(デレマスSS)渋谷凛「涙の雨」 (12)

デレマスSSです。

注意事項としまして、このSSは百合です。
苦手な方はお気を付けください。


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 いつも通りのレッスンの後だった。

「ねぇねぇ、しぶりん♪」

いつもの明るい声で未央が話しかけてくる…でも内容はきっと…

「未央?どうしたの?」

私はその先の言葉を分かっていながら未央の言葉に付き合う。

「にっひっひー…最近、ある方とお熱い仲だと噂なのですが…真相はどうなのですかな~?」

イタズラな笑顔での質問……その内容は、ここ数日ずっと繰り返されているものだ。
私は、何度も無視をしようとしていたけど……流石にそこまで出来なくて……

「またその話?今日だけで3回目なんだけど?」

でも、やっぱり少し飽き飽きしてしまって、不機嫌だと分かるように伝える。

「ちゃんと答えてくれれば終わるんだよー!」

未央は1回目や2回目と同じように怒ったようなしぐさで答えを求めてくる。
『暖簾に腕押し』ってこういうことを言うのかな……

「そんなの私の勝手でしょ」

さっきより、少し強めに突き放そうとしてみる。
けど……

「そ・れ・に!うら若き乙女としては、コイバナは気になるものなのだよ!」

やっぱり暖簾に腕押しだった……
なら、話題を変えてみようかな?

