菜々「永遠の17歳」 (197)

シリアスです。
SF要素強めです。
ほのぼの日常系じゃないです。



11月28日
モバP「ちひろさん、このケーキとか好きそうじゃないか?」

安部菜々「そう…ですね」

今日はウチの事務所のアシスタント、千川ちひろの誕生日だ。
今日までに俺は所属アイドル達と協力してちひろさんの誕生日会の準備をしてきた。

そしてこの、誕生日ケーキの購入。
これを済ませれば全ての準備が終わり、盛大にちひろさん聖誕祭を催すことができる。

ちひろさんはどんな反応するのだろうか。
涙を流して喜ぶのか、それとも驚きで気絶でもするのだろうか。
いつも笑顔の彼女がどんな違った姿を見せてくれるのか、妄想しながらケーキを眺める。

ちひろさんの肌のごとく白いショートケーキを眺めていると、ショウケースに反射し映る、菜々のまつ毛が踊るぱっちりとしたお目目と視線が衝突した。

その眼からは元気の色がみえなかった。
それにいつもよりかなりテンションが落ち着いている。
こういう時はノリノリで、年相応にはしゃぎながら買い物をするタイプだったはずだが。

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それに先程2人で街中を歩いてまわっていたときは彼女の持ち前の元気さをこれでもかと見せつけられていたものだ。

モバP「なんだか元気がないな。どうしたの?」

菜々「あ、いえ!なんでもないんです!全然元気ですよ!!キャハッ!!」

と、菜々は勢いだけはある返事をしてきた。
…もしかしてこれで誤魔化しているつもりなのだろうか。
だとしたら中々俺も舐められたものだな。
もう何ヶ月お前と付き合っていると思っているんだか。

思えば最近菜々が思いつめた顔をしている事をよく見る気がする。

モバP「そうは言うけどさ、普通にわかるぞ?菜々がいつもより元気ないの。だってもう半年は一緒にいるんだぜ?」

菜々「ははは…やっぱりわかっちゃいますか…でも、ごめんなさい…」

彼女の反応から中々深刻な悩みを隠していることを察した。
このケーキ屋に来るまでになにかあったのか?

昨日オーディションに落ちた時もそう凹まなかった菜々だ。

よほど大きな悩みなのではないだろうか。

モバP「で、何かあったのか?」

菜々「…いえ、その…すみません、今は言えません」

正直とても気になるが彼女がまだ言えないというなら聞かないでおくのが最善か…
俺が気づかぬうちに何かしてしまったのだろうか。
まずいな、心当たりがまるで無い。

モバP「そうか…」

情けない事に気を遣った返事が思いつかず、素っ気ない反応を返してしまった。

店員「あの…お客様。他の方が待たれているのでご注文でしたら早めにお願いできますでしょうか…?」

これはいけない。
どうやら俺たちは色とりどりのケーキが並ぶショウケースの前で話し込んでいたようだ。
後ろで他のお客さんが迷惑そうに眉をひそめている。
恥ずかしいな…顔が熱い。

モバP「す、すみません!えっと、じゃあこのショートケーキを…」

そそくさと財布を取り出し、代金を支払い、ケーキを受け取り、恥ずかしさからイチゴのように染まった頬を隠すように口に掌を当てながら早足で店を出た。

店の自動ドアを通り過ぎると、太陽の光が眩く、たまらず目を細めてしまう。
青空に輝く太陽がアスファルトに俺たちの影を色濃く写していた。

途端右腕が突然ぬくもりを感じ取った。
ちらりと横目で右を見ると菜々が僕の腕にぎゅっとしがみついていた。
腕を組む、というよりは腕を守るかのように抱いている。

もしかしてあまりに真剣にケーキを選んでいたからちひろさんに嫉妬でもしているのだろうか…?
必死で俺の腕を抱く菜々を温かい目で見ながら、俺はそんな呑気な事を考えていた。

菜々はまだ口を開こうとしないので、俺も何も聞かないでいた。
2人の影は重なったまま、ケーキ屋の元から離れていった。

とりあえずこれで買い出しは終了だ。
事務所…ではなく、事前に予約していた誕生日会の会場へ向かう。
今日は日曜日だから仕事もない。

一応買い出しに漏れが無いか確かめとくか、とカバンから手帳を取り出し開く。

クラッカーも買ったしプレゼントも買った…
大丈夫そうだな。

モバP「あれ?」

手帳を閉じ、カバンに仕舞おうとしたところで不意に口からこぼれ落ちた。

菜々「どうかしましたか?」

菜々が上目遣いでこちらを伺ってくる。
なんだか、小動物のような愛くるしさを感じた。

モバP「いや、手帳を見てふと思ったんだけどさ。アイドルのスケジュールってちひろさんも当然把握してるでしょ?だったら今日アイドルの殆どが仕事入れてない事知ってるわけだし、誕生日会の事もばれてるんじゃないかなあと。これじゃあサプライズにならねくね?」

当日考えたところで仕方ないことだが。
というか、今まで誰もそれを指摘した者がいない事にも少し驚いてしまった。

菜々「たしかにそう言われるとそうですね…でもまあ大丈夫ですよ、多少サプライズ感は無くても気持ちは伝わります」

元気は無いけどこの前向きな考え方はいつもの通りだな。
確かにそうだな、とだけ答えて再び足を動かした。

暫く歩いていると菜々から話をふってきた。

菜々「…しかし、変装しているとはいえ、スキャンダルとか大丈夫ですかね」

自分から抱きついておきながら何を言っているんだこやつは。
マスクをしているし髪もおろしている。
完全に今の姿はウサミン星人系アイドルの安部菜々とはまた別の姿だ。
メルヘンチェンジ前と言ったところか。

モバP「そんな心配なら念のため離れておいた方がいいんじゃ…」

菜々「それはできません!」

どうやらこのひっつき虫状態は菜々の確固たる意志から形成されているものらしい。
勿論こちらとしても(何が、とは言わないが)嬉しい感触を味わえるので嬉しい限りではあるのだが。

それにしてもどうしてこんなに必死にくっついているんだろうか。
俺のぬくもりを感じたいとかそんな甘々な理由かなとも思ってみたがそれも違うらしい。

もし仮にそれが目的ならば今の菜々の表情は欲しいものを得られた満足感から笑顔になっているはずだ。

菜々からはそういった満足感はかんじられない。
どちらかというと菜々は何かから必死に俺を守るような、そんな風に見えた。
何か悩んでいるのはわかっていても、何に悩んでいるのかはわからない。

半年、恋人として付き合っていても気持ちをわかってやれない。
俺も学生の様に若々しい恋愛観を持っているわけではないので、仕方ないことだというのはわかるが、どうしても不甲斐なく感じてしまう。

…しかし、こうして見つめていると、やはり菜々は可愛いな、なんて思ってしまう。
マスクをしていても、顔は隠せてもその可愛さは全く隠れていないようだ。

気づけば足は止まり、道の途中お互いの瞳をじっと見つめあっていた。
はたから見たら相当なバカップルである。

ここは人通りが少ないわけでもないので何人もの人の注目を浴びる。
なんだかまた恥ずかしくなってきた。
今日は頬が赤くなってばっかりだな。

いつまでもここに居ても恥ずかしいだけだし、早いとこ移動しなければ。

モバP「菜々、なんか他に買いたい物とかある?」

菜々「いえ、ナナは大丈夫です」

それならさっさと駐車場に戻って会場に向かおう。
そう決めると早足で向かった。

モバP「さて、車で会場までひとっ飛びといこうじゃないかー」

車のドアを開け、乗り込みながらそんなことを言ってみる。
菜々が元気ない分ちょっとこっちがテンションあげてみた。

菜々「ひとっ飛び…地球の車に飛行機能なんてついてましたっけ?」

…たまに繰り出される菜々のウサミンボケだ。

いつからか分からないが頻発するようになっていた。

元気のない割にこんなことは言えるのね、と少し関心した。

菜々の方を見てみると、私は大丈夫と言わんばかりに笑顔を作っていた。
少しでも俺に心配をかけさせたくないらしい。

唐突なボケの対応に困り俺はたまらずエンジンをかけ、車を発進させた。

モバP「…菜々がウサミンキャラを始めてからもう半年くらいか。あれからみるみる成長していったなぁ…」

菜々のちょっとしたボケからそんなことを思ってしまった。

菜々「…そうですね」

複雑な表情をしている。
俺の今の言い方だと菜々の実力じゃなくてウサミンのキャラのおかげで売れた…みたいな風に聞こえてしまったかな。

モバP「大丈夫だ、ウサミンじゃない菜々も魅力的だよ。今もね」

咄嗟にフォローを入れる。
フォローといっても実際俺はそう考えているし、ただ率直に俺の思いを伝えただけだが。

菜々「えっ、な、なんですか急に」

恥ずかしがるとか照れるとかじゃなくて、只々驚いている菜々。
どうやら俺の言ったことを誤解して複雑な表情をした、とかでは無かったらしい。
つまり俺のフォローはお門違いであった。

らしくないキマッたセリフを口にした事もありより一層恥ずかしくなってきた。
ハンドルを握る手がみるみる湿っていく。
…また恥をかいたな。

気恥ずかしさから俺はすっかり黙ってしまった。
というより、何を言えばいいのかわからなくなってしまった。

菜々も菜々で複雑な顔をしたまま、黙っていた。
一体何に悩んでいるんだろう。
聞いてもまだ教えてくれないのだろうか。
二人の間に重い扉でもあるかのように感じた。

数分後、意外にも、この沈黙の扉を開けたのは菜々だった。

菜々「この半年…いや、私と出会った約一年前から今日までプロデューサーは長かったですか?短かったですか?」

モバP「なんだいきなり…うーん、あっという間…という程でもないけどやっぱり短かったかな。色々仕事とか忙しかったし、何より凄い楽しかったから」

菜々「ナナは…ナナは長い、ですかね」

菜々は遠くをぼんやりと見つめながらそう話す。
俺は菜々がどういう意図で話しているのかわからず、へえ、とだけしか答える事ができなかった。

菜々「あ、いや!もちろん、つまらなかったから長く感じたーとかそういうわけじゃないですよ!憧れのアイドルにも慣れて、色んな経験ができて、大好きなプロデューサーさんと一緒にいれて、ナナも凄い楽しかったです!」

モバP「俺も大好きな菜々を近くで眺められて幸せだよ。でも、そんなに楽しかったら普通は時間経つの早く感じない?」

菜々「…それはやっぱり不慣れな土地での生活とか、メイドのバイトとか、苦労も沢山あったからです」

きっと菜々は嘘は言っていないのだろうが、俺はなにか違和感を感じ取った。
嘘ではないが何か他に思いを隠しているような、そんな言い方に聞き取ってしまった。
青から黄色に変わる信号の下を、そのまま走り抜けた。

菜々「それにウサミン星と言語も違いますからねー」

また唐突なウサミンボケか…

モバP「…前から気になってたがどうやって地球の、しかも中でも小ちゃい島国の言語を学んだんだい?」

さっきは乗ってあげられなかったわけだし今度はネタに乗ってあげることにした。
乗るしかないのだ、このビックウェーブに。

菜々「それはあれです!言語理解装置を使ったんです。ウサミン星は地球よりも文明が発達しているのでそんな素敵なアイテムもあるんですよ」

モバP「それはどういう理屈で言語を理解できるんだ…」

菜々「半径15キロ圏内の人の音声や脳のデータを集めて言語の発音や法則を解析してナナの脳にデータを移してくれるんです!」

モバP「…そりゃあ凄い」

初めて菜々のウサミン設定を聞いた時も思ったが…無駄に凝ってるよな。
自信満々な言い方を見てると将来地球でも本当にそんな装置が出てくるんじゃないかとまで思えてくる。

ていうか菜々が本当にそんな装置を持っているんじゃないかとも。

しかし、脳にデータを移すってなかなか怖い設定だ。
SF小説とかだったら、その装置が勝手に変なデータとかを脳に発信して…とかありそうだな。

モバP「日曜なのに中々空いてるなー」

今日は運がいいようだ。
車の通りも少なく、いつも渋滞しがちなこの道路を優雅に走っていられるなんて。

おっと。自分の感覚以上にスピードが出てたようだ。
隣に菜々もいるわけだし、安全運転で行かなきゃな。
青信号の交差点に少しアクセルをゆるめながら入っていく。

右からちらりと高速で動く何かが見え

ガシャン!

突如、爆音が鳴り響きドアはくしゃくしゃにした折り紙のように凹み、フロントガラスは砕け散った。

あれ…俺の車の内装って赤色だったっけ。
俺真っ赤な服なんて着てたっけ?

