【艦これ】阿武隈「いつか平和な海で」 (145)

※キャラ崩壊注意報

設定的には下記の話を引き継いでいますが、読まなくても大丈夫だと思います。

阿武隈「騒がしいながらも楽しい鎮守府」
阿武隈「騒がしいながらも楽しい鎮守府」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445611732/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1448808062

――FS方面海域。

ビスマルク「――やられた! 舵は……大丈夫。なら、まだやれるわ」

ビスマルク「敵陣で孤立、こちらは中破……面白いわね。そう簡単にこの首、取らせはしない」

重巡ネ級elite「――ッ!」

空母ヲ級改flagship「シニゾコナイガ――ホエルワ」

ビスマルク「私はドイツの誇る戦艦、ビスマルク! 私の命が欲しければ、決死の覚悟で来ることね!」

空母ヲ級改flagship「ドウシタ。オオグチタタイタワリニ、ボウセンダケカ」

ビスマルク「……」

空母ヲ級改flagship「マアイイ。キサマヒトリニカマッテイルヒマハナイ。ソロソロオワリニシヨウ」

ビスマルク「……やはり貴方達は愚かね」

空母ヲ級改flagship「……ナニ?」

ドォォォォン!

空母ヲ級改flagship「アレハ!? ホキュウセンダンガヤラレタカ!」

空母ヲ級改flagship「……マサカ。キサマノヨウナシュリョクガ、オトリニナッタトイウノカ!? ホキュウセンカラチュウイヲソラスタメノ」

ビスマルク「補給船が貴方達の親玉が誇る装甲の、カラクリの一つなのでしょう? まさか私達が未だに気づいてないとでも思っていたの?」

空母ヲ級改flagship「……」

ビスマルク「戦術がない。戦略もない。仲間同士の連携もなければ、敵がどう動くか予測することもしない」

ビスマルク「そしてなにより――誇りがない」

ビスマルク「だからこそ、こんな単純な囮に引っかかり。死にぞこない一人倒せない」

ビスマルク「いくら数がいようと。『私達』が貴方達に負ける気はしないわ」

空母ヲ級flagship「……ツヨガリヲ。ドウアレ、キサマガココニシヌコトニワカワリナイ」

ビスマルク「さあ、どうかしら?」

ビスマルク(とは言ったものの。生還はほぼ絶望的ね)

ビスマルク(勝手やった身で言うのもなんだけど――後は頼んだわよ。オイゲン、レーベ、マックス)

――ビスマ――クさん。今助け――るの――す

ビスマルク(……今、誰かの声が?)

ドォォォォン!

空母ヲ級改flagship「――グッ!? バカナ、ギョライダト!?」

ビスマルク「これは……甲標的による魚雷攻撃?」

空母ヲ級改flagship「――ナメルナァ! コノテイドデェェェェェ!」

重巡ネ級elite「――ッ!」

駆逐イ級後期型elite「――グオォォォォ!」

ビスマルク「さあ、かかってきなさい!」

――ビスマルクさん! 今助けるのです!

ビスマルク「……電?」

電「――ビスマルクさんは、沈めはしないのです!」

初霜「私の手が届く限り、誰一人として、沈めさせはしないわ!」

羽黒「例え、五倍の敵だって支えて見せます!」

ビスマルク「……初霜、羽黒」

阿武隈「もう、心配したんですよ!」

ビスマルク「……阿武隈も」

空母ヲ級改flagship「タショウザコガフエタトコロデ――グオオッ!?」

鳥海「戦場で一つのことに気を取られるなんて。致命的ですよ?」

ビスマルク「鳥海まで……」

鳥海「まったく。勝手に囮になって、勝手に危機にならないでくださいね? 本当に……心配したんですから」

羽黒「私本当に不安で仕方なかったんですからね!」

初霜「ともあれ、無事でなによりです」

電「ビスマルクさん……本当に良かったです」

ビスマルク「……ごめんなさい。心配かけて」

阿武隈「とりあえず、話は後です。あたし達、第二艦隊はこれから本隊と合流します」

阿武隈「時は一刻を争いますから……ビスマルクさんは、電ちゃんを護衛として直ちに退避してください」

ビスマルク「待ちなさい阿武隈! 私はまだ戦えるわ!」

初霜「なに言っているんですか!? どう見てもこれ以上の戦闘は不可能です!」

鳥海「そもそも、その傷でどうやって戦う気ですか!?」

ビスマルク「固定砲台くらいにはなるわ。あの化け物駆逐艦を倒すには、少しでも火力が必要でしょう」

羽黒「ダメです! 危険過ぎます!」

阿武隈「羽黒さんの言う通りですよ、ビスマルクさん。これ以上の戦闘は容認できません」

ビスマルク「そんなこと言っている場合じゃないでしょう!」

電「ビスマルクさん。お願いです。聞いてください」

ビスマルク「なによ」

電「ビスマルクさんはここで沈むわけにはいかないのです」

電「この戦いで、すべて終わるわけじゃない……悲しいけど、まだまだ戦争は続くのです」

電「……この先、まだまだビスマルクさんの助けが、私達には必要なのです」

電「だから……お願いなのです。一緒に、鎮守府に帰って欲しい」

阿武隈「電ちゃんの言う通りです。ビスマルクさんは、ここで沈むわけにはいきません」

阿武隈「……オイゲンさん達も、悲しみます」

ビスマルク「……分かったわ」

羽黒「ビスマルクさん……! 良かった」

ビスマルク「貴方達こそ無事で帰ってきなさい。なにかあったら承知しないわよ!」

鳥海「問題ありません。私の計算は、既に終局まで導き出していますから」

羽黒「はい、大丈夫。やれます」

初霜「問題ないわ。みんなで一緒に帰りますから」

阿武隈「こう見えても、あたし達はしぶといですよ。任せてください」

阿武隈「電ちゃん……護衛、よろしくね」

電「はい、任されたのです」

ビスマルク「決戦を前に、撤退か。分かってても情けないわね」

電「……みんなを、信じるのです。必ず帰ってくるのです」

電「電達も決して安全ではないのです。でも鎮守府まで、しっかり護衛しますね」

ビスマルク「……よろしく頼むわ」

電「はい。第一水雷戦隊、電。ビスマルクさんの護衛、きちんとやり遂げるのです!」

ビスマルク(……今まで、頼りにはしていたけど、どこか戦艦である私が、駆逐艦や軽巡洋艦である彼女達を守らなければ)

ビスマルク(そういう想いが、私のどこかにあったみたい)

ビスマルク(けれど。阿武隈、初霜。彼女達のなんて頼もしい事か)

ビスマルク(もちろん、鳥海や羽黒も)

ビスマルク(そして。今単身で私を護衛する電……彼女は私に護られる、か弱い存在では決してない)

ビスマルク(肩を並べられる――立派な戦士だわ)



とある鎮守府の総力戦により、深海棲艦の中核『防空棲姫』を撃退。

中大破艦は多数、しかし沈没はゼロ。

FS作戦は無事完遂された。

――それから、数か月後。

阿武隈「艦隊、母港に帰投しました!」

電「みなさん、お帰りなさい。なのです!」

若葉「なんてことはない」

響「電や司令官もお疲れ」

初霜「無事に輸送船のみなさんを護れて良かったです」

時雨「うん、無事に帰投できてよかった」

提督「みんな。良く無事に戻ってきてくれた。阿武隈、遠征の報告を聞かせてくれるか?」

阿武隈「了解、えっとまず鎮守府近海の輸送船団の護衛任務は無事、終了しました。深海棲艦との遭遇はなく――」

響「ハラショー」よじよじ

提督「ぶっ!?」

阿武隈「ちょ、響ちゃん重い重い! なんであたしによじ登ってくるの!?」

響「そこに阿武隈さんがいるからだよ」

初霜「響さんは登山家なのですか?」

若葉「なにをやってる。阿武隈さんは今、報告中だぞ」

響「阿武隈さんの髪は、ロシアでは重宝される髪だな(適当)」

電「どんな髪なのです!?」

提督「こらこらこら、阿武隈で遊ぶのは後にしなさい」

阿武隈「『で』!? 『と』じゃなくて!? てーとく酷いです!」

初霜「響さん、あまり阿武隈さんや提督に迷惑をかけてはいけませんよ」

響「ちょっとウェットにとんだジョークだったんだけどね」

若葉「反省してないな。あとウィットだ」

響「ここ最近真面目な雰囲気が続いていたから、解そうとしただけだよ」

若葉「時と場合を考えろ」

時雨「……」

時雨「響、君には失望したよ」きっぱり



響「……」ずーん

初霜「ああっ!? 響さんが部屋の隅っこで体育座りしてしまいました!」

阿武隈「あ、あの……響ちゃん、大丈夫?」

時雨「これこそちょっとしたジョークだったんだけど。ここまで効果があるのは予想外だよ……」

電「時雨ちゃんの発言の瞬間、寒気がしたのです……響ちゃん、しっかりして欲しいのです」

若葉「おまえら、話が進まないぞ」

初霜「若葉ちゃんの言う通りですよ皆さん。阿武隈さん、とりあえず続きは報告を済ませてからにしましょう」

提督「あー、とりあえず阿武隈以外はとりあえず退出して休んでていいぞ」

若葉「はあ……仕方ない。響、さっさと行くぞ」

時雨「響、言い過ぎたよ。ごめん」

響「いや……私こそ悪ふざけが過ぎたよ」

初霜「提督、阿武隈さん。すみません、お先に失礼しますね」

提督「ああ、ゆっくり休んでくれ。響、後で反省文ね。はしゃぐのは大いに結構だが場合を考えような」

響「!?」

若葉「なぜそこで意外そうな顔をする……」

初霜「響さん、ほら私も後で手伝いますから、取りあえず疲れを取りましょう?」

響「いや、大丈夫だよ。みんなもしっかり休んでくれ。特に若葉はね」

若葉「なぜそこで若葉を名指しするんだ」

時雨「若葉はすぐ無理するからね。響も心配なんだよ」

若葉「過保護だぞ、お前たち」

響「それじゃ電。また後で」

電「あ、うん。お疲れなのです」

テクテクテク……

阿武隈「あうう……髪がボサボサ」

提督「あはは、災難だったな。懐かれ過ぎると言うのも大変だ」

阿武隈「懐かれている……のでしょうか。なんか違うような?」

電「響ちゃんが迷惑をかけて、ごめんなさいなのです」

阿武隈「ああ、いいのいいの。別に気にしてないから」

阿武隈「で、すみません。報告の続きですけど」

提督「ああ、続けてくれ」

提督「なるほど。艦隊の練度と統率も大分上がってきたな」

電「資源や高速修復材も余裕が出てきたのです」

阿武隈「これなら次の作戦にもある程度対応できそうですね、提督」

電「頑張るのです!」

提督「そうだな。けど焦りは禁物だぞ。まあ、二人にはいらないお世話かもしれないけどね」

阿武隈「そんなことないですよ。当たり前のことでも、そう言ってくれる人がいることって、ありがたいんですから」

電「けど深海棲艦も、いろいろと新しい種類が現れてますからね。いろんな事態に対応できるよう、幅広い戦力養成は重要です」

提督「次の作戦は水雷戦隊の働きが重要になってくると予測される。期待してるぞ。ただし無理はするなよ」

電「大丈夫です、司令官」

阿武隈「はい、任せてくださいね、提督」

北方棲姫「デモ、イナヅマチャンノイウコトモ、イチリアル。カンムスダケジャナイ。ワタシタチモ、ヒビセイチョウシテイルノ!」

電「そうですね、北方ちゃんの言う通りなのです……なのです?」

阿武隈「……えええええええええっ!?」

提督「落ち着け二人とも! ……北方棲姫、いつここに来たんだ?」

北方棲姫「タッタイマ! エット、アソビニキタノ。イナヅマチャン、アブクマオネーチャン、テー、テ……ナンダッケ。マアイイヤ」

提督「提督だ。会ってから一年くらい経ってるんだから、いい加減覚えような」

北方棲姫「イナヅマチャン、アブクマサン、ヒコーキアソビシタイ!」

提督「……スル―か。まあいいけどさ」

電「し、司令官。ファイトなのです」

阿武隈「あ、あのね北方ちゃん。今あたし忙しいから……後で、ね?」

北方棲姫「ヤーダヤダヤダ! イマアソブノ!」

阿武隈「あう……」

龍驤「あーほら、北方。あまりお姉ちゃんを困らせたらアカンで」

提督「龍驤? どうしたんだい?」

龍驤「すまんね、提督。それと阿武隈。この子、ウチに付いて来てしまったんよ。しかもちょっとした隙に走って行ってしもたんや」

北方棲姫「イナヅマチャント、アブクマオネーチャンニアイサツシタ! アト、テーナントカモ」

龍驤「おう、偉いな北方は。けど今、お姉ちゃん達はお仕事中なんや。ほら、しばらくウチと遊んでような」

阿武隈「あ、てーなんとかはスル―なんですね……」

北方棲姫「ゼロ、アル?」

龍驤「ああ、来る前に言ったようにあるで。ふっふっふっ。しかも、ただのゼロやない。熟練やで!」

妖精さん(じゅくれんとうじょういんは、だてじゃない!)←龍驤の肩に乗ってる

北方棲姫「ジュクレン! スゴイ! ミセテ、ハヤクミセテ!」

龍驤「ほな、工廠(こうしょう)行こうか。邪魔してすまんね三人とも」

電「北方ちゃん、また後でね」

阿武隈「ごめんね、後で行くからね」

提督「龍驤、しばらくその子頼むよ」

龍驤「気にせんでええよ。ウチが連れてきたんや――」

……ガチャ

妖精さん(あぶない!)

阿武隈「……!? 提督!」バッ!

提督「馬鹿、なんで前に――!」

どかぁぁぁぁん!

電「阿武隈さん!? 司令官!?」

龍驤「アカン! 執務室のドアが吹っ飛んだで!? なんや敵襲か!?」

妖精さん(……!)サッ

港湾水鬼「ホクホーウッ! ブジカァァ!?」

北方棲姫「ア、コーワンオネーチャン」

電「こ、港湾水鬼さん!? なんでここに!? どうやってここまで来たのです!?」

港湾水鬼「ココノテイトクノキャクダトイッタラ、アッサリトウシテクレタゾ。タシカサミダレトカイッタカ? ゴテイネイニ……アンナイマデシテクレタナア」

龍驤「……あちゃー。五月雨ちゃん良い子なんだけど、うっかりさんやからなあ」



私って ほんとにドジで すみません
   五月雨ちゃん 自省の俳句

電「そ、それより司令官と、司令官をとっさに庇った阿武隈さんは……!?」

龍驤「……今は気にしてる場合じゃなさそうやね」

港湾水鬼「ソノトオリダ。イカニオマエラノレンドガタカクテモ、クチクト、ケイクウボ。フタリデハナニモデキマイ」

港湾水鬼「サア。アキノイクサ……ハジメテミルカ?」

龍驤「そうやなあ。ウチら二人じゃどうにもならんね」

港湾水鬼「……ズイブン、アキラメガハヤイナ?」

龍驤「けど、二人じゃなかったらどうや?」

港湾水鬼「ナニ……? ハッ!? キサマ、カタニイタヨウセイハドウシタ!?」

龍驤「気づいたか。けど、もう遅いで」

ビスマルク「そこまでよ!」バッ!

榛名「これ以上の勝手は、榛名が許しません!」バッ!

港湾水鬼「ク……ヨウセイガ、タスケヲヨンデイタノカ」

霧島「さて、おかしな真似はしないでくださいね。少しでも変な動きをしたら、三式弾をあなたの顔面に叩き込んであげますから」

電「ビスマルクさん! 榛名さんに霧島さんも!」

妖精さん(なかまをつれてきたぜ! たよりになるやつばかりだ!)ぴょん!

龍驤「助かったで、みんな。電ちゃん、今のうちに二人を助けに行ってな!」

電「分かっているのです!」

ガラッ――

阿武隈「電ちゃん、みんな! こっちは大丈夫です!」

電「阿武隈さん! 司令官は!?」

提督「阿武隈のおかげで大したことはない……腕を少しやられたが」

港湾水鬼「カバッタウエノカスダメカ。アクウンノツヨイヤツダ」

龍驤「おうメタネタやめーや」

港湾水鬼「サスガニシブトイナ。ソウデナクテハ」

提督「まったく好戦的だね」

港湾水鬼「フン……ホクホウヲサラッテイッタオマエラニハ……イワレタクナイ」

龍驤「……は?」

提督「え?」

阿武隈「はい?」

電「なのです?」

北方棲姫「……ポ?」

ビスマルク「いや北方まで分かってないの!?」

霧島「……龍驤さん、まさかあなた誘拐を」

龍驤「いやいやいや、ウチはそんなことしてないで!? むしろこの子が付いてきたんや!」

北方棲姫「オネーチャン! ワタシ、ジブンカラアソビニキタダケ!」

港湾水鬼「……ハイ?」

電「北方ちゃん。他の人にはここに来るって伝えてないのですか?」

北方棲姫「ツタエタ! オキテガミシタ!」

港湾水鬼「オキテガミ? キョウハクジョウデハナイノカ?」

阿武隈「北方ちゃん、なんて書いてきたの?」

北方棲姫「エットネ」

港湾水鬼「『ホクホウハチンジュフニイル。テミヤゲハゼロダ』ト、カイテアッタ」

北方棲姫「アタラシイゼロ、リュウジョウオネーチャンニカシテモラウ!」

電「どう見ても誤解を招くのです!?」

ビスマルク「本当に脅迫状のような文面ね!?」

北方棲姫「シカモジュクレン!」

霧島「つまり……北方ちゃんを返してほしくば、ゼロ戦を持って鎮守府に来いと読み取ったと」

龍驤「あー。先のAL作戦で鹵獲(ろかく)された、ウチの零戦があるからなあ。あれ返せと思われたんか……」

龍驤「あのな。北方ちゃん。もーちょっと、お姉ちゃん達に分かるように書かんとアカンで」

北方棲姫「ダメダッタノ?」

港湾水鬼「ツマリ……ワタシハゴカイデセメコンダ?」

提督「そういうことになるね」

ビスマルク「……じー」

榛名「じー」

霧島「じー」

龍驤「じー」

港湾水鬼「……ハ!?」

電「あの……あのっ」

阿武隈「提督怪我してるんですけど。どうしてくれるんです?」

龍驤「執務室のドアと壁もやな。こりゃ修理大変やで」

港湾水鬼「……イコクノチ。イコクノウミ。サミシイナア」

霧島「誤魔化すんじゃありません!」

港湾水鬼「……ゴメンナサイ」

北方棲姫「マチガエタラ、ゴメンナサイ。ダイジ」

龍驤「あのな。それ、君が言ったらアカンやろ」

電「これでとりあえず処置はできたのです」

提督「ああ、助かったよ電。ありがとう」

電「どういたしまして、なのです」

阿武隈「ヒビが入ってるんですから、しばらくは無理しないでくださいね」

提督「分かっている。阿武隈も助けてくれてありがとう。阿武隈は怪我はないか?」

阿武隈「はい。問題ありません」

龍驤「しかし……本当にいいんか? こいつあっさり許してもうて」

パチッ

提督「まあ……反省してるみたいだしね。みんなが構わないなら私は別にいいよ」

ビスマルク「さすがになにもなしって言うのはどうかと思うけど……でもね」

霧島「執務室を壊した分と、司令の治療費を払えって言われても――」

港湾水鬼「スマナイガムリダナ。ワタシタチニハ、キンセンノガイネンハナイ」

パチッ

榛名「はあ……そうですか。提督、いいんですね?」

提督「さすがにその分働いて返せ! なんて言うわけにもいかないしな」

港湾水鬼「ワタシハカマワンゾ」

提督「君達食事とかどうするの?」

北方棲姫「オネーチャン、オナカスイタ」

港湾水鬼「オマエラノイウ、ヤマトガタナドメデハナイ」

パチッ

阿武隈「赤字ですね」

霧島「これは働かせても、採算取れませんね」

ビスマルク「論外ね。まあ基地型の深海棲艦だから、ある意味当然かもしれないけど」

榛名「深海の皆さんも、資材のやり繰りとかしているのでしょうか?」

阿武隈「実は、あたし達のように遠征に精を出していたりするかもしれないですね」

榛名「あ、阿武隈さん。遠征帰りなんですよね。お疲れ様です。いつも助かります」

阿武隈「え? いえいえ、これがあたし達の役割ですから。でも、若葉ちゃん達もそう言ってくれると喜ぶと思います」

榛名「ふふ、そうですね。後で若葉ちゃん達にもお礼を言わないといけませんね」

龍驤「それは良いけど、話題ずれとるで。キミ達」

パチッ

電(基地型なのに、普通に出歩いていることは気にしない方がいいのでしょうか?)

