緑谷(ワン・フォー・オールで自慰をしたらどうなるんだろうか……)ブツブツブツブツ (52)

相澤「……というわけでいよいよ来週から期末試験だ」

峰田「くそォ……実技自信ねぇよ……」

上鳴「俺はペーパーがヤベぇな……」


教室がざわつく中、緑谷出久は静かにズボンのチャックを開く。

ほのかに温かな陰茎がピンッと上を向いている。



頑張れっ! て感じのリトル・デクだ。



緑谷(とりあえずは5%でスマッシュしてみよう……)コスコスコスコス

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相澤「もちろん赤点を取った奴は夏休み中、補習を受けることになる」


エエエエ!?


息のピッタリと合った悲鳴が上がる。

なんせ、もうじき待ちに待った林間合宿なのである。

皆が楽しんでいる中、自分一人が教室でお勉強なんてまっぴらだ。



相澤「……で、肝心のテスト内容だが……」




とつとつと語り出す。


シン……と静まる教室。


皆、固唾を飲んで相澤の口元を見つめる。

誰しもが、無事に期末を乗り越えることに集中していた。






しかし、そんな相澤の話には耳も貸さない少年がいた。


緑谷(こ、これはッ……!)コスコスコスコス


そう、出久である。

出久のフィニッシュもまた、もうじきなのであった。


***


相澤「……説明は以上だ。何か質問はあるか?」


切島「……!」

砂藤「……!」

瀬呂(おいおい、マジかよ……)


誰一人として質問をしなかった。

質問どころか、声一つあげる者はいなかった。



まさに規格外の期末試験……。



俺たちが……雄英の先生たちと闘う……!?



雄英の先生と言えば相澤を含め、プロ中のプロのヒーローたちだ。

そんなのとやり合って、勝てるわけがない……。



相澤「Plus Ultra. 雄英はお前たちにドデカイ受難を与えるのさ……」


静まり返った教室に相澤の声だけが響く。



緑谷「ウッ……出そうだッ……!」コスコスコスコス



出久のくぐもった呻きも響く。

相澤「号令」


飯田「きっ起立ッ!」ガタッ


皆、青ざめた表情で立ち上がる。


……いや、皆ではなかった。



爆轟「おもしれえ……」


ギラギラとした瞳が闘志をむき出しにしている爆豪。



轟「……」


やるべきことをやるだけ、と言わんばかりに冷静な轟。



緑谷「くっ……」コスコスコスコス


今にも出そうな出久。




彼らの表情は、他の皆とは全く異なっていた……。

飯田「礼ッ!」





――飯田がそう言うのとちょうど同じタイミングだった。











緑谷「スマッシュ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」ビュッ











突如、尋常じゃない量の白濁液が、放物線を描いて彼らの頭上を越えていった。


思わず生徒らはそれを目で追う。



ベチャッ!!




