高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今年初のカフェで」 (33)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「あけましておめでとうございます、加蓮ちゃんっ」

北条加蓮「あけましておめでとうございます、藍子」

藍子「今年もよろしくお願いします♪」

加蓮「こっちこそ、よろしくね」

加蓮「…………」

加蓮「……喪中にならなくてよかったね」

藍子「えっ? ……もしかして親戚の方がどなたか――」

加蓮「いや、私が死んだら事務所が喪中に……って、なる訳ないっか」

藍子「…………」ジトー

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第20話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「記念パーティー前の時間を」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「あたたかなカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で さんかいめ」(投下時の表記は「膝のうえで」)

加蓮「うわ、藍子がお母さんと同じ顔をしてる」

藍子「……ってことは、家でも同じ冗談を言ったんですか」

加蓮「毎年言ってるよ。その度にお母さんからのお年玉の金額が落ちていってる。横暴だよね」

藍子「どこがですか……」

加蓮「ってことで――おごって♪」アマッタルイコエ

藍子「…………。……あっ、そういえば事務所にお財布を忘れちゃいました! ってことで、今日は加蓮ちゃんが出してくださいね♪」

加蓮「うっわー笑顔がドス黒い。悪役のオファーが来ても安心だね。これも私のお陰だ。感謝しなさい。ってことで今日はおごろうか」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「なにー?」

藍子「ちょっと身を乗り出してください」

加蓮「え? やだ」

藍子「乗り出してください」

加蓮「やだ」

藍子「それなら私が乗り出します」スッ

加蓮「逃げる」ヒッコメル

藍子「……ならもうそっちに行きますね」スタッ

加蓮「ぎゃー、こっち来るなー。藍子に食べられるー」

藍子「えいっ」スワル

藍子「…………」ニコニコ

加蓮「……あの、藍子さん? 笑顔が怖いよ?」

藍子「…………」ジリジリ

加蓮「な、なんでこっちに来るのかな? なんでにじりよってくるのかな?」

藍子「…………」ジリジリ

加蓮「近いよ? 近いよ藍子? 何するつもりなの? えーと、うん? 目が怖いんだけどなー」

藍子「…………」ガシ

加蓮「待って、マジな目をしてほっぺた掴むのやめっ……え、え、あの、マジ? いやあの、ちょ、待って、あのそれはちょっとホントにシャレにならないっていうかあのちょっ」

藍子「…………」ニコニコ

加蓮「…………」アセダラダラ

藍子「…………」ニコニコ

加蓮「…………ゴメンナサイ」

藍子「はいっ、よくできました♪」スッ

加蓮「はっ」

加蓮「…………」スゥー、ハァー

加蓮「こ、こっわぁ……」

藍子「もー。お正月なのに、変なこと言うんですから」(元の席に戻る)

加蓮「変なこと言うのも変なことやるのも同じでしょ、だからどっちもどっち」

藍子「加蓮ちゃんが変なこと言わなかったら、私、こんなことしませんっ」

加蓮「いやいや、させた上でってのがあるじゃん? ……にしても、今年は藍子に負けないって目標、さっそく破っちゃったじゃん」プクー

藍子「そういえばこの前、言っていましたね」

加蓮「言った。ちくしょー」

藍子「でも、その時に私、今年は加蓮ちゃんのひねくれてるところを直すって言っていますから……加蓮ちゃんと同じで、私も目標を破ったことになっちゃったことになります」

藍子「だから、お互い様です♪」

加蓮「……周りもやってるから自分も、とか、そーゆーの大っ嫌い」

加蓮「そーやってつられてるだけの人生なんて大っ嫌い」

藍子「もう…………」

加蓮「大っ嫌い」

藍子「…………」コマリガオ

藍子「……冗談なのは分かっていますけれど、でも、ちょっぴり真面目なお話をしてもいいですか?」

加蓮「ん? 何?」

藍子「ほら、目標のこと。1回失敗しても、落ち込むんじゃなくて、次は頑張ろうって思った方が……」

藍子「もしかしたら加蓮ちゃん、真面目すぎるのかな? って思いますっ」

藍子「失敗しても、私はちゃんとここにいますから。私だって、アイドルやってる時に何回も失敗しちゃってますし……」

藍子「あんまり厳しくしすぎると、疲れちゃいますよ?」

加蓮「……だね」

藍子「あっ、でも真面目な加蓮ちゃんも大好きですけれど♪」

加蓮「アンタの中に嫌いな私っていないの?」

藍子「変なことを言う加蓮ちゃんは嫌いです。あと、自分のことを嫌いな加蓮ちゃん――は……嫌ですけれど、嫌って言っちゃったら、誰も加蓮ちゃんのことを好きになってあげられないって思っちゃって」

