伊58「ロス:タイム:ライフ」 (109)





           原作:筧昌也 

         「ロス:タイム:ライフ」

                ×
           
         開発:角川ゲームス


            運営:DMM.com

        「艦隊これくしょん -艦これ-」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450292243









     ピッチの中にこそおれの生き場所がある

               ――元チリ代表 イヴァン・サモラーノ



――鎮守府・入渠ドック――


伊58「あ゛あ~疲れたよぉ~……」

伊168「今週は何回出撃したんだっけ」

伊58「13回でち。疲れたでち……」

伊168「まあ疲労は入渠すれば取れるから無理ではないけど」

伊58「疲労が取れちゃうのが問題なの! 心が持たないの!」

伊58「というかゴーヤ達、着任してから一度も戦闘に参加してない!」

伊168「この鎮守府じゃ、潜水艦は資源担当艦って感じよね」

ピーッ、ピーッ、ピーッ

伊58「……修復終了。また資源回収かあ……」

伊168「今日はあと1回出撃して終わりね」

伊58「たまにはお休みが欲しいでち……そうでなければ作戦に参加したいでち」



――鎮守府・執務室――


コンコンコン

提督「入れ」

伊58「ゴーヤ、入りまーす!」ガチャ

提督「ん、上がったか。悪ぃがまた出てくれ、次はオリョール海だ」

伊58「てーとく! ゴーヤはお休みが欲しいです! それか作戦参加!」

提督「おう考えてやるよ」

伊58「絶対考えてない!」

提督「少なくとも作戦には参加させんぞ。ウチでの潜水艦どもの仕事は資源回収だ」

伊58「都合の良いオンナみたいに扱わないでほしいでち!」

提督「そうカッカすんな。明日一日休みやるから」

伊58「本当!?」

提督「本当」

伊58「後でやっぱなしとかダメだよ!!」

提督「まあ、お前もよくやってるしこれくらいはな。つっても名目上は出撃待機だ、外には出られんぞ」

伊58「十分でち! もう今すぐ出撃してすぐにでも休暇もらっちゃうよ!」

提督「頼む。イムヤの修復には時間がかかるから、次は単艦で行ってくれ」

伊58「了解でち!」



――鎮守府・港――


伊58「~~♪」

明日お休みが貰えると思うと途端にやる気でてきたなあ

単艦だから大変だけど……今に始まった事でもないし

戦闘もしたいけど……ま、今日の所はいっか!

伊58「ゴーヤ、潜りまーす!」ザブン

明日は何しよっかな~♪






人生の無駄を清算する、生涯最後の一時

――――――それが、ロス:タイム:ライフ




          ロ ス : タ イ ム : ラ イ フ

              Life in additionaltime

                第1節 -潜水艦編-

一度沈んだフネが艦むすやってること自体がロスタイムライフな気がしないでもない


朝方に建てればレスもつかないだろうと思ったのに驚きです
これもロス:タイム:ライフが名作だからでしょうね

>>9
艦これと相性がいいのに誰も書かないんです。不思議ですよね


――鎮守府近海・深度50m地点――

伊58「……」スイー

うー……損害は小破で抑えたけど、いつ聞いても爆雷は耳が痛いでち……

でも、後は帰投するだけ! 入渠したら、久々のお休みでち!

とりあえず一度浮上して、空気の確保と索敵しよ

伊58「……?」

浮上できない? なんで……

伊58「……!?」

あれ!? 排水ができない! さっきの戦闘で艤装が破損したの!? 

ゴポ ゴホ ゚ゴポ ゴポ !!

うそ、浸水まで!? し、沈んじゃう……やだ、やだやだ

伊58「……っ! ……っ!」バタバタ――バタバタ――

だめ……もがいても浮上できない!

やだ、やだ。1人で沈むなんて、イヤだよ……っ



伊58「ゴボッ!!」

痛い! ゴーヤ、水圧で、潰され、て……

伊58「ガ……ッ!ォボッ!」

暗いよ……痛いよ……苦しいよ……

まだ沈みたくない――――






――ピピィーッ!!





伊58「!?」

主審「……」ゴポゴポ

副審1「……」ゴポゴポ

副審2「……」ゴポゴポ

第4審判「……」ゴポゴポ


【01:03】


実況《時刻はヒトフタマルマル、試合開始のホイッスルです。今回はどんな試合が展開されるでしょうか》

解説《今日の選手は他の選手とは大分毛色が違いますから、面白い試合になると思います》

実況《今回の試合は、タウイタウイ泊地近海からのスタートとなります》

解説《選手の本拠地近くとはいえ、アウェーでの試合ですからね。日本より蒸し暑い熱帯でのプレー、影響が出ないか心配ですね》


実況《まずは選手データを見てみましょう、こちらです》


-----------------------------------

{選手名}
伊号第五十八潜水艦 (登録名:伊58)

{所属クラブ}
タウイタウイ泊地

{ポジション}
巡潜乙型改二 3番艦

{愛称}
ゴーヤ、でち公

{死因}
艤装の破損による沈没

-----------------------------------


実況《今回はなんと艦娘が出場するようです!》

解説《艦娘といえば帝国海軍の所有する兵器ですが、滅多に公の場に出ることはないですからね。今回の試合はかなり貴重なデータになりますよ》

実況《水中のキックオフ、というのも今回が初となりますが》

解説《泳ぐというのは思いの外体力を使うので、審判団はまずバテるでしょうね》

実況《手元の資料によりますと審判団は今回の試合にあたり、ダイビングの免許を取得したそうです》


な、何なのこの人たち

主審「」ピッ

【01:03】

何この数字……何の数字?

