千夜「チノちゃん、ぎゅーっ」 (108)

千夜「や、やめてください……ココアさん」

千夜「えー? だって春休み終わったら、もふもふする時間もなくなるんだよー? 今の内にもふもふしてチノちゃん成分を補充しとかないとねー」

千夜「ほどほどにしとけよー」

千夜「(モカさんが帰ってからというもの、何だかココアさんのスキンシップがより激しくなった気がします)」

千夜「チノちゃん、チノちゃん。ほら、お姉ちゃんって呼んで?」

千夜「(ここは一つ強めに拒絶して、私が妹じゃないことを再認させる必要があります)」

千夜「だ、だから、やめてください! ココアさん!」ドンッ

千夜「わわっ!」

千夜「チノ?」

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千夜「そうやって出会う度に抱きつかれると迷惑なんです!」

千夜「ご、ごめんね! チノちゃん! そんなに怒るとは思わなかったから………」

千夜「怒られなかったら良いと思っているんですか? 己の行為を反省して自分から正そうともしない人が私のお姉ちゃんを名乗らないでください」

千夜「ううっ………」グスッ

千夜「まあまあ、ココアも悪気があったわけでもないし、もふもふもいつものことだから、ついココアも少し度がすぎただけだろ? 許してやれよ、チノ」

千夜「そうやっていつも見過ごしてきたからココアさんも調子に乗るんです」

千夜「そもそもリゼさんにはココアさんの教育係を任せていたのですから、ココアさんのこの体たらくは教官であるリゼさんの責任でもあるんです。なに人事のように傍観者を気取っているんですか?」

千夜「そ、それはだな……」

千夜「まあ、そこは別にいいです。リゼさんが厳しくできないタチであるのは私も知っていましたし。だから、そんなリゼさんを教育係にした私にも責はあります」

千夜「さて、さっきから急に大人しくなったココアさん」

千夜「な、なに?」

千夜「倉庫から、コーヒー豆を運んできてくれますか。もふもふするほどの元気があるんです、お願いします」

千夜「うん、わかったよ………チノちゃん」トボトボ

千夜「ココア………」

倉庫

千夜「おーい、ココア」

千夜「………リゼちゃん、どうしたの?」

千夜「ココアの手伝いに来たんだよ。ほら、豆は重たいだろ? ココア一人じゃ大変だと思って」

千夜「ありがとう、リゼちゃん」

千夜「じゃあ、さっさと片付けるぞ」

千夜「………」エッサホッサ

千夜「………」エッサホッサ

千夜「ねえ、リゼちゃん」

千夜「なんだ?」

千夜「チノちゃんに嫌われちゃった………どうしよう?」

千夜「そんな深刻に考えることはないんじゃないか」

千夜「でも………」

千夜「ココアがチノに煙たがられるのはいつものことじゃないか」

千夜「ひどーい!」

千夜「はは、冗談だよ。でも、確かに最近のココアはちょっとチノにべったりだったし、何かあったのか?」

千夜「えっ! 別に何でもないよー!」

千夜「いつもならあれぐらいのことは笑って流してたじゃないか。今回はココアにしては珍しく少し落ち込んでるように見えるぞ」

千夜「えっと、そうかな………えへへ」

千夜「ああ。私とココアは親友だから、隠しごとは無駄だぞ」

千夜「リゼちゃんには敵わないや」

千夜「一番の親友ぐらいには悩みを聞かせてくれてもいいんじゃないか?」

千夜「………ちょっと、待って。えっと、一番の親友は千夜ちゃんだから」

千夜「………千夜? まあ私と千夜ともどもココアにとって一番の親友ということだろ?」

千夜「違うから。千夜ちゃんが一番だから。リゼちゃんは二番だから」

千夜「親友に順番なんて―――――」

千夜「そこははっきりさせておきたいから」

千夜「………」

千夜「………」

千夜「ま、まあ、確かに私は千夜ほどココアと波長が合うわけでもないしな」

千夜「そうだよ! 千夜ちゃんは優しくて美人な大和撫子で、無骨なリゼちゃんとは比べ物にならないくらい女の子らしいんだから!」

千夜「! そうだったな! いつも可憐な笑顔で周りの人に元気を与えてくれるココアのことを真に理解できるのは、女性らしさを備えた千夜しかいないな! すまない、所詮私はココアの二番目こそふさわしかった」

