狐神「お主はお人好しじゃのう」 (977)

・書き溜めはある程度ありますが、完結には至っていないので、今日ある程度投下した分以降はゆっくりと更新します。
・更新は不定期です。超亀更新です。
・世界観は異世界です。転生ものではありません。
・有名な怪物や妖怪の名前が登場することがありますが、本SS内での設定が多いですので注意が必要です。
・レスへの返信はある程度まとめて行います。ですが誤字指摘などへは早急に対応します。
・地の文、効果音等が一切ない、完全な台本形式ですので状況がわかりにくい所が出るかもしれません。その際には遠慮なく質問してください。

 それではよろしくお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1447422430

《狐》


お祓い師(この長い階段の先に土地神信仰のための社があるらしい)

お祓い師(とうの昔に信仰の途絶えた神の社らしいが……。こんな山奥だ、野党に取られていない宝具の少しでも残っているだろう)

お祓い師(……さてここか。宝具の他にも売り飛ばせそうな物があればいいんだがな)

???「待たれよ、おぬし何者じゃ」

お祓い師「なっ……!」

お祓い師(社に人がいる!?)

お祓い師(……いや……)

お祓い師「貴様、物の怪の類か。それならば成敗するぞ」

???「ふうむ、物の怪とはわしも落ちたものじゃのう。しかしまあ、信仰を無くした神は物の怪とさして変らぬか」

お祓い師「まて、いま自分のことを神と言ったか?」

???「そうじゃ、わしはこの社に祀られておった狐神じゃ。信じられんか?」

お祓い師「にわかに信じられんな。俺の知っている神というものはもっと人々に慕われているものだが」

お祓い師「こんな山奥に一人でいる神があるか」

???→狐神「わしへの信仰が無くなってはや百年余り。もうわしの元へ訪れる人間などおらんよ」

狐神「腹は減り、喉は渇き、排泄もする。半日動けば睡魔に襲われ、不養生がたたって体調も崩す」

狐神「神とはおぬしらの思っているほど完璧なものではない」

お祓い師「……何を馬鹿げたことを。獣の耳と尾の生えた人などいるか。そういった奴らをまとめて物の怪と呼ぶんだろう」

狐神「ふむ、あくまで信じぬというか。神の力でも見せれば信じるかの」

お祓い師「ふん、妖術を使うつもりか」

狐神「一緒にするでない」

お祓い師「まあ、どうしてもというならば見てやらんこともない。ただし少しでも不審な真似をすれば即座に祓うぞ」

狐神「うむ、よかろう」

狐神「さて、ここで一つ頼み事があるのじゃがいいかの」

狐神「信仰を無くしたわしは供物がないと神の力を使えぬ。なにか食べ物をくれんかの」

お祓い師「断る」

狐神「なぜじゃ!」

お祓い師「俺にとって利益がないからだ」

お祓い師「まあ、宝具の一つでもくれるならば考えてやる」

狐神「わしの社に宝具などないわ」

お祓い師「そうか、じゃあな。俺は帰る」

狐神「……おぬし見たところお祓い師のようじゃが、わしを祓わずに帰ってよいのか」

お祓い師「俺は金にならないことはしない。お祓いも依頼でなければ自分の身に危険が及ばない限りしない」

狐神「意地汚い男じゃのお……」

お祓い師「お前は俺に手出しをする様子もないし帰ることにする」

狐神「わしが言うのもなんじゃが、詰めが甘く無いかの……」

狐神「……で、おぬし。見たところこの辺りの人間ではないが、旅のお祓い師かの」

お祓い師「そうだ。しばらくは麓の町に滞在するつもりだがな」

狐神「そうか」

お祓い師「それがどうかしたか」

狐神「神は信仰に縛られる存在じゃ。わしを信じるものがいない今、わしが行動できる範囲はせいぜいこの社のある山の中だけじゃ」

狐神「幸いにこの山は自然豊かで食料には困らぬが、話す相手がいないというのは辛いものじゃ」

狐神「もしよければ暇な時に話し相手になってくれんかの」

お祓い師「何を馬鹿なことを」

お祓い師「俺は金を稼ぎに来ているんだ。そんな暇なんて無い」

狐神「ま、暇な時でいいんじゃ」

お祓い師「……知らんな。俺は帰るぞ」

狐神「…………」






お祓い師(結局この町ではろくな仕事の依頼はなかった)

お祓い師(御札の数枚が売れた程度で大した収益にはならなかった)

お祓い師(宿賃なんかを差し引けば赤字もいいところだ)

町人「た、大変だー!」

お祓い師「どうかしたか。物の怪でも出たのか」

町人「い、いや。町の近くの山が火事になったみたいなんだ」

お祓い師「山火事、だと……」

お祓い師「まて、あの山は……!」

お祓い師(あの狐神と名乗った女のいた山じゃないか)

町人「ここの所空気が乾燥していたせいだろう。町の火消したちが町まで燃え広がらないように頑張っているみたいだが……」

お祓い師「町に火がこないように食い止めるしかできないのか。山の社はどうなる」

町人「社……?なんのことだかわからないが、もう火事はあの規模だ。鎮火するのは一苦労だろうな」

お祓い師「…………」

お祓い師(あいつの話を信じるならば、あいつはあの山から出ることはできない……)

お祓い師「……ああくそっ!」

町人「お、お祓い師さん!?どこへ行くつもりで!?」






お祓い師(俺は何を馬鹿なことをしているんだ)

お祓い師(ただ、少しとはいえ言葉を交わした仲だ。蒸し焼きで死なれては寝覚めが悪い)

お祓い師(……到着したが、すでにここにも火の手が回っているな)

お祓い師「おい、物の怪!いるなら返事をしろ!」

狐神「お、おぬしは……」

お祓い師(まだ無事だったか……)

お祓い師「何をしている!この山には川もあったはずだ。そこで火が収まるのを待つ手もあっただろう!」

狐神「そ、そうはいかなかったのじゃ……。いまのわしをこの世に繋ぎ止めているのはこの社じゃ。この社が燃え尽きてしまえばわしの命も絶えてしまう」

狐神「人とは比べ物にならないほど永く生きたわしじゃが……。やはり一人で死ぬのは寂しいと思っておった……」

狐神「しかしおぬしが来たからもう平気じゃ。社はもう駄目じゃがここ一帯に炎が広がるまではまだ時間がある……」

狐神「どうか最期ぐらいは看取ってくれんかの」

お祓い師「や、社に火が……!」

狐神「少しずつじゃが意識が遠のいてゆく……」

お祓い師「ま、待て!このまま死なれては寝覚めが悪いどころの話ではない!」

狐神「そうは言ってももう手遅れじゃ……。昔ならばここの本尊以外にも小さなほこらが町にあったりしたものじゃが、今はそんなものは残っていない」

狐神「もう他に“依り代”のないわしは消えるしかないのじゃ……」

お祓い師「くそっ……!」

お祓い師(……待てよ。依り代、か……)

お祓い師(…………)

お祓い師(なんというか、自分でも嫌になるほどのお人好しだな)

お祓い師「……だが、やるしかない」

狐神「……お、おぬし何をしておる!既に社は燃えておるぞ!」

お祓い師「くっ……!本尊はこの中だよな!?」

狐神「や、やめんか!火傷するぞ!」

お祓い師「うるせえ少し黙ってろ!」

狐神「むぅっ……!?」

お祓い師「よ、よし!まだ中は燃えきってなかった」

お祓い師「……ふむ、よし……」

狐神「おぬし、まさか……」

お祓い師「少し痛いが我慢しろよ。血が必要なんだ」

狐神「痛っ……!って、待ておぬしよ!自分のしていることが分かっておるのか!?」

お祓い師「分かっているに決まっているだろ。俺を依り代として契約をし直すんだよ」

狐神「お、おぬし、わしが神だと信じておらんかったろうに!」

お祓い師「ガタガタうるさいぞ!本尊が燃え尽きる前に儀式を終わらせないとまずいだろう」

狐神「……う、うむ」

お祓い師「お前の血で契約印を書く。普通は身体のどこに書くもんなんだ」

狐神「ば、場所は問題にならぬ」

お祓い師「じゃあ書きやすいから腕に書く」

お祓い師「……よし。あとは何をすればいい」

狐神「依り代となるものの一部をわしに捧げる必要がある。今回はおぬしの血がよいじゃろうな」

お祓い師「わかった、血だな。……くっ……!」

お祓い師「これでいいだろ。飲めよ」

狐神「……では頂くとするの」

狐神「(ペロペロ)」

お祓い師(……くすぐったい)

狐神「(じゅるじゅる)」

お祓い師「啜るな!」

狐神「すまんすまん」

お祓い師「……で、契約はできたのか?特に変わった様子はないんだが……」

狐神「…………」

狐神「……うむ、成功じゃ。意識がはっきりと戻ってきたのう」

狐神「さて、それでは急いで山を降りるとするかの。だいぶ火の手が回ってきたからのう」

お祓い師「なに当然のように背中に乗ってんだ」

狐神「足をくじいてしまっての」

お祓い師「火傷以外平気そうなんだが……」

狐神「堅いことを言いなさんな若造よ。ほれ急がんかい」

お祓い師「急に偉そうだな。やっぱり捨てていくか」

狐神「お願いじゃ勘弁しておくれ」

お祓い師「……あとでちゃんと対価を要求するからな!」

狐神「最悪身体で返すわい」

お祓い師「そういうのは求めてねえよ!」






お祓い師「それで、なんでお前が俺の馬に跨っているんだ……?」

狐神「当たり前じゃろう。わしは依り代から遠く離れられぬ。おぬしについて行かざるをえないのじゃ」

狐神「ほれ、手綱を持てい。目的の町まで出発じゃ」

お祓い師「あまり態度がでかいと蹴り落とすからな」

狐神「それは勘弁しておくれ」

狐神「なに、わしもおぬしの仕事の役にはたつぞ。わしは力衰えたとはいえ神じゃ。物の怪を探知することぐらいはできる」

お祓い師「精々口だけじゃないことを祈っているぞ」

狐神「くくっ、おまかせあれじゃ」

お祓い師「ところで先日助けてやったことに対する報酬がまだだが……?」

狐神「ふむ、そうじゃったな」

狐神「……やはりこのカラダが目当てなんじゃろう?」

お祓い師「そんなこと望んでねえっ!」

狐神「なんと、この成熟したカラダに欲情しないとは……!もしやおぬし、幼児性愛者か、もしくは同性愛者かの……!?」

お祓い師「馬から払い落とすぞ」

狐神「冗談じゃ」

お祓い師「……いずれ借りは返してもらうぞ」

狐神「わかっておる」

狐神「わかっておる」

狐神「……ちなみにわしは経験豊富じゃからな。大抵の戯れには対応できるからの、安心せい」

お祓い師「か、ね、で、か、え、せ!」

狐神「一々リアクションの大きいやつじゃの。ほれ、そろそろ出発しようぞ」

お祓い師「……はああ、妙な連れが出来ちまった……」

お祓い師「頼むから人前で耳と尻尾は出してくれるなよ。耳は頭巾、尻尾は袴の中だ」

お祓い師「これが守れないなら俺の立場上、置いていかざるを得なくなるからな」

狐神「心得ておる」

お祓い師「最悪、俺の名誉のためにお前を人前で滅却することになる」

狐神「それは本当に困るからやめておくれ」

お祓い師「そうならないように気をつけるんだな」

お祓い師「……さて行くか」

狐神「……うむ」

狐神「のう、おぬしよ」

お祓い師「なんだよ」

狐神「わしゃあ、おぬしには本当に感謝しておる」

お祓い師「何だ急に改まって」

狐神「会ったばかりの、しかも人ならざるわしを助けてくれたことじゃ」

狐神「それだけでなく、こうして同伴することも許してくれた」

狐神「正直わしにはこの恩をどう返せばよいのかわからぬ……」

狐神「わしは何百年もの間、あの小さな山の中で一人で暮らしていた」

狐神「供物を持って訪れる人々に、わしが持つ力の限りを持って手を差し伸べた」

狐神「しかしそれは、わしの力による、するべきことの決まった作業のようなものじゃった」

狐神「こうやって逆に人に助けてもらった時にどうすることが最善なのか、わしにはさっぱりわからないのじゃ」

お祓い師「…………」

お祓い師「だから金でいいって言ってんだろ」

狐神「じゃ、じゃが……!」

お祓い師「俺は金が何よりも好きだ。金が無いと何も出来ないのがこのご時世だからな」

お祓い師「それなのにこの職は右肩下がりの低迷期。金をもらえることが何よりも嬉しいんだよ」

お祓い師「……それに、その方が分かりやすくてお前も気が楽だろ」

狐神「…………」

狐神「おぬしはお人好しじゃのう」

お祓い師「うるせえ、それは自覚してる」

お祓い師「見逃したことはあっても、人外を助けた挙句、一緒に旅に出るなんて経験は初めてだ」

狐神「……ふふっ、ではこの貴重な機会をうんと堪能するがよい」

お祓い師「せいぜいそうさせてもらうぜ」

狐神「うむ、ではこれからよろしく頼むの」

お祓い師「……ああ、よろしくな」

 ここまでが導入章です。
 こうやってだらだらと登場人物が会話しているのが大半です。
 戦闘シーンは存在しますが、台本形式の特徴上あまりかっこよく表現できないので(技量不足)、案外あっさり終わることが多いです。

 では今後はゆっくり更新となりますので、上がっていたらたまに目を通してみてください。

期待
狼と香辛料に近い感じか

深夜のほうが良かったんじゃない?

>>28
そう言われてすげえしっくりきた
狼と香辛料は中世ヨーロッパ的な雰囲気だけどこっちは純和風的な

>>28 >>30
アニメしか見ていないんですが、意識してます。
とは言っても、賢狼ほど狐神様は有能ではないです……。
この世界はヨーロッパから日本まで陸続きの世界、みたいな感じで考えてもらえると分かりやすいかもしれません。
いまの舞台は極東の皇国で、お祓い師は西の王国の出身のブランヘアーの白人、みたいな感じです。

>>29
そうですね。更新は基本的に夜に行うつもりです。

>>31
いや深夜っていうのは時間帯のことじゃなくてSS深夜VIPっていう板のことだ
更新頻度が少ないなら深夜のほうが保守も楽だからソッチのほうがいいんじゃないかってだけだ
勘違いさせてすまん

>>32
そんなものがあるんですね、こちらが途中で落とされてしまったらそちらに移転します。
教えていただきありがとうございます。

それでは本日の更新始めます。
大抵他の作業と並行しながらレスをしていきますので、少し時間を置いてから見たほうがいいかもしれませんね。



《狼》


狐神「しかし乗馬というのも長時間だと疲れるの」

お祓い師「まあこれに関しては慣れるしか無いな」

狐神「それに変なところが刺激されるの」

お祓い師「知らんな」

狐神「ノリが悪いのう」

お祓い師「お前の戯言に一々付き合っていたら疲れちまうからな」

狐神「つまらん奴じゃ。それよりおぬし、荷馬車でも買わんかの。そのほうがわしも楽じゃ

お祓い師「お祓い師やっていく上で荷馬車なんかいるか。商人じゃないんだぞ」

狐神「退魔道具で大掛かりなものとかないんか」

お祓い師「俺はそんな大層なものに頼らなくても、大抵の相手ならどうにかなる。これでもお祓い師の名家の血筋だからな」

狐神「おぬしが名家の血筋とは笑わせてくれるの」

お祓い師「うるせえ!……まあ、過去の話だけどな」

お祓い師「お前らみたいな神への信仰が廃るのと同じように、魔の者、物の怪の存在も年々減ってきている」

お祓い師「祖父の代では商売繁盛、お医者様と並んでお祓い師様なんて呼ばれてたらしいが……。今では仕事を探すほうが大変だ」

狐神「……ふむ」

狐神「……ややっ!あれは何じゃ!?」

お祓い師「ん、ああ、あれは蒸気機関車だ」

狐神「じょ、じょうききかんしゃ、とな……?」

お祓い師「石炭を燃やした熱で水蒸気を発生させて、その力で車輪を動かしているんだと。俺は技師じゃないから詳しい仕組みは知らないけどな」

お祓い師「まあ、まだお前が町に出歩いてこれていたような時代にはなかったものだな」

お祓い師「俺の生まれ故郷もある、はるか遠くの西の地で発明されたものだ」

狐神「お、おお、なんと……。斯様に大きなものが、轟々と音を立てて移動していくさまは圧巻じゃのお……」

お祓い師「ははっ、世代の差を感じるか?」

狐神「なっ、失礼なやつじゃな!そこまで歳は変わらんわ!」

お祓い師「ほう、じゃあ歳を言ってみろよ」

狐神「……言えぬ」

お祓い師「だろ?」

狐神「女性に歳を聞くのは関心せんぞ」

お祓い師「あー、はいはい」

狐神「ぐぬぬ……」

狐神「……しかし、これでわかった気がするのう」

お祓い師「なにが」

狐神「わしら神への信仰が寂れてきた理由じゃ」

狐神「昨日泊まった宿にあった……らんぷ、と言ったか」

狐神「百年も前は蝋燭ですら高級品で、庶民は囲炉裏にくべた薪の明かりだけが部屋の中を照らしている光景が普通であった」

狐神「火というのは人間にとって手放せない道具じゃ」

狐神「昔の人々は少しでもその灯りが強くなるようにと祈ったりしたものじゃ」

狐神「……神というのは祈られることで産まれるのじゃ」

狐神「『少しでも明るく』、『少しでも暖かく』、そういう願いを叶えるために火の神が産まれていった」

狐神「しかしあのらんぷというもの、焚き火とは比べ物にならないほど明るく、そして長く輝いておった。あれは祈祷の産物ではなく人の知の産物じゃ」

狐神「人々は気づいたんじゃな。神に頼らずとも己の工夫次第でなんとでもなるということに」

狐神「必要とされなくなった神は消え行くのみじゃ。……わしのようにな」

狐神「時代は動き、神の力がなくとも人は己の知力を以ってして生きていけるようになった。つまりはそういうことじゃろうな」

お祓い師「……なるほどな」

狐神「そしてこの事はおぬしの悩みの種にもつながってくる話じゃ」

お祓い師「と、言うと?」

狐神「物の怪や魔の者というのは人々の恐怖の表れじゃ。恐れられるからこそあ奴らは存在している」

狐神「人々はその正体の分からぬものを恐れ、そしてそれを物の怪のせいにすのじゃ」

狐神「具体的な原因を作ることで安心しようとするのじゃな」

お祓い師「俺たちお祓い師が物の怪を祓うことで、更なる安心を得る、ということか」

狐神「しかしそんなこともいずれは終わる。人の知が未知なる恐怖を少しずつ消していくからじゃ」

狐神「そうして必要とされなくなったわしら神々や、物の怪の者たちは消えてゆくのじゃ」

お祓い師「……時代に必要とされなくなった、か」

狐神「まるで時代遅れの道具のようじゃろう」

お祓い師「…………」

狐神「わしらの中で一番長生きするのはおそらく、生と死に関して祀られた奴らじゃろうな」

狐神「生と死という漠然とした概念への恐怖は、それこそ神にすがって紛らわすしかないものじゃからな」

狐神「まあその生と死という概念を、わしら神々も知り得ぬというのが全くもって滑稽なことじゃがのう」

お祓い師「…………」

お祓い師「……仮に」

狐神「んむ?」

お祓い師「仮にお前が時代遅れの道具だとしよう」

お祓い師「そうなると、それは俺も同じことだ。時代遅れの道具を祓う道具なんて需要が無くなるわけだ」

狐神「…………」

狐神「かっかっか、それもそうじゃのう。お祓い師などとっとと廃業にして、わしと二人で商いでも始めたほうがよいと思うぞ」

お祓い師「ま、それもそうかもな」

狐神「じゃろう?」

お祓い師「でもそれはまだ先の話だ」

お祓い師「まだしばらくは、俺という人間がこの世界にどれほど必要とされているのか確かめたい」

狐神「……ま、それも一興じゃの」

お祓い師「俺が拠点を構えている街が見えてきた。耳と尻尾は隠しておけよ」

狐神「わかっておる。他のお祓い師に退治されては敵わんからの」

今日はここまでです。


アニメ気に入ったならぜひ狼と香辛料の原作買うことをお勧めする
雰囲気が違うこともないし最後まで楽しめるはず

>>44-48
その件も聞いたことありますね。
でも原作はぜひ読んでみたいです。






狐神「ほおお、これはまた大きな街じゃ」

狐神「おや、あの透明な障子はなんじゃ」

お祓い師「障子ってなあ……。あれは硝子窓だ。ランプの火の周りを覆っていたのも同じ硝子ってものだ」

狐神「ほおお、綺麗なもんじゃのう」

狐神「おお、じょうききかんしゃが建物の中に入っていくぞ」

お祓い師「あれが蒸気機関車の駅だな。あそこまで大きなものが東の地にも建つようになったのもここ数年のことだ」

お祓い師「俺が生まれた頃には、まだこっちの地方には線路も来ていなかったみたいだからな」

狐神「ううむ、そして漂う美味しそうな香り。飯時が楽しみじゃ」

お祓い師「仕事探しが先だがな」

狐神「むう、それならば急ぐのじゃ」

狐神「そういえば、仕事探しとはどのようにするのだ」

狐神「まさか一軒一軒訪ねて、家主が何かに憑かれていないか調べてまわるわけでもあるまい」

お祓い師「ここまで大きな規模の街になるとそりゃあ無理だな。大きな街でその手のことで困った人は役所に依頼を出すことになっている」

お祓い師「俺たちお祓い師は役所を経由して仕事を請け負う仕組みなっているんだ」

狐神「ではこれから役所を目指すのじゃな」

お祓い師「そのつもりだが一つ頼み事をしていいか」

狐神「なんじゃ」

お祓い師「役所に着くまでの間、物の怪の気配があればその場所を覚えておいてもらいたい。そうした方が仕事も効率よく片付く」

狐神「そんなのお安い御用じゃ。なんなら既にちらほらと気配を感じ取っておるぞ。おぬしらのように力を持った人間、という可能性も捨てきれぬが」

狐神「おぬしにはわからんのかの」

お祓い師「対峙した相手が力を使えばその大きさぐらいはわかるが、流石に遠くにいる相手を探知することは難しい」

お祓い師「よほど力が大きな奴なら別だが」

狐神「ふむ……」

狐神「数を減らしたとはいえ、あやつらはおぬしらの思っている以上の数が人間社会に溶け込んでおる」

狐神「わしのような絶世の美女に巡りあう確率よりも遥かに高い確率で奴らとすれ違っておるかもしれんの」

お祓い師「…………」

お祓い師「引き続き頼むぞ」

狐神「これ、少しは反応するところじゃ」

お祓い師「だから言っただろ。お前の戯言に一々反応している暇はないって」

狐神「酷いのう」

お祓い師「酷くない」

お祓い師「……そうだな。役所に行く前に寄るところがあるな」

狐神「飯処かの!?」

お祓い師「それは後でだと言っただろう。まずはお前の服を買いに行く」

狐神「ふむ、服とな?」

お祓い師「お前のいま着ているもの、それはこっちの地方の古い着物だろう」

狐神「昔はこういう格好が普通じゃったがのお。確かに周りとはだいぶ雰囲気が違ってしまっているの」

お祓い師「俺みたいな異国のお祓い師とお前みたいな格好の組み合わせでは悪目立ちしすぎる」

お祓い師「これから別の地域に行っても違和感なく過ごせるような服を買っておきたい。幸いお前の髪や瞳の色は東の人間らしくない」

お祓い師「俺たち西の人間の衣服を着ても違和感はないだろう」

狐神「わしに服を買ってくれるのかの」

お祓い師「働き次第で発生するお前の取り分から引く」

狐神「おごりでは」

お祓い師「ない」

狐神「固い男じゃ」

お祓い師「なんとでも言え」

狐神「おなごに物をおごれぬようでは好かれぬぞ、おぬし」

お祓い師「それはで結構。金で繋ぎ止めなきゃいけないような奴はこっちから願い下げだ」

狐神「つくづくつまらん男じゃな」

お祓い師「接客が大事な商売やってるわけじゃないからな。実力さえあればいいのさ」

狐神「年老いてから、女を落とすすべを学んでおけばよかったと、後悔するおぬしの顔が浮かぶわい」

今日はおわりです。

>>57-61
ありがとうございます。
狼と香辛料が皆さんお好き、ということですが、本SSではRPG的な要素が含まれています。
具体的にいいますと、剣や能力を使った戦闘シーンがあったり、強さのランクという概念も出てきます。
あの作品のように、知恵と人間関係の駆け引き、という内容とは違いますので、イメージの相違がないように予めここで言っておきます。

書き溜めの量は、現在投稿分の五倍ほどですが、いつものようにゆっくりと投下していくつもりです。






お祓い師「さて、どれがいいか」

狐神「こういうのは店員に選んでもらうのがよいのではないのか?」

お祓い師「お前、取っ替え引っ替え服を持ってくる店員を前にその耳と尻尾を隠し通せるか?」

狐神「む、それもそうじゃの。頭巾をかぶったままというのも不審がられよう」

お祓い師「おとなしく俺たちで選んだほうがいい」

狐神「とはいえずっと山の中の生活じゃったからの。流行りも廃りもわからぬ」

お祓い師「それは俺も同じだな。お洒落に気をつけたことなんてないからな」

お祓い師「こういう時はここの見本の一式を着れば問題ない」

狐神「ま、確かにその方法が無難かの」

狐神「では試着してくるでの。試着室の外に立っておいておくれ」

お祓い師「はいはい」

狐神「……のぞくでないぞ」

お祓い師「覗かねえよ」

狐神「つまらんやつじゃのう」

お祓い師「いいから早く着替えてくれ……」

お祓い師(……ちょっと覗きたい)

狐神「おぬしよ、着方がわからないのじゃがよいか」

お祓い師「半裸のまま身体を出すな馬鹿!」

狐神「お、少しは欲情したかの?」

お祓い師「耳が出てる耳が」

狐神「おっと失礼」

お祓い師「はあ……。それで、何がわからないって?」

狐神「うむ、この前の所を留める方法がのう……。紐のようなものが見当たらないのじゃが……」

お祓い師「ああ、それはこの、ボタンっていうのをだな……」

狐神「おお、なるほど。便利なものじゃな」

狐神「……ふむ、どうじゃ。着こなせておるじゃろう!」

狐神「この、ろんぐすかあと、というものは袴以上にすーすーしてまだ少し慣れんがのう」

狐神「あとこの、ぶうつ、少し蒸れそうじゃ」

狐神「……どうした、黙りおって」

お祓い師「……いや、想像以上に似合っていてな」

狐神「…………」

お祓い師「な、なんだよ」

狐神「ほほう、おぬし。もしやわしに惚れたかの」

お祓い師「馬鹿を言え。それよりほら、頭巾の代わりにこれをかぶれ」

狐神「む、なんじゃこれは」

お祓い師「キャスケットって種類の帽子だ。この深く被れるタイプなら耳も隠しやすいだろう」

狐神「どんな感じなのかの」

お祓い師「ほら、これの前に立ってみろ」

狐神「おお、こんなに大きな鏡があるのかえ」

狐神「……ほう、悪くないではないか。西のおなごの服など全く知らんが、良いものが良いという感性は時や場所が変われど不変じゃ」

狐神「この姿はなかなか良いと思うのじゃが?」

お祓い師「だから似合っているって言っただろ」

狐神「ふふっ、ありがとうの」

お祓い師「…………」

お祓い師「ほら行くぞ」

狐神「む、いまおぬし照れおったな」

お祓い師「うるさい行くぞ!」

狐神「かっかっか、待つのじゃ待つのじゃ」

お祓い師「あと何度も言うがおごりじゃないからな!」

狐神「ほんとうに金にがめつい奴じゃのお……」

今日もこのぐらいで。
週末になったら少し多めに投下しようかと思います。






狐神「予定では役所に向かうという話じゃったが、ここはただの集合住居に見えるのお」

お祓い師「服だけじゃなくて食材なんかも買ったからな。一度部屋に荷物を置いて行こうと思ってな」

狐神「と、なるとここがおぬしの拠点かの」

お祓い師「ああ。ここの二階の奥の部屋だ」

狐神「……ふむ、日当たりの悪い部屋じゃの」

お祓い師「お前は日当たりの良い外で寝てもらってもいいんだぞ?」

狐神「冗談じゃ」

狐神「それよりも、ちゃんと寝具が二つあるとはどういうことかの」

お祓い師「これ備え付けの家具だからな。この建物は短期で宿場のように使うこともできるし、長期で貸し部屋として使うこともできるところなんだ」

お祓い師「だから家具は一式はじめから用意されてる」

狐神「なるほどのう。二人で同じ布団に入るのかと思ってわしゃあ少しドキドキだったんじゃがの」

お祓い師「真顔でドキドキとか言うなよ。せめて少しは感情込めろよ」

狐神「わ、わし、ドキドキしておる……のじゃ……」

お祓い師「わざとらしいのもいらねえ」

狐神「注文が多いのう」

お祓い師「お前のせいだってことをわかって欲しい」

狐神「怒るでない怒るでない」

狐神「さて、話は変わるがの。やはり二人で行動するには馬一頭だけでは不便ではなかったかの」

お祓い師「……実はそれは俺も思ったよ。二人になれば単純に考えても荷物が倍になる」

お祓い師「お前の言うとおり荷馬車の購入も視野に入れたほうがいいのかもしれないな」

狐神「おお、移動中のわしの寝床が確保できるわけじゃな」

お祓い師「寝た瞬間投げ落とす」

狐神「それは勘弁しておくれ」

お祓い師「まあ、その辺りはまた後日検討するとして。今日は役所に仕事探しに行くぞ」

狐神「む、今晩の飯代稼ぎじゃの」

お祓い師「そこまでカツカツしたサバイバル生活はしてない。貯金ぐらいは少しばかりある」

狐神「ならば今晩は超豪華な夕食と洒落込もうでは」

お祓い師「そこまでの余裕はない!」

狐神「むう、よいではないか。新人歓迎会という体でな」

お祓い師「……お前のおかげで仕事をこなせたら、その後ならいいぞ」

狐神「ほほう、俄然燃えてきたのう」

お祓い師「じゃあ役所に向かうぞ」

狐神「うむ了解じゃ」






受付「いま入っている依頼としては、このようなものがございます」

お祓い師「見せてくれ」

お祓い師「……狼、か」

受付「ええ、ここ最近狼による被害が多発しているとのことでして」

お祓い師「それだったら猟師の領分じゃないのか。俺たちはあくまで物の怪を祓うのが仕事だ」

受付「それが何やら人の姿に化けたという情報が入っていまして」

お祓い師「……狼男、ということか?」

受付「私自身が直接見たわけではありませんのでなんとも言えないのですが……」

受付「その狼を撃退したという方がいらっしゃるそうなので、そちらで詳しく話を聞けると思いますよ」

お祓い師「それはどちらの方で?」

受付「東の商店街で道具屋を営んでいるという男性です。まだ商店街の店仕舞いには早い時間ですから、いまから訪ねてみるといいと思いますよ」

お祓い師「なるほどな、情報提供感謝する」

受付「いえ、我々もこの騒ぎが早く落ち着くことを願っています」

眠ります。

今日はご飯時ぐらいまでにいつもより多く投下したいです。

ここでこのSS上での用語説明を少しだけしておきます。

お祓い師と退魔師は同じ職業を指して、後者が西の呼び方です。主人公は西の人間ですが、東でのキャリアが長いので自らお祓い師を名乗っています。
同じように、物の怪と悪魔、魔の者というのは同じ意味で後者が西の呼び方です。
物の怪や神をひっくるめて人外、と呼んでいます。






狐神「なるほど、狼かの」

お祓い師「なにか気づいたことでもあるのか?」

狐神「なに、この街についてから時折じゃが獣臭さを感じておってな。言われてみれば狼のものじゃ」

お祓い師「自分の臭いって落ちはないよな」

狐神「失礼じゃな!わしはそんなに臭くないわい!」

お祓い師「そうか?自分の臭いって案外気づかないものだぞ」

狐神「む……。わし、臭うかのう……?」

お祓い師「冗談だけどな」

狐神「おぬし……。もぐぞ」

お祓い師「それは勘弁してくれ」

狐神「……まあよいわ。して、東の商店街とはどの辺かの」

お祓い師「それならもうすぐ着くぞ」

狐神「おお、言われてみれば美味しそうな臭いが近づいてくるのう」

お祓い師「まだ食べに行かないからな」

狐神「わ、わかっておるわ」

お祓い師(一々反応が可愛いなこいつ。相当年上だけどさ)

お祓い師「……件の狼、ランクはD1か……」

狐神「らんく?でぃーわん?」

お祓い師「あー、危険度というか、強さというか」

お祓い師「それが上からA、B、C、Dって割り振られているんだ。更に各ランクが上から1、2、3に分けられている」

お祓い師「狼男自体はランクがもっと高いことが多いんだが、今回は怪我人等の実害が出ていないからD程度なんだろうな」

狐神「なるほど。その中ではわしはどの程度かの?」

お祓い師「ロクに力も使えないお前はD3に決まっているだろう」

狐神「な、なんじゃとっ!」

お祓い師「事実として今のお前は少し鼻が利くだけで、ただの人間とさして変らないだろう。特に武に長けているわけでもなさそうだしな」

狐神「ま、まあ、たしかにのう……」

お祓い師「ちなみにこのランクっていうのは人間にも適用される」

狐神「ふむ、おぬしはいくつなのかの」

お祓い師「俺か。俺はB2だな」

狐神「なんと、かなり高い方ではないのか」

お祓い師「まあ自分で言うのも何だが、実力はある方だ。……それでもまだまだなんだがな」

狐神「ふむ?」

お祓い師「AからDという枠組みで測れない強大な力を持つ者に対して、Sという特別なランク付けがされる」

狐神「えす、とな?」

お祓い師「上には上がいるっていうかな。まあ異形の怪物にも、俺たち人間にも、俺たちの物差しじゃ測れないような奴らがいるってことさ」

お祓い師「ま、そんなクラスのバケモノ、俺がこの眼で直接見たのは一人しかいないんだけどな」

狐神「わしの最盛期のでも、そこまで恐れられるような力は出せる気がしないのう……」

お祓い師「その域に達する奴なんてそうそういないからな」

狐神「じゃろうな」

お祓い師「さて、そろそろのはずだが、道具屋はどこだろうな」

狐神「道具屋らしきものが向こうに見えるぞ」

お祓い師「ん、どこだ……?」

狐神「ほれ、あそこじゃ。まあ人間の目にはちと遠いかの」

お祓い師「ん~……?あ、あれか……?」

狐神「どうじゃ、神の力を使わなくともこの通りよ」

お祓い師「なるほどな、感心感心」

狐神「もう少し関心したふうに言えんのか」

お祓い師「さあな」

狐神「……一度おぬしとは一対一で話さねばならぬようじゃな」

お祓い師「今も一対一で話してるぞ」

狐神「揚げ足取るでないわっ!」

お祓い師「悪かったって。今晩は少し豪勢にしてやるから」

狐神「許そう」

お祓い師(簡単すぎる)

お祓い師「さ、聞き込みするぞ」

狐神「む、そうじゃな」

お祓い師「あー、誰かいるかー?」

道具屋の男「店主は俺だが、なんか用か」

お祓い師「いや、最近噂になっている狼について聞きたいことがあってな」

道具屋の男「あんちゃん、役所の人間か?」

お祓い師「いや、自分は物の怪祓いを仕事にしている者で。今回は役所からの依頼で来ているんだが」

道具屋の男「おお、そういうことかい。で、あの狼のことを聞きたいんだって?」

お祓い師「ああ、具体的にどんな姿だったとか、話せることなら何でも話してもらいたい」

道具屋の男「あー、あいつら夜道に群れで襲ってきてな。まあ襲った相手が悪かったな」

道具屋の男「ちょうど晩飯から声って来るところだったんだが、俺の退魔道具を見せてやったらビビって逃げちまったよ」

お祓い師「退魔道具を置いているのか」

道具屋の男「おう、うちは品揃えがウリだからな。ありとあらゆる種類の道具が置いてあると思ってもらっていいぞ」

お祓い師「なるほど……。それで、その狼が人の姿になった所を見たりは?」

道具屋の男「人の姿……?なんのことだそれは」

お祓い師「ああ、いや。見ていないんだったら大丈夫だ」

道具屋の男「お、もう聞くことは終わりか?」

お祓い師「そうだな……。できれば他にも狼を目撃したっていう人を知っていたら、紹介してもらいたいんだが」

道具屋の男「あー、それなら、この道を行った先で駄菓子屋をやってる婆さんなかも襲われてたな」

お祓い師「なるほど、情報提供たすかった」

道具屋の男「なに、次来る時は何か買ってってくれよな」

お祓い師「そうだな、必要な物があれば次来た時に買おう」

狐神「……ふうむ」






駄菓子屋の老婆「ああ、あの狼のことかい」

お祓い師「やはり目撃しているのか」

駄菓子屋の老婆「そりゃあ二度もね」

お祓い師「二回も、か」

駄菓子屋の老婆「ああそうさ。一回目はあぶないところだったんだけど、道具屋に助けてもらってどうにかね」

お祓い師「道具屋というのは向こうの……?」

駄菓子屋の老婆「知っておったかい。そうだよ、あそこの旦那さんが何やらおふだみたいのをかざして追い払ってくれたんじゃ」

狐神「退治した、というわけではないのかの?」

駄菓子屋の老婆「いえいえ。おふだを見せたら一目散に逃げていったよ。おふだを怖がっているんじゃないかねえ」

お祓い師「なるほど……。それで二度目というのは?」

駄菓子屋の老婆「二回目は襲われこそしなかったが、そりゃあ恐ろしい物を見たよ」

お祓い師「恐ろしい物、というのは……?」

駄菓子屋の老婆「あれは満月の夜。裏路地のことなんじゃが、大男がみるみるうちに狼に変わっていくのを見てな」

駄菓子屋の老婆「その狼は二足でしっかりと立っていたんじゃが、あんたの身の丈よりも大きくてねえ……」

お祓い師(やはり狼男か……!)

お祓い師「その大男の顔なんかは見えなかったか?」

駄菓子屋の老婆「いやあ、流石に暗闇だったもんで顔まではね」

お祓い師「そうか……。いや、貴重な情報、ありがたい」

駄菓子屋の老婆「お祓い師さんのお役に立てたなら嬉しいよ」

駄菓子屋の老婆「いまお茶とお菓子を出すからちょっと待っておいてくれ」

お祓い師「そ、そこまでしてもらう訳には……」

狐神「ではありがたく」

お祓い師「っておい」

狐神「こういう時は素直にお言葉に甘えるものじゃぞ」

お祓い師「単純にお前が菓子を食べたいだけだろうが」

狐神「違うわい」

お祓い師「よだれが垂れてる」

狐神「(じゅるっ)」

狐神「……違うわい」

お祓い師「頑なだなお前」

駄菓子屋の老婆「はい、待たせたねえ」

お祓い師「あ、なんかすいませんね……」

お祓い師「あともうひとつ聞きたいことがあって。他に狼を目撃したという人を知っていたりしたら教えてもらいたいんだが……」

駄菓子屋の老婆「ふむ、他にかい」

駄菓子屋の老婆「ああ、そういえばねえ……」






お祓い師「……さて、今日の聞きこみはこんなもので終わりにするか」

狐神「……歩きまわったせいでヘトへトじゃあ……」

お祓い師「そうだな……。部屋に帰る前に晩飯にするか」

狐神「おおやっとか!」

お祓い師「今晩は特別、お前の好きなものでいいぞ」

狐神「気前がいいのう!それじゃあわしは肉が良いぞ!」

お祓い師「そうか。じゃあ最近噂の牛鍋とやらに行ってみるか」

狐神「牛鍋とな!?最近は牛を食うのかの!?」

お祓い師「ああ、まだ東では珍しいんだってな。牛肉の美味さは一度食ったら忘れられないぜ?」

狐神「なんと……!はよう!はよう行こうぞ!」

お祓い師「わかったから走るな」

狐神「ええい、これが待てるか!はたしてどんな味がするのかのう……!」

お祓い師「飯の話だけは元気だな……」

お祓い師「さて、近くの牛鍋屋は……。一度通りかかったことがあるあそこか」

狐神「む、そっちかの」

お祓い師「ああ、前々から気になっていたところがあってな」

お祓い師「牛鍋なんてのは高価だから、一人では中々入ろうとは思わないから入らずじまいだったが」

お祓い師「ま、これがいい機会だな」

狐神「わしとの出会いの記念、ということかの?」

お祓い師「やかましい奴が増えたからな。この先参ってしまわないように今のうちに体力をつけておくのさ」

狐神「なんじゃあそれは」

お祓い師「さて、なんだろうな」

お祓い師「……お、あそこだな」

狐神「おおっ……!香ばしい匂いが漂ってくるぞ……」

お祓い師「それじゃあ入るか」

牛鍋屋店員「いっらしゃいませ。二名様ですか?」

お祓い師「ああ」

牛鍋屋店員「奥の席へどうぞ」

狐神「おおー、店中に漂う良い香り」

狐神「酒の匂いもしおるのう」

牛鍋屋店員「お席はこちらになります」

お祓い師「端の席か……、運がいいな」

狐神「端が好きなのかの?」

お祓い師「周りを人に囲まれているというのはあまり好きじゃないんだ」

牛鍋屋店員「こちらがお品書きになります」

お祓い師「ああ、ありがとう……」

お祓い師「…………」

お祓い師「げえっ……」

お祓い師(想像以上に高いな……)

狐神「どうしたのじゃ?」

お祓い師「……いいか、よく聞けよ」

お祓い師「調子に乗って頼むなよ」

狐神「……ほほう?」

お祓い師「これは真面目にだ」

お祓い師「手持ちがあまりないからな。最悪お前を担保にして俺は帰る」

狐神「……払える量で頼むとしよう」

ここまでで。






お祓い師「……おお、こりゃあ美味いな」

お祓い師「流行るわけだ。これなら西の故郷に逆進出しそうだな」

お祓い師「…………」

お祓い師「おい、さっきから黙ってどうした」

狐神「…………」

狐神「う」

お祓い師「う?」

狐神「美味すぎるんじゃあーーーーっ!!」

お祓い師「声がでかい!」

狐神「なっ、なんじゃあこれは!?」

狐神「この触感!溢れる肉汁の旨み!どれを取っても未知、そして極上じゃあ!!」

狐神「追加で頼んでも良いかのっ!?」

お祓い師「ま、待て!流石にそこまでの余裕はないとあれほど……!」

狐神「店の者っ!」

お祓い師「待ていっ!」

狐神「いたっ……!な、何をするっ!」

お祓い師「そこまでの余裕はないって言ってんだろ……。牛鍋は高級なんだぞ」

狐神「そ、そうか……」

お祓い師「うまい飯が食いたかったら、早いところ仕事の成果を出すぞ」

狐神「それも、そうじゃな」

お祓い師「今日の聞きこみのまとめとしては、目標の変身前の姿は大男であるってことと、おふだを避けているってことだな」

お祓い師「もう少し身体的特徴なんかがわかれば良かったんだが」

狐神「あとは、その大男が狼に変わったのは満月の夜ということじゃったな」

お祓い師「ああ。それは西の地方の伝承と同じだ」

お祓い師「狼男は満月を見て変身する、ってな」

狐神「ということはそやつは西からはるばるやって来た可能性もある、ということじゃな」

お祓い師「そうだな……。どうやら狼男の伝承自体は、こちらの地方ではまだあまり浸透していないらしいからな」

お祓い師「こっちの地方で生まれたとは考えにくい。お前の言うとおり西から来たと考えるのが妥当だろうな」

狐神「じゃろ?」

狐神「じゃが……」

お祓い師「目的がわからない、か」

狐神「うむ。わざわざ西からやって来た事自体もそうじゃが、それでいて一つも実害が出ていないというのがのう……」

お祓い師「俺もそこが気になっていた。どうもこの一件は不自然だ」

お祓い師「結局それらしい気配は見つけられなかったのか?」

狐神「ううむ。狼の臭い自体は裏路地の方から、まるで隠れるような道筋で感じられたが、近くに潜んでいる気配はなかったの」

狐神「あとは……」

狐神「狼とはまた少し違った臭いがしたのう……」

お祓い師「ん?」

狐神「いや、こっちの話じゃ」

お祓い師「そうか?」

狐神「うむ」

狐神「…………」

ここまで。






狐神「部屋まで戻ってきたが、何やら物足りんと思っておった理由がわかった」

狐神「酒を飲んでおらんかったの」

お祓い師「牛鍋代で精一杯だったんだよ……!」

狐神「わしは酒がないと寝られないんじゃが」

お祓い師「嘘をつくなよ。山にいた時はどうしていたんだ」

狐神「山の幸で果実酒を少々」

お祓い師「ほんとかよ……」

狐神「おーさーけー!」

お祓い師「うるせえ、灯り消すぞ」

狐神「ふん、ふて寝じゃふて寝」

お祓い師(寝れるんじゃねえか)

お祓い師「って待て。そっちのベッドは俺のだ。枕が高くないと寝られないんだよ」

狐神「知らぬー」

お祓い師「おい待て待て」

狐神「やんっ」

お祓い師「やん、じゃない」

狐神「わしは襲われてしまうのかのう?」

お祓い師「襲うか馬鹿が。いいからどけ」

狐神「つまらん奴じゃ」

お祓い師「つまらなくて結構だ」

狐神「…………」

お祓い師「…………」

狐神「…………」

お祓い師「…………」

狐神「…………すぅ」

お祓い師(寝やがったこいつ……!)

お祓い師「…………」

お祓い師「……あのな、帽子ぐらい取れよ」

お祓い師「はあ……。あっちで寝るか……」

お祓い師「俺も今日は疲れたからな……」






狐神「で、けっきょく三日間聞き込みを続けても進展は無し、じゃの」

狐神「やはり道具屋のおふだが効くという話以外はとくに聞けんかったからのう」

お祓い師「……そうでもないかもしれん」

狐神「と言うと?」

お祓い師「昨日の聞き込みで得られた証言の中で『初めは犬かと思ったがよく見ると狼でだった』」

お祓い師「『四足で駆ける狼に早々と追いつかれてしまったが、前もって買っていたおふだのおかげで助かった』っていっていた人がいたよな?」

狐神「それが何じゃというのか」

お祓い師「駄菓子屋のばあさんの証言を思い出せよ」

お祓い師「あのばあさんは『俺の身の丈よりも大きく』、そして『二足でしっかりと立っていた』って言ってただろ?」

お祓い師「ほかの連中が遭遇した狼と、ばあさんが二度目に見たって言う巨大な狼は別物なんじゃねえかって思ってな」

狐神「あの駄菓子屋の老婆が嘘を付いている可能性は」

お祓い師「無いわけじゃないが、取りあえずは信じる方針でいく」

お祓い師「何よりあの話が本当なら今日が狼男を探すチャンスだ」

狐神「……なるほど、今宵は満月。あの老婆が狼男を見たというのも満月の夜であったか」

お祓い師「今晩が勝負だ。お前の力にかかっているからな」

狐神「ふむ、お任せあれじゃ。臭いの痕跡から大体の目星はつけてあるでの」

狐神「今宵はその近辺を中心に探るとしよう」

お祓い師「今後お前を雇用し続けるかの試験だと思えよ」

狐神「ほ、本気でやらねばならぬな……」

お祓い師「当然だ。あまりひとつの案件ばかりに時間を費やすわけにもいかないからな」

狐神「ま、まあ大船に乗ったつもりでおるがよい!」

お祓い師「……不安だな」

狐神「うるさいわい!」

お祓い師「まあ日が落ちるまでは少し時間があるな」

お祓い師「……あのばあさんの駄菓子屋で菓子でも買って時間をつぶすか?」

狐神「それが良い!よいと思うぞっ!」

今日はこの辺で。
いつもレスを付けてくださる皆さんありがとうございます。






狐神「ん~っ!美味いんじゃあ!」

お祓い師「東の菓子ではこの羊羹というのが一番好みだ。ゼリーとはまた違った食感でクセになる」

狐神「ゼリーとはなんじゃ?」

お祓い師「あー……、なんというか、こう。プルプルとしたものなんだけどな……」

お祓い師「甘いにこごりというか」

狐神「甘いにこごり、とな……」

お祓い師「こればっかりは実際に食べないと伝わらんと思うな」

狐神「食べてみたいんじゃが」

お祓い師「あー、この辺りじゃ見かけたことがないな」

お祓い師「もう少し西に行かないと無いかもしれん」

狐神「おぬしの話を聞いておると西へ行きたくなるのう」

お祓い師「まあ、いずれ行く機会もあるんじゃないか。俺だってずっとここにいるわけじゃないからな」

狐神「む……?そうなのか?」

お祓い師「まあな」

狐神「先日はなにゆえ狼男が東へ来たのか、という話をしたが。おぬしはどうなんじゃ?」

狐神「西の国の名門の生まれなんじゃろう?何をしにこんな東の辺境まで来たんじゃ」

お祓い師「……あー、なんというか。……両親を探している、って感じだな」

狐神「両親を?」

お祓い師「ああ。うちの親父は家の名に恥じない、実力のある退魔師だった」

お祓い師「退魔師ってのは、こっちの地方で言うお祓い師や陰陽師と同じようなものだと思ってくれ」

お祓い師「親父はランクSという領域にまで到達した数少ない退魔師の一人だ」

お祓い師「俺の生まれの王国では名を知らぬ人はいないような退魔師で、俺なんかじゃ到底及ばない領域だった」

お祓い師「そんな親父がある日突然姿を消した。俺の机に極東の皇国に向かうことだけを書いた手紙を置いてな」

狐神「理由は告げず、か」

お祓い師「……ああ。ただあの親父だ。何か考えての行動だったんだろう」

お祓い師「必然的に俺が当主となったんだが、俺はそんなことよりもあの親父の向かった先のことが気になった」

お祓い師「ずっと背中を追ってきた親父の、次の目標ってのがなんなのかってな」

お祓い師「そして遂に五年前、仲の良かった従兄弟に屋敷を譲って俺は旅に出た」

お祓い師「極東、ということしか分かっていなかったからな。まあ、探せども探せども親父は見つからずに今になった」

狐神「なるほどのう……」

お祓い師「いい加減親離れしろって思ったか?」

狐神「いいや、そんなことは思わん」

狐神「お父上、見つかるといいの」

お祓い師「まあ気長に探すさ。俺の修行の旅でもあるからな」

お祓い師「ただひとつ後悔していることといえば、屋敷はタダで譲らずに売って金にすれば良かった」

狐神「そうすればここまで金に汚い男にはならんかったじゃろうな」

お祓い師「生活が裕福すぎて世の中ってのを分かってなかったんだよ」

狐神「それを知れただけでも旅に出てよかったんじゃないかのう?」

お祓い師「……ああ、ごもっともだ」

狐神「……さて、そうこう言っている内に日が傾いてきたの。そろそろ満月が顔を出す」

狐神「……ので、おぬしに頼みがある」

お祓い師「あ?何だよ」

狐神「わしに饅頭を買っておくれ」

お祓い師「断る!いま羊羹を食べたばっかりだろうが」

狐神「違うんじゃい!『供物』として寄越せということじゃ!」

お祓い師「供物……?」

狐神「そうじゃ!わしら神は人からの信仰で力を得る。供物とはその一つの形」

狐神「おぬしから供物を貰えれば、ほんの少しの間力が使える。元の力には遠く及ばんが、目標を見つけるのに大いに役立つはずじゃ」

お祓い師「……なるほどな。ただひとつ聞いていいか」

狐神「なんじゃ」

お祓い師「その供物ってのは、さっきの羊羹で代用はできなかったのか?」

狐神「…………」

お祓い師「……オイ」

狐神「なんのことじゃろーなー?」

お祓い師「食い意地張ってんじゃねえぞ!このクソ狐!!」

ここまで。






???「ハァッ……。ハァッ……」

???「……この間みたいなヘマはしない……」

???「……そろそろ、か……」

狐神「窓の外から失礼するぞ」

???「なっ……!?」

狐神「ふむ、おぬしで間違いないようじゃな」

???「あ、あんたは?」

狐神「なに、怪しい物ではない。ちとこの部屋に入れてもらってもいいかの」

???「そ、それはできない……!」

狐神「なぜじゃ?」

???「い、いいから今すぐいなくなってくれ!」

狐神「それはできぬ」

???「ぐっ……!まずいっ……!」

???「うっ……!」

???「ぐおおおおっ……!!」

お祓い師「くっ……!お前は後ろに下がっていろ!」

???「グオオオオオオォォォォッ!!」

お祓い師「くっ……!」

お祓い師(この感じは、同等かそれ以上のものだ……)

お祓い師(依頼書は書き直しだな……!こいつのランクは少なくともB2、いやB1は堅いか……!)