蛙吹「……!」


麗日「……!」





相澤「……」





避けきれなかったのか、わざと避けなかったのか、それは分からない。



しかしそのドロドロとしたボンドめいたものを頭から被って教壇に立っていたのは、紛れもなく相澤消太であった。





緑谷「すッ……すみません!」






慌てて出久は先ほどからずっと左手に握りしめていたティッシュを相澤に差し出した。

本来ならその液体を包み込むはずだった、クシャクシャになったティッシュを。




……だが、相澤は受け取らなかった。


***


麗日「……デク君……一体何があったの?」



下校中、お茶子は恐る恐るそう切り出した。

声をかけるべきかどうか、彼女なりに悩んだ末の質問。

一番、お互いが傷つかない距離を探っていく。




緑谷「……腰骨の辺りに……電気が走ったみたいだった」



素直な感想が口からこぼれる。

5%デトロイトスマッシュ……。



陳腐な表現しかできないが――。


まさに腰が砕けるようだった。





麗日「……」


飯田「……麗日くんは、別に緑谷君がイッたときの感想を聞きたいわけじゃないと思うが……?」


困惑する飯田とお茶子。

歯車の噛みあわないようなもどかしさが溢れる。

緑谷「……もしかして、何故僕が教室で自慰をしていたのかってこと?」

麗日「」コクコクコクコク


お茶子は一心不乱に頭を縦に振る。

彼女は今日の帰り際に起こった悲劇、もしくは喜劇の真相を知りたかったのだ。



緑谷「……」


麗日「あ、いや、言えないようなことなら無理して訊かないけどさ……」


緑谷「……超パワーで……」


麗日「えっ?」


緑谷「僕の超パワーで……しごいたらどうなるのかなって……思ったんだ」


出久は悩んだ。

誰もが自分の体の一部のように扱ってきたはずの個性で、今さら実験……。

個性を授かったばかりの出久にとっては、もちろん大切な実験だった。

そして大きな発見を手に入れた。

ワン・フォー・オールの新たな可能性を見つけた。



しかし元々超パワーに生まれついたと思い込んでいるお茶子や飯田にとっては、自分はただの教室で自慰にふける色狂いに見えたことだろう……。

……秘密を打ち明けられないヒーローの苦しみを、出久はこの歳にして味わった。




飯田「し、しかし君……! 何も教室でやらなくてもいいだろう!」


学級委員長として、ここは黙っているわけには行かないだろう……。

ある種の責任感を感じ取った飯田は、出久をたしなめた。



緑谷「……」


飯田「学校は勉学に励むところだ! それに僕らは雄英のヒーロー科だぞ!? ヒーローの卵が平然と法律を破ってどうするんだ!!」


緑谷「……」



出久は何も言えなかった。


違うんだ……。


快楽を求めていたわけじゃない……。



ただ純粋に、スマッシュ絶頂がどんなものか気になっただけなんだ……。





ポトリ……。



出久の瞳から涙がこぼれた。 

飯田「君はもう少し規律が存在する意味を……!」

麗日「もういいよ、飯田君」


緑谷「……!」




麗日の制止。

出久は顔を上げる。






麗日「デク君はただ、気になっただけなんだよ。ただ、それだけ」


飯田「い、いや俺が言ってるのは……!」



麗日「Plus Ultra(更に向こうへ).」


飯田「!」

緑谷「!」




麗日「いつものように、自分の部屋でその……やってるだけじゃ、壁は超えらんないもんね。まぁしたこと無いから分かんないけど……」


飯田「!!」


緑谷「う、麗日さん……」





お茶子はいつにも増して、麗かであった……。


***


峰田「緑谷! お前、林間合宿行けなくなったって本当か!?」

緑谷「う、うん……」

峰田「そっか……残念だったな……」


翌日の昼前には、その噂は既にB組にまで広がっていた。

A組の緑谷が教室で精液を撒き散らかして補習になった……と。



蛙吹「緑谷ちゃんの味方になってあげたいとこだけど、今回ばかりは無理だわ。皆の前でちんちん晒すなんて、あなた頭がどうかしてる」ケロケロ

峰田「生理現象だ。大目に見てやってくれよ」

蛙吹「どう見たって不自然よ」

峰田「そんなこと言ったってよう……!」

緑谷「いいんだ、峰田君。僕はそれ相応のことをした」


そう呟く出久。

どこか哀愁すら漂っているように見える。


蛙吹「自覚あったのね。少し安心したわ。相応かどうかはさておき」



緑谷「僕はもう、次を見ているんだ……」




昨日のお茶子の言葉が脳に反響する。



Plus Ultra......


こんなとこで立ち止まっている場合じゃないんだ。



とりあえず僕は……全力で期末に挑む……ッ!


***


爆豪「デクてめぇ! [ピーーー]ぞ!」Boom!!!

緑谷「かっちゃん! 今はいがみ合ってる場合じゃないだろ!?」コスコスコスコス

爆豪「[田島「チ○コ破裂するっ!」]してる場合でもねえだろーが!! 邪魔なんだよ糞が!!」Boom!!!