それが自分の胸から溢れ出る血だ、ということを自覚すると同時に、今まで経験した事のない何とも形容し難い激痛が走った。

ああ、俺事故ったのか。

モバP「…ぁ……っぁ…な…」

声が、全く出せなかった。
代わりに煮込んだトマトのようなドロドロの赤が出るだけだった。

濡れて、血か
あたまがまわらない…
このまま、死ぬのか?
こんなあっけなく終わるのか?
ちがう、そうじゃなくて、なな、どうなって…

凍りついたように動かない首を、筋肉が千切れるんじゃあないかと言わんばかりに無理やり捻り、左に座っている菜々の方へと顔を向ける。
幸い菜々は軽傷で、無事だったようだ。

あの勢いで衝突されて、無事だった。
奇跡というやつだろうか。

菜々は悲鳴をあげるでもなく、泣くでもなく、ただ呆然と何かを呟いていた。
その視線はどこを捉えているのか、こちらからはまるで分からなかった。

機械音みたいな耳鳴が頭を埋め尽くす。
目も、見える景色はどんどんと白い光に包まれていく。

小学校の日々、中学生の日々、高校生、大学生、プロデューサー。
数々の思い出が交錯する。
これが所謂走馬灯というやつなのだろう。
菜々。
死にたくないなあ。

でも、もうだめだ…
目も見えない、とうとう耳鳴も消えた。

死、という現実から俺は昨日の菜々との会話を思い出した。
激痛の海に沈みながら、瞼を落とした。
眼前まで迫る絶対的なものを誤魔化すかの様に。

11月27日
菜々「…また…ダメでした…」

菜々が俯きながらそう呟いた。
俺たちはとある企画のオーディションに受けて、結果落選した。
最近アイドル安部菜々は非常に調子が良かっただけに、このオーディションは絶対受かると思っていたのだが…
現実はそう甘くないらしい。

モバP「そう悲しい顔をするな。こういうときだっていくらでもあるさ」

菜々「…」

いつになく凹んでいる様子だ。
今までも何度かオーディションに落選したことはあったが、こんな、世の終わりを眼にしたかの様なまでの落ち込み具合を見るのは初めてだ。
今回の仕事は余程やりたかったらしい。

俺も凹んでいるせいか、身体がいつもより怠く、呼吸も心なしか苦しく感じた。
それに長時間立っていたからか、少し貧血気味だ。
これから車で菜々を送るんだ、気をしっかり持たなければ。

菜々「…これで、19回目…」

モバP「…それはどういう意味だ?」

まさかオーディションに落選した回数でも数えてるのだろうか。
だとしたら中々のネガティヴ具合だな。

菜々「ナナが今までに、失敗してきた回数です」

モバP「…そんなん数えるなよ、余計悲しくなるぞ」

というか失敗を19回しかしてないなんてむしろ凄いと思うんだが。

菜々「嫌でも数えてしまいます…」

事務所へ引き返すため、車へ乗り、エンジンをかけた。
午後20時、辺りはすっかり暗くなっていた。

菜々「こんな時間に戻ってもどうしようもないのはわかってる…」

事務所に戻ってレッスンでもするつもりだったのだろうか。
だとしたら確かに今戻っても遅すぎるな。

菜々「…このまま、このまま永遠に、プロデューサーさんと楽しく、過ごし続ければ、いい…のかな」

モバP「…何を言っているんだ?」

菜々「いえ、その、なんだろう…疲れちゃったのかな…でも、それが一番というか、もうそれしか無いと思うんですよ」

菜々が何を言っているのか一切合切理解できなかったが、この夜よりも深い闇、のようものが菜々の目に宿っているようにも見えた。

モバP「…何か悩みがあるなら、聞くぞ?ていうか聞かせてくれ」

菜々「もう私十分頑張ったと思うんです。だから、これからは少し夢を見ようかなって…幸せな夢を見続けて、夢が終わりそうになったらまた、始まりに戻す。そうやって…幸せに過ごしていけばいいのかなって」

曖昧な事しか口に出さない菜々に困惑した。
普段はオーディションで落ちた位でこんなに凹まないはずなのに。
気づかぬうちに無理をさせてきたのか…?

不意に、鬱病になる人っていうのは抱え込んでしまう人が多い、という話を思い出した。
今までどうして気づかなかった。
ずっと一緒にいたのに、菜々の変化にどうして気づかなかったんだろう…
俺の中の罪悪感はどんどんと膨れ上がっていった。

モバP「ごめん、そんなに抱え込んでいたんだな…気づかなくて、ごめん」

菜々「いいんです、これは自分で決めたこと。それに、あなたと過ごす毎日は幸せで溢れていて…素敵です。だか、これからも、永遠に続くようにすればいいんです」

相変わらず掴み難い、本心の読めない事を言っている。
様子のおかしい菜々に俺の中に、言い表し難い恐怖のようなものが顔を出した。
動悸が少しおかしい。
菜々の胸の内はどうなってしまっているのだろうか。

今日は終わります
色々わかりにくくてすいません

様々なコメントをありがとうございます
少しだけ再開します

菜々「そうですか…」

喜んでいるのか悲しんでいるのかわからない一言を発してから、何か次に言い出そうとしているのか、口を開いたり閉じたりしていた。
しかし、それから菜々が声を発する事はなかった。

菜々の気持ちがわからず、モヤモヤとした黒い霧が辺りに漂っているようで、より一層息苦しさを感じた。

お互い無言のまま、事務所へ到着した。
重苦しい空気からか永遠に続くかのように思えた道路もようやく終わった。
思わず、ふう、と無意識に一息ついてしまった。

俺は車から降りようと立ち上がろうとしたが、それは叶わなかった。
呼吸が急激に苦しくなる。
突然、胸にバーナーで熱せられた鉄の棒を突き刺されたかのような熱い痛みが走った。
堪らず胸を強く抑える。
爪で皮を引きちぎるんじゃないかと思えるほど強く押さえた。

モバP「ぉぐっ…ぁっ!…」
声にならない声が自分の口から漏れた。
苦しい、胸が燃えているようだ。

あ、れ…?
三半規管が狂ったのか、地面に立っている感覚が全く無かった。
そのままこの空中で回転しながら漂うような感覚に抗うこともできず、地面に伏してしまった。
次第に視界も、コップに墨汁の雫をを零したかのように、黒に染まっていく。
菜々の声が遠く、遠く離れていく。
灼熱から解放されて、不思議と心地よい、昇天するかの様な感覚に身を委ね、俺は気を失った。

____________
私はプロデューサーさんが失神するのを見てから、気付けば病院にいた。
状況から察するに、どうやら私が救急車を呼んだらしい。

11月27日、なんで今日、プロデューサーさんは倒れたのだろう。

医者「…少し、よろしいですか」

呆然と、廊下の壁を虚ろに眺める私に見知らぬ医者が話しかけてくる。
おそらくプロデューサーさんの容体の説明をされるのだろう。
私は混乱する頭の中を一旦落ち着かせるよう努めた。

その後、別室で私は医者からプロデューサーさんの病名を伝えられた。
急性心筋梗塞。
病気の原因だとか、症状とかを模型などを使いわかりやすいように説明されたのだが、私は上の空で全く内容が入ってこなかった。

プロデューサーさんは、今も気を失っており、容態が安定したらすぐにでも手術をしなくてはならないらしい、という事だけはしっかりと頭の中に残っていた。

手術。

そうか、そういうことか。
手術が成功すれば死ぬことはない、つまりはそういうことだ。

私は、プロデューサーさんが助からないということを誰に教えてもらうでもなく察した。

医者「…集中治療室で現在処置を行っております。面会できますので、案内しましょう」

プロデューサーさんは、顔を青白くして人工呼吸器で規則的に呼吸をしていた。

プロデューサーさん…

名を呼んでみても反応がない。
まだ意識は戻っていないようだ。
医者は気を遣ってか、扉の外で待っているようだ。

私は呆然と彼の姿を眼に映していた。
このまま何もできないのだろうか。
ああ、この感情も何度目だろう。
今までの歪な私の時間を不意に思い出して、目から涙が溢れ出した。

またダメなのか。
また、助けられないのか。

カツンカツン、と騒がしく地面を鳴らす音がこちらへ向かってきた。
扉の前で立ち止まり、慌てふためいた声で医者と話しているようだ。
彼らの会話は十分聞き取れる位置にいたのだが、全く頭の中には引っかからず、耳から耳へ、ビルの間を吹く風のように通り抜けていった。

ちひろ「菜々ちゃん!?プロデューサーさんは…!」

ちひろさんだ。
連絡を受けて仕事をほっぽり出してこちらに駆けつけたのだろう。

菜々「…まだ、意識が戻らないみたいです」

自分のものとは思えないほど低く、暗い声が出た。
その様子を受けてかちひろさんは私を元気付けようと、無理に明るく振舞っていた。

ちひろ「…だ、大丈夫です!なんでも手術をするらしいじゃないですか!きっと、成功して、それでなーんも無かったようになりますよ!」

ちひろさんの気持ちはありがたかったが、しかし私はそれを素直に受け止めることができなかった。
それよりも、何も知らないちひろさんの言葉が、無責任なように聞こえて、気分が悪くなってしまう有様だ。

助かる…?
何も知らないくせに。

ちひろ「もう、心配かけさせちゃって…治ったらこき使っちゃいますよー!なんて!あはは…」

もうだめだ。我慢できない。
無知は悪い事ではないとはわかるが、しかし、私はそれを見過ごす事ができなかった。

菜々「そんなことない、あのひとは、助からないんです…」

ちひろ「…そ、そんな事言わないでください。まだわからないじゃないですか!」

菜々「ナナには、わかるんです…プロデューサーさんは、明日、必ず死んでしまうんです。11月28日を越せないんです」



当然、ちひろさんは私が何を言っているのかわからないようだった。
目を見開きながら、首を傾げてこちらを見ている。
こんな意味不明な事を言っても気が狂ってるんじゃないかと疑われるだけだというのはわかっていた。

ちひろ「な、何を言って…なんでそんなこと言い切れるんですか?」

菜々「ナナは、いままで何度も何度も、何度も何度も死を避ける方法を探してきました。でも、だめなんです、プロデューサーさんは絶対11月28日に死んでしまうんです!」

ちひろ「…?何を、菜々さんは何を言っているんですか…?」

信じてもらえないことくらいわかっていた。
だけど、私は、この今までの長い長い、永遠に続く地獄の17歳の日々をちひろさんに話し始めた。

もう、1人で抱え込むのも限界だった。

菜々「一番最初の始まりは、ナナが地球に来て、半年くらいだった時でした…」

時間にすれば、10年ほど前だろうか?
時間を戻しては進めてを繰り返したので、10年という表し方も妙だが、今までの戻してきた時間を合計すれば10年くらいだろう。
そんな、とても遠い記憶を蘇らせ、私は、ちひろさんに、私の地獄の扉を開いたみせた。

とりえずここまで
次から過去編です

1
「今回の任務は、xg-77惑星の調査、可能な場合は開発、ですか…」

地球からとてもとても遠く、太陽の10倍くらいは離れたウサミン星。
そこでナナは、惑星開発部隊にて16歳という若さで、隊長として働いていました。
惑星開発、とはいえ生命体を排除して無理矢理星を奪う、というわけではなく、私達が活動可能な環境で、なおかつ生命体の少ない星を見つけ、そこに私達の移住できる空間を作る、というものでした。

ウサミン星は文明が悍ましいほどに進んでおり、あるときから寿命なんて概念もなくなり、人々は滅多に死ぬ事がなくなりました。
人は死なない、しかし、新たな命は生まれていきます。

次第にウサミン星の人口は爆発的に増え、一つの星では収まらないほどに増えてしまいました。
そこで星の代表者が話し合った末、先程言ったような条件の星を探して、そこに移住しよう。
という考えのもとに創設されたのが惑星開発部隊でした。

ナナは宇宙とか、他の星々に強く憧れていたので、精一杯勉強して、特訓もして、努力に努力を重ねて、その部隊に入隊しました。
そしてそれからナナは一生懸命色んなことを覚えて、身体も鍛えて、その努力が買われてか気づけば隊長の地位にまで上り詰めてました。

そんなナナに与えられた今回の任務は、地球よりも遠くにある惑星の調査若しくは開発でした。

菜々「よーし、とうとう隊長となっての初任務です!張り切っていきますよー!」

期待と緊張を混ぜ捏ねたものを胸に抱き、宇宙船に乗っていました。
宇宙船は小さく、一人乗りのタイプで、ナナ以外にも10人くらいメンバーがいて、目的地まで飛んでいました。

本来地球には来るはずは無かったんですが、不幸にも、ナナの操作ミスで宇宙を漂う隕石と激突。
宇宙船は崩壊を始め、生命維持のために近くの惑星へと緊急着陸を始めました。

宇宙船の通信機能も壊れたのか、他の隊員との連絡もとることは叶わなかった。

菜々「あわわわわ、どどどどうしよ~!!ナナ、隊長になって初めてで墜落!?凄い加速してる!!そ、そうだ、こういうときは落ち着いて、マニュアルを思い出すのです!!外に出て、パラシュートを開いて、衝撃を防ぐ、よし!いきます!」

ナナは勢いよく飛びだしました。

菜々「え、重力つよ!?ってそうじゃなくてパラシュートを…あれ?どうやるんでしたっけ?あれ?あれれ?」

ドボーン!
と勢いよく海に墜落。
宇宙船も近くに墜落してしまいました。

菜々「うう…着水失敗です…」

ナナは自動で起動された衝撃吸収装置により、無傷で着水することができました。
この装置は衝撃を吸収する膜を球状に張り巡らせて、身体の損傷を防ぐものです。

菜々「とりあえず、衝突吸収装置は正常に自動起動できててよかった…と、安心してる場合じゃないですね、墜落時緊急マニュアルを思い出して行動しないと…」

まず、ナナが生命維持可能な環境からどうかスキャンしなければ。
酸素の有無、毒性のある気体が空気中にあるかどうかなどなどですね。
それまでこの衝撃吸収装置を解除してはいけませんね。

多機能動物擬態型収納装置、通称「ウサミミ」の機能の一つ、自動スキャンを使ってあたりを調べてみます。
幸いにもこの地球はウサミン星が生活するのに一切問題ないどころか、快適と言えるほどに適した惑星でした。

海の色も、空の色もウサミン星にそっくりですし、大気だとかもにた環境なのでしょうか。

菜々「ふぃ~よかった~…って安心してる場合じゃない…!」

この星がどの程度の文明かもわからないし、とりあえずステルス起動して、この場から立ち去りましょう。
なんらかの方法で目撃されて面倒ごとに巻き込まれてもいやですし。

そう思い、ブーツの形をした、高速移動装置をウサミミから取り出して、ステルスで姿を隠しながら無闇矢鱈に飛んで行きました。

ある程度離れたところでナナはウサミン星との連絡を試みました。

菜々「応答がない…」

困ったことに連絡は通じず、単独で考えながら行動しなくてはならくなってしまいました。
本来、このように目標の惑星以外に墜落した場合は、ウサミン星からの指示に沿った行動をしなくてはいけません。