お祓い師「……お前が巷を騒がせていた狼男で間違いないな?」

???→狼男「…………」

狼男「だったらどうする……」

お祓い師「当然だが、退治させてもらう」

狼男「…………」

狐神「これこれ、待たんかい」

お祓い師「あっコラ!危ないから出てくるなって……!」

狐神「心配せぬとも、あやつはわしらに危害を加えん」

お祓い師「なに?」

狐神「あやつからは殺気が感じられん」

お祓い師「ま、まあ確かに……」

お祓い師「だが……」

狐神「まあ見ておれ」

狐神「自己紹介が遅れたの。わしらは物の怪の退治を生業にしている者じゃ」

狼男「物の怪退治を……」

お祓い師(いや、お前がそれを名乗るには早くないか)

狐神「こっちの精気の薄い男がお祓い師、そしてわしが狐神じゃ」

お祓い師「おい」

狼男「……あんたも人外なのか?」

狐神「まあ人為らざる者、としてはおぬしと同じじゃな」

狐神「見たところ、おぬしはここ最近頻発している狼の事件とは無関係じゃな?」

お祓い師「なに……?」

狼男「ああ、そうだ。俺は人を襲ったりはしていない」

狐神「ま、じゃろうな」

お祓い師「おい、そう簡単に信じていいのか」

狐神「なに、わしにはすでに犯人の目星はついておる」

お祓い師「は?」

狐神「じゃからそやつが犯人じゃないとわかる」

お祓い師「……それは確信があるのか?」

狐神「うむ」

お祓い師「……そういうことは、早く言えっ!」

狐神「いたっ!いんじゃぁ……!」

お祓い師「……で、それじゃあこの目の前の狼男はなんなんだ」

狐神「それを今から聞くんじゃ」

狐神「のう、おぬし。おぬしはなにゆえ、西の地から遥々極東のこの地へ来たんじゃ?」

狼男「……それは」

寝。

狼男「逃げて、来たんだ」

狐神「逃げて、とは」

狼男「信じてもらえないと思うけど、俺はもともと人間だったんだ」

狐神「ふむ……」

お祓い師「……続けてくれ」

狼男「ああ」

狼男「……俺は西の王国の、小さな山間の村に住んでいた」

狼男「村人の数もそう多くなくてね。まあ全員知り合い、みたいなものだったよ」

狼男「特に面白いことは起きないけど、まあ特に困ったことも起きない。そんな日々が続いていたんだ」

狼男「だけどある日、村人の一人が狼にやられた。見つかった時には引き裂かれて、見るも無残な姿だったよ」

狼男「それから間もなく、二人目が襲われた。こっちは命に別状は無くてね」

狼男「ただその二人目は体力に自信があって、プライドも高かった」

狼男「だからその人は、ただの狼じゃなくて狼男にやられたって嘘をついた」

狼男「狼男相手に多少怪我を負ったのは仕方がないってね」

狼男「その話を村人は信じた。そしてその日を境に狼男探しが始まった」

狼男「どこの神官かしらないけど、胡散臭い男を連れて来てね。誰が狼男か調べさせたんだけど」

狼男「まああんなのはデタラメでさ。自分が狼男にされないように、みんなはその神官に袖の下を握らせたのさ」

狐神「腐っておるのう……」

お祓い師「まあ世の中そんなことだらけさ」

狼男「で、結局何も出さなかった俺が狼男扱いさ。もちろん俺は否定した」

狼男「そこで満月の夜まで待つことになった。狼男は満月の夜にはその姿を隠すことは出来ないと言い伝えられているからね」

狼男「もちろん快諾したさ。俺は狼男なんかじゃなかったんだから」

狼男「……でも満月の夜。あろうことか、俺の姿はこの狼男の姿になった」

狼男「予め雇われていた退魔師から命からがら逃げてね」

狼男「狼男の伝承が浸透していない皇国までこうしてやって来た、というわけだ」

狼男「まあ来たら来たで、全く別件の狼の話題で街は騒がしいし、うっかり満月の夜に変身を老婆に見られちゃうしで散々だったけどさ」

狐神「なるほどのう。それは全くもってついてなかったの」

お祓い師「おいおい信じるのか?こんな突拍子もない話を」

狐神「あり得なくはないからのう」

狐神「こちらの地方では人の言葉、噂は大きな力を持っていると言われておっての」

狐神「その考えにのっとれば、村人たちがおぬしを狼男じゃと強く思い込んだために、お主は本当に狼男になってしまったということも考えられる」

狼男「そ、そんなことが……」

狐神「ま、現におぬしの身に起きたわけじゃしの」

狼男「た、たしかに……」

狐神「わしだって元をたどれば、老いた山の狐に人々の信仰心から力が宿ったものじゃからな」

狐神「で、おぬしはこやつをどうする?」

お祓い師「…………」

お祓い師「お前、ふだん飯はどうしてる」

狼男「そ、そこら辺の店で外食だが……」

お祓い師「人を喰ったりは?」

狼男「できるわけないだろう……!元々人間なんだぞ……」

お祓い師「……わかった。お前のことは見なかったことにする」

狼男「い、いいのか!?」

お祓い師「俺だってむやみやたらと殺生したいわけじゃない。金になるなら話は別だが……」

狐神「こやつは特に問題がはないが……。退治せん代わりに、一つ手伝って貰うこととするかの」

狼男「手伝い……?」

狐神「うむ、今回の狼事件の真犯人をとっ捕まえるのに一役買ってもらいたいんじゃ」

お祓い師「はあ……?」

狼男「は、はあ……」

寝。

《狼》編の締めくくりに入ります。






お祓い師「ここは、道具屋……?」

お祓い師「おい、犯人ってまさか……」

狐神「そういうことじゃ」

狐神「お、そろそろ来るようじゃ」

お祓い師「……!妖力を感じる……!」

お祓い師「……来たか!」

狼?『グルルルルル……ッ』

お祓い師(…………)

お祓い師(……なんだ、この違和感は……)

狐神「……今じゃ!狼男よ!」

狼男「グルオオオッッ!!!」

狼?『キャインッ!?』

???「うわああっ!?」

狐神「うむうむ、やはりか」

???「お前たちはっ……!」

???「くそっ!!」

お祓い師「は、早い……!」

狐神「追うのじゃっ!」

狼男「逃がすかっ……!」

お祓い師「あ、あいつはもっと早いな……」

狐神「当然じゃ。逃げている者も、あやつも、そしてわしも“獣”じゃ」

狐神「おぬしら人間よりはずっと早く走れるわい」

お祓い師「お前も?」

狐神「当たり前じゃ。山で数百年と生きたわしが、体力でおぬしに劣るわけがなかろう」

狐神「……まあ、いま逃げた“獣”は、わしらの中では一際のろまな事で有名じゃがのう」

狼男「捕まえた」

???「は、離せ~っ!」

狐神「ふむ、ようやく出たな元凶め」

狼男「あ、さっきの狼の方はどこへ……」

狐神「あれは幻術じゃ」

狼男「幻術、だと……?」

狐神「そうじゃ。そしてそやつが元凶じゃ」

???→道具屋の男「くっ……!」

お祓い師「……ああ、なるほどな。やっとわかった」

お祓い師「おい、“元の姿”に戻らないと、祓うぞ……?」

道具屋の男「ひぃっ……!戻る!戻るからやめろっ!」

道具屋の男『解っ!』

狼男「……た、狸になった」

狐神「狼騒動の犯人は化け狸ということじゃ」

道具屋の男→化け狸「ぐぐっ……」

狐神「得意の幻術で街の人々に狼を見せ、そこに自分が駆けつけてニセのおふだで祓ったふりをする」

狐神「そうして自分のおふだが狼に有効であると言い人々に売りさばいていた、といったところじゃろうな」

お祓い師「……ん?俺が初対面でこいつの気配を感じ取れなかったのはなぜだ」

狐神「人間への変化とは大して力を使うような技ではない。それでも僅かに妖力は滲みでるが、それを隠すための道具屋ということなんじゃろうな」

狐神「おふだは偽物じゃったが、店に並べてある道具の中には実際に力を宿しているものもあった」

狐神「そういった力に囲まれることで、自らの微量な妖力を感じさせないようにしていたんじゃろうな」

狐神「变化を解いている間は力を使わねば察知されることもなかろうしな」

化け狸「ぐぐぐっ……」

お祓い師「全部図星、って顔だな」

お祓い師「……ま、観念して祓われろ」

化け狸「おっ、お助けをっ!」

お祓い師「……と言いたいところだが。まあ、それは勘弁してやろう」

狐神「……ふむ」

お祓い師「人を騙したとはいえ、人には危害を加えないような方法だったからな」

お祓い師「まあ祓うほどでもないだろう」

お祓い師「……そこでお前に提案がある」

狐神「…………」

化け狸「て、提案とは」

お祓い師「俺だって仕事でお前を追っていたからな。このまま見逃しては大赤字だ」

お祓い師「そこで、だ」

お祓い師「俺は今回の仕事を諦める代わりにその分の報酬をお前に払ってもらう。どうせ今回の件で儲けた金があるだろう」

化け狸「そ、それだけでいいんですか……?」

お祓い師「あとは、この街は出て別の場所で真っ当に商売しろ。変幻の術は一流みたいだからな。まあ、上手くやれるだろ」

化け狸「あ、ありがとうございますっ!」

お祓い師「礼はいいから早く金を寄越せ」

化け狸「はっ、はいっ!今すぐっ!」

狼男「…………」

狐神「…………」

狐神「……くすっ」

お祓い師「あ?なんだよ」

狐神「いや別に」

狐神「やはりおぬしは面白いのう」

お祓い師「はあ……?」

狐神「ま、とりあえず一件落着ということじゃな」

お祓い師「ま、まあ、そうだな……」

お祓い師(面白い、ってのはどういうことなんだよ……)

お祓い師(……今回特に活躍していない俺を冷やかしているのか……?)

狼男「…………」

狼男「あの、いいですか」

お祓い師「あ?」

お祓い師(敬語……?)

狼男「──折り入ってお願いしたいことがあります」

狼の正体が分かったところでここまで。
次回で《狼》編は終了します。


第一巻終章かな

阿呆の血が騒ぐな

>>161
一つ一つお話が短く短編のようなものなのでどちらかというと、《狐》編が序章で《狼》編が第一章といった感じでしょうか。
>>162
一瞬なにかと思いましたが有頂天家族ですね。

では、今夜で《狼》編を終わらせます。






狐神「で、あれから二週間で街を出ることになったわけじゃが」

お祓い師「この辺りでも親父の行方に関する情報は手に入らなかったからな」

お祓い師「そろそろ拠点は移し時だと思っていた」

狐神「ま、次の移動は快適に行けそうで何よりじゃが」

お祓い師「……まあな……」

狐神「この通り、幌付きの荷馬車を買ったからのう!」

お祓い師「……痛い出費だったんだぞ……」

狐神「まあまあ、“同行者も増えた”わけじゃし、馬だけではどうにもならなかったじゃろう」

狼男「な、なんか申し訳ないです」

お祓い師「……いや、ついて来てもいいって言ったのは俺だからな」

狐神「ふむ。こやつの同行の申し出を受けたこともそうじゃが、あの化け狸を見逃したことも意外じゃったのう」

お祓い師「……別に、それが適切な判断だと思ったからだ」

狐神「くすくすっ、どうかのう」

お祓い師「チッ!お前と会ってから人外に対する認識が少し変わっただけだ!」

狐神「うむうむ」

お祓い師「そのニヤニヤをやめろ!」

狼男「……旦那、なんか大変ですね」

お祓い師「……その敬語やめてくれよ。歳は大して変らないだろ」

狼男「いえいえ。こんな自分に同行許可を出してくださったんですから、これは当然の態度です」

お祓い師「そ、そういうものか?」

狼男「ええ、道中の馬の手綱もお任せください」

お祓い師「……じゃ、じゃあ頼む」

お祓い師(使用人のいる家で育ったんだから、むしろこの感じが慣れているはずなんだがな)

お祓い師「……なんだかな」

狐神「しかしやはり意外じゃったのう」

お祓い師「何がだよ」

狐神「じゃから、あの狼男に同行許可を出した事がじゃ」

狐神「おぬしの同業者に見つかったら面倒なことにならんのか」

お祓い師「十中八九、面倒事になる気がするが……」

お祓い師「まああいつは人の姿の時には全く気を発していない」

お祓い師「それに、こっちの地方には式神という文化があるらしいじゃねえか。最悪ばれた時にはそうやって言い訳するさ」

狐神「なるほど、式神、かの……」

狐神「それにしても、おぬしは相変わらずのお人好しじゃの」

お祓い師「うるせえ」

狐神「ククッ、照れるでない」

お祓い師「あ?」

狐神「……で、次の目的地はどこなんじゃ」

お祓い師「あー、少し南下するつもりだ」

お祓い師「最近、強力な物の怪の被害がかなり出ているらしいからな。聞きつけて親父が来ているかもしれない」

狐神「……ふむ」

狐神「して、そこの特産品は何かのう……!」

お祓い師「言うと思ったよ」

狼男「狐の姐さんは食べ物に目が無いですね」

狐神「当然じゃ!食べることこそが生きているということじゃ」

狼男「それは同意ですね」

お祓い師「お前もか」

狼男「あ、姐さん。一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか」

狐神「ん、なんじゃ?」

狼男「あの夜、どうやって俺の場所を探しだすことが出来たんですか。まさか気配を察知できるまで虱潰しに……」

狐神「ああ、そのことかの」

お祓い師「そういえばそのことは俺も詳しくは聞いてなかったな」

お祓い師「お前の能力っていうのはなんなんだ」

狐神「では説明しておくかの」

狐神「わしの能力は、わしがわざわざあんな山奥に祀られておったことに関係しておる」

狐神「その昔、あの麓の村から隣の村に行くには、険しい峠を越えていかねばならなかった」

狐神「しかしその道の険しさ、森の深さから遭難する者が後を絶えなかった」

狐神「そこでわしは、無事に旅人が峠を越えられるようにとあの社に祀られたのじゃ」

狐神「わしの力は『目的地にたどり着かせる力』じゃ。あの晩は、わしらの探す狼男の場所を目的地と設定して力を使ったのじゃ」

お祓い師「目的地にたどり着かせる力……?」

お祓い師「じゃあ俺の親父の場所にも行けるってことか!?」

狐神「……それができたら良いのじゃが、この通りわしの力は衰えに衰えておる」

狐神「おぬしに供物をもらっても、その効果の範囲はたかが知れている」

狐神「じゃからあの晩もある程度の調査の後に目星をつけた場所で力を使ったのじゃ」

狐神「とてもじゃないが、この広い世界のどこにいるのかわからぬ人物を探しだすことは不可能じゃ」

お祓い師「そ、そうか……」

狐神「力になれなくてすまんの……」

お祓い師「……いや、いいさ。今まで通りゆっくり旅をしながら探すさ」

お祓い師「同行者もいて退屈しないしな」

狐神「……おぬし……」

狼男「旦那……」

お祓い師「……ああ、今のはナシだ。同行者なんて鬱陶しいだけだ」

お祓い師「特にお前はな!」

狐神「ふっふー、おぬしの本音はよーくわかったからの。ホレ、退屈しないようにわしと語らい合おうではないか」

お祓い師「うるせえ!急に調子にのるな!」

狐神「それともなんじゃ?わしに甘えたいのか?」

狐神「それならほれ、わしの膝枕で寝るとよい」

お祓い師「調、子、に、の、る、な」

狐神「いたっ!?」

お祓い師「ったく……」

狼男「賑やかで楽しいじゃないですか」

お祓い師「場所交代するか?」

狼男「遠慮しておきますよ」

お祓い師「おい」

お祓い師「……はあ……」

お祓い師「ほんとに退屈しない旅になりそうだ……」

《現状のランク》
※潜在能力ではなく、その時点で判明している実力

B1 狼男
B2 お祓い師
B3

C1
C2
C3 

D1 
D2 
D3 狐神 化け狸

以上で《狼》編は終了です。
以降もこうやって一章ずつ何かを解決したりしなかったりしながら進んでいきます。その度にランキングが埋まっていく感じですね。

次回《河童》編は今回よりは短めです。


お狐さまの能力の加減がまじで素晴らしい
どこまで解放されるのか楽しみ

狐神様の全盛期も見てみたいがやるとしたら終わった後の番外編かな?
おつ

>>176
戦いに特化した力とそれ以外の力と、バランスよく出していこうと思っています。
>>177
今のところ過去について触れるつもりはありませんが、もしかしたら時間があいた時にやるかもしれませんね。

その他のレスもありがとうございます。
今日から《河童》編です。



《河童》


お祓い師「この面子で旅をはじめてはや一ヶ月」

お祓い師「地図通りならそろそろ人里が見えてもいい頃なんだが……」

狼男「川を目印に進んできましたが、もしかしたら川の流れそのものが変わっているのかもしれませんね」

狼男「この地図自体古いように見えますし」

お祓い師「それはあり得るな……」

お祓い師「それにここ数日大雨が続いていた。増水で普段は水がない所が河川のように見えている可能性もある」

狐神「その大雨のせいでここ数日は随分と過ごしにくかったのう」

お祓い師「幌馬車の中にずっといた奴が何を言っているんだ……」

狐神「いかに幌馬車といえども、あれほどの大雨は防げぬわ。中が雨漏れでびしゃびしゃで寝にくかったのは事実であろう」

お祓い師「まあ、そりゃな」

狼男「人里につけばちゃんとした所で寝れるでしょう。それまでの辛抱ですよ」

お祓い師「だな」

狐神「……ふむ、どうやらその人里、近いようじゃぞ」

お祓い師「お、そうか?」

狐神「かすかににおいが漂ってきておる」

狼男「もう一雨来る前になんとか着きたいですね」






お祓い師「で、村に着いたはいいが……」

狐神「なにやら不穏な空気じゃの」

狼男「ですね」

お祓い師「まあその辺の聞きこみは宿屋を取ってからにする。馬をとめることができる場所があるといいんだが」

狼男「見たところ宿屋らしき所は見当たらないですね。もう少し馬車を進めてみましょう」

狼男「しかしなんですかねこの空気。恐怖というか、警戒というか。そんな感情が村の人々の顔から伺えます」

お祓い師「この村の周辺に人間に害をなす物の怪が出たのかもしれんな」

狼男「西の出身ですから、こっちの物の怪、ってどんな種類がいるのか想像もつかないです」

お祓い師「俺も五年目だけど、まだまだ知らない奴らばかりだ」

お祓い師「東では文化の特徴上、神も物の怪も多種多様に生まれるようだからな」

狐神「ま、何が起きたかは村の人々に聞けばわかるじゃろう。それよりも宿屋はあの辺りで良いのではないかの」

お祓い師「お、馬屋もあるみたいだな。あそこにするか」

狼男「了解です」

狼男「どうどう……」

狼男「……よし、じゃあ行きますか」

お祓い師「っておい、狐神。帽子を被れ帽子を」

狐神「おっとすまぬすまぬ」

お祓い師「頼むから騒ぎの中心にだけはならないでくれよ……」

狐神「わかっておる。わしとて面倒事は嫌いじゃ」

お祓い師「だったらもう少し自覚を持って行動してくれ……」

狐神「まあ田舎なら人外に寛容な場所も多い。そこまで気を張らずとも平気じゃろう」

お祓い師「だが、いまこの村の状況。もしこれが人外のせいだったらそうもいかんだろう」

狐神「……わかったわい、この村では大人しくしておる」

お祓い師「この村で“も”、だろ?」

狐神「さてな」

お祓い師「てめえ……」

ちょっとキリ悪いですけどこの辺りで。

狼男「ま、まあまあ……。とりあえず部屋が空いてるか聞いてみましょう」

狼男「……ごめんくださーい」

宿屋の女将「あ、お客さんは何名様で」

お祓い師「三人だ。裏手の馬屋は使わせてもらっているが構わないか」

宿屋の女将「それは構わないよ。それじゃあ二部屋でいいかな」

お祓い師(出費は増えるばかりだな……。が、仕方がないか)

お祓い師「それで構わない」

宿屋の女将「お客さんは何のようでこんな小さな村に。旅の途中かい?」

お祓い師「いや、一応お祓いを生業にしている者でね。物の怪退治の仕事を探して回っているところだ」

宿屋の女将「お、お祓いだって!?」

お祓い師「あ、ああ……」

宿屋の女将「だったら大歓迎だよ!そうだね、宿賃はタダでいいよ!」

狼男「タ、タダですか……?」

宿屋の女将「ああ、そうさ」

宿屋の女将「その代わりに、ここ最近村の周辺で被害が出ている一件の解決に協力して欲しい」

お祓い師「物の怪関連か?」

宿屋の女将「ああ。なに心配なさんな。報酬は別途で村のお金から出るようになっているからね」

狐神「役所、みたいなところで交付されるわけではないのかの」

お祓い師「小規模な村だと、ああいった公の機関の施設がない場合も多いからな。そういう時は個人契約が普通だ」

お祓い師「よしわかった。詳細の方を聞いてもいいか」

宿屋の女将「詳しくは村長の方に聞いてもらいたいんだけど……」

宿屋の女将「まあ何が出ているかっていうと、河童さ」

狐神「ほう、河童とな……」

宿屋の女将「ま、とりあえずは荷物を部屋において、それから村長のところを訪ねておくれよ」

宿屋の女将「一人一部屋にしたいところなんだけど、あいにく空きが二部屋しか無くてね。そこは勘弁してもらいたい」

お祓い師「いや、タダで二部屋も用意してもらえるだけありがたい」

宿屋の女将「そうかい。はいよ、これが部屋の鍵ね」

お祓い師「じゃあ部屋に荷物を置いたら、改めて村長のいる場所を聞きに来る」

宿屋の女将「まあ部屋で少し休んでからにするといいさ。旅で少しは疲れているだろう」

狐神「うむ、そうじゃな」

狼男「ではお言葉に甘えて……」






お祓い師「で、部屋分けだが」

お祓い師「俺と狼男が同室、お前は一人でいいな」

狼男「まあ、それが妥当なんですが……」

狐神「ま、待て待ておぬしよ。わしを一人にするのかの?」

お祓い師「まあそういうことだな」

狐神「おぬしも聞いておったじゃろう。この村はいま、物の怪の被害を受けておる」

狐神「何の戦闘能力もないわしが一人で襲われたらどうするんじゃ」

お祓い師「何度も言っているが部屋は男女分けたほうがいいだろう」

狐神「今までも同室で寝てたのに何を今更……」

狼男「じゃ、じゃあ俺が一人で、お二人が同室というのは」

お祓い師「待て待て勝手に……」

狐神「ま、それが妥当じゃな」

お祓い師「おい、俺の意志は?」

狼男「ま、まあまあ」

狐神「うむ、問題なかろう」

お祓い師「……ああああっ……!何なんだよお前らは……!」

お祓い師(一人部屋で久々に静かにしていたかったんだが……)

狐神「というわけでまた同室じゃな。よろしく頼むぞおぬしよ」

お祓い師「はあ……、平穏がほしい……」

寝。



>俺が一人部屋で~
これ、普通は祓い師が先に言い出す台詞だよなww
で、狐神と揉める、と

>>197
そうですね、今回は先手を打たれた感じです。

では、今日の分をはじめます。






お祓い師「女将の話によると村長の家はこの先のようだが……」

狼男「着く前に軽く聞いておきたいんですが、河童ってどんな物の怪なんですか?」

狐神「なんじゃ、おぬし知らんのか」

狼男「どうにもその辺には疎くて……」

お祓い師「俺ですら詳しくは知らないからしょうがねえんじゃないか」

狐神「なるほどのう、では軽く説明するかの」

狐神「河童とは極東では一般的な物の怪でな」

狐神「人のような四肢があるが、あやつらは基本的に水中に潜んでおる」

狐神「体じゅうが緑色の鱗で覆われておって、指の間には水かきがあり、鳥のようなくちばしを持ち、頭の上には皿のようなものがある」

狐神「というのが一般的な外見じゃ」

狐神「好物はきゅうりと言われておるが、人や馬を水中に引きずり込んで、尻の穴から肝を取って食うとも言われておる」

狼男「し、尻の穴から……」

狐神「人と共存している個体もいると聞くが、今回はどうやら違うようじゃな」

狼男「なるほど」

お祓い師「……まあ何はともあれ、まずは村長に話を聞かないとな」

狼男「女将さんの言っていた村長さん宅はあれですかね」

狐神「それっぽいのう」

お祓い師「よし、じゃあ行くか」

お祓い師「……あー、村長の家はここであっているか」

川辺の村の村長「あ、あなた方は……?」

狼男「宿屋の女将さんから河童退治のお話を聞いて来たものです」

川辺の村の村長「おお……、こんな田舎の村にお祓い師様が……!」

川辺の村の村長「どうぞどうぞ、お上がり下さいませ。いまお茶を出させますので」

狐神「えらい歓迎されおるのう」

お祓い師「それだけ困ってるってことだろうな」

狼男「ぜひとも解決したいですね」

狐神「うむ」






お祓い師「河童、について詳しく聞かせてもらいたい。場所とか、被害の様子、あとは個体数なんかもできれば知りたい」

川辺の村の村長「場所はこの村を出て東に少し行ったところで道と合流する川の岸周辺であります」

川辺の村の村長「近くを通った者が時おり、女子供関係なく水中に引きずり込まれることが多発しまして……」

川辺の村の村長「河童の噂を聞いたのか、行商人なども立ち寄ってくれなくなってしまい、村はご覧のとおりの寂れようであります……」

お祓い師「この村には祓いの心得がある人間はいないのか」

川辺の村の村長「いることにはいますが、相手の数が数で……」

川辺の村の村長「聞くところには、四十はいたとか……」

狐神「四十、じゃと……!?」

お祓い師「……どうした?」

狐神「……な、何かの間違いでは……?」

川辺の村の村長「いえ、証言者は複数おりますので……」

お祓い師「……?」

お祓い師「まあ、いい」

お祓い師「河童退治の依頼、受けよう」

川辺の村の村長「ほ、本当でありますか……!」

お祓い師「河童を取り逃がしてしまった時のことも考えて、村人にはいかなる川辺にも近づかないように言っておいてくれ」

川辺の村の村長「え、ええ、そうさせていただきます……!」

もうすぐクリスマスですね。
それでは


お祓い師と狼男は西洋なんやしクリスマスの小ネタはさんでもええんやで

乙乙
番外編でクリスマスやってもいいのよ

>>205 >>206
一瞬やろうかと考えたんですけれども、キャラクターの出入りが激しいシナリオですので番外編を書くのは断念しました……

一章ごとのキャラの切り捨てが結構あります。ただし中には再登場するのもいるので、誰だかわからなくなったりした時は遠慮なく質問してください。
それでは今日の分、いきます。






狐神「…………」

お祓い師「……どうした。たしかに四十という数は多いが、そこまで驚くほどのことなのか」

狐神「……おかしいではないか……」

お祓い師「おかしい、だと?」

狐神「うむ……」

狼男「……!お二人とも……!」

お祓い師「……お出ましか」

狐神「……!」

河童A「なんだ貴様らは」

河童B「……村に依頼されたお祓い師か。茶色の髪をした男からは奴ら特有の嫌な気配がする」

河童B「そっちのでかい男は人間か……?いや、だが微かに獣の臭いがする……」

河童C「そして、その後ろの女は……。ほう、神か……!貴様ら式神の関係か」

お祓い師「残念ながら式神の契約などはしていない。訳ありの同行だ」

お祓い師「あとはお前たちの予想通り、村に頼まれてお前たちを退治しに来た」

河童A「この数を相手にか……?」

お祓い師「問題ない」

河童B「なめられたものだな」

狐神「ま、待っておくれ……!」

お祓い師「どうした」

狐神「お、おぬしら一体どういうことじゃ……!」

狐神「なぜ同じ物の怪がここまで沢山おるのじゃ……!」

狐神「物の怪とは人の恐怖の具現……、それがここまで大量に現れるということは一体どういうことじゃ……!」

河童A「狐の姉さん、あんた何か勘違いしているな」

狐神「なんじゃと……!?」

河童A「俺たちは、河童というれっきとした“一つの種”だ。ここの全員が人の心から生み出されたものじゃない」

お祓い師「種、だと……?それだと狐神から聞いた話とは大分違ってくるが」

河童A「正確には、元をたどれば人の心が創りだしたモノだったんだろう」

河童A「しかし今の我らはその子孫であり、種族の末裔だ」

狐神「あ、あり得ん……!物の怪が種族となる、じゃと……!?」

狐神「それでは、わしら神や、おぬしら物の怪の存在の定義が……!」

河童B「やっぱりあんた勘違いしているな」

河童B「あんたが言いたいのはこういうことだろう」

河童B「『人の恐怖心から産まれるはずの物の怪が、その力なく、種として繁殖していけるはずがない』ってな」

河童B「それが大きな勘違いだ。まず、物の怪には人の恐怖心から産まれた者と、元来から種族として存在するものの二種類がいる」

河童B「そして、たとえ前者であっても一つの種族として繁栄し得る」

河童B「確かに人の恐怖心は俺たち人外を産み出し、そして俺たちの大きな力の源になる」

河童B「しかし、そんなモノがなくても俺たちは消えたりはしない」

狐神「なん、じゃと……」

お祓い師「…………」

河童B「要は、俺たち人外は“心”が存在の源だ」

河童B「この世で一番自分にとって大事な心は何だ。──それは自分自身の心だ」

河童B「食欲、性欲、睡眠欲……、生きたいという欲求は自分自身のためにある。これは他人に任せるものではない」

河童B「あんた、見たところかなり力が衰えているようだが、それはあんた自身のせいだ」

狐神「……!」

河童B「一度大きくなった“器”は、決してそこから小さくなることはない。つまりは力が衰えるというのは、その中身が減っているというこになる」

河童B「最近は人々の信仰というのも減り、神々の数が減少していると聞くが、そんなことはあんたら自身でどうにかすれば解決することなのだ」

河童B「そう、簡単だ。あんたら自身が生きようと思えばいい。それだけで力は満たされる」

河童C「しかし貴様ら神というのは情けない」

河童C「人に頼られなくなった瞬間、自分たちの存在意義がわからなくなってしまうのだ」

河童C「その点、俺たち物の怪とは良く出来ている。人間に恐れられなくなったら、再び恐怖に陥れてやればいい」

河童C「仮に人間に完全に忘れられようとも、俺たちは人間の心とやらに擦り寄って生きてきたわけではない」

河童C「その時は自分たちの意志で生きていくだけだ」

河童C「これが近年、神々が物の怪よりも遥かに速く衰退していっている理由だ」

狐神「な…………」

河童C「信仰というものに頼り、自分の意志を持たぬ空っぽの存在」

河童C「それがお前たち神というものだ」

狐神「や……、やめておくれ……」

河童A「存在意義を他人に委ねるなど、それは生きているというのか」

狐神「やめておくれっ……!」

河童B「本当にお前は生きているのか?お前は誰だ?なぜここにいる?」

狐神「っ……」

お祓い師「狐神……」

河童A「己の存在を疑い、絶望したか。本当に神とは情けのないものだ」

河童A「まあ、神とはその特性上、どうしようもないほどに“手遅れ”であることが殆どだがな……」

お祓い師「……おい」

河童A「なんだ人間よ」

お祓い師「いまお前たちは、自身の意志さえしっかりとしていれば、その器に力は満たせるということを言ったな」

河童A「それが?」

お祓い師「村人を襲ったのはなぜだ。お前たちはそんなことをしなくても生きていけるんだろう」

河童A「なんだ、そんなことか」

河童A「簡単だ、これは報復だ」

お祓い師「報復……?」

河童A「そうだ。少し前の話だが、俺たちの仲間がとある人間に大量に虐殺された」

河童A「俺たちはその報復をしているに過ぎない」

お祓い師「その人間というのはどうなった」

河童A「知らんな。少なくとも俺たちはあの日以降姿を見ていない」

お祓い師「なぜその人間ではなく、関係のない村人たちを襲っている」

河童A「それは貴様らと同じだ」

お祓い師「……どういうことだ」

河童A「貴様らは村の依頼で俺たち河童を祓いに来たのだろう?そこに俺たち個人の区別はあるか?」

河童A「そうではないよな。村人を襲った河童という集団そのものを祓いに来たのだ」

河童A「俺たちも同じように、俺たちの仲間を殺した人間という集団を殺しているに過ぎない」

お祓い師「……そうか」

河童A「理にかなっているだろう?」

お祓い師「ああ、特に反論はない」

お祓い師(これは話し合いで解決することではない、か……)

ここまで。


存在意義の問いかけがもう来たのか

おつ
追いつめられる狐神様かわいい
これから復活するのが楽しみ

>>218 >>220
基本的にメンタル弱いおばさんです。

では始めます。

お祓い師「おい、狼男」

狼男「なんでしょうか、旦那」

お祓い師「お前は満月じゃなくても変身できるよな」

狼男「……ええ、満月の夜には変身への強制力があるというだけですから」

お祓い師「だよな。じゃあやるぞ」

狼男「……旦那の命令なら」

お祓い師「いくぞ……!」

お祓い師『滅却!』

河童B「……!炎か……!」

河童B「どうやら俺たちとは相性が悪かったようだな人間」

お祓い師「それはどうかな?」

お祓い師「──燃えろっ!!」

河童B「こ、この威力は……!?避けられんっ……!!」

河童B「ぐあああああああっ!!!」

河童C「貴様っ……!」

河童D「我々が相手だ!!」

狼男「旦那の手を煩わせるまでもない……!」

狼男「ハァァッ!!」

河童C「な……!」

河童D「に、二体一気に貫かれ……」

河童A「……やはり、強いか」

河童A「ここは引くとしよう」

お祓い師(川の中に……!)

狼男「逃がすか……!」

お祓い師「いや待てっ!不用心に川によるな!」

河童A「シャァァッ!!」

狼男「なっ……!?」

狼男(力も速度も、さっきまでの奴らとは段違い……!)

お祓い師「あいつらは川に住む物の怪……。川の中にいればその恩恵を受けて力が増すんだろう……!」

お祓い師「それがまだ何十体といるんだ。油断をするなよ……」

狼男「……了解です」

河童E「シャァァァッ!」

狼男「くっ……!」

お祓い師「どいてろ!」

お祓い師『滅却!!』

河童E「おおっと……!」

お祓い師「チッ!川の中に……!」

河童E「ここは俺たちの本陣だ。少なくともお前たちに攻めの手はない」

お祓い師「川から引きずり出す他はないか……」

狼男「……任せて下さい。俺がなんとかしてみせます」

狼男「オオオッ!」

河童E「馬鹿め、自ら川へ来たか!」

河童D「袋叩きにしてやる!」

狼男「グッ……!」

狼男「オオオオオオッ!!!」

河童D「なっ、馬鹿なっ!川の中の俺たちに対してそれほどの力を……!」

河童E「だ、だが残念だったな……!やはり川に守られた俺たちの身体を貫く事は出来んようだ」

河童E「せいぜいこうやって川辺に殴り飛ばすのが限界……」

お祓い師「…………」

河童E「……あ」

お祓い師『……滅却』

河童D・河童E「「ぐあああああああっ!!!」」

河童F「き、貴様ァ~!」

河童G「死ねぇっ!!」

狼男「……!」

河童F「がっ……!」

河童G「は、離せっ……!」

お祓い師「よし、そのまま陸地へ投げろ!」

狼男「フンッ!」

お祓い師『滅却!!』

河童F・河童G「「────!!」」

お祓い師(……まあおそらくは、文字に起こしたら馬鹿みたいな光景なんだろうな)

お祓い師(あいつが投げて、俺が燃やす。流れ作業のように、淡々とな)

お祓い師「……どうした。終わりか」

河童A「……ふん、やるな」

狼男「次はお前だ」

狼男「ハァッ!!」

河童A「シャァッ!!」

狼男「……!」

狼男(やはりこいつは他の個体より頭抜けて力が強い……!)

寝。


狐神おばさん...
見た目は若いんだなきっと
Fateの玉藻九尾Verみたいな感じか

>>230
主人公側の三人は全員見た目二十代半ばだと思ってください。

あけましておめでとうございます。今年もゆっくり進めていきます。

お祓い師(力だけではなく頭も切れる……)

狼男(なんにせよ、なんとか陸地に誘き出さないと分が悪い……!)

河童A「ほらほらどうした。ぼうっとしているならば貴様の肝を抜き取ってやるぞ」

お祓い師(あの余裕から察するに、あいつはまだなにか隠している)

お祓い師(挑発に乗って誘い込まれては向こうの思う壺だ……)

お祓い師「狼男、一旦離れろ!俺がそいつに炎を浴びせてやる!」

狼男「川の中のこいつに炎はおそらく効果がありません!」

狼男(それよりは……!)

河童A「では、こちらからいかせてもらおうか……!」

狼男「……!」

狼男(今だっ……!)

狼男「オオオッ!」

河童A「何っ……!?」

河童A「くっ……!突進の勢いを利用して投げた、か……!」

狼男(陸地に投げた隙に間一髪入れずに追撃する!)

狼男「オオオオッ!」

河童A「まずいっ……!」

河童A「────“なんて言うとでも思ったか”」

狼男「……!?」

河童A「まずは狼よ、貴様から死ねェッ!!」

狼男(な、なぜ陸地でもこれ程の力が……!?)

お祓い師『滅却!!!』

河童A「……!」

河童A「おっと、危ないではないか……。危うく燃えるところだった」

狼男(助かった……)

狼男(しかし、こいつの力の法則がわからない……。川の中だけで力が増すわけではないのか……?)

河童A「ぼうっとするなよ狼」

狼男「くっ……!」

河童A「我々はまだまだ控えが残っている」

河童A「行け」

河童H「覚悟するんだな……」

河童I「ブチ殺す!!」

狼男「くそっ……!」

お祓い師「おい狼男!一旦ここまで下がってこい!」

狼男「は、はいっ……!」

河童H「……!」

河童I「チッ……」

お祓い師「…………」

狼男「と、止まった……?」

お祓い師「……よし、やはりな……」

河童A「…………」

河童A「ほう気がついたか、人間」

お祓い師「……ああ」

狼男「旦那……?」

お祓い師「お前たちの力は河川の場所自体に影響されるのとは違う……」

お祓い師「いや、半分はそれであっているのか」

狼男「……と言いますと?」

お祓い師「正確には、今ある河川がお前たちに力を与えるわけではないということだろう」

河童A「……その通りだ」

お祓い師「おそらくはお前たちは、長く住み着いた川の場所からこそ力を得ることが出来る」

お祓い師「そもそも、そういった自然結界は一朝一夕で為るものではない。何十年、何百年と何らかの影響を受けることで発生する」

お祓い師「つまり、大昔からずっと河童が住み着いていた場所こそが自然結界と化す」

お祓い師「言い換えるなら、あいつらがいま立っている場所はその昔は川だったということだ」

お祓い師「おそらく、来る途中にあった水門が出来たせいで流れが変わったんだろうな」

お祓い師「今現在、水が流れているかどうかは問題では無いということだろうな」

狼男「な、なるほど」

河童A「……完璧だ、人間」

河童A「この辺りの川の流れがこうなったのは、人間が水門を作った数年前からのこと……」

河童A「だがそんなものによって川の流れが変えられようとも、我々一族にとっての力の流れはそう簡単には変わらん」

河童A「数百年もの間我々の先祖が住み続けた場所こそが我らの力の源となるのだ……!」

お祓い師「まあつまりは、俺たちは陸上でも安心して立ち回れないってことだ。どこがあいつらの本陣かわからないんだからな……」

狼男「では、どうすれば……」

お祓い師「…………」

お祓い師「……俺に案がある、耳を貸せ」

狼男「……そ、それはあまりにも……!」

お祓い師「リスクはあるがやるしかねえ」

狼男「……わ、わかりました」

河童A「ふん、相談は終わりか」

お祓い師「相談している間も襲ってこないってことは、とりあえずここは安全地帯ってことでいいんだよな」

河童A「…………」

お祓い師「狐神もそこを動くなよ!おそらくそこも安全だ!」

狐神「う、うむ……」

お祓い師「ま、俺たちはその安全地帯を出るわけだが」

お祓い師「行くぞ!」

狼男「はい!」

河童A「……!自分たちから川の中に飛び込んだ、だと……!?」

河童H「ど、どうする……!」

河童A「……向こうにも策があるようだが、川の中では我々が有利であることには変わらん!」

河童A「奴らがなにかやらかす前に追いついて仕留めるぞ!」

お祓い師「やばいやばい追いつかれる……!」

お祓い師「狼男は先にいけっ……!」

狼男「わかってます!」

河童I「待て人間ッ!!」

お祓い師『……め、滅却!』

河童H「そんなもの、潜れば当たらん!」

お祓い師(くそっ、泳ぎで河童に勝てるけがないからな……!)

お祓い師(急いでくれ狼男……!)

河童I「はははっ、もう追いつくぞ!」

お祓い師「ああああっ!まだかっ!?」

狼男「旦那ァ!準備完了です!!」

お祓い師「よし!」

河童I「な、なんだァ……?」

河童A(狼の方が先に陸地に……?)

河童A(……あそこにあるのは、まさか……!)

河童A「マズイっ……!!」

狼男「水門、開けますよ!」

河童A「お前たち今すぐ戻れっ!!」

狼男は「遅い!」

お祓い師「よーし、やっちまえ!!」

ここまで。

>>243 
誤字があります。わかると思いますが、8行目「狼男は」→「狼男」です。






お祓い師「い、生きてる……」

お祓い師(幼少期によく川に泳ぎに行ってた経験がここで活きるとは……)

お祓い師(いかに河童といえど、目の前で水門が開けば逃げることはできなかったか……)

お祓い師(そして、運よくこの場所にきてくれたか……)

お祓い師(……いや、違うな。これは狐神のお陰か?)

お祓い師「なあ、皇国には『河童の川流れ』ということわざがあるそうだが……」

お祓い師「まさに今のお前たちみたいな感じか」

お祓い師「……いや、意味としてはそういうことじゃないんだったか……」

河童A「……貴様、何がしたい」

河童A「水門を開け、その勢いで我々を下流まで流して来ただけ」

河童A「それに乗じて逃げるならまだわかるが、貴様も一緒にこうして流れてきている」

お祓い師「…………」

河童A「今だって浅瀬とはいえ川の中にいる」

河童A「貴様の劣勢には変わりない」

お祓い師「……川の中、ね」

お祓い師「……“それはどうかな”」

河童A「何……!?」

河童I「こ、これは……!」

河童A「……水の中に、花……!?」

河童A「……ま、まさか!」

お祓い師「そう、ここはここ数日の豪雨で増水した場所だ」

河童A「……!」

お祓い師「来る時は、道という道が水没してて大変だったんだぜ?」

お祓い師「こういう形で助けられるとは思わなかったけどな」

お祓い師「なあ、お前たちは長い年月をかけて住み着いた場所でこそ力を発揮するんだろ?」

河童A「くっ……!」

お祓い師「ご自慢の先祖代々の力の加護のないお前たちは、俺の相手にはならねえぞ」

河童A「お前たち、一旦逃げろォ!!」

お祓い師「……逃さねえ。まとめて焼かれろ」






河童A「負けた、か……。見事な実力だった……」

お祓い師(……さすがに辛かったがな)

河童A「しかし人間とは恐ろしい……」

河童A「貴様らは、己の意志のみを持って力を身に付けてゆく者が少なくない……」

河童A「中には大妖怪にも勝る力を、修練と己の意志のみを以って宿している武人もいるというからな……」

河童A「……しかし、お前は何か……」

お祓い師「…………」

河童A「……いや、よそうか……」

河童A「……では、願わくは閻魔の元で……」

河童A「…………」

お祓い師「…………」

狼男「……終わりましたね」

お祓い師「ああ……」

狼男「さすが旦那、名家のお祓い師というのは伊達ではないですね」

お祓い師(ばかいえ、お前のほうがよっぽど強かっただろうが……)

狐神「…………」

お祓い師「…………」

お祓い師「おい」

狐神「……なんじゃ」

お祓い師「さっきの河童に言われたことを気にしているのか」

狐神「……そう、じゃな」

狐神「あやつの言っていることは正しいのじゃろう。わしら人外は“心”を糧に生きる者」

狐神「たかが人間風情に忘れ去られた程度で、満足に力も振るえなくなったわしの心の弱さよ」

狐神「わしはわし自身の意志で生きようとしていなかったんじゃな」

狐神「あやつらの言うとおり、それは生きていないのと同じことじゃ……」

狐神「わしは一体、何者なんじゃろうな……」

お祓い師「…………」

お祓い師「……はぁーっ、そんなくだらないことで一々悩むな」

狐神「くだら……、ないじゃと……?」

狐神「おぬしにはわからんじゃろうな!わしは数百もの年月を、人に頼られ、人に感謝されることを喜びに生きてきた!」

狐神「それがいつのまにやら忘れられ、生きがいを無くしてしまった……!」

狐神「この事がどんなに……!」

お祓い師「だから自分が何者か、なんて悩みはくだらないって言ってんだよ。思春期の俺かよ」

お祓い師「そんな悩み、俺たち人間でも抱くことはあるさ。でも結局結論なんか出ない」

お祓い師「結局言えることは、俺は俺で、お前はお前だってことだだ。その存在意義なんて一々考えねえよ」

狐神「じゃが、わしら神は、おぬしら人間とは違う……!」

お祓い師「違わねえよ。飯食って、会話して、寝て……。これができれば同じなんだよ」

お祓い師「こんなこと思えるようになったのは、お前らと出会ってからだけどな……」

狐神「…………」

狼男「…………」

お祓い師「それにお前自身に生きる意志がないだと?そんな訳があるか」

お祓い師「人の飯まで横から取っていくような食欲魔が何を言う」

狐神「なっ……!そ、そんなことはいま関係なかろう!」

お祓い師「関係なくないんだな、これが」

お祓い師「生きるってのは自分の欲求を満たすってことだ。お前みたいな食欲魔が生きていないなんて冗談が過ぎる」

お祓い師「人の飯取って『これは自分の意志じゃありません』って、言い訳にしては苦しすぎるぞ」

狐神「そ、それは……」

狐神「……なんかそれっぽいことを言って、言いくるめられた気がするのう」

お祓い師「その場しのぎに適当なこと言っただけだからな」

狐神「おぬしなあ……!」

狐神「……まあ、少しは気が楽になたかのう……」

お祓い師「……それでいいんだよ」

狐神「……うむ、そうか」

狐神(……じゃが、それでもまだわしは……)

お祓い師「……あと、お前」

狐神「うむ?」

お祓い師「さっき力を使っただろ?」

狐神「……さて」

お祓い師「あんなに綺麗に狙った場所、増水して沈んだ河原に着くかってんだよ」

お祓い師「少し顔色が悪い。供物とやら無しで力を使うのは、今のお前には辛いんだろう。無理をするな」

狐神「……うむ、そうじゃな……。心配してくれてありがとうのう」

お祓い師「ああ……」

お祓い師「…………」

お祓い師(……最期に河童が言っていた『手遅れ』とはどういう意味だ)

お祓い師(そして死に様に俺に何かを言いかけた。あれは一体何だったんだ……)

ここまで。

河童は出てきませんが《河童》編はあと少しだけ続きます。






狼男「それでは村の方に戻りますか」

お祓い師「そうするか」

狐神「……うむ」

???「ちょっと待ちな」

お祓い師「……誰だ」

???「そうだな、一応名乗ろうか」

???→辻斬り「俺の名は辻斬りだ。覚えてもらわなくても結構だが……」

辻斬り「ククッ、おたくらなかなか面白い雰囲気をしているねえ」

辻斬り「……ちょっと斬らせちゃもらえないかな」

お祓い師「はいそうですか、と首を縦に振るとでも思うのか」

辻斬り「まあ、おたくらの意志は関係ない。俺は面白そうだから斬る、それだけさ」

お祓い師「……狂人め」

辻斬り「なんとでも言えばいいさ」

お祓い師「…………」

お祓い師「……おい、一ついいか」

辻斬り「なんだ」

お祓い師「以前に河童を殺ったのは、お前か?」

辻斬り「……ああ、そんなこともあったねえ」

お祓い師「それは、なぜだ」

辻斬り「面白そうだったから、だ。まあ、結果は大して面白くもなかったけどね」

お祓い師「それだけの理由でか?」

辻斬り「おたくらの行動原理は知らんが、俺にとってはそれが全てさ」

辻斬り「それに人外などいくら死のうと人間様にとってはどうでもいいかとだろう?」

狐神「な……」

辻斬り「……楽しいか、楽しくないか」

辻斬り「人間の一生など短い。その間をなるべく楽しく生きようとしているに過ぎない」

お祓い師「…………」

お祓い師(……滲み出ているこの気配。……こいつは格が違う相手だ)

お祓い師(何とかして逃げないとやられる……)

狼男「(俺が引きつけておきますので、その隙に何とか逃げてください)」

お祓い師「(お前はどうするつもりだ)」

狼男「(西から遥々逃げてきた身ですよ。逃げるのは得意です)」

お祓い師「(だが……!)」

辻斬り「……いくぞ」

狼男「下がっててください!」

お祓い師「くっ……!」

辻斬り「ふっ!」

狼男「グオオオッ!!」

辻斬り「なるほど、良い力を持っていねえ……!」

狼男(こいつっ……!強い……!)