緑谷「退がって、かっちゃん! 僕の前に出たらスマッシュがかかるかもしれない!」コスコスコスコス





オールマイト「」








期末の実技試験はペアを組んで雄英の教師と闘う。


緑谷と爆豪の間にある確執を何とかしたいと思っていた相澤は、二人を組ませることにした――。






爆豪「オールマイトォおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」Boooooooooom!!!!!!!!!!1



オールマイト「動きが単調になってるぞ爆豪少年ッ!!」Smash!!!!!!









緑谷「くッ! 発射の時にスマッシュするのと、フルカウルとではこうも違うのか……ッ!」バリバリ コスコス











もちろん、大失敗であった。

爆豪「閃光弾(スタングレネード)ッ」カッ!!!


オールマイト(……目くらましかッ!)グッ




突然の閃光に思わず目をつぶるオールマイト。

その一瞬を突き、爆豪は退治する巨大な敵の股をくぐり抜けて背中を取った。



爆豪「榴弾砲着弾(ハザードインパクト)ッ!!!」Booooooom!!!!!





爆音と爆風。


衝撃波で自分も後方へ吹き飛ばされる。






煙でどうなったのか確認できないが、結構なダメージを与えたはずだ……。

これなら……。







オールマイト「良い動きだ。ただその威力では少々力不足だが……」ザッザッ

爆豪「マジかよ……」






煙の中からゆっくりと歩いて来る巨漢。

その様子を見るに、全くもって無傷……。






あまりにも……自分とはかけ離れている……。

すんでいる世界が……違いすぎるッ!!






緑谷(ウッ……なにやってるんだかっちゃん……! 今の衝撃で思わず出そうだったじゃないか……!)コスコスコスコス





爆豪は戦慄した。


***


戦闘が始まってから25分が経とうとしていた。



爆豪「く、クソがッ……」フラッ


オールマイト「ほらどうした? もう限界か?」クイクイッ



圧倒的力量差の前に、爆豪は立っているのもやっとであった。






辺りは焦げた瓦礫と小さなクレーターだらけ。

全力を尽くした……。

大嫌いなデクにすら、協力を求めた。

頼むから邪魔しないでくれと頭まで下げた。

だがデクの野郎は一向にオナニーをやめようとしない……。

さっきから「出るッ」という度にこっちにかからないかヒヤヒヤする……。




緑谷「頑張れかっちゃん! 君なら勝て……ウッ!」コスコスコスコス




爆豪とオールマイトのバトル同様、緑谷の性感帯の感度も極限まで高まっていた。

だが常に5%のワン・フォー・オールを維持しながらでは、出そうで出ない……。

これが出たとき、一体自分の脳はどうなってしまうのだろう……。

先ほどから爆風が陰茎を激しくなでる度にビクビクとひくつく。

オールマイト(爆豪少年……君はよくやっている)



ヒーローの卵が世界最強の男を相手にするなど、どだい無理な話なのだ。

しかしズタボロの爆豪の目はまだ燃えていた……。


オールマイト(この戦いの中で君はぐんぐん成長していく。共闘の必要性を肌で感じ取り、葛藤し、そして頭をさげた。……自分が最も屈したくない相手に対して……)


正直、ここまで食らいついて来るとは思ってもみなかった。

粘ってくるとは考えもしなかった。

例えこの試験の結果が君の敗北であったとしても……君はよく戦ったよ……。





それに引き換え緑谷少年――。







緑谷(つ、ついに来るか……ッ! フルカウル・オーガズムッ!)コスコスコスコスコスコスコスコス







――君って奴は……ッ!!!!!!

爆豪「うあああああああああああ!!!!!!!!!!」Booooooooom!!!!!!!!!!!