千夜「わかってくれた? でも、大丈夫だよ、私は優しいから二番目であるリゼちゃんに対しても沢山愛情を注いであげるね! 一番は千夜ちゃんだけどね!」

千夜「ありがとう! ココア!」

千夜「どういたしまして! リゼちゃん!」

§

千夜「こほん。それでココア、二番目の親友である私ぐらいには悩みを教えてくれてもいいんじゃないか?」

千夜「えっと最近、私がチノちゃんにべったりな理由だったよね?」

千夜「ああ」

千夜「うーんと、どうしようかな。………あれだよーあれ」

千夜「………えーと、モカさんが関わっているのか?」

千夜「そうだよ! そうそう!」

千夜「………私はお姉ちゃんに勝てるところが一つもないから」

千夜「いや、そんなことは………」

千夜「リゼちゃんだって、お姉ちゃんにもふもふされて満更でもなさそうだったよ?」

千夜「………ほら、私はみんなより年上だろ? だから、ああいう扱いには少し不慣れなだけであって」

千夜「リゼちゃん、お姉ちゃんと比較して私のことを『茶番』だって言ってたよね?」

千夜「どうしてココアがそれを………」

千夜「知ってるよ。私が何も知らないと思ったら大間違いだよ」

千夜「いや、あれは冗談というか………」

千夜「………」

千夜「………すまなかった」

千夜「リゼちゃんが謝ることはないよ。私がお姉ちゃんの下位互換なのは事実だもんね」

千夜「おい、ココア! 頼むから自分のことをそんな卑下しないでくれ!」

千夜「そんなのないよ」

千夜「ある! チノも私もココアの明るい雰囲気に助けられているんだ」

千夜「明るいだけなら、お姉ちゃんも同じだし、それにお姉ちゃんは私と違って余裕もあるし。そもそも今の私がリゼちゃんの言うように明るい娘に見える?」

千夜「だが、ココアのおかげでチノの表情も豊かになってお客との会話も増えたし、それで常連も増えた」

千夜「でも、それもお姉ちゃんなら簡単に」

千夜「そういう話じゃないだろ? 親しみを持っているのはココアという個人にであってモカさんじゃない。それはチノにとっても私にとっても同じことだ」

千夜「それでも私がお姉ちゃんに劣るということに変わりはないよ」

千夜「(思ったよりも重症かもしれないな)」

千夜「だから、チノちゃんをがっかりさせないためにこれまでよりも頑張ったよ………けど、嫌われちゃった」

千夜「いつもよりチノにべったりだったのはそのせいか」

千夜「チノちゃん、お姉ちゃんに懐いてたから、寂しくないようにいつも一緒にいようと」

千夜「ココアにはココアの魅力があるんだし、モカさんの代わりになろうと意気込む必要はないんじゃないか」

千夜「でも、私がお姉ちゃんぽくならないと、チノちゃんに愛想尽かされちゃうよ………」

千夜「そんな簡単にチノがココアのことを嫌いになるわけないだろ? さっきのチノもただちょっと機嫌が悪かっただけで本心からの言葉じゃないはずだぞ」

千夜「そんなことがリゼちゃんにどうして分かるの?」

千夜「分かるさ。私はチノとはココアよりも長い付き合いなんだぞ? ふふん」

千夜「そっか、そうだよね。リゼちゃんの方がチノちゃんのお姉さんにぴったりだよね………」

千夜「………そこは対抗心を燃やすところだろ」

千夜「(焦燥感だけが空回って、何をすればいいのか自分でも分かっていないという感じだな)」

千夜「ココア聞いてくれ」

千夜「なーに? リゼちゃん」

千夜「ココアが今まで頑張ってきたことは分かった。そこでだ、今度は努力の方向性を変えるというのはどうだ?」

千夜「どういうこと?」

千夜「チノに姉として以外のあり方で関わってみたらどうだ?」