辻斬り「──ああ斬り甲斐がある!」

狼男「グッ!?」

辻斬り「……よく避けた」

狼男「ゼェ……、ハァ……」

狼男(まずい……。ここまで実力に開きがあるとは……)

狼男(河童とやり合った直後でいつもよりも力が出ていないのも実感できる……)

狼男(隙を見て撤退しないとやられる……!)

辻斬り「では、これはどうかな!」

狼男「っ……!」

狼男「グオオッ!!」

お祓い師「狼男っ!」

狼男「す、すいません……。力及ばずです……」

お祓い師「喋るな、傷に障るぞ」

辻斬り「まあこんなものか」

辻斬り「さて、次はそこの女にする。微かにだが人外の気配がするからね」

お祓い師「ま、待て!」

辻斬り「いくぞ」

お祓い師「やめろっ!!」

辻斬り「邪魔をするなよ……!」

お祓い師「ぐあっ!」

辻斬り「……人間には興味が無いんだよ」

お祓い師「ぐ……」

辻斬り「さあ行くぞ女ァ!」

辻斬り「せあっ!」

狐神「……!」

狐神「くっ……!」

辻斬り「ほう……?」

お祓い師「なっ……!」

辻斬り「避けた、か……」

お祓い師(どういうことだ……!?)

狐神「あ、当たり前じゃ……!わしは獣。おぬしら人の子の動きなど止まって見えるわい……!」

狐神「……おぬしの刀は、わしには届かん……」

辻斬り「ほお、面白いっ……!」

辻斬り「ハッ!ぜああっ!」

狐神「くっ……!」

狐神(こやつ……!)

狐神「はあ……、はあ……」

辻斬り「これをも避けるか、面白い……」

辻斬り「だが、少し違和感があるな。見てから避けたというよりは、前もって知っていたかのような……」

狐神「…………」

狐神(もう見破られたか……)

お祓い師(……そうか!狐神は『目的地に導く力』を使って、“自身が助かるための場所”へ斬撃の直前に移動しているのか……!)

辻斬り「ふん、どんな力を使っているのかわからないが面白い」

辻斬り「そこの男、少しでも介入する素振りを見せたら本気でこの女を斬る」

辻斬り「俺はもう少し楽しみたいから手出しをするなよ」

お祓い師「てめえっ……!」

辻斬り「いくぞっ!」

辻斬り「ぜああっ!」

狐神「くうっ……!」

辻斬り「ククッ、まだまだ行くぞ」

辻斬り「せあっ!」

狐神「っ……!」

狐神「はあっ……、はあっ……!」

辻斬り「……ううむ」

辻斬り「おたくの能力は面白いが、どうも力が弱々しいね。ここまで力のない人外も久々に見た」

狐神(元々力が全快していない身で連続使用すればこうなるのも道理じゃ……)

狐神(早う……、早う“見え”ぬかこのポンコツめ……!)

辻斬り「面白いだけに残念だ。能力も体力も底をつきかけているようだか、そろそろ終いだ」

狐神「…………!!」

狐神(やっと“見えた”っ……!)

狐神「狼男よっ!わしら二人を抱いて谷底へ飛び降りるんじゃ!!」

お祓い師「なっ……!」

狼男「……!」

狼男「オオオオオオッ!!」

辻斬り「なに……!?」

辻斬り「…………」

辻斬り「走っても追いつけない、か……」

辻斬り「仕方がない、又の機会に殺すとしようか……。人外だけは、殺さなくちゃならないからな……」

辻斬りの路上練習思い出した
ハイそこ斬って、遅い、そんなんで辻でヤっていけると思ってんの

>>276
「江戸むらさき特急」っていう4コマでそういうのあったな

今日から「辻」だ
はい左右確認、右見て左見て。はいそれじゃあそこにいる町人をね
何やってんの!早く斬る!
バカ斬り過ぎだよ!もういっぺん道場からやり直すか!?

ヨシヒコの方かと

>>276 >>278 >>279
いろいろと調べてみましたが面白いですね。
さて、《河童》編も今回で最後ですよ。






狐神「はあっ……、はあっ……。すまぬな、怪我を負っている中無理をさせてしまって」

狼男「問題、無いです……。何とか助かりましたから……」

狐神「最後の最後に『わしら三人が助かる道筋』が見えていなかったらやられていたのう……」

お祓い師「お前、あんなに無理して力を使って……」

狐神「あの状況では仕方がなかろう」

狐神「あやつから逃げるための道筋が中々見えなくてな。力不足じゃな……」

狐神「やはり未だに、わしは自分自身を信じきれていいないのかも知れぬ……」

お祓い師「…………」

お祓い師「……まあ、今回は力のおかげで助かった」

お祓い師「あいつが追ってこないとも限らない。早く村の方へ戻ろう」

狼男「その方がいいですね」

狐神「……うむ……」

狐神「なあおぬしよ」

お祓い師「なんだよ」

狐神「……おぬしにとってわしとは何者じゃ。おぬしにとってもわしは“ただの神”なのかの……」

お祓い師「…………」

お祓い師「…………」

お祓い師「……お前が何かと言うならば……。まあ、やかましい同行者ってところだな」

お祓い師「それ以上でもそれ以下でもねえよ。俺にとっちゃお前は神サマなんかじゃないさ」

狐神「あ……」

狐神「……ふふっ、おぬしはぶっきらぼうなようで、本当にお人好しじゃな」

お祓い師「あ?そういうのじゃねえよ」

狐神「ありがとうの。少しは楽になった」

お祓い師「……チッ、早く戻るって言ってんだろ。行くぞ」

狐神「うむ、わかっておる」






川辺の村の村長「で、では河童は退治していただけた、ということでありますか……!」

お祓い師「ああ、予定通り報酬を支払ってもらう」

川辺の村の村長「ええ、ええ、こちらにありますとも」

お祓い師「……確かに頂戴した」

川辺の村の村長「今日はもう日が暮れます。宿で一晩休まれてから村を発つと良いでしょう」

狼男「そうさせてもらいます」

狼男「ところで姐さんは好物とかありますか」

狐神「わ、わしか?……ううむ、美味いものなら何でも好むが、特に油揚げが好きじゃの」

狼男「あぶらあげ、ですか……」

狼男「村長さんお聞きしたいのですが、この村で美味しいあぶらあげを出していただけるお店はありますか?」

川辺の村の村長「油揚げ、ですか。それなら坂を下ったところの角の豆腐屋で出している油揚げが絶品でありますよ」

川辺の村の村長「店内で鍋として召し上がることが出来ますので、ぜひ行かれてはいかがかと」

狼男「そうですか、ありがとうございます」

狼男「今晩は依頼達成の祝賀会としてそこで食事をしましょう」

お祓い師「だな」

狐神「……気を使わせてしまっているようですまんの」

狼男「いえいえ。姐さんは元気がいいほうが似合ってますから」

お祓い師「まあ確かにこいつなら、飯をあげればすぐに元気になるな」

狐神「どういう意味じゃ」

お祓い師「そのままの意味だ」

狐神「おぬし、わしのことを単純馬鹿とでも思っておるじゃろう……?」

お祓い師「間違いないな」

狼男「ま、まあまあ……」

狐神「おぬしっ!そこになおれいっ!!」

お祓い師「おやおや、お嬢さんは飯をやらんでも元気なようですねえ。今晩は疲れたしこのまま帰って寝るか」

狐神「それだけは勘弁じゃっ!!」






お祓い師「清酒をたらふく飲んで酔いつぶれやがって……」

狼男「勢い良かった割には弱かったですね」

狐神「むにゃ……」

狼男「重かったら自分が背負いますよ」

お祓い師「ばか、聞かれてたら殺されてるぞ」

お祓い師「それに平気だ。宿はすぐそこだろ」

狼男「いやあ、役得だなって思って。背中にそのたわわなものが当たっているじゃないですか」

お祓い師「……お前はもう少し真面目なやつだと思っていたんだが」

狼男「男児たるもの女体には正直に反応すべきです」

お祓い師「あのなあ……」

狼男「実際のところは」

お祓い師「……役得だ」

狼男「でしょう?」

お祓い師「まあな」

狐神「すやすや……」

狼男「さて、着きましたね」

お祓い師「俺の部屋は奥だったな」

狼男「明日の出発はいつにしますか」

お祓い師「まあこいつが起き次第だろ。朝食をどこかでとってから出発する」

お祓い師「そういえば怪我の具合はどうなんだ。あの時は深くはないと言っていたが」

狼男「この体になってから怪我の治りは異様に早くて、もうほとんど塞がってますね」

お祓い師「そうか、まあ無理だけはするなよ」

狼男「わかってます。ではまた明日」

お祓い師「おう、ゆっくり休め」

お祓い師(……で、こいつを寝かせてやんねえとな)

狐神「……すうすう……」

お祓い師「よっと……」

お祓い師「こいつの帽子を取る係みたいになってんな」

お祓い師「たっく、よっぽど歳上のくせにガキみたいなことで悩みやがって。よくこんな奴が数百年も生きてこられたもんだな」

お祓い師「…………」

お祓い師(……こいつは俺が死んだ後もまた数百年と生きていくんだろう)

お祓い師(ただしそのためには俺の身体に刻んだ依り代の印を他に移すか、こいつ自身が自力で力を得られるようになるしか無い)

お祓い師(どちらにせよ別れは早く訪れる。俺がこいつの依り代としていられるだけの力がある内にどうにかしなきゃならない)

お祓い師(そうしないとお前は、俺と一緒に死ぬことになってしまうぞ)

お祓い師(お前はそんなことを望んでいないはずだ。神にとって、あと五十年程度の寿命というのはあまりに短すぎるだろう)

お祓い師(お前は早く俺の手元から離れなければならないんだ)

お祓い師「それまでは俺も死なないようにする」

お祓い師「……だからお前はそれまでに自分を見つけられるようになってくれ」

お祓い師「…………」

お祓い師(……馬鹿みてえだな。もう寝るか)

狐神「……待って……」

お祓い師「……お前、起きて……」

お祓い師「……いや、寝ぼけているだけか……」

狐神「……待っておくれ……。一人にしないでおくれ……」

狐神「……村のみなよ、昔のようにわしを頼ってくれぬのか……」

狐神「……わしの名を呼んでおくれ……」

狐神「……のう、みなよ……」

お祓い師「…………」

お祓い師「はあ……、おい狐神」

お祓い師「少なくともお前が力を取り戻すまでは一緒にいるし、名前だっていくらだって呼んでやる」

お祓い師「だから俺や狼男がいる間だけでも安心して寝ろよ。朝起きたら急にいなくなっていたなんてことは絶対にない」

お祓い師「黙って出て行かれる辛さは、俺にはわかるからな……」






狼男「旦那は寝不足気味ですか」

お祓い師「ああ、ちょっと寝付きが悪くてな」

狐神「わしは酒を入れ始めた頃からの記憶が無い……」

狐神「頭がガンガンしよる……。二日酔いじゃあ……」

お祓い師「大して強くないのに調子に乗って飲むからだ」

狐神「わしが弱いんではない。おぬしらが強すぎるんじゃ……!」

お祓い師「まあ確かに、皇国人は酒に弱いと聞いたことがあるな」

狼男「二日酔いに効くという漢方を女将さんからもらってきましたよ」

狐神「い、いただこう……」

お祓い師「ったく、その調子じゃ馬車なんか乗れないな」

狼男「出発を遅らせるしか無いでしょうね」

狐神「す、すまぬ……」

お祓い師「……まあいい」

お祓い師「ゆっくりと行こう。時間はまだあるさ」

狐神「む……?」

お祓い師「なんでもねえよ」

狐神「……?」

狼男「あ、そういえば次はどこに向かうんですか」

お祓い師「ああ、もう少し南下するが、地図でいうこの辺で西の方に行く」

狼男「……と、いうと目的地はここですか。何か有名な場所なんですか」

お祓い師「ああ」

お祓い師「──皇国一に西の移民が多い街、『西人街』だ」

A2 辻斬り
A3

B1 狼男
B2 お祓い師
B3

C1
C2
C3 河童

D1 
D2 狐神
D3 化け狸

※1 狐神が微弱ながら供物なしに力を使えるようになったため1ランク上昇。

以上で《河童》編は終了です。
狐神はメンタル弱めのおねえさんです。有能な時は有能ですが、無能な時はとことん無能です。

次章は《魔女》編です。更新が少し遅れるかもしれません。遅れないかもしれません。
更新が滞っていても、一定数レスが溜まったら返すことはします。
それではまた。

《魔女》編を始めます。
急に国の名前が沢山出てきますが、後々地図が出てくるのでそこで確認すると良いと思います。

《魔女》


──とある手紙──


『二人とも元気にしていますか。私は元気です。最近はあまり天気がすぐれませんね。』

『そろそろ感謝祭の季節ですね。本来ならば私も参加したいのですが、そうもいかないことが残念でなりません。』

『いつか、また昔みたいにみんなでお祭りをめぐりたいです。』

『そんな日が来るまで、大きな怪我や病気がないように気をつけて過ごすつもりです。』

『二人も体調管理には気をつけて。それではまた。』










狼男「……なんか俺たち迷ってません?」

お祓い師「地図が少し古かったか……。完全に現在位置を見失ったな」

狐神「わしの力も目的地が遠すぎるせいか上手く働かぬ」

お祓い師「この深い森の中で一夜を過ごすのは危険だ」

お祓い師「最悪目的地が遠ざかってもいいから、この付近で人が住んでいるところがないか探してくれないか」

狐神「そうじゃな、その方が良いじゃろう」

狐神「では……」

狐神「…………」

狐神「……ふう。どうやら少し距離があるようじゃが向こうの方角に行けばよい」

狼男「方角的には西ですから目的地から遠ざかることはないですね」

お祓い師「よし、じゃあ馬を歩かせてくれ」

狼男「了解しました」

狐神「ふう、わしは今ので少し疲れた……。荷馬車の中で寝ても良いかの……」

お祓い師「荷馬車の中で寝ているのはいつも通りだろうが。今更気にするな」

狐神「い、言い方に棘があるのう……」

狐神「じゃが、まあそう言うなら遠慮なく寝させてもらう」

お祓い師「ある程度進んだら、もう一度詳しく場所を調べてもらうことになるかもしれないがいいか」

狐神「それぐらいは当然の仕事じゃ。そのためにもきちんと寝ることにするわい」

お祓い師「おうおう、ゆっくり寝てくれ」

狐神「……すう……」

お祓い師「相変わらず早いな……」

狼男「ですねえ。やはり力の消耗が激しいのでしょうね」

お祓い師「そうだな……。効果範囲も狭かったり、目的の場所がすぐに見つからない事があるのも、力が戻りきっていないせいなんだろう」

お祓い師「……それで、昨日も聞いたがお前は良かったのか」

狼男「『西人街』に行くことが、ですか?」

お祓い師「そうだ」

お祓い師「これから向かう街は俺たちの故郷の王国や、共和国、もちろん法国の人間も多くいる場所だ」

お祓い師「目的は『絶対神』を唯一の神と認める宗教を皇国において布教すること」

お祓い師「まあ西とは勝手が違ってなかなか苦戦しているようだがな」

狼男「布教、とは名ばかりで、土着神への信仰を棄てさせ、絶対神の信仰を強制させているだけですけどね……」

お祓い師「王国人で絶対神の悪口とは珍しいな」

狼男「田舎はそんなもんですよ。俺を村から追い出したあのインチキ神官も村の外から呼んだだけで、あそこの村人は誰も絶対神なんか信仰していなかったですよ」

狼男「ただ、信仰している振りをしないと教会が怖いですからね」

お祓い師「ま、そんなものか」

お祓い師「俺も王国の人間だが、親が全くそういう教育をする人じゃなかったからな」

お祓い師「神に仇なす者と戦う退魔師でありながら、その絶対神にはとくべつ信仰心が無い変な父だったよ」

お祓い師「その影響で俺もその辺りは体裁だけ良くしている感じだな」

お祓い師「わかっていると思うが、絶対神を信仰してる、特に教会の連中は人外に一際厳しい」

お祓い師「おそらく向かう先には同業者がたくさんいるはずだ」

お祓い師「もしお前の正体がバレればただでは済まない」

狼男「わかっていますよ」

狼男「ただ次の満月までは時間がありますから、絶対に変身をしないようにしていればバレることは無いでしょう」

狼男「それより心配なのが狐の姐さんです」

狼男「わずかとはいえ力がある姐さんの事に気がつく人はいるはずです」

狼男「俺と違って完全に人間の状態、というものがありませんから」

お祓い師「こいつは俺から一定距離以上は離れなれないから一緒に来ざるを得ない……」

お祓い師「退魔師見習いか、修道女見習いとして通すしか無いだろう」

狼男「まあ、確かにそうですね」

お祓い師「それに俺もそんなリスクがある街に長くいるつもりはない」

お祓い師「ただ、皇国における退魔師の総本山だから、親父の情報も手に入るかもしれないという理由で立ち寄るだけだ」

お祓い師「欲しい情報が手に入りそうになかったらすぐに出て行くつもりだ」

狼男「それが懸命でしょうね」

ここまで。






狼男「……おや」

お祓い師「どうした」

狼男「向こうに灯りが見えますね。民家でしょうか」

お祓い師「近づいてくれ」

狼男「わかってます」

お祓い師「…………」

お祓い師「これは……」

狼男「石造りの小屋……。皇国の人間の家ではなさそうですね」

お祓い師「それどころか屋根についている飾りを見ろ。絶対神信仰の象徴だ」

狐神「……うむ、わずかにじゃが中から力を感じる」

お祓い師「起きたのか」

狐神「ちょうどいま起きたところじゃ」

お祓い師「で、どうだ。ここにいる奴は」

狐神「力はさほど強くない。獣や化物の臭いもしないから人間で間違い無いじゃろう」

お祓い師「そうか。時間も時間だから訪ねてみるしか無いな」

お祓い師「……よし」

お祓い師「すまないが家に誰かいるか」

???「……どちら様ですか」

お祓い師「旅のお祓い師だ。道に迷った挙句日が暮れてきてしまったところ、ここの家を見つけたので立ち寄らせてもらった」

お祓い師「家に上げてくれとは言わない。明日、夜が明けたら西人街への道を教えてもらえないだろうか」

お祓い師「あまり多くは出せないが、タダでとは言わない」

???「西人街に何をしに行くのですか」

お祓い師「人探し、とだけ言っておく」

???「…………」

???「わかりました。いま戸を開けますね」

お祓い師「わざわざ済まないな」

???「ご挨拶が遅れました、私は修道女です。修行中の身でありまして、今はこのように街から離れて暮らしております」

お祓い師「俺は旅のお祓い師だ。弟子を連れて各地をまわっている」

???→黒髪の修道女「そちらの女性がお弟子さまですね」

黒髪の修道女「……!」

黒髪の修道女「……ええと、そちらの体格の良いお方は」

狼男「ああ、私はお二方の従者を務めさせていただいている者です」

黒髪の修道女「あ、ああ、そうでしたか……」

黒髪の修道女「あの、それで申し訳がないのですが。見ての通り寝台は一つしかなくて、皆さんには床で寝ていただくことになってしまうのですが……」

お祓い師「それは平気だ。明日、西人街への道を教えてくれればそれで問題ない」

黒髪の修道女「その点はお任せください。地図がありますので明日の朝に詳しく説明させていただきます」

黒髪の修道女「それで、あと一点だけあるのですがよろしいでしょうか……」

お祓い師「なんだ」

黒髪の修道女「西人街の、特に教会の方々には、私がここにいたということは伝えないで欲しいのです」

お祓い師「……ワケあり、か」

黒髪の修道女「…………」

お祓い師「わかった、一晩の恩だ。絶対に口外しない」

黒髪の修道女「あ、ありがとうございます……!」

黒髪の修道女「で、ではどうぞ上がってください。何もない家ですが……」

狐神「うむ、では上がらせてもらおう」

お祓い師「なんで偉そうなんだよ……」

狐神「別に偉そうにはしておらん。ただ気分が高揚しておるだけじゃ」

お祓い師「なんでまた」

狐神「もうすぐ夕食時じゃ」

お祓い師「お前の頭の中はそればっかりか……」

狼男「夕食の食材はこちらか出しますよ。馬車の方にパンがありますので」

狐神「ええー、またあの固くて酸っぱいやつかの」

お祓い師「文句を言うな馬鹿」

黒髪の修道女「パンでしたら私が焼いたものがありますので、せっかくですのでこちらをお出ししますか?」

狐神「そういえば、よさ気な香りがするのう……」

狼男「しかし、そこまでしていただくわけには……」

黒髪の修道女「構いませんよ。めったにない来客ですので、私も何か振る舞いたいんです」

黒髪の修道女「そういうわけで今晩はパンとシチューにしましょう」

狐神「しちゅー、とな……?」

寝。

マダー?

>>323 まさに今からです






狐神「嗚呼……、幸せじゃあ……」

お祓い師「こいつ、遠慮なく平らげやがって……」

黒髪の修道女「あはは……。あそこまで美味しそうに食べていただけると作った側としても嬉しいです」

狐神「……すうすう……」

狼男「そして寝ましたね」

お祓い師「ほんとにこいつは食うか寝るかしかしないな……」

黒髪の修道女「くすっ、まるで子供みたいな方ですね」

お祓い師「まったくだ」

お祓い師(実年齢は俺たちの何倍もあるだろうに……)

黒髪の修道女「皆さんもお休みになられますか」

お祓い師「そうだな。飯を食って一息ついてたら体が疲れているのを思い出してきたみたいだ」

黒髪の修道女「そうでしたら暖炉に薪を焼べておきますね」

お祓い師「いや、そこまで寒くはないが……」

黒髪の修道女「ああ、この暖炉にはですね、魔除けの術がかけてありまして」

黒髪の修道女「魔の者がこの小屋に近づきにくくなるんです。あくまで近づきにくくなるだけで完全に遮断できるわけではないんですが……」

お祓い師「まあ確かにこんなに深い森のなかだ。これぐらいの対策はしないと危険か」

黒髪の修道女「ええ、そうなんです」

狼男「……なるほど」

お祓い師「さて、まずこの寝落ちてしまった馬鹿をどうするかだな」

黒髪の修道女「少し狭いですが私のベッドに寝かせますよ。さすがに枕は一人分しかないですけれども」

お祓い師「一緒に旅をしている身から言わせてもらうが、こいつは相当寝相が悪いぞ」

黒髪の修道女「が、頑張ります」

お祓い師「俺はこの辺にコートを広げて寝るか」

狼男「……じゃあ自分はいつも通り荷馬車で寝ますよ。なんせ体が大きいですから」

お祓い師「いやいや。この森は危ないから今日は小屋の中で寝させてもらおう、って話だっただろ」

狼男「いえ、その暖炉の効果があるならそこまで心配する必要もないんじゃないですかね」

狼男「あと馬屋もないのに馬車を外に放置しておくのが心配で」

狐神「とは言ってもそこまで大切な物は積んでなかろう」

お祓い師「起きたのか」

狐神「ベッドで寝かせてもらえると聞いてな」

黒髪の修道女「くすくすっ」

お祓い師「お前なあ……」

お祓い師「まず、馬が大事な荷だろうが……。それに普段は使わないが少しばかりの退魔道具も積んでいる」

狐神「例えばなんじゃ」

お祓い師「そうだな……、遠隔から術を作動させると爆発する御札とか、そういう奴だ」

お祓い師「あくまで俺は炎系統の術使いだからな。持っている道具も相性がいいやつ数点だけだ」

狐神「高価なものもあるのかの」

お祓い師「御札は自分で作るから紙代だけだが、まあそれなりに値が張る物も無いわけじゃない」

お祓い師「まあお前がやってくれるっていうなら、お願いしてもいいか」

狼男「ええ、任せて下さい」

お祓い師「明日はなるべく早くに出発するぞ」

狼男「わかりました、ではおやすみなさい」

お祓い師「ああ、また明日」

黒髪の修道女「ランプの灯り、消しますね」

お祓い師「ああ、頼む」

黒髪の修道女「……ではまた明日」






──とある手紙──


『いまの生活にもすっかり慣れてしまいました。でも時々こんなことを思います。』

『なんで私はこんな事になってしまったのでしょうか。』

『これも神が与える試練なのでしょうか。』

『なぜ私なのでしょうか。』

『そんな考えが頭の中を巡っています。』










狼男「見てください、この丘を下れば西人街みたいですよ」

お祓い師「もらった地図のおかげだな」

狼男「もう少しちゃんとしたお礼ができればよかったんですけれどね」

お祓い師「この荷馬車には日持ちの良い食料以外何も積んでいなかったからな……」

お祓い師「ただ、あんな深い森のなかで暮らしているんだ。逆にありがたかったかもしれんぞ」

狼男「まあ確かにそうですね」

お祓い師「で、街についてからだが……。狐神、お前はその耳と尻尾を人前で出すなよ」

お祓い師「言い訳ができないことはないが、なるべく問題ごとは避けたい」

狐神「わかっておる、そんなヘマはせん」

狼男「ちなみに言い訳っていうのはなんですか」

お祓い師「前にも言っただろ。俺の『式神』ってことにするしかない」

狐神「いっそのこと本当に式神契約してはどうかの」

お祓い師「ばかいえ、専門外だ」

狐神「確かに、わしもそちらのことは疎いからの。よく知らぬことに安易に手を出すべきではないか」

狼男「とか言いつつ、依り代の契約……、でしたっけ。それはしているじゃないですか」

お祓い師「あの時は選択の余地がなかったからな……」

狐神「あの河童の言葉の通りであるならば、意志さえあればたとえ依り代がなくともわしは生きていけるということになるんじゃがな」

お祓い師「まあ、いずれそうなってくれればいいさ。いずれ、な」

狐神「……うむ」

狼男「さて、街の門が見えてきましたよ」

お祓い師「よし、街に入り次第まずは宿を取るぞ」






お祓い師「どこもかしこも満室だと……」

狼男「どうやら感謝祭に被ってしまったみたいですね」

狐神「祭りかの?」

お祓い師「ああ。本来ならば教会なんかで行われる儀式のほうが主なんだが、熱心な教徒以外は大抵街の出店の方を楽しんでいるな」

狐神「出店……、いい響きじゃあ……!」

お祓い師「何度も言うが仕事優先だからな」

狐神「わかっておるわかっておる」

お祓い師「ほんとかよ……」

狐神「ふふーん、出店とな」

お祓い師(わかっていない顔をしている……)

狼男「しかし宿がないというのは困りましたね」

お祓い師「……そうだな。情報や依頼を探すついでに役所に掛けあってみるか。どうにかなるかもしれん」

狼男「役所に、ですか……?」

ここまでです。






役所の快活な受付嬢「やあやあ、対魔対策課の窓口にようこそ。今ならA1級の天狗の依頼なんかエグくておすすめだよ」

お祓い師「依頼探しではなく泊まる場所を探しに来たんだがいいか」

役所の快活な受付嬢「ああ、なるほどね~。感謝祭の時期に宿の予約もなしに来てしまったと」

お祓い師「そこで頼みがあるんだが……」

役所の快活な受付嬢「退魔師協会の宿舎を使わせて欲しい、でしょ?」

お祓い師「その通りだ。可能だろうか」

役所の快活な受付嬢「もちろん構わないよ。とは言ってもこの時期は退魔師も多くこの街に滞在しているから、料金は少し割増になるけどね」

お祓い師「そこは仕方がないか……。やはり仕事もこなさないとやっていけそうにないな」

狼男「そういう事になりそうですね」

役所の快活な受付嬢「その物言いだと、今回は仕事目的でこの西人街に訪れたわけじゃなさそうだね」

お祓い師「ああ、人探しをしている」

役所の快活な受付嬢「……それはもしかして、君のお父上の事だったりするのかい?」

お祓い師「なっ……!」

お祓い師「なぜそれを……?」

役所の快活な受付嬢「いやいや、君の身分証の姓名を見てもしやと思ってね。君の反応から察するに、君のお父上はかの有名な退魔師じゃないか」

役所の快活な受付嬢「私じゃなくても、この業界の人間なら誰でも気がつくさ」

お祓い師「俺が聞きたいのはそういうことではなく、なぜ俺の探している人があの人だとわかったのか、ってことだ」

役所の快活な受付嬢「ああそれはね。君のお父上が皇国のとある地方にいるという話は一部の情報筋で知られていてね」

役所の快活な受付嬢「まあ、絶対神信仰の教会からしては快くない状況なんだけどね」

お祓い師「……どういう意味だ?」

役所の快活な受付嬢「おっと、ここから先はタダでは教えられないね」

お祓い師「対価は」

役所の快活な受付嬢「お金……でもいいんだけど、人探しには人探しで返してもらおうかな」

役所の快活な受付嬢「(……ここで確認したいんだけど、君は絶対神の敬虔な信者かい?)」

お祓い師「(あいにくそういう環境では育たなかったな)」

役所の快活な受付嬢「(……わかった。じゃあ今晩の七の刻に、ここから南通へ向かって真っすぐ進んだところにある酒屋にきて)」

役所の快活な受付嬢「(知り合いがやっているところなんだけど、詳しくはそこで話すね)」

役所の快活な受付嬢「部屋はちゃんと貸し出すよ。今がいい?」

お祓い師「そうだな。荷物を運びたいから今にしてもらえるか」

役所の快活な受付嬢「部屋は全部ベッドが二つずつだけど、二部屋取るかい?それとも三部屋取るかい?」

お祓い師「……だ、そうだが?」

狼男「それなら前回と同じ理由で、二部屋で良いんじゃないですかね」

狐神「うむ、そうじゃな」

お祓い師「そう言うと思った……。じゃあ二部屋で」

役所の快活な受付嬢「あいよ、これが鍵ね。向こうの階段で二階に上がればあるよ」

お祓い師「わかった。じゃあ夜に会おう」

役所の快活な受付嬢「しばらくは、まだ業務でここにいるから。何かわからないことがあったら聞いてね」

お祓い師「わかった、助かる」

役所の快活な受付嬢「ま、困ったときはお互い様ね」






お祓い師「約束の夜まではまだ時間があるから、少し街を回っておくか」

狐神「食事は……」

お祓い師「待ち合わせの酒場でいいだろう」

狐神「じゃと思ったわい」

お祓い師「文句は?」

狐神「……ない」

狼男「でも三食はきちんととったほうがいいですよ。昼食がまだじゃないですか」

狐神「こう言っておるぞ」

お祓い師「……わかった。狼男に免じて、昼食をとろうか」

狐神「わしは?」

お祓い師「文句は?」

狐神「……ない!」

お祓い師「で、どこにするかだな。気分としてはせっかくの西人街だし、西の料理がいいんだが……」

狼男「さっき、窯焼きピザの店を見かけましたよ」

お祓い師「お、いいな。久々に食べたい」

狐神「ぴっつぁ……?」

狼男「えーとですね。ピザっていうのは、薄いパン生地のようなものの上に野菜や肉を乗っけてですね」

狐神「薄いぱん生地……、野菜、肉……」

狼男「トマトなんかから作ったソースをかけたりしたもので」

狐神「とまとそーす……」

狼男「チーズなんかを乗っけて焼いたものですと、チーズがトロトロで絶品なんですよ」

狐神「ちーず!!」

狐神「わしゃあ、ぴっつぁが食べたい!ぴっつぁが食べたいぞ!!」

お祓い師「そのつもりだからギャーギャー騒ぐな」

狼男「あはは……」

お祓い師「で、その店はどっちの方だ」

狼男「役所に来る途中で見かけたので、あちらのほうですね」

お祓い師「よし。昼時は過ぎているから、まあそこまで混んではいないだろう。向かうとするか」

狼男「ですね」

狐神「ううむ、どんな味がするのかのう……!」

お祓い師「飯は逃げないから少し落ち着け」

狼男「あはは、本当に親子みたいですね」

お祓い師「勘弁してくれ。大体コイツは見て呉れも実年齢もガキじゃないだろ」

お祓い師「中身はガキだがな」

狐神「失礼じゃなおぬし」

お祓い師「事実を言ったまでだ」

狐神「ぐぬぬ……」

狼男(言い返せないところが、もうね……)

狼男「おや……」

お祓い師「どうした」

狼男「いえ、教会があったので」

お祓い師「ああ、なるほどな」

狐神「あれが絶対神信仰者の集まる教会という施設かの」

お祓い師「ああ」

お祓い師「それで、その扉の前に立っている男が神の教えを説く神官だ」

狐神「えらい人気じゃのう」

お祓い師「まあ、この街は皇国における絶対神信仰の最前線だからな。わざわざここに移り住んでいる信徒も多い」

お祓い師「俺たちの立場上、教会と揉めてロクな事にはならない。お前もあの神官服を見たらなるべく避けるようにしろ」

狐神「うむ、心得た」

お祓い師「それにこの街の教会は少し特殊で、揉めると国際問題にも発展しかねない」

狐神「特殊とは?」

お祓い師「ここの教会の人間はお隣の共和国の大使も兼ねているんだ」

狐神「共和国……?」

お祓い師「ああ、お前は皇国の外のことはあまり詳しくないのか」

狐神「田舎の山に篭っておったからからのう」

お祓い師「これが俺たちの住む大陸周辺の地図だ」

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| ______ ___/ \___ 。 |

| /   V          / /\ |
| > <   > ∨\ ____ ◇ |
| \ ____/  |法国Σ 。 ◇ / / |

| / 北方連邦国 _/ <   \__ / ___ / \ |
| / | \ / W    / |
| 「 __/\自治区 V\_ __ / / \ |
|  >_____n___ __/  \___/   ||  \ |   \    | |
| / _/ V // | / | \ |

| / 亡国//        /\___ _V \|     | 皇国  < |
| [_ / \ | ∨      |___  / |
| \/ |     __/ / \_ |
| /     \   | _/ |
| | / 帝国 \ /。 |

| L 王国 | / \ |
| / \__ \__ __/ |
| | \ ___ ________ / V | |
| | __ _く \___/ \_/\__ | / |
| \M | V \ 共和国 \_ / | |
| \  Σ 。 _ \ /\/\___ __ V _/ |
| |_ / / \ |/\_____N   。 V | / |
| ∨ \_/ V __ _ ◇ 「 / |
|           ◇   ___    / V \_/\ \ __n/ |
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|─────────────── \_南部諸島連合国 _/ ──────────|
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>>349 失敗しました。少しお待ち下さい。

遅れました。すいませんでした……。

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|            |           _ _く  \_/        \_/\___    |         /     
|            \M       |  V  \          共和国      \ /         |     
|                \    Σ 。  _ \         /\/\_ _ V        _/     
|                  |_ /   /  \|/\__N      。 V  |         /       
|                    ∨     \_/ V     _ _◇      「         /         
|                      ◇       _    /  V  \_/\  \   _n/           
|                          。   /  \ /              <__  /__/               
|───────────────\__南部諸島連合国 __/ ──────────

|    。                               。   \_/ \/                       
|                                                                         

お祓い師「東の果ての、ここが今俺たちがいる皇国だ」

お祓い師「そして北の海に浮かぶこの島国が教会の総本山がある法国だ」

お祓い師「絶対神の教えを国教としているのは、法国、王国、帝国、共和国だ」

狐神「この共和国という国は大きいのう……」

お祓い師「ああ。軍事力も随一の国だ」

お祓い師「この西の端の王国が俺や狼男の出身地だ」

狼男「こう見ると随分と遠くまで来たのですね」

お祓い師「そして帝国の南にある共和国、ここの神官がこの街にいるというわけだ」

狐神「ううむ、なるほど」

狐神「ちなみにおぬしと行動をともに各地を回り始めたこの一月あまりで、わしらはどこからどこまで移動したのかの?」

お祓い師「えーっと、ここから」

狐神「ふむ」

お祓い師「……ここまでだ」

狐神「た、たったそれだけなのかの!?」

お祓い師「ああそうだ」

狐神「せ、世界とは広いのじゃなあ……」

お祓い師「この地図も世界全体を描いたものではないしな」

狐神「なんと……」

狼男「自分も初めて世界地図を見た時はそう思いましたよ」

狐神「ううむ……」

狐神「……しかし、あの神官服というもの。随分と豪華絢爛じゃのう」

お祓い師「世界規模で信徒がいるわけだから、教会組織に入る金も莫大なものってことさ」

狐神「過去に自らが信仰されていた身としては、己を頼るものからの供物を遠慮無く頂戴し、全力で贅沢をすることは全く悪いことだとは思わんが……」

狐神「あやつら自体は神ではないのだろう。そこが大きな違和感を感じるところよのう」

狐神「肝心の神は一体どこにいるのか」

お祓い師「誰も存在を知らないからこその神秘性なのかもしれんな」

お祓い師「お前から散々聞かされた理の通りなら、どこかに必ず存在しているはずなんだがな」

お祓い師「その姿を見たっていう話は聞かない」

狐神「ううむ……」

狐神「しかしあやつら自体は絶対神とやらではないが、それなりに大きな力を感じる」

お祓い師「信徒からすれば神官もある意味で信仰対象だ。なんせ『神の声を聞ける人』、らしいからな」

狼男「なるほど。そうして信徒から頼られる神官は、自身が信仰を集めているという状態と同じになるわけですか」

お祓い師「上手くできてんなあ」

狼男「ですね」

お祓い師「そういう所が見えてくるとますます距離を置きたくなるな」

狼男「ですねえ……」

狼男「あ、見えてきましたよ、件のピザ屋」

狐神「おおっ!ここまで良い香りが漂ってきておるわ!」

お祓い師「じゃあ入るか」

お祓い師「河童退治の報酬金が思ったより多かったからな。贅沢はできないがそれなりには食えるぞ」

ここまでです。
地図のところで止まってしまい、申し訳ありませんでした。
予めメモ帳で書いていた時に、2ちゃんねるに適さないフォントで書いてしまっていたのですべて書き直しました。
焦って直したので >>351 にはまだズレや間違いが有ります。少し手直しした下の地図を暫定的に正しいものとして貼っておきます。


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|    /       V               /    /\                               
|    >                     <      > ∨\                  __ ◇   
|    \                __/      |法国Σ 。    ◇       /    /      
|     _/  北方連邦国  /   <        \___/        __  /     \     
|    /                |     \__                  /    W        /     
|   「                /\自治区 V\_  __      /     /        \   
|   >___n__ _/  \__/   | |   \   |      \        |   
|   /       _ /   V                / /      |  /        |        \ 
|  / 亡国 //        /\___ ____V         \|         /  皇国   < 
|  [_   /  \       |      ∨                          |_        / 
|     \/     |    _/                                  /        \_
|            /    \                                  |          _/
|            |       /                  帝国             \_       /。 
|            L  王国 |                                     /      \
|            /       \_                                 \_  _/
|            |            \___     ____              /   V  |
|            |           _ _く  \_/        \_/\___     |       /     
|            \M       |  V  \          共和国      \_/       |     
|                \    Σ 。  _ \         /\/\_ _        _/     
|                  |_ /   /  \|/\__N      。 V  |      /       
|                    ∨     \_/ V     _ _◇      「      /         
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|                          。   /  \ /              <  /__/               
|───────────────\__南部諸島連合国 __/ ────────

|    。                               。   \_/ \/                       
|                  






狐神「美味いのう、美味いのう……!こりゃあ美味じゃあ!」

お祓い師「ああ……」

狼男「で、ですね……」

狐神「なんじゃおぬしら。飯はもう少し美味そうに食わぬか」

お祓い師「いや、美味いことには美味いんだが……」

狼男「(完全に教会関係者の行きつけの店でしたね……)」

お祓い師「(ああ。右も左も教会の連中だ……。神官だけじゃなくて教会お抱えの騎士までいやがる)」

狐神「(そんなこと分かっておるわい。だからこそ自然体でおらんか。普通にしていれば何も疑われることはない)」

お祓い師「(確かにその通りだが……)」

???「よお、あんたら。旅の人かい?」

お祓い師(時既に遅し、ってところだな……)

お祓い師「……なんでそう思った?」

???「いや、衣服に泥なんかがついてるからな。東の森を抜けてきたんじゃないかってね」

???「それに感謝祭がある今の時期は外からの人も多く来るから、大体こう言えば当たるもんさ」

お祓い師「なるほどな。まあ正解だ。旅のお祓い師とその弟子と従者、ってところだ」

???「なるほど」

???「おっと、名乗り遅れてたな。俺は西人街での教会聖騎士長をやっているもんだ」

お祓い師「その若さで聖騎士長か……!」

???→西人街の聖騎士長「ま、昔から腕っ節だけは自信があったからな」

西人街の聖騎士長「見たところあんたは俺よりも若そうだけど、そんな若さで旅のお祓い師なんてそれこそすげえじゃねえか」

お祓い師「逆だよ、逆。若いからこそ旅なんかしても平気なんだよ」

西人街の聖騎士長「ははっ、違いないな!」

西人街の聖騎士長「で、そっちの強そうな兄ちゃんが従者で、美しいお嬢さんがお弟子さんってことか」

狐神「まあ、お上手なことじゃのう。教会の聖騎士様というのは女性には弱くてもなれるのかのう?」

西人街の聖騎士長「ははっ、神官のおっさんたちにはよく怒られるさ。軟派な態度を直せってさ」

狼男「現に睨まれてますよ」

西人街の聖騎士長「げっ、やばっ……!」

西人街の聖騎士長「またあったらどこかで飲もうぜ!美しいお嬢さんのことももっと知りたいからな!」

お祓い師「…………」

お祓い師「行ったな……」

狼男「行きましたねえ……」

狐神「かっかっか、愉快な奴じゃったのう。……じゃが」

お祓い師「ああ、恐ろしく強い力を感じた」

お祓い師(この間の辻斬りに迫る力を感じた……。おそらくはランクはAの騎士なんだろう)

お祓い師「……聖騎士長は伊達じゃない、ってことか」






肥えた大神官「感謝祭当日が近づいてきたことで諸君らの業務も忙しくなってきているだろう」

肥えた大神官「しかし、こういった時にこそ不遜な輩が現れるものだ。しっかりと気を引き締めてほしい」

聖騎士たち「「はっ!」」

肥えた大神官「特に近年は悪魔信仰のクズどもが力をつけてきているという。警戒が必要だ」

肥えた大神官「この街の治安は君の力にかかっている。引き続きよろしく頼むよ」

西人街の聖騎士長「はい、お任せください」

肥えた大神官「時に。君は今日の昼ごろに、食事処で女性に声をかけていたと聞いたが」

西人街の聖騎士長(あ、あの時の神官のおっさんチクったな……!)

西人街の聖騎士長「い、いえ……、それはなんというか……」

肥えた大神官「君は騎士としては優秀だが、神のもとで働く自覚が少々足りない面が見られることがある」

肥えた大神官「十分に注意したまえ」

西人街の聖騎士長「承知いたしました」

肥えた大神官「では私はこれで」

西人街の聖騎士長「…………」

西人街の聖騎士長「……こほん。じゃあ、感謝祭まで残り僅かとなったが、もう一度気合を入れなおして頑張ろうか」

聖騎士たち「「はっ!」」

西人街の聖騎士長「……よし」

西人街の聖騎士長「この街では神に刃向かう者の一切の悪事を許してはならない!我らは聖騎士!その誇りを忘れるな!」

西人街の聖騎士長「絶対神の名のもとに!」

聖騎士たち「「絶対神の名のもとに!」」






狐神「ふう~っ、満足じゃあ」

お祓い師「腹も満たされたし少し街をまわってみるか」

狼男「時間はまだまだありますからね」

お祓い師「……そうだな、あそこの本屋でも入ってみるか」

狼男「何か探しているんですか?」

お祓い師「いや、旅の暇つぶしに何冊か買っておこうかと思ってな」

狼男「ああ、なるほど」

本屋の髭店主「へいらっしゃい」

本屋の髭店主「お探しのものはあるのかい」

お祓い師「いや。旅の暇つぶしに何か、って思っていたんだが」

本屋の髭店主「おおそうかい。なんならこいつはどうだい。最近巷で流行りの冒険譚だぜ」

お祓い師「……面白そうだな」

本屋の髭店主「おうよ、今月一のおすすめだ」

お祓い師「……ん、その奥の本の山はなんだ」

本屋の髭店主「ああ、これか……」

本屋の髭店主「これは教会の検閲で発売停止命令をくらった哀れな本たちさ」

お祓い師「教会の検閲……」

本屋の髭店主「……あんたらは協会の関係者かい?」

お祓い師「いやいや、それどころか信仰心の薄い愚か者の集まりだよ」

本屋の髭店主「はっはっは、そうかそうか。じゃあ俺も愚か者に仲間入りだな」

本屋の髭店主「まったく嫌になるぜ」

本屋の髭店主「教会の思想がどうかとか、この本たちには関係ないはずだろう」

お祓い師「言論弾圧とは独裁もいいところだな」

本屋の髭店主「そうなんだよなあ。この街は皇国内で教会が主権を握っている数少ない場所だ」

本屋の髭店主「皇国軍の詰め所もあるから大きくは動けないみたいだが、それでも奴らは着実に力をつけてるぜ」

本屋の髭店主「……兄ちゃん、バレないようにするなら、そこの本を何冊か持って行っちまってもいいぜ」

お祓い師「いいのか」

本屋の髭店主「どうせ数日後には焚書されちまうんだ。本だって誰かに読んでもらうのを望んでいるはずだ」

本屋の髭店主「これが本当の本望、ってな」

お祓い師「…………」

狐神「…………」

狼男「え~と……」

本屋の髭店主「……だめか」

本屋の髭店主「ま、まあ好きに見てくれよ。そっちのはどうせ売り物に出来ないからお代も取らないよ」

お祓い師「ありがたい」

お祓い師「……さて」

お祓い師「…………」

お祓い師「ん……?」

お祓い師「こ、これは……!」

本屋の髭店主「お、兄ちゃんお目が高いな」

本屋の髭店主「そいつは確か、旅をしてるっていう王国人が置いていったやつでな」

本屋の髭店主「書物の感じからして、皇国のかなり古いモンだろうな」

本屋の髭店主「内容が異教のものだっていって焚書対象にされちまったよ」

お祓い師「……なるほどな。じゃあこいつも貰っていいか」

本屋の髭店主「あいよ。じゃあ最初の小説の分だけお題を貰うとするかね」

お祓い師「……これで」

本屋の髭店主「はい、丁度だな。毎度あり」

狐神「何を譲ってもらったのじゃ?」

お祓い師「……秘密だ」

狐神「なんでじゃ」

お祓い師「なんでもだ」

狐神「むう……」

お祓い師「……ほら、露店でも少し見に行ってみねえか。祭り前だが少しなら出てるしな」

狐神「お、そうするかの!」

狼男「(……扱いが上手いですね)」

お祓い師「(だろ?)」

狐神「ふふ~ん」

kokomade.




