【咲-Saki-】咲「お姉ちゃんまでプラマイゼロをやりだした」4 (115)

日付変わってしまってますが、もう少しかかりそうです。申し訳ありませんが今しばらくお待ちください。

夜が明けたら流石に何の言い訳もできない……ラストのあたりが終わりって感じがしなくてダラダラ書き続けてました。
まだ終わりって気がしてないですが、一応それっぽくなったので投下します。


春(……自分から言って来るとは思わなかったけど、予定通り)ポリ

春(トップから引きずりおろされたら……最悪でも、私の作った分のリードが無くなったらアレを降ろすように制限を設けるのが元々の予定)ポリ

春(清澄の大将なら、そのあたりを察知して降ろさせないように立ち回ってくれるはず)ポリ

春(優勝出来れば、それはとても嬉しい)ポリ

春(けど、アレを降ろしたら霞さんが無事では済まない。一局だけだとしても危ないし、私や巴さんでは払えるかどうかも怪しい)ポリ

春(オーラスだけとか、後半の南場だけみたいな条件ではダメだった。一度も降ろさずに終わる可能性のある条件じゃないと)ポリポリ

春(優勝出来たら嬉しいけど、霞さんが犠牲になってしまったら、優勝した喜び以上に悲しいに決まってる)ポリ

春(トップから引きずり降ろされたらアレを降ろす……それなら、少なくともオーラスまでは、それに気づいた清澄が霞さんをトップにしてくれる)ポリ

春(そうなれば、実質、オーラス一局勝負。一局だけなら……たった一局だけなら、逃げ切ることも出来るかもしれない)ポリ

春(霞さんを犠牲にせずに、優勝する可能性のある条件。無茶する気満々の霞さんにそれを飲ませた。頑張った)ポリ



春「……頑張った」ポリ


初美「何度聞いてもこれしか言いませんよー……これはもうお手上げですよー」

巴「霞さんが戻って来てから直接聞いた方がいいかも……」

衣「もうそれは放っておけ。それより、妙だぞ」

小蒔「どうしたんですか衣さん?」

衣「先ほどの半荘、カスミは何も降ろさず、白糸台は不調、千里山こそ孤軍奮闘してはいたが、それでも咲ならたやすくトップに立てたはずだ。何故二位に甘んじた? そもそも、何故カスミは傍観していたのだ?」

初美「霞ちゃんがなにも降ろさず打つのは不自然すぎますねー。戻って来たら問い詰めてやりますよー」

春「……戻って来なそうだけど」ポリ

巴「……卓についたまま瞑想してるみたい。確かに、前半では何も降ろしてないから戻ってくる必要はないけど……」

衣「だとしても作戦を聞く必要があるだろう。何を考えているのだカスミは?」

初美「はるるー、なにか知ってるならはやく教えるですよー」


春「……頑張った」ポリ


巴「うーん……答えが変わらないってことは、天江さんの疑問の答えまで、大将戦の前に春と霞さんが話してたことに含まれてるってことだよね?」

小蒔「これは是が非でも春の言葉の意味を解読しなくては……」


【白糸台高校 反省会会場】

憩「……」

菫「……」

誠子「……」

尭深「……」

監督「……」


淡「……えっと、なにこれ? 反省会って……?」


監督「達筆でしょ? 私、字は上手いのよ」

尭深「監督が書いてくれたんだよ」


淡「違ーう!! これが何かはどうでもいいの!! なんで反省会とか言ってお通夜みたいな雰囲気になってるのかって聞いてるの!!」


憩「……すまんな、うちが勝負に徹しとったらこんなことには……」

菫「終わったことを言っても仕方ない、来年は挑戦者として挑めばいいんだ。このチームの主力は二年、また次があるさ」

誠子「すみません弘世先輩……」

菫「なに、去年は憩に優勝させてもらったようなものだ。私こそ、お前たちに何もしてやれずに……」

尭深「先輩……」


淡「いい加減にしろ―――――!!」ガー


憩「とはいえなあ……こんだけ点差開いたら、今から冷たい方出しても勝ち目ないやろ?」

誠子「だよなあ……」

尭深「最後の一打まで勝負は分からない、たとえ大差がついてる状態の子でオーラスを迎えたって親と二人聴牌での流局を繰り返して逆転できるかもしれない……心構えとしてはそうかもしれないけど、実際問題、この状況じゃ……」

憩「気合じゃどうにもならん。勝負ってのは、勝てるだけの戦力を揃えて、勝利への戦略をきっちり用意したもんが勝つんや。本当に最善を尽くしあった果てに気合で決まることはあるかもしれんけど、まずは拮抗した状態まで持ち込まんと……」

菫「どうせ負けるなら、正しい負け方というものがある。負けを認め、再起に向けて次につながる終わり方をすべきだ」


淡「だから、まだ負けてないってば!! もういいよ!! こんなとこに居たら勝てるものも勝てなくなっちゃうよ!!」


バタン


誠子「……行ったか?」

憩「さっきのセリフ、九割本気やけど、それでも勝つためには冷たい方を出さんと話にならんのは事実」

尭深「……試合中になんとか冷たい方を出そうとして話し合った結論……負けを意識した時に冷たい方が出てくる、本当かな?」

憩「任意に出す条件があるとしたら、それぐらいしか思いつかん。自分と同格か格上の相手と打つのが必要条件やし、自分より強い相手と打って起きることって言ったら、なあ?」

菫「準決勝は、あれだけ精鋭揃いの阿知賀で大将を務める高鴨への恐怖を無意識に感じていたのだろうし、憩や監督と打って出てくる時は散々負けた後だからな」

憩「今回はまだお気楽モードやけど、控室に戻ったら信頼してるうちらが負けを確信してお通夜みたいになっとる……負けを意識させるならこれ以上のショックはないやろ」

監督「私が書いた小道具がグッドだったわね」

憩「いや、あれは要らんかったけど……むしろギャグっぽくなって逆効果や」

誠子「しかし、今更淡が冷たい方になっても……」

憩「……いや、あっちには、普段の方にはない切り札がある。勝ち目は確かに薄いやろうけど、勝負はまだ分からんよ」


はやり「これは清澄で決まりかな☆」

良子「パワーバランスは宮永さん以外の三人を合わせても宮永さんに傾くほどに崩れています、これはもう……」

紀子「……個人戦でこいつをどうするかに論点を移すべきかもしれない」

日菜「様子見が終わったのがさっきの南場……あとはあれが最後まで続くとなると……そうかもしれないね」

由華「大星さんが準決勝で見せた本気モードに入ったとしても、大勢は変わりませんかね?」

紀子「おそらく、変わらない。仮に大星の底力が見積もった以上で宮永と五分に渡り合えたとしても、今から白糸台が追いつくのは絶望的」

良子「てことは、決まりか……あたしらに勝った阿知賀、それに勝った永水と白糸台、それを更に蹴散らして無名の清澄か……」


やえ「どいつもこいつも……今の半荘で明らかにおかしいことが二つあるだろうが。それが片付かんうちは終わったなどと言えん」


紀子「……二つ? 一つじゃなく?」

やえ「二つ目の原因がそれだとしたら、手を組まなければいけないのは、清澄以外の三校ではなく、永水以外の三校なのかもしれない」

紀子「二つ目が分かっていないと言ってるのに話を先に進めないで」


はやり「二つ目は、宮永咲ちゃんがトップにならなかったことだよね☆」


紀子「……」

良子「ホワット? はやりさん?」

はやり「あの子が本気出して、あの状態のあのメンバー相手に4万ちょっとしか稼げないなんてありえないよね……そうでしょ?」

やえ「最初に『これは決まりかな』なんて言ってた人間とは思えないな。お察しの通り、それが二つ目の異常だ」

紀子「……わかってたくせにとぼけるとは、タチが悪い」

由華「あの……一つ目は?」

日菜「私たちはそこから既に置いてけぼりなんだけど……」

紀子「石戸が何もしなかったこと。準決勝でも散々やられた大星が相手で、それより格上と目される宮永まで居る。無策で挑むのは不自然すぎる」

やえ「その通り。では、あれが無策ではなく、何かの下準備だとしたら? 宮永はそれを見破って、あえて二位に甘んじたのだとしたら?」

日菜「え、えっと……つまり、石戸さんが何かを企んでるってこと?」

はやり「何かあるのは間違いないね☆」

やえ「その何かをめぐる攻防……表に出ないかもしれないが、それがあるのだとしたら、勝負はまだ読めない」


起家 淡「……」

南家 咲「前半と同じ席順ですね。よろしくお願いします」

西家 竜華「よろしく」

北家 霞「よろしくお願いします」 


東一局


竜華(前半と同じ席順……だからって、結果まで同じになるわけやない)

竜華(なにせ、うちがあと二回しか怜ちゃんを使えんからな!! 同じように打っても同じ結果には絶対ならんで!!)