千夜「………」

千夜「視点を変えてみることで、今までにない役割を見つけれるかもしれないだろ? そして、それはモカさんにも出来ないことかもしれない」

千夜「そんなの」

千夜「今までのココアはモカさんの土俵で正面から殴り合っているようなんもんだったんだ、きっと」

千夜「お姉ちゃんとそんなことしたことないよ?」

千夜「ただの比喩だよ。ココアはモカさんの得意分野でばかり勝とうとしてきたんじゃないか?」

千夜「だって、お姉ちゃんって何でも出来るから………全部が得意分野なんだよーすごいでしょー!」

千夜「そこは誇らしげなんだな」

千夜「うん。自慢のお姉ちゃんだよ」

千夜「(きっとそうやって理想としてモカさんに憧れ続ける限り、ココアの劣等感も消えることはないか)」

千夜「ココアがモカさんを自慢するのも分かるよ。すごい人だもんな」

千夜「えへへ」

千夜「でも、モカさんだって、完璧超人でもあるまいし、ココアよりも下手っぴなこともあるはずだ」

千夜「………もしかしてリゼちゃん、今お姉ちゃんのこと馬鹿にしたの?」

千夜「待て待て! 飛躍しすぎだ! 私はただあのモカさんにも苦手なことがあるはずだって言ってるだけだろ?」

千夜「お姉ちゃんは昔から何でも出来て苦手なことなんて一つもないよ。出来ないことなんてなーんにもないんだから」

千夜「それはココアが気づいてないだけ―――――」

千夜「私の方がリゼちゃんよりお姉ちゃんのことをよく知っているよ? リゼちゃんより長い付き合いだからね」

千夜「………そうだな。ココアの言う通りだ。モカさんに弱点なんてあるはずなかったな」

千夜「わかってくれた?」

千夜「ああ。モカさんは文字通り何でも出来るすごい人だ。まるで神様みたいな」

千夜「えへへ」

千夜「だったら、ココアはモカさんの代わりにはなれそうもないな」

千夜「え?」

千夜「だって、そうだろ? モカさんは誰よりも優れている、ココアよりも、私よりも、チノよりも」

千夜「神様みたいなモカさんに誰も敵うわけない。そんな人と自分を比較するだけ無駄だ。むしろ、比較すること自体が傲慢と言えるかもしれない」

千夜「リゼちゃん?」

千夜「ココア。モカさんに劣っているからと言って悩む必要はないぞ。みんなモカさんに劣っているんだからな」

千夜「………みんな」

千夜「そうみんなだ。シャロもマヤもメグもタカヒロさんも青山さんも同じだ。みんな同じなんだから何も悩むことはないだろ?」

千夜「でも、私はお姉ちゃんみたいに」

千夜「それだったら、まず自分のできることを一つ一つやっていかないとな」

千夜「自分の出来ること?」

千夜「そうだ。だから、たまにはチノに対しても違う接し方をしてみて、出来ることを新しく探し出すのもいいんじゃないか?」

ニコ動で第九羽が配信されてて見直したけど、やっぱり千夜ちゃん可愛い

でも、16分47秒あたりの千夜部屋のシーンに不満を抱いた人も多かったのではないでしょうか
今話では窓枠に並ぶ本が同じ背丈で種類も均一化されていましたが、一期第十羽のアルバム回では窓枠の本はバラバラで名前が読み取れる範囲では『茶道の哲学』と『数学Ⅰ』がありました
その数学1の本は三百頁はあったので恐らく教科書ではなく参考書であり、千夜ちゃんが影ながら苦手科目を克服しようとする努力が見て取れていいなと思っていたのですが、なくなりましたね、はい

学年が上がって不要になったとはいえ、付箋とかついた『数学Ⅰ』が置いてあったらなと思った(小並感)
私はアニメしか見てないにわかなので、そんなにダメージは受けてませんが、プロ千夜スキーには悔しいところだったのではないでしょうか