実況《これは……1日と3時間でしょうか》

解説《でしょうね、まず港に着くまでに1時間以上掛かりますし》

実況《このロスタイム、今までの資源調達に不満を抱いていた時間を基に算出されています》

解説《かなり鬱憤たまってますね》


伊58「……?」

あれ? 息が苦しくないし痛くもない……とっくに限界深度は超えてるはずなのに

審判団「……」ゴポゴポ

審判団「……ッ!」プルプル

実況《おっと? 審判団の様子が変です。苦悶の表情を浮かべております》

解説《水圧がすごいですからね、まともに訓練してないと深度50mすら辛いでしょう。それより深く潜るならなおさらです》

副審1「……ッ!」スッ ! スッ !

フラッグで水面を差してる……浮上しろってこと?

副審2「……ッ!」スイー !

副審1「!?」

実況《ああっと!? 副審、たまらず独断で浮上!》

主審「」ピピィーッ ! サッ

実況《どうしたことだ! 開始早々にイエローカード! しかも副審に対してです!》

解説《審判団は本格的に体を鍛えた方がいいですね》

実況《主審、がっちりと副審の足を掴んで離しません》

解説《彼もプロとしての意地があるんでしょう。体力はありませんが》



ギャーギャー ピーピー!! ドタバタ


伊58「……」

浮上しろって言われたって、排水ができないんじゃ……

ス……

伊58「!?」

う、動いた……。今なら浮上できるでち!

スイー……

実況《さあ選手が水面に浮上してきました。審判団も後を追って急浮上します》

解説《あー……これマズイなー》



ザバァッ


伊58「ぷはっ……。ねえ、ゴーヤ、どうなったの!? おじさんたち、誰!?」

審判団「」プルプル

伊58「……え。ど、どうしたの?」

実況《これは……どういうことでしょうか。審判団、水面に上がってもなおも苦しんでいます》

解説《深い場所から急浮上すると潜水病を起こすので徐々に浮上するのがセオリーなのですが……》

実況《苦しさに負けて急浮上してしまったと》

解説《間違いないでしょう。これでは何のために免許を取ったのかわかりませんね》

伊58「お、おじさんたち……だいじょうぶ?」

審判団「……っ」コクコク

実況《ゴーヤ選手がかえって審判団に気を使っております。これでは試合になりません》

解説《これは協会から指導が入りますね》


審判団「」スーハースーハー

審判団「」……フゥ

伊58「……質問してだいじょうぶ?」

主審「」ピッ

伊58「ゴーヤ……沈んだの?」

主審「」ピッ

伊58「じゃあ今のゴーヤはなんなの?」

副審「」サッ

【01:03】

伊58「マルヒトマルサン……これ、サッカーのロスタイムのアレでち?」

主審「」ピッ

伊58「……これ、ゼロになったら、終わりなの?」

主審「」コクリ

伊58「そっ、か……」

実況《ゴーヤ選手、意外にも落ち着いています》

解説《審判団が醜態を晒したので一周回って落ち着いたんでしょう、怪我の功名ですね》



ザザッ


提督『こちら司令部。伊58、応答せよ』

伊58「あ……は、はい!」

提督『一時的に発信器からの反応が消えたが、どうした?』

伊58「え……と……。実は先ほどゴーヤは沈」

主審「」ピピィーッ!!

58「えっ!?」

提督『どうした?』


主審「」ブッブー

伊58「……人に言っちゃダメなの?」

主審「」コクリ

伊58「じゃあ、ゴーヤはどうすればいいんでち……」

提督『伊58、どうした。応答せよ』

伊58「! ご、ごめんなさい! 発信器は艤装の故障だと思うでち!」

提督『そうか。小破してるんだったか? 周囲を警戒しつつ帰投しろ』

伊58「りょ、了解」

提督『よし、通信を終了する』


ザザッ


伊58「……」

ゴーヤが死んじゃったとして、どうして今も意識があるの?

誰にも言えないなら、お別れのあいさつもできないよ

ロスタイム……残り時間だよね

やらなくちゃいけないこと、残ってるのかな……


――鎮守府・港、ヒトナナサンマル――


伊58「帰ってきたでち……」

実況《ゴーヤ選手、なんとここまでノンストップの快走》

解説《潜水艦の長所はなんといってもそのスタミナですからね。速度が出ない分、航続距離は他の追随を許さないでしょう》


審判団「」ササッ

【23:30】


伊58「数字が減ってる……この数字が無くなったら、ゴーヤ、本当に死んじゃうの?」

審判団「」ピッ

伊58「……」

帰ってきたけど……どうすればいいんだろう

おじさんたちは一言も喋ってくれないし

……何だかムカついてきちゃった

伊58「……もういいでち! ゴーヤは好きにするでち!」

実況《ゴーヤ選手、吠えます》

解説《ヤケクソに近いですね》


――鎮守府・執務室――

―― コン コン コン コン コン !!

