わたしの世界の後日談(11)

オリジナル、R-18で百合なSS


とある世界にとある問題。
私達の生きる世界はいつだって危険が溢れていて、触れようと思えばいつだって係わることができた。
でも、自らそんなことをする奴なんていない。
誰だってトラブルは避けたいものなのだ。
自分の力量をわきまえ、自分ができることだけをこなしていく。
他人任せのようだけどそれはきっと普通のことで、トラブルの大きさが変わっても変化しないこと。
だから私達は係わらないことにして、たった数人の男女らへ世界の命運を賭けた。

勇者と聖女。その仲間達。
理不尽とも思える運命と役目を終え、世界を救った彼ら。
これは、そんな英雄達とは無縁だった、一冒険者である私の物語だ。


英雄の凱旋だと、城下町の人間達は騒いでいた。
一年のはじまり。春の季節を告げる花が満開の頃。
勇者らが魔王を討伐したという話は、この平和な国もすぐ伝わった。
いや、平和だからこそなのかもしれない。
世界が危機にさらされていようと、ここでは全くの無関係。無関心でいられる。
町の周りはモンスターも少ないし、町が襲撃される心配もない。
ここ数日までは皆、退屈そうな、何かに飽きたような顔をしていたのをよく覚えている。
だからこそ、勇者が世界を救ったという話題は瞬く間に世界へ広がったのだろう。

ルミナ「なんだかなぁ……」

で、話が伝わった結果、他人事でどんちゃんと大騒ぎ。
酒場でいつものようにご飯を食べていた私は、顔をしかめる。
世界が救われたのは確かに嬉しい。
でもそれで毎日の食事が約束されるわけでもないだろうに。なんでそんなに喜べるのやら。
今まで係われもしなかったことなのに。


ルミナ「勇者、だったっけ? 今この町に帰ってきたのは」

ユキ「だなー。イケメン勇者が帰ってきて、みんな大喜びだ」

問いかけると、私の向かい側の席に座る少女は間の抜けたのほほんとした声音で返した。
私の仕事仲間、ユキ。
数年前に出会ってからなんやかんやでこれまで仕事を一緒にしている、仲間……なのだろうか。
まあ仲が悪くはない。
私と同じく18歳という年齢なのだが背丈は小さく、子供にしか見えない。
フード付きの大きな黒ローブに、身長以上の杖。青いセミロングの髪に、身長通り幼く可愛らしい顔立ち。
幼い見た目以外は、至って普通な魔法使いだ。


ルミナ「イケメン勇者ね……」

ユキ「ん。女性男性問わず人気だ。ビジネスチャンスだよな、これは」

ルミナ「やめといたら? 勇者様で一儲けなんて、バレたらえらいことになるよ」

ユキ「分かってるよ。それよりも仕事、でしょ?」

肩を竦め、苦笑するユキ。
そう。今は勇者よりもご飯、お金。手堅くコツコツと日々の生活費を稼ぐのだ。

ルミナ「そうそう。どうだった? 依頼依頼の方は」

冒険者の私達がする仕事は、大抵民間の依頼をこなすこと。モンスターの討伐やら、必要なものの調達だとか、言うなれば町と町を移動する便利屋とでも言おうか。冒険者としてそれなりに有名な私達は、まずそれらの仕事が尽きることはない。


ユキ「さっぱりだった」

……ない、筈なのだが。

ルミナ「え? なに、本当に?」

ユキ「本当に。綺麗さっぱり。平和だなぁと」

ルミナ「本当に平和だね――って、おい」

明らかな異常事態に私は困惑する。
依頼がない。それはつまりお仕事がないということで、職に就いていないということと同じで、つまりご飯が食べられないということで。

ルミナ「私の生活ピンチ……」

ユキ「だねぇ」

何故こいつはこんなにのほほんとしているのだろうか。この状況で。


ルミナ「どうしてそんなことに……」

ユキ「噂によると勇者達のお陰みたいだよ」

ルミナ「勇者達の?」

首を傾げる。
無職が勇者のお陰? せい、じゃなくて?

ユキ「魔王倒して平和になって、手が空いたから依頼募集して……そっちに仕事が集中してるわけ」

ルミナ「……」

絶句した。
分からなくはない。勇者らに仕事を頼めば確かに確実だ。奴ら町を移動する魔法なんて、馬鹿みたいなものを使えるし、強いし、報酬も度が過ぎなければ文句はつけないし……我ら冒険者と比較してもいいこと尽くし。
だけども、まさかそんなことになるとは……。

額に手を当て、ため息。どうしようかと途方に暮れていると、ふと酒場のばか騒ぎが耳に入る。
どんちゃん騒ぎをしているのは、冒険者風の見た目をした男女らで……まさか、ね。

ルミナ「もしかしてみんな、仕事ないから……」

ユキ「勇者の話題に食いついてるんだろうね」

……な、なるほど。
自分達が彼らの立場に立たされて分かった。これは騒ぎたくなる。
今まで身体を張ることで、仕事がつきない冒険者という職業に頼ることができたけど、勇者、その仲間という超人達の手が空いたことで私達の需要もなくなったと……なんかの経済現象みたいだ。


ユキ「というわけで、しばらく暇だから。僕はお菓子でも作って暇潰ししてるさ」

あんた魔法使いだろ。
なんてツッコミはできず。

ルミナ「う、うん。依頼確認ありがとう」

ど、どうしよう。
勇者の活躍によって仕事をなくす。考えもしなかった事態に、私は騒ぐ気すらなくなった。


世界の平和。それはどうやら、魔王が倒されても実現しないようだ。
私の世界は、私にしか見えないもの。私が平和にするしかないのだから。


※今回はここまで

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