ジャック・ハンマー「豆の木……ッッ!?」(38)

バッファロー「ブモオオオオオッ!」ドドドドドッ

ジャック「フンッ!」ブンッ



ガキィッ!



ジャックのアッパーカットが火を噴く。

数メートル空中に打ち上げられたバッファローは、そのまま地面へと墜落した。



ドシャアッ……!

刃牙「ヒュウ~、さすが兄さん」パチパチ…

ジャック「バキ、オマエでもあれぐらいできるだろう」

刃牙「どうだろ……。倒すのはともかく、あそこまで打ち上げるってのはなかなか……」

ジャック「今夜はこいつが晩飯だ。俺一人で運ぶから、先に帰っててくれ」

刃牙「きっとオヤジも歓喜(よろこ)ぶよ」

ジャック「…………」ニィ…

体重1トンを超えるバッファローを肩に担ぎ、町を歩くジャック。



ジャック「…………」ズチャッ…



ザワザワ…… ドヨドヨ……

「スッゲェ~」 「牛を軽々と担いでるよ」 「プロレス……?」

すると――



ホームレス「君は……強さに飢えているようだな」

ジャック「…………」ピク…

ホームレス「どうだろう、この豆と君の牛を交換してもらえないか?」

ホームレス「そうすれば、君はさらなる強さを得ることができるだろう」

ジャック「ホウ……」



ホームレス(これで今夜のワシの食卓は守護(まも)られた……)

勇次郎「騙されたな、キサマッッッ!!!」

ジャック「…………ッ!」

勇次郎「晩飯をこんな豆と交換などしおって……ッ!」

勇次郎「愚か者がッ!!!」ブンッ



ボッ!



激怒し、庭に豆を投げ捨てる勇次郎。

重さ数グラムにすぎない豆が、地面にめり込むほどのスピードであった。

勇次郎「やはり、キサマは血が薄い」クルッ

勇次郎「今晩、キサマはメシ抜きだ……外で過ごせいッッッ!!!」

バタァンッ!!!

ジャック「~~~~~~~~~~ッッッ!」



ジャック「…………」

刃牙「に、兄さん……」

ジャック「いいんだ、バキ。オマエも中に入れ」

刃牙「ゴメン……」バタン…

ジャック(せっかく狩った獲物を、よもや豆一粒と交換してしまうという失敗(ミス)!)

ジャック(なんという屈辱……なんという醜態……)

ジャック「…………」ウルッ…

ジャック「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」





ジャックが咆哮した瞬間、豆に異変が起こった。

ニョキ……ッ ニョキニョキ……ッ ニョキ……ッ



ジャック「~~~~~~~~~~ッッッ!」

ジャック「なんだいこりゃ……」



豆から生えた芽は、瞬く間に天まで到達していた。



ジャック「豆の木……ッッ!?」

豆の木から発せられる異常な闘気に、ジャックは気圧されていた。



ジャック(この豆の木……俺を誘惑(さそ)ってやがる!)

ジャック(いいだろう……乗ってやろう)

ジャック「登頂(のぼ)ってやる!!!」



ジャックは豆の木への挑戦(チャレンジ)を決意した。

ジャックは鍛え抜かれた肉体で、順調に豆の木を登っていく。

しかも――



ジャック(より早く――)

ジャック(より速く――)

ジャック(より疾く――)

ジャック(より短時間(はや)くッッッ!)



時間制限など設けられていないのに、どんどん手足のスピードを上げていく。



いかなる状況をもトレーニングとす。

これが、ジャック・範馬である。

100メートル――

200メートル――

300メートル――



転落すれば絶命は免れない高さ。

にもかかわらず、ジャックの動作には微塵の恐れも感じられない。



ここで転落すれば俺はそこまでの男だったということ。

明日を見ていないジャックだからこそ、恐れず天に挑めるのだ。

上空1000メートル――



ついにジャックは豆の木の頂上まで到達した。



ジャック「ナルホド……」

ジャック「ここからが本番というワケか」ニィ…



ジャックの眼前には、雲の大地が広がっていた。

ジャック「…………」スタッ

ジャック(この雲……固さはコンクリート以上か)ゴッゴッ





ズシン…… ズシン……





ジャック「…………ッ!?」

巨人「ン~……? オヤオヤ……」

巨人「こんなところに人間が来るとは……久しぶりだな」ニィ~

ジャック(巨体(でか)い……ッ)



骨延長手術により、2メートルを超える身長を手に入れたジャックが、遥か見上げる高さ。

人や動物というより、建造物といっていい巨体さである。



ジャック(おそらく……10メートル以上はある……)

ジャック(しかも……その巨躯を殺さぬ身体能力を持つ……ッッ)

巨人「せっかくここまで来たンだ……チョット遊んでいきたまえよ」ズシン…



巨人の言葉には、明らかな殺気が含まれていた。

たとえ断っても、巨人はジャックを無事に帰すつもりはないだろう。



無論――ジャックに断るつもりなど毛頭ない。



ジャック「好みのタイプだ」

巨人「シィィッ!」ギャッ



巨人がその巨体からは考えられぬような俊敏な踏み込みで、ジャックに迫る。



もわっ……

ジャック(なんという圧力……ッ)

ジャック(だが、ここで退くようでは――弟にも、父にも、届かぬッ!)