「それより未央、次のライブの準備は大丈夫?」

「この未央さまはばっちりである!」

「追加のリクエスト曲もあるけど、そっちも?」

「そっちは……きっと大丈夫!」

何とか話題は変わったかな?
私は、その未央の返事の間に荷物をそそくさとバックに詰めて、
一気に帰り支度を終わらせる。

「じゃあ、また明日」

そして、一瞬の隙を見てレッスンルームの控え室から出て行った。

「あ、しぶりーん!逃げないでよーー!!」

何とか……今日も逃げられたかな?
そんなことを考えながら事務所の問の前まで来た。

……私はちょっとだけ立ち止まって、自分の身だしなみを確認する。
レッスンあとに鏡で髪の乱れは直したし、汗もちゃんと拭いた。

うん。大丈夫。

少しだけ自分に言い聞かせるように気合を入れて、
門の先に立っている人に平静を装って声を掛ける。

「お待たせ」

声を掛けた相手からは……

「あ?あぁ、待ってねぇよ」

何て、気丈なようで優しい声が返ってきた。
優しいって分かる理由は簡単で……

「嘘。そっちの方がレッスン終わるの先だったでしょ?」

そう、話し相手の方が先にレッスンが終わってることを私は知ってるから……

「あぁ、でも里奈や夏樹とダベってたから、来たのは今さっきだ」

そんな言葉で私に気を使わせないようにする。
本当に、この『向井拓海』という人は、怖いようで温かい。

「そ……」

私は決まりが悪くなって、また無愛想な返事をしてしまう……
こういう癖が自分では好きじゃない。

そんなことを考えていると、

「なぁ、今日は乗っていくか?」

拓海がバイクを指差して聞いてくる。
レッスン終わりが一緒だと、たまに乗せてもらっているんだけど、

「ん~、今日は……いいかな」

今日は何だかそんな気分じゃなかった。

「そうか、じゃあ駅まで歩いてくかね」

拓海はそういうと何も気にせず歩き出そうとした。

「ねぇ、バイクは置いたままでいいの?」

「ん?あぁ、どうせ美世が見つけて世話しといてくれるからな」

「世話って、犬や何かじゃないんだから……」

「まぁ、気にすんなってことだ。じゃ、行くぞ!」

私はそこまで聞いて「そぅ…」とまた素っ気ない言葉を返して、
拓海の横に並んで歩き出した。

背は私の方がちょっとだけ高い。
けど、迫力っていうかオーラっていうのかな?
そういうのがあって、私より大きく見えたりしていまう。

この人は、私をどう思ってくれているんだろう?
そんなことを考えたとき…ふと嫌な質問を思い出した。

「ねぇ、未央から変な質問とかされてない?」

「未央?あぁ……何か勘ぐってるような質問されたな」

やっぱり……

「あいつも物好きだな」

少し飽き飽きしたような顔で言っている。
未央、もしかしてかなり粘ったのかな。

「あの子にもね、いろいろあったりするんだ」

「はぁ?」

拓海から素っ頓狂な声が聞こえてくる。
それがちょっとだけ面白い。

そう、未央が私に聞くのは理由がある。
それは一応、理解しているつもり

「実は……ううん。やっぱり……何でもない」

私は少しだけ独白しそうになって止めた。
ここから先は私が周りの状況で勝手に悩んでるだけのこと……
だから、拓海には伝わらなくていい。

「そうか。じゃあ、話題変えっか。次のライブの準備はどうだ?」

本当に拓海は優しい。
気遣いが出来る人ってこういう人なんだろうなって思う。

「まぁ、順調かな」

「そうだろうな。凛ならしっかりしてそうだもんな」

何故か私のことなのに誇らしそうにしてくれる。
それが嬉しくて、逆にちょっとだけ心配をかけてみたくもなって……

「でもね、少し悩んでたりもするんだ」

「悩み?」

やっぱり、すぐに真剣なトーンになる。

「リクエストの曲なんだけどさ…何て言うか歌詞に言葉が乗らなくて」

私は、拓海の心配してくれている視線を受け止められなくて、
ぽつぽつ呟くように悩みを話す。

「言葉が乗らない…ねぇ。歌が上手い奴は考え方が違げぇな」

私の言葉を繰り返して、そんな単純な返事が返ってきた。

「だってほら、歌うは『訴う』から出来ているって言うのもあるし…意識しちゃうんだよね」

ボーカルレッスンをしているうちに耳にした言葉
私の中に残っていて、歌うときはちゃんと心がけている言葉

「やっぱり凛はすげぇよ」

拓海から、いつもの笑顔で言ってるような褒め言葉が聞こえてきた。

「ありがとう。でも、私は拓海のダンスとパワーボイスには敵わないと思っているんだよ」

「アタシはアレだ。ずっと体を動かす場所と怒鳴り散らす場所に居たからな……置き土産みたいなもんだよ」

ちょっとだけ、拓海の声が優しいような落ち込んだような声になる。

「それでも、やっぱりすごいよ。それが無ければあの日どうなってたか分からないし」

「アレはアタシの悪い方の置き土産だった。だから、何とかしただけさ」

そう、私と拓海の出会いは事務所の中じゃなかった。
休日出かけていたときに、変な人たちに絡まれたのを通りかかった拓海に助けてもらった。

その後、事務所でばったり会って、相手もアイドルだって知った。
最初は半信半疑だったけど、やっぱり助けてくれた本人だった。

それから、少しずつ話すようになっていった。

「それでもカッコよかったよ」

私はその時の拓海を思い出して、素直に褒める。

「そうかい…凛はキツめだし、勘違いされやすいから気を付けろよ?」

拓海は少し照れくさそうな声で注意してくれた。
私は、そんな拓海にちょっとだけ意地悪したくなって……

「え?そういう時は助けてくれるんでしょ?」

何て、言ってみた。

「はァ!?…まぁ、その時に居合わせたらな…」

拓海はもっと照れくさそうにしている。

もっと照れさせたいな……そんな気持ちが溢れてきて

「頼りにしてるから」

って、拓海の目を見ながら言ってみた。
自分の口角が上がっているのが分かる…私、今、すっごくイジワルだ。
拓海はそんな私から目を逸らして、バツが悪そうに頬を指で軽く引っ掻きながら

「お前は…本当にそういう言葉をサラっと言いやがるな…」

何て、拗ねたように言葉を掛けられた。

もう少し、もう少しだけ会話を楽しみたかったけど……
楽しい時間が短いってこんな感じなのかな?

駅に着いてしまった。

「駅、着いちゃったね」

私は少しだけ名残惜しそうに言ってしまう。

「意外と近いんだよな、ここ。確か明日はリハだったか?頑張れよ」

「うん、頑張る。あと、送ってくれてありがとう」

「ま、好きでやってることだから気にすんな」

一瞬聞こえた『好き』という言葉に少しだけ鼓動が早くなる……。

その『好き』はどういう意味だろう?

表情からは読み取れなくて、

「無自覚で言ってるのかな」
何て少しだけ恨めしそうに小さな声でつぶやいてみる。

拓海は聞き取れなかったみたいで、返事をしてくれなかった。

諦めて電光掲示板の発車予定を見たら、電車はすぐ来るみたいだった。

「じゃあね」

私は拓海に手を振って改札に向かう。

「おう!気を付けてな!」

拓海は手を振って私を見送ってくれた。

そして、電車に乗って発車した後に気付いた。
拓海は電車に乗ってない。改札もくぐっていないはず……。

もしかして、拓海はこれから事務所に戻ってバイクで帰るのかな?

