咲「私のご主人様」和「なった覚えはありません」 (126)

キャラ崩壊してます(特に咲さん)

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「――んっ……ぁっ」

授業が終わり足早に部室へ向かうと、扉の向こうから微かに声が漏れ聞こえてきた

この可愛らしい声はどことなく咲さんっぽいですが……

なるほど。これは私が勘違いして逆に恥ずかしくなるパターンですね。
と躊躇なく部室の扉を開ける

「へっ?」

そこにいたのは……


制服は乱れ、大事な部分を弄り、頬を上気させた咲さんでした

「の、和ちゃん……」

「な、にを、しているんですか」

「ち、ちがうんだよ。これは」

「何が違うんですか。部室で一人で致していたようにしか見えないのですが」

「それはそうなんだけど」

「それはそうなんですか!?」


「いや、だって今日は和ちゃん掃除当番じゃ……」

「明日の方の都合で今日と変わったんですよ」

「へぇそうなんだ」

「そうなんです。それはともかく早く服を着てください」
「目のやり場に困ります。というか私以外がくる可能性だって」

「大丈夫だよ。部長は会議だし、染谷先輩は係」
「優希ちゃんと京ちゃんは食堂に行ったよ。何だかんだ仲良いねあの二人」

学校でしている時点で大丈夫とは思えないのですが


「へぇ。よく調べましたね」

「まぁね!」

褒めてないです

「……それでね、和ちゃん」

何故か上目使いで近寄ってくる咲さん。背は同じくらい、むしろ私の方が低いはずなのに

「このこと、誰にも言わないで欲しいの……」

「まず服を着てくださいよ」


「お願い。私が出来ることなら何だってするから」

「じゃあ服を着てください。あと話を聞いてください」

「あ、うん」

なんでちょっと残念そうなんですか

「……」

制服を整え、いつもの清楚な咲さんに。その表情以外は


「ところで和ちゃん、私ちょっとおトイレ行っていい?」

「……何しに行くんですか」

「なにって決まってるじゃない。すっきりするためだよ」

「私が途中で入ってきてしまったからですか?」

「まぁ……そうとも言えるかもね」

「いけなかったんですね?いけなかったからいくんですね?」

「ちょっと和ちゃん!そういう直接的なこと言うのはダメだよ!」

何故私が注意されなければいけないのでしょうか


「お手洗いの話ですよ。お手洗い」

「あ、そっか、そうだよね。和ちゃんがそんな事言う訳ないもんね。じゃあ私おトイレでいってくるね」

『で』じゃなくて『に』でしょう……あえて突っ込みませんけど

咲さんが扉に手をかける……直前にこちらを見た、気がした


「え?」

私は衝動的にその扉を押さえてしまいました

「和ちゃん?」

――あれ?私は何をしているんでしょうか?

「……」

咲さんと私の時が止まる


どうしよう。何か言わなければ……

「私にできることなら何だってする、でしたよね?」

――あれあれ?ちがう……そういうことじゃなくて……

「うん」

「じゃあ、おトイレまで行く必要ないですよ」

あーもう。なるようになれ!

「え」

私は扉に鍵を掛ける。普通はあり得ないが、流石は旧校舎。鍵が内側からも掛かるようになっている


「分かりますよね」

「……なんで」

「ちょっとした好奇心です。さっきまでしてたんですから、一人でできますよね?」

「……分かったよ」

俯いて消え入りそうな声で返事をする咲さん
でも私は見逃さなかった。その口角が少し上がっていたことを


「はぁ……ん……」

「だらしない顔ですね。見られてそんなに興奮してるんですか」

「やぁ……」

「私がいいって言うまでイっちゃだめですよ」

「んん……いいよぉ」

聞いてませんね……


咲さんの綺麗な肌に触れてしまいたい欲求が溢れ出しましたが、ここは我慢です
それでは意味がない

「んっぅ……」

「イっちゃいましたか。言うことが聞けないなんてちゃんと躾けないといけませんね」

「そんなぁ……」

四肢を弛緩させ、上がった息を整えるように小さく口を開けた咲さんは
何処かコケティッシュでした


なんとか満足していただけたようですね
と一息つく間もなく次の問題が……

不意に誰かが扉を開けようとする音がした
こんなに近くにくるまで気付かないなんて……

『――あれ?開かねーぞ?まだ誰も来てないのか?』

『んー?』

優希と須賀くん!?マズい!