千夜「そんなことで何か変わるのかな?」

千夜「それはやってみないと分からないけど………悪いことにはならないと思う」

千夜「チノちゃんとまた仲良くできるかな?」

千夜「出来るさ。そもそもチノはココアのことを嫌っているわけでもないんだし。でも、それでチノの負担を減らせれば、チノもココアにこれまでよりも頼ってくるかもな」

千夜「そっか。うん。違うやり方で頑張ってみるね! リゼちゃん!」

千夜「(これでココアの鬱屈した感じが少しでも解消されたら、またいつも通りのへこたれないココアに戻ってくれるよな?)」

§

千夜「………ココアさん、遅かったですね」

千夜「ごめんね。チノちゃん」

千夜「すまない。私が少しココアにちょっと無理をさせてしまった。それでかえって能率が悪くなった」

千夜「無理って………ココアさんは大丈夫なんですか?」

千夜「うん、大丈夫だよ。チノちゃん、ありがとう。じゃあ、私は注文を取ってくるね!」タッタッ

千夜「あ、ココアさん………」

千夜「チノちゃん、キリマンジャロを一つお願い」

千夜「わかりました」

千夜「………あ、ちょっとコーヒー豆の入った瓶は高い場所にあるね。うんしょ、はい、チノちゃん!」

千夜「あ、ありがとうございます」

千夜「高い所といえば、カウンター横のいつも絵やパズルを飾る壁についてる電球ってずっと切れてたね。付け替えておくね?」

千夜「………お願いします」

千夜「ふう。お仕事も一段落だね。あ、チノちゃん。帳簿は任せて。私、計算は得意なんだー」

千夜「え、でも………」

千夜「いいから、いいから。チノちゃん学校の宿題多いんでしょ? だから、私に任せて? 終わったらチノちゃんにちゃんと確認してもらうから」

千夜「………」

千夜「あ、それとおやつ時になって、常連さんが来たら、サービスで私のコーヒーを味見して貰ってもいいかな?」

千夜「………どうしてですか?」

千夜「ほら、私もバリスタを目指してるってチノちゃんに一応言っちゃったわけだし、ちゃんと一人一人に合わせたコーヒーも作れるようになっていかないといけないかなーって」

千夜「………わかりました。………頑張ってください」

§

千夜「じゃあ、買い出しに行ってくるねー!」ガチャバタン

千夜「(………助言した私がいうのもなんだが、あれからココアは人が変わったように働いた。自分のするべきことを見つけ無駄なく動く。すぐに根を上げていつも通りになるかと思っていたが………正直、ココアを見くびっていた)」