竜華(……って冗談はさておき、ようやくお目覚めか)


147s258p369m東西北白


竜華(こいつはアカンなあ……毎回これになるなら、怜ちゃんの使いどころも全くわからんってことになる)


――6巡目


淡「リーチ」

23456s34p777889m ツモ:7s

打:8m


竜華(うちらが最悪の配牌に苦しんどる間にも、こいつは普通の配牌で普通に手が進む……なんとかなるみたいな話やったけど、どうにもならんでこれ)

咲「……ロン、1300点」

567m5678s ポン:発発発 北北北 ロン:8m


竜華「……は?」

竜華(どうなって……大星の能力で最悪の配牌になっとるはずと違うんか? 6巡目で直撃って、あり得んやろ? しかも七対子ですらないとか……)


東二局


咲「……」タン

竜華(おかしい、なんで大星の能力が効かなかったんや? 一体何が起きたらそうなるんや?)タン

霞「……」タン

竜華(いずれにしろ、宮永は大星の配牌操作を破った。つまり、ここからはダブリーが……)

淡「……」タン


竜華「……へ?」

竜華(ダブリーせんやと? ちょっと待て、本気で何が起きとるんや!? 意味が全くわからんで!?)


照「配牌操作は通用しなくて、ダブリーはさせてもらえない……圧倒的だね」

久「……ちょっと理解が追いつかないけどね。あの子、なにやったの?」

和「今更照さんや咲さんが何をやっても驚きはしませんが……理屈は気になりますね」

京太郎「前半は普通に効いてましたよね? 何が起きてるんですか?」

照「……例えば、『好配牌になる能力』と大星さんの能力がぶつかったら、どうなると思う?」

久「……普通に考えたら、大星さんの能力が優先されて、好配牌が無効化されるんじゃないかしら?」

照「新道寺のコンビなら?」

久「……あの二人なら、微妙ね。大星さんの方が無効化されるんじゃないかしら?」

照「私が新道寺のコンビ相手に『なんらかのデメリットと引き換えに他家の配牌を自分の配牌のシャンテン数以下にする』能力を発動したら?」

和「確実に照さんの能力が優先されますね」

照「……どうせそう答えるとは思っていたけど、本当に断言されるとは。まあいいや、私のそれを先鋒で出て来た神代さんのアレにぶつけると?」

まこ「……強化コピーするから、『自分の配牌のシャンテン数未満にする』にされて、照さんのほうは無効化されるじゃろうな」

照「それらの違いは?」

京太郎「えっと……もしかして、能力を使う人間同士の実力差、ですか?」

照「正解」


久「ってことは、大星さんより咲のほうが圧倒的に上ってこと?」

照「さっきの一局とこの一局に限れば、ね。下手するともう二~三局続くかもしれないけど」

優希「どういうことだじょ?」


照「前半の南場で、完全に勝負がついてしまったから。『勝負の流れ』が咲に味方してる」


和「……流れとはまた非科学的な」

久「……長野の決勝で最後に天江さんたちを圧倒したのも、流れが完全に咲のものになってたからだったわよね?」

照「そう。流れが完全に味方してる状態だと、咲より格上なはずの天江さんでも手も足も出なくなる。さっきと席順まで同じになって、前半の圧勝の流れがまだ続いてしまってる」

京太郎「流れが続いて『しまってる』って……いいことじゃないんですか?」

照「……相手が大星さんじゃなければ、良いことなんだけどね」

まこ「誰が相手でも関係なかろ? 良い流れに乗って打つのにデメリットがあるとは思えんが……」

和「……いえ、大星さんに限れば、『能力を破ってしまう』のはデメリットかもしれません」

京太郎「破ってしまう……あ、そういうことか。確か、大星さんの能力は……」


『つ、ツモや! 1000・2000』


久「弱い方の能力を破ると、より強い能力を使う……だったわね?」

照「……さて、さっきの一局は147p258m369s発発北北で、配牌操作を緩和しつつダブリーの条件を満たさないようにしてたけど……この一局では完全に配牌操作を無効化しながら『ダブリーをさせない』ことに成功してしまった……」

和「字牌は他家と重複する部分がありますから、槓材になり得る牌がないようにしつつ、配牌操作を破ることが出来るんですね。東一局のように槓材がなければダブリーは出来ない。東二局では槓材となり得る牌があるのにダブリーが出来なかった」

照「微妙だけど、『槓材になり得る牌がないからダブリーしようとしない』ように配牌操作を破るのは、ダブリーを破ったことにならないみたい」

優希「……けど、東二局はダブリー出来るはずなのにそれをさせない……聴牌することを防いでしまったじょ。てことは、次は……」

照「咲も全力で流れを抑えようとしてるね。二回破ったら二回使われるかもしれないし。本当なら流れがあるうちにさっきの親番でどこかを飛ばす手もあったんだけど、石戸さんが居るからトップに立つわけにいかない」

久「『天和』と『照が全国トップクラス二人と手を組んでも勝てない化け物』、前門の狼、後門の虎って感じかしら?」

照「大星さんの親番が無くなるまでこれ以上ダブリーを破らずに凌いで、石戸さんがトップのままアレを出させることなくオーラスを迎えて、最後の一局で差し切る。それしか勝ち方はない。幸い、前半で白糸台が沈んでくれてるから天和一回ならどうにかなる」

和「……実質、オーラスの一局勝負ですか?」

久「オーラスの一局勝負に持ち込むまでも大変なのよ? 逆転しないようにしながらトップが狙える位置で試合を進めなきゃいけないんだから。間違って裏が乗ったり、ダマでも赤をツモってしまったり、トップが親の時に他家がツモって逆転したり、槓ドラを乗せられてしまったり……色々注意を払わなきゃいけないもの」


東三局 ドラ:9m


竜華(さっきの一局……バラバラな手が上手くまとまった……宮永が鳴いてあいつのツモがうちに来たから?)

竜華(そんなら、あいつはなんで鳴いた? そんなことしても何の得も……)

竜華(いや、親番を嫌ったならあり得るか? だとしたらなんで親番を……?)

竜華(今、決勝戦の大将戦の後半やで? なんでここに来てわけわからんことが起こんねん!?)

竜華(全部情報出揃って、切り札を出すタイミングの読み合いとかになるはずやん!? なんや? どっかでフラグ立て損ねて勇者の剣なしでラスボスにたどり着いた感じか?)


霞「……ツモ。6400」

2255s11477p3399m ツモ:4p


霞「……」


竜華(……手を開けんかったから確信が持てんかったけど、石戸にも大星の力は効いとる。今回も宮永の鳴きで石戸に手が入った感じや)

竜華(あーもう、わけわからん!! なんや、何が起きとるんや!?)



怜「あー、状況わかっとらんなあれは」

浩子「いや、うちにも分からんのですけど。何ですかあれ? なんのために流れを捨ててまで局を進めとるんですか?」

セーラ「さっぱりやなー」

怜「安心しろ、私にもさっぱりや。ただ、今この時点でトップに立てん事情があるんやろなってことは推測できる」

雅枝「東二局では清水谷に和了らせたいみたいやったな。自分もチャンス手やったのにそれを潰すような鳴きをしてまで……」

怜「今トップに立ってしまうと不都合があるんや。だから、トップに立たずに試合を進めとる。その不都合がなにかとか、どこまで先に進めるのかってのは分からんけどな」

浩子「……その不都合ってのは本当に分かりませんか?」

怜「あの卓で妹さんが勝負を避けるようなもんって言うと、大星の天和ぐらいしか思いつかんなー。あの人、地和なら鳴けば潰せるとか言い出しそうやし」

浩子「ということは、準決勝で見せた天和には何らかの条件を満たさないと発動出来ない縛りがあって、それを避けて試合を進めとるってわけですか?」

怜「だとすれば、南一局までは妹さんは動かんし、その後はやりたい放題ってことになるな」

セーラ「けど、宮永妹がトップやと使えて石戸がトップやと使えないっての、なんか変やで? 大星からしたらどっちも同じやんか?」

怜「せやから、さっぱりやって言うとるやん。他に妹さんが避けるようなもんが思いつかんだけで、大星の天和を避けとるようには見えんし」

浩子「あ、そこまで考えた上でさっぱりやって言うてはったんですか?」

怜「なんやろなー……さっぱりわからんわー」


東四局


竜華(正直、状況が全然わからんし……このまま行っても、怜やフナQならともかくうちに今の状況がどうなってるか分かるとは思えんし……)

竜華(切り札を残して終わってもうたら洒落にならんし、宮永がなんか企んどるなら後からじゃ通用せん可能性もあるし……)

竜華(あと、あまりにも他力本願な上にズルしとる気がしてちょっと嫌やけど、怜ちゃんならなんか分かるかもしれんし……)

竜華(てなわけで、怜――!!!)


