あかり「シンデレラと」櫻子「魔法使い!!」 (60)

ゆるゆりのさくあか(赤座あかりちゃんと大室櫻子ちゃん)の短いSSです。

よろしくお願いします。

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小さい頃に読んだ絵本にシンデレラという物語があって、登場人物のシンデレラという女の子に憧れていました。



シンデレラはいじわるな継母やその連れ子のお姉さんの嫌がらせにも耐えて、めげずにせっせと働いていました。


両親のいない、身寄りもないシンデレラを助けようって思う人は、誰もいません。


それでもシンデレラは関係なく耐えながら働いていました。


きっと、がんばって努力をしたら報われると願って。

そしてある日、お城で舞踏会が開かれることを知ったシンデレラは舞踏会に行ってみたいと願いました。


しかし、お城に着ていくドレスがなく途方に暮れるシンデレラ。


そんな困った時に魔法使いが現れて魔法できれいなドレスを着せて、ガラスの靴を履かせて、カボチャの馬車でお城まで連れて行って……王子様と出会い、一緒にダンスをします。


しかしシンデレラは零時の鐘が鳴ると魔法が解けてしまうため、時間になると慌てて王子様から離れてしまいます。


階段にガラスの靴を、落としたのも気づかずに。

そして町に下りた王子様がガラスの靴の落とし主の女性を探している時に、シンデレラを偶然見つけて、ガラスの靴を履いてもらうとぴったり合って、王子様がシンデレラをお妃様に迎えて、幸せに暮らしました。



というお話です。

小さい頃のあかりはそんなシンデレラを見て『キラキラ輝いていてきれいだね』ってお姉ちゃんに話していたっけ。


あかりも、そんな努力家で、きれいなシンデレラに憧れていた。


ううん。今もひっそりと憧れを抱いている。


いつか、あかりもシンデレラみたいになれるかなぁ?







でも、実際にはなかなか上手くいかなくて……


「赤座、今回のテスト、もう少しがんばろうな」


「……はい」


「大丈夫、次がんばればいいさ。お前はやればできる奴なんだから」


理科担当の西垣先生はそう言って励ましてくれるけど、テストの点数がなかなか上がらず、伸び悩んでいた。

勉強ならいっぱいしてるのに……どうしたんだろう?