しかし通信不可環境に到達したときのためのマニュアルというものも存在するので、とりあえずはその通りに行動するしかありません。

菜々「宇宙船は隠しようがありませんし、あのまま放置するしかなさそうですね…」

このまま上空を飛んでいてもしかたがないので、とりあえず陸地を探すことにしました。

菜々「あっちの方にうっすらと陸が見えます、行ってみましょう」

こうして辿り着いたのが地球、そして日本でした。

菜々「ここは…ウサミン星ほどではないですけど、文明は進んでるみたいですね」

ウサミン星のものには劣りますが、大きな建造物がたくさんたってます。

菜々「この星にはどういう生物がいるんでしょう…?道だとか、建物とかが作られてるっていうことはウサミン星人のように知性があって、手脚が器用に動かせるのは確実…」

ナナは暫く町を探索してみました。
この星の主要な生命体を探して、可能ならそれらの生命体の中に擬態してウサミン星からの救助を待つ。
それがこれからやるべきことの大まかな流れでしたので、なるべく生命体が多くいそうな、発展している町を目指していました。

菜々「辺りが薄暗いからでしょうか…まだ何とも遭遇しませんね…勿論ステルスしているのでこちらが存在を気づかれることはないんですけど」

適当に、歩いていると一つの大きな写真が壁に貼られているのを見つけました。
広告でしょうか。
何かを手にした生命体の姿と、全く読めない文字が書かれていました。

菜々「うそ…これ…」

ナナはとてもとても驚きました。
その写真に写っていた生命体、ウサミン星人と瓜二つだったのです。
身につけている服は全く似ていないし、ウサミミをつけていませんでしたが、しかし、顔も身体つきもウサミン星人とほぼ同じでした。

菜々「凄い…こんなことってあるんだ…もしかしたら、うまくコミュニケーションをとれば、ウサミン星と連絡が取れるまでの間、簡単に擬態できるかもしれない…!」

強い希望が見えました。
全く同じ顔、身体の生命体がいる。
そして文字が使われているということは言語も存在する。
この文明に溶け込むことは容易にできる、そう確信していました。

にしてもこの広告の、頭にリボンを二つつけた、ショートカットの女性。
とてもいい笑顔です。
もしかしたらこの星の人はみんなこんな風に素敵に笑うのでしょうか。

辺りは気づけば薄暗さを忘れ、明るくなってきました。
朝や昼や夜という概念もしっかり存在するようです。
墜落した先がこんなにウサミン星とそっくりな場所だとは、まさに不幸中の幸いでした。

菜々「あっ、人だ!」

明るくなってきたと同時に、バラバラと人が増えてきました。
皆同じような服を着ています。
これがこの星の正装なのでしょうか。

しかし、顔を一人一人見ていくと皆、暗い顔をしていました。
俯きながら、死んだような目をして、しかし足取りだけは確かにどこかへ向かっていました。

労働者でしょうか、先ほどの広告に写っていた彼女の笑顔とは大違いですね。
さて、とりあえず言語を理解しなければコミュニケーションもとれません…

言語解析装置起動。

ナナの頭にみるみるうちに彼らの言葉が書き込まれていきます。
これで、しばらくすれば最初はぎこちなくともコミュニケーションをとれるはずです。


しかし、ナナはいざ話しかけようと瞬間、急に怖くなってしまいました。
言語は同じものを使えるようになり、姿形もそっくり。
それなのに、いや、姿形が瓜二つだからこそでしょうか。
内面がどれほど私達と違うのか。

それがどうしてもきになってしまい、彼らとナナは違う星の人、という事実が背中に重くのしかかるようで、うまく行動できません。

今まで色んな星で活動してきましたが、ここまでウサミン星人とそっくりな生物と出会うのは初めてで、彼らの脳内がどうなっているのかも想像することすらかないません。

人、男、大人、女、老人、おじさん、おばさん。
姿形は同じでも違う。
ナナとは違う。
文字も、文化も違う。
違う。

それを自覚した瞬間、彼らとコミュニケーションを取ることが億劫になってしまいました。

ナナはそれから、ステルスを一切無効にせず、ひっそりとした生活を二週間ほどすごしていました。
様々なデータをハッキングしたりして、小さなアパートを借りて、そこでひっそりと生活していました。

幸い、非常食も沢山持っていましたので、食糧に困ることはありませんでした。
そしてそのまま気づけば17回目の誕生日も過ぎてしまいましたが、そんなことを気にする余裕もなく、ただただ影を潜め、ウサミン星からの救助を待ち続けました。

中途半端ですが、とりあえずここまでです

今朝は寝坊して中々大変だった
再開します

しかし、その後ウサミン星からの救助なんて一切来ませんでした。
おそらく、ナナが何処の星へ落ちたのかすらわかっていないのだと思います。

宇宙船の通信機能も、ウサミミの通信機能も壊れている今、救助のためにナナの位置をウサミン星に伝えることもできません。
ナナは本当に絶望しました。

しかし、このまま腐っていくわけにもいかない。
まだ救助が来る可能性も0%じゃないはずです。
そう無理矢理思い込ませ、この星で暫く救助が来るまで暮らす覚悟を決めました。

そのためには、殻を破らなければなりません。
異星人と話す恐怖を克服しなくてはなりません。
いつまでここで生活するのかわからないのです。

10年20年も誰とも話さずに暮らせるわけがありません。
食料が尽きれば買い物にも行かなければなりません。

いまはハッキングでお金をやりくりしていますが、いつまでもそんな犯罪を続けるわけにもいきません。
働かなければなりません。
そして、働いたらそのハッキングで得たお金を元の位置に戻さなければなりません。

もしかしたら救助が来るまで50年もかかるかもしれない。
でも、それでもここで死にたくない。
17年を生きた母星で死にたい。
この時の、ナナはそんなことを思っていました。
ナナは地球人との会話に挑戦しようと決心しました。

地球で手に入れた洋服に袖を通します。
腕が痺れたかのように震え、脚は鉛を詰めたかのように重い。
汗が頭を蒸らすのを感じました。

ステルスも解除しました。

よし、外へ出ましょう。
ずっしりと重いドアを開けて、生身をこの地球に晒しました。

そのままデパートなどがある、すこし派手な所へ歩いて行きました。
自分のものとは思えないほど重い足取りでした。

すこしずつ、道路も広くなっていき、人の通りも増えてきました。
ナナとは違う人がたくさんいる。
恐怖がまた蘇りそうです。
しかしナナはそれを無理やり抑え込むように、拳を胸の前で握りました。

「みなさんこんにちは765プロです!」

大きな電光掲示板に、突然たくさんの女性が映し出されました。
何かの宣伝のようです。

画面の向こうの女の子たちは、楽しそうに喋って、歌って、踊っていました。
たしか、「アイドル」というものでしたね。
以前ポスターでも見ましたね。
あの時と同じリボンをつけた女の子も映っています。

ナナのいるウサミン星にはアイドルという概念は存在しませんでした。
いや、存在しなかった、というよりは今は存在しない、と言った方が正確ですね。

ナナが産まれるよりはるか前には存在した、らしいです。
ある程度の人気もでたらしいです。
しかし、ウサミン星の発展に従って徐々にアイドルの数は減っていったとか。

科学力が向上するにつれ、あのような娯楽はわざわざ生身の人間である必要は無くなった、といったところでしょうか。

ナナには全く馴染みのないアイドル、という存在。
惑星開発部隊隊長、という女らしくない私とは真逆の存在。
無意識のうちにナナは、彼女達の笑顔に目を、耳を奪われてしまっていました。

なんて素敵に笑うのでしょうか。

今の職業に不満があるわけではありませんでしたし、憧れだった数々の惑星を訪れることもできましたので、充実した日々を送っていると思っていました。

しかし、彼女達の笑顔を見て、ナナにもあんな風に、大勢の人に見られながら、ニコニコ幸せそうに笑うことってできるのでしょうか。
と、そんなことを考えてしまいました。

彼女達とナナを比べると、ナナの方が圧倒的に劣っている。
なぜだかそんな風な感情を抱いてしまいました。

ぼうっと電光掲示板を見上げるナナの横をふと、人が1人通り過ぎました。
反射的に拳をぎゅっと握り、目を瞑ってしまいました。
先程の方、やけにナナのことを見つめていたような気がしました。

今横切った人から変に見られなかっただろうか。
周りからみて変じゃないだろうか。
洋服も今流行りのものをわざわざ調べてみたりと、なるべく地球人に紛れるように努力をしてきました。

だからきっと、変じゃないはずです。
なのに…

1人、また1人とこちらを見ています。

おかしい、何日もかけて地球人の振る舞い、歩き方も研究したはずです。
どうしてこんなに視線がナナに集まるんですか~!?

「ねえ…あの子みて、ウサミミつけてるよ」

「なんかのコスプレじゃないか?」

「変わった子だねぇ…」

「ウサミミ…?」

「あの子めちゃくちゃ可愛いくね?」

うう…そういえばウサミミをつけたままでした。
思えば地球人でこんなもの着けてる人誰もいません。
だからこんなにきっと注目を浴びてしまっていたのですね。

しかし、だからといってウサミミを外すわけにもいきません。
このウサミミの中には、様々な装置が収納されています。
いざ、というときにこれがないとナナは何もできないのです。

…今思えば街にでなくても、アパートの隣の人に挨拶する、とか小さなことから始めればよかったのでは?
いきなりこんなたくさん地球人がいるところに来て、誰かと話すなんてハードルが高すぎました。
生身でオオウサミン象を狩猟するようなものです。

そうとわかったら早いとこ家に引き返しましょう。
そこでご近所さんから軽く会話を交わしていきましょう。

「すみません、ちょっとよろしいですか」

体を反対に向けた所で、背中から声がかかりました。
ビクッと背筋が跳ねたのを感じました。

どど、どうしよう話しかけられた!?
えええと、かか会話しなきゃ

菜々「ははは、はい!?なんでしょう!」

声が思いっきり上澄みました。
しかしそんなことに気をとられる余裕などないほどに、ナナは緊張していました。

一体この人は何の目的でナナに話しかけたのでしょう。
怪しかったから?
それともナナにちょっかいを出そうとか?

真面目そうな顔で「スーツ」というこの星の正装を身にまとう男の姿。
この正しさの塊みたいな姿が逆に怪しい、なんて考えてしまいました。

「実はわたくし、こういうものでして…」

今日はここまでです
デレステでたくさんデイリー引いてるのにぼののが当たりません
SRのみくにゃんと莉嘉は出ましたがぼののが当たりません
ぼののが当たりません

デレステできないし話題についてけない

とりあえずPCでデレマスやるか

>>55
デレマスは冬なのに水着ガチャきましたね

再開します

そういって差し出された一枚の小さな紙。
何かがたくさん書かれています。
ナナは引きこもってた間ただ呆然と生きていたわけではありません。
ちゃんと言語と対応する文字を覚えてきました。

ひらがな、カタカナ、数字、アルファベット。
しかし勿論漢字は多すぎてまだほとんどわかりません。
よってこの紙切れの中で私が読めたのは、3、4、6、プロダクション

菜々「え、え、ええっと、ここ、これはいったい…?」

「私がプロデューサーとして所属しておりますプロダクションの名刺です」

菜々「プロダクション…?」

「簡単にいえば、アイドル事務所ですね」

アイドル…

「えっと…アイドル、なってみませんか?」

…アイドル。
なんだっけ、それ。

そうだ、さっきみたやつだ。
あれ?うそ、アイドル?

菜々「え、え、えええええ?」

ナナがアイドル?

菜々「えと、あ、アイドルになれるんですか?」

今までのしかかっていた他人と話す緊張感、それも全部粉々に砕かれてしまいました。
驚きすぎて、頭が全く回りません。

「ええ、俺があなたをアイドルに、トップアイドルにしてみせます」

菜々「トップ、アイドル…」

アイドル。
こんないきなり、それになれるだなんて、あまりにも唐突すぎる話で、警戒心が顔を出します。
それと同時に頭も少しずつ回転を始めました。

菜々「その、どうしてナナ、なんですか?」

「…とても、可愛らしく、綺麗で、そのー、なんというか他の人とは違う輝きを持っていたので…すみません、うまく伝えることができなくて」

菜々「…他の人とは違う輝き、ですか?」

「ええ。それが何かとはうまく伝えられないんですけど、俺にはあなたが普通とは違う女性に見えました」

菜々「…違う、女性…」

「ああ、いえ!勿論悪い意味ではなく、良い意味でです!えっと…それで、どうですか?アイドル、なってみませんか?」

しどろもどろなこの方。
でも、もし彼の言ってることが、ナナが他と違って見えた、ということが本当なら彼は人を見る目があるのでしょう。
ナナは事実、この星の女性と全く違うのですから。

うーん、どうしましょう。
いきなりすぎて考えがまとまりません。
色々説明をぶっとばしてアイドルにならないか、と言われても判断材料が少なすぎて決めかねます。

幸せそうな笑顔を振りまく仕事。
今のナナと全く違う生き方。
勿論そういったことに対する憧れはあります。

しかし、今のナナはアイドルについて知らないことがたくさんありすぎました。
もしかしたらこの憧れも一時的なものかもしれませんし、簡単に決断はくだせません。

それに、この星でアイドルになってしまったら…

菜々「えと、その…よくわからないので、詳しい話を聞かせてもらっても…?」

「…わかりました!では、近くの喫茶店に入りましょう!」

ナナの返事を聞くと心底嬉しそうな顔をしていました。

話があんまり進んでないですが今日はここまでです
相変わらずぼののはでませんがほたるはでました
ほたるの困り顔goinがめちゃくちゃくそかわいいです

あと、期間をあけて一気に話進むくらいの量更新するのとこんな感じでちょびちょび更新するのどちらがいいですか?
参考までに

わかりました
ではとりあえず今までのような感じでやっていきますね
万が一しばらく更新しなくなる場合は生存報告だけするようにします

すみません、期間があいてしまいました
再開します
とても眠い

その後ナナは喫茶店で彼からアイドルの様々なことを教えてもらいました。
歌、踊り、演技だとか、必要とするスキルはたくさんあるようです。

参りましたね…
歌なんてほとんど歌ったことありません。
踊りは、ナナの持ち前の運動神経でなんとかなるかな?