怜ちゃん(はいはいー。この局の最善は……)

竜華(それは後でええから、この状況、この卓、この半荘で何が起きとるか分からん?)

怜ちゃん(いや、知らんがな。強いて言うなら、南一局で大星が天和和了るぐらいやな。うちに分かるのは)

竜華(へ? マジで?)

怜ちゃん(一局先を視る者……そう呼んでくれて構わんよ。ほな、頑張ってなー)

竜華(ちょい待ち!! 最善! この局の最善は!?)

怜ちゃん(あのな、竜華……一局先を視るには一回分のパワーが必要やねん。この局の最善を知るためには、残りのエネルギーを使い切る必要がある)

竜華(そういうの先に言えや!? あー、ここではまだ取っときたいからまた後でな)

怜ちゃん(ご利用は計画的になー。残り一回で言っても後の祭りやけど)ヒュイーン


竜華(次で大星が天和……宮永の妙な動きはそれに絡んだものやろか? だとしたら、次の南一局がこの半荘の山場……宮永は天和を破ろうとしてなんかやっとる? けど、大星はその上を行くってことか?)

竜華(いずれにしても天和なんかどうにもならん。その後の気が緩んだところ……最後の一回の使いどころはそこや)


咲「……」タン

打:2s

竜華「ロン、1600」

25577s44m33p東東白白 ロン:2s


竜華(……うちに和了らせて流すつもりやったか。最後の一回、温存して正解やな)


南一局


淡「……」ゴゴゴゴゴ


霞(……なにも降ろしてない状態で接すると、ここまで酷いのね)

咲「……」

竜華(あ、は、は……冗談やろ……なんやこれ……震え……止まらん……)


淡「……」チャッ

咲「……」チャッ

竜華(……落ち着け、ダンラスが天和和了って浮上するだけや。逆転されるけど、それは射程圏内……てゆうか、これ……)


白糸台 48900
清澄  111300
千里山 108000
永水  131800

竜華(今の点数がこれ、ここから天和が入ると……)


白糸台 96900
清澄  95300
千里山 92000
永水  115800


竜華(……全員が逆転優勝圏内に入る。永水に跳満直撃でトップや……残り四局、逆転が見える勝負……)

竜華(最後の四局や。上手く行けば勝てる、それが見えたら、全員が目の色変えて優勝を狙いに行く……そこでこそ、駆け引きに優れた宮永の本領が発揮されるんやないか?)

竜華(圧倒してしまって三人で手を組まれると万が一がある。けど、勝機を見せてバラバラに戦わせれば、宮永が勝つに決まってる……それが狙い?)

竜華(そのために、この状況を仕組んだ? いや、そんなことするぐらいなら大差で勝ってしまえばええはずや、でも、それやと三対一で万が一があるからリスクの小さい方を選んだっちゅうのもおかしな話ではないか……?)

竜華(ええい! 考えても分からん! とにかくさっさと天和和了って次に進めろや!)


淡「……ツモ。16000オール」


123678m345s東東西西 ツモ:西


南一局 一本場


竜華(……さて、ここが勝負どころ……か? 本当にそうやろか?)

竜華(宮永が勝機を見せて全員をバラバラに戦わせたいなら、ここはまだ動かんのと違うか?)

竜華(勝負になる、出し抜ける……そう思わせるように仕向けるんと違うか?)

竜華(白糸台以外との点差は変わっとらん、全員を焚き付けたいなら、まだ動かさんとアカン奴がいるはずや)


咲「……」タン


竜華(うちは冷静。大星は最初から個人プレー……なら、こいつが動かすのは)


霞(……あっさりと天和を和了らせて、何を考えているのかしら? 東一局で配牌操作も破っているし、ダブリーも封じてみせた。実力差は明らかよ。なのに、勝負を決めに来る気配がない……点差を詰めさせて、むしろ混沌としてきている)

霞(本当に、何が狙いなのかしら……まさか、私と春の約束が見抜かれていて、アレを降ろさせないようにしている? そんな、エスパーじゃあるまいし……)タン

打:5s


淡「ロン」

霞(っ……しまった、この子は配牌操作を受けないから早い巡目で聴牌する可能性もあるんだったわ……迂闊……)


淡「4200」

赤56677s234789m発発 ロン:5s


霞(守るだけじゃ逃げ切れなそうね。けど、逃げる立場の私はどんな安手でも和了りさえすればいい、有利なはずよ。もしダメでも、トップから陥落したらアレを降ろせばいいだけ)


監督「やる気になったみたいね。逃げているだけじゃ勝てないと悟った」

憩「……石戸さんですか?」

尭深「けど、あの配牌で勝負したって勝ち目なんか……いつも打ってる私たちは、あれよりマシな配牌でも憩ちゃん以外は大体返り討ちにあってるのに……」

誠子「だな。九種九牌で流すことすら出来ないから本当に最悪の配牌だ。あれで打ち続ける気にはなれない」

菫「が、打たなければいけない。そして、あいつは全員から狙われる立場になった。あいつから直撃を取ればトップが見えるんだからな」

憩「もちろん、守り主体で打つのは変わらんでしょうけど……多少は和了りに色気出さんといかんようになりましたね」

監督「そして、あの子がそれを見逃すはずがない。その欲、突かれるわよ」

誠子「……淡のリーチに危険牌……宮永は、石戸の手にある孤立牌を切りましたね。サポートしているようにしか見えない」

憩「つーか、淡ちゃんもリーチせんでほしいんやけどな。天和に続けてさっきのダマで和了れて、行けると判断したんやろか?」

尭深「実際、良い流れだと思うけど……ちょっと迂闊かもしれないね」

憩「石戸さんが七対子で張った……妹さんが張らせたようなもんやな」

監督「……振り込むわね。これで、石戸さんはこの卓で勝負出来るという確信を得るはずよ」


『ロン、1600の二本場で2200ね』


南二局


霞(……和了れちゃったわね。宮永さんも大星さんも特に動きがないまま……残り四局になって、まだ私を和了らせるのはどういうことかしら?)

霞(いくらなんでも、強者の余裕とかお遊びってことはないわよね? だとすると……宮永さんと大星さんが互いにけん制し合って消耗しているのかしら?)

霞(……だとしたら行けるかもしれないわね。出来れば、アレに頼らずに自分の力で優勝を掴みたいとは思っていたし)


竜華(……さっきの一局、石戸が攻めに出た……これで、宮永の思惑通りの状況の出来上がりやな)

竜華(で、今は思い通りに行って油断しとるやろ? うちの切り札、最後の一枚……使わせてもらうで! 怜―――!!)


怜ちゃん(……いよいよ最後やな。一回しか言わんからよーく聞くんやで……)

竜華(……うん、わかった)


咲「……」タン

打:8s


竜華「……」

22558s4455m発発北北 ツモ:赤5m


竜華「リーチ」

打:5m


霞(……リーチ? 和了れる確信でもあるのかしら? そうか、例の能力……だとしたら勝負は無理ね、オリましょう)

打:1p


淡「……」

打:7p


咲「……」

打:8s


竜華「ロン!! リーチ一発七対子ドラ1、裏は乗らず、8000や!!」

咲「はい」チャラ

竜華(……よし、二位浮上、トップとの差は14800……満貫以上の直撃か跳満ツモで逆転や……もう怜の力は借りられんけど、あとは自分の力で……)


南三局


霞(この終盤で、満貫に振り込む……わざとってことはないでしょうね)

霞(私は、宮永さんを警戒しすぎたのかもしれない。冷静に考えれば、宮永さんは東一局以降何も出来ていない)

霞(東二局で清水谷さんを和了らせたのは、そうするしかなかったから。東三局の私もそう。彼女は、大星さんを止めるために力を使い果たしたんじゃないかしら?)

霞(思えば、清澄は力を誇示するような勝ち方を繰り返してきた。この大将戦でも、そうする予定だったんじゃないかしら?)

霞(けど、今回の大星さんは見積もった以上に手ごわかった。それで、彼女を止めるために力を使い果たしてしまった)

霞(にも関わらず、天和は止められなかった……そして、私や清水谷さん、大星さんは自由に打てている)

霞(宮永さんは、残り少ない力で、前半に見せた幻影を利用して私たちを委縮させているんじゃないかしら?)