「どうしたの?」

なんて呑気な咲さんの声に

「しー!静かに!」

と焦る私をよそに扉の外では二人の会話が続いていた

『よし、犬!鍵取ってこい!』

『……お前も来いっての』

『仕方ないなー。どうしてもって言うならついて行ってやってもいいじぇ』

……二人が遠ざかる気配がする。ひとまずは安心……いや


部室の鍵は部長が持っているのと、職員室にあるものの二つだけ
その一つは今咲さんが持っている……

「咲さん鍵を!」

「うん?」

咲さんはまだ余韻に浸っているようですね……

「職員室に鍵がないと、部室に鍵かけて何をしてたんだって怪しまれますよ」

「大丈夫だよ」

「なにを悠長な……」

「だって優希ちゃんと京ちゃんは部室に誰もいないと思ってるんだよ?」


「あ、そうか……」

「ね。鍵を開けるだけでいいよ」

「入れ違いで先に鍵を取って行ったと言えば済むんですね」

「そういうこと。二人は最短ルートで職員室まで行くはずだから」
「怪しまれても私が寄り道したからすれ違わなかったって言えば問題ないと思うよ」

「なるほど。でも二人が帰ってくるまでそう時間はないですよ。早く片付けないと」


「優希ちゃんがササヒナ先生に捕まるに3000点ベット」

「……それでも急がないと、須賀くんが一足先に帰ってくるかもしれないし、染谷先輩が早く来るかもしれませんよ」

「うーん……」

咲さんは何やら言いたげでしたが

「それもそうだね」

と一応納得してくださったようです

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

咲さんの予想通り、優希はササヒナ先生にお小言を頂戴していたらしい

驚いた私に咲さんは
「別に100%当たるとは思ってなかったよ。蓋然性が高いかなってくらいで」
と涼しい顔だった

曰く
「優希ちゃんは今日の小テストの成績、芳しくなかったみたいだしササヒナ先生はこの時間職員室にいるから」
とのことらしい

なるほど、確かにそう聞くとその可能性もあると言えるかもしれません


でも私は、そのこと自体よりもその情報をどうやって集めたのかが気になってしまいました

そして何より、そんな情報を持っている咲さんが私の掃除当番の日付変更を知らなかったことに違和感が。

変更をお願いされたのは一昨日で教室に貼ってある当番表も修正されている
教室を覗けば誰でも見られるし、それこそ誰かに聞けば一発だ

情報は最新でなければ意味がない。意味がないどころか害悪になる可能性だってある
そのことは咲さんだって承知のはずだ


――咲さんは本当に知らなかったのだろうか?

――それにあの状況での解答を得ていた咲さんが何故部室の鍵を掛けていなかったのか?


誰かに見られるかもしれないというスリルが欲しかった?
それもあるかもしれない、が
旧校舎でほとんど人は来ないと言えど、部室を使うのはリスクが高すぎるのでは?

先ほどの好奇心を私は後悔し始めていた
私は咲さんにうまく乗せられてしまったのではないか……


「和ちゃん?どうしたの?早く帰ろうよ」

「ええ」

「和ちゃん今日のこと……内緒にしてね?」

「大丈夫ですよ。言いませんから」

言えるわけがない


「ホント?絶対だよ?」

「はい。絶対です」

こんなこと、誰に言えるというのだろう
それに言えばその後私がどうなるか……想像したくもありあせん

「私、和ちゃんには逆らえなくなっちゃったよ……」

なんてことを目を潤ませながら言う咲さんに少しの期待が見えるのは穿ち過ぎだろうか

――私は咲さんから逃れられなくなったのかもしれない


――翌日


「ふぁ」

寝不足です。昨日は乱れた咲さんを思い出して久々に何度も……
これでは咲さんのこと言えませんね

「おはよう、和ちゃん!」

「おはようございます」

「……大丈夫?体調悪いの?」

覗き込む咲さんに昨日の姿を重ねてしまい目を逸らす


「大丈夫ですよ。昨日ちょっと夜更かししてしまっただけです」

「そう?勉強でもしてたの?あんまり頑張りすぎちゃダメだよ」

ああ、心が痛い
咲さんが心配してくれているというのに私ときたら!