提督「というわけだ。もし君が気に病んでいるというのなら、停戦協定でも結ばせてもらおうか」

港湾水鬼「……ハハハ。オメデタイヤツダ。ワタシヒトリトテイセンシタトコロデ、タイセイニハナンノエイキョウモナイゾ」

港湾水鬼「ワレワレシンカイセイカンガ、リセイヤ、トウソツニヨッテ、オマエタチトタタカッテイルトデモ……オモッテイルノカ?」

港湾水鬼「ワタシト、ホクホウ。フタリダケガ、タタカイヲヤメタトコロデ……ナンニモナランゾ?」

パチッ

提督「だろうね。けど、無意味というわけじゃないさ」

港湾水鬼「ホウ?」

提督「少なくても、君達二人と戦わないという選択肢が生まれる。私達は無益な闘争を避け、出さなくてもいい犠牲を出さずとも済む」

提督「それと、深海棲艦とも和解がなるというのは、大きなものになるかもしれない」

電「……電達も、なるべくなら戦いたくないですね」

榛名「榛名も……同感です」

阿武隈「……提督。電ちゃん。榛名さん」

港湾水鬼「ハハハ! ドコマデモアマイヤツラダ! シンカイセイカントワカイ、タタカイタクナイダト!?」

パチッ

港湾水鬼「キサマラハキョウジンカ!? ソンナユメモノガタリ――」

北方棲姫「ハルナオネーチャン、ヒコーキゴッコシタイ。アソンデアソンデー」

榛名「いいですよ、北方ちゃん。榛名と遊びましょう?」

北方棲姫「ウン! ハヤク、ジュクレンノゼロ、ウゴカシタイ!」

霧島「ふふ、この霧島の精密なる計算に基づいた、現実に限りなく近い飛行機の動きをお見せしましょう」

電「あ、北方ちゃん、お腹空いたんだよね。クッキー食べる?」

北方棲姫「タベル! アリガトウイナヅマチャン」

港湾水鬼「……オオウ」

龍驤「……泣いてええんよ?」

港湾水鬼「ナクカ!?」

龍驤「ウチが胸貸したるさかい。遠慮せんでいいんよ?」

港湾水鬼「ダカラ、イイトイッテルダロウ!?」

パチッ

龍驤「無理せんでええのに。はい、王手」

港湾水鬼「ナンダト!? ク……ス、スコシハヤルノカ? ウレシイナア」

霧島「あー。これ詰んでますね」

港湾水鬼「……クッ」

龍驤「考えてもあかんって。もう王が生きる道ないで。ウチの勝ちやね」

港湾水鬼「モ、モウイッキョクダ!」

龍驤「ええよ。次もコテンパンにしたるわ」

ビスマルク「偉そうなこと言いながら将棋してるんじゃないわよ!」

阿武隈(しかもすごく弱い……)

――その後。

鎮守府職員「なんで壁にヒビ入っているんだ?」

鎮守府職員「そもそもどうすれば執務室がこうなるんだって話だぞ。ドア完全に壊れてるじゃないか」

鎮守府職員「ていうか、あの白い方達、どちら様……?」

霧島「ふむ……蒼龍さん、大体これくらいかと」

蒼龍「はい、えっと。執務室の修復は、二日ほどかかるかと」

提督「……そうか、まあ仕方ない。修繕費は自分の貯蓄から出しておこう」

阿武隈「ええっ!? 提督それでいいんですか?」

提督「今回は私がわがままを通したようなものだしな。なに、どうせ使い道がなくて余りまくってるんだ。構いやしないさ」

ビスマルク「それはそれで空しいわね。あなた何か趣味でもないの?」

提督「提督の仕事で精一杯だからなあ……酒も自分からは飲まないし、あまり金のかかる趣味はしないし」

龍驤「ふうん。そういうビスマルクこそなんか趣味あるんか?」

ビスマルク「と、当然よ!」

龍驤(……まあ、二人とも生真面目な軍属やからなあ。仕方ないわ)

龍驤「ま、ウチラが気にすることでもないやね。ウチは二人……二人? ともかく見送ってくるわ」

提督「遅いから気を付けてね。それと龍驤。おかげで助かった。ありがとう」

龍驤「あー、別にええんよ? ウチは助け呼んだだけやし? なあ阿武隈ちゃんに電ちゃん?」

阿武隈「いえいえ。助かりました(龍驤さん、褒めてもらって嬉しそうだね)」

電「電も、龍驤さんがいてくれて助かったのです(なのです)」

霧島(ですね)

龍驤「あとこいつら襲うような奴いたら、見てみたいわ」

妖精さん(それに、おれもいるぜ)

阿武隈「そうだったね、ごめんね。龍驤さんをよろしくお願いしますね」

妖精さん(まかせとけ!)

電「いってらっしゃいなのです」

北方棲姫「マタネ、オネーチャンタチ!」

阿武隈「うん。またね、北方ちゃん」

港湾水鬼「……マケタ、ナススベナクマケタ」

龍驤「君、いつまで気にしとるんや……」

港湾水鬼「ツギハマケンゾ……カクゴシテオケ」

榛名「港湾水鬼さん、また遊びに来てくださいね!」

港湾水鬼「クルカ!?」

龍驤「キミ、今来る気満々のセリフ吐いてたやろ」

霧島「さて、司令達はもう上がってください。夕食すらまだでしょう?」

提督「そういえば霧島達はもう済ませたのか?」

ビスマルク「ええ、とっくにね」

榛名「榛名達もすぐ終わりますから、気になさらないでください」

蒼龍「明日の仕事に必要なものは、別室に運んでおきますね」

提督「ありがとうな。何から何まで」

ビスマルク「ふふ、いいのよもっと褒めても?」

榛名「ビスマルクさん、凄いです! 天才です!」

ビスマルク「榛名が褒めるの!? ま、まあいいけど」

霧島「あら、二人とも仲が良いわね」

ビスマルク「そ、そそそんなことないわよ! 私と榛名は、ライバル! そうライバル、私が越えるべき相手なのよ!」

榛名「……ビスマルクさん、榛名のことは嫌いなのですか?」

ビスマルク「あーもうなんでそんな悲しい顔するのよ!? そんなわけないでしょう!?」

榛名「そうですか!? なら良かったです!」

電「楽しそうなのです」

ビスマルク「そこ! 笑ってるんじゃないの!」

電「はわわ!?」

阿武隈「もう、大人げないことしないでくださいよ」

ビスマルク「そういう阿武隈も笑ってるじゃない……はあ」

蒼龍「大変ですね、ビスマルクさん」

ビスマルク「蒼龍……あなた楽しんでるでしょう?」

蒼龍「そんなことないですよ」

電「大変な一日だったのです」

阿武隈「もうびっくりしたよ。まさか深海棲艦が二人も来るなんて」

提督「阿武隈は遠征帰り、電は書類仕事の後だったのにすまなかった。疲れてないか?」

電「大丈夫。それに、これは司令官のせいじゃないのです」

阿武隈「あたしもOKです」

提督「しかし、阿武隈。あまり無茶はしないでくれ。阿武隈が私の前に出てきたときは肝を冷やしたぞ」

阿武隈「何言ってるんですか!? なにもしないと提督はもっと大怪我していたかもしれないんですよ!」

提督「それで、阿武隈に一大事あってはならないだろう」

阿武隈「あたしは艦娘なんですから平気です! 提督は普通の人ですし、それにこの鎮守府に取って大切な存在なんです!」

提督「私だって軍人だ。それなりに鍛えている。それに大切な存在というのは阿武隈だって同じだ」

阿武隈「ふぇ!? ……そ、そうじゃなくて! えっと、てーとく、そんなこと言って怪我しているじゃないですか!」

提督「それは……今回は不覚を取っただけだ。次は上手くやる」

阿武隈「次って、また無茶するんですか? あんまり心配かけさせないでくださいよてーとく!」

提督「心配って……それはこっちのセリフだ。毎回、出撃の度に阿武隈達が無事に戻って来て欲しいとどれだけ思っているか」

阿武隈「それはあたし達を信頼してくださいよ! 提督が鍛えたみんななんですから!」

提督「いや私は大したことしてないだろう。艦隊がここまで育ったのは紛れもなくみんなの成果だ」

阿武隈「提督こそ自分を卑下しないでくださいよ。大したことないわけ、ないじゃないですか」

提督「私は思ったことをそのまま言ってるだけだが」

阿武隈「あたしだって……」

提督「……私達、なにをやってるんだろうな」

阿武隈「……ふふ、ですね」

電「なのです。電に言わせれもらえれば、どっちもどっちなのです」

提督「まったくな」

阿武隈「うう……電ちゃんに言い返せない」

提督「電だから仕方ない。この鎮守府については一番良く知っている子だからな」

阿武隈「えへへ。そうですね」

電「ふぇ!? も、もう二人ともからかないで欲しいのです!」

神通「やっぱり阿武隈は強いですね。とっさに港湾水鬼の攻撃から提督を庇い、攻撃に耐えた」

神通「身体面だけじゃない。その在り様も……私も負けてられません」ゴゴゴゴ

能代「あの……神通さん。角から顔出して覗き見しないでくださいよ。傍から見てると怪しすぎますって」

菊月「また一人。神通さんも、果て無き強さを求める修羅の道に身を投じたか」

長月「ふ……だがどんなに仲間が増えようと、私を凌駕(りょうが)する艦などいやしない」

睦月「にひひ、睦月には改装された主砲も魚雷もあるんだよ! 睦月を称えるが良いぞ!」

村雨「睦月ちゃん。村雨にも主砲も魚雷もあるんだよ!」

三日月「あの……みなさん。ちょっと恥ずかしいですよ。あまり大声は――」

白露「もー! だから白露が一番だって言ってるでしょーっ!?」

三日月「あっ、もう! 白露さんまで来てしまいました!」

深雪「おいおい、この深雪様を差し置いて、最強談義なんてして貰っちゃ困るぜ!」

三日月「更に増えた!? そ、そうです、ここは神通さんに助けを――」

神通「こんなに弟子候補が沢山……私、嬉しいです」

三日月「ええーっ!? どうしてそうなるんですか!?」

能代「神通さん、誰でも構わず弟子にしようとするのやめてください!」

神通「そ、そうよね……ごめんなさい」

能代「あ、いえ。分かってくださればいいんです。能代も強く言い過ぎました」

神通「まずは私の実力を見せないと、師匠なんて認めて貰えないですよね。ちゃんと本人の了解を得ないといけませんし」

能代「んんっ、違います! あれ……誰かの口癖がうつったような?」

島風「実力を見せるって、神通さんは私より速いの?」

能代「ちょっと、島風さんあおらないでくださいって」

神通「なるほど。では確かめてみますか? 神通、行きます!」

能代「どこへ!? というか今やるんですか!?」

白露「あ、能代さんかけっこ!? 負けないよ、だってあたしが一番なんだもん!」

菊月「速さを求める強者達の競争か。悪くない」

長月「久々に燃えてきたよ――我に続けぇ!」

島風「わあっ!? みんなでかけっこ? 楽しそう! 島風も混ぜてよー!」

能代「え……えっと。た、助けて阿賀野姉ーっ!?」

三日月「……ああ、もうどうしていいのやら」

阿賀野「ハッ!? きらりーん!」

矢矧「どうしたのよいきなり変な声出して」

阿賀野「能代が助けを求めているわ! 待っててね、今お姉ちゃんが助けに行くからね!」

矢矧「阿賀野姉さんどこへ!? ちょ、ちょっと!?」

阿賀野「阿賀野レーダー発動! 能代はこっちね!」(左へダッシュ!)

島風「いくら神通さんだって、速さでは私に勝てませんよ!」

神通「やりますね。でもかけっこだって負けません!」

白露「だーからー! 一番は譲れないってば!」

能代「いい加減にしてくださいよぉー!」(←阿賀野達の部屋の右側)

矢矧「……酒匂。早く来てちょうだい。私と能代だけじゃ阿賀野姉さんのツッコミ役はできないわ」



阿賀野「ふえーん、見つからないよー。能代どこー?」

山城「……あら?」

長門「やれやれ。騒がしいと思ったら」

長門「……ま、賑やかなのはいいことだな」

大和「ええ、本当に」

赤城「そうですね。平和でなによりです」しみじみ



三日月「遠くでしみじみと眺めてないで、助けてください!」

赤城「あら?」

長門「この長門! 本気を出せばそれなりに速いが、それでも島風達に追いつけると思うな!」

三日月「自信満々に敗北宣言しないでくださいよ!?」

大和「恥ずかしながら大和も……」

赤城「艦載機がないので……」

五十鈴「貴方達、さっきからなに騒いでいるのよ!?」

長門「来たぞ救世主だ!」

五十鈴「……は?」

三日月「五十鈴さん、あなたが私達の希望です!」

五十鈴「え、え?」

赤城「五十鈴さん……私達の思い、あなたに託します!」

五十鈴「何事!?」

――食堂にて。

吹雪「あ、司令官、阿武隈さん、電ちゃん。お疲れ様です!」

扶桑「みなさん。こんばんは」

提督「ああ。吹雪と扶桑か。こんな遅くにどうしたんだい?」

吹雪「はい! 扶桑さんとお話ししていたんです」

扶桑「ふふ。私なんかの話を楽しそうに聞いてくれて嬉しいわ」

吹雪「なに言ってるんですか。扶桑さんはきれいで、優しくて、いつも落ち着いていて、頼りになって――」

扶桑「提督達こそ、こんな時間にどうしたんですか?」

吹雪「そういえば、先ほど結構な騒ぎがありましたよね。なにがあったんです?」

電「それについては、後でみなさんに説明できると思うのです」

吹雪「そうですか……あっ、すみません用事の最中に。もしかして、これから夕食ですか?」

扶桑「……困ったわね。ご飯、まだなにか残っているかしら?」

阿武隈「うーん。提督、電ちゃん。余りものの材料さえあれば、あたしが何か作りますよ」

提督「いやいや、私がやろう」

電「電がやるのです」

阿武隈「いいのいいの。あたしが――」

磯風「話は聞かせてもらった! 師匠(阿武隈)の手を煩わせるまでもない。この磯風が三人の夜食を用意しよう」ドンッ!

磯風が現れた!

吹雪は逃げ出した!

扶桑は逃げ出した!

しかし回り込まれてしまった!

吹雪「そんなっ! ダメですぅっ!」

扶桑「今ほど速力が欲しいと思ったことはないわ……」

磯風「まあ待て。以前の磯風と同じと侮ってもらっては困る。師匠の適切な指導により、私の腕前は大きく改善された……はずだ」

吹雪「最後が果てしなく不安なんですけど!」

磯風「そこまで恐怖されると、さすがに落ち込むのだが。まあいい、なら実際に披露して認識を変えるまでだ」

電「磯風ちゃん、電も手伝うのです」

阿武隈「そうだよ、磯風ちゃん。あたしがやるって」

磯風「なに、気にすることはない。せっかくなんだ。二人は休んでてくれ」

スタスタスタ……

吹雪「大丈夫、なんでしょうか?」

阿武隈「大丈夫大丈夫。磯風ちゃん、しっかりしてるからね。ちゃんと手順教えれば、上達は早かったから」

扶桑「そう。なら逃げる必要なかったかしら」

提督「というか、あくまで私達の夜食なんだから吹雪達が逃げる必要なかっただろう」

吹雪「つい、うっかり、条件反射的に」

扶桑「固定観念って怖いわね、吹雪ちゃん」

阿武隈「あはは……ところでお二人は何の話をしていたんですか?」

吹雪「扶桑さんのお話ですよ!」

扶桑「ふふ。なんだか照れるわね」

吹雪「航空戦艦って憧れますよね。砲撃戦はもちろん、水上爆撃機運用もできるなんて。凄いですっ!」

扶桑「ちょ、ちょっと大げさではないかしら?」

吹雪「そんなことないです!」

阿武隈「吹雪ちゃんは、扶桑さんみたいになりたいの?」

吹雪「そうですね。なれたらいいかもしれませんけど、私は駆逐艦ですし……」

阿武隈「ううん。そんなことないよ。駆逐艦にしかできないこともあるんだから」

電「なのです」

扶桑「そうよ、吹雪ちゃん。憧れてくれるのは嬉しいけど、阿武隈さんの言う通り、駆逐艦にしかできないことがあるの」

扶桑「だから、あなたはあなたの役割を――」

吹雪「あ! でも、改装設計図でIF改装すれば私も航空戦艦になれるかも!」

扶桑「果たせばいいって……え?」

電「え?」

阿武隈「え?」

提督「え?」

吹雪「そうですよ! 阿武隈さんだって改装設計図使って、軽巡のようななにかになったんですし!」

阿武隈「あたしれっきとした軽巡洋艦なんですけどぉ!?」

提督「まあまあ、落ち着いて」

吹雪「それまでごく平凡の実力なのに燃費だけ悪くて、第一水雷戦隊旗艦(笑)と言われていた、阿武隈さんだって!」

阿武隈「吹雪ちゃん、誰がそんなこと言ってたのかなぁ? 先生怒らないから教えて欲しいな?」

吹雪「う、嘘です! そんなことだれも言ってませんって! 断じて、ええ!」

阿武隈「まあ、どうせあの夜戦バカだと思うけど」

吹雪「あっさりばれましたぁ!?」

阿武隈「いいのいいの、いつもの軽口で川内に悪気なんて全くないだろうし、あたしも夜戦バカとか言ってるからお相子だから」

吹雪「しかもあっけらかんとしてる!?」

電「やっぱり、阿武隈さんと川内さんは仲良しさんなのです」

扶桑「けど、吹雪ちゃんは戦艦に憧れているのね……」

阿武隈「戦艦に憧れていると言えば、清霜ちゃんが――」

清霜「そう! 駆逐艦だって改装を重ねれば戦艦になれる!」ひょこん

秋津洲with二式大艇ちゃん「吹雪さん、いったいなんの話してるの?」ひょこひょこん

阿武隈「あ、清霜ちゃん。秋津洲ちゃん。こんばんは」

電「二式大艇ちゃんも、こんばんはなのです」

二式大艇ちゃん(やぶんおそくにこんばんは)

吹雪「そうだよね清霜ちゃん! 駆逐艦だって戦艦になれるよね!」

清霜「その通りです吹雪さん! 清霜と一緒に戦艦を目指そう!」

扶桑「あの……吹雪ちゃん? 清霜ちゃん?」

提督「完全に意気投合しているな、二人とも」

吹雪「そう、私だってIF改装で航空戦艦に……!」ぽわー

吹雪改二 → ???
駆逐艦

この改装には「改装設計図」を2枚使用します。

必要な弾薬数 5000
必要な鋼材数 7000

ぴろりーん

吹雪改三「重雷装航空戦艦として生まれ変わった吹雪です! 私がみんなを守るんだから!」

白雪「吹雪ちゃんすごい! もっとよく見せてください!」

初雪「へぇ……これで私、サボれ……もとい、寝てていい?」

深雪「かっけー! さすが吹雪だな! さっそく一緒に出撃しよーぜ!」

叢雲「ふぅん。ま、やるじゃない。実戦でどうかは、これからお手並み拝見ね」

磯波「私もいつか吹雪ちゃんみたいになれるでしょうか……?」

吹雪「えへへ、みんな一気に来ても困るよお……吹雪お姉ちゃんは一人なんだから」ぽー

清霜「良く分からないけどかっこいい! 強そう!」

扶桑「重雷装航空戦艦!? いろいろとおかしいわよ吹雪ちゃん!」

秋津洲「重雷装航空戦艦……戦艦レ級……サーモン海域北方……かも」

提督「秋津洲、それ以上はいけない」

電「なのです」

吹雪「重雷装航空戦艦の私……」

吹雪改三「吹雪の立体的な航空戦艦砲雷撃戦、始めます! ふ、ぶきっ!」

吹雪改三「私がブキブキ言ったって、良いですよね?」



扶桑「吹雪ちゃん。それ違うわ」

吹雪「え? でも、瑞雲と砲撃を併用した……」

扶桑「吹雪ちゃんは航空戦艦になりたいんでしょう? それは航空巡洋艦よ」

吹雪「は、はあ……扶桑さんがなぜ航空巡洋艦と判断したのか良く分かりませんけど。もう一度イメージしてみます」



吹雪改三「瑞雲ってどうかな? 行ける?」

吹雪改三「艦載機を放って突撃。これですっ!」



扶桑「伊勢、日向には負けたくないの……!」

吹雪「扶桑さんどうしたんですか!?」

阿武隈「扶桑さん、どーどー」

清霜「吹雪さんに負けません! 清霜だっていつか戦艦に……」ぽわー

清霜改 → ???
駆逐艦

この改装には「改装設計図」を3枚使用します。

必要な弾薬数 8000
必要な鋼材数 10000

ぴろりーん

清霜改ニ「超大和型として改装された清霜です! ふっふーん。51cm連装砲よ。いいでしょ?」

吹雪「清霜ちゃん凄いですぅ!」

夕雲「あらあら。清霜ちゃんももう一人前ね」

武蔵「ふっ。清霜も大きくなったな。この武蔵、感無量だ!」

大和「清霜ちゃん、立派になりましたね。大和も負けてられませんね!」

扶桑「51cm連装砲!? 駆逐艦にまず載らないはずよ!?」

阿武隈「載ったとしても撃っただけで体が危険ですね」

吹雪「ええっ!? そんなぁ!」

提督「いやまあ、夢だし別に細かいことまでこだわる必要もないだろう」

清霜「夢じゃないもん! ちゃんとなれるもんっ!」

秋津洲「ふーん。秋津洲もIF改装ってできるかも?」ぽわー


秋津洲改 → ???
水上機母艦

この改装には「改装設計図」を4枚使用します。

必要な弾薬数 10000
必要な鋼材数 15000

ぴろりーん

秋津洲改二「飛行『飛行艇母艦』秋津洲――爆誕!」ブォンブォン

秋津洲改二「二式大艇改ちゃんを、秋津洲が超高空から操る。これつまり無敵かも!」ブォンブォン

二式大艇改ちゃん(いくぞー)

戦艦レ級「ナンテコッタ……アノタカサジャ、アイツニコウゲキデキネエ!」

空母ヲ級改flagship「コレデハ、アキツシマトヤラノ、ヤリタイホウダイダ!」

日向「やっと時代が秋津洲に追いついたのか」

秋津洲「自分で想像してなんだけど、これはないかも」

清霜「えー!? かっこいいのに」

吹雪「そうですよ、すごいじゃないですか!」

秋津洲「IFにも程があるし。大体、あたしよりも赤城さんや蒼龍さんを飛ばした方がよっぽど有意義かも」

吹雪「う、うーん」

清霜「じゃあ、戦艦になってから飛べるようになればいいんだ!」

提督「おう、清霜は発想がでかいなあ」

清霜「そう? そうよね! やっぱり夢はでっかく大戦艦だよね!」

提督「ああ、頑張れ。夢は大きい方がいいからな」

阿武隈「IF改装かぁ……」



阿武隈改二 → ???
軽巡洋艦

この改装には「書類一式」を使用します。

ちゃらららららーらーららー ららららーららー てれれてれれれれーれれれれれーれ

阿武隈(ウェディングドレス姿)「てーとく。貴方のお嫁さんに改装した阿武隈です……」

阿武隈(ってあたしはなにを考えてるのー!? うわぁ恥ずかしいよー!)