そう思った瞬間、さっきの『好き』の意味を更に勘ぐってしまって……
少しだけ、駅から家までの時間を独りで歩くのが寂しく思えてしまった。

その日の夜は、いつもよりも寝つけなかった。

咄嗟に聞こえた『好き』が頭をちらついて離れてくれない。

「拓海」

その名前を呟いただけで、
少しイタズラなニヤって笑う彼女の顔が浮かんでくる。

強くて、可愛くて、優しくて……

その時、ふと、リクエスト曲の歌詞が頭を過ぎった。


もしも今夜 会いに来てくれるなら 心 全て 見せてもいいよ 

うん。今、そんな気分。

そのまま…アカペラで歌詞を口ずさむ。

何度も歌詞を思い出して歌う度に……拓海が浮かんでくる。

薬指を繋いでみたい

寒い中で抱きしめあってみたい

し、白い吐息を絡ませて……

顔が熱くなってきているのを感じる。

あぁ、やっぱり、私は……

堪えきれなくなってしまい…スマホを取り出してみる。

いつか拓海がしてくれた約束を思い出して、それの返答を今する。

あと、今回のリクエスト曲を誰より近くで聴いて欲しいってお願いをする。

その後の返事は今は待てない。

だから、「寝るから返事は後でいい」なんて追記をして、

吐き出した言葉が誤字ではないか確認をしてスマホの電源を切った。

うん。きっと大丈夫。

「たぶん」とかじゃなくて、「絶対」

そう言い聞かせて火照る体に毛布を撒きつけて、

誰かじゃなく、あの人に抱きしめられた気持ちになって

眠りについた。

それから、リハーサルも順調に進んで、本番になっていた。

いつも通り未央や卯月、奈緒、加蓮とやりとりをして、全力で歌って踊る。

そして、約束の時間が近づいてくる。

私は未央と軽口をたたいていたけど、気が気じゃなくて…ちょっと先に舞台袖に移動した。

あと2曲で私の番…私の方から入ったり出る子は居ない。

だから、私の出番までここは私だけの場所。

そこに、カッコイイブーツの音を引き連れて、来てくれた。

「よ、ここだって聞いてさ。何かスタンバイ早くねぇか?」

今、顔を見ることが出来ない。

きっと見たら、訴える前に言いたいことを言ってしまう。

だから、下を向いて呟くように伝える。

「何だか緊張しちゃって…」

「凛がそこまで緊張してるのは珍しいな」

「そうかな?結構、ナイーブなんだよ?」

「……そうか。緊張をほぐすおまじないでもするか?」

「じゃぁ…」

優しい声に何度も見つめ合いたくなるけど、頑張って俯く。
でも、やっぱりちょっと堪えられなくて……

「そのさ……隣に立って…薬指を結んでほしい……」

「薬指を?」

「歌詞に書いてあるから……その、歌詞に気持ちを乗せられるようにしたくて……」

「……分かった」

ふと、私の左側が温かくなって、左手とその薬指に温かい感触が伝わってくる。

あぁ、繋がっている。

今、どんな顔をしているんだろう……

「こんな感じでいいのか?」

優しい確認の言葉。

『これがいい』って伝わるように

私は強く頷く。

ここに来たときは、あと2曲だったのに……もうすぐ出番が近づいていることを知る。

今、言わなきゃ。

「この前メールしたこと、覚えてる?」

私は返事を確認しないでそのまま言葉を続ける。

「このリクエスト曲に……私の全てを込めるから聴いてほしい」

「今、私がどんな気持ちなのか」

「拓海に感じて欲しい」

「戻ったら、感想を……ううん。答えを聴かせて」

それだけ伝えると、薬指の繋がりを解いて、マイクを掴む。

会場の光の波の中に飛び込んで、私の声で全てを伝える。


5分7秒の告白


きっと喝采は後押しになる。
私の声は絶対に届く。
その気持ちを信念にして本気で歌い、踊る。

最後のロングトーンを聴いた人の心を突き刺すように放ち
私の出番は終わった。

一礼し、たくさんの喝采と、たくさんの私の名前を呼ぶ声を聴いて、貴女の前に戻る。

舞台袖に戻った私が目にしたのは、涙だった。

その涙はどんな意味なんだろう……

あれ?もっと確認したいのに……

私は、自分の体が動かないことに気付く。

あぁ、ここから先に『答え』に動けないんだ。

どうしよう

体の反応から心まで不安になる。

ねぇ、涙の意味を聴かせて?

私が動けなくなっていることが分かったのか、拓海が1歩ずつ近づいてくる。

足音より心音が速くなる。

出しきってしまったからか、声が出てこない。

私は我慢できなくて目を瞑ってしまった。

その瞬間。


私に訪れたのは温かい抱擁だった。


「凛。本当にお前の歌はすげぇよ。アタシに全部届いた」

耳に小さく聞こえてくる吐息と言葉

でも、私が欲しいのはその先で……


「アタシも凛が好きだ。次の言葉は誰も居ない場所で白い吐息を絡ませて伝えてやる」


欲しかった言葉が返ってきた。

私は少しだけ呪縛が解けた体で拓海を抱きしめた。

次の出演までのちょっとだけの時間。

私は拓海の温もりを感じて幸せな涙が溢れてくるのを感じた。


 終わり

以上です。

今回は水樹奈々さんの「Tears' Night」を題材に百合を書いてみました。

願わくば誰かの暇つぶしになりますように…

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