「……ありがとうございます。でも本当に大丈夫ですから」

「そう。良かった!」

笑顔が眩しいですね。眩しすぎて直視できません


――放課後


昨日みたいなことが、なんてちらと思い
急いで掃除当番を終わらせて部室まで来ましたがそんなことは無かったです

今日は誰も欠けることなく、部活動は恙無く終わりました

「帰りましょうか」

「ごめん和ちゃん。私ちょっとおトイレ」

「……またですか」


「いや今度はホントだって、もう漏れそうだよ」

「いつも思っていたんですが、何故漏れそうになるまで我慢するんですか」

「だって限界まで我慢した方が気持ちいいでしょ?」

「え?」

「え?」

何を言っているんでしょうか?


「……それで漏らしては元も子もないと思うのですが」

「大丈夫、限界は越えるためにあるから」

咲さんの言っていることがよく分からないです

「どういうこと?ですか??」

「だから、限界まで我慢して、もうダメだ!ってなっても」
「ここで漏らすわけにはいかない!って思うことでまだいけるってことだよ」

「そしてやっとのことで辿り着き、そこで目的を完遂することで達成感と開放感を得られるんだよ」

「へー……そうなんですね」

納得も理解も出来ないが咲さんの勢いに押され、私は考えるのをやめた


「そうなんだよ!和ちゃんもやってみるといいよ!」

「遠慮しておきます」

「そっか……残念だよ」

「でも毎回そんな事してるといつか本当に漏らしてしまうかもしれないので気を付けてくださいね」

「まぁそれはそれでアリだよ」

「いや無いですよ!駄目です駄目です」


「大丈夫だって。場所は考えるから」

「場所を考える余裕があるなら漏らさないでしょう!?」

「あえてトイレの場所を調べずに我慢するってのも緊張感あるよね」

暖簾に腕押し、糠に釘、豆腐に鎹……
私は頭を抱えてしまいました。比喩ではなく


「ていうかもう漏れそうなんだけど。おトイレ行っていい?」

「え?限界は越えるためにあるんですよね?」

「いや……そうだけど、もうホントに危ないよこれ」

「じゃあ後30分我慢してみましょうか」

「30分!?長いよ!」

「……」


「和ちゃん?聞いてる?」

「……」

「ちょっ、なんで反応してくれないの?」

「……」

「ねぇ……」

「……」

「のど……」

「……」


――30分後

「……もう30分経ったよね。行っていいでしょ?お願いします!」

「……」

「和ちゃんってば……」

4・3・2・1

「……はい経ちました。よく我慢できましたね」


「じゃあ」

「あと10分いってみましょうか」

「無理!お願い!行かせてください!」

「仕方ないですね。まぁ良いでしょう」

「ありがとうございます!」

本当に限界突破してもらうって手もありましたけどそれはさすがにね
咲さん的にはそっちのほうがよかったんでしょうか?

いやいやだめでしょう


咲さんは戻ってくるなり開口一番

「セーフ!危なかった~凄かったよー」

「そうですか」

何が凄かったんでしょうか。聞きたいような聞きたくないような

「まったく……早く帰りますよ」

「……もう帰るの?」

もう満足したでしょう?

「ねぇ」

うう、その顔やめて下さいよ

「いやほら、昨日の今日ですし……ね」

「なるほど、放置p」

「帰りましょう!今すぐに!」

「あ、待ってよ和ちゃん。冗談だって」

「知りません!」


――数日後


この数日間、私はその話題を避け、平和で安穏とした日々を過ごしました

咲さんもあのときのような妖艶な笑みは浮かべず
小動物然とした可愛らしい笑顔を見せてくれています

まるであの日の出来事は夢だったかのように


そう、咲さんは純粋無垢で清廉潔白な人なんです。あれは何かの間違いだったんです

ここで出し抜けに

「自分を縛るのって難しいんだね。どうやるんだろ?」

なんて言い出したのも何かの間違いです


「……」

「和ちゃん?聞いてる?」

「ええ、聞いてますよ。でも私が知っているわけないじゃないですか」

「和ちゃんは物知りだから知ってるかなと思って」

「残念ながら知りませんね」

「そっかー。でも一人だとこれ出来ないなぁ」

私はやりませんよ


「難しそうではありますけど、やれないことは無いでしょう」

「そうかな?私不器用だから……和ちゃんは器用だよね」

やりませんって……

「正しい手順や縛り方があるのでは?」

「つまりこんな紐じゃなくて縄でやれってことだね!」

それはちょと強引じゃないですか


「縄って……そんなのどこにあるんですか」

「ホームセンターに売ってるんじゃない?」

そんなもの使ったらその綺麗な肌が傷ついちゃうでしょう!?

