絵里 「家に帰ると希が死んでいた」(91)

   「それはどういうことなの?」

絵里 「希はいつも死んでいたわ」

   「…いつも?
    と、言うことは?」

絵里 「希は何度も死んでいたのよ」

   「…何度も?
    と、言うことは?」

絵里 「ふふっ…
    今説明してあげるわ?」

   「…では、あなたの口から説明お願いするわ」

絵里 「最初は、そうね…
    突然だったから驚いたりもしたわ」





 がちゃっ



 絵里 「ただいまー。 遅くなってごめんね」



 しーん…



 絵里 「希? いないの…?」



 しーん……



 絵里 「希? 寝てるの…?」






 私が大学生になって暫くしてから両親が帰国した。

 それとほぼ同時に私は希と一緒に住むようになった。

 と言っても、私が希の家に転がり込む形だった。

 大学生になってから私は頻繁に希の家にお泊まりしていた。

 それがだらだら続いて「もうここに住めばいいやん?」と言う希の一言で決まった。

 高校時代からの親友であったため、ともに過ごす時間は楽しかった。

 大学を卒業して、互いに就職してからもずっと一緒に住んでいた。

 なのに……

 仕事から遅い帰宅をした私を迎えたものは…






 血塗れで倒れている希の姿だった!!





 絵里 「えっ…?」




 絵里 「きゃあっ!」



 絵里 「希っ?! 希ぃ!!」


 絵里 「のぞっ! ……?!」




 希  「ぷっ…くすくす…」

 絵里 「えっ?!」

 希  「あはは~ びっくりしたぁ?」

 絵里 「えっ?!」

 希  「死んだ振りでえりちをびっくりさせる作戦成功!」

 絵里 「えっ?」

 希  「えりちったら可愛いなぁ~」

 絵里 「えっ?」

 希  「こんなに驚いちゃって~
     頑張って血糊作って良かったわぁ~」

 絵里 「…」

 希  「びっくりした?」

 絵里 「……」

 希  「えーりちっ?」

 絵里 「希の……」

 希  「えりち…?」

 絵里 「希のバカっ!!」

 希  「えぇ!!」

 絵里 「びっくりしたに決まってるじゃない!!」

 希  「あはは~ 頑張った甲斐があったわ」

 絵里 「もう! 本当に死んだかと思ったわよ!」

 希  「おお… 作戦は大成功やったんか」

 絵里 「もう! この血糊だってどうするのよ!」

 希  「おお… 確かに掃除ちょっと大変やなぁ」

 絵里 「私は知らないからね!!」

 希  「はぁーい。 ご飯出来てるけどどうする?」

 絵里 「…食べる。 お腹減ったもん」

 希  「じゃあ今温めてくるから、えりちは先にお風呂入ってきてね」

 絵里 「…お風呂に入るべきは血塗れの希が先じゃない?」

 希  「えー? でも先にえりちにご飯食べて貰いたいし…」

 絵里 「でも… その姿で…」

 希  「大丈夫♪ さぁさぁお風呂入って」

 絵里 「大丈夫…なの…? まぁ分かったわ…」

 希  「うん!」





   「そう… 希らしいわね…」

絵里 「えぇ。 それにしても悪趣味でしょ?」

