



刑事1「見せてくれよお。俺本当は自白なんてどうでもいいんだ」ヌチョリ

女「止めて……」

刑事1「教えてくれよお、俺も自分の嫁さんと仲悪くてさあ」

刑事1「自分のダンナ殺した女の気持ちを知りたいんだよ!」ヌチョヌチョ

女「止めてぇ! 腕にコンニャク状のスマホを押し付けないで!」

刑事1「燃える家の中で何があったんだ、教えてくれよ! はははは!」

刑事2「先輩、最高にクールです……」

刑事1「なあ、本当は息子もあんたが殺したんじゃないのか?」



△0年後 / 放課後 / 廊下


廿女「これで、これで、あの子もあの人も――」ダバダバ!

マッド「そうはさせん! 物理学的先回り!」バッ

廿女「チッ! どけ!」バキッ

マッド「ぐわっ、ボクの解剖学的嗅ぎタバコ入れが……離すかあ!」ガシッ

廿女「しがみつくなっ。どけ!」

科学部1「ッ! 先生、助太刀します」ダバダバ! ガシッ

科学部2「なんて力だ! 先生、スイッチです! 中身を入れ替えてやりましょう!」

マッド「このクソビッチ!」ポチッ



廿女「ちっくしょうっ!」
ピカッ


△0年後 / 放課後 / 廊下


マッド「ハアハア……」

科学部1「やった! 悪は去った!」

科学部2「さあ、そのマシンを返しなさい!」

男「田畠さん……?」

廿女「アタァッ」バチーン

男「ギャッ!」



科学部1「入れ替わってないじゃないか!」

マッド「3つの時間の意識をシャッフルしてるわけだからね。こういうこともあるよね」

廿女「くたばれやあっ!」ボカスカドゴォォッ!

男達「ギャアアアア!」

●10年後 / 夕方 / 二人の家


女(暴力おじさんから解放されたと思ったら、将来殺す人が目の前にいる……)

女(きっ、気まずい)

女「は、ハロー?」

十男「……」

女「あのー」

十男「……」ムスッ

女(すごい不機嫌なんだけど……)

女(あ~あ、なんでこうなちゃったんだろ)



女(意味わかんないけど、タイムスリップして)

女(意味わかんないけどハニーって呼ばれて、子供は死んじゃってて)

女(意味、わかんない、けど、彼を、殺してて。私、ただ――)


□20年後 / 黄昏時 / 取調室


十女「もうおっさんたちでいいや、聞きたいでしょ、いいことなのよ?」

刑事1「んなもんが聞きたいんじゃねえんだよ!!」湯呑み茶碗パリーン!

十女「ああもう、何で誰も聞いてくれないの! 私は――」


△0年後 / 放課後 / 廊下


廿女「ハアハア……。これであの子も死なないし、あの人も殺さないで済む。誰も私を責めない」

廿女「私は悪くなんかない……。非なんてないし、認めない。私が非を認めるなんて、――」



女(好きな人に告白されたかっただけなのに)


十年後の女「こんなに秘密を告白したくてたまらないのに!」


二十年後の女「罪を告白するなんて絶対にありえない!!」



●10年後 / 夕方 / 二人の家


女(そういえば、今の時代にはもう子供はいるんだろうか)

女「ねえ、子供っている?」

十男「えぅっ!? 急に何?」

女「ちょっと気になって」

十男「……もしかして浮気を疑ってる?」

女「あー、将来的には? そうじゃなくて私との間に子供はいますか?」

十男「い、いないよ。当たり前だろ」

女「そうなんだ。二人暮らし?」



十男「そうだよ」

女「今、幸せですか?」

十男「もちろん。まあ、君に殴られなきゃだけど」

女「もし子供が出来たらどう思う?」

十男「これ何の話? あっ、秘密ってもしかして……!」

女「答えて」

十男「すごく嬉しいよ。今よりもっと幸せになると思う」

女「そうかな?」



十男「えっ」

女「じゃあ、いなくなったら?」

十男「?」

女「子供か、私でもあなたでもいいけど、死んでしまったら、どうですか?」

十男「そんなことはさせないよ。子供も君も守るし、勿論僕も死んだりしない」

女「できない、どれもは無理だったんです」

女「必ず何かを失わないといけないとしたら、その後、あなたはどうしますか?」

十男「そんなあ、難しいこと聞かないでよハニー」



△0年後 / 放課後 / 201番教室


廿女(彼は、結局私を選んだ)

科学部1「おい! このドアを開けろ! 抵抗は無意味だぞ!」ドンドン!