提督「な、なんだぁ!?」

伊58「てーとく! ゴーヤ、帰投しました!」ドガチャァッ

審判団「」ササッ

提督「お、おう、お疲れさん。入渠したら後は自由だ。明日一杯休んでいいぞ」

伊58「ありがとうございます! それじゃ入渠してきます!」クルッ

審判団「!?」ササッ

バタム! タッタッタッ…

提督「……何だありゃ」

実況《ゴーヤ選手の強引なプレーに監督も困惑の表情》

解説《潜水艦の艦娘は基本的に温厚ですから、ああいうオフェンシブなプレーが珍しいのでしょう》

実況《入った途端に退室する見事なフェイントで審判団も同時に引き離します》

解説《トリッキーな潜水艦らしいプレーだと思います》


――鎮守府・入渠ドック・脱衣所――


伊58「……」

そういえば執務室で、てーとくはあの人たちが見えてなかったなあ

やっぱりあの人たちはゴーヤにしか見えてない……死神さん、なのかなぁ?

審判団「」ピッ

伊58「……」

こうしてドックにも平然と入ってこれるし。……ん? ドック?

伊58「……って!? 入ってこないでよぉ!」ブンッ

主審「!?」スコーンッ

実況《おっとこれはいけません主審に手を挙げた!》

解説《これマズイですねー》

実況《スローでもう一度見てみましょう》


〔REPLAY〕


『ブ ゥ ン ッ … …』

『… … ス コ ー ッ ン !』

解説《あー間違いないですねえ》

実況《投げられた脱衣籠が、主審の頭へ弧を描いています》

解説《一切の無駄な動きも無く頭に収まりましたね。見事なベルベットパスです》

実況《しかしゴーヤ選手、これはァ……》

主審「……!」プルプル

副審「」ハラハラ

主審「」ピピィー!!

伊58「え!?」

実況《やはり出ましたイエローカード、本日二枚目のイエローです》

解説《審判団は、規定によるとトイレや風呂場においては付近での待機なのですが、ドックと判断して立ち入ったんでしょう》

解説《グレーゾーンではありますが、審判は絶対ですからね》


伊58「なにそれ? なんなんでち?」

実況《ゴーヤ選手、イエローカードを理解していません》

解説《ルールがわからない人はとことん分からないので仕方ないですね》

主審「」プルプル

副審「」アワアワ

実況《主審、静かに怒りの表情をたたえている!》

解説《本来警告を示すイエローカードが、警告になってませんからね》

主審「」プルプル

主審「」……

主審「」クルッ

実況《イエローの是非はともかくとして、選手の主張は認めたようです。審判団がドックから出ていきます》

解説《落とし所ですね》

伊58「なんなんでち、一体……」


――鎮守府・食堂、ヒトハチマルマル――


間宮「あらいらっしゃい」

伊58「間宮さん! 豆かんひとつお願いします!」

間宮「はい、ちょっと待っててね」

伊58「はーい!」

伊58「……」チラ


審判団「」ピッ

【23:00】


やっぱりあの人たち、ゴーヤにしか見えてないんだ

それはそれとして、久しぶりに甘味食べるなぁ

出撃ばっかりで使う暇の無かった間宮券がようやく日の目をみたでち……


間宮「はい、お待ちどうさま」

伊58「わあ~! いただきます!」パク

伊58「んふ~! 美味しいでち!」

間宮「ふふ、ごゆっくり」

審判団「」ジュルリ

実況《審判団、棒立ちで見守ります》

解説《まぁ、作ってもらう訳にもいきませんからね》


伊168「あら、戻ってたの」

伊58「お疲れでち」

伊168「明日お休み貰ったんだって? いいなあ。あ、間宮さん、ぜんざいお願いします」

間宮「はーい」

伊58「そうだけど……結局何しようか迷っちゃって」

伊168「そんなこと言ってたらあっという間に時間が過ぎてくわよ?」

伊58「……っ」

そう、こうしてる間にも時間は減っていってるんだよね

でも、どうすればいいのかわかんないよ……

伊168「ゴーヤ?」

伊58「……ごめんでち、豆かんを味わって聞き逃してたでち」

伊168「まったく……。でも、とりあえずスイーツ、ってのはわかるわ。やることないならハチから本でも借りたら?」

伊58「本、かぁ……」

そんな気分にはなれそうにないでち……


伊168「それに鎮守府からは出られないしね」

伊58「名目上は出撃待機だから、しょうがないでち」

伊168「結局できることは限られてるわねー」

できることは限られてる……。ゴーヤ、本当にどうすればいいのかな

間宮「はいイムヤちゃん。おぜんざい、お待たせしました」

伊168「ありがとう! いただくわね!」

伊58「とりあえず今は甘味を楽しむでち」

伊168「そうね♪」ルンルン

伊58「……」パク

でも、今は口いっぱいに、豆かんを味わおう

これが最後になるかもしれないから――――


小休止。

どなたか教えていただきたいのですが、この板はどれくらい投下間隔を空ければ良いのでしょうか
それとも短時間での連投も可能なのでしょうか。現在は5~15分の間隔で投下しているのですが