   「死んだ振り、ねぇ…」

絵里 「そうよ、とても凝ってる死んだ振り。
    血糊を作って血塗れにしてるのよ?」

   「わざわざ血糊を作ってまで、ねぇ…」

絵里 「その時は一人で血糊の掃除してたけど、それ以降は私も一緒に掃除したわよ?」

   「優しいのね? 文句のひとつやふたつ出なかった?」

絵里 「文句なんて言う気にもならなかったわよ」

   「寛大なのね?」

絵里 「だって希ったら凄く楽しそうなんだもの。
    掃除ですら、ね?」






 それからも希の死んだ振りは止まらなかった。

 さすがに毎日ってことはないけど…。

 私の休みの前日で、加えて帰りが遅い時は毎回だった…。

 パターンが読めたこと、そしてすっかり慣れてきた頃には怒る気がなくなった。

 それどころか…



 少し楽しみにすらなったわ。






 がちゃっ


 絵里「ただいまー」


 しーん…



 絵里「希?」



 しーん…



 絵里「…また、ね?」

 絵里 「今日はどんな死に方なのかしら…?」

 絵里 「わざわざ海未の所に行って、弓道の矢を参考にリアルな矢を作ってたこともあったわね?」

 絵里 「それを頭に貫通したみたいにして… あれは凝ってたわ」

 絵里 「包丁みたいな物をお腹に刺してる感じにしてたのも結構凝ってたわね」

 絵里 「どっちも血塗れで掃除が大変だったわね?」

 絵里 「さぁーて… 今日は…?」

 そこには……










 首まわりに縄が巻き付けられ、倒れている希の姿が…!

 絵里 「…今回は手抜きね?」

 希  「むっ…」

 絵里 「もうネタ切れかしら?」

 希  「もっと驚いてよぉ!!」

 絵里 「それは無理ね。 だって慣れちゃったもの」

 希  「あぁ… 最初の驚いて悲鳴をあげてくれるピュアなえりちはどこに行ってしまったんや…」

 絵里 「遠い遠い星の彼方よ。 ご飯出来てる?」

 希  「うん。 どうする? 先にご飯にする?」

 絵里 「ええ。 先にご飯食べるわ。 お腹減ったもの」

 希  「じゃあ温めてくるわ」

 絵里 「はぁーい。 お願いね。 手洗ってくるわ」

 希  「うん」






   「すっかり慣れてしまったのね…」

絵里 「さすがに縄を首回りに、ってのは手抜きでしょ?
    まぁ掃除もしなくて済むから楽で良かったわ」

   「そんなこと言うなんて余裕すら生まれていたのね?」

絵里 「そうね。 でも希ったらそれ以降は考えが変わったのか…」

   「えっ?」

絵里 「少し趣向を変えてきたわ」






 がちゃっ


 絵里 「ただいまー」



 しーん…



 絵里 「そっか… 今日もいつものやつね…」

 絵里 「今日はどんな死に方かしら…?」

 絵里 「前回は手抜きだったけど、今回はまた凝ったことしてるのかしら?」

 絵里 「でも血塗れは… ちょっと嫌ね…」

 絵里 「まぁ掃除は慣れたから兎も角、血塗れの希を見るのはやっぱり良い気分もしないし…」

 絵里 「さぁーて… 今日は、っと…?」

 そこには……










 兵隊の姿でライフルを抱えて倒れている希の姿が…!!

