俺と晶葉の戦いの記録 (20)

それはある日のことだった。俺と池袋晶葉は喧嘩をした。

きっかけはくだらないことだった。いや、くだらなくはない。少なくとも当人たちにとっては。

うちの事務所に所属しているアイドルは三人。

池袋晶葉、安部菜々、古澤頼子だ。

その三人と午前中に打ち合わせをしてその後だ。

疲れからか俺は一言漏らした。「菜々の膝枕で寝てえな」

菜々と頼子からは最近慣れつつある冷たい目で睨まれたよ。快感では決してない。


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ただ晶葉の反応は違った。俺のことを一瞥したあと菜々に向かって、


「ウサミン、膝枕してくれ」

「晶葉ちゃんになら」


菜々に膝枕されながら晶葉は俺に勝ち誇った顔をしてきた。

別の事務所に輿水幸子さんというアイドルがいるがあれの比ではない。

悪意のあるドヤ顔と悪意のないドヤ顔。晶葉が前者で幸子さんは後者だ。

それが開戦の合図だった。

別にうらやましくはない。俺には頼子がいるし。


「頼子、膝枕してくれ」


無言で睨まれた。怖い。


そろそろ仕事に戻らないとちひろさんに怒られるな。そう思い俺は机に向かう。

その前に気持ち良さそうに菜々の膝で目を瞑っている晶葉を見る。


「黙ってれば可愛いんだがな」

「話してても可愛いですよ」

「そりゃ菜々と頼子には懐いてるからな」

「Pさんが悪いと思いますよ……」


なんだよ二人して。俺は情けなくも完全に拗ねた子どものような態度で机に座る。

俺がある程度仕事を進めたところで頼子がコーヒーを淹れてくれる。

頼子ぉ。両手を広げた俺を待っていたのは頼子の冷たい視線だった。ごめんなさい、でも大人の男でも甘えたくなるときはあるんです。

晶葉がこちらをニヤニヤしながら見てくる。てめぇ起きてたな。

しかし、今晶葉に仕返しをしようにも菜々と頼子の目がある。ここは堪えよう。

さて、仕事も一段落つき飯の時間だ。くくく、復讐の時間だ。第一段階、飯に誘う。下の定食屋行くけど誰かついてくるか?

案の定全員手をあげる、え?ちひろさんもですか?いえいえ、悪いとは言ってません。

やばい、ちひろさんもアイドル側の人間だ。監視の目が増えてしまう。

店につき晶葉の右隣に座る。これが重要だ。

俺はしょうが焼き定食を頼む。ここの定食屋はサラダの上にプチトマトが乗っているのだよ。

優しい俺はそれを晶葉にプレゼントしてやろう。決して俺が食べられないとか晶葉がプチトマトが嫌いなことは関係していない。

三人の目を掻い潜りつつ俺は晶葉の皿にプチトマトをプレゼントした。俺が左利きでよかった。

が、何故か俺の皿の上には依然としてプチトマトがある。どうしてだ。

仕方ないもう一度、しかしある。そうか晶葉も俺にプチトマトを押し付けてきたのだ。

これが理由だったらマジでくだらんww

こいつめ、俺がプチトマト嫌いなのを知っていてやっているのか。

俺らの静かな戦いは長くは続かなかった。ちひろさんに見つかった。マジ説教、怖い。

結局晶葉のプチトマトは頼子が食べていた。俺のは誰が食べてくれるんですか?え?甘えんな?

仕方ない水で流し込むか。うう、やっぱり苦手だ。晶葉がこちらを見て笑ってくる。

変な顔だと?やるのか?第二ラウンドか?

嘘ですごめんなさい。そんな鬼みたいな顔で睨まないでください。やっぱりちひろさんはこえーな。

菜々も頼子も晶葉寄りだし完全にアウェイじゃねーか、男女差別だ!