オールマイト「ムッ!?」



オールマイトが蔑むような眼で緑谷を一瞥した一瞬を、爆豪は見逃さなかった。



爆豪「死ねええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」Booooooom!!!!!!!!!!!!!!!1


最大火力で爆速ターボ。

そのまま世界一の男の顔面に目がけてありったけを放つ。


オールマイト「グハッ!」

不意を突かれたオールマイトは反応が遅れて顔面を爆破された。

少しよろける……。



シット……!


顔面がヒリヒリするぜ……!





爆豪「」



ドシャッ……!



全てを出し切った爆豪は、意識を失ってその場に倒れ伏した……。








緑谷「スマッシュ!!!!!!!!!!!」ビュッ






追い打ちをかけるように……。


高速で射出された出久のスマッシュは、横たわる爆豪の後頭部にびちょりと着地した。












ビー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




5分間の賢者タイムが過ぎ、実技試験は終了した。


***


芦戸「皆……土産話……ひぐっ……楽しみに……ううっ……してる……がらっ!」

上鳴「……」

切島「……」

砂籐「……」

爆豪「……」


緑谷「ま、まだ分かんないよッ! どんでん返しがあるかもしれないよッ!?」

瀬呂「あったとしても緑谷……お前だけは無いと思うぞ……」




実技試験の翌日、クリアできなかった芦戸、上鳴、切島、砂籐、爆豪は絶望に打ちひしがれていた。

楽しみにしていた林間合宿はお預け。

クソ暑い教室で補習を受けるのだ。



緑谷もまたクリアできなかった一人なのだが、彼だけはまだ希望を捨ててはいなかった。

もしかしたら赤点を取ったら補習地獄というのもまた、相澤先生の合理的虚偽かもしれないじゃないか……。

いや、そうに違いない……。

だいたい僕が何をしたってんだ!

何もしてないじゃないかッ!

自慰くらいしかしてないぞほんと!