電「阿武隈さん、顔真っ赤ですよ?」

提督「どうした、阿武隈。どこか悪いのか?」

阿武隈「あたし的にはとってもOKです!」

提督「お、おう。そうか?」

阿武隈(だから、あたしは何言ってるのー!?)

扶桑「阿武隈ちゃん、疲れてるなら無理しちゃだめよ?」

阿武隈「いえ、大丈夫です、はい……」

磯風「待たせたなみんな! 磯風特製親子丼、完成だ!」

阿武隈「ふぇ!? お、親子!?」

磯風「どうした師匠?」

阿武隈「あ、ううん。思ったより早くてちょっとびっくりしただけだから」

磯風「あまり司令達を待たせるわけにはいかないしな。微力ながら、急いだぞ」

磯風「もっとも、料理である以上必要な手順を省くわけにもいかないから、あまり変わらないかもしれないがな」

電「磯風ちゃん、ありがとうなのです」

吹雪「わあ……本当においしそう」

清霜「清霜も食べたいなあ……けど夜遅くに食べると寝れなくなるし、夕雲姉さまに怒られるし」

秋津洲「うわぁー! おいしそう! けどあたしも、もう寝るからなぁ」

二式大艇ちゃん(むきぶつゆえ、ごはんをたべられませんので)

提督「すまないな。夜遅くに料理させて」

磯風「そんなに遠慮しなくていい。せっかく磨いた腕も、披露する機会がなければ意味がないのだからな」

阿武隈「でも、あたし達のために作ってくれて、うれしいな。ありがとうね」

磯風「阿武隈さんは、それこそ恩返しの一つと思ってくれればいいだろう」

阿武隈「え? そ、そうかな……うん。でもありがとうね」

磯風「むう。相変わらず、阿武隈さんは律儀だな……悪い気はしないが」

提督「磯風はあまり人のこと言えない気がするけどな」

扶桑「ふふ……提督の言う通りですね」

電「頂きます……はわわっ、おいしいのです」

阿武隈「うん。お腹空いてたから、ありがたいなあ」

提督「本当に良くなったな。ありがとうな磯風」

浜風「はぐもぐ、むぐ、むぐ――そうでしょう皆さん」キリッ

清霜「あれぇ!? 浜風さんいつの間に!?」

阿武隈「ほら、あんまりがっついて食べないの。いつも言ってるじゃない」

磯風「はは、浜風がいつの間にか私の料理を食べているのは、いつものことだ」

吹雪「いつものことなんですか!?」

磯風「最初は、私がお願いして味見係をしていてもらったのだが。気がつくとな」

磯風「そう慌てるな。ちゃんと浜風の分も最初から用意してある」

浜風「もぐ――磯風。また腕を上げましたね」

阿武隈「磯風ちゃん頑張ってたもんね」

磯風「経験を重ねることが上達の秘訣だ。そして師が良ければ、上達しないわけがない」

磯風「それに他の人にも習いに行ったりしたしな。例えば、秋津洲さんとか、電さんや川内さんとかにもな」

吹雪「え、そうなんですか?」

秋津洲「えへへ、あたし意外と料理やるんだー!」

電「電は少しお手伝いしただけですよ」

磯風「謙遜しなくていいぞ。そうだな……ならば、これからは電さんや秋津洲さんも師匠と呼ぶべきだな」

電「ええ!? 恥ずかしいのです!」

秋津洲「ちょっと秋津洲には合わないかも」

阿武隈「電ちゃん、それあたしも恥ずかしいってことになるじゃない!」

磯風「そんな師匠! 師匠を師匠と呼ばずして誰を師匠と呼べば良いのだ!?」

阿武隈「いや別に、誰も呼ばなくてもいいけど?」

磯風「ダメだ師匠! 師匠を師匠以外と呼ぶなんて、この磯風には耐えられない! どうかこのまま師匠と呼ばせてくれ師匠!」

提督「落ち着け。師匠という言葉が乱舞し過ぎて意味不明になってるぞ」

吹雪「いいじゃないですか師匠」

扶桑「そうね。素直に師匠と呼ばれておきなさい、師匠」

清霜「かっこいいじゃないですか師匠!」

浜風「ふむ……磯風の師匠なら、わが師も当然。この浜風も師匠と呼ばせてもらいましょう」

阿武隈「話をややこしくしないで!?」

電「ししょー? 阿武隈さんはししょーなのです……なのです」

阿武隈「大変、電ちゃんが混乱してるぅ!?」

提督「はは、大人気だな師匠。おーい、電しっかりしろ」

阿武隈「提督までー。ううー、みんなしてからかわないでくださいよぉ」

提督「はは、そう照れるな。師匠は半分冗談だが、それだけみんなに好かれているってことだ。いいことじゃないか」

阿武隈「ええっ!? そ、そんなことあるわけないじゃないですかぁ」

扶桑「あら、過度の謙遜は良くないわ、阿武隈さん。あなたはもっと自信を持つべきよ」

阿武隈「そ、そうでしょうか?」

扶桑「そうよ。少なくても磯風さんは本心から師匠と呼びたがっているんだから、ね」

秋津洲(つまり磯風さん以外は冗談だって言ってるかも)

磯風「その通りだ。不器用で失敗作ばかり作っていた私に、懇切丁寧(こんせつていねい)に教えてくれたのは、他でもない阿武隈さんなのだから」

浜風「阿武隈さんは忙しいのに、磯風のわがままに付き合ってくれました。感謝いたします」

阿武隈「いや、その……でも最初はあたしも軽い気持ちで、あまり熱入れて指導してなかったじゃない?」

阿武隈「だんだん指導に熱が入ったのは、磯風ちゃんが真剣だっただけだから。別にそこまで感謝されるようなことじゃないですから、ね?」

磯風「何を言うかと思えば。教わる側が、真剣に教えを請うのは当たり前だろう?」

阿武隈「……いや、そうでもない気がするわ、うん。教えようとしても、相手の子が遊んでたり、じっとしていなかったり。とにかく言うこと聞いてくれなかったり」

提督「あー、阿武隈。昔を思い出してブルーになるな」

扶桑「昔は、今より駆逐の子達が言うこと聞いてくれなかったりしたものね。阿武隈さんに限ったことではないけれど」

扶桑「私も……この鎮守府の人達はそんなことなかったけど。過去の大戦の時なんかは、欠陥戦艦なんて呼ばれたり……ふう」

扶桑「……空はこんなに青いのに」

吹雪「扶桑さん、しっかりしてください! 私は扶桑さんを尊敬していますから!」

秋津洲「そうだよ、吹雪さんの言う通りしっかりしてよね! あと今は夜かも!」

清霜「そうですよ扶桑さん! 扶桑さんも清霜の目標なんですから、いつものように凛としてください!」

扶桑「……そうね。ごめんなさい、みんな。つい愚痴(ぐち)を言ってしまったわね」

吹雪「だれだって愚痴を言いたくなる時くらいありますよ。私で良ければいつでも聞きますからね」

阿武隈「はい。あたしも付き合いますよ」

電「電もなのです」

扶桑「あら。ありがとう、みんな。こんなんじゃいけないわ。何かあったら、私の方も頼ってください」

吹雪「は、はい! ありがとうございます!」

清霜「えへへ。吹雪さん嬉しそう」

電「吹雪さん、良かったですね」

磯風「まあ……ともかく、私は阿武隈さんのおかげで料理が作れるようになった。だから阿武隈さんは私の師匠だ」

阿武隈「全く……強情なんだから」

磯風「阿武隈さんには言われたくないな」

阿武隈「ふふ。分かったわ磯風ちゃん……師匠として追い抜かれないようにしないとね。料理も戦闘もね」

磯風「ああ。いずれ追い抜いて見せる。待っててくれ」

阿武隈「ふふーん。そう簡単には追いつかれないんだから」

電「でも、阿武隈さんの一番弟子は電なのです」

磯風「なに、そうなのか? なるほど。これは私もますます気合いを入れて励まなければな」

阿武隈「え、いやいや。むしろ電ちゃんがあたしの師匠じゃないの」

電「そんなことないのです。阿武隈さんが電の師匠なのです」

吹雪「えっと……これ、どういうことなんです?」

提督「阿武隈が着任してからしばらく、電と阿武隈はお互いで色々と教えあってたんだよ」

吹雪「そうなんですか?」

提督「電はここの一番の古参。阿武隈は……来た当初はおどおどとしていたけど、歴戦の軽巡だ。お互い良い刺激になったみたいだな」

吹雪「なるほど……」

浜風「古来より、師匠の奥義を継ぐ弟子は一人と決まっています」

磯風「ならばこの磯風……姉弟子相手であろうと容赦せぬ」

電「え、えっと……負けないのです!」

秋津洲「むむ! これは強敵と書いて『とも』と呼ぶ熱い展開かも……!」

清霜「あ! 清霜、この前秋雲さんに貸してもらった漫画で見たよ! 実力の近い人同士が戦って、その中で成長して、友情が芽生える奴だよね!」

清霜「ずるいずるーい! 清霜も混ぜてよー! 電さんと磯風さんだけ戦艦になろうとするなんてずるいよー!」

吹雪「清霜ちゃんそれ本当ですか!? わ、私も混ぜてくださいっ!」

提督「はは、師匠の次はライバルか。阿武隈も大変だな」

阿武隈「ですね。まったくみんなしてもう」

阿武隈「……でも、悪くないかもしれません」

扶桑「ところで提督。阿武隈さんがみんなに好かれているって言ってましたけど」

提督「ああ。それがどうかしたか?」

扶桑「その中に提督も含まれているのですよね」

提督「……うん?」

阿武隈「ふぇ!?」

提督「いや、まあもちろんそうだが……なんで改めて?」

阿武隈「ふえぇぇぇ!?」

扶桑「ふふ、その好きはみんなと同じ好きかしら? それとも――」

阿武隈「ななななな、なに言ってるんですか扶桑さんーっ!?」

扶桑「あらあら、ちょっとお節介過ぎたかしら?」

阿武隈「お節介ってなんの話ですかっ!?」

扶桑「ごめんなさいね。でも、私は貴方と提督を応援しているわ」

阿武隈「応援って、あわわわわわ……」

吹雪「扶桑さん達はどんな話をしているんでしょう?」

清霜「んー? とりあえず戦艦とは関係なさそうだけど?」

秋津洲「二人にはまだ早いかも」

清霜「むぅ! なによ清霜もう大人だもん!」

磯風「なに、なるようになるさ。吹雪さん達は気にする必要はない」

浜風「もぐもぐもぐ……そうですね。あまり外野がどうこうする問題ではないかと」

電「浜風ちゃん、食べながら話すのは行儀が悪いですよ?」

浜風「……失礼しました」

磯風「まあ、私達は陰ながら応援していればいいさ」

浜風「そうですね」

清霜「応援!? 良く分からないけど、清霜に任せて!」

磯風「……え?」

清霜「フレー! フレー! 阿武隈さん! 頑張れ頑張れ阿武隈さん!」

阿武隈「……え?」

吹雪「清霜ちゃん、私も応援します! フレーフレー!」

浜風「阿武隈さん、ファイトです」

清霜「ファイオーファイオー! 阿武隈さんならできます!」

阿武隈「なにを!?」

扶桑「ふふ、提督も頑張ってください」

提督「いや待て。その前になにこの状況」

秋津洲「どうしてこうなったのか、理解不能かも」

磯風「違うぞ清霜、吹雪」

吹雪「え? なにか間違ってました?」

磯風「阿武隈さんは師匠、だろう?」

清霜「あっ! そうでしたね!」

阿武隈「指摘するのそこなのっ!?」

清霜「よーし、今度こそ!」

吹雪「フレーフレー師匠!」

清霜「頑張れ頑張れ師匠!」

浜風「師匠、師匠を信じています」

阿武隈「だから何を!?」

二式大艇ちゃん(みらいへはばたけ、ししょー!)

扶桑「あなたならやれるわ。師匠」

電「ししょー、ししょーがいっぱいなのです……阿武隈さんが一人、阿武隈さんが二人……」

秋津洲「電さんしっかりするかも!」

阿武隈「もー! 清霜ちゃんと吹雪ちゃんはともかく、他の人は遊んでるでしょ!?」

磯風「それは違うぞ師匠!」

電「なのです、ししょーはししょーなのです」ぐるぐる

阿武隈「電ちゃん目を覚まして!」

提督「電、しっかりするんだ」

島風「やった! ねえねえ、今のは島風が早かったよね!」バンッ

神通「その師匠待ってください!」バンッ!

阿武隈「島風ちゃん? それと神通!? って言ってる意味が分からない!」

秋津洲「その師匠待ってって、意味不明かも」

島風「えへへ、阿武隈さん、電さん、こんばんはー!」

神通「阿武隈ばかりずるい! 私だって師匠って呼ばれたいのに!」

阿武隈「どうしろって言うのよぉ!?」

神通「え? えっと……島風ちゃん、私の弟子になってくれませんか?」

島風「えー? 私より遅いから、神通さんは私の師匠にはなれませんよ? 島風より速くなってからね!」

神通「がーん!?」

阿武隈「……島風ちゃん、意外と辛辣」

電「なのです、なのです、すーぱーなのです……」

提督「いなづまー、目を覚ませ」

清霜「ね、清霜の応援良かったでしょ?」

吹雪「どうしましょう!? 私達のあまりの熱意に電さんが熱暴走しちゃいました!?」

秋津洲「絶対違うから」

神通「と、ともかく阿武隈! あなたには負けないから!」びしっ!

阿武隈「いきなりなに!?」

神通「だって阿武隈楽しそうだもの。私もたまには、思いっきりはしゃぎたい!」

阿武隈「はしゃげばいいんじゃないかな?」

神通「でも……あんまり阿武隈みたいにバカやってると、二水戦の子達に変な目で見られるかもしれないし」

阿武隈「OK、表出なさい」

神通「冗談だけど」

提督「神通は阿武隈相手だとはっちゃけるな」

浜風「阿武隈さんも、神通さん相手だと遠慮がありません」

吹雪「普段は二人とも、とても真面目な方ですもんね」

秋津洲「お互い素直に接しやすいのかも? 波長が合うのかな」

扶桑「川内さんと、那珂さんがなかなか個性的だから、神通さんも心労が溜まっているのかもしれないわね……」

秋津洲「もう、そんなので大丈夫なの? 三水戦と四水戦ってば」

提督「大丈夫だ。有事には二人ともとても頼りになるからな」

電「はい。川内さんと那珂さんはいざという時は凄いのです」

秋津洲「平時にも頼りにさせて欲しいかも」

神通「というわけで、阿武隈。私と勝負して」

阿武隈「……まあ、神通の頼みだし、いいけど。またなんで?」

神通「それは、磯風さんの師匠の座をかけて、よ」

磯風「なんだと!?」

浜風「ふむ。磯風、人気者ですね」

磯風「ちょっと待ってください! なんでそんな話になっているんですか!?」

神通「だって。私も阿武隈のように師匠って呼ばれたいですし」

磯風「いやいやいや。意味がまるで分かりません」

神通「だから、阿武隈。今度の演習で私と勝負して欲しいな」

磯風「……うん? なんでそうなるんですか?」

神通「え、どうして?」

阿武隈「神通、あたしが磯風ちゃんになに教えているか、知らないの?」

神通「……艦隊戦闘じゃないんですか?」

磯風「料理だ。いや、たしかに訓練でもお世話になっているが」

神通「料理? 本当に?」

阿武隈「嘘ついてどうするの」

神通「……それじゃあ私、師匠になれません」

阿武隈「そんなこと言われても!?」

島風「連装砲ちゃん。ほら、二式大艇ちゃんと遊んでていいよ」

連装砲ちゃん(きゃほー)

川内「なにやっているかと思えば……」

神通「あ、姉さん」

川内「あのさあ。もう少し静かにしようよ。いくら夜でもさ」

神通「あう」

全員(お前が言うなとつっこみたいけど、正論だから言い返せない……!)