25秒開ければ普通に投下出来るぞ

>>35
連投規制はあまりキツくはないのですね、ありがとうございます。


――鎮守府・艦娘兵舎、フタマルマルマル―― 

伊58「……」

伊58「……」チラ


審判団「」ピッ

【21:00】


伊58「……」プイ

実況《ゴーヤ選手、食堂から自室のベッドに倒れたきり、かれこれ2時間動きがありません。どう見ますか》

解説《少なくなっていくロスタイムに、焦りが生まれてるんじゃないでしょうか》

解説《真っ暗な部屋の中、電光板の数字だけ光っているというのは、かなりのプレッシャーですからね》



審判団「」ボー

実況《待ちくたびれた審判団がわずかな光によってさながら幽鬼のようです》

解説《主審は特にくたびれてますからね。パッと見、怖いですよ》



あと20時間もすれば、ゴーヤは海の底

潜るのは、好き。だけど沈むのは、イヤ

でもゴーヤはもう沈んでるはずで、それが先延ばしになってるだけで

伊58「……」ゾク

また冷たくて、苦しくて、痛くて、あの暗い海に沈まなくちゃいけないの?

伊58「っ……くぅ……」グス

イヤだよ……沈みたくないよ……ゴーヤ、もう潜れないよぉ……

主審「」ピィー……

伊58「ぅ……ふ……」グス

伊58「……」

伊58「……」スー



―――
――



伊58「ん……」モゾ

伊58「……」

伊58「マルヒトマルマル……変な時間に寝ちゃった……」

伊58「……」


審判団「」ウトウト

【16:00】


伊58「夢じゃない……」

伊58「……外、出よう」ゴソ

審判団「」コックリコックリ

伊58「……」

起こさなくてもいいよね、勝手についてきてるだけだし


ガチャ……パタ…ン――


実況《ゴーヤ選手、ここにきてノーマーク。審判団、全く気付いていません》

解説《彼らには交代で寝るという発想がないんですかね》


――鎮守府・埠頭、マルヒトサンマル――


伊58「……」

ザザザ……ザザザ……

夜の海は怖い

敵が見えないとかじゃなくて、本能で、怖い

いつも昼間に資源を回収するから、夜の海には潜った事がない

それも、夜の海を怖く感じる原因の一つだけど

伊58「もう……イヤだよぉ……」

今となっては、海が怖い




「何してるの?」

伊58「!?」

川内「こんばんは。……そこ、私の特等席なんだけどなー」

伊58「あ……ご、ごめんなさい」

川内「あぁいいよいいよ。隣座るね」

伊58「……」


川内さん。余り話をすることはないけれど、夜になると声だけは聞こえてくる

夜戦、夜戦、夜戦。夜が好きで、戦うことが好きで

……今のゴーヤとは、正反対の人でち

川内「珍しいね、夜の海を見て楽しい?」

伊58「……川内さんはどうなんでち?」

川内「私は楽しいよ。夜戦ができれば文句ナシだね」

伊58「……」

伊58「夜の海が……怖くないの?」

川内「ん? 怖いに決まってるじゃん」

伊58「え……」

川内「周りは見えないし、暗くて怖いし。いつも海の上で溺れてる気分だよ」

伊58「……それでどうして夜戦が好きなの?」

川内「んー? うーん……なんでだろうね?」

伊58「なんで、ってそんな……」


川内「うーん、そうだなー」

川内「……私が、艦だから、かな?」

伊58「艦……」

川内「海が私の居場所だから。怖くても、辛くても、私は海が好きだよ」

伊58「……」

川内「こんな感じで、どうかな?」

伊58「……参考になったでち」

川内「よかった」

伊58「川内さんは、沈むのは怖くない?」

川内「神通に怒られるより怖い!」アハハ

伊58「……」



ザザザ……ザザザ……


川内「……」

川内「……でも、いいよ」

伊58「え……」

川内「誰かを守る為に海に出たんだから、沈んでもいいよ。私たちも……いっぱい、沈めてるしね」

伊58「……」

川内「私たちは海の娘だから、海に還るよ。それでいいんじゃない?」

伊58「海に還る……」

川内「でも夜に沈むのは、やっぱりイヤかなー」アハハ

伊58「そう、でちか」


川内「さーて、そろそろ戻ろうかな」

伊58「ゴーヤは、もうちょっとここに居ます」

川内「ん、それじゃーお休み、夜更かしはダメだよ?」

伊58「それはゴーヤのセリフでち」

川内「私はいーの! それじゃ!」

伊58「……」


ザザザ……ザザザ……


伊58「……」

『誰かを守る為に海に出たんだから、沈んでもいいよ』

伊58「……」ハァ

ゴーヤのお仕事は、資源の回収。それは艦隊の運営には欠かせないことだから、それも必要なお仕事

でも、ほとんど戦ったことのないゴーヤは……そんな風には、考えられないよ



ピッピィーッ !!


