老婆「私、恥ずかしい」(50)

男「危ないぜ。手を持つから」

老婆「ごめんね。階段を歩くのも大変になっちゃったのよ」

男「合わせるから気にするな」

老婆「えっと……切符の買い方は」

男「解るか」

老婆「解らない……解らなくなっちゃったよ」

男「問題ない。行き先は覚えてるか」

老婆「覚えているよ。××公園」
老婆「私たちが初めてキスした場所だね」

老婆=お舟さん

男=三河屋のサブちゃんか甚六さんで想像してみ

―電車内

男「はい、席を取ったぜ」

老婆「男くんも座りなよ」

男「いや俺は立っているよ」

老婆「……」ポロポロ

男「お前はさ、ご飯を少ししか食べれないだろ。俺はたくさん食べる。それだけのことなんだよ」

老婆「何を言っているか解んないよ」

男「……」

男「そうか」

―公園

老婆「座らせて」

男「ああ、休もう。ここからなら海が見えるし」

老婆「きらきらとしているね。海が。それに晴れた空」

男「ああいい天気だ」

老婆「あの時のこと覚えてる」

男「覚えてるよ。あの日もよく晴れていたな。俺たちが座ったのは……あそこか」

老婆「ええ。ええ」

男「君は犬が好きだもんな。なんだっけ、あの顔が尖った……」

老婆「ボルゾイよ」

男「散歩するボルゾイを見つけた。大きな犬なのに君は物怖じせずに撫でた。びっくりしたな」

老婆「ボルゾイは人なつこいと聞いていたから」

男「俺はすごい人だなと思ったんだ」

老婆「ありがとう。ねえ背中をさすってよ」

男「どうした」

老婆「なんだか胸が苦しいの」

男「解った」

中年女性「あの大丈夫ですか」

男「え。はい、身体的なものじゃないと思うので大丈夫です」

老婆「すみません。ありがとうございます」

中年女性「そうですか。なら良かった。お孫さんとお散歩ですか。いいですねえお優しいお孫さんで」

老婆「……」

男「いえ、ちがいますよ。恋人です」

中年女性「……」





老婆「怪訝そうな顔をしていたね。でも嬉しかった」

男「なら良かった」

老婆「ねえ見て」

男「うん」

老婆「船が出ていく」

―老婆家

男「ただいま戻りました。疲れて寝てしまったので、タクシーで帰ってきましたよ」

母「そう。ありがとうね。ほら、老婆ちゃん。何時までもおぶられてないで起きなさい」

老婆「うん?お母さん……ただいま」

母「寝るならベッドで」

老婆「解ったよ。あのね、男くんとのデート楽しかったよ」

母「そう良かったねえ。老婆ちゃん」

男「ああ、ついてくよ。すみません。あがらせて頂きます」

―老婆自室、ベッド。

男「ほら横になって休め」

老婆「んふふー。ありがとう」

男「うるせー……部屋は大分、さっぱりしたんだな」

老婆「うん、辛いからね」

男「そうか」

老婆「ねえ……我が侭言っていい」

男「ああ、いいよ……ものによるけど」

老婆「あ、ひどい」

男「だって老婆、けっこう無茶苦茶さ……あー嘘だ。何でもやるよ」

老婆「あのねキスを……ごめん言ってみただ」

男「……」ちゅ

老婆「……ありがとう。ごめんね」

男「寝なさいお姫様。また明日も来るよ」

老婆「うん」

―老婆宅、リビング

母「今日はありがとうね。お茶をどうぞ」

男「いえ。暫く顔を出せなくて、申し訳ありませんでした」

母「来てくれただけで私は嬉しいわ」

男「はい。また明日、来ていいですか。今日みたいに外へ出なくても。話したいんです」