秋津洲「『いくら』夜って言葉がおかしいかも……」

神通「ご、ごめんなさい。姉さん。これからは気を付けますね」

川内「あ、いいのいいの。私の方が普段うるさいかもだしね」

神通「それでね、頼みがあるんだけど」

川内「なに? 夜戦禁止ならお断りだよ」

神通「それもあるけど……そうじゃなくて。料理、教えてくれないかな?」

川内「料理? 急にどうしたの?」

神通「お願い姉さん! 料理で阿武隈に勝って、磯風さんを弟子にしたいの!」

川内「意味がまるで分からない!?」

阿武隈「まだ諦めてなかったんだ……神通、それじゃ理解できないって。えーと、つまりね」

川内「話は分かったし、教えてあげたいとは思うけど……私昼間寝てるしねえ」

阿武隈「そもそも昼間寝るんじゃないの」

川内「なんでよ? 昼起きてたら夜戦の時間に起きれないじゃない」

吹雪「訓練のとき、いつもいませんもんね……」

秋津洲「それ、いいの?」

提督「もう諦めた。川内にはもっぱら夜の警戒と、夜戦訓練の監督に当たってもらってる。適材適所だ」

扶桑「それがいいですね、提督」

電「川内さんも喜んでますし、夜間対応できる人も必要なのです」

二式大艇ちゃん(せんだいはねかせてきた。せいかつかいぜんはこころみたが、はっきりいってひるのくんれんにはついていけない)

吹雪(生活改善させようとしたのは、主に神通さんや阿武隈さんだと思うんだけどなあ)

阿武隈(本当に夜戦癖さえなければ、完璧な子なんだけど……)

島風「夜戦じゃなくて、かけっこだったら付き合うのにー。ね、阿武隈さん」

阿武隈「島風ちゃんはかけっこ好きだね」

秋津洲「でも夜中だよ、島風ちゃん。あたしは嫌かも」

清霜「夜はちゃんと寝ないと大きくなれないって、姉さん達に言われてますし」

阿武隈「うん。その通りだよ。夜ちゃんと寝ると、成長しやすいからね。清霜ちゃん偉い」

清霜「ふっふーん。清霜偉いでしょ? すぐ大きくなれるよね!」

提督「ああ、これからもしっかりしていればすぐだ」

川内「うーん。神通が夜中起きて、私に料理教わるとかは?」

神通「昼の活動に差し障ります」

川内「あーごめん、私には無理だよ」

阿武隈「はやっ!? ……やっぱり川内が昼起きるっていう発想はないんだ」

川内「そうだ、阿武隈に教わればいいじゃん」

阿武隈「あたし? まあ、神通がいいならいいけど」

神通「ちょ、ちょっと。倒そうとしている相手に教わるなんて」

秋津洲「倒そうとするのがおかしいかも」

提督「あれで真剣なんだろう。そう言ってやるな」

清霜「そうだ、師匠越えです!」

吹雪「師匠越え?」

清霜「そうですよ神通さん! これは最後に師匠を倒して、ワシを越えたとか師から認められるシチュエーションです!」

神通「えっと。どういうことでしょう?」

清霜「つまり、阿武隈さんに教わって、最終的に阿武隈さんを越えるんです! 王道です、王道!」

神通「おーどー?」

扶桑「王道……欠陥戦艦も主役で活躍できる。そんなシチュエーションもあるかしら」

吹雪「SN作戦でも大活躍だったじゃないですか、扶桑さん」

扶桑「……瑞雲じゃなくて観測機積んでたけど」

電「活躍できれば問題ないのです!」

吹雪「そうですよ!」

島風「かけっこなら私、みんなの師匠になれるのになあ。だって速いもん」

清霜「つまり、阿武隈さんに教われば、神通さんは急成長間違いないです!」

神通「……間違いなし? 阿武隈、私に料理教えて欲しいな」

阿武隈「切り替えはやっ!? ま、まあいいけどさ。磯風ちゃんと一緒に教えれば、あまり手間でもないし」

磯風「この磯風が、神通さんの姉弟子か。不思議な気持ちだな」

神通「よろしくお願いしますね、磯風さん」

電「でも清霜ちゃんの言う通りだと、いずれ阿武隈さんは乗り越えられるだけの運命なんですけど……」

提督「電。それはあくまで物語の中の出来事だ。現実にどうなるか分からないぞ」

神通「ふふっ。でも阿武隈と一緒に料理って楽しみかもしれない」

阿武隈「えへへ。あたしも、実はちょっと」

神通「よろしくね、阿武隈」

阿武隈「こっちこそ。ビシバシと厳しくいくからね」

提督「阿武隈が神通に厳しく? いや無理無理」

阿武隈「てーいとーくぅ?」

提督「あはは、冗談だ」

阿武隈「もう、酷いです!」ぷんすか!

神通「阿武隈、相変わらず締まらないね」

阿武隈「神通まで……むー!」

能代「……じーんつうさーん?」ゴゴゴゴゴ!

神通「……あ」

阿武隈「ちょっと神通。能代ちゃんすごく怒ってるけどなにやったのよ?」

神通「えっと。弟子を求めてみんなと追いかけっこしたら、それが大群になって、三日月ちゃんに助けを求められて」

神通「それから長門さんや五十鈴さんも巻き込んで、島風ちゃんに負けちゃって――」

阿武隈「意味が分からないってば!?」

能代「もー! 能代だってたまには怒りますからね!」

神通「そ、その……」

三日月「三日月もです!」

神通「え、えっと」

白露「あたしだって一番取れなかったこと、怒っちゃうんだから!」

神通「白露ちゃん、それは違うと思うの」

睦月「リベンジも再戦もあるんだよ!」

村雨「二回戦も敗者復活戦もあるんだよ!」

阿武隈「ないから、もう寝ないと駄目だから」

菊月「一度修羅の道に入ったからには、後戻りという選択肢は存在しない」

長月「私が頂点だと証明するまで、何度でも挑むまでだ」

阿武隈「はいはい、また明日ね。今日はもうお休み」

浜風「……神通さんも締まりませんでしたね」

磯風「楽しそうだし、いいんじゃないか?」

吹雪「あ、私そろそろ寝ないと……」

扶桑「そうね。私もそろそろ……」

秋津洲「あたしも寝よーっと」

電「おやすみなさいなのです……あれ?」

提督「……逃げられたな」

電「はわわ!?」

能代「神通さん、お説教です! 覚悟してください!」

神通「ご、ごめんなさいー!」

島風「電さん、阿武隈さん。私達もそろそろ行こうよ」

提督「……もう遅い時間だし、止めるか」

電「なのです」

阿武隈「こらー! あなた達もう寝なさーい!」

睦月「にゃしぃ!?」

村雨「は、はーい!」

川内「え、今から本番じゃん。なんで寝るの?」

阿武隈「そんなわけないでしょ!」

菊月「いやだ、負けっぱなしは嫌なんだ!」

長月「菊月の言う通りだ! 私だっていーやーだー!」

阿武隈「もー! お願いだから早く寝なさーいぃ!」

夕立「川内さん! 夜戦なら夕立も連れて行ってほしいっぽい! ぽい!」

川内「おっ、夕立話分かるじゃん! よっし行くぞっー!」

夕立「ぽーい! ぽーいっ!」

電「……混沌としているのです」

三日月「あーもう! 電さん、司令官も助けてくださいっー!」

阿武隈「疲れた……」

電「なのです……」

提督「本当にお疲れ様だったな……」

阿武隈「まあいいですけどね、別に」

深雪「よっーす、電!」

電「あ、深雪ちゃん」

深雪「深雪スペシャルーッ!」

電「わぷっ!? と、飛びつかないで欲しいのです!」

阿武隈「こらこら深雪ちゃん。元気なのはいいけど、あんまり危険なことはしないようにね」

深雪「へい大将!」

阿武隈「誰が大将ですか」

提督「あはは、今度は大将か。忙しいな」

阿武隈「なんなんでしょうね、一体」

深雪「いやー参った参った! 白露達思いっきり走っていきやがってよー! 途中で道間違えて置いてきぼりになっちまったよ」

電「深雪ちゃんも参加してたのですか?」

深雪「わりーわりー! 盛り上がってたからついな! 電も参加したかったか?」

電「え、遠慮しておくのです」

深雪「そっか。ところで吹雪見なかったか?」

阿武隈「吹雪ちゃん? 部屋に戻っていったはずだけど」

深雪「げっ、行き違いか? 仕方ねえな。引き返すか」

深雪「電ももう寝るんだろ? 途中まで一緒にいこーぜ」

電「あ、うん。ありがとうなのです」

深雪「よーし気合い入れて寝ようぜ!」

電「深雪ちゃんおかしなこと言ってるのです」

深雪「なんだよー、いいじゃんか。じゃお休みな! 司令官、阿武隈さん!」

阿武隈「うん。お休み、深雪ちゃん、電ちゃん」

提督「寒くなってきたから、風邪ひかないようにな」

電「大丈夫なのです。おやすみなさい、阿武隈さん。司令官」

阿武隈「……良かったね。電ちゃん」

提督「ああ。明るくなって、なによりだ」

阿武隈「うん。そういえば提督、腕大丈夫なんですか? いろいろ騒いだりしてますけど」

提督「固定しているからな。問題ない。不自由はあるが」

阿武隈「そうですよね……あの。しばらく、あたしがサポートしましょうか?」

提督「え? いやいや、大丈夫だ。心配いらないよ」

阿武隈「でも、片手使えないって大変じゃないですか?」

提督「工夫次第でどうにでもなる」

阿武隈「ならないこともありますよ。あたしじゃ、大したことはできないかもしれませんけど」

提督「本当に大丈夫だ。ただでさえ阿武隈に庇ってもらって、更にこれ以上迷惑かけられるか」

阿武隈「そんなの気にしないでくださいよ。とりあえずちょっとの間様子見て、手助けするだけなんですから」

提督「しかしだな」

阿武隈「もう、強情ですね。とりあえず明日の朝、提督の部屋まで様子見に行きますからね」

提督「いや阿武隈も結構強情だろう……」

阿武隈「聞こえませんよー」つーん

提督「全く、お人好しも大概にしておけよ」

阿武隈「提督ほどじゃありませんよーだ」

トコトコトコ……

阿武隈(うわー! あたしなに言っちゃっているのよー! 明日提督の部屋行くって言っちゃったよー!)

阿武隈(はわわわわ、ど、どうしよう……ってどうにもならないんだけど)

阿武隈「と、とりあえず落ち着いて……すーはー」

由良「……なにやってるの?」

阿武隈「きゃあ!? な、なんだ由良お姉ちゃんか……」

由良「なんだとは失礼よね。お疲れ阿武隈ちゃん」

阿武隈「ご、ごめん。お姉ちゃんもお疲れさま」

由良「阿武隈ちゃんほどじゃないわよ。本当にいつも大変ね」

阿武隈「まあ、あたしもいろいろ周りに助けてもらってばかりだから」

由良「また。そんなに謙遜するんじゃないの」ぺし

阿武隈「あたっ。むー」さすりさすり

由良「あら? 阿武隈ちゃん、お風呂まだのかしら?」

阿武隈「あ、うん。そうだけど?」

由良「由良もまだなの。そうだ! 久しぶりに一緒に入りましょ。ねっ?」

阿武隈「ふぇ?」

ザパーン

阿武隈「……あー、極楽」

由良「もう。阿武隈ちゃんったら年寄りくさいわよ?」

阿武隈「え、やだっ」

由良「いいんじゃない? 由良しかいないんだし」

由良「阿武隈ちゃんお風呂好きだものね。すごく頑張ってるんだから、たまには思いっきり気を抜かないと」

阿武隈「ふぁーい」

由良「そうね。髪洗ってあげよっか? ほら、こっち来て」

阿武隈「え? いいよ子供じゃないんだから」

由良「いーの。たまにはお姉ちゃんに可愛がらせなさい」

阿武隈「お姉ちゃんが構いたいだけじゃない」

由良「いいじゃない、やりたいんだもん」

阿武隈「はいはい。丁寧にお願いね」

由良「分かってるって。シャンプー、これでいいのよね」

パカッ。シャカシャカ

由良「痒い所ないかなー?」

阿武隈「ふふっ、なにそれ」

由良「やっぱり阿武隈ちゃん髪きれいよね」

阿武隈「そ、そう? そう言ってくれると嬉しいな。由良お姉ちゃんの髪もきれいだよね」

由良「ありがと。阿武隈ちゃん、髪頑張ってセットしてるもんね」

由良「やっぱり提督さんに褒めてもらったのが嬉しかったのかな?」

阿武隈「ふぇ!? なななな、なんでぇ!?」

由良「動揺し過ぎ。顔真っ赤よ」

阿武隈「これは、ちょっとのぼせちゃっただけなんだから!」

由良「まだ入ったばかりでしょ……違ったかしら」

阿武隈「……違わない」

由良「否定しないのね」

阿武隈「……この気持ちは否定したくないから」

由良「そっか。じゃあ提督さんにアタックしちゃえばいいじゃない」

阿武隈「できないよ、そんなの」

由良「自信ない?」

阿武隈「それは。それも少しあるけど……あたしは提督の部下で、艦娘で。水雷戦隊を任せられている、鎮守府の一人だよ?」

阿武隈「感情に任せて、自分だけ提督の特別になりたいなんて、勝手なことできるわけないじゃない」

由良「難しいこと考えてるのね」

阿武隈「難しいって……あたし真剣なんだけど」

由良「ごめんね。でも、ちょっと細かく考えすぎよ」

阿武隈「そんなことないと思うんだけど」

由良「他の鎮守府の話、たまに聞くでしょ? 艦娘さんと結婚している提督さんは他にもいるのよ」

阿武隈「それはそうだけど……」

由良「それに由良達は解体されれば、普通の人間になるんだから。元が艦の魂の由良達でもね」

由良「あなたが普通に幸せを求めることに、なんの厭(いと)いがあるのかしら?」

阿武隈「……でも」

由良「あと、阿武隈ちゃんが提督さんと恋人同士になって、鎮守府にマイナスになるとは限らないじゃない」

阿武隈「え?」

由良「阿武隈ちゃんは自覚してないかもしれないけど。阿武隈ちゃんはもう、この鎮守府の中核メンバーなのよ? 電ちゃん達のように」

由良「そんな阿武隈ちゃんが提督さんを支えて。提督さんが阿武隈ちゃんを支えて。一緒に協力しあえばいいんじゃないかな」

由良「ほら。鎮守府にとってもいいことじゃない」

阿武隈「ちょっと楽観的過ぎる気もするんだけど」

由良「あら。これは由良の本心よ。妹の幸せを願ってなにを悪いことがあるのかしら?」

阿武隈「ありがとう……って言っても、提督があたしを好きかはまた別問題なんだけどね」

由良「それは問題ないと思うけど」ぼそっ

阿武隈「……なにか言った?」

由良「なんでも。それはほら、阿武隈ちゃんが頑張って提督さんのハートを射止めるのよ」

由良「阿武隈ちゃんの美貌(びぼう)と料理の腕は、なんのためにあるのかしら?」

阿武隈「美貌って……あのねえ。それにあたしは別にそのためだけに料理の腕磨いたわけじゃないんですけど」

由良「そうだけど。まず胃袋を掴むのは男の人にとって、非常に有効よ」

阿武隈「お姉ちゃん、そんなアドバイスどこから仕入れてきたの?」

由良「如月ちゃん」

阿武隈「……ちょっと如月ちゃんが心配になってきたよ」

由良「それに、阿武隈ちゃんもずいぶん成長したわね」

阿武隈「え……ちょっ、どこ見て言ってるのぉ!?」

由良「厚手の服の上から見て分かるから、もしやと思ったけど……やっぱりね。お姉ちゃんも嬉しいわ」

阿武隈「な、な、な……」

由良「それで提督さんを誘惑しちゃえばいいじゃない。今の阿武隈ちゃんなら提督さんも、きっとイチコロね」

阿武隈「ゆ、ゆ、由良お姉ちゃんのばかぁーっ!」

由良「……はあ」

鬼怒「どうしたの由良お姉ちゃん? そんなに落ち込んで」

由良「阿武隈ちゃんをからかい過ぎたわ……すねちゃった」

長良「なにやったのよ一体」

提督(……早急に対策が必要な問題はないな。たが細々としたものはそれなりにある)

提督(すべては無理だが、優先順位をつけて置いて順番に片づけて行かねば)

蒼龍「提督、まだ起きているんですか?」

提督「蒼龍か? 入ってもいいよ」

蒼龍「失礼します……資料の別室への移動、無事完了しました。執務室が直るまではそこで執務を執り行えるかと」

提督「そうか。明日で構わなかったんだぞ? でも、ありがとう」

蒼龍「いえ。明日以降に差し障りがあってもいけませんしね」

提督「……大丈夫か? 最近やけに訓練に熱を入れているようだが」

蒼龍「え? いえ、別にそんなことは」

提督「大鳳が心配していた。蒼龍さんが無理しているのではないかと」

蒼龍「大鳳が?」

提督「訓練熱心なのは歓迎することだ。けどオーバーワークは良くないね」

提督「それで体を壊してしまっては、元も子もない。あまり蒼龍の熱意に水を差すようなことは、言いたくないけど」

蒼龍「これでも、前線で戦い続けた身ですよ。自己管理は提督よりもずっとできています」

提督「そのベテランであるはずの蒼龍が、最近訓練量が以前より多くなってきているのはどういうことだい」

提督「蒼龍の後輩として長い、大鳳が心配する程度にはね」

蒼龍「……む」

提督「すまない。問い詰めるようなつもりはないんだ。ただ、あまり大鳳やみんなに心配をかけさせないでくれ」

蒼龍「はあ……まったく大鳳ってば。はいはい、降参です」

提督「なにがあったんだ? 無理にとは言わないが、できれば話してほしい」

蒼龍「ふう。焦り、でしょうかね」

蒼龍「最近、飛龍や五航戦に置いて行かれてる気がするんです」

提督「飛龍や五航戦と……?」

蒼龍「……私は、この鎮守府に赤城さんとほぼ同時期に着任しました」

蒼龍「この鎮守府の黎明期(れいめいき)、私は赤城さんと共に、最前線で戦ってきました」

蒼龍「自惚れていいのなら、それなりに鎮守府の発展と、深海棲艦からの制海権奪還に貢献してきたと思っています」

蒼龍「もちろん私一人の力などとは、全く思っていませんが」

提督「自惚れでもなんでもないな。蒼龍の力がなければ、今の鎮守府はない。本当に感謝しているよ」

蒼龍「ありがとうございます。けど……今は」

提督「ちょっと待て。蒼龍は今でも最前線で活躍しているじゃないか。現にSN作戦でも――」

蒼龍「いえ。私は飛龍はもちろん。大鳳と比べても戦果については、劣っているでしょう」

蒼龍「このままでは、私は――大鳳や雲龍達の先輩として、相応しくなくなってしまいます」

提督「なにを言っているんだ。たった一つの戦闘で優劣を語るな。私が見た限りでは蒼龍と飛龍の間に差なんてない」

提督「それに日々の記録に於いても、そこまで有意の差は――」

提督「いや、航空機運用や空母については所詮かじった程度。専門家の蒼龍にしか分からないこともある、か」

蒼龍「そりゃ、なんでもかんでも専門家になるのは無理ですよ。全てを完璧に修めようなどというのは傲慢(ごうまん)です」

提督「そんなつもりはなかったんだが」

提督「しかし。それは蒼龍も同じだろう」

蒼龍「え?」

提督「とある分野において飛龍に負けた――私はそうは思わないが、少なくとも蒼龍はそう感じた」

提督「この際、どこで負けたか、それが一つか二つか、それは置いておく。そこまではいいか?」

蒼龍「……はあ」

提督「だが、蒼龍にも飛龍達に勝るところはあるだろう?」

蒼龍「いや、だからそれがないから私は――」

提督「ある。一つはまさに、さっき蒼龍が言ったことだ」

蒼龍「……はい?」

提督「言ったじゃないか。初期からこの鎮守府の発展に貢献してきたと。それは紛れもない、蒼龍の功績だ」

蒼龍「そ、そんなの昔のことじゃないですか」

提督「功績に昔も最近もないよ。いつかなんて関係ない。それにこれは、蒼龍だけじゃない」

提督「まだ、みんながほとんどいなかった頃」

提督「電や神通達。他にも鎮守府の職員や妖精さん達。鎮守府の周りの人々や、演習に付き合ってくれた他の鎮守府」

提督「みんなが、ほとんどなにもないところから築き上げた功績だ。それはどうでも良いように言ってくれるな」

蒼龍「……そうか。はい、そうですね」

提督「それと。あまり詳しくない私でも、蒼龍の艦爆隊は随一だと言うことは分かるぞ」

提督「あまり卑下するようなことはしないでくれ。貴方は大鳳や雲龍達の目標の一人で――」

提督「過去、そして現代で勇敢に戦っている人なのだから」

蒼龍「いやいや、それは持ち上げすぎですよ。あはは」

提督「うん。蒼龍は少しぼんやりとしてるくらいで丁度いい」

蒼龍「なんですかそれ! もう!」

蒼龍「全くもう、失礼しちゃうなあ……ありがとうございますね提督」

提督「礼なら大鳳に言ってくれ。私は大したことはしていない」

蒼龍「あれ? 先ほど自分を卑下するなと言ったのはどちらでしたっけ?」

提督「む……」

蒼龍「それと、右手にヒビ入れたその日に、夜更かしまでして仕事しないでください。無茶は提督もです」

提督「むむ……」

蒼龍「あんまり上が忙しいばっかだと、みんなも気を使っちゃいますよ。もっと提督は余裕を持つべきです」

蒼龍「忙しくするばかりが良いとは限りません。上が余裕を持たないと、大局が見えなくなりますよ」

提督「むむむ……」

蒼龍「そもそも――」

提督「分かった分かった! 降参だ」

蒼龍「はい。分かりました……ふふっ」

蒼龍「しかし……汚い字ですね」

提督「仕方ないだろう。利き手じゃない方で書いているんだから」

蒼龍「うわあ、なにやってるんですか提督」

提督「これでも最低限見えるようにしているのだが……」

蒼龍「いや、ダメでしょう」

提督「いやいや、外に出すような文書には手を付けてないぞ」

蒼龍「そうですか。それなら……いや、やっぱダメでしょう」

提督「む……しかしどうするか。阿武隈が手伝ってくれるとか言っていたが、さすがに代筆してもらうわけにもいかないだろうし」

蒼龍「阿武隈さんが? 提督、急に字が丁寧になりましたねとか言われそうですねえ」

提督「あまりからかわないでくれ」

蒼龍「それはともかく。提督はなにか悩みとかないんですか?」

提督「なんだ急に? ……というか、もう休まなくて大丈夫なのか?」

蒼龍「目が冴えてしまいましたよ。せっかくですから、お説教のお駄賃として聞かせてください」

提督「悩みか。あるにはあるが、蒼龍に話すようなことでは――」

蒼龍「え、なんですか?」

提督「いや、だから話すようなことじゃない」

蒼龍「私の悩みは提督が無理やり話させたんですから、提督も話さないと不公平じゃないですか」

提督「不公平ってなんだそれは」

蒼龍「ほらほら、話せば楽になりますよ。大丈夫ですって、大抵のことなら聞いてあげますよ」

提督「しかしだな」

蒼龍「話すまで寝かせませんよ」

提督「……楽しんでないか?」

蒼龍「いやまさか」

提督「話さないと解放されそうにないな……ないって言っておけば良かったか」

蒼龍「それは反則じゃないですか」

提督「……引くなよ? あと口外するなよ?」

蒼龍「なんですかそれ? 引きませんし、口外なんてしませんって。江草隊に誓いますよ」

提督「……とある人に好意を抱いてしまった」

蒼龍「……は?」

提督「ちなみにここで言う好意とは友愛のそれではなく、恋愛感情の方だ」

蒼龍「いえ別に補足しなくてもいいですから」

蒼龍(あれー? 恋愛相談? 鎮守府とか戦況とか、みんなのことじゃなくて?)