「ですが、それらすべてを完璧にこなす必要はありません。アイドルとして何らかの武器、前に出せるものを持っていればそれで補えるので」

武器、ですか。
ナナに、アイドルとして、輝く武器なんてあるのでしょうか?
戦闘用の武器ならウサミミにいくつか収納されてはいますが。

菜々「武器…ですか。ナナにもあるんですか?」

「必ずあります。俺がそれを磨いて、アイドルとしての力をつけいずれは──」

「それに、そのウサミミだってきっといいキャラにもなると思いますし」

菜々「キャラですか…」

「キャラクター性っていうのも武器になりうると思うので!」

とても熱心に語ってくれます。
そんな彼の姿にナナは、先程電光掲示板に映っていたアイドルと少し似た輝きを感じました。
この方は自分の仕事にきっと、生きがいを感じているのでしょう。
ナナは気づけばこの方に対する警戒心を殆ど失っていました。

菜々「ふふ、好きなんですね、今の仕事」

「…いや、まあ、それは…ハハハ」

ナナの言葉に照れくさそうに頭を掻きながら苦笑いを見せてくれました。

菜々「アイドル…かぁ」

「興味、沸きましたか?」

興味はもともとありました。
ただ、それでも、やはり簡単に「はいやります」だなんて答えられませんでした。
それはもちろん彼に対する警戒心が解けたいまでもです。


菜々「…」

ナナは葛藤するあまり彼の問いかけに対する返事を忘れてしまいました。
普通なら返事を渋っているように見えてしまうのでしょうが、それにも関わらず彼は一歩、踏み込んできました。

「もしお時間があるなら、事務所の方を見学していきませんか?より、アイドル活動についてのイメージを明確にできるとおもうので」

そんなこんなで事務所まで向かうことになりました。
先程ナナ達がいた喫茶店から歩いて15分くらいのところにある、とのことです。

「もう少しでつきますよ」

菜々「は、はい…」

道路はより広くなり、人もよりたくさんいます。
なんだかまた緊張してきてしまいます。

緊張感と同時に、アイドル事務所にたいする興味も強まってきました。
どんな建物なんでしょう。
ここらへんにたくさん建ってるような直方体の建物なんでしょうか。
それともウサミン星にあるような電力でピカピカ光るような派手な建物なんでしょうか。

…もしかしたらナナが住んでるアパートみたいにちっちゃかったりするのでしょうか。

様々な期待を抱きながら歩いていきます。
もちろん不安も無かったわけではありませんが。

「ここです」

菜々「…」

案内された先にあったのはとっても立派な建物でした。
地球に来てこんな様相の建物初めてみました。
無機質な直方体のビルでも、ウサミン星の眩しい建物とも違う。

ウサミン星にこんな見た目の建物存在しないのでなんと言い表せばいいものかわかりませんが、とにかくナナは感動しました。

「まるでお城のようじゃありませんか?」

菜々「お城…」

「あー…でも外観はそこまでお城っぽくないか…?うーん…とりあえず中に入ってみますか」

菜々「は、はいっ」

ウサミン星のような行き過ぎた発展をした建物達とは違って、外観に電力をあまり使っていない、静かで穏やか、尚且つ強さを持っている建物…といったところでしょうか。
とにかくナナの語彙力では表現できないほどの素晴らしい建物の中に入ることになりました。

菜々「う、うわぁー」

外観だけでなく、内装もナナを驚かせるものでした。
赤いカーペットは真っ直ぐ階段の上まで伸びています。

天井からは派手に装飾された灯がぶら下がっていて、装飾からかより眩く見えます。

床はナナの顔まで反射してしまうんじゃないかと思えるくらいピカピカです。

階段の奥に飾られている時計もナナが知っているようなものではなく、おしゃれな装飾がたくさん施されていました。

菜々「…」

言葉を奪われる、とはまさにこのことでした。
ナナは初めて目にする美しい内装を前に、ただ目を見開いて呆然と眺めることしか許されませんでした。

「綺麗な建物でしょ?内装は本当にお城のようですよね」

菜々「は、はい…すごい、です」

「レッスン場とかエステルームとか、様々な施設がこの中にはあるんです。絶対に気にいると思いますよ」

そう語る彼はどこか自慢気に見えました。

「こちらが歌のレッスン場です」

彼に案内された部屋の中には数人の女性が一生懸命歌を歌っていました。
ジャージ姿で棒立ちで歌っている。
ただ、それだけなのに何故だかその方達はとてもキラキラしていました。

ナナもあんな風に輝けるのだろうか。
ウサミン星の故郷を思い出してしまいました。

『ハイ、ここちょっと音程ずれてるぞ。やり直し!』

トレーナーさんでしょうか。
気合の入った指導です。
アイドルではない彼女のその姿さえも、一生懸命指導をする姿は光を放って見えました。

それからダンスレッスン場、エステルーム、事務所、寮、カフェなど様々な施設を案内していただきました。
そのどれもがナナには輝いてまえました。

ウサミン星の人工的に作られた電気の眩しさではなく、存在そのものが輝いている。

いくら発展しているウサミン星の電力をもってしても再現できないような、まるで魔法がかけられたかのような素敵な空間でした。

ナナもこの一部に入れるのでしょうか。
ナナもこんな風に輝きを放てるのでしょうか。

それがどうしても気になってしまいます。

でも、それでもまだナナは決心がつかないでいました。

「とりあえず紹介できる所は終わりましたね…どうですか、アイドルに対するイメージも大分まとまってきたのではないでしょうか」

菜々「はい、とても素敵なお仕事だと思いました」

「では…」

一瞬彼は期待した表情を見せました。
しかし、ナナがしばらく答えないのを見ると、

「何かとご不明な点や気になる点がありましたか?」

菜々「その、ナナでも…ナナもあんな風に、輝けますか?」

「ええ、必ず」

とても自信満々な彼にすこし背中を押されました。
それでも、まただ…

菜々「でも、すみません。しばらく考えさせて貰ってもいいですか?」

「でしたら、2週間以内に先程渡した名刺の電話番号におかけください。もちろん、返答がどちらであろうと構いません」

菜々「すみません…こんな長々と案内して貰ったのに…」

「いえいえ!アイドルのことを理解していただけだだろうし、全然平気です!」

最後まで彼は星のように明るい人でした。

その日の帰り道アイドルをやるかどうか、一悩みも二悩みもしている間に、気づけばナナは自宅にたどり着いていました。

アイドル、あんなにキラキラしていて、そしてアイドルがいる場所もキラキラしていて…
とにかく素敵で、今日事務所を見学したおかげでますます憧れが強まりました。

あんな風にキラキラしたい、なんて欲がナナの中を陣取ってしまいました。

でも、どうしてもウサミン星の景観が頭の中をチラついてしまいます。

アイドルをやろう、そう決めようとする度にいつもいつも、あの目に悪い建物の数々が脳内に浮かんでしまうのです。

本気でトップアイドルを目指す。
それはウサミン星に戻ることを諦めるのと同じことなんじゃないか。
そう考えてしまうのです。

もしかしたらアイドルに夢中になって、ウサミン星の事なんて忘れてしまうかもしれない。
それが今はとてと怖かったのです。

菜々「ナナは…どっちを選べばいいのでしょう」

部屋の天井を見つめ、一人呟きました。
その独り言はただ宙を舞うばかりで、ナナが今、1人ぼっちだということをよく強く実感しました。

きょうはここまでです
過去編が自分の想定よりも書きたい事が多すぎてダレてしまいますね
そして森久保は出ません
SSR蘭子が被りました

再開します

この星には相談できる人なんて誰にもいません。
母星に連絡する事もかないません。
ナナは1人です。
1人で決めなくてはなりませんでした。
でも、どっちが正しいかなんてわからない。

このままウサミン星の救助をただ何もせず待つ日々を過ごすのも厳しい事だと思います。
しかしそこでアイドルを始めたとしましょう。
一生懸命やって、色んな人との繋がりを得て、上手くいくかはわかりませんが、それなりに長く続いたとします。

そして、その頃になってウサミン星からの救助が来たらどうでしょう。
アイドル活動をそこまで続けて、様々な人に迷惑をかけておいて母星に帰れるようになったから帰ります、だなんて人として許されません。

アイドルをやると決めたらそこでウサミン星に帰らずアイドルをできるとこまでやるべきだと思います。

そういうわけで、アイドル活動を始めるということは、ウサミン星を諦めるのと等しいことのようにナナは考えてしまいました。

でも、だからといってウサミン星の救助が必ず来るかと言われるとそうは言い切れません。
通信が不可能な状況でナナの居場所を特定するのは至難な技です。
宇宙船は超高速で移動していたので他の隊員は恐らくナナの事故の一部始終も見れていないでしょう。

他の隊員の宇宙船の記録映像からも、ナナの行方は判別できないレベルではないかと思います。
そう考えるとこの地球へ救助が来る確率はかなり低いはず。

ならばいっそ諦めてアイドルになるのも一つの手でしょう。
救助を待つか諦めるかの2つの選択がナナに重くのしかかります。

菜々「うう…お父さんかお母さんに相談できれば…」

しかしナナもこの星で17歳の誕生日を迎えているわけですし、もう大人の仲間みたいなものです。
ここで自分で決められなくてどうするんですか、と自分を鼓舞してみるも中々に決断できません。

ぐるぐると思考の渦に流されているうちに、気づけば菜々は眠りについてしまいました。

菜々「…むにゃ…あれ?」

目を覚ました時には辺りは暗く、静寂に包まれていました。
窓から外を眺めると三日月が細々と光を発しています。

菜々「…ここからじゃウサミン星は全然見えませんね」

三日月以外にも点々と小さな光があります。
しかしどれも弱々しく、すこし目を細めただけで消えてしまいそうでした。

ナナが惑星開発部隊への入隊を決心したときもこんな風に空を眺めていた気がします。

こうしてぼうっと星々を眺めていると、ナナの知らない星へ行くことに憧れていたあの頃を思い出します。
もっと自分の世界を広げたい。
まだ見ぬものをこの目で見たい。

自分の欲求を自覚した途端にナナは、惑星開発部隊の入隊試験の勉強を始めていました。
そのころのナナは、自分がやりたいと思ったら、すぐに取り掛かっていました。

今のナナはどうでしょう。
くよくよ悩んでばかりで、自分の気持ちもわからなくて
何が一番正しいのかばかり考えてしまってます。

自分のしたいことよりも正しいことを求めてしまっているのです。

菜々「…」

『自分のしたいこと』というフレーズがナナの脳内に現れると、不意に、ナナが惑星開発部隊のことを父親に相談したときの、彼の言葉を思い出しました。

『菜々はまだ若い。下手くそに悩むよりも自分のしたいことを思いっきりする、それが大事なときもある。それに大人になれば無茶もできなくなるからな、今のうちに無茶して学べ』

なんて、格好つけた事を言ってました。
まだ数年しか経っていないというのに昔の事のように懐かしむことができました。

菜々「…自分のしたいこと」

アイドル活動。
あの三日月のように、光を放ちたい。
もしかしたらその周りの星たちみたいに、すぐに消えてしまいそうな弱い光しか放てないかもしれない。

この選択が間違ってて、すぐにでもウサミン星から救助がくるかもしれない。
たくさん信頼関係を築いて、のちにそれを壊してしまうようなこともあるかもしれない。

ナナの正体がバレてアイドルとしてやっていけないかもしれない。
なんて、様々な問題点が思い浮かびます。

でも、それでもナナは、父の言葉を思い出してしまったナナは、自分で決断を下しました

たとえこの選択が正しいかどうかわからなくても、自分のしたいことを第一に考える。
自分1人で悩んでただけなのに、父に説教でもされたかのような気持ちでした。

菜々「あれだけ輝いたら、ウサミン星にも光、届くかな?」

そうだ、ウサミン星にも光を届けるためにもとってもとっても煌めくアイドルになろう、だなんてこじつけも甚だしいような理由を考えて、ナナはまたあの三日月を眺めました。

プルルルルル
ガチャ

『もしもし、346プロダクションのモバPです』

菜々「えっと…今日スカウトしていただいた安部菜々です…」

『ああ、菜々さんですね。ご用件はなんでしょう?』

菜々「その、アイドル活動についてですけど…」

『はい…』

菜々「ナナ、アイドルやってみようと思います」

今日はここまでにします
自分の想像以上に長い話になりそうです

ではお言葉に甘えて長く書いていこうと思います
再開ます

『…わかりました。では明日、こちらの事務所に来れますか?契約などのお話がありますので』

電話越しの彼の声は少し活気を増したように聞こえました。
明日どころかナナはいつでも暇なので、承諾しました。

菜々「明日ですね、わかりました!何時頃に行きましょうか?」

『そうですね…お昼の1時くらいで構いませんか?」

菜々「はい、大丈夫です!」

ああ、決めてしまいました。
これでもう、逃げられません。
いや、違う、それじゃだめですね。

逃げる逃げないも考えないで、自分の本当にしたいことを今は考えましょう。
歌って、踊って、輝いて。

色んな人に名前を覚えてもらって。
(安部っていうのは適当に作った偽名ですけど)
そしてウサミン星まで輝きを届けるほどのアイドルになってみせます。

先程まで随分と寝てたからか、それとも新たな世界の入り口へとたったことの高翌揚感からか、この日の夜、ナナは全然寝つけませんでした。

翌日

菜々「うう、いくら昼寝したとはいえ睡眠時間3時間半だと少しキツイですね…」

もちろん夜中起きていたといっても、なにもせずぼーっとしていた訳ではありませんでした。
あまりに眠れなかったのでこの国で使われている漢字、という文字を一生懸命勉強していました。

今日の契約で書類も見ると思うので、そこである程度は読めないとまずいと思い、精一杯覚えました。
言語解析装置はあっても、文字解析装置はないので、地力で覚えるしかありませんでした。

完璧に全ての漢字を覚えられたわけもなく、読みのある程度の法則性を把握し、自分の名前と住所の漢字など必要な情報を書けるようにした程度です。

法則性さえ気づいてしまえば意外と読みはすぐ覚えられました。
しかし、書く方は中々に覚えられず、苦労に苦労を重ねました。
名前はともかく住所を書けるようにするのは拷問のように感じました。

