提督「おかえりなさい」 (187)



そう言って遠征から帰ってきた私達を優しく微笑んで迎えてくれるのは、私達の鎮守府を統括する提督だ。


艦娘の存在が一般に広く知られるようになり、艦娘一人一人に感情があることも当然のものとして認識されている今日。

それでも艦娘を単なる兵器として扱う提督、体の良い性欲の捌け口として扱う提督は少なくない。

そんな中で私達の提督は私達を人並みに扱ってくれる。

いや、人並み以上に愛情深く接してくださっていると言っても過言ではないだろう。




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長時間の遠征にから戻ってきた翌日は必ずお休みを与える。

出撃で大破した時は体に負担が掛かるからと高速修復剤を使わない。

入渠を終えた艦娘一人一人に労いの言葉と、自分の指揮の至らなさを詫びる。

これは劣悪な環境下で過酷な軍務についている艦娘が少なくない中、過保護とも言えるものだろう。



私達艦娘は人々の悪意に敏感だ。

人から人ならざる者へと姿を変えた私達への差別意識は今なお消えない。

むしろ、私達艦娘の出自が知れ渡るほどにそれは強くなっていく。

私達艦娘は人から向けられる視線にとても敏感で、そして視線に秘められた感情にも敏感だ。

道具を効率よく扱うための口先だけの褒め言葉なんてすぐに見抜ける。

そして、だからこそわかるのだ。

提督の言葉にも、その優しい瞳にも、一片の嫌悪感も浮かんではいないということに。

提督は人並み以上に、それこそ娘のように私達を愛してくれている。

そのことが一つ一つの言葉や表情からわかるのだ。



だから、私達は提督を深く尊敬し、そして強くお慕いしている。




提督が尊敬を集めているのは、優しいお心だけが理由ではない。


私達は遊びで艦娘をしているのではない。

愛国の志の下、お国に尽くすことを決意し己が身を一個の兵器へと変えた者も多い。

艦娘によっては、人権を尊重するよりも優れた采配を揮うことを望む者もいる。

優しくとも無能であるより、冷血であっても有能な提督を望む、そんな艦娘達にとっても提督は尊敬の対象だ。

私達の鎮守府の提督は士官学校を主席で卒業されている。

若くして戦績のみならず、艦娘達の効率の良い練度の向上にも定評があるとのことだ。


つまり、私達の提督能力、素行、人柄、すべてにおいて秀でた方なのだ。














それと、これは提督の素晴らしさにおいては、些細な要因にすぎない。

決して重要な要因というわけではない。

これが数多ある提督の美点の一つでしかない。

そう、その優れている点の一つとして上げるだけなのだが。





提督はとても容姿が優れていらっしゃる。




・「脂ぎった顔がキモい」(某鎮守府 S谷さん)

・「髭の剃り残しが汚らしい」(某鎮守府 O井さん)

・「ニヤニヤ笑ってこっちを見てくる時に黄色い歯が見えると気絶しそうになるネ」(某鎮守府 K剛さん)

・「アイツ何か臭ぇんだよ」(某鎮守府 M耶さん)





そんな演習の時に他所の鎮守府の艦娘達から聞かされるような陰口なんて一つも該当しない。

180を超える長身。

すらりと伸びた脚。

細身ながらも、軍服の上からでも確認できる鍛え抜かれた肉体。

そして、凛々しくも美しいお顔。

黒曜石のような黒い瞳は時にに優しく、時に悲しげにその輝きを変える。

私達の事を常に第一に考えてくださる提督。

本当に素晴らしく、それ故に艦娘と提督という関係を超えて愛してしまう娘達も多い。

私はもちろん、あくまでも尊敬すべき素晴らしい上官として忠誠を誓っているだけだ。

もっとも、求められれば応じることはやぶさかではないが、それは些細なことだ。



けれども、私達艦娘にとって、一つだけ、一つだけであるが、最大の悩みがある。





それは……





「どうしたの朝潮ちゃん?」

提督はそう言ってそっと私の頭を撫でてくださる。

「あら?髪が傷んでるじゃないの。ダメよ?髪は女の命なんですもの。綺麗にしないと。後で執務室にいらっしゃい。私の使ってるシャンプー分けてあげる」

黒曜石のような大きな瞳をパチリとウインクする。

ふわりと長い睫毛がうっとりする程華麗に揺れる。

とても素晴らしく、とても魅力的な私達の敬愛する提督。

私達を娘のように慈しんでくださる優しい提督。

けれどもその瞳は父親というよりも母親のもの。

私達を守り育てる母であろうとする提督。

なぜでしょう、それを素直に喜べない自分がいます。





提督、どうして貴方はオネエなのですか?



今日はここまで。

艦これを初めてまだ3ヶ月の新米提督ですが、どハマりする余りスレ立てしてしまいました。

こんな感じにちょろちょろ書いていこうと思っています。

それではノシ

*行間空きすぎ、もしくは狭すぎるなど、ご指摘がございましたらよろしくお願いいたします。

こんばんは。少しですが今から投下します。



私達の提督はとても優しい。

演習から帰って来た子達のために、お菓子を焼いてくれるのだ。

提督の作ってくださるお菓子は絶品で、買い出しに行く時など渡された買い物リストから提督がどんなお菓子を作ってくださるのかを想像してしまう。

もっとも艦娘の中には練度向上よりも演習後のお菓子が楽しみで演習に参加したがる子もいることは些か嘆かわしい。





そして、駆逐艦の子達だけのご褒美もある。

お菓子よりもそれを期待する子達は決して少なくない。



提督「演習お疲れ様。疲れたでしょう?食堂にお茶を用意してあるからお風呂入った子から行きなさい。お菓子もあるわよ」

雷「お菓子ですか!あ、あの」

提督「ふふふ、雷ちゃん達の好きなホットケーキもちゃんと用意してあるわよ」

響「ハラショー」

暁「ホットケーキで喜ぶなんて、まったくいつまでも子供なんだから」

雷「でも司令官のホットケーキお店で食べるのより美味しいもん」

響「暁もこの前食べ過ぎたって言ってたよね」

暁「う…」




電「あ、あの、司令官」クイクイ

提督「どうしたの?電ちゃん?」

電「えっと、その、あの…」

提督「ダメよ、はっきり言わなくちゃ?遠慮せず言いなさい」

電「い、電の頭を…なでなでしてほしいです」

提督「はい、よく出来ました」ナデナデ

電「はわわわわッ…はわぁ」ポワーン

提督「ワンちゃんみたいね」クスッ



響「むぅ…電ばっかりずるい」クイクイ

雷「私も頑張ったわよ司令官!」グイグイ

提督「あらあら、甘えん坊さん達ね」ナデナデ


暁「……」ジッ


提督「暁ちゃんもいらっしゃい」

暁「れ、レディはむやみに頭なんて撫でさせないんだから!」

提督「あらまぁ」ナデナデナデナデ

電「はわぁ」ポワーン

雷「ほわぁ」ポワワーン

響「はらしょー」ムフー

暁「うぅうぅ…」

提督「……ねぇ暁ちゃん?」

暁「は、はい」

提督「一人前のレディーの要素ってわかるかしら?」

暁「え?」

提督「それはね、甘え上手なことなのよ」




提督「上手な甘え方を知る人は、上手な甘えさせ方もわかるのよ。いい女はそうやって男を上手に転がす女のことを言うの」


暁「…れ」



暁「レディーの勉強をするだけなんだからね!」テテテ

提督「そうね、暁ちゃんならきっと立派なレディーになれるわよ」ナデナデナデ

暁「えへへへへ/////」

提督「暁ちゃんは今日のMVPだったわね。訓練の成果がしっかり出てたわよ。本当に頑張ったわね」ナデナデナデナデ

暁「うん////」ハニャーン





演習から帰って来た駆逐艦の子達に対して、提督は親が子供にするように褒めて頭を撫でてくれる。
私達は軍人であると、兵器であると教えられている。
女であろうと子供であろうと、それは関係ないと。
けれども戦場を離れた時までそうある必要は無いと提督はおっしゃる。
それ以上のことを語らない提督が、駆逐艦の子達を撫でる時の瞳は何処までも優しく、そして少し悲しげだ。


提督、貴方はその胸の内に一体何を秘めていらっしゃるのですか?