──とある手紙──


『今日は珍しく来客があったんですよ。客人なんていつ以来なんでしょうか。』

『変わったお三方で久々に楽しい時間を過ごせました。』

『でもまた私は見てしまった。見えてしまったのです。』

『その方は復讐に囚われていました。』

『そしてその復讐心を燃やす相手というのが──』











お祓い師「さて、約束の酒場はここだな」

狼男「いつの間にか日もすっかり落ちてしまいましたね」

お祓い師「そいつがやたらと露店の前で足を止めるからだ」

狐神「まあまあ、丁度いい時間つぶしになったであろう」

狐神「しかし祭り前だというのにあの露店の量……。当日はさぞ素晴らしいんじゃろうな」

お祓い師「たしかに、少し楽しみではあるな」

狐神「なんじゃ、おぬしもなんだかんだ楽しみにしておるのか」

お祓い師「別に祭りが嫌いなんて一言も言ってないだろ。ただお前みたいに、馬鹿にはしゃいだりはしないだけだ」

狐神「な……!」

お祓い師「それに祭りで思い切り遊びたいなら、その前に色々とやらなくちゃいけないことがある」

お祓い師「俺の人探しの件もそうだが……」

お祓い師「露店巡りの軍資金も稼いでおかないとつまらないだろ?」

狐神「……!」

狐神「その通りじゃな!」

お祓い師「そうと決まればまずはこの酒場で情報収集だ」

狼男「入りましょう」

お祓い師「ああ」

役所の快活な受付嬢「や、来たね」

お祓い師「待たせたか?」

役所の快活な受付嬢「いやいや、私もついさっき来たところさ」

役所の快活な受付嬢「ささ、詳しい話は中でしよう」

路地裏の酒場の娘「らっしゃ~い……、ってああ。その人たちが今日会う約束していたっていう?」

役所の快活な受付嬢「そうそう。えーっと、みんなお酒で大丈夫?」

お祓い師「ああ、いや……」

狐神「じぃっ……」

お祓い師「…………」

お祓い師「一杯だけ頂くとするよ」

役所の快活な受付嬢「よし、じゃあ麦酒四つ頼むよ。あと軽くつまめるものも」

路地裏の酒場の娘「はーい、了解」

路地裏の酒場の娘「麦酒四つとおつまみ入ったよー!」

お祓い師「……今の子が知り合いの?」

役所の快活な受付嬢「そうだよ。ウェイトレスみたいなことしてるけど、実際にはこの酒場の経営主なんだ」

役所の快活な受付嬢「あの格好は趣味だとか」

お祓い師「なるほど、な」

役所の快活な受付嬢「ここは教会の人間なんか滅多に来ないから安心して」

お祓い師「話し込むには良い環境ってことか」

路地裏の酒場の娘「はい、麦酒四つとおつまみね!」

役所の快活な受付嬢「お、ありがとね」

路地裏の酒場の娘「じゃあ、追加の注文があったら呼んでね」

役所の快活な受付嬢「はいはーい」

役所の快活な受付嬢「さて、じゃあひとまず乾杯しますか」

狐神「うむ」

狼男「では」

お祓い師「えーっと、そうだな……」

お祓い師「じゃあ、この出会いに乾杯」

一同「「乾杯!」」

役所の快活な受付嬢「……くはーっ!やっぱり仕事終わりの一杯はこれよ!」

狼男「いやあ、美味いですね!」

お祓い師「たしかに、久々だがやはりいいものだ」

狐神「な、なんじゃこのしゅわしゅわは!?しゅわしゅわはなんじゃ!?」

狼男「たしか、炭酸と呼ばれるものですね」

狐神「たんさん……」

狐神「…………」

狐神「おお~……」

狐神「して、こちらのつまみはなんじゃ?」

お祓い師「胡瓜の酢漬けだな」

狐神「おお、漬物であったか!大好物じゃ」

狐神「……って、酸っぱあ!?」

お祓い師「酢漬けだって言ってんだろ……」

狐神「じゃが、美味い……」

お祓い師「お前は本当に単純なやつだよ……」

役所の快活な受付嬢「……あははっ!君たちは期待通り面白いねえ!」

お祓い師「この馬鹿がうるさいだけだ」

役所の快活な受付嬢「いやいや、君も面白いよ」

お祓い師「なっ、心外だぞ!」

役所の快活な受付嬢「まあ、褒め言葉といて受け取っといて」

役所の快活な受付嬢「で、本題に入るんだけど」

お祓い師「そうだな。どちらのことから聞かせてもらえるんだ」

役所の快活な受付嬢「君の探し人の話からでいいよ」

役所の快活な受付嬢「君の探し人……、君のお父上のこと何だけどね。居場所ははっきりと分かっているんだ」

お祓い師「なっ……!」

狐神「なんじゃ、もう解決ではないか」

お祓い師「ば、場所はっ……!?」

役所の快活な受付嬢「場所はこの街から遥か北西に行った所にある、内陸の山あいにあるとある集落さ」

役所の快活な受付嬢「その集落や近辺はあることで有名なんだけどね。詳しいことについては君たちお祓い師が専門になるのかな」

役所の快活な受付嬢「まあ何かって言うと、式神の文化が非常に発達した地方なんだってさ」

お祓い師「式神か……」

狼男「神と人間が契約するっていう、皇国特有の文化でしたっけ」

お祓い師「特有、と言うのは実は少し違うんだが……。相手が神とは限らず、物の怪と結ぶ者もいるようだな」

お祓い師「ということは、親父は式神に関する何かを調べるために皇国に一人で旅立ったってことか……?」

役所の快活な受付嬢「君のお父上が何をしているのかは詳しく掴めていないみたいなんだけど」

役所の快活な受付嬢「とにかく教会にとっては、君のお父上ほどの人間があの地方にいることが問題がある状況なんだ」

狼男「大陸に名を馳せるほどの退魔師が、絶対神以外の、教会からすれば異教の化物と友好にしているような地方にいるのは確かに好ましく無いでしょうね」

狼男「絶対神を唯一の神として崇める彼らにとっては教えに背く行為に等しい」

役所の快活な受付嬢「そうだね。君のお父上は有名人だから、存在が知れ渡れば双方にあまりいい事態にはならない」

役所の快活な受付嬢「退魔師協会というのも、教会の教えに反する化物を滅するという理念で動いているから……。まあ、教会の資金上の援助を受けるための建前だけど」

役所の快活な受付嬢「表立って君のお父上の味方になることが出来ないんだねー」

お祓い師「……なるほど。貴重な情報だった、ありがとう」

役所の快活な受付嬢「いやいや、次は君が私に協力してくれればそれでいいんだ」

役所の快活な受付嬢「なんだけど、その前に」

役所の快活な受付嬢「ねえー、注文いいー?」

路地裏の酒場の娘「はいはーい、なににする?」

役所の快活な受付嬢「今日のおすすめ料理を人数分で。あと麦酒を追加で」

狼男「あ、麦酒は俺もお願いします」

路地裏の酒場の娘「はい了解。ちょっと時間かかるかも」

役所の快活な受付嬢「ゆっくりでいいよ」

役所の快活な受付嬢「さて、じゃあ私の探し人の話に入るよ」

お祓い師「ああ」

役所の快活な受付嬢「私が探しているのは、私の親友なんだ」

役所の快活な受付嬢「私は見ての通り、西の人間の血を引いているんだけど、生まれはこの街なんだ」

役所の快活な受付嬢「今私たちのために料理を作ってくれているあの子も、私がいま探している子も、一緒にこの街で育った仲間でさ」

役所の快活な受付嬢「男友達も多かったから、やんちゃをしてはあの子に注意されていたもんさ」

役所の快活な受付嬢「まあ真面目な子だからね。危なっかしい私たちが心配で仕方がなかったんだろうね」

役所の快活な受付嬢「で、そんな真面目な子だったからさ。私が親のコネで役所仕事に就いて、あいつはあいつで親の酒場を継いで、ってしているずっと前に自分の意志で修道女になったんだ」

役所の快活な受付嬢「私らと違って信仰心が強かったからね」

役所の快活な受付嬢「真面目だけど、優しい子だから、同じ教会の修道女や神官ともすごく仲が良くてね」

役所の快活な受付嬢「すごく楽しそうなあの子を見れて、私たちも嬉しかった」

役所の快活な受付嬢「……だからこそ私たちはあの時、教会の上層部の連中が許せなかった」

お祓い師「…………」

狼男「一体何が……」

役所の快活な受付嬢「元々の素養なのか、それとも絶対神への信仰心によるものなのかはわからないんだけど」

役所の快活な受付嬢「……あの子は君たちと同じように“力”を持っているんだ」

お祓い師「力、か……」

役所の快活な受付嬢「私は全くそういうのはないんだけどね」

役所の快活な受付嬢「……あの子の力は『相手の心を読む力』、らしいんだ」

狐神「ふうむ……、“覚”のようなものか」

役所の快活な受付嬢「あの子曰く、相手の心を見たい時に見れるような便利なものじゃなくて、時々意識せずに見えてしまうものだったらしいの」

お祓い師「力を制御しきれていないということか」

役所の快活な受付嬢「そういうものなのかな?」

役所の快活な受付嬢「そしてある日のことなんだけど。あの子は魔女裁判にかけられてしまった」

狐神「魔女裁判とな……?」

お祓い師「異教の、特に魔の者を身内から炙り出す儀式だ」

お祓い師「その子みたいに相手の心を読む術者が他にもいるならば別だが、大抵はなん根拠もないインチキだ」

お祓い師「昔には魔女裁判が横行し、罪もない人々が沢山殺されたらしい」

狼男「…………」

役所の快活な受付嬢「役所の受付をやってると、知り合いも多いからね」

役所の快活な受付嬢「信用できる退魔師を頼って、教会に追われているあの子を何とかこの街から逃がした」

役所の快活な受付嬢「私が思うにあの子は、教会上層部の誰かの見てはいけない秘密に触れてしまった」

役所の快活な受付嬢「不意に発動した能力でね」

役所の快活な受付嬢「腐った教会の何を見たかはわからないけど、神と神の信徒を信頼していたあの子にとってはショックだったろうね」

お祓い師「なるほどな……」

お祓い師「……その子の見た目はどんな感じなんだ」

役所の快活な受付嬢「こっちの地方の家の子だからね、長い黒髪が綺麗な子だよ」

お祓い師(長い黒髪、か……)

狼男「…………」






路地裏の酒場の娘「はい、今日のおすすめ鶏の半身揚げだよ」

狐神「おおっ、ついに来たか!」

お祓い師「随分と量があるな……」

役所の快活な受付嬢「男ならこれぐらい余裕でしょ?」

お祓い師「あ、ああ」

狼男「もちろんです」

路地裏の酒場の娘「あ、私もこの卓の話に参加していい?」

役所の快活な受付嬢「別にいいけど、仕事の方は平気?」

路地裏の酒場の娘「もう閉店の札を出しといたから平気」

役所の快活な受付嬢「あんたそれでいいならいいけど……」

路地裏の酒場の娘「問題ないっ!」

路地裏の酒場の娘「それじゃあ改めまして、乾杯っ!」

一同「「乾杯!」」

狐神「んぐんぐ」

お祓い師「おい、あんまり飲むとまた潰れるからほどほどにな」

狐神「らいじょうぶら」

狼男「既に怪しいですねえ……」

お祓い師「はあ……。なあ、水とかあるか」

路地裏の酒場の娘「はいよ、ここに置いておくね。あと桶も」

お祓い師「済まないな」

お祓い師「ほら、少し水を飲んで酒を抜いておけ」

狐神「わしはまだまだいけるわい!」

お祓い師「いいから、とりあえず水を飲め」

狐神「……うむ、わかった」

狐神「……んくんく」

お祓い師「はあ……。で、質問があるんだがいいか」

役所の快活な受付嬢「なんでもいいよ」

お祓い師「その黒髪の子は教会に捕まらないように逃がしたんだろ?なんでそれを俺に探すように頼むんだ」

お祓い師「まるでその子がこの街の近くにいるみたいじゃないか」

役所の快活な受付嬢「その通り、あの子はこの街の近くのどこかにいる」

お祓い師「なんでそんな事がわかるんだ」

役所の快活な受付嬢「時々ね、家の窓の外にあの子からの手紙が置いてあるんだ」

役所の快活な受付嬢「あの子が飼っていたハヤブサが飛んで持ってきているんだと思う」

役所の快活な受付嬢「あの子が逃げた時に一緒に連れて行っていたはずなのにね」

役所の快活な受付嬢「これはハヤブサが飛べる範囲にあの子が住んでいる、って事でしょ」

お祓い師「……なるほどな」

お祓い師「しかしおかしくないか」

役所の快活な受付嬢「おかしい、とは?」

お祓い師「教会から逃げたのに、この国における教会の本拠地とも言える西人街から遠くにはなれない理由だよ」

お祓い師「普通に考えれば、教会の布教の及んでいない地域まで逃げるしかない」

お祓い師「それをなぜ、教会に再び追われるリスクを犯してまで西人街の近くに身を潜めて居座り続けているのか」

役所の快活な受付嬢「…………」

路地裏の酒場の娘「そりゃあ、あの子は真面目で優しくて、……そして純粋だから」

路地裏の酒場の娘「神を信じ続ければいずれ身の潔白が証明されるとでも思ってるんじゃないのかな」

役所の快活な受付嬢「……だね」

役所の快活な受付嬢「だから、次こそは遠くに逃げ切って欲しいんだ」

役所の快活な受付嬢「それをあの子に伝えてくれる人を探していた」

お祓い師「直接自分で探して伝えることは考えなかったのか」

路地裏の酒場の娘「無理だね」

裏路地の酒場の娘「あの子の親友である私たちが街の門をくぐって外に出ようものなら、すぐに教会の人間の尾行にあうことになるね」

お祓い師「それはそうか……」

役所の快活な受付嬢「これが私たちからあの子への手紙。あの子なら分かってくれるはず……」

お祓い師「わかった、絶対に届ける」

役所の快活な受付嬢「……信頼して、いいんだよね」

お祓い師「役所の人間からの信頼がなきゃ、この先やっていけるような職じゃないからな」

役所の快活な受付嬢「……ありがとう」

お祓い師「あと、こっちから一つお願いがあるんだがいいか」

役所の快活な受付嬢「なにかな」

お祓い師「そう長くはないが、感謝祭が終わる頃まではこの街に滞在しようと思っててな」

お祓い師「ロクに稼ぎがない状態は少し困るから、よさ気な依頼があったらまわしてくれ」

役所の快活な受付嬢「そういうことならお安いご用さ。明日以降カウンターに顔を出してくれれば色々紹介するよ」

お祓い師「助かる」

路地裏の酒場の娘「よーし、契約成立にもう一飲しますか!」

役所の快活な受付嬢「よっしゃ、かかってきなさい!」

お祓い師「元気だなオイ……」

狼男「旦那も勿論まだまだいけますよね」

お祓い師「……当然だ……!」

お祓い師「……って、こいつは寝ちまったか」

狐神「すうすう……」

お祓い師「飯だけはいつの間にか平らげてやがんな」

狼男「さ、さすがですね……」

お祓い師「まったくだ」

路地裏の酒場の娘「ほれほれお兄さん、まだまだ若いんだから飲んで飲んで」

お祓い師「わかったわかった、じゃあ頂くとするよ」

お祓い師「……ふう」

お祓い師「そういえば今日昼食をとった時の話なんだが」

お祓い師「そこで西人街の西人街の聖騎士長をやっているっていう男に会ったんだが、あの若さで聖騎士長ってのは珍しい」

お祓い師「有名な剣士なのか?」

役所の快活な受付嬢「……あいつはただの剣術馬鹿……」

お祓い師「その物言い、知り合いか?」

役所の快活な受付嬢「……別になんでもない」

路地裏の酒場の娘「あの聖騎士長は、私たちが子供の時よく遊んでくれた近所のお兄さん、ってところかな」

路地裏の酒場の娘「それでもって、この子の元婚約者」

狼男「ええっ!?」

役所の快活な受付嬢「やめてよちょっと!昔の話でしょ!」

お祓い師「なんでまた婚約を解消したんだ」

役所の快活な受付嬢「そんなの当たり前じゃない!あいつ、教会に魂売ってんの!」

役所の快活な受付嬢「私の親友が不当な魔女裁判にかけられたにも関わらず、何もしてくれなかったんだよ!?」

役所の快活な受付嬢「教会の人間なら中から何とかすることだって出来たでしょうに!」

路地裏の酒場の娘「まあまあ、ああいう組織っていうのは複雑な事情っていうのがいろいろあるもんだよ」

役所の快活な受付嬢「そんなことはわかってるけど……!」

お祓い師「なるほどな……」

狼男「難しいですねえ」

役所の快活な受付嬢「うっさーい!そんな目で私を見るなー!!」

役所の快活な受付嬢「こうなったら今晩はしこたま飲んでやるんだから!」

おわり

追い付いた。
面白いね、ゆっくり更新して欲しいです

…ま、やる気がなくなったなら終わらせるのは妥当か
いつかやる気が戻ったら頼むぞ

>>403 ありがとうございます。
>>406-408 続けます。少し間をおいてしまうこともありますが、ちゃんと完結させます。






役所の快活な受付嬢「ぐう……、もう飲めない……」

路地裏の酒場の娘「私の勝ち、っと」

路地裏の酒場の娘「じゃ、私はこの子を上の部屋に寝かしつけてくるから、あなた達はもう帰っても大丈夫だよ」

お祓い師「大丈夫か、手伝わなくて」

路地裏の酒場の娘「この子がこうなるんはいつも通りだからなれてるよ」

お祓い師「そうか……。じゃあ失礼する。代金はここに」

狼男「半身揚げ美味しかったです。それではまた」

路地裏の酒場の娘「ん、またねー」

お祓い師「……よし、じゃあ帰るか」

狼男「また姐さんはおぶられて部屋に戻るんですね」

お祓い師「もう慣れたよ、こいつをおぶって帰るのも」

狼男「…………」

狼男「男は狼になってもいいんですよ?」

お祓い師「ばかいえ、殺される」

狼男「はたしてどうでしょうね」

お祓い師「…………」

お祓い師「そういえばお前、何か具合でも悪いのか」

狼男「え、なんでですか?」

お祓い師「いや、この街に来た辺りから、たまにボーッとしてたり、顔をしかめたりしていたからな」

狼男「え、そうですかね。気のせいだとは思うんですけれども……」

お祓い師「そうか。まあ何あればすぐ言えよ」

狼男「ええ、そうさせてもらいます」

お祓い師「さて、明日からは少し忙しくなるぞ」

狼男「祭りに向けた軍資金稼ぎ、ってやつですか?」

お祓い師「今日働いた分じゃ少なすぎるからな」

お祓い師「それと平行して教会についての情報収集も必要だ。今の状況を知っておくことが重要だ」

狼男「……確かにそうですね。向こうからすれば、お尋ね者の逃亡幇助をされそうになっているわけですからね」

お祓い師「何事もなく終わってくれればそれが一番いいんだけどな」

狼男「しかし、もし俺たちが関わったことがバレたら、この先の仕事に支障が出たりはしないんですか?」

お祓い師「皇国にいる限りでは問題はないだろうな。ここは多神の存在を国の長である皇家が認めている」

お祓い師「絶対神の布教も、その八百万の神の中の一つとして受け入れられているにすぎないんだ」

お祓い師「国からのバックアップがない以上、教会連中も強硬手段には出られない。あいつらがすべてを掌握したこの西人街のような場所以外ではな」

お祓い師「やり過ぎれば国の軍に潰されちまうからな」

狼男「まあ、もしも教会を敵に回しちゃったら皇国に永住ですね」

お祓い師「あとは遙か先の北方連邦国だな。あそこも特殊な国だ」

狼男「ああ、そういえばそうでしたね」

お祓い師「長い間周辺諸国との国交を絶っていたから国を越えた商いは苦手と聞くな」

狼男「ですから、無神論者で商い上手の人間が、近年多く移り住んでいるとか」

お祓い師「俺も時代の流れに乗ったほうがいいのかね」

狼男「ははっ、旦那は商いは向きませんよ」

お祓い師「そういう意味だ」

狼男「無愛想は取引の場では不利ですよ」

狼男「……そして何より、お人好しには商売はできないんです」

お祓い師「……無愛想なお人好しって、散々な評価だな」

狼男「褒め言葉ですよ」

お祓い師「褒められている気はしない」

狼男「実際旦那はお人好しですよ」

狼男「今回の件も、欲しい情報は手に入ったんですから、向こうのことは手伝わずにすぐに目的地へ向かえば良いんです」

狼男「それなのに律儀に、教会を敵に回すリスクを犯してまで手伝っちゃうんですから」

お祓い師「……貸したものは死んでも返してもらうが、また借りたものは死んでも返す主義なだけだ」

狼男「なるほど……」

狼男「俺も返し時、なんですかね……」

お祓い師「ん?」

狼男「いえ、なんでもありませんよ」






お祓い師(すっかりこいつの寝かしつけ係だな)

お祓い師(今日は少し飲み過ぎたから、俺も早く寝よう……)

狐神「……おぬし、そこにおるか」

お祓い師「……!」

お祓い師「起きてたのか……」

狐神「うむ、目が覚めたところじゃ……」

狐神「頭痛がひどくての……」

お祓い師「だから飲み過ぎるなと言ったんだ。水をもらってこようか?」

狐神「……頼んでも良いかの」

お祓い師「ああ、少し待ってろよ」

狐神「うむ……」

お祓い師「…………」

お祓い師「……おい」

狐神「なんじゃ」

お祓い師「何だこの手は。水をもらいに行けないだろう」

狐神「…………」

狐神「……のう、おぬし」

お祓い師「なんだよ」

狐神「夫婦の契りをかわそう」

お祓い師「あのなあ、馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」

狐神「わしは大真面目じゃ」

お祓い師「……今夜はどんな悩み相談なんだ?睡魔に襲われるまでは聞いてやる」

狐神「まったく、少しは冗談に付き合わんか」

お祓い師「…………」

お祓い師「で、言いたいことがあるなら言ってみろ。今晩は長話にもつきあうぞ」

狐神「……うむ」

狐神「……以前おぬしは、わしのことを“同行者”だと言ってくれたな」

お祓い師「そんなことも言ったな」

狐神「じゃがわしにとってのおぬしは“依り代”じゃ」

狐神「これは今のわしにとっておぬしはは形式上のものではなく、生きる上での拠り所であるということじゃ」

狐神「じゃがわしはおぬしに何もしてやることが出来ぬ」

狐神「わしはおぬしにとって同行者以上の何者かになりたい」

お祓い師「…………」

お祓い師「お前の能力には助けられている。それじゃ駄目なのか?」

狐神「それは、少し違うような気がするのじゃ……」

狐神「おぬしはわしの依り代。いわば命の力をわしに差し出しているようなものじゃ」

狐神「それに応えられるだけの価値のある存在になりたい、ということなんじゃ」

お祓い師「……なるほど、言いたいことはわかった」

お祓い師「だがな狐神、そんなに気に病む必要はないんだ」

狐神「……なぜじゃ」

お祓い師「こういう人間関係に関わることは金勘定とは違う。百のものに百で返すことは難しいし、そんな必要もない」

お祓い師「依り代の関係を人間関係と同じように考えるのは少しおかしい気もするが、お前がそういうふうに捉えているならそうとする」

お祓い師「とにかく、無理に同質の、同等のもので返そうとしなくていい。この契約印のせいで被害を被っているわけじゃないしな」

狐神「う、うむ……」

狐神(そうは言ってものう……)

狐神(おぬしに頼ってばかりではわしの立場がないというか……)

お祓い師「もったいないから灯りを消すぞ。いいな?」

狐神「……うむ、平気じゃ」

お祓い師(あの積んであった本がまだ気になるな……)

お祓い師(明日仕事を見つけてからもう一度行くか)

ここまでです。
>>412 の お祓い師「今日働いた分じゃ少なすぎるからな」 という発言ですが、働いた描写がありませんでした。
御札を売って小銭稼ぎをしたということにしてください。






狼男「予想以上に早く仕事が片付いてしまいましたね」

お祓い師「部屋の“憑き物”を祓っただけだからな。大して強いものでも無かったし」

狐神「久々に“らしい”姿が見れた気がするわい」

お祓い師「どういう意味だ」

狐神「いやなに。専門家らしく手こずらずに解決したからの」

お祓い師「……刀を持った狂人を相手にするのは専門じゃないんだよ」

狐神「ふふっ、わかとっるわい」

狼男「あんまりからかっているとまた怒られますよ」

狐神「わしがこやつのなにを恐れろと?」

お祓い師「……昼飯……減量」

狐神「か、勘弁しておくれ……!」

お祓い師「ふん、あんまり生意気な気な口を利くなよ」

狐神「わしの方がよっぽど年長者であるというのに……」

お祓い師「生憎だが俺は年功序列という言葉が嫌いだ」

狐神「歳上は敬うべきじゃと思うがな」

お祓い師「一応考えておく」

狐神「本当かのう……」

狼男「……!」

狼男(あれは……)

お祓い師「どうした?」

狼男「い、いえ」

狼男「忘れ物を思い出してしまって。きっと昨晩の酒場です」

お祓い師「どうする?」

狼男「自分一人で取りに戻ります」

お祓い師「おう、わかった」

狼男「では」

狐神「ふむ……?」

狐神(えらく焦っておったが、あれは一体……)

お祓い師「さ、本屋に行くぞ。まだ色々と調べたいんだ」

狐神「うむわかった」

狐神「わしも少々調べたいことがあっての」

お祓い師「ほう、珍しい」

狐神「わしが本を読んだらいけないのかの?」

お祓い師「怒んなって、冗談だ」

狐神「からかうのも大概にせい……」

お祓い師「じゃあ行くか」

狐神「うむ。調べ物は早々に終わらせて早う昼食にしたい」






──とある手紙──


『復讐、だなんて私には思いつきもしないことでした。』

『思いつきもしなかったと言うのは嘘かもしれません。知らないふりをしていただけなんでしょう。』

『私はずっと神の御前で良い聖職者として振舞ってきました。』

『ふたりの良い友人であろうと振舞ってきました。』

『でも今気が付きました。私は二人が言うような“いい子”ではないんです。』

『私だって怒ります。私だって恨みます。』

『こんな理不尽な仕打ちには、仕返しをする他に無いのだと気が付かされました。』

『ごめんなさい。感謝祭、一緒に回りたかったです。』

『さようなら。』










路地裏の酒場の娘「……で、翌朝になってもあの従者さんは戻ってこなかった、と」

お祓い師「ああ。ここに荷物を忘れたから取りに行くと言っていたんだが姿は見なかったか」

路地裏の酒場の娘「いや、昨日今日で会った人が来たなら気がつくはずなんだけど……。そもそも忘れ物なんて無かったし」

お祓い師「そ、そうか……。邪魔したな」

路地裏の酒場の娘「力になれなくてごめんね」

お祓い師「いや、いいんだ」

路地裏の酒場の娘「…………」






お祓い師「…………」

狐神「おぬし、これは……」

お祓い師「……違和感には気がついていたんだ……。もう少しちゃんと聞くべきだった……!」

狐神「あやつの様子がおかしかったのはいつからじゃ?」

お祓い師「この街に来た時……、いや、東の森であの修道女に会った辺りからだ」

狐神「そういえば、なぜか外で寝るなどと言い出したのう」

お祓い師「そうだ、あの時点で何かがおかしかった」

お祓い師「なぜあいつはあの時小屋を出たがったのか……」

お祓い師「…………」

お祓い師「……まさか……!おい狐神!」

狐神「な、なんじゃ!?」

お祓い師「さっきは察知できなかったみたいだが、もう一度できるだけ広範囲で『狼男に遭遇できる地点』を探してくれ!」

狐神「う、うむ。じゃが、さっき力を使ったせいでどうにも広い範囲は探れそうにないんじゃが……」

狐神「供物になるものがあれば、もう一度使えそうなんじゃが……」

お祓い師「食べ物はいま手元にない……。他に代わりになるものはないのか?」

狐神「……依り代の契約の時と同じように血でも構わぬぞ」

お祓い師「……わかった。血をやるからこっちの路地裏に来い」

狐神「おぬし、あまり引っ張るでない……!い、痛い……」

お祓い師「あ……。す、すまん……」

狐神「だ、大丈夫じゃが、どうしたのじゃ。何をそんなに焦っておる」

お祓い師「……」

お祓い師「具体的にあいつが何をしようとしているのかはわからないが、マズいことになるのは間違いない」

狐神「どういう意味じゃ、きちんと説明せんか」

お祓い師「あの晩にあいつ、狼男が小屋の外で寝ると言い始めた理由を考えてみろ」

狐神「り、理由じゃと……?」

お祓い師「あいつが小屋を出るといった直前にあの修道女が何をした」

狐神「え、ええと……。暖炉に火をつけて……」

狐神「……まさか……!」

お祓い師「ああそうだ。あの暖炉には“魔の者を遠ざける魔術”が仕掛けられていると言っていた」

お祓い師「狼男はその術を嫌がって外に出たんだ」

狐神「つまりあやつは魔の者ということか……」

お祓い師「ああ、そうだ。つまりあいつは絶対神信仰とは真逆の思想を持っているということだ」

お祓い師「そんな奴が、この絶対神信仰の布教のための街でやらかそうとしていることなんてロクなことじゃない」

お祓い師「とにかく、まずはあいつに会わないとまずい」

お祓い師「……よし、血だ。飲んでいいぞ」

狐神「う、うむ……」

狐神「ではもう一度探ってみる……」

狐神「…………」

狐神「……む、あっちじゃ……」

お祓い師「正確な場所はわからないのか」

狐神「あくまでわしの力は『目的地に導く力』じゃ。道筋がわかるだけで場所まではわからぬ」

狐神「もっと近づけば、力の気配や臭いでわかるはずじゃから、力が続く限り向かうのが先決じゃ」

お祓い師「わかった、急ぐぞ……!」

狐神「うむ……!」

ここまでです。
ペースが遅い割に長くてすいません。このスレでは終わらないと思います。
書き溜めがまとまったら一回に書き込む量を増やそうと考えています。


>>1000越え長編とは楽しみ

>>439-444 頑張ります。






狼男「ぐあっ……!つ、強い……」

黒髪の修道女「だ、大丈夫ですか……!?」

西人街の聖騎士長「二人とも大人しく投降しろ。俺一人相手に勝てないのに、この人数を相手に逃げられると思うのか」

肥えた大神官「……早くその愚か者を捕らえて処刑してしまえ」

狼男「ぐ……」

お祓い師(……!いた……!)

聖騎士A「待て!」

聖騎士A「貴様はあの不届き者の同行者であったな。この場で拘束させてもらう」

お祓い師「なっ、どけっ!俺はあいつを止めないとならない!」

聖騎士B「もう遅い。あの者はあろうことか魔女と手を組み大神官様に牙を剥いた」

お祓い師「魔女……?」

お祓い師「あいつ……」

お祓い師(やはりあの修道女が“魔女”か。だが、なぜ狼男と一緒に……)

役所の快活な受付嬢「追いついた……!」

お祓い師「お前、いつの間に……」

役所の快活な受付嬢「あの子からの手紙がさっき酒場に届いたのよ!」

役所の快活な受付嬢「お願い、そこを通して!」

聖騎士C「それは出来ない。如何なる者も通すなという命令だ」

役所の快活な受付嬢「命令?命令ってあの馬鹿の命令!?」

聖騎士B「なっ、聖騎士長に向かって馬鹿とは失敬であるぞ!」

聖騎士C「貴様も拘束させてもらう!」

役所の快活な受付嬢「いやっ!離してよっ!」

西人街の聖騎士長「待て、そいつは離してやれ」

聖騎士C「は、はっ!」

役所の快活な受付嬢「……どういうつもり。やっとその子が見つかったっていうのに……!」

西人街の聖騎士長「見つかったから拘束したんだろう。こいつは教会の教えに背いた魔女なんだぞ」

黒髪の修道女「…………」

役所の快活な受付嬢「教会の教えに背いた!?いつその子が教会の背いたっていうのよ!」

役所の快活な受付嬢「その子ほど献身的に祈りを捧げていた信徒はそうそういない!」

役所の快活な受付嬢「それをあんたら教会の勝手な都合で魔女裁判にかけて!なにそれ、ふざけないでよ!」

西人街の聖騎士長「……大神官様の言うことは絶対だ」

お祓い師「おい」

西人街の聖騎士長「……お前との二度目の対面がこんな形になるとは残念だ」

お祓い師「……大神官サマの言うことが絶対だ?」

お祓い師「お前たちにとっての絶対ってのは神のことだろうが……!」

西人街の聖騎士長「……絶対神のお言葉を聞けるのは神官様たちだけだ」

お祓い師「自分の意志を持たないクズが……!」

狐神「……!」

聖騎士B「貴様っ!」

聖騎士C「なんということをっ!」

お祓い師「ぐはっ!」

西人街の聖騎士長「……お前がなんと言おうとこの状況は覆らない。諦めてそこで眺めていろ」

西人街の聖騎士長「とは言っても、お前たちもタダでは帰れないな。ま、覚悟はしておけよ」

黒髪の修道女「……あなたも落ちたものですね」

西人街の聖騎士長「落ちたどころかここまで偉くなったぞ」

役所の快活な受付嬢「あんたね……!」

西人街の聖騎士長「で、お前が“逆恨み”で大神官様を襲いに戻ってきたのはわかるが、そっちの男はどうやって知りあった?」

西人街の聖騎士長「見たところ狼男のようだが……」

黒髪の修道女「……たまたまこの人の心の中を覗いたら、同じ相手に恨みを持っていたから声をかけただけです……」

お祓い師(あの晩に俺たちが眠った後に接触したか……。そこで仇がこの街にいることを知って様子がおかしかったのか)

西人街の聖騎士長「大神官様、お心当たりは」

肥えた大神官「……ふん、知らんな。狼男の知り合いなどいるはずもない」

狼男「とぼけるな!お前が“罪のない妻に人狼の疑いをかけて殺した”神官だということは分かっている!」

お祓い師「なっ……!」

お祓い師(自身が人狼として疑われた、という話は嘘だったのか……)

狼男「あの後貴様が皇国へと転属されたと聞き、遥々国を越えてここまで来た……」

狼男「小国といえど国は広い。年月をかけてようやく貴様を見つけ出した!」

狼男「例え自分が死んででも、貴様だけは必ず殺す……!」

肥えた大神官「ふん、言いがかりもいいところだな」

肥えた大神官「おい、あとは任せたぞ。私は感謝祭の準備で忙しい」

西人街の聖騎士長「はっ、わかりました」

狼男「待てっ!!」

西人街の聖騎士長「通さねえぞ……!」

狼男「くそっ!」

狼男「おい待てっ!クソッ!!待ちやがれええええぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

西人街の聖騎士長「諦めるんだな」

西人街の聖騎士長「大体お前の話には無理がありすぎる。将来に大神官になられる素質のある方が魔の者の気配を読み間違えるなど……」

黒髪の修道女「この方は人の姿の時には全く気配を発しません。誰であろうと見分けるのは非常に困難です……」

西人街の聖騎士長「……何としても大神官様を侮辱したいか」

西人街の聖騎士長「しかし、……なるほど?“それがその男の力というわけか。お前は狼男だものな”」

西人街の聖騎士長「だがそうなると、更におかしな点が出てくるな」

西人街の聖騎士長「不遜も甚だしいが、もし仮にこの男が大神官様を討ち取ろうと考えていたならば、もっと円滑にできたはずだ」

狼男「さ、さっきから何を言っている……」

西人街の聖騎士長「んん……?」

西人街の聖騎士長(……なるほど。自分の力を理解していない、か)

西人街の聖騎士長「まあいい。祭りで活気づいた街の往来でこれ以上こうしているわけにもいかないからな」

西人街の聖騎士長「あとは裏で処理する。ひとまずは牢へ連れて行け」

聖騎士D「はっ」

聖騎士E「おい立て」

狼男「ぐっ……」

黒髪の修道女「…………」

お祓い師「待て……!」

聖騎士A「貴様も動くな!」

お祓い師「離せ!」

聖騎士A「なっ……!ぐわっ!」

聖騎士B「貴様っ……!」

聖騎士C「ここで処断してやろう……!」

お祓い師「どけっ!」

お祓い師『滅却!!』

聖騎士B「炎だとっ!?」

聖騎士C「近付けん……!」

西人街の聖騎士長「……さすが、だな」

西人街の聖騎士長「お前ほどのお祓い師ならば、その攻撃は並の威力ではないか」

西人街の聖騎士長「その相手をするのは非常に困難だが……」

お祓い師「そいつらを離せ!」

西人街の聖騎士長「……それでもまだ俺のほうが強い」

お祓い師「なっ……!」

お祓い師「ぐはっ!!」

狼男「だ、旦那……!」

狐神「大丈夫かの……!?」

西人街の聖騎士長「……うーん」

西人街の聖騎士長「やっぱり違和感があるんだよな……」

お祓い師「なんの、ことだ……」

西人街の聖騎士長「いや、お前が今使った力と、別の何かをお前から感じてね」

西人街の聖騎士長「……だが残念だな。その正体が何かは分からないが、“お前の場合は手遅れだろう”」

お祓い師「……訳がわからないことを……!」


西人街の聖騎士長「おっと、話が長くなっちまったな」

西人街の聖騎士長「よし、そいつらもまとめて連れて行け」

西人街の聖騎士長「あとその受付嬢は……」

西人街の聖騎士長「一緒にこの街で育った仲だ。いま黙って立ち去るなら見逃してやるぞ」

役所の快活な受付嬢「……誰がっ……!あんたの言うことなんか……!」

路地裏の酒場の娘「待って!」

路地裏の酒場の娘「お願い、冷静になって……!」

西人街の聖騎士長「お前も来たのか。ははっ、まるで同窓会みたいだな」

路地裏の酒場の娘「なんであなたはそうも……!」

役所の快活な受付嬢「離して……!私はあいつに一発くれてやらないと気がすまない……!」

路地裏の酒場の娘「気持ちは同じだけど抑えて。このままじゃ捕まっちゃう……!」

役所の快活な受付嬢「でもっ……!」

路地裏の酒場の娘「お願い、こらえて……!」

役所の快活な受付嬢「でも……、やっとあの子に会えたのに……!」

黒髪の修道女「私は、大丈夫だよ……。二人とも心配してくれていて、嬉しかった……」

黒髪の修道女「でも二人が捕まっちゃったら私は悲しい……。だから二人はもうこの場を離れて……!」

役所の快活な受付嬢「だけど……!」

黒髪の修道女「ごめんね……。私、二人が思っているようないい子じゃない」

黒髪の修道女「ずっとこの街の近くにいた理由も、やっとわかったんだ」

黒髪の修道女「……ずっと、復讐したかったんだ」

黒髪の修道女「その気持ちを、たまたまあの時にこの人の心を覗いて気付かされただけ……」

黒髪の修道女「だから……」

役所の快活な受付嬢「…………」

路地裏の酒場の娘「行こう……。私たちに出来ることは、ないから……」

黒髪の修道女「お願い、行って……!」

役所の快活な受付嬢「っ……!」

役所の快活な受付嬢「私は絶対に許さないから!あんたも、教会も!絶対に許さないから……!」

西人街の聖騎士長「…………」

役所の快活な受付嬢「絶対に……!」

西人街の聖騎士長「……さて、他の四人は牢に連行する」

西人街の聖騎士長「おい、やられた三人もそろそろ立てるだろう」

聖騎士A「は、はっ……!」

西人街の聖騎士長「じゃあそこの女も連れて来てくれ」

聖騎士B「よし立て」

聖騎士B「……どうした、立てと言っている!」

狐神「…………」

お祓い師「狐神……?」

聖騎士C「待て、様子がおかしい。……顔色が酷く悪いな」

聖騎士A「体調でも崩したか」

西人街の聖騎士長(……いや、あの女からは僅かながら力を使っている気配がする)

西人街の聖騎士長「まて、何かあるぞ警戒を……」

狐神「……!」

狐神「今じゃおぬし、立てっ!」

お祓い師「くっ……!」

西人街の聖騎士長「なっ……!?」

狐神「こっちの路地じゃ!」

お祓い師「ま、待て!それだと……!」

狐神「迷っておる暇はあらん!はようせんか!」

お祓い師「いいから離せ!」

狐神「聞き分けのない……!」

お祓い師「あっ、おい!」

聖騎士A「待てっ!」

西人街の聖騎士長「お前たちは追え。こっちの二人は俺が牢にぶち込んでおく」

西人街の聖騎士長「だが見つからなければ深追いはしなくていい」

聖騎士A「な、なぜですか」

西人街の聖騎士長「……その方が面倒事が減っていいからだ」

聖騎士A「へ……?」

西人街の聖騎士長「ま、いいから一応追ってみろ」

聖騎士A「はっ!よし、行くぞっ!」

西人街の聖騎士長「…………」

西人街の聖騎士長「さて、二人とも」

狼男「…………」

黒髪の修道女「…………」

西人街の聖騎士長「牢まで来てもらおうか。いろいろと話がある」

次回辺りで《魔女》編は終わる予定です。

>>465-468
ありがとうございます。






狐神「はあっ……、はあっ……」

お祓い師「おいっ……! 離せって!」

狐神「はあ……、ここまでくれば平気じゃろう……」

お祓い師「おい、聞いてんのか! なんであそこで逃げた!」

お祓い師「まだ二人が捕まったままだろうが!」

狐神「……見えなかったのじゃ」

お祓い師「あ……?」

狐神「……あの場から二人も連れて逃げるという道筋が、どれだけ力を使っても見えなかったのじゃ……」

狐神「もう力が尽きようという時に、仕方なしに二人だけで逃げきれる道を選んだのじゃ……」

お祓い師「な……」

お祓い師(……ずっと力を使っていたからあんなに疲弊していたのか)

お祓い師「……あの二人を連れて逃げる道筋が見えなかったということは……」

狐神「うむ……。あやつがそれだけ強いということじゃろう」

狐神「それに加えて、辻斬りの時とは違って、他にも沢山の聖騎士がおった。状況の悪さはあの時以上じゃ」

狐神「そんな中を手負い四人で逃げるなど無理じゃ……」

お祓い師「くそっ……!」

狐神「こうなってしまった以上わしらにはそうすることも……」

お祓い師「見捨てるってことか……?」

狐神「現実的な話をすれば、じゃ」

狐神「あやつらのしていることは、少なくともこの皇国内では違法」

狐神「しかし聞く所によるとこの都市においては、あやつらに自治権があるに等しいらしいではないか」

お祓い師「……そうだ。この西人街の教会は共和国の大使を兼ねている」

お祓い師「国軍であろうとも無闇に手を出せないのは事実だ」

狐神「力に訴えても、言論を持ってしても、わしらに勝ち目はあらん、ということじゃろう……」

お祓い師「そうだ、だがそれでも……!」

お祓い師「…………」

狐神「…………」

狐神「わしだって……、わしだって本当ならば……」

お祓い師「なら……!」


???『──聞き分けさない。“貴方は諦めてこの街を出るの”。その方が楽で“魅力的な”方法でしょう?』


お祓い師「な……」

お祓い師「…………」

お祓い師「……わ、わかっている……。俺だってわかってるさ……」

お祓い師「……復讐という選択をしたあいつらが、自ら招いた結末だ」

お祓い師「もう俺たちには関係のない……」

狐神(……なんじゃ?もう少し粘るとは思ったのじゃが、意外とあっさりと……)

狐神「……思ったよりも早く諦めたのう」

お祓い師「……お、俺は冒険物語の主人公じゃないんだ」

狐神「…………」

お祓い師「どうしようもない逆境を覆せるような力はない……」

お祓い師「今から、あいつらを助けに行くのはただの蛮勇だ」

狐神(言っていることがさっきと真逆じゃ……。一体何が……)

狐神(しかし、今のわしらに逃げる以外の選択肢はない。再びこやつの気が変わらん内に行かねば……)

狐神「……そうか、では早くこの街を出るとしよう」

狐神「わしらもすでにこの街ではお尋ね者じゃ」

お祓い師「……馬車馬は捨てていくしかないか」

狐神「いや、一応取りに戻ってみてはどうじゃろうか」

狐神「わしの力で馬車ごと街から出ることが可能かもしれぬからな」

お祓い師「……そう、だな」

狐神「じゃあ急ごうかの。あの役所に聖騎士の張り込みが入るのも時間の問題じゃろう」






狐神「(聖騎士の姿はなさそうじゃ)」

お祓い師「(いや待て、人の姿があるぞ……)」

狐神「(……あの受付嬢と酒場の娘ではないか)」

お祓い師「(……行ってみよう)」

役所の快活な受付嬢「あっ、君たち……!」

路地裏の酒場の娘「無事だったんだね……」

お祓い師「ああ、だが……」

役所の快活な受付嬢「……いや、いいんだ。それに捕まっちゃったのはそっちの連れも同じでしょ?」

お祓い師「……なあ」

お祓い師「俺たちがあの晩に、あの修道女と出会っていなかったら」

お祓い師「あの修道女が心の中を覗かなければ、こんな事にはならなかったのか……?」

路地裏の酒場の娘「……いや、違うよ……」

路地裏の酒場の娘「復讐っていう方法を選んだのはあの二人」

路地裏の酒場の娘「たしかにもっと早く気がついていれば、私たちはあの子たちを止められたかもしれない……」

路地裏の酒場の娘「それでも最後にあの選択をしたのは、他でもないあの子たちだから……」

役所の快活な受付嬢「…………」

お祓い師「……そうか」

お祓い師「俺たちは少なくともこの街ではお尋ね者になってしまった」

お祓い師「今すぐにでもここを発つつもりだ」

役所の快活な受付嬢「そうだと思って馬の綱は外しておいたよ」

お祓い師「すまないな」

役所の快活な受付嬢「街を出ちゃえば安全だと思うから」

路地裏の酒場の娘「あとは、他にも教会が力を持っている街は少しだけどあるから、そこだけは注意すれば」

お祓い師「だな、忠告ありがとう」

役所の快活な受付嬢「ううん、気をつけて」

お祓い師「……ああ」

狐神「では、の……」






狐神「ふう、どうにか街を抜けられたかの……」

お祓い師「立て続けに力を使って疲れているだろ。少し休め」

狐神「……うむ、そうさせてもらうかの」

狐神「…………」

狐神「……なあおぬしよ」

お祓い師「なんだ」

狐神「あの騎士の言っていた、おぬしの中の“別の何か”のことじゃ」

お祓い師「…………」

狐神「わしも違和感は感じておったし、今まで相対した奴らもおぬしのことを何かおかしいと感じておるようじゃった」

狐神「おぬし自身の体のことじゃろう。本当は何か知っているのではないのかのう……?」

お祓い師「……知らねえよ」

狐神「じゃが……」

お祓い師「知らねえし、知りたくもない」

狐神「……おぬし、何を片意地を張っておる」

お祓い師「……あ?」

狐神「おぬしから感じる別の力があればあの二人を救えたのではないのか……?」

お祓い師「……何を根拠に」

狐神「根拠などあらん。しかし、その力の可能性にかけてみようとは思わなかったのかの?」

お祓い師「あの二人を助けだすという選択肢を最初に捨てたのはお前の方だろうが……!」

狐神「わしの力ではあの状況を打破することはできなかったということじゃ」

狐神「じゃがおぬしは、隠し玉を持っておるではないか……!」

狐神「おぬしは本当はその力の正体を知っているのではないのか?」

狐神「わしが思うにそれはおぬしの親の……!」

お祓い師「──うるせえ!!」

狐神「っ……!」

お祓い師「……知らねえって言ってるだろ……!」

狐神「……お、ぬし……!」

狐神「なんじゃその反応は!」

狐神「それは肯定と取っていいということじゃな!?」

お祓い師「だったら、なんだっていうんだよ!」

狐神「痛っ……!」

お祓い師「あ……」

お祓い師「……すまん……」

狐神「……いや、平気じゃ……」

狐神「……なあ、おぬしよ。最後にいいかの」

お祓い師「…………」

お祓い師「……なんだ」

狐神「……おぬしは。おぬしは本当にお父上を尊敬しておるのか……?」

狐神「おぬしはその身に宿る力のことをどう思っておるのじゃ?」

お祓い師「…………」

《現状のランク》
※潜在能力ではなく、その時点で判明している実力

A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長

B1 狼男
B2 お祓い師
B3

C1 
C2
C3 河童

D1 
D2 狐神
D3 化け狸 黒髪の修道女

《魔女》編終わりです。
章題の魔女がほとんど出てこないという回でした。
主人公が負けっぱなしですが、格上には割と負ける感じの人です。
色々とすっきりしないまま終わりましたが、回収はまた後ほど。



《天狗》


狐神「…………」

お祓い師「…………」

狐神(あれから一晩以上、口を利いていないのう)

狐神(してはいけない質問だとはわかっておったが……)

狐神(こうもこやつが頑固であったとはのう)

狐神(……いや、頑固なのは知っておったわ)

狐神(なんにせよ、居心地が悪い。どうにかならんものか……)

狐神「……のう、ぬしよ」

お祓い師「……なんだよ」

狐神(……自ら話しかけてしまえば、ここまで呆気ないものじゃったか)

狐神「いや、あの二人のことじゃ」

お祓い師「…………」

狐神「わしが思うに、あの二人は殺されてはいないはずじゃ」

お祓い師「気休めで場を取り繕おうとしているなら逆効果だぞ」

狐神「気休めではあらん」

お祓い師「……まあそれに関しては俺も同意見だ」

お祓い師「いかに皇国において、数カ所の街で自治権を得ているとはいえ、罪人を死刑にする権利は与えられていない」

お祓い師「もし死刑を行えば、皇国における反教会団体がここぞとばかりにうるさくなるだろうからな」

狐神「そう思っていながら、無謀にも奴らに挑もうとしたのかの」

お祓い師「あの場で助けられるならそれに越したことはないだろうが」

お祓い師「出会って一ヶ月少しとはいえ俺達の仲間だ。そう簡単に見捨てられるかよ」

狐神「……その通りじゃな」

狐神「更に気休めを言うならば、あの聖騎士長という者からは殺意が感じられんかった、ということじゃな」

狐神「本当にあの大神官という者を狼男から守っていたのならば、もう少し殺意やそれに似た何かを感じても良かったはずじゃ」

狐神「じゃが、あやつにはそれが無かった」

狐神「ああ振る舞ってはおったが、やはり旧知の仲である修道女を手に掛けるつもりなど初めから無かったのではないのかのう」

お祓い師「あいつもあいつで事情あり、ってことか……」

狐神「うむ」

狐神「……じゃが、そうはいっても特に狼男の方はいつまでも無事である保証はない。何よりあやつは既に人ではない」

狐神「人為らざるものに、人の世の法が適用されるかのう……」

お祓い師「…………」

狐神「あやつらを助けるためには、おぬしとわしが力をつける他ないのじゃ」

お祓い師「……わかってる」

狐神「また怒られる覚悟で言うがの、それでもおぬしは、その内に秘めた力を使わぬというのかの」

お祓い師「…………」

狐神「おぬし……」

お祓い師「……得体も知れない力に頼らなくても、己の力を鍛えれば済む話だろうが」

狐神「……それができるなら、それでいいんじゃが」

お祓い師「チッ……」

狐神「怒るでない。その点についてはわしも人のことを言えんからのう……」

お祓い師「……力を取り戻せている感覚はないのか」

狐神「初めて会った時よりは幾分かマシじゃが、それでも力を使うとすぐにに意識が薄くなっていってしまう」

お祓い師「……あまり無理はするなよ」

狐神「わかっておる」

狐神「…………」

狐神「……ぬしよ」

お祓い師「あ?」

狐神「物の怪が近づいてきておるぞ」

お祓い師「なに……!」

お祓い師「……いつの間に。一体こいつは……」

狐神「天邪鬼、じゃな。人の心を読むことが出来る妖怪の一種じゃ」

お祓い師「あの修道女と同じだと……!?」

狐神「いや、こやつら自身の知能は低く、“覚”のような強力な力の持ち主でもあらん」

狐神「せいぜい、心を読んだ人間の口真似をしたりする程度じゃと聞いておる」

狐神「適当に追い払ってこの場を抜けてしまうのがよいじゃろう」

お祓い師「……わかった」

お祓い師『──滅却』

天邪鬼「……ッ!?」

お祓い師「消し炭になりたくなかったら早く失せな」

天邪鬼「…………」

お祓い師「…………」

お祓い師「……行ったか」

狐神「やはりおぬしはあまいのう……」

お祓い師「別に危害を加えられてないから、わざわざ祓う必要もないだろ」

狐神「じゃがわざわざわしらの元へ来たということは、何らかの悪意があったと考えるのが妥当じゃろう」

狐神「命を救われた身として言うのもなんじゃが、おぬし自身の足をすくうような事にならねば良いのじゃがな……」

お祓い師「……肝に銘じておく」

狐神「うむ」

狐神「……して、今わしらはどこへ向けて馬を進めておるのじゃ」

狐神「まさかお父上がいるという場所は直接行けるほど近くはないのじゃろう?」

お祓い師「ああ、途中で一つ町を経由していく」

お祓い師「今向かっている所はそれなりに大きな退魔師協会の支部があるらしい」

狐神「退魔師協会の支部、というといつもわしらが役所でお世話になっておる窓口のことかの」

お祓い師「ああそうだ。あの窓口は正確には役所がやっている公的機関じゃなくて、国と協会が提携して運営している場所なんだ」

狐神「ふむ、なぜそんなことを」

お祓い師「お祓い師……、一般的に言う退魔師は個人個人が強い力を持っている」

お祓い師「それが組織化され集団になるということは、ある意味軍事力を持つことと同じだ」

お祓い師「国からすれば自国軍以外に大きな力を持つ集団を野放しにするのは得策じゃないからな」

お祓い師「提携という名の牽制をしているわけだ」

狐神「ふむふむ、なるほどのう」

狐神「ではさきの街で対峙した聖騎士団というのはどうなるのじゃ。あれも国の正規軍ではないのじゃろう?」

お祓い師「ああ、あいつらは例外だ」

狐神「例外、とな」

お祓い師「俺たち協会が牽制されている一方で、あいつら教会は国と癒着をしている」

お祓い師「国をまたがって信仰されている教会の力は非常に大きなものだ」

お祓い師「国としてはその権力にあやかりたいし、教会としても自分たちの活動をより自由にするには国の協力が不可欠だ」

狐神「互いに利用しあっている、ということかの」

お祓い師「ああ」

狐神「なるほどのう……。いろいろあるんじゃな」

お祓い師「ま、平和に過ごしたらなるべく関わらないほうがいいのは間違いないがな」

狐神「ふむ……。ちなみに目的の町はいつごろ着く予定なんじゃ」

お祓い師「あー、最短進路を選んで進んでいるから、まあ日が落ちるまでには着くと思うんだが」

お祓い師「先に見える双子の山の横を通り過ぎるような感じで進むつもりだ」

狐神「順調にいけば今日中に着く、ということじゃな」

お祓い師「なにか問題に遭遇する前提で話すかよ」

狐神「……いや」

狐神「“まさに問題に遭遇しそうじゃぞ”」

ここまでです。
《天狗》編が始まりました。

>>498
平和に過ごしたら→平和に過ごしたいなら

お祓い師「なに……!?」

狐神「物の怪が近づいてきておる……!天邪鬼のような雑魚ではないぞ……!」

お祓い師「クソッ!どこから来る……!」

狐神「……これは……!」

狐神「上じゃ!!」


???「────貴様ら、何用でこの山に来たのか」






お祓い師「狐神っ!着いて来てるか!?」

狐神「わしは平気じゃ!それよりも馬車は乗り捨ててきて良かったのかの!?」

お祓い師「この場合どうしようもないだろう!あいつはヤバイ!」

お祓い師「感じる力が今まであってきた奴らとは段違いだ……!」

お祓い師(おそらく辻斬りや聖騎士長よりもずっと強い……!)