加蓮「無理しすぎ」

藍子「いいんですっ」

加蓮「そ。……よし、反省終わり! って言っても、そんな大した話じゃないんだけどね」

藍子「ですね」アハハ

加蓮「あ、ちなみに今年はお年玉まったくもらえなかった。『もうアイドルから大人よね♪』とか言われて、頑張って子供っぽく振る舞ってみたけど耳も貸してくれなかったよ」

藍子「それは残念ですっ」

加蓮「こーなったら家出だ! 藍子、事務所に篭ろう!」

藍子「私もですか?」

加蓮「1人じゃ飢え死するし。……そういえば藍子ってお年玉もらったの?」

藍子「はい。お母さんとお父さん、それからおばあちゃんからもっ」

加蓮「藍子も敵だー」

藍子「言うと思いました……」

加蓮「……ん? お年玉をもらったってことはお金があるってことだよね。ってことで、今日はおごっ」

藍子「昨日、お母さんとの買い物でほとんど使っちゃいました」

加蓮「あれ? そっかー、何買ったの?」

藍子「古くなっちゃった鞄と、部屋の小物と、あと、読みたかった漫画を何冊か♪」

藍子「未央ちゃんや茜ちゃんがオススメしてくれた物があって……明後日に会うので、いっぱいお話をするんです」

加蓮「おー」

藍子「部屋の物は、モバP(以下「P」)さんがオススメしてくれたお店があって。可愛い雑貨がいっぱいあるんですよ! 猫さんのついたボードとか、ピンクの可愛いカップとか!」

加蓮「Pさんのオススメで可愛いんだ。ちょっと意外」

藍子「ですねっ♪ せっかくなので、Pさんにもプレゼントを買って……あっ、そうだ!」ガサゴソ

藍子「加蓮ちゃんにも、プレゼントがあるんです。はいっ♪」

加蓮「え、ありがと……。プレゼントって、別に何の日って訳でもないのに」

藍子「そうですね……お正月だから?」

加蓮「お年玉じゃないんだからー」

藍子「じゃあ、今年初めて会った記念!」

加蓮「そーゆーことにしとく。私も何か用意してればよかったかな」

藍子「そんなっ。私が買いたくて買っただけですから……買い物をしてた時に、加蓮ちゃんに似合いそうだって見つけただけなんです」

加蓮「藍子らしいね。開けていい?」

藍子「はい、どうぞ」

加蓮「何が入ってるだろー」ガサゴソ

加蓮「お。マニキュアだ」

藍子「雑貨屋のオリジナルだそうです。だから、加蓮ちゃんも持っていないって思って」

加蓮「オリジナル!?」

藍子「はいっ」

加蓮「うっわぁ、完全にノーマークだったぁ。ね、ね、それどこの雑貨屋!? 教え――ううんっ、今度連れてって!」

藍子「はい! あ、でもちょっぴり遠いので、今日は……」

加蓮「うん、"また今度"にね。……ふふっ、"また今度"にっ」

藍子「はい♪」

加蓮「さてっ。何か注文しよっか……ん、そーいえば今日は来るのちょっと遅れたから藍子の分は注文できてないよ、ごめん」

藍子「そうだったんですか。加蓮ちゃん、何を選んでくれるかなーって楽しみにしてたから、ちょっぴり残念っ」

加蓮「ちなみに何予想?」

藍子「そうですね……。お餅は前に私がケーキを避けたのと同じ理由で、いっぱい食べているから選ばないって思ってました」

藍子「期間限定メニュー以外だから……でも、これじゃ範囲が広すぎて予想が難しいですね」

藍子「じゃあ……ツナサラダ?」

加蓮「んー…………ちょっとメニュー貸して」パラパラ

加蓮「…………」

加蓮「……アハハ、思いつかないかも」メニューモドス

藍子「終わったことを予想するのって、難しいですよね」

加蓮「もしもあの時、っていうのはよく考えるかなー。っていうかたまに夢で見る」

藍子「どんな夢を見るんですか?」

加蓮「んー。年末くらいにね、私が事務所の事務員をやってた夢を見たよ。でさ、ちひろさんがアシスタントの上司なの。アシスタントの上司なんだよ? ちょっとおかしくない?」