その悲しい瞳の訳を、お話してはいただけないのですか?

提督はお気づきではないかもしれない、駆逐艦の子達が本当に好きなのは、撫でられることそのものではないことに。
自分の頭を撫でる時、自分に向けられる提督のそんな瞳を独占しているような気がして、それが本当は一番好きなのだということに。








天龍「お、おい朝潮…お前凄い顔してるぞ…?」

朝潮「いたんですか天龍さん」

天龍「血涙流しそうな目で見てるなよ。そんなに羨ましいのかよ」

朝潮「はらわたが捩じ切れそうなくらいに羨ましいです」ギリギリギリ

天龍「怖いよ!?」

以上で本日の投下を終えます。
何かございましたら、ご指摘ください。それではノシ

今から投下します。
無駄に長いかもしれません。


吐く息が白い。

空を見上げると青白い月が柔らかな光を放っている。

春とはいえども日の出前は身体の芯前で冷え込む。

空気は冷たく清廉で、深く吸い込むと体の隅々まで透き通る心地がする。

冷たい空気が漂うこの時間が彼女は好きだ。

もっとも、好きな理由はそれだけではない。


「今日も早いのね吹雪ちゃん」

振り返るとネイビーのジャージに身を包んだ長身の男が歩いてきた。

その手にはバスケットが握らている。

「おはようございます司令官!」

「おはよう。良い挨拶、今日も元気いっぱいね」

小柄な吹雪が見上げると、長身の男はにっこりとほほ笑む。

吹雪の鎮守府の提督だ。

成人の、それも軍人を職業としている男としては柔らか過ぎる微笑みは、端正な顔立ちと相まって中性的に吹雪の目には映る。

彼の言葉づかいや仕草は柔らかであるが、鍛え抜かれた肉体がそれを必要以上に女性的には見せていない。

「あら、そのヘアゴム新しいのでしょう?」

「あ、はい!おかしくないでしょうか?」

「全然。素敵だわ。うん、とっても可愛らしいわよ」

頬に手を当てて嬉しそうに笑う。

この提督は吹雪達艦娘がおしゃれをしたり、楽しそうに歓談している姿を目にすると、こうして我が事のように喜ぶ。

「海のように深い優しさを持った方です」というのは朝潮の談。

「口うるさいオカンみたいだ」とは摩耶の談だ。

「いいわねぇ可愛い女の子は可愛いものが似合っちゃうんだもの。妬けちゃうわ」

「そんな、司令官もとっても凛々しくて、その新しいジャージの色もお似合いで」

「本当はピンクが良かったのよ。でも胸がきつくてね」

提督が溜息を吐く。胸というか胸筋というのが正しいのだろう。

可愛いものが好きと言うのに、鍛錬を怠らない提督を吹雪は不思議に思う。


「それなら鍛えなければ良いのにって思ってる?」

「あ、いえ」

その通りだった。心の内をズバリと言い当てられ、不快にさせただろうかと吹雪は焦る。

慌てる吹雪の頭をそっと触れるものがあった。

無骨な、けれども細くしなやかな指をした手が彼女の頭を撫でていた。

「ふふ、ごめんなさい。意地悪言っちゃったわね」

僅かに眉を寄せて提督が笑う。

「そりゃあね、気ままにおしゃれして、いい男侍らせていられたら楽しんでしょうけど、やっぱりねぇ…」

吹雪の髪を長い指が櫛のように梳いて行く。

「吹雪ちゃん達みたいな可愛い女の子達を戦場に送っておいて、男がそれを見てるだけっていうのもカッコ悪いじゃない?」

鎮守府の前に広がるグランド。提督はトラックから離れた場所へとバスケットを置く。

「さぁ、走りましょうか?」

「はい!!」





吹雪は元々別の鎮守府にいた。

吹雪だけではなく、この鎮守府には他所から転属してきた艦娘が多い。

命令違反など素行に問題がある者、劣悪な環境から逃げだした者、見込みが無いと見放された者。


同じ鎮守府に同じ艦娘を所属させることは可能だ。

同じ艦隊に同じ艦娘を編成することは出来ない。

それは何処の鎮守府においても常識とされている。

もっとも大きな理由は「同じ魂」を持つからだと言われている。

艦娘とは、戦艦の魂を持つ存在だ。

元となった憑代は魂に引きずられるようにその姿を変える。

同じ魂を用いているのだから、姿は同じになる。正確には同じに見えている。

同じ艦が近しい場所で存在し続けると、艦娘達の魂は強く共鳴を引き起こすと言われている。

そして、反応は二通り起こる。

一つに戻ろうとする強い「執着」か、或いは強い「同族嫌悪」だ。

故に、提督は同じ艦娘を保持する場合、引き離すか片方を解体、もしくは改修の材料にする。

吹雪は、以前所属していた鎮守府において後者を目の当たりにした。



彼女は「吹雪」から強い虐めを受けていた。




吹雪の不運は二つ。

一つは彼女が拾われた時、既にそこには彼女よりも遥かに高練度の吹雪がいたこと。

もう一つは、その鎮守府の提督が艦娘達のケアに対して非常に無関心であったことだ。

「吹雪」は彼女を嫌悪し、そして弱さを軽蔑し虐げた。

訓練と称して加えられる暴力と悪罵。

それは地獄の日々であった。

ヘアゴムは捨てられ、伸ばした髪は無理やり切られ、艤装は整備した傍から破壊され続けた。

提督も弱い吹雪に資材を費やすのが勿体ないと思っていたのか、彼女は自分自身の拙い手でもってどうにかそれを使えるように直すことしか出来なかった。

気付けば心は挫け、自信と呼べるものは消え去り、吹雪は艦娘と言うには余りにも弱く、いじけた少女へとなっていた。






「吹雪ちゃん、改二の艤装の調子はどう?」

鎮守府のグラウンドを何周走っただろうか、走りながら提督は隣で走る吹雪に話かける。

「はい!最初は正直振り回されてる感覚でしたけど、明石さんのメンテのおかげで今は問題無く」

「それだけじゃないでしょ?」

「え?」

その言葉の意味を問う前に、提督は走る足を止める。

気付けば練習メニューの周回を走り終えていた。

バスケットから提督は二枚のタオルを出すと青色を吹雪に渡す。

ふわふわと柔らかいタオルからは清潔な石鹸の香りがする。

たっぷりと温まった身体からは白い湯気が立ち上り、薄暗い空気へと溶けていく。


提督に視線を向ければ既にシャツを汗ですっかりと濡らしてしまっている吹雪に対して、提督は額にうっすら汗を浮かべている程度だ。

提督は吹雪を微笑ましそうに見つめていた。

「初めて一緒に走った時はついてくるどころか途中でダウンしちゃってたのにね」

「そ、それは昔のことで…」

「さっき不思議そうな顔してたでしょ?艤装の話。それが答えよ。

改二になるには練度が必要。艤装を使いこなせるだけの心身が揃わなければ扱えない。

いくら明石ちゃんが頑張ってメンテをしても、扱う子がダメっ子さんなら意味が無いのよ」

「そんな、私なんてまだまだ ―― 」

言いかけた吹雪の言葉は唇にそっと当てられた人差し指によって掻き消えた。

眉をわずかに寄せて提督が吹雪を見下ろす。

聞き分けのない子供を叱る親のような表情だ。

「そんな事言っちゃダメよ。吹雪ちゃんは頑張ったって自分に自信を持っても良いのよ。じゃないとお姉さん怒るから?」