蒼龍(真面目一辺倒の提督にしては意外……というか、そもそも相談する相手を間違えていますって)

蒼龍(だって私、前世は艦で、生まれ変わってからまだ数年しか経ってないし。恋愛とかしたことないし)

蒼龍(って無理やり聞き出したの私だった……あれ? そもそも艦娘はほとんど恋愛未経験なんじゃ。いや、だからって私にお鉢回されても)

提督「だから引くなと言っただろう」

蒼龍「いやいや引いてませんって。で、お相手は誰なんですか」

提督「言えるか」

蒼龍「ヒント! ヒントだけでも!」

提督「ヒントってなんだ」

蒼龍「えー、いいじゃないですか。この鎮守府の誰かだとしても、艦娘だけでも150はいるのに、職員とか考えたら分かりませんって」

蒼龍(というか相手でも分からないと、私にはアドバイスのしようがないです)

提督「そうだな。一つだけ言うなら……5500トン軽巡の末っ子だと言っておこう」

蒼龍「ほとんど答えじゃないですかー! でも、阿武隈さんかぁ。良い子ですもんね」

提督「……なぜ、分かった」

蒼龍「むしろ三人まで絞られて、なんで分からないと思ったんですか」

提督「むう……そうか。もしかしたら、私は蒼龍に話を聞いてもらいたかったのかもしれないな」

蒼龍「え?」

提督「いや、よくよく考えてみれば、相談相手としてありがたいんだよ」

提督「民間の友人にはおいそれと鎮守府のことを話せないし、まさか他の鎮守府の提督の方々に話すわけにもいくまい」

提督「鎮守府内にしたって、一応トップということになるからな。軽々と他の人に相談するわけにもいかないだろう」

蒼龍「は、はあ……」

提督「いや、本当に蒼龍が話を聞いてくれてありがたいよ」

蒼龍「いえ。そんな気にしないでください」

蒼龍(どうしよう。恋愛相談なんて私には無理ですとか言い辛くなっちゃった)

提督「だが……どうしたものだろうな。やはり仮にも鎮守府を預かる提督が、一個人に想いを寄せるというのは好ましくないだろう」

蒼龍「うーん……そうでしょうか?」

提督「やはりこの想いは胸に秘めておくべきだろうか……」

蒼龍「提督……」

蒼龍(提督、悲しそう。口ではそう言ってるけど、そう簡単に好意をしまっておくなんてできないでしょうに)

蒼龍(いつか変な形で爆発したり、逆に抑え過ぎて無理がでないとも限りませんよ)

蒼龍(提督だからって、自分まで犠牲にする必要なんてあるんですか?)

蒼龍(けど、表に出すのも提督の言う通り問題……あれ?)

蒼龍(たしか鎮守府内の恋愛や結婚を禁止、ないし制限するような規則も、暗黙の了解もなかったよね?)

蒼龍(ていうか。この前近くの鎮守府でその鎮守府の提督と結婚したとか、ハガキ来ましたね)

提督「……蒼龍?」

蒼龍(えっと。提督と阿武隈さんが恋仲になったとして。提督は……おそらく無理や無茶を控えるはず)

蒼龍(提督なら阿武隈さんをないがしろにしないだろうし。きっとお互いの時間を増やすでしょ)

蒼龍(精神的にも良い影響があるかもしれない。落ち着きや余裕もついてくるかもしれませんね)

蒼龍(提督や阿武隈さんの調子が良くなれば、鎮守府内にも良い影響があるかもしれない)

提督「おーい、蒼龍どうした?」

蒼龍(もし提督と阿武隈さんが結婚とかなったら……うん、いいじゃない! きっと鎮守府も活気づくわ!)

蒼龍(……ってさすがに、はやり過ぎか。でも、いいですね! むしろ何の問題もないありません! 良いことだらけじゃないですか)

蒼龍「なに臆病なこと言っているんですか提督!」ダンッ

提督「……は?」

蒼龍「問題? どこに問題があるんです? 提督と艦娘の恋愛や婚姻を禁止するような規則がありますか?」

蒼龍「むしろ大本営から書類一式やら、ケッコンカッコカリやらやって来るぐらいじゃないですか。むしろ積極的に攻めるべきです」

蒼龍(恋愛経験がない? なに臆しているのよ蒼龍。そんなの関係ない)

蒼龍(今までの恩を返すべく、提督を自分の持てる全力でサポートするべきじゃないの!)

蒼龍(そしてこの場に私しかいない。他の人に頼れない。なら私がやるしかないじゃない!)

提督「いや、しかし一人だけ特別扱いするのはやはり――」

蒼龍「全員を、全く偏りなく秘書艦にしたり、旗艦にする鎮守府などありません!」

提督「なっ!? いやそういう問題なのか!?」

蒼龍「そういう問題です! 提督が阿武隈さんと付き合おうと結婚しようと、節度と常識と良識さえあれば問題ありません!」

提督「えーと。蒼龍、なにがあったんだ?」

蒼龍「ただ私は提督と阿武隈さんを全力でサポートすると決めたまでですよ!」

蒼龍「ときに提督。提督は本当にそのままでいいんですか?」

提督「……このままでいいか、だって?」

蒼龍「阿武隈さんが他の誰かに取られちゃうかも、ということですよ」

提督「っ!?」

蒼龍「頑張り屋さんですし、優しいし。駆逐の子達の面倒もよく見てますし。加えて料理上手ですしね」

蒼龍「そして国を深海棲艦から護る艦娘となったら、お相手には困らないでしょうね」

蒼龍「きっと阿武隈さんがその気になれば、引く手数多だろうなー」(棒読み)

提督「……阿武隈が、他の誰かと」

蒼龍「嫌ですよね? だったら行動あるのみです!」

蒼龍「なに臆しているんですか提督! 深海棲艦からこの国を護るため、常に闘志を燃やしているあなたはどこに行ったのです!?」

提督「え、なんかそれ違うような――」

蒼龍「ごちゃごちゃ言ってる暇はありません!」ドンッ

提督(あれ? 私が間違っているのか?)

蒼龍「いいですか? 今の提督に足りないのは積極性です! なんとしても意中の人を射止めようとする気概です!」

蒼龍「今ここで敵空母を仕留めなければ、味方の艦隊が全滅するという心で挑んでください! いいですね! はい返事!」

提督「はい! ……はい?」

蒼龍「声が小さいです! もし問題があっても、そんな問題二人で乗り越えちゃえばいいんです! なんのための提督と水雷戦隊旗艦ですか!」

提督「いや少なくとも恋愛のためじゃないと思う」

蒼龍「気の弱いことを言わない! あなたも鎮守府のトップならここにいる艦娘は、全員俺のものだみたいな肉食性を発揮するべきです!」

提督「そんな提督がいてたまるか!?」

蒼龍「それはさすがに大げさですが、それくらいの気概で阿武隈さんにアピールするべきということです」

蒼龍「よほど好みじゃないとかでなければ、好意を寄せられれば、多かれ少なかれ嬉しいものです」

提督「分かったような分からないような」

蒼龍「今は分からなくてもいいです。ともかく訓練あるのみ」

蒼龍「さあ、この阿武隈さんの写真に向かって、提督のありのままの気持ちを伝えてください!」

提督「ちょっと待て。なんでそんな写真を持ってる?」

蒼龍「如何わしい写真ならともかく、ただの集合写真の切り抜きごときで臆さないでください!」

蒼龍「そんなんで本人の前でどうするんですか!?」

蒼龍「あ、ちなみにこれ鎮守府内の広報誌で使うものです。別に不正な手段で手に入れたわけじゃないですよ」

提督「ならいいが……え、ここで?」

蒼龍「なにか問題でも?」

提督「蒼龍がいる目の前で阿武隈への好意を伝えるとか、どんな辱めだ」

蒼龍「この鎮守府内で、そうそう二人きりになれるチャンスがあると思ったら大間違いです!」

提督「いやその通りではあるが」

蒼龍「煮え切りませんね。もう少しギャラリーを増やしますか」

提督「いや何をするつもりだ、こんな時間に人呼ぶ気なのか?」

蒼龍「問題ありません。江草妖精さんに連装砲ちゃんや、長10cm砲ちゃんを呼んでもらいます」

提督「江草妖精さんをそんなことに使うな!?」

連装砲ちゃん(よんだ?)

連装砲くん(やれやれ、こんなじかんになんのようだ)

長10cm砲ちゃん(おとまりかい? やふー!)

提督「本当に呼びやがった!?」

蒼龍「さあ、訓練はまだまだこれからですよ!」

提督「……あのな、蒼龍。もうかなり遅い時間だし」

蒼龍「提督の阿武隈さんへの想いはその程度ですか?」

提督「……なに?」

蒼龍「阿武隈さんへの想いは、その程度かと言ったのです」

提督「……いいだろう。とことんやってやるよ!」

蒼龍「良い顔になりましたね。さあ、行きますよ!」

提督「おうともよ!」

連装砲ちゃん(なにするの?)

連装砲くん(しゃーない、つきあってやんよ)

長10cm砲ちゃん(わふー! よーふー! ちゅうかふー!)



青葉「……青葉、何も見ませんでした」

ナカマゴロシ。

ミカタヲシズメタモノガ、テキヲスクイタイ。ワラワセル。

ギゼンシャモ、ソコマデクルトドウゲダナ。

――違う。

ソレガホンシンナノダロウ? シズンダホウガワルイ、ジブンハワルクナイ。

キサマガコロシタモノニ、ミズカラノツミヲナスリツケ……ラクニナル。

ドコマデモミニクイ、リコシュギシャ……ソレガホントウノオマエダ。

――違う。

ホウ? イマ、オマエハチガウトイッタ……バカリデハナイカ。

ホントウニ……ワルイトオモッテイルノナラ、ナゼタタカイヲコバム?

イノチヲナゲウッテデモ、ヒトリデモ……オオクテキヲミチズレニスル。

ソレガミユキニタイスル、ユイイツノツミホロボシデハナイカ。

――違うのです!



アサダヨ、イナヅマオキルンダ。
アサダヨ、イナヅマオキルンダ。
アサダヨ、イナヅマオキルンダ。

電「朝なのです!」ガバッ!

電「……あれ? 夢、だったのです?」

響「朝だよ、電起きるんだ。朝だよ、電起きるんだ。朝だよ、電起きるんだ」

電「……響ちゃん、なにしているのです?」

響「朝だよ、電起きるんだ。朝だよ、電起きるんだ。朝だよ、電起きるんだ」

電「……あの、響ちゃん?」

響「朝だよ、電起きるんだ。朝だよ、電起きるんだ。朝だよ、電起きるんだ」

暁「うるさいわよ響! なにやってんの!」ぺしっ

響「おはよう、今日も良い朝だね」

電「おはようなのです」

響「目覚まし響だよ。爽やかな朝の目覚めを提供するよ」

暁「今日は目覚まし時計の真似なのね……本当に変なことばかりするんだから」

響「電がなかなか頭のスイッチ押してくれないから、アラームをやめるにやめれなかったよ」

電「理不尽なのです!?」

雷「もう、響ったら朝から楽しそうね。羨ましいわ」

響「明日も、目覚まし響が電を起こすよ」

暁「どうせ二、三日で飽きて別のことを始めるくせに」

電「……あの、響ちゃん?」

響「なんだい?」

電「ありがとう」

響「……大したことは、なにもしてないよ」

阿武隈「……き、来ちゃいました」

阿武隈(だ、大丈夫大丈夫。腕を怪我してる提督の様子を見て、なにかあればちょっと手助けするだけ)

阿武隈(やましいことなんて、なにもないんだから)

阿武隈「て、提督ー。起きてます?」コンコン

シーン――

阿武隈「提督ぅ? 入りますよー?」

阿武隈「し、失礼しまーす……」

阿武隈(あ。まだ提督寝てるんだ。昨日遅かったもんね)

阿武隈(今は、えっと六時かぁ。まだ寝かせておいた方が良いのかな)

阿武隈(あ、ダメだ。今日は午前に訓練があるからその準備をしないと……別に提督がいなくても大丈夫とは言えば大丈夫なんだけど)

阿武隈(提督ってばみんなの様子を確認するために、まず見に来るから。よし、起こそう)

阿武隈「提督。朝ですよ。起きてください」

ゆさゆさ……

阿武隈「提督、起きてくださいって」

?(……)モゾモゾ

阿武隈「……あれ? 布団の中に提督以外に誰かいる……ってええええ!?」

阿武隈「て、提督にそんな人が!?」

連装砲ちゃん(おっは)ひょこ

阿武隈「……ふ、ふふ。由良お姉ちゃん。阿武隈はとんだピエロでした。てーとくに既に添い寝してくれるような恋人がいるとは知らず」

連装砲ちゃん(……あれ? あぶくまさーん?)

阿武隈「あたしの助けを拒むのも当然よね。ちゃんと困ったとき手助けしてくれる人がいるんだもの……あたしはただのお邪魔虫さんだったの」

連装砲ちゃん(おーい)

阿武隈「ごめんなさい、提督。恋人さんと幸せに――」

連装砲ちゃん(ひとのはなしをきけー!)

阿武隈「ひゃあ!? あ、あれ連装砲ちゃんどうしてここに?」

連装砲ちゃん(ていとくといっしょにねてたの)

阿武隈「……え? そ、そうなの? な、なんだあはは」

連装砲ちゃん(……? どうしたの?)

阿武隈「もしかしなくても、あたしってバカ?」

連装砲ちゃん(よくわからないけど、がんば)

阿武隈「う、うん。ありがとうね。それとごめんね」

阿武隈「ともかく提督を起こさないと。提督、早く起きてくださいよ」

連装砲ちゃん(おきてー)

阿武隈「ほら、提督ってば。起きてください」

提督「……あぶくま?」

阿武隈「あ、起きましたね提督」

提督「……阿武隈がなんで……ゆめ?」

阿武隈「もう。寝ぼけているんですか、提督?」

提督「阿武隈の声は……優しくて心地いいな。笑った顔も、暖かくて……きれいだ」

阿武隈「……ふぇ?」

提督「……幸せな夢だ」

阿武隈「……あう」

連装砲ちゃん(どーしたの?)

阿武隈「てーとくが、きれいって。誰を……あたしを?」ぼー

連装砲ちゃん(あぶくまさーん? さっきからへんですよ?)

阿武隈「……てーとく? てーとくってば?」

阿武隈「もう一度、言ってくれませんか? あたし、ぼーっとしちゃって良く聞こえませんでした」

阿武隈「提督? 起きてくださいよ」

連装砲ちゃん(ていとくをおこしたいの?)

阿武隈「うん。どうしたら起きてくれるかな」

連装砲ちゃん(うーん。しまかぜちゃんのほんでみたよ。こういうとき、きすをすればいいって)

阿武隈「キス……? キスをしたら、てーとく起きてくれる?」

連装砲ちゃん(ほんのとおりなら)

阿武隈「そっか……」

連装砲ちゃん(あ。きすをするのは、おうじさまのほうだったっけ)

いつからだろう。この気持ちが芽生えたのは。

最初は、真面目な人だなって思っていたかな。

少し接していくうちに、優しい人だなって思うようになって。

弱気で、引っ込み思案で。駆逐の子達を上手く統率できないあたしを、提督は一生懸命励まして、指導してくれた。

次第に、提督のことを考えている時間が増えていることに気づいたんです。

提督のことを見ていると、意外と天然だったり、子供っぽいところもあって、少し親近感が湧きました。

けど、それ以上に優しくて。みんなのために一生懸命で。

そんな提督の期待に応えたいって。提督の力になりたいって思ったんです。

鎮守府のみんなは、大体の人は提督に多かれ少なかれ、提督を信頼してる。

あたしだってそう。

……けど、なんでだろう。

蒼龍さんや初霜ちゃんとか、みんなが提督に向ける想いと、あたしが向ける想いは違う気がする。

もっと、提督に笑っていて欲しい。声をかけて欲しい。頼って欲しい。頼りたい。

――提督の、特別な人になりたい。

ああ、そうだ。あたし、提督が好きなんだ。

理解した時には、もうその気持ちはとても大きくて。

提督のちょっとしたことで、すごく嬉しくなったと思えば……すごく悲しくなったり、苦しくなったり。

初めての自分の感情に、振り回されて。こんなんじゃダメだって、一生懸命抑えていたのに。

――そんな阿武隈ちゃんが提督さんを支えて。提督さんが阿武隈ちゃんを支えて。一緒に協力しあえばいいんじゃないかな。

――ほら。鎮守府にとってもいいことじゃない。

――阿武隈の声は……優しくて心地いいな。笑った顔も、暖かくて……きれいだ。


そんな言葉掛けられたら……もう抑えきれなくなっちゃうじゃないですか。

阿武隈「てーとく? 早く起きないと、キス、しちゃいますからね。言いたいことだけ言って、起きない提督が悪いんですからね……」

連装砲ちゃん(あれ? あぶくまさーん? きょうのあぶくまさん、へん)

阿武隈「…………」

阿武隈「あう……だ、ダメだよね。てーとくが寝ているときにするなんて。お、起きてからじゃないと」

阿武隈(って起きてたらするつもりだったのあたし!? だ、ダメです。完全に舞い上がってますぅ!?)

連装砲くん(……)ひょこん

長10cm砲ちゃん(……?)ひょこん

阿武隈「……? ふぇ?」

連装砲くん(なに、なにしてんの? ねぇなにしてんの? なに、なに、なに、ねぇ?)

長10cm砲ちゃん(ご~ぜ~ん~ろくじでーす)

阿武隈「ふ、ふえええええぇ!」

連装砲ちゃん(あ、ふたりともおはよー)

提督「はっ!? なんだこの声は!?」

阿武隈「きゃあ!? ……提督?」

提督「阿武隈? どうして私の部屋に……あれ? さっきの夢は?」

連装砲ちゃん(ゆめ? さっきからあぶくまさんいたけど?)

提督「え? つまり……夢じゃない?」

阿武隈「……きゅう」

提督「あ、阿武隈しっかりしろー!」

連装砲ちゃん(なにがあった)

長10cm砲ちゃん(えーせーへーえーせーへー!)

連装砲くん(とりあえず、あぶくまさんをかいほうしてやるんだ!)

提督「わ、分かった! と、とりあえず布団に寝かせて――って右手固定してたか。連装砲ちゃん達、手伝ってくれ!」

長10cm砲ちゃん(らじゃー!)

ドタドタドタ! ガチャ!

島風「もー連装砲ちゃんってば、ここにいたのー?」

天津風「あたしの連装砲くんも! 提督に懐くのはいいけど勝手に部屋から抜けださないでよね!」

照月「提督、ごめんなさい長10cm砲ちゃんが勝手に――え?」

提督「……え?」(←提督の布団に、阿武隈を運んだまさにそのとき)

照月「……はい?」

島風「……おう?」

天津風「……ごゆっくり」

パタン

島風「天津風ちゃん、提督と阿武隈さんどうしたの?」

照月「照月も分かりませんけど。それより長10cm砲ちゃん達連れ帰らないと――」

天津風「いいのよ。後で来れば。今二人は、愛を育みながら新たな生命を授かるための儀式をしているの。邪魔しちゃいけないわ」

連装砲ちゃん(……しまかぜちゃんどうしたのかな?)