このあと晶葉と肘がぶつかり合い第三ラウンドに突入するかに思えたがやはり睨まれ事なきを得た。

なんで晶葉は俺の左に座ってんだよ。いや、俺のせいか。

結局ここでも仕返し出来なかった。次の作戦を考えるか。

俺らは定食屋を後にして事務所に戻ってきた。食後のコーヒーでも飲むかな。

コーヒー?そうだ。晶葉以外はブラックのコーヒーを飲める。ここで大人と子供の違いを見せつけてやるかな。

早速コーヒーを淹れよう。みんなもいるかな?俺が声をかけると怪訝な顔でこっちを見てきた。

そんなに信用ないのか俺……まあ今回やろうとしているのもイタズラなので弁解出来ないのが辛いところだ。

全員の前にコーヒーをおく。このときに砂糖やミルクは用意しないのがポイントだ。

晶葉は欲しかったら給湯室に取りに行かなければならない。俺に頼んでもいいがそれはすなわち敗北を意味する。

我ながら完璧だ。ふふふ、お前は俺に勝てないんだよ。

しかし、俺は池袋晶葉という少女を完全に見誤っていた。

こいつは14歳にしてブラックのコーヒーを眉一つ動かさず飲めるというのか。


「晶葉はブラックコーヒー飲めるのか?」

「ああ、夜中にロボを作るときの眠気覚ましとして飲んでいてな」

「身体に悪いからあまり夜更かしするなよ」


俺は敗北感からかそうとしか言えなかった。間違ったことは言ってない。

こうして楽しいはずのコーヒータイムは俺の完全敗北という形で終わった。

仕方ない、仕事に戻るか。晶葉たちをレッスンに送ってから俺は再び机に向かった。


「プロデューサーさん、負けてましたね」


ニヤニヤしながらちひろさんが言ってくる。この人には俺の考えがお見通しだというのか。


「いや、プロデューサーさんがわかりやすいんですよ。いつも晶葉ちゃんとイチャイチャしてるじゃないですか」


自覚なかった。しかしイチャイチャは断じてしていない。これは戦いなのだ。戦争なのだ。


「いつも菜々さんを取り合ってるので頼子ちゃんが寂しそうにしていますよ」

「俺が慰めてあげますよ」

「多分晶葉ちゃんしか求めてないと思いますよ」

「じゃあ菜々と俺、頼子と晶葉で解決ですね」


誰も傷つかない。世界に平和が訪れる。

「晶葉ちゃんと頼子ちゃんと菜々さんの三人でいいと思います」

「俺の場所は」

「ありません。そういえばなんで頼子ちゃんは取り合わないんですか?」

「いや、頼子にも冗談は言ってはいますよ。ただ頼子を取り合うのは年齢的に犯罪な気がして……」

「菜々さんも同い年ですよ」

「そうでした」

「ちひろさんってプロデューサーのアシスタントですよね」

「いいえ、アイドルのお姉さんです」


うっわ、この人なんか言い出した。


「なにか文句でも?」

「いや、なにも」


当たり前だがちひろさんは怒ると怖い。この事務所では三番目に怖い。一番は頼子で二番は菜々、普段おとなしい人は怒ると怖い。

書類をまとめ終わって、そろそろ俺は晶葉に仕返しすることを諦めていた。

仕方ない、今日だけは勝ちを譲ってやる。時計を見るとレッスンが終わる時間だった。

迎えにいってきます。ちひろさんにそうとだけ言って俺は事務所を出た。

少し早めにレッスンスタジオについた俺は自販機で差し入れを買っていた。

おしるこ、いやレッスン終わりのアイドルにそれは失礼だろう。さっぱりする炭酸でも買ってやろう。


「お疲れ様、差し入れだ」


俺は三人に飲み物を渡す。


「ありがとう」


晶葉がお礼を言って開けた瞬間、吹き出した。最悪だ。今回に関しては俺はなにもやっていない。

二人ともそんな目で見るな。

仕事に関しては変なことはしない。そんな信頼があったからなんとか誤解は解けた。

そもそも普段から晶葉を弄くってなければ誤解を受けない気もしたが。


「晶葉、すまない」

「いや、Pも善意でやってくれたのだろう」


許してくれるのか、流石晶葉。

「貸し二でいい」


図々しい、しかも一じゃなくて二かよ。

「なあ、P。事務所に戻ったら早速貸しを使ってもいいか?」


車内で晶葉が言ってくる。


「別に構わないが、変なことするなよ」

「もちろんだ。新しいロボの実験台になってくれればいい」

「それ変なことに含まれるんじゃないか」

「貸しだ、諦めろ」


正直俺も悪いと思っているから強く言えない。まあいいか。


「これを使ってみて感想を教えてくれ」


なにが待ち受けているんだ。


「ただのマッサージロボだ」

「晶葉、まさか俺のために……」

「勘違いするな、いつも頑張ってるちひろやウサミンのために作ったんだ」

「頼子には?」

「まだ必要ないだろう」

「晶葉ちゃん待ってください!ナナも頼子ちゃんも同い年ですよ」

「まあいい、使ってみてくれ」


外野の声を無視して晶葉に渡されたロボを使ってみる。これは気持ちいいぞ。

机仕事は色々こるからな、助かる。ああ、気持ちいい。

「ふふふ、その顔を見るに大成功だったようだな」

「気持ちいいぞ。助かる」


素直な気持ちを口にする。自然と口からこぼれただけかもしれない。


「ありがとうな。晶葉」

「別にPのために作ったのではない。まあ使ってもいいが」

「素直じゃないな」

「君にだけは言われたくない」


そう言ってお互いに嫌そうな顔をする。案外似たもの同士なのかもしれない。

「なんだこの手は?」

「仲直りの握手だ」

「わかった」


多分明日も喧嘩してるけどな。

以上で終わりです。

多分今年初の晶葉SSです。

晶葉とは喧嘩を毎日繰り広げたいです。



良かったお

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