きっと、まだまだ努力が足りないんだよね。


そう思って、いつも夜の9時に寝てるけどしばらく徹夜でいっぱい勉強をした。


もっとがんばれば、いっぱいがんばれば、大人にだってなれる。


大人になったら、シンデレラに近づける、そう信じて。






そんな日々がしばらく続いた。


学校でも眠かったけど、そうも言ってられない。


朝、教室に着くと先に来ていた櫻子ちゃんに声をかけられた。


櫻子ちゃん、今日は早いなぁ。


「あかりちゃん、おはよう」


「あ、櫻子ちゃん。おはよぉ」

そう笑顔で挨拶するけど櫻子ちゃんは「あのさ、あかりちゃん」と少し心配そうに尋ねてきた。


「また、今日も寝てないの?」


「えっ?」


一瞬ドキッとした。


普段のあかりは心配されないように、周りに気付かれないように過ごしていたから。


でも、櫻子ちゃんだけは気付いていたみたいだった。


「ダメだよ寝なきゃ!あかりちゃんいつも9時には寝るんだし、つらいんでしょ?」


「そ、そんなことないよ。あかりは平気だよ?」


「でもさ……」

キーンコーンカーンコーン


始業のチャイムが鳴り、入ってきた先生に席に着くようにと促される。


「何かあったら、言ってね?」


「うん。ありがとう」


櫻子ちゃんのそんな優しさが嬉しくて、正直に言おうと思ったけど、やっぱり我慢しなきゃって思う自分もいて、少し胸が痛んだ。







授業中もがんばって眠いなか起きていたけど、今にも頭を机にぶつけそうで……少し、頭も痛くなってきた。


四時間目の授業も終わり、お昼休みになってあかりはお昼ご飯の後にお手洗いに向かった。


「顔、洗わなきゃ……」


うぅ……やっぱり眠いなぁ。


さすがに櫻子ちゃんだけじゃなく、向日葵ちゃんやちなつちゃんにまで心配されてしまった。


心なしかご飯を食べてる時も、皆沈んでたような気がする。

きっとあかりのせいだよね。


「これ以上、心配されないようにしなきゃ……」


もっとしっかりしないと。


でないと……ずっとこのままになっちゃう。


「あかりちゃん」


「わっ!?」


その声にびっくりして振り替えると、後ろに櫻子ちゃんがいた。


「そんなに驚かなくても……」


「えへへ、ごめんねぇ。急にだったから」

がんばって笑顔を作るけど、櫻子ちゃんの顔は変わらずに心配そうだった。


「あかりちゃん、やっぱり少し休んだほうがいいよ」


「あ、あかりは平気だよぉ」


「でも私は、そうとは思えないんだけど」


「……」


そうハッキリ言われて黙ってしまう。


後ろも壁があるから周りから見たら櫻子ちゃんに追い詰められてるみたいになってしまっていて、余計に喋れなくなってしまった。

「あかりちゃん、ごめんね。私、怒ってるわけじゃないんだよ?ただ、あかりちゃんが心配なだけで……」


「う、うん……」


「もう一回聞くけど、ホントに大丈夫なの?」


「うん、平気……だよ?」


おそるおそる答えると櫻子ちゃんは「そっか」と言って納得してくれた。

「だったらいいんだけどさ……それじゃあ、あかりちゃんにお願いがあるんだ」


「ど、どうしたの?」


「実はさー、私ね、今ちょっと頭痛がしててさー、保健室に連れて行って欲しいんだよね」


「えっ、そうなの!?大丈夫?」


今日の櫻子ちゃんは特にそんな素振り見せなかったけど、ガマンしてたんだ……


「うん、なんとか。でも頭痛がするからさ……一緒についてきてくれる?」


「う、うん。分かったよ」


「よし、じゃあ行こう」

櫻子ちゃんがあかりの手を引いて、トイレを出て保健室に向かう。


でも、櫻子ちゃん……頭痛って言ってるけど、あかりより先に歩いてるし、元気そうにも見えるような……?

「おっ、大室と赤座」


「あっ、西垣先生!!」


保健室に向かう途中、たまたま西垣先生とすれ違った。


「先生、次の理科の授業なんですけど……」


「うむ、吉川と古谷から事情は聞いている」


「そうですか、良かった」


「えっ?」

事情?なんのことだろう。


「だから、ゆっくり休め。今日は小テストがあったけどお前たち二人は特別に別の日に変更しよう」


「えっ?あかりも?」


櫻子ちゃんだけじゃないの?あかりは平気なのに。


「せ、先生!」


「ん?どうした、赤座」


「あ、あかり……授業出れます!小テストがあるなら尚更出なきゃ……」


必死に西垣先生に言うけど、先生はあかりの肩を軽く叩いて「いいから」と微笑んでくれた。

「じゃあ大室、今日は保健の先生も不在だから、赤座を任せたぞ。逃げ出さないようにな」


「はい!先生!!」


「えっ?あかりが任されるの!?」


櫻子ちゃんじゃなくて!?

