もこっち「モテないし神の子になる」(28)

高3の冬の初め。

吉田さんや田村さん等高一年の時に比べ話し相手はいくらかできたがある問題がある。

非常にこれまでの人生を悔いている。

小学校ではアホみたいなあだ名をつけいじめられ、中学校で内心見くだしつつ仲良くなったゆうちゃんは今やスクールカースト上位の仲間入り。

それでも私を親友として見てくれているからタチが悪い。それもあってか同性なのに気を抜けば彼女で変なことを考えてしまい
よけい自己嫌悪に陥る始末。

そして未だに弟以外の男との縁などかけらもない。

果たして自分に青春などあっただろうか?なかったとしてそれは自分のせいか?

いや、違う。この世界が間違っている。



もういいや。こんな世界さっさとぶっ壊れろ。
そう夢現つに思いつつ、智子は机に突っ伏す。
数分ほど後に彼女の目を覚ましたのは、クラスメイトの悲鳴だった。

「きゃああああああああ!!!!」

「先生が!先生がぁ!!!」

「荻野先生の首飛んだぞおい!!!」

思わず顔を上げる。
そこにあるのは先ほどまでHRを行っていた智子のクラスの担任、
荻野だったものだった。

いつもの体育教師らしい青いジャージなのは変わらないが、

首から上がなくなり、もたれかかりながら倒れたのか壁に血をこすりつけながら
座り込むようにして事切れている。

・・・なに?これ

智子はあたりを見回す。
真っ先に目についたのは教壇の上のダルマだった。

「ぁれなn

「ちょっとみんな!なにあれ!机の上!」

どこかの音声合成ソフトのキャラクターのうような長いツインテール。

幼さの残る顔立ち。
智子の声を遮り叫んだのは3年間ずっと同じクラスの根元陽菜だった。

「は・・・?だるま?」

「なんだあれ・・・いつのまに」

「意味わかんねえよ!!なんなんだこれ!」

悲鳴がほんの少しだけ集まり、クラスメイトの関心は徐々にダルマの方へ流れた。

智子は、その様子を見たダルマが少し笑った気がした。

「だぁーるまさんがぁー....」

そういってダルマが少しずつ回り始めた。

全く意味がわからない。

智子は全く騒いでいない数少ない一人だったが、当然落ち着いていたわけでは決してない。

この状況の意味が分からないのは勿論のこと、
ゲーム以外で人の死体を見るのなんて初めてだし、頭も真っ白になり足のがくがくと震えている。

ただ彼女の性分として大声を出したりするのが苦手なだけである。

だがそんな状況でも一つだけ理解できた。

やばい。

今から、よくわからないがとてつもなくやばいことが始まる。

そう智子に思わせたのは彼女の深層心理の動物的直感だった。

この状況下で生き残る方法を考えよ!
そう彼女の心の中で生存本能が大音量で叫んでいた。

「おい!!ダルマ動き出したぞ!!」
「よくわかんないけどヤバイよこれ!逃げよ!!男子早くドア開けて!!」
「うっせえ!開かねえんだよ!!んだこれ!」

「ころんだ!!」
そう言ってダルマが一回転しこちらが向きなおると同時に、教室から脱出しようと四苦八苦していた生徒たち、腰を抜かしじたばたする生徒たち、

どういう理屈か椅子をぶつけても割れない窓を相手に脱出せんと格闘していた生徒たち。
ようは動いていた生徒たち。

それらの頭が全て吹き飛んだ。

「ぎゃああああああああ!!」

そこからはもう死の連鎖であった。叫びながら逃げようとした女子生徒の首が飛び、

腰を抜かし倒れこんだ生徒の頭が爆ぜ、

前かがみになり嘔吐した生徒の頭が血煙と化した。

智子はなんとなく死の条件に気付きかけていたが、もとからのコミュ障と声帯の硬直が合わさりうまいこと声が出ない。

「動くなぁっ!」

そんななかクラスメイトに一括したのは、
金に染めた髪に眼鏡、長身の男子生徒、
清田だった。
「ハァッ・・・動いたら死ぬぞ・・・」
お調子者の彼だが、今のその顔は強張り脂汗まみれだった。

「は?は?は?清田お前なんなんだよいきなり」

男子生徒の一人が震える声で反発し始める
「いや・・・これって要するに『ダルマさんがころんだ』じゃないのか?」
清田がそう言うと、男子生徒はパニックと
苛立ちで我鳴り始めた。
「なんなんだこれぇ!!!??清田お前なんか知ってんのか!?」

「知るかバカ!!ただ現に動いたやつだけが死んでんじゃねえか!動きゃ死ぬんだよ!
それってつまりそういうことだろ!」

再?