ありえません!!

「よーし。今度ちょっと見てみようかな」

「咲さん!」

「ぅわっ!?急に大きな声で……なに?」


「そんなに縛られたいのなら私が縛って差し上げますよ」

「急にどうしたの?」

「それまで誰かに縛られるのはもちろん自分で縛るのもだめですからね」

「う、うん」

「では私は準備があるのでこれにて」

「ええ?ちょっとー」


――再び数日後


「麻縄?」

「ええ」

やはりビジュアルは大事ですからね
処理(なめしと言うらしいです)をしてあるものなので大丈夫です

「随分長いんだね」

「7m前後が一般的らしいですね」

「へぇ~すごく一般的じゃない一般だね」

「そうですね。普通の人は知らないでしょうね」

私も出来れば知りたくなかったです


「じゃあ脱いでください」

「え!?」

「制服が皺になっちゃいますからね」

戸惑う咲さんもかわいいですね!

「嫌ならいいんですよ。もう言いません」

「そうは言ってないじゃない。ただいきなりだったから……」

「早くしてください」

「う、うん」


今回は菱縄縛りにしましょう
自縛できるくらいには簡単ですし

私もやってみましたけど、あまり束縛感はないですが
それでも縛られているという違和感はありますし

「脱いだよ。え、と……」

「咲さんは立ってくれていればいいですよ」

「うん」


……ふぅ。こんなものですかね
縛られてる咲さんもいいですね

「これでいいの?」

咲さんはちょっと不満げ
もっと拘束されるイメージだったのかもしれませんね

そんなの学校で出来る訳ないでしょう
これだってギリギリですよ。ギリギリアウトですよ!

「はい。もう少しきつくすることも出来ますけどね」

これは跡が残らないし、上から服を着て動けるってのがポイントなんですよ


「では制服を着てください」

「え」

「もう部活が始まっちゃいますからね」

「このまま行くの!?」

「何か問題が?」

「いや、だって……」


「ばれませんよ。咲さんが普段通りにしていれば」

「そうかな。大丈夫かな?なんかドキドキしてきて普段通りってのが無理っぽいんだけど」

「ほら行きますよ」

「ちょっと聞いてよー」
「うわっ歩くと擦れるよ!結び目?が……」

「そういうものなんですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「すみません。遅れました」

「お、来たわね。じゃあ始めましょうか」

「はい」

咲さんは大丈夫ですかね……
ちょっとぎこちないですが、ばれることは無いでしょう

こちらをチラチラ見てますが、あえて無視して私は麻雀に集中です

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

半荘が終わった後の休憩時間に部長が手招きをしている

「咲、ちょっと」

「はい」

「これこの前の牌譜なんだけど……」

何を話しているんでしょうか。ここからでは聞き取りにくいですね


「それから……」

一瞬こちらを見た部長と目が合った
含みのある笑みを向けられる

咄嗟に目を逸らしたが、やはり気になってしまい、盗み見ると
咲さんの耳元で何事か囁いています

大丈夫でしょうか……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「うぅ~疲れた……」

「無事終わって良かったですね」

「ほとんど座ってたから何とかなったけどさ」
「これはちょっと無茶だったかもね!」

どこか変なテンションになってますね


部長には感付かれていたような気もしますが……
咲さんも気にしていないようですし、始めから知られていたんでしょうか?

