明石「友との離別に祝福を」 (49)





明石「始めます」



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 これと言って何かした訳じゃない
だから狡いと言うべきではないし、酷いと言うべきでもない
明石はそれを解っている。解っているはずなのに
明石だけの部屋には奥歯が削れる音が響く

「……っ」

 それに気づいた明石は誤魔化すように、
リンゴ一切れを口の中に放り込む。血の味がした

「私は……」

 無意識だった。無意識に歯軋りしていて
歯が削れ、どこかから出血している
それに気づいても、それを知っても。明石にはどうしようもない

「………………」

 大丈夫。仕方がない。諦めよう。自分のせい
様々な解決文句を考えたが、明石は無意識への干渉が出来なかった
気づけば目で追っている。気づけば恨み言を呟いて、歯軋りしている

「……提督」

 ことの発端は、一週間ほど前の記念すべき式だった


 一週間前、
提督と電がケッコンカッコカリを越えた契りを交わした
電と並ぶ古株であり散々頼りにしてきた明石ではなく、駆逐艦の電と

「……分かってた」

 提督が電を愛していて、電が提督を愛していると
明石は死にたいほど、殺したいほど分かっていた
今思えば、明石はその頃から限界だったのかもしれない

 提督に電へのプレゼントや、
デートのルートから服装、容姿、スケジュールまで相談され、
翌日には決まって電からどうしたらいいかと、相談ー自慢ーされた

「………………」

 めちゃくちゃにしてしまおうかと何度も考えた
恋の中間管理職に就職した覚えはないし、ましてや恋の工作艦でもないからだ

 けれど、その度に明石は考えを拒絶した
提督はずっと前から大切な人で、電はずっと前から大切な人で
喜怒哀楽を分かち合った戦友だったからだ

「……でも、だからこそ。永遠であってくれると思った」


 ずっと相談される関係。ずっと変わらない関係
大切な人と、大切な戦友。恋の相談と言うものではあったけれど
実らないまま、実らせないまま進展も衰退もなく平行線上に有り続けてくれると――

「そんなことあり得ないってわかってた。分かってました」

 寂しい部屋に悲嘆を漂わせると、不意にドアを叩く音がして、ハッとする

「明石さん。もうそろそろ出てきて」

 電の同型艦、雷の声だと明石はすぐに分かった
明石は雷にとって皆から頼られる頼られ先輩というものだった
暁や響、電そして提督。みんなに便りにされる自分を目指していた雷にとって
明石は目標だったからだ


「みんな心配してるわ。そう。みんな。心配しかしていないから」

 雷の繰り返してきた言葉を聞いて、明石は首を横に振る
もちろん、扉に隔たれた雷にその仕草はわからない
それでも関係ないと、明石は答える

「みんなじゃありません。私以外……です」

 その返しに、雷は目を見開いてドアを殴った。痛い……でも
それでも、雷は激しくドアを叩いた。出てきて。お願い。顔を見せて。と、叫びながら
何度も、何度も。鈍かった痛みがもはや痛みですらなくなるほど
小さな可愛らしい手が、ボクシンググローブのようになるほど叩いた
それでも、明石は出てこない

「引きこもって何になるのよ!」

 先輩で、憧れ
だからこその怒号を雷は叫ぶ。その悲痛な言葉でも
扉の鍵とは不一致だったのだ


「……なんに、なるのよ」

その嗚咽に似たつぶやきでさえ明石に声は届く
けれど、届いていながら届かない。隔てる壁は一枚ではないからだ

「……………」

 雷が逃げ出す足音が遠のいていく。けれど、
明石は身じろぎ一つすることなく、無地の天井を見上げる

「いつか、二人は結婚する。それを私は分かっていたのに」

 壊したいと思う自分と壊したくない自分
その狭間に揺れている間に、二人はいつの間にか進展させてしまっていた
いや、違う。進展したのではなく、進展させてしまったのだ
ほかでもない、明石自身が

「…………」

 だから、明石は恨むことも妬むことも僻むこともなにも出来ないはずだった
ゆえに明石は我慢し続けた。その結果が無意識の歯軋り、恨み言だった

10レスいこうと思ったのにいけない
残ってればまた明日続き

 だからこそ、明石は自分のせいであると信じて疑わなかった
積もり積もった無意識の恨みが歯軋りや言葉に留まらず行動にまで出てしまったのだろう。と

「……電ちゃん」

 友の名を呼び、明石は歪んだ笑みを浮かべる
明石はその行動を悔やんではいない。はじめに裏切ったのは向こうだ
だから、これは復讐である。という自覚が明石にはあったからだ

