シャル「幸せになりたい」(583)

http://logsoku.com/thread/hayabusa.2ch.net/news4vip/1329208444/
↑前スレ的なもの
別に読まなくてもおk
シャル√アフターという認識さえ持ってくれれば

というわけで完結編、投下

――織斑一夏たちがis学園を卒業してから4年後――

~とある国のとあるホテルのとある展望レストラン~

鈴「やっほー。待った?」

セシリア「鈴さん。ご無沙汰しておりますわ」

鈴「久しぶりね。結局来たのはセシリアだけかー」

セシリア「何ですのその言いぐさは。私では不満ですの?」

鈴「逆よ逆。せっかくあたしの入賞祝いだってのに他の皆の薄情さに呆れているのよ」

セシリア「まぁまぁ。皆さんお忙しいですし」

鈴「そうなんだけどねー…シャルロットたちはしょうがないにしても、せめてラウラは来てほしかったわ」

セシリア「うーん…やはりこの時期が一番お忙しいようですわ。新しい資格の勉強も始めなされたようですし」

鈴「そっか…でもセシリアだって忙しい合間縫って来てくれたんだからさー…。
  今日来なかった連中にアンタの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわよ」

セシリア「あら? 篠ノ之さんは誘ってませんの?」

鈴「あーアイツは…別にいいや」

セシリア「?」

鈴「…ごめん、何でもないわ。始めましょう」

セシリア「え、えぇ…」



セシリア「では…凰鈴音さんのisオリンピック第3位入賞を祝って…」

鈴「かんぱーい!」

カキン☆

セシリア「この度は本当におめでとうございます」

鈴「うん! ありがとっセシリア!」

セシリア「本当におめでとうございます。すごい快挙ですわ」

鈴「なーに言ってんのよ。特訓の成果虚しく3位よ3位。あー、準決勝の相手は勝てない相手じゃなかったのが堪えるわ…」

セシリア「いや何言ってんですか…初出場でメダル獲得という時点で充分バケモノですわよ…」

鈴「えっへへまーね。昔からフットワークには自信あったし。結構天職だと思ってるわよ」

セシリア「しかし…元代表候補生とは言え、あんな大手isメーカーの専属アスリートに選ばれるなんて…尊敬してしまいますわ」

鈴「来期はもちろん優勝を狙うわ! ちゃんと録画しておいてね! もちろん最高画質最高音質で!」

セシリア「では鈴さんに言われて揃えた保存用、観賞用、宣伝用に焼いた3枚の今期の映像は無駄に…」

鈴「つ、次こそは! 次こそは絶対勝つから!」

セシリア「冗談ですわ。本当におめでとうございます」

鈴「そーいやセシリアって何してんの? 忙しいってことだけは知ってるんだけど」

セシリア「…私の場合は実家が実家ですから。やはりオルコット家の繁栄に奮闘する毎日ですわ」

鈴「貴族のことってよくわからないけど、やっぱりしがらみとか多そうよね」

セシリア「そうですわね。外面上では協定や協力関係を遵守していますが、やはり古くからの因縁はどうしても付きまとうものですわ。
      隙あらば吸収してしまおうと狙う輩が後を絶ちません」

鈴「そっかぁ…大変ね」

セシリア「…でも最近、そればかりではいけないと感じまして。確かに実家の発展に尽力することは私の家系の前提ですが、
      これからはもっと積極的にオルコット家のために働こうと思いますの」

鈴「お、具体的には?」

セシリア「取りあえずは我が国の治世について目下勉強中ですわ。被選挙権を獲得したら議員に立候補して、内側から変えていこうかと」

鈴「ひぇー、すごいわね…国を動かす気なの?」

セシリア「古い慣習は過ぎれば呪いと同義でしてよ。それを断ち切るには、国の中から変えていかねばなりません。
     それに政(マツリゴト)での発言力を得られれば、我がオルコット家の立場も確固たるものとなるでしょうし」

鈴「…すごいわね。暴れまわるしか能のないアタシなんかよりもよっぽど立派だわ」

セシリア「そんなことありませんわ。鈴さんも充分ご立派ですわ」

鈴「ははは。ありがと、セシリア」

鈴「立派と言えば…ラウラどうしてる?」

セシリア「この間お会いしましたが、お元気でしたわ」

鈴「へぇ。ちゃんと先生やれてるんだ」

セシリア「くすっ。まだ学ぶことが山積みだと仰ってましたわ」

鈴「そっかぁ。不器用ながらもちゃんとやってんのね」

セシリア「えぇ。様になってましたわよ」

鈴「職場まで千冬さんの後を追っかけるとは、ちょっと意外だったわよね。でも軍隊長の二足の草鞋なんでしょ?」

セシリア「軍隊は有事のとき以外は専ら暇だそうですわ。…今じゃ随分と平和ですから、ラウラさんはいてもたってもいられなかったのでしょう」

鈴「ははは、就職理由が『平和だから』って言うんじゃ、世はこともなし、ってね」

セシリア「まったくですわ。それに織斑先生…今は教頭でしたね。織斑教頭の言っていた『大切な者を守りたい』
      という気持ちをもっと理解したい。そうとも仰ってましたわ」

鈴「そっかぁ…。初対面の時ははっきり言って大嫌いだったけど、今じゃ尊敬できる友人ね」

セシリア「ハハハ…二人がかりで返り討ちにされたのは忘れられませんわよね」

鈴「まーそれも含めて、今じゃいい思い出よね」

セシリア「ええ、まったく」

鈴「…ラウラも充分驚いたけどさ」

セシリア「えぇ。シャルロットさんたちのは何というか…常軌を逸してましたわね」

鈴「そうよねー。あの二人が付き合い始めたってのもそれなりにショックがデカかったけど」

セシリア「…おそらく、その頃からだったんでしょうね」

鈴「ん? 何が?」

セシリア「ほら。シャルロットの父君…失礼。元、ですわね。彼らからのアプローチがやたら激しくなったのは」

鈴「あーそりゃそうよ。だって当初の名目が晴れて達成されてさ。そりゃ手の平返しぐらいはやってのけるって」

セシリア「シャルロットさんたちは要求を頑なに拒み続けていたのに、最終的にはis学園にまで来て教室で堂々と土下座までなさったんですから」

鈴「あんときは流石のシャルロットもブチ切れてたわね…」

セシリア「えぇ…あれは忘れられません。トラウマとも言いますが…」

鈴「あたし本気で怒ったシャルロット見たとき、マジでおっかないと思ったわ」

セシリア「同意ですわ…。あれは本当に恐ろしいものでした…一夏さんが言ってらしたことがわかりますわ…」

鈴「『一番怒らせると怖い人』か…。確かに普段温和だと、怒ったときのギャップは凄まじいけどさ」

セシリア「いやいやいや…あれはそういう次元の憤怒ではありませんでしたわ…」

鈴「何かもういろんな意味で完敗してるわよね、アタシたち…」

実は書き溜めていたのはここまで…
とりあえず切りのいいとこまで書いていく

鈴「…別にあの頃の自分が負けているなんて思ってないけどさ」

セシリア「はい?」

鈴「…シャルロットて、本当に一夏さんのことが心から好きだったんだね。自分の親に本気で怒れるほど、大切なくらいにさ」

セシリア「…その想いでは、私だって負けていたとは思っていませんわ」

鈴「…ねぇ、セシリアってさ」

セシリア「はい?」

鈴「…あいつのこと、諦めたわけじゃないの?」

セシリア「…一応質問の意図をお聞きしても?」

鈴「だってさ。セシリアその若さで色々と凄いこと目指しているんでしょ? イギリスの名家の娘でしかも元代表候補生。
  言い寄ってくる男はいっぱいいたでしょ?」

セシリア「…確かにそういうご縁はひっきりなしに戴いておりますが」

鈴「…やっぱアイツの事を意識しちゃう?」

セシリア「…そうなのかもしれませんわね」

鈴「けど、アイツはかなり特殊な例よ? そういうのを期待しているんだったらやめた方がいいわよ」

セシリア「分かっておりますわ。というより、今はそういった色恋などは置いといて、自分の出来ることを見つめなおすところから始めようかと」

鈴「…やっぱりセシリアは立派だよ。アタシなんかよりずっと」

セシリア「そんなこと―――」

鈴「あるの。アタシさ…今でもたまに挫けそうになる。あの2人の事を思い出すと」

セシリア「…鈴さん。淑女協定をお忘れですの?」

鈴「忘れるわけないでしょ。抜け駆けしない、そして一夏が誰を選んでも恨まない。
  でも、あんなのって所詮は表面上での取り決めじゃない。そんな破られることが前提の口約束を理由に、割り切れるわけないわ」

セシリア「……」

鈴「あいつとシャルロットが正式に付き合うことになって、でもやっぱり諦め切れなくて、卒業式の日に告白して…」

鈴「…それでね。やっぱりダメだった。その後すごく泣いたわ。もうこれでもかって、一生分かってくらい泣いた」

鈴「過去を引きずるような真似はしたくない。それは本当にそう思ってる。
  でも、やっぱりたまに幸せそうな2人を見てると、ちょっと悲しくなるわ」

セシリア「…そう、でしたの」

鈴「セシリアは? そういうことはなかった?」

セシリア「…勿論そうでしたわ。知っての通り、私も学生時代の最後の日に、一夏さんに想いを告げましたわ」

セシリア「結果は見事玉砕でしたわ。分かっていたとはいえ、やはり悲しくなりました」

セシリア「その後は鈴さんと同じです。ただ泣きじゃくりました。化粧が落ちるのも気にせず、自分がどんなな醜態を晒しているかも厭わず、
     ただただ滂沱の涙を零していました」