伊58「!?」

審判団「」ゼェ、ゼェ

伊58「なんだ、おじさんたちでち」

実況《審判団、ようやく選手を捕まえました》

解説《施設中を走り回って最後の最後に見つけましたからね、完全にバテてます》

【15:00】

伊58(……)

伊58「……帰ろう」


更新終了。感想・批評、お待ちしております。特に批評。
ちなみに当作品は最後まで書きためているのでエタりはしません。

ここまで閲覧いただきありがとうございます。次回の投下は本日の日没後になります。


――鎮守府・食堂、マルナナサンマル――


伊58「……」モソモソ

結局寝付けなくて朝になっちゃったな……食欲なんてない……

伊58「……」チラ


審判団「」ムシャムシャ

【9:30】


時間だけがどんどん過ぎてく……

「……ーャ」

こんな思いするなら、あの時沈んじゃえば……

「おい、ゴーヤ」

伊58「ひゃい!?」

提督「まだ寝ぼけてんのか? お望みなら耳元で起床ラッパを吹いてやるぞ」

伊58「て、てーとく? おはようでち」


提督「隣いいか? ま、よくなくても座るんだが」

伊58「……」

提督「元気がねえな、希望通りの休みだってのに」

伊58「そうだけどぉ……」

今日には沈むなんて、言えない……

提督「まあ、仕事続きだとたまの休みで一気に体調が崩れるのはありがちだがな。ゆっくり休めや」

伊58「はい……」

提督「あ、そうだ。後で執務室に来い、暇つぶしにいいモンやる」

伊58「? 了解でち」


――鎮守府・執務室、マルキュウマルマル――


コンコンコン

提督「入れ」

伊58「失礼します」

提督「おうゴーヤか、実は今朝手紙が届いてな」

伊58「手紙でちか……?」

提督「ホレ、これだ」


ドサ ドサ


伊58「な、なんでちかこの分厚い封筒たちは」

提督「中に手紙がどっさり詰まってる。全部お前宛てだ」

伊58「え!? ご、ゴーヤに!?」

提督「おう、見てみろ」

伊58「手紙を貰うような覚えは……」ペラ

伊58「……!」





---------------------------------------------------------------------------

 かいぐんさんへ

 いつも しげん を とってきてくれて ありがお。

 ぼくたちの つかう でん気を はこんできてくれて ありがとお。

 ぼくも 大きくなったら かいぐんさんのように だれかを たすける しごとに つきたいです。


                          かど川小学こう 一ねん ロぐみ かけいまさや

---------------------------------------------------------------------------




伊58「これ……」

提督「各所からの手紙が一括で届いてきたんだ。それは小学校からの手紙か? どれどれ……」

提督「……ありがおってなんだよ」ハハ

伊58「なんでこれがゴーヤ宛てなんでち?」

提督「伊58、お前の任務は?」

伊58「……資源の回収でち」

提督「お前の回収した資源は何に使われてると思う?」

伊58「艦隊の運営、じゃないの?」

提督「うん、ウチは潜水艦どもの回収した資源は全く使ってないぞ。それは遠征艦隊の仕事だ」

伊58「え!? じゃ、じゃあ、あれだけヘビーローテーションして回収した資源はどこに消えるんでち!?」

提督「内地だよ」

伊58「内地……?」



提督「ウチは潜水艦が回収した資源を全て内地の資源供給に充てている」

提督「お前らが持ってきた石油も、鋼材も、ボーキサイトも、みんな内地の生活のために使われる。弾薬の原料になる硫黄や硝石も含めて、だ」

提督「だが、艦娘は基本的に存在が大手を振って歩ける存在じゃない。数人の女性ばかり出撃させたとなれば、世論の反発も避けられんしな」

提督「だから建前としては海軍が敵の目を潜り抜けて資源を手に入れたことになっている。宛て名は海軍だが……これは紛れもなく、お前宛ての手紙だ」

伊58「……」

提督「昨日、作戦に出せとやかましかったからな。丁度いい機会だから知らせておこうかと思った」

伊58「……」

伊58「……ゴーヤは」

提督「あん?」


伊58「ゴーヤは、まともな戦闘はしたことがないです」

提督「おう」

伊58「でも、ゴーヤ……。誰かを、守れてるの?」

提督「たりめーだ。ウチにいる奴らは例外なく、何かを守ってる。例外なく、何かのために戦ってる」

提督「お前の場合、それは国民の生活だ」

伊58「生活……」

提督「多くの艦娘は敵と戦い、国と国民の安全を守っている」

提督「しかし安全なだけじゃ生きていけねえ、生きるために、必要なもんは必要だ」

提督「それを支えてるのがお前ら潜水艦だ、洋上艦の誰にも任せられん。お前らだからこそ守れるモノってのがある」

伊58「……」

提督「胸を張れ」

伊58「……!」

提督「さァ話は終わりだ、続きは手紙で読め。あ、手紙は後で返せよ? 俺も読むからな」

伊58「……はい。失礼するでち」

提督「おーう」


――鎮守府・艦娘兵舎――


伊58「……」


『輸入に頼らざるを得ない自国においての石油の入手は誠に有難く、お陰様で電気の供給も滞りなく――』


伊58「……」


『ボーキサイトの入手により継続的に機械類の生産ができておりますこと、感謝にたえず、一言お礼申し上げたく筆を執った次第で――』


伊58「……」


『この度は帝国海軍の御尽力により鉄鉱石を都合して下さったこと、誠に感謝の思い筆舌に尽くし難く――』


『ぐん人さんが てきを やっつけてくれるので ぼくたちもあん心して 生かつできます――』


『私も尊敬する父の背中を追い兵学校へ進みました。先輩方と肩を並べられる日を今か今かと思い日々精進する毎日で――』


伊58「……っ」



『ありがとうございます』
                      『ありがとお』
      『有難う御座います』

                『ありがとう』

 『有難う』

      『ありがとうございます』

                    『ありがとう』
       『ありがと』











伊58「……っ……っ!」ポロ…ポロ…



ゴーヤ、こんなにたくさんの人たちを守ってたんだね

ゴーヤ、ずっとずっと戦ってたんだね

ゴーヤ、資源の回収なんて誰でもできるって思ってたんだ。でも違うんだ

ゴーヤだから、この人たちを守れたんだね


伊58「……」グス

伊58「……」ゴシゴシ

行かなくちゃ。


主審「」ズビーッ!!