菜々「さて、いきますか」

今日は軽いドアを開けて颯爽と外の世界へ出ます。
不思議ともう、この星の人と話すのも怖く無くなっていました。

気づけばナナは早足になっていて、あっという間に事務所へ着いてしまいました。
二度見ても圧倒されるお城の門をくぐるとすぐに声がかかりました。

「お待ちしておりました安部さん、こちらです」

事務所につくとすぐに話しかけられました。
別室に案内され、そこで対面する形で座ります。

これからアイドルになるんだ、そう思うと胸の鼓動がやかましくなります。

「えっと…では改めて、ご挨拶させていただきます、346プロダクションのアイドル部門プロデューサーのモバPと申します」

菜々「は、はいっ!ええと、よろしくお願いします、プロデューサーさん!」

モバP「まあそんな硬くならずにいきましょう。まさか昨日の今日で返事を頂けるとは思いませんでした。嬉しい誤算ですね」

菜々「いえ、これでも昨日は結構悩みました。でもやっぱり自分のやりたい事には正直でいたかったので!」

モバP「安部さんが決心してくれて本当に嬉しい限りですよ。では、アイドルとして所属するにはまずこちらの書類を書いてもらって───」

嬉々としてナナに書類の説明をしてくれるプロデューサーさんの顔はとても晴れやかでした。

その姿を見てナナの心も不思議と晴れやかになりました。

モバP「それではこちらに保護者の方のサインと印鑑を───」

あっ…
晴れやかだったナナの心は一瞬で雲がかかりました。
保護者のサイン、どうしましょう。

それに、しばらくゴタゴタで考える余裕はありませんでしたが、ナナの両親はいまどうしてるのでしょうか。
そう考えると寂しさがふつふつと湧き出てきました。

このままだとまたアイドルになる決心が揺らいでしまいそうなので一度考えるのをやめました。

それよりも保護者のサインや情報をどう誤魔化しましょう。
適当にナナが書いちゃいましょうか。

モバP「それから後日保護者様のほうへご挨拶を向かいますので、事前に電話をしなければなりませんね」

事前に電話、ご挨拶…
これは困りました。
ナナではどうにもできません。

挨拶は遠いところに住んでるとかで誤魔化せますが電話はどうしたものでしょうか。


ウサミン星に住んでるので電話できません、なんて言ったとしても信用して貰えないでしょう。
この星の宇宙に関する技術や情報はまだまだ発展途上のようですので、ウサミン星はおろか、異星人のいる星や地球と変わらない環境の星ですら見つかってないないみたいですし、変な人だと思われておしまいでしょう。

菜々「じ、実は両親はとっても遠くの田舎に住んでて電話もないんですよー!だ、だからその、えー、挨拶も電話も難しいと思います!」

しどろもどろと吐き出した嘘は我ながら酷いものだと思いました。
この国では電話を持っていない人なんてほぼいないということも知っているので、こんなこと言われてもナナですら少し疑ってしまうような気がします。

ましてやこの国にずっと住んでた人が信用するわけなど───

モバP「あ、そうなんですか。それはすみません。じゃあ、サインなども貰えませんね…参ったな、ご両親の同意が無いと所属させるわけにもいかないんですよね。色々と問題になってしまうので」

──ありました。
しかしだからと言って問題は全く解決には至らないみたいです。
サインか電話のどちらかは必須みたいです。

しかし今の嘘ではサインを得るのも不可能というわけになりますし、どうしたものでしょう。

菜々「あーではその、ええっとー、サインは明日実家に戻って貰ってくるのでー」

モバP「遠いのにわざわざいいんですか?大変なんじゃ…」

菜々「いやー、アイドルになるためですからー!あはは」

なんて笑ってみせました。
このプロデューサーさん、相当なお人好しなようで、ナナに対して疑いの目を一切向けてきません。

正直逆に心配になってしまいます。
騙されて仕事で失敗とかしてしまうんじゃないでしょうか…

モバP「じゃあ、お願いします。本格的な活動もそれからでないとできないので」

ということで、またちょっとした一波乱があったわけですが、こうしてアイドルとしての第一歩を踏み出すことができたのでした。

今日はここまでです

昨日書き込むつもりが寝てしまいました
再開します

ナナがアイドルとしての生活を始めてからも、沢山の波乱がありました。
アイドルになった、と言ってもまだ所属しただけでデビューしておらず、世間一般の方々にはナナのことは知られておりません。

(というより、ナナのことを知っている人なんて、この事務所の方々とアパートの住民の数人、管理人さんくらいしかいませんか)

デビューしていないので当然仕事もなく、毎日レッスンしかしておらず、ときより私生活のことを聞かれて必死にごまかしたりと、まだまだ大変なことはたくさんありそうです。

まるでナナとは別のもう一人のナナを創り出しているような感覚すら覚えました。
それでも必死で体を動かしたり、歌ったりしている間は、今まで経験したことのない楽しさを覚えました。

レッスンをしているときだけは、ナナの眼に映る景色がやかましいくらい輝きを放っていました。

菜々「ふーっ…今日もトレーナーさん厳しかったですー…」

自販機のそばに置いてあるベンチの背もたれに、軟体動物のようにぐにゃぐにゃともたれかかりました。

「どこのナメクジですか…もっとシャキッとしてください!行儀が悪いです」

菜々「はは…す、すみません~」

「まったく、カワイイボクを見習ってしっかりしてください!」

この子は輿水幸子ちゃん。
よくレッスンを一緒にするので仲良くなりました。

ナナよりもちっちゃくてカワイイ子です。
カワイさを自覚しているようで、いつも自信満々な振る舞いをしています。
自分の魅力をしっかり理解しているようで凄いな、と思いました。

この346プロはたくさんのアイドルが所属しているので、必然的に様々な方と知り合いになりました。
でも、その誰もが特徴的で、なんというか、不思議な方ばかりで毎日が騒がしく、忙しなく過ぎていきます。

ナナがデビューしたら、もっと忙しくなるんでしょうか。

幸子「ナナさん…ナナさんってば!ちょっと聞いてますか?」

菜々「えっ!?あ、す、すみません~」

幸子「まったく…カワイイボクの話を無視するだなんて…ナナさんってよくそうやってぼんやりしてますよね」

菜々「うえっ!?そうですか?」

幸子「うえって自覚なかったんですか?1日に1回はぼけーっとてる姿を見ますよ」

菜々「じ、自覚してませんでした~」

確かに最近考えごとをしてばかりですね。
何も考えずに好きなことだけに没頭するっていうのもナナには難しいことなのかもしれません。







モバP「今日は宣材写真を撮りに行くぞー」

モバPさんはナナが事務所に所属してからすっかり敬語も無くなり、少し親しげな口調になりました。
彼はナナ同様新人で、ナナが初めて自分一人で担当するアイドルだ、と言っていました。

今思えばスカウトされたときも、あまり慣れてなさそうな感じでしたね。

菜々「洗剤…ええと、洗剤の宣伝か何かでしょうか?」

モバP「いや、菜々自身を宣伝する材料の宣材写真ね…」

菜々「あ、ああ、そういうことですかー!いやーうっかりです!」

こうして時折日本語を間違えてしまいます。

モバP「ははは、いつかは洗剤のCMなんかも来るといいけどな。まあとにかく、アイドルとしてデビューするためには重要なものだからな。しっかり頼む」

菜々「す、少し緊張しますが…よし!ナナ、がんばります!」

毎日新しい事に挑戦しています。
異星に来てナナは改めて生を実感していました。

菜々「ええっと、ぴょんっ!」

ナナは毎日ウサミミを着けているので、いつしかプロデューサーさんが言ったようにこれを武器にしていました。

動物系アイドル、といったところでしょうか。

「お、かわいいねー」パシャパシャ

写真撮影は緊張します。
でもアイドルってことをより実感できて、緊張とは別の胸の高鳴りも感じました。

ライトによってあたりがより一層光り輝いて見えました。

「よし、お疲れ様!なかなかよかったよー!」

菜々「ありがとうございました!お疲れ様です!」

ナナは比較的順調に宣材写真を撮り終えました。
ライトの明かりが落とされ、眩しさは落ち着きを取り戻します。

(やっぱり…)

この先もこんな写真撮影とか、たくさんあるんでしょうか。
ワクワクしてしまいますね。

モバP「おつかれ。じゃ、車で送るよ」

菜々「あ、プロデューサーさん。おつかれさまです。ありがとございます!」

モバP「さあ、乗って」

菜々「はい、失礼します」

ナナは案内された通り助手席に座りました。
地球の車は空を飛ばないので実用性はウサミン製のものには敵わないけれど、座席は中々に快適です。

モバP「どうだったよ、宣材写真の撮影。事務所外のスタジオで仕事っていうのも初めてだったっしょ」

菜々「えっと、緊張しましたけど、なんだかアイドルって感じで楽しかったです!」

モバP「おー楽しめたか!中々良いじゃないか。最初はみんな緊張でガッチガチの銅像みたいになって楽しむことなんてなかなかできないもんなんだがな」

菜々「そうなんですか?」

モバP「前に何度も先輩プロデューサーに同行していろんなアイドルを見てきたけど、最初から楽しんでる子は結構少なかったよ」

もちろんナナも撮影直前はガタガタ震えていましたが、アイドルとして進んでいけてると考えると、楽しくて仕方がありませんでした。

菜々「…思えば度胸は結構自信があったりしますね~」

そう、なにせつい最近まで他の惑星に土足で手土産もなく入り込んで開発しようという部隊に所属していたわけですから。
嫌でも度胸はついてくるものです。

モバP「はは、若者にしては珍しいな。最近のやつはちょっと怒られたらすぐ辞めたり度胸ないやつばっかだっていうのに」

菜々「そんなおじさんくさいこと言わないでくださいよー。プロデューサーさんだって菜々とそんなに変わらないじゃないですか!」

モバP「いやいや6歳も違えば結構な差じゃないか?ジェネレーションギャップだって感じる時あるぞー」

ジェネレーションどころかプラネットもギャップなんですよね。

モバP「この前なんか…とと、もう菜々んちの前か」

菜々「あっというまでしたね」

モバP「そうだなー」

ナナは車から出ようとリュックに手をかけると、プロデューサーさんが少し表情を作り直して、話しかけてきました。

モバP「…まだ17歳なのに一人暮らしだなんて、寂しくならないのか?」

菜々「…寂しいですけど、仕方ないことですから」

嘘は言っていません。

ナナの本当の姿はまだ誰も知りません。
なので一切の事情もわからず、周りからすれば両親と疎遠になった問題のある女の子に見えるのでしょうか。

モバP「…そのな、何かあったら、頼ってくれよな」

菜々「あ、ありがとうございますっ」

ナナはプロデューサーさんの言葉がとても嬉しくおもいました。
しかしその判明、頼りたくてもナナの本当の姿を見せられない辛さ、隠し事をしている後ろめたさがありました。

菜々「えっと、おつかれさまでしたっ!送ってくれてありがとうございましたー」

それから逃げるようにナナはその場から立ち去り、自分の部屋へ入りました。

今日はここまで
すこし忙しくなるので更新頻度下がるかもしれません
すみません

さいかいします



菜々「ふぃー。今日も1日疲れましたね~」

家に帰り、星を眺めて呟きます。
最近は毎日、仕事が終わり、自室に戻ってくるとこうして星を眺めます。

こうすることで、ナナはウサミン星のことを想うのです。

お母さん、お父さんはどうしているのか、仲間のみんなは心配しているのだろうか、とか。
やっぱり寂しくなっちゃいますけど、この寂しさも大事なものだと思うのです。

アイドルをやっているときは楽しむことだけに集中して、不安や悩みは考えないようにして
こうして家にいるときだけ、ウサミン星のことを考える
そうすることでうまくアイドルとしてのナナとウサミン星人としてのナナの均衡を保っていました。

アイドルを始めるときは、もう悩まない、したいことを思いっきりする、と決めたのですが、ウサミン星のこともやっぱり大事ですので忘れることはできませんでした。

でもその代わり、アイドルをやっているときだけは絶対に振り返らないぞ、とも決めていました。

アイドル安部菜々はあくまでも地球のアイドルですから。

菜々「…欲張りすぎですかねえ」

この日のお月様も綺麗でした。



毎日毎日新しいことを覚えていくと、時間があっという間に過ぎていくのを感じて、気がつけばこの星に来てから初めての冬がやってきていました。
アイドルを始めてからずっとプロデューサーさんとの二人三脚です。

彼は担当が私しかいないので、自然と二人きりで行動する時間がたくさんありました。
朝の事務所、仕事の送り迎え、たまに一緒にご飯を食べたり、毎日家まで送ってくれたり。

ウサミン星からの救助は相変わらず来なくて、そんな1人寂しいナナにとってプロデューサーさんの存在は、日に日に大きなものへと変わっていきました。

そういえば本日はクリスマスというものらしいです。
元は宗教関係の話だったらしいですが、此処最近日本では大切な人と共に過ごして、プレゼントを渡したりするらしいです。

残念ながらナナは本日もお仕事です。
といってもまだナナ自身あまり人気も知名度も低いので、小さなクリスマスイベントにちょっとだけ出る程度のものですが。

モバP「菜々、準備できた?」

菜々「はーい!」

モバP「…じゃあ行こうか」

いつものように現場まで車で送ってもらいます。
ただ、なにやらいつもと空気が違うように感じられました。

菜々「…プロデューサーさん?」

モバP「…ん、んん?なんだ?」

菜々「…い、いえ。なにか様子が変だなーって」

モバP「いやぁそんなことないぜ!いつも通りぜ!」

菜々「…いや、へんです!」

なんだか緊張しているように見えますね。
今日の仕事はそんなに重大なんでしょうか?
もちろん全ての仕事に全力を尽くしますが、今日の仕事はより丁寧になったほうがいいのかもしれませんね。

菜々「ふぅーつかれましたー」

始める前に心配していたのも杞憂に終わり、問題なく仕事をこなすことができました。

モバP「お、おつかれさん菜々!」

仕事が終わっても相変わらずプロデューサーさんは変でした。
しごとに緊張していたわけじゃないようですね。

菜々「おつかれさまですー」

モバP「このあと、暇か?」

菜々「はい、空いてますよ」

モバP「…じゃあ飯食いに行かない?」

菜々「…いいですね!いきましょう!」

モバP「よ、よし!じゃあ車に乗ってくれ!」

何故か緊張した面持ちのプロデューサーさん。
ご飯なんていつも一緒に行ってるのに…どうしたんでしょう?