千夜「………」

千夜「(そのせいで別の問題も生じている)」

千夜「なあ、チノ。最近のココアをどう思う?」

千夜「以前とは比べ物にならないほど働き者になったのです」

千夜「………そうだな。でも、チノも寂しいんじゃないか?」

千夜「………そんなわけないです。嬉しい限りです。リゼさんは何を言ってるんですか」

千夜「そうは思えないが」

千夜「リゼさんの気のせいです」

千夜「チノは今何をしてるんだ?」

千夜「コーヒーの研究です」

千夜「ミルクココアにしか見えないけど」

千夜「ミルクココアに擬態したコーヒーなだけです」

千夜「(典型的なココアシックだ。以前はココアだと指摘してやったら正気に戻ったが、今回はやけに偏執的だな)」

千夜「なあ、チノ。最近のココアはどうなんだ?」

千夜「どうなんだって………先ほども言いましたが、とても仕事熱心になりました」

千夜「仕事を終えた後のココアは?」

千夜「………部屋に引きこもってます」

千夜「それは何をしてるんだ?」

千夜「勉強らしいです」

千夜「勉強? ココアが?」

千夜「はい。何でも苦手科目を克服するとか」

千夜「………なあ、チノ。本当はココアに構ってもらえなくなって寂しいんだろ?」

千夜「だから違います。ココアさんが静かになったので、趣味のボトルシップもたくさんできて、反対に嬉しいです」

千夜「そう意固地になるなよ。ココアに対して厳しくあたったのを気にしているのか?」

千夜「………」ガチャン

千夜「チノ?」

千夜「………ええ。そうかもしれません。私がココアさんにあんなことを言ったのが原因なのだから、今更以前のココアさんに戻ってとは言えないです」

千夜「でも、チノは今の状況を不満に思っているんだろ? 恥ずかしいかもしれないけど、自分から謝るのも大切なことだと―――――」

千夜「………それはできません!」

千夜「なぜだ?」

千夜「………ココアさんの変化はいいことだと思いますから。私を気にかけるよりも、ココアさんはココアさん自身を気にかける方がココアさんのためになります」

千夜「ココアはチノのために変わろうとしたんだぞ。チノはココアに甘えていい」

千夜「私はココアさんに甘える資格なんてないんです」

千夜「どうしてだ! なぜそんなことを言う?」

千夜「私はココアさんの妹じゃありませんから」

§

千夜「じゃあ、この前言ったようにアザーメニューの紅茶をもっと美味しくするために、今日はシャロちゃんのところで茶葉のことを勉強してくるね!」ガチャバタン

千夜「ココアさん………」

千夜「………」コンコン

千夜「(ノック音です)どうぞ」

千夜「よ、チノ。ココアは?」

千夜「………今日はシャロさんのところへ紅茶を学びに行きました」

千夜「………そうか」

千夜「あの、それでリゼさん………」

千夜「ほら、チノ」

千夜「………リゼお姉ちゃん」

千夜「なんだ? チノ」

千夜「あの、リゼお姉ちゃん、ぎゅーしてもらってもいい?」

千夜「………ああ! お安い御用さ! ………ぎゅーっ、これでいいか?」

千夜「………うん。リゼお姉ちゃん、暖かい」

千夜「チノもあったかいぞ。ほら、もふもふ、もふもふ」

千夜「(初めは責任感からだったのかもしれない。ココアに変わるようにそそのかしたのは私だったから、私が少しでもその穴埋めになればと)」

千夜「………リゼお姉ちゃん、くすぐったいよお」

千夜「ははは、チノは抱き心地がいいなあ、全く!」

千夜「(私の姉としての振る舞いは義務的でたどたどしかったに違いなかったが、心が弱っていたチノはそれでもその私の態度にすがるような好意を示してくれた)」

千夜「………ねえ、リゼお姉ちゃん、なでなでして?」

千夜「ああ。よしよし。チノの髪の毛はいつもサラサラで気持ちいいな」

千夜「(私に頼るチノ。ココアではなく私に。いつからか姉としての振る舞いを私自身が喜んで引き受けていた。ココアのためではない。チノのためでもない。私のために)」

千夜「………あの、リゼお姉ちゃん………ん、お願い」

千夜「………チノ、それは」

千夜「姉妹だと普通のことだよ?」

千夜「しかしだな、やっぱり私のイメージと………違うというか」

千夜「リゼお姉ちゃん。今更だよ?」

千夜「………わかった」

千夜「(もしかしたら私はチノの心を開いたココアに嫉妬していたのかもしれない。私より接した時間は短いにも関わらず、私以上にチノと親しくなったココアに。そうでなければ、こんなココアを裏切るようなことをするはず………)」

千夜「………リゼお姉ちゃん」クル

千夜「チノ………」クル

千夜「?」

千夜「………」くる、くる、ばたばた

千夜「………………」

千夜「ナレーション『チノとリゼの二人は潤んだ瞳を閉じ、ゆっくりと互いの顔を相手に近づけていく。短い、湿ったような音がした』」

千夜「なあ、チノ、やっぱり」

千夜「リゼお姉ちゃん。今日も一緒に寝てくれる?」

千夜「それは………」

千夜「………」

千夜「ココアが帰ってきたらどうするんだ」

千夜「大丈夫です。ココアさんがああ言って出て行った時に今まで帰ってきたことはないです」

千夜「………」

千夜「リゼお姉ちゃん」ぎゅ

千夜「………わかった。今日だけだぞ」

千夜「やった。リゼお姉ちゃんと一緒だと安心………」

千夜「(とんだ皮肉だな。チノがこうして本当に甘えたいのはココアなのに、チノはココアに冷たくしなければならないなんてな)」

千夜「リゼお姉ちゃん、はやくー」もぞもぞ

千夜「ああ。もふもふだ」もぞもぞ

千夜「ナレーション『扉の隙間から廊下に射し込んでいた線的な灯りが消える。ベッドで温め合う姉妹は知らない。暗く冷えた廊下で、ずっと扉を背にお山さん座りをしていたココアのことを』」