瀬呂「ま、まあ俺も何もしてねえからな……。全部峰田一人でクリアしたようなもんだし……」



互いに傷をなめ合うような哀れな状況。

見ていて痛々しい限りだった……。

ガラリ。

相澤「席につけお前ら」


相澤が戸を開けて入ってきた。

合宿に嬉々とする者、悲しみに暮れる者。

それぞれの思いを胸に皆は席に着く。




相澤「今回の期末試験、赤点は芦戸、上鳴、切島、砂籐、爆豪、緑谷の7人だ……」


芦戸「はぁー……」

上鳴「フー……」

切島「あーあ……」

砂籐「……」

瀬呂「やっぱりか……」

爆豪「チッ……」

緑谷「うっ! ……ふぅ」


溜息、嘆き、舌打ち……。

まだまだ遊びたい高校生にとって、あまりにも残酷な補習。

20人の内、まさかこれだけ多くが赤点を取ることになると誰が予想しただろうか……。



生徒の落胆ぶりに構う様子もなく、相澤は続ける。



相澤「で、林間合宿の件だが……」



もう顔を上げる元気もない。

こんな話、辛いだけだからさっさと終わらせてくれ……。




相澤「テストの結果に関わらず、全員行きます」



どんでん返しだあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




教室中に赤点保持者の雄叫びが響き渡る。



飯田「し、しかし先生は赤点を取ったものは林間合宿には行けないと……ッ!?」

相澤「ああアレな。アレはお前らを本気にさせるための、合理的虚偽」ニカッ


ほらね……やっぱり合理的虚偽だった。

数か月も相澤先生を見ていれば、どんな思考かぐらい手に取るように分かる……。

出久は静かに笑ってチャックを下ろした。


相澤「というわけでこの書類に保護者のサインを貰ってこい。実家が遠い奴はFAXでも構わない」

予想外の結果に、爆豪と緑谷を除く5名は泣きながら小便を漏らした。

相澤「それから、こっちのしおりには必要な持ち物が書いてある。事前に準備しておくように」

配られる薄っぺらな冊子。

合理性を追求したような面白みも何も無いしおりだが、生徒らにとっては楽しみで仕方がない、夢の小冊子なのだ。


葉隠「ついにこの時がきたよー!!」

尾白「おやつも持ってっていいみたいだな!」

常闇「沸照火(わくてか)……」

耳郎「音楽プレーヤーももってくか!」

緑谷「箱ティッシュもいるな……」コスコスコスコス




相澤「緑谷、お前も教室は暑くなるから水分補給はしっかりするんだぞ」


緑谷「え? あ、はい。……はい!?」ドピュッ




驚きのあまり、思わず飛び出る。

ワン・フォー・オールを使ってなかったために、普通の飛距離だ。

出久の子種は前の席に座っていた爆豪にぴちょりとかかった。

緑谷「で、でも先生! 林間合宿は期末の成績に関わらず全員行けるって……」


慌てふためく出久。

何で僕だけなんだ……!?


虐められていた中学時代がフラッシュバックする。

そんな……。

ひどい……。


あんまりだ……!!




相澤「いや、お前は期末の前から行けないってことになってたろ? はい号令」

飯田「起立!」





……出久の目から、大粒の涙が零れ落ちた。


***


ゴオオオオオオオ……。



麗日「デク君、可哀想だったな……」

峰田「あいつ、女湯覗きながらしこるのが当面の目標だって言ってたのにな……」

蛙吹「自分で『僕はそれ相応のことをした』って言っときながら、全然諦めてなかったのね」

飯田「なんて声をかけてあげればいいのか全くわからん……」



バスの最後部座席に座っていた出久と仲のいい彼ら4人は、複雑な面持ちでいた。

教師側の圧倒的な圧力で仲間はずれにされたのなら、担任を敵に回してでも断固抗議する。

しかし10:0で緑谷が悪い場合、一体どうしたらいいのだろうか。



爆豪「……///」


そんな彼らの前に座っている爆豪は、期末試験以来、初めて心の平安を取り戻していた。

ポッキーを切島と分け合いながら、まるで仏のような安らかな顔をしている。




因みに今朝、緑谷は何食わぬ顔でバスを待つ列に並んでいた。

セメントスに無理矢理バスを降ろされたあとも窓を叩き割って強引に押し入り、最終的にはミッドナイトに眠らされて教室に連行されていった。

あまりの往生際の悪さに、オールマイトは始終悲しい顔をしていた……。


***


サービスエリアに降り立った一行。

バスに酔った麗日に続いて、続々とトイレに向かう。


蛙吹「……ん?」ケロケロ

峰田「どした?」



自分たちのバスのすぐ横に、一台の乗用車が停まっている。

赤い普通車だが、ナンバーを見るにレンタカーのようだ。

それがバスなどの大型車両用の駐車スペースに平然と停められているのだ。



蛙吹「いえ、何でもないわ」



少し気になったものの、蛙炊は深くは考えないことにした。


***


20分の休憩後、バスは再び走り出す。

出発直後に比べて多少の落ち着きを見せるかと思いきや、バス内の熱気はさらに増し加わった。

休憩中に八百万がカラオケの機械を作り出していたのだ。


瀬呂「八百万最高かよ!」

耳郎「八百万超頼りになるッ!」

峰田「天使だ! おっぱい揉ませてくれッ!」

八百万(はわわわわ! 頼りにされてますわ私ッ!! //////)