お祓い師(冗談じゃねえぞ……!もしかしたら勝てるかも、とかそんなレベルじゃねえ……!)

???「──逃がすと思うか」

お祓い師「……!」

お祓い師(……一瞬で回りこまれた……!)

狐神「……こやつ。天狗、じゃな」

???→赤顔の天狗「いかにも。儂はこの山の長、天狗である」

お祓い師「天狗、だと……」

お祓い師(確かあの受付嬢が『A1級の天狗の依頼が』とか言っていたがまさか……)

お祓い師「……何故俺たちを狙う」

赤顔の天狗「決まっているではないか。儂はこの山の長。下僕あり同胞である天邪鬼の仇討である」

お祓い師「嘘だな」

赤顔の天狗「……ふむ。なぜそう思う」

お祓い師「俺たちが天邪鬼を追い払ったのはついさっきだ。来るのがあまりに早すぎる」

お祓い師「それに、お前がこの辺りで暴れているという情報は少し前から街にも入ってきていた」

赤顔の天狗「……ふむ、儂の名も街まで轟くようになったか」

赤顔の天狗「その通りである。元より天邪鬼のような弱小者共に興味はない」

赤顔の天狗「儂は、このような危険な山道をわざわざ選んで来る愚か者どもと力比べをしたいに過ぎぬ」

お祓い師(時間短縮のことばっかりを考えて近道を選んだのが失敗だったか……)

赤顔の天狗「さあ力比べをしようぞ愚かな人間よ」

赤顔の天狗「なに、時間は取らせぬ」

赤顔の天狗「──すぐに終わらせてやろう」

お祓い師「くっ……!」

お祓い師『滅却!!』

赤顔の天狗「ムゥッ……!」

お祓い師(よし、直撃だ……!)

狐神「おぬしよ、よく見るのじゃ!」

赤顔の天狗「…………」

赤顔の天狗「……効かんぞ」

お祓い師「ば、かな……」

赤顔の天狗「……ではこちらも行かせてもらうぞ」

お祓い師「……!」

お祓い師「狐神!麓の方へ逃げるぞ!」

狐神「う、うむ!」

赤顔の天狗「逃さぬ……!」

赤顔の天狗「ムゥンッ!」

お祓い師「がはっ……!」

お祓い師(突風、か……!?)

狐神「あれは『大天狗の扇子』……!?」

お祓い師「知っているのか……?」

狐神「うむ。あれは『大天狗の扇子』と呼ばれておっての、その名の通り大天狗の持つ扇子なのじゃが」

狐神「その一振りは嵐を起こし、その一帯を更地に変えてしまうという……」

狐神「皇国でも指折りの宗教の、とある経典にはこのように記されておるらしい」

狐神「──『大天狗とは即ち魔王のことである』、と……」

お祓い師「魔王、だと……?」

お祓い師「とんだバケモンじゃねえか……!そんなのどうやって──」

赤顔の天狗「──貴様らに呑気に話している暇はないぞ」

お祓い師「……!!」

お祓い師『滅却……!』

赤顔の天狗「くははっ、効かぬわ!」

お祓い師(クソッ!避けすらしない……!)

お祓い師(それだけ力の差が……!)

赤顔の天狗「いくぞォッ!!」

お祓い師「ぐああっ!」

狐神「っ……!!」

赤顔の天狗「くははっ、まだまだいくぞ!」

お祓い師「クソがっ!」

お祓い師(情けなさすぎる……!辻斬りにも敗れ、聖騎士長にも敗れ、またこうして負けようとしている……!)

お祓い師(相手が強すぎるとか、そんな言い訳以前に)

お祓い師「……俺が、弱すぎる……」

狐神「ぬしよ!弱音を吐いている場合ではないぞ!」

お祓い師「そんなことは分かっている……!だが……!」

お祓い師(あまりに実力がかけ離れている……。あいつからすれば俺たちは赤子のようなものだ……)

赤顔の天狗「どうした、もう諦めたか。つまらない奴め」

お祓い師「……別にお前を楽しませようって気はねえよ!」

お祓い師『滅却!!』

赤顔の天狗「ぬるいわッ!」

お祓い師「な……、扇子の一扇ぎで……」

狐神「かき消しおった……」

赤顔の天狗「ふ、ふはは……」

赤顔の天狗「ふはははは! 弱い! 弱いぞ人間よ!! まるで儂の相手になっておらん!!」

赤顔の天狗「もうよい飽きたわ! 終わらせてやろう!!」

赤顔の天狗「死ねえッ!」

狐神「──おぬしよ、こっちじゃ!!」

お祓い師「やっとか……!」

狐神「“飛び降りるのじゃっ!”」

お祓い師「またそれかよ……! って、うおわああああっ!?」

赤顔の天狗「…………」

赤顔の天狗「崖から飛び降りおった……」

赤顔の天狗「……ふむなるほど、下は川か」

赤顔の天狗「儂を撒くとは面白い」

赤顔の天狗「だがこの山で逃げきれると思わぬことだな、人間」

ここまで。






お祓い師「ぶはぁっ……!」

お祓い師「はあ……はあ……」

お祓い師「狐神は、平気か……?」

狐神「なんとか、のう……」

狐神「この通り、きゃすけっと帽も無事じゃ」

お祓い師「その調子なら平気そうだな」

お祓い師(だいぶ下流に流されたか……)

お祓い師「もう日が沈む、下手に動くよりはどこかに身を潜めた方がいいだろうな」

狐神「はっ……」

お祓い師「は……?」

狐神「……くちゅん」

狐神「……風邪を引いたかも知れぬ」

お祓い師「まずいな……」

お祓い師「まあ確かに、もう寒くなってきてるからな……」

お祓い師「……お、丁度いい。取りあえずはあそこの洞窟の中に入ろうか」

狐神「……うむ」

狐神「……おぬし、何をしておるのじゃ?」

お祓い師「……見てわかんねえのか、薪集めだ」






狐神「……なるほどのう、こういう時おぬしの火を使う力は役に立つのう……」

お祓い師「……いいから黙って体調回復に専念しろ。見張りは俺がやるから」

狐神「……うむ、すまぬ……」

お祓い師「…………」

お祓い師(状況は最悪だ……。できればいち早く、こいつの力を使ってこの山を脱出したいところだが……)

お祓い師(いまのこいつじゃ十分に力が発揮されないだろうし、なんなら体調が悪化するだけだろう)

お祓い師(日が昇った時のこいつの体調次第で、この先どうするかを決めるしかないな)

お祓い師(もし再びあいつと交戦した場合のことだが、どうする……)

お祓い師(あの風の発生源は大天狗の扇子とやらで間違いないだろう。ならばあれを狙うか……?)

お祓い師(……いや、おそらく無理だろうな。風にかき消されるのがオチだ)

お祓い師(炎を目眩ましに逃げる以外ない、か……)

お祓い師「クソッ……、情けねえ……」

お祓い師「俺はお祓い師だ……。物の怪を前にして逃げてどうすんだよ……」

お祓い師「俺ならどうにか出来るはずだ……」

お祓い師「出来るはずなんだ……!」

お祓い師?『──なぜなら俺は、“あの伝説的な退魔師の息子なのだから”』

お祓い師「…………」

お祓い師「……うるせえ」

お祓い師?『“あの人の息子ならば”出来て当然だ』

お祓い師?『“あの人の息子ならば”もっと力を出せるはずだ』

お祓い師?『“あの人の息子ならば”──』

お祓い師「──うるせえ!!」

お祓い師?『…………』

お祓い師「うるせえぞ……!」






お祓い師「…………」

お祓い師「……いつまでいるつもりだ」

お祓い師「もう夜が明け始めたぞ」

お祓い師?『俺は負の感情に引き寄せられる』

お祓い師?『その感情が強く黒々しいほど俺を惹きつけて離さない』

お祓い師「……別に俺は気にしていない。とうの昔に割り切っている」

お祓い師?『嘘だな』

お祓い師?『俺はお前だからよく分かっている』

お祓い師「嘘をつくな……!俺は俺だ……!お前に俺のことなどわかるものか……!」

お祓い師?『いいや、俺はお前だよ。“そういう”物の怪だからな』

お祓い師「違う……!俺はそんなことを思っちゃいない……!」

お祓い師?『そんなこと、とは』

お祓い師?『……お前が、実は親父のことを尊敬なんか、全くしていないってことか?』

お祓い師「……!」

お祓い師?『いや、この言い方だと語弊があるか……。正しく言うならそうだな……』

お祓い師?『嫉妬、そう劣等感を抱いている』

お祓い師「黙れ!」

お祓い師『滅却!!!』

お祓い師?『……ムキになるなよ。それは肯定しているようなものだろうが』

お祓い師「チッ……、待て……!」

お祓い師「……どこに行った……」

お祓い師?『ははっ、自分に素直になるところから始めたらどうだ』

お祓い師「いつの間に崖の上に……!」

お祓い師?『はははっ……』

お祓い師『滅却!!』

お祓い師(……直撃した……!これなら……!)

お祓い師?『──お前、いや俺はもう少し自分を理解する必要がある』

お祓い師「な……!?」

お祓い師(効いてないだと……!?そんな馬鹿な……!)

お祓い師?『もう会わないことを祈っておく。じゃあな』

お祓い師「ま、待て!」

お祓い師「……クソッ……!」

狐神「お、おぬしよ、どうしたのじゃ……?」

お祓い師「狐神……、お前はもう少し休んでいろ」

狐神「あれほど騒ぎ立てられては休まらんわ……!それに無闇に力を行使していては……!」

赤顔の天狗「────儂に気が付かれてしまうぞ?」

お祓い師「くっ……!?」

赤顔の天狗「儂から逃げきれるとでも思ったか」

お祓い師『滅却ッ……!』

赤顔の天狗「…………」

赤顔の天狗「……つまらん。つまらんなあ人間よ。そのような火の粉で魔の長たる儂が墜ちるとでも思ったか」

赤顔の天狗「貴様がその内に宿す力を扱えておれば、まだ少しは楽しめたであろうに」

赤顔の天狗「まあ、“手遅れであるようだから”今更言っても詮なきことか」

お祓い師(またそれか……!河童が狐神に、聖騎士長が俺に対して言った言葉……)

お祓い師「……おい、一つだけ聞かせろ」

お祓い師「その“手遅れ”というのは、一体どういう意味なんだ……」

赤顔の天狗「……なんだ、そんなことか」

赤顔の天狗「まあよい、冥土の土産に教えてやろう」

赤顔の天狗「儂や、貴様が扱う特殊な力。これはそう簡単に習得できるもではない」

赤顔の天狗「この力は、例えば魚が泳ぐように。また例えば鳥が飛ぶような、そんな技術を後付で覚えることに等しい」

赤顔の天狗「だからこそ、それ以上に新たな力を習得することは非常に難しい」

赤顔の天狗「魚の泳ぎを覚えた後に鳥の羽ばたきを覚えることは困難であるということだ」

赤顔の天狗「それ故に、複数の力を身に着けるということは先天的な才でもない限りまず無理だろう」

赤顔の天狗「道具などを使えば力の行使に関してはその限りではないが、やはりその身に力をいくつも宿すというのは難しい」

赤顔の天狗「これは貴様も、そして儂とて例外ではない」

お祓い師「…………」

赤顔の天狗「つまりは、だ。貴様がそのうちに宿している力、まあ生まれ持った強い力があるわけだが……」

赤顔の天狗「どういうつもりかは知らんが、貴様はそれを使うことを放棄し、別の力を修めることにしたようだ」

赤顔の天狗「貴様は既にその別の力を行使するための身体に、魂になってしまった」

赤顔の天狗「今更後悔したところで貴様の内に眠る力を発芽させることは出来ぬということだ」

お祓い師「…………」

お祓い師(そういう、ことか……)

赤顔の天狗「さて、儂の話は終わりである」

赤顔の天狗「そろそろ飽きを通り越して苛立っていたところだ。不可避の一撃を以って終わりとしよう」

お祓い師(いまの俺にはこいつに対抗しうる、一発逆転のための力は無いって事か……)

お祓い師「……ち、くしょう……!」

赤顔の天狗「……ム」

赤顔の天狗「……いや待て、そうだ。あの狐はどこだ。姿が見えぬ」

お祓い師(そ、そういえばあいつはどこに……)

赤顔の天狗「……ムゥッ!上かっ……!!」

狐神「チィッ、気づかれたか……!」

お祓い師(あいついつの間にあれほど崖を登って……!)

狐神「鈍ったとはいえ獣の爪じゃ!とくと喰らうがよい……!!」

お祓い師「ばかっ……!飛び降りやがった……!!」

赤顔の天狗「ムゥゥッ!!」

狐神「くぅっ……!」

お祓い師(……避けた……?)

お祓い師「……! 狐神、平気か!?」

狐神「げほげほっ……。あ、あまり平気とは言えんのう……」

お祓い師「なんであんな無茶なことを……!」

狐神「そ、そりゃあ、おぬしを助けるために決まっておろう……。不意打ちで当たってくれればと思ったのじゃが甘かったのう……」

赤顔の天狗「……ふ、ふははははっ! 捨て身の一撃も無駄だったようだなァ!」

赤顔の天狗「いい加減飽いたと言っているだろう! この大天狗の扇子で粉微塵にしてくれよう!!!」

お祓い師「……!!」

お祓い師(せめてこいつだけでも……!)

お祓い師(……いや、それじゃ意味がねえ……! 俺が死ねばこいつも死ぬ。いまの俺達はそういう関係だ……!)

赤顔の天狗「死ねェ!」

お祓い師(どう、すれば……!)

赤顔の天狗「────ガハッ!?」

お祓い師「な……!」

お祓い師(……一体何が起きた……? 天狗が。落ちた……!?)

赤顔の天狗「な、何奴……! グフッ……!」

お祓い師「……銃声だ……!」

お祓い師(だがそうだとしたら、なぜこいつはこんなにダメージをくらっている……! 俺の炎をくらって平然としているような奴が……)

狐神「おぬしよ! 色々と考えたいことがあるのはわかるが、今の機会を逃してはならぬ……!」

狐神「一旦またどこかに身を潜めたほうがよい……! まだ天狗は余力を残しておる!」

狐神「仕留められる確証がない今は逃げるほか手立てはないのじゃ……!」

お祓い師「あ、ああ……! 狐神は走れるか!?」

狐神「げほげほっ……! か、肩を貸してくれると、助かるのじゃが……」

お祓い師「わかった、しっかり掴まれ……!」

赤顔の天狗「ぐぬぅっ……! 待たぬかァ……!」

ここまで。






お祓い師「はあはあ……、これ以上は、走れない……」

狐神「……げほげほっ……。……わしをそこの切り株に座らせてくれぬかのう」

お祓い師「……ああ任せろ」

狐神「ごほっ、……すまぬな」

お祓い師「体調は良くならないか」

狐神「……むしろいま走ったことで悪化したわい」

お祓い師「早期に決着をつけないとまずいな……」

狐神「……うむ……」

狐神「……確証はないのじゃが、わしの仮説を聞いてもらってもいいかの」

お祓い師「今のところ全く打開策がないから、どんな些細な事でも言ってくれ……」

狐神「……うむ、まずじゃが、天狗という物の怪についてじゃ」

狐神「……ごほごほっ……。天狗というのは実は大きな括りでのう、その由来は様々じゃと聞いておる」

狐神「中でもあやつのような人の形をした者は、元が高名な層、あるいは破戒僧じゃと言われておる」

お祓い師「破戒僧、か……」

狐神「うむ、道を外れた僧のことじゃな」

狐神「道に通ずるものからすれば、破戒僧とは思い上がりの化身のようなものじゃと聞く」

狐神「けほっ……、おぇっ……」

お祓い師「お、おい血が……!」

狐神「平気、じゃ……」

狐神「……で、皇国にはこんな言い回しがあるのじゃが知っておるじゃろうか」

狐神「天狗になる、というものなんじゃが……。これは得意になって態度が横柄になるさまを言うものでな……」

狐神「まるで天狗のように鼻高々になっている人間をさして使う言葉じゃな」

お祓い師「それが今の状況を打破する鍵になるのか……?」

狐神「ごほごほっ……。まあ落ち着いて聞くのじゃ……」

狐神「わしが思うにあやつはこの山全体に結界を張っておる」

お祓い師「結界、か……」

狐神「うむ」

狐神「結界とはその仕組みが単純であればあるほど威力を増す事が多い。複雑な結界を単純化するのが術者の目標じゃろう?」

お祓い師「ああ、その通りだ」

狐神「そしてその仕組み、言い換えるならば結界の発動条件。それとの相性が術者と合えば会うほど威力は絶大なものとなる」

狐神「のう、思い出してみよ。わしが崖の上から捨て身の一撃を放った時、あやつはわざわざわしの攻撃を避けおった」

狐神「こほっ……、おかしいと思わぬか。おぬしの炎を避けすらしなかったあやつが、わしのような老いた獣の爪を恐れるというのか」

狐神「そして先程の銃声じゃ。音からしてあれはおそらく崖の上からのものじゃ。鉛球ごときがあやつを地に落とすほどの力を持っていると思うか」

お祓い師「……それは俺も変だと思っていた」

狐神「狐神この二つに共通することは、──“上からの攻撃”じゃということ」

狐神「あくまで予想に過ぎぬが、おそらくあやつの張っている結界は『上からの攻撃が強化される』というものじゃ」

狐神「条件としても単純じゃし、思い上がって人を見下しおっておる天狗には術の相性もよかろう」

お祓い師「……なるほどな。おそらくだがその予想は正しい」

お祓い師「さっき俺の姿に化けて現れた物の怪、まあ昨日の天邪鬼だと思うんだが」

お祓い師「感じる力は弱いくせに俺の術をモロに食らっても平気そうな顔をしていた」

お祓い師「いま思えばあいつ、崖の上に登っていた。俺を遥かに見下す位置にいたってわけだ」

狐神「けほっ……、なるほどのう。ということは、わしの予想に賭けても良さそうかの」

お祓い師「ああ、どのみちそうするしかない」

狐神「……して、おぬしよ。あの天邪鬼に大層心乱されておったようじゃが、何を言われたのじゃ」

お祓い師「……なんでもねえよ」

狐神「……天邪鬼は自分の写し鏡じゃ。あやつらは嘘はつかぬ。それだけは覚えておくと良い」

お祓い師「……はあ、わかったわかった……」

お祓い師「今の状況を片付けたら話してやるよ」

狐神「ごほっ……。うむ、わかった。……では行くかの」

お祓い師「……ああ、辛いだろが頑張ってくれ」

お祓い師「登るぞ」






狐神「けほっ……」

狐神「ごほっごほっ……。はあ……」

狐神「……やっと来たか、の」

赤顔の天狗「……貴様一匹か」

狐神「うむそうじゃ。随分と時間がかかったのう」

赤顔の天狗「……ふん。あのお祓い師の人間はどうした」

狐神「さての、気がついたらはぐれておったわい」

赤顔の天狗「……嘘をつくならばもう少し上手くつくことだ」

狐神「…………」

赤顔の天狗「結界の仕組みに気がつくとはあっぱれ。だがその陳腐な足掻きも儂には通用せん」

赤顔の天狗「狐一匹と油断した儂に、儂よりも高い場所からの一撃を加えるという算段であったのだろうが……」

赤顔の天狗「そこの山の頂に隠れているのだろう人間!! そこに立てば儂よりも上になれると思ったか!」

赤顔の天狗「儂は飛べるのだぞ、このようにな!!!」

赤顔の天狗「さあ姿を……! ……ムゥ?」

赤顔の天狗「いない、だと……」

狐神「…………」

赤顔の天狗「……待て、山の頂に何か……。札、か……?」

赤顔の天狗「……くははっ、なるほど考えたな。儂が油断して降りようという時に遠隔式の術を作動させるつもりであったか」

赤顔の天狗「だが残念であったな!!儂は不用心にそれより下に降りるような真似はしない!!」

赤顔の天狗「儂はこの山の王!何ぴとたりとも儂より上に立つことはないのだ!!」

赤顔の天狗「さあ人間よ、どこに隠れているか知らぬがもうすべてを見破った!諦めるのだなあ!!ふははははっ!!!」

狐神「…………」

狐神「……さて……」






赤顔の天狗「────な、に……!?」

ここまで

>>315 >>316あたりを描いてみた・・・
ttp://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira106457.png

>>553
おお、ありがとうございます!

書き溜めはあるのですが書き込む時間が余り取れず、こんな時間になってしまいました。
不定期過ぎて申し訳ないです。






狐神「けほけほっ……、ここで種明かしとさせてもらおうかの」

狐神「あの遠隔作動のおふだは下方のおぬしを狙ったものではなく、上方のおぬしを狙ったものじゃ」

狐神「不意打ちで避けられなかったようじゃのお。てっきり上方向には攻撃が来まいと油断しておったな」

赤顔の天狗「……だ、だが何故上方の儂にこれ程の威力を……」

狐神「……あやつは別に、おぬしが不用心におふだに近づくことなど期待しておらんかったよ」

狐神「あやつはここが双子の山だったことを利用だけじゃ」

赤顔の天狗「ま、さか……」

狐神「ごほごほっ……。そうじゃ、あやつは向こうに見えるもう一つの山の頂におる」

狐神「双子とはいえども、向こうの山のほうが少々高いようじゃな」

狐神「おぬしがおふだの上方に飛び、かつ術を作動させる自分より下の位置に来るまでじっと待っていたというわけじゃ」

狐神「おそらくあやつは高さ稼ぎのために木の上にでも登って、望遠鏡を構えておぬしの到着を待っておったのじゃろうな」

狐神「げほげほっ……! ……まさか、このような状態のわしとあやつが別行動を取るとは思わなかったのじゃろう」

狐神「おかげでまんまと、血の匂いのするわしの方を追って来てくれたようじゃな」

赤顔の天狗「ヌゥゥッ、貴様ァ……!」

狐神「道具には頼らない主義じゃとぬかしておったが、さきの街での敗北が響いたようじゃな」

狐神「荷台に押しこんであったおふだを懐に忍ばせておったようじゃ」

狐神(やれやれ、お陰で助かったわい……。しかしわしも意識が限界が近いのう……。熱は下がるどころか上がっておるようじゃな……)

狐神(あとはこのように地に伏せて、あやつの合流を待つ他ない……)

赤顔の天狗「ヌゥゥゥゥッ……!」

狐神「なっ……!まだ立ち上がる余力が……!?」

赤顔の天狗「許せぬッ……! 儂はこの山の王であるぞ! 魔王と呼ばれた存在であるぞ!! これしきの事でやられるわけがなかろうッ!!!」

狐神「げほげほっ……!」

狐神(……まずい、とてもではないが今のわしに逃げる余力はない……」

狐神(あやつ……、お祓い師も向こうの山からこちらに来るまでは時間がかかる……。このままでは……)

赤顔の天狗「まずは目障りな狐よ、貴様からだ!!」

赤顔の天狗「嬲り殺してくれよう!!」

狐神「……!!」

赤顔の天狗?『まあ、落ち着くがよい儂よ』

赤顔の天狗「……!」

狐神(天狗がもう一体……、いやあれは天邪鬼じゃな……)

赤顔の天狗「……下等な物の怪よ、何をしに来た。いま貴様にかまっている暇はない……!」

赤顔の天狗?『愚問であるな。“儂は負の感情に引き寄せられる”。それだけだ』

赤顔の天狗「何ィ……」

赤顔の天狗?『貴様は、儂は認めてしまったのだ。長たる天狗が下等な人間と老いた獣に敗れてしまったことを』

赤顔の天狗?『貴様の心が認めているからこそ、儂はこの姿で貴様の前に現れたのだ』

赤顔の天狗「馬鹿な! 儂はまだまだ余力を残しておるのだぞ……! 塵二つを掃除することなど容易い……」

赤顔の天狗?『気持ちの問題だと言っておる』

赤顔の天狗?『いま貴様は再認識しているはずであろう。────自分が“所詮紛い物であることを”』

狐神(紛い物……、じゃと……?)

赤顔の天狗「黙れェ! 儂はこの山の長であるぞ!! 紛い物ではなく、それは真実だ!!」

赤顔の天狗?『ウム、まあそれはあっておる。だが、所詮はお山の大将。儂も貴様も本物には遠く及ばぬ』

赤顔の天狗?『そうであろう? “大天狗の扇子を拾い、思い上がった僧”よ』

赤顔の天狗「グヌゥゥゥゥ……!」

赤顔の天狗?『貴様のことはなんでも知っておる。なぜならは儂は貴様だからな』

赤顔の天狗?『その本物への劣等感と、弱者に負けたことへの憤りが、儂という姿を形作ったのだ』

赤顔の天狗?『否定はできぬはずだ。儂が一番良く知っておる』

赤顔の天狗「弱小物の怪程度が……! 知ったような口をォ……!!」

赤顔の天狗?『…………』

赤顔の天狗?『……ウム』

赤顔の天狗「……な、んだと……」

狐神「……じゅ、銃声……」






狐神(何が起きておる……。もう目の前も霞んでよく見えぬ)

狐神(天狗が血を流しておる……。いや、天邪鬼も同様じゃ……。……もしや撃たれたのか……)

狐神(……天狗がそれでもヨロヨロと逃げて行く……。ひとまずは助かったということかの……)

狐神(……天邪鬼は……、倒れて動かぬか……。当然じゃな。本質としてはか弱い物の怪じゃ……)

狐神「……げほっ……。……のうぬしよ」

狐神?『……わしか?』

狐神「……貴様はなにゆえ生きてきたのじゃ。負の感情を持つものに近づき、それを真似て、最後にはその有様じゃ……」

狐神「一体それに何の意味があったというのじゃ……」

狐神?『……ふん、この行動に意味があったのではない』

狐神?『これがわしという存在なのじゃ』

狐神「……ごほっ……」

狐神「それだけなのかの……」

狐神?『……それだけじゃ』

狐神?『……生きること自体に意味などあらん。……大事なことといえば、何のために生きるか、じゃ』

狐神?『……その中身などそれぞれ違い、その価値は他からはわからぬ』

狐神?『……そこに説明できるような意味を求めることが愚かじゃ』

狐神?『……のう、わしよ?』

狐神?『…………』

狐神「…………」

狐神「……わからぬ、そんなこと言われてもわからぬ……」

狐神「……価値もわからぬもののために死ぬ、それに何の意味があるのじゃ……」

狐神「……わからぬ、わしにはわからぬ……」

狐神「…………」






???「……フン」

お祓い師「……はあ、はあ……。お、おい待て……!」

???「…………」

お祓い師「そいつに何をした……! まさかその猟銃で撃ったのか……!」

???「…………」

お祓い師「だとした俺はお前を……!」

???「……フン、落ち着け若造が」

???「オメェの言う“そいつ”ってのは、ここで倒れてる嬢ちゃんのことだろ」

???「俺が撃ったのはその横の……、さっきは天狗の姿をしていたんだが……。……マァ、とにかくそいつの方だ」

???「……もう一体の天狗は、頑丈な野郎で逃がしてしまったがな……」

お祓い師(横で倒れてるのは天邪鬼か……。出会った時の姿だが、既に死んでいるのか……)

お祓い師「……河原で助けてくれたのもあんたか」

???「……フン、覚えてねェな」

お祓い師「……お礼は言わせくれ。ありがとう……ございます」

???「……礼なんざ言ってる暇あったら、まずはその嬢ちゃんをなんとかしねェといかんだろ」

お祓い師「そ、そうだ……! ひとまず馬車のところまでおぶって行かねえと……!」

???→マタギの老人「……一応名乗っておくか、若造。俺はマタギをやっているモンだ」

マタギの老人「オメエはその嬢ちゃんを運ぶことに専念しろ。周りの警戒は俺がしちゃる」

ここまで
《天狗》編は次回で終わります。






お祓い師「……う、馬が……」

お祓い師(殺されている……)

お祓い師(……クソッ、天狗にやられてたのか……! 俺たちがこの山から逃げ出せないように周到に……)

お祓い師「……ご老人、ここから一番近い人里はどこか教えてくれないか……!」

マタギの老人「……俺が住んでいる町がちけえが……。マァ、歩いて半日といったところだ」

お祓い師(半日……。狐神をおぶって行けば更に時間はかかるだろう……)

狐神「はあ……はあ……」

お祓い師(だがこいつの様態はそんな悠長なことを言ってられるような状況には見えねえ……)

お祓い師(なんなら運ぶ時も、なるべく馬車に寝かせてやりたいところだ)

お祓い師「クソッ……、どうすれば……」

若い道具師「……おーい! じいさーん!! どこですかー!!」

お祓い師「……あ、あれは?」

マタギの老人「……フン、おせっかい焼きが来たな」

若い道具師「……あ、いた! 勝手に出て行かないでくださいとあれほど!」

マタギの老人「……フン、新しい弾をテメエで試さねえでどうするってんだよ」

若い道具師「ですからそれはまだ試作品で……!」

若い道具師「そもそも勝手に持ち出さないでくださいよ!」

マタギの老人「……まだまだ威力不足だな。天狗を仕留めるには至らなかった」

若い道具師「天狗なんかに挑まないでくださいよあぶないなあ!」

マタギの老人「マア、辛うじて人助けはできたがな」

お祓い師「…………」

若い道具師「……えっと、それででそちらの方は……」

お祓い師「……おい、緊急だから頼みを聞いてもらっていいか」

若い道具師「え、は、はあ……」

お祓い師「お前の乗ってきた馬、今すぐ貸してくれ……!」

若い道具師「馬、ですか?」

若い道具師「って、そちらの方大丈夫なんですか!? かなり辛そうですけれども……」

お祓い師「こいつを荷台に乗せて町まで運びたいんだが、俺の馬はやられちまったんだ」

若い道具師「……なるほど、そういうことでしたか……」

若い道具師「もちろん、協力させてください。急いだほうが良いでしょう?」

お祓い師「あ、ああ! 助かる!」

お祓い師「おっと名乗り忘れていたな。俺はお祓い師やっている者だ」

若い道具師「あ、自分は道具師です」

お祓い師「恩に着るぜ、道具師」

若い道具師「いえいえ。では急ぎましょうか」






赤顔の天狗「ガハッ……!」

赤顔の天狗「……グヌゥゥゥ、弱小種族共が……!」

赤顔の天狗「……許さん……!」

赤顔の天狗「……傷が治り次第血祭りにあげてくれよう……!」

赤顔の天狗(この大天狗の扇子を以って正面からやりあえば負ける通りは無い……)

赤顔の天狗「そう、変に小細工に頼ったからこのような馬鹿げたことになってしまったのだ……」

???「────あら、自覚あるじゃないの。ふざけた小細工だってこと」

赤顔の天狗「……! 何奴……!」

???「まあまあ、私が何者かなんてどうだっていいじゃない」

???「わたしはただ、それを返して貰いに来ただけよ」

赤顔の天狗「……なんのことだ……」

???「何って、一つしかないじゃない。その手に大事そうに持っている扇子のことよ」

赤顔の天狗「……返すも何も、これは儂の物であるぞ!」

赤顔の天狗「ハァッ!!」

赤顔の天狗「……何者かは知らんが愚か者め……」

???「……あらあら、乱暴ね」

???「まあ、そんな攻撃当たるわけないのだけど」

赤顔の天狗「なっ……!?」

???「痛い目見ない内にそれを返しなさいな」

???「まあ正確には私のものでもないんだけれど。代理で受けて取りに来たということで」

???「“元の持ち主”が困っているのよ。『確か百年前までは持っていた気がする……』とか言っていたけれども、ボケるにはまだ早いわよねえ」

赤顔の天狗「元の、持ち主、だと……?」

???「うん、そうよ。大天狗のおっさんが探してきてくれって」

赤顔の天狗「……!!」

???「本来なら絶対断るけど、まああいつ部下を抱えて忙しいし、それに借りがないわけじゃないし」

???「と、いうわけで。返してちょーだい?」

赤顔の天狗「わ、渡すものか……! これだけは渡すものか……!!」

赤顔の天狗「一日に二度も“狐”に邪魔されるとはなァ……! 未来永劫呪ってやろう……!!」

赤顔の天狗「──死ねェッ!!!!」

???「…………そんなに死にたいならどうぞ」






赤顔の天狗「……が、あ……」

赤顔の天狗「貴様……まさか……」

???「…………」

赤顔の天狗「……ぐ……通りで、手も足も……」

赤顔の天狗「…………」

???「……大天狗の至宝を拾い思い上がった人間よ」

???「お前は高僧であり、また破戒僧でもあった」

???「一つの道を極めた後に、更に別の高みを求めたか」

???「だがそれは道を外れることとは似て非なるもの」

???「……本当に天狗としての高みを目指したのならなぜこのような小細工を?」

???「お前は怖かったんでしょう。いつか本物がこの扇子を取り返しに来るのではないかと」

???「だから百年もかけて、こうもくだらない小細工の準備して待ち構えていたんでしょうね」

???「本当にお山の大将という言葉がよく似合う愚かな人間……」

???「見栄をはらねば、あの子達に敗れることはなかったでしょうに」

???「ここでこんな風に死ぬことも無かったでしょうに」

???「……さて。私の“愛する子”も無事に山を出られたようだし、私も帰ろうかしら」

《現状のランク》

A1 赤顔の天狗
A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長

B1 狼男
B2 お祓い師
B3

C1 
C2 マタギの老人
C3 河童

D1 若い道具師
D2 狐神
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼

《天狗》編は終わりです。
格上に勝ったのは初めてですね。天狗の自爆みたいなところはありますけれども。

さて、次は《雨女》編です。よろしくお願いします。

待ってる

>>587
行かせていただきます

別SSを作っていたため、連休でありながら滞ってしまいました。すいませんでした。
《雨女》編、始めます。



《雨女》


お祓い師「様態はどうなんだ……。いや、どうです、か……」

やせ細った医者「ははっ、敬語に慣れていないのかい」

お祓い師「いや、まあ。ずっと使ってこなかったもんで。最近使おうと心がけてはいるんだが……」

やせ細った医者「うん、まあ少しづつ使っていけばいいんじゃないかな」

やせ細った医者「で、病気のことだけど」

やせ細った医者「……うん、流行り病だねこれは」

お祓い師「……それは難病なんですか」

やせ細った医者「難病ってほどではないよ。喀血したり、見た目は酷そうだけど命にかかわるほどのものではない」

やせ細った医者「まあ西のお国からの医療技術の伝来のお陰だね。薬を飲ませていれば平気だろう」

お祓い師「……ありがとうございます……」

やせ細った医者「うん、これが自分の仕事だからね」

やせ細った医者「また日をおいて来るよ。じゃ」

お祓い師「では」

狐神「……医者は行ったのかの」

お祓い師「起きてたのか」

狐神「けほっ……、今しがた起きたばかりじゃ」

お祓い師「無理しないで寝ておけよ」

狐神「山にいた時よりはいくらかマシじゃ」

狐神「じゃがそれでも身体を起こすの億劫なほどであるのには変わりないわい……」

お祓い師「医者がちゃんと薬を朝晩飲めば治るって言ってたからな。飯の後に忘れないように」

狐神「うむ……」

お祓い師「……あ?どうした?」

狐神「……いや、別に、なんともないぞ……」

お祓い師「……もしかして、薬が嫌なのか?」

狐神「ま、まさかのう……」

お祓い師「……ほーう、まさかなあ……」

狐神「ぐぬぬ……」

お祓い師「苦いのは苦手なのか」

狐神「そうじゃ!悪いかのう!?」

お祓い師「いやあ、別に。狐神サマにも苦手なものがあるんだなあと思ってな」

狐神「おぬし、そのにやけ面をやめぬか……!」

お祓い師「ん、さてなんのことだか」

狐神「けほっ……、おぬし……」

お祓い師「……まあなんだ。ちょっとは元気が戻ったみたいでよかった」

お祓い師「俺は仕事探しに行ってくるから、その間は安静にしててくれよ」

狐神「うむ……」

お祓い師「じゃ、また後でな」






お祓い師(ここがこの町の退魔師協会支部……)

お祓い師「でかいな……」

若い道具師「でしょう?あんまり規模が大きいもんですから、役所と建物が別になっているんですよ」

お祓い師「お前は……」

若い道具師「どうも、昨日ぶりですね」

お祓い師「……ああ。馬を貸してくれてありがとう。本当に助かった」

若い道具師「いえいえ。自分もマタギのじいさんを連れ戻すのに馬車を使わせてもらえて助かりましたから」

若い道具師「それで、あのお連れの方は大丈夫だったんですか」

お祓い師「ああ、流行り病らしいが治せないものでもないらしい」

お祓い師「今は宿で安静にさせている」

若い道具師「そうですか。いやあ、よかったよかった」

若い道具師「で、今日はこちらの支部に御用で?」

お祓い師「ああ、医療費ってのはバカにならないものだからな。ちょいと小金を稼いでおかないと先が心配になる」

お祓い師「そういうお前はどんな用で来てるんだ」

若い道具師「いやあ、実は自分も協会の一員でしてね」

若い道具師「道具を作っているだけじゃ生計がどうにも成り立たなくて、簡単な依頼を受け持って食いつないでいるんですよ」

お祓い師「お互い大変だな……」

若い道具師「ですねえ……」

若い道具師「まあここで立ち話というのもなんですから、とりあえず中に入りましょうよ」

お祓い師「だな。雨も降ってきたしな」

若い道具師「最近多いんですよね、雨……」

若い道具師「あ、どーもー」

蛇眼の受付嬢「あら道具師さん、こんにちは」

お祓い師「な……」

蛇眼の受付嬢「ふふっ、驚きましたか?」

お祓い師「あ、ああ……。来た時から人外に寛容な町だとは思っていたが、ここまでとは……」

お祓い師(退魔師協会の受付を人外がやっているとは……)

若い道具師「僕も最初は少しだけ驚きましたよ。いや、皇国の文化は独特だと聞いていましたがこれほどとは、ってね」

お祓い師「……そういえばお前のその黒い肌、南諸島連合国の出身だよな」

若い道具師「ええ、ちょっとした技術を学びに皇国に移り住んできたんです」

お祓い師「ちょっとした技術……?」

若い道具師「いやあ、南諸島連合国も皇国と同じく変わった文化を持っていることはご存知だと思うんですけれども」

若い道具師「中でも偶像崇拝については取り分け奨励されていましてね」

若い道具師「信仰する神をかたどった木彫のアクセサリーを必ず身に付けるぐらいには浸透しています」

若い道具師「実際にあんな簡単なものにも、ほんの少しですが加護の力が宿ったりするものなんですよ」

若い道具師「そこに僕は目をつけましてね。いや、僕以外にもそこに着目した人は沢山いるんですけれども……」

若い道具師「これを利用して一般人にも使えるような退魔道具が作れないかって」

お祓い師「なるほどな」

若い道具師「退魔道具自体は南諸島連合国にもありましたけど、結局は専門家が使うもので」

若い道具師「僕はもっとこう……、普通の人でも簡単に扱えるような護身用の道具を作りたくって」

若い道具師「力っていうのは、やっぱり先天的な部分が大きくって」

お祓い師「…………」

若い道具師「そういうものを前に為す術もなくやられてしまう、罪のない人たちの役に立てればなあ、って」

若い道具師「それで色々と文献とかを参考にしながら研究してたんだけど、どうにも上手くいかなくて」

若い道具師「そんな中ある時、興味深い文献を入手したんです」

若い道具師「まあ予想はついているでしょうけど、皇国に関する文献でしてね」

若い道具師「神々と人々が契約を交わすという『式神』という文化。これは契約した土着神の加護を受けるという我々の発想に似たものでした」

若い道具師「この点に関しては退魔師や魔女において浸透しているという『使い魔』との類似点も見られますが……」

お祓い師(式神と使い魔、か……)

若い道具師「他にも『付喪神』という物に霊が宿るという考え方。物を介して行うという呪術、妖刀などの力を宿した武器……」

若い道具師「とまあ非常に興味が惹かれることが多くありまして、ある日決意して皇国に移り住むことにしたんです」

お祓い師「まあ確かに、ここ皇国のその辺の文化は他から見れば異質な事が多いよな」

若い道具師「そういうあなたも皇国の人間ではないですよね。顔立ちからして、王国か、帝国か……」

お祓い師「ああ、俺は王国の出身だ」

若い道具師「あなたも何か理由があって皇国に?」

お祓い師「……まあ自己鍛錬を兼ねた人探し、ってところか」

お祓い師(先日の天邪鬼の言葉が引っかかって、親父を探そうって気がどうも削がれちまってるけどな……)

若い道具師「そうでしたか。見つかるといいですね、その方」

お祓い師「……ああ、そうだな」

お祓い師「お前の方はどうなんだ、成果は」

若い道具師「成果、と言うと……」

お祓い師「その道具の開発とやらだよ。皇国に来てなにか得られたことはあるのか」

若い道具師「いやあ、お恥ずかしながら。まだまだ実用的と言えるものは……」

マタギの老人「……フン、そう思うならとっとと弾の改良をせんかい」

お祓い師「あ……」

若い道具師「いやあ、じいさん。僕も頑張ってはいますからね!」

若い道具師「頼みますから試作品を勝手に持ちだしては物の怪退治に出向くのはやめてくださいよ!」

お祓い師「試作品、っていうのは……」

若い道具師「マタギのおじいさんに協力してもらって開発している、対魔の力が込められた弾丸です」

若い道具師「特徴としては、銃自体が特殊なものでなくても使える、ということです」

若い道具師「まだまだ威力不足が否めないんですけれども……」

お祓い師「はあ、なるほどな……」

お祓い師(一般人にも使いこなせる対魔道具か……)

お祓い師(例えば護身ためのおふだとか、そういった類のものは昔からあるが……)

お祓い師(退魔師に取って代われるような道具の開発とは思いつきもしなかったな。なかなか興味深い……)

若い道具師「……で、じいさん。なんで今日も支部にいるんですか……!」

マタギの老人「…………」

蛇眼の受付嬢「え、えーっと。ついさっきこちらの窓口で新しい仕事の契約をしちゃったんですが……」

若い道具師「あーもう! たですか! 手に試作品を持ちだして依頼を受けるのだけはやめてくださいとなんども……!」

若い道具師「ちゃんと前持って言っていただかないと! 僕にも準備ってものがあるんですからね!」

マタギの老人「……別について来なくていい」

若い道具師「そうはいきませんよ! この目で実際に使われているところを見ないと改良のしようがないじゃないですか」

若い道具師「いいですか、今から工房に戻って身支度しますから勝手にいかないでくださいよ」

若い道具師「他にも試してもらいたい弾がありますから」

マタギの老人「フン……、一々面倒な奴よ」

若い道具師「……ええと、じゃあまた会いましょう。表通りの一角で工房を構えてますので良かったら来てみてくださいね」

お祓い師「ああ、頑張れよ」

若い道具師「ええ、では」

蛇眼の受付嬢「気をつけていってらしゃーい」

お祓い師「……面白い奴らだな」

蛇眼の受付嬢「そうねー。あのおじいちゃんも気難しい人だけど、あの道具師の彼もちょっと変わりもですしねえ」

蛇眼の受付嬢「まあこの支部を中心に活動している退魔師さんは、みーんな変わり者ばっかりなんですけれどもね」

お祓い師「他にも専属で活動している退魔師がいるということになると、やはり規模の大きな支部だと再認識させられるな」

蛇眼の受付嬢「そうねー。まあさっきも話題に上がっていましたけれども、この町は人外の受け入れに寛容でね」

蛇眼の受付嬢「私たちにとってはいいことですけど、その反面人外による事件も増えるんですよね」

蛇眼の受付嬢「その対応のために必然的に大きくなった、って事でしょうね」

お祓い師「まあこの町の、そういった気質のおかげでちょっと助かったんだけどな」

蛇眼の受付嬢「と、言いますと?」

お祓い師「いや、俺の連れも人外でな。そいつが昨日から床に伏しちまったんだが」

お祓い師「まあ通常なら医者に見せるのも厳しいところだが、そのへんの心配をしなくて良かった事が本当に助かった」

蛇眼の受付嬢「なるほどそんな事情が……」

蛇眼の受付嬢「それで、お兄さんも依頼を探しに来たんでしょう?」

お祓い師「ああそうだ。いま言った通り連れの体調が良くないから、あまり遠くに行く必要があるような依頼は避けたいんだが……」

蛇眼の受付嬢「なるべく近場で、となると……」

蛇眼の受付嬢「ああ、ついさっきあの子に出しちゃったわね」

お祓い師「もう残っていない、ということか」

蛇眼の受付嬢「うーんそうですねー。ああ、じゃあこうしましょう」

蛇眼の受付嬢「ねーえ、ちょっと」

フードの侍「…………」

蛇眼の受付嬢「そう、あなたよ」

蛇眼の受付嬢「もし良かったらでいいんだけど、さっきの依頼このお祓い師さんとやってくれないかしら」

お祓い師「えっ、それは」

蛇眼の受付嬢「いま相方さんが倒れているんでしょ。いつもその代わり、とは言わないけれどもいて損はないと思うわ」

蛇眼の受付嬢「まあ報酬の関係で一人がいいなら無理には言わないわ」

お祓い師「いや、俺の方は問題ないが……」

フードの侍「…………」

フードの侍「(問題ない)」

お祓い師(……明らかに“作られた声”だ。喋れないのか、それとも別の理由が……?)

お祓い師(腰の剣……、いや刀か。いわゆる侍、って奴なんだろうな)

お祓い師(……フードを被っていて男か女かわからないが、随分と小柄だな。子供か?)

お祓い師(そして何よりこの感じ……。人間ではないな……)

お祓い師(顔を見せないことも含めて訳ありか……)

お祓い師「依頼の内容を聞かせてもらえるか」

蛇眼の受付嬢「はいよ。ええっとね、町に出るっている幽霊のことを調べて欲しいんだけど」

お祓い師「幽霊か……」

蛇眼の受付嬢「ええ、町の西のはずれのほうで時々目撃されているみたいで」

蛇眼の受付嬢「泣いている女の霊らしいんだけどね。実害は出てないみたいだけど霊は早く祓うことに越したことはないから……」

お祓い師「……わかった、その依頼を受けよう」

蛇眼の受付嬢「ですって、そっちもそれでいいんでしょ」

フードの侍「…………」

フードの侍「(大丈夫だ)」

お祓い師「よ、よろしく」

フードの侍「(よろしく)」

お祓い師(……ちょっと不安だ)

お祓い師「まあ、行くか」

お祓い師「って、ああ。本降りになってんじゃねえか……」

フードの侍「…………」

お祓い師「ん、ああ、傘があるのか。ありがとうな」

お祓い師「それじゃあ早速、幽霊の目撃情報があったって場所に行くか」

フードの侍「…………」

お祓い師「ん、ああ、そっちか」

フードの侍「…………」

お祓い師(やりにくい……!)