「いいからいいから、さあ保健室までレッツゴー!!」


「ちょ、櫻子ちゃん!?」


そう言って櫻子ちゃんはあかりの手を引いて保健室まで歩いていった。




「はい、到着ー!!」


保健室の扉を開けると、ホントに誰もいない様子だった。


保健室の先生の机を見ると『不在中』という書き置きも置いてあった。


「じゃあ、あかりちゃん寝よっか?」


「櫻子ちゃん、やっぱり頭痛じゃなかったんだね」


「うん、全然平気」


「だよねぇ……」


薄々気付いてはいたけど。

「ウソついてごめんね。でも、あかりちゃんが心配だったからさ」


「あ、あかりは別に眠くないもん」


「おおう……まだ意地張るんだね」


「だって、ホントのことだもん」


あかりがそう答えると、櫻子ちゃんは「うーん、困ったなぁ」と言いながら顎に手を当てて考えていた。


そしてしばらくしてすぐに「そうだ」と言って何かを思いついたようにポンと手を鳴らした。

「じゃあ私が眠いから、あかりちゃん付き合ってよ」


「ええっ、何それ」


「私、実は眠くてさー、今も倒れそうなんだよね」


そう言いながら櫻子ちゃんがベットに横になって、ポンポンと隣を促してきた。


「でも誰かが隣にいないと安心して眠れない体質でさー、だから一緒に寝よ?」


「でも、あかりは……」


頑張らなきゃいけないし、休んでる場合じゃ……


「あかりちゃん」

あかりが迷っていると櫻子ちゃんは一際優しい声で「おいで」と誘ってくれた。


「西垣先生も許してくれたし、皆も怒らないからさ……たまにはゆっくりしよ?」


「櫻子ちゃん……」


「ね?」


櫻子ちゃんの何でも許してあげるといったような優しい呼びかけに負けて、「うん」と頷き、櫻子ちゃんの隣で横になった。

「えへへ、やったぁ」


「もう、少しだけなんだからね」


「まあまあ、少しと言わずに休める時に休んどこうよ」


「……うん」


二人だけしかいないからか、静かで、落ち着いていて……なんだか安心する。


あかりと櫻子ちゃんの間にしばらく沈黙が続いていた。

「……ねえ、あかりちゃん」


「ん?」


沈黙を破るように櫻子ちゃんが尋ねてきたので、あかりは首だけ櫻子ちゃんのほうに向けた。


「どうしてそんなに頑張ろうと必死になってたの?」


櫻子ちゃんもあかりのほうに向いて話かけてきた。

「えっと……でも、ちょっと恥ずかしいなぁ」


「だいじょーぶ。誰にも言わないから約束するよ」


櫻子ちゃんがあかりの手を取って、自分の小指とあかりの小指だけ絡ませて指切りをしてくれた。

櫻子ちゃんって、どんな時でもやっぱり優しいなぁ。


普段はよくあかりにいたずらしたりするけど、それが櫻子ちゃんなりのスキンシップだって知ってるから、櫻子ちゃんの優しさが伝わってくる。


櫻子ちゃんはいつもあかりに『助けてくれてありがとう』って言うけど、助けてもらってるのはあかりの方だよ?

そんな櫻子ちゃんに、今だって助けられてるんだよ?

「櫻子ちゃん、いつもありがとう」


「えへへ、あかりちゃんのためなら何だってするよ!」


ホントに頼もしいなぁ。


あかりも、恥ずかしいけどちゃんと話さないとね。


「うん。実はね、あかり……シンデレラに憧れていたんだぁ」


「シンデレラ?」

櫻子ちゃんがキョトンとした顔をしたので顔を真っ赤にしてしまう。


「あの、えっと……や、やっぱり恥ずかしい」


「いいじゃん、気にしなくて。私しかいないし、笑ったりしないからさ」


櫻子ちゃんの表情を見ると、真剣そのもので、真面目に聞こうとしてくれている。

「うん。シンデレラって継母たちにいじめられてたりしたけど、それでも真面目にがんばって働いてるところが健気で、それで真面目に働いたから最後は王子様と結ばれて、シンデレラもキラキラしてて……」


それが眩しくて……なんだかかっこよくも思えて。


「いつかあかりもこんな女の人になりたいって憧れてたんだぁ」


そう答えると櫻子ちゃんは「ふむふむ、なるほど」と感心しているようだった。

「あかりちゃんがさ、前に大人に憧れていたのも、それが理由?」


「うん。ある意味そうだね」


「そっかー、なるほどね。でもさ」






「それだったらあかりちゃんはもうシンデレラの夢、叶っちゃったね」





そんなことを櫻子ちゃんがいきなり言うから、あかりは「え?」としか答えられなかった。


「どうしてそう思ったか、分かる?」


「わ、わからないよぉ。あかりはそんなにキラキラしてないし……」


「ううん、そんなことないよ。私が知ってる」

「でも、勉強も行き詰まってて……」


「それでも、夜遅くまで勉強してたこと、放課後に残って勉強してたことも、知ってる」


「どうして……?」


「うーん、いつも見てたから。こう見えてあかりちゃんのこと、私なりに心配してるんだぞー」


そう答えながらあかりの頭を優しく撫でてくれた。

なんだか小さい子供みたいで、恥ずかしいけど。


「それに私、あかりちゃんの話を聞いて思ったんだ。」


「?」


「シンデレラって、お城に行くときに魔法使いに魔法をかけてもらうよね?」


「うん。きれいなドレスとガラスの靴、それとカボチャの馬車も用意してもらって……それがどうしたの?」


あかりが不思議そうに尋ねる。

「きっとね、魔法使いが魔法をかけたのはシンデレラが今までがんばっていたのをずっと見ていたからだと思うんだ。シンデレラの陰での努力全て。そう、今のあかりちゃんみたいに」