盛り上がる車内。

上鳴が流行りのJ‐POPを見事に歌い上げ、葉隠の思わぬ美声に皆が驚き、常闇の中二病みたいな選曲に沸き起こるブーイング。

これぞ青春と言わんばかりの賑やかさに、最初は煩がっていた相澤も思わず微笑む……。

蛙吹「……あ、さっきの車」

麗日「あ、ホントだ」


そのとき、蛙吹と麗日は先ほどの赤いレンタカーがこのバスの後ろにピッタリとついているのに気がついた。

そしてその車を運転しているのは……。


麗日「は? デク君!? 何で!?」




なんと緑谷出久、その人であった。

向こうもこちらに気づいたのか、生意気にも手を振って笑ってみせる。



峰田「あいつ、免許なんか持ってたのか……」

飯田「持ってるわけないだろ!? 無免許だアレ!」


その上、よく見ると左手がガチャガチャと動いている。

あえてマニュアル車をレンタルしたようだ。

飯田「き、規律を重んじるヒーローとして、アレを見過ごすわけには……」

義理と人情に苦しむ飯田。

インゲニウムの名を引き継いだ者として、どうあっても正さねばならない……ッ!


ウンウンと思い悩む横で、ハラハラと心配する麗日。

不敵な笑みで両手離し運転を披露する緑谷のレンタカーは、法定速度を破りに破ってバスを追い越して行った。

そんな友人の痛ましい姿を見てしまった彼らは、もう歌う気などにはなれなかった。

オールマイト「……なんか緑谷少年、目的地知ってるっぽいんだけど。バスを抜き去っちゃったし……」

相澤「アイツの情報網を舐めたらいけませんよ……。ていうか普通に車運転しやがって……。退学にしてやる……」


バスに乗っていた教師陣も、無免許でハイウェイをぶっ飛ばす緑谷の存在に気づいた。

今すぐにでもぶっ飛ばしに行きたいところだが、あれだけ爆走されては簡単に手を出すわけにはいかない。

こめかみに血管が浮き出る。



相澤「運転手さん、目的地変更だ。林間合宿は中止、普通に北海道で観光旅行をする」

運転手「ほほほ、北海道ですか!? そんなの、飛行機で行った方が……」

相澤「青函トンネルがあるだろう。大丈夫、行ける行ける」

運転手「何時間かかると思ってんすか……」



20数名を乗せたバスは急きょ高速を降り、真逆の方角に向かって走り出した。


***


緑谷「おかしい……一向にバスが来ないぞ……?」コスコスコスコス



5時間後、出久はただ一人で秘境の地に立っていた。



職員室で手に入れた情報だと確かこの辺りでプロのヒーローの協力の下、目的地に向かってサバイバル的なことをするはずだったのだが……。

待てど暮せど、バスは来ない。

誰も来ない。


自分はこの大自然を見下ろしながら、自慰にふけるしかないというのだろうか?





緑谷「とりあえず逆探知でもしてみよう」


出久はスマホを取り出し、お茶子に電話をかけることにした。


***

Rrrrrrrrrrrrrrrrr.........


麗日「あ、デク君から……」

相澤「出るな……」

麗日「ひっ!?」


お茶子が出久のコールに答えようとしたその刹那、相澤が例の捕縛武器でスマホを奪い取る。


相澤「逆探知する気だな……あのストーカー野郎……。いいかお前ら、緑谷から電話が来ても絶対に取るな」

飯田「さ、流石に彼がそこまでするとは思えないのですが……」

相澤「いや、アイツならやりかねん。俺たちの行先を調べるためならどんな手も使ってくると思っておけ」


相澤には強い信念があった。

自分に精液をぶっかけた奴に、楽しい思い出なんか残させてたまるか……。

一人ぼっちの寂しさにのたうち回ればいいんだ……。


その決意は、決して揺らぐことはなかった。


***


緑谷「くそッ……誰も出ない……!」



あれから10時間以上が経過した。


適当にいくつかの目的地を回ってみたが、既に予約はキャンセルになっていた。



おまけにどれだけコールしても、誰一人として出ない。

集団いじめでも始まったのかと思ったが、正義漢の飯田君にかけても無反応ということは上からの力が働いたと見ていい……。



相澤の奴……ッ! 

あの根暗野郎ッ!!