 絵里 「…」


 絵里 「…希?」


 絵里 「希さーん?」


 絵里 「…あなた、そんな服とか鉄砲なんてどうしたのよ…?」

 絵里 「まぁつっこむとこはそこだけね…」

 希  「だああぁぁぁっ!
     頑張ったんに感想はそれだけっ?!」

 絵里 「そうね… 強いて言うなら血塗れじゃないことは評価するわ」

 希  「えりちが! つめたいっ!!」

 絵里 「はいはい…。 ご飯出来てる?」

 希  「むぅ…
     せっかくことりちゃんに習って作った服なんに…」

 絵里 「次はことりまで巻き込んだの?」

 希  「だってことりちゃんがいつでもお手伝いするって言うてくれたし…」

 絵里 「ことりも悪のり好きなのね…。 忙しいはずなのに…」

 希  「仕事ばっかりで息抜きしたいって言うてて…
     一緒にお茶したりお喋りしながら教えて貰って作ってん。
     まぁ結構手伝って貰ったけど…」

 絵里 「あぁ… だから服、血塗れにしなかったのね?」

 希  「そうねん。 ことりちゃんが手伝ってくれた服は汚せなかったわ」

 絵里 「変なところは思いやりがあるのね?」

 希  「まぁね?」






   「ことりってそんな服まで作れるのね」

絵里 「まぁ服であることには変わらないから…」

   「ことりもなにしてたんだか…」

絵里 「でも、ことりの活躍はそれだけじゃなかったわ」

   「ことりの活躍ってことは次は別の服装ね?
    軍服の次は…? 武将だと鎧ね…」

絵里 「さすがに鎧はなかったわね」

   「じゃあ…? んー… 分からないわ」

絵里 「趣向はどんどん変わって行ったわ」






 がちゃっ


 絵里 「ただい… あっ…」

 絵里 「どうせ今日も、ね?」

 絵里 「今日はどんな死に方なのかしら…?」

 絵里 「前回はことりとの手作りの服だったから血塗れにはならなかったし…」

 絵里 「出来れば今回も血塗れでない方がありがたいわね」

 絵里 「でも縄だけの時、手抜きって言ったら希ったらショック受けてたわね…」

 絵里 「あれくらいだと希も準備が楽でしょうし、私も掃除しなくていいから楽でいいのになぁ」

 絵里 「息抜きって言っても、ことりを巻き込むのは気がひけるし…」

 絵里 「縄だけの時に、もっと驚いた振りでもしておけば良かったわ」

 絵里 「そうすれば、希も満足でしょうし…
     それに、みんなが楽出来ていたのに…」

 絵里 「さて、今回は…?」

 そこには…










 倒れているパンダの姿が…!!

 絵里 「…」

 パンダ「」

 絵里 「……」

 パンダ「」

 絵里 「………」

 パンダ「」

 絵里  「さて、お風呂でも入ろっかな…」

 パンダ「なんでなんっ!?」

 絵里 「あら? 最近のパンダは喋るのね…」

 パンダ「あのピュアなえりちはどこに行ってしまったん!?」

 絵里  「私、パンダに知り合いはいないわ」

 パンダ「なんでそんなこと言うん!?」

 絵里 「お風呂入ってくるからご飯の準備よろしくね♪」

 パンダ「……はい」






   「パンダねぇ…」

絵里 「勿論そのパンダの着ぐるみもことりが手伝ってくれたそうよ」

   「本当、才能の無駄遣いね…」

絵里 「ね? 私もそう思うわ」

   「結局それも死んだ振りなのね?」

絵里 「そうね。
    うつぶせのパンダ姿で無言を貫いていたから多分死んでいるパンダの設定だったんでしょうね…」

   「そう… いつもの死んだ振りなのね?」

絵里 「まぁいつもよりちょっと趣向は変わってた気がしたけどね」

   「あっ… そろそろ…」

絵里 「今日はもう終わり?」

   「そうね… ちょっと他にやることもあるし…」

絵里 「そっか… 忙しいわよね?」

   「でもまたお話聞かせてね?」

絵里 「ええ。 私は結構暇してるからいつでもいいわよ」

   「よろしくね」

絵里 「ねぇ…」

   「ん? なにかしら?」

絵里 「私は今日もここにいなきゃいけないのかしら?」

   「そうね… 退屈かも知れないけど…」

絵里 「退屈、とかそんな話じゃなくて…
    昨日も帰らなかったから… 希が心配しているかも…」

   「…大丈夫よ。 私から連絡してあるから」

絵里 「でも…」

   「でも、じゃなくて。
    あなた、仕事のし過ぎで疲れてるのよ」

絵里 「そんなことないわよ」

   「そんなことあるのよ。
    だからここで少し休養しなきゃ駄目なの」

絵里 「でも…」

   「でも、じゃないわよ。
    ここで少し休養させてくれって、頼まれてるの」

絵里 「誰に…? …もしかして希に?」

   「…ええ。 そうね」

絵里 「そう…。 私、希に心配かけてばかりなのね…」

   「そんなこと言わないで?
    今は少し、みんなに甘えればいいわ」

絵里 「そう…?」

   「そうよ。 だから今日もここでゆっくりしていてね?」

絵里 「そう。 分かったわ」

   「うん。 じゃあまた後で来るわ」

絵里 「ええ。 じゃあね」

   「じゃあ…」



がちゃっ






絵里 「…」

絵里 「……」

絵里 「………」

絵里 「…………」

絵里 「ううん」

絵里 「…やっぱり」










絵里 「帰らなきゃ…」






がちゃっ



絵里 「ただいまー」

絵里 「希の気持ちも嬉しいけど、私ちゃんと休養出来たから帰ってきちゃった」

絵里 「ごめんねー。 心配かけて」




しーん…




絵里 「あれ…?」

絵里 「そんなに遅い時間でもないわよね…?」

絵里 「希? まだ帰ってないの?」



しーん…



絵里 「…」

絵里 「希ー? いないのー?」



しーん…



絵里 「まだ帰ってないのかしら?」




絵里 「のぞっ… !?」

そこには……










血塗れで倒れている希の姿が…!!