鈴「………」

セシリア「結婚されたときも、正直言ってなんで私を差し置いて、という気持ちも少なからずありましたが…」

セシリア「反面、何だか安心した気持ちの方が強かったですの。何だか幸せそうな2人を見てたら、嫉妬している自分が馬鹿馬鹿しく思えてきましたわ」

鈴「…セシリアは強いね」

セシリア「ええ。恋する乙女は強いんです。それは貴女もでしてよ」

鈴「あたしなんか全然だよ。今だって気持ちの整理が出来ずに、スポーツでごまかそうとしているだけだもん」

セシリア「…そんなことではいけませんわ。競技場にしがらみを持ち込んでしまったら、来期の優勝も危うくなりますわ」

鈴「へいへい。どーで僻んでますよー、だ」

セシリア「もう…」

鈴「で、話を戻すけど」

セシリア「はい」

鈴「…確かアタシたちが卒業した直後だったっけ? デュノア社がコケたのって」

セシリア「…ええ。そうですわね」

鈴「あん時は他人事ながら、胸がすっとしたわ。散々一夏たちを追い回した結果がコレだもんね。
  もうお腹の中で『ざまぁ見ろ』ってゲラゲラ笑ってやったっけ」

セシリア「もう、はしたないですわね。さっきは諦めきれないみたいなことを仰ってましたのに」

鈴「それとこれとは話が別よ。シャルロットも一夏も友達だもん」

セシリア「そういうものですか」

鈴「そーいうもんよ」

鈴「で、話を戻すけど」

セシリア「はい」

鈴「…確かアタシたちが卒業した直後だったっけ? デュノア社がコケたのって」

セシリア「…ええ。そうですわね」

鈴「あん時は他人事ながら、胸がすっとしたわ。散々一夏たちを追い回した結果がコレだもんね。
  もうお腹の中で『ざまぁ見ろ』ってゲラゲラ笑ってやったっけ」

セシリア「もう、はしたないですわね。さっきは諦めきれないみたいなことを仰ってましたのに」

鈴「それとこれとは話が別よ。シャルロットも一夏も友達だもん」

セシリア「…しかし私は同情もいたしましたわ。結局はデュノア社の元社長、本妻の方と離婚させられ、多額の慰謝料も請求されてましたから」

鈴「それは、まぁ…確かに可哀想だとは思ったけどさ」

セシリア「正直言って女の風上にもおけませんでしたわ。むしろ元社長よりも婦人の方に憤りを感じてましたの」

鈴「…離婚、か」

セシリア「あ、すいません…別にそういう意図では―――」

鈴「いいのよ。結局アタシが何でもかんでも引きずらずにはいられない性分ってだけだから」

セシリア「鈴さん…」

うおなんてこった修正前の投下してたとは
>>18>>19に差し替えてくれ

鈴「ごめんね、辛気臭くなって」

セシリア「い、いえ…」

鈴「そんなわけで離婚騒動の方はアタシあまり直視してなくてさ。やっぱり無様な社長を見てゲラゲラ笑っていたわけよ」

鈴「まぁ…一夏たちが見事にアタシのスッキリをブチ壊してくれたけどね…」

セシリア「あれには流石に驚きましたわ…。心臓が飛び出るかと思いました…」

鈴「本当にアイツは菩薩を通り越して悪魔的にお人よしよね…。何で斜め上の行動を平然とやってのけるのかしら」

セシリア「あの時は怒っていいやら呆れていいやらで…まぁそれ以上に驚きで何も出来ませんでしたが」

鈴「本当よねぇ…」








セシリア「まさか一夏さんがデュノア社を買収するなんて…」

鈴「あれ、セシリアは知らないの? あれはね、正確に買収したのはシャルロットの方よ」

セシリア「え? そうなんですの?」

鈴「そう。名義だけは一夏のにして、実質的に経営してんのはシャルロットの方なの」

鈴「って、今じゃ結婚してるから名実ともに『オリムラ社』か…」

セシリア「何でそんなことを?」

鈴「…双方の合意あってのことらしいわ。まぁ相手さんも、実娘でもない娘に会社を譲るのは流石に避けたかったんじゃないかしら」

セシリア「それは理解できますが…でも、シャルロットさんに関しては解せませんわ。あんなに父親たちをを忌避してたのに」

鈴「…2人の間に何があったかまでは知らないけどね。まず間違いなく一夏が仲介に入ってるわよ」

セシリア「え?」

鈴「ほら、アタシの両親のことは知ってるでしょ? それで、何となく分かるの」

鈴「やっぱり親子が2人とも健全でいるなら…そりゃ、仲良くしてもらいたいに決まってるわ」

セシリア「…そう、でしたの」

鈴「まーあまり勘繰るような無粋な真似はよしましょう。事実、シャルロットも相当父親を許したってことでしょ。
  左遷という形をとったとはいえ、父親を下請け会社の最高経営責任者にまでしたんだから」

鈴「しかもこの後さらに笑えるのが…離婚した本妻が復縁を迫ってきたって噂があるのよね」

セシリア「そうなんですの? 初耳ですわ」

鈴「まー門前払いだったって話」

セシリア「当然ですわ。所詮は資産と社長のポストにしか興味ないということを世間に露呈させたようなもんですわ」

鈴「玄関でシャルロットに水ぶっかけられたって」

セシリア「…今、鈴さんの気持ちがわかりましたわ。確かに胸がすっとしますね」

鈴「おーはしたないですわ(裏声)」

セシリア「お、おちょくるのはよしてくださいまし!」

鈴「あはははははは」

セシリア「まったく…でも、そういうことでしたのね」

鈴「これが『オリムラ社』が創設された経緯ってわけ。一夏は主に広告担当で、経理経営はシャルロットで分担してるのよ」

セシリア「一夏さんは経営者という柄ではありませんものね」

鈴「ははは、言えてる。あのマスクなら広告塔にはもってこいだしね」

セシリア「話題性もさることながら…人脈もとんでもないですわよね、一夏さん」

鈴「言われてみれば…自身が唯一世界で男性でisを動かせるばかりか、肉親は世界最強で幼馴染にはisの開発者…。交友関係にはイギリス貴族にドイツ最強部隊に対暗殺部隊の頭領…」

セシリア「改めて考えると恐ろしいですわよね…」

鈴「そりゃそんだけパイプ持ってたら再建できない方がおかしいわよね…」

セシリア「あはは…まぁいきなりウチに10億ユーロほどの融資を求めてきたときは流石に驚きましたが」

鈴「いいじゃない。その甲斐あってか、今やisの世界シェア率第2位の大企業にまでなってんだから」

セシリア「まぁそんな融資も何倍になって返って来ましたが…株も8%ほど保有させていただいておりますし」

鈴「え…な、何それすごい! 大株主じゃん! あぁ、何だか自分で言ってて自分の境遇に泣けてきたわ…」

セシリア「い、いえ…鈴さんも充分立派ですわよ…」

セシリア「しかしまさか4年でここまでとは…。会社の基盤がある程度あったとはいえ、幾らなんでもこの再建の速さは脅威の一言ですわ…」

鈴「それが人脈の力でしょ。そしてまた自己嫌悪なう」

セシリア「お、お気を確かに…」

鈴「あはははは…」



セシリア「そうえいば『オリムラ社』の話題に関して言えば、外せない方がいますわよね」

鈴「ん、誰? いたっけそんなの」

セシリア「何言ってますの。篠ノ之さんのことですわ」

鈴「―――ッ」

セシリア「懐かしいですわ。今はどうされているのでしょうか。結婚式以来からまったく連絡も取れなくて…」

鈴「……」

セシリア「でも、篠ノ之さんについては本当に不可解ですわよね…。
     あれほど一夏さんに一途だったのに、結局あの方だけ卒業式に告白をなされずに――」

鈴「セシリア!」ガタッ

セシリア「!?」

鈴「そ、そのさ! 料理、食べない? 喋ってばっかだったから、オードブル冷めちゃってるわよ?」

セシリア「え…そ、そうかもしれませんが…」

鈴「うーん! やっぱりこんな高級ホテルのディナーは美味しいわね! セシリアも食べなよ!」

セシリア「……」

鈴「ほら、このスープだってすごく―――」

セシリア「鈴さん」

鈴「ッ……」

セシリア「…何か、隠してませんか?」

鈴「…何のこと?」

セシリア「隠し立てはいけませんわ。いくら私でも、貴女が篠ノ之さんの話題を避けたがっている事くらいは分かりますわ」

鈴「別に…隠していることなんかないわよ」

セシリア「…篠ノ之さんに、何かありましたの?」

鈴「…はぁ。まぁいいか。確かに言ってどうにでもなるような訳でもないし」

セシリア「何かおありましたの?」

鈴「…正直、アイツの顔はあまり思い出したくないわ」

セシリア「何故ですの。先ほど言っていた『オリムラ社』の再建も、篠ノ之さんがいなければ実現しなかったと言っても過言ではありませんわ」

鈴「ただ篠ノ之博士の仲介になっただけなのに? 確かに再建にかかった費用の半分以上は出してくれたらしいけどさ」

セシリア「そうあったのも、篠ノ之さんが誠意を持って博士に頭を下げたからではございませんの?」

鈴「…どうだかね」

セシリア「え…?」

鈴「アタシは…本当にアイツ、箒が一夏たちのために頭を下げたとは思っていないのよ」

セシリア「どういう、ことですの…?」

鈴「セシリアは、結婚式以来箒を見ていないって言ったよね? 会場でのアイツ、覚えてる?」

セシリア「え…ええと、新郎と新婦の方に目がいってしまってあまり見れませんでしたが…。
     そうえいば何というか、影が薄いというか、口数もそんなに…」

鈴「…そっか。アイツの事、そんなに見てなかったのね。ある意味で運がよかったかも」

セシリア「え?」

鈴「アタシもアイツも、一夏の幼馴染つながりっていうかさ。妙な縁を感じているのよ。
  それで、何となくアタシは見てたんだけど…」

鈴「…何というかね。よく分からないけど、得もいえぬ気色悪さを感じたの」

鈴「何ていうのかな…この世の気持ち悪い感情を全部ごちゃ混ぜにしたような、そんな目をしていた。
  少なくとも、シャルロットと一夏を祝福するような感じじゃなかった」

セシリア「そんな風にはとても…」

鈴「そうなのよ。アタシが見たのは一瞬だけ。その後は普通に朗らかに、皆の輪に加わっていた。何事もなかったように」

鈴「…でもね、アタシには演技にしか見えなかった。アタシが一番不気味に思っているのはそこよ。
  だってあの箒よ? あれだけ不器用にしか振舞えなかった箒が、あそこまで器用にスイッチを切り替える真似してたなんて考えられる?」

セシリア「……」

鈴「…にわかには信じがたいでしょうね。アタシだって信じられなかった。だからどうしても確かめたかったの」

鈴「それでアタシ…箒の実家に行ったのよ。直接、箒と話したくて」

セシリア「……」

鈴「今にして思えば余計な詮索だったわね。その時の箒の叔母さん、酷くやつれてた時点で気づくべきだったわ」

セシリア「何を…見ましたの?」

鈴「…あいつの部屋。そこにポツンと座っていたアイツ」

セシリア「……」

鈴「あの時の光景を思い出すと、正直言って反吐が出る。自分の惨めさが可愛くなっちゃうくらいね」

セシリア「な…」

鈴「その時の箒さ…」



鈴「…とても見れたモンじゃなかったよ」

というわけで今日はここまで
こんな感じで、キリのいいとこまで書き溜めたら随時投下していく感じで

…でね。これすごい長くなりそう。>>1のssの文量の1.5倍くらいはありそうなの…プロットの時点で
だからけっこうまったりと進行すると思うので

つーわけでおしまい。じゃあの

酉テスト兼言い忘れていたこと

vipから誘導したから一応言うけど、ここは保守はいらないよ。
ほっといても1ヶ月はもつから

大作予告とは豪気だな

のんびり待つわ

>>37
大作にする気はさらさらないよ
ただ書きたいことを膨らませたり詰めすぎた結果がこれだよチクショウ…
書きたいから書くけど

参考までに聞きたいんだがどれ位の期間で完結させる予定なんだ?
とりあえず定期的に支援する
楽しみにしてるぞ

>>39
目処は理想を言えば今月中…ちょっと色々と忙しいからわからん
一応プロットはもう頭の中で全部組んでるから、筆はわりとサクサク進むと思うんだよね

~篠ノ之神社本殿住居区:篠ノ之箒の部屋~

箒「……」ペラッ

箒「あ、この写真…私たちが小学校の時のだ」

箒「懐かしいな。よく道場では一夏と遅くまで残って剣道の稽古をしていたものだ」

箒「しかしこのままでは見栄えが良くないな。また整えるとするか」スッ


チョキチョキ…


箒「そういえば言ったのは千冬さんだったか。『写真は2人ではなく、もっと大人数で写っていてこそ意味がる』、と」

箒「…しかし私はそうは思わないな。やはり写真は2人きりで写っていた方がいい」

箒「一夏と私の…2人だけでいい」


チョキチョキ…

箒「こんなものか」スッ

箒「また新たな一枚が加わったな。やはり写真というものはいいものだ」

箒「写真は否定も移ろいもしない。ただ残すだけだ。私と一夏の軌跡を、ただ残すだけだ…」

箒「あぁ、これはいつ見てもいい…『インフィニット・ストライプ』で一夏と一緒に撮った――」

ハラッ

箒「ん?」

箒「―――」

箒「…私としたことが。すべて処理したと思っていたが、写真が重なっていてとは」

箒「…ふん。林間学校での1枚か。これも処理しなければな」

箒「チッ…折角いい気分に浸れたと言うのに。鋏はどこにしまったか…いや、カッターでいいか」

箒「……」


シャル『―――』


ドスッ

箒「……」

コンコン

箒「ん?」

雪子『あ、あのね箒ちゃん…ご飯が出来たんだけど…今日は一緒に食べない?』

箒「雪子叔母さんですか。結構です」

雪子『で、でも! 柳韻が帰ってきているのよ!? いいの!?』

箒「…父がですか?」

雪子『忘れたの!? 今日で重要人物保護プログラムが失効するって言ったじゃない!』

箒「そう言えば言っていたかもしれませんね。それが何か?」

雪子『え…だ、だって…久しぶりに憧れのお父さんに会えるのよ? 嬉しくないの?』

箒「特には。で?」

雪子『え?』

箒「要件はそれだけですか。ならば興味ありません。お引き取り下さい」

雪子『ほ、箒ちゃん! お願いだから出てきて!』

雪子「箒ちゃん…何で……」

柳韻「…本当だったのか」

雪子「ええ…あの子、こっちの実家に帰ってきてから引き込んでしまって…。
   特に一夏くんの結婚式から帰ってきてから、碌に食事も…」

柳韻「摂ってないようでは身がもたないだろう。大丈夫なのか?」

雪子「そうなんだけど、何故だかケロッとしてるのよ。
   多分部屋に食料を持ち込んでいるか、知らない間に済ませているんだと思うけど…」

柳韻「…そうか」

雪子「本当に、どうしてあの子が…真面目で優しい子だったのに…」

柳韻「私から言ってみよう。どいてくれるか?」

雪子「お願い! 私じゃあの子は全然聴かないから…」

柳韻「…箒」

柳韻「箒。ここを開けなさい」

『……』

柳韻「長い間お前を放っておいてすまなかったな。久しぶりに帰ってきたぞ」

『……』

柳韻「久々で戸惑うこともあるだろうが、私は帰ってこれた。お前と話がしたい」

『……』

柳韻「箒。いるのなら返事しなさい。あまり父を困らせるんじゃない」

『……』

柳韻「…仕方ない。入るぞ箒」ガラッ

柳韻「―――!?」

柳韻「な、何だこの部屋―――」


<紅椿―――展開>


ドッガァァァァァァァ!!