科学部2「畜生! 机とロッカーで塞がれて、中の様子も見えません」

廿女(燃え盛る部屋の中、私は子供部屋で息子を助けに行った)

廿女(部屋はもう火に包まれていた。私はあの子を背負おうとして煙に巻かれてしまった)

廿女(体が動かなくなった私はその場に倒れ、やがて助けに来た彼に言った)

廿女(『この子を助けて!』)

廿女(あの時確かにあの子には息があった! まだ生きていたのに!)



廿女(彼は、死んでいたと言って聞かなかった。死体を背負っていく余裕はなかったとも)

廿女(許せなかった。どうしても……。あの時私たちは終わっていたんだ)

男「田畠さん、何が何だかわからないけど話せばわかるよ、このドアを開けてくれ」

廿女(それをズルズル夫婦していたからこうなったんだ。なんて馬鹿だったんだろう)

科学部1「あなたじゃそのマシンの操作法はわからないでしょう!?」

科学部2「無用の長物だ、直ちに立てこもりを解除しなさーい!」

廿女(いや? あの子を産んだこと自体が、それとも彼と付き合ったことが過ちだった?)

廿女「あはは……間違いが一杯だ」



科学部2「自棄になるんじゃありません。そのマシンはとんでもなく危ないんですよ!」

男「そうだよ危ないよ。そんなもの無くても、またやり直せるって!」

廿女「!? やり直せるはずない! 全部あなたのせいでこうなったんじゃない!?」

科学部1「そうなの?」

男「未来のことなんかわからないよ」

廿女「あなたとなんか付き合うんじゃなかった、最初に今日の告白を断ってやる!」

科学部2「ようこそ非リアの世界へ」

男「まだ告白してもないのに」



廿女「それからあの子が生まれないように堕ろしに行くんだ!」

男「いや、付き合わないんなら子供も生まれないんじゃ」

廿女「あの子が火事で死なないように、ストーブは壊しておこう!」

廿女「あなたが浮気しないようにスマホはおでんにしておこう!」

科学部1「スマホをおでんって……正気じゃありませんね」

廿女「全部、全部正すんだ……私を傷つけたもの全て!」

科学部2「バカですね。一個過去を修正すれば後の歴史も全て変化するもんでしょう?」

科学部1「そう、タイムマシン物のテンプレだ。あなたは破綻していますよ」



廿女「だったらどうやったらこの苦しみと屈辱が無くなるの!?」

廿女「燃え盛る家に残してきた息子が、呪詛の言葉を吐いて息途絶えた夫が」

廿女「あなたと付き合わないようにするだけで私の中から消えてくれるの?」

廿女「信じられないな。一つ過去を変えるぐらいでやり直せるはずない!!」

科学部1「……」

科学部2「……」

男「……未来の田畠さん、君は――」

廿女「うるさい、全部あなたのせいじゃない!!」



●10年後 / 夕方 / 二人の家


十男「あの、タイムをいただいても?」

女「どうぞ」

十男「……」

女(やっぱり大人になっても難しいんだ、この問題は)

女(でも唇が笑ってる……子供ができたと思ってるのかな、彼)

女(あんなに幸せそうで無邪気に悩める人も、喧嘩して浮気して殺されちゃうんだ)

女(ダメだ、あんまり色々ありすぎて頭が全然働かない。私、どうすればいいの?)

女(この年の私だったら、ちゃんと答えは出せるんだろうか)



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


刑事1「よくよくあんたもすごい人だよ」

刑事2「人殺して、よくそんな珍妙な態度を続けられるな」

十女「えーっ! 私、誰か殺したの?」

刑事2「だからお前の亭主だよ!」

十女「殺してないよ」

刑事1「……初めて否認したな」

刑事2「先輩、精神攻撃もう一度やりましょう」

刑事1「いいよ長いから」



刑事1「話してみろよ、息子死んで亭主殺した奴の言い訳なんて面白そうだ」

十女「え、息子?」

刑事2「そっからかよ……。あんたの! 息子が! 火事で死んだの!」

十女「やだあっ! 息子なのね、お腹の子は!」

刑事1「はあ……」

十女「それで、私の坊やは火事で死んでダーリンは私が殺したって話ね?」

十女「……」

十女「なんじゃそりゃあ!!」



十女「そんなの、ひどすぎるわ! うわーん!!」

刑事1「号泣し出した……」

刑事2「こいつ本当にいい年した大人なのか?」

十女「二人が死んじゃうなんて悲しいよお!」ビエーン!!