「あかり、努力なんてまだまだで……」


「そんなことないよ。あかりちゃんはがんばってる。今も努力してるし、誰かのお手伝いをしたり、気付いた時は誰かを、私を助けたりしてて、いつも尊敬してるよ?」


「櫻子ちゃん……」






「えっと、私が言いたいのはね、シンデレラって物語は努力した人は報われるって話なんだと思うんだ。だから最後にシンデレラは幸せになれた」










「あかりちゃんは自分のことシンデレラじゃないって思うかもしれないけど、あかりちゃんは十分シンデレラだよ!!」









「いつもあかりちゃんのことを、ずっとそばで見てた、あかりちゃんの魔法使いである私が証明するよ!!」




「……そう、かな?」


「そうだよ!!」


あかりのことを見てて、あかりのために一生懸命話してくれる、そんな櫻子ちゃんはシンデレラみたいにキラキラ輝いていた。


「櫻子ちゃん」


「ん?」


「ありがとう」


「えへへ、どういたしまして」


櫻子ちゃんのそんな励ましが嬉しくて、あかりにも笑顔がこぼれた。

「うんうん、やっぱりあかりちゃんにはそういう笑顔が似合ってるよ」


「えへへ……ふわぁ~」


なんだか安心すると、また眠気が押し寄せてきた。


「やっぱり、まだ眠い?」


「うん、ちょっと眠いかも」


「じゃあ、私も付き合ってあげよう」

「ええっ、悪いよぉ」


「でもあかりちゃんが逃げ出さないように監視しなきゃいけないんだもーん」


「もう、そんなことないのに」


「でもさっきまで寝ないってだだこねてたのは、誰かなぁ?」


櫻子ちゃんはいたずらっぽい笑顔を浮かべて、あかりのほうを見た。


うぅ、否定できないよぉ。

「ちゃ、ちゃんと寝るよぉ」


「よしよし、それじゃあ……」


櫻子ちゃんがあかりを自分の胸まで引き寄せて、頭を優しく撫でる。

「櫻子ちゃん、さすがにあかりそこまで子供じゃないよぉ」




「ごめんごめん。でもこうやってると、なんだか落ち着かない?」




「……うん」




櫻子ちゃんのぬくもりが心地良くて、なんだか落ち着くかも。

「幼い頃に花子にもやっててさ、これやると花子もすぐ眠ったんだよね」




「…………うん」




「だからちょっとは眠りが良くなるかなって思って……」




「……櫻子ちゃん」

「……ん?」






「……櫻子ちゃんは……あかりに……とって…………魔法使いで……………」








「…………………スー、スー」






「……最後、なんて言おうとしたんだろう?」




「でも今はいいや、あかりちゃん幸せそうだし」




「ふふっ、眠ってても笑ってる」




「少しは安心したかな?ふわぁ~………」




「あかりちゃんの寝顔見てたら安心して、私も眠くなってきちゃった……」

「それじゃあおやすみ、あかりちゃん……」




「……一緒に……いい夢…………見れたらいいね……………」




「………………スー、スー」





ーーーーーー
ーーーー
ーー





ガラララッ


「おーい二人とも、もう放課後だぞー」


「…………」


「うむ、まだ寝てるな」


「…………」


「まあまだ完全下校時刻じゃないし、そっとしておくのもいいか」


「…………」クスッ


「ん?急に笑ってどうした松本?」

「…………///」


「なんだか二人の寝方を見ると、王子様がお姫様に抱き寄せて一緒に寝てるように見えて、だって?ええっと、そうか?」


「…………」プンプン


「すまんすまん。まあ確かにそう見えなくもない、かもな?」


「うーん…………」


「おっと、じゃあ起こすのも悪いし、私たちは退散するか」


「…………」コクッ


ガラララッ、ピシャ

「シカシ、マツモトモろまんちすとダナー……」


「イテテッ、スマンスマン……」


スタスタ……






「うーん、シンデレラー……」ムニャムニャ


「ずっと一緒だよぉ、王子様ぁ」ムニャムニャ






【終わり】

これにて終わりです。

最後まで見てくださった方、ありがとうございました!!

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