藍子「ちひろさんが上司……優しくて、でもしっかり教えてくれそうな感じですっ」

加蓮「で、Pさんが同じようにいて、藍子が同じようにいるの。……でも藍子は何してたんだっけ……よく覚えてないや」

加蓮「夢の話だもんね、すぐ忘れちゃうよ」

藍子「そうですね。すてきな夢も、すぐに思い出せなくなっちゃう」

加蓮「寝る時に『どんな夢を見るだろ?』って楽しみに思うこと……は、あんまりないなぁ。変な夢ばっかり見るもん」

加蓮「夜に真っ暗な廊下を手探りで歩いてる夢とか、右も左も花畑で誰もいない夢とか」

藍子「……なんだか、さびしそうですね」

加蓮「うん。どうせ見るならもうちょっとこう……分かりやすく、楽しい夢を見られるといいのにね」

藍子「みんなで一緒に遊んでる夢とか?」

加蓮「そうそう」

藍子「じゃあ、私が楽しい夢を見られた時には、頑張って加蓮ちゃんを誘いますね!」

加蓮「……………………どーやって?」

藍子「…………さあ?」

加蓮「藍子、正月ボケはそろそろ直しなさいよ」

藍子「はーいっ」エヘヘ

加蓮「もうっ」

加蓮「すみませーん。グリーンティー1つ。藍子は?」

藍子「私もそれで! はいっ、お願いしますね♪」

加蓮「藍子さ、夢に私が出てきたことってある?」

藍子「うーん……私、起きたら夢をほとんど忘れちゃうんです。見ていたかどうかも分からなくて」

加蓮「そっか」

藍子「あっ、今年に見た初夢ならよく覚えています! 確か、見ると縁起が良いのって一富士二鷹三茄子、ですよね?」

藍子「私、空を飛んでいたんです。夢の中で。……ってことはきっと、私、その夢で鷹になっていたんですよねっ」

藍子「だから、今年もいっぱい幸せなことがありそうで、楽しみなんですよ♪」

加蓮「……あははっ。空を飛んでたからって鷹とは限らないじゃん。カラスかもよ?」

藍子「きっと鷹ですっ」

藍子「それに、もし違っていたとしても、そう思った方が幸せになれるかな? なんて」

加蓮「おお、ポジティブ」

藍子「はい。ポジティブパッションですから♪」

加蓮「逆逆。ポジティブだからポジティブパッションなの」

藍子「加蓮ちゃんは初夢、見ましたか?」

加蓮「うん、見たよ。見たけど、なんだったっけなー……何か食べてたよーな……」

加蓮「そうだ。藍子っぽく言うなら、私は夢でナスを食べてたんだと思う」

藍子「なら、今年もきっといい1年になりますね♪」

加蓮「…………」

加蓮「いや、あれはクッキーだった気がする」

藍子「違ってても、そう思った方がいいじゃないですか~」

加蓮「しかも藍子の大好きなヤツ。……うんそう、藍子の前で私が美味しそうに食べてて藍子が悔しそうにしてるんだ」

藍子「……話、盛ってません?」

加蓮「藍子。無いからって盛るのはよくないと思うな」

藍子「今盛っているのは加蓮ちゃんの方ですよね!?」

加蓮「ってことは自分は今"は"盛っていないと。へーそういうことしてるんだ藍子ー」

藍子「……店員さーん。この激甘ぜんざいっていうのを2つください♪」

加蓮「お腹が空いてるの? それなら定食とか頼んだ方がいいんじゃない?」

藍子「私じゃ2つも食べられないので、片方は加蓮ちゃんの分です」

加蓮「私は一昨日に病院で甘い物を食べるなって言われたんだよね。残念だけど藍子にあげるよ」

藍子「お正月なのに病院に行ったんですか?」

加蓮「病院は24時間365日やってるからね。急患とかあったら大変だし」

藍子「加蓮ちゃん。これ、一昨日に加蓮ちゃんが送ってきたメールです。初詣、楽しそうですねっ」

加蓮「嫌なことが終わった後の初詣だもん、そりゃ楽しいよ」

藍子「すっごく綺麗な着物ですけれど、これで病院に行ったんですか?」

加蓮「実はこれLIVE用のなんだ。で、病院でゲリラライブしようと思ったんだけど止められちゃって」

藍子「加蓮ちゃんの衣装にこの着物があるの、私見たことないですけれど」

加蓮「そりゃー今年のLIVEの衣装だからね。藍子が知らないのも無理ないんじゃない?」

藍子「……あっ、店員さん。ありがとうございますっ」

加蓮「あ。……ちくしょー、時間切れか」

藍子「はい、加蓮ちゃん。あーん♪」

加蓮「…………あーん」モグッ

加蓮「うがっ」アマイ...