頬を染めながら吹雪は頷いた。





永遠とも思えた地獄はある日転機を迎えた。

それは指令室に呼ばれた日のことだった。

初めての指令室。

彼女に無関心だった提督は彼女を叱責しない代わりに激励することもなかった。

故に、最初に思ったのは「遂にこの日が来たか」というものだ。

解体される、役立たずの駆逐艦をいつまでも保有しておく理由は無い。

指令室に入ると、そこには机に腰掛けた提督と、もう一人男がいた。

すらりと姿勢の良い男だ。

綺麗な立ち姿の人、それが吹雪の抱いた第一印象だった。




『彼女が吹雪だ…』

『そうそう、この子だわ』

容姿は吹雪のいた鎮守府の提督とは比べ物にならない程に優れているのに、奇妙な言葉遣いの男だった。

軍服から彼が軍人、それも提督であることがわかる。

しかし、吹雪が演習で目にしてきた提督とは少し異なる。

丸刈りが多い軍人なのに、髪は最上よりも長い。

微かに香る甘い香りは香水だろうか。

その提督と思わしき男は、吹雪のボサボサの髪を痛ましげに見つめると、そっと撫でる。

その優しい手つきと、ほのかに伝わる温もりに思わず声が出た。

叩かれる以外で誰かに触れられるのが随分久しぶりだと思った。



『貴女、可愛いのに勿体ないわ。ウチにいらっしゃい』


何と言われたのか、すぐには理解できなかった。

あっけらかんと言い放たれた言葉の意味をうまく呑みこむこともできず、目を丸くした吹雪を優しく見つめると、

その男は吹雪の鎮守府の提督へと視線を移す。

彼が吹雪のいた鎮守府の提督とどのような関係かはわからなかったが、執務机に両肘をついて手を組んだ提督は、脂汗を額に浮かべ顔を歪めている。

『これでいいだろ…だから…』

『もう、まずお茶ぐらい出しなさいよ。そういう気遣いが出来ないのかしら?ねぇ吹雪ちゃん』

『え、ええ!?』

急に振られて、吹雪は何と答えて良いかわからず言葉に窮する。

『そんなんだからお爺ちゃんに見放されるのよ』

提督の肩がビクリと揺れた。

顔を青くするとはこういうことを言うのだろうかと、状況がつかめないまま吹雪はぼんやりと思った。


『総司令は…』

『この鎮守府は提督はボンクラだけど憲兵は優秀ね。手遅れにならなくて良かったわ』

『そんな…俺は艦娘を虐待するような真似は…あれは艦娘達が勝手に…』

『子供の不始末は親の不始末って言葉、知らないの?』

『子供?馬鹿な艦娘なんぞ…』

『はーい、そこまで。それ以上続けるなら左遷じゃ済まないわよアンタ。艦娘ちゃん達だからこそでしょ。

私達提督は見守る存在でなければならない。憲兵がどうして組織されたのか理解していたらそんなセリフ出てこないわよ』

呆れたように男が溜息を吐くと、提督は露骨に身体を震わせる。

その姿を吹雪はよく知っていた。

いつもの、「吹雪」に虐げられている時の彼女の姿。怯えた負け犬の姿だ。

『さぁ、吹雪ちゃん。今日から私が貴女の提督よ?よろしくね』

そういって差し伸べられた手を、小さな白い手がおそるおそる取った。

男 ―― 新たな提督が吹雪の頬を優しく白いハンカチで拭われて初めて彼女は自分が泣いていることに気付いた。

『ダメよ、女の子が泣くのを我慢することを覚えたら』

そういって抱き寄せられた瞬間、堰を切ったように熱い涙が溢れた。

軍服が涙や鼻水で濡れるのも構わずに提督は吹雪を抱きしめる。

ぽんぽんと、母親が泣く幼子をあやすように彼女の背を優しく叩く。



指令室に吹雪の嗚咽が響いた。



転属早々に提督は自室に吹雪を呼び出した。

指令室ではなく、彼の自室だ。

用意されていたのは鋏と櫛。

ボサボサに痛んだ髪を彼は丁寧に整えた。

それから、熱いお茶を振る舞ってくれた。緑茶だった。

急須から湯呑にゆっくりとお茶を注ぐ姿を見て、またしても吹雪は綺麗だなと感じた。

艦娘は美女、美少女ぞろいだ。

彼がいくら端正な顔立ちをしているといっても、艦娘達には及ばない。

身体も鍛えられており、間違っても女性と見間違えることなどない。

それでも、なお吹雪の目には提督の所作がとても美しいものに見えた。



自分を母親と思いなさいと彼は言った。

母親とはどういうものなのかと尋ねると、彼は一言「貴女を守る者よ」とだけ言った。

柔らかな光を放つ黒い瞳は、理解より先に吹雪を納得させた。

吹雪はどうにかして恩を返そうと思った。

どうすれば良いのか、悩んだ末に彼の秘書艦である朝潮に尋ねると、彼女は何をわかりきったことをとでも言いたげな顔をした。

『強く、正しく、そして幸福に私達艦娘があることをあの方は何よりも喜んでくださいます』



そんな単純な事で良いのかとも思ったが、そもそも自分に出来ることなど数える程しかないと思いいたる。

吹雪はまず弱い自分を変えようと考えた。

他の艦娘よりも弱い彼女は、他の艦娘よりも努力をしなければならない。

少しでも強くなって、提督を喜ばせたい。

それは吹雪にとって恩返しでもあり、彼女の望みでもあった。

早朝トレーニングを決意した吹雪は、そこで人知れず早朝トレーニングを行っている提督を知った。

彼は、まず吹雪が無理をしていないかと気遣った。

これは自分に対してが自分の意志で課したことなのだと言うと彼はようやく納得をした。

自分の意思をはっきりと伝えるのは吹雪にとって初めてのことだった。

それから早朝のトレーニングを共にするようになった。

未熟な彼女は実戦はおろか、遠征に出されることも無かった。

それが結果として、二人だけの早朝トレーニングとなったのだ。

ひたむきに努力し、少しずつ成長を見せる吹雪に提督は眩しいものを見るような眼差しを向ける。

それが嬉しくて、いつしか吹雪にとって早朝のトレーニングは己に課した恩返しという義務から意味合いを変えていった。

「恩返しというかご褒美になってしまっているような…」

「どうかしたの?」

「い、いえ何でもありません!」

「そ、そう?」




日の出前。

冷たい空気が漂うこの時間が彼女は好きだ。

提督と同じ時間を共有し、提督を独占できるこの時間が、吹雪はとても好きだ。




   ◇




「おはようございます吹雪さん」

「あ、おはよう朝潮ちゃん」

「早朝トレーニングは終わったんですか?」

「うん、今からお風呂なの」

「提督と二人で?」

「うん…えへへへへ」

「……そうですか。ところで吹雪さん。私もトレーニングをしようと思いまして」

「朝早いよ?朝潮ちゃん8時間は睡眠を取らないと起きれないよね?」

「ええ。なの今からおつきあいいただけますか?」

「え…私今からお風呂に…」

「スパーリングをしましょう。吹雪さんはサンドバッグ役で」

「それスパーリングじゃない!?」

以上で投下を終わります。
艦これは色々な本が出ているようですが、未読ですので艦娘を始め私の勝手な妄想です。
今後もちょくちょく勝手な妄想を出していく予定ですので、あしからず。