霞(けど、もう宮永さんは相手の手を読むことすら満足に出来ないほどに疲弊している……)

霞(なら、チャンス……そして、今和了って勢いに乗っている千里山は危険……点差も……簡単に逆転される範囲だわ)

霞(安全に勝つのは無理。なら、勝負に……)


144p22558s99m南南白 ツモ:8s

打:1p


咲「ロン」


霞「……え?」ゾワッ


咲「混一色、一気通貫、赤。12000です」

234赤56789p北北中中中 ロン:1p


霞「う、うそ……なんで? 今までのは、この半荘ずっと動きがなかったのは、なんだったの?」

咲「……さあ? なんだと思います?」


『跳満直撃いいいいい!!! 一気に清澄がトップに躍り出t』

『……てないよ!! ちゃんと点数見て!!』

『てなかったけど差を詰めたぞおおお!! たった一つの和了りで景色がガラッと変わったあああ!! そこに優勝の二文字は見えているかあああ!?』

『……見えているでしょうね、ただし、その二文字は全員に見えていると思います』

『へ? どゆこと?』

『えっと……点差を見てもらえばわかるんじゃないかな。あとたったの一局、それでこの点差……』

『えっと、点差……ああああああああ―――――!?』


はやり「トップが102800点、最下位が97900点……インターハイ史上稀に見る接戦だね☆」

やえ「4900点差……リー棒が出て3900を和了れば届く点数だ。残すところはわずか一局、逆転の可能性があるならリー棒は出てくるだろう」

良子「リーチのみでも裏二枚で逆転の可能性があります。もはや守りのことは誰も考えないでしょう」

紀子「……この試合がこんな接戦になるとは、思わなかった」

日菜「同感。大差で決まると思ってた」

やえ「さて、どうなるかな。たった一局、されど一局……4900の点差も、無いようなものだが無ではない」

由華「普通に考えれば、手を組むことなくバラバラに打ったら宮永さんが勝ちますね。4900は最下位の大星から見た点差であって、宮永さんから見れば点差は3500……700・1300のツモで十分ですから、彼女にとってはなんの歯止めにもならないでしょう」

やえ「しかし、ここまで間近に優勝の二文字をぶら下げられたら、食いつくしかないな。バラバラに打ったら万に一つしか勝ち目がなくても、万に一つに賭けて自分の勝利を目指すことになる」

紀子「つまり、形勢は宮永が圧倒的に有利。なんらかの理由でオーラスが始まるまではトップに立てないとして、その中で作れる最善の状況と言える」

やえ「……そのなんらかの理由も、もう無くなっただろうな。誰が和了ってもここで終わり、その先は考慮する必要がない。たとえ『宮永妹がトップに立つと次の親が天和を永遠に和了り続ける』なんて制約だったとしても、その次の親は巡ってこないんだ」


『これほどの接戦で迎えたオーラス。しかも、トップは親……一局勝負といった様相ですね』

『誰が和了ってもそこで終了だね、親は当然和了りやめするし……つまり、この一局で全てが決まるぅううう!!!』

『一応、親が聴牌して流局すれば和了りやめ出来ないから次があるけど……』

『で、この状況ってどこが有利なの!?』

『……実力的には、清澄が有利だと思います。ただ、一局勝負となると何が起きるか分かりません』

『そうなの?』

『……一局勝負なら、トッププロがルールを覚えたばかりの初心者に負けることもあります。腕の差は多くの局数を打つ中で少しずつ表れていく、麻雀というのはそういう競技ですから』

『すこやん相手だと一局勝負でも勝てる気しないんだけど……』

『わ、私はトッププロだし……それに、一局勝負だったら何が起きるか分からないよ……1000局打って一局しか和了れないとしても、その一回をその時に持って来るかもしれないし』

『さりげなくアマチュア相手には千局に一局しか負ける気はないとの宣言!! トッププロの強さは計り知れない――!!』

『た、たとえで言っただけでしょ!! 試合の実況してよお……』

『それもそうだ―!! さあ、運命の配牌はどうなっ……うげ、マジですか?』

『……うそ……どうなってるの、この試合……? なんなのこれ……?』


咲(……なにこれ? 配牌でこれって、おかしいよね? 自分の手だけならともかく、流石の私でもこれはドン引きするレベルだよ)


19m19p19s東南西北白発中


咲(……罠? いや、こんな罠が張れる人は居ないはず……居るとしたら石戸さんだけど……石戸さんも驚きで固まってるから、違うよね?)


霞(……いくらなんでも、偶然じゃないわよね? なんなのこれは?)


1112345678999m ツモ:4s


霞(罠、よね? けど、誰がこんな罠を張れるの? 宮永さん? 大星さん? そもそも、罠だとしてもこんな大がかりな罠を張る意味がないわ)

霞(どうなってるのよ、これ……)


淡(……意味が分からない。何が起きたらこんなことになるの?)


1p東東東南南南西西西北北北


淡(親は配牌見て固まってるし……まさか、親の手もこんなことになってるなんて言わないよね?)

淡(いや、多分そのまさかなんだ……この異常、何が起きてるの……? 誰の仕業なの?)


竜華(神様、ありがとうございます!! ってわけにはいかんやろなあ……)


1999p白白白発発発中中中


竜華(誰かが仕組んだとしか思えん……しかし、こんなん仕込んで誰が得するんや?)

竜華(宮永も、大星も、石戸も面食らった顔しとる。演技だったら大した役者やな)

竜華(あいつらの反応が演技でないとするんなら……これは偶然か?)

竜華(あるわけないやろ、そんな偶然。うちだけなら、まあ、百歩譲って偶然ってことにしてもええ)

竜華(けど、卓についてる四人全員にこんな手が入るなんて……偶然起こるはずがない。起こるはずがないんや)

竜華(なら誰や? 宮永の姉の方か? 荒川か? 神代か? はたまた、観戦しとる小鍛治プロがなんかしたんか?)

竜華(いや、あり得ん。今挙げた連中全員合わせてもこんな異常は起こせん)


照「……これは、驚いた」

久「……何が起きてるか、分かるの? 分かるなら説明してもらえるかしら?」

照「落ち着いて良く聞いてほしいんだけど……多分信じられないと思うけど事実だからちゃんと信じてほしいんだけど……」

和「その手の大げさな前フリはもう結構ですから、誰が何をしてああなったのか説明してください」

京太郎「しかし、あんなの出来る人が居るんですか? 照さんでもあんなの無理ですよね?」

優希「もう何が起きても驚かないじょ」

まこ「で、あれは何じゃ? もったいぶらずに教えてくれんかの」



照「えっと、絶対信じないと思うけど……あれ、偶然です」



久「照、冗談はいいから真面目にお願い」

和「あの卓には大星さんの能力の影響があるでしょう。あの手になるかどうかはともかく、配牌で『偶然』の要素はないはずです」

照「えっとですね……大星さんの能力については、よくわからないけど無効化されてまして……」

京太郎「大星さんが配牌操作でなにかして、咲がそれに変な能力乗っけておかしくなったとかじゃないんですか?」

照「そういう説明がつくようなものだったら、私とか小鍛冶プロがここまで驚くわけないよね?」

優希「いや、照さんはいつもこれぐらい驚いてるじょ」

照「……それを言われると反論できない。けど、小鍛治プロが本気で驚いてるし、偶然でないとしてもあの人でも見抜けないような何かが起きてる」

久「大星さんの能力を無効化した『何か』が悪さをしたと考えるのが妥当ね。けど、それが何かが分からないし……」


霞(……罠ね。罠なのは間違いないのだけど……だとしたら、何を切るのが正解?)

霞(これを切って下さいって言ってるような4索……これは無理ね。これを抱えて4索単騎に取るなら、聴牌を維持できるのは……)

霞(2、5、8萬……かしら。これを切る?)

霞(いえ、危険ね。4索を切れないとなると、次に候補に挙がるのがその三枚……それを三面待ちで刺せるというのが気味が悪い)

霞(4索は目くらましで、本命はその三面張かもしれない……となると、これも切れないわね)

霞(聴牌維持も諦めましょう。となると、1萬か9萬……ん?)

霞(……本当にそれでいいの? そもそも、これは誰が張った罠なの?)

霞(落ち着いて周りを見渡せば、全員「とんでもなく良い手が入りました」って顔してるじゃない?)

霞(国士無双……有り得るわね。1萬と9萬はやめておきましょう)

霞(……随分と弱気な牌だけど……仕方ないわよね?)