母「学校は?」

男「休みます。両親も納得していました……おばさん?」

母「……喜んで」

―次の日。老婆自室。

母「老婆ちゃん。男くんが来たわよ」

老婆「どうして私だけこんな目に合うんだ。おかしいじゃないか神様はいないんだ。私だけおばあさんになっていく。殺せ殺せさっさと私を殺せ。なんで私を生かしているんだ」

母「老婆ちゃん!男くんが来たわよ!」

老婆「……っ!あ、男くん。おはようー。パジャマだから恥ずかしいな」

男「……っ。いや可愛いよ」

老婆「私、太っちゃったんだ。お腹がねぽこんとしちゃうし、おっぱいだって……。だからこんなだぼだぼの買ってもらったの」

男「女はいつも可愛いよ」

老婆「ふふふ」

男「そうだな。今日はさ、本を持ってきたんだ」

老婆「私ね目が悪くなっちゃったの」

男「大丈夫。俺が読むから」

老婆「なら大丈夫かなあ。長いのはやだよ」

男「うん、短いのでいこう。どんなのがいい」

老婆「そうね。恋愛のお話」

男「恋愛か。それなら……」


( ;ω;)…

―老婆宅リビング

母「あら男くん」

男「老婆は寝ました。すみませんトイレを貸してください」

母「はいどうぞ」

―トイレ

男「……」がちゃん

男「うっ……うっ……うっ……うううう……うう!」

男「ううううう……」

―リビング

母「あの娘ね、あんな風に独り言を言うの」

男「はい」

母「せん妄ね。妄想があの娘を苦しめてしまうのよ」

男「いつからですか」

母「ずっと。ひどくなったのはここ1、2ヶ月ね」

男「俺が……俺はぜんぜん来れなくて……」

母「……私はあの娘の母として、男くんがこうして来てくれたことを嬉しく思うわ。ずっと考えてくれてたんでしょ」

男「でも……俺は怖くて、来れなくて」

母「来てくれただけでいいのよ」

男「……はい。……はい。また来ます。来させてください」

―夜。男、自室。

ルルル

男「はい。老婆友か」

女友『もしもし……老婆に会ったの』

男「うん。昨日はデートしてきたよ」

女友『はは。やるじゃん。休学したの。今日聞いて、びっくりしたよ』

男「ああ。老婆と過ごすって決めたんだ」

女友『ねえ、老婆はさ。どうなの』

男「変わらないよ。何にも」

女友『嘘』

男「でも変わらないんだ。今度さ、老婆がいいって言ったら、女友がいいなら遊びにいこうぜ」

女友『……解った。でも少し怖い』

男「大丈夫だよ」

―次の日。老婆宅。

男「昨日、女友から電話が来たよ」

老婆「本当……随分と会ってないなあ」

男「老婆は元気だって言っておいた」

老婆「浮気はいけません」

男「しねえよ。老婆一筋だから」

老婆「昔、女友ちゃんが男は浮気する生き物って言ってた」

男「ああ、あいつの選ぶ相手はな……」

パンツ脱いでいいの?

老婆「うーんたしかに」

男「今度、遊びに来ていいかって」

老婆「え。うーん」

男「いや?」

老婆「いやじゃないよ。いやじゃ。そうだなあ。またデートをしてくれるなら」

男「取引?解ったよ。じゃあ何処に行きたい」

老婆「そうねえ」

―リビング。

母「……」

男「おばさん帰ります」

母「……えっ。そう」

男「おばさん?」

母「ごめんなさいね。昨日はあんまり寝れなくて。疲れちゃったのよ」

男「老婆が?」

母「うん。でも頑張らなくちゃね」

男(おばさんの息が……酒の臭いだ)