また、投下後に描写が拙いためかなりわかりにくかった点の補足です。
ネグレクト提督のネグレクトっぷりを憲兵さんは調査し、詳細に報告をしておりました。
結果、オネエ提督は吹雪等同僚から虐めを受けているのに放置されている艦娘達が取り返しのつかなくなるギリギリで
追い込まれる直前に保護に成功したというそんな感じです。

以上補足説明でした。それではノシ

投下します。


鎮守府には一人、必ず配備される者がいる。

高い戦闘能力と広い知識、深い洞察力を有し、そして何よりも絶対的な艦娘への信頼を有すると判断された者。

本来人類の至宝である艦娘であり、艦娘が生まれた当初と比較すればその認識は広く浸透している。

彼女達を護国の英雄と多くの人々は認識している。

しかし、人とは異なることは確かであり、そんな彼女達を化け物或いは単なる一消耗品としか見ない者達もまた多く存在する。

そんな、彼女達に守られる人間でありながら害為す者達から守るために遣わされた者。


「おはようございます、憲兵さん」

「よう、憲兵」


それを「憲兵」と呼ぶ。


憲兵は門を潜る少女二人に深々と頭を下げる。

鎮守府から出てくる彼女達はただの少女ではない。

艦娘、護国を担う国の宝であり、同時に憲兵がその身を賭して守るべき存在である。

艤装は勿論、普段の女学生のようないでたちでもない。

町に出かけるのだろう、二人は共に私服を身に着けていた。

天龍はジーンズにブーツ、ライダースーツジャケットがスタイルの良い彼女によく似合っている。

潮もまた、紺色のロングスカートに、ファーケープが付いた淡いミント色ポンチョがおっとりとした彼女の魅力を引き出している。

普通の人生を歩いていれば彼女らの年頃ならば当然している年相応の服装のように憲兵には思えた。


「今日は非番なのですね」

「ハイ。それで天龍さんとお買い物に行こうと思いまして」

「俺は特訓してあとは寝てたかったんだよ」

「そんな事言って天龍さんきちんとお休み取ってるじゃないですか天龍」

「あいつ非番取らないとうるせぇんだよ」

あいつというのはおそらく提督のことであろう。素直ではない天龍の物言いに憲兵は微かに頬を緩める。

この鎮守府の提督程艦娘を大切にする提督を憲兵知らない。

彼が娘のように艦娘達を大切に見守り、育てていることを憲兵は知っていた。

そして、その思いに艦娘達もまた気付いている。だからこそ、口では文句を言いながらもこうして素直に従っているのであろう。




「その服、お二人ともとてもよくお似合いですよ」

「あ、ありがとうございます」

「お、おう、サンキュー」

潮は嬉しそうに、天龍は照れくさそうに頬を赤くする。こうしていると普通の少女達だ。

「憲兵さんはお休み取らないんですか?」

潮がじっと見上げてくる。優しい娘だと憲兵は思う。

「いえ、自分も来週にはお休みをいただくことになっていますので」

「そうだ!今度はお休み合わせて憲兵さんも一緒にお買いものに行きませんか?」

「それいいな。付き合えよ憲兵も」

「自分もですか?」

余り表情の変わらない憲兵が困った顔をするのを楽しげに見つめる少女達。

からかわれていることはわかっているが、強く叱ることも出来ない。

憲兵は軍人ではあるが、規律を重んじるだけの頭の固い軍人ではない。

彼女達の使命を理解するものの、年相応に青春を謳歌する時間もあるべきだと考えている。

そんな彼女達の無邪気な笑顔を目の前にして、それを曇らせるようなことは出来なかった。

「付き合えといえばよ、明日訓練に付き合ってくれよ」

「木曽殿がいらっしゃるではありませんか。自分など」

「明日は木曽が非番なんだよ。それに憲兵の方が強いだろ?」

天龍が言っているのは剣道のことだろう。

「自分には仕事がありますので…それに提督殿のお許しも無く勝手には」

「あら?私は全然オッケーよ?」

三人が声のした方へと振り返る。



「おはよう憲兵ちゃん」

「はっ!おはようございます、提督殿!!」

憲兵は踵をそろえ、素早く敬礼をする。

潮は慌ててぺこりと頭を下げる。ただ、天龍だけは唇を尖らせて提督を睨む。

「いやぁねぇ、そんな嫌そうな顔しないでよ天龍ちゃん。お姉さん傷付いちゃう」

「何の用だよ。言われた通りこれから出かけるんだぜ?」

「そうみたいね、潮ちゃん、そのポンチョやっぱり似合ってるわよ」

「は、はい、ありがとうございます!!」

潮にウインクすると、提督は手にしていたトートバックを憲兵に渡す。

「提督殿…これは?」

「今日は食堂がお休みなの。だから、代わりにこれをお昼にしてちょうだいね」

受け取ったうさぎ柄のランチトートバックと提督の顔を見比べる。

「何だよ、弁当作ったのかよ。暇なのか?」

「あら、ひっど~い。可愛い部下に美味しいご飯を食べさせてあげるのも上司のお仕事でしょ?」

「ということらしいから、受け取ってやったらいいんじゃねぇのか?」

どうして良いのか困っている憲兵を気の毒に思った天龍の助け舟だった。

「勿体ないお心遣いですが、頂戴いたします」

「それよか、明日の特訓、許可出してくれるってことでいいんだな?」

「憲兵ちゃん忙しいんだから、ほどほどにしなさいよ?憲兵ちゃんも、きちんと残業申請出しておいてね」

「よっしゃ!憲兵、明日は特訓だからな!!おい、首洗って待ってろよ」

挑戦的な目を提督に向けると、天龍は去っていく。

潮は提督と憲兵に頭を下げると慌ててその後をついていく。


「首を洗ってって…物騒な事言うのね」

「天龍殿の目標は提督殿ですからね」

「まぁ、怖い。憲兵ちゃんも止めてちょうだいよ」

「強くなろうとする彼女を止めること等できません自分には。お力になれず申し訳ございません」


「マジレスなのそこで!ホント真面目さんなんだから」




溜息を吐く提督に済まなそうに微かに眉を寄せる。

天龍が剣道で勝負を挑むたび、審判をするのは憲兵だ。

現在18戦1勝17敗。

どちらが17敗なのかは言うまでもない。

1勝は提督に急な招集がかかったための不戦敗だ。

艤装がない艦娘は超人的な肉体の強さは無い。せいぜいが身体能力が優れた人間というレベルだ。

艤装は、適合する艦娘がそれを装備することで、艦娘の能力を倍増させる。

艤装に蓄積されたデータが艦娘の経験値となり、練度となる。

しかし、普段の鍛錬というのが無意味かというとそうではない。

基礎能力を倍増させるのが艤装である以上、基礎となるスペックは高ければ高い程艤装を装備した時のスペックも異なる。

同型艦、同練度の艦娘であるにも関わらず被弾率、命中率が異なるのはこれが原因といわれる。

鍛え方には様々な方法があるが、武道を習い覚えることもその一つだ。