打:4m


初美「ああ――!? なにやってるですか――!? そんなの4索切りの一手ですよー!!」

春「……それは無理」

衣「衣でも厳しいな。アタリでないのは分かるが、咲がいるのなら、罠を疑って4索は切れないかもしれない」

巴「逃げ切ればトップだから、役満を和了る必要はないもんね……守りに入ってしまうのも無理はないよ」

初美「守りは得意とか攻めは苦手とか言って攻める気持ちを忘れてるからそうなるですよー!! 待ち枚数を数えるですー!!」

小蒔「清澄が残り7枚、霞ちゃんは21枚、千里山と白糸台は1枚ですね。国士無双の13面待ちより、九連の9面待ちの方が有利になっています」

初美「押してれば一番勝ち目が濃いのは霞ちゃんですよー!! なんでオリるんですかー!!」

巴「そりゃ、私たちには四人の手が見えてるけど……」

初美「宮永と大星と清水谷を見るです――!! 堂々と4索を切ってるじゃないですか――!!」

衣「いや、他の三人まで4索をツモったことの方がおかしいのだが……何がどうなっているのだ?」



霞(……とりあえず、4索は切れるのね。さっき切っておけば和了りだった……いえ、宮永さんの罠だとしたら、大星さんからの直撃では届かないから手を変えたのかも……ツモ切りだったようにも見えるけど、一度手に入れてたから……)


111235678999m4s ツモ:4m


霞(疑心暗鬼を生ず……とはいえ仕方ないじゃない、こんな手をいきなり送り込まれて疑うなって方が無理よ)

霞(それに、さっきも言ったけど、私からの直撃なら和了れるけど他からでは和了れない形だったのかもしれないじゃない? 七対子のみの1600点とか)

霞(なんにせよ、今回はちゃんと切れるわ。フリテンで出和了りは出来ないけど、純正九連宝燈の9面待ちなら十分ツモが期待できる)


打:4s


淡「……」

ツモ切り:4m


霞(……は?)


咲「……」

ツモ切り:4m


霞(ちょ、ちょっとどうなって……てゆうか、よく考えたらさっきも4索連打されて……何なのこれ? なんなのよこれは!?)


竜華「……」

1999p白白白発発発中中中 ツモ:5p

竜華(さっきの4索みたいに同じ牌が繋がってるとしたら……石戸は4萬をツモったんやろなあ。で、最初にツモった4索を切って4萬を入れなおした。多分、フリテンで萬子の九連でも張っとるんやろ。こっちがこんな手になっとるんやから、そんぐらいはあり得る)

竜華(だとすると、4萬は四枚しかあらへんからこうなるわな。宮永が4萬切った時点で、うちが選択を迫られるのは必然……)

竜華(つっても、ツモ切りの一手やろなあ……1筒は考えなくもないけど、あいつらがノータイムで切った牌から考えると……むしろ端牌の方が怖いわ)

竜華(怜……おるかな? なんの力も使えんでも、おってくれればええんやけど……)

怜ちゃん(おるでー……米粒みたいな大きさになっとるけどな)

竜華(おったか。なあ、これ切ってええと思う?)

怜ちゃん(ん~? 今の力じゃ一巡先も視えんけど……切った直後に「ロン」って言われるかどうかぐらいなら、残りの力で視えるかもしれんで? 視るか?)

竜華(いやいや、そういうんと違うんやって。ただ背中押してほしいだけやねん)

怜ちゃん(……大将なんやから自分で決めえって。ま、私もここはツモ切りやな)

竜華(そっか。じゃ、問題ないな)

怜ちゃん(言っとくけど、めっちゃ成長した本体と違って、こっちの素の実力は三軍レベルのままやで。生まれたのがその頃なんでな)

竜華(ええよ、それでも。怜と一緒に決めた牌ならセーラも文句言わんやろ)

怜ちゃん(フナQたちのことも忘れんといてなー)

竜華(あはは、忘れとったわ。ほな、切るでー)

怜ちゃん(おー、切ったれー!)


打:5p



霞(……清水谷さんは5筒をツモ切り……この流れなら、私がツモるのは5筒のはず……って、なによこれ!?)

1112345678999m ツモ:1p


霞(こんなもの、切って……って、国士があるんだったわね。だとしたら、私が切るのは……)

霞(……仕方ないじゃない、何を切ればいいかわからないんだもの。確実に安全な牌……一つしかないなら、一つだけあるなら、それを切るしかないじゃない)

打:4m



『再び九連を崩した――!! 守りに定評のある石戸霞、手堅い、手堅いぞ――!!』

『……並の選手なら、純正九連宝燈の誘惑に勝てません。危険だと思っても、役満だから、アタリ牌とは限らないから、なにかと理由をつけて九連の聴牌を維持してしまうものです。ここで誘惑を断ち切って守りを選べるのも、また非凡な才能だと思います』

『さっきと違って、今回はマジで振り込んじゃうもんね』

『振り込めば三家和で流局、永水の優勝ですが……それが分かるようなら苦労はしません。オリるのは間違った判断ではないと思います』

『けどさー、さっきは押していれば通った、なら今回も……ってなるのが人情ってものだよねー。失敗したから、取り返したくなるよねー』

『だからこそ、石戸選手が再び聴牌を崩した判断は非凡なんです。今回は先ほどと違って、もう九連に復帰する可能性は残っていません。だから、普通なら誘惑に負けてオリることは出来ない……1筒を切って三家和、優勝を掴めるはずでした』

『って、それ、オリたの裏目ってるよね? オリない方が良いよね?』

『裏目です、完全に裏目ですけど……ここで優勝を掴めるであろう数多の選手より、彼女は優れた選手です。優れた選手だからこそ、裏目を引かされてしまったと言えます』

『……やけに褒めるね?』

『……事実を述べただけだよっ!!』

『本当は、すこやんがあの場に居ても同じ選択をしてたから庇ってるだけだったり?』

『……ノーコメント』

『え? マジで?』

『ノーコメントだってば!!』

『……ちょっと、永水を応援したくなった』

『ありがとう。けど、アナウンサーが特定の高校に肩入れしちゃダメだからね?』

『はーい』

『……って、そんなこと言ってる間にツモっちゃったね』

『あわわっ!? け、決着――!! インターハイ団体戦、その幕を下ろしたのは役満のツモ和了り、和了ったのは――』

九連は聴牌すらしてません。1筒は山に存在しません。ツモることが出来る手は……


以下、後日談になります。



――数日後


やえ「……不幸だ」

紀子「……」

やえ「……三年だ、三年間、このために動いて来た」

紀子「……」

やえ「三年かけて、目ぼしい相手の対策を練り、各地で能力が知られていない伏兵を育て、私だけが知っている対策で優位に立てるようにそいつらを育てながら対策を立てた、全てはこのインターハイため、この大会のために準備を進めて来た」

紀子「……知ってる。私も手伝ったし、やえの苦労は常にそばで見て来た」

やえ「なのに……だというのに……」


紀子「一戦目、宮永咲、小瀬川白望、大星淡。二戦目、神代小蒔、辻垣内智葉、宮永咲。三戦目、荒川憩、園城寺怜、竹井久。終了」


やえ「ふざけるなあああああああ!!! 私と当った8人全員が今回のベスト8メンバーだぞ!? 組み合わせに悪意がありすぎるだろうが!! しかもチャンピオンと予選ラウンドで二回対戦させられるとか、なんの嫌がらせだ!!?」


紀子「一部では登竜門や幸運の女神などと呼ばれる小走やえさん。彼女と予選ラウンドで対戦した者はその大会で好成績を約束されるとのこと……その彼女と二回も対戦した以上、チャンピオンになるのは必然……」