ちょっと高そうなレストラン

菜々「…こ、ここですか?」

モバP「ああ、ここだ」

今まで何度も一緒にご飯を食べさせてもらってきましたが、こんな高そうなレストラン初めてです。
346プロにちょっと似た外観で、如何にもな雰囲気を醸し出しております。

モバP「まあ、ドレスコードとかはないから大丈夫。さあ行こう」

プロデューサーさんはどこか誇らしげに案内してくれました。

菜々「ほ、ほぁーすごい内装…」

外はクリスマスの音があんなにも賑やかだったのに、中は静けさが充満していました。
思わずナナも息を呑んでしまいます。

モバP「予約していたモバPです」

「モバP様ですね。こちらへご案内致します」

スーツを着た店員さんが案内してくれました。
席には一本のロウソクがお洒落に置かれていて、小さな灯火が辺りを輝かせていました。

店の外

モバP「ふーおいしかったなー」

菜々「お、おいしかったですけど…いいんですか?あんなに高いのご馳走になってしまって…」

モバP「大丈夫さ。今日は特別だから」

よくわからないけど今日は特別らしいです。

モバP「…まだ時間、平気?」

菜々「ええ、平気ですよ。もう夜ですし予定もありませんから」

モバP「…じゃあ、あっち行ってみよう」

彼が指差した先は、満天の星空、のようにチカチカと光輝くイルミネーションの森でした。
ウサミン星でも似たようなものを見たことがありますね。

でも地球のよりもとても派手派手で目が痛くなるほどでした。
ここのイルミネーションはほどほどに飾られていて、なんというか、しつこく無い感じでナナはこっちの方が好みです。

菜々「わー綺麗ですね~」

モバP「…だ、だろ?」

なんだか先程よりも緊張しているような。

モバP「な、菜々!」

菜々「は、はいっ!?」

モバP「えっと…だな…その、今年の5月、菜々をスカウトして、それから今日まで二人三脚でやってきたわけだが…」

菜々「は、はいっ」

モバP「…毎日毎日、ニコニコしてて、一生懸命な菜々を誰よりも近くで見てきて…その、いろんなアイドルがいる中でも菜々の事ばっかり目で追って…」

モバP「俺、菜々のことが好きになってたんだ。だから、俺と付き合ってくれ」

菜々「えっ…?」


今日はここまでら

すみません訂正します

>>35
ここ、16歳ではなく15歳ですね
>>42
ここは17回目の誕生日ではなく16回目の誕生日ですね

色々すみません、再開します

ナナ、心臓動いてますか?
ああ、動いてた。
動いてるどころか鼓膜にどくどくとうるさいくらいに音を響かせてきます。

ナナは、プロデューサーさんのこと、好き?
自分にそう問いかけてみます。

菜々「な、ナナは…」

プロデューサーさんに見つめられて、思わず恥ずかしくなって目線をそらしてしまいました。
そのまま周りを見渡すと気づけば男女の二人組がたくさんいました。
それぞれ、手をつないだり、腕を組んだり、肩を抱いたり、触れ合っています。

もしプロデューサーさんと付き合ったらあんなことするんでしょうか。

ドクン

あれ…?
なんだろう、想像するだけで、胸がドキドキしてきました。

辺りは時間が減速したかのように思えるのに、ナナの鼓動は反対に加速していくのを感じました。

彼と手を繋ぐこと、肩を抱かれること、腕を組むこと。
そんなことを想像すると、暗闇の中一番星が現れるかのように、深い霧の中一筋の流星が落ちてくるかのように、辺りが明るく、暖かくなるのを感じました。

彼に触れたい、そう思うと言葉より先に身体が勝手に動き始めました。
彼の元へ動き始めました脚は震えながら、それでも確実に一歩ずつ、砂漠の中オアシスへ歩いて行くように、彼に接近していきました。

両腕を彼の背に回して、胸と胸を押し当てると、彼の体温を吸収して、暖かくなりました。
心の中も温まって、まるでパズルのピースがぴたりとはまったように、彼から離れたくない、そんな気持ちが湧き出てきました。

菜々「な、ナナも…ナナも、好き、です」

彼の目を見つめると、辺りのイルミネーションの光を集めて、銀河のような煌めきを帯びていて、ナナを彩りよく反射していました。

こうしてナナはプロデューサーさんとお付き合いするとこになりました。

それから暫くは楽しくて、嬉しくてたまりませんでした。
一人ぼっちで地球に来たナナに、初めてこんなに親しい人ができたので。
2人の仲はますます良くなって、お互いの色んなことを知っていきました。

でも、それでも後ろめたさはありました。
ナナの正体を彼は知らないのです。
ウサミン星人だということをナナはまだ言えずにいました。

いずれは言うべきことだとはわかっていました。
ですか、地球人とは違う、彼らからすれば未知の星の生命体。
それがナナだと知られたら嫌われてしまうんじゃないか、と思うと口が思うように動かないのです。

こうして自分を隠し続けて気づけば地球に来て2度目の5月、ナナの17の誕生になっていました。

アイドルを始めてからもうすぐで一年が経ちますね。
しかし、ナナは相変わらずアイドルとしてはあまり人気は出てはいませんでした。
一年ちょっとで人気が出るほど甘い世界ではない、ということなのでしょうか。

ですがそのおかげで今日、仕事がなくプロデューサーさんと二人で過ごすことができたのです。

モバP「じゃあこれ、プレゼント」

菜々「わぁ…きれい」

そういってプロデューサーさんが渡してくれたのは綺麗なネックレスでした。

菜々「つけてくださいっ!」

モバP「ほら…どうだ?」スッ

菜々「わぁぁ…とっても嬉しいです!」

ネックレスは眩しいくらいに輝いていて、視界が霞んでしまいそうでした。
しかし、その明るさに照らされれば照らされるほどに、ナナの影が色濃く映るような感覚がしました。

ナナはまだ、プロデューサーさんに自分のことを全て言えていないのです。
こんなに色んなことをしてくれたのに、このままじゃあいけない。

嫌われたらどうしよう…とは思うけど、だからと言って黙っていては本当の関係はできない、そう思っていました。

モバP「…菜々?どうかした?」

しばらく考え込んでいたナナを見て聞いてきました。
ああ、心配してくれるこの視線すら暖かい。
でも、彼の暖かさに甘えてばかりではダメですよね。

菜々「じ、実は…ナナ、プロデューサーさんに隠してたことがあって」

恐る恐る気持ちを言葉に建てていきます。
プロデューサーさんはナナを見て、すこし目をピクリと動かして、そのあとじっくりとナナの目を覗くように見つめてきます。

菜々「実はナナ…えっと、う、ウサミン星人なんです!!」

短いけど今日はこれで終わりです
ちょっとこらからは話のペースあげていきます

ちょろっと再開します

モバP「…え?」

菜々「その、ウサミン星っていうのは…太陽よりも遠いとこにあって…それでナナはそこからきたウサミン星人で…あの…ちょうど一年前くらいに、地球にきたんです…」

目を見開いたまま固まる彼を構いもせず、ナナは隠していた事実をバラしました。
彼はこの言葉を聞いてその見開いた目をどのようにゆがめるのでしょうか。

恐怖か、それとも軽蔑か。
ナナはどんな答えが来ても受け入れよう、と拳を握りしめ、目を強く瞑り、彼の反応を待ちました。

もしかしたら異星人なんて得体の知れないものと付き合いたくない、と突き放されてしまうかもしれない。
今の幸せを崩してしまうかもしれない。

とても恐ろしいことです。
脚が竦みます。

それでも、このままじゃいけない。
彼にいつまでも黙っててはだめだ。
だから、彼にこんなことを告げたのです。

きっと、このまま黙っていてはお互いを心から理解することなんてできないと思ったから。

モバP「…」

菜々「…っ」

この沈黙した空間が、ナナの周りの重力を強めます。
身体が重い、立っているのも苦しい気がします。

でも、そんな無意味に恐れるナナとは裏腹に、彼の答えはあっけないものでした。

モバP「えっと…なに、そういうキャラでいくの?」

菜々「…えっ」

モバP「えっ」

菜々「……?」

彼の言ってることがさっぱりわかりません。
キャラ?

モバP「…いや、ほら。アイドル始めてから結構経ったけどさ、まだトップには程遠いどころか世間様にもそこまで知られてないわけじゃん?」

菜々「…は、はい」

モバP「だからこう、キャラを一新して誕生日から新安部菜々でいくぜ…みたいな話じゃないの?」

なるほど。
たしかに、いきなりウサミン星人ですなんて言って信じてもらえる訳がありませんね。
冷静に考えればそうでした。

モバP「…たしかに菜々のビジュアルだとそういうキャラも映えるだろうし、そのウサミミもマッチしてていいな…よし、そういう企画を色々作ってみるか!」

すっかり仕事モードになってしまったようです。
誤解を解かなくては…と、思ったのですが。
まあ、今はきっと何を言っても信じてくれない気がしますね。
(────)


なんて自分に言い聞かせて、胸の奥に蠢く何かを押さえつけました。


これでいいんです。

「ナナでーす♪ウサミン星から両耳を引っさげ、今日も頑張っちゃいますよー!」

高々とマイクに宣言するナナ。
お客さんは歓声を上げて大喜びしてくれます。

「ミミミンミミミンウーサミーン!」

これがウサミン星人としてのナナの曲です。
あれからプロデューサーさんと相談してウサミン星人アイドルとしてのキャラクターを確立してからというもの、ナナの人気は急上昇していきました。

バラエティーの番組にも引っ張りだこになりましたし、こうしてライブもできるようになったので、アイドルとしての力は増してきているはずです。

…でもまあ、少し複雑な気持ちではありますが。

モバP「おつかれさん、いいステージだったぞー」

菜々「あ、プロデューサーさん。ありがとうございます!」

ステージの袖に行くとプロデューサーさんがすぐさま声をかけてくれました。

モバP「客のボルテージも凄かったな」

菜々「ナナのほうまでビビビッときちゃいました!」

ステージでの興奮そのままにプロデューサーさんに話しかけます。

モバP「はは、そりゃあよかった。じゃあ挨拶回りして事務所へ帰ろうか」

菜々「はーい」

車内

モバP「来週はもうちひろさんの誕生日だなー」

菜々「はやいですねぇ。つい最近まで予定立ててたのに」

モバP「まーなー。当日は俺らでケーキ取りに行くからなー」

菜々「2人でですか!」

モバP「もちろん」

菜々「えへへ、ちょっとしたデートですね!」

なんて他愛もなく来週にせまる誕生日会の話を膨らませていました。
どんな誕生日会になるんだろう。
今から楽しみで仕方がありませんね。

今日はここまでです
菜々のSSRきちゃいましたね
めちゃくちゃ欲しいのでちひろさんにお年玉渡してきますね

さいかいします

ちひろさんの誕生日

菜々「えーと今日の服はこれで…よいしょ…よし!準備完了!」

今日は待ちに待ったちひろさんの誕生日です。
この日のために、アイドルのみんなやプロデューサーさんたちで、ちょっとしたパーティーの準備をしていました。

ちひろさんはとても優しい人で、ナナにもたまにスタミナドリンクという飲み物をくれたりします。
何が入ってるのかはわかりませんが、飲むと体力が一気に回復してしまう素敵な飲み物です。

ウサミン星でも売ってればいいのにな、とか思ってしまうほどです。
…体力を回復する飲み物なんてウサミン星にもないのに、地球の科学力でよく作れたものですね。

菜々「♪」

ウサミンキャラで売り出して以降は急激に忙しさを増したので、なかなか2人で出かける機会が少なく、今日は久々のデートというわけです。
まあ、デートといってもちひろさんのケーキとかを買いにいくだけですけど。

菜々「んー、ちょっとこの服暑いかな?」

2人きりってことを考えたからか、暖かくなってしまいましたかね。

どうやら早く準備しすぎたみたいです。
時間に余裕があり、手持ち無沙汰になってしまいました。

ふと鏡を見てみます。
どこか、変なところがないだろうか。
ナナの今の服装、ちゃんと着こなせているかだとか、そんなことを気にしてして全身を流し見ました。

パーティーということですこし派手めのピンクのスカート姿ですが、主役を立てることを考えて装いとしては大人しめになるように意識して、シャツを合わせました。

自分の身体を見ると、顔も身長も幼いので、似合うかどうか心配でしたがいざ着てみれば、意外にも似合っているなと我ながら感心してしまいました。

ただ、ぴょこんと生えたウサミミに目をやると、さすがに大人しめの服にこれはないな、と違和感を察知しました。

このウサミミは多機能な装置ですので、地球にきて以来は移動用や防護用としてつねに身につけてきました。
(まあ、もちろん外さなければならないときもありますが)
しかし今ではこのウサミミにも色んな意味があるんだな、と考えると自分のやってきたことが頭の中を巡って、少し感傷的な気持ちが湧き出てきました。

部屋に飾ってある自分が写っている重数枚のポスターや写真を眺めてみると、どれもウサミミを付けて写っています。
アイドル安部菜々にとってのウサミミは身体の一部のように、あって当然のものであり、また同時に武士にとっての刀のように、安部菜々を強調するシンボルのようなものでもあるのでした。

ただの機械装置がいつの間にかシンデレラを着飾るドレスになっていた、だなんて出世もいいところですね。

様々な思いを噛み締めながら、ウサミミを外して、ポニーテールを解きました。
ウサミミは畳んでそのままバッグの中に、ヘアゴムは胸ポケットにしまいました。

自分で言うのも恥ずかしいですが人気が出てきた今では、アイドルとしての私そのままの姿で出かけると、スキャンダルがちょっぴり怖いのです。

腕時計をみてみると、プロデューサーさんと設定した集合時間までまだ30分もあることを再認識して、つい眉をひそめてしまいました。

もうやることもないし家を出てしまいましょうか。
あまり履きなれていないきれい目の靴を選んで、履きました。

では、行きますか。
と、軽い扉を開けて外へ出ました。

事務所近くの交差点が集合場所です。
ナナの家からもすぐの場所なので、あっという間についてしまいました。
まだ20分も時間までありますね。

ふと周りを見渡すと、見慣れた彼の姿がすぐに目に入ってきました。
瞬間、辺りに星空を零したように煌めきが放たれました。

胸が踊るのを感じるより早く、声が飛び出したました。

菜々「プロデューサーさーん!」

すぐに驚いた顔でこちらを向いてくれました。

モバP「菜々?まだ20分も時間あるぞ?」

菜々「そのー楽しみすぎて、早く準備が終わってしまいました」

モバP「そんなにちひろさんの誕生日パーティー楽しみだったか?」

なんて、わかってるくせにニヤニヤと聞いてきました。

菜々「それもそうですけど、やっぱり…その、プロデューサーさんとのデートが楽しみだったんですよっ!」

今日はここまでです
70連して菜々のSSR当たりませんでした

区切りのいいところまで書きだめてから投下しようと思ってるのですが結構時間がかかってるのでしばらく投下できません
すみません

再開します

それから、プロデューサーさんがジッとこちらを見て固まってしまいました。

菜々「ど、どうしました?」

モバP「いや、普段と違って大人っぽくて…なんつーか、綺麗だな」

プロデューサーさんは照れ臭そうに目をそらしながらナナの髪をさらりと撫でてきました。
また胸の鼓動が調子を上げていくのを感じます。

菜々「も、もう…恥ずかしいですよぅ」

恥ずかしくてたまらなかったけど、なんだかこのまま一人恥を感じているのも負けた気がしていやだなぁと思い、気恥ずかしさに抵抗するようにまじまじと彼の瞳を覗くと、頬を火照らせた自分の姿が映っていて、余計に熱くなってしまいました。

モバP「なに見つめてんだよー」

そういうと彼は少し照れくさそうに目線を左下にずらさて、ナナのおでこをコツン、と人差し指で押しました。
引き分け、かな?

モバP「じゃあ車で行こうか。あそこの駐車場に停めてあるから」

菜々「…最初から駐車場集合にすればよかったのでは?」

モバP「それはなんか、味気ないっつーか…久々のデートだししっかりしたいっていう感じ」

よくわかりませんが交差点集合もあまり味気ないような気がします。
ですが彼もまた、久々のデートに特別な思いを抱いていることが伝わってきて、頬がほころびました。

プロデューサーさんが一歩足を踏み出すのを見て、ナナも彼の横に寄り添って歩み始めました。
彼はそんなナナの姿を横目でちらりと見ると、ナナの左手にそっと指を絡めてくれました。

彼の体温が左手を通して胸まで伝わってきます。

モバP「やっぱ菜々は手がちっちゃいな」

菜々「プロデューサーさんはおっきいですね」

彼に包まれるような感覚がナナの全身を支配しました。
温泉にでも浸かるかのようにじんわりとその包容感を身体に浸していると、思わず歩くのを忘れてしまいそうです。

いつまでもこの感覚を味わっていたいと思っていましたが、駐車場までの距離は近く、車の前に着いてしまったもので彼は手を離してしまいました。

もっと駐車場が遠ければよかったのにな。
なんて、名残惜しさを抱きながら、まだ暖かみの残る左手で助手席のドアを開きました。

モバP「そうだ、これつけとけよ」

彼がそういって差し出したのはどこのコンビニにも置いてあるような市販のマスクでした。
その意図がわからず首を傾げます。

菜々「ナナ、風邪ひいてませんよ?」

モバP「ちがうちがう、一応変装をだな」

菜々「髪下ろしてるしウサミミもつけてませんよ?」

モバP「ウサ耳が無くたってわかるひとはわかるだろ。念のためだよ」

渋々マスクの袋をあけます。
デートの時にマスクをするのはあまり気がすすみませんね。

取り出したマスクをまるで恨みでもあるかのようにじっと見つめているとプロデューサーさんが不思議そうに顔を覗いてきました。

モバP「どうした、つけたくないのか?」

つけたくありません。
だって…

菜々「もう…」

彼の両頬を包むように優しく手を当てます。
驚いて目をぱちくりとしている彼に愛くるしさを感じながら、そっとこちらへ顔を向けさせます。

席を少しだけ立ち上がって、彼の瞳をじっと、独り占めして、それからゆっくり瞳を閉じました。

掌の感触を頼りに彼の位置を探って、恐る恐る顔をだします。

彼との距離がゼロに近づくにつれて、反して心臓は送る血液の量を増やします。
緊張と似た、だけどちょっと違うどきどきを胸いっぱいに溶かしながら、唇をそっと、重ねました。

唇を離すと小さく水音がなり、それがまた胸の高鳴りを加速させるのがわかりました。

菜々「…マスクしてると、こう、きす、できないじゃないですか」

一瞬自分の声だと気づかないような震えた声が、ナナの口から出ました。

モバP「…甘えんぼだもんな」

そういうと彼は優しく微笑んで、ナナの頭をそっと撫でました。
たまらず、彼の手をとり、ナナの頬へともっていき、頬を押し当てました。

菜々「えへへ…」

好き、という気持ちがこれでもかというくらい、ナナのどこかからどんどんと溢れ出てきます。
それはもう身体に収まらないくらいに。

ナナという防波堤をあっけなく超えた『好き』は、ナナの身体を支配してしまいました。

彼の肩に、腕に、ナナの頬をこすり当てます。
そして余計に彼の体温を感じて、きもちはますます抑えどころを見失ってしまいます。

モバP「こらこら、ケーキ買いに行くんだから」

そういう彼は言葉ではそう言えども、全く嫌な顔はせず、むしろにこやかに、静止にならない静止をします。

菜々「だって…好きなんですもん、プロデューサーさんが」

彼といる限り、ナナはこの星でも幸せでいられますね。

ナナのすりすり攻撃をやんわりと抑えたプロデューサーさんは車を走らせ、ケーキ屋のある街へ向かいました。

車の運転中も、赤信号で止まるたびにナナは彼にキスをしました。
たまにナナからキスをしないでみると、彼の方からナナに強引にキスしてくるのもまた愛しくて、そのためにあえてキスしなかったりと、ちょっとした駆け引きも楽しみました。

そんな楽しい時間はあっという間で、すぐにケーキ屋の駐車場についてしまいました。

モバP「ほら着いたぞー」

菜々「あっというまでしたね」

そういいながらナナはマスクをつけました。
公共の場ではキスもできませんし、つけてもいいかなと思ったのです。

車を降りるとすぐに反対のドアから出た彼の元へ駆け寄り、今度はナナから彼の右手に指を絡めました。
今日はどうしても彼と触れ合ってたい気分です。

プロデューサーさんはそんなナナを見て、ニコニコと笑って歩き始めました。
それを反射するようにナナも彼に笑顔を見せました。

そのまま手を繋いでケーキ屋さんへ入りました。
愛想の良さそうな店員さんが挨拶をかけてきます。

モバP「さて、どれにしようかな」

ショウケースには色とりどりのケーキが並んでいました。
どれも必死に輝こうと自己主張していて、なんだかアイドルみたいだなあ、なんて思っちゃいました。

中でもとりわけ、ちひろさんの肌のように白いショートケーキはとても美味しそうに見えました。

菜々「プロデューサーさん、ナナこれがいいです!」

ショートケーキを指さすとプロデューサーさんは呆れたように笑って、

モバP「いや、菜々のじゃなくてちひろさんのケーキを買うんだぞ?」

と言いました。

菜々「そ、そうでした。でもどうやって選ぶんですか?」

彼は一息唸りながら、顎に手を当てて考え始めました。
様になってますね。

モバP「…ちひろさんの好みもあんまわかんねーし、ショートケーキでいっか」

菜々「えへへ」

彼に笑顔を見せると、また呆れたように笑ってナナの頭をひとなでしてくれました。
今日はプロデューサーさんもいっぱい撫でてくれて嬉しいです。

ナナの選んだショートケーキを店員さんに注文して、チョコレートにメッセージを書いてもらいました。
ろうそくもたくさん貰っていました。

菜々「あんなにろうそく刺したら食べるの大変じゃないですかね?」

モバP「…ちひろさんの前では言わないでよねそれ」

…ケーキ早く食べたいです。

店員さんから丁寧に渡されたケーキをナナが受け取り、プロデューサーさんは財布を出して代金を払いました。
袋詰めされたろうそくがたくさんはいっていてかさかさと音をたてます。

モバP「さてと、ケーキも買ったし会場行くか」

菜々「え~、せっかくのデートなのにもう終わりですか?」

どこか行きたいです、と願いを視線にこめてプロデューサーを見上げます。

モバP「まあ…実際時間にはだいぶ余裕もあるしなあ…」

菜々「でしょう?ちょっとだけなら大丈夫ですよねっ!」

またもじーっと彼の瞳の奥を見つめます。
ナナは久々のデートをもっと堪能したいのです。
このケーキよりも甘々な時間を過ごしたいのです。

モバP「しょうがないなぁ、じゃあどこか行くか」

菜々「やった!」

両手を天に挙げて喜びたいところですが、ケーキを持っているので身体は控えめに動かしました。

モバP「その代わり、ドライアイスが溶けちゃうとまずいから、まあ一時間くらいが限度だぞ」

菜々「はーい♪」

ナナたちはそれから周辺をぶらぶらと散歩し始めました。
これといって寄る場所も思いつかず、ただ2人で歩いているだけですけど、それでもとても楽しい時間です。
目的もなく歩き始めて、気がつけば道路に面した小さな公園についていました。

少年が嬉しそうに風船から垂れる紐を握っています。
どこかでイベントでもやっていて、貰えたのでしょうか。
おかあさんを待っているのでしょうか、1人きりです。

しばらく歩いてたので、少しトイレに行きたくなってしまいました。
公園にトイレもあるので行ってきましょう。
ちょっと恥ずかしいけれどプロデューサーさんにその旨を伝えてトイレに向かいました。

プロデューサーさんは近くで待ってるみたいです。

トイレも済ませて手を洗います。
鏡をちらりと見ると、髪型が崩れてないかと気になってしまいました。
じっとよく見てみるけど、大丈夫そうですね。

さてプロデューサーさんのもとへ戻ろうとしたとき、外からキキー、となにかが猛烈に擦れるような高音がナナの耳を刺激しました。

びっくりした、と思わずつぶやいてしまいました。
近くにいた方もぴくりと身体を跳ねらせていて、驚いた様子でした。

少し気になるし、はやくプロデューサーさんの元へ向かいましょう。

トイレの外へ出るとあたりは騒然としていました。
人だかりが道路の近くにできていて、歩道が埋め尽くされています。
トラックが近くに止まっていてます。

一体なにがあったのだろう。
プロデューサーさんも様子を見に行ったのか、姿が見当たりません。
とりあえず人だかりの方へ混じってプロデューサーさんを探しましょう。

彼らの中に混じって、周りを伺ってみると、皆顔を青白くして、電話をしていたり、涙を流したり、口を押さえて座り込んだり、人それぞれではありましたが皆なにかにとても驚いているみたいです。

彼らの視線の先を辿ると、人が1人、トラックの先に寝ていました。
それを見たとき、どき、と心臓を強く握られたような衝撃を感じました。

血、汚れた服、開いたままの口、よくわからない液体、血、虚ろな目。折れ曲がった腕、血。

ナナはそれを見た途端、情報を繋ぎ止める事が出来ずに、頭は働かず、断片化した特徴が眼を通過するばかりでした。
何が起きているのか把握することができませんでした。

周りの人は大きな声を出したり、ざわついていましたが、まるでナナだけ水中に沈んでいるように、彼らから発せられる声は耳に届きませんでした。

見たくない、見てはいけない。
そう頭が信号を発し続けているのにも関わらず、ナナの眼はそれから外れることはありませんでした。

あの服はプロデューサーさんが着ているものだ。

この光景を胸一杯に焼き付けたのち、ようやくナナの頭脳はゆっくりと回転を始めました。

プロデューサーの顔をしている人が倒れている。

ナナは重力に負けたように崩れ落ちました。

プロデューサーさんが倒れてる。

菜々「プロデューサーさん!!」

前のめりに彼の元へ駆け寄りました。

虚ろな目はナナには向けられません。

菜々「ああ…!!ぁ!…ーー!」

視界がぼやけて水みたいに揺れていて、彼はその中に溶けました。
涙は頬を伝って彼の元へたれました。

絶望して空を見上げれば、風船が高く空へ吸い込まれていって、見えなくなってしまいました。

今日はここまでです
完結までたぶんもう少しです
来月までには終わらせたいですね

菜々「どうして…?」

どうして彼がこんな姿で横たわっているのでしょうか。
トラック…あのトラックに轢かれてしまったのでしょうか。

「あのひと…知り合いかしら、可哀想に…早く救急車はこないの!?」

「なんてこった…クソっ」

「うう…」

いろんな声がナナを包みます。
周りの人は泣いてる人、驚きのあまり立ち尽くす人、同情してくる人、いろんな人がいます。
周りの声から判断するに、プロデューサーさんはどうやら道路に走り出た子供を助けるようにして轢かれてしまったようです。

ああ、どうして。
ナナにとってのあなたがいない世界なんて。

彼の今の姿は見ていると嘔吐してしまいそうな程残酷に変わり果てているのに、ナナはそれから視線を外すことはできませんでした。

このまま一人で、彼を失った地球に居続けるなんてナナには無理です。
彼はナナにとっての地球でできた初めての大切な人なんです。
彼が居なければナナは一人ぼっち、孤独です。

でも、まだ助けれる。
腕時計があれば。
この腕時計を使えば助けれる。

ただ、これはそう簡単に使ってはいけないものです。
本来ならウサミン星に一度連絡して許可を取らないと使用してはいけないとされる代物です。

時間操作装置。
これを使えばプロデューサーさんを恐らく助けられるはず。
ただ、2年半以内までしか戻れなかったり、ウサミン星人やその支配下にあるもの、人に対しては効力が無かったり、複雑な条件や効果があるのです。

ですから、何か問題が起きてもおかしくはないのです。
でも今のナナにはそれを考える余裕がありませんでした。

腕時計を起動させると、眩い光がナナの周りに展開されました。

腕時計から発せられた光が消えると、あたりはちょうど公園の入り口に変わっていました。
時間操作に成功した安堵から、心拍数が少しだけ下がりました。

そう、あとは簡単です。
ナナがプロデューサーさんにつきっきりになって道路に近づかないようにすればいいだけです。

大丈夫、間違いなく助けられる。
これでプロデューサーさんと二人でいれる。
そう自分に言い聞かせるように、おまじないをするように胸の中で唱えました。

隣にいるプロデューサーさんは黙っているナナの眼を不思議そうに覗いています。

彼からすれば今のナナは突然神妙な顔をして沈黙し始めた変な人なのですから、仕方のないことではありますが。

モバP「どうした?トイレ行かないのか?」

菜々「えーっと、その…ひ、引っ込んじゃったな、なんて…」

モバP「引っ込んだって…女の子がはしたないなぁ」

プロデューサーさんは何も知らず、呑気そうに笑っています。
それに対してナナは、またもや心臓の動きを激しくしていました。
やはり運命の時が刻一刻も近づいてきていることを考えると、先程落ち着いた心拍数もまた上昇してきます。

モバP「あれ…道路に子供が…危ねえ!」

車道に一人、子供がいました。

その近くの電柱には、あの子が持っていたのか風船が引っかかっていました。
状況から察するに、風が子供の風船を掻っ攫い、電柱に引っかかったのを追いかけ、車道へ飛びてたというところでしょうか。

「そういうことですか」

トラックが走ってきています。
ナナたちからあの少年まで大した距離はありませんが、かといって今から助けるのは簡単ではないはずです。

飛び込んで行ってもあの少年もろともひかれてしまってもおかしくはありません。

それにも関わらず彼が今にも飛び出そうとしたとき、ナナは彼の腕を掴んでしまいました。

モバP「菜々!?あの子がっ!!」

彼は必死にナナの腕を振り払おうとしています。
ナナはそれでも離さまいと腕の力を強めます。

モバP「離せよ!助けないと!」

トラックはスピードを緩めるどころかさらに加速して、少年を巻き込みながら電柱へ激突していきました。
ああ、ナナのせいであの少年が死んでしまった。

血の気が引いていくのを感じました。
ゾッと、冷たい手で首筋を撫でられたようなそんな感覚でした。

プロデューサーさんを助けるために、あの少年を犠牲にしてしまった。
目の前の彼は眼を見開いてその有様を脳裏に焼き付けていました。

なんとも言えない吐き気のようなものがナナ胸を締め上げます。

彼は電柱を見ながら少し眉を動かすと、ナナの方を向きなおし、ナナの腕を掴んで横へと放りました。
ナナは勢いにやられて横に倒れてしまいました。

彼が決して、あの少年を助けられなかった怒りに身を任せてナナを突き飛ばしたわけではない、ということがすぐにわかりました。

トラックの衝突で根元が壊れた電柱が倒れてきました。
プロデューサーさんはその下敷きに。

大きな音を立てて地面に落ちた電柱は軽くバウンドするように地面を一度離れ、もう一度彼の身体を潰しました。
彼の口からは勢いよく血が噴き出しました。

一部始終を見てしまったナナは強烈な気分の悪さに襲われました。
大切な彼が目の前で死んだ。
まるで鈍器で後頭部を思いっきり打撃されたような感覚でした。

助けられなかったのはなぜ。
なんで彼がまた死んでしまったの?

わからない。
一度時間を巻き戻したのにまた死んでしまうなんて…


いや、ちがう。
きっとこれはただの偶然。

そう、これはたまたま不幸が重なってしまっただけ。
そうに違いない。

もう一度やり直せば大丈夫なはずです。
また元に戻れます。

溢れ出る不安と絶望を隠すようにそう自分に言い聞かせて、ナナはまた腕時計を起動しました。

ナナは今日の朝へ戻ってきました。
まだ胸は緊張感を忘れられず、血液を平常よりも多めに体内へ駆け巡らせています。

血は十分、余るほど巡っているだろうに、なぜか両手は痺れています。
彼の死体が脳裏に焼きついている。

視線がふわふわと泳ぐ。

窓をちらりと見て、ナナはふと思いつきました。
車に轢かれたり、電柱に押し潰されたり。
どちらも公園で起きた『死』でした。

ならば公園に行かなければ防げるのではないでしょうか。

今度は大丈夫です。
たまたま二回も偶然が重なっただけですから。

事故の起きる場所は公園。
そこ以外でも同時に事故が起きるはずなんてない。

今回はきっと、プロデューサーさんも助けられて、また元どおりの世界になるはずです。

すぐさま電話をプロデューサーさんの元へかけ、無理を言って今日の予定を変更して貰いました。

ちひろ「それで…一体どうなったんですか?」

菜々「…その時も結局、プロデューサーさんを助けるなんてできませんでした」

ちひろさんは、私のこんな突拍子も無く、とても長い話を少し戸惑いつつもちゃんと聞いてくれていた。
ウサミン星のことなんて知らず、ナナのことは当然ただの地球人、日本人だと思っていたはずだ。

そんな彼女からしたらきっと、私のことは突然わけのわからないSFにハマってしまった気が狂った人に見えてもおかしくないと思う。

それでも、決して無下にはせず、真剣な顔をして向き合ってくれる姿勢にある種の感動を覚えた。

ウサミン星人だ、というカミングアウトももっと前からしても良かったのかもしれないな、と少し後悔してしまう。

菜々「その後も結局、彼は通り魔に刺されたり、地割れに巻き込まれたり、事故にあったり…何度繰り返そうともどうしても死んでしまうんです」

私はそんな後悔を掻き消すように、なるべく無心になるように話を再開した。

菜々「もう18回も時間操作を繰り返してます。半年も時間を戻してみたり、あるいは1年戻したり、色々試行錯誤を繰り返しましたが結局…」

菜々「もしかしたら、プロデューサーさんは永遠に助からないのかもしれない。そんなことも考えてはいます。だけど、それでも諦めるなんて選択はできませんでした」

菜々「だって、ナナには時間操作装置があるから。成功の可能性が微かに見えてしまうからです。何かの条件さえクリアすれば、プロデューサーさんは死なないのかもしれない。そう考えると、立ち止まることはできないのです」

ちひろ「菜々ちゃん…」

ちひろさんは、きっとナナのことを信じてくれいるのだろう。
でも、これも私は失ってしまう。

プロデューサーさんは明日死ぬのだから、私はまた、時間を巻き戻さなきゃならなくなるからだ。
私を信用してくれたちひろさんも消える。

ちひろ「…でも、どうしてプロデューサーさんだけが…」

菜々「…それはもうずっと考えてきましたが…いくら考えても正解にたどり着くことができませんでした」

ちひろ「でも…そんな何もわからない状況から、どうやって助けようとしてるの?」

ちひろさんは恐る恐る私に質問してきた。

菜々「…プロデューサーさんが死に続けることの原因を長い間考えていましたが、この時間操作装置の特性とバグのどちらか、あるいは両方にあるのではないかと思っています」

ちひろ「特性とバグ、ですか…?」

菜々「ええ。まず特性についてですがこの時間操作装置には、ウサミン星人並びにウサミン星人により支配された生物、星に対しては効果を発揮しないのです」

果たして、こんなことをちひろさんに話して何か意味があるのだろうか、と自分でも怪訝に思いながらも説明を続けた。
どうせこの時間も明日には終わるものだ。

信用されようがされまいが、変人に思われようが正直どうでも良くなっていた。

ちひろ「それはどういう…」

菜々「…誰か一人が好きに時間を戻して、支配した星の時間まで戻っしまったら大変ですよね?せっかく支配したのに支配する前の時間に戻ってしまったらまた征服し直さなければなりませんから」

ちひろ「…」

菜々「それを防ぐために先ほどいったような制限が掛けられているんです」

ちひろ「なるほど…」

菜々「ですから、それが誤作動という形で作用してプロデューサーさんの死に影響していうのではないかと…」

ちひろ「それがバグ…ということですか」

菜々「ええ、あくまで憶測ではありますが」

もちろん、原因がそれという確信があるわけではないが、それでも何回も繰り返しているうちにいつかは救われるんじゃないか。
プロデューサーさんの死を誘発するトリガーを偶然回避してしまうこともあるのではないか。
そう思いながら今までやってきた。

6回ほど時間操作をしたあたりからそんなあてずっぽうというか、やけくそな、数打ちゃ当たると言わんばかりの方法で、無我夢中に時間操作を繰り返した。

しかしそれでもプロデューサーさんが救われることはなかった。

菜々「そもそもこれは…まだ試作段階ですから、どんな副作用が起きるかわからない、そんな代物なんです」

ちひろ「なんでそんな危険なものをあなたは…」

菜々「緊急用に持たされていたんです。テストも兼ねていたようですが」

ちひろ「しかし…ウサミン星人には効果がないのでしょう?役に立つ時ってありますか…?」

菜々「他惑星の文明を破壊してしまった場合に使えと言われました」

ちひろ「は、はぁ…」

ちひろさんも流石に大量の新情報に頭がついていっていない様子だ。

ちひろ「…」

菜々「どうかしましたか?」

ちひろ「その…プロデューサーさんが死ぬ原因がさっき話した『制限の誤作動』だったとしたら、まず生き返るのはおかしいんじゃないかなって。本来効果がないんだったらそもそもプロデューサーさんの時間は戻せない、つまり彼は死んだままなはずでは?」

ちひろさんはかなりの情報量を一挙に得たというのに、その整理には長けているようだった。
先ほどは混乱していたというのにすぐに私に近いレベルで時間操作についての意見を述べてきたのだ。

菜々「ええ…それはナナも思いましたが…なんとも言えませんね。ただ『誤作動』が原因、というのが一番考えられるものだと思い言っただけですので」

ちひろ「…他にも考えられる原因があるんですか?」

菜々「…」

菜々「この装置にはバックアップ機能があります。装置使用後に時間移動前の世界と似たような行動、状況をとると反映されるらしいんです」

ちひろ「…」

菜々「つまり時間を戻したのに同じ状況を繰り返せば同じ結果がついてくる…ということです」

ちひろ「それって…」

菜々「でも、今まで状況はコロコロ変えてもうまくいきませんでしたから、こちらが原因とはあまり考えられません」

私は無意識のうちに淡々とした口調になっていた。

ちひろ「…いろいろ、急すぎて混乱したわ」

菜々「…すみません」

ちひろ「…でも、一つ考えがあるの」

菜々「…」

ちひろ「プロデューサーさんを救えるかもしれない方法です」

菜々「…」

菜々「なんですか?」

ちひろ「…その前に一つ聞きたいんですが、自分を犠牲にしてでもプロデューサーを救いたいと思いますか?」

菜々「…」

なんのためにここまできたと思っているのだろうか。
そんなのは答えるまでもなく、当然だ。
と、強く自分に言い聞かせながら、返事をしました。

菜々「…はい」

20

「ちひろさん、お誕生日おめでとう!」

辺りはすっかりと暗くなり、冬らしい寒さを少しずつ増してきている。
そんな中とあるパーティ会場ではあたりの静けさに反して、騒がしく誕生日会が開かれているようであった。

どうやら今回も予約した会場は同じだったらしい。
かなり心配であったが助かった。
もし違う会場で開かれていたら探すのにまた苦労するところであった。

大きなホテルの最上階にあるということで、外から様子を見るのも一苦労だ。
飛行装置が無ければ無理にでも侵入していたところだ。

さて、あの人は生きているのだろうか。
緊張しながら唾を飲む。

ゴクリ、という音が冷えた空気に響き渡るように感じた。

生きている彼の方に目をやると、隣に彼女と思わしき女の子を連れている。
手も繋いでいる。

「そっか…私、彼を救えたんですね」

救えた。
それだと言うのに、ナナの心は満たされませんでした。
彼を救えたのに、涙が止まりません。

彼を助けたのだが、彼は他の女の子と一緒になってしまったのだ。

手を握りながら楽しそうにお話をしている。
幸せそうな笑顔だ。

「あそこは、ナナの場所だったのにな…」

『ナナ』を欠いたあの場所は、それでも何の滞りもなく進んでいました。
まるで、この世界の『在るべき形』を見せられたような、そんな思いがして、胸が苦しく、頭は、ドロドロに溶けた鉛を頭蓋骨に穴を開けて注がれたかのようにズッシリと重い。

そう、私はウサミン星人だった。

この地球には本来いるはずではなかった。
宇宙船の事故が無ければ彼とも、アイドル、事務所のみんなとも出会うことも無かった。

それが正しい姿だった。
この地球は『ナナ』が居なくても成り立つ。
いや、『ナナ』が居ないからこその地球であったのだ。

あの景色が私にそう語りかけるようで、耳も目も今すぐ抉り取りたい気分だった。

「でも、良かったじゃないですか…あの人を救うことができて」

「もともと、自分を犠牲にしてでも救う覚悟でしたから」

「もうっ…2年も寂しく過ごした甲斐がありましたねっ…」

そう自分に言い聞かせるのだけれど、構わず腕時計は光を放ち始めるのだった。

結局のところ、私が救いたかったのは彼ではなく、自分自身だったということだろうか。
死に行く運命である彼よりも、一人寂しく故郷を離れ過ごす自分を誰よりも救いたかった。

そういう自分に気づいたのは今が初めてだった。

こうして私はまた、永遠に続く時を戻り続ける。

終わりです
こんな長くなるとは思いませんでした
あと痔になりました
お付き合いいただきありがとうございました

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