天龍や木曽等はその最たる例である。そして、そんな彼女達の目標としている相手が憲兵や提督である。

上官である提督を「いつか必ずぶちのめす!」等という天龍の言葉はともかく、彼女が強くなることの手助けが出来ることは喜ばしいと憲兵は思う。

憲兵は艦娘を大切に思っている。天龍へ肩入れしているという自覚もある。




憲兵は以前天龍と同じ鎮守府に赴任していた。

前の鎮守府にて、彼女は提督から関係を迫られていた。天龍という少女は流されて関係を持つような少女ではない。

それがたとえ上官である提督であっても毅然と拒むことが出来る少女である。

しかし、自分の寵愛を拒まれた提督はそれを強い屈辱と捉えた。

男が無理に女に関係を迫り、拒絶されたことを根に持つ結果愚かな行為に走るということは珍しいことでも何でもない。

新聞やテレビなど、毎日かならず痴情のもつれからくる醜聞は目にする。

ただ嘆かわしいことに、それはエリートとされる提督であっても色欲に目がくらみ愚かな行為をしてしまうことが往々にしてあるということが問題であった。

天龍に拒まれた提督は腹いせのように連日低練度の駆逐艦を率いての無謀な出撃を彼女に再三命じた。

天龍は荒っぽい口調とは裏腹に面倒見の良い性格をしている。駆逐艦のような小さな少女達には特に優しかった。

彼女一人ならば我慢できたが、彼女への逆恨みに駆逐艦の少女達を巻き込むことは看過できなかった。

度重なる出撃により、彼女を慕う駆逐艦が次々と轟沈していくのを目の当たりにし続けた結果――― 彼女は提督を殺しかけた。

止めたのは憲兵だ。姉妹艦龍田が知らせてくれたのだ。提督を殺しかけることなど言語道断。

龍田や他の艦娘達の訴えだけでは天龍の解体は必然であっただろう。

それを食い止めたのは憲兵の嘆願と現在の提督の助力があったからだ。

憲兵はある意味提督と同等の存在とも言えた。

艦娘を統括する者と、それを正しく行えているかを監視する者として。

しかし、殺人未遂に何の処罰も下さないわけにはいかなかった。

人間ならば逮捕するところだが、貴重な戦力である艦娘を拘束しておくことは非効率であった。

結果、天龍は他所の鎮守府に転属となり、彼女のお目付け役として憲兵もまた転属となった。


憲兵も一緒に転属になるなど異例の事態であったが、艦娘が提督を斬り殺そうとすること事態がそもそも異例のことであったため、この件はすぐに話題に上らなくなった。

異例だろうと何であろうと、憲兵にとっては大した問題ではなかった。

天龍が新たな鎮守府で生き生きと過ごしていることを素直に喜ばしく思うばかりだ。


「憲兵ちゃん、唇荒れてるわよ?」

提督が自分の唇を指さすのに倣って、憲兵は自分の唇に指を触れるとかさかさとした感触が指先に伝わる。

「お肌も荒れてるし、ちゃんと睡眠とってるの?」

「三時間は確保しています」

「ダメよ、そんなんじゃ。体調管理も仕事の内なんだから」


出来た上官だとつくづく思う。目先の効率や成果に囚われて人材をすり減らす様な真似をしない。

根性論を未だ振りかざす軍人は徐々に過去の遺物と化し、正しい教育をこのように適度な
休息や栄養摂取、メンタルケアを重視する下士官が増えてきていると聞く。

彼もその新しい世代の一人なのだろう。


「憲兵ちゃん、これあげるわ」

「これは…」

「私のリップクリーム。安心して、買ってきたばかりの新品だから」


前の無くしちゃったのよねぇ。イチゴの香りがする私のお気に入りだったのにと続ける提督の言葉を聞きながら、手の中の可愛らしいリップクリームに目をやる。

随分と不釣り合いなものに思えたが、提督はそんな憲兵の心の内を見透かしたかのように微笑む。

「お節介でウザいなって思ってるでしょうけど、ちゃんとそれ使いなさいね」

「いえ、そ、そのようなこと!」

ふふふと、提督は微笑ましげに憲兵を見つめる。



「私にお節介されないように、きちんとお手入れしないとダメよ?憲兵ちゃんは軍人の前に女の子なんだから」







艦娘達は皆結果死が待っていたとしても出撃を拒みはしない。

それは好戦的な天龍も心優しい潮も変わらない。

国を守るという使命感と、それ以上に戦艦の魂持つ戦いの記憶が彼女達から戦場から逃げ出すという選択肢を奪うのだ。

艦娘に撤退という概念は無い。人と変わらぬ知能と感情を持つ彼女達が、唯一己の意思で判断できないこと、それが「撤退」である。

故に、それを見極め撤退させる指示を下せる「提督」という存在が必要なのだ。



「天龍さん」

「何だ?」

「天龍さんはどうして朝潮ちゃんには挑戦しないんですか?」

「…しない」

「でも前に朝潮ちゃんと試合して負けたって聞きましたけど?」

「……だって」



『聞きましたよ天龍さん。お仕事でお疲れの司令官を無理やり道場に連れ込むなんて破廉恥な真似をしていらしたそうで』

『は、破廉恥!?単にアイツにフルボッコにされてただけで。』

『何ですかそれ自慢ですか?存分に司令官の竹刀で打ち据えられた上におんぶでお風呂まで運ばれるなんて』

『何でお前風呂まで知ってるんだよ!!』

『カマをかけただけです。お優しい司令官ならば身の程知らずを叩きのめしてそのまま放置するはずがありませんから。何という羨ましね』

『ディスった!?あと最後!最後殺意隠せよ!!』

『そうだ天龍さん。今から試合やりましょう。天龍さんのお洒落な眼帯が一つ増えるまで』

『片目潰すって言ってる!?』



「死ぬかと思ったぜあん時は…」

「だから前日遠征しかなかったのにずっと入渠してたんですね…」





「朝潮、何かいい匂いするな」

「このリップクリームの匂いですよ摩耶さん」

「イチゴか?お前がそういうの付けてるなんて珍しいな」

「いただいたんです」

「そういや憲兵も同じの使ってたな」

「そうなんですか…」

「あ、朝潮?」

以上で投下を終わります。

投下しますが、本日の注意点を以下に記します。

・提督の設定に主眼を置いた構成
・前後っぽい?
・相変わらずの独自設定

以上の点が地雷だと感じたらバックで。


夜も更け、多くの人々は仕事を終え、寝るまでの時間をゆったりと過ごす。

明日の仕事に備え、身体を休める者、或いは英気を養うために友と語り合う者、そして恋人との甘いひと時を過ごす者など、過ごし方は人それぞれだ。

それは日々戦いに身を窶している艦娘達とて変わらない。
夕餉を終え、部屋で仲間の艦娘達と過ごしたり、或いは酒宴に興じる者、なかには自主訓練を己に課す者もいる。

しかし、そんな艦娘達が今日ばかりは些か趣が異なっていた。

居酒屋鳳翔。

甘味処間宮。

夕食時を過ぎ、遠征前の艦娘達もしくは遠征から帰還したばかりの艦娘達が食事を摂る以外には常連の艦娘達が数名いる時間帯であるが、今日は鎮守府の殆どの艦娘達が集まっていた。