千夜「………」すく

千夜「ナレーション『ココアはチノと学んだバレエの足運びで音を立てずに外に出る』」

千夜「………あはは。いつの間にかチノちゃんのお姉ちゃんポジションはリゼちゃんに取られちゃってたんだね。………ふーん、そっかあ」トボトボ

千夜「………うっ、ぐすっ、ひどいよ、リゼちゃん。………信じてたのに」ポロポロ

千夜「あら? ココアちゃん? って、どうしたの!? それにまだ夜は肌寒いのにそんな薄着で………とりあえず、うちにあがって? それから、お話しましょう?」

千夜「………千夜ちゃん」

千夜「ナレーション『欠けた月も寒さでぼんやりする宵空、寂寥と失意の底にて木組みの街を往くココアの前に現れるは大天使チヤエル』」

千夜「………わあ! 千夜ちゃん、なにそれー? 天使の翼? なんで片方は白色でもう片方は黒色なのー?」

千夜「それはね。私が堕天使で、罪を背負うものだからよ!」

千夜「罪?」

千夜「ええ………」

千夜「それって何?」

千夜「恐ろしいことよ。翼の横幅が広すぎて、体を斜にしないと家に入れないの………!」ぐぐぐ

千夜「その罪を背中からおろして!?」

§

千夜「ありがとう、ココアちゃん。ココアちゃんのおかげでまた正面を向いて家に入ることができたわ」

千夜「あはは………もしかして千夜ちゃんって馬鹿?」

千夜「あら、ひどいわ。ココアちゃん」

千夜「………千夜ちゃんはいつもそうやって余裕な感じでとぼけるよね」

千夜「そうかしら? そんなつもりはないのだけど………」

千夜「天然さんって言うのかな? いつも自分は痛みを感じないところから、人を馬鹿にするのってさ」

千夜「………ココアちゃん」ぎゅ

千夜「なに? どうしたの? 千夜ちゃん」

千夜「何か辛いことがあったのね。私で良ければ、相談にのるわ」

千夜「………千夜ちゃんは私のことを受け入れてくれるの?」

千夜「ええ、勿論よ! どんなココアちゃんだって私は大好きよ」

千夜「だったら………!」どんっ

千夜「きゃっ! ………ココアちゃん?」

千夜「どんな私でも受け入れてくれるんだよね? 千夜ちゃんはそう言ったよね?」

千夜「ええ………」

千夜「だったら、千夜ちゃんのこと無茶苦茶にしてもいいよね?」

千夜「………そんなこと」

千夜「ダメなの? 千夜ちゃんは私を受け入れてくれないの?」

千夜「………」

千夜「ねえ? どうなの?」

千夜「………わかったわ。ココアちゃんの好きにしてちょうだい」

千夜「じゃ、ほら、お布団の上に寝転んで?」

千夜「………こ、こう?」

千夜「そうそう。えへへ、やっぱり千夜ちゃんの肌って白くて綺麗だね」つー

千夜「……あっ、やん、そんな首筋をくすぐらないで………」

千夜「まだ撫でただけなのに、千夜ちゃん、両腿をすり合わせちゃって可愛い」すっ

千夜「………あ、そこは」

千夜「やっぱり、千夜ちゃんの胸って大きいよね。聞いたよ? フルールの制服を着たら、ボタンを飛ばしたんだって?」もみもみ

千夜「………ココアちゃん、あんっ」

千夜「先っぽがもう硬くなってるよ? 千夜ちゃんっていやらしい娘だったんだ………こんな千夜ちゃんだって知られたら、みんなから失望されるね」

千夜「そ、そんなこと言わないで………!」

千夜「えー? 本当のことを言って何が悪いのー?」

千夜「私はそんないやらしい娘なんかじゃ………」

千夜「へー? じゃあ、これはどういうことかな?」くちゅくちゅ