藍子「わっ、これホントに甘い……」モグモグ

藍子「でも、こういうのもいいですよね。……カロリーは、うん、大丈夫。……だいじょうぶ、うん」モグモグ

加蓮「…………」グデー

藍子「……大丈夫ですよ~。加蓮ちゃんが食べられない分も、頑張って食べますからっ」

藍子「せっかく注文したんですから、残しちゃったらお店に悪いですし……それにこれ、本当に美味しいですしっ」モグモグ

藍子「ん~~~~♪」

加蓮「……な、何やってたんだろうね、さっきまでの私たち」

藍子「…………あはは」

加蓮「ま、いっか……。私もぜんざい食べるー。確かに超甘いけど、たまにはこういうのもいいじゃん」

藍子「はい。無理はしないでくださいね?」

加蓮「分かってまーす」モグモグ

加蓮「あっまぁ゛」

藍子「…………♪」モグモグ

藍子「そういえば結局、あの着物って本当に衣装に使った物だったんですか?」

加蓮「うん。って言ってもだいぶ前のだけどね。LIVEが終わった後にPさんがくれたんだ。買い取った衣装だから記念にって」

加蓮「さすがに着る機会なんてなかったけど、せっかくお正月だもん。神社で視線とかけっこう集めちゃった♪」

藍子「ふふっ、加蓮ちゃんですから」

加蓮「藍子だってすごかったじゃん。新春LIVE。久々にパッション全開の藍子を見たよ」

藍子「あれは……なんだか、久しぶりに熱くなっちゃって。待っているお客さんを見て、寒そうだな、暖かくなってほしいな、って思っていたら……その、なんだかスイッチが入ったというか」

加蓮「LIVEバトルしたいね」

藍子「へ?」

加蓮「その状態の藍子と」

藍子「はあ。私は……せっかくLIVEするなら、加蓮ちゃんと一緒にしたいな」

加蓮「藍子ならそう言うよね。……あま゛ぁ。初詣とかって」

藍子「みなさんと一緒に行きました。Pさんと、あと、LIVEしたみなさんと」

藍子「……ごめんなさい。加蓮ちゃんも誘えばよかったんですけれど、忙しいかな? って思っちゃって」

加蓮「私も私で行ってるんだからお互い様だよ……そうだっ。明日か明後日にでも2人で初詣に行ってみる?」

加蓮「……って、そんなことしたら罰当たりになるのかな」

藍子「罰当たり、ですか?」

加蓮「なんかこう、神様的なヤツに? あれだけお参りしたのにまだするのか! 欲張りめ! みたいに」

加蓮「私、神様に徹底的に嫌われてるからね。そもそも信じてないけど」

藍子「加蓮ちゃんらしいですね……。あの、それなら!」

加蓮「それなら?」

藍子「……あはっ。加蓮ちゃんにとっては、難しいことかもしれませんけれど」

加蓮「……なーんか嫌な予感」

藍子「来年、また一緒に行きましょう♪」

加蓮「…………いい笑顔で言うねぇ」ヒクヒク

藍子「はい♪」

加蓮「私がそれに頷くの、すっごい苦手だって知ってる癖に」

藍子「だめ、ですか?」

加蓮「…………」

加蓮「……また来年、ね」

藍子「はーいっ。じゃあ、来年に何をお祈りするか決めちゃいましょうっ」

加蓮「そんなの1年過ごしてみないと分からないでしょ!? っていうか、今お祈りすることがあるならとっくにお祈りしてるし!」

藍子「あ、そうでしたっ」

加蓮「やっぱ正月ボケしてる……!」

藍子「加蓮ちゃんがいたら安心ですね♪」

加蓮「後ろから刺すよ?」

藍子「でも加蓮ちゃんなら、本当に助けがいる時には助けてくれますよねっ」

加蓮「さーね。もしそうだとしても、見誤る時ってあるんじゃない? ほら、本当に助けがいる時かどうかってところ」

藍子「それも信じてますから。加蓮ちゃんのこと」

加蓮「ふうん……」

加蓮「……ときどき思うけど、アンタって私のこと盲信しすぎじゃない? いや、私が藍子のことを信じてないとかじゃないけど」

加蓮「好きだって言ってくれるのは……まぁ、嬉しいけど……。なんかちょっとだけ怖いんだよね。私が何かミスって、それに私も藍子も気づかなかった時、藍子がどうなるのかって」