彼女達の視線は一様に設置された大型のテレビへと向けられている。

艦娘達の最前列にいるのは秘書艦朝潮。

テレビからきちんと二メートル離れた上で、真っ直ぐに背筋を伸ばして彼女はテレビを凝視していた。


その目は大海原の先にいる深海棲艦を睨みつける戦場での彼女の視線を彷彿とさせる。

時刻は10時。普段ならば朝潮は提督抱き枕にだいしゅきホールドをしながら寝ている時間帯だった。

「始まりましたね…」

計り知れない気迫を以て見つめる先 ―― テレビは軽快な音楽と共に軍の広報から切り替わる。





『突撃!!あなたの鎮守府の提督!!』






「おおぉ~!」という歓声と拍手が聞こえる。

率先して拍手しているのは無邪気でノリが良い駆逐艦の少女達。

更に一際大きな拍手をしているのは朝潮である。駆逐艦の艦娘ってミルクの香りがしそうだよね。電ちゃんの頭の匂いを嗅ぎたいと思っている提督は全提督の九割だろう。私は朝潮のうなじの匂いを夢に見る程嗅ぎたいと思っている。

「突撃!!あなたの鎮守府の提督!!」とは軍主導の広報番組であるが、重苦しい肩書とは裏腹にざっくばらんかつ挑戦的な番組である。N○KがCCさ○らを放送していたような感じだ。

この番組、作成された背景は存外に重い。

艦娘が現れたばかりの頃、彼女達は見目麗しいが得体の知れない化け物という認識を抱かれていた。

しかし、次第にその認識は変わる。

見目麗しくも得体の知れない化け物ではなく、見目麗しい人間に都合の良い道具へと。

謎多き艦娘であるが、人間の味方であり、「提督」という存在に対して基本的に従順な娘が多いことが広く認識されるようになったのである。

そこで、人類にとっての英雄が現れたとすべての人々が思ったわけではなかった。

今でこそ提督を輩出するための教育機関が設立されているが、当時はたまたま適正を備えていただけの者が着任することが一般的であった。

なかにはそれまで性格、容姿、家柄、能力等において嘲笑され、蔑まれていた人間が幸運にも提督としての素質を認められ着任することも珍しくはなかった。

人は置かれた環境によって太く真っ直ぐ育つこともあれば、醜く歪んで育つこともある。

そして歪んだ人間が歪んだ提督へとなり、従順な見目麗しい艦娘達に対してどうしたか。

それまでの周囲からの扱いへの蓄積した不満、怒りの捌け口としたのだ。

そもそもが人間に使役され、人間を守り、人間に奉仕すべき戦艦の魂を宿した彼女達はどれ程醜悪で愚かであろうとも、人間を、提督を拒絶することは出来なかった。



そんな現状を見かねた一部の有力者たちが設立したのが憲兵であるが、憲兵が設立され、艦娘達の安全がある程度確立されるようになる頃になって、新たな問題が浮上し始めた。

人間から艦娘への偏見が薄れ始め、受け入れる風潮が広がりだす動きとは正反対に、艦娘達の提督を初めとした人間に対する不信感が生まれ始めたのだ。

漫画版デビルマンが「こんな奴ら守ろうと頑張ってたの馬鹿みたいじゃん」とプンプンしたのを想像すれば問題ない。

艦娘達には感情がある。それも人間と変わりの無い等身大の感情が。

どのような非道な扱いを受けようとも変わらぬ愛を人類に注ぐ、そんな都合の良い話は無いのだ。

焦り始めたのは軍上層部だ。

感情を持った兵器という艦娘の不安定さ、しかもそんな艦娘に頼らなければ深海棲艦は倒せない。好き勝手にぞんざいに扱っていい存在ではないという理解をするのが遅すぎたのだから無理もない。

そして、話は「突撃!!あなたの鎮守府の提督!!」へと戻る。

広報部と憲兵の後見人となっている上層部の中のとある派閥は考えた。

艦娘達の人間に対する好感度を上げなければならない、ならばどうするか。

もっとも身近で尚且つ命を預ける「提督」という存在の人となりを知ってもらおう。

そう結論づけたのだ。

番組は艦娘随一のマスゴミ兼パパラッチこと青葉と提督のインタビューという構成だ。

青葉はインタビューを受ける提督の鎮守府“以外”の青葉を選出する。

N○KのやT○Sお得意のやらせを極力排除するためだ。

かくして作られた「突撃!!あなたの鎮守府の提督!!」は、予想以上に艦娘達に高評価であった。

ただ予想外だったのは、


『あそこの鎮守府の提督って素敵ね、今度演習で当たるからアプローチしてみようかしら』

『ああ~ズルい~私も気になってるのに~』


そんな声も多くみられるようになったことであろうか。

婚活かよ。そんなツッコミを上層部は入れたくて仕方が無かったが、提督という存在が身近で親しみやすいと艦娘達に思われるようになったのは大きな収穫であった。

目論みは成功と言えるであろう。

ただし、提督側からすればこれはたまったものではない。自分のところの艦娘が他所の鎮守府の提督に惹かれるのだ。

転属願いなど出されれば戦力減少であるし、異性として気に入って目を掛けていれば最早NTRである。


『ええ、ああいうのが好みなの。確かにカッコよかったけどさ。そういやこの前の放送見た?うちの鎮守府の』

『見た見た。終始青葉のこといやらしい目で見てたよね。それに自分のところの艦娘は皆自分の女みたいなこと言っててマジキモかったよね』

『そうそう、キモかった。鏡見ろっての。アンタに愛想良いのは上司だからなんだっての』

『自分は無条件にみんなから好かれてるって思ってるのが最高に気持ち悪いよね。あんたの秘書艦の夕張、整備士ととっくにデキてるんだっての』

『気付いてないのがマジウケるわwww』


こんな会話を耳にして提督を辞める者はこれまた少なくはなかった。

現状、プラスマイナスを勘案し、プラスになっているため放送は続いているのであるが。




「朝潮ちゃん、寝なくて大丈夫なの?」

朝潮の隣で吹雪は心配そうに覗き込む。

しかし、朝潮は余裕綽々といった笑みを浮かべ、テレビから視線を外さず答える。

「何のために今日は吹雪さんに秘書艦をしていただいたと思ってるのですか?昼間にしっかりと睡眠をとっています。この放送を最後まで見てから、録画済の番組をもう一度鑑賞し、更に司令官の寝室に忍び込む余力は十分にあります」

「最後のは自重しよ」

この朝潮、録画の準備はしっかりとしているのに、リアルタイムで見ることにもこだわりを持っているのだ。

吹雪は素直な感嘆と、心からの諦観が半々の溜息を吐いた。

そう、今週の「突撃!!あなたの鎮守府の提督!!」は彼女達の鎮守府の提督の番なのである。







『さて、今週お呼びした提督はこの方です!』

『うふふ、なんだか緊張するわね』


提督が簡単な挨拶と自己紹介をする。

背後から「へぇ~提督ってそんな名前だったんだ~意外~」等と言う声が聞こえた。新参の艦娘達程提督の本名を知らないのはざらだ。

職場で何年も顔を合わせ、結構親しげに世間話をする他部署の人間のフルネームをいざ聞かれると思い出せない、そもそも知らない、そんな感じだろう。


「カメラを前に緊張する司令官尊いです」

「朝潮ちゃん鼻血鼻血」

司令官の名前を知らないとは、その命、神に返しなさい、と朝潮が暴れ出さないか吹雪は内心ヒヤヒヤだったが、朝潮はマイティッシュで鼻を拭うことに一生懸命だ。

朝潮ちゃんは最初からクライマックスである。



『提督さんはさる名家のお子さんなんですよね?』

『名家って言っても本家の京都と違って、佐世保で呑気に暮らしてる分家。それもお気楽な三男坊よ』

『ご兄弟がいらっしゃるんですか?』

『兄二人に姉二人。それに妹が一人』

『お年は25でしたよね』

『ちょっとぉ、無闇に年齢を口にするのはデリカシーにかけるわよ青葉ちゃん』

『だってウチの提督の同期なんですから今更ですよ~それに実はですね、提督は有名な方なんですよ?』

『あら、それってやっぱりこんな喋り方だからかしら?』

『それもありますが、それだけじゃないですよ。主席で士官学校を卒業、容姿端麗、しかも家柄も良い。提督の話題って他の提督同士で結構出るんです。
ウチの司令官もその一人ですけど』