千夜「………っあ、やだ」

千夜「いやらしい娘じゃないのに、どうしてこんなにお股を濡らしているの? ねえ、教えてよ、千夜ちゃん………!」くちゅくちゅ

千夜「………そ、それは………!」

千夜「千夜ちゃんがえっちな娘だからだよね? ちょっと体を撫でただけなのに、こんなにいやらしい音を出してさ!」ぐちゅぐちゅ

千夜「あっ、ココアちゃん、待って………! これ以上は、きちゃう、きちゃうからあっ」

千夜「ほら、もっと液を垂れ流してよっ! もっと千夜ちゃんのえっちで醜いところを私に見せてよ………!」ぐちゅぐちゅぐちゅっ

千夜「………あ、ああああっ!」びくびく

千夜「………」

千夜「はあっ、はあっ………!」

千夜「やっぱり千夜ちゃんだって、ただの変態さんだったね」

千夜「………こ、ココアちゃん。それは違うわ」

千夜「何が違うの?」

千夜「………私がこんな姿を見せたのは、それは相手がココアちゃんだったから」

千夜「………千夜ちゃん、そんな嘘はもう」

千夜「嘘なんかじゃないわ!」

千夜「嘘だよ。だって、みんな私を騙して裏でこっそり笑ってるんだよ」

千夜「………何があったのか分からないけど、私はココアちゃんを騙したりなんかしないわ! いえ、他のみんなもきっとそうよ!」

千夜「うるさいなー。千夜ちゃんって体力ないんじゃなかったの? どうしてそんなに元気なの?」

千夜「それは今のココアちゃんが辛そうだからよ。そんなココアちゃんを放っておいて、疲れで倒れるなんてできないわ」ぎゅっ

千夜「離れて!」どん

千夜「………っ!}

千夜「服が邪魔。脱がしちゃうね」

千夜「………ココアちゃん、やめて」

千夜「千夜ちゃんは私のおもちゃなんだから、黙って言うことを聞いてればいいの!」パン

千夜「………痛いわ。ココアちゃん」

千夜「だったら、言うこと聞いて」

千夜「………うう」

千夜「あはは。千夜ちゃん、犬みたい。四つん這いにすると、やっぱり胸の大きさが強調されるね」さわさわ

千夜「ココアちゃん、ちょっと力をいれすぎ………」

千夜「チノちゃんはこれにそそのかされたのかな? やっぱり」

千夜「な、なにを言ってるの?」

千夜「うるさい」ぱん

千夜「千夜ちゃんのお尻叩かれて赤くなってるよ」

千夜「………」

千夜「あれ? 千夜ちゃん、ちょっとお尻をもっと高くしてくれる?」

千夜「………」

千夜「………千夜ちゃん!」ぱん

千夜「………」ぐい

千夜「最初からそうしてれば良いのに。………やっぱり。千夜ちゃんってお尻叩かれて興奮してたんだね。ここ、濡れてるよ?」ぐちゅぐちゅ

千夜「………あ、ん」

千夜「千夜ちゃん。期待してたんでしょ? 私にここをこうされるのを!」ぐちゅぐちゅ

千夜「あっ! ココアちゃん! ココアちゃああんっ!」びくびく

千夜「千夜ちゃんって、本当に変態だったんだね。私もちょっと千夜ちゃんにはがっかりだよ。ほら、いって」ぐちゅぐちゅ

千夜「っココアちゃん………! いく、いくうっ!」ぷしゅぷしゅ

§

千夜「はあっ………! はあっ………!」

千夜「………ん、ふう」

千夜「………」

千夜「………」

千夜(………下着が濡れてて気持ちわるい)

千夜(着替えましょう)いそいそ

千夜「(お布団まで濡れちゃってる)………後始末ね」ふきふき

千夜「………」

千夜(少し気怠い感じ………)ぼー

千夜(………どうしようかしら?)