柳韻「ぐわッ!?」ドサッ

箒「誰の許可を得てこの部屋に入っている」

雪子「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

柳韻「お、お前…父親に、なんてことを…」

箒「黙れ」

柳韻「なッ…!?」

箒「父親だと。笑わせるな。貴様が今まで私にしてきたことは何だ。
  私を連れまわし、家を長いこと空け、剣の道しか満足に私に残せなかった愚鈍が父親面するな」

雪子「ほ、箒ちゃん! なんてこと言うの!?」

柳韻「や、やめろ箒…私は、お前が心配で…」

箒「どの面下げて戻ってきた。目障りだ消えろ」

雪子「や、やめて箒ちゃん! isをしまいなさい!」

箒「嫌ならとっとと出ていき戸を閉めろ。私の聖域に足を踏み入れるな」

箒「何なら今ここで…篠ノ之家の血を絶やしてもいいんだぞ?」キィィィィィィ…

柳韻「ぐッ…!?」

雪子「やめて箒ちゃん! 謝るから! 今すぐ出ていくからやめて! ごめんなさい!」

箒「……ふん」


<紅椿―――解除>



柳韻「ぐ、うぅ…」

雪子「しっかりして…傷は浅いから!」


ガララ…ストン…


箒「…チッ。大分散らかしてしまったな。片づけなければ」

箒「あぁ思い出が…一夏との大切な思い出が…」

箒「一夏…」

箒「…だから他人は嫌いだ。好奇も祭り上げられるのも放置されるのももう御免だ」

箒「だが一夏だけは守ってくれた…一夏は私を守ってくれると言ってくれた…」

箒「一夏…私にはお前だけだ。私にはお前だけいればいい」

箒「なのに何故だ一夏…何故お前はまた私のもとから…」


biii...biii...


箒「チッ…こんな時に通信? またセシリアか?」

箒「―――!!」ピッ

箒「も、もしもし! 一夏か!?」

~『オリムラ社』広報部~

一夏「よぉ箒! 久しぶりだな!」

箒『あ、あぁそうだな! 元気にしてたか!?』

一夏「相変わらずてんてこ舞いさ。お前こそ大丈夫か?」

箒『ああ! 万事息災だ! 心配してくれて有難う!』

一夏「良かった。今、時間いいか?」

箒『私は大丈夫だ! 全然暇だったぞ! うん!』

一夏「そっか。なら良かった。ええとお前、今度の土曜って――」

マネージャー「織斑チーフ! 明後日14時からのイメージpvの打ち合わせの件でお電話が!」

一夏「悪い! ちょっと待ってくれ! すぐ終わるから!」

一夏「っと、ごめん」

箒『大丈夫か? 忙しいならこちらから折り返すが?』

一夏「いやいいよ。大した用事じゃないから」

箒『感心しないぞ一夏。仕事中に私用の連絡はよせ』

一夏「相変わらずだなお前は。これでもちゃんとした休憩時間だよ。5分だけだけど…って、もう1分経っちまったか」

箒『やれやれ本当に忙しいようだな。無理するなよ?』

一夏「ははは、ありがとな。でも大丈夫だ。もうすぐ全部片付いて、落ち着くと思う」

箒『ん? どういうことだ?』

一夏「あのな箒。シャルが久しぶりに帰ってくるんだよ!」

箒『―――ッ』

一夏「確定申告が一段落ついたらしくてさ。人事異動ももうすぐ纏まって、ようやく時間が取れそうなんだ」

箒『……』

一夏「シャルには普段から無理をさせちまっているからな。俺がバカなばっかりに経理も人事も総務も何でもあいつに押しつけちまって…」

箒『……』

一夏「でもこれで安心だ! 人員整理が終わればシャルの負担も減る! 本当に良かった!」

箒『……』

一夏「それで今日は久しぶりに家に帰ってくるんだ! あぁ、今から会えるのがすごく楽しみだ!」

箒『……』

一夏「お、おーい箒ー? 聞いてるかー?」

箒『あ、ああすまん何でもない。聞いていた。良かったな』

一夏「だろ!? 箒も嬉しいよな! あー待ちきれないぜ!」

箒『……』

一夏「それで箒には前から世話になっているだろ? お礼の意味を込めて、今度食事会でもしようと思うんだけどどうかな?」

箒『……』

一夏「シャルも久しぶりに箒と会えれば楽しいと思うしさ。どうかな?」

箒『…確認するが、私とお前とシャルロットでか?』

一夏「ああ! 久しぶりに会おうぜ! 3人でさ!」

箒『……』

一夏「箒?」

箒『あ、ああ悪い。予定の確認をしてた。大丈夫だ、空いている』

一夏「そっか。じゃあシャルには俺から言っておくから」

マネージャー「織斑チーフ! 電話対応と書類の確認お願いします! 休憩過ぎてますよ!」

一夏「わ、悪い! 今いく!」

一夏「ごめん! 呼び出されたから戻る!」

箒『ははは…仕事頑張れよ』

一夏「ありがとな。あ、そうだ! シャルには俺が『シャル』って呼んだことは黙っててくれ!
   一応会社じゃ『社長』って呼ばなきゃいけない決まりだから!」

箒『…分かった。今度の土曜だな。楽しみにしている』

一夏「ありがとな箒! 恩に着るぜ!」

ピッ

箒「そうか…シャルロットが帰ってくるのか」

箒「……」


ドスッ


箒「ふふ…ふふふふふ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

箒「そうか…戻ってくるのか…あは、ははは…ははははははははははははははは」

箒「…一夏を奪い取った汚らわしい売女が」


ドスッ ドスッ


箒「長かった…本当に長かった…これでようやく私は…」

箒「もうすぐだ…もうすぐだぞ一夏…」

箒「ふ…ふふふ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ
ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ ドスッ
ドスッ ドスッ…

箒「そろそろ頃合いか…アレを頼むときがきたようだ」

箒「…正直あまり気が進まないが仕方ない」

ピッ
――――――――――――
――――――
―――

~篠ノ之束のラボ(重要人物保護プログラム規定による、保護観察下にある国家施設)~

ピッピッピッピッピッピッピッ
カチャカチャカチャカチャカチャ…

束「はぁ…レポートしゅうりょー」

くー「お疲れ様です。コーヒーどうぞ」コトッ

束「おぉーくーちゃん気が利くー! ありがとねー」ゴク

くー「いえいえ」

束「あぁー本当に疲れた…束さんにデスクワークなんて性に合わないよー」

くー「しょうがないですよ。決めたことじゃないですか」

束「でも思考を一般人レベルに下げて形にするってすごくオーバーワークなんだよー?
  二度手間的に当たり前のことを何度も書かなきゃならないからさー。何でこんなのも理解できないのかなー」

くー「もう。少しは世界平和に貢献してください」

束「私は別にそんなのに興味ないんだけどねー」

くー「え? じゃあ何で今更になってisの秘匿技術を公開する気になったんですか?」

束「まー色々だよ」

くー「?」

束「何でもないよー。じゃあいつも通りレポートの校正とか頼んでいいー?」

くー「分かりました。あ、終わったら仮眠とってもいいですか?」

束「いいよいいよー。いつもありがとね。雑務おしつけてごめんね、くーちゃん」

くー「いえいえ。一番大変なのは貴女ですから。では失礼します」

ガチャッ バタン

束「…何で、かぁ。まー私の所為というかいっくんの所為というか…」

束「まさかいっくんが他の女の子とくっつくなんて思いもしなかったからなー…。
  あんだけお膳立てしてあげたのに、鈍感さんにも程があるよ」

束「戦いの中で芽生えた感情は恋愛感情に発展しやすいって思ったんだけどねー。
  あれ? でも吊り橋効果って長続きしないんだっけ?」

束「…はーやめやめ。束さんは心理学も精神分析学も専門外だし。感情を斟酌しちゃうとどうも起算通りにはならないなー…」

束「せめて私が表に出て保護プログラムを私の方に向けさせれば、箒ちゃんも寂しくはならないと思ったんだけどな」

束「……」

束「やっぱり上手くいかないなー」


~♪


束「―――!!」ピッ

束「も、もすもすひねも――」

箒『姉さん、ご無沙汰してます』

束「はーい! 束さんは元気だよー☆ 何てたって愛しの箒ちゃんから久々のラブコールが――」

箒『余計な問答は結構です。前に頼んでいたもの、覚えてますか?』

束「え……あ…う、うん! もちろんだよ! 束さんの記憶力を嘗めちゃいけないぜ!」

箒『ならば話は早い。早速お願いします』

束「え、えぇー…でもさぁ箒ちゃん…流石の私もそれは気が引けるっていうか、その…」

箒『嫌なら結構です。二度と私に構わないで―――』

束「わわわわわ! 待って待って箒ちゃん! お願いだからそんな悲しいこと言わないで!」

箒『ならば可及的早くお願いします』

束「うぅ…確かに束さんなら片手で数えるくらいの秒数で済むけどさぁ…」

箒『聞こえなかったのですか。口よりもさっさと手を動かしてください』

束「はーい…はぁ、正直言って本当に気が進まないんだけどなー…」


ピッピッピッピッピッピッピッ
ピロリン♪

束「はい。白式の集音機能の向上、及びコア・ネットワーク上の白式、紅椿間限定のアップリンク、完了したよ」

束「この通信機能は完全な一方通行だよ。向こうの音声は拾えるけど、箒ちゃんが何言っても相手には届かないから。
  周波数にジャミングとジェイルを組み込んでいるから、通信履歴にも逆探知にも引っかからないよ」

束「やり方はプライベート・チャンネルの要領で白式に繋ぐだけ。向こうがコールに応えなくても自動的に繋がるようになってるから」

束「それと言われた通り、白式の追尾機能も付加させたから。いっくんが白式の現在位置情報をシャットダウンしても、
  いっくんの生体反応をキャッチして半強制的に居場所が特定できるようになっている」

束「これで箒ちゃんは、いっくんが今どこで何をしているかいつでも分かるようにはなったよ。これでいい?」

箒『ありがとうございます。要件は以上です。失礼』

束「で、でも箒ちゃんこれはちょっと洒落にならないんじゃないかな…だってやってることが思いっきりストーカ…」

束「ってもう切れてるし…。はぁ、姉使いが荒い妹だなぁ…」

束「……はぁ」

束「いっくぅん…やっぱり駄目だよぉ。束さんじゃ、箒ちゃんを幸せにすることは出来ないみたい」

束「やっぱり箒ちゃんを助けられるのは後にも先にもいっくんだけだよ。束さんじゃ役者不足だよ…」

束「不肖な妹だけどさ、それでもやっぱり大切な家族だから…」

束「だからいっくん…頼むよ…?」
――――――――――――
――――――
―――
~篠ノ之箒の部屋~

箒「相変わらず締りのない奴だ。同じ血が通っていると思っただけで虫唾が走る」

箒「許すものか。私は絶対にあの人を許さないぞ…」

箒「あの人さえ…あの人さえisを作らなければ私は一夏と…!」

箒「……」

箒「ふっまぁいい。そのisに頼らざるを得ないのは皮肉だが、使える手段であるなら遠慮なく使うだけだ」

箒「そろそろ一夏が帰ってくるころだな。早速使ってみるか」

『…そろそろ、だよな』

箒(…! 一夏!)

『本当に会うのは久しぶりだな。どんな事を言ってやればいいだろう』

箒(あぁ一夏の声だ…一夏の声がこんなに近くに…それだけで、こんなにも心が満たされる…)


『早くこないかなぁ。待ち遠しいぜ』

箒(私もだ一夏…早くお前に会いたい!)