 しかし行動をした記憶はない
だから、本当に自分が行ったかどうかはわからない
けれど、誰が行ったのか。誰の仕業なのか。なぜなのか
言ってしまえば、明石にとってそれらはどうでもいいことだった

 重要なのはただ一つ【提督の乗った船が沈没した】というのが
妄想ではなく現実であるということだけだからだ


「あははっ」

 明石は壊れてしまったのだ。抑え続けた想いによって
ゆえに笑う。涙をこぼしながら笑う

 明石は大切な友人の死を嘆きながら喜んでいた
これで電の相手はいなくなった。邪魔な人はいなくなった。と

 どこかで「えっ、そっち」という声が聞こえたが、
明石は目もくれずに提督は切り取った電の写真に頬擦りする

「これで、私の電です」

 工作艦明石は……電が欲しかったのだ

>>11修正

「あははっ」

 明石は壊れてしまったのだ。抑え続けた想いによって
ゆえに笑う。涙をこぼしながら笑う

 明石は大切な友人の死を嘆きながら喜んでいた
これで電の相手はいなくなった。邪魔な人はいなくなった。と

 どこかで「えっ、そっち」という声が聞こえたが、
明石は目もくれずに提督を切り取った電の写真に頬擦りする

「これで、私の電です」

 工作艦明石は……電が欲しかったのだ


 だから明石は自分が整備した船に乗った提督が海の養分になったと聞き、
大義名分が出来た上に邪魔な人が消えたと喜んだ

 明石が整備したからと、明石を責める艦娘はいない
そこで自分の責任だと自身を追い込んでいる姿を見せれば
そのあと行う【前を向くための行動】は
多少なら常識的に間違いでも見逃して貰えると明石は考えた

「……明日。かな」

 明日の朝部屋から出て電のもとに向かい、
提督の代わりに幸せにすると言う
そうすれば、電はきっと断れない
周りはそれがいけないことだと言えない

「私の勝ちです」

 すでに消えた恋敵に宣言した明石は布団を被ると
笑いを堪えるために、身を縮めた


「入渠ですか?」

 泣き止んだ電がそそくさと準備するのを見て訊ねると、
電は「凄く申し訳ないのです」と、苦笑する

 自分が汚ならしいという言葉では収まらないほど不潔だと気付いたらしい
制服の本来白い部分は黄ばんでいて、全体的にシワだらけ
気付かない方が難しい

「…………平気ですよ」

 気付かれないようにすがり付かれた部分を嗅ぐと、
ツンとした刺激に鼻を痛め、胃液がエレベーターよろしく昇りだす

 残念ながら閉店です。と、胃液を飲み込んで
苦し紛れの笑みを浮かべた明石も電と一緒に入渠へとむかった


「今は金剛さんが提督代理としてまわしてくれています」

 現状を教えてほしい。その問いに明石は簡潔に答えた
提督が居なくなったことで他所と合併とならないのは
この鎮守府が日本近海でトップクラスの鎮守府だからだ

 それが合併したり消えたりすれば市民を不安にさせ、
深海悽艦を活気づけてしまう可能性があるからだ

「金剛さんは優秀ですよ。流石です」

 持て余しているお金で喫茶店を営んでいるだけあって
運営とスタッフー艦娘ーの扱いに問題はない
加えて金剛型戦艦一番艦で長女で最古参の一人ゆえか、
提督の死によって起こりかねなかった鎮守府の崩壊を見事に防いだのだ


 ならそのままでも良いのでは? と思われたが
残念ながら鎮守府の運営をいつまでも艦娘に任せるわけにはいかなかった

「暫くしたら新しい提督が着任するそうです」

 しかし、明石はどんな提督が来るのか全く興味がなかった
誰でも良い。何でも良い
電との関係が0の恋人になり得ない存在であれば
明石は誰でも良かったのだ

「……電が補佐するのですか?」

 その悲痛な感情が籠った言葉に明石は首を横に振る
本来なら電がやるべき事かもしれないかが、
上層部からは現状のまま
つまり、金剛をそのまま補佐に回すように指示が来ていた

