【ゆるゆり】千鶴「初詣」 (20)

元旦と言うだけあって神社の境内は大勢の人でごった返していた。今日は姉さんと二人、初詣に来ている。

「うわー、すごい人やねぇ」

「ほんと、混んでる……」

「これだけの人なんやし、知り合いとバッタリ会うかもしれんなー」

杉浦さんと偶然会ったら、きっとこんな風に……
私の脳内は新年早々妄想を繰り広げる。


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『あら、千歳、千歳も来てたのね』

『うん、あけましておめでとうな』

『あけましておめでとう』

『綾乃ちゃんは晴れ着なんやね、すごい似合っとって可愛ええで』

『そ、そんな可愛いなんて……恥ずかしいわ』

顔を赤らめてモジモジする杉浦さんと、そんな彼女をじっと見つめる姉さん。

『ほんまやで、綾乃ちゃんは可愛ええよ』

『もう、何回も言わないでよっ!その、千歳だって可愛いわよ』

『ほんまー?』

『あぁもう何で千歳はそんなに余裕そうなのよ!私ばっかりドキドキしてるみたいで……』

『そんなことないで、ウチだってな……』

姉さんは杉浦さんをキュッて抱きしめ、

『ほら、ウチの心臓もドキドキしてるんよ?』

『千歳……』

『綾乃ちゃん……』

お互いのくちびるがゆっくりと近づいていってそして…………

「おーい、ちっづるー!!ちとせー!!」

妄想の一番良いところに入ったとこで、無駄に明るい声で現実へと引き戻された。

「うげっ、歳納……!」

何でよりによって偶然会う人がコイツなんだ。

「あけおめー!新年から千鶴に会えて嬉しいぞ!」

人懐っこい犬が飛びかかるように抱きしめられた。

「うわっバカ放せ!!」

歳納の腕から抜け出そうと抵抗するが、なかなか放してくれない。

「オイコラ、千鶴さん困ってるだろ」

船見さんが歳納の後ろ襟を引っ張って引き剥がしてくれた。

「ありがとう船見さん、あけましておめでとう」

「うん、あけましておめでとう、千鶴、千歳」

「あけましておめでとうー」

「さて、新年の挨拶も済んだところで……」

うげ、歳納と目があった……何かいやな予感が……

「ちっづるー!!!」

懲りずに飛び付こうとしてきた。私はそれを後ずさりしてかわす。

「うぉっとっとっと……千鶴がよけたからコケそうになっただろー、なんでよけるんだよー」

歳納は口を尖らせてぶーぶー言っている。私はだまってあっかんべーしてやった。

「ぐぬぬぬ……何としても千鶴を抱きしめてやる!ちづるーー!!」

「やめろバカ!」

追いかける歳納から早足で距離をとる。いつしかそれはおいかけっこになっていた。

「何で逃げるんだよ千鶴ー」

「お前が追いかけるから逃げるんだ!」

「じゃあ私は追いかけないから千鶴も逃げないで止まって!」

「嫌だ!」

しばらく逃げ回っていたが、何枚も重ね着をした重装備で動き回っていたせいで、すぐにお互い疲れてきた。

「はぁ……はぁ……早く抱きつかせてくれたらこんなに走らないで済んだのに……」

「お前が抱きつかないという選択肢は無いのか」

「無い!」

「はぁ……」

「あれ?そういえば結衣と千歳は?」


周りを見回しても見当たらない。おいかけっこのせいではぐれてしまったみたいだ。


「全く……探すしかないか」

「あ、ちょっと待って、LINE来てる!たいやきの屋台のとこにいるって。あと先に拝んできたって」

「じゃあ、拝みに行こうか」

「おう!レッツゴー!」


歳納は私の手を取ると本殿の方へと私を引っ張っていった。


「何で手を繋ぐんだよ」

「いいじゃんいいじゃん!はぐれないようにってね。それにこうしてると温かいし」

「……勝手にしろ」


歳納はいつもこうだ。コイツといると調子が狂う。歳納の手はむかつくくらいに温かかった。

☆★☆

人混みを掻き分けて本殿の前にたどり着いて、お賽銭を投げてお祈りする。


今年こそ友達ができますように……



お祈りを終えて目を開けると横から視線を感じ、隣を見ると歳納が私をじっと見つめていた。



「なんだ?」

「千鶴は何をお祈りしたのかなーって」

「……秘密だ」

「えーケチー!!教えてくれたっていーじゃん!」

「秘密なものは秘密だ。歳納は何をお祈りしたんだ?」

「千鶴と仲良くなれますようにってお願いした!」


歳納はニカッと屈託なく笑った。一瞬心臓がドクンと跳ねる。
あぁ、もう!何でコイツなんかに……
でも歳納のこういう風に臆することなく自分の気持ちを伝えられるのはちょっと羨ましい。

「さぁ、たいやき食いにいくぞー!」

「食べにいくんじゃなぬて姉さんたちの……ってちょっと待て何でまた手を繋ぐんだ!」


歳納に引っ張られるままに雑踏を掻き分けていった。

☆★☆

「おーい、京子ー!千鶴ー!」

たいやき屋の前で船見さんが手を振っていた。

「ごめん、遅くなって」

「いやー、わりぃわりぃ」

「いやいやー、仲良きことはええことやで。だから大丈夫や!手まで繋いで、ほんにええなぁ」

「歳納!いつまで繋いでるんだ!放せ!!」

「えー?いいじゃん手を繋ぐくらい」

「なんかみんなの前だと恥ずかしいんだ!」

「あれ、千鶴もしかして照れてるぅー?」

「うるさい!」


今年もコイツのせいで騒がしくなりそうだ。でもそんな日々も悪くはない……かもしれない。




――おわり――

初詣ssでしたがちょっとタイミングずれちゃいました
短かったですが以上です

また京鶴ss書きに来ます
それではー

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