??「呼びました? うちは一回しか小走さんとあたっとらんと思いますけど……」

やえ「……その声、荒川か。何しに来た、『元』チャンピオン?」

憩「いえ、なんや楽しそうやったんで」

紀子「この楽しさがわかるとは、なかなかに通……」

やえ「これ以上ドSを増やすな、身が持たん」

憩「あ、ちなみにチャンピオンもおりますけど……」

??「ひゃうっ!? け、憩さん!? 怖くて隠れてたんだからばらさないでくださいよぉ……」

やえ「ほう……なら問いただしておかんとな……なんであのメンバーで私だけを集中的に狙ったのか、その理由を……」ゴゴゴ

咲「え、えっと……後に残られると一番手ごわそうだったので、つい……」

やえ「ほう……?」ゴゴゴ

咲「え、えっと……ごめんなさい」ペコリ

やえ「謝って済むかあああああああ!!!!!! 私の三年間を返せえええええ!!!」

咲「ひうっ!?」ビクッ

紀子「どうどう」ポンポン

やえ「がるるるるるる」


久「ちなみに、団体戦MVPも居るわよ」ヒョコ

やえ「……よう、棚ボタMVP」

久「確かに棚ボタだけど、20万点稼いだのは事実なのよねえ……」

やえ「バカヅキ女、無名、宮永姉妹のオマケ」

久「なんでここまで嫌われてるのかしら……?」

やえ「意味のわからん悪待ちで私にトドメを刺したからに決まってるだろうが!! 荒川を狙う場面だろあれは!?」

久「チャンピオンとの決着は決勝でってのが基本じゃない? 予選で手の内見せて必死に削っても、ねえ?」

憩「てゆうか、あれは園城寺さんの方がギルティやと思いますけど……うちのサポートしてまで小走さんを削ってましたし」

やえ「それもそうだが……あの腹黒……恩を仇で返しおってからに……」


??「怜のお腹は黒くないで!! 日焼けしとらんから真っ白やで!!」


久「あ、こんにちは」

竜華「げっ……竹井……」

紀子「関わりたくないなら声をかけなければいいのに……」

怜「いやー……私も千里山のエース張ってる立場上、勝負に徹さんといかんかったんで……ホンマすいません」

やえ「千里山の部訓は『常に一位を目指して』じゃなかったのか? トップと二位が三位を狙い撃ちするのを手助けしてどうするんだ? ああん?」

怜「いやー、あそこでラス引くと本選の位置が厳しくなりそうやったんで……」

セーラ「終わったことをいつまでぐちぐちと、器のちっこいやっちゃなー」

やえ「黙れ無能。貴様が二回戦と決勝でまともに打ってればあそこの棚ボタを抑えて私の弟子がMVPだったんだ。反省しろ」

セーラ「いやいや、俺は頑張った方やろ!? 役満の直撃喰らった洋榎に言えや!」



??「つーか、団体でも個人でも予選で消えた奴が偉そうにぬかすなっちゅーねん」


やえ「ちっ、一番やかましいのまで来たか」

セーラ「おう、とっくに出番なくなったのに未練がましく東京に残ってた愛宕洋榎やないか」

洋榎「出番が無くなったんはお前もやろ。二日目で消えたくせに」

セーラ「お前も同じ日に本選トーナメントから消えたやろ」

洋榎「うちはチャンピオンに負けて消えた事実上の2位やからええねん」

セーラ「本選は二人勝ち抜けやろ、適当言うなや。そんなん言うたら俺も二位に負けて消えた事実上の三位やっちゅーねん」

久「あんたら団体で仲良く私に負けたでしょ。せめて7より下の順位を自称してくれないかしら?」

やえ「全くだ」

洋榎「やかましいわ。つーか、お前も辻垣内もなんで仲よくあんな一年に負けとんねん、うちらより上を気取るなら真面目に打てや」

セーラ「せやせや」

久「団体の決勝、あんな配牌でよく打つ気になったなあって感心してたわ。麻雀に投了があったら迷わず投げるところよ、清水谷さんは凄いわね」

竜華「いやー、あんときは打つしかなかったしなー……って、アカンアカン、こいつに心を許したらアカン!」

久「初対面の印象が悪いのは分かるけど……なんでこんな警戒されてるのかしら?」

怜「なんでやろな?」

竜華「怜に触んなああああ!!」

怜「竜華、理由もなく人を邪険に扱ったらいかん。理由があってもダメなぐらいや」

竜華「と、怜……うちは怜のために……」


やえ「お前ら、漫才なら他でやれ」


??「あ、咲ー、和どこにいるか知らない? シズが和に会いたいって騒ぎだしてさー……って、何この面子?」


咲「あ、新子さんだ。原村さんかあ……多分、衣ちゃん達と一緒に応援席に居たんじゃないかと思うけど……」

憧「うーん……そっちは先に当ったんだけど、透華さんも知らないって言っててさ」

咲「そうなの? うーん、だとするとちょっと心当たりはないなあ……ごめんね」

憧「あー、いいって。聞いてみただけだから。ありがと」


やえ「……ぞろぞろと集まって来たな、この面子で固まってると目立つぞ」

玄「ですね……実際、すごく目立ってます」

久「あ、玄も居たのね?」

玄「憧ちゃんとは別行動だったのですが、見知った顔が見えたので……」

紀子「松実、姉の方は?」

玄「ホテルで暖房かけて観戦してます」

やえ「あいつが寒がりなのは知っているが……今日の最高気温、34度だよな? 暖房ってどういうことだ? サウナか? ダイエットでもするのか?」

玄「おねーちゃんは寒がりなので……」


??「あら、私を出迎えるのにこれだけの人間を揃えましたの? 困りますわね、今日の主役は咲ですのに……」


久「あら、大所帯が来たわね」


一「てゆうか、なんでこんな面子で集まってるのさ?」

純「咲と竹井さんはまあいいとして……なんだ、プロのチームに喧嘩でも売りに行くのか?」

智紀「近くのプロチーム……恵比寿が相手だと、衣と照さんが居ないと厳しいと思われる」

透華「あら? そんなお話でしたの? 当然、私の出番は用意してくださいますわよね?」

ゆみ「お前たちはなんでそう物騒な方向に行こうとするんだ。大会で知り合った同士で親交を深めていただけだろう」

桃子「そうっすよ。大体、そういう話なら竹井さんが照さんを呼ばないはずがないっす」

智美「照っちが居たらその可能性を考慮するってことかー?」

佳織「竹井さんならやりかねないよね……」

美穂子「鶴賀の皆さんは久をなんだと思ってるんですか……」

ゆみ「おい福路、私を含めるな」


洋榎「……なんやこいつら?」

セーラ「いや、福路は分かるやろ。で、そっちは……」

怜「龍門渕と……清澄の予選の試合の映像で見た顔やな。確か……」

ゆみ「鶴賀。長野の県大会準優勝校だ」


洋榎「な、長野の二位やて……!?」

セーラ「それは、つまり……事実上の……」


ゆみ「ん? な、なんだ……?」

やえ「ああ、すまん、そこのバカ二人は無視してくれ」

ゆみ「あ、ああ……よくわからないが、わかった」

玄「加治木さん、お久しぶりです」

ゆみ「久しぶりというほど久しぶりでもないな。阿知賀とはこっちに来てから頻繁に会っているし」


咲「……本格的に大所帯になって来ましたね」

久「そうねえ……まだ増えそうだけど」


??「む? うまそうな獲物がよりどりみどりだぞ小蒔!!」

??「衣さん、獲物などと言ってはいけませんよ」

??「むー……ではなんと呼べばいいのだ?」

??「『強そうな人がたくさんいる』でどうでしょう?」

??「ふむ……小蒔が言うならそうしよう」


純「おう、来たか」

透華「本当に、衣にも私たち以外の友達が出来ましたのね……」

霞「どうも、その節はお世話になりました」

透華「いえ、こちらこそ衣がお世話になりまして」

やえ「……おい、こいつらまで呼んだのは誰だ? どれだけ面子を揃えれば気が済むんだ?」

憩「さっきの決勝戦のメンバーが揃ってもうたなー」

咲「あ、本当だ」

怜「……あと、団体決勝のメンバーもあらかた揃ったな」

憩「……へ?」

怜「……ん(指差す)」


??「ケイー!! どこ行ったの――!! ちゃんと五位になったから勝負してよー!! 約束したでしょー!?」

??「騒ぐな、そして走るな。まったく……監督も見つからないし、憩もどっか行くし、淡のお守りを押し付けられるし……」


憩「こっちやでー」


淡「あー!! 居た――!!」

誠子「あ、憩……って、なんだこの集団? なに企んでるんだお前?」

憩「別になんも企んだりせんって。ただ集まって親交を深めてるだけや……今はまだ、な」

誠子「今は……って、お前、一体何を」

やえ「呼ぶな馬鹿。これ以上目立ってどうする、そして漫才は余所でやれ」

憩「いや、どうせならどこまで増えるか試してみたくないですか?」

やえ「いや、全く」

紀子「私の予想では次に来るのは……み」


??「はややっ☆ やえちゃんはっけーん☆ てゆうか凄い面子そろえてるね☆ 麻雀打っちゃおーか☆」


??「ああ――!! すごいよー!! サインもらいたい相手が大集合だよー!! シロー!! 見てみて――!!」


??「サトハー、なんかすごい面子が集まってるよー?」


紀子「……瑞原プロは当った」

やえ「……あとは、宮守と臨海女子と……おい、こんな面子そろえてマジで何する気だお前ら?」

憩「心外やなー、集めたんは小走さんでしょうに」

やえ「集めた覚えはないぞ。人が不幸を嘆いているところに勝手に集まって来ただけだろうが」

智葉「不幸を嘆いてる時点でお前が半人前だということだな。運も実力の内だ。麻雀では特にな」

やえ「卓上はともかく、くじ運はその限りではない。てゆうか帰れお前ら。マジで帰ってくれ頼むから」

ネリー「サトハー、それ誰ー?」

智葉「面白い麻雀を打つ奴だ。どうせ暇だし、打ってみろ」

ネリー「えー? 全然強そうに見えないけどー?」

やえ「」ブチッ

紀子「……やえ?」

やえ「……上等だ、卓につけクソガキ!!」バン

はやり「やえちゃんってば、どっからマットと牌出したの☆ まあいいや、はやりも混ぜてー☆」

やえ「……え? いや、瑞原プロが入ると色々と予定が狂……」


紀子「ちゅーもーく!! 腕に覚えのあるもの!! 瑞原プロのガチ対局に混ざるチャーンス!!」


ザワッ!!