絵里 「………!?」



絵里  「のぞ…み…?」



絵里 「のぞみ…?」



絵里 「のぞみっ! のぞみっ!!」





絵里 「のぞみぃぃぃいいいい!!」

希  「ぷっ…くすくす…」

絵里 「えっ?!」

希  「あはは~ びっくりしたぁ?」

絵里 「えっ?!」

希  「やっぱりえりちったら可愛いなぁ~」

絵里 「えっ?」

希  「こんなに驚いちゃって~」

絵里 「えっ?」

希  「久し振りやね?」

絵里 「…」

希  「びっくりした?」

絵里 「……」

希  「えーりちっ?」

絵里 「希の……」

希  「えりち…?」

絵里 「希のバカっ!!」

希  「えぇ!!」

絵里 「……」

希  「えりち?」

絵里 「もうっ!!」

希  「えりちっ?!」

絵里 「びっくりさせないでよっ!! いつもいつも!!」

希  「いつもやってるのに、えりち騙され過ぎやん?」

絵里 「こんなに凝ってる死んだ振りなんか何回されても驚くわよ!!」

希  「でも、ちょっとは楽しんでるんじゃない?」

絵里 「される身にもなってよっ!!」

希  「うーん…
    てっきりえりちも楽しんでるかと…?」

絵里 「される身にもなりなさいよ!!」

希  「あはは… びっくりするわなぁ…」

絵里 「もう…」

希  「えりち…?」

絵里 「希が死ぬなんて嫌だもん…」

希  「えりち…」

絵里 「嫌だもん…」

希  「びっくりさせてごめんね…」

絵里 「ん…」

希  「ごめん…。 もう死んだ振りなんてしません」

絵里 「ん…」

希  「やから、泣かないで…」

絵里 「ん…」

--



希  「落ち着いた?」

絵里 「ん…」

希  「それにしても泣くなんて驚いたわ…」

絵里 「久し振りだったからよ」

希  「確かに… 久し振りやね…」

絵里 「最近はずっと見てなかったわ。
    だから騙されもするし驚いたし、ショックだったのよ…」

希  「そっかぁ… 久し振りやったしかぁ…」

絵里 「最近はずっと大人しかったじゃない」

希  「ん~… 最近はなにもしてなかったしねぇ…」

絵里 「そう言えば…」

希  「ん?」

絵里 「血糊とか掃除しなきゃ」

希  「あぁ…」

絵里 「血糊の掃除も久し振りね。
    あれって結構大変だけど慣れちゃったわ。
    …って、あれ…?」

希  「血糊ならもうないよ?」

絵里 「…そう言えば希に着いてた血糊ももうないわね…。
    いつの間に…?」

希  「ふふっ…
    スピリチュアルやん?」

絵里 「…なんだかそれを聞くのも久し振りね」

希  「こうやって…
    えりちと一緒に喋るのも久し振りやね…」

絵里 「そうね…
    休養の為に仕事も休んだし、昨日はここに帰らなかったものね…」

希  「……」

絵里 「希?」

希  「昨日だけじゃない。
    えりちが今日、ここに来るの久し振りやん?」

絵里 「えっ? なにを言っているの…?
    昨日は確かに帰らなかったけど… それは希が私に休養を取らせる為に…」

希  「…うちがえりちに休養? 違うやん?
    えりちはあれからずっと何日もここに来ていなかった…」

絵里 「…あれから? …何日も? なにを言って…?」

希  「それなのに今日ここに来た。
    やけどもうここに来る必要はないんやない?」

絵里 「希…? あなたさっきからなにを言っているの?!」

希  「えりち、うちはもうここには来て欲しくないんよ?」

絵里 「…!?
    なんで…そんなこと…言う、の?」

希  「えりちがここに来ればえりちの家族が、そしてみんなが心配する」

絵里 「でも私の帰る場所はここよっ!」

希  「そう。 ここはずっとえりちとうちの帰る場所やった…」

絵里 「希…?」

希  「やけどずっとここに帰ってきていなかった」

絵里 「そんなこと… 昨日は確かに帰ってない…
    でも一昨日は…?! あれ…? えっと…?」

希  「昨日も、一昨日も、その前も…
