モバP「年末楓さんと酒飲んで過ごし隊」 (47)


―12月31日
―p.m.8:00

カタカタカタ…

P「……」

カタカタ……ッターン

P「ふー」

P「残すところ四時間か」

P「来なかったな、結局」

P「……」

P「うし」

P「コンビニ行こ」


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―――
――

瑞樹「大晦日に?」

楓「出勤、ですか?」

P「はい」


瑞樹「ダメよ、そんなの!」

瑞樹「年末年始くらいゆっくり体を休めなきゃ!」

瑞樹「誰の指示なの? 私の口から言っておいてあげる」

瑞樹「P君にあまり無理させないでくださいって!」

P「いえ」

P「俺が自分から願い出たんです」

瑞樹「ええっ?」

楓「お仕事、そんなに忙しいんですか?」


P「まあ、はい」

P「年内に上げておきたい資料もありますし」

瑞樹「年内って……」

瑞樹「大晦日に仕上げたってどうしようもないじゃない」

P「おっしゃるとおりで」

瑞樹「いい? P君、社会人は体が資本なのよ」

瑞樹「無理して体壊したら元も子もないの」

瑞樹「正月三が日くらいは帰省して、ご両親に元気な姿を見せてあげるものよ」

瑞樹「あっ」

瑞樹「ひょっとして、実家と疎遠にしてるとか……?」

P「いやいや、大丈夫です。両親とは仲良いですよ」

瑞樹「じゃ、どうして?」

P「まいったな」

P「こうなるからあまり話したくなかったんですけど」


楓「……Pさん。GWも出社されてましたよね」

P「う」

楓「夏休みも返上されてましたね。知ってます」

P「なんで知ってんですか」

瑞樹「もう完全なワーカーホリックじゃない」

瑞樹「いつ休んでるの? きちんと睡眠取ってる?」

P「とってますとってます」

P「休日出てる分、平日に代休たててますから」

P「本当はこれ、やっちゃダメなんですけどね」

楓「そうまでして休日出勤、ですか?」

瑞樹「平日にやればいいじゃない」

瑞樹「確かにプロデューサー業は休みが不定期とは聞くけど……」

P「いえ、なんていうか」

P「そっちのが捗るんですよね、仕事が」


楓「……ああ」

楓「わかります」

P「理解が早くて助かります」

瑞樹「? どういうこと? わからないわ」

P「休日は基本、事務所に誰もいないじゃないですか」

P「上司に悩まされることも、ちひろさんに怯えることも無いですし」

瑞樹「P君、人間関係に悩んでるの?」

瑞樹「私でよければ相談に乗るわよ」

楓「私も乗りますよ」

P「違いますって、みなさんとは仲良くやってます」

P「そういうことじゃなく、快適なんです」

P「通勤電車は混んでないし、煩わしいメールも飛んでこない」

P「通りは人がまばらで、いつも行列の店も並ばずに入れる」

P「好きなんです、そういうの」


楓「Pさん」

P「はい」

楓「乾杯しましょう、乾杯」

P「はい、乾杯」カチン

楓「わーい」グビグビ

P「大丈夫かなこの人」

瑞樹「……わかるような気もするけど、やっぱりわからないわ」

瑞樹「静かなのもいいけど、適度に人との関わりがないと寂しくならない?」

P「その辺は、まあ、人によりけりじゃないですかね」

瑞樹「それにいくらなんでも、限度ってものがあるわよ」

瑞樹「年末年始までお仕事なんて……」

P「三が日は帰りますよ。大晦日だけです」

瑞樹「似たようなものよ」

瑞樹「あのね、P君。年越しっていうのは一つの区切りなの」

瑞樹「その年を振り返り、次の一年への抱負を立てる大事な時期なのよ」


瑞樹「P君みたいに仕事仕事で休みと平日の境が曖昧な人はね」

瑞樹「一見前に進んでいるようで、その実ずるずると進歩のない人が多いの」

P「手厳しいですね」

瑞樹「本当のことよ。区切りが設けられないからそうなるの」

瑞樹「節目節目で立ち止まって、リセットすることが必要なのよ。人間にはね」

瑞樹「私もその一人だったもの……」

P「……」

瑞樹「P君、無理はダメよ。絶対」