『来たか! おかえり!』

『ただいまー』

箒「―――!!」



箒「…チッ。余計な雑音まで入ってしまったか。聞きたくもない声を聴いてしまった」

箒「ええと、補足する声紋周波数の範囲を狭めて…」ピッピッピッ

箒「よし…これでいい」

『おかえり! 待ってたぜ!』

箒「一夏…私だって待ってた…今すぐにでもお前の胸に飛び込みたいくらいだ」


『おっとと…会えて嬉しいよ。お疲れ様』

箒「心配してくれているのか…ありがとう、一夏」


『久しぶりのお前の匂いだ…すごく落ち着くよ』

箒「相変わらず不埒な奴め。まぁ、嬉しい気持ちは分かるがな」


『ごめんごめん。すぐに来いよ。用意できてるからさ』

箒「優しいな一夏…お前が待っていてくれて私は嬉しいぞ」


『ははは、ありがとな。じゃあ準備してるから』

箒「一夏…ふふふ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」

~織斑家:玄関~

一夏「おかえり! 待ってたぜ!」

シャル「えっへへ♪ ただいま、一夏!」ガバッ

一夏「おっとと…会えて嬉しいよ。お疲れ様」

シャル「うん! ありがと一夏!」

一夏「久しぶりのお前の匂いだ…すごく落ち着くよ」

シャル「も、もぅ…そういうのは後にしてよ///」

一夏「ごめんごめん。すぐに来いよ。用意できてるからさ」

シャル「すごく楽しみだよ! 一夏の手料理なんて本当に久しぶりだから!」

一夏「ははは、ありがとな。じゃあ準備してるから」

シャル「うん!」

一夏「何か飲むか? 一応ワイン開けておいたけど」

シャル「ありがとう。それでいいよ」

一夏「あいよ」

シャル「はぁ~久しぶりの我が家だ~…やっと一息ついたよ~」

一夏「お疲れ様。一週間ぶりぐらいか?」

シャル「そういうのはちゃんと覚えててほしいなぁ。10日だよ」

一夏「ずっと会社に寝泊まっていたのか?」

シャル「まぁね。流石に10日連続ってわけじゃないけど。はぁー本当に疲れた…」

一夏「なんかごめんな。お前にばっかり苦労かけてさ」

シャル「それを謝るのは禁止だって。それに、ボクが無理できるのは一夏がいてくれるからだよ」

一夏「そうだったな。ごめんごめん」

シャル「心配してくれてありがとう。早く食べよ?」

一夏「おう」

シャル「うわー! サーモンのホイル焼きだ! 嬉しいなぁ!」

一夏「疲れているだろうからあんまり重いのはやめた方がいいと思ってさ。ワインも合わせて白にした」

シャル「あれ? それにしては妙な匂いだね。何だろう、これ」

一夏「悪い…やっぱり洋食はまだ作り慣れてなくてさ。味噌とバターと日本酒で味付けをしてみたんだ」

シャル「ってことは、フランス料理ながらも日本風なんだね」

一夏「あっはは…何だか中途半端になっちまったな。ごめんな」

シャル「ううん。すごく嬉しい」

一夏「え?」

シャル「だってなんか、ボクたちみたい」

一夏「そ、そっか///」

シャル「冷めるといけないね。いただきまーす!」

一夏「いただきます」

シャル「んー! やっぱり一夏のご飯は美味しい! 三ツ星シェフ顔負けだよ!」

一夏「大げさだな。お前だって似たようなものじゃないか」

シャル「もぉ。こういうのは雰囲気が大事なの。今のボクとしては、家でゆっくり食べるごはんが一番美味しいんだから」

一夏「そういうもんか。ありがとうな、俺だって嬉しいよ」

シャル「えへへ♪」

一夏「人員整理もようやく纏まって本当に良かったな」

シャル「そうだね。人事に新しく来た人が本当に優秀で助かったよ」

一夏「そういやラウラが貸してくれた人材なんだっけか。えーと、何て言う人だっけ?」

シャル「クラリッサさんだよ。彼女はすごいね。人の適材適所を見抜く能力に長けているというか」

一夏「まぁラウラが就学中、ずっと部隊を纏めてくれたらしいからな。リーダーシップもあるし」

シャル「本当にね。これでもう少し性格的にアクが強くなければ…」

一夏「え?」

シャル「あ、ごめん。何でもないよ」

一夏「そういやこの間撮ったcm、あんな感じで良かったのか?」

シャル「バッチリだよ! 流石はボクの自慢の夫だね! すごくキマってた!」

一夏「そ、そっか…」

シャル「というか、こういう時にも仕事の話ってどうかと思わない?」

一夏「いやいやいや、こういう時だからこそ聞いておきたい事とかあるって」

シャル「例えば?」

一夏「いや、さ。前から思っていたけど、夫がこういうのに出演しているのって妻からしたらどうなのかなー、って」

シャル「奥さんとしては複雑だけど、社長としては大満足」

一夏「さいですか」

シャル「一夏の宣伝効果って本当に凄まじいんだもん。オファーなんか1秒で3件はくるくらいだよ?」

一夏「そ、そんなに!? 前より全然増えてるじゃないか!」

シャル「だってウチがスポンサーの番組は平均で視聴率が12%は上がるらしいからね。
    しかも全部が番組本編よりcmの方が瞬間最高視聴率が高いなんて前代未聞だよ」

一夏「はぁ、別に大したことやってるつもりはないんだけどなぁ」

シャル「何せis世界シェア率2位の大看板だからね。世界的にも見ても知らない人なんかほとんどいないんじゃない?」

一夏「おかげで俺は買い物行くのにも一苦労だ」

シャル「有名人の苦悩だね」

一夏「まぁ応援してくれるのは嬉しいんだけど、頼むから追い回すのはやめて欲しいな…」

シャル「…まさかとは思うけど、女の子のファンが多いからって鼻の下伸ばしてないよね?」

一夏「そんなわけないだろ。大体そんな状況、学生時代に散々経験したしな」

シャル「良かった。一夏ってそこらのアイドルグループよりは全然恰好いいから」

一夏「そういうのじゃねぇよ。物珍しいだけだろ」

シャル「相変わらず鈍感なんだから。まぁだからこそ安心できるけど」

一夏「?」

一夏「あ、そういえば」

シャル「ん?」

一夏「この間ちょっと変わったことがあったんだ。買い物帰りに、見知らぬおじさんに何だか知らんが感謝された」

シャル「どんな人?」

一夏「普通の人だったよ。サラリーマン風の」

シャル「あ、なんだ良かった。それはただのファンだね」

一夏「ファン?」

シャル「一夏知らないの? 一夏って女性人気こそ圧倒的だけど、男性の支持者もかなりいるんだよ?」

一夏「そうなのか?」

シャル「うん。やっぱりこのご時世だからかな。男性が時代の最前線で頑張っているから嬉しいんじゃないかな」

一夏「そうなんだ。何か嬉しいな」

シャル「うん、嬉しいね。ボクたちの会社が、ちゃんと世間には認められているって実感できる」

一夏「…そうだな」

シャル「あ、そうだ。忘れないうちに言っておくね」

一夏「ん?」

シャル「人事異動の件で、専務取締役に抜擢したい人がいるんだ」

一夏「へぇ。誰だ?」

シャル「…ボクと一夏がよく知ってる人」

一夏「…あの人か」

シャル「うん」

一夏「そっか。あの人なら大丈夫だな」

シャル「うん、そうだね。ボクも適任だと思う」

一夏「承諾してくれたのか?」

シャル「まぁね。むしろありがとう、ってさ」

一夏「あの人がシャルの下でか…。あの頃からは考えられないな」

シャル「あはは、そうだね」

一夏「…なぁ」

シャル「んー?」

一夏「…長かったな」

シャル「…そうだね」

一夏「4年…いや、あの頃を考えれば5年か」

シャル「うん…」

一夏「ようやく、だな。ようやくお前と並んで歩けるよ」

シャル「うん…」

一夏「お前と何が何でも会社を再建するって決めて、それでこの5年間必死に頑張ってきたな」

シャル「うん。本当に一夏には感謝してもしたりないよ」

一夏「それは言わない約束だ。夫婦は助け合って当然だからな」

シャル「あはは、そうだね。でも、やっぱり言わせて」

シャル「…今まで本当にありがとう一夏。ボクは貴方の妻でいられたことを、心から幸せに感じる」

一夏「…俺だって幸せさ。俺には勿体ないくらいの女房に巡り合えた」

一夏「なぁ」

シャル「なに?」

一夏「幸せに、なろうな」

シャル「…うん!」

シャル「ね、ねぇ一夏!」

一夏「なんだ?」

シャル「あ、あのさ、その…ボク、今まで本当に頑張ってきたよね?」

一夏「頑張ってきたどころじゃないと思うけどな」

シャル「そうだよ、ね…だ、だから、その…」

一夏「ん?」

シャル「あ、あぅ…///」

一夏「?」



シャル「ご、ご褒美、欲しいな、なんて…///」

一夏「」

主は箒嫌いなのか…

支援

~篠ノ之箒の部屋~

箒「はぁ、ぅ、ぅぁ、ぁぁッ! 一夏、一夏…くぅッ…!」

箒「はぁ…はぁ…はぁ…こんなに違うのか…。愛する者を近くに感じるというだけで、こんなに…」

箒「一夏…私だって幸せだぞ。私もお前と出会えたこの半生に感謝している」

箒「あぁ一夏…これはきっと運命なんだ…私とお前が会うことはきっと前世からの定めなんだ」

箒「だから一夏…私たちはずっと一緒だ…ずっと永遠に―――」


『ご褒美って、お前…』


箒「―――!!」

『そ、そんなわけないだろ…俺だって嬉しいに決まってる』

箒「……」

『いや、本当にさ。お前って結構えっちだよな』

箒「やめろ…」

『ははは、怒るなよ。分かった分かった。ご褒美、欲しいんだろ?』

箒「やめてくれ…」

『最初はキスから? おう、望むところだ』

箒「それ以上は…」




『愛してるぜ。シャル』




箒「――――!!!」


箒「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

『おいおい抵抗すんなよ。ご褒美欲しいって言ったのはシャルの方だぜ?』


箒「うわあああああああああああああああああああああ!!やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

ガッシャーン! パリーン! ドガッ! ガスッ! ビリビリビリビリ グシャグシャグシャグシャ


『俺だってお前が欲しくて我慢できないんだ…だからいいだろ、シャル?』


箒「うああああああああああああああああああああ!!ああああああああああああああああああああああ!!」

ブン! ボスッ! ガシャ! グシャ! ブチブチブチブチブチブチグシャグシャグシャグシャ



『はぁシャル…愛してる…好きだ、シャルぅ!!』



箒「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
  あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」




…ブチッ

箒「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…糞ッッ!!」


ブン! ガツン! カラカラカラ…


箒(いくら義を貫いたところで…礼を重んじたところで…)

箒(それで一夏が手に入らないなら…もう要らない)

箒(真面目に生きても一夏が私に靡かないなら、そんなものに意味はない!)

箒(剣の道を極めても、それが一夏への妨げになるなら切って捨てる…!)

箒(だから私は修羅でいい。ただ一夏を追い求める修羅でいい)

箒(全てを投げ打ち、全てを薙ぎ払い、その末に一夏がいるのなら…)




箒(私は……修羅になる!!)