    あれからずっと… 来てなかったやん?」

絵里 「希? あなた… なにを…?」

希  「ずっと来てなかった。 帰ってなかった…
    えりちも… そしてうちも…」

絵里 「希も…? 私は休養の為…
    じゃあ何故希は…?」

希  「ねぇ、えりち?」

絵里 「なに…?」

希  「なんで今日は血塗れやったと思う?」

絵里 「えっ?」

希  「血塗れやと掃除が大変やったやろ?」

絵里 「そうね… でも慣れちゃったらそうでもないわよ?」

希  「えりちがそう言うてくれても、うちは仕事で疲れたえりちに掃除させるのは気がひけた。
    やから血塗れは辞めたんよ?」

絵里 「…そうなの? 私は気にしてなかったけど…」

希  「でも今日は血塗れやった… なんでやと思う?」

絵里 「…私が、今日は帰りが早かったから?」

希  「えりちの帰りが早い日は死んだ振り、したことなかったやろ?」

絵里 「そう言えばそうだったわね…」

希  「じゃあなんで今日はわざわざ血塗れを見せたと思う?」

絵里 「…わざわざ、見せた?
    …久し振りの血塗れで、私をびっくりさせたかった、から?」

希  「びっくりしてた…。
    いや、違う。 思い出してくれたんやない?」

絵里 「…思い出す?」

希  「血塗れにした理由… それは簡単なこと。
    あの日を再現しただけ…」

絵里 「…あの日?」

希  「あの日。 うちの口からはそれだけしか言えない。
    だって誰が言っても、えりちはそれを受け入れてくれないから…」

絵里 「…希? さっきから… なにを?」

希  「ねぇ、えりち?」

絵里 「なに…?」

希  「そろそろ受け入れて?」

絵里 「希…?」














絵里 「…希?」

絵里 「希っ?!」




絵里 「希、どこ?」




絵里 「希っ?!」




がちゃっ






   「あっ!? やっぱりここにいた!!」

絵里 「希っ?!」

亜里沙「お姉ちゃんっ!」

絵里 「亜里沙…」

亜里沙「心配したんだから…。 なんで… ここに来たの?」

絵里 「なんでって… ここが私の帰る場所だからよ」

亜里沙「お姉ちゃん…?」

絵里 「いつも帰りが遅くなって希に心配掛けてばかりだったから早く帰れる日くらいは…」

亜里沙「…お姉ちゃん?」

絵里 「でも希がいなくなっちゃったの…。 さっきまで一緒にいたのに…」

亜里沙「お姉ちゃん、今日は取り敢えず帰ろ…?」

絵里 「えっ? でも、私の帰る場所は…」




亜里沙「ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした!」

   「まぁ無事見付かったから良かったけど、やっぱり扉には鍵を掛けさせて貰うわよ?」

亜里沙「それはなんだか…」

   「監禁みたいで家族として不快な気持ちになるのは分かるけど、
    こっちも一人の患者にだけ構ってもいられないのよ」

亜里沙「はい…」

   「希の部屋にいた。
    これがなにを意味するか分かるでしょ?」

亜里沙「…はい」

   「話を聞いていてもそうだけど、あなたのお姉さんはまだ受け入れられていないの」

亜里沙「はい。 それはさっき私にも分かりました」

   「もしまたここから出ていって、事故にでも巻き込まれたら、うちの病院の責任になるの」

亜里沙「…はい」

   「だから分かって欲しいの」

亜里沙「はい…」




   「そう…。 希に会いに行っていたの…」

絵里 「希が心配していると思って…」

   「でもね、エリーがいなくなって私も心配だったの。
    私だけじゃない。 亜里沙も、ご両親も心配していたわ」

絵里 「そうね。 ごめんなさい、真姫」

真姫 「まぁ無事だったから良かったけど、今後は外出したくなったら私に言ってね」

絵里 「分かった、けど…」

真姫 「…けど? けど、なんなの?」

絵里 「私が家に帰らなかったら希が心配するし…」

真姫 「…」

絵里 「一緒にいたはずの希が途中でいなくなったのも、