P「ええ、わかってます」

P「わかっていますよ」

瑞樹「本当かしら。心配だわ……」

楓「……」グビグビ


――
―――

P「今日はお疲れさまでした」

楓「Pさん、二次会行かないんですか?」

瑞樹「こーらっ、楓ちゃん。無茶言わないの」

P「すいません、明日もあるので今日はこれで」

楓「また、お仕事なんですね」

瑞樹「……大晦日も程々にきりあげて、ご実家に帰りなさいね?」

P「はい」

楓「なんなら私、行きますよ」

P「え」

楓「私も事務所に行きますよ、大晦日」


瑞樹「もー、この子ったら」

瑞樹「ごめんねP君、楓ちゃん酔ってるから」

楓「酔ってないですー」

P「いえ、ありがとうございます」

P「期待してます」

楓「あ、信じてませんね。私、本気ですよ?」

P「信じてますよ。それじゃ、俺はこの辺で」

P「二人とも、よいお年を」

瑞樹「じゃあねP君、よいお年を」

楓「……むむ」


―――
――


イラッシャイマセー



P「大晦日のコンビニ」

P「テンションあがってきた」

P「まずビールだな。ビール」



ガサガサッ


P「唐揚げ、餃子、と」

P「後はおでんか」


「Pさん、これも買いましょう」

ガコガコッ


P「う、お、重っ」

P「日本酒、あたりめ、……緑のた○き?」

P「……年越しそばですか」

楓「はい、ふふっ」


楓「ちょっとそばまで来たもので」


――
―――


ガチャッ


楓「わあ」

楓「真っ暗なんですね」

P「節電ですから、明かりは机の周りだけです」

楓「こんな事務所、始めてみました」

楓「どこが窓で、どこからが外なのか分からないですね」

P「俺はまだ仕事があるので、ちょっと待っていてくれますか?」

P「あっちにテレビもありますし、よければ」

楓「いいえ、ここで構いません」

楓「Pさんのお仕事、眺めてます」

P「いいですけど」

P「あんまり面白いものじゃないですよ」


P「……」カタカタ

楓「……」イスクルクル

P「……」カタカタ

楓「……」クルクル

P「……」カタカタ

ピタッ

楓「……何にも、聞かないんですね」

P「聞くも何も」

P「来るって言ってたじゃないですか」

楓「お邪魔じゃなかったですか?」

楓「一人の方が、捗るんですよね」


P「確かに騒々しいのは苦手です」

P「でも、一人が好きってわけじゃないんです」

楓「……」

P「ありがとうございます、来てくれて」

P「ぶっちゃけちょっと期待してました」

楓「本当ですか?」

P「はい」

楓「そうですか」

楓「ふふっ」


楓「~♪」クルクルクル


―――
――

P「おし」ッターン

P「お待たせしました」

楓「仕事、納まりました?」

P「ええ」

P「忘年会二次会、始めますか」

楓「はいっ」

楓「おでん、あっためてきますね」


P「では、乾杯」

楓「かんぱーい、ふふふっ」

P「大丈夫ですか? 別に俺の机じゃなくて」

P「会議室とか使っても――」

楓「ここがいいんです。ここで飲みましょう」

P「はあ」

楓「ささ、早く杯をあけてください。Pさん」

楓「たくさんお酒はありますからね」

P「一人でちびちびやるつもりだったんですが」

P「こりゃ川島さんがいたらどやされてるな」

楓「む」

楓「なんで瑞樹さんの名前が出てくるんですか?」


P「厳命されてましたからね、早く帰るようにって」

P「それが事務所で酒飲んで、年越ししてるなんてばれたらもう」

P「流石にナントカの緒が切れると思います」

楓「もともとそのつもりだったんじゃないんですか?」

P「え?」

楓「帰る気なんてはじめから無かったんですよね」

楓「最初からここで新年を迎えるつもりで、出社されたんじゃないですか?」

P「……」

楓「わかるんです」

楓「私たち、考えがよく似てますから」

P「まいったな」

P「まいった」


楓「そういうの、私も好きですよ」

楓「あえて観光地でもない田舎に行ったり、寂れた温泉宿に泊まったり」

楓「普通の人が鼻白むことやってしまうんですよね」