加蓮「……いらないお世話なのかもしれないけどね。藍子も、それをどうにかするくらいの強さはあるか」

藍子「あはは……私、疑うのはどうしても苦手ですから」

加蓮「"疑う"じゃなくて"正しく判断する"だと思うんだけどね、こーゆーのって」

藍子「それも苦手かもっ」

加蓮「……大丈夫? なんか今のでもっと不安になったよ?」

藍子「私、迷うことってあまりないんです。アイドルになった時も、それほど迷うことがなくて……ううんっ、もちろん、私なんかがアイドルになれるのかなって思ったことはありますけれど、その時は……えいっ、って勢い任せになっちゃって」

藍子「あと、不安になった時は、周りのみなさんが元気づけてくれて。最初の頃はPさんが、ちょっと前からは未央ちゃんに茜ちゃん」

藍子「加蓮ちゃんだって、前に励ましてくれました」

藍子「だから、何かを決めなきゃいけなくなった時も、すぐに決めることができちゃうんです」

加蓮「決めた後にその決定がまずかったって気づいたら?」

藍子「それは……でも、そういうことが今までなかったので、ううん……」

加蓮「…………何が怖いってさ、藍子が私のことを疑うことができるのかって話」

加蓮「私はほら、まぁ、なんていうかさ……嘘つきと建前翳しの世界で生きてきたから、それなりにって自信はあるけど」

加蓮「藍子は話を聞いてる限りそうじゃなくて。私が騙す、ってことはなくても、私が間違えて藍子がついてきちゃったらさ。どっかで判断できるのかな、って思うんだ。どっかで私を切り捨てて、正しい道を進めるのかどうか」

加蓮「……ちょっと過保護なのは自覚してるけどね。Pさんとか藍子が私を心配するのって、こういう気持ちなのかな?」

藍子「…………」ウーン

藍子「加蓮ちゃん」

藍子「私、今日、ここに来たばかりの時に言いました。ほらっ、加蓮ちゃんが真面目に考えすぎだって言った時に」

加蓮「んー?」

藍子「もし失敗しちゃっても、私はここにいるって」

藍子「アイドルの時だって、失敗することがあっても……挫折しなければ、次のチャンスが来てくれるんです。オーディションだって、レッスンだって」

藍子「それと同じなのかな? って思います。加蓮ちゃんについていって、加蓮ちゃんが失敗しちゃったら、そこから挽回すればいいのかな? って」

藍子「それに失敗した時、挽回しないといけない時があったとして――その原因や理由が何であっても、私は、その時に加蓮ちゃんがいてくれればいいなって思います」

加蓮「私がいなければ起きなかった失敗でも?」

藍子「それは……その時ってことで!」

加蓮「言い切りおった……。やっぱ正月ボケしてるってアンタ」

藍子「ボケてないですっ」

加蓮「うーん……ミスを潰すか、ミスってもいいけど頑張ろうかってところで食い違ってるのかな……」

加蓮「じゃあさ。私がいたから失敗した、なんてことになったら? 私すっごく落ち込むよ? もうすっごく落ち込むよ?」

加蓮「それならさ、そんなことなんて無い方が良くない? そうなる前に私を信じないで否定して、失敗を回避した方がよくない?」

藍子「…………」ウーン

藍子「…………」ウーン

藍子「…………………」ウーン

加蓮「……意地悪な質問だって自覚してるけどね。ごめん」

藍子「いえ……。それでも私は、加蓮ちゃんと一緒にいたいです」

加蓮「まだ言い張る?」

藍子「落ち込むのを怖がってたら、なんにもできなくなっちゃいます」

藍子「落ち込むかもしれないけれど、でも、笑顔になれるかもしれない。加蓮ちゃんだったら……失敗しちゃうかもしれないけれど、でも、夢を与えられるかもしれない。そうやって、私たちはアイドルをやっているんじゃないでしょうか」