§

千夜「………えーっと」

千夜「………」

千夜「ココアちゃん」

千夜「なに、千夜ちゃん」

千夜「………ココアちゃんは、………ふう」

千夜「………えっと、千夜ちゃん、かわいい」

千夜「ありがとう」

千夜「………」

千夜「………」

千夜「あのね、ココアちゃん知ってる? 北斎様は九十年の生涯のうちに九十三回も引越ししたのよ?」

千夜「へーそうなんだ」

千夜「………」

千夜「………」

千夜「………このままじゃ何だかダメよ、千夜! ………少し時間をとりましょう」

千夜「………」かちゃかちゃ、とぽとぽ

千夜「………」ずずず

千夜「………」ずっずっずっずっ

千夜「………」ずずず、ずずずずっ! しゅこー! ずずず………

§

千夜「………千夜ちゃん、ごめんね。痛かったよね」さすさす

千夜「大丈夫よ、ココアちゃん」

千夜「千夜ちゃん、私のこと嫌いになったよね? こんなことしちゃったんだもん………」

千夜「………ココアちゃん」ぎゅ

千夜「千夜ちゃん………?」

千夜「安心して、ココアちゃん。私はココアちゃんのことを嫌いになったりなんてしないから」なでなで

千夜「嘘はやめてよ………あんなに叩いたりひどいこと言ったんだよ? 正直に私のこと嫌いだってはっきり言ってよ!」ばたばた

千夜「ココアちゃん………!」ぎゅうっ

千夜「だってぇ……っ! 嫌いなら嫌いって言ってくれた方がいいもんっ! それが言えないなら、せめて隠し通してよ………」ぐすっ

千夜「私がココアちゃんのことを大好きだってことは嘘偽りない言葉よ」なでなで

千夜「……ありがとう。千夜ちゃん」

千夜「落ち着いた?」

千夜「……うん」

千夜「何があったか教えてくれる?」

千夜「うん。実は――――」


千夜「――そう。そんなことが」

千夜「リゼちゃんの助言に従っていたら、いつの間にかチノちゃんとられてて、しかも私よりも甘えてたし……私どうしたらいいのかわかんなくて、それで千夜ちゃんにも」

千夜「ココアちゃん。私のことはもういいの。ココアちゃんがこれからどうしたいか考えましょう?」

千夜「私は…………」

千夜「裏切ったリゼちゃんに復讐したい?」

千夜「そんなことは考えてないよ! ただ……」

千夜「ただ?」

千夜「前と同じようにみんなで仲良くしたい」


千夜「前と同じようにって、リゼちゃんとチノちゃんの関係を見て見ぬ振りをするってこと?」

千夜「……うん。だって、しょうがないよ」

千夜「あのね。ココアちゃん、本当にそれでいいの? 自分の知らないところで、これからも二人のその関係は続いていくのよ?」

千夜「いいわけないよ……でも、私がそれを追及したら、私との関係だけじゃなく、チノちゃんとリゼちゃんの仲まで引き裂いちゃうかもしれないし、それなら私が我慢すれば」

千夜「ココアちゃんの馬鹿!」ぱし

千夜「……千夜ちゃん?」

千夜「一人だけが我慢して犠牲になるような関係なんて友達じゃないわ! そんな関係は潰れちゃえばいいのよ!」

千夜「……でも、私はチノちゃんのこともリゼちゃんのことも大好きだから、離れたくない」

千夜「だったら、なおのこと正面から向き合うべきよ。ココアちゃんの大好きな二人がココアちゃんだけに辛い思いをさせたいと思う?」

千夜「そうは思わないけど……」

千夜「だったら、行かないとね?」

千夜「今から?」

千夜「そう今からよ。今回はきっとココアちゃんが『現場』をおさえた方が良いわ。さあ、行って! ココアちゃん!」

千夜「……うん、そうだね……わかった! ありが」

千夜「だーめ。お礼は明日の良い報告でお願い、ね?」

千夜「……千夜ちゃん。私、ラビットハウスに今から行ってくるよ! ありがとう! 千夜ちゃん!」たったった

千夜「……もうお礼は明日って言ったのに。ココアちゃんたら……」


ラビットハウス

千夜「リゼお姉ちゃん、もう帰っちゃうの……?」

千夜「ああ。もう明け方だ。これ以上居座るとココアに見つかるかもしれないだろ」なでなで

千夜「うう、ココアさんなんて帰ってこなければいいのに……」

千夜「おい! 流石に今の言葉は言い過ぎだ!」

千夜「……すみません。でも、ココアさん最近冷たいですし」

千夜「やれやれ、ココアが聞いたらなんて思うか」

千夜「――――悪いけど、聞かせてもらったよ!」

千夜「ココアさん!?」

千夜「ココア、どうしてここに!?」

千夜「リゼちゃん。ここ私が今住んでるところなんだから、居てもおかしくないよね」

千夜「……ああ、そうだったな」

千夜「逆にリゼちゃんがどうしてここに居るのか私は聞きたいよ」

千夜「あの、ココアさん、それはですね」

千夜「いいよ。分かっているから。リゼちゃんと姉妹のやりとりをしてたんだよね?}

千夜「ココア! さっきの言葉はだな。ただの遊びっていうか……」

千夜「へえ、じゃあさっきチノちゃんがリゼちゃんのことをお姉ちゃんと言ったのは何かの間違いだったの?」

千夜「……」

千夜「ああ、そういうことになるな」

千夜「おかしいな。それなら昨晩ずっとチノちゃんは間違いっぱなしだったんだねー?」

千夜「ココアさん、まさか昨夜いたんですか!?」

千夜「なっ……騙すとは卑怯だぞ」

千夜「卑怯なのはどっち! 私にはチノちゃんに冷たくしろと言っておいて、自分はチノちゃんのお姉ちゃん! 裏切られた気分だよ!」

千夜「うっ、それはすまない……」

千夜「チノちゃんもチノちゃんだよ。私のときは、冷たくあしらっておいたくせに、リゼちゃんには甘えん坊さんで。私ってチノちゃんにとってそんな魅力なかったのかな?」

千夜「そ、そんなわけではありません! ただあの時は気恥ずかしくて、その、つい厳しくしてしまったと言いますか……」

千夜「リゼちゃんなら気恥ずかしくなかったの?」

千夜「いえ、そういうわけでは。ただココアさんが離れていって、そこで初めて寂しさを感じてしまって……」

千夜「寂しいからって、浮気のいいわけじゃないんだから。それに寂しいなら私に言ってくれれば良かったよね?」

千夜「うう、それも厳しく当たってしまったてまえ、気恥ずかしくて……」

千夜「気恥ずかしければ、何をしてもいいわけじゃないんだよ?」

千夜「……すみません」

千夜「ココア、あまりチノのことは責めないでやってくれ。私が悪いんだ。あんな助言をしておいて、チノの姉を引き受けた私が」

作者とISP・地域が同一の書き込みがあるため保留
千夜「チノちゃん、ぎゅーっ」
千夜「チノちゃん、ぎゅーっ」 - SSまとめ速報
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2016/05/04(水) 04:26:12.85

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