P「酔狂といえば、聞こえはいいでしょうが」

P「結局は学生気分が抜けてないんでしょうね」

楓「素敵じゃないですか」

楓「私、感激しました。大晦日って本当に人がいないんですね」

楓「街全体が静まりかえってて、ここに来るまで誰とも会いませんでした」

楓「世界に私たちしか存在してないみたいで……」

P「コンビニに店員さんがいたでしょう」

楓「……」プク

P「むくれないでくださいよ」


P「確かにこの空間は快適です。でも」

P「こういうのもそろそろ卒業すべきなんでしょうね」

P「社会人ですし、大人にならなくては」

楓「そんな必要、無いですよ」

楓「一緒に子供のままでいましょう?」

P「魅力的な提案ですね」

P「でも、現実はそうもいきません」

P「年を経るごとに、立場は変わります」

P「立場が変わると、責任がついて回ります」

P「そいつらは俺が子供でいることを許さないでしょう」


楓「よく、わかりません」

楓「Pさんは瑞樹さんみたいになりたいと言っているんですか?」

楓「でしたらそれは無理だと思います」

P「ばっさりきましたね」

楓「私も瑞樹さんのこと、尊敬しています」

楓「綺麗で優しく、分別ある大人の女性として」

楓「でも、私は瑞樹さんのようにはなれないと思います」

楓「それに――」

P「なる必要もない、と?」

楓「はい」

P「理由を聞いてもいいですか」


楓「以前飲みに行ったとき、言われたんです」

楓「"羨ましいわ"と」

楓「"どうしたらそんなに自然体でいられるの?"と」

楓「私は逆に聞きました」

楓「どうしたら瑞樹さんのような大人になれますか、と」

楓「そしたら言うんです」

楓「"なりたくてなったんじゃないのよ、自然とそうなっていただけ"」

P「……」

楓「瑞樹さん、途中で何か気づいたみたいでした」

――

瑞樹「そう、そうよね。馬鹿なこと聞いちゃったわね」

瑞樹「人間、自分以外にはなれないのにね」

――


楓「……無理に大人になる必要なんてありますか?」

楓「私は無いと思いますし、なろうとしても半端になるだけです」

楓「結局は、素直でいることが一番だと信じてます」

P「素直に……」

楓「私がミステリアスだなんだと噂されてたとき」

楓「ある人が言ってくれた言葉です」

楓「気にすることないと。そのままの私でいればいいと」

P「……」

楓「あれは、嘘だったんですか?」


P「それは、本音です。しかし」

P「俺の場合は、現実から目を背けてるだけのように思えて」

P「川島さんの言うように、進歩してないのかもって」

楓「現実なんて直視しなくていいんですよ」

楓「横目で見てるくらいでちょうどいいんです」

楓「それでも人間、前に進めますよ」

P「アバウト過ぎやしません?」

楓「深く考えたら負けなんですよ。こういうのは」

楓「私は少しズレてて、どこか抜けているPさんが好きですよ」

楓「それを自覚していて、たまに悩んだりするところも含めて」

P「……」

楓「素直でいましょう、Pさん」

楓「一緒に子供のままで、いましょうよ」


P「……かないませんね、楓さんには」

P「なんでもお見通しだ」

楓「ふふっ。まるっと見えてますよ」

P「でも、でもですね、俺はある程度大人になりますよ」

P「社交辞令も言いますし、満員電車にだって乗ります」

P「気にくわない奴にも頭を下げますよ」

P「二人のプロデュースのためならね」

楓「あら」

楓「強情ですね」

P「無理して言ってるんじゃないです」

P「俺がそうしたいと望んでるんです」


P「ただ、二人の前でだけは正直でいます」

P「取り繕わず、できるだけ素直でいるようにします」

P「……どうでしょう、こんな感じで」

楓「それがPさん流の現実との向き合い方ですか?」

楓「ふふ、不器用なんですね、本当に」

P「自分を受け入れてくれる人が二人もいるんです」

P「一人は共感してくれて、もう一人は諫めてくれる」

P「俺はこれ以上のものを求めません」