提督「……ご、誤解だー!」

阿武隈「ごめんなさい」

提督「いや、あのな」

阿武隈「ごめんなさい」

提督「……まず顔を上げてくれ」

阿武隈「……提督のサポートをしようと無理やり押し入ったのに、勝手に混乱して倒れて」

阿武隈「逆に利き手にヒビ入れていた提督に、あたしを運ばせるなんて。あまつさえ島風ちゃん達の誤解を解く説明までさせて」

阿武隈「その……反省しています」

提督「いや、阿武隈は悪くない。勝手に夜更かしして、阿武隈が起こしても起きなくて、あまつさえ変なこと言った私の責任だろう」

阿武隈「へ、変なことって……いやともかく、あたしが」

提督「そう自分を責めるな。阿武隈が私を起こしてくれたことはたしかだろう。このままでは寝坊したかもしれないからね」

阿武隈「ま、まあそうなんですけど……でも」

提督(……頭を切り替えさせた方がいいか)

提督「そこまで言うなら、手伝ってもらおうかな」

阿武隈「え? あ、はい」

提督「まあ大したことじゃない。布団を畳んで、その後今日必要な書類が机の上にあるから、纏めてくれるか?」

阿武隈「分かりました」

提督「頼んだ。いつもの書類だから、阿武隈なら分かるはずだ」

阿武隈「はい! 任せてくださいっ!」

阿武隈「提督、終わりましたぁ!」

提督「すまないな。こんなこと手伝ってもらって。本来、阿武隈にやらせるようなことじゃないんだが」

阿武隈「いえ。あたしが手伝うって言ったんですから。はい」

提督「はは。その気持ちだけでもありがたいよ」

提督(こうしているだけで気分が弾んでくる。全く我ながら単純なものだ)

提督「さて。じゃあ先行っててくれ。私もすぐ行く」

阿武隈「え? いいですよ、待ってますから一緒に行きましょうよ」

提督「いやそういうわけにもいかないだろう」

阿武隈「そんな遠慮せずに」

提督「あのな、無理だって」

阿武隈「なんでですか?」

提督「……そりゃあ。私も着替えないといけないだろう」

阿武隈「あ。し、失礼しましたぁ!」

提督「おーい、阿武隈。しっかりしろよ。あまりみんなに気の抜けた顔を見せないようにな」

阿武隈「わ、分かってます!」

提督「よし。ああ、後これだけは言っておかないとな」

阿武隈「はい?」

提督「……さっきの言葉は、あれ本心だからな」

阿武隈「はい? ……はいぃ!?」

ザッザッザッ――

暁「絶好の訓練日和ね。本日はお日柄も良く、なのです」

漣「これが、漣の本気なのです!」

磯波「ここは私も、頑張るときなのです!」

電「なのです!」

磯波「な、なのです?」

漣「なのです?」

電「なのです?」

暁「なのです」

暁・漣・磯波・電「なのです!」

古鷹「か、かわいい……!」

加賀「……ここは譲れません」サッ

赤城「加賀さん、対抗しようとしないでください。マイクどこから出したんですか」

瑞鶴「アンタ、訓練にマイク持ち出すとかなに考えてんの?」

阿武隈「はーい! みんな、お疲れ様! 十分休憩ね!」

電「お疲れさま、なのです」

初霜「ふう。今日の調子は、まあまあかしら」

島風「今日も私がいちばーん!」

熊野「ま、準備運動には丁度良かったかしらね」

五十鈴「なに言ってんのよ。これくらい全然大したことないわね」

文月「えへへ~、あたしもちゃんと走ったよ~」

菊月「この程度……なんてことはない」

大鳳「走るときに切る風も、心地いいわね」

蒼龍(やり過ぎた……昨夜はいくらなんでもやり過ぎました。ああ、もう私ってばー!)

大鳳(蒼龍さん……やっぱりまだ悩んでいるみたい)

照月「ぜーはー、ぜーはー……み、みんな凄い」

江風「ぜー、ぜー……ちっ、まだ慣れてないとはいえ……情けねえ」

阿武隈「二人とも、大丈夫? はい、水分補給しっかりして」

照月「あ、ありがとうございます……」

秋月「照月、大丈夫? ちゃんとゆっくりと大きく呼吸したほうが楽だからね」

照月「う、うん……すーはー」

若葉「無理はするな。しっかり飲め」

江風「……あンがとよ、若葉」

白露「江風、大丈夫?」

江風「ははっ……そう心配すンなよ姉貴。すぐに追い抜かして江風が一番になってやっからよ……ごほっ」

白露「むーっ、一番はあたしなんだからね!」

春雨「あの……白露姉さんは今も一番じゃないような」

白露「なんですとー!? そんなこと言うのはこの口かー!? えいっ、えいっ!」

春雨「やめへひっひゃらないへ~!」

照月「白露さん元気だなあ……照月も、頑張らないと」

阿武隈「照月ちゃん焦っちゃだめだよ。まだここに来て日が浅いんだから、少しずつね」

照月「は、はい……」

若葉「そうだ。少しずつ積み重ねていけばいい」

初霜「それは若葉ちゃんもですよ」

若葉「……初霜、何が言いたい」

初霜「あまり、無理はしないでくださいね」

若葉「……分かっている」

電「電の最初なんか、照月ちゃんよりもずっと酷かったのです」

神通「というよりも、訓練の体をなしていませんでした」

――鎮守府創立当初。

提督「軽巡、神通。駆逐艦、電、白雪、文月、菊月、磯波」

提督「六人が揃った。これで一応艦隊は組めるようになったわけだが」

電「……な、なのです」

神通「えっと、大丈夫……?」

磯波「私はあまり……」

菊月「なるほど。だがあくまで私達は艦娘として生まれ変わったばかりだ。やらなければいけないことは沢山あるな」

文月「え、なになに~?」

白雪「訓練、ですか?」

提督「正解だよ。このまま海に出るのは、危険過ぎる」

提督「とは言っても、実戦なら私などより、君達の方がはるかに慣れているだろう」

神通「そうですけど……」

白雪「司令官。私達は実艦としては戦闘を経験してますが――」

磯波「こ、この姿では全く感覚が違うのです」

提督「そうか。だが他の鎮守府の人達もできているんだ。貴方達にもできると私は思っている」

提督「なに、すぐに激戦地に赴くというわけじゃないんだ。徐々に慣れて行けばいい」

神通「はい……頑張りますね」

文月「本領発揮するよ~」

電「えっと、えっと……」

菊月「電。なにを怯えている。しっかりしろ」

電「は、はい」

提督「よし、訓練を開始しよう」

白雪「はい! ……で、まずはなにを?」

磯波「……人の訓練って、どういうものなのでしょうか」

神通「私も分かりません。申し訳ありません」

菊月「……私もだ」

提督「……それもそうか。いや、当然だな。すまない。なら私がここに来る前の訓練を、ある程度アレンジして試してみるか」

文月「ふえー! いたいよぅ、足擦りむいたよー!」

神通「え、えっとどうしたら。艦船修理ならともかく、怪我の治療ってどうすればいいの?」

菊月「なに混乱しているんだ! 白雪、早く救急箱持ってこい!」

磯波「……私は磯波です」

菊月「……なんだ、その。すまん」

白雪「私が! ……司令官、救急箱ってどこにあります!?」

提督「待ってろ! 私が取りに行く!」

電「やっぱり電は生まれ変わっても役立たずなのです……深雪ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさいなのです……!」

菊月「電!? しっかりしろ! なにバカ言っているんだ!」

神通「と、取りあえず木材ありったけ持ってきて!」

磯波「だから船の修理とは違うんですって!? 落ち着いてください!」

文月「いたいよー! ふええぇん!」

菊月「司令官、早く戻って来てくれぇぇ!」

――現在に戻る。

電「……当時を思い返すと、反省するばかりなのです」(遠い目)

菊月「……そうだな」(遠い目)

神通「で、でもあの頃の経験があったから今があると思えば……うん」

文月「そうだよねー」

江風「そ、そうか。苦労してンのな」

深雪「全く電はいろいろと気にし過ぎなんだよ。あれは電だけが悪いわけじゃないだろ」

深雪「大体こうしてまた出会えたんだし、問題ないって! つーかあんまり気にしていると深雪スペシャル喰らわせっからな!」

初霜「そうよ。電ちゃんが頑張っていることは、皆さんが知ってるわ」

初霜「あまり、気に病まないでくださいね」

電「……ありがとう、なのです」

電「深雪ちゃんや初霜ちゃん、司令官、阿武隈さん達が励ましてくれたおかげなのです」

阿武隈「あたしはそんなに大したことしてないから。気にしなくてもいいんだからね」

電「そんなことないのです」

菊月「過去の鎖に繋がれていたままでは、未来へ羽ばたくことなど出来やしないからな」

皐月「菊月はいったい、何を言っているのさ」

文月「どんどん菊月ちゃんの言っている言葉が難しくなっていくよぉ……阿武隈さん翻訳してぇ」

阿武隈「……なんか、電ちゃん達の話を聞くと、菊月ちゃん昔は良く分からないセリフあんまり言ってなかったよね?」

神通「たぶん余裕が出来て、ある程度自分が好きなようにやっても大丈夫になったからじゃないかな」

阿武隈「それは良い事……なのかなぁ?」

神通「……たぶん」

菊月「ちょっと待て文月。私はちゃんと普通の言葉を喋っているぞ」

谷風「普通……普通ってなんだい?」

響「普通などというのは単なる言葉遊びだよ」

響「そんなもの、時代によっていくらでも移りゆくものさ」

文月「これ以上難しいこと言わないでよぉー! 響さんの意地悪ーっ!」

阿武隈「あはは……さて、みんな大丈夫かな?」

江風「おう、大丈夫だぜ」

照月「照月も回復しました!」

村雨「スタンバイOKよ!」

阿武隈「うん! それじゃあ今度は模擬戦に行こうか」

電「頑張るのです!」

神通「阿武隈。ちょっとさっきの演習、消極的過ぎじゃなかった? これじゃ相手に一方的に攻撃されちゃうよ?」

阿武隈「そうかなあ……あくまで空母による攻撃を主とした想定なんだから、あたしたちの動きはこれで正解だと思うんだけど」

電「電も、私達は空母さん達の護衛に専念した方が、いいと思ったのですけど」

神通「そうかもしれないけど、もっと牽制とかした方が結果的に敵の動きを抑えることになると思うよ」

阿武隈「うーん……」

響「阿武隈さん、ちょっといいかな?」

阿武隈「あ、うん。なになに?」

響「昨日の反省文ができたんだ」

阿武隈「あ、早いね。うん、よしよし。さっそく見せて貰おうかな」

反省文『отражение(反省)』

響「魂込めて書いたよ」

阿武隈「わぁ、達筆ぅ。って違います!」

神通「それは……書きあがるのは早いですよね」

阿武隈「響ちゃーん? なにこれ、反省してないのかなあ?」頭グリグリ

響「ちょ、阿武隈さんギブギブ」←あまり痛くない

神通(あんまり罰になってないような気がします……)

響「待ってくれ。唯々長い、ありきたりで定型的な文章を書くことが、果たして反省につながるだろうか?」

響「無味乾燥な文章を綴るよりも、たった一言。魂を込めて書いた一言の方が反省としていいんじゃないかと思うんだ」

阿武隈「なにをして、どう反省したか書けばいいんじゃない? 別に長文書けとは言ってないけど」

響「……まさかあっさり論破されるとは思わなかったよ。降参だ」

神通「響ちゃんが弱すぎるだけだと思います」

響「で、殿。本物の反省文はこちらに」スッ

阿武隈「最初っから出しなさい! 後、誰が殿ですか」

電「響ちゃん、最近時代劇にハマっているのです」

阿武隈「……まともに書いてるじゃない、もう」

響「信頼の名は伊達じゃない」きりっ

阿武隈「はいはい」

暁「もう信頼じゃなくて、奔放(ほんぽう)とでも書き換えた方がいいんじゃないの?」

雷「そうね。信頼の名は雷が引き継いであげてもいいのよ?」

響「暁、雷、それはちょっと酷くないかい……?」

暁「なに本気で落ち込んでるのよぉ!?」

雷「じょ、冗談に決まってるでしょ!」

電「響ちゃん、落ち込まないで欲しいのです」

イタリア「みなさん、お疲れ様です」

ローマ「……お疲れ」

阿武隈「あ、お疲れ様です。二人とも、もうここには慣れました?」

イタリア「はい。おかげさまで」

ローマ「別に、慣れるつもりはないのだけど」

ビスマルク「ま、確かに文化も言葉も違うし、なかなか大変かもしれないわね」

ビスマルク「私もオイゲンも、レーベ、マックス共々、まだまだ不慣れなことは多いわ」

プリンツオイゲン「そうですよね、ビスマルク姉様。私もまだまだ勉強することばかりです」

ビスマルク「それはそうと、この塩せんべいおいしいわね」

プリンツオイゲン「はい、私もこのせんべい大好きです、ビスマルク姉様!」

レーベ「そうだね。癖になる味だよ」

マックス「ダメよレーベ。あまり食べ過ぎるとご飯が食べれなくなるわ」

榛名「ビスマルクさん、この梅昆布茶もおいしいですよ」

ビスマルク「ありがとう……なるほど、これはいいわね」

レーベ「うん。なんだかホッとする」

マックス「悪くないわね。Danke」

プリンツオイゲン「ありがとうございます榛名さん!」

ビスマルク「ところでそろそろ年賀状書かないといけない季節か。面倒ね」

マックス「去年みたいに、私に任せっきりにしてはダメよ?」

レーベ「ちょっと気が早いけど、初詣どこに行こうか?」

プリンツオイゲン「私、良い神社知ってますよ!」

ローマ「どこが不慣れよ! 完全に馴染んでるじゃないのアンタ達!?」

イタリア「でも、日本料理もおいしいですよね」

ローマ「それは良いけど……姉さん、少し食べ過ぎじゃない? 太るわよ」

イタリア「ええっ!? そ、そんなことないですよ!」

響「こっちに来たばかりの時と比べて、少し色艶が良くなった気はするね」

イタリア「……もしかして、本当に少し太った?」

ローマ「あれだけ毎日食べてれば当然よ」

イタリア「そんな食べてばかりなんか――」

電「じゃーん! クッキー焼いたのです」

五月雨「わーいっ」

響「この前のクルミも良かったけど、今回のチョコチップもいいな」

雷「むむ……雷も電に負けてられないわね」

深雪「うめー!」

鳥海「これは……美味しいですね」

イタリア「サクサクした食感がたまりませんね」

長月「どんなに仲間が増えようと、私を凌駕する艦はいないようだな」



阿武隈「おはぎ作ってみたんだけど、どうかなどうかな?」

島風「作る速さも島風の如し、です!」

榛名「訓練の後の甘いものは美味しいですね。榛名、感激です」

ビスマルク「良いわね。Danke」

子日「わぁい! 美味しいね初春ちゃん!」

初春「ふむ。なかなかじゃの」

イタリア「あんこですか、この甘みが最高ですね」

長月「どんなに仲間が増えようと、私を凌駕する艦はいないようだな」



熊野「新しい葉が入りましたの。ご一緒にいかが?」

五十鈴「あら、いいじゃない。頂くわ」

金剛「ティータイムにスコーンは欠かせないネー」

龍驤「丁度艦載機の整備が終わったところなんよ。嬉しいなぁ」

イタリア「私も丁度艤装(ぎそう)の整備が終わったところだったんです。ありがとうございます」

長月「どんなに仲間が増えようと、私を凌駕する艦はいないようだな」



足柄「勝利のカツカレーよ! え? これは夕食じゃないわよ? 三時のおやつに決まってるじゃない!」

羽黒「姉さん、さすがにそれは……」

赤城「どうかと思うのですが……」

暁「見ただけで胸やけしそう……」

飛龍「多門丸、食べる? え、やっぱりいらない?」

イタリア「私は頂きますね。小腹が空いていたので」

長月「どんなに仲間が増えようと、私を凌駕する艦はいないようだな」

イタリア「太る原因に、まったく心当たりがありません……」

阿武隈「大ありなんですけどぉ!?」

ローマ「全く姉さんってば。最近少し気が緩んでいるんじゃないの?」

ローマ「少しは」←魔女の黒いローブ

ローマ「私を見習って」←黒いとんがり帽子

ローマ「しっかりして欲しいわね」←パンプキン砲

暁「貴方の方がよっぽど気が緩んでるわよ!」

ローマ「なっ!? 私のどこが気が緩んでいるのよ!?」

阿武隈「上から下まで全部です」

ビスマルク「貴方……自分の格好を鏡で見てから出直してきなさい」

初霜「でも、もうハロウィンはとっくに終わっているはずなんですけど」

ローマ「ハロウィン? 今日は仮装パーティーがあると聞いたんだけど?」

阿武隈「仮装パーティ……? そんなの聞いてないですけど。電ちゃん、なにか知ってる?」

電「私も知らないのです」



卯月「やっほー! ろーちゃん、今日もかわいいっぴょん!」

呂500「え、うーちゃん呼びましたか?」

ローマ「呼んだ?」

卯月「……このあだ名、どっちか判別つかないぴょん!」

弥生「……今更気づいたんだ」

卯月「分かったぴょん! ろーちゃんをろーさん、ろーちゃんを今まで通りろーちゃんと呼ぶぴょん!」

弥生「それじゃあどっちがどっちか分からないよ……」

卯月「難しいっぴょん……大きいろーちゃんがろーさんっぴょん!」

呂500「うーちゃん、今日も元気ですね! ろーちゃんも負けてられません!」

ローマ「卯月、ちょっといい?」

卯月「ろーさん、なに? なにか面白い事あったの?」

ローマ「今日は、仮装パーティーがあって、全員必ず仮装するようにって聞いてたんだけど……どういうこと?」

卯月「……え、えーと。う、うーちゃんはなにも知らないっぴょん」

ローマ「ふーん。そうなの。ふーん」

卯月「……あー、うーちゃん用事思い出したっぴょん。じゃあ、うーちゃんはこれで」

弥生「……逃がさない」がしっ

ローマ「弥生、良い動きよ」

卯月「や、弥生離して欲しいぴょん! このままじゃお仕置きされちゃうぴょーん!」

弥生「ダメ」

卯月「弥生怒ってるぴょん!? 許して欲しいぴょん!」

弥生「怒ってなんかないよ……怒ってなんか」

卯月「間違いなく怒ってる!?」

阿武隈「卯月ちゃん、あまり困らせるようないたずらしたらメッ! なんだからね!」

卯月「うー……ごめんなさいっぴょん。じゃない、ごめんなさい」

ローマ「私はこんなんじゃ気が済まないのだけど」

卯月「あうあう……」

三日月「だ、ダメです如月姉さん。やっぱり恥ずかしいです」

如月「あら、三日月。貴方可愛いんだから、たまにはうんとおしゃれしないと」

睦月「似合ってるよ、三日月ちゃん!」

暁「……あれ? 三日月、その衣装」

三日月「あ、あの……」(←ドレス姿)

暁「うわぁ……すごく綺麗!」キラキラ

響「本当だ、良く似合ってる」

電「素敵なのです!」

雷「いいじゃない! 雷もおしゃれしたいわ!」

阿武隈「うん、本当に綺麗だよ、三日月ちゃん」

三日月「そんな、私が綺麗だなんて……ありえないです」

神通「そんなことないです。思わず見惚れてしまいました……」

卯月「……ま、まずいぴょん」

ローマ「……あんた、まさか」

イタリア「三日月ちゃん達にも、同じ嘘を?」

三日月「あ、ありがとうございます……嬉しいです」

如月「うふふ、良かったわね三日月ちゃん」(←吸血鬼に変装)

睦月「パーティーでみんなに三日月ちゃんの可愛さを知ってもらおうね!」(←魔王っぽい衣装)

卯月「……」汗ダラダラ

弥生「どうするの、卯月? 私、知らないよ……」

卯月「あ、阿武隈さん助けて欲しいっぴょん!」

阿武隈「えっ、やだあたしっ!?」

卯月「反省してるぴょん! 後で叱ってもなんでもいいからお願いだぴょ……お願いです」

神通(なんでもいいって……卯月ちゃん、阿武隈だと大して酷いことしないだろうと思って言ってるような気がします)

弥生「ごめんなさい……その、私からもお願いします」

阿武隈「そ、そんなこと言われても……どうしろって?」

初霜「三日月さんになるべく傷つけないように真実を伝えるか、でしょうか」

ビスマルク「それか、パーティーをでっち上げるかとかね」

阿武隈「で、でっち上げるってあたし一人じゃどうしようも……」

雷「そうだわ! 今こそアレを使うべきじゃない!」

響「雷の言う通りだ。お姉様、アレを使うわ」

阿武隈「……え? お姉様ってあたしのこと? というかアレってなに?」

暁「ええ、良くってよ」

電「なのです!」

阿武隈「だからアレってなに!? というか暁ちゃんが答えてるし!?」

響「だって阿武隈さんが返事してくれないし……」

阿武隈「そこでいじけられても困るんですけどぉ!?」

初霜「まさか……ここでアレを使うなんて」

阿武隈「初霜ちゃんまで!? だからなんなのもう!?」

妖精さん(すたんばいおーけー)

雷「よし、妖精さんお願いね!」

妖精さん(あーもうやっちゃいましょー)

雷「雷、三日月ちゃんのために投球しちゃうね!」

阿武隈「東急!? 東京急行なんで!?」

電「東急じゃなくて投球なのです」

神通「阿武隈……東京急行に行き過ぎたのね」

響「なにもかも、大発を積めるのが悪い」

雷「ピッチャー第一球振りかぶって――投げました!」

妖精さん(てんたかく、うまこゆるあきー)

ローマ「は!? あんたなにやってんのよ!?」

イタリア「妖精さんを窓から空に投げちゃいました!?」

阿武隈「うええぇ!? よ、妖精さーん!?」

暁「大丈夫、阿武隈さん。あれでいいのよ」

響「そもそも妖精さんはあの程度、平気さ。むしろノリノリだよ」

妖精さん(いかろす――わたしはいかろす)

阿武隈「なんか不吉なこと言ってるんだけど!? 本当に平気なの!?」

響「阿武隈さん。考えるんじゃない。感じるんだ」

妖精さん(だいいちすいらいせんたい、きゅんきゅうしゅーごー。くりかえす、だいいちすいらいせんたい、きゅんきゅうしゅーごー)

白露「あれは……第一水雷戦隊の緊急集合の合図ね!」

時雨「そうだね、姉さん。こうしちゃいられない」



浦風「みんな、うちに遅れんようにな!」

谷風「こう見えて谷風はすばしっこいんだよ?」

磯風「そう慌てるな。行動は――」

浜風「冷静、かつ迅速に。です」

ドドドドド……!