副審「」グスッグスッ

実況《さあ! 息を吹き返しましたゴーヤ選手、審判団も手紙を回し読みして涙しております!》

解説《ここからのプレーは目が離せませんよ》


――鎮守府・執務室、ヒトヒトマルマル――


コンコンコン

提督「入れ」

伊58「ゴーヤ、入りまーす!」

提督「うん? もう読み終わったのか?」

伊58「流石に2時間もあれば読めるよぉ! はい、お手紙でち!」

提督「あいよ。朝に比べると元気になったな」

伊58「ゴーヤはもう戦意高揚でキラキラだよ!」

提督「そうか、そのテンションで明日から頼むわ」

伊58「今から!」

提督「あん?」

伊58「今から出撃したいでち!」


提督「ええ……折角休みくれてやったのにか?」

伊58「名目上は出撃待機なんだから、今から出撃したっておかしくないでしょ?」

提督「そりゃそうなんだが……。まあ、本人の希望なら止めはせんよ」

伊58「やった!」

提督「随分と手紙に元気づけられたみたいだな。俺も読んでご利益にあやかるとするかね」

提督「……イムヤとイクが朝の出撃からそろそろ帰ってくる。アイツらがドックから上がり次第、三人でオリョール海へ行ってこい。旗艦はイクな」

伊58「了解でち!」

伊58「……あ、それと、てーとくに出撃の見送りして欲しいでち」

提督「何でまた」

伊58「いいから!」

提督「……ん。まあ、いいけどよ」

伊58「約束だよ! それじゃ、港で待ってます!」


ガチャッ……パタムッ


提督「忙しない奴……」


――鎮守府・港、ヒトフタマルマル――


伊58「……」

実況《さあゴーヤ選手、港でチームメイトを待ちます》

解説《時間的にもこれが最後のセットプレーになるでしょう。確実に決めていきたいですよね》

伊58「……」チラ


審判団「」ゾロゾロ

【05:00】


実況《審判団もダイバースーツに身を包みます。並走用の小型船に乗り込んで万全の態勢》


伊19「お待たせなのね! 待った?」

伊58「それなりに待ったでち」

伊19「そこは『今来たところ』って言うところなのね」

伊168「それにしても、どうしたのゴーヤ? 急に休暇返上なんて」

伊58「思う所があったんでち。1人だけ休むなんて悪いでしょ?」

伊19「そもそもウチはローテーションで休んでるからそんなこと気にしないの」

伊58「ゴーヤが行きたいって言うんだから、行くの!」

伊19「それはイクの台詞なのね」



提督「おーい、揃ったか?」


伊168「あれ? 司令官どうしたの?」

提督「いや、ゴーヤが見送りしろって」

伊58「たまにはゴーヤの我がまま、聞いてほしいなぁ?」

提督「休暇をやれば返上し、挙句見送りまで要求して……我がまま放題じゃねーか」

伊58「小さい事言っちゃだめでち」

伊19「寸劇はいいからはやく行くの。さっきからイクの魚雷がうずうずしてるのね」ザブン

伊168「極力戦闘は避けるべきなんだけどね。じゃあ司令官、潜ってくるわね」ザブン

伊58「……」


提督「おい、置いてかれるぞ」

伊58「……」

ゴーヤは海に潜る理由を見つけたけど

まだちょっとだけ、潜るのが怖いでち

だから……

伊58「……ゴーヤの最後のお願い、聞いてほしいでち」

提督「これ以上何があるってんだ……」

伊58「頭、撫でてほしいの」

提督「頭……?」

伊58「ほら、はやく」

提督「……」スッ

伊58「ん……」ナデナデ

提督「……どうした、ゴーヤ」

伊58「てーとくの手、あったかいね」

提督「それなりには、な」


伊58「……」ナデナデ

伊58「ゴーヤ、いってくるね」

提督「おう。相変わらず資源調達がメインになるが、これからもよろしく頼むぞ」

伊58「――っ」

伊58「はい! これからも、資源調達は『潜水艦』に任せてくだち!」ダッ

提督「うおっと」

実況《さあ、監督の手を振り切って飛び出した!》

解説《ゴーヤ選手なりの別れの挨拶も印象的でしたね。確かな覚悟を感じますよ》

伊58「ゴーヤ、潜りまーす!」



ザブーンッ!!



更新終了。でちでち言い過ぎないゴーヤの語尾調整が今作一番の難所
二次創作界隈で、でちでち言わせる作者気持ちがわかります

次回投下は明日の夜


予定通り翌日の夜になりましたので投下します


――南西諸島・オリョール海、ヒトゴマルマル――


伊19「作業完了! これで一帯の回収ポイントは一通り回れたのね」

伊168「問題は帰りよ。資源を運びながら帰るんだから」

伊58「敵に見つからないうちに帰るでち」

伊19「そうするのね」

持てるだけの資源は持った。あとは帰って、それから。それから、ゴーヤは……



伊168「――!! 四時方向ーッ!!」



伊58・19「「!?」」


ドバァッ!!