ジャックは真っ向勝負を選択した。

ドギャアッ!!!



巨人「…………ッ!」グラッ…

ジャック「~~~~~~ッ!」グラァッ…



ドギャッ! ガキィ! ベチィ! ガッ! ドグァッ!



2メートルと10メートルが、真正面から堂々と殴り合う。

巨漢を制するには、体の末端へ狙いを絞るのが定石だが、
ジャックは巨人の正中線――中心部に突き進む。

巨人(なぜ倒せない!? 飛ばせない!? 止められない!?)

巨人(私の方が重量(おも)いハズ! 巨体(でか)いハズ! 強靭(つよ)いハズ!)

巨人(なのに――)

ジャック「シャッ!!!」ブンッ



ドズゥッ!!!



ジャックの跳躍しながらのアッパーカットが、巨人のボディにめり込んだ。



巨人「~~~~~~~~~~ッッッ」ガハァッ

しかし――

巨人「調子こいてんじゃねェぞ、アリンコがァァァッッッ!!!」グオッ



メキャアッ!!!



ついに、巨人が本気(マックス)になった。



ドゴォッ! ドギャッ! ズドォッ! ガッ! ベッチィィッ!

巨人怒涛の猛攻に、劣勢になるジャック。

ジャック「きた」ピシッ



ジャックにもまた、“マックス”が訪れた。すなわち、マックシング。



ジャック「噛みがいのある肉だ……」

ぞぶっ……

巨人の拳に噛みつき、その肉を食いちぎる。

ブチィ!

巨人「OH~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

ザキィッ! ドギャッ! ビッ! ドガッ! ガッ! ドキャ!



激痛(いた)みで及び腰になった巨人に、ジャックが嵐のような連打。

10メートル以上ある巨人の全身が、ぐらぐらと後退する。



このままジャックの勝利か!?

否――

巨人の強者としての本能は、この窮地において敵を屠る名案を導き出す。



巨人「シェアアッ!!!」バッ

ジャック「!」

ズンッ……!





フライングボディプレス――

自身の建造物級といっていい巨体を、もっとも活かす攻撃方法。

単純(シンプル)ゆえに、強力(ストロング)!!!



ジャックはなすすべなく、巨人の下敷きとなった。

ぎゅうぅぅぅぅ…… ぎゅむぅぅぅ……



ジャック(脱出(でら)れない……ッ!)

ジャック(このままでは……窒息、あるいは圧死……ッ!)



いかにマックシング状態のジャックとはいえ、

押し潰された体勢から、建造物級の巨体を持ち上げるのは至難……ッッ



ジャック(死――!)



打つ手なし!!!

刃牙『たかが、図体がデカイだけの相手にこのザマかい……』

刃牙『アンタはもうファイターとして終わりなんだよッッッ!』

勇次郎『敗れるのは当然のこと。あれが血が薄い』





ジャック「~~~~~~~~~~ッッッ!」





ジャック(父よ……バキよ……)

ジャック「俺ダッテ――出来ルンダ!!!」メキメキィ…



ググッ…… グググッ……

ジャックは押し潰された状態から巨人を持ち上げると――



巨人「ヌゥ!?」

ジャック「ガアァァァッ!!!」メキメキメキィ…



ドザァァッ……!



巨人を投げ飛ばしてみせた。



巨人「ホワイ!? 不可能(インポッシブル)だ……こんなこと……ッッ!」

巨人に背を向けて立つジャック。

それを見た巨人は――



巨人(オ、悪鬼(オーガ)……ッッ!?)



ジャック「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」ギャッ




“鬼”と化したジャックが疾走(はし)る。

ベキィッ!!!

ジャックのローが、左足を完全破壊。

ボグッ!!!

胸部に右ストレートを浴びせ、胸骨を完全粉砕。



そして――



グワキィッ!!!



トドメのアッパーカット。

人の頭ほどの大きさの歯を撒き散らし、巨人は崩れ落ちた。




ドズゥゥゥ……ンン……



勝負ありッッッ!!!

巨人との戦いを終え、地上へと降り立ったジャック。



ジャック「!」





刃牙「兄さん……」

勇次郎「…………」

刃牙「おめでとう、兄さん」

勇次郎「フン……」

勇次郎「少しはモノになったようだな」



ジャック「……アリガトウ」



勇次郎と刃牙の横には、ズタボロにされたホームレスと
ジャックが狩ったバッファローがあった。

刃牙「…………」モニュ…ハグ…

ジャック「…………」モグ…モニュ…

勇次郎「…………」メリ…モニュ…




今宵、覚醒(めざ)めた新たな鬼への祝福か――

無言で……しかし、ウマそうに、よく焼けた牛の肉を頬張る範馬の一族であった。









                                     おわり

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