「喫茶店は暫く休みになるそうです」

 明石が言うと、電は悲しそうに「残念なのです」と漏らした


「任せてしまって申し訳ないのです」

入渠を終えた電と明石は執務室へと向かい、
揃って金剛に謝罪を述べた
電は本来やるべきことをほったらかしにして
捜索に出続け、塞ぎこんでしまったし
明石は自分の責任だという設定で引きこもっていたからだ

 けれど、金剛は怒ることもなく電と明石を見ると
自分で淹れた紅茶を一口飲んで、息をつく

「ノープロブレムネー。二人は平気デスカー?」

 雷が言っていたように、心配しかしていなかったのだ
金剛もまた提督を敬愛していた。だからこそ、
電の心の痛みを解ることが出来たからだ


 金剛の優しい気遣いに電が頷くと同時に大慌てな足音が鎮守府中に響き渡り、
それは執務室の扉を破壊する勢いで飛び込んできた

「大変大変!」

 変態?と明石が言うと、駆け込んできた瑞鶴は「違う」と首を振る

「って、明石さん……それに電ちゃん!?」

 二人が部屋から出てきていることに驚いた瑞鶴はすぐに驚きを呑み込んで金剛を見る

「新しい提督がもう来た!」

 瑞鶴の言葉に執務室が静まり返ると、
耳をすませば足音が聞こえてきた

 そして、それはやって来た

「ホンジツ、ヒトフタマルマルヨリチャクニンスル。レ・キュウダ」

 提督らしからぬパーカー姿に誰もが息をのみ、
どこかから「ちょっと待て」と聞こえたが、新提督のレ・キュウは続けた

「ヨロシク」


「ワタシハ、イゼンノテイトクノヨウニアマクナイゾ」

 レ・キュウ提督はそう言って金剛達を見渡すと、電を見詰めて動きを止める
細部の細部まで見抜こうとしているような視線に電は「何かご用なのですか?」と、問う

「ケッコンシヨウ」

 なんの脈絡も無かった。二人に繋がりさえなかった
瑞鶴はこの鎮守府はもうだめだと悪態をつき、未来を悲観した

 変態提督の次はレッツ・キュウコン提督
カテゴリはロリコン。瑞鶴は脳内ファイルを作りどこかへと押しやって唸る

「とりあえず、御用だね」

 瑞鶴はそう言って手を伸ばしーー気づけば
背中に鈍痛を覚え、床に倒れ込んでいた
瑞鶴は何が起きたのか全く理解が出来なかったが
電の厳しい瞳に、提督の仕業だと悟った


「ストップネー。ずいずいは大事な家族デース」

 金剛の穏やかな表情に、電以外の全員が呼吸さえ忘れて目を見開く
笑顔のはずの金剛からは動けば殺す
というような、強い殺気が滲み出ていたからだ

「サ……サスガ、チンジュフサイキョウノセンカン……ゴメンナサイ」

 渦中の提督は冷や汗を拭って笑みを浮かべる
あからさま過ぎるほどの虚勢だったが、
金剛は「分かったなら、オーケーネー」と、ニコニコする

「金剛型戦艦の一番艦。金剛デース。よろしくネー」

 そう言って差し出された手に、レ・キュウ提督はオドオドしながら、手を差し出す

「汗っかきネー」

 ニコニコと良い笑顔の金剛に対し、
レ・キュウ提督「ハイ……ゴメンナサイ。ソウカナンダヨ」と答えた

 こうして、新しい提督が鎮守府に着任したのだった

>>38訂正

「ストップネー。ずいずいは大事な家族デース」

 金剛の穏やかな表情に、電以外の全員が呼吸さえ忘れて目を見開く
笑顔のはずの金剛からは動けば殺す
というような、強い殺気が滲み出ていたからだ

「サ……サスガ、チンジュフサイキョウノセンカン……ゴメンナサイ」

 渦中の提督は冷や汗を拭って笑みを浮かべる
あからさま過ぎるほどの虚勢だったが、
金剛は「分かったなら、オーケーネー」と、ニコニコする

「金剛型戦艦の一番艦。金剛デース。よろしくネー」

 そう言って差し出された手に、レ・キュウ提督はオドオドしながら、手を差し出す

「汗っかきネー」

 ニコニコと良い笑顔の金剛に対し、
レ・キュウ提督「ハイ……ゴメンナサイ。ソウナンダヨ」と答えた

 こうして、新しい提督が鎮守府に着任したのだった

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