今日は以上。次回は用事が終わり次第

>>86
これだけは言っておくが絶対にそんなことはない。
isのヒロインはみんな好きだよ

どっちかというと
シャル「幸せ」もしくは
箒「幸せになりたい」な件について

再開の前の戯言

神社の人が住んでいるところって本殿住居区とかそんなんじゃなくて普通に社務所っていうんだってね
生半可な知識でss書くとコレだよドチクショウ

中途半端にしか書き溜めてないけど、とりあえず切りのいいとこまで書き上げつつやる

――翌朝――

~織斑家(シャルロットと一夏のマイホーム)~

シャル「え?」

一夏「どうかしたか?」

シャル「いや、聞いてないんだけど」

一夏「まぁ今言ったしな」

シャル「箒が来るの? 何で?」

一夏「何でって、俺が誘ったんだよ。その方が楽しいだろ?」

シャル「何で?」

一夏「いやお前、何でって…そういうお前が何で、だよ」

シャル(久しぶりに食事会に誘われたと思ったらこういうことか…)

シャル「はぁ。久しぶりに2人きりで食事に行けると思ったんだけどなぁ」

一夏「何言ってんだよ。昨日だって2人で食ったろ。今度は箒を入れて3人で食おうぜ」

シャル「分かってないなぁ。夫婦が家で食べるのと外で食べるのじゃ、意味合いは全然違うんだからね?」

一夏「そんなもんなのかなぁ」

シャル「うーん、そういう事ならちょっと遠慮したいかも」

一夏「おいおい冗談きついぜ。お前が行かないなら俺だって行きずらくなるだろうが」

シャル「その方がいいよ。むしろ行ってほしくない」

一夏「…おい何言ってんだシャル。そんな箒がいるから嫌、みたいな言い方」

シャル「嫌ってわけじゃないんだけどさ…」

一夏「てっきり乗り気で行くと思ったんだけどな。シャルは久しぶりに箒に会えるのは嬉しくないのか?」

シャル「嬉しくないって言うか…箒のことは何か引っかかるんだよ」

一夏「?」

シャル「一夏さ、学園の卒業式のことは覚えてる?」

一夏「まぁそりゃ…忘れたくても忘れられないよ」

シャル「うん。1時間もしないうちに女の子を数えきれないほど泣かせたよね」

一夏「そういう言い方はよしてくれよ…」

シャル「告白してきた子の中には、セシリアも鈴もラウラもいてさ」

一夏「まさかアイツらが俺にそんな感情抱いていたなんて思わなかったけどな」

シャル「でも、箒だけはしなかった」

一夏「そりゃアイツはそういう感情は持ち合わせていなかったってだけだろ?
   あいつはただの幼馴染だし、色恋沙汰に現(ウツツ)を抜かすような奴じゃないしな」

シャル「……」

一夏「どうかしたか?」

シャル「時々思うんだけど」

一夏「ん?」

シャル「ボク、本当によく一夏と結婚できたよね」

一夏「?」

シャル「とにかく、そういう事ならボクは行かない」

一夏「勘弁してくれよ。箒にだって悪いじゃないか」

シャル「ボクの気持ちはどうでもいいの?」

一夏「何言ってんだお前、さっきから言ってることおかしいぞ? 何でそこまでアイツを邪険にすんだよ」

シャル「別に邪険ってわけじゃ…」

一夏「そもそもウチが他より早く第4世代機開発に着手できたのは、箒の助力があったからだろ?」

シャル「それは、まぁ、そうだけど…」

一夏「アイツには何かと世話になりっぱなしだ。だからちゃんと一回、面と向かって礼を言うべきだ。当たり前の事だろシャル」

シャル「……」

一夏「何だかよくわからないけど、引っかかるっていうなら直接会って確かめればいいじゃないか。なぁ、頼むよ」

シャル「…確認するけど、他意はないんだよね?」

一夏「は?」

シャル「ただのお礼。それ以上でもそれ以下でもない」

一夏「ええと…まぁ、そうなるのかな。俺は普通に友達と食べたい、って気もあるけど」

シャル(正直気が進まないけど、箒の献身さには何か引っかかっていたのも事実だし…)

シャル「分かったごめん。ボクもいくよ。土曜だね?」

一夏「そう来なくっちゃな」

シャル「ちょっと待ってて…ええと、土曜の午後は重役会議と報告書の確認だけか。20時には何とか切り上げられそう」サラサラ

一夏「分かった。俺も午後は簡単な顔合わせと新製品の視察だけだから定時には帰れるな。待ち合わせは21時でいいな?」

シャル「いいよ。じゃあ箒には一夏から連絡しておいて」

一夏「よし。じゃあ会社行くか」

シャル「あ、待って。忘れ物」

一夏「…あ、ああ。悪い悪い」

チュッ

シャル「えへへ、ありがと。これで1週間は戦える」

一夏「それは何より。じゃあ行こうぜ」ガチャッ

一夏「本当に来てくれよ? 箒だって久しぶりだからお前のこと――」

シャル「織斑くん。家を1歩でも出たら仕事モードだよ」

一夏「は、はい! 失礼しました社長!」

シャル「よろしい♪」

~『オリムラ社』開発部~

一夏「ちょっと新製品の仕訳帳見せてくれるか?」

社員「はい、こちらです」ペラッ

一夏「サンキュ…あー、この原価ならもうちょっと良い仕入れ先があるな。俺が掛け合っていいか?」

社員「え? 大丈夫なんですか?」

一夏「あそこなら伝手があるからいけると思う。一応資材調達部と社長に確認は取るけどいいか?」

社員「ではそのようにお願いします。助かります」

一夏「おう(こういう所でシャルの負担を減らしてやらないとな)」



一夏「ふぅー、やっと休憩か。少し時間かかっちまったな」biii...biii...

一夏「ん? 通信? いいタイミングだな…はいもしもし…って箒か。ん? 今日? 21時からだけど」

一夏「…えぇー。マジかよ…うーん、俺は何とかいけるけど、シャルは無理だぞ?」

一夏「…うーん。そういうことなら仕方ないな。分かった。シャルには俺から言っておく。じゃあな」ピッ

一夏「あー…そういや重役会議だから連絡は取れないって言ってたな…仕方ない。メールで済まそう」

一夏「まぁ予定が1時間繰り上がるだけだし、別にいいだろ」

――土曜日17時――

――同日19時半――

~とある大通りの街頭大型スクリーン前~

一夏『ぐッ…こいつ、強い! 今までの推進翼(スラスター)じゃ倒せない!』

一夏『今こそ俺の…真の力を開放する時がきたようだなッッ!!』

一夏『応えてくれ…! 俺の新しい心友(アイボウ)!!』

ナレーション『どうしても負けられない時に…織斑部長も使ってるオリムラ社の新たな推進翼(スラスター)…coming soon...』



一夏(うへぇー…相変わらずテレビの中の自分を見るのって何だか変な感覚だなぁ…)

一夏(あのcm、本当にあれで良かったのか? また余計なエフェクト多用してるし…俺はあんなキラキラした瞳じゃないだろ…)

「ね、ねぇ! あそこにいるのって、もしかして織斑部長じゃない!?」

一夏「げ」

「うっそ!? あの『オリムラ社』の広報部長!? あ、本当だ! さっきのスクリーンの人だ!」

「きゃーっ! サインしてくださーい! 握手してくださーい!」


一夏「うわっやっべ! 逃げろ逃げろ!」

キャー マッテー コッチムイテー ダイテー オリムラブチョー

~『オリムラ社』本会議室~

シャル「それでは以上で上半期重役会議を閉会させていただきます。皆さん、お疲れ様でした」



シャル「はぁー肩凝った…もう慣れたけどやっぱり座りっぱなしって堪えるなぁ…」

シャル「さて、急いで家に戻って着替えて行かなきゃ…って、メール? 一夏から?」

シャル「―――!?」

シャル(え、予定繰り上げ? 何で…箒が!?)

シャル(…普通に考えれば偶然だよね? でも、半年に一回しかない重役会議の最中に予定変更…?)

シャル(ボクの予定は秘書と一夏しか知らない…。秘書は箒とは全然接点ないし、あるとしたら…)

シャル(……)

シャル(まさかそんな…考えすぎ…だよね…?)

シャル(一夏…)

~とあるホテル前~

一夏「す、すいません! 予約していた織斑です! 開けてください!」

ホテルマン「織斑様ですね。お待ちしておりました。お連れ様がお先にお待ちになっております」キィ…

一夏「はい! ありがとうございます!」

ホテルマン「いえいえ。ごゆっくりどうぞ」パタン



一夏「ふぅ…間一髪だったな」

箒「大声援だな。先に邪魔しているぞ一夏」

一夏「おぉ箒…お前、すごい格好だな」

箒「そうか? 何せ貸し切ったホテルの食事会など初めてなもんでな。恥ずかしくない服装を心がけたつもりだが」

一夏「そ、そっか…何か余計な気を使わせちまったみたいでごめんな」

箒「気にするな。私も楽しみだ」

一夏「……(箒のドレス、すげぇ綺麗だな…。いつもとは全然違うイメージだ)」ポーッ

箒「どうかしたのか?(ふふふ…ちゃんと見ているようだな一夏)」

一夏「い、いや何でもない! 早くいこうぜ!」

~ホテルレストラン内~

一夏「シャルがまだ来てないけど、待たせてたと気を使わせるのも何だし、始めちまうか?」

箒「すまないな。直前に予定を変えてしまったりして」

一夏「まぁいいって。お前にはいつも世話になっているしな」

箒「そう言ってくれると助かるな。ありがとう一夏」

一夏「いいって」

箒「今日の服はどうだ?」

一夏「え?」

箒「えっ、というのはないだろう。服の感想を訊いただけだぞ?」

一夏「あぁ、いや、その…すげぇ似合ってると思うぞ?」

箒「そ、そうか…似合っているか…ふふふふふふふふふ…」

一夏「でも箒がそんな服着るようになるなんてな。ちょっと意外だったぜ(胸元とか開いちゃってるし…)」

箒「私だってお洒落ぐらいはするさ」

一夏「うーん、お前ってあんまり可愛い服は着たがらないと思っていたんだけどな」

箒「失礼な奴だな。私はこれでも年頃の女だぞ」

箒「お前の活躍、いつもテレビで見てるぞ。すごいな」

一夏「あはは…知人に見られるとなるとやっぱり恥ずかしいな」

箒「もう本当にいっそのこと、アイドルにでもなったらどうだ?」

一夏「だからそんなんじゃねぇってば。俺はただの広報の部長だよ。テレビに出るのは営業の一環だ」

箒「高橋名人かお前は」

一夏「ははははは、上手いな箒」

箒「まぁ冗談は置いといて、だ。これでも心配してるんだぞ? 頭を剃る羽目になったらどうする?」

一夏「うッ…男としては笑えない話を…」

箒「まったく…いつか体を壊すんじゃないかと思ってひやひやしてるぞ。あまり無理するな」

一夏「あ、あぁ…なんかごめんな。心配してくれてありがとう、箒」

一夏(あれ? 箒ってこんな冗談言えたり、こんなことで心配するような奴だっけ?
   てっきりテレビに出るような真似してたるんでる、とか言われると思ったのに)

箒「まったく。仕事熱心なのはいいことだが、それで倒れてもらったりしたら本末転倒だ」

一夏「…まぁ今が一番頑張らなきゃいけない時だからな。
   それに俺なんかよりシャルの方が頑張っていると思うと、怠けるわけにもいかなくてさ」

箒「…本当にシャルロットを慕っているのだな」

一夏「当たり前だ。俺の愛する奥さんだからな」

箒「…そうか」

一夏「箒にも感謝してるぜ?」

箒「え?」

一夏「お前がいなかったら、こんなにも早く再建できなかったからな」

箒「あ、いや、私は、別に…その…」

一夏「ありがとうな、箒。お前がいてくれて良かったよ」ニコッ

箒「そ、そうか…///」モジモジ

一夏「まぁこんなこと、シャルもいる時に言うべきだったな。アイツもお前には感謝してるはずだ」

箒(一夏が私を必要としてくれてる…ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふ…)