探りを入れるべきなのか……
でも相手は部長、藪蛇になりかねませんし


「……咲さん」

「んー?」

「今日の部長のことなんですが、何を言われていたんですか?」

「どんな状況でも平常心で打てるように練習してるの?えらいわね。ってたしなめられちゃった」

「やっぱり部長は気付いていたんですね……」

私の心配をよそに咲さんは事も無さげに言う

「ああ、気にしなくていいよ」


「部長は以前から?」

「まぁ、ね。でもそこら辺はお互いに不干渉だから」
「今回は部長として言わなきゃいけなかったんだろうけど」

「やはり部活中はいけませんね。部長が怒るのも当然です。思慮に欠けていました」

「うーん。そうだね……でも部長が誰かに言うってことはないから、そこに関しては大丈夫だよ」

「随分と信頼してるんですね」

「私も部長も似てるとこがあるし、そういう意味では信用はしてるよ」

……咲さんが信用していることと私が信じられるかどうかは別問題です

勿論私だって麻雀部の部長としては信頼しています
ですがこの事に関しては私はまだそこまで信じられません

もう知っているのであれば、一度話してみた方がいいかもしれませんね


「それより和ちゃん。これ解いてよ」

「……解くのも面倒なのでこのまま帰りますか」

「ええ!?」

何故嬉しそうなんですか

「やっぱり解きましょうか」

「ええ……」

残念がらないで下さいよ……


この数日間で分かったことは
この状態の咲さんは私の言うことには従ってくれるということ
喜ばしいことではありますが、危険でもありますね

咲さんに喜んで貰おうにも許容範囲が広すぎると加減が難しいというか

咲さんの許容範囲よりも世間の常識の方に先にぶつかる感じが……
それとも私の常識がおかしいのでしょうか?


……この縄には咲さんの汗が……一度くらい使っても……
いやいや、きちんと拭いて陰干ししなければ……
でもその前に少しだけ……


――またまた数日後


「そういえば咲さん、もうすぐ誕生日ですね」

「あー、そういえばそうだね」

「何か欲しいものありますか?」

「首輪が欲しいな」


「え?すみません。よく聞き取れなかったので、もう一度お願いします」

「首輪が欲しい」

「……チョーカーのようなものってことですか?」

咲さんもオシャレに興味が出てきたんですね!

「いや首輪」


「……咲さんは何かペットでも飼い始めたんですか?」

「やだなぁ、飼い始めたのは和ちゃんでしょ」

頭が痛くなってきました……偏頭痛でしょうか

「首輪なんてそうそう売ってないでしょう」

「ペットショップに売ってるでしょ?人用はないかもだけど」

「……」

「分かりました。私が咲さんに似合うものを見繕ってきます。それでいいですね?」

「うん!」

いい返事ですね……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ふぅ」

犬や猫用のは当然却下として、調べてみると結構ありますね
でも咲さんはファッションとして普段使いできるようなものでは満足しなさそうですし……

いや、流石に普段は使わないでしょうけど……
ギリギリのラインを狙っていきましょうか

咲さんの可憐さが引き立つような可愛いものがいいですね


しかし、これはどういう時に使うんでしょうか……

従属や支配という意味でなら贈ってつける行為そのものに意味があるんでしょう
でもそれなら、それこそネックレスやチョーカーで事足りるでしょうし

咲さんが首輪に拘る理由……あまり考えたくないですね


南京錠……リード付き……手枷足枷……うーん

特注で作って貰えたりもするんですね
なるほど。その人専用のものになるわけですね

ちょっと細身で、革だと色はベーシックに黒か
少し暗めのオレンジってのもアリですね


――誕生日当日


「うわーすごいね!」

「咲さん専用ですよ。気に入っていただけました?」

「もちろんだよ」

「良かったです。咲さん、いいですね。付けますよ」

「うん」


覚悟はしてきたはずなのに手が震える
これを付けてしまえば私と咲さんの立場がより明確になってしまうようで

「和ちゃん」

そんな私の手を包み込む咲さんの手
顔を上げると柔らかな笑みを浮かべていた

ああ、その笑顔はもっと別のシチュエーションで見たかったです


何とか首輪を付け終わると咲さんはそわそわしだしました

「手鏡で良ければどうぞ」

「ありがとう」

へーふーん、なんていろんな角度から覗き込み、ご満悦の様子

大変喜んでいるのは嬉しいことですが
本当にこれで良かったんでしょうか……





あ、ちなみに私の誕生日には咲さんを頂きました
いつもより積極的な咲さんは最高でした


――一ヶ月前


「和ちゃん。誕生日プレゼントなにがいい?」

「それ聞いちゃうんですか?」

「聞いた方が本当に欲しいものがあげられるでしょ?」

「それもそうですね」

「何が欲しい?」

と無邪気に覗き込んでくる咲さんにちょっと冗談でも言ってやろうかと思っただけだったんです


「咲さんが欲しいです」

「え?私?」

目を丸くする咲さんも良いですね!