伊168「やばっ! 急速潜行!」

伊58「急速潜行!」

伊19「急速潜行!」



ゴポゴポ……


伊19(あれは……はぐれのハ級!)

伊168(このっ……! 大穴あけてあげる!)

伊168(魚雷一番から四番まで装填、発射!)


シュシュシュシュ――――…… ドドゴォッ!!


伊168(手ごたえあり!)

伊58(念のため、魚雷さん、お願いします!)


シュ――――…… ドガァン!!


伊19『……撃沈確認、敵影なし。このまま潜航するの』

伊58『了解』

伊168『了解』

審判団「」ブルブル

実況《審判団、ただただ怯えています》

解説《ヘタすれば彼らもロスタイム突入ですからね。生きてるだけ儲けもんですよ》

実況《それでも審判団、ソナーを駆使して海上から追いかけます。手元の資料によりますとダイバー免許と並行して船舶免許も取得していたようです》

解説《よくやりますねえ》

――鎮守府近海、ヒトロクサンマル―― 


伊19『浮上するの』

伊168『了解』

伊58『了解』


――ザバァ


伊19「ふうっ! さっきは危なかったのね」

伊168「気付くのがほんの少し遅れてたらただじゃ済まなかったわよ。浮いてる所への砲撃だったんだから」

伊19「イムヤ、ありがとなのね!」

伊58「……」チラ


審判団「」ピッ

【00:30】


あと30分……もう鎮守府には戻れないよね……だったら


伊58「ふたりとも聞いてほしいでち」

伊19「なんなのね?」

伊58「ゴーヤは殿で索敵するから、先にゴーヤの資源も一緒に持って先行してほしいでち」

伊168「? そんなことする必要ないじゃない、このまま帰れば」

伊58「ダ……ダメなの」

伊19「何がダメなの? わざわざそんなことするメリットもないのね」

伊58「さ、さっきのハ級ははぐれだから、本隊がいる可能性もあるし」

伊168「だったら3人で相手をすればいいじゃない」

伊58「本隊を相手にするなら資源を捨てて戦わなくちゃいけないでち」

伊19「それはそうだけど、命には代えられないのね」

伊58「ゴーヤが休暇返上で出撃したのは資源を持ち帰りたいからなんだよ。だから、資源は確実に持って帰りたいの」

伊19「……」

伊168「……」

伊58「お願い……」


伊168「……まあ、そこまで言うならいいけど。どうせ鎮守府はすぐそこだし」スッ

伊58「! ありがとぉ!」スッ

伊19「ゴーヤが急にワーカーホリックになってしまったのね。やっぱり無理にでも休ませるべきなの」スッ

伊168「それはあるかも……帰ったら休みなさい。イムヤからも司令官に言っておくから」

伊58「う……わかったでち。帰ったらちゃんと休むでち」

伊19「じゃあ、持つ物も持ったし、先行するから殿、お願いなのね」

伊58「了解でち」

伊168「それじゃあ後で……」

伊58「……」

伊168「ゴーヤ?」

伊58「え? あ、うん。また後で、でち」


伊19「じゃ、潜るの」

伊168「了解」

伊58「……」


ゴポゴポ……


伊58「……」

イク。イムヤ。ごめんなさい

帰ったら、ちゃんと休むけど……けど……





ゴーヤはもう、帰れないんでち


――鎮守府近海・沈没地点――


【00:10】


伊58「……」プカプカ

実況《審判団に誘導され、試合開始地点まで戻ってきました。しかしゴーヤ選手、微動だにしません》

解説《あるがままを受け入れている感じですね》

審判団「」プカプカ

実況《審判団も浮輪を浮かべて経過を見守ります。このまま試合終了か》

伊58「……」

あと10分の命かあ。……あれ、ゴーヤってもう沈んでるんだっけ

まあ、いいか。……資源、持って帰れたかな

伊58「……ん?」

今、何か聞こえたような――

伊58「――!!」ゴポゴポ


ドババァッ!!




ゴポゴポ……


伊58(うそ、本当に本隊が来たの!?)

伊58(敵は……)

伊58(ハ級がニ隻、ヌ級が一隻……)

伊58(本来なら駆逐艦から。だけど、ヌ級を野放しにすると二人が狙われちゃう!)


ボチャ ボチャ ボチャ ボチャ ボチャ――――


伊58(!! 爆雷――!!)


ボボボボボォ――――!!


伊58「っ……!」

伊58(耳が、割れそう……っ!)

伊58(このっ……! 邪魔しないで!)


シュシュシュシュ――――……ドガガガァン!!


伊58(まずはイ級! もう一隻は無視して先にヌ級を狙うでち)


伊58(ゴーヤの魚雷は、お利口さんなのでち! 当たってくだち!)


シュシュシュシュ――――……ドガガァン!!


伊58(やった! 沈んではないけど、中破は間違いないでち!)


ボチャ ボチャ ボチャ ボチャ ボチャ――――


伊58(あ――――)


ボボボボボォ――――!!






伊58「――――」










伊58「――――ッ!」










シュシュ――――……ドガガァン!!