加蓮「それはミスって凹むかどうか分からない時の話でしょ」

藍子「じゃあそれと同じです。加蓮ちゃんを信じて失敗するか成功するかなんて、信じた時には分かりませんから。成功するかもしれないし、失敗するかもしれません」

藍子「分からないなら、私は加蓮ちゃんを信じます」

藍子「信じないで成功するよりも、信じて失敗する方が……」

藍子「なんて、ちょっと身勝手なお話ですか?」

加蓮「…………そういえば言ってたっけ。叱るのは苦手だって」

藍子「?」

加蓮「ううん。同じことなのかなって思って。そっかー……なんか難しいね、こういうのって」

藍子「あはは……正直、加蓮ちゃんの言うことについていくだけで精一杯です」ホオカキ

加蓮「ん? ってことは難しい言葉を並べ立てれば藍子を騙すなんて簡単にできる?」

藍子「加蓮ちゃん?」ジトー

加蓮「あははっ。なーんてこと思ってるかもしれないんだよ?」

藍子「……ちょっと騙されただけなら、すぐ挽回しちゃいますからっ」

加蓮「藍子は強いね。何度も思ったけど、ホント、強いなぁ……」

藍子「加蓮ちゃんだって強いじゃないですか。失敗しても、落ち込んじゃっても、そこから負けず嫌いで、すぐに燃え上がっちゃうくせにっ」

加蓮「藍子ほど健全な考えじゃないよ。単に負けず嫌いってだけだもん」

藍子「健全……じゃないんですか?」

加蓮「うん、たぶんね」

藍子「はぁ。私は、そう思わないですけれど……。加蓮ちゃんって、なんていうか……」

加蓮「?」

藍子「なんだか……正しいことにこだわりすぎ、って感じがしちゃいます」

加蓮「あー」

藍子「正しくないと駄目、なんてこと、……ない、のかな? うーん……」

加蓮「それが分かる人なんてほとんどいないと思うよ?」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「正しさとか正義とかってふらふらしてるし。私にとって正しいことが藍子にとっての正しいことじゃないし」

加蓮「……間違ってる自分を、許さないといけないのかもね、私」

藍子「あっ、たぶんそういうことです!」

藍子「間違ってても、正しくても、加蓮ちゃんの世界はそこにあるんですから!」

加蓮「でもさー、やっぱ間違ってたら誰かに指摘されるべきだよ。Pさん然り藍子然り。そういう意味でも、盲信されるっていうのはちょっとヤダなぁ」

藍子「ううっ……あ、あんまり期待しないでくださいっ」

加蓮「やだ。藍子が私を信じるっていうなら私も藍子を信じて期待する。超期待しちゃう」

藍子「プレッシャー~~~~!」




加蓮「…………」モグモグ

加蓮「…………」モグモグ

加蓮「……あれっ? なんだかんだ私、ぜんざい食べちゃってる。ほらほら」

藍子「え? ……あっ、ホントですね!」

加蓮「難しい話をしてたから、頭が甘い物を欲しがってつい……?」

藍子「ふふっ、かもしれませんね」

加蓮「藍子はまだ食べてないんだー。あんな話くらい藍子にとっては朝飯前?」

藍子「違いますよっ。さっきも言いましたけれど、ついていくのだけで精一杯ですっ」

加蓮「ぶっちゃけ私も途中から混乱してたかも。もうちょっと軽い話がしたいのにね。ほら、来年の初詣で何を願うか、とか」

藍子「1年後のことは分からないから……って言ったの、加蓮ちゃんじゃ?」

加蓮「1年後の自分予想的な? 1年後は………………」

加蓮「…………」

加蓮「…………藍子ー、ぜんざいちょっと頂戴っ」

藍子「あーん」スッ

加蓮「ぱくっ。……や、やっぱり甘ぁ゛……」

藍子「私、1年後のお話なら朝飯前かもしれません♪」

加蓮「むぅ」

藍子「来年の加蓮ちゃんは――」

加蓮「自分の話じゃないんかいっ」

藍子「もっと素直になってます! ……ううん、そうさせますっ」

加蓮「やーめーろー。そうなったら毎晩、布団の上で顔真っ赤にして転がるからー」

藍子「それなら、私がその様子を写真に撮っておきますね♪」

加蓮「藍子は私をどうしたいんだー!」

藍子「…………♪」パクッ



おしまい。読んでいただき、ありがとうございました。

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