強くてニューゲーム-成瀬順の場合- (42)

初めまして、
心が叫びたがってるんだ。の二次創作です。

よろしくお願いします。

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 ふれ交の翌日。太陽の光はいつもより少し眩しかったけど、それでも包み込む様な優しい温もりを持って私を目覚めさせてくれた。
 昨日一日で自分の身に起きたこと、全てに現実感が無く、今ここに自分がいる事でさえまるで夢みたいに感じる。
寝起きの体は固まってしまった泥のように重たいけど、心は朝からスキップをかましてしまいたくなるくらいに軽い。

 全てが変わったとは思わない。
人生はそんなに単純じゃないのは知っている。
積もり積もった10年弱、私が言葉を失っていた空白の時間をそう簡単に取り戻せるとは思わないけど。
 それでもこれからの毎日が今までより少しだけ、太陽の光みたくあったかい期待に満ちた日々になりそうだという事は簡単に予想が出来た。

「あれ?」
部屋のどこを見渡しても制服の冬服がないことに気づいたのはすぐ後の事だった。
おかしい、確かに昨日の時点でいつも通りの場所に用意してそれから眠りについた筈だ。
いくらなんでも今日遅刻するのはまずい。ただでさえ昨日の舞台に遅刻したばかりじゃないか。


………あまりに色々な事が起き過ぎて、そんな簡単な事も忘れるくらい疲れていたのだろうか。
ふれ交があったのは土曜日、つまり今日は日曜だと言うことに気づいたのはそれから10分後。
部屋中探し回った挙句、少しだけ空いたクローゼットの隙間に見える目的のものを見つけ、引っ張り出したその時だった。

「順!遅刻するわよ、何やってるの!」
階下から母の呼ぶ声がする。
まさかしっかり者の母も私と同じように勘違いをしているのだろうか。
そう思うと自然に頬が上がる。

 あれから家に帰った私は今まで玉子の呪いに奪われていた時間を奪い返すかの様に長いあいだ話続けた。
急に流暢に話始める娘を前に母は少し戸惑っていたようだったけれど、夜が更ける頃には少し眉を下げ、それでも笑顔を浮かべてまた明日話しましょう、とそう言ってくれたのだ。
母と私の間に生まれた鋭く深い溝は、まだまだ底が見えない位だけど、それでもこれから埋めていこう。
そう思う私に、母からかけられた言葉はある意味冬の気候以上に刺すような冷たさ、そんな感情を伴った物だった


「なんで冬服なんて…!はぁ、この子ったら…」
苛立ちと呆れの感情が篭った冷たい声は私を酷く責め立て、言い訳をする時間を与えてはくれなかった。
言われるがままに冬服を脱ぎ捨てると追い立てられる様に家を出る。
覚悟していた程の寒さは感じられず、確かに今日は冬日和と言えるのかもしれない。
ふと見ると通学路には幾人かの生徒が気だるそうな顔をして歩いているのが見えた。


流されるまま通学路を進む。
訳が分からないまま少しだけ不安の混じった気持ちで歩いているとほどなく見慣れた顔を見つけた。
私はほっとした気持ちでその人物、田崎大樹に声をかける。


「た、田崎君、おはようございます。あのね、昨日の話なんですけど…」
「あん?」
まだ、多少のぎこちなさを持って声をかけた私に対して、田崎君から返ってきたのは困惑の感情と、威圧するような鋭い眼光だけだった。

「ちょ、ちょっと大ちゃん、成瀬と仲良かったの!?」
「は?知らねぇよ、こんな奴」
田崎君の傍にいたらしいクラスメイトの三嶋君が言葉を投げかける。
 内緒話をしようとしたのであろう声量を少し落としたその会話は、しかしながら耳を澄ませる必要もない程の音量を保って私の元へ届いてしまった。

いたたまれなさから逃げる様にその場から走り去ると、教室で自分の席へと着席し携帯を開く。
「うぅ、坂上君、坂上君…!」
何が起きてるのか全く分からない。
携帯を開き半ベソをかきながらもつい彼の名前を探してしまった私は昨日フラれたばかりだという事を思い出す。
そうだ、もう何かあったからって坂上君を頼りには出来ないんだ…
そう考えると少しだけ胸の奥が痛んだが、その痛みでさえ無駄な物であると私に気づかせてくれたのはアドレス帳に彼の名前がないという、ただそれだけの事実だった。


プツリ、と張り詰めた糸を切った時のような嫌な音が頭の中から聞こえた気がした。




















【成瀬順は時間を逆行している。】
一度気付いてしまえば、全ての出来事がその事実を裏付けている様に感じ、私はまるでSF小説じみたこの状況から目を逸らすのはむしろ不自然なように思えた。


不思議な気持ちだ。
こんな奇怪な現象に巻き込まれたというのに私の心はもう坂上君の事しか考えられなくなっている。
ふれ交に向けて皆で共に頑張ったあの時間、皆との絆が消えてしまったのは残念だけど、おかげで現状彼と私の関係はフラットそのものだ。

まずは可愛らしい女の子にならなきゃいけない。
仁藤さんみたく、明るくて女の子らしくて、"玉子の呪い"とかイタい事なんて絶対言わない可愛らしい女の子に。
坂上君が好きなタイプの可愛らしい女の子に。
坂上君の為だったら私はなんでも出来る。


坂上君は長い髪の方が好きかな。
化粧も濃いのは嫌いだろうな。
あ、そうだ!音楽もいっぱい聞いて勉強しなきゃ。




























(ねぇ坂上君、私をちゃんと見てよ。
あなたにとって私は守ってあげなきゃいけない、もしかしたら妹みたいな存在の女の子だったのかもしれないけれど。
私にとってはそうじゃない。
私にとってあなたはやっと現れた王子様で、
例え坂上君のお姫様が仁藤さんだったと知っても諦める事なんか出来そうに無いくらいには。私は)

2話目いきます。

「王子様を待っていたの。」
なおも話し続ける目の前の少女を見ると、きっと自分はからかわれてるのだという思いがよぎる。
もし、からかってるのでなければ彼女はきっと今朝見た夢の話でもしているのだ。

朝、強烈な悪夢を見て目を覚ました少女は、しかしながらいつも通りの日常が目の前にある事に安堵する。
淹れたてのコーヒーの香りに包まれて彼女の日常は穏やかに過ぎていく。
今日は何をしよう、前から気になっていた映画でも観にいこうか。
そうだ、それがいい。嫌な悪夢なんかは誰かに話してさっさと忘れてしまうのが一番だ。

そうして今、自分は彼女が気分良く1日を送る為の作り話めいた愚痴に付き合わされているのだ。そうとしか考えられない程度には現実離れした話。


それでもその目に不安の色を宿しながらただただ縋るようにして声を絞り出す少女、成瀬順はとうとう坂上拓実が現実から目を背ける事を許してはくれなかった。









強くてニューゲームー坂上拓実の場合ー








「はい、坂上君」
「ん、ありがと」
まるで人形みたいだ。
薄く笑って拓実の分の弁当を差し出す成瀬を見て拓実は少しだけそう思った。
料理する時に切ったであろう人差し指に貼られた絆創膏は、それだって人形が人間のふりをする為にワザとしているんじゃないかってくらいだ。
そんな印象を受けてしまうくらい、目の前の成瀬という少女は年不相応に欠点らしい欠点のない女の子だった。

自分では結構書いていたつもりでも、こうして投稿してみるとだいぶ短いもんですね。汗

書き溜めが尽きたので、ひとまずこちらで退散します。

またよろしくお願い致します。

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