やえ「おいこら、お前大声出すキャラじゃないだろ!? なんだ今の!?」

紀子「……やえの不幸を見るためなら、私は大抵のことは出来る」

やえ「最悪すぎるぞこいつ!?」


『はーい!! 私打ちたいでーす!!』

『ちょっと、決勝卓に残れなかった人は引っ込んでてくれるかな? この場で腕に覚えのあるものって言ったらどう考えても個人戦優勝者の私だよね?』

『私、瑞原プロのファンなのよね。ここは譲る気ないわよ?』

『待て貴様ら、あれは衣の獲物だ』

『いや、とりあえず最初はうちやろ? 大将の宮永さんは後に控えてもらって……』

『わわわっ! サインだけじゃなくて本気で打ってもらえるかもしれないって!! 私やりたいよー!!』

『なんの騒ぎかは分かりませんが、腕に覚えのあるものと言われてしまったら名乗りを上げないわけには参りませんね』


やえ「最後の台詞、藤原か!? お前いつから居た? 対木と百鬼と霜崎まで増えてるし!!」


淡「ここは公平に、生まれてから今までに天和を和了った回数の多い順で決めよう!!」

洋榎「それのどこが公平やねん!! ほれ、打って決めるで!!」

セーラ「洋榎……お前、あの卓にわざわざ入りに行くんか?」

洋榎「はっ!? しまった、ついツッコミからの流れで……」


??「迷った……みんなはどこ……?」

??「大丈夫よ照、こういう時はその場にじっとしてれば白糸台のみんなが私を見つけてくれるの」

??「……それ、今まで移動してたのは失敗だったってことなんだけど?」

??「はっ!?」

??「やはり、この母親は許されない……」

??「ま、待って照!! 今のは違うの!! 照にいいところ見せようとして頑張っちゃっただけなの!! 和解したくて頑張っただけなの!!」


咲「……よりによって全国のみんなが大集合してるところに身内の恥が(頭を抱える)」


??「身内の恥とは言いますが、迷子に関しては咲さんが一番タチが悪いじゃないですか」


憧「あ、和だ。どこに居たのよ?」

和「ちょっと、家族と話し合いを。先ほどの決勝戦と五位決定戦の中継を見せながら、麻雀が『運で決まる不毛なゲーム』ではないことを理解してもらいました」

咲「……運で決まる不毛なゲームではないことは簡単に証明できただろうね。特に五位決定戦の方」

和「二局目で理解してもらえましたね。大星さんに感謝しなければ」

咲「で、麻雀は続けられるの? 運じゃないにしても、五位決定戦の方は相当不毛なゲームだったと思うけど」

和「そちらを理解してもらえたのは決勝卓……咲さんのおかげですね。ありがとうございます」

咲「そっか、よかったあ……」


『腕に自信のあるもの……つまり、私を呼んでいるということ?』

『あ、あなた臨海の子よね? ちょっと娘と親睦を深めるために麻雀打ちたいからそこ譲って?』

『おいこら!? 私がそいつの性根を叩きなおすと啖呵を切ったのがこの騒動の発端なんだぞ!? そいつをどけられたら意味がなくなるだろうが!!』

『なら、そっちのプロっぽいのをどかそう』

『なるほど、名案ね……けど、この子もどっかで見たことあるような……んー、どこで見たのかしら?』

『はやっ☆ このポンコツ親子、はやりを知らないとか喧嘩売ってる? 売ってるよね? よーし、全力で買っちゃうぞ―☆』

『どうでもいいから早く打とうよー。ネリー、時間の無駄やだよー?』

『……もういい、お前ら四人で打て、私が抜ける。この三人なら私がやるより痛い目に遭わせてくれるだろう』

『それは認められない。ネリーさん、帰ってよし。これにて一戦目のメンバーが確定した』

『おいこら紀子!? 私が打つ理由がなくなったんだが!? っていうか一戦目ってなんだ!? 二戦目以降はないぞ!?』

『……二戦目があるかどうかを決めるのはやえではない。たぎる闘志は誰にも止められない』

『その通り。そこに卓があるなら、それが戦う理由になる』

『宮永、お前、適当言ってるだろ!? 話の流れ全く理解してないだろ!?』

『……そんなことはない、私がそんなポンコツのような真似をするはずがない』

『おい、宮永妹、こいつどうにかしろ!! 保護者の棚ボタMVPでもいい!! こいつをどうにかしろ!!』


『残念だけど、家庭の事情に口出すほど野暮じゃないのよね』

『……その人たち、他人なので』


『覚えてろよお前らあああ!! ああわかったよやってやる、かかって来いポンコツどもおおおおおお!!』



憩「ところで、せっかくこれだけの面子揃っとるんやから打たんと損やと思わん?」

久「そうねえ……結局、本選ではあなたと当らなかったし、悪くないわね」


『ダブリ……あれ? なんで配牌が……』

『大星さんには仏滅を使わせてもらうよー。運と技術で勝負するよー』

『……ちゅうことは、うちが有利やな?』

『いや、オレやろ?』

『どう考えてもうちやろ? つーかなんでセーラが入っとるん?』

『いや、流れで』


咲「あっちこっちでもう始めちゃってますね。インターハイ終わったばっかりなのに」

久「なんでみんなして牌とマットを持ち歩いてるのよ……」

衣「ハギヨシが用意してくれたんだ。それより、早く打つぞ咲。小蒔が待ちくたびれてしまう」

咲「え? 神代さんと衣ちゃんって……あと一人は? お姉ちゃんでも憩さんでも大星さんでもないとなると、誰もやりたがらないんじゃ……」


玄「やりたがらないのは、やらなくて済むということではないのです……助けて下さい、見逃してください、私は悪いドラ使いじゃないのです」


衣「どうだ咲、玄なら相手として不足はなかろう!」

咲「玄さんか……そういえば一度も戦えなかったんだよね……」


玄「助けて……咲ちゃん、助けて……」


咲「ごめんなさい玄さん。私、ちょっと……いえ、すごくワクワクしてます」

玄「いやああああああ――――!?」


その夜――宿舎浴場にて


チャプン


『……結局、会場の人に怒られるまでずっと打ってたね』

『……馬鹿ばっかりだね』

『それ、騒動の中心に居た人が言っていい台詞じゃないよね?』

『……? 私は巻き込まれただけだよ?』

『うわ、自覚なし……途中から、周りの卓はお姉ちゃんへの挑戦権をかけて打ってたんだよ?』

『なるほど、咲と瑞原プロがよく来ると思ったらそんな事情が……』

『トップは上位の卓に移動、三位と四位は下位の卓へ。二位は残留。お姉ちゃんの卓でも二位が残ってたでしょ?』

『言われてみればそんな気が……』

『ルールとか移動先の割り振りはやえさんと丸瀬さんがしてたよ。あと、衣ちゃんと神代さんは二人で打ちたがってたから、二人で獲物を捕まえて打ってた』

『ああ、あっちで騒いでたのはそういう……』

『ふふ、楽しかったね』

『……うん』


『いろいろあったよね……インターハイ』

『うん』

『でも、一つだけ分からないことがあるんだ』

『ん? なに?』

『団体戦のオーラス。あれ、なんだったのかなって』

『……少なくとも、あの場に居た人間の仕業じゃない』

『……あの場に居なかった人間でもないよね、てゆうか、あんなこと誰にもできないでしょ?』

『人間には無理だけど……出来そうなモノに心当たりはある』

『……モノってことは、やっぱりアレ?』

『出番があると思ってたのに無くなって、憂さ晴らしを始めたんじゃないかと』

『迷惑すぎるね、それ……』

『神代さんに聞いたら、先鋒でも勝手に出て来ただけらしいし。よっぽどの麻雀好きだよ、アレ』

『相手になる人が居なそうだけどね……神代さんが降ろす他の神様でも無理でしょ、アレの相手』

『だから、久々に飛ばずに半荘を終わらせられる相手を見つけてテンション上がってたんじゃないかと』

『……相当なポンコツだね』

『まさしく』

『……だから、永水に勝つチャンスが多くなるように仕組んだのかな?』

『多分そう』

『……なるほどね』


同時刻――とある雀荘にて


咏「いやあ、はやりさんが一回も勝てないとか、照ちゃんおっかないねー」ケラケラ

はやり「咲ちゃんにもちょくちょく二位取られるしさ……なんなのあの子ら? あたしこれでもタイトルホルダーだよ?」

健夜「……無理しないで私たちを呼んでくれれば良かったのに。プロの威厳ってものがあるよね?」

咏「あんたはただ打ちたいだけだろ。まあ、はやりさん以上の相手が見つかったって聞いて打ちたくなる気持ちは分からんでもないけどねい」

理沙「はやりちゃんより上って、うたちゃんでも厳しいんじゃ……」

咏「あたしは全日本のエースだぜ? 流石に一回も勝てないってことはないでしょ、知らんけど」

健夜「いや、高校生に負けないでほしいんだけど」

咏「高校生って言ってもねー。今年のインハイの異常っぷりを見ちゃうとガキ扱いは出来ないんじゃないかと思うね、知らんけど」