>>8
はい

「ちょっと待ってよ・・・本当に『ダルマ』だったとしていきなり何これ・・・
テロかなんか?」

そう口を挟んだのはデコ出しが印象的なギャル風のバスケ部女子、岡田だった。

男勝りな性格だが、今は涙目になり小刻みに震えている。

「あっあれ・・・」
智子はこちらに向けられているダルマの背中にあるものを見つけ、思わず声が出た。

「どうした黒木さん!?」

「『おしたならおわり・・・?』」
ダルマの背中には習字筆のような自体で書かれたその一文と、その下に赤く丸いスイッチ、そして小さな液晶画面があった。

液晶画面にはタイマーが映されており、1秒ずつ減っている。

残り時間はあと6分弱だった。

「だぁーるーまぁーさぁーんーがぁー.....

ころんだ!!」
「要するに」
清田が口を開いた

「あれが背を向けてる間だけ動けて、
制限時間内にあれを押せばダルマさんがころんだは終わる・・・
そういうことか?」

「でも・・・あのボタン押したらどうなるか分かんねえだろ?全員死ぬかもしんねえし」男子生徒の一人が反論する。
「んなこと言ったってあの制限時間が切れたらおそらく絶対死ぬでしょ!?
此の期に及んでなにいってんのアホか!?!?」
ポニーテールの女子、大松がヒステリック気味にさらに反論する。

「みんなちょっと落ち着いて!」
岡田が静止した。

「さっきタイマー見た時、もう5分切ってた。
時間切れはなにが起きるの?全滅?

だったら押しに行った方がいいでしょ」

「だぁー...」
「うああああああああ!!」
ダルマが背を向けると同時に岡田は走り出した。

それに鼓舞されるかのように清田が叫ぶ。
「俺もいくぞ!!生きる!!生き残る!!」

それが引き金になり他の生徒の動き始めた。
「うおおおおおおお!!」

「....るまさんがころんだ!!!」

鳴り響く数十発の液体が入ったかめが爆ぜる様な音。

目をやれば岡田と清田をはじめとした大量の死体。

智子は動けなくなっていた。
首が動かないよう注意しながら周りを見る。

死体。
死体。
死体。
自分以外の生き残りは最早根元のみだった。
両手で顔を覆い震えている。 泣いているのか手からは雫が滴り落ちていた。

「誰かぁ・・・生きてる?」

根元が手で顔を覆い隠したままか細い涙声でそう言った。
「ね 根元さん」
智子が返事を返す。

「!...黒木さん...!?..どうしよう...時間もないし...みんなも死んじゃったし.......」
「とと、取り敢えず今ゎ、えう...」
くそ。
こんな状況でもまともに話せない自分に嫌気がさす。
「とととらえずいまわ、ボタンをおしいくのがベストだと思う」
舌足らずだが、やっとそれだけ言えた。
「行くしかないよね...」
「つぎでぃこう」
「・・・うん!距離も時間ももうないし」

「だぁーるーまぁーさぁー」
ダルマが動き出した。残り5秒と表示されたタイマーをみてやや怯んだが、
ダルマの方へ全力疾走した。
3
「うああああああああ!!!」
2
走りが速い、それだぇが智子のほぼ唯一の取り柄だった。
短距離だが今まさにそれが発揮されていた。
1
バチンッ
教壇へダイブしダルマに抱きつく様にしてボタンを押す。
勢い余ってチョーク受けや机の角にいろいろなところをぶつけてしまった。

ガタァンッ
「痛った...」

ダルマ思わずダルマから手を離す。
ダルマはごろごろと10時の方向へ転がっていった。
ダルマは途中で止まり、暫く沈黙していた。
智子と根元の間に緊張が走る。

「終~~~~~~了~~~~~~~。」
ダルマから流れる腑抜けた音声。
だがそれは今の2人にとってどんな音楽よりも素晴らしいものに聞こえた。」

「やった...!生きのこった...!」
「やった!やった!すごいよ黒木さん!!」
数秒の間の至福の時。

安堵と喜びの入り混じった根元の顔面は一瞬にして消し飛んだ。

そしてやがて根元の胴体も、智子の視界から倒れて消える。
そこに残っていたのは、自分自身と、ダルマと、大量のクラスメイトの死体、
血だまりとそれと腸の内容物の臭いが入り混じった不快な異臭のみだった。
「黒木智子、生きる!」
ダルマがそう言った。
「うああああああああああああ!!!!」
それが智子の最後の記憶だった。