男「はい。あのおばさん。無理はなさらずに。あの、また老婆を連れて行っていいですか。老婆が……」

―数日後。老婆宅

女友「緊張する」

男「普通でいいんじゃないの」ぴんぽーん

母「はい。あら男くん。すこし待ってね」ガチャ

男「こんにちわ。今日は女友と来ました」

女友「おばさん。ご無沙汰しています」

母「久しぶりね。来てくれて嬉しいわ。この頃はどう」

女友「はい。就職先を探していて忙しいです」

母「そう。そう……」

ハートにきっつい話の流れだけど…引き込まれるなぁ…

―老婆自室。

女友「眠ってるね」

男「うん。この時間は眠っているみたいなんだ。その内、目を覚ますから待とうか。すこし早く着いたしね」

女友「おばあちゃんになってるけどあの娘の顔だね」

男「ああ。しぐさもさ、変わらないんだ。腕があんまりあがらないみたいだけど」

女友「はは。おばあちゃんだ」

男「でもさ。変わらないんだ」

女友「そう……だね」

男「最近、こうして寝顔を見るのが楽しみなんだ」

女友「赤ちゃんみたいだもんね。昔から」

男「俺は寝顔をあんまり見たことがなかったけど」

女友「いつ?いつ?」

男「うるせー。でもさ、この眠りが老婆の体の老化を……」

女友「うん」

老婆「んん……」

男「あ、起こしちゃった」

老婆「男くんだ。おはようー」

女友「老婆。久しぶり」

老婆「女友ちゃんだ。久しぶり。来てくれたんだ」

女友「うん。来ちゃった」

老婆「私、おばあちゃんになっちゃったから恥ずかしいな」

女友「ほんと?気付かなかった」

老婆「嘘ばっかり。最近、どうなの」

女友「あのね……」

―1時間後

女友「て、ことがあったのよ」

老婆「はは。皆、相変わらずだね。私も学校にまた行けたらな」

女友「うん待ってる。あ、そうだ。これ」

老婆「なに?」

男「写真か?あー、文化祭の」

女友「そうそう渡しそびれたから」

老婆「わたしがおばあちゃんだからとおもってばかにしやがってわたしにたいするあてつけかわたしが」

女友「老婆?」

老婆「わたしはむかしみたいにきれいじゃないおとこくんもはなれていくんだわたしが」

男「老婆?老婆!」

老婆「こんなだからってわたしばかりがこんなめにあってころすのか殺すのか!殺すのか!」

女友「痛い!老婆痛い!」

男「おい、やめろ、あぶな」

老婆「」どしん

女友「老婆?!老婆!」

老婆「いたい足がいたい」

男「おばさん!救急車!救急車!」

―老婆宅。数字間後。近所。

男「はい……はい……ありがとうございます。また行きます。はい。では」

男「骨折だって。今は落ち着いているって」

女友「そうなんだ。良かった」

男「落ち込むなよ」

女友「老婆はあんな娘じゃなかった」

男「嫌わないでくれ」

女友「嫌いになんてなれない。でも」

男「老婆さ、女友が来るのを楽しみにしていたんだよ。本当だ」

女友「うん。昔みたいに話せて良かったよ。でも、あの娘があんな風になっているのが、とても哀しい。哀しいよ」

男「泣くな」

女友「こういう時は胸を貸して泣かせるんだバカ」

―1ヶ月後。老婆宅。

老婆「ねえ。食べさせて」

男「またか?自分で食べれなくなるぞ」

老婆「怪我をしてるからいいの!」

男「しょうがないな。はい、あーん」

老婆「……。……。美味しい♪」

男「そりゃ良かった。なあところで女友は」

老婆「あの女の話はしないで!」

男「……解った。何度も悪かった」

老婆「ねえ、それよりもデートしましょうよ」

男「ああ。前に約束したところ、まだ行ってないしな」

老婆「うん。行くのは……」

男「映画館」

―数日後。

男「映画、けっこう面白かったな」

老婆「うんそうだね」

男「寝てたくせに」

老婆「それよりも私、男くんを使わせてるみたいでいい気分」

男「そうか。俺も車椅子を押すのは楽しい。男のロマンだ」

老婆「ねえ。ああ言う恋愛っていいね。辛そうだけど」

男「見てたのか」

老婆「音だけね」

男「まあ、すこし泣いた場面はあったね」

老婆「ねえ。男くんも私が死んだら、ああなる?」

男「俺より先に死ぬな」

老婆「ねえ、キスして。寂しいよ」

男「人がいるんだが」

老婆「私がおばあちゃんだから」

男「解った」ちゅっ

老婆「ふへへ」

通りすがりの男性「おい貴様。お年寄りに何を」

男「やめてください。あなたが思っていることは何もないですよ。俺たち付き合ってるんです」

老婆「そうだ。おっさん。うるせーんだよ!」

男「老婆、言い過ぎだ。帰るぞ」

老婆「なんで皆邪魔するの!私は男くんといたいだけなのに!」

男「よしよし俺はいるからな。泣くな」

―老婆自室

男「ふぅー。じゃあ俺帰るぜ」

老婆「もうちょっといようよ」

男「また明日、来る」

老婆「お願い」

男「解った。少しだけな」

老婆「ねえ男くん」

男「なんだ」

老婆「抱いて」

男「こうか」

老婆「ちがう。hして」

男「……でもお前の体が」

老婆「大丈夫だよ」

男「大丈夫じゃないって」

老婆「しないとご飯食べない。自殺する」

男「出来ないよ」

老婆「お願い。お願いだから」





老婆「裸、綺麗じゃなくてごめんなさい」

男「……綺麗だよ」

老婆「おっきくなる?」

男「うん、大丈夫。ゆっくりと。少しだけな」

老婆「あっあっ」

男「う。 大丈夫か」

老婆「うん。苦しいけど。大丈夫。男くん」

男「ああ」

老婆「私、恥ずかしい」

老婆「男くんに見られて。繋がって。でも幸せ」

男「女っ!」

×「女っ!」

○「老婆っ!」

―幾ばくか経って

老婆「zzz」

男「おーい。おーい……寝たか」

男(俺は老婆の寝顔が好きだ。穏やかだから)

男(老婆が穏やかに眠れることが嬉しい)

男(そして眠りが憎い)

男(この眠りが老婆の老化を加速させるから)

男(あとどれくらい一緒にいられるんだ?)