楓「……私たちのこと、必要としてくれているんですね」

楓「いいですね。私は賛成です」

P「すみません」

P「面倒なプロデューサーで」

楓「いいえ」


楓「私、大好きです」


――
―――



P「……残り一分」

P「いよいよ今年もお終いですね」

楓「ジャンプしませんか」

P「は?」

楓「昔流行りませんでした? 年またぎにジャンプするの」

楓「それで年越しの瞬間、自分は地球上にいなかったと自慢するんです」

P「ありましたね」

P「何を自慢してたのか謎でしたけど」

楓「私、その様子を冷めた目で見ていました」

楓「子供っぽいなって」

P「自分もやりませんでしたね、当時は」

楓「だから、今やりませんか?」

楓「今こそジャンプするときなんですよ、きっと」


P「……そうですね」

P「やりますか」

楓「ふふっ、じゃあ手をつなぎましょう、手を」

P「こうですか?」

楓「両手ですよ、向き合う形で……」

P「こ、こうですか?」

楓「はいっ」

楓「さあ、カウントダウンしましょう」


P「20、19、18……」

P「まだ、早いですかね」

楓「ふふっ」

P「……楓さん、今日はありがとうございました」

P「来てくれたこと、本当に嬉しかった」

楓「……」

楓「Pさん、私、待ってます」

P「え?」

楓「いつ選んでくれてもいいんですよ」

楓「私、待ってますから」

P「それは、」

楓「ほら、時間――」

P「あ」


楓「3、2、1――」






――――
―――




――
―――



P「あけましておめでとうございます、川島さん」

P「今年もよろしくお願いします」

瑞樹「おめでとう。P君」

瑞樹「早速だけど見て欲しいものがあるの」

P「はい」

瑞樹「年明けと同時にね、楓ちゃんにあけおめメールを送ったの」

P「最近言いますかね、あけおめメールって」

瑞樹「そしたら、この写真が返ってきたわ」

P「何だ、LINEじゃないです……」

P「……」

瑞樹「暗くてわかりにくいけど」

瑞樹「ここ、事務所よね?」

瑞樹「後ろにいるの、これ、P君よね?」


P「……そ、う、ですね」

瑞樹「聞かせてくれるかしら、どういうことか」

P「あのですね」

P「誤解なんです。誤解じゃないんですけど」

瑞樹「何言ってるのよ」

P「いや、えー、あ」

楓「おはようございます。皆さん」

瑞樹「楓ちゃん!」

瑞樹「何にも返信してくれないなんてひどいじゃない!」

楓「はい?」

瑞樹「これよ、これ!」


楓「……ああ」

楓「ふふっ」

瑞樹「どういう意味なの、その笑みは」

P「いや本当、やましいことはないですよ」

瑞樹「やましいやましくないじゃなくてね」

瑞樹「大晦日に事務所でね。男女がね。酒瓶片手にね」

瑞樹「おかしいわよ、おかしいわ!」

P「ごもっともで」

楓「そうですね」

楓「Pさんと私にとって忘れられない日になりました」

楓「私はとても満足してます」


瑞樹「……P君、翻訳を」

P「いや俺も何を言い始めたのかさっぱり……」

楓「Pさんはその日、少し大人になったんです」

楓「私は止めたんですけどね」

楓「でもPさんがどうしてもというので……」

P「要約してるのかもしれないですけど」

P「悪意しか感じないですからね」

瑞樹「P君……」

P「いやいや」

P「楓さん、めっちゃ笑ってるじゃないですか」


瑞樹「わかった、わかったわ」

瑞樹「P君! 楓ちゃん! 今日空いてるわね!」

瑞樹「新年会やるわよ! 新年会!!」

瑞樹「話はその場でじっくり聞かせてもらうわ!」

P「え、今日?」

楓「わー、行きます行きます」

楓「Pさんも来れますよね?」

P「まあ、はい」

P「……なんだかこのノリ、去年と変わらない感じですね」

楓「ふふっ」

楓「ご不満ですか?」

P「いいえ、ただ」



P「贅沢だなって、思っただけです」






良いお年を

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