「なんて冗談で」

「……わかった。じゃあ私をあげるよ」

「え」

今度は私が目を丸くする番でした


「どうしたの?」

「本当に?いいんですか?だって……」

だって私たちはそういうことにはならない関係だと思っていたから

「そういうことですよ?」

「そういうことだけど?」

曖昧ではあるが咲さんは私と自身を主従のような関係に仕立て上げようとしているようだった
そういう関係の人たちが一線を越えることはあまりない


「和ちゃんにはお世話になってるしね。それにお誕生日だから」

よく分からない理屈でしたが、私が断る理由は無かったのです

「じゃあ、ゆっくりしたいから誕生日近くの連休で会おうか?誕生日の方がいい?」

「連休で!空けておきます。いや予定なんかないです」

有っても無くても関係ないです!

「分かったよ。じゃあ細かいことはまた追々」

「はい!」


当日は私の家での逢瀬となりました

もう来る頃でしょうか
部屋は片付けましたし、見つかって困るようなものはないはず……

突然チャイムが鳴る。当然ですね。チャイムは突然なるものです

ドアを開けると、買い物袋を持った咲さんが佇んでいました

「ちょっ、それ……重いでしょう。私が持ちますよ」

「いいよいいよ。和ちゃんは今日は何もしなくていいからね」


「なんで……」

「あれ?言ってたでしょ?」

確かにキッチンを使わせてくれとは聞いていましたが

「お買い物に行くなら私もついていきましたよ」

「お誕生日様に荷物持ちみたいなことさせられないよ」

お誕生日様?

「入っていい?」

「あ、どうぞ」

「お邪魔します」


取りあえずダイニングへ案内

「冷蔵のものは冷蔵庫に入れておきましょう」

「あ、これ……タルトなんだけど」

「タルトですか?」

「うん。ケーキは当日食べるだろうから、こういうののほうがいいかなって」

「ありがとうございます。ではこれも入れておきますね」

「うん」


キッチンで作業をしている咲さんの背中を見ているだけで私は幸せでした

エプロンを揺らし手際良く料理を作っていきます
なんて可愛らしいのでしょうか!


「和ちゃんみたいに凝ったのは作れないけど」

「そんな事ないですよ!素晴らしいです!」

「はい、和ちゃん」

「え?」

「あーん」

あーんって、あーんって、あああああ!


「いただきます」

「どうかな?口に合えばいいんだけど」

「美味しいです!」

「そう、良かった」

咲さんは天使!!

これがユーフォリアというものなんでしょうか


言わばこれは幻想なんです
咲さんが私の理想に寄せてくれているだけ

咲さんの言葉を借りるなら今日私がお誕生日様だから

明日からはまた元に戻るんでしょう
それでもいいと思えてしまう私はもう駄目なんでしょうか


「お風呂、一緒に入りますか?」

「えーちょっと恥ずかしいなぁ」

いいんですか!?やったー!!