ビスマルク「騒がしいわね……なにかしら?」

子日「子日、とうちゃーく! 早いでしょ、ね?」

若葉「若葉だ」

初霜「皆さん、素早いですね。さすがです!」

初春「第二十一駆逐隊、推参じゃ!」

白露「あたしがいっちばーん――じゃない!?」

時雨「少し遠いところに居たからね。仕方ないよ」

白露「うー、くやしー! と、ともかく! 第二十七駆逐隊、到着です!」

谷風「谷風さん、来たよ!」

浜風「浜風、参りました」

磯風「磯風、推参!」

浦風「阿武隈さん! 第十七駆逐隊到着じゃ!」

雷「まあ、雷達は最初っからいたけど」

響「そうだね。でもここはやっぱり宣言しておくべきかな」

電「はい、これで全員集合です」

暁「第六駆逐隊、集合よ!」

響「阿武隈さん。作戦命令を」

神通「……妖精さんを通じた第一水雷戦隊の緊急集合? 阿武隈、これは一体?」

阿武隈「……え、なにこれ」

神通「って阿武隈も知らないの!?」

阿武隈「あたしも完全に意表突かれたんですけど!? え、なに、なんなのこれ!?」

時雨「……阿武隈さん、そんなに僕達に興味があるの? いいよ、なんでも訊いてよ」

阿武隈「聞きたいことが多すぎて、何から聞いていいか分かりません」

谷風「阿武隈さんを驚かせようと、密かに訓練してたのさ!」

阿武隈「うん、それで?」

子日「それだけだよ?」

阿武隈「え、それだけ?」

響「それ以外に理由がいるかい?」

阿武隈「なにその変なベクトルの努力」

呂500「一水戦の皆さんは、変な方向に頑張り過ぎるって、でっちが言ってました」

呂500「やっぱりそうなんだなーって。ろーちゃん確認しましたって!」

若葉「それほどでもない」

初春「そう褒めるでないぞ」

浜風「ありがとうございます。ですが、その程度の称賛で浮かれるような素人ではありません」

ローマ「いや、褒めてないから。バカにされてるから」

浦風「やっぱり下はトップの背中を見て育つんよ、だからうちらもこうなんやね」

阿武隈「非常に心外なんですけど!?」

磯風「ふっ。その慌てる師匠の顔を見れただけで、やった甲斐はあったというものだ」

阿武隈「うわぁ、うざいを通り越して感心させられるドヤ顔です」

阿武隈「けど、うん。良い動きだったよ。みんな頑張って練習したんだね。あたしびっくりしたよ」

子日「えへへ、頑張ったよー」

谷風「ばれないようにするのも苦労したからね!」

雷「もっと褒めてくれてもいいのよ?」

阿武隈「そうだね。だけど今度からやりたいことがあったら、ちゃんと事前に言ってね?」

響「それは前振りかい?」

磯風「押すなよ? 絶対押すなよ? と同じ意味だな」

浜風「つまり次も期待している、ということですね。浜風、了解しました」

阿武隈「違いますっ!」

時雨「雨はいつか止むさ。いつかは分からないけど」

阿武隈「時雨ちゃん、それどういう意図で言ったの!?」

初霜「阿武隈さん、落ち着いてください」

電「お水持ってきたのです。どうぞ」

阿武隈「あ、ありがとね二人とも……はぁ、落ち着きます」

若葉(だが、その二人も極秘訓練に参加したという事実)

阿武隈「って、こうしちゃいられないんだった。あのね、これはお願いなんだけど――」

浦風「なるほど、そういうことならウチらに任せとき」

初春「ふむ、仕方ないのぉ。わらわ達も手を貸そうぞ」

白露「あたし達も頑張っちゃうよー!」

暁「暁達も協力するからねっ」

阿武隈「……うん、ありがとうねみんな」

阿武隈「第二十一駆逐隊、お菓子と飲み物を用意して。ちょっとしたものでいいからね」

初霜「代金はどうしましょう?」

阿武隈「あたしが立て替えておくよ。後で卯月ちゃんからいくらか請求するから」

若葉「分かった」

卯月「分かったじゃないぴょん!?」

弥生「全額払わされないだけ、有情だと思うよ」

阿武隈「じゃあ、第十七駆逐隊、ここに居る皆の仮装を準備……難しいから、仮装と言い張れるものがあったらなんでもいいよ」

浦風「たしかにちょっときついなあ……けど、やってみるわ。任せとき!」

阿武隈「次、第六駆逐隊。秘書艦の電ちゃんを前面に、会場を抑えて準備してくれるかな? 本当にできる範囲でいいよ」

暁「分かったわ。暁に任せて!」

阿武隈「最後に、第二十七駆逐隊。あたし達以外の参加者を集めてくれる? 融通が利きそうな人、数人でいいから」

白露「はーい! 白露頑張っちゃいます!」

阿武隈「なにかあったらすぐに報告して……みんな、勝手なことに付き合わせてごめんね」

雷「勝手なことじゃないわよ、阿武隈さん。私達が自主的に付き合ってるだけなんだから」

浦風「そうなんよ。それにこんな楽しそうなこと、参加せんともったいないわ」

子日「うん、子日もー!」

阿武隈「……改めて、ありがとう。じゃあ、みんな、作戦開始! よろしくね!」

暁「第一水雷戦隊、出撃しちゃうんだから!」

島風「ねえねえ。阿武隈さん」

阿武隈「どうしたの島風ちゃん?」

島風「私もなにかできることない?」

阿武隈「……いいの?」

島風「だって退屈なんだもん」

阿武隈「そっか……ありがとうね、島風ちゃん。そうだ、みんなの連絡係、お願いできる?」

島風「了解! 島風は速さなら誰にも負けませんから!」

卯月「卯月もなにかやりますっ!」

弥生「……弥生も」

阿武隈「……そうだね。二人は三日月ちゃん達の相手をして。みんなの動きがばれないようにね」

卯月「りょーかいです! びしっ! 卯月の華麗な会話術でみんなを引き付けてやるっぴょん!」

弥生「会話……? 弥生、ちょっと苦手」

阿武隈「ふふっ、卯月ちゃんのツッコミと監督役してればいいから。それが一番二人らしいし」

弥生「……それなら大丈夫」

卯月「心外だよ!? うーちゃん、弥生に監督されるほど子供じゃないから!?」

阿武隈「え?」

島風「え?」

連装砲ちゃん(え?)

弥生「……あ、今の卯月なりのギャグだったんだ。ちょっと面白かったよ……ちょっとね」

卯月「ひ、酷いぴょーん!」

ローマ「……なんだったの、あの子達」

イタリア「良く分かりませんけど、楽しそうですね」

呂500「やっぱり楽しい人ばかり、ですって」

ローマ「楽しいっていうより、ふざけた人ばかりじゃない……」



望月「あー、寒い……しんど」

三日月「望月さん、布団被りながら歩かないでください!?」

望月「いいじゃん、寒いんだし。こうでもしないと部屋から出る気しねー」

三日月「なに情けないことを言っているんですか!? 他の人はちゃんとしてますよ、見習ってください!」

望月「え、いるじゃんほらそこに」

初雪「……寒い、だるい」(←布団被り)

北上「おー、望月。良い格好してるね。ちょっとアタシも入れてよ」

望月「うわ狭っ、入ってくんな」

北上「たしかにそうねえ……望月が初雪と一緒に布団入ればいいじゃん。アンタら体小さいし」

望月「ふざけんなっつーの。なんであたしの布団からあたしが出て行かなきゃならねーんだよ」

三日月「……頭痛くなってきました」

睦月「三日月ちゃん、大丈夫かにゃ?」



球磨「さあ、さっさと観念するクマ―」

多摩「もう諦めるにゃ」

木曾「誰がだ! 俺は決して二人に屈したりはしねえぞ!」

球磨「ふふ、その強がりもいつまで持つかクマ―」

多摩「強情張ってないで、さっさと楽になるにゃ」

木曾「くっ、やめろ。俺は、俺は……」

木曾「絶対に語尾にキソーなんて付けたりはしねえーっ!」

球磨「つれない妹だクマ」

多摩「木曾も球磨型なら、語尾に特徴のあるものを付けるにゃ。それが球磨型の宿命だにゃ」

木曾「ふざけるな! そんなこと言ったら、北上と大井だって付けてねーじゃねーか!」

球磨「北上に強制すると、大井が怖いクマ」

多摩「仕方ないから木曾だけでも、球磨型の宿命を背負ってもらうにゃ」

木曾「なにが宿命だ! 結局姉さん二人だけじゃねーか、いい加減にしろ!」

多摩「にゃんと!? い、言ってはならないことを……」

球磨「……木曾は、最大の禁忌に触れてしまったクマ」

多摩「これはすぐにでも木曾の語尾にキソーとつけさせないと、手遅れになるにゃ」

木曾「なんだよ禁忌って!? 意味が分からねえよ!?」

球磨「それについて考える必要はないクマ」

多摩「すぐに疑問に感じなくなるにゃ」

球磨「多摩。球磨型に代々伝わる儀式を始めるクマ」

多摩「分かったにゃ」

木曾「ぎ、儀式だと!? なんだそれは!?」

球磨「この儀式を始めたら最後、もう木曾は元の語尾ではいられないクマ」

多摩「グッバイ過去の木曾、フォーエバー過去の木曾にゃ」

球磨「クーマ、クマクマ」

多摩「にゃ、にゃにゃにゃにゃにゃ!」

球磨「クマ―! クマだクマー!」

多摩「にゃーにゃー、にゃ!」

木曾「うるせー! なにが儀式だ! ただ耳元でクマとかにゃーとか言ってるだけじゃねえか!」

球磨「そう言ってられるのも最初だけクマ」

多摩「食事中でも、勉強中でも、睡眠中でもひたすら言い続けてやるにゃ」

木曾「なにぃ!? なんてはた迷惑な姉達だ……!」

球磨「クマー。早く諦めた方が木曾のためクマ」

多摩「どうなっても知らないにゃ」

木曾「くそっ、このままじゃ俺の常識が崩壊してしまう。もはやプライドにこだわってる場合じゃねえ。誰でもいいから常識人を呼ばねえと……」

木曾「丁度いい、そこにいる神通、阿武隈、三日月! それとドイツ勢! 助けてくれーっ!」



ローマ「姉さん。ひょっとして、一水戦はかなりまともな方なんじゃ……」

イタリア「……そうかもしれませんね」

――時間は過ぎて。

ビスマルク「ふう……あら、阿武隈。お疲れ様」

阿武隈「あ、ビスマルクさん。お疲れ様」

ビスマルク「どうしたの、そんな小さな声で……ああ、なるほど」

電「すー、すー……」

阿武隈「電ちゃん、起こすと悪いから」

ビスマルク「疲れたのね。隣いいかしら?」

阿武隈「はい、どうぞ。別にいちいち許可取らなくてもいいですよ」

ビスマルク「そう。失礼するわ。しかし……本当に慌ただしかったわね」

阿武隈「ですね。どうもご迷惑をお掛けしました」

ビスマルク「いいのよ、別に。傍から見てる分には害はないし。それに阿武隈達は良くやったと思うわよ」

阿武隈「いや、あたし自身、かなり勝手なことしてたと思いますけど」

ビスマルク「三日月、嬉しそうだったじゃない。それで良いのよ」

阿武隈「……まあ、そうかもしれないですけどね」

ビスマルク「にしても……面白かったわね。神通と阿武隈、貴方達」

ビスマルク「適当な仮装がないからって、まさかお互いの制服を交換して、これで仮装と言い張るんだもの……ふっ、くくっ」

阿武隈「そ、それはもう忘れてくださいよー!」(←小声)

ビスマルク「ふふっ、あれはそう簡単に忘れられそうにないわね……あははっ」

阿武隈「うー、ビスマルクさん意地悪です」

ビスマルク「ごめんなさい。それにしても、電も気持ちよさそうに寝ちゃって。阿武隈の膝が居心地いいのかしら」

阿武隈「なに言ってるんですか……電ちゃん、いつも頑張ってますから」

ビスマルク「本当にそうね。こんな小さい子なのに、私は助けるどころか、助けられることの方が多いわ」

阿武隈「それこそなに言ってるんですか。ビスマルクさんはいつもあたし達の力になってくれてるじゃないですか」

ビスマルク「そうだと良いのだけれど。いや……まだまだ力不足ね」

阿武隈「ビスマルクさんで力不足って、どこまで行くつもりなんですか」

ビスマルク「例え今の私が強いとしても、上を目指すことをやめては行けない。そういうものだと思うわ」

ビスマルク「榛名を、長門を、大和を――私は超えて見せる。見てなさい」

阿武隈「……それはまた、高い目標ですね」

ビスマルク「目標は高い方がいいでしょう?」

阿武隈「そういうものでしょうか」

ビスマルク「私はね。他の人に押し付けはしないわ」

ビスマルク「自らに高すぎる目標は、時として自分の身を侵すことになるかもしれない」

ビスマルク「そこの――電のように」

阿武隈「ビスマルクさん……?」

ビスマルク「この子は、本当に優しくて……強い。実力ではなく、意志がね」

ビスマルク「だからこそ、大きな、大きすぎる願いを持っても、いまだに破綻していない」

ビスマルク「『沈んだ敵も助けたい』……なんて大きくて、純粋で……そして無謀な夢なのかしら」

阿武隈「……無謀な夢」

ビスマルク「敵は、情けを掛けることなく、殲滅する」

ビスマルク「大局を見て戦略や戦術を考える上ならともかく、前線で戦う一兵士ならそう考えるのが楽に決まってる」

ビスマルク「殺しあう相手は、自分と同じ、笑い、泣き、他人を思いやれる。心ある存在だ」

ビスマルク「……そう考えていては、きっとまともに戦っていられないわ」

ビスマルク「そして。戦うことに躊躇(ちゅうちょ)し、敵に情けを掛けては、それは自分のみならず仲間をも危険にさらすことになるかもしれない」

阿武隈「ビスマルクさん、一体何を……?」

ビスマルク「少なくても私の知る限り、電は前線で襲い掛かる深海棲艦に手心を加え、仲間を危険にさらしたことはない」

ビスマルク「なら、電の言葉は口先だけ?」

ビスマルク「……それはない。一方で、助けられる人は全力で救い、対話ができる深海棲艦には正面から言葉をぶつけてきた」

ビスマルク「あの北方棲姫に対してのようにね」

ビスマルク「彼女の夢……いや、信念は偽物なんかじゃ決してない」

阿武隈「あたしもそう思います。電ちゃんは、本当に頑張ってます」

阿武隈「……みんなが心配するくらいに」

ビスマルク「そう……だからこそ、彼女は危うい」

ビスマルク「彼女は敵を、自分と同じ、心ある存在と常に自覚した上で、味方を護るため、敵を倒してきた」

ビスマルク「……電は戦うしかない敵を沈める度に、どれだけ心を痛めているか。私には想像すらできないわ」

ビスマルク「とっくに根を上げてもいいのに……泣き言を言ってくれても良いのに」

ビスマルク「倒すべき敵なのだから。それを倒すのは当たり前だ。そう割り切ってしまっても、だれも責めないのに。彼女はそれを、自分で抑えてしまえるくらい強い」

阿武隈「……そうですね。それが、とても辛いです」

阿武隈「あたしには、電ちゃんに対してなにもできない。いっそ頼ってくれれば良いのに……そう思うんです」

ビスマルク「そうね。けど、そうでないのだから。私達は自分のできることをするしかないでしょう」

阿武隈「自分のできること? ……なにがあるでしょうか?」

ビスマルク「阿武隈はもう十分にしてあげられている。私はそう思うわ」

ビスマルク「だって電、阿武隈と一緒に居る時本当に楽しそうじゃない」

阿武隈「……ふぇ?」

ビスマルク「阿武隈さん、阿武隈さんって四人目のお姉ちゃんのように懐いて。今もこうして貴方の膝でぐっすりと寝てる」

ビスマルク「前線に居る時は、頼りになる自らの旗艦として居てくれる」

ビスマルク「ふふ、それら以上のことはないんじゃないかしら?」

阿武隈「そんな、あたしそこまで大したことは……」

ビスマルク「電もだけど、貴方も自分に誇りを持ちなさい。貴方達はなかなかできないことをしているのだから」

阿武隈「誇り……ですか?」

ビスマルク「まあ……他人に言われてどうこうするものではないわね」

阿武隈「ビスマルクさんは……電ちゃんにどうしてそこまで思い入れを持ってくれるんですか?」

ビスマルク「命の恩人だもの。当り前でしょう?」

ビスマルク「だからこそ、この恩は返す。私の誇りに於いて」

ビスマルク「自分にできることはなにか……そう考えて、私は一つの結論に達した」

ビスマルク「私は、電に誇りを与えたい。榛名を、長門を、大和を超え、世界に名を知らしめる大戦艦になり――」

ビスマルク「いつかこう言ってやるのよ。日本の駆逐艦『電』は、このビスマルクを救った偉大なる艦だと」

阿武隈「……ビスマルクさん」

ビスマルク「冷淡な様だけど、結局自分の心は自分でしか救えない。私達にはせいぜい、その助けになることくらい」

ビスマルク「私は……まあ自分が言うのも腹が立つけど。マックス曰く頭が固いらしいからね。これくらいしか思いつかなかったのよ」

阿武隈「いえ……とても素敵で。ありがたいと思います」

ビスマルク「語り過ぎたわね。この話は内緒よ。特にレーベ達にはね」

阿武隈「わざわざ口外したりしませんよ……ありがとうございます、ビスマルクさん」

ビスマルク「阿武隈もあまり考え込むんじゃないわよ。貴方が深刻になっても、電はもちろん誰も喜ばないのだからね」

阿武隈「はい、分かってます」

ビスマルク「そうよ。阿武隈は『あたしの指示に従ってくださーい!』とか半泣きになりながら言ったり――」

阿武隈「なっ!?」

ビスマルク「『提督は前髪かわいいって言ってくれるかな……?』とか惚けてるくらいで丁度良いのよ」

阿武隈「ああああ、あたしそんなこと言ってません!」

ビスマルク「電起きるわよ」

阿武隈「……あ。むー」

ビスマルク「それに、一人で抱え込むことはないのよ。ねえ、そこに居る子達?」

阿武隈「え?」

?「え!? え、えっと……別に隠れてなんかいないんだかね! 本当よ! ここには誰もいないんだから!」

阿武隈「暁ちゃん?」

暁「だから暁じゃないってば! ここには本当に、誰もいないんだから! いるとしたらそれは一人前のレディーだけよ!」

ビスマルク「あら。なら暁じゃないわね」

暁「なんですって!?」がさっ!