箒「な、なぁ一夏」

一夏「んー?」

箒「私は、その…どうだ?」

一夏「っていうのは?」

箒「だからな、あの…お前から見て、どう思う?」

一夏「は?」

箒「……///」

一夏「いや、どうって…まぁ箒は箒だろ? 何か今日は雰囲気が違う感じがするけどさ」

箒「そ、そうか。どう違う?」

一夏「そうだなぁ。何か今日のお前、大人っぽいよな」

箒「艶やかということか?」

一夏「あ、艶やかってお前…まぁ確かに色っぽいかもしれないけどさ」

箒「そうか。少なくともお前はそう思うのだな」

一夏「ははははは。本当に今日のお前には驚かされるな。俺を誘惑してるつもりか?」

箒「そうだ、と言ったらどうする?」

一夏「は?」

箒「お前は今の私に劣情を抱いている。そう解釈しても構わないんだな?」

一夏「お、おい箒? 箒さん…?」

箒「不埒な奴だとは思っていたが、やはりそうなのか。お前はこういうのが好みなのか?」

一夏「も、もしかして怒ってらっしゃるのか箒…? 俺がそんな邪な感情抱いているせいで…」

箒「逆だ一夏。私は嬉しいぞ」

一夏「えっ…?」

箒「お前が私を見ていてくれて…私は嬉しい」スクッ

一夏「お、おい箒…何、立って……」

箒「どうだ一夏? 興奮するか? 胸が沸き立つか? 私を見て欲情を掻き立てられるのか?」ツカ…ツカ…

一夏「ちょちょちょ、やばいって…近いよ箒…」

箒「シャルロットと比べてどうだ?」スッ

一夏「は……?」

箒「あいつに比べて私は魅力的かと訊いている」クイッ

一夏「何言ってんだお前…って、おい箒! か、顔が―――」

スゥ…

ピタッ

一夏「はッ……」

箒「ははははは、冗談だ」

一夏「…お、驚かすなよ箒」

箒「すまんすまん。あまりにもお前の反応が面白くてな」

一夏「おいおい。前に会った時はそんなキャラじゃなかっただろ。本当にどうした?」

箒「ははははは。少し気分が良くてな。悪乗りが過ぎた。無礼を詫びる」

一夏「まったく…既婚者にそんな風に迫るなよ。洒落にならないだろ」

箒「それにしては抵抗してなかったよな?」

一夏「いや、お前がこんなことするなんて予想も出来なかったし、何より唐突で――」


バーン


シャル「ごめん! 遅くなったよ!」

箒「――――!!!」

一夏「シャ、シャル! 来たのか!」

シャル「ごめんね一夏、遅くなって」

一夏「遅いどころか早すぎるくらいだ。仕事終わったのか? 40分も早いぞ?」

シャル「えへへ。ちょっと無理しちゃった。でも大丈夫だよ」

一夏「そっか。でもあんま無理すんなって。普段からお前は根を詰めすぎなんだからさ」

シャル「あはは。ありがとね、一夏」チラッ

箒「……」

シャル「……」

シャル「…久しぶりだね、箒」ニコッ

箒「…ああ。本当に久しぶりだなシャルロット」ニコッ

一夏「何はともあれ、これで3人揃ったな」

シャル「そうだね。ごめんね箒、こんな格好で。本社からそのまま来ちゃったから」

箒「気にしない。そもそも私が予定を変更させてしまった所為でもあるしな」

シャル「あはは。まぁボクも箒と話がしたかったしね」

一夏「なんだ。やっぱりお前も箒と会いたかったんじゃないか」

シャル「……」

箒「……」

一夏(あ、あれ…なんだこの空気)

中途半端になってしまうが一旦ここで切るわすまん
眠気でちょっと頭が働かない…
続きはもうちょっと煮詰めてから再開するわ…
あとやっぱり全部書き溜めてからにした方がいいな。なんかすまん

一夏「し、しかしこの3人が揃うのって久しぶりだな! 結婚式以来か!?」

シャル「そうかもしれないね。でも箒、久しぶりに会ったけど何だかイメージ変わったね」

箒「そうか?」

シャル「うん。何だか大胆になったよ」

箒「別にそんなつもりはないがな。まぁ人は変わるものさ」

シャル「……」

箒「しかし変わったと言えば、お前らが一番変わったと思うぞ?」

一夏「確かにな。俺がまさかこんな仕事することになるなんて、学生時代には思いもしなかったよ」

シャル「本当にね。自分でも思いがけないところで変わるものなんだね、人って」

一夏「重ねて言うけど、箒には本当に感謝してるよ。お前がいなかったらここまでならなっかたからな」

シャル「…そうだね。ボクからも改めてお礼を言うよ。ありがとう、箒」

箒「私は大したことをしたつもりはないがな。まぁ礼は受け取っておく」

一夏「何言ってんだよ。紅椿のデータを見してくれたり、束さんに多額の融資や技術提供を促してくれたのは
   お前が仲介に入って頼んでくれたからだろ?」

箒「やはり私個人としてはあまりしてやれたことはないじゃないか」

一夏「ははははは。謙虚でひねくれている所は相変わらずだな」

箒「ははははは。こやつめ」

シャル(箒…冗談を涼しい顔で受け流せるようになったんだね)

シャル(…じゃあさっきの表情は何だったんだろう)

シャル(…一応気のせいだということにしておこう。一応、ね)

一夏「そんなわけでお礼が遅れてゴメンな。本当はもっと早く言いたかったんだけどな」

箒「気にするな。私だって好きでやったことだ」

一夏「本当はこうした社交辞令じゃなくて、何かの形で返したいところなんだけどな」

シャル「そうだね。助かっていたのは事実だしね。何か恩返しでも出来ればいいけど」

箒「気にするな。何度も言うが私は大したことはしてない」

一夏「おいおい。それじゃ俺らの気が済まないんだって」

箒「そうはいってもな。というより、私だって日ごろから助けられているぞ?」

シャル「え?」

一夏「ん? どういうことだ?」

箒「…まぁ分からないかもしれないな」

箒「シャルロット、には」ニヤッ

シャル「!?」

シャル「え…」

一夏「?」

箒「ああすまん。語弊を招く言い方だったな。確かにシャルロット『からは』まだかもしれん」

シャル「え…どういう、こと…? 一夏?」

一夏「い、いや…俺だってそんなことした記憶ないけど?」

箒「何を言っている。この間だって世話になったじゃないか」

一夏「ええと、いつのことだ?」

箒「先々月の15日だったかな、確か」

一夏「ええとその日は、ええと……あぁー、もしかしてアレのことか? だとしたら全然大したことじゃないだろ」

箒「そんなことない。私にとってはすごく助かった」

一夏「変な奴だな。そんなことくらいで恩とか感じなくていいのに」

シャル「ちょ、ちょっと! 勝手に話を進めないでよ! 『アレ』って何のこと!?」ガタッ

一夏「おいおい、立つことないだろ。ちょっと箒の買い物に付き合ってやったりしただけだ」

シャル「……」

シャル「……え?」

シャル「箒と…会ったの? 聞いてないんだけど」

一夏「言うようなことか? 俺もその日はオフで暇だったから、箒に誘われて買い物に行っただけだぞ?」

シャル「何それ。ボクが激務に追われている最中に、一夏はそんなことしてたの?」

一夏「いや、何怒ってんだよ。オフの日はうんと羽を伸ばせっていったのはお前じゃないか。ただ友達と遊びに行っただけだぜ?」

シャル「『日ごろから』って言っていたけど、もしかしてその前にも会ったりしてたの?」

一夏「オフの日にたまにな。大抵は食事に行ったり買い物付き合ったりだけど」

シャル「いつから?」

一夏「い、いつからって…そんなのよく覚えてないよ」

シャル「ボクと付き合ってからも? ボクに内緒で?」

一夏「おいおい何言ってんだよ。俺は友達と遊ぶくらいのことで、一々お前に了承を得なきゃならないのか?」

シャル「…つまり一夏はボクの知らないところで定期的に箒と会っていたんだね?」

一夏「え…ううん、まぁ、そうなるのかな。それがどうかしたか? 本当にただ遊んだり飯食っていただけだぞ?」

シャル「……」

ガタッ

シャル「帰る」

一夏「は?」

シャル「ボクもう帰るよ」スタスタ

一夏「え? お、おい待てよシャル! どうしたんだよ!?」ガタッ

シャル「……」チラッ

箒「……」フッ

シャル「―――!!」

一夏「あーもうしょうがねぇな! ごめん箒! 俺も帰るわ! この埋め合わせは絶対する!」

箒「分かった。何かすまないな。仲良くしろよ」

一夏「本当にゴメン! おいシャル! 待てってば!」



シャル(…箒。やっぱり全然変わってないじゃないか)

シャル(感情がすぐに表情に出るところも、一夏のことが大好きなところも…)

シャル(全部変わってないじゃないか! どういうつもりなの、箒…)

~織斑家~

一夏「なぁシャル。いい加減口きいてくれよ。どうしたんだよ、一体」

シャル「…ねぇ一夏」

一夏「ん? なんだやっと―――」

シャル「年頃の大人の男女がさ、2人きりで遊びに行ったり食事に行ったりするの」

一夏「え?」

シャル「そういうのって、世間一般で何ていうか知ってる?」

一夏「…何言ってんだお前」

シャル「…はぁ。もういい。ボク、寝るよ」ガチャッ

パタン
ガチャッ

一夏「え? お、おいシャル? 何で鍵かけるんだよ? 俺が寝れないんだけど」

シャル『知らない。ソファーで寝たら?』

一夏「え」

一夏「……」

一夏「え?」

――翌朝――

~リビング~

ガチャ

シャル「……」

一夏「……」

シャル「おはよう」

一夏「…ああ」

シャル「…よく眠れなかったみたいだね」

一夏「……」

シャル「ご飯作ってくれていたんだ。ありがとう。じゃあ食べようか」

一夏「…シャル」

シャル「なに?」



一夏「…ごめんッ!!」

シャル「……」

一夏「俺、お前がそんな風に思っていたなんて考えてなかった! 本当にごめん!」

シャル「……」

一夏「そうだよな…俺たち夫婦とはいえ、家で会えるのは月に1度あるかないかで…会社でもすれ違うばっかりだし…そりゃ、不安になるよな」

シャル「……」

一夏「ごめんな…でも、信じてくれ。俺、箒と浮気なん―――」

シャル「まさかとは思っていたけどさ」

一夏「へ?」

シャル「本当に一晩考えないと分からなかったの?」

一夏「あ、いや、その…ごめん」

シャル「…一夏、謝ってばっかりだね」

一夏「え…? ええと、その、ごめ…あ、いや…」

シャル「まぁいいけどね。反省してくれてるみたいだし」

一夏「ごめんな。その…お前が言うんなら、箒とも会わないように――」

シャル「はぁ…やっぱり分かってない」

一夏「え?」

シャル「あのね。ボクが怒っていたのは箒と会ったことじゃない。いくら何でも他人と会うくらいで
     こっちの確認取らせるほど重たい女じゃないよ、ボクは。大体そんなことしたら余計な負担かかるだけだし」

一夏「え? そうなのか?」

シャル「ボクが怒ってるのはね。それをボクに黙っていたこと。ただそれだけだよ」

一夏「あ、うん…ごめ―――」

シャル「それともう1つ」

一夏「へ?」

グィィィ

一夏「いへへへへへへへへへへへ!?」

シャル「ボクのこと信じられないの? ボクが浮気を疑うように見える?」

一夏「わ、わるはった! わるはったよシャルいたたたたたたたたたたたたた!!」

シャル「はぁ…やれやれ」パッ

一夏「ふぅー…おぉいてぇ…」ヒリヒリ

シャル「これでも一夏のこと、信頼してんだよ? 見くびらないで欲しいな」


一夏「…そうだよな、ごめ―――」

シャル「違うでしょ」

一夏「…ありがとうなシャル。嬉しいよ」

シャル「うん。じゃあこの件はこれでおしまい。早くご飯食べて一緒に出勤しなきゃね」

一夏「え? 今日俺、オフだぜ?」

シャル「え?」

一夏「あれ? 言ってなかったっけ?」

シャル「あ、いや…言ってたかもしれないね」

一夏「珍しいな。シャルが忘れてたなんて」

シャル「ええと、何だかあまりにもタイミングが…」

一夏「は?」

シャル(偶然…? 本当に偶然なの?)