△0年後 / 放課後 / 201番教室の外


科学部1「クソッ! 何か打つ手はないのか!?」

科学部2「このままだと何が起こるかわからないぞ!」

男「田畠さん! 一緒に話そう、顔を合わせて話し合えば僕らでも何かできるさ!」

マッド「待たせたな!」ババーン!



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


『ボッカーン!!』
女(また時間が変わった。私にはどうすることもできない……)

女(科学部の奴らのあの機械が原因かなあ。元の時間に戻ることはできるんだろうか)

刑事1「急に泣き止んだ……」ヒソヒソ

刑事2「先輩、こいつ本当に頭がおかしいんじゃ」ヒソヒソ

女(このまま一生他の時間の自分として生きていかないといけないのかも)

女(でも、元の時間に戻ってもどんな顔して彼に会えばいいんだろう)

女(わからない、わからないよ……。 誰か、助けて……)

刑事2「おい! おい! しっかりしろ!」



刑事1「おい! どうしたんだよ、おばちゃん!」

女「……は?」

刑事2「今三十七でしょ。随分老けた顔してるし」

女「ウガアアアアアアッ!!」ガタッ

刑事1「うわっ、急に立ち上がった!」

女「お前らは! 人を馬鹿に出来る! ツラか!!」

女「アッタマ来た! 今日一番頭に来た!!」

刑事1「発狂した……」



女「なんなのよアンタたちは!! このクズクズクズクズクズ!」

女「ハナっから人殺しって決めつけて猿みたいに怒鳴って物叩いてうるさいよ!」

女「人殺しだの鬼畜だの頭おかしいだの好き勝手言いやがって、あームカつく!!」

女「特におっさん!!」

刑事1「あ゛!?」

女「自分の夫婦仲が悪いからって犯罪者でストレス解消って悲しくならないの?」

女「その陰湿さなら奥さんに嫌われて当然だから!」

刑事1「……」



女「私はまだ誰も殺してないし、子供もいない。まだ彼と付き合ってもいない」

女「まだ17だからおばさんじゃない。未来の私が、何したって、関係ない」

女「あと、おっさん、アンタすげえ口臭いから!」

刑事2「……お前……」

女「何?」

刑事2「お前が言ってること全然わからないがな、先輩の口臭については、」

刑事2「署内でも最大のアンタッチャブルだ……!」

刑事1「……」プルプルッ



女(ヤ、ヤバイ! 暴力親父が爆発寸前だ!)

刑事2「このままじゃ取り調べにならなくなる! な、なんかフォローしろ!」ヒソヒソ

女「そんな急に出ないよ、えーとえーと……でも田んぼみたいな臭いだから、だ、大丈夫!」

刑事2「それがフォローになるかバカヤロー!」


●10年後 / 夕方 / 二人の家


『ボッカーン!!』
廿女「!」

十男「……」

廿女(ああ、ここは……)

廿女(爆発の時、手からマシンが転がり落ちてスイッチが押されたのか)

廿女(失敗した。もうあの体に戻れることはないだろう)

廿女(千載一遇のチャンスだったのに、どうかしていたな私)



廿女「はあ……」

廿女(彼はそっぽを向いて黙り込んでいる)

廿女(……これからどうしようか。このままこの時間に釘付けってこともないだろうが)

廿女(……)

廿女(そうだ、お母さん)フラ…

十男「あ、ちょっとどこに行くの?」

廿女 (この頃はまだ生きていた……)

十男「行っちゃった。まだ答えてないのに」



廿女(実家の電話番号、これで合っていたろうか?)ピポパ……プルルルル

ガチャッ 母「はい」

廿女「もしもし、お母さん?」

母「あらあ! どうしたの」

廿女「あの……久しぶり」

母「バカねえ、先週も話したばかりじゃない」

廿女「そうだっけ、ボケてた」

母「やだもうまだ若いのに。なんだか十年は老けたみたいな声してるよこの子は」



廿女「そう?」

母「それで、何の用なの? 今サンマ焼いてるところだからあまり話せないけど」

廿女(しまった、何を話すか考えてなかった。話題、話題)

母「言いにくいこと?」

廿女「え? うん……」

母「あ、わかった。ダンナ君と喧嘩したんでしょ」

母「最近の、あのダーリンとかハニーみたいな頭おかしい喋り方してないし」

廿女「いや、あれは、その、冗談というか本気じゃなくて」



母「そんなことはどうでもよろしい。で、喧嘩しちゃったの?」

廿女「うん、でももっと酷いことした……」

母「随分落ち込んでるのね。ダンナ君を殴っちゃったとか?」

廿女「もっと」

母「四肢をもぎ取り目は刳りぬき耳と喉を潰し便所に落として糞便を食べさせたとか?」

廿女「それほどでもない」

母「そ。じゃあ、悪いのはどっち?」

廿女「彼……」



母「ダンナ君か。彼もわりに頑固なところがあるからねえ」

廿女「そう、とっても頑固で、自分の非を認めなかった」

廿女「信じられないことをしておいてゴメンも言えない、私の気持ちも知らないで!」

母「……」

廿女「永遠にふてくされ続けるのかと思ったわ!」

母「許すことはできないの?」

廿女「当然」

母「はあ……」



母「じゃあ、自分のことは?」

廿女「私が悪いって言うの!?」

母「酷いことしたんでしょ」

廿女「そうさせたのは彼なのよ。私が悪かったはずない」

廿女「ねえ、母さん、私には自分の罪がわからないの」

廿女「火事のあと、みんなは私たちに言った、『気を落とさずに夫婦で支え合え』って」

母「お前、何の話をしてるんだい?」

廿女「私は絶対嫌だったのにみんなして彼を許せ、仲良くしろと何度も言うの。母さんもよ」



廿女「そして私たちだけがあのアパートに残された。一生一緒にいないといけない二人が」

廿女「それでもう一度も裏切られて、どうして私が殺しちゃいけないの?」

廿女「ねえ、母さん!! 私は、少しも自分のしたことが悪いと思えないの!!」

母「知らないよ。私にはお前の言うことも、何をそんなに怯えているのかもさっぱり」

廿女「そんな、」

母「悪いことしたときはいつもよくわかんないこと言って誤魔化すんだから、仕方ない子」

母「いつまでも屁理屈をこねてないで彼と向き合いなさい。そしたら言葉の一つも出るから」

廿女「母さん、それは、もう、できないんだよ……」



△0年後 / 放課後 / 201番教室


男「田畠さーん!!」ダバダバ

科学部1「せ、せ、先生! 殺人ですよこれは」

科学部2「教室が戦場みたいだ……」

マッド「ええい! そんなことよりマシンだ、タイムリープマシンを早く」ダバダバ

男「しっかりして!」

十女「アガガッ、体が痛い……」ムクリ

マッド「あ、あったぞ。無事だ、まだ起動している!」

男「えっと、君は未来の人? それとも今の時間の君?」



十女「だ、ダーリン、し、死んでない? どこか怪我したりしてない!?」

男「そっちこそ大丈夫? 多少チリチリしてるけど」(ダーリンの人か……)

十女「ええもう。……ちょっと膝を擦りむいてる。けど、全然平気!」

男「よかったあ」

マッド「全く……。愚か者どものせいでとんでもない手間を食った」

科学部1「そんなこと言っている場合ですか!」

科学部2「居残っていた生徒や先生たちが集まって来てます。僕らは無関係ですよ」

十女「ダーリン、学ラン着てる。あ、ここはまた高校の頃なのね。でも」キョロキョロ



十女「こ、ここまさか201教室……?」

男「うん」

十女「あの、若ダーリン、告白って……、もうした?」

男「まだだけど」

十女「イヤアアアアッ! お、想い出の教室が台無しじゃない!」バッ

男「あっ、そんないきなり立って平気なの?」

十女「誰のしわざ!?」ギロリ

科学部1・科学部2「この人です!」



十女「お前かクソ松!!」

マッド「お、おう」

男「その人はヤバいって、田畠さん」

十女「ダーリンは黙ってて!」

科学部1「うわ、凄い気迫」

十女「どういうつもりでこの教室を吹き飛ばしたの!?」

マッド「ボクの大願の為には已むをえなかった。タイムリープマシンにはその価値がある」

十女「大願って、それで何するの?」



科学部1「そう言えば、どうしてこんなマシンを作ったんですか?」

科学部2「過去とか未来を変えるのは絶対やるなって言ってましたよね」

マッド「もちろん。あの、あれ、シュタゲみたいにすごい危ないんだぞあれは」

十女「じゃあ何?」

マッド「ボクが……将来結婚してるかどうか、確かめようと思って」

科学部1「将来って、先生今何歳なんですか?」

マッド「56」

全員「……」



十女「諦めろ!!」

マッド「ひどい! 面と向かって言うなんて」

十女「こんなもの作る暇があったら婚活しろ!」

十女「こんなもののせいで……!」バシッ

科学部1「あっ、先生の手からマシンが奪われた!」

マッド「よ、よせ、なにするつもりだっ!?」

十女「ぶっ壊してやらあっ!!」ブンッ!

男「落ち着いて! って、うわあっ」スコーンッ
ボンッ! プスプス……(※音を立ててタイムマシンが壊れる音)



△0年後 / 放課後 / 201番教室


女「! 広末君!」

科学部1「男の頭にマシンが直撃したぞ!」

女「頭から、血が……。誰がこんな酷いことを!」

科学部1・2「あなたです!」

女「嘘!? 目を開けてよ、男君!」


●10年後 / 夕方 / 二人の家


『ボンッ!』
十女「! 元に戻っちゃった」ツーツーツー

十女「……電話、してたんだ」

十男「……」スッ

十女「あらダーリン。どうしたの?」



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


『ボンッ!』
刑事2「ああっ! 先輩が爆発するぅ」

刑事1「……」

廿女(! 元の時間だ)

廿女(なーんだ。結局、変な夢を見ていただけか)

刑事2「知らないぞ、もうどうなっても知らないからな!」

廿女(なんて悪夢だったんだろう)







刑事1?『やっと、僕のことを見てくれたね』

廿女「――え?」



△0年後 / 放課後 / 201番教室?


女「広末君?」

科学部1「ッ! 何か変だぞ。タイムリープマシンが不審な音を挙げています!」

科学部2「ついでに目まで変になったみたいだ。光景がいくつも重なって見える!」

マッド「……今ボクたちはどこにいる? 教室、人の家……それとも、どこだ?」

科学部1「男と女にそれぞれ別の時間の人物が合わさっていく……」

科学部2「男の方はなんか知らない口臭そうなおっさんも重なってるぞ!」

科学部1「先生ぇ! 一体何が起こっているんですか!?」

マッド「……おそらくはマシンが壊れ、時空がひずみ始めたんだろう」



マッド「このマシンは人の意識だけを移動させるはずだった。おそらくは、」

マッド「彼女と最後にマシンに触れた彼の意識を中心に、三つの時空は一つになりつつある」

マッド「重なった空間が一つの時間に同期再生する。言わばこれは、」カキカキ


  △0年後  / 放課後 / 201番教室
         +
  ●10年後 / 夕方  / 二人の家
         +
  □20年後 / 黄昏時 / 取調室
        ||

科学部1「ッ! これは!」



 △ <どうも
/●\
 □
 / \


科学部1「おでんマン! すべてお前の仕業だったのか!?」

科学部2「違います」

マッド「言わばこれは『マッシュアップ』。決して出会う筈なき時空が逢う束の間!」

科学部1「先生! 何がなんだかさっぱりです」

マッド「つまり、ここから先は二人だけの時間ということだ」



      / 逢間が時 / 


『今、時間大丈夫かな?』

「……」

『聞いてほしいんだ。今言わなきゃ間に逢わない気がする、二人とも一生後悔する気がする』



『僕はあなたのことが好きです。大げさに聞こえるだろうけど、いつも傍にいたい』

『君に始めて出会ったときからぞっこんなんだ。君といると幸せでたまらないんだ』

『君の笑顔をもっと見ていたい。その為だったら何でもしたい』

『一緒にいれば、大変なことだってあるだろうけれど』

『僕ら二人なら大丈夫だと思うんだ』

『だから、どうか、僕を君の傍にいさせてくれませんか』

『……』

「無理だよ」



「いつも傍にいるなんてできっこないよ。私も貴方に告げなければならない」

「私たちがずっと幸せでいることはないんです。そうでないときが必ず来る」

「貴方は必ず罪を犯すし、私はそれを許せない。それからの苦痛を貴方は知らない」

「貴方は知らない。うら若い私からは想像もできないものをこの腹の底にうねらせることを」

「それは私たちに絶望をもたらす。好き合う二人が別れるのは必定」

「こんなことなら最初から出会わなければよかった」

「……私と、貴方は、一緒にいちゃ、いけない……」

「だから、無理だよ」



『ははは、君って実は心配性なんだね』

「そうじゃない、私は全部見てきたの」

『それなら僕も見ているよ』

「調子いいこと言わないで。貴方にわかる訳ないんだから!」

『わかるさ、君が恐れているのはあやまることだろう?』

「えっ」

『違う?』

「嘘、だって貴方は……。ま、待って、それ、どっちの意味?」



『どっちでも同じだよ。この先に絶望が待っていても僕はそれでいいと思うんだ』

「わからない、これは何の話なの? 昔? 今? それとも未来?」

『君と僕の話だろ。何時かなんて関係ないさ』

『タイムマシンなんかなくとも、君に告白できた今なら僕にも見える』

『僕たちは付き合っていて別れていた。僕たちは幸福の絶頂にいて絶望のどん底にいた』

『その全てが、この逢間が時の僕と君との告白で、始まっていて終わっていた』

「全てが、一緒に?」

『そう。僕らは幸福で始まって絶望で終わるんじゃない、幸福と絶望で終わるんだ』



『だから大丈夫。何度でも誤ろう、何度でも謝ろう。僕らはずっと、一緒に、幸せだから』

「……私は、あやまってもいいのかなあ」

『当然だろ? 君の中にあるものは僕のものでもあるんだよ。僕もあやまるからさ』

「そっか、二人とも、あやまるんだ……」

『うん。これで答えになったかな?』

「……嗚呼、やっとわかった……私、本当は……」

『じゃ、改めて。君の傍にいさせてくれませんか?』

「――ごめんなさい」



□20年後 / 黄昏時 / 取調室


廿女「――ごめんなさい。私がやりました」

刑事2「は? え、自白? ていうか、せ、先輩、今のこっぱずかしいのは?」

刑事1「……」

廿女「夫を殺したのは私です。これから全てお話しします」

廿女「私一人の身で償いきれる罪とは思えませんが、どんな罰もお受けします」

刑事2「……」

刑事1「……あんたは一人なんかじゃないんだろ?」

廿女「……はい」



●10年後 / 夕方 / 二人の家


十女「――ごめんなさい。嬉しいのは分かるんだけど、そんなに強く抱きしめないで」

十男「あっ、ご、ごめんよ、ハニー」パッ

十女「フフッ、いつのまにか秘密がバレちゃってたのね」

十男「うんまあ、産婦人科どうこうの時点で正直半分ぐらいは」

十女「ありがとう、ダーリン。変な夢を見て不安だったけど、今の言葉とっても嬉しかった」

十男「うん、でもメチャンコ恥ずかしかったから、これも秘密にしておいて」

十女「モチロンよ。あ、でも……、」

十女「親になるんだから、いい加減ハニーとかダーリンは止めましょう」



△0年後 / 放課後 / 201番教室


プスンチリチリ……(※タイムリープマシンが完全に壊れた音)
女「――ごめんなさい」

男「……」

女「これはきっと大いなる誤りだと思う。この先の言葉は言うべきじゃないんだと思う」

女「でも、この気持ちと時間には逆らえない。だから、ごめんなさい」

女「私もあなたのことがす、好き……あ、あなたの傍に、いたい……」

女「ど、どうか、よろしくお願いします」

男「はい!」

マッド・科学部1・科学部2「オメデトウ!!」パチパチパチパチ…



おしまい。

作者です。今更のことですが、投稿し忘れた部分があることに気づきました
>>56>>57の間に以下の文章が挿入されます。読んで下さった方々、すいませんでした。
でもありがとうございます。感想までくださって本当に嬉しかったです。



科学部1・2「先生!」

男「あの……先生、手に持っているそれは?」

マッド「手榴弾」

男「なんで!?」

マッド「去年修学旅行先の福岡で拾った。これでドアをバリケード毎吹き飛ばそう」

男「止めてください! そんなことしたら彼女が死んじゃう!」

科学部1「先生、マッド過ぎですよそれは」

マッド「うるさい、火薬は減らしてある! 若し死んでも必要な犠牲だ!」パリーン、ポイッ
ボッカーン!!

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