イ級「……」ブクブク



ヌ級「……」


ザザザザァ……


伊58「……」

伊58(イ級ニ隻撃沈、ヌ級撃退)

伊58(大破したことを除けば、大金星でち)

伊58(……でももう、機関がダメになっちゃった)

伊58(……浮くだけなら、なんとかできそうでち)


スス――……チャプ、ン……


伊58「……」


伊58「……」

全身、ぼろぼろでち

伊58「……」

最後にお日様見れてよかった……曇り空なんてイヤだもんね

……あったかぁい



審判団「」ザバザバ

伊58「……あは。おじさんたち……生きてたんだ、ね」

主審「」ピッ

伊58「ゴーヤ、頑張って……戦った、よ……?」

主審「」ピッ

伊58「えへへ……ゴーヤ、頑張ったんだぁー……」

主審「」ピィー……



【00:03】


伊58「3分……」


副審1「……」


副審1「」ピシッ

副審2「……」ピシッ

第4審判「……」ピシッ

主審「……」ピシッ

伊58「敬礼、してくれるの?」

主審「」ピッ

伊58「……ありがと。でも海軍は、脇を締めるんだよ?」クス

主審「……」ササッ

伊58「……ふふ、ありがと」サッ


ゴポ……


伊58「ぁ……」



ゴポ、ゴポポポ……


ゴーヤ、結局沈んじゃうんだぁ……


ゴポ ゴポ ゴポ ゴポ ……


伊58「……」

痛いけど、痛くないよ

苦しいけど、苦しくないよ

怖いけど、怖くないよ

沈むのは、ホントはイヤだけど

誰かを守る為に海に出たんだから、沈んでもいいよ

だってゴーヤ、たくさんの人を守ってたんだもん

ゴーヤ、ずっと、ずっと、戦ってたんだもん

だから少しくらい、胸を張ってもいいよね

そうだよね、川内さん

そうだよね、てーとく

伊58「――――」ツゥー






          『ありがとう』









             【00:00】


          ピ、ピ、ピィィ――――ッ !!






――後日、鎮守府・執務室――


提督「……」サラサラ


コンコンコン


提督「入れ」

伊19「ただいまなのね!」

提督「おう、帰ったか」

伊19「今日も一杯、資源持って帰ってきたのね! ……何書いてるの?」

提督「日誌……業務日誌だ」

伊19「ふーん……」

提督「……特に損傷が無いなら今日はもう休め、下がっていい」

伊19「りょーかいなのね!」


ガチャ……パタン


提督「……」

提督「……」サラサラ


『資源の回収は変わらず続けている』

『ゴーヤが沈んだあの日、当然というべきか、イクもイムヤも酷いものだった』

『自分こそが、ゴーヤを沈めたのだと声を枯らした。無理もないことだ』

『しかし私は、翌日も資源の回収へ向かわせることを告げた』

『彼女らが手に入れる資源は、既に内地におけるひとつの供給源として確立されている』

『戦友が沈もうと、どれ程の悲しみを背負おうと、我々は今を生きる国民の為に戦わねばならない』

『そう言って、目の腫れた二人に手紙の束を渡して、その場を去った』



提督「……」フゥ

提督「……」サラサラ


『翌日、出撃前の報告に二人が執務室へやって来た』

『休暇を返上してまで出撃したゴーヤの意思を汲んでくれたのだろう、二人はいつもと変わらない調子だった』

『そうして胸の内を押し殺したまま港を出る彼女らを、ひとり執務室の窓から見送った』

提督「……」

提督「……」サラサラ

『思えばあの日のゴーヤは前日から情緒が不安定だった』

『もしかしたら何か、虫の知らせでも感じたのかもしれない。今となっては知る術もないが』

『あの日手紙を見せなければ彼女は沈まなかったのではないか、そんな思いばかり浮かんでくる』

『過ぎた事を悔やんでも仕方のないことは、理解はしているのだが』

『ならばせめて。せめて彼女が生を終える瞬間』

『艦娘として、誇りを持ってその生を終えてくれたと思うばかりだ』

『部下を預かる者として、無責任も甚だしいことは承知の上だが』

『しかし、そう思わずにはいられない』



提督「ふぅ……」パタン

提督「……」





提督「――」ツゥー


――鎮守府・埠頭、マルヒトサンマル――


ザザ……ザザ……


川内「……」


川内「……」


川内「……バイバイ」


川内「……」


川内「……」クル


スタ…スタ…スタ…


川内「~♪」


やっせんー♪ やっせんー♪


試合終了、もとい投下完了。絶対にしないと決めた誤字を2度もしてしまいややブルー

それではhtml依頼を出してきます。ありがとうございました

最後、川内もロスタイムなのかと思った(年単位の)

違う艦でも書いていいのよって言いたいところだが沈んでしまう艦を考えると複雑…


>>101
ヒントは>>5です

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年12月19日 (土) 10:21:42   ID: Dixbv4Ne

ロスタイムライフ名作だよな

2 :  SS好きの774さん   2015年12月20日 (日) 00:16:57   ID: WYBJeaNv

これは期待せざるを得ない

3 :  SS好きの774さん   2016年03月04日 (金) 01:25:10   ID: cWTZx8XY

艦これSSの中で一番面白い

4 :  SS好きの774さん   2019年02月06日 (水) 11:37:34   ID: 1BnYRfjF

ロスタイムなんぞもらっても劇的な最後は迎えられないんだよなあ

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