『あなたの鎮守府の提督って…確か、あの子だったわよね』



「そういえば、女性提督って結構多いんだってね」

「艦娘への評価が化け物から英雄へと変われば、自然と女性の社会的な地位も向上するのでしょう。今では男女平等どころか女尊男卑の傾向すら強いとか」

「女同士で気安いからって女提督を好む子達も多いもんね」

「私は司令官とくんずほぐれずの気安い関係になりたいですけどね」

「朝潮ちゃんの司令官への愛という名の忠誠心は本当にブレないね」





『そういえば、ウチの司令官と同期なんでしたよね。その頃からオネエだったんですか?』

まぁストレートな聞き方。嫌いじゃないけどね。オネエっていう肩書を意識したつもりはないけど、基本的に変わってないわ。安心して、女の子のガードを緩めるためのファッションオネエじゃないから』

『ほっほ~う。ということは男の人好きなんですか?ちなみにタイプは』

『ベタだけど阿部寛はセクシーよね。遠藤憲一さんはチョイ悪オヤジに見えてお茶目で可愛いおじ様だし。あと三浦知良選手かしら。カズダンスしてた若い頃より遥かに男としての魅力があるわ』

『ガチだぁ。ちなみに、女の子は好きなんですか?』

『大好きよ?可愛い女の子なんて見てるだけで幸せだもの』

『いえ、そういう意味でなくて』

『ふふふ、女の子だってウェルカムよ?』


『ほぇ!?』

『あら、可愛いわね。真っ赤になっちゃって』

『い、いえ、そりゃビックリしますよ。そんな流し目されたら。え?提督さん男が…』

『私ってゲイ寄りのバイなの。だからどっちも好きなの』

『初耳ですよ!?ウチの司令官ってば提督さんがゲイだから諦め…ゲフンゲフン』




「マジかよ。提督って女もイけるのかよ…」

「司令官がゲイだと思って諦めた子って結構多いんですよね」

「マジかよ吹雪。これ朝潮は知ってたのかよ?」

「司令官のことなら大抵把握しています。寧ろ天龍さんはご存知なかったんですか?」

「知らねーよ!!だからお前アプローチ激しいんだな」

「別にゲイだろうとノンケだろうと関係ありません。私の司令官への愛は性癖すら乗り越えます」

「……あ、そうですか……」



『えっと、ちなみに好きな女性のタイプは?』

『可愛くて綺麗な子は大好きよ』

『そうじゃなくて』

『わかってるわよ。そうねぇ…髪が長くて綺麗な子とか頑張り屋さんな子かしら』




「ふふふふ…司令官ったら…髪には自信がありますけどね」ドヤァ

「私なんてまだまだ頑張りが足りないけど…でも頑張り屋さんって司令官に褒めていただいてるのは私が一番多いのは気のせいかな?かな?」ドヤヤァン



「なぁ、摩耶。朝潮がすっげぇドヤ顔で髪をかき上げてるんだが…」

「天龍、吹雪も何故か胸を張って勝ち誇った顔をしてるぜ…」




『さて、恒例の質問ですが、提督さんは自分のところの艦娘に彼氏が出来たらどうしますか?』

『寂しいけど祝福するかしら。娘をお嫁さんにやる親の心境になるけど。ただ、ウチの可愛い子達に相応しいか、じっくり吟味するけどね』

『独占欲は無いんですか?うちの艦娘達は全員俺の女だぁ~~!!って』

『そうねぇ、半分は当たってるかしら。独占欲はあるけど、艦娘ちゃん達は私の妹とか娘みたいなものだしね』

『ほぇ~~結構他所の提督さんなんて嫉妬メラメラだったのに。酷い提督なんて自分の鎮守府を俺のハーレムだなんて言う人もいるんですよ。気持ち悪いですよね』

『あははは、そりゃ男の子ですもの。可愛い女の子達に囲まれてハーレムって妄想しない男の子なんていないわよ。それは男の子として当然のことよ。気持ち悪いなんて言わないであげて』


「確かに、司令官にハーレムなんて必要ありませんね。一人で十分でしょう。妹、娘、恋人、妻、雌犬、すべての役割を一手に引き受けられる黒髪の綺麗な艦娘一人がいれば」

「朝潮、最後、最後の」



『ハーレムだって平等に愛して、女の子が幸せを感じていれば問題ないわよ。優柔不断なのを誠実なふりで誤魔化してるだけの釣った魚に餌をやらない男の方がよほど害悪だわ。そもそも、性欲をただ愛情なんて偽って艦娘ちゃん達にぶつけようとする提督が多いわね。花は愛でるものであって手折るものじゃないわ。それをわかっていない提督が多すぎるのよ』

『……素敵な言い回しですね。そういう提督さんは愛でていらっしゃるんですか?』

『みんな私の可愛い子達ですもの』




「愛で、撫でると書いて愛撫。良い言葉です」

「何を言ってるの朝潮ちゃん?」

「もっと司令官に愛でて欲しいです。愛でて、撫でて、時々おしおきして、そして愛撫してほしいです」キリッ

「鼻血吹き出しながら変な事言わないで!!!」

いつの間にか一月経過していたようで申し訳ないです。
今から投下を始めます。



摩耶に彼氏が出来たらしい。

オフの日は姉妹で町に出かけたり鎮守府にいつの間にか住み着いた猫たちと遊んで過ごしていたというのに、それがめっきり減ったというのだ。


「あら?可愛い妹が取られて寂しいのかしらお姉ちゃんは」

喜色を孕んだ瞳で提督がクッキーを一枚頬張る。

砂糖控えめにする代わりに卵とバターの香りが強いクッキーは愛宕の好みの味付けである。

「彼氏が出来るのはね~いいんですけどぉ」

「愛宕、お行儀が悪いわよ」

肘をつきながらポリポリとクッキーを頬張る愛宕に眉を吊り上げながらテーブルに零れたクッキー片を几帳面に高雄は片付けていく。

「高雄ちゃんは知ってるの?」

「いえ、摩耶からは何も聞いてませんが」

「だから、それが寂しいんだよ~高雄ちゃん。彼氏だよ彼氏?お姉ちゃんに真っ先に報告するもんじゃないの?」

「何言ってるのよ。摩耶には摩耶の生活があるんだから。そもそも私達は艦娘なのだから、そんなことに現を抜かしている場合じゃないでしょう」

膨れる愛宕を呆れたように見やる高雄。

そんな姉妹を微笑ましげに眺めながら提督は二人のカップに紅茶を注いでやる。


「私達と過ごさなくなったからって恋人が出来たとは限らないのではないかしら。他の子達と出かけてるだけかも」

「あまーい高雄ちゃん。あの子最近何読んでると思う?こんなの読んでるんだから」

「貴女勝手に…」

「ほら、これ見てこれ」




「これは『月刊MEHYO』ですね」

「「きゃッ!?」」



愛宕がテーブルに置いた雑誌を覗き込みながら淡々とした表情で雑誌名を呟いた朝潮。

音も気配も無く、気付けば提督と愛宕の間に座っていた彼女の出現に高雄姉妹は抱き合って飛び上がる。

「そろそろクッキーが無くなる頃だろうと思いまして。追加をお持ちしました」

「朝潮ちゃん。紅茶飲む?」

「ありがとうございます」

言うや否や朝潮は目の前にあるカップの紅茶を一息で飲む。

その際、カップの縁は綺麗に舐めとるのも忘れない。

一瞬のことである。

「あら、それ私のカップよ」

「これはうっかりしてしまいました。申し訳ございません司令官」

((絶対わざとだ…))

「待っててね。朝潮ちゃんのカップも用意するから」

「いえ、司令官のお手を煩わせるわけにはまいりません。カップは私が用意いたします。提督のカップも私が口を付けてしまいましたので新しいものとお取替えいたします」

流れるような動作で二つのカップを食器棚から取り出し、先ほどまで提督が使っていたカップを懐にしまう。

((何でしまうの…?))

思っても決して疑問を口にしない。賢い姉妹である。


「ところで、その『月刊MEHYO』は摩耶さんのですか?」

「え、ええ、そうなの。朝潮ちゃん知ってるの?」

「駆逐艦や軽巡艦のなかには結構購読している子もいますよ。内容は最近都で流行の服とかアクセサリーとか」

「摩耶がおしゃれに気を遣うようになったのね」

高雄が信じられないとばかりに掠れた声をあげる。

高雄が知っている摩耶の愛読書はもっぱら少女マンガである。

駆逐艦の子達の方がよっぽど大人っぽいのではないかと、少女マンガを熱心に読む妹を窘めたこともあった程である。

「デートスポットの特集も頻繁に組まれていますね。ほら、このページなんて付箋まで貼ってますよ」

「この猫さんの付箋は摩耶のに間違いないわね…」

「でしょ?だから言ったじゃないの」

「朝潮ちゃんも読んでるの?」

「たまにですが」

「朝潮ちゃんも年頃の女の子ですものね」

「ちなみに私は『週刊MEHYO』を購読しています。最新の情報を絶えず取り入れることが出来ますので」

「そんなところまで真面目なんだから、朝潮ちゃんたら」

提督が朝潮の頭を撫でてやると、朝潮は頬を薄紅色に染めると椅子を5センチ提督に近づける。


『月刊MEHYO』と『週刊MEHYO』の購読層は微妙に異なる。

流行の髪型やファッションを多く取り上げる月刊MEHYOに対して、週刊MEHYOは読者の体験談やハウツーが紙面の多くを占めている。

何のかって?そりゃおめぇナニだよ。

その他に「妙高姉さんの恋愛相談」も人気コラムシリーズだ。

朝潮は常連の投稿者で、ポイントを貯めると抽選で当たる中破時の妙高姉さん(通称:ブッ飛び妙高さん)のストラップも持っている。

しかし、今回それは特に重要な情報ではないため、これ以上の説明は省略することとする。

撫でられる提督の手の感触と提督から香るバニラの匂いをまずは全力で堪能しようと、摩耶の事を八割方脳内から弾き出し朝潮はウットリする。バニラエッセンスの香りではない、提督が好んで吸う煙草の香りだ。

「これはいよいよ決まりかしらねぇ」

クッキーを摘まみあげながら提督がポツリと零す。

「どういうことでしょうか提督?」

「このクッキー、美味しかったでしょう?」

「ええ、私の好みにストライクだったもの。うん、美味しいです」

「…貴女さっきから食べ過ぎよ?この前ウエストが気になるって…」

「ちょ、提督の前で言わないでよ高雄ちゃ~ん!」

「流石妹ってところかしら。これはね、摩耶ちゃんが作ったのよ」



思わぬ答えに姉妹は目を丸くする。




提督の香りを存分に吸ったところで、朝潮は軽い賢者タイムに入っている。



「最近ね、摩耶ちゃんにお願いされて料理教えてるの。今日のコレも手伝いはしたけど殆ど摩耶ちゃんが自分で作ったのよ」

「そうんなんだ…」

愛宕は喜びと戸惑いが入り混じったような目でまじまじとクッキーを見つめる。

「確かに、随分上達されましたね。最初は野菜を切るだけで絆創膏だらけだったのに」

「朝潮も知っていたの?」

「朝潮ちゃんも一緒にお料理教室してるのよ。ねー?」

「ねー」

「ねーって…」

提督と他の女を二人きりにするなど、朝潮が看過する訳も無いかと高雄は思ったが口にはしない。高雄は出来る女、賢い女なのだ。

「おしゃれに気を遣うようになって。お料理の練習も始める…」

「お洒落で家庭的な女性は今も昔も好まれると言いますね」

朝潮は提督の指先の匂いをたどり、彼が焼いたであろうクッキーを選び出す。

クッキー(提督製)ゆっくりと咀嚼しながら先月の月刊MEHYOにあった「男勝りな女の子の意外な家庭的な一面にイマドキの大和男児はドッキリ」という特集を思い浮かべる。

ギャップ萌えとはいつの時代も強いものだ。

「何だか寂しいわね。娘が巣立って行く気持ちってこういうものかしら」

「そんな、摩耶はまだ子供なんですよ。それを…」

「身体は十分ワガママバディですけれどもね」チッ

「舌打ち!?」


摩耶に彼氏がいることが既に確定した空気のなか、皆が談笑するのに加わらず、考え込むように黙っていた愛宕は何かを決心したように顔を上げる。

「ねぇ、今度摩耶のオフって私達と一緒だよね?」

「確か再来週がそうだったかしらね」

「提督、お願いがあるんですけど」

何かを思いついたように愛宕は少し緊張を帯びた表情で提督を上目遣いに見つめる。




「摩耶ちゃんの彼氏…見てみません?」




今日の投下はここまで。間隔が空いて申し訳ないです。
もう少し次はすぐに投下できるようにいたしますので。
それではまたノシ

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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457799852/)
ID:YLpNDjyC0


他人を装ってるけどどう見ても同一人物だよな
いい加減悪目立ちしてるって事を自覚しろよ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年01月09日 (土) 21:17:56   ID: vkDS9144

乙です。お兄さ…もといオネエさんの優しさにほっこりしまつた。あと朝潮(笑)、先輩なんだから少しは自重しなさい(笑)。

2 :  SS好きの774さん   2016年01月10日 (日) 17:03:26   ID: BNz_DcZD

なんでなんだろなぁ…(遠い目

3 :  SS好きの774さん   2016年01月12日 (火) 19:04:55   ID: 45Mc1s4x

朝潮ちゃん・・・

4 :  SS好きの774さん   2016年02月02日 (火) 20:47:56   ID: _8d1l0RF

乙です。朝潮さんは提督さんが大好きなのですね(白目)

5 :  SS好きの774さん   2016年03月08日 (火) 22:42:58   ID: 8eZ4Fysz

摩耶編が楽しみすぎる

6 :  SS好きの774さん   2016年03月27日 (日) 22:17:05   ID: MFsn2YTh

作者さん、続きはよ!

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