あまり自己主張しない、慎ましい咲さんの身体に目を奪われる
すべすべの肌。そのもち肌に吸い付けられるように私は手を伸ばす

「咲さん……」

「ちょっ、ちょっと待って」

「咲さん」

「待ってってば、こらっ」

「……」


「もう、風邪ひいちゃうよ。そういうのはお風呂あがってからお部屋で、ね?」

「うう」

「今はゆっくり温まろうよ」

「はい……すみません」





その後のことを申し上げるのは控えますが

ただただ幸せな一日でした


――時間は戻って咲さんの誕生日後日


「折角首輪貰ったんだし、お散歩したいなって」

「お散歩ですか。気分転換にもなりますし、健康にも良いですね」

「だよね!」

「だから首輪はしなくていいんじゃないですか」

「首輪をしなきゃお散歩じゃないよ!」

「そんなことないでしょう」


「せめて首輪だけでもさせてよ」

「首輪だけって……捕まっちゃいますよ!ただの痴女じゃないですか!」

「和ちゃんには言われたくないよ。年中痴女みたいな格好してるのに」

「それは言わない約束でしょう!?」

「龍門渕の国広さんだって……」

「長野では服を着ていればセーフなんですよ……多分」

「服っていうかもう布だよね」


「咲さん、だめですよ」

「いやぁ、さすがに私も普段からああいう格好したいとは思わないよ」

「そうですよね」

「やっぱり非日常感が大事じゃない?」

「そう……ですかね」


「情緒ってものが無いとね」

「情緒!?」

「趣を大切にしないとね」

「趣!?」

そんなもの始めからない!