思わず携帯を握りつぶしたくなる。


……が、思い直してFacebookを巡回してみる。

先ほどから何度も回っているが、何の成果も得られなかった。

だが、諦めずに彼は更新ボタンを押し続けた。

永遠とも思われる作業。

しかし今皆の居場所を特定するにはこれしか……。



緑谷「……な、なんだとッ!?」



葉隠のページの更新ボタンをおした出久は我が目を疑った。


自撮りのつもりらしいが、透明人間の後ろの風景がそのまま写っている。



緑谷「さ、札幌じゃないか……ッ!!」




そこには日本一美しい夜景が広がっていた。

まるで地平線が見えるような広大な土地に、キラキラと輝く街の灯り。

端っこに写り込んでいたお茶子はおそらく長旅でクッタクタなのだろう。

どう見てもグロッキーな様子だが、それでもその絶景に目を輝かせていた。

緑谷「あ、あんまりだ……! あんまりだよ……ッ!!」ポロポロ


たった一度の自慰で、何故ここまで酷い仕打ちを……?

楽しみを奪われた喪失感、仲間はずれの孤独、相澤への憎しみ……。

色んなものがない交ぜになって、出久の頭はぐちゃぐちゃになりそうだった。



葉隠「超疲れたけど夜景キレーだったぁ!! 明日は登別温泉♡ 楽しみ~(^O^)/」



緑谷「明日は……登別……」ブツブツブツブツ



ガチャリ。



運転席側のドアをあけ、出久はガチガチのティッシュまみれの車に乗り込んだ。





ギャルルルルルルルルルルルル!!!!!!!!!