ここまで。
《雨女》編は短いです。






西はずれの町人「ああ、あの幽霊のことね」

お祓い師「ああ、なにか情報があれば聞かせてもらいたいんだが」

西はずれの町人「いいわよ。なんて言ったって私もこの目で見たからね」

お祓い師「そうか、それは助かる」

西はずれの町人「ええとね、あれは先月のことだったわ」

西はずれの町人「お買い物の帰りに、ちょうど今みたいに夕立が来てね。傘を持っていなかったもんだから小走りでいたんだけど」

西はずれの町人「むこうの路地の方からすすり泣きが聞こえるのよ」

西はずれの町人「なにかなー、って覗いてみたらもう驚き。向こう側が透けて見える女の人の姿があったわ」

西はずれの町人「怖くなっちゃってすぐに逃げちゃったから、それ以上は詳しく見れていないけど」

お祓い師「なるほど……」

西はずれの町人「幽霊っていうのは、未練に縛られて成仏できない魂だっていうけど、あの人もそうなのかしらねえ……」

お祓い師「未練、か……」

西はずれの町人「ごめんなさいね、あんまりお力になれなくて」

お祓い師「いや、十分役立つ情報だった。……ありがとう、ございます」

西はずれの町人「お祓い師さんのお役に立てらなら良かったわー」

西はずれの町人「そうねえ、試しに私があの幽霊を目撃した路地に行ってみるのはどうかしら」

西はずれの町人「あの幽霊、どうも雨の日の目撃が多いみたいよ」

お祓い師「そうさせてもらう、ありがとう」

西はずれの町人「ではお気をつけて」

お祓い師「ああ」

フードの侍「…………」






お祓い師「ここ、か……」

フードの侍「…………」

お祓い師「……ん、あれは……」

泣いている幽霊『……ああ、どこに……』

お祓い師(いきなり大当たりだな……)

フードの侍「…………」

お祓い師「待て、刀を構えてどうする」

フードの侍「(この刀は妖刀)」

フードの侍「(こいつは幽霊であろうとも斬れる)」

お祓い師「そういう問題じゃねえんだよ」

お祓い師「悪霊って決まったわけじゃないんだから。そういう強行手段がかえって悪い結果に繋がることもある」

お祓い師「幽霊の相手を吸って言うのは繊細なことなんだよ」

フードの侍「…………」

お祓い師(聞き分けのいいやつで良かった)

お祓い師(それじゃあ、試しに話しかけてみるか……)

お祓い師「……おいお前。どうしてそんなところで泣いているんだ」

泣いている幽霊『……あなたは、お祓い師ですか……』

お祓い師「ああ、そうだが……」

泣いている幽霊『私を祓いに来たのですか……?』

お祓い師「まあ、とりあえずは事情を聞かせてくれ」

泣いている幽霊『駄目です、私はまだ成仏するわけにはいかないのです……!』

お祓い師「違う違う、まず話をだな……!」

泣いている幽霊『逃げます……!』

お祓い師「あっ、おい!」

お祓い師「……逃げられた」

フードの侍「…………」

お祓い師「……なんだよ。俺が悪いってか」

フードの侍「…………」

お祓い師「……まあ、俺が悪いか……」

フードの侍「(今日の稼ぎが)」

お祓い師「悪かったって」

お祓い師「まああの調子だと、今日はもう現れてくれないだろうな。また日を改めよう」

フードの侍「…………」

お祓い師「明日、協会の支部で会おう」

フードの侍「…………」

フードの侍「(わかった)」

お祓い師「……よし、俺も帰るか。あいつが待ってるしな」

お祓い師「……お、雨が止んだな」






お祓い師「ただいま」

狐神「けほっ……。うむ、おかえりじゃ」

お祓い師「体調はどうだ」

狐神「とても良くなった、とは言わんが、ついらほどでもない」

狐神「何よりここの宿の女将さんが良くしてくれてのう。粥なども振る舞ってもらった」

お祓い師「そうか、そりゃ良かった」

お祓い師「ぼちぼち夕食にしようと思っていたんだが、まだ早いか?」

狐神「いや、粥を食べてからだいぶ時間は経っておる。夕食も頂くとしよう」

お祓い師「はっ、それだけ食欲があれば治りも早いかもな」

狐神「けほっ……。その口の聞き方、すっかり以前のおぬしじゃな」

お祓い師「……お前が少し、元気そうになったからな」

狐神「なじゃあそれは。わしが元気になって嬉しいのかのう?」

お祓い師「ああ、そうだな……」

狐神「へ……!?」

狐神「き、聞き間違えかのう……。おぬしがそんなにも素直に……」

お祓い師「いや、本当に安心した……。無理だけはするなよ」

狐神「う、うむ……」

狐神(なにか様子がおかしいのう……)

狐神「なあ、おぬしよ。なにかあったのかのう? 少し様子がおかしいように感じるのじゃが……」

お祓い師「おかしい?俺が?」

狐神「う、うむ」

お祓い師「気のせいじゃねえのか、俺は特になんともないぞ」

狐神「なんともないならそれで良いのじゃが……」

お祓い師「それより夕食にしようぜ。せっかく女将さんにもらってきたのに冷めちまう」

狐神「……そうじゃな。今晩の品は何かの」

お祓い師「ええと、これなんだが……」

狐神「おお、川魚の塩焼きじゃな!これはおそらく岩魚じゃな」

狐神「山にいた頃を思い出すわい」

狐神「では頂くとするかの」

お祓い師「ああ、そうしようか」

狐神「いただきます」

お祓い師「いただきます」

お祓い師「……美味いな」

狐神「川魚はこの淡白な感じがいいのう」

お祓い師「そうだな。海の幸とはまた違った味だ」

お祓い師「俺も故郷を思い出すよ」

狐神「けほけほっ……。おぬしも山に住んでおったのか?」

お祓い師「いや、家自体は大きな街の中にあったんだが、よく友人と馬を走らせて川へ泳ぎや釣りをしに行ったものさ」

お祓い師「おかげで運動自体はあまり得意じゃないが、泳ぎだけは上手くなった」

狐神「河童の時に特技が生かされてよかったのう」

お祓い師「ああ、本当にその通りだ」

狐神「そういえば、おぬし仕事の方はどうなったのじゃ」

お祓い師「ああ、依頼をこなしてるところだ。今日のところは、まあ失敗したんだが……」

狐神「一人で平気かの?」

お祓い師「お前と会う前は一人だったっての」

狐神「ま、それもそうか」

お祓い師「まあ、今回に関しては臨時の相方がいるんだがな」

狐神「がーん。わしは振られてしまったのか……」

お祓い師「臨時の、って言ってんだろうが」

狐神「冗談じゃ。して、その相方は人かの。それとも人為らざるものかの」

お祓い師「……まああれは人ではないと思うが、なんでだ」

狐神「いや、この町は随分と人外の気配を感じると思ってのう」

お祓い師「ああ、どうやらこの町、人外に対しては寛容らしいからな」

狐神「ふうむ、なるほどのう……」

狐神(それにしても、こやつについておる臭い……。これは……)

お祓い師「ん、どうした?」

狐神「……いや別に」

お祓い師「なんだよ、不機嫌そうだな」

狐神「……別にと言っておろう」

お祓い師「まあ、ならいいんだけどよ」

お祓い師「ああそうだ。お前に聞いておきたいことがあったんだがいいか」

狐神「けほっ……。ええと、なんじゃ」

お祓い師「いや、いま追っている件についてなんだが」

狐神「ふむ、話してみるがよい」

お祓い師「女の霊、なんだがな」

狐神「女の」

お祓い師「そこはどうでもいいだろう。で、まあそいつを取り逃してしまったんだが……」

お祓い師「どの目撃例でもそいつは泣いているらしい。そんな霊に心当たりはないか」

狐神「ううむ、それだけじゃとなんとも……。泣いている霊などいくらでもおるからのう……」

お祓い師「まあ、だよな……」

お祓い師「ああそうだ。もう一つ特徴があった」

狐神「ふむ」

お祓い師「まあ、まだいろんな人に聞いたわけじゃないから確定ではないが、その霊が目撃された時は決まって雨が降っているな」

お祓い師「実際今日も雨が降っていたし、いなくなった途端に晴れた気がするな」

狐神「……ほお、それは大事な情報じゃ」

狐神「その女の霊、もしかすると雨女かもしれぬ」

お祓い師「雨女……?」

狐神「うむ、そうじゃ」

狐神「雨女とは、産んだばかりの子を雨の日に亡くした女の霊じゃ」

駆け足ですがここまでです。

乙。
>>616 吸って→するって、でおk? チュルチュルって吸うのもありかもしれんが(

>>629
誤字です。
想像すると面白いですけれども……。






蛇眼の受付嬢「なるほど、その雨女っていう物の怪の一種じゃないかっていうわけねです」

お祓い師「ああ、あくまで推測段階だが」

フードの侍「…………」

蛇眼の受付嬢「しかし、雨の日に我が子を亡くした女の霊、ね……」

蛇眼の受付嬢「もしかしたら、だけどちょっと心あたりがありますよ」

お祓い師「今は少しでも情報がほしい段階だ。話してもらえるか」

蛇眼の受付嬢「ええ、あれは五十年ほど前のこと」

お祓い師「ご、五十年……」

蛇眼の受付嬢「うふふ、私たちを見た目通りの年齢だと思っちゃダメですよ」

お祓い師「あ、いや、はい。失礼しました……」

蛇眼の受付嬢「私に敬語は要らないわ」

お祓い師「そ、そうか……」

蛇眼の受付嬢「町の西の方にね、ある一人の女性が住んでいたわ」

蛇眼の受付嬢「夫とは別れたのか、死別したのか、それともまた別の何かがあったのかはわからないけど、とにかく一人で暮らしていた」

蛇眼の受付嬢「そんな彼女は身籠っていましてね……。まあ深い詮索なんかするもんじゃないですから、その話はそこまでにしますけれども」

蛇眼の受付嬢「そんなある日、いつぶりかの大嵐がここらを襲って、そりゃあ大変だったんですよ」

蛇眼の受付嬢「それでその人、村の外れに畑を持っていたんですけれども。そんな酷い嵐の中わざわざ様子を見に行ったみたいでして」

蛇眼の受付嬢「まああの畑が唯一の食いぶちだったんでしょうから、嵐でそこが駄目になったらお終いだったんでしょうね」

蛇眼の受付嬢「身籠っていながら、男手のない彼女は自分で行くしかなかったみたいで」

蛇眼の受付嬢「しかしここで、まあ運が悪いとしか言いようが無いことが起きてしまいましてね」

お祓い師「まさか……」

蛇眼の受付嬢「ええ、産まれてしまった、ということです」

蛇眼の受付嬢「しかし、ただでさえ介助する人がいなかったことに加えてあの嵐です」

蛇眼の受付嬢「失敗、したんでしょうね」

蛇眼の受付嬢「その女性もその場で息絶えてしまったようで……」

蛇眼の受付嬢「翌日に町の人に発見されて弔われたのですが、赤子の遺体を見たという話は聞きませんでしたね」

蛇眼の受付嬢「嵐のせいでどこか見えない所に遺体が隠れてしまっていたのかもしれません……」

お祓い師「そんなことが……」

蛇眼の受付嬢「あ、ただ最初に言いましたけれども、もう五十年も前の話です」

蛇眼の受付嬢「最近になって出没するようになった霊の話には関係が無いですよね……」

お祓い師「……いや、そうでもない」

お祓い師「東の国々では死後のことをこう考えるらしいな。魂は死後何十年もかけて転生していくものだと」

お祓い師「もしかしたらあの霊は途中で気がついたのかもしれない。一緒にいるはずの我が子の魂がいないということに」

お祓い師「五十年たった今、ようやく我が子を探しに戻ってこれたのかもしれない」

蛇眼の受付嬢「……本当に、そうなんだとしたら……」

お祓い師「……ああ、どうにか会わせてやらないといけないな。この世に置き去りにしてしまった我が子に」

お祓い師「そうと決まれば行こうぜ」

フードの侍「…………」






お祓い師「まだ雨じゃ、ねえか」

お祓い師「幽霊を探すのが先か、子供が亡くなったであろう場所を探すのが先か……」

お祓い師(しかし五十年も前の話だ。その場に遺体がそのまま残っているなんてことは絶対にない)

お祓い師(ましてや産まれたばかりの子だ。骨が残っているかも怪しい)

お祓い師「どうしたものか……」

???「ん……? あれは……」

???「旦那じゃないですか……!」

お祓い師「あ、お前は……」

???→化け狸「あの時の道具屋ですよ! お久しぶりです!」

お祓い師「ああ、あの時の……! なんでまたこんなところに」

化け狸「いやあ、旦那のお陰で改心しまして、言われたとおりにあの街は出て新しく商売を始めることにしたんですよ」

お祓い師「ああ、そういえばそんなことも言ったな」

化け狸「ある日、人外でも住みやすいっていうこの町の噂を聞きつけましてね」

化け狸「退魔師協会の支部で道具師をしているいっていう、肌の黒い御仁に会いやしませんでしたかね」

お祓い師「ああ、あいつか」

化け狸「自分はあの人と協力しながらここで道具屋をさせてもらってるんですわ」

化け狸「なんでも自分の持っている妖刀とか、そういった道具に興味があるらしくて」

お祓い師「道具の研究に使うためらしいな」

化け狸「どうやらそうらしいですねえ。まあ妖刀の一本は、そこに一緒におられるお侍さんに譲ったんですけれどもね」

フードの侍「…………」

化け狸「本当は売りには出していない一振りだったんですけれども、その方がどうしてもと言うので根負けしてしまして……」

お祓い師「ってことは、その腰の刀が妖刀か」

フードの侍「…………」

化け狸「で、何故お二人が一緒に?」

お祓い師「連れが体調を崩していてな。こいつは臨時の相方みたいなもんだ」

化け狸「なるほど、いま依頼を一緒にこなされているということですね」

お祓い師「そういうことだ」

化け狸「では引き続き頑張ってください。引き止めてしまってすいませんでした」

お祓い師「何か用があればまた来る」

化け狸「では」

化け狸「…………」

化け狸「……あーあ、雨が降ってきた。外に出しているものを片付けないと……」

化け狸「本当に最近雨が多いなあ……」

ここまでです。






お祓い師「雨が降ってきたってことは……」

フードの侍「…………」

フードの侍「(可能性は高い……)」

フードの侍「(おそらく、こっちだ)」

お祓い師「あ、おい待てって」

お祓い師(足の速いやつだ……)

お祓い師「……って、本当にいた」

泣いている幽霊『……ああ、我が子よ……。どこにいるのですか……』

お祓い師「……よし」

お祓い師「頼む、逃げないで話を聞いてくれないか」

泣いている幽霊『あ、あなたは昨日の……』

お祓い師「俺はお前を祓いに来たんじゃないんだ。ちょっと手助けをしようと思ってな」

泣いている幽霊『……手助け、ですか』

お祓い師「ああ、そうだ。そのために一つだけ聞きたいことがあるんだが、いいか」

泣いている幽霊『ええ……』

お祓い師「あんたは、出産してすぐに亡くした、あんたの子供を探しているんだよな」

泣いている幽霊『……!』

泣いている幽霊『そう、です……』

お祓い師「わかった。じゃあ俺たちもあんたの子供を探すの手伝う」

泣いている幽霊『え……』

お祓い師「構わないか」

泣いている幽霊『え、ええ……。いえ、是非お願いします……!』

お祓い師「よし、それじゃあ五十年前にあんたが見回りに行ったっていう畑の場所に連れて行ってくれないか」

泣いている幽霊『は、はい……!』






泣いている幽霊『この辺の、はずです……』

お祓い師「こ、これは……」

お祓い師(見事に荒れ地になっているな。何十年も手入れさていなかったんだろうな)

泣いている幽霊『私には身寄りがありませんでしたから……』

泣いている幽霊『もともと栄養も少なく、立地も良くない土地でしたから。私の死後に欲しがる人もいなかったのでしょうね……』

お祓い師「そういうことか……」

お祓い師「さて、それじゃあ始めるか」

お祓い師(とは言っても俺に出来ることは虱潰しに霊的気配を探ることだけだ)

お祓い師(狐神のような鋭い感覚は持っていないからな、こりゃあ大変だぞ……)

フードの侍「…………」

お祓い師「あ、おいっ、どこに行くんだよ……!」

フードの侍「…………」

お祓い師(せめて何とか言ってくれ……!)

フードの侍「…………」

お祓い師(立ち止まった……?)

お祓い師「おい、どうしたんだよ……」

フードの侍「…………」

お祓い師「……ここは……、まさか……!」

フードの侍「…………」

フードの侍「(亡骸を探すのは、得意だから)」

お祓い師「それは、どういう……」

フードの侍「…………」

泣いている幽霊『あ、あの。どうかしたのですか……?』

お祓い師「い、いや……」

お祓い師「……なあ、あんた。呼んでやってくれねえか」

泣いている幽霊『え……』

お祓い師「……ここに、いる。あんたの探している子が」

泣いている幽霊『……!!』

泣いている幽霊『本当に、ですか……?』

お祓い師「ああ、間違いないと思う……」

泣いている幽霊『……わかりました』

泣いている幽霊『……えっと、その……』

泣いている幽霊『……出ておいで、私の子……。……お母さんはここにいますよ』

泣いている幽霊『五十年間も寂しかったでしょう……。もう大丈夫だから出ておいで……』

泣いている幽霊『……そう、もう平気よ。だからお母さんと一緒に行きましょう』

泣いている幽霊『もう寂しい思いはさせないわ』

泣いている幽霊『……ええ、行きましょう。今度は二人で行きましょう……』

泣いている幽霊『置いて行くなんて、馬鹿なことはしないわ』

泣いている幽霊『……ええ、そうね……』

泣いている幽霊『…………』

泣いている幽霊『……あ、あの』

泣いている幽霊『……本当にありがとうございました』

お祓い師「……ああ」

フードの侍「…………」

泣いている幽霊『本当に……』

お祓い師「…………」

フードの侍「(さようなら)」

お祓い師「……ふう、じゃあ報告に帰るか」

フードの侍「(了解)」

お祓い師「…………」

お祓い師(家族の愛情、か……)






狐神「それではその幽霊は親子揃って成仏できたんじゃな」

お祓い師「ああ、無事な」

狐神「わしがいなくてもちゃんと出来るようで安心じゃ」

お祓い師「もともとお前抜きで仕事をしていたっての!」

狐神「……それで、その子の幽霊を発見したのが、そこにおる奴なんじゃな」

フードの侍「…………」

お祓い師「ああ、一応一緒に仕事をした仲だからな。完遂祝いを一緒にやりたかったところなんだが……」

お祓い師「まあ、お前のことがあるから店で食うのは断念して帰ってきたわけだ」

お祓い師「せっかくだからここで一緒に飯でも食うかって誘ったんだが、お前は構わないか」

狐神「……うむ、まあ問題はない」

狐神「わしも少々、そやつと話したいことがあるからのう」

フードの侍「…………」

お祓い師「よし、じゃあ女将さんに夕食を貰ってくる」

狐神「うむ、ゆっくりでいいぞ」

狐神「…………」

狐神「……さて、じゃが」

フードの侍「…………」

狐神「単刀直入に聞くが、おぬし、猫じゃな? 更に言うならば猫又じゃろう」

フードの侍「……!」

狐神「この程度においでわかるわい。同じ獣じゃ、驚くほどでもなかろう」

フードの侍「…………」

狐神「猫又とは時に火車と同じように死体を持ち去る物の怪として言い伝えられておる」

狐神「おぬしが子の幽霊、つまりはその遺体の在処を探し出せたのもおぬしならではの嗅覚のお陰なんじゃろう?」

フードの侍「…………」

フードの侍「(そうだ)」

フードの侍「(……しかし、あの男は面白いな)」

狐神「まったく、そのオドロオドロしい声も止めぬか。何をそこまで隠しているのか知らぬが……」

狐神「それで? 面白いとは、何がじゃ」

フードの侍「(幽霊を発見した時、まず祓うのではなく、原因を調査し成仏させる方法を選んだ)」

狐神「くくっ、わしもあやつのそんな所が面白いと思う。じゃからこそわしはあやつとの旅を続けておる」

狐神「あんなに面白い男はそうそうおらん」

フードの侍「…………」

フードの侍「(確かにその通りだ)」

狐神「……で、おぬしに忠告しておくことが一つ」

フードの侍「…………」

狐神「……あやつはやらんぞ」

フードの侍「…………」

フードの侍「(なに、他人の愛する男を寝とるような真似はしない)」

狐神「あっ……!?」

狐神「愛してるのとは違うわい!」

フードの侍「…………」

狐神「違うと言っておろう! この色猫め!!」

お祓い師「あ、どうしたお前ら。喧嘩か?」

狐神「な、なんでもないわい」

お祓い師「おい、あんまりこいつをいじめないでやってくれよ。歳ばっかりはとっているみたいだが、中身はどうにもな……」

フードの侍「(……承知した)」

狐神「おい、どういう意味じゃ!!」

お祓い師「いや、すっかり元気になってくれたようでなによりだ」

狐神「そんな言葉で騙されんわ馬鹿タレ!!」

お祓い師「えー、新しい出会いと、狐神の回復に祝して乾杯」

狐神「あっ、まだお酒を注いでおらんから待っておくれ!」

お祓い師「流石に病み上がりすぐに飲むなよ」

狐神「あ、あんまりじゃあ……!」

フードの侍「…………」

フードの侍(本当にやかましいけど、面白い人達……)

《現状のランク》

A1 赤顔の天狗
A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長

B1 狼男
B2 お祓い師
B3 フードの侍

C1 
C2 マタギの老人
C3 河童

D1 若い道具師
D2 狐神
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊

《雨女》編は終わりです。
しばらくはこの町を中心に話が進んでいきます。
次回は《妖刀》編です。



《妖刀》


狐神「ふふっ……、わし完全復活じゃ」

お祓い師「おおー、ぱちぱち」

狐神「もう少し喜ばんかい」

お祓い師「いや、喜んでるぞ」

狐神「瓦版読む片手間に返事するでない!」

お祓い師「新聞、な」

狐神「……で、気になる記事でもあったのかの」

お祓い師「……ああ、これだ」

狐神「ふむ……?」

狐神「……これは……」

お祓い師「西人街の感謝祭において反教会団体による大規模な暴動が発生……」

お祓い師「そのほとんどを取り逃がしたってあるからには、相当組織化された連中なんだろうな」

狐神「この反教会団体というのは、狼男がそうであったという悪魔信仰とは別物なのかの?」

お祓い師「基本的には別物だ。反教会団体っていうのは、教会の動きに不満を持った人間の集まりだ」

お祓い師「そんで、悪魔信仰っていうのは魔王を崇拝する奴らのこと」

お祓い師「悪魔信仰の連中は絶対神も忌み嫌うが、反教会団体には絶対神を信仰している奴も多くいる」

お祓い師「まあ教会に対抗するという基礎理念は同じだから、今は殆ど同化しているのかもしれないがな」

狐神「ほう」

お祓い師「暴徒は罪人の収監所を襲撃、数名が脱獄、か……」

狐神「その数名にあやつらが入っていればいいのう……」

お祓い師「……ああ、そうだな」

お祓い師「他の犯罪者も逃げ出している可能性があるわけだから素直に応援はできないが……」

狐神「うむ……」

お祓い師「なになに……“魔王軍の残党、数百年振りの行動開始と因果関係が?”だと……?」

狐神「魔王軍の残党……」

お祓い師「ああ。魔王軍自体は数百年も前に勇者という人間たちによって滅ぼされている」

お祓い師「本当に当時の残党かはわからないな。残党を名乗る別者かもしれないし」

狐神「なるほどのう……」

狐神「……そういえばおぬし、今日は女将に何か用があると言っておらんかったかのう?」

お祓い師「ああ、実はこの部屋を定期借家として借りようと思っていてな」

狐神「む、ということは」

お祓い師「ああ、しばらくはこの町を拠点にして暮らす。人外のお前もここなら過ごしやすいと思ってな」

狐神「しかしいいのかの、お父上を探すという目的は」

お祓い師「実は親父がいるっていう集落はここからそう遠くはない」

狐神「む、そうなのか」

お祓い師「ああ、だから行こうと思えばいつでも行ける」

狐神「……ではなぜ……」

お祓い師「……なんというかな、もう少し整理したいことがあるんだ」

お祓い師「いま会っても、駄目な気がする……」

狐神「……まあおぬし自身のことじゃ、わしは急かしたりはせぬ。おぬしが納得するように動けば良い」

お祓い師「……ああ」

お祓い師「じゃあ女将さんの所に行ってくる」

狐神「ついでに朝食も取ればよかろう。わしも行くぞ」

お祓い師「確かにな。じゃあ行くか」

狐神「うむ」






狐神「契約も完了したことじゃし、さっそく依頼探しに行くかの」

お祓い師「そうだな、そうするか」

狐神「しかし、こうやって町を歩いていると更に実感するのじゃが、本当に人外の多いことよ」

お祓い師「ああ、確かにな」

若い道具師「──まさに理想の町、って感じですよね」

狐神「むっ……!?」

お祓い師「……帰って来てたのか」

若い道具師「ええ、昨日にはもう依頼は完遂していたので」

お祓い師「あのなあ、急に話しかけてくるなよ。驚いただろう」

若い道具師「いやあ、すいません。姿を見かけたのでつい」

若い道具師「お連れの方は元気になったようですね」

お祓い師「ああ、ご覧のとおりだ」

狐神「……もしやおぬしが馬を貸してくれたという道具師かの?」

若い道具師「ええそうです」

狐神「その節は本当にお世話になったようじゃ。礼を言わせておくれ」

若い道具師「あ、頭なんて下げないでくださいよ……! 困った人がいたら助ける、当たり前のことじゃないですか!」

狐神「……困った“人”、か……」

若い道具師「え、えっと、なにか変でしたかね……」

狐神「いや、この通り耳や尻尾から人でないことなど一目瞭然であろうに……」

若い道具師「……人か人外か、なんて些細でどうでもいいことだと、俺は思っていますから」

若い道具師「人が正しく人外が悪いなんてのは間違いです。正しい物を正しいと、悪いものは悪いと言うべきじゃないでしょうか」

若い道具師「このことは僕たち退魔師の多くが気がついています。一般の人よりも多くの人外たちと出会う機会が多いからでしょうね」

若い道具師「だからこそ退魔師協会の上層部は、あなたのお父上に協力こそしないが邪魔立てもしていない」

お祓い師「俺の親父のことを……」

若い道具師「流石にあなたの姓を聞けばわかりますよ。生まれの国こそ違えど、この業界では知らねばならない名前のうちの一つですから」

お祓い師「…………」

若い道具師「退魔師協会としては活動資金獲得のために教会の存在が必須です。ですからあなたのお父上のことを助けることはできない」

若い道具師「しかし上層部……、いえ、上層部という言い方はおかしいですね」

若い道具師「退魔師協会という組織には上層部などいない……」

お祓い師「……それも若干違う。そもそも退魔師協会とは正確には組織ではない」

狐神「ふむ……」

若い道具師「まあ、そうですね」

お祓い師「ただただ退魔師が集まっているだけであって、いわば烏合の衆だ。組織的な取り決めや目的など一切ない」

お祓い師「言ってしまえば、賞金稼ぎの連中と何も変らない。違いといえば、公的に、表向きに教会に認められているか、だけだ」

若い道具師「その通りです。ですから、上層部と言うよりは名目上の代表者たち……」

若い道具師「名の知られた腕の立つ退魔師たちが、あたるわけです」

若い道具師「つまりはあなたのお父上もそのうちの一人です」

若い道具師「ですから退魔師協会としては現状のようにふるまう事になるわけですね」

若い道具師「この退魔師協会自体があなたのお父上の同業者であり、それ故に考えていることとも理解できるんですよ」

若い道具師「人外を片っ端から滅してしまえば良いという考えは、間違っている、ということが」

若い道具師「現にこちらの地方の式神、ではありませんが、協会発足の地である王国にも使い魔という文化があり、それを携えている退魔師もいるわけですから」

若い道具師「お祓い師さんのお父上は、式神の方に興味がわいたようですけれどもね」

若い道具師「まあ根本的な仕組みとかは、違ってくるものなので」

狐神「そうなのか?」

お祓い師「研究している専門家が言うんだから、間違いはないんだろう」

若い道具師「興味があればいずれお話しますよ」

お祓い師「ああ。その時は頼む」

《妖刀》編スタートしました。
妖刀の持ち主が活躍します。

実は前回更新後すぐにパソコンが点かなくなってしまい、現在は何とか復旧しましたが少し手間取ってしまいました。






蛇眼の受付嬢「あら、今日も来たんですね」

お祓い師「どうも」

マタギの老人「…………」

フードの侍「…………」

お祓い師(見知った二人以外にも何人かいるな……。さすが支部が大きいだけあって、同業者の数も多いな)

狐神「それで、じゃが。なにゆえ、退魔師協会とやらはあの絶対神の教会の援助を受けなければならないのじゃ?」

狐神「全くもって理念が一致していないではないか。あやつらは絶対神という神以外の人外を総じて否定しているようじゃ」

若い道具師「先程も言ったように、退魔師協会に統一された理念や思想はありません」

若い道具師「ただ多くの人がそう思っている、気が付いているというだけです」

お祓い師「退魔師協会ってのは、言ってしまえば教会からの支援金を給与として受け取るためのシステムなんだ」

お祓い師「協会に属していない退魔師も多くいると考えてもらっていい」

お祓い師「ただ、会員になったほうが金の入りが安定するってだけだ」

お祓い師「フリーの連中はそうだな……。河童の時みたいに個人契約で食っていると考えてもらっていい」

狐神「非会員の長所はあるのかえ」

お祓い師「……大きなものはないな。強いて言うならば、足がつきにくいということか」

お祓い師「別に、報酬金額が個人契約の方がすごく良いなんてことはない」

お祓い師「退魔師協会窓口で貰う金額だって相当なものだからな」

狐神「ううむ、普通は仲介料なんかのせいで、個人契約のほうがお得になる気がするのじゃが……」

お祓い師「いや、仲介料なんてものはない」

狐神「ほう?」

お祓い師「教会としては、自分たち以外に高い財力のある組織ができることは望ましくない」

お祓い師「だからこそ、依頼主からの契約金は全て報酬金額に割り当てられるようになっている。余すこと無く、だ」

お祓い師「ここは規模が大きいから、建物こそ別になっているが役所の一部であることには変わりがない」

お祓い師「施設の維持費や、職員の給与は教会から役所へ出る補助金の中から降りるようになっている」

お祓い師「だからここは、本当にただの窓口、ってわけさ。その実態は役所の一部ってことだ」

お祓い師「奴らの真の目的は、力を持つ者をできるかぎり目の届く範囲で監視するってことだろうな」

狐神「……つまりは退魔師協会とは、本当に名ばかりの、実態のないものじゃということか」

お祓い師「そういうことだ。まあ、会員証を持っているだけの非正規雇用者の集まりを協会と便宜上呼んでいると思ってもらって構わない」

蛇眼の受付嬢「でも正規に雇われている私よりも、非正規雇用者の退魔師さんたちのほうが給与はいいんですもんねー」

蛇眼の受付嬢「ま、私が出来高制の仕事なんかについちゃったら、なーんもできなくて破産しちゃうんでしょうけど」

蛇眼の受付嬢「そう考えると今の仕事が合ってるんでしょうね」

お祓い師「逆に俺は、固定給なら怠けちまうだろうな」

狐神「わしもじゃな」

お祓い師「ま、何事も相性は人それぞれだからな」

お祓い師「家賃のためにも働かなくちゃならないからな。何か依頼を紹介してくれ」

若い道具師「この町に住むことにしたんですか」

お祓い師「ああ、いつまでかは分からないが当分はいるつもりだ」

蛇目の受付嬢「町の仲間が増えて嬉しいですね」

蛇眼の受付嬢「ええと、ちょっと待って下さいね……」

蛇眼の受付嬢「そうですね、こちらなんてどうでしょうか」

お祓い師「ん、なんだこれは……」

蛇眼の受付嬢「最近、依頼の対象になっていたはずの物の怪が先に何者かに祓われている、ということが多発しているんです」

蛇眼の受付嬢「そのせいで依頼の数も減っちゃって……」

お祓い師「フリーの退魔師がやっているんだろうか」

蛇眼の受付嬢「そうだとしても、ちょっと不安なことがありまして……」

お祓い師「不安なこと?」

蛇眼の受付嬢「ええ……。どうやら、かなり無差別みたいなんです」

狐神「無差別、とは……?」

蛇眼の受付嬢「つまりは、人外であるというだけでやられているみたいなんです」

マタギの老人「フム……」

蛇眼の受付嬢「郊外に社を構えているとある神がやられてしまったようで……」

蛇眼の受付嬢「この町に住む人外にも、いつ被害が及ぶかどうか……」

お祓い師「わかった。この件に関する調査、引き受けよう」

蛇眼の受付嬢「ありがとうございます」

若い道具師「俺たちも気にかけておきます」

マタギの老人「……フン、まァ一応気にはしておく」

フードの侍「…………」

フードの侍「(もっと詳しい情報はないのか)」

蛇眼の受付嬢「ええとですね。その現場に残っていた遺体から分かったことは……」

蛇眼の受付嬢「全てが刀のような鋭利なもので斬られている、ということです」

お祓い師「刀、か……」

フードの侍「…………」

フードの侍(まさか……)






お祓い師「おーい、いるかー」

化け狸「はいはい、どうもお祓い師の旦那。今日はどんな御用で」

お祓い師「おふだ用の紙を買い足しに来た。なるべく良い奴で頼む」

化け狸「了解しました」

化け狸「えー、こちらなんかどうすかねえ。かの有名な陰陽師も愛用していたっていう品ですよ」

お祓い師「額はどの程度だ」

化け狸「ええと、こんなもんです」

お祓い師「……よし買った」

化け狸「へへっ、毎度あり」

化け狸「しかし、こんな量を買って何をするんです?次の依頼はそんなに大変そうなんですか」

お祓い師「いや、まあ念には念を入れてというかな……。ここ最近格上と当たることが多かったから、どうにも警戒しちまってな」

化け狸「なるほど……。まあ、売上に貢献してくださるならいくらでも歓迎ですよ」

お祓い師「調子のいいやつめ」

若い道具師「あ、また会いましたね」

マタギの老人「…………」

お祓い師「そっちも買い物か?」

若い道具師「いえ、道具の開発のことでちょっと用がありまして」

化け狸「お、進展があったんですか」

若い道具師「少しだけですけれどもね。この後少しだけ時間をいいですか」

化け狸「ええ、もちろん」

マタギの老人「…………」

狐神「…………」

狐神「ううっ……」

お祓い師「どうしたお前……。このじいさんはお前の命の恩人なんだぞ。なんで俺の後ろに隠れる」

狐神「う、うむ……。たしかにこれは失礼であったな……」

お祓い師「なんかあったのか」

狐神「いや、その……。まだわしが狐であったことの感覚から、どうにも猟師というのは苦手なのじゃ……」

狐神「すまぬ……」

マタギの老人「……フン、一々そんなことで謝るんじゃねェ」

狐神「うむ……」

お祓い師「……よし、じゃあ行くか」






お祓い師「とりあえず話に聞いた社に来てみたが……」

狐神「これは酷いのう……」

お祓い師「……ああ、メッタ斬りだ」

お祓い師(遺体自体は片付けられているが、飛び散った血痕や刀傷からどれほど凄惨だったか予想がつく)

狐神「参拝者も多く、神通力は高かったらしいがのう。それがこの有様じゃ」

お祓い師「相手は相当な使い手、ってことだろうな」

お祓い師(おふだを多めに作っておいて良かったな……)

狐神「…………」

狐神「む……?」

狐神(このにおいは……覚えがある……)

お祓い師「どうした?」

狐神(ま、まさか……)

狐神「おぬしよ、この一件は一旦手を引いたほうが……!!」


辻斬り「────やあ、久しぶり、という程でもないか」


お祓い師「なっ……!!」

辻斬り「また会えるとは、何かの縁なのかね」

お祓い師「……はっ、冗談じゃない……」

お祓い師(クソッ、まさかこいつだとは……)

辻斬り「さあ、またそっちの女に相手してもらうか」

辻斬り「人間の君じゃあ、ダメなんだ」

狐神「っ……!」

お祓い師「待て、俺が相手になる……!」

辻斬り「……いや、残念ながら“お前には興味が無い”」

お祓い師「興味がないだと? どういう意味だ……」

辻斬り「そうだな……。正確に言うなら“人間には興味が無い”ということさ」

お祓い師「なに……?」

辻斬り「まあ何でもいいだろう。は、早くその雌狐を斬らせろ……!」

お祓い師「狐神、下がれ……!」

狐神「う、うむ……」

辻斬り「そこをどけ」

お祓い師「断る……」

辻斬り「どうしてもと言うなら、あんたごとだ」

お祓い師「…………」

お祓い師「狐神、こっちだ!!」

狐神「へっ……!?」

お祓い師「今は逃げるしかない!」

狐神「それはそうじゃが、果たして逃げ切れるのか!?」

辻斬り「待て……!」

お祓い師「……馬鹿めかかったな!」

お祓い師「これでもくらえっ!!」

辻斬り「こ、これは……!!」

ここまでです。
いつも乙レスありがとうございます。






狐神「さっきの爆発は……」

お祓い師「もしもに備えて、社に入った時点で御札を撒いておいた」

お祓い師「早速役に立ったようで良かった……」

狐神「社はすっかり燃え落ちてしまったのう。まあ、祀られていた神がもういないんじゃから、いずれは朽ちるものではあったのじゃが……」

お祓い師「ああ……」

お祓い師「それよりどうだ。あいつはまだ生きている気配があるか?」

お祓い師(今の死んでいてくれれば助かるんだがな……)

お祓い師(力だけを見ればこの間の天狗の方が上だが……。あの時あいつを倒せたのは、あいつ自身が用意した結界を逆手に取れたからだ……)

お祓い師(正面からやり合ってAランクの奴に勝てる実力は俺にはない……)

お祓い師「……どうだ。何か感じるか」

狐神「焦げ臭くてにおいではわからぬが……」

狐神「力の気配は……、今のところ感じぬ……」

狐神「ただ、気配を潜めて逃げただけかもしれぬ。油断は禁物じゃ……」

お祓い師「ああ分かっている……」


辻斬り「────そうとも、油断は禁物さ」


お祓い師「な……、後ろ、に……」

狐神「お、おぬし!?」

お祓い師(腹を突き抜けて、刃が…………)

お祓い師「く、そっ……」

辻斬り「人を殺すのはあまりしたくないんだけど、邪魔をするなら仕方がない」

辻斬り「そのまま死んでくれ」

お祓い師「ゲホゲホッ……!」

狐神「おぬしよ、しっかりしておくれ……!」

狐神「はよう、逃げないと……!」

辻斬り「さて、次はあんただ女」

狐神「くっ……!」

狐神(わ、わしゃあどうすれば良いのじゃ……)

狐神(こやつを抱えたままこの場から逃げることなどできぬ……。ましてや、わしだけでこの辻斬りを打倒することなど不可能じゃ……)

狐神(……二人で助かる“道”が見えぬ……)

辻斬り「抵抗もなしか。つまらないなあ」

辻斬り「じゃあ、死ね」

狐神「ッ…………!!」

狐神「…………む…………?」

狐神(……斬られて、いない……?)

辻斬り「……なんだあ、あんたは」

フードの侍「…………」

フードの侍(飛び退いた、か……)

フードの侍(いっそのこと、その刀で受けてくれれば事は済んだのに……)

狐神「お、おぬしは……」

フードの侍「(話は後だ)」

フードの侍「(早くそいつをどうにかしろ)」

お祓い師「ぐ…………」

狐神「……う、うむ。恩に着る」

フードの侍「…………」

辻斬り「……この感じ。あんたも人間じゃあないな」

辻斬り「クククッ、今日はついているなあ。人外が自分の方から寄ってきてくれるとは……!!」

辻斬り「さあ、殺させろ……! 斬り刻ませろ……!!」

フードの侍(狂人め……)

辻斬り「……しかし、その刀は危ないな……」

フードの侍「……!」

フードの侍(やはり勘付いていたか……。やつの刀が“アレ”である故、か……)

辻斬り「ククッ、面白い……!少しは楽しめそうだ……!!」

フードの侍(……こっちは楽しくはないのだが……)

辻斬り「刀を持つ物同士が戦うにはここは少々狭い。場所を移動しようか」

フードの侍(……まあ、時間稼ぎにはなりそう、か)

フードの侍「(……ああ、そうするとしようか)」






狐神「おぬし、大丈夫かの……」

お祓い師「ハァ、ハァ……」

お祓い師「あー……、厳しいんじゃねえかな……」

狐神「…………」

狐神(布で簡易的な止血はした)

狐神(今は何とか持ちこたえておるが……このままでは時間の問題じゃ……)

狐神(しかし、なぜ急所を狙わなかったのじゃろうか……。首や、胸など、奇襲ならいくらでも狙えたはずじゃ……)

狐神(……運良くではなく、やはりあやつには人間を殺すつもりはなかったのかもしれんがな)

狐神(確実に仕留めたかったのであれば、心臓を一突きすればよかったのじゃから)

狐神(とはいえ、出血は激しい。一刻も早く医者に診てもらわねばならぬのじゃが……)

お祓い師「ゲホッ……」

狐神「…………」

狐神(このまま町に戻っては、絶対にいかん)

狐神(あやつは人外を無差別に殺しておる……。人外があれほど多く住まう町まで後をつけられてしまっては……)

狐神(結果は火を見るより明らかじゃ……)

狐神(しかしこやつのことを考えると、そう悠長なことを言ってはおれん)

狐神(なにか、なにか打開策は……)

狐神「…………」

狐神「……迷っては、おられぬか」

お祓い師「……狐神……」

狐神「無理に起きるでない。傷は塞がっておらぬのだぞ」

お祓い師「……俺を置いて町に戻れ……。あいつの目的は俺じゃない……。ここに一人で残っても狙われることはないだろう……」

狐神「こんな大怪我を負った者を一人残して行くわけがなかろう馬鹿者め」

狐神「……やむを得ん事態じゃ。“これ”を使う……」

お祓い師「……な……その、本は……」

お祓い師「……なんでお前がそれを持っている……!」

狐神「西人街の書店でおぬしが購入した本、何かと気になっておったからのう。おぬしが不在の間に荷物から拝借させてもらった」

お祓い師「お前、それが何か分かっているのか……!」

狐神「当たり前じゃ。いくら山暮らしをしておったとはいえ、字ぐらい読めるに決まっておろう」

お祓い師「ゴホッ……」

お祓い師「……それなら、それを今のお前が使う危険性も分かるはずだ……!」

狐神「……当然じゃ」

お祓い師「はあ……、はあ……。今のお前にそれを使わせるわけにはいかない……!馬鹿な考えは止せ……」

狐神「今の状況を打開するにはこれしかないのじゃ……」

お祓い師「だが……!」

狐神「それに」

狐神「それにわしは以前言ったはずじゃ。わしはおぬしの拠り所になりたいと」

狐神「わしがおぬしを依り代にしているように、わしもおぬしに頼られたいと……!」

狐神「じゃから……!!」

お祓い師「や、めろ、狐神……!今のお前には無理だ……!」

狐神「わしは……おぬしを失いたくない……」

狐神「じゃからな……」

ここまでです






辻斬り「いやあ、やるねえ」

フードの侍「…………」

フードの侍(手を抜いているくせによく言う)

辻斬り「しかしなんだい、その刀は……。本能的にその刀を、この刀で受けるのを拒否してしまうんだが」

フードの侍(答えるわけがないでしょう……)

辻斬り「ふうん、だんまりか……。まあ、いいんだけどさ」

辻斬り「ただ、迫り合いのない勝負っていうのはちょっとつまらないと思っただけさ」

辻斬り「やりにくい相手だよ、まったく」

辻斬り「しかし、さっきの雌狐を逃したくはないんだ」

辻斬り「そろそろ死んでもらえるかな」

フードの侍(引き際か……)

フードの侍(一旦戻って他の退魔師に協力を仰いだほうがいいか……)

辻斬り「あんたを殺したあとはあの雌狐、続いてこの近くにあるという町に行かせてもらう」

フードの侍「……!!」

辻斬り「なんでも、人外が多く住み着いているとか……」

辻斬り「虫酸が走るねえ……! 一刻も早く皆殺しにしてやりたいよ……!」

フードの侍「ッ……!」

フードの侍(それだけはさせない……!)

フードの侍「…………」

辻斬り「うん、まだやる気十分か。そうでないとつまらない」

フードの侍「……!」

辻斬り「いやあ、いい剣筋だ。やはり人外の身体能力とは羨ましいものがあるね」

フードの侍(余裕のくせに……。一切刀を使うこと無く、体捌きだけでこちらの攻撃を避けている)

フードの侍(ここまで実力が離れていると嫌になるな……)

辻斬り「……一つ聞かせてくれよ」

フードの侍「……?」

辻斬り「いや、思い出したんだよ……。あんたとは以前に二度も会ったことがあるだろう?」

フードの侍「…………」

辻斬り「自分は飽きっぽい性格でね、取り逃がした奴も多いから中々思い出せないでいたんだけれども、いやあなるほど、あんたか」

辻斬り「あんたはどうして、ここまで俺に執着するのかねえ……。いや、俺というよりはこの刀に、か……」

フードの侍「…………」

フードの侍「(その刀を寄越せば答えてやらんこともない)」

辻斬り「流石に的に武器を渡すほど馬鹿じゃあない」

フードの侍「(では逆に聞こう)」

フードの侍「(なぜその刀に執着する)」

フードの侍「(より良い業物など、いくらでもあるはずだ)」

辻斬り「…………」

辻斬り「……ああ、そういえば何故だ? 俺は、この刀以外を持とうとも思わないな……」

辻斬り「……ぐっ……!」

フードの侍(浅い……!!)

辻斬り「危ない危ない……。考えている時に不意打ちとは怖いねえ」

フードの侍(お前が言うのか)

辻斬り「うん、いやあ斬られたのなんて久々だ」

辻斬り「──お礼に本気で殺してあげるよ」

辻斬り「……ぜああっ!!」

フードの侍「ッ……!!」

辻斬り「……ちょこまかと、逃げ足だけは一流だねえ。あの雌狐と被るよ」

フードの侍(こ、れがランクAの本気……!)

フードの侍(剣圧で地面が割れた……、こんなの流石に太刀打ち出来ない……!)

辻斬り「さて、次は避けられるかな?」

辻斬り「はあああっ!!」

フードの侍「……!!」

フードの侍(避けきれ、ない……!)

フードの侍「うぐっ……!!」

辻斬り「脇腹をかすっったね……。痛い? 痛いよなあ?」

フードの侍「げほっ、げほっ……!」

フードの侍(まずい、な……)

辻斬り「苦しまないように、次は一撃で決めてあげるよ」

辻斬り「さあ……!!」

フードの侍(……ご主人様、すいません……。ここまでみたい……)

辻斬り「さあ、死ね────」


お祓い師「待てよ」


辻斬り「がはっ……!?」

辻斬り(炎……? まさか……!)

お祓い師「……よお、腹の傷の仕返しに来たぜ……」

辻斬り「……うーん、おかしいなあ……。すぐに立ち上がれるほど浅い傷じゃ無かった気がするんだけどね……」

辻斬り「……もしかして、あんたの背中でぐったりしている雌狐が何か関係してる?」

お祓い師「……否定はしない。時間がないから早く終わらせてもらうぞ」

辻斬り「……格下のくせに妙に粋がるねえ……!」

お祓い師「そいつはどうかな」

お祓い師「くらえ!!」

辻斬り「なっ……!! この、威力は……!!」

辻斬り「────!!」

フードの侍(なんという、力だ……)

お祓い師「おい、怪我は平気か」

フードの侍「…………」

フードの侍「(心配するほどではない)」

フードの侍「(それよりもお前は)」

お祓い師「俺は平気だ。それよりもこいつを頼む」

フードの侍(この化け狐、呼吸が荒くぐったりとしてる……)

フードの侍(病は完治したのではなかったのか……?)

フードの侍(……いや、この感じは病というよりは……)

フードの侍「(これは一体……?)」

お祓い師「後で話す。今はあいつの相手をしなくちゃならねえ……」

辻斬り「ク、クククッ……」

お祓い師「時間がねえって言っただろ。早く倒れてくれよ……」

辻斬り「クハハハッ、面白い!」

辻斬り「いかにして傷を塞ぎ、いかにしてそのような力を身につけたのかは知らないが……」

辻斬り「いま、この瞬間お前と対峙できていることに感謝する! ここまで面白そうな相手は久しぶりだ!」

お祓い師「俺は面白くねえんだよ、いくぞ!」

辻斬り「クハハッ!!」

お祓い師「おらあっ!!」

辻斬り「当たるかよォッ!!」

辻斬り(爆炎で前が見えない……、が……!)

辻斬り「ここだァッ!!」

お祓い師「──はずれだっ!!」

辻斬り「なっ……!!」

お祓い師「燃えろっ!」

辻斬り「くっ……!!」

辻斬り「よく避けたな! だがそうそう偶然は続かない……!」

辻斬り「ぜああっ!!」

お祓い師「おっとっと……」

辻斬り(また避けられた……!? いや、これは……)

辻斬り「……攻撃が当たらない場所へ前もって移動する。あの雌狐と同じ力か……」

お祓い師(流石に察しが良いな……。だが、少し違う)

辻斬り「しかし、瞬間移動の類ではないし、大幅な肉体強化がされているような様子もない」

辻斬り「ならば反応も出来ないような速さで、お前の体力が尽きるまで追い込めばいいだけのこと」

辻斬り「さあいくぞ……!」

お祓い師「……!!」

お祓い師(速い……! 俺の目では追い切れない……。本当にあいつは人間なのか……!?)

辻斬り(やはり俺の全力を捉えきれるほどではないか)

辻斬り(心臓を一突きしてやろう)

辻斬り「ハァッ!!」

お祓い師「……!!」

辻斬り「なっ……」

お祓い師「ぐっ……」

辻斬り(刀を手のひらで受けた、だと……!?)

辻斬り「……ふっ、だからといってどうということもない」

辻斬り「この通り刀は手のひらを貫通している。やはり肉体強化のたぐいではなかったか」

辻斬り(ならばこのまま手を切り裂いてしまえばいいだけだ)

お祓い師「──いやあ、わざわざ目の前に来てくれてご苦労」

お祓い師「正確には、手のひらで刀を受けられる場所へ俺が移動しただけだが……」

辻斬り(こ、いつ……! 最初からこのつもりで……!!)

お祓い師「この距離なら、避けられないだろ」

辻斬り「くっ……、そがっ!!」

お祓い師「終わりだ!!!!」

辻斬り「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

お祓い師(よし、当たった……!)

辻斬り「ぐ……く、そが……」

お祓い師「……ふう……」

ここまでです。






フードの侍「…………」

フードの侍(……まさか倒すとは……)

フードの侍(……ん……?)

狐神「ハァッ……、ハァッ……」

フードの侍(これは……!)

フードの侍「(おい、この狐の神の様子がおかしい)」

フードの侍「(さっきよりも更に息が荒いが大丈夫なのか)」

お祓い師「分かってる……!」

お祓い師(力よ早く鎮まれ……!)

狐神「ハァ……、こほっこほっ……」

フードの侍(……ふう、落ち着いてくれた)

フードの侍(しかし、今のは一体……)

フードの侍(それにこの人の回復速度……、人間のものじゃない)

フードの侍(背中の傷も、手のひらの傷も殆ど血が止まってきている……)

お祓い師「…………」

お祓い師「聞きたいことがあるなら後で答えてやる」

お祓い師「今は目の前の敵に集中しろ」

フードの侍(な……!)