「気持ちが大事ってっことですよね?」

「そうそう、背徳感っていうかさ、後ろめたさっていうか、そういうのだよ」
「あれでお天道様の下を歩くのは私の感覚とはちょっと違うよ。否定はしないけどね」


「という訳で、夜のお散歩したいな」

「ちょっと待ってくださいよ。危険すぎます」

「大丈夫でしょ」

何を根拠に……

「和ちゃんが居れば」


「……分かりました。お散歩コースは私が決めます。いいですね」

「うん!」

このやり取り……既視感が……
いや、既視感ではなく本当に二度目ですね……

「ですが少し時間がかかるかもしれませんよ」

「和ちゃんが待てって言うならいくらでも待つよ」


お散歩と言っても首輪を付けて歩くだけでしょう
首輪だけなんて冗談で、咲さんも本気ではないはず
それ以上となるとどちらかの部屋かそういう所でないと無理です

人通りのない場所、時間帯、緊急時の避難場所がある、これが最低条件でしょうか……

……やはり時間がかかりそうですね。これはちょっと保留の方向で
咲さんも無理にとは言わないでしょう


――ここで不安だった部長との対話をすることに


「お呼び立てして申し訳ありません」

「いいのよ~暇だったし。どうしたの?」

「以前の部活動で、咲さんとのことで」

「ん?」

「部活に不要なものを持ち込んでしまったことです」

「ああ。そんなこともあったわね」

「申し訳ありませんでした」


「別にいいんじゃない?あれはあれで良い練習になったと思うわよ」

いやだめでしょう

「まぁ咲にも言ったし、済んだ話よ」

「そうですか……」

「それで?」

「え」

「何か他にも言いたい事あるんじゃないの?」


「――部長は以前から知っていたんですよね」

「まぁ、ね」

「それならなぜ部長ではなく私だったんでしょうか」

「それは咲に直接聞いた方がいいんじゃない?というかまだ聞いてなかったの?」

「機会が無かったので」

「機会は自分で作るものよ」
「私は和みたいに優しくないから敬遠されたのかもね」


「咲さんは部長が自分に似ているところもあると言っていましたが」

「ふーん。咲がねぇ……それは光栄ね」
「小賢しいところ、とかかしら」

「小賢しいって……もう少し言い方が……」

「そうかしら。私たちを表すのにこの上ない形容だと思うけど?」

答えに窮するようなこと言わないで下さいよ


「それも咲に聞いてみたらどう?面白い答えが返ってくるかもね」
「ちょっと興味があるわ」

「それはいいんですけど……」

「あの咲が身を委ねたんだから、答えは出てるようなものじゃない」

「そう、なんでしょうか」

「私に確認するより、咲に確認した方が早いでしょうに」

「やっぱりちょっと怖いんです」


「それで私に背中を押してほしいと?」
「私が何を言ったところで咲の答えは変わらないわよ」

「そうですけど!そうなんですけど……」

「気持ちを確かめたくて言葉がほしいけど、はっきりと『便利だから』と言われるのが怖いと」

「はっきり言わないで下さいよ」

「そうねぇ……」


「こういっちゃ元も子もないかもしれないけど、言葉なんていくらでも偽れるわよ」
「気持ちは見えないけど態度には表れる。なんてのも聞くけど、それもまた然りね」

「……」

「でもどんなに取り繕っても綻びは出るわ。それが解からない和じゃないでしょ」

「和と咲がどんな関係を築いてきたのか、全部は知らないけど、少しは知ってるわ」
「これまでの時間は嘘じゃないでしょう?」

「私を信じろとは言えないけれど、自分と咲と、その時間を信じてあげなさい」

「……そうですね。ありがとうございます」


「頑張ってね。フラれたら慰めてあげるわよ~」

「縁起でもないこと言わないで下さい」

「じゃあ無事成功したら盛大に祝ってあげるわ」

「それもやめて下さい」

「あらワガママねぇ」
「ほらほら、行くなら早く行きなさい!」

「あ、ちょっとまって下さいよ」

「時間は待ってくれないわよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「若いっていいわねぇ」

「??なにをいっとるんじゃ?」

「いや、あの子たちを見てるとね」

「ローン!!我 最強!」

「ぎゃー!!」

「優希。点数申告!」

「ははは……」


「あいつらはうるさいだけじゃろ」

「そうねぇ。でも暗いよりは明るい方がいいでしょ」

「しかしもうちょっと落ち着いてくれんかね」

「いいじゃない麻雀部がこれまでを取り戻そうとしてるのよ」

「……あんさんが一年、わしがきてからもう一年、こんなに騒がしいことはなかったな」

「私たちも騒いだ方が良かったかしら?」


「先輩がしっかりしてるから後輩が多少バカやれる」
「部長が騒いだら収拾がつかんくなるじゃろ」

「じゃあその役まこがやってよ。私もたまにはバカやりたいわ」

「あんたがバカやるとか恐ろしいわ!わしには荷が重すぎる」

「ええ~そんな酷いことはしないわよ。ちょっとイタズラするくらいで」

「そのちょっとイタズラが怖いんじゃって」


「……でも来年はまこが部長よ。私だって引退するし」

「……」

「そんな顔しないの。大丈夫」
「まこなら、まことあの子達でならやれるわ」

多分……ね

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「小賢しい?ふふっ部長はうまいこと言うね」

そういう反応が正解だったんですか?

「うーん。部長が端的に表し過ぎてて、それ以上の答えを思いつかないや」
「残念だけど部長の期待には沿えそうにないよ」

「そうですか。いや、それはどうでもいいんですが……」

「バッサリぶった切ったね……」

「え~と……ですから、その」

「うん?」


「咲さんはどうして私と、その、そういうことをするんでしょうか?」

「???どうしたの?和ちゃん」

要領を得ない私の言葉に、咲さんは少し考えるようにわざとらしく首をかしげる

「いや、咲さんは私の事どう思っているのかな~なんて……」

「……そういえばまだ言ってなかったね」

「好きだよ。和ちゃん」

なんてあっさりと言うんだろう

「え、マジですか」

「うんマジだよ。大マジ」


「和ちゃんそれで悩んでたの?いやー気付かなかったなぁ」

「絶対気付いてたでしょう!」

「だって聞かれなかったから」

「イジワルですね!」

「何だって言わなきゃ分からないよ」

「それは……!」


「私もまだ和ちゃんから聞いてないんだけど?」

あ……そうか。そういうことか

「好きです。咲さん。大好きです。愛してます」
「白い肌、丸い目、柔らかな声も、この匂いも、その優しさも、儚げな」

「あーうん。ありがとう。嬉しいよ」

あれ?遮られてしまいました……
言葉が欲しかったのでは?


「ごめんね。私の我儘に付き合せちゃって」
「和ちゃんが不安になってるのは気付いてたんだけど」

「やっぱりこういうのは」

「何の問題もありませんよ」

私が不安だったのは咲さんの気持ちに確信が持てなかったから
好きだと言ってくれるのなら何だって

「ほんと!?じゃあ……こういうのしたいんだけど」

「……却下です」

「えぇ~」

レベルが高すぎます!

「危険なのはダメですよ」

「むー」

もう不安になってきました……




長々とすみません
お付き合いいただいた方、レス下さった方、ありがとうございました

タルトの行方を忘れていました

和と咲さんで美味しくいただいた後、余ったものは和が大事に冷蔵庫へ
それを食べてしまった恵さんと多少の小競り合いの末、冷戦状態へ
最後には恵さんが折れる形で和の誕生日に平和条約を結んだようです

どうでもいいかもしれませんが
タルトどこ行った?と思った方がいたらいけないので……

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