暁「……あ。ゆ、誘導尋問なんて卑怯よ!」

ビスマルク「別にわざわざ遠慮する必要もないじゃないの。ほら、こっち来なさい」

阿武隈「うん。ほら、暁ちゃん。こっち来て来て」

暁「……呼ばれたからには、断るのはレディーとして失礼よね」

トテトテトテ――

暁「よいしょっと」ちょこん

暁「もう……電ったら、そんなにお姉ちゃんが頼りにならないのかしら」

暁「もっと暁に頼って欲しいのに……お姉ちゃんだもの。妹の心配ぐらい、させてくれたっていいじゃない。ねえ、阿武隈さん?」

阿武隈「そうだね……けど、文句言ってたって仕方ないよ」

阿武隈「だから、あたしは電ちゃんの悩まなくて済むようにしたいんだ」

阿武隈「あたし達で、電ちゃんが戦いなんてしなくて済むように――平和な海に」

阿武隈「いつか平和な海で、電ちゃんやみんなが楽しく遊べるような、そんな光景を」

暁「なに言ってるの阿武隈さん」

阿武隈「ふぇ?」

暁「そんなの当たり前じゃない! 暁も協力するんだから!」

阿武隈「……暁ちゃん。ありがとね」なでなで

暁「べ、別にお礼なんていいんだから。だから頭をなでなでしないでよ! もう子供じゃないって言ってるでしょ!」

阿武隈「それとこれとは話が別だよ。暁ちゃんはいつもお姉ちゃんとして頑張ってるから、たまにはあたしに甘えていいの」

暁「もー。阿武隈さんってば、自分が末っ子だからお姉ちゃんしたいだけなんでしょ?」

ビスマルク「顔がにやけるわよ、暁」

暁「そ、そんなことあるわけないじゃない」

阿武隈「えへへ、暁ちゃんも可愛いなあ」なでなで

暁「あう……は!? べ、別に嬉しいわけじゃないんだから!」

電「……ふえ?」

阿武隈「あ、電ちゃん起きちゃった?」

電「……お母さん」ぽすっ

阿武隈「……お母さん?」

暁「お母さん?」

ビスマルク「……お母さん?」

若葉「若葉だ」

電「うにゃ……」すりすり

阿武隈「あ……えっと」

電「あれ……あれ!?」がばっ!

電「はわわ、あ、阿武隈さんごめんなさいなのです! 今のは違うのです!」

阿武隈「あ、ううん。別に気にしないでくれていいの」

ビスマルク「お、お母さん……く、くくく、お姉ちゃんならまだしもお母さん……あ、阿武隈良かったじゃない」

阿武隈「ビスマルクさん笑い過ぎなんですけどぉ!? もうやめてー!」

電「ビスマルクさん酷いのですー!? ただ寝ぼけていただけなのです!」

暁「電、あのね」

電「暁ちゃん?」

暁「あ、暁のことお母さんと思ってくれていいんだからねっ!」

電「それは無理があり過ぎなのです!?」

若葉「若葉でもいいぞ」

電「それも無理があるのです!」

阿武隈(ていうか若葉ちゃんいつの間に……)

若葉「さあ電。存分に甘えろ」

電「はわわ……ど、どうしたら」

若葉「なんだ、遠慮しなくてもいいぞ」

暁「若葉ずるいわよ! 電のお母さん役はこの暁なんだから!」

電「け、ケンカはダメなのですー!」

――数週間後。

蒼龍「進展がない……」

飛龍「どうしたの、蒼龍?」

蒼龍「二人の間に進展が……ない」

飛龍「二人って誰の事?」

蒼龍「いや、こっちの話。うーん、どうしたらいいのかなあ」

蒼龍「そもそも、やっぱり二人になれる時間が圧倒的に少ないのが問題ですよね」

蒼龍「しかし、どうしたら……」

大鳳「蒼龍さん、どうしたんですか?」

飛龍「最近蒼龍ちょっと変なのよね……あ、元からか」

蒼龍「失礼ね。私は大丈夫です」

大鳳「なにかあったら言ってくださいね?」

蒼龍「いえ、大丈夫です。大鳳、ありがとうございます」

蒼龍「そうよ、ないなら作ればいいじゃない。となればさっそく……」

大鳳「……でも、以前より元気になった気もしますね」

飛龍「というより、元に戻ったんじゃないかな?」

蒼龍「あ、いたいた。電ちゃん、ちょっと良い?」

電「あ、蒼龍さん。本日もお日柄が良く、なのです」

蒼龍「あはは、それ暁ちゃんの真似かな?」

電「なのです」

蒼龍「でもね、電ちゃん。お日柄もよろしくの「日柄」は天候のことではなく、六曜の「吉の日」であることを表してるのよ」

蒼龍「要するに、天気が良い事じゃなくて、縁起が良い日のことなの」

電「はわわ!? し、知らなかったのです……」

蒼龍「間違えやすいからしょうがないよ、一つ賢くなったじゃない」

蒼龍「それはそうと。ちょっと相談……というよりお願いがあってね。秘書艦の電ちゃんに」

電「電にできることなのでしょうか?」

蒼龍「実はね……ごにょごにょ」

電「――それはとっても素敵なのです!」

菊月「司令官、書類持ってきたぞ。承認してくれ」

提督「どれどれ……ああ、問題ないな」

菊月「これくらい、私にとって造作もない」

提督「あはは、そうだったな」

菊月「……電はどうだ?」

提督「ああ……完全とはいかないけど、随分と明るくなったよ」

菊月「もう、秘書艦から外してやってもいいんじゃないか?」

提督「いや。今のところそのつもりはないな」

菊月「……元々は電を護るために秘書艦にしたのだろう?」

提督「……そうだね。秘書艦でいさせれば、自然と私が多く傍で見てやることができる」

提督「それと、当時は電にきちんとした役割を与えてやることが必要だと思った」

提督「電に、自分が必要なのだと思ってもらうために」

提督「だが、それは私の思い上がりだったかもしれないな。結局、電にとって大きな助けになったのは、暁や深雪、阿武隈達だった」

提督「私は、むしろ電に助けられることの方が多かったよ」

菊月「もう、大丈夫だ。電が自分を不必要だと感じることも、深雪に対する罪の意識に押しつぶされることもないだろう」

菊月「……秘書艦の仕事から解放して、暁達との時間を増やしてやっても良いだろう?」

提督「……難しいな。簡単に判断できることじゃない」

菊月「……私が決めることではない。けど、頭の片隅にでも置いておいてもらいたい」

提督「分かった……ありがとう、菊月」

菊月「なに。これも一つのミッションだ。じゃあな」

蒼龍「提督、良いですか?」

提督「ああ、どうぞ……電と阿武隈も一緒か」

電「お邪魔するのです」

阿武隈「あの……蒼龍さん、電ちゃん。どうしたんですか、急に連れてきて」

蒼龍「まあまあ。それを今から説明しますから」

電「司令官にスケジュールの変更を、伝えに来たのです」

提督「スケジュール変更? なんだ急な要件でも入ったか?」

蒼龍「いえ、そうではなくて……たしか遠方の視察が入ってましたよね? 本当にただ見るだけの、数泊予定の楽な視察が」

提督「ああ、あれか。まあ鎮守府内の旅行に適しているかどうか、およびその近隣の安全を見るだけだからね」

提督「お偉いさんに会うこともないし、たしかに楽と言えば楽かもしれないが。忙しいと言えば忙しいぞ? やることはあるし」

提督「天龍達に行ってもらおうと思っていたが……それがなにか?」

蒼龍「その視察ですが、人を変えて提督と阿武隈さんの二人に行ってもらおうと思います」

提督「私と阿武隈か……は?」

阿武隈「ええっ!? ちょ、ちょっとなんでそうなるんですか!?」

提督「いやいやいやおかしいだろ、なんでそうなる」

蒼龍「提督。それはそれ、これはこれです」

提督「何がだ。あのなあ、どう考えてもダメだろ。未婚の男女が二人でなんて」

蒼龍「なに言ってるんですか。仕事ですよ仕事。問題ないじゃないですか」

蒼龍「提督一人で行くわけにも行きませんし、護衛は必要ですよ。阿武隈さんも一緒に行くのはそれが理由です……表向きは」

電(ぶっちゃけたのです!?)

蒼龍「電ちゃんにも了解してもらって、スケジュール調整済みです」

電(たしかに了解はしたけど、もうちょっと上手く説明して欲しいのです!?)

阿武隈「あ、ああああああたしがてーとくと二人で泊りがけなんて……」

阿武隈「で、でもてーとくさえ良ければ……あたしはその……」

蒼龍(阿武隈さん動揺し過ぎぃ!? なんで私は、今まで二人の気持ちに気づかなかったんだろう)

電「蒼龍さん、ちょっと強引過ぎるのです……」(←小声)

蒼龍「たしかに、これはちょっと強引かなって思うけど……だけど任せて」(←小声)

蒼龍(しょうがないじゃないですか。この鎮守府じゃ二人の時間なんてなかなか作れないんですから)

蒼龍(でもそれは恋人未満の今の話。二人の関係を恋人同士とか、ケッコンカッコカリとか明確なものにしてしまえば、後は何とでもなる)

蒼龍(幸い、阿武隈さんはケッコンカッコカリの基準の練度に達しているしね)

蒼龍(時々、提督と阿武隈さんの邪魔しちゃいけないよって、不文律が出来ちゃえばいいんです)

蒼龍(ここの騒がしい鎮守府の人達も、それぐらいの配慮はできるでしょうし)

提督「ちょっと待て、なんだ表向きって。裏でもあるのか」

蒼龍「いえ、気にしないでください」

蒼龍「提督、そうでもしないと二人きりでなんていられませんよ」(←小声)

提督「しかしだな……それは公私混同じゃないか?」(←小声)

蒼龍「だから仕事をしっかりやった上での話ですよ。その辺りはお二人なら心配してません」

蒼龍「幸い今は比較的時間空いてますし、視察自体もゆっくりできる時間はいくらでもありそうですよ」

提督「……それは良いとしても、モラル的な問題があるだろ」

蒼龍「何のための書類一式ですか。死蔵してるんですから、もう渡せばいいじゃないですか」

提督「簡単に言わないでくれ……」

蒼龍「提督、もう少し自分に素直になってください」

提督「……蒼龍?」

蒼龍「立場や役割を忘れろとは言いませんし、忘れてはダメですけど」

蒼龍「その上で、自分や阿武隈さんの幸せを考えてあげてもいいじゃないですか」

提督「いや私はまだ、阿武隈の気持ちを確かめてないんだが」

蒼龍「振られたら、まあ素直に諦めてください。自棄酒くらいなら付き合いますよ」

蒼龍(そこは心配してないですけど)

提督「私は酒飲まないけどな……だがありがとう」

蒼龍「いえ、こちらこそ過ぎたことを言いました」

提督「けど口外厳禁と言ったのに、電に言ったのはアウトな」

蒼龍「そこはノーカンでお願いします」

提督「分かってるよ。言っただけだ」

阿武隈「どうしたんですか、提督。さっきからなにか話してますけど?」

提督「すまないな。先ほどのスケジュール調整の結果でちょっと気になる点があってな。蒼龍に確認していた」

電「電も確認しましたけど、問題ないですか?」

提督「ああ、大丈夫だ……阿武隈さえ良ければ行けるぞ」

阿武隈「ふぇ!?」

提督「阿武隈、一緒に行ってくれるか? もちろん無理にとは言わないが」

阿武隈「え、えっと……で、でも提督なら他の人でも」

提督「私は阿武隈に一緒に来て欲しい。他の人じゃダメなんだ」

阿武隈「ええ!? え、えっと……はい! あたし的にはとってもOKです!」

提督「そうか。そう言ってもらえると私も嬉しい」

蒼龍「じゃあ私はこれで」

電「失礼するのです」

阿武隈「え!? ふ、二人ともちょっと待ってください!」

蒼龍「二人で詳細詰めてくださいねー」

――バタン

阿武隈「い、行っちゃった……」

提督「蒼龍の言った通り、詳細を確認しておこう。その前に、なにか飲むかい?」

阿武隈「あ、いえ。あたしが淹れますよ」

提督「いややらせてくれ。阿武隈のように上手くは淹れられないかもしれないけどね」

阿武隈「そんな大したもんじゃないです……じゃあ一緒にやりましょうよ」

提督「ああ、じゃあそうしようか」

阿武隈「怪我、もう治りました?」

提督「ああ、お陰様でな。色々と助かったよ、本当にありがとう」

阿武隈「結局、大したことはできませんでしたし」

提督「いや、少しでも配慮してくれることがどんなにありがたい事か。阿武隈は良く気が回るし、すごく助かった」

阿武隈「はい……どうしたしまして」

提督「阿武隈。今度、伝えたいことがある」

阿武隈「提督?」

提督「私にとって、大切なことだ……阿武隈に、聞いて欲しい」

阿武隈「……えっと、提督。あたしに聞いて欲しいことなんですか?」

提督「そうだ」

阿武隈「はい……でも、その代わり、一つわがまま言ってもいいですか?」

提督「なんだい? 大抵のことなら聞くよ?」

阿武隈「本当ですね。じゃあ、てーとく……失礼します」

――トン

提督「……阿武隈?」

阿武隈「あたし、変なんです。さっきの提督の言葉を聞いて、もういても経ってもいられなくて」

阿武隈「気が付いたら、提督の胸に飛び込んでました――本当になんなんでしょうね」

阿武隈「最初は嬉しくなって……でも今度っていつなんだろうって不安になって」

阿武隈「もしかしたらあたしが勝手に誤解して、提督の言葉を都合の良い様に捉えているだけなんじゃないかって……」

阿武隈「そう思ったら、もうどうしようもなくなって……」

提督「――すまない」ギュッ

阿武隈「あ……」

提督(阿武隈が震えている……自惚れでもなんでもなく、そうさせたのは私なのだろうか)

提督(だとしたら、私が安心させなければならないだろう……大切な人なのだから)

提督「阿武隈。私は貴方のことが好きだ。愛してる」

阿武隈「……てーとく」

提督「嘘偽りでもなく、私は貴方を愛している。だから、今回のことでも一緒に行こうと言った」

提督「伝えたいことがあると言ったのは、このことだ……今度と言ったのは、今は早急だと思ったからだ」

提督「不安にさせてすまなかった……」

阿武隈「本当ですよ……どれだけ、あたしが不安だったと思っているんですか」

阿武隈「けど……お相子です。あたしも……勇気が出せなかったですから」

阿武隈「てーとく。あたしも大好きです」

阿武隈「えへへ……」

提督(小さいな……阿武隈はこの小さな体で、いつも一生懸命にやってきたんだな。だから――)

提督「阿武隈、これからは私が阿武隈の支えになりたい」

阿武隈「……なに言ってるんですか。今までも提督はずっとあたし達の支えになってくれたじゃないですか」

阿武隈「それに……支えられるだけなんて、嫌です。あたしも、提督の助けになるんです」

提督「そうか……そうだな。ありがとう」

阿武隈「……あたしって単純ですね。さっきまで不安で仕方なかったのに、今すごく安心しているんです」

提督「私もだ。お互い単純だな」

阿武隈「でも、もしかしたら欲張りかもしれません。好きって言われたときはそれだけで舞い上がる気分だったのに……」

阿武隈「今は――もっとつながりが欲しいって、そう思っちゃうんです……本当に不思議ですね」

提督「阿武隈……」

五月雨「提督ーっ! 大変ですーっ!」バンッ!

阿武隈「あー提督の肩に糸くずがぁ! はいこれで大丈夫ですええなんの問題もありません!」

提督「すまない阿武隈! これでなんの問題もないな!」

五月雨「……なにやってるんですか提督?」

提督「大丈夫だ、問題ない」

五月雨「はあ……」

提督「で、なにがあった?」

五月雨「そうです大変なんです! 深海棲艦が!」

提督「なんだって!?」

阿武隈「詳しく聞かせて五月雨ちゃん!」

空母棲姫「カッタト……オモッテイルノカ? カワイイナア……!」

龍驤「いや、もう勝負付いてるから。王将が生きる道あるなら差してみてや」

空母棲姫「クッ……ナンテコトダ!」

港湾水鬼「ツギハワタシダ……アラユルウチスジヲガクシュウシ、ケイケンヲツンダ……イゼント、オナジダトオモウナ……!」

龍驤「キミ、よっぽど悔しかったんやね……」



防空棲姫「フフ……キタンダァ……? ヘエ……キタンダァ……」

暁「防空棲姫! 電を離しなさい!」

響「暁の言う通りだ。妹を離してもらおうか」

雷「そうよ! 雷が代わりになるから離しなさいよ!」

防空棲姫「ソレハムリネ……ダッテ」

防空棲姫「コンナカワイイコ、アナタタチダケデ、ドクセンスルナンテ……ズルイジャナイ!」

電「あ、あのケンカはダメなのです!」

防空棲姫「ケンカシテナイワヨ……アトスコシダケギューッテサセテ」

電「はわわ……くすぐったいのです」

暁「ずるいじゃない! 電は私の妹なのに! もうー!」



阿武隈「……なにこれ」

提督「私に訊かれても」

防空棲姫「ア! オマエ! ワタシニギョライウチコンダヤツ!」

阿武隈「うえぇ!? た、確かにあの時止めを刺したのはあたしだけど……」

防空棲姫「ココデアッタノガ、イイキカイダ……」

阿武隈「な、なんですか?」

防空棲姫「ワタシヲ……デシニシテモラオウ!」

阿武隈「はい?」

暁「え?」

雷「え?」

電「なのです?」

若葉「若葉だ」

響「響だよ」

防空棲姫「アノトキ……ハツシモトイウヤツトイッショニトツゲキ……ニクハクシテ、ギョライノイチゲキ……スゴカッタ、カンドウシタ」

防空棲姫「ヨッテ、オマエ……イヤ。シショウト、ヨバセテモラオウ。デシニシテモライニキタ」

阿武隈「……ええー。予想外過ぎます」

提督「人気者だな、阿武隈」

阿武隈「喜んで良いんしょうか」

神通「その師匠待ってください!」

阿武隈「また出た!? 神通なんなの、出待ちしてたの!?」

神通「防空棲姫さん……私の弟子になる気はありませんか?」

防空棲姫「イキナリイワレテモ……ワタシハ、アブクマノデシニナリニキタンダシ」

神通「なら、私の実力を見てから決めてもらいましょう。提督、電ちゃん。演習許可を」

電「……大丈夫なのでしょうか?」

提督「いやダメだろ」

神通「なんとか……ならないでしょうか?」

提督「間違いなく大騒ぎになるからね」

防空棲姫「……ホッ。イキナリナンナンダコノヒト」

響「君がそれを言うのは、おかしいと思うんだ」

清霜「ねえ、貴方駆逐艦って本当!? 駆逐艦なのに戦艦以上の装甲と火力を持ってるって本当!?」

吹雪「本当みたいですよ清霜ちゃん! この人の強さの秘密を探れば、私達も戦艦になれるかもしれません!」

清霜「うおー! 燃えてきた、ねえ、どうやって強くなったの!? ねえ、教えてよ、ねえ、ねえ! どうやって強くなったの!?」

防空棲姫「ナンダオマエラハ!? マトワリツクナ!?」

清霜「いいじゃん教えてよー! 戦艦、戦艦ーっ!」

防空棲姫「ハナセー!」




空母棲姫「タイヘンダ! コウワンドノオウショウガ、マタシンデオラレルゾ!」

港湾水鬼「ダマレ!」

蒼龍「あはは……この騒がしい状況。やっぱり、無理やりにでも外に出さないと、二人の関係は進展しそうにないですね」

雷「どうしたの蒼龍さん? そんな落ち込んでちゃ駄目よ!」

蒼龍「あ、雷ちゃん。ちょっと阿武隈さんと提督のことで、考え事をね」

雷「ふーん? 良く分からないけど、阿武隈さんと司令官の力になればいいのね?」

蒼龍「えっと、まあそうかなあ……」

雷「じゃあ、雷達がもっと二人のために働いちゃうね!」

雷「妖精さん、またお願いね!」

妖精さん(またせたな)

雷「第一水雷戦隊、緊急集合よ! 妖精さん、てー!」

妖精さん(おどりゃー!)

蒼龍「え? いや雷ちゃんちょっと待ってーっ!」

妖精さん(だいいちすいらいせんたい、きゅんきゅうしゅーごー。くりかえす、だいいちすいらいせんたい、きゅんきゅうしゅーごー)

雷「え? もう遅いわよ?」

――ドドドドド!

白露「いっちばーん!」

『第一水雷戦隊、迅速かつ華麗に参上!』

蒼龍「……どうしてこうなるのー!?」

これで終わりです。
読んで頂いた方、ありがとうございました。

本当はイベント前に書き終わる予定だったのになあ……

乙です。
あぶちゃんかわええ。

>>143さん
乙ありがとうございます。
阿武隈さんの魅力を少しでも表現できたのなら嬉しいです。

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