―リビング

男「おばさん帰ってたんですか」

母「さっきね。二人は眠っていたから」

男「あ、はい」(気まずい……)

母「映画はどうだった」

男「あ、良かったですよ」

母「あの映画面白いのね。ねえ男くん。悩みを聞いて、貰っていい」

男「喜んで」

母「ありがとう。あのね……。……呑ませて」ぷしゅ

男「どうぞ」

母「男くんから見て、今のあの娘はどう?」

男「今のですか」

母「ええ」

男「そうですね……情緒が不安定になってるみたいです。それに前できたことが出来なくなっているような」

母「そうね」

男「でもそれが老いだから。老婆は老婆だから。俺は老婆がやりたいようにやらせようと」

母「ええ……そうね。ねえ男くん。私、ときどき思うのよ。老婆があんな病気にかかってしまったのは私のせいじゃないかって」

男「そんな」

母「私に欠陥があったから。私がシングルマザーだから。私のあの娘への愛が足りなかったから。私が」

男「ちがいます。病気なんです。ただの不幸な偶然なんです」

母「思ってしまうの。そう考えると、あの娘のことを考えると寝れないの。老婆がどんどん弱くなっているのを見ていると」

男「おばさんは俺とちがって、老婆から逃げなかったじゃないですか。そんなに悩むほど愛している。だから、そんなことはないんです」

母「……」

男「……出すぎたことを言いました」

母「男くん。ありがとうね」

胸が…いてぇ

―次の日の昼

ルルル

男「ん。あ? もう昼! はい、もしもし男くん」

母『男くん!老婆の熱が出て、ぜんぜんさがらないから、いま病院に』

男「そんな。老婆は」

母『お医者さまはもしもの場合もと』

男「解りました。今から行きます!」

―次の日。

母「老婆は峠は越えたと」

男「良かったです。本当に」

母「はい。ジュース」

男「ありがとうございます。はは。美味いですよ」

ハッピーエンドだよな?
だよな…?

なんか涙出てきた…幸せになってほしい。

母「あの娘ったらこんなに心配させてね。叱らなきゃ」

男「まったくですよ。早く目が覚めるといいですね」

―更に数日後。病室。

男「失礼します」

老婆「……」

男「見舞いに来たよ。君は心配をかけすぎだ」

老婆「……」キョロキョロ

男「でも元気になって良かった」
老婆「……看護婦さん!看護婦さん!」

男「また何処かへ行こうよ」

老婆「看護婦さん!看護婦さん!来ない!来ない!」

男「君と過ごしたいんだ」

老婆「あああああ!」

男「君を幸せにしたいんだ。ねえ落ち着いて」

老婆「……っ。???」

老婆「あなたは誰ですか?」

男「はは……聞いてたけど、きついな。覚えてないかな。俺は君の恋人なんだ」

老婆「解らない」

男「解らなくてもいい。俺は君を最後まで支える」

老婆「解らない」ぽたぽた

男「解らなくてもいい。幸せにする」

看護師『老婆さん、目が覚めたんですが、認知の方が……』

男「幸せにするから」









―2年後

―喫茶店。葬儀から数日後。

男「ああ、老婆の顔は穏やかなものだったよ。苦しみはなかったろう。だってさ」

女友「ええ。綺麗な顔だったわね」

男「皆に言うのかもしれないけどな。でも俺はそれを信じることにした」

女友「でもさ、男くんがこんなに尽くしたんだからあの娘も幸せだったよ。病気、だったけど」

男「ああ。あいつさ。ときどき笑ったんだ。その顔は昔と同じで。俺はそれだけで満足だったんだ」

男「あいつが俺たちと一緒でなくとも、生活を送れたことが俺は嬉しかった」

女友「男くんは?男くんは大丈夫なの。疲れて見える」

男「ん? ああ。大丈夫だよ」

女友「でも」

男「おばさんにもさ。これからは自分の為に生きてくれだって。考えるよ」

女友「それならいいんだけどさ」

男「でもさ愛した人がいなくなったらどうすればいいんだろうな」

男「穴が埋まらないんだ。穴ができてしまった」

男「どうすればいいんだろうな」

なんともいえねえ

女友と別れて、俺はいつものように歩いた。

その内にくたびれて、俺は道の端でしゃがみこみ目を閉じた。

瞼には何時かの公園が浮かんだ。

太陽を浴びて輝く海。出ていく船。そして老婆。

その姿は昔のものでもあったし、晩年の姿でもあった。

その内、何時か会えるだろう。俺はそれを楽しみにすることにするよ。

俺はそれからまた歩き出した。



乙。スゴい良かった。

以上です。
読んでいただき、レスをつけて頂き、ありがとうございました。
男のラストは考えていたところから、すこし変えたのですが……ハッピーエンドにできず申し訳ない。
ではー。

ハッピーエンドと言うのは奇跡が起きると言う意味で。

これ以上は蛇足になるので失礼します。

ではー。

どこか切なく、甘くて美味しかったです



うああああああせつねぇええええええええええきついいいいいいい




(;tдt)うあぁぁぁぁぁぁ!

最初はギャグかと思ったけど…今はそんな自分が恥ずかしい

乙…乙!乙!乙!

>>2
俺得すぎる

4円

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