辻斬り「ゼェーッ、ハァーッ……」

辻斬り「く、そが……!」

お祓い師「しぶとい奴だな……、本当に人間かよ……」

辻斬り「それはこっちの台詞だな……」

辻斬り(初めから少し“臭う”とは思っていたが……一層濃くなった……)

辻斬り(やはり最初に首を落としておくべきだった……)

フードの侍(化け物じみた回復力……、でもあっちは説明がつく……)

辻斬り「まだだっ……、まだ終わっちゃいない……」

お祓い師「……おい、教えてくれ。どうしてお前はそこまで人外に執着するんだ」

辻斬り「……ククッ、面白いからだと言っているだろう……」

お祓い師「人外に固執する理由にはなっていない」

辻斬り「……ククッ……」

辻斬り「まあいい。このままじゃあ殺されそうだから答えておくか……」

辻斬り「……そうだな……きっかけは、復讐さ……」

お祓い師「復讐、だと……」

辻斬り「ああ、復讐だよ……。俺の村のな……」

辻斬り「あくまできっかけだがな……」

お祓い師「…………」

フードの侍「(……続けろ)」

お祓い師「わざわざ聞くのか?」

フードの侍「(私も“確信”が欲しいのだ)」

お祓い師「確信……?」

お祓い師「まあいい。話せよ」

辻斬り「…………」

辻斬り「ある日、俺の生まれ故郷は人外に襲われた……」

辻斬り「どれほど斬られ殴られても、いくら術をくらっても立ち上がってきたそいつに、家族を含めて全員殺された……」

お祓い師(……強力な人外を相手に為す術もなく全滅する。よくある話だ……)

お祓い師「……だが、それで全ての全ての人外を憎むのは筋違いだろう」

辻斬り「……ク、ククッ……」

お祓い師「何がおかしい」

辻斬り「その通り、筋違いだな」

辻斬り「なんならあいつは、あの時のあいつは、この手で殺してやった」

辻斬り「“だがそんなことはどうでもいい。今はもう、ただ殺したいだけなんだ”」

お祓い師「は……?」

辻斬り「そう、筋違い、だが殺したい。理由にはなっていないか?」

辻斬り「だが関係ない。ああ、関係はない。関係がないから、から……? なんだ?」

辻斬り「あー、つまり? 殺したいってことなんだが? クククッ……」

フードの侍「…………」

お祓い師(な、何を言っているんだこいつは……? 言っていることが滅茶苦茶だ……)

辻斬り「ええと? つまりは俺は殺したいから復讐を、して、で……? クハハッ……!」

フードの侍「(……もういい、十分わかった)」


フードの侍『────』


お祓い師(……! あいつ……!)

辻斬り「あ……?」

辻斬り「俺の刀が……、折れた……?」

辻斬り「あああああああぁぁぁぁああああああッ!?!?」

お祓い師「なっ……」

お祓い師(辻斬りが突然苦しみ始めただと……!?)

辻斬り「うぐううおおおおおおおおあああ!!」

フードの侍(当たり、か……)

辻斬り「貴、様ァ……! “それ”は……! “それはやはり遺物の一つか”……!!」

フードの侍「…………」

フードの侍(君たちは一本だって残さない。それがご主人様の願いだから)

辻斬り「ク、ソが……」

辻斬り「…………」

フードの侍「…………」

フードの侍「(さて、一つ聞いていいか)」

フードの侍「(お前の町を襲ったという人外は、“こんな刀を持っていなかったか”?)」

辻斬り「……あ……?」

お祓い師(……どういうことだ……?)

お祓い師(フードの野郎が持っているのは、今まさにあいつが折った、辻斬りの刀だ)

お祓い師(その刀が、辻斬りの故郷を襲った人外のものだと……?)

辻斬り「これは……」

辻斬り「これは、あいつのッ……!!」

辻斬り「な、なぜ……」

フードの侍「(……その刀は数ある、とある刀鍛冶が打った妖刀の内の一本だ)」

お祓い師「妖刀、か」

フードの侍「(妖刀は基本的にすべて、人外や術者が宿すような力を持った刀だ)」

フードの侍「(それ故に、物の怪などに対して有効な武器となる)」

フードの侍「(しかし中にはそれだけに収まらない、まさに妖かしの刀が存在する)」

フードの侍「(付加的な、それでいて、その一振りにとって本質的な力)」

辻斬り「…………」

フードの侍「(お前のその妖刀は、『使用者の精神を乗っ取る力』がある)」

辻斬り「な、に……」

フードの侍「(お前の故郷を襲った奴が何者かは知らないが……)」

フードの侍「(実際には、そいつが望んだことではなく、あくまで妖刀の意志によるものだということだ)」

辻斬り「そんな馬鹿な……! じゃあ俺は……!」

フードの侍「(一つ聞きたいが、今のお前は、私やそこで倒れている狐の神を本当に殺したいのか?)」

辻斬り「当たり前だ……! 俺は人外をぶち殺したいんだぞ? そう、皆殺しだ……!」

辻斬り「皆殺しに……!」

辻斬り「……皆殺しに、したいんだよ……! 俺は、絶対にお前たちを認めない……!」

辻斬り「クソッ……! 認めない、認めていないはずなんだ……! なのに……!」

お祓い師「…………」

お祓い師「おい、小さいの。何故お前はそんなことを知っている」

フードの侍「(……小さいのと呼ぶな)」

フードの侍「(私は、とある刀鍛冶の作である妖刀を集めている)」

フードの侍「(この『使用者の精神を乗っ取る力』をもつ刀も、先日私が使った『霊体に特化した力』を持つ刀も)」

フードの侍「(そして今私が使っている『妖刀を折る力』を持つ刀も、全てがその刀鍛冶の作だ)」

お祓い師「……お前はその刀鍛冶と一体何があったんだ……」

フードの侍「…………」

フードの侍「(……昔の、主人だ)」

お祓い師「主人……」

フードの侍「(それよりも、その狐の神は平気なのか)」

お祓い師「ああ、呼吸も安定している。今は眠っているだけだ」

フードの侍「(そうか……)」

お祓い師「さて……」

辻斬り「…………」

辻斬り「……なあ教えてくれよ」

フードの侍「…………」

辻斬り「俺がずっとこの手に握っていた刀こそが、本当の仇だったってことか……?」

フードの侍「(そうだ。言い換えるならば、ついさっきまでのお前自身が、お前の仇だったということだ)」

辻斬り「……!」

フードの侍「(その妖刀には殺戮衝動を駆り立てる作用がある)」

フードの侍「(お前の故郷がその刀を持った者に滅ぼされた際に生まれた人外への憎悪が、その刀の力で増長されてしまったんだろう)」

フードの侍「(だからと言って、お前の犯した罪が消えるようなことはない)」

辻斬り「…………」

フードの侍「(悔い改めて、余生を生きろ)」

辻斬り「…………」

辻斬り「…………」

辻斬り「…………ククッ……」

辻斬り「…………クククッ…………」

辻斬り「……そんなん関係あるかよォ!!!」

フードの侍「……!」

お祓い師「なっ……!?」

辻斬り「俺が妖刀に操られていたあ? だからなんだ?」

辻斬り「妖刀とて人が造り上げた人外じゃあないか!! 人外はクズだ!! 俺の気持ちは変わりはしない……!」

フードの侍「(くっ……! こいつ……!)」

お祓い師「まだ反撃する力が……!」






お祓い師「……良かったのか。逃げられちまったけど」

フードの侍「(それは私の台詞だ。仕事を請け負っていたのはお前だろう)」

お祓い師「いや、俺は人外専門、天下の退魔師だぜ? あいつは只の人間だ」

フードの侍「(ならば私も同じだろう)」

フードの侍「(それに私が目的にしていることは、妖刀の回収及び破壊だ)」

お祓い師「そうか……」

フードの侍「(……詳しくは聞かないのだな)」

お祓い師「なんだ、話したがりか」

フードの侍「(うるさい)」

お祓い師「悪かった、怒るなよ」

フードの侍「(別に怒ってはいない)」

お祓い師「……で、主人ってのは何なんだ。従者でもやっていたのか?」

フードの侍「(……いや。私は昔、ご主人様に飼われていた)」

お祓い師「飼われ……!? お前、そういう趣味かよ!!」

フードの侍「(違うわ馬鹿が!)」

フードの侍「(飼猫だったということだ)」

お祓い師「ね、猫……?」

フードの侍「(そう、昔の私はれっきとした猫だった)」

フードの侍「(今の私は、その猫が化けた猫又という物の怪に該当する)」

お祓い師「お前、猫又だったのか……」

フードの侍「(狐の神に聞いていなかったのか……?)」

お祓い師「いや、全然……」

フードの侍「…………」

フードの侍「(まあいい……)」

フードの侍「(それで、そのご主人様が死に際に後悔をしたのだ)」

フードの侍「(自分はあまりに恐ろしい物を産み出してしまった、と)」

お祓い師「…………」

フードの侍「(ご主人様にとって、刀を打つことは芸術品を作ることと等しかった)」

フードの侍「(妖刀の能力さえも含めて、一つの作品だと捉えていたようだ)」

フードの侍「(しかしある日、ご主人様の作品はある数本を残して盗まれてしまった)」

フードの侍「(その残された数本のうちの一本が、この『妖刀を折る力』をもつ刀だ)」

フードの侍「(ご主人様は病気で若い身でありながらこの世を去るその日まで、自身の作品が悪用されることを嘆いたいた)」

フードの侍「(だから、私はご主人様のためにも、作品の回収をするためにこうして化けて出たのだ)」

お祓い師「なるほど、な……」

フードの侍「(中でも危険度の高いものは、今回のようにすぐさま折るようにしている)」

フードの侍「(結果として今回は手伝ってもらったことになる。ありがとう)」

お祓い師「……俺は俺の依頼をこなしていただけだ」

お祓い師「よーし、お疲れ様ってことで今日の夕飯を一緒にどうだ」

フードの侍「(私は構わないが、そいつは平気なのか)」

お祓い師「外食は無理だろうが、見た所そこまで心配する程でもないだろう……」

お祓い師「どちらにせよ、ここではどうしようもない。帰るとしようぜ」

フードの侍「(では急ぐとするか)」

フードの侍「(……そういえば、まだ聞かせてもらっていなかったな)」

お祓い師「あ?」

フードの侍「(お前の体の傷が治り、力が急に増大したカラクリをだ)」

お祓い師「ああ、そういえば話すといったか」

お祓い師「……こいつはだな、────“式神契約”の恩恵だ」

ここまでです。






お祓い師「馬鹿が!! あれほどやめろと言っただろうが!!」

狐神「す、すまぬ……」

お祓い師「今回は無事だったからいい。だが、毎度毎度こうも上手くいくとは限らないんだぞ……!」

狐神「じゃ、じゃが結果として式神契約のおかげで今回はお互いに救われたわけじゃし……」

お祓い師「そんなのは結果論だ。こんな風に布団で安静にしなければならないほど衰弱した奴が言う言葉じゃない」

狐神「う、うむ…………」

フードの侍「(……その式神契約について詳しく教えてくれないか。状況がいまいち掴めない)」

お祓い師「……式神契約ってのは、人と人外の契約形態の一つだ」

お祓い師「俺と狐神は元々“依り代”の契約関係にあったんだが……。この左腕の印がそれなんだが……」

お祓い師「この契約によって狐神は常に俺から力を受け取っている。こいつの生命維持活動の一端を俺が担っていると言っても良い」

狐神「…………」

お祓い師「そしてこの右腕に、狐神に強制的に入れられたのが式神契約の印だ」

お祓い師「式神契約ってのは依り代の契約とは逆の性質があると思ってもらっても良い」

お祓い師「依り代契約による恩恵が俺からこいつへの力の供給なら、式神契約の恩恵はこいつから俺への力の供給だ」

フードの侍(あの辻斬りを相手に急に動きが良くなったのはそのためか)

お祓い師「一番の恩恵はそこではなく、“契約した人外の能力を一時的に契約者が使用できる”というものなんだが……」

お祓い師「今回問題になっているのはそっちではなく、力の供給に関してだ」

フードの侍「(というと?)」

お祓い師「依り代の契約が恒常的なものであれば、式神契約は一時的なものだ。つまり、力を使ったその時にだけ狐神から俺への力の供給が行われる」

お祓い師「しかし式神契約の効力は一時的なものである代わりに、その力はとても強い」

お祓い師「俺が力を使用すると依り代契約による俺からこいつへの力の供給量を、式神契約によるこいつから俺への力の供給量が上回っちまうみたいだ」

フードの侍「(つまり力の供給が逆流して、この狐神に力を分けるどころか吸い取ってしまう状態になるということか)」

お祓い師「ああ。そして式神契約は一朝一夕で使いこなせるほど単純な契約術ではないと聞く」

お祓い師「今の俺は狐神とは全く関係のない、俺自身の力を使用した時にさえ強制的に術が発動してしまった」

お祓い師「更にはあの時、契約が完了してしまったその瞬間から人外が持つ傷の再生能力が俺に効き始めた」

お祓い師「完全に俺の制御が効いていない証拠だった」

フードの侍「(なるほど。自身で力を振るうことは勿論……)」

フードの侍「(無意識の内に何らかの力が発生してしまうことにも気を配らねば、自動的にその狐の神から力を吸い取ってしまうということか)」

お祓い師「ああ……。制御をできない俺の力不足ということもあるが、あまりに急だった」

お祓い師「それに一番の問題はこいつにある」

狐神「…………」

お祓い師「こいつは俺からの力の供給がなければすぐに衰弱してしまうほどに自身の力が無くなっている」

お祓い師「そんなこいつから力を吸い上げてしまっては、その度にこいつを命の危機に晒すことになる」

狐神「面目ない……」

フードの侍「(……なるほど、思ったよりも状況は良くないみたいだな)」

フードの侍「(契約を解除するというのは?)」

お祓い師「そう簡単にはいかないから困っているんだ」

お祓い師「こういった契約の類は、複数の契約を行うことは出来てもその契約を簡単に解消することはできない」

お祓い師「元々山の社に依り代を置いていたこいつだが……。あの時も契約を俺に移したのではなく、あくまで俺への契約を追加しただけだ」

フードの侍「(絶対に解除することはできないのか)」

お祓い師「……いや、一つだけある」

狐神「…………」

お祓い師「……契約元、もしくは契約先のどちらかが消滅すること。つまりは俺か狐神が死ねば契約は終了だ」

フードの侍「(……なるほど)」

お祓い師「元々こういった契約の類は、その契約解除法も含めた高度な術を組み込むものだ」

お祓い師「あの場で簡単に出来るようなものではない……」

フードの侍「…………」

フードの侍「(……由々しき事態ではあるが、そこまで憂いる必要があることか?)」

お祓い師「……どういうことだ」

フードの侍「(さっきお前自身が言ったではないか。『式神契約は一朝一夕で使いこなせるほど単純な契約術ではない』と)」

フードの侍「(ならば一朝一夕ではなく、日々努力を重ねて扱いきれるようになれば、意図せず狐の神を危険に晒すこともなくなるのだろう?)」

お祓い師「簡単に言うなよ……」

お祓い師「それに、これでお互いの依存度が上がってしまった……」

フードの侍「(問題があるのか?)」

お祓い師「大有りだ」

狐神「…………」

お祓い師「こいつは早く俺から離れなくちゃならない」

狐神「な……」

フードの侍「(……それは、なぜ?)」

お祓い師「いつまでも俺という依り代から力を受け取っていることに甘んじてちゃ駄目なんだよ」

お祓い師「いずれは他の人外のように、己の意志で生きていけるようになってもらわないと困る」

狐神「……そ、それは、わしが邪魔ということかの……?」

お祓い師「そういうことじゃない」

お祓い師「わかっているだろう? このままだと、俺の命が尽きるとお前も死んでしまうんだぞ?」

お祓い師「平均的な寿命を考えても、俺はあと四十年少し生きれば十分だろう」

お祓い師「人間にとっては十分だが、お前たち人外にとってはどうだ。数十年という歳月はあまりに短すぎるんじゃないか?」

お祓い師「だから……」

狐神「──だから、なんじゃ」

狐神「四十の歳月がわしにとって短いじゃと? そんなこと勝手に決められたくはないわい!」

お祓い師「何をムキになっているんだよ。事実としてそうだろうが!」

お祓い師「俺は自分の死が、別のやつの生死を左右するようなことにはしたくねえんだよ! そんな重荷を俺が背負えるか!!」

狐神「そういうことではない……! そうではなくてじゃな……!」

お祓い師「…………」

狐神「長い短いではないのじゃ……。……数百と生きてきたわしじゃがな、お主と出会ったこの数ヶ月間が一番充実しておった……」

狐神「楽しいことばかりではないが、それでもわしはこの生を初めて充実して過ごせておる気がする……」

狐神「それはの、おぬしよ……。おぬしがわしにとって初めて……」

お祓い師(狐神……?)

狐神「…………」

狐神「……いや、なんでもあらん。おぬしの言うとおりじゃ。わしの身勝手さからおぬしに重荷を背負わせるわけにはゆかぬ」

狐神「うむ、そうじゃ、その通りじゃ。はよう一人で生きてゆけるようになれねばのう」

狐神「百も生きておらぬおぬしら若造にできてわしにできぬはずがない。出来ねばならぬことじゃ」

狐神「…………すまぬがちょっと部屋を出てくれぬか。少し一人で考えたい」

お祓い師「あ、ああ……」

フードの侍「…………」






お祓い師「…………」

フードの侍「(……お前は大馬鹿者だな)」

お祓い師「な……」

フードの侍「(もう少し他人の立場に立てるようになったほうが良い。正直見損なった)」

お祓い師「俺が間違っていると?」

フードの侍「(言っていることは間違っていない。理に適っている)」

フードの侍「(しかし人の感情とは理屈で考えるものではないと思うがな?)」

お祓い師「…………」

フードの侍「(……まあいい。あまりよその人間関係に口出しするのもどうかと思うからな)」

フードの侍「(約束通り夕飯に行くとしよう。こうして話すのも最後になるからな)」

お祓い師「最後ってどういうことだよ」

フードの侍「(この辺りの地域で目的の妖刀はもう無いと見た。今日の収穫は予定外で、元々明日には発つ予定でいた)」

お祓い師「そうだったのか……」

フードの侍「(次は帝国に行くつもりだ)」

お祓い師「なんでわざわざ帝国に」

フードの侍「(回収優先度の高い一振りが、帝国にあるらしいという噂を聞いたのでな)」

フードの侍「(皇国の刀剣はその切れ味と美しさから国外での人気も高い)」

フードの侍「(盗まれたご主人様の作品が国外に流れていっても何ら不思議はない)」

お祓い師「なるほどな……」

お祓い師「しかし寂しくなるな。今まで同業者と仲良くなることなんてあまり無かったからな」

フードの侍「(……そういう気遣いはあの狐の神にしてやるんだな)」

お祓い師「そうは言ってもだな……」

フードの侍「(……まあいい。あまり遅くなるとお前の相方に怒られそうだからな。食事なら早く済ませてしまおう)」

お祓い師「別れの際だってのにそんなこと言うなよ。もしかしてまだ町を出る準備が整ってないのか?」

フードの侍「(それは済んでいる。そうではなく、あまりお前と自分が一緒にいるとあの狐が怒るだろう)」

お祓い師「なんだそれ。ヤキモチってことか?」

フードの侍「(ふっ、他に何がある。一度だけ直接釘を刺されたよ)」

お祓い師「なんであいつがヤキモチを焼くんだよ」

フードの侍「(……ふっ、まあいいだろう。そろそろ店に入ろうか。立ち話も疲れてきた)」

フードの侍「(あそこに個室で食べれる所がある。詳しくはそこで話そう)」

次で《妖刀》編は終わる予定です。






お祓い師「あー、食った食った」

フードの侍「(ふう……。ここまで食べたのは久々だ)」

お祓い師「そりゃあ良かった」

お祓い師「……で、さっきの話の続きだが」

フードの侍「(ん、ああ……、その話か)」

フードの侍「(おそらくあの狐の神の今の気持ちは……この町を離れることを未だに心苦しく思っている)」

フードの侍「(そんな自分と似ているんだと思う)」

お祓い師「こうもあっさりと旅立とうとしているのにか?」

フードの侍「(ばかいえ、半年は悩んだ末の結論だ)」

フードの侍「(……なぜ自分がここまでこの町を愛しているのか。それはきっと、町の人々が自分を対等に扱ってくれるからだ)」

お祓い師「…………」

フードの侍「(ここに来るまではたくさん辛い思いをしたものだ)」

フードの侍「(いかに多神を認め、人外という存在と共存をしようとしているこの皇国でも、やはり差別というものはある)」

フードの侍「(差別というよりは迫害か……。私が猫の体を棄て、この身体になってからというもの、何度も何度も死にたいとさえ思った)」

フードの侍「(やはり我々人外は、普通の人々にとっては畏れ、恐れる存在であるということなのだろう)」

フードの侍「(祓われそうになったことも一度や二度ではない)」

お祓い師「そんなことが……」

フードの侍「(お前だって、禍々しい妖刀を携えた化け猫に遭遇すれば、同じようにするのではないか?)」

お祓い師「それは……」

フードの侍「(……冗談だ。お前はそんなことをする奴ではない。だからこそ私は今ここでお前にこんなことを語っているのだ)」

お祓い師「…………」

フードの侍「(……所詮私は猫が化けて出た身。確かな身分も、人の世を渡り歩く処世術も持ち合わせていない私は金の工面に困った)」

フードの侍「(私が持っているものといえば、この僅かばかりの妖の力と、盗まれずに残っていた妖刀のみだった)」

フードの侍「(……この身を売ることも何度か考えた)

フードの侍(実際に野党のような輩に襲われ、弄ばれたことはあったからな……)」

フードの侍「(この身体は人にとって、まあ抱くに値するモノなのだろう、ということは分かっていかたからな)」

お祓い師「……ま、待て。身売りだと? お前が?」

フードの侍「(……ふっ、結局お前は気づかずじまいか)」

お祓い師「なに……?」

フードの侍「(この顔と声を他人に晒すのは久しいが、まあお前ならば良いだろう)」

お祓い師「なっ……!?」

お祓い師「お、お前っ……、女だったのか……!」

フードの侍「……まあ、そういうこと」

フードの侍「人の男が好むような豊満な乳房は無いから、顔を隠して術で声を変え、話し方を固くしていればなかなか気が付かれないんだよね」

お祓い師「なんでまたそんなことを……」

フードの侍「昔の癖、かな……」

フードの侍「昔は協会の会員としてじゃなくて、無所属のお祓い師として活動していたから、そうなるとこの外見だとどうしても仕事に支障をきたしてね」

フードの侍「協会の所属と違って身分も実力をはっきりとしないから、女ってだけで仕事の入りが悪くなっちゃうんだ」

フードの侍「ほら、この職って結構体力勝負なところがあるじゃない。私なんてただでさえ小柄だから尚更、ね」

お祓い師「…………」

お祓い師(昔から正規の会員として活動してきた俺が全く知らない世界だ。無所属の退魔師の世界ではそんなしがらみがあるのか……)

お祓い師「そんな差別、許されるかよ……」

フードの侍「……まあそんな感じだからさ、自然とこの耳も、顔も、声すらも隠すようになっていったんだよね」

フードの侍「そんな風に隠れるようにしながら毎日を送っていた。本当の自分を隠して、隠し続けてね」

フードの侍「今の自分が本当の自分なんじゃないかって、錯覚を起こすまでになっていた頃、私はこの町に来たんだ」

フードの侍「人と人外が仲良く暮らしているような村が他にはなかったわけじゃないんだけどね、ここは特別だった」

フードの侍「なんて言ったって、“退魔”師協会の受付を人外がやっているんだからさ。笑っちゃうよね」

お祓い師「……確かにな」

フードの侍「ここに来た時私は思ったよ」

フードの侍「……なんて平等で、なって歪んでいるんだろう、って」

お祓い師「どういうことだ?」

フードの侍「……いや、本当に平等で、暖かくて、大好きな町なんだよ? いつの間にかこの町に長く滞在していたぐらいね」

フードの侍「……ただ、その平等っていう考え方は、あくまで人間目線のものだと思わない?」

お祓い師「それは……」

フードの侍「人に危害を加えない人外とは仲良く、人に危害を加える人外は殺してしまって構わない」

フードの侍「これって人間の都合だよね。これを人に対して置き換えるとそう簡単にはいかない」

フードの侍「法律という、絶対的な国の決まりが出来たいま、いかなる場合も人に対する私刑は認められていない」

フードの侍「人を裁くには然るべき国の機関を通してからではないといけない。武器を持った凶悪犯が暴れているとか、そういう特別な場合を除いてね」

フードの侍「まあそんな場合でも、基本的には国に治安維持を任された組織が手を下さないといけない」

フードの侍「ところが人外に対してはそんな制約はない」

フードの侍「極端な話、退魔師でも何でもないズブの素人が、なーんにも悪いことをしていない人外を遊び半分で殺めてもなんの罪にも問われないよね」

フードの侍「一応皇国の法では、神にあたる存在は保護されているけど」

お祓い師「……ああ、その通りだ……。まったくもってその通りだ……」

お祓い師「いまの世の中は俺たち人間のためにできている……」

フードの侍「まあ人外ってのは並の人間に簡単にやられたりはしないけどさ」

フードの侍「実際にやられるとか、やられないとかじゃなくって、この状況そのものが私たちにとっては辛いものなんだ」

フードの侍「そんな人のための法に従って、それでいて幸せそうにしているこの町の人外のみんなを初めて見た時は、そりゃ歪に見えたさ」

フードの侍「でもここに住み始めて分かったよ。ああ、例え歪でも、ここは幸せだなって」

お祓い師「…………」

フードの侍「仕方がないんだよね。いまの世の中は人のための世なんだから」

フードの侍「人のための世に、人のための国が、人のための法を作ることは何も間違っていない」

お祓い師「……いいや、間違っている……。人のための世の中という事そのものがまず間違っているだろう……!」

お祓い師「これも言ってしまえばただのエゴだが、少なくとも話せば分かる相手とは対等であるべきだ……!」

フードの侍「…………」

フードの侍「……ふふっ、やっぱりあなたは面白い人だ。今まで会ったことがない種類の人間だ」

フードの侍「そうだね。私はこの町にいる間本当に幸せだったけれども、やっぱりこの歪さに最後まで違和感を覚えていたのかもしれない」

フードの侍「だからこそ私は顔と声を隠し続けたんだろうね。町のみんなは私の正体を知っているけれども、そういうのとは関係なくね」

フードの侍「生まれながらの人外じゃない、っていうのも理由なのかもしれないね」

フードの侍「いまの自分の運命を甘んじてい受け入れることができないんじゃないかな」

フードの侍「で、話がかなり脱線しちゃったけど、そろそろ話を戻すよ」

お祓い師「あ、ああ……。お前がこの町を離れるのを心苦しく思っていることと、狐神のいまの気持ちが似たようなものだとか、そんなことを言っていたが……」

フードの侍「そう、その話」

フードの侍「……いろいろダラダラと話しちゃったけど、なんだかんだ言ってやっぱり私はこの町が好き」

フードの侍「さっき言った通り、人の世ならではの違和感を感じてはしまうけど、それでもこの町にいる限りでは人と人外は平等なんだよね」

フードの侍「私みたいにこんな耳がついていても、協会の受付のあの人みたいに蛇の瞳を持っていても、きちんと町の一員として扱ってくれるんだ」

フードの侍「私みたいな人外でも、対等に扱ってくれるんだ」

フードの侍「いま思い返せば、ここの他にもこういった場所はたくさんあったかもしれない……」

フードの侍「でも、ここが私にとっての初めてだから……。だから私はここを離れるのが名残惜しいんだと思う」

フードの侍「……あなた達とは違う私たちは、同じ目線に見られる事がとっても幸せなんだよ」

フードの侍「まあ私たちはどちらかというと迫害される側にいるわけだけど、逆の立場の彼らはどうなんだろうね」

お祓い師「逆の、立場……?」

フードの侍「そう。人の世において、人より下にいるのではなく人より上に立つ彼らのこと」

お祓い師「……神、か」

フードの侍「うん。……神さま神さま、って崇め奉られている事が幸せっていう神も、そりゃあいるんだろうけど……」

フードの侍「みんながみんな、そうってわけじゃないと思うんだ」

フードの侍「少なくとも、あの狐の神さまは違うみたいだよ。昔はどうだったのか知らないけど、少なくとも今のあの神さまは」

フードの侍「……もう一度私がこの町を去ることを名残惜しいと言った理由を考えてみて」

フードの侍「彼女もきっと……」

お祓い師「…………」

お祓い師(対等に、か……)

フードの侍「……さて、思った以上に話し込んじゃったね。このままだと本当に彼女に叱られてしまうかも」

お祓い師「……ああそうだな。餞別だ、ここは俺が持つよ」

フードの侍「そう? じゃあお言葉に甘えて」

お祓い師「……色々と考えさせられる話だった。ありがとう」

フードの侍「ははっ、お礼を言われるのはなんか変な気もするけどね」

フードの侍「……あなたみたいな人がもっと増えれば、この世界は変わるのかな……」

お祓い師「…………」

お祓い師(世界が変わる、か……)

フードの侍「……ああ、そうだ。私からも餞別があるんだった」

お祓い師「ん? なんだ?」

フードの侍「はい、目を閉じて」

お祓い師「……?」

フードの侍「────」

お祓い師「…………」

お祓い師「お前……」

フードの侍「……自分から唇を奪うのは初めてだなあ」

フードの侍「神さまには申し訳ないけど、まあ餞別ならこのぐらいじゃないとね」

お祓い師「……はあ、お前なあ……。こう、安々とするもんじゃないぜ」

フードの侍「ん、肝に銘じておくよ」

フードの侍「……それじゃ、そろそろ戻りなよ」

お祓い師「……ああ」

フードの侍「じゃあ、この先も気をつけて」

お祓い師「……ああ、お互いにな」






お祓い師「……ただいま」

狐神「…………」

狐神「……おそかったのう」

お祓い師「機嫌は?」

狐神「……さっきよりは」

お祓い師「具合は?」

狐神「……女将に夕食をもらったから、さっきよりは」

お祓い師「そうか……」

狐神「うむ……」

お祓い師「…………」

お祓い師「なあ、狐神」

狐神「……なんじゃ」

お祓い師「……さっきは済まなかった」

狐神「……別に、気にしとらんわい」

お祓い師「……俺は以前、お前に言ったよな。『俺にとってのお前は神さまなんかじゃない』って」

狐神「……うむ」

狐神「わしにとっては、あの一言がとても嬉しかった……」

狐神「生まれて初めて、対等に扱ってもらえたのじゃ」

狐神「それまでわしはずっと、崇め奉られる存在じゃった……。贅沢な話じゃが、わしはぬしら人間の上に立つことなどは望んでおらん」

狐神「対等に、わしという個人を認めてもらいたかったのじゃ……」

お祓い師「…………」

狐神「その点、おぬしは違った。おぬしは神を敬いも、怖れもしていない」

狐神「おぬしがわしへ対して時折見せる、あの粗雑で冷たい態度は、わしにとっては新鮮でとても嬉しいものじゃった……」

狐神「……じゃからこそ、先ほどおぬしがわしを神として扱い遠ざけようとした時、とても傷ついたのじゃ……」

狐神「あの時おぬしは、わしとおぬしは違う存在であると言ったのじゃ……」

お祓い師「それは……」

お祓い師「そのことは、訂正しない……」

狐神「…………!」

狐神「そう、か……」

お祓い師「……だが、俺の話を少しだけ聞いてくれないか」

お祓い師「俺は人間で、お前は神だ。……これは嘘偽りようのない事実だ」

狐神「…………」

お祓い師「だが、さっきも言っただろう。お前は神ではあるが、俺にとって“神さま”ではないんだ」

お祓い師「別にお前のことを敬っちゃいないし、畏れてもいない。俺はお前のことを何ら特別視していない」

お祓い師「俺にとってのお前は、相変わらずやかましい同行者だよ……」

狐神「おぬし……」

狐神「……じゃが、おぬしはわしを遠ざけようとしたではないか……!」

お祓い師「……その事で、お前に一つ確認をしなくちゃならない」

狐神「確認……?」

お祓い師「ああ……」

お祓い師「……俺たち人間と、お前たち神ではやはり根本から違う事がたくさんある」

お祓い師「特にお前たちは、その長い寿命から価値観なんかも俺たちと大きく異る事が多くあるはずだ」

狐神「それは……」

お祓い師「人間が母のお腹で生を授かり、成長して大人になり……」

お祓い師「そして老いて死ぬまでの数十年間で、お前たちは少し容姿が変わる程度の変化しないんだろうな」

お祓い師「もしかしたらそれすらも無いのかもしれない」

お祓い師「……時が価値観へもたらす影響は絶大だ。一分間と一年間で見える景色は全く別物だ。そうだろう?」

狐神「……う、うむ……」

お祓い師「さっきも言ったよな?俺の寿命はあと四十か、もって五十年だろう。その五十年という月日をお前がどう体感するのかなんて想像もつかない」

お祓い師「だから俺は、お前をそんな一瞬の時間に付きあわせちゃいけないって思っているんだ」

狐神「そ、そんなことはない……!」

狐神「……確かに、わしが今までの生きてきた時間の尺度で言えば四、五十年など短い」

狐神「一瞬という表現はいささか極端ではあるが、それでもとても短い時間であることは事実じゃ……」

狐神「しかし、短いからこそ余計に手放したくないのじゃ……!」

狐神「“神さま”であった数百年、忘れ去られた百余年。そんな長い長い時間よりもこの数カ月のほうがずっとずっと生きている実感があった……!」

狐神「まるでわしの命は、つい数カ月前から始まったかのようじゃ……!」

狐神「せっかく、せっかく産まれたこの気持ちを……。どうか殺さないで欲しいのじゃ……」

お祓い師「…………」

狐神「わがままなのは分かっておる……。おぬしに命という一つの責任を押し付けようとしておる……」

狐神「じゃが……」

お祓い師「……それが、お前の本当の気持なのか?」

狐神「……うむ。これが、わしのいま最も望んでおることじゃ……」

お祓い師「…………」

お祓い師「そうか……」

お祓い師「……なら、早くこの式神契約を使いこなせるようにならなきゃな」

狐神「……いま、なんと……?」

お祓い師「だから、式神契約を使いこなせるようになんなくちゃ困るだろうが。俺が術を使う度にお前に死にかけられるのは勘弁して欲しい」

お祓い師「このままじゃまともに働けないだろうが」

狐神「お、ぬし……。それはつまり……」

お祓い師「……精々お前も頑張ってくれよな。このままじゃお互いに負担が重すぎる」

狐神「…………」

狐神「ありが、とうの……。本当に……」

お祓い師「だがな、一つ……。これだけは覚えておいてくれ」

お祓い師「あくまでこれは問題の先延ばしだ」

お祓い師「時間の問題は、いずれもう一度向き合わなきゃならない。これだけは忘れるなよ」

狐神「……うむ」

お祓い師「…………」

お祓い師「……あのさ、少し俺の話をしてもいいか」

狐神「もちろんじゃ」

お祓い師「……山で天狗から逃げていた時、天邪鬼が俺に言ってきたんだよ」

お祓い師「『俺は親父のことを尊敬なんかしていない』って……」

狐神「な……」

狐神(天邪鬼とは本人の写し鏡……。嘘はつかぬはずじゃ……)

お祓い師「……その通りなんじゃねえかな、って最近思ってさ」

お祓い師「親父はすげえんだ。退魔師ではごく数人しか到達していないSランクの実力を持ち、業界にその名を知らない人はいない」

お祓い師「そんな親父の子どもとして産まれた俺はどうだ。当然あの天才と常に比較され続けるんだ」

お祓い師「俺が努力して、努力してやっと出来るようになったことも、あの親父と比べたらなんて事もないんだ……」

狐神「…………」

お祓い師「俺は親父に嫉妬している。そうだ、それがおそらく正しい表現だ」

お祓い師「俺にとって親父は尊敬すべき人でなければ、愛すべき親でもない……」

お祓い師「あまりに遠すぎるんだ、あの人は……」

狐神「おぬし……」

お祓い師「……母親は、物心ついた頃にはもういなかった」

お祓い師「死んでしまったのか、それともどこか別の場所にいるのか、それすらも聞かされていない。……いや、一度も聞こうとしなかった」

お祓い師「とにかく俺は親父を避けていたからな……。術も一族が代々得意とした氷ではなく、わざわざ相反する炎を選んだぐらいでな」

お祓い師「俺には……、少なくとも俺にとっては家族と呼べる人間はいなかった」

お祓い師「……お前が初めてだったんだ。従兄弟のような親戚でもない、友人でもない。もっと違う何かだと思えたのは」

お祓い師「もしかしたら俺は、お前が俺にとっての初めての家族であることを期待していたのかもしれない……」

狐神「…………」

お祓い師「俺にとっても、お前が初めてだったんだよ……。それに気が付いたのはついさっきのことだ」

狐神「そうか……。おぬしにとっても初めて、か……」

お祓い師「……なあ狐神。提案があるんだが聞いてくれないか」

狐神「うむ……」

お祓い師「まだしばらくはこの町を離れるつもりはないが、一旦別の場所に足を運びたいんだ」

狐神「ふむ、別の場所とな」

お祓い師「俺の親父がいるって噂の、式神の文化が浸透しているという集落だ。西人街の受付嬢が言っていただろう」

お祓い師「ここから三日とかからない場所にあるらしい」

お祓い師「俺たちはそこに行って、式神契約を使いこなすための情報を手に入れる必要がある」

狐神「……うむ。その通りじゃな……!」

お祓い師「よし、決まりだな」

狐神(式神の術を使いこなせるようになって、この先も此奴とともに生きていくのじゃ)

狐神(願わくば……此奴と、一緒に、ずっと)

狐神(そうなりたい。そうありたいと強く思うようになった)

狐神(なぜならわしは、もう…………)

《現状のランク》

A1 赤顔の天狗
A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神)

B1 狼男
B2 お祓い師
B3 フードの侍

C1 
C2 マタギの老人
C3 河童

D1 若い道具師
D2 狐神
D3 化け狸 黒髪の魔女 天邪鬼 泣いている幽霊

※1 お祓い師(式神)は、狐神の力を借りている時のランク。

《妖刀》編はここまでです。
次回は《青女房》編です。閑話のようなものなので、そこまで長くないです。



《青女房》


若い道具師「フードの侍の方は行ってしまいましたね」

お祓い師「だな……」

お祓い師「あいつにはやることがあったみたいだから、仕方がないけどな」

若い道具師「まあそうですよね……。彼女を止める権利は誰にもありませんから」

お祓い師「……お前はあいつが女だって知っていたのか」

若い道具師「ええ。以前妖刀の件でお手伝いをした時に、あちらかお顔を見せてくれたんです」

お祓い師「……そうか」

若い道具師「協会支部の華が一つ消えてしまったのは寂しいですね」

お祓い師「そうだな。旅をしていると出会いと別ればかりだが、いつまで経っても別れだけは慣れないな……」

若い道具師「辛いものですね」

お祓い師「ああ……」

お祓い師「しかし、華か……」

若い道具師「どうかされましたか?」

お祓い師「いや、あいつと旅をするようになってからすっかりご無沙汰でな」

若い道具師「ご無沙汰、とは想像通りのことで合っているんでしょか」

お祓い師「……合っている」

若い道具師「お連れの方と喧嘩をしているということですか?」

お祓い師「なぜそうなる」

若い道具師「いえ、お連れの方とご無沙汰という意味だと思ったのですが」

お祓い師「違う違う。ご無沙汰も何も、俺とあいつはそういう仲じゃない」

若い道具師「ええ、そうだったんですか!? てっきり夫婦か何かだと思っていましたよ」

お祓い師「ばかいえ、そんな事があるか」

お祓い師「あいつと旅をし始めてから娼婦も買えなくなったって意味だ」

若い道具師「なるほど……、それは深刻な事態ですね」

若い道具師「お連れの方と致すという選択肢は無いのですか?」

お祓い師「…………」

お祓い師「実はよ……」

お祓い師「……昨晩のことなんだが、俺はあいつに対して家族のように見ていると言ってしまった」

若い道具師「そ、それは本心ですか?」

お祓い師「これは本心だ……。ただし少し前の自分の話なんだ」

お祓い師「最近のあいつの、俺に対する献身的な態度を見てまた違った見方になってきたんだ。特に機能の一件は契機だった」

若い道具師「そうならそうと、お連れの方に言えば良いのでは」

お祓い師「……昨日あれほどいい感じに言ってしまった手前、俺からそんなことを言い出すのは難しい……」

若い道具師「……ヘタレですね」

お祓い師「うるせえ……!」

お祓い師「意識しちまった相手と、これから毎晩何もせずに同じ部屋で過ごさなければならない、俺の気持ちがお前ににわかるか」

若い道具師「分かりかねます」

若い道具師「逆にあなたに、“根暗そうだ”と女性が近づかない、道具研究の界隈に身を置く僕の気持ちがわかりますか」

お祓い師「…………」

お祓い師「お互い大変だな……」

若い道具師「美しい女性とひとつ屋根の下で過ごすあなたと、僕を一緒にしないでください」

お祓い師「……なんか、すまん」

若い道具師「……ところでお祓い師さん」

お祓い師「なんだよ」

若い道具師「さっきのお話の通りですと、意中の人と同じ部屋で暮らしながら手も足も出ない状況になってしまった」

若い道具師「しかし最近欲求の発散を出来ておらず困っている、ということですよね?」

お祓い師「ま、まあそうだが……」

若い道具師「それなら提案があるんですが」

お祓い師「勿体ぶらずに言えよ」

若い道具師「いっその事、色街に出掛けてみませんか」

お祓い師「な……」

若い道具師「馬に乗ればすぐですよ。例えば今晩にでも……」

お祓い師「……ほう……」


蛇眼の受付嬢「……今晩に何ですって?」


若い道具師「へ……」

お祓い師「あー……」

蛇眼の受付嬢「道具師さん……。私のお酒の誘いは断ったのに、お祓い師さんと色街に行く余裕はあるんですね……」

若い道具師「い、いやあ、これは……」

蛇眼の受付嬢「そ、ん、な、に、お暇でしたら、丁度いい依頼が有るんですけれども受けて下さいますか?」

若い道具師「えーっと……」

蛇眼の受付嬢「受、け、て、下、さ、い、ま、す、よ、ね?」

若い道具師「は、はい……」

お祓い師(依り代の契約の関係上、馬に乗らなきゃいけないような距離を狐神と離れることは出来ないから、断るつもりだったが……)

お祓い師(どうやらその必要は無くなったようだな……)

蛇眼の受付嬢「では詳しいお話は窓口の方で」

お祓い師「(……なんだ、お前もいい思いしてるんじゃないか。なんで誘いを断ったんだ)」

若い道具師「(なんでって、蛇の姐さんと飲み比べをしてもロクな事にならないんですよ……)」

お祓い師「(ああ、そういう……)」

蛇眼の受付嬢「……聞こえていますよ?」

若い道具師「なんでもないです」

蛇眼の受付嬢「で、依頼の内容のほうなんですけれども……」

お祓い師「なになに……。旅人が西の峠で連続失踪している……?」

お祓い師「山賊の類の線は無いのか?」

蛇眼の受付嬢「一度、役所の調査が入ったようなんですけれども、山賊などの姿は無かったみたいで」

蛇眼の受付嬢「お一人だけ満身創痍で峠を超えてこられた方がいたんですけれども、診療所で横になったまま目を覚ましていなくて……」

お祓い師「なるほど……」

お祓い師「だが俺は今とある事情で力を使えない。いや、正確には使えるんだが、狐神に負担がかかってしまうからなるべく控えたい」

蛇眼の受付嬢「原因の調査だけで構いませんよ。それに有事の際は道具師さんが何とかしてくれるでしょう。その人も一応退魔師協会会員なんですから」

若い道具師「い、一応って……。まあいいんですけどね……」

お祓い師「……わかった。この依頼を受けよう」

若い道具師「同じく」

蛇眼の受付嬢「ではこちらに署名を……」

お祓い師「……よし。じゃあ準備を整えて行くか」

若い道具師「ですね」






お祓い師「そういえば、あのマタギのじいさんはどうしたんだ」

若い道具師「あの人なら先日から一人で山に入ってます。そろそろ戻る頃でしょうけど」

若い道具師「そういう貴方のお連れさんは?」

お祓い師「今日は一人で町を散策したいとか」

若い道具師「なるほど」

お祓い師「お互い相方の補填という感じだな」

若い道具師「じいさんは相方というのとは少し違う気がしますけどね。まあ、そんな感じですね」

お祓い師「例の、特殊な力が込められた弾丸の製作の進捗状況はどうなんだ?」

若い道具師「まずまず、といった感じですかね」

若い道具師「かなり実用レベルまでは来ているんですけれども、一つ一つを作るのにどうにも手間がかかってしまって」

書き込みの調子が悪いのかしらん
とりあえず乙

とりあえず、なんかフラグくさいぞ

>>824
最近回線が不調でして。申し訳ないです。
まだ少しアップします。

若い道具師「次は製作手順自体の改良が必要かもしれません」

お祓い師「なるほどなあ……」

お祓い師「大量生産が可能になれば、いよいよ俺たち専業の連中はお払い箱になるのかね」

若い道具師「それは絶対に無いです」

若い道具師「専門知識と経験を豊富に持った人間というのはどんな職にも必ず必要です」

若い道具師「生まれてこの方農機具しか手にしたことがない農家の人に、いきなり最新の銃器を渡したって兵士とは渡り合えないでしょう」

お祓い師「まあ、確かにな」

若い道具師「僕はあくまで、無力な人を少しでも減らしたいだけなんです」

お祓い師「そうか……。何か手伝えそうなことがあったら言ってくれよな。少しは力になれるかもしれん」

若い道具師「その時はよろしくお願いします」

お祓い師「おう」

若い道具師「……あ、そういえば。今朝の新聞読みました?」

お祓い師「いや、読んでないが」

若い道具師「なにやら、あの勇者の末裔が招集されたされたらしいですよ」

お祓い師「勇者の末裔が……? 一体何が起きているんだ……」

若い道具師「さあ。最近噂の魔王軍の残党、本当にいたんじゃないですかね」

お祓い師「そうだとすれば一大事だがな」

若い道具師「ですね……」

若い道具師「えっと、あとはあの西人街での感謝祭中の暴動事件のことの記事が」

お祓い師「……何か進展があったのか?」

若い道具師「ええ。あの街の教会の神官らは共和国から派遣されれていますよね」

若い道具師「それで今回の暴動騒ぎについて共和国軍が介入してこようとしたらしいんですけれども」

お祓い師「……皇国がそれを突っぱねた、か……」

若い道具師「そうです」

お祓い師「今回の暴動、共和国の自作自演の可能性も有るな……」

若い道具師「その可能性は捨て切れませんね」

狐神「ふむ、なぜじゃ?」

お祓い師「おわっ、居たのか……!」

狐神「わしが居たらなにかまずいかの?」

お祓い師「そういう意味じゃない。ただ驚いただけだ」

狐神「ふん。わしに背後を取られるようではこの先が不安じゃのう」

狐神「で、その共和国とやらが自作自演をして何か得をするのかの?」

お祓い師「そりゃあな。あいつらが皇国領に攻め入る口実になる」

狐神「領地の拡大とやらか」

お祓い師「領地というよりは領土だな」

お祓い師「共和国軍にとって、世論を皇国から領土を奪うことへと傾けるのは容易い」

狐神「ふむ?」

お祓い師「地図を見てみろ」

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|    /       V               /    /\                               
|    >                     <      > ∨\                  __ ◇   
|    \                __/      |法国Σ 。    ◇       /    /      
|     _/  北方連邦国  /   <        \___/        __  /     \     
|    /                |     \__                  /    W        /     
|   「                /\自治区 V\_  __      /     /        \   
|   >___n__ _/  \__/   | |   \   |      \        |   
|   /       _ /   V                / /      |  /        |        \ 
|  / 亡国 //        /\___ ____V         \|         /  皇国   < 
|  [_   /  \       |      ∨                          |_        / 
|     \/     |    _/                                  /        \_
|            /    \                                  |          _/
|            |       /                  帝国             \_       /。 
|            L  王国 |                                     /      \
|            /       \_                                 \_  _/
|            |            \___     ____              /   V  |
|            |           _ _く  \_/        \_/\___     |       /     
|            \M       |  V  \          共和国      \_/       |     
|                \    Σ 。  _ \         /\/\_ _        _/     
|                  |_ /   /  \|/\__N      。 V  |      /       
|                    ∨     \_/ V     _ _◇      「      /         
|                      ◇       _    /  V  \_/\  \  n/           
|                          。   /  \ /              <  /__/               
|───────────────\__南部諸島連合国 __/ ────────

|    。                               。   \_/ \/                       
|            

お祓い師「この北の海に浮かぶ法国というのが教会の総本山なんだが……」

お祓い師「絶対神信仰を国教としている共和国から、聖地である法国へ向かうのは非常に面倒がつきまとう」

お祓い師「陸路で行くにせよ海路で行くにせよ、他国の国境を一度またぐ必要がある。直接船で行くには遠すぎるからな」

狐神「それが共和国が皇国へと攻め入る理由になるのかの」

お祓い師「理由、と言うよりは建前だな」

お祓い師「実際、過去に何度か『皇国は聖地への道を妨げる異教の蛮国である』なんて論調が共和国内で強まったことがあるらしい」

お祓い師「共和国軍が皇国に進出するためにそんな言葉をばら撒いていているんだろう」

狐神「ふうむ。しかし、なにも皇国でなくとも、対象はこの帝国とやらでもよいのではないか」

若い道具師「帝国は大陸一の軍事国家ですからね。それよりは隣の皇国に、ってことなんでしょうね」

若い道具師「そもそも帝国は絶対神信仰を国教としていますから、異教である、なんていう建前の理由も使えませんし」

お祓い師「皇国の領土を抑えれば、帝国に対する戦略の幅も広がる。むしろ共和国軍の目的の一つはそこにあるんだろう」

お祓い師「共和国と帝国は、共和国が今の形の国になる前からの犬猿の仲らしいからな。共和国としては少しでも攻め手を増やしたいんだろう」

お祓い師「皇国と帝国の国境には、かつて帝国軍主力を退けた伝説的な砦もある」

狐神「共和国にとっては皇国領は、帝国との戦のための踏み台かえ」

お祓い師「向こうはそういう認識でいるんだろうな」

お祓い師「皇国は長いこと他国との国交を断っていたせいで、工業の面で大きく遅れを取っている」

お祓い師「工業の遅れは軍事の遅れだ。あっちから見れば、未だに野山で石槍を振り回しているような印象なんだろうな」

お祓い師「きっかけさえあればいつでも侵略しできる、みたいな感じだろう」

狐神「なるほど……」

狐神「目的の一つ、と言っておったが他の理由はなんじゃ?」

お祓い師「最近皇国で大量の石炭が取れることがわかったらしい」

狐神「石炭?」

お祓い師「何というか……まあ、よく燃える石だ。あの蒸気機関車の動力がそれだ。資源に乏しい共和国としては喉から手が出るほど欲しいんだろうな」

狐神「なるほどのう……」

狐神「しかし、今回の騒動が共和国の自作自演であったとしても……」

狐神「そうではなかったとしても、どちらにせよ奴らが皇国に軍事介入してくる事態になってしまったのじゃな?」

お祓い師「ああ。その要求を皇国軍部が突っぱねたみたいだから、もしかしたら戦争になるかもしれん」

狐神「戦争……。とは言っても、わしが知っているような戦とは規模が違うのじゃろう?」

お祓い師「ああ、そうだ。昔の“国”と、今の“国”ではその規模は大きく違う。それらが戦火を交えれば、その被害も甚大なものとなる」

狐神「戦は嫌じゃのう……」

狐神「多くの命が奪われる……」

お祓い師「……まあ、国家規模の話だ。俺たちが何を言ったところで何か変わるわけじゃない」

お祓い師「心配なのは、狼男たちのことだ」

お祓い師「今回の脱獄、暴動騒ぎに関わっているかは分からないが、どちらにせよ事の中心地だ」

お祓い師「変に巻き込まれないといいんだが……」

狐神「おぬし……」

お祓い師「いや、わかっているぞ。今の俺たちがあの街に戻ったところで何も出来やしない」

狐神「うむ……」

お祓い師「ただし、“今の”俺たちには、な」

お祓い師「力を使いこなせるようになれば二人を連れて逃げるぐらいは出来るようになるだろうよ」

狐神「…………」

お祓い師「こいつとの仕事を終えて帰って来たら出発の準備をするぞ。お前はお前で前もって荷物をまとめておいてくれ」

狐神「……では昨晩言っておった通り、あの場所に行くのじゃな」

お祓い師「ああ。式神の力を早く使いこなせるようにならんとな」

狐神「うむ、そうじゃな」

お祓い師「今日の依頼は西の峠の辺だ。距離的に、お前はついて来なくても大丈夫だろう。力を使う予定もないから安心しろ」

狐神「うむ、わかった。気をつけるのじゃぞ」

お祓い師「旅の前だ。無理をするつもりはないから平気だ」

狐神「それならばよろしい」

若い道具師「話はまとまったようですね」

お祓い師「ああ、待たせてしまって悪いな。行くとするか」

若い道具師「ええ、では出発しましょう」

途中止まってしまい申し訳ありませんでした。
本編は非常に短いので、あと一回か、二回で終わるとお思います。






お祓い師「この辺りか」

若い道具師「ですね。旅人が連続して失踪しているようですが、神隠しのようなものでしょうかね」

お祓い師「神隠しって大人でも遭うものなのか」

若い道具師「それは……さて……?」

お祓い師「……いかんな。今日の組み合わせは皇国人がいない」

若い道具師「こちらのことの専門家がいませんね」

お祓い師「まあこういう時は逆に簡単に解決したりするもんだろう」

若い道具師「こういう時に限って何も見つからなかったりするんですよ」

お祓い師「あー……。困ったな」

若い道具師「今からお連れさんを呼びに戻ります?」

お祓い師「いや、それには及ばないだろう。今回は少し調べるだけだしな」

お祓い師(まあ、あいつの嗅覚やらがあった方が遥かに捗ったかもしれんが……)

お祓い師(今更言ったところで、だな)

お祓い師「この辺りは峠の一本道だけで、迷うような複雑な場所は無さそうだ」

お祓い師「取り敢えず道伝いに調べるのがいいだろう」

若い道具師「そうなるでしょうね」

若い道具師「しかし呑気なもんですね」

お祓い師「何がだ?」

若い道具師「いや。今南の方では国と国を揺るがす問題が起きているというのに、自分たちは男二人で峠道を散歩してるんですから」

お祓い師「そりゃあ、さっきも言っただろう。俺たちにはどうしようもない規模の話だからな」

若い道具師「まあ、そうなんですけどね」

若い道具師「……おや、あれは……」

お祓い師「……廃屋、か?」

若い道具師「ちょっと行ってみますか」

お祓い師「警戒を怠るなよ」

若い道具師「わかってますよ」

若い道具師「……これは……」

お祓い師「廃屋で間違い無さそうだな……。人が住める状況ではない」

お祓い師「だが……。何者かが出入りした痕跡が有る」

若い道具師「え、本当ですか?」

お祓い師「ああ。入り口のふすまの取っ手の辺り。埃が積もっている所に手をかけた痕が残っている」

若い道具師「確かに……」

お祓い師「……入るぞ」

若い道具師「…………」

お祓い師(……中も随分と埃っぽいな。やはり誰かが住み着いているということは無さそうだ)

お祓い師(だが、当たりだったようだな……。何かがいる……)

若い道具師「(これは……)」

お祓い師「(ああ。注意しろ……)」

お祓い師(……あの後ろ姿は……)

みすぼらしい長髪の女「…………」

お祓い師(女……? いや……)

若い道具師(物の怪だ……)

みすぼらしい長髪の女「……あら……」

みすぼらしい長髪の女「……お客さんなんて久しぶりね……」

お祓い師「……客だと?」

みすぼらしい長髪の女「……そうよ……。……お客さん……。……私を買ってくれるんでしょう……?」

お祓い師(なるほど。遊女の霊か、男をたぶらかして食い殺す物の怪か。そのどちらかといったところか……)

お祓い師「……さっきは久しぶりの客だと言っていたが、それは本当か?」

みすぼらしい長髪の女「……さて、どうだったかしら……」

みすぼらしい長髪の女「……最近忘れっぽくて……」

みすぼらしい長髪の女「……それよりも、私を買ってくれないの……?」

お祓い師(誰が買うか馬鹿め……)

若い道具師「…………」

お祓い師「……どうした?」

若い道具師「……か、買います……」

お祓い師「なっ……!」

みすぼらしい長髪の女「……はい、まいど……」

お祓い師「おい、何を言っている……!」

若い道具師「……買います……買います……」

お祓い師(コイツ、術にかかったのか……!)