数十分後、目を覚ました。

これ以上見たくもない見慣れた教室。
だがいつもと違うことに気づく。

異臭。

理由は分からないがどうやら教壇の上で寝ていた様だ。取り敢えず起き上がろう。


智子は目の前のおびただしい量の死体を見て、瞬時に全てを思い出した。

「お"え"ぇ"え"え"っ」

吐いた。
胃液しか出なくなるまでとにかく吐いた。
頭を垂れハァハァと荒い呼吸を繰り返していると、横から声がした。

「お前はネズミや」
おっさんの様な声色。ダルマだった。

「もうすぐ来るでぇ~
ネコ来るで~
はよ体育館いきなはれ
お前はネズミや
もうすぐ来るでぇ~」
リピートしているようだ。
こいつの命令に逆らえばどうなるか分からない。
それ以前にこれ以上こんなところにいてたまるか。

智子は死臭の立ちこめる教室を後にし、廊下に出た。

「あれ、クソムシ・・・!?」
聞き慣れた女子にしてはやや低い以外とくに特徴はないが癪に障る声。

智子は声のする方を見た。

やはりだった。小宮山琴美がそこにいた。
「んだお前・・・あ・・・もしかして・・・」
暴言に苛立ち詰め寄ったところで智子はあることを察し立ち止まった。
「やっぱり・・・?お前のクラスも・・・?」
智子が口を開く前に小宮山が智子が考えていたことと同じ疑問を問うた。
「うん・・・あのダルマに...ていうかまさか学校中がこんな状態なのかこれって・・・」
「その可能性は高いと思う...
あっ携帯は?警察!」
小宮山に促され智子は携帯を取り出す。
犬猿の仲とはいえこの状況である。
ぼっち同士普段から話す相手に会えたことを互いに安心していた。

「圏外っぽいぞ・・・ポケットWi-Fi持ってんのになんでだ・・・」

智子がそう伝えると小宮山も自身の携帯を確認した、が、同じだった。

「くそっ・・・どうする・・?体育館行くか・・・」
「しょうがない...」

智子と小宮山が体育館へ向かうと、すでに数人が集まっていた。
体育館の中心には筆モップかなにかで書かれたような字体で
「ネコにスズつけたならおわり」と書いてある。 体育館の隅にはゼッケンが貼られたネズミのコスチュームのようなものと床に「ネズミ着」と書かれてあった。

智樹、智樹の友人3人、初芝、
事故か何かで入院して留年してしまったらしい去年の生徒会長今江恵美、
吉田、田村、うっちー、
3年の知らない同級生数人、
1年が数人、そして小宮山と自分。
一通りメンバーを確認するとそんなところだった。

「えっとー...これで全員かな」

そう言いながら今江があたりを見回す。
留年したとはいえ不可抗力だったため本人もあまり引け目は感じていないらしい。

「事故」、というだけで原因は深く語られないが。
「姉ちゃん・・・!」
学校では可能な限り智子に対しガン無視を決め込んでいた智樹が珍しく自分から彼女に話しかけてきた。

智樹が来た途端に耳まで真っ赤にして俯き始めた小宮山をよそに、二人は話し続ける。
「やっぱお前のクラスにもダルマが来たんか?」
「うん。んでスイッチを押した俺だけ生き残った。
他の連中に聞いても同じ経緯でここにいるらしい。つまり全クラスで同じことが起きてたんだよ」

「んで、ここでも多分似たようなことが始まる。
今確認できてんのは『ネコ』が来るらしいこと、俺たちには全員に『ネズミ着』とやらが与えられてること。それと」

智樹は足元にあったバスケットボール大の黄色い球を持ち上げた。
「この『鈴』をつければクリアだってこと。 全員助かるのか一人だけかは分かんねえけど」

智子は鈴とやらに目をやると、それにもやはりタイマーが付いていた。

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