はやり「役満10回以上、天和もポンポン出るような異常事態だからね。だからって、まさかあたしが勝てないとかさー」


晴絵「えっと……ところで、なんで三尋木プロがおられるんでしょうか?」


咏「こんな楽しそうな面子で麻雀打つって聞いてこないわけないっしょ? 何言ってんのー?」

はやり「一番年下な上に本来は部外者なのに仕切ってるしねー」

咏「一応、この中で一番ランク上なんでねー。やっぱ、この面子なら麻雀の強さが序列でしょ、知らんけど」

健夜「……私、大会出てないだけだから」ピク

咏「そんなら卓上で示してもらわないと」

健夜「確かに、ちょっと序列を教えてあげる必要があるみたいだね」

咏「……本気で行かせてもらいますよ」

健夜「あれ? 敬語になったね? 打つ前から序列がわかっちゃったかな?」

咏「……上等だよ、あんたの時代は終わったってことを分からせてやる」

はやり「二人で盛り上がんないでほしいな☆ 私たちも居るんだよ☆」

理沙「……久しぶりに、本気」


晴絵(……ヤバイ、帰りたい。てゆうか帰っていいよねこれ? 四人で盛り上がってるし、私要らないよね?)


更に数日後 宮永家


界「……なるほどなあ、まさか本当にそんなオカルトが……」

咲「……事情を全部知ってたとも、知ってて信じてなかったとも思わなかったよ」ガクッ

照「どいつもこいつも揃ってポンコツなんだから……」

咲「あれ? てゆうか、うちでお姉ちゃんのプラマイゼロの事情を知らなかったのって私だけ?」

界「……だな」

咲「……」

照「ほ、ほら、お姉ちゃんが咲を傷つけないために必死に隠してたし……」

咲「このポンコツが隠したぐらいで気付けなかったなんて……」

照「さ、咲……それは酷くない? お姉ちゃん泣くよ?」

咲「分かってれば、お母さんが強そうな人を連れて来た時にとっくにプラマイゼロ破って終わらせてたのに……」

照「い、いや、ほら、お姉ちゃん強いからそれは出来なかったんじゃないかな?」

咲「いくらなんでも、プロとお母さんと私の三人で何回でも挑めるなら、一週間も持たないよね?」

照「……はい」

咲「このポンコツ姉―――!!! お母さんが出てったのも今まであんまり麻雀出来なかったのも変な麻雀覚えたのも全部お姉ちゃんのせいじゃん!!! バカー!!!」

照「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

界「喧嘩はダメだぞー?」


咲「はあ……もういいや。学校行こ」

照「……? 今日は日曜日じゃ?」

咲「……練習試合」

照「あっ!?」

咲「だからポンコツだって言ってるの!! 本気で忘れてたでしょ!!」


ピンポーン


??「外まで聞こえてるぞー。あと、一人で学校いけないポンコツが言うなー」

咲「うぐっ……」

照「は、早く着替えないと……」

咲「今日は私服でいいって話だから、京ちゃん来てるし、そのまま行こうね」

照「え? いや、その……私、パジャマのままなんだけど?」

咲「でもほら、京ちゃん来てるし」

照「あ、うう……」


??「いや、待ってるんで早く着替えて来て下さい。それ見越して早めに来てるんで」


照「あ、はい」


咲「おはよう京ちゃん」

京太郎「おまえ、照さんに対してだけドSなのな?」

咲「……家族愛だよね」

京太郎「いや、歪みすぎだろ」


駅にて


和「おはようございます」

咲「おはよう、和ちゃん、優希ちゃん」

優希「おはようだじぇ」

照「おはよう」

京太郎「おはよう。じゃ、行くか」

和「ちょうど、電車も来ましたね」


ガタンゴトン アー、サキチャンタチオッタデー アラアラ、ヨテイヨリハヤイサイカイネ 


咲「……」

京太郎「……なんか居たな?」

和「……まあ、清澄に集合するなら、同じ電車に乗ることになりますよね。あの周辺には宿もありませんし」

京太郎「合宿所押さえなかったのかよ……」

優希「他校の人間はNGって言って断られたそうだじぇ!」

咲「で、わざわざ離れたところに宿を取ってまで練習試合? キャンセルしないんだね……」

京太郎「アレだな。インハイ後に照さんが瑞原プロまで含めた高校オールスター+αに全勝したのが効いてるんだろうな」

和「瑞原プロ以上となると、トッププロの指導対局みたいなものですからね」


??「おーい、はよせんと電車出てまうでー!?」


咲「はあ……目的地に行く前の電車で会っちゃうとか、風情がないよね」

京太郎「お前らがアホな漫才してるからだろ。予定だと一本早い電車だったんだよ」

和「とにかく、乗りましょう。本当に乗り遅れますよ」


咲(……)

監督「お、おはよう、咲。照も」

照「……(無視)」

咲「……おはよう、お母さん」

監督「つ、ついに娘と和解できたわ……」ウルウル

咲「いや、出来てないからね。完全に無視されてるからね? 私とはインハイ直後でもそんなに険悪じゃなかったし」

監督「はっ!? 確かに……」

咲「もう……で、いつ家に帰って来るの?」

監督「そうね……来年の夏……憩が引退するまでは監督を続けて、それからかしら?」

照「……は?」ギロッ

監督「ひいっ!? こ、これはアレなの? 『一生帰って来るな』的な拒絶オーラなの?」

咲「いや、来年って、お姉ちゃん卒業しちゃうよ? 多分プロになるから、家出ちゃうよ?」

照「……」

監督「……?」

咲「家を出た後に帰って来ても、嫌いなら何とも思わないよね?」

照「……」

咲「ということは、家を出る前に帰ってきてほしいってことだよね? さっき睨んだの」

照「知らない。何を言ってるのかわからない」

監督「て、照……許してくれるの? 既に和解は出来ていたの?」

照「……」プイッ

咲「もう、素直じゃないなあ……」


麻雀部に入ってから、色んな事があった。

沢山の友達が出来て、麻雀が楽しくなって、お母さんが返って来て、お姉ちゃんとも、前よりよく話すようになった。

麻雀を打つたびに、友達が増えた。

悲しいこと、辛いこともあったけど……(そのほとんどがお姉ちゃんのせいだった気がする)

けど、麻雀をまた始めて、良かったと思う。

良かったと思えるだけの良いことが、あった。


『あ、来た来た。遅いわよあんたたち……って、お客様と同伴ってどういうことよ!?』


きっと、これからも良いことが続いていく。

悪いことが始まったのは、麻雀を拒絶するためのプラマイゼロを始めてからだったから。

良いことが始まったのは、麻雀をまた始めてからだから。


『ま、準備は終わってるんだけどね。じゃ、早速始めましょうか? 誰から打つ?』


だから、私は今日も―――麻雀を打つ

このSSの全文を収録した、テキストだけしかないはずのフォルダが、「僕の中身の容量は1.26MBです」とか言い出しました。バグですかね?

……テキストでMB単位を見ることになる日が来るとは思いませんでした。というか、当初は最終的に300KB程度、期間は二か月ぐらいで終わるつもりで始めたのに、1MB超えた上に期間も一年経ってるという。
投下が遅れたり、描写に至らない点があったり、度重なる闘牌、点数、その他もろもろのミスがあったりと改善すべき点は多いですが、今の時点で自分に出来ることはやりきったと思います。

それらの至らない点がありながらも最後まで書けたのは、皆様からいただいた応援のおかげです。ありがとうございました。

今後は、また短編を気まぐれに投下する生活に戻ります。
いつ投下するかわかりませんが、そちらにもお付き合いいただければ幸いです。

皆様、ありがとうございます。
未投下の長編三本からネタを全力で流用してるのでその辺も没フォルダに振り分けないといけないな、なんて思いながら、投下が終わってから五日間、積み上がった未読の山を20冊ほど崩してました。読むと書きたくなるのが人情でして、久しぶりに一日中キーボードを叩きたい気分になっています。

このスレの続きですが、消えたままの池田さんたち視点とかネタ自体はなくもないので書こうかどうか迷ってたんですが、モチべ的には「プロットだけ書いてあるやつとか、さっき思いついたネタとかを書きたい」の方が強いので、欲求に従ってそっちを優先しようかと思います。
ということで、ここで本当に完結とさせていただきます。

長期間に渡りお付き合い頂き、本当にありがとうございました!!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年12月07日 (月) 16:19:39   ID: 6n11r6_B

完結お疲れさまでしたm(_ _)m

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