お祓い師(実質戦力はお前だけなのに面倒をかけさせるな……!)

お祓い師「よっと……!」

みすぼらしい長髪の女「……なに、これは……」

お祓い師「一般人に売る護身用の御札だ」

みすぼらしい長髪の女「……! ……触れた所が……!」

お祓い師(よし、効いた……!)

お祓い師「おい、目を覚ませ! お前がそんなんじゃ困る!」

若い道具師「…………」

若い道具師「……お、俺は……一体何を?」

お祓い師「あいつの術中にはまっていたんだよ」

若い道具師「ええ、そんなまさか……」

お祓い師「そのまさかだ。気を付けろよ……」

若い道具師「も、申し訳ない……」

お祓い師「お前のヘマということで減点一だ。今日の夕食は期待しているぜ」

若い道具師「そんな殺生な……!」

お祓い師「まあ、今は目の前の敵に集中するか」

みすぼらしい髪の女「……ぐ……うう……私を買ってくれないの……」

若い道具師「げえ……あの顔……!」

お祓い師(顔中の皮膚がただれている……。血の気もなく真っ青だな……)

みすぼらしい髪の女「……う……うう……」

若い道具師「俺はあんなのを抱こうと思ったのか……!?」

お祓い師「幻惑の術の類だろうな……」

若い道具師「幻惑の術……」

お祓い師「お前にはさぞ魅力的な誘惑に感じたに違いない」

お祓い師「……おそらくこの建物全体が結界に覆われている」


狐神「その通りじゃ」


若い道具師「なっ……!」

お祓い師「狐神!? どうしてここに!?」

狐神「なに。あの後、蛇の奴に会っての。色々と話を聞いたのじゃ」

狐神「すると、なにやらこの峠を命からがら越えてきたという旅人が、つい先程目を覚ましたらしくての」

狐神「その話を聞いて、心当たりがあったのですぐに追いかけてきたのじゃ」

お祓い師「心当たりだと」

狐神「……あやつは青女房という物の怪じゃ」

みすぼらしい髪の女→青女房「……私を……買わずに……他の女と……!」

青女房「……死ね……!」

若い道具師「くっ……!」

狐神「よしたほうがよい。強力な物の怪ではないとはいえ、ここはあやつの結界の中じゃ。ここにいては満足に相手をすることはできぬぞ」

お祓い師「そんな悠長な事を言っている場合か!」

狐神「実際、そやつはまだ幻惑の術から脱しきっておらぬ。どうじゃ? 攻撃しようにも攻撃することができまい」

若い道具師「ぐ……くそ……!」

若い道具師「あいつを……攻撃したくない……!」

お祓い師「馬鹿な……」

お祓い師「だが俺は護身用の御札ぐらいしか持ってきていないぞ! 一旦この場を離れるぐらいしか……!」

青女房「おおおおあああああっ!!」

お祓い師「ぐっ……!」

狐神「ふう……」

狐神「……おぬしよ。わしが無策で、一人でここまで来たと思っているのかの?」

青女房「……ぐ……!? ……ぎゃああああっ!!」

お祓い師「……銃声……?」

若い道具師「まさか……」

狐神「あのマタギが丁度いたのでの。ここまで着いて来てもらっておった」

狐神「結界の外からの攻撃ならばあやつに十分に通じよう」

青女房「……う……お……」

狐神「…………」

狐神「ほれ、結界の破れる音じゃ。わしらは今力が使えぬ」

狐神「トドメはおぬしに任せる」

若い道具師「……! 魔術炸裂筒をくらえ!」

青女房「ぐ……! きゃああああああっ……!!」

青女房「…………」

お祓い師「倒した、か……」

狐神「うむ……」

マタギの老人「ふん。手こずりおって」

若い道具師「た、助かりました……」

お祓い師「……なあ狐神。青女房ってどんな物の怪なんだ?」

狐神「ふむ」

狐神「……青女房とは悲しい物の怪じゃ」

狐神「誰にも買われなくなった夜鷹が息絶え、化けて出たものだと言われておる」

お祓い師「夜鷹……つまりは娼婦か……」

狐神「うむ、そうじゃ」

狐神「誰からも忘れ去られた後も……こうして山奥で自分が買われるのを、延々と待ち続けておるようじゃな」

狐神「何時客が来ても良いように、いつも化粧でおめかしをしているとも言われておる。……健気なものじゃ」

お祓い師「…………」

若い道具師「…………」

お祓い師「供養、してやるか……」

狐神「その方がこの土地のためにもいいじゃろうな」

狐神「負の気は祓っておくに越したことはあるまい」

お祓い師「助けられた身で言うのもなんだが、なんで追いかけてきてくれたんだ? 旅の準備をしておけと言っておいたのに」

狐神「今回おぬしらが探しているのが青女房だとわかったからこそ、わしは急いでおぬしらを追いかけてきたのじゃ」

若い道具師「と、言いますと?」

狐神「それはじゃな……」

狐神「──何やら、ぬしらはわしに黙って、大層楽しそうな場所に行こうとしていたらしいではないか?」

若い道具師「え…………」

お祓い師「…………き、聞いたのか?」

狐神「さて、何のことだがわしには詳しくわからぬが」

狐神「主に下の半身が浮ついたおぬしらならば、簡単に青女房の術にはまると思って、大層心配して着いて来ただけじゃ」

お祓い師「……わ、悪かった……」

狐神「別に? 怒ってはおらぬ。わしは寛大じゃ」

お祓い師「……本当にそうなら、頼むからそんな顔するなよ……」

狐神「……怒っておらぬ。よいな?」

お祓い師「あ、ああ……」

若い道具師「あ、あはは……」

マタギの老人「フン……」

若い道具師「……あの。一ついいですか」

狐神「なんじゃ」

若い道具師「その……。お祓い師さんには術は効いていなかったように思えるんですけれども、あれは一体……」

お祓い師「確かに……」

狐神「ううむ……。もしかしたら、なのじゃが」

狐神「……ここ最近で、“先ほどのものとは比べ物にならないほど強力な幻惑の術の類”をかけられた、とかの」

狐神「そのせいで下位の術が効かんかったという可能性がある」

お祓い師「おいおい、そんなもの心当たりがない」

狐神「……まあ例え話じゃ」

狐神(わしには一つ心当たりがあるがの……)

狐神(おそらくあの時のあれは……)

狐神「たまたま効かんかった、ということじゃろう。そこまで気にすることでもあるまい」

狐神「なんなら、ちょっとばかし精神力が強かったのかもしれぬな」

マタギの老人「……軟弱な精神だと言われているぞ」

若い道具師「そ、そこまでは言われてないですよ!」

狐神「大体あっておるぞ」

若い道具師「そ、そんなあ……!」

マタギの老人「お前は道具の開発は一流だがその他は二流未満だな。まったく」

若い道具師「……否定はしませんけどね……!」

お祓い師「……しかし、よく外から命中させられたな……」

マタギの老人「フン……そんな事か」

お祓い師「あ、いえ、独り言です」

お祓い師(声が大きかったか……)

マタギの老人「熟練の猟師となれば当然の事だ」

若い道具師「腕利きの猟師の目は“鷹の目”だと言われますからね」

若い道具師「幾年もの経験が生んだ、力の一つの形です」

お祓い師「鷹の目、か……。なるほどな……」

マタギの老人「オメェの精神面は評価できないが、やはり作り上げるものはいい」

マタギの老人「……今回の弾丸はいい調子だな」

若い道具師「あ、本当ですか!?」

マタギの老人「結界を破ってから、更に目標に到達した。銃の特性を活かしたいい突破力だ……」

マタギの老人「実際に炸裂した時の威力不足はまだ否めないが……」

若い道具師「そこがどうしても難しい所で……」

マタギの老人「フン。どうにかするのがオメェの役目だろう」

若い道具師「ま、そうなんですけどね」

お祓い師「しかし、想像以上に実用的な段階に来ているんだな」

お祓い師「俺もいずれ取り入れるかもしれないな」

若い道具師「その時は是非自分を頼ってください」

お祓い師「ああ、そうさせてもらうぜ」






蛇眼の受付嬢「皆さん、お疲れ様でした」

蛇眼の受付嬢「それで、報酬のほうなのですが……」

お祓い師「四人で分割、だろうな」

若い道具師「ですね」

マタギの老人「……よし」

マタギの老人「俺ァ、ここで帰らせてもらう」

蛇眼の受付嬢「はあーい。またよろしくお願いしますね」

若い道具師「ぐ……重要な資金が……。予定よりも大幅に減額されてしまった……」

お祓い師「まあ、仕方がないだろう」

狐神「資金とは、色街へ繰り出す資金のことかの?」

若い道具師「開発の資金です!」

狐神「くっくっく。果たして、どうかのう……?」

若い道具師「本当ですってば!」

お祓い師「お前もすっかり株が落ちたな」

若い道具師「何でこんなことに……」

蛇眼の受付嬢「私は別に色街に行くことは咎めませんが……」

若い道具師「い、いや。今朝は思いっきり……」

蛇眼の受付嬢「…………」

若い道具師「ど、どうぞ。続けて」

蛇眼の受付嬢「色街に行くことは咎めませんが、私のとの席の約束を断った日に行くというのは納得いきませんね」

若い道具師「いやだって……! 蛇の姐さんと飲んでも、俺が潰されて終わるじゃないですか! いつも!」

蛇眼の受付嬢「それは……鍛えてあげてるんです、よ?」

若い道具師「いや、酒飲みは鍛えるとかそういうのじゃないでしょう! だいたい俺は並よりは飲めますからね!?」

お祓い師「大蛇が酒樽を飲み干したという逸話があるが、狐と違って蛇は酒に強いのか?」

狐神「馬鹿者。その大蛇も酒で深い眠りについて退治されておるわ」

蛇眼の受付嬢「あ、じゃあ。今日はこの場の四人で、というのは」

お祓い師「頑張れよ」

若い道具師「ぐああ……」

お祓い師「よし。荷物を取りに戻るぞ」

狐神「うむ」






狐神「いよいよ、という感じじゃな」

お祓い師「ああ」

狐神「くれぐれも問題は起こさんでおくれよ」

お祓い師「……何で俺が問題を起こすんだよ」

狐神「元々行くのを渋っておったのはおぬしの方であろう」

狐神「わしは、自分の体調が戻り次第すぐにこの町を発っても良かったのじゃぞ?」

お祓い師「そりゃあ、まあ……」

狐神「おぬしとお父上の間に色々とあるのはわかったが、今回の件は同時にわしとおぬしの間の話でもあるということを忘れないでおくれ」

お祓い師「わかってる」

お祓い師「……よし、馬に乗れ」

狐神「おや。こうして二人で馬に跨がるのは初めの時以来じゃのう」

お祓い師「数日の距離だし、荷物は部屋に置いて行けるからな」

狐神「それもそうじゃな」

狐神「よいしょっと……」

お祓い師「じゃあ行くぞ」

狐神「うむ。出発じゃ」

お祓い師「…………」

お祓い師「……おい、そんなに強く抱きつくな。苦しい」

狐神「なに。振り落とされては敵わんからのう」

お祓い師「だからって……」

狐神「ふふっ。なんじゃ?」

お祓い師「……はあ。好きにしろ……」

狐神「うむ。好きにさせてもらう」

お祓い師(まあ、こいつはこんな調子の方が俺としても楽だ)

お祓い師「道中は頼りにしてるぜ」

狐神「……うむ! 任せるがよい」

《現状のランク》

A1 赤顔の天狗
A2 辻斬り
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神)

B1 狼男
B2 お祓い師
B3 フードの侍

C1 
C2 マタギの老人
C3 河童

D1 若い道具師
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊

※1 お祓い師(式神)は、狐神の力を借りている時のランク。

《青女房》編はここまでです。
次回からは《野衾》編です。次編から大分ストーリーが進みますので、よろしくお願い致します。
あと前にも言ってはありましたが、このスレだけでは収まらないので、一定以上書き込みが進みましたら次のスレに移行します。



《野衾》


お祓い師「……風が冷えてきたな」

狐神「もう冬が目の前じゃからな」

狐神「山の木々の葉が色づいて、そして枯れてゆく様はなんとも物寂しいのう」

お祓い師「そう考えると、お前と出会ってからかなり時間が経ったな」

狐神「じゃな。出会った頃はこんなに長い付き合いになるとは思いもせんかったわ」

お祓い師「確かにな。しかしまあ、色々とあったな」

狐神「うむ。例えばおぬしがわしの布団に潜り込んできて、抵抗できぬわしを無理やり……」

お祓い師「記憶の改竄をするな」

狐神「そんな出来事があっても良さそうなぐらいは一緒にいたが、残念ながらおぬしは種無しじゃったからのう……」

お祓い師「……馬から落とすぞ?」

狐神「冗談じゃ」

お祓い師「ちなみに、酔っ払って人の布団に潜り込んできたのはお前の方だからな」

狐神「誘っておったのに……」

お祓い師「いびきを掻いて大の字で寝ていたのにか?」

狐神「わ、わしはいびきなど掻かん」

お祓い師「どうだか」

狐神「掻かんと言っておろう」

お祓い師「そういうことにしておいてやろう」

狐神「ぐぐぐ……」

お祓い師「苦しい、苦しいから止めろ……」

お祓い師「謝るから……」

狐神「……今日の夕食は期待しておく」

お祓い師「……まったく、なんで俺が……」

狐神「女に逃げられんように機嫌取りをするのは、おぬしら男の務めじゃろう?」

お祓い師「なーに言ってやがる」

狐神「ふふっ」

狐神「して、町を出て二日目じゃが目的地はまだかのう」

お祓い師「この感じだと今日中には着けるだろう」

狐神「ふむ、そうか」

狐神「おぬしのお父上はいるかのう?」

お祓い師「さてな。フラフラと別の場所へ行ってしまっていても不思議じゃないからな……」

お祓い師「今回の一番の目的は式神の術を制御できるようになることだ。親父の事は二の次だ」

狐神「まあ、それもそうかの」

狐神「……ふむ?」

お祓い師「どうした」

狐神「前方から人が近づいて来る」

お祓い師「敵意は?」

狐神「少なくとも警戒はされておるようじゃ。雰囲気がピリピリとしておる」

お祓い師「こっちも注意するぞ」

お祓い師「いざとなったら……」

狐神「わかっておる。少しならば平気じゃ」

お祓い師「ああ……」

???「止まれ。この先に何用だ」

お祓い師「そんなに構えないでくれ。敵意はない」

お祓い師「俺たちは式神の術について知りたくて、この先にあるという集落を探している」

???「式神の……。ではお前たち二人は式神契約の関係か」

お祓い師「ああ。この腕の印で信じてもらえるか?」

狐神「わしの印はここじゃ」

???「ふ、服をはだけさせるな!」

お祓い師「何やってるんだお前は……」

狐神「ちょっとしたからかいじゃ」

???「……ま、まあわかった。お前たちを一応信用しよう」

???→小柄な祓師「俺はこの先の式神の集落で祓師をやっている者だ」

小柄な祓師「集落まで案内してやる。着いて来い」

お祓い師「悪いな。助かる」

ここまでです。
書き溜めが底をつき始めました。更新が遅れることがあるかもしれません。申し訳ないです。






狐神「おお、ここが……」

お祓い師「噂に聞いていた集落か……」

お祓い師「深い森を抜けた所にこんな所があるとは……。自力でたどり着くには一苦労しそうだな……」

小柄な祓師「まずは村長にお目通りしたほうがいいだろう」

お祓い師「ああ、頼む」

狐神「ううむ……」

お祓い師「どうした?」

狐神「家々から漂う料理の香り……。夕食時じゃな……」

お祓い師「まず村長の所に行くって言ってんだろ? な?」

狐神「痛い痛い」

小柄な祓師(うるさい奴らだな……)

小柄な祓師「村長はこの先におられるが、くれぐれも粗相のないようにな」

お祓い師「わかったか?」

狐神「わしは子供か」

お祓い師「同じようなものだろうが」

狐神「ぐぐぐ……」

お祓い師「苦しいから止めろ」

小柄な祓師(どっちにも言ったんだがな……)

小柄な祓師「村長、入ります」

山間の集落の村長「はいはい、どうぞー」

小柄な祓師「式神の術について知りたいと、外からここを訪ねて来た者たちです」

お祓い師「失礼します」

狐神「…………」

狐神「こ、これはこれは……」

お祓い師「……この、力は……!?」

お祓い師(桁が、違う……)

お祓い師(なんだこいつは……。何だこの威圧感は……)

お祓い師(こんなものが、この世に……)

狐神「……獣の臭い……。人ではあらんな……」

お祓い師「やはりか……」

お祓い師(見た目は若いが、年齢はこいつみたいにいくつかは分からんな……)

山間の集落の村長「その通りよ、狐のお嬢さん」

狐神「…………」

お祓い師「数百と生きたこいつをお嬢さん呼ばわりか……」

狐神(それだけではない……。この臭いはわしと同じ……)

山間の集落の村長「まあまあ、そんなに畏まらないで腰を下ろしていいのよ。旅の疲れもあるでしょう?」

お祓い師「え、ええ」

狐神「……では遠慮無く」

山間の集落の村長「私に変に気を使わなくてもいいわよ。言葉も崩してもらって構わないわ」

お祓い師「……わかった」

山間の集落の村長「……で、お前さん方は式神の術について知りたいんだって?」

山間の集落の村長「それはどうしてかしら?」

お祓い師「……気付いているとは思うが、俺とこいつは式神契約の関係にある」

お祓い師「だが思うように力を制御できずにいる。そのせいでこいつに随分と無理をさせてしまった」

山間の集落の村長「だから制御するすべを知りたい、と」

お祓い師「ああ、そうだ」

お祓い師「この通りだ。どうかご教授願いたい……!」

狐神「お、おぬし……」

山間の集落の村長「…………」

山間の集落の村長「そんな風に頭を下げずとも、こちらは元よりそのつもりよ」

お祓い師「ほ、本当か……!」

山間の集落の村長「ここで嘘をついてどうするの」

山間の集落の村長「聞くよりも見たほうが早いわ。今ここで力を使って見せなさい」

お祓い師「こ、ここでか?」

山間の集落の村長「心配には及ばないわ。相手をしなさい」

小柄な祓師「……承知しました」

お祓い師「本当にここでいいのか?」

山間の集落の村長「大丈夫。今のお前さんの力じゃ、この子は倒せないよ」

お祓い師「……そこまで言うならやらせてもらう」

山間の集落の村長「あくまで術の具合を見るのが目的だから、炎を目一杯溜めるんだよ」

お祓い師(……炎をの術を使うことはお見通しか……)

お祓い師「ではいくぞ」

小柄な祓師「いつでも」

お祓い師「狐神。無理だけはするなよ」

狐神「う、うむ……」

お祓い師(集中しろ……。手先に力を集めるんだ……)

お祓い師(炎を練り上げるように、一点に……)

狐神「くっ…………」

山間の集落の村長「そんなものかしら? まだまだいけるでしょう?」

お祓い師「くっ……!」

お祓い師(もっと、大きく……!)

狐神「はあ……はあ……」

お祓い師「……平気か……?」

狐神「今は……術に集中せい……」

狐神「まだ大丈夫じゃ……」

お祓い師「……あ、ああ。わかった……」

山間の集落の村長「…………」

お祓い師(まだ、まだだ……!)

狐神「げほっ……」

狐神「はあ……はあ……」

お祓い師(来た……!)

お祓い師「喰らえっ!!」

小柄な祓師「……!」

小柄な祓師「いくぞ……!」

???「…………」

お祓い師「なっ……」

お祓い師(あれは……ムササビ……?)

小柄な祓師「くっ…………!!」

狐神「あ、あれは……」

お祓い師「炎が、かき消された……!?」

小柄な祓師「……ふう……」

小柄な祓師「なんとか、なったな」

???「…………」

小柄な祓師「ああ、そうだな。少し冷や汗をかいた」

お祓い師「その力は一体……」

山間の集落の村長「そやつの肩に乗っているのは、正確にはムササビではなく野衾(のぶすま)といってね」

小柄な祓師「……野衾は“炎を食う”物の怪だ」

小柄な祓師「俺はその力を借りたに過ぎない」

???→野衾「…………」

小柄な祓師「ああ、いつも助かる」

お祓い師「力を……。つまりあんたらは式神契約を……」

小柄な祓師「ああ、している。右手のこれが印だ」

お祓い師「…………」

お祓い師(肩の上の野衾に負担がかかったような様子はない……。それだけ力を制御できているということか……)

山間の集落の村長「今のを見て、大体は把握したわ」

お祓い師「ほ、本当か……!?」

山間の集落の村長「嘘はつかないわ」

山間の集落の村長「狐のお嬢さん。お前さんの力は一体何なんだい?」

狐神「……わしの力は『目的地に導く力』じゃ。自身や他人が望む場所への道筋を知ることが出来る」

山間の集落の村長「なるほど……。やはり予想通りね」

狐神「予想通り、とは」

山間の集落の村長「結論から言うとね。お前さん達二人、相性が良すぎるんだ」

お祓い師「相性が……?」

狐神「やん。恥ずかしいのう」

お祓い師「今はふざけるな」

狐神「つれないのう……。で、相性とは?」

山間の集落の村長「お前さん達の話をする前に、式神契約全般における相性についての話をしようか」

山間の集落の村長「式神契約っていうのは、契約した人外から術者が力を借りることが出来る、そんな術だわ」

山間の集落の村長「その度合は術者と式神の相性によって異なってくる」

山間の集落の村長「その相性を決める要素の一つが“術そのものの性質”……」

お祓い師「術そのものの性質……?」

山間の集落の村長「そう」

お祓い師「待ってくれ。俺の得意な術は炎を扱うものだ。こいつの術とは全然違うものだぞ」

山間の集落の村長「それがそうでもない」

山間の集落の村長「『狐火』というものを聞いたことはないかしら?」

お祓い師「狐火……?」

狐火「まさか……」

山間の集落の村長「そう。お嬢さんはさすがに気が付いたね」

山間の集落の村長「その力は、正確には狐火なんだね。今まで自覚がなかっただけでね」

お祓い師「その狐火っていうのは何なんだ」

山間の集落の村長「効果自体は今までお前さん達が解釈していた通りさ」

山間の集落の村長「狐が道標に灯す火が狐火、というわけ」

お祓い師「火と炎だから相性が良いとでも言うのか?」

山間の集落の村長「その通りよ。皇国の術ってのはさ、そういう所が大事なのね」

山間の集落の村長「もちろんそれだけじゃないよ。お前さん達にとってはここからが本題だろうね」

山間の集落の村長「気持ち、精神の相性。これがとても大事なの」

お祓い師「気持ちの相性、か……」

山間の集落の村長「物の好みとか、そういうのも関係なくはないんだけど」

山間の集落の村長「何よりも大事なのは信頼、かね」

狐神「…………」

山間の集落の村長「自分の力を預けるんだから、相手を信頼していないと中々難しい」

お祓い師「……じゃあ、俺たちの信頼が足りなかったってことか?」

山間の集落の村長「いいえ、逆よ」

山間の集落の村長「その狐のお嬢さんが、お前さんを信頼しすぎていたのが問題なの」

お祓い師「信頼しすぎていたのが問題……?」

山間の集落の村長「そう。狐のお嬢さんはお前さんに“すべてを捧げてもいい”とさえ思っているように見える」

山間の集落の村長「術の相性の良さに加えてそれだ。そりゃあ術が暴走もするさ」

お祓い師「待て。術が暴走しているのか?」

山間の集落の村長「そりゃあそうよ。いくら狐のお嬢さんが弱っているとはいえ、魂ごと抜き取られそうになるほどの出力なんか普通出ないよ」

山間の集落の村長「お前さん達の場合は、“相性が良すぎるが故の暴走”ね」

狐神「相性が良すぎるが故の暴走……」

山間の集落の村長「そう。ただでさえ相性が良いんだから、気持ちの面でしっかりとしないと術は術者の制御から離れちゃうわ」

山間の集落の村長「そうして、術者が自身の術を使うだけで、式神から力の逆流が起きちゃっているのね」

山間の集落の村長「だからすべきことは精神面の特訓、かしらね」

お祓い師「なるほどな……」

山間の集落の村長「今日は疲れているだろうから、明日からにしましょう」

山間の集落の村長「来客用の部屋に案内してやりなさい」

小柄な祓師「はい」

お祓い師「……一ついいか」

山間の集落の村長「ん? 何かしら?」

お祓い師「俺の探している人物がこの集落にいるという噂を聞いたんだが……」

山間の集落の村長「……それは、どんな」

お祓い師「王国出身の退魔師なんだが……」

山間の集落の村長「……いないよわ」

お祓い師「え……」

山間の集落の村長「そんなのはここにはいなわよ。質問はそれだけかしら?」

お祓い師「……あ、ああ……」

小柄な祓師「部屋はこっちだ。案内しよう」

お祓い師「…………」

狐神「ふうむ……?」

ここまでです。
おそらくこの章が終わり次第、次のスレを建てることになると思います。

いないよわ?

>>905
「わよ」の間違いでした。






小柄な祓師「ここだ」

お祓い師「ああ、ありがとう」

お祓い師(随分と豪華な部屋だな……)

狐神「おお! 随分とよさ気な布団じゃあ! こりゃあ久々にゆっくりと休めるのう!」

お祓い師「久々にって、まだ二日しか経ってないだろうが」

狐神「ふん。おぬしと違ってわしはか弱い乙女じゃからの」

お祓い師「へえ」

狐神「なんじゃその顔は」

お祓い師「いや別に?」

狐神「ぐぐぐ……」

お祓い師「痛い痛い」

狐神「わしは?」

お祓い師「か弱い乙女です」

狐神「よろしい」

お祓い師(どこがだよ全く……)

お祓い師「……なあ」

狐神「うむ?」

お祓い師「さっきの村長の感じ。ありゃあ、明らかに……」

狐神「嘘をついておったの」

狐神「あまり隠すつもりは無さそうじゃったが」

お祓い師「じゃあ親父はこの集落の何処かに……」

狐神「おるんじゃろうな。あの村長はあまり快くは思っていないようじゃが」

お祓い師「一体親父は何をやらかしたんだか……」

狐神「おぬしのお父上じゃ。痴情のもつれか、そのあたりじゃろう」

お祓い師「俺がいつそんな問題を起こしたんだよ」

狐神「起こしそうじゃ、という話じゃ」

お祓い師「喧嘩売ってんのか?」

狐神「冗談じゃよ。目の前の雌一匹に手を出せぬ奴が、そんな事態になるとは到底……」

お祓い師「それは手を出してもいいという意味か?」

狐神「……ち、違うわい阿呆め」

お祓い師「…………」

狐神「……ええとじゃな。夕飯時じゃ。市街へ降りてみようぞ」

お祓い師「……ああ、確かに腹は減ってきたな。行くとするか」

狐神「う、うむ」






お祓い師「……こいつは……」

狐神「ううむ。凄いのう……」

お祓い師「人外がここまで集まっている場所はなかなか無いだろうな……」

お祓い師「道具師たちがいた町も普通よりは多かったが……。ここは半数近くが人外に見えるな」

狐神「式神文化が発達しているためじゃろうな」

お祓い師「ああ……」

お祓い師「で、何を食べるかだな」

狐神「ううむ、実はそこまでたくさん食べたい気分ではないのじゃ」

お祓い師「おお? 珍しいな……」

お祓い師「いや、集落についた時はあんなに腹を空かせていた感じだっただろうが。何があったんだよ……」

狐神「さっきの事で、まだ体調が少し悪くての……。まあ心配するほどではないのじゃが」

お祓い師「……そうか……」

狐神「それにおぬしから与えられる食べ物は“供物”となる。体調もすぐに回復するはずじゃ」

狐神「だから気にするでない。そうじゃな……おうどんがいいのう。もちろんきつねうどんじゃ」

お祓い師「……うどんか。じゃあそうするか」

狐神「うむ。あそこが良かろう」

うどん屋の店主「らっしゃい! 二名様で?」

お祓い師「ああ」

うどん屋の店主「ええと、奥の席が空いてんねえ」

お祓い師「わかった」

お祓い師「……さてと。お前はきつねうどんでいいんだよな」

狐神「うむ。他の選択肢はあらん」

お祓い師「じゃあ俺はこの山菜のやつで」

うどん屋の店主「毎度! すぐに作りますぜ!」

うどん屋の店主「水はこちらかご自由にどうぞ!」

お祓い師「ああ。お前はいるか?」

狐神「うむ。いただこう」

お祓い師「ほらよ」

狐神「んぐんぐ……ぷはあ。冷えてて気持ちが良いのう」

お祓い師「だな」

狐神「本来ならば一杯引っ掛けたいところじゃが……」

お祓い師「明日からは特訓だからな。控えたほうがいいだろうな」

狐神「ううむ、その通りじゃな」

お祓い師「……なんだ。えらく真面目だな」

狐神「失礼じゃな。わしはいつでも真面目じゃ」

お祓い師「あー、はいはい」

狐神「おぬし、わしをなんだと思っておるのじゃ……」

お祓い師「さてね」

狐神「……ふん。まあ良いわい」

お祓い師「で。なんだって“いつもに増して”真面目なんですかね、狐神さん?」

狐神「……そりゃあ、のう」

狐神「わし一人の問題じゃないからのう」

お祓い師「……まあ、そうだな」

狐神「なに、終わればよいのじゃ」

狐神「特訓とやらが終わったら、パーッと飲もうぞ?」

お祓い師「ほどほどにな。目も当てられんほどに酔われると困るからな」

狐神「わしはそこまで酔わんわい!」

お祓い師「どの口が言う、どの口が」

うどん屋の店主「へい、お待ちどう! 山菜ときつねね!」

狐神「おお! やっとじゃな!」

お祓い師「こりゃあ美味そうだな」

狐神「いただくとしよう!」

お祓い師「ああ、いただこう」

うどん屋の店主「おうよ、召し上がれ!」

狐神「まずはこの油揚げからじゃ……!」

狐神「…………」

狐神「……ああ……幸せじゃあ……」

お祓い師「山菜も美味いぞ」

お祓い師「王国にいた頃は、こんな苦いものを食うなんて信じられなかったが……。今ではこの香りの虜だ」

狐神「ううむ。その香りは山にいた頃を思い出すのう……」

お祓い師「食うか?」

狐神「よいのか?」

お祓い師「俺はお前ほど食い意地はってないからな」

狐神「なんじゃいそれは」

狐神「まあ遠慮無くいただくかの」

お祓い師「ほらよ」

狐神「うむ」

狐神「…………」

狐神「……これは……美味じゃあ……!」

お祓い師「だろ? うどんもコシがあって最高だ」

狐神「うむ。よいものじゃな」

うどん屋の店主「ほらお二人さん。これはほんの気持ちだ」

狐神「おお、かき揚げじゃあ……!」

うどん屋の店主「そこまで褒めて貰っちゃ、これぐらいしたくなるもんさ」

お祓い師「なんか申し訳ないな」

うどん屋の店主「いやいや。また食いに来てくれりゃ良いよ」

お祓い師「ああ。是非そうさせてもう」






狐神「満腹じゃあ……」

お祓い師「結局うどん自体をおかわりしやがって……」

狐神「店主殿のご好意に甘えさせてもらっただけじゃ」

お祓い師「こりゃあ、本当にもう一度行かんと駄目だな」

狐神「もちろんそのつもりじゃ」

お祓い師「あのなあ。誰が金を出すと思ってんだ」

狐神「まあまあ。わしとおぬしの仲じゃろう?」

お祓い師「調子いいこと言いやがって」

狐神「さてさて。明日に向けて今日は早く寝るかの」

お祓い師「ああそうだな」

お祓い師「浴場を使っていいみたいだから、ありがたく使わせてもらおう」

狐神「じゃな。なんでもこの辺りは温泉が湧き出しているらしくての」

お祓い師「おお、そいつは楽しみだ」

ここまでです。






山間の集落の村長「やあおはよう。よく寝られたかしら?」

お祓い師「ああ、おかげさまで」

狐神「あんな上等な布団で寝たのは初めてじゃったわい……」

山間の集落の村長「気に入ってくれたなら何よりだわ」

山間の集落の村長「さて、今日から特訓を始めるわけだけど覚悟は良いかしら?」

お祓い師「ああ。俺たちはそのためにここに来たからな」

山間の集落の村長「そう……。じゃあ行かせてもらうわね」

小柄な祓師「準備はいいか……?」

お祓い師「俺たちは何をすればいい?」

山間の集落の村長「昨日と同じ、戦えばいいわ」

山間の集落の村長「ただし、全力でよ。私が待てと言うまで止めることを許さないわ」

お祓い師「ま、待ってくれ。そんなことをしたら狐神は……!」

山間の集落の村長「待ったは無しよ。始めなさい」

小柄な祓師「いくぞ……!」

お祓い師「くっ……! 狐神! 下がれ!」

狐神「じゃ、じゃがっ……!」

お祓い師「いいから!」

小柄な祓師「余所見をするな……!」

お祓い師「これはっ……! ツタだ! 太いツタが地面から!」

お祓い師(こいつは植物使いか……!)

小柄な祓師「柔軟に動いているように見えるだろうが、横殴りに当たったら……痛いじゃ済まないぞ」

小柄な祓師「はあっ!」

お祓い師「くっ……!」

小柄な祓師「まだだ……!」

お祓い師「くそっ……! ツタが自在に動いて来やがる……!」

山間の集落の村長「どうしたの。避けているだけじゃいずれ限界が来るわよ」

お祓い師「そんなことを言ったってよ!」

狐神「おぬしよ! わしのことは気にせず術を使わんかい!」

お祓い師「だが!」

小柄な祓師「術無しで勝てると……? 舐められたものだな……」

小柄な祓師「くらえ!」

お祓い師「ぐっ……!」

狐神「おぬしよ!」

お祓い師「くそっ……! すまん狐神!」

お祓い師「はあっ!!」

小柄な祓師「……ツタを燃やした、と言うよりは爆散させたか……。術の威力は申し分無いな……」

小柄な祓師「だが……」

狐神「けほっけほっ……」

小柄な祓師「そちらの消耗が激しいようだな」

お祓い師「おい平気か?」

狐神「……わ、わしのことは気にするなと言っておろう。おぬしは戦いに集中せんか……」

お祓い師「だが……」

山間の集落の村長「まだ休憩とは言っていないのだけれども」

小柄な祓師「…………」

お祓い師(来る……!)

狐神「むっ……!? ツタが……!」

お祓い師「くそっ! 狐神の足元から……!」

狐神(ツタが体に絡んできおった……)

狐神「ぐ……。動けぬ……」

小柄な祓師「余所見をするなと言っただろう……」

狐神(締め上げ……!?)

狐神「う……ああ……」

お祓い師「おい止めろ! これのどこが特訓だ! ただの殺し合いじゃねえか!」

山間の集落の村長「…………」

小柄な祓師「グダグダと抜かすな! 死ぬ気でかかって来い! でないとそいつが死ぬぞ!」

狐神「うう……ごほっ……!」

狐神「お……ぬし……」

お祓い師「クソが……!」

お祓い師(落ち着け……! あいつを助け出すには落ち着かないと駄目だ……!)

お祓い師(呼吸を整えろ……)

お祓い師「……よし」

お祓い師「……ちょっと熱いかもしんねえけど、我慢しろよ」

お祓い師「はっ……!」

狐神「っ!」

お祓い師「……よし……」

山間の集落の村長「……これはこれは……やるじゃない」

山間の集落の村長(威力に限界がある分、細かい扱いに長けているようね……)

小柄な祓師「ツタの根本だけを焼き払い、一瞬で炎を収めたか……」

小柄な祓師「流石だな……」

狐神「げほっげほっ……!」

お祓い師「大丈夫か」

狐神「……な、なんとかのう……」

狐神「ぬしよ。向こうは本気じゃ。こちらも全力でいかねばなるまい」

お祓い師「そう、みたいだな……」

お祓い師「少しの間、我慢してくれ」

狐神「お安い御用じゃ。わしの力、預けよう」

お祓い師「いくぜ……!」

小柄な祓師「話し込んでいる間にこちらの準備は整っている」

小柄な祓師「はあっ!」

お祓い師「当たるかよ……!」

小柄な祓師(避けた……!?)

小柄な祓師(……まぐれか……? いや、まるで死角からツタが来るのを知っていたかのような……)

お祓い師「終わりか? ならこっちもいくぜ……!」

お祓い師「はっ!」

小柄な祓師(炎が、でかい……! 避けるのは無理だ)

小柄な祓師「……だが」

野衾「…………」

お祓い師「野衾、か……! 炎を食うとは厄介な……!」

小柄な祓師「炎を食うだけではない……。 借りるぞ……!」

お祓い師(式神の力を使ったか……一体何をするつもりだ……?)

小柄な祓師「……さっきの炎、返してやろう……!」

お祓い師「なにっ……!?」

狐神「おぬしの炎を食っただけでなく、跳ね返してきおった……!」

お祓い師「狐神っ!」

狐神「くっ!」

小柄な祓師「よく避けたな……。……だが、一発だと油断したな……?」

小柄な祓師「今ので炎をすべて使い切ったとでも思ったか?」

お祓い師「まだ炎が……!」

小柄な祓師「くらえ……!」

お祓い師(くっ……避けられない……!)

お祓い師「あっづ!」

狐神「お、おぬしよ!」

小柄な祓師「……炎を食って、返すだけなら野衾だけでも出来る」

小柄な祓師「俺が式神契約でこいつの力を借りることによって、それを更に高度に制御することができるようになる」

小柄な祓師「威力、数、軌道……。こういったことの制御は術者の本領だ。そうだろう……?」

小柄な祓師「だが俺は見ての通り植物の扱いを専門にやっていてな。炎を専門外だ……」

諸事情より夜から再開します

小柄な祓師「式神の力無しではこんな芸当は無理だ……」

小柄な祓師「逆に野衾も、俺のように術者のノウハウを活かした多彩な術の制御は出来ない……」

小柄な祓師「式神契約がこれを可能にしているというわけだ……」

お祓い師(こいつ……いや、こいつら……手強い……!)

山間の集落の村長「……よし、今日はここまでにしようかしら」

山間の集落の村長「総評としては……まあ、全然駄目ね。まるでなってないわ」

お祓い師「く……」

狐神「…………」

山間の集落の村長「昨日私が言ったこと、覚えているかしら」

狐神「信頼しすぎるな……ということじゃったな……」

山間の集落の村長「そう。お前さんはそれが全くできていないわ」

山間の集落の村長「自分の全てをお祓い師に委ねてしまっている。それでは駄目だわ」

山間の集落の村長「だからそんなにも無様なのよ」

狐神「…………」

山間の集落の村長「無様……そう無様よ。ウン百と生きた狐の神様が、人間の若造に全てを委ねるなんて」

山間の集落の村長「恥ずかしくないの? お前さんはそれでいいのかしら?」

お祓い師「お、おい……そんな言い方しなくても……」

山間の集落の村長「お前さんは黙ってなさい」

お祓い師「は、はい」

山間の集落の村長「ただ、馬鹿みたいな捉え方はしないでちょうだいね」

山間の集落の村長「信頼するなとか疑えとか、そういう意味とは違うのよ。流石に分かるわよね?」

山間の集落の村長「その辺のことを少し考えて、また明日ここに来なさい……」

狐神「……うむ……」

お祓い師「…………」

山間の集落の村長「今日は薬湯にさせているから、傷に少ししみるかもしれないけどゆっくり浸かるといいわ」

狐神「わざわざすまんの」

山間の集落の村長「初日で倒れられても困るもの」

狐神「それもそうじゃな」

狐神「ほれ。ゆくぞおぬしよ」

お祓い師「あ、ああ……」

山間の集落の村長「…………」

お祓い師「…………」

山間の集落の村長「お前さんもゆっくりと休みなさい」

お祓い師「……ああ。わかっている……」

山間の集落の村長「…………」

小柄な祓師「……村長」

山間の集落の村長「……なにかしら?」

小柄な祓師「あの二人。確かに術の属性の相性は良いようです。そして精神的な面で制御しきれていないのも事実です」

小柄な祓師「しかし、それだけの理由で式神の命にかかわるような力の逆流が果たして起こるものでしょうか」

小柄な祓師「自分にはとてもそんなことは考えられないのですが……」

山間の集落の村長「……さてね。どうなのかしらね」






お祓い師(結局あれから三日が経ったが、改善は見られない……)

お祓い師(……信用のし過ぎ、か……)

お祓い師「…………」

お祓い師(そろそろ覚悟を決めないと駄目か……)

お祓い師(まあ、その辺りは湯船に浸かってゆっくりと考えるか)

お祓い師「……ふう……」

お祓い師(しかしいい眺めの露天風呂だな)

お祓い師(一日の疲れが癒やされる……)

お祓い師(とは言ってもまだ昼過ぎなんだがな……)

お祓い師(特訓とか言っていたが、想像以上に適当だぞあれは……)

お祓い師(もっとこう、専門的に術のことを教えてくれると思ったんだが……)

お祓い師「……いてて……」

お祓い師(薬湯は少し傷にしみるな……)

狐神「おや、おぬし……」

お祓い師「狐神!? なんでここに……!」

狐神「今までは暗くて気が付かなかったが、どうやら露天風呂は繋がっているらしいのう」

お祓い師「そ、そうか……」

狐神「なに、今更お互いの裸で恥じ入る間柄ではあるまい」

お祓い師「裸を気軽にさらけ出せる間柄でもないけどな!」

お祓い師「確かに着替えとかは同じ部屋だけどよ……」

狐神「なんじゃあ。恥ずかしいのか?」

お祓い師「んな訳あるか」

狐神「ならば問題あるまい」

お祓い師「問題はあるんだが……」

狐神「細かいことは気にするでない」

お祓い師「わかったわかった……」

お祓い師「ふう……」

狐神「いい湯じゃなあ……」

お祓い師「だな……」

狐神「…………」

狐神「……のう、ぬしよ」

お祓い師「なんだよ」

狐神「本当にすまぬな……」

狐神「わしが頼りないばかりに、あのような無様な……」

お祓い師「…………」

お祓い師「……そのことに関係することで、ちょっと話があるんだがいいか?」

狐神「む? なんじゃ?」

お祓い師「…………」


お祓い師「……俺たちの“この旅は”ここで終わりにしないか?」


狐神「……………………は?」

狐神「い、いま何と? 聞き間違えかのう……?」

お祓い師「……そもそもお前が俺に着いて来たのは、俺がお前の命を助けてやったことに対する恩返しのためなんだろう?」

お祓い師「恩返しはもう十分してもらった。なんなら有り余るほどだ」

お祓い師「依り代の契約のせいで離れられないっていう理由もあるが……。それはここでならどうにでも解決できるだろう」

狐神「おぬし……本気なのか……」

狐神「わしとの旅は、ここで終いにするのか……?」

狐神「やはりわしは邪魔っだたのかの……?」

お祓い師「いいから、聞け」

お祓い師「もう一度言うが、俺はもうお前の恩返しは必要だと思っていない。だからお前が俺の旅に同行する必要はもうないと思っている」

お祓い師「これは俺の真意だ。嘘はない」

狐神「そ、んな……」

お祓い師「依り代の契約について解決したいなら、俺が村長に掛け合う。あの人なら必ず代わりを用意してくれるはずだ」

狐神「…………」

狐神「…………本当に終わるつもりなのかの…………?」

お祓い師「……ああ、本当だ」

狐神「……そう、か……」

お祓い師「…………」

お祓い師「そうだ。俺とお前の貸し借り借金諸々、今日でチャラ。終わりだ」

お祓い師「そんなモンに縛られた旅もな」

狐神「……お、ぬし……?」

お祓い師「ところで狐神。俺はとある募集をしていてだな」

狐神「ぼ、募集……?」

お祓い師「ああ、同行者の募集だ。借りとか貸しとか一切ない状態から、対等な立場で一緒にいてくれる奴を探しているんだ」

お祓い師「お前はそんな奴を知らねえか?」

狐神「…………おぬし…………」

狐神「…………」

狐神「……ふふっ……なるほどのう……」

お祓い師「で? 知っているか知らないか? 知っているなら紹介してくれたりしねえかな?」

狐神「もちろん知っておるぞ」

お祓い師「ほーう? それは誰だ」

狐神「ふふ……それはのう……」

今章もこのスレ内では収まらないとわかりましたので、次回から新スレで続けます。
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