    もしかしたら私に怒って出ていったんじゃ…」

真姫 「……」

絵里 「希が… もう来て欲しくないって言ってたの。
    やっぱり私、希を怒らせるようなことをしたのかも…」

真姫 「…エリー?」

絵里 「やっぱり私帰るわ。 ちゃんと謝らなくちゃ!」

真姫 「エリー…」

絵里 「帰ってご飯作るわ。
    いつも希に作って貰ってばっかりだったから、たまには私が…」

真姫 「エリー、聞いて?」

絵里 「買い物もしなくちゃ…」

真姫 「エリーっ!!」

絵里 「!? …なに?」

真姫 「エリー、思い出して…」

絵里 「なにを…?」

真姫 「あなたと希は一緒に住んでいた。
    大学生の頃から、卒業して就職してからも…」

絵里 「ええ… そうね」

真姫 「あなたは仕事で帰りが遅くなることが多かった」

絵里 「ええ… 希はいつも私のこと心配してくれたわ」

真姫 「そんなエリーを驚かせたかったのか、構って欲しかったのか…
    希はよく死んだ振りで出迎えていた…」

絵里 「ええ、そうよ」

真姫 「だからエリーも最初はその”いつも”だと思った…」

絵里 「…最初は?」

真姫 「あの日もエリーは仕事で帰りが遅かった…」

絵里 「…あの日?」

真姫 「あなたが帰宅したのは日付が変わる直前、そんな時間だった…」

絵里 「なにを…?」

真姫 「そしてあなたはそれを見た」

絵里 「なにを… 言っている、の…?」

真姫 「それでも最初は”いつものこと”だと思った」

絵里 「…」

真姫 「でも、その日はいつもと違っていた」

絵里 「…っ!!」

真姫 「ねぇ、エリー?」

絵里 「なっ… なに…?」

真姫 「そろそろ受け入れられない?」















絵里 「……!?」





  がちゃっ



  絵里 『ただいまー。 遅くなってごめんね』


  しーん…


  絵里 『そっか… いつもの、か…』

  絵里 『今日はどんな死に方なのかしら?』

  絵里 『もう完全にネタ切れじゃないかしら?』

  絵里 『ネタに走った方も、すっかりネタ切れっぽいわよね…』

  絵里 『さて、今回は…?』

 

  絵里 『えっ…?』









  絵里 『きゃあっ!?』

  仕事から遅い帰宅をした私を迎えたものは…












  血塗れで倒れている希の姿だった!!

  絵里 『……!』

  絵里 『初心に戻ったのね…』

  絵里 『希、今日はちょっとびっくりしちゃったわ』

  絵里 『久し振りの血塗れはさすがにこたえるわ』

  絵里 『今回は希の勝ちね』

  絵里 『ほら、起きて?』

  絵里 『私の負け、認めるわよ』

  絵里 『ねぇ、希?』















  絵里 『………のぞみ?






  絵里 『…希?』



  絵里 『のぞ、み…?』



  絵里 『えっ…?』



  絵里 『のぞみ…? のぞっ…!?』






  絵里 『のぞみぃぃぃいいいいっ!!!』







絵里 「……あっ」






真姫 「…エリー?」

絵里 「そう、だった…わね…」

真姫 「エリー?」

絵里 「あの日…」

真姫 「…思い出したの?」

絵里 「私… 仕事で帰りが遅くなって…」

真姫 「大丈夫…?」

絵里 「いつものことだと思った…」

真姫 「…」

絵里 「いつものことだと思ったのに…」

真姫 「…」







   希   『そろそろ受け入れて?』






絵里 「そっか… 思い出した…」

絵里 「いえ、違うわ…」

絵里 「漸く受け入れられたわ…」

絵里 「あの日はいつもと違った…」

絵里 「あの日はいつもの死んだ振りじゃなかった…」

絵里 「あの日は本当に…」







絵里 「家に帰ると希が死んでいた」

以上です。
読んでくれてありがとうございました。

>>82
』忘れた…

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