男「守りたかった」(21)

四方を敵国に囲まれた小国、身の丈に見合わぬ強力な軍備と、多くの戦を経験したことによる兵士の練度の高さで、幾度もの危機を乗り越えてきた。
もちろん、多くの常備軍を持つには徴兵制が必須なわけで、めでたく僕も徴兵されたわけだ。

男「はぁ、やっと訓練期間が終わった…」

女「よっ男!」

男「あ、女…」

女「久しぶりだね~、今訓練期間が終わったところ?」

男「うん、そうだよ」

女「へぇ、お疲れ様。まあ、お姉さんである私が、昔みたいにどんな戦場でも守ってあげるよ!」

男「そりゃどうも…」

女は幼なじみだ。ただ、彼女の方がほんの少しだけ誕生日が早いと言うだけで、物凄くお姉さんぶってくる。
まあ確かに、幼少期はいじめっ子から守って貰ったりしてたけど…

ちなみに、この国では女性にも兵役がある。かなり珍しいらしいけど。

男「僕だっていつまでも守ってもらってばかりじゃないさ」

今度は僕が守るとは、恥ずかしくて言葉が続かなかった。

女「ま、お互い適当に頑張ろうね~」

男「…うん」

「本日未明、B国からの宣戦布告を受け、戦争状態となりました。国民のみなさんは政府の指示をもとに落ち着いて行動してください。」

友「全くよぉ、酷いタイミングで戦争が起きるもんだな」

男「あぁ…」

友「はぁぁぁ、俺はまだ死にたくねぇのによ」

男「まだ死ぬと決まってるわけじゃないさ」

友「まっそうだな…お、上官様のご登場か」

上官「諸君!訓練を終えたばかりで申し訳ないが、我が国は戦争状態に入った!これから緊急配置を発表する、諸君の健闘を祈る!」

男「この配置、結構適当じゃないか?」

友「なんでだ?」

男「友人同士で同じ隊に配属とかあるのかな」

友「さあな~、まあこれで、死ぬも生きるも運命共同体ってやつだ…よろしく頼むぜ」

男「ああ…」

女「おーい男!」

男「あれ、こんなところで何してるんだ?」

女「何って、男が私と同じ小隊に配属されたらしいから、迎えに来たんだよ」

男「え?女と同じ小隊なの!?」

女「そうだよ~。男は運がいいね!私が守ってあげられるじゃん」

友「男の知り合い?」

男「うん、幼なじみの女って言うんだけどね」

女「女一等兵です、よろしく」

友「じょ、上官でしたか!失礼いたしました、友二等兵です!」

女「じゃあ、隊長さんにも挨拶しに行こっか」

男「本日配属されました、男二等兵です!」

友「同じく、友二等兵です!」

隊長「この小隊の隊長だ、まあ一時の仲間として、仲良くやろうや」

男&友「よろしくお願いします!」

隊長「見ての通りに、残念ながらここは最前線の基地だ。しかも敵さんに先手を打たれて、こちらが劣勢だ」

男「…」

隊長「故郷への手紙は、今のうちに書いておくことだな」

友「…」

全く、女も困ったもんだ…どこも運良くないじゃないか、運勢最悪だよ。

次の日、偵察に行ってきた部隊は帰ってこなかった。

隊長「そろそろ大規模な敵襲があるかもしれん。気を引き締めろよ」

友「了解!」

まだ制空権は敵に取られていないため、一方的な攻撃はない。
しかし、隊長の言うとおりに戦況は芳しくない。

女「ね、男」

男「ん、なに?」

女「男はさ、怖い?」

男「…」

女「私は怖い。でも、男がいなくなることの方がもっと怖い。」

男「…!?」

目の前にあるのは女の顔。唇に伝わってくる、小さく震える柔らかい感触。

男「女…」

女「ごめん、こんな時に…でもさ、後悔はしたくないしね」

男「絶対に生きて、2人で帰ろう」

女「…うん!」

友「にしてもさ~、お前の彼女可愛いよな~」

男「彼女?」

友「え?女一等兵のことだよ、彼女だろ?」

男「ああ…そうかもな」

友「なんだそれ、てか何ニヤニヤしてんだよ~」

男「別にニヤニヤはしてないよ」

友「全く…」

その時、突然風切り音と共に、大きな爆発が立て続けに起こった。

友「敵の砲撃だ!」

男「逃げ…!?」

近くで起きた爆発で、体が宙を舞う。何かが身体中にぶつかり、僕の意識はブラックアウトした。

男「ぅ…うぁぁ……」

伸ばした右手が何か柔らかいものを掴む。

男「はぁ…はぁ…うぁぁぁ…」

見慣れた自分の左腕が、何故か身体から分離していた。

男「あは…あはは…随分と簡単に千切れるもんだな…はぁはぁ…。あ、女は、友は…?」

どうやら両脚は無事なようだ、立って歩くことができる。

男「友は、近くにいたはず…!?」

男「う…そ……だ、ろ?」

信じられなかった、さっきまで他愛もないことを喋ってたやつが、頭を半分潰されて痙攣している現実を。

男「お、女は!?」

男「女!どこだ!女~!」

阿鼻叫喚の地獄絵図になり果てた基地を、フラフラと走り回る。
目の前が暗くなりかけるが、そんな事は気にしていられない。

女「あ、男…良かった、生きてたんだね」

男「はぁ…はぁ…はぁ、女…」

女は生きていた。生きていたと言うよりも、死んではいないだけと言った方が正確かもしれない。腹部から内臓と大量の血が溢れ出る彼女は、誰が見ても助からないとわかる。ただ、そんな事はとても認められない。

男「い、今衛生兵を呼ぶから!」

女「無理だよ、もう…」

男「そんな事言わないでくれ、頼むよ…なぁ」

女「あは…もう男の顔もよく見えないや…」

男「まだ守れてないんだよ…」

女「……。ねぇ男、私をその拳銃で楽にして、お願い…」

男「う…うぅ…」

女「頭はやだよ…死に顔が崩れるからね~。心臓にして、お願い。」

男「撃てるわけないだろ…」

女「最初で最後のお願いだから…男の手で、私を楽にして…」

男「…」

重い拳銃をゆっくりと女の胸に向ける。

女「ありが、と…」

男「ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

言葉にならない叫びをあげながら、震える指先で、引き金を、絞った。
乾いた銃声を遠くなる意識で聞き流し、むこうで手招きする女に向かってゆっくりと歩き始めた。

終わりです。
昼間にTwitterで見かけたとある画像で妄想が膨らんでしまい、新年早々一気に投下してしまいました。
あけましておめでとうございます。

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