シャル「一応聞いておくけど、予定は?」

一夏「特にないけど?」

シャル「……」

一夏「…気にするなら箒にも会わないし、何なら休日返上で働いてもいいぜ?」

シャル「あ、いや、そこまでしなくてもいいよ。一夏だって多忙なんだから、休めるときに休んでもらわないと」

一夏「でも…」

シャル「大丈夫だよ。一夏のこと、信じてるから。ボクだってあまり一夏を縛る真似はしたくないし」

一夏「うーん…」

シャル「お願い。なるべく一夏の好きなように過ごして? ゆっくり休養してもらわないと困るから」

一夏「分かった。そこまで言うなら休むよ。程々に節度を守ってな」

シャル「あはは。そうしてくれると助かるよ」

一夏「じゃあせめて玄関までは送るから。シャルは早く食べちゃえよ」

シャル「そうだね。って、うわ!? もうこんな時間だ!」ガツガツ

一夏「こらこらゆっくり食べなさい。ほら味噌汁」コトッ

~玄関~

シャル「じゃあ行って来ます!」

一夏「おいおい。また忘れ物だぞ」

シャル「あ…うん///」

チュッ

一夏「気をつけてな」

シャル「うん! ありがとね一夏! じゃあ行って来まーす!」ガチャッ

一夏「いってらっしゃーい」フリフリ

~織斑家前の通り~

秘書「社長、お疲れ様です。お迎えにあがりました」ガチャッ

シャル「うん! ありがとね!」パタン

秘書「…今日はやけにご機嫌ですね」

シャル「わかるかな? えへへ♪」

秘書「昨日は血相を変えて急に出て行かれましたから本当に驚きましたよ」

シャル「あ、ごめんね急に…」

秘書「いえいえ、毎日ご多忙ですからたまには。で、今日の予定ですが9時から○○社会長との会合で――」

シャル「はいはい。あ、メールチェックしなきゃ」イソイソ

秘書「それと、10時からはインタビューが―――」

ブロロロロロロロロ…








箒「………」

~織斑家~

一夏「さて。食器洗いも洗濯も掃除も終わって暇になったぞ、っと…」チラッ

一夏「うーん…好きなように休めって言われてもなぁ。働き癖が習慣化しちまってるせいで寝るってのも何かアレだし」

一夏「ええと、本当に今日はオフなんだよな? 何か重要な案件とか見落としてないよな?」パラッ

一夏「…わぉ。ものの見事に真っ白。びっしり書いてるスケジュール帳にポッカリ穴が…奇跡や」

一夏「はぁ…暇だ。俺死ぬかも…」パタン

一夏「というかさっきから時計とスケジュール帳をひっきりなしに確認してる…職業病だな…」

一夏「仕方ない。映画でも借りて時間を潰すか。それか久しぶりに体でも動かして――」

ピンポーン

一夏「お? 客か? ちょうどいいな。あーセールスかもしれないけど」スタスタ

一夏「はいはーい。どちらさまー?」ガチャッ

箒「よっ」

一夏「え」

箒「何だその顔は」

一夏「あ、あぁ…いらっしゃい」

箒「用事があったから寄ってみたんだが、迷惑だったか?」

一夏「いや、迷惑っつーかさ。すごいタイミングだなと思って」

箒「そうか?」

一夏「だってさ。俺、基本的に完全な休みなんて2ヶ月に1度あるかないかくらいなんだぜ?」

箒「そうなのか。それは運が良かった。ということは暇なのだな?」

一夏「まぁ暇だけどさ」

箒「では久しぶりに稽古でもしないか?」

一夏「え?」

箒「いやな。たまの休みくらいこそ、体を動かすべきだと思ってな。余計だったか?」

一夏「余計って言うかさ…今まさにそうしようと思っていたところなんだ」

箒「なんと。本当に今日はタイミングに恵まれているな」

一夏「うーん…でもなぁ」

箒「シャルロットの事が気になるのか?」

一夏「え? そんなことも分かるのか?」

箒「昨日の様子を見ればそれくらい一目瞭然だ。おおかた浮気だのなんだの慌てて、取り越し苦労だったんだろう?」

一夏「げ…何でそこまで分かるんだよ…まるで見ていたような口ぶりだな」

箒「おいおい本当なのか。どこまで分かりやすいんだお前は」

一夏「そんなに分かりやすいのか? でもまぁ、そんなわけでさ。いくら何でも昨日今日というのは…」

箒「そんなつれないことを言わないでくれ。そしたら次はいつになるかわからないではないか」

一夏「そうは言っても…」

箒「一夏が言い出したことだぞ? 昨日の埋め合わせはしてくれるんだろう? それを今求めて何が悪い」

一夏「うッ…それを言われるとキツいな」

箒「シャルロットには、お前は私とは邪な関係にないことは言ったのだろう?」

一夏「まぁ、そうかもしれないけどさ」

箒「そもそもシャルロットが気にかけていたのは、シャルロットに黙っていたことだろ? なら一言連絡を入れれば済む話ではないか」

一夏(あれ? 俺、そこまで言ったか?)

一夏「うーん…」

箒「一夏。シャルロットを少しは信用しろ。他に他意はないことくらいはアイツにだって分かるぞ」

一夏「いや、ええと、うーん…」

箒「大体お前の好きに過ごせとも言ってたのではないか?」

一夏「おいおい。何でそこまで分かるんだよ」

箒「何年お前の幼馴染をやっていると思っている。これくらい朝飯前だ」

一夏「やれやれ。分かったよ。ただし夕方までな。それと稽古だけだからな」

箒「ああ、承知した」

一夏「ちょっと待ってくれ。シャルにメールしてから準備するから。ええと、胴衣と竹刀はまだあったよな確か…」

箒「承知した」

~『オリムラ社』社長室~

記者「で、このような事業展開に具体的にはどのような秘訣を?」

シャル「そうですね。一言で言うのは難しいですが…」

biii...biii...

シャル「あ、すいません。ちょっといいですか?」

記者「いえいえ。ご多忙の中、時間を割いてくださって感謝してるくらいですから」

シャル「すみません。失礼します」ピッ

シャル「―――!!」

記者「? どうかされました?」

シャル「い、いえ! 何でもないです。ええと、具体的に挙げるとするならばまずは――」

記者「ふむふむ…」サラサラ



シャル(一夏…どうしてまた箒と会っているの?)

シャル(確かに一夏のこと信じているけどさ…こういう意味じゃないんだよ…?)

シャル(本当はボク以外に…会って欲しくないのに…怖いよ、一夏ぁ…)

~篠ノ之神社境内:篠ノ之道場~

一夏「ふぅ。こんなもんか」

箒「驚いたな。学生時代の実力のままではないか」

一夏「まぁな。久しぶりだったけど、腕は覚えていてくれて良かったぜ」

箒「そうだな。身のこなしなど、ブランクを全く感じなかったぞ」

一夏「営業の資本は足と体力だからな。これくらいは当然さ」

箒「なるほどな。まぁ剣筋は多少甘くなった気がするが」

一夏「なぁに、ようやく勘が戻ってきたところさ」

箒「本当か?」

一夏「ああ。次はお前から一本取れると思うぜ」

箒「言ったな。ではもう一本勝負だ」

一夏「え」

箒「何だ? まだまだ余裕なのだろう?」

一夏「えぇー…そろそろ休憩しようぜ? ぶっ続けじゃねぇか」

箒「何を言っている。体が温まってきた時こそ続けるべきだろうが」

一夏「いや、だって…お前だって全然腕が落ちていないし、しかも本気で来るもんだから…」

箒「阿呆。誰が相手でも手を抜かないのが私の主義だ」

一夏「勘弁してくれよ。顔にでも怪我したら営業にも支障が出るし…というか一息入れるってさっき―――」

箒「だが断る」

一夏「ちょ」

箒「そして隙あり!」バッ

一夏「うわ、ちょ! やめろよ箒~!」

箒(あぁ…やはり胴衣姿の一夏はいい…! 最高に凛々しいぞ一夏!)

箒(久しぶりの一夏との稽古、楽しい…! このまま時が止まってしまえばいいのに…!)

一夏「うぅぅ…いててて…」

箒「だらしないな、これくらいで」

一夏「いやいやいや。久しぶりに散々打ち合ったから筋肉痛が…いててててて…」

箒「まったく。ちょっと感心するとすぐこれだ」

一夏「お前はよくそんな涼しい顔できるな。息も上がってないじゃないか」

箒「当然だ。鍛練の成果だ」

一夏「ははははは、流石だな。今でも朝夕素振りしてんのか」

箒「………まぁな」

一夏(あれ? 今の間は何だろう?)

箒(…今となっては、剣道は好きにはなれない。剣道は私を縛っていた戒めだ。
  剣の道にかまけてさえいなければ、私はもっと柔和に一夏に接することができたかもしれない…)

箒(でも…今の私には一夏を繋ぎとめるものの1つが剣道だ。辞めるわけにはいかない)

箒(たとえ嫌いでも竹刀を握っている間だけは、一夏を身近に感じられる気がする。皮肉なものだが…)

一夏「?」

箒「では互角稽古はここまでにしようか。最後に基本稽古をさらって終わりにしよう」

一夏「げ…マジかよ」

~道場外~

一夏「あぁー…疲れた」

箒「やれやれ。まだまだ修行が足りんな」

一夏「へいへい」

ジャー
パシャパシャ

一夏「はぁ。サッパリした」

箒「お疲れ様。ほらタオルだ」

一夏「おおサンキュ」フキフキ

箒「久しぶりの剣道はどうだった?」

一夏「そーだな。疲れたけどやっぱ楽しいや」

箒「そうか、それは良かった。またいつかやろう、一夏」

一夏「別にいいけどさ。次からは加減してくれよ? 顔に傷でも付けられたら、シャルに怒られる」

箒「軟弱者め。お断りだ」

一夏「はぁ…まぁいいけどな」

箒「なぁ一夏」

一夏「ん?」

箒「写真を撮りたいんだが」

一夏「え?」

箒「何だかお前とこうしていると、昔を思い出してしまってな。駄目か?」

一夏「写真か…まぁそれもいいな」

箒「よし、ちょっと待ってくれ。カメラを出してくる」



箒「待たせたな」

一夏「おう。って、随分と年代モノだな。あれ? それってもしかして…」

箒「覚えててくれたか。これはお前と初めて撮った時の物だ」

一夏「懐かしいな、じゃあセットも終わったようだし、撮ろうぜ」

箒「ああ、そうだな」

ギュッ

一夏「え」

一夏「お、おい箒?」

箒「動くな一夏」

一夏「いや、何で腕を組む必要があるんだ!?」

箒「動くなといっている。写真がボケてしまうではないか」

一夏「動くなって、お前…(あ、当たってるんだよ! 色々と!)」

パシャッ

箒「やれやれ。お前が動いてしまったから台無しだな」

一夏「はぁ…(お、終わった…)」

箒「もう一度撮るぞ、一夏」ピピッ

一夏「え」

箒「ほら。カメラに向き合え」

グイッ

一夏(こ、今度は腰に手を巻いてきただと!?)

箒「まったく…何度取り直させれば気が済むんだ」

一夏「いやお前がひっ付くからびっくりするんだよ。もっと普通に撮ろうぜ?」

箒「今更何を言ってる。何年の付き合いだ。今更恥ずかしがる道理がどこにある?」

一夏「別に恥ずかしがってないけどさ…」

箒「そうか?」

一夏「そ、そうだよ」

箒「ともかく、今度はしゃんとしてくれ。いつまで経っても終わらん」

一夏「わーったよ…これで最後だからな」

箒「あ、ちょっと待ってくれ。今度はレンズの向きに対して直角に体を向けてくれるか?」

一夏「ん? こうか?」クイッ

箒「そうだ、それがいい。その位置がいい」ピピッ

ダキッ

一夏「え!?」

箒「何度も言わせるな。動くな」

一夏「い、いや! まずいって! これはまずいって!」

箒「落ち着け一夏」

一夏「だ、だって! これ、完全に抱き合っ――」

箒「リラックスだ」

一夏「え…」

箒「体の力を抜け。そして優しく、腰に手を添えろ」スッ

一夏「う…」ピトッ

箒「そして私を見ろ。まっすぐに、ただ私の瞳を見ろ」

一夏「あ、う…」

一夏(な、何だこの箒の瞳…潤んでて、何かすげぇいい匂いがする…胴衣もはだけて、胸元が…)

一夏(い、いや何考えてんだ俺! こんなの、スキンシップの範疇―――)

箒「そしてそのまま…笑ってくれ」

一夏「!?」

箒「お願いだ一夏。私を見ながら…笑ってくれ」

一夏「……ッ!」


パシャ…

箒「ふぅ。完璧には程遠いがこんなものか」パッ

一夏「ふぅ…ようやく終わった…(何だか無駄に疲れた…)」

箒「やはり写真というものはいいな。そうは思わんか、一夏」

一夏「ま、まぁ思うけどさ…じゃあもうこれでいいか?」

箒「ああ、もういい。満足した」

一夏「そうか。じゃあ俺行くよ」

箒「おう。付き合ってくれてありがとうな。稽古だけといったのにすまなかった」

一夏「いいよ別に。こっちだっていい暇つぶしになったしな」

箒「いつでも来てくれ。歓迎するぞ」

一夏「暇が出来て気が向いたらな。じゃあな」

箒「ああ」

箒「いずれまた、な…」

箒「…ふふふ。やはり写真はいい…また思い出が増えた」

箒「あぁ感じる…一夏の温もりを、まだこの手に感じる…」

箒「一夏の奴め…しっかりとドギマギしおって…順調に私を意識し始めてるようだな。ふふふ…思ったとおりだ」

箒「一夏…嬉しいぞ…お前はまた、私の下に戻ってきてくれるのだな…」

箒「……」

箒「…この写真はもちろんとっておくが、もうすぐ不要になるな」

箒「写真ではなく、もうすぐ…」

箒「ふふ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」

箒「…さて、浸っている場合でもないな。準備しなければ」


ピッ ピッ ピッ
ピピッ

『送信しました』


箒「…やはり写真はいい。写真は肯定も否定もしない。ただ、残すだけだ…」

箒「ふふ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」

~『オリムラ社』社長室~

シャル「ええと、ここの決算は…ううん、これならもうちょっとコストを抑えられるね。キュッキュッキュ…っと。
    よし、こんなもんかな。付箋とマーカー塗ってあるところは再検討するように経理に言っておいて」

秘書「お疲れ様です。次は企画からの草案です。目を通していただき、判をお願いします」

シャル「分かった。じゃあ今日の分もやるから纏めてそこに置いておいてくれる?」

秘書「はい。ただいま持って参ります」ツカツカ

biii...biii

シャル「お、メールだ…ん? 知らないアドレスだ…迷惑メールかな?」カチッ

シャル「―――!!」

秘書「お待たせしました。今日の分はこちらです」ガチャッ

シャル「……」

秘書「社長?」

シャル「…ごめん、急用が出来た。ちょっとやっておいてくれる?」ガタッ スタスタ

秘書「えっ。ちょ、ちょっと社長!?」

バタン…

秘書「えぇー…」

~織斑家~

ガチャッ

一夏「ん?」

シャル「……」

一夏「シャ、シャル!? どうしたんだよ!?」

ズカズカ

シャル「…何してんの」

一夏「え?」

シャル「昼間」

一夏「何って…メール見ただろ? 稽古だよ。お前こそ会社はどうした?」

シャル「…押し付けちゃったよ。4年勤めているけど、そんなことしたのなんて初めて」

一夏「え?」

シャル「…こんなドラマみたいな台詞、まさか言えるなんて思わなかった」

一夏「?」

シャル「じゃあこの写真は何?」スチャッ

一夏「なッ…!? こ、これは…えッ!?」

シャル「ついさっき送られてきたんだ」

一夏「な、なんで…? え…」

シャル「送り主は箒」

一夏「た、確かにこの写真はアイツしか持ってないはずだけど…何でアイツがそんなことを――」

シャル「一夏はさ。全部ハッキリ言ってあげないと何も分からないの?」

一夏「うッ…」

シャル「…ごめん、話を戻す。この写真は何?」

一夏「い、いや…稽古の後、箒が写真撮りたいって言ってさ。それで付き合ったんだ」

シャル「…それだけ?」

一夏「誓って言う。本当にそれだけだ」

シャル「にしては、随分と仲睦まじく写っているように思えるけど?」

一夏「いや、これは箒に強引に迫られて、仕方なくだな」

シャル「何それ。そんな理由でこんな写真撮らせてあげたんだ。どう見ても恋人にしか見えないよ」

一夏「こ、恋人って、お前…」

シャル「……」

一夏「と、ともかく本当に稽古して写真に付き合っただけだ。それ以外は何もしてない」

シャル「この写真の一夏…笑ってるね」

一夏「そ、それも箒に言われて――」

シャル「さっきっから何? 箒、箒が、って」

一夏「うッ…」

シャル「……」

一夏「…ごめん」

シャル「……」

一夏「で、でも信じてくれ。俺だって断ったんだ。本当だ」

シャル「それで結局押し切られたんでしょ? 違う?」

一夏「うぅ…」

シャル「……」

一夏「…ごめん」

シャル「なんで謝るの? 引け目を感じるくらいなら、最初からやらないでよ」

一夏「だって…お前がこんなに気にするなんて思わなくて、それで…」

シャル「ボクのことを思って謝ってくれてるんだ?」

一夏「当たり前だ。お前を悲しませたくない」

シャル「…一夏ってさ」

一夏「ん?」

シャル「優しいよね。ボクにも、箒にも」

一夏「…そんなつもりはない」

シャル「ううん。一夏は誰にだって優しいんだよ。誰隔てなく、本当に優しい」

一夏「別に俺は自分が優しいだなんて思わない」

シャル「一夏がそうでもボクはそうは思わない。だって、ボクのことは大切に思ってくれてるけど、箒だって大切でしょ?」

一夏「そ、それは…」

一夏「……」

シャル「…ほら。やっぱり優しい。頭にくるくらい」

シャル「昨日さ、ボクは一夏のこと信じてるって言ったよね。でもね、やっぱり一夏は分かってくれなかったみたい」

一夏「…どういう、ことだよ」

シャル「一夏はさ、たとえ箒に迫られても、ボクの事を思って会うのを断ってくれると思ってたから」

シャル「誰にだって優しくてもさ、結局はボクを選んでくれる。そう信じてた」

一夏「……」

シャル「誰にでも優しくて、流されやすくて、それでいて鈍感。そういう人が夫ってさ、奥さんからしたらどれだけ不安だか考えたことある?」

シャル「最近ボク、すごく怖いんだよ? たとえ一夏が浮気しているつもりなんかなくても、それでもやっぱり怖いよ…」

シャル「どうして分かってくれないの? 本当に言われないと分からないの?  少しは直そうとしてよ一夏ぁ…」

一夏「……」

シャル「…ごめん。やっぱりボク、汚い女だね。結局一夏を縛りたいだけじゃない、こんなの」

一夏「…悪いのは俺だよ」

シャル「…そうかもしれない。でも、一夏に甘えていたのはボクの自業自得だから」

一夏「そんなこと言うな。反省するよ、本当にごめん」

シャル「……」

一夏「…確かに俺が不甲斐ないのは認める。でも、箒のことも少しは信用してやれよ。
   アイツは浮気とかさせる奴じゃない。相手が箒だったから、俺は安心して会えるんだぜ?」

シャル「…やっぱり鈍感だね。もう本当に病気か何かって疑いたくなるくらいに」

一夏「シャル、何言ってんだ? あいつは本当にただの幼馴染だぞ?」

シャル「一夏はそう思っていてもね。向こうはそうは思ってないみたいだよ」

一夏「え?」

シャル「だからこんなにもさ…簡単に浸けいれられちゃうんだ」

一夏「どういう、ことだよ…?」

シャル「さっき箒が何でこんなこと、って言ったよね。知りたい?」

一夏「……出来れば自分で気付きたいけど、これ以上お前に迷惑をかけたくない」

一夏「情けないけど、お前が知っているなら教えてくれ」

シャル「…分かった。言うよ」

シャル「箒はね。一夏のことが好きなんだよ。今でも心の底から、一夏のことを愛している」

一夏「………は?」

シャル「……」

一夏「え…?」

シャル「……」

一夏「い、いやいやいやいや…ありえねぇって…だってあいつとは、ただの幼馴染で…」

シャル「……」

一夏「え、ええと…」

シャル「……」

一夏「ほ、本当なのか…?」

シャル「……」

一夏「えぇー…マジかよ…」

シャル「本当に鈍感すぎるね。いっぺん医者にでも診てもらったら?」

一夏「うぅ…返す言葉もない…」

一夏「じゃあここ最近、アイツの様子を変に感じたのも…」

シャル「ボクの真似事」

一夏「へ?」

シャル「一夏に近づいて、身も心も一夏に委ねて、心に漬け込むの。一夏は拒んだりしないって分かってるから。
    かつてボクがしたようにすれば、一夏は自分に靡くと思ってるんじゃないかな」

シャル「そしてボクと一夏を仲違いさせれば、一夏は自分だけのものになる。ベタ過ぎるけど、多分そういう筋書き」

一夏「…信じられないな。あいつが、人を陥れるような真似をするなんて」

シャル「それだけ本気で、一夏のことが好きだってことだよ」

一夏「……」

一夏「…ふざけるな。俺が好きなのはお前だけだ」

シャル「…うん。でも残念なことに、ここまでは相手の思惑通りだよ」

一夏「何でそういう風に言うんだよ。俺は本当にお前だけを愛しているんだぞ?」

シャル「…どうかな」

一夏「え……」

シャル「…一夏」

一夏「…なんだ」

シャル「覚えてる? is学園でボクと相部屋だったとき、ボクを助けるって約束してくれたの」

一夏「当たり前だ。忘れるわけないだろ」

シャル「うん…でもさ、最近思うんだ」

一夏「何をだよ」

シャル「一夏はさ……本当に、ボクを助けたかったの?」

一夏「え………」

シャル「……」

一夏「お前……なに、言ってんだよ…」

シャル「…ごめん。流石に今のは言い過ぎたよ。忘れて」

一夏「シャル…?」

シャル「忘れて欲しいと言った代わりといっちゃなんだけどさ、1つ約束できる?」

一夏「…ああ。何だって約束する」

シャル「…あのね」

一夏「……」

シャル「もうさ。優しくするの、やめよ?」

一夏「え…?」

シャル「誰にでも優しくするのは、もうやめて」

一夏「…俺は別に自分が優しいつもりはない」

シャル「それでもだよ。約束して」

一夏「……」

シャル「できないの?」

一夏「シャルが俺のこと、優しいって言うんならさ」

シャル「……」

一夏「少し、考えさせてくれないか? ちょっと気持ちを整理したい」

シャル「……」

一夏「多分、お前の言う俺の優しさは、『皆を守りたい』っていう俺の願いを含んでいると思うんだ」

一夏「でも、やっぱり一番守りたいのはお前だ。お前を悲しませることだけは絶対に嫌だ。
    お前を第一に守った上で俺は、ちゃんと皆を守りたい。それは譲ることが出来ない」

一夏「どうすればちゃんと折り合い付けれるか、考えるからさ。それまで、待っていてくれないか?」

シャル「……」

一夏「……」

シャル「…分かった。信じているよ、一夏のこと」

一夏「ああ。ありがとうな、シャル」


シャル「ボク、やっぱり会社に戻るよ。仕事押し付けてきちゃったし」

一夏「え? いいのか?」

シャル「うん、もう大丈夫。決めたこともあるし」

一夏「え?」

シャル「じゃあ今日はもう帰れないから、先に寝ていていいよ」

一夏「ま、待てよシャル。どういう意味だ? 決めたって、何をだよ?」

シャル「一夏のことは信じたいけど、一夏だけじゃ不安ってこと」

一夏「うッ…」

シャル「でも、一夏を愛しているのは紛れもなく本当だから。他に一夏が好きな子がいたら、ちゃんと向き合わなきゃ」

一夏「シャル…」

シャル「それと勘違いしないで欲しいんだ。一夏のことはすごく怒っているけど、箒にも同じくらい怒っている」

シャル「だからボクね。決めた」



シャル「箒と会うよ。2人きりで話がしたい」

ここまで、って言ったけどやっちゃあかん誤植があったから修正

シャル「でも、一夏を愛しているのは紛れもなく本当だから。他に一夏が好きな子がいたら、ちゃんと向き合わなきゃ」

シャル「でも、一夏を愛しているのは紛れもなく本当だから。他に一夏を好きな子がいたら、ちゃんと向き合わなきゃ」

マジふっざけんな俺

現実逃避してたら微妙に切りの言いところまで書けた
というわけでまさかの同日連続投下

~とある喫茶店~

カランカランカラン
イラッシャイマセー オスキナセキエドウゾー

シャル「……」

箒「よう」

シャル「…待った?」

箒「10分ほどな」

シャル「あっそ」

箒「いきなり挨拶だな。忙しい時にわざわざ時間を割いてくれたとは言え、その言い草か?」

シャル「誰の所為だと思ってるの?」

箒「やれやれ、嫌われたものだな。まぁ私だってお前のことなど大嫌いだが」

シャル「用件は分かっているんでしょ?」

箒「まぁな」

シャル「じゃあ余計なやり取りは抜きでいこうか」

箒「ならさっさと座れ。お前に見下ろされるのは気に食わん」

オマタセッシター ブレンドデスー

シャル「どういうつもり?」

箒「どういう、とは?」

シャル「とぼけんの? いい加減にして欲しいんだけど」

箒「ははははは、すまんすまん」

シャル「…随分と余裕だね。勝ち誇ってるつもりなの?」

箒「別にそんなつもりはない。ただ必死なお前が滑稽なだけだ」

シャル「…箒。本当にどうしちゃったの? ボクの知っている箒は、そんなこと言うような人じゃなかったよ」

箒「…どうした、か。お前に言われるとは思わなんだ」

シャル「一夏のこと、好きなんだね」

箒「ああ。お前なんかよりよっぽど一夏を愛している」

シャル「…ごめん、やっぱり訂正する。箒は変わってない。ていうか成長してない」

箒「は?」

シャル「今になって既婚者を口説き落とそうとするとかバカみたい。未練たらしいたらありゃしない。駄々をこねた子供みたいでさ」

箒「はっはっはっはっは。そうカッカするな。小皺が増えるぞ」

シャル「未練タラタラで黴が生えるよりはマシだよ」

箒「おいおい売り言葉に買い言葉でどