新説赤ずきんちゃん(14)

ここはとある森の中。

赤ずきん「ランラランララン♪ランラランララン♪」

ノリノリの赤ずきんちゃんは、頼まれたドリキャスを持っておばあちゃんのお家に向かう途中です。

赤ずきん「ヒヒヒ♪ハハヒヘフッ♪」

教育テレビの番組テーマ曲を歌い終えると、赤ずきんちゃんの顔が急にシリアスになりました。

赤ずきん「今更シーマンをやりたいなんて、おばあちゃんもボケが始まったのかしら。」

頬に手を当て、困った顔で虚空を見つめます。

赤ずきん「私の名前も忘れちゃって赤ずきんなんて呼ぶし、そろそろ介護施設に入れる事も考えておかないと。」

はぁっ、と溜め息を吐く赤ずきんちゃんには、とても10歳とは思えない貫禄が漂っていました。

赤ずきん「考えても仕方ない、とりあえずドリキャスをおばあちゃんのお家に届けよう!」

サン!サン!サン!太陽のー光ー♪と今度は違う番組のopを歌いながら、再びおばあちゃんのお家へ歩を進めました。

歌う曲は子供らしいのに、何が赤ずきんちゃんの精神をそこまで追い込んでしまったのでしょう。

一方その頃

「グヘヘ近年人間が山の動物を狩る量が増え食糧難に苦しむ俺はこの家のババァと孫を食う為の壮大な計画を立て今まさにその計画を実行しようと赤ずきんに変装し覚えた人間語を確認するように喋っているぜ。」

おばあちゃんの家の前で、一匹のウルフ金串(狼)が誰に言うでもなく情況説明をしていました。
人語は完璧にマスターしているようです。

金串「さぁ………おっ始めるとするか!てめぇと俺の、命を賭けた大勝負をよぉ!」

無駄にかっこよくキメて、ドアをノックしました。

ココンコンココン………ココンコンココン

どこで覚えたのかターミネーターメインテーマのリズムです。

『おやおやおや、誰だい?』

ドアの向こうから、おばあちゃんの声が聴こえてきます。

金串は赤ずきんちゃんの声真似をして言いました。

金串「ワォオン!ワォオオオオオッ!」

『赤ずきんか、入っとくれ。』

金串(へっ、ババァを騙すなんてチョロいもんだぜ。)

ゆっくり扉を開きます。
侵入成功です。

金串「赤ずきんを被っているのが他でもない、私が赤ずきんという存在であることの証明よ。」

金串は言い訳がましく言いました。

おばあ「赤ずきん、お前いつから四足歩行エクササイズなんて始めたんだい?」

金串「先月の末に接骨院の先生に教えてもらったの。」

おばあ「それに、随分痩せたねぇ。ちゃんと食べてるのかい?」

金串「最近はウサギとか鹿が少なくて、あんまり食べてないの。」

おばあ「サバイバル。」

金串「だから………おばあちゃんを食べたくて来たのよ!」ゴゴゴゴゴ

―パクリッ!

金串「ん………こ、これは!」

金串「うめぇ!人間うめぇよ!」

なんと、ウルフ金串がおばあちゃんを食べてしまいました!

―コリバキムシャグチョ

しっかり噛んでいます、偉いです。

金串「俺の胃袋は宇宙だ。」

なんか言いました。

金串「次は赤ずきんだな………やっぱ若い方が美味いんだろうなぁ!楽しみだぜっ!」

金串「んっ?………うぷ、おえっ!」

良く噛めていなかったのか、金串は少し戻してしまいました。

おばあ「……………。」

視線を口元に移すと、そこには無言で金串を見つめるおばあちゃんの顔が。
それは全くの無傷でした。

金串「な、なんだぁっ!?」

金串は口からおばあちゃんを出している自分に驚きましたが、今度は骨もしっかり噛んでから飲み込みました。

金串「な、なんだったんだ今の………幻覚か?」

それっきり、おばあちゃんは出てきませんでした。

一方その頃

赤ずきん「ふぅ、ようやくおばあちゃんのお家に到着ね。」

赤ずきんちゃんは金串がおばあちゃんを食べてしまったなんて知らず、金串のいるお家に来てしまいました。

―コンコン

赤ずきん「おばあちゃん、赤ずきんよ。」

食後の一服をしていた金串は、慌てて煙草の火を消し、布団に潜り込みます。
そして、深呼吸してから、おばあちゃんの声真似をして言いました。

金串「ワォオン!ワォオオオオオッ!」

赤ずきん「入るねー。」

赤ずきんちゃんが扉を開けて入って来ました。

金串「今おばあちゃんは布団に入っていて顔も見えないんだから、おばあちゃんがウルフ金串だなんて証拠は一つも無いんだよ。」

金串はまた言い訳がましく言いました。

赤ずきん「あら………おばあちゃん、どうしてそんなにお腹が大きいの?」

今年八十歳を迎えた老婆にしては随分存在感のあるお腹だと疑問に思った赤ずきんちゃんは、おばあちゃんに訊ねます。

金串「うふふ………それはね、おばあちゃんも女としてまだまだ捨てたもんじゃないってことだよ。」

金串は何故か意味深な言い方をしました。

赤ずきん「それって、まさか赤ちゃん!?」

金串「やだよ赤ずきんったら、大きな声で。」

金串は布団の中から照れくさそうに顔を出しました。

赤ずきん「あら?おばあちゃん、何故今になって耳が成長したの?どうしてお耳が大きいの?」

金串「それはね赤ずきん。生命の鼓動を、自然の囁きを、もっと聴きたいからだよ。」

赤ずきん「それってとても大切な事よね。………あら?おばあちゃんの目、そんなに大きかったかしら。」

金串「これはなんか………あれだからだよ。」

金串は目のことまで考えていなかったようです。

赤ずきん「どうして爪がそんなに長いの?」

金串「おばあちゃんはキャプテンクロに憧れていてねぇ。杓死がしたくて伸ばしたんだよ。」

赤ずきん「どうして世界から戦争が無くならないの?」

金串「悲しいけど、人は誰かと、何かと争わなくては生きられない生き物なんだよ。」

赤ずきん「どうして石原都知事は…」
金串「口は!!!??」

金串は我慢できずに言ってしまいました。

金串「石原都知事がなんだよ!さっきから口凄いアピールしてるよ!なんで人間の口がこんなに細長いのか疑問に思えよ!」

赤ずきん「なんかアピールされると言いづらくて………。」

金串「いいよ!求めてるんだからそれに答えろよ!何で口がこんなにデカイの!?お前を食べるためだよ!」

金串は全部言ってしまいました。

狩人「助けに来たぞ赤ずきんちゃん!」

―バーンバーーン !

金串「ほらお前がもたもたしてるから撃たれちゃったじゃん!!何で二発撃ったんだよ!一発で死ぬよ!」

狩人「まだ死なないか!」

―ババババーン!

金串「はいババババーン!!!」

―ドサッ

金串は倒れた。

狩人「おばあちゃんが中で生きてる筈だ!腹を裂いて助けよう!」

―ジョギジョギ

狩人がハサミで腹を裂きます。

金串「いやっ!せめて死んでからにして!」

狩人「まだ生きてるか!」

―バンバババーン!!!!!

金串「はいバンバババーン!わかったよ!大人しくしてるよ!でもおばあちゃん中で生きてたなら今ので死んだよ!」

狩人が臓物を掻き分けながら中を探ると、血まみれのおばあちゃんが出てきました。
しかし、おばあちゃんに付着している血は金串の物だけで、おばあちゃんは傷一つしていません。

おばあ「これが無かったら………あたしゃ死んでたよ。」

起き上がったおばあちゃんは胸ポケットから一部が凹んだジッポライターを取り出しました。

狩人(な、なんという強運!そして凶運!このおばあさん………ただ者じゃない!)

おばあ「さぁっ、最後の仕事だ!こいつの腹に石詰めて池に沈めてやろうぜっ!」

―ゴポポ

それから、おばあちゃんはシーマンと幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし

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