土煙を上げながら、復讐に燃えたレンタカーは北へと向かった……。


***


上鳴「ひょう! 上がりィ!!」

青山「切り札を手にして終わるってのもなんかカッコいいよね☆」

障子「切り札っていうかジョーカーだからな。お前の負けだ」

峰田「約束通り全裸で女子部屋行ってこいよ?」

青山「」プルプルプルプル


札幌の高級ホテルの一室に集まり、過酷な罰ゲーム付のトランプに興じる男子組。

他の部屋にイタズラ電話を掛けたりして、思う存分に楽しむ。


飯田「いじめにつながるような罰ゲームはやめよう!!」

そう叫ぶのは先ほど惨敗して尻の穴に爆竹を大量に詰め込まれた飯田。

いつ点火されるのか分からない状況に肝を冷やしている。

轟「そうだ。いじめは良くない……」

冷静な轟。

配られた手札を見ながら、爆竹の導火線を左手で握っている。

いつでも飯田のケツ穴を爆破できる準備は出来ていた。


砂籐「……なんかこうやって楽しんでると、緑谷を仲間はずれにしちまったみたいで悪い気がするな……」

口田「うん……」

常闇「ていうか一部屋に何人いるんだ……。4人部屋だぞ……」

切島「な、なぁ……緑谷に電話かけてやんねえか? さすがに逆探知ってのは相澤先生の被害妄想が入ってるきがするんだけどよ……」


男子組は緑谷への同情心が高まっていた。

誰だって自慰をしたことくらいはある。

そりゃあ時と場所をわきまえることは大切だが、修学旅行みたいな行事から仲間はずれにするのは厳しすぎると思う……。


瀬呂「じゃ、じゃあ俺一応緑谷に……」


爆豪「やめろ……」ザー

瀬呂「ひっ」



シャワー室からドスの利いた声が響く。

てっきり聞こえていないと思ったが……。

爆豪「アイツに情けをかけるな……。あの糞ナードにはな……」ガシガシガシガシ

切島「わ、分かった……。電話はかけねーよ……。つうかいつまでシャワー浴びてんだ? もう1時間は経つぞ?」

爆豪「……」ガシガシガシガシ


爆豪は答えなかった。

彼は出久に初めてぶっかけられた日から必ず1時間以上頭を洗うようにしている。

だがそれを知られるのは何だか無性に情けなくて悔しくて……どうしようもないのだ。


***


蛙吹「緑谷ちゃん、今頃どうしてるかしら?」

耳郎「必死にアタシらを探し回ってるかもね」


女子部屋でもまた、出久の話が持ち上がっていた。

男性器など父親のモノしか見たことが無い彼女らにとって、出久の公開オナニーショーは衝撃的な出来事だった。

戸惑いを隠せないものがほとんどだったが、少なからず出久を擁護する者もいた。

……いいものを見せてもらったと。



芦戸「まぁ行先を変更してまで緑谷をまくのはちょっとやり過ぎだよねー」

麗日「そうだよ! あそこまですることないって!」

懸命に緑谷を護ろうとするお茶子。



麗日「いつも一生懸命で、一番努力してるのはデク君なんだよ!? それなのに、こんなのって……!!」



そうだ、デク君は凄いんだ。

ちょっとヤラかしたくらいでデク君を徹底的に排斥しようとする先生のやり方には納得が出来ない。


なんとか自分が話を……。






青山「そんなに彼を庇うなんて、もしかして君、彼のこと好きなの?」


麗日「」





横からの唐突の質問。

思ってもみなかったストレートさに、お茶子はうろたえる。




麗日「は!? い、いや別にそんなんやないし! すすす好きとか嫌いとかじゃなくてそのッ! たたた、ただ単純にデク君はすごいなーって話で……///」



慌てふためいて必死に否定するが、否定すればするほどなんだかまるで彼のことが好きみたいではないか!

まったく、何を突然訊き出すのだ!



蛙吹「ていうか、何で青山ちゃんがここにいるの?」

葉隠「しかも全裸って……」



平然とベッドに寝っ転がっていたすっぽんぽんの青山。

うつ伏せのため、最低限度のマナーは守っているらしい。


だが一つ言えるのは、彼は今女子部屋で全裸だ。




そう……全裸だ。






青山「ああコレ? ……罰ゲーム☆」ジワア





精一杯優雅に言っているつもりらしいが、うっすらと涙が浮かんでるのが分かる。

八百万「青山さん、泣いてますわッ!」

青山「泣いて……ない……☆」ポロポロ

芦戸「罰ゲームって言うか、これ完全にイジメじゃん……!」



ズガンッパンパンパンパンッ!!!!!!


ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!




麗日「ッ!?」



丁度そのとき、上の階の方からシャレにならない爆発音と悲鳴が聞こえてきた。

その声からして、どうも飯田っぽい……。



蛙吹「知らず知らずの内に、緑谷ちゃんの奇行が伝染していってるみたい……」







――蛙炊の読みは正しかった。


どんなに真面目なクラスでも、一人羽目を外し過ぎる者が現れると一気に崩壊する可能性がある。

何故ならグレーゾーンにいる人間はそれに便乗し出すからだ。

普通なら絶対に出来ないような行動も、皆でやれば怖くないといった変な集団心理が働く。



出久の自慰行為は、その引き金ともいえる代物だった……。


***


翌朝、1-Aはぞろぞろとバスに乗り込んだ。

札幌から2時間かけて登別へ向かう。


轟「登別温泉なんて、入浴剤でしか拝んだことないな……」

尾白「白いんだろ? 興奮するよな!」

八百万「それから硫黄の臭いが結構キツイらしいですわ」



乳白色の温泉ってだけでワクワクする。

そんな温泉、見たこと無い!


車内のテンションも昨日に引き続き、かなり高い。



飯田「ぐッ……! 痛ぅ~……」


ただ昨晩肛門を爆破された飯田は、バスが揺れる度に苦悶の表情を浮かべている。



麗日「飯田君、辛そうだね」

飯田「あ、ああ……。昨日馬鹿な遊びを始めたばっかりに、俺の尻の穴は壊滅した」

麗日「そっか……」

飯田「?」



麗日もまた、すぐれない表情をしていた。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年09月07日 (金) 08:30:03   ID: mQTxNnc_

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