女「今日は万愚節だな」(23)

女「今日はどんな嘘をついても許されるからな」

女「だので、幼馴染をからかってみることにしたのだ」

姉「……はぁ……あのね、エイプリルフールは……」

女「おっと、皆まで言うな姉者。解っている、午前中しか嘘をついてはいけないのだろう?」

姉「そうじゃなくて……」

女「おっと、そろそろ行かねば幼馴染を待たせてしまうな。では姉者、行ってくるぞ」サッ

姉「ちょ……あーあー、大丈夫かな、アイツ」

女「む……既に待ちあわせ場所にいるとは……おーい!」タッタッタッ

女「……ふぅ、待たせたな」

男「気にすんな、俺もさっき着いたばっかりだ」

女「と言いながらお前は長い時間待っていたりするからな。具体的にはどれだけ待ったんだ?」

男「こっちに来てから時計を見てないからな。一応、待ちあわせの10分前には来れるような時間に出たけど……」

女「なら然程問題はないか。彼氏を待たせるわけにはいかないからな」

男「ああ、彼……は?」

女「うん?どうした?」

男「いや、お前今、彼氏って……」

女「うん?何か間違ったことを言ったか?」

男「え?いや?うん?」

女「おっと、バスが来たな。早く乗り込もう」

男「お、おお……」

女(ふふん、この反応。からかいがいのある奴だ)

女(そう、私の考えたこいつをからかう方法は『男女の関係ごっこ』だ)

女(普段から私達は仲の良い友達同士だ。昔から兄妹のように遊んできた。が、私達は血の繋がらぬ男女だ)

女(つまりそうした関係になっても不自然ではない。実際はそうではないがな)

女(異性に耐性のない幼馴染はちょっとそんな関係を仄めかしただけで既に浮足立っている)

女(だがまだ万愚節は始まったばかりだぞ?)

バス内

男「な、なぁ……」

女「どうした?ああ、昼食の話か?安心しろ、愛するお前の為においしい弁当を作ってきたぞ」

男「愛……っ!?」

女「何を驚いているんだ?」

男「いやっ、いやいやいや、ちょっと待て!一体いつから俺達はそんな関係に……」

女「ふぅ、何を言っているんだ」

女(と、ここで艶めかしく幼馴染の耳に口を近づけてだな、)

女「今まで何度も、あんなに愛を確認し合ったではないか……」

女(と言うとだな、)

男「な、ああっ、あ……!?」

女(真っ赤になるというわけだ。くっくっく)

遊園地前

女「では行こうか」

男「あ、ああ……」

女「最初は何に乗るんだ?」

男「お、お前の乗りたいものでいいよ……」

女「ふぅ……お前はいつもそうだな。いつもデートの主導権を私に渡すのだ」

男「デッ……!」

女「二人で買いものに行く時も私の欲しい物ばかりでお前の好きな物は全然見ないじゃないか。たまにはリードしてほしいものだな」

女(ふふふ、我ながら良い演技だ。情けない彼氏に呆れる女といったところか。……まあ少し本心も混じっているが)

男「じゃ、じゃあそうだな、定番ってことでコーヒーカップでも……」

女「なんだ、ちゃんと決められるじゃないか。いつもそうだと私としても嬉しいんだがな」

コーヒーカップ

女「ふふふ、まわりにも人がいるが、こうして向かい合って座っているとまるで二人っきりのようだな」

男「な、何言ってんだよ……ま、回すぞ?」

女「ああ、そうしてくれ。それにしても、人があまりいないな」

男「そりゃ……春休みって言ったって平日だからな。家族連れとか子供は来ないだろ」

女「ああ、だから私たちのようなカップルだらけだということか」

男「んなっ!?お、俺達みたいって……!」グルングルン

女「おいおい、あまり早く回し過ぎるなよ?目が回ってしまうじゃないか」

女「まったく、回し過ぎだろう」

男「お、お前が変なこと言うから……!」

女「私が何かおかしなことを言ったか?……む、今日はお化け屋敷はやっていないのか」

男「そ、そりゃシーズンじゃないだろうし……」

女「そうか、残念だな。折角怖がったフリをして抱きつこうと思ったのに」

男「は……はぁ!?」

女「まあいいか。それは家に帰ってからでもできるからな。今は手だけで我慢するか」ギュッ

男「おっ、おい!?」

女「何を慌てているんだ?このままエスコートしてもらおうというだけじゃないか」

女(くっくっく、手くらい普段から繋ぐというのに、少し前後の会話を工夫しただけでこの反応。やはりからかいがいがあるな)

女「しかし、彼氏として情けないと思わないか?いちいち私からしないと解らないとは……」

男「な、なんなんだよ、お前今日、本当に……」

ジェットコースター

女「……これは意趣返しかな?」

男「いや、やっぱり遊園地に来たからには乗りたいかな、って……」

女「ふ、ふん。まあ、お前に任せたのは私だ。付き合うさ」

男「嫌なら無理に乗らなくても……」

女「お前は彼女を待たせるつもりか?」

男「だからお前今日……はぁ、わかったよ……」

女「まったく、言われなければ解らないとは……彼女として、本当に情けないぞ」

女(まさかな、こんなに早く苦難が来るとは……)




ギャー!シンデシマウー!

女「う、うぅ……」グッタリ

男「お前怖がってたわりに両手あげてたな……」

女「パニックで体が動いてしまうんだよ……」

男「んなアホな……」

女「うぅ、ダメだ、少し背中を借りるぞ……」ピトッ

男「ちょっ!?」

女「そ、そこのベンチまで頼む……」

女(うぐぅ……気持ち悪い……)

女(……さっきのは何も考えていなかったがなかなかおもしろい状態だったんじゃないか?もう一度あんなチャンスがないだろうか……)

男「お、落ち着いたか?」

女「……ふむ、何か飲み物が欲しいな」

男「じゃ、じゃあ俺の分もまとめて買って来るわ。何が飲みたい?」

女「ふむ……お前は何を買うんだ」

男「俺はコーラかな」

女「じゃあオレンジジュースを頼む」

男「じゃあ、ってなんだよ……まあいいや、買ってくるぞ」

女「ああ、頼む」

女(ふっくっく、買ってきたら飲み比べとか言って間接キスをしてやろう、どんな反応をするか楽しみだ)

男「やっぱこういうとこのジュースって割高だよな」チュー

女「人件費だろうな」チュー

女(……よ、よし、このタイミングで切りだすぞ……)

男「あ、そろそろ大丈夫か?」

女「あ、ああ。体調は問題ないぞ」ビクッ

女(くっ、タイミングが……よし、今度こそ……)

男「そうだ、次はどこ行く?そろそろ昼になるけど」

女「そ、そうだな、どうするか」ビクッ

女(くっ……こいつ、間接キスは少し恥ずかしいから心を決めてから言おうとしているというに……言おうとしたタイミングで言葉をかぶらせてくる!)

男「11時、あーとよんじゅう……そろそろ正午か。少し早いけど飯にするか」

女「その前にあれに乗らないか?」

男「あれ、って……観覧車か?まあ別にいいけど」

女「そうか、実は少ししたいことがあってな」

女(くっくく、頂上近くに着く頃にはおおよそ正午だろう。少し早いか遅いか……それは解らないが、種明かしにはいい時間だ)

男「……」

観覧車

女(くっくく、まだ笑うな、堪えるんだ……)チラッ

男「……」

女(ふ、ふふ、ダメだ、顔を見るとこの後の呆けた顔を想像して笑ってしまいそうだ……目、目を逸らすんだ……ぷっ、くく……)

男「……ん、そろそろ頂上か」

女「お、もうそんなところか。全然外を見ていなかったよ」

男「ああ、さっきから見てて外を見るために乗ったのじゃないってのは解った。やりたいことがあったんだろ?」

女「ああ、というのはだな……」

男「いや、いい、解ってる、皆まで言うな」スッ

女「おや、気付いていたのか?意外だな」

男「ああ、まあこれが正解かは解らんが、今回ばかりはかなり自身あるぞ」グイッ

女「ふぅ、よもやバレるとは……ってなんだこの手は、顎を持ち上げたりして……あれ?顔が近いぞ?どうし」

ちゅっ

男「……こっ、これでいいよな?」

女「……ん?」

男「った、たくっ、彼氏彼女で二人きりで観覧車で……ってなれば他にないからな!いくら俺でも解るよ!」

女「……あれ?」

男「っ、そ、そんなまじまじ見んなよ……恥ずかしいだろ!」プイッ

女「あ、ああ……そ、そうだな」

男「お、観覧車終わりだな……よ、よし!メシにしよう!」

女「あ、ああ……」

その後のことは、正直言ってあまり覚えていない。気付いたら、家の前だった

女「……あ、あれ?」

男「ま、まさかな……お、お前が俺の事をな、そう思ってたなんてなー……」

女「え、いや、えーっと……」

男「いやっ、正直言うとな!本当は今までそんなこと考えなかったんだよ!でも今日、お前のことすっごくかわいいなーって!」

女「あ、ああ……」

男「は、はは、明日からもよろしくな!じゃあな!」

女「あ、ああ、解った……」

部屋

女「え、いや、まさか……え?」

女「落ち着け、何が起こったのか整理しよう」

女「まず、私が幼馴染をからかった。そしたら、幼馴染が本気になった」

女「で、キスされた」

女「……」

女「おおおおおおおおおおおおおおっ!?!?!?!?」ガタッ

女「えっ、嘘、えっ!?」

女「し、しかもこれはあれだな、付き合うことになった、というワケだよな!?」

女「――――――――!?!?!?!?」ボフッ、ジタバタジタバタ ←ベッドに飛び込んだ

姉「ただいまー」

女「あねっ、あねじゃっ、あねじゃあああああああああ!!」

姉「うお、すごいテンション」

女「きょ、今日は万愚節ではなかったのですかぁ!あいつをからかったら本気にされたのですがぁ!付き合うことになってるみたいなのですがぁ!」

女「でっ、ですがっ!あいつが本気にしてただけでっ!今日はエイプリルフールだったと言えばっ!今からでも誤解をっ……!」

姉「……あのさぁ……」



姉「今年からエイプリルフールが一日遅れることになったっていうの、あれ嘘だから」

女「……えっ」

姉「だから彼、エイプリルフールで騙された、なんてこと考えもしなかったんじゃないかな」

女「……えっ、えっ……」

姉「それに本当にエイプリルフールじゃないし、そんなこと言っても相手にしてもらえないでしょ」

女「あっ、あう……!」

姉「まあでも別にいいでしょ?あんた彼のこと好きみたいだし」

女「あ、う……!」カァァ

姉「私の嘘がキューピッドになったわけか。はいはいごちそうさまごちそうさま」

嘘の関係が、本当になってしまった。
今にして思えば、あの演技は。
私の秘めた願望であったのではないかと思っている。

……今は、ちょっとだけ時間がかかるが、割とすぐに願望が叶う毎日だ

20レスぴったり
なんか今年のエイプリルフールは総霧省の要請で延期になったって某革命軍から聞きだしたので書いた
天然系でクールなサドっ気美少女をめちゃくちゃにしたい。 いじょ

おつ。面白かった。

乙(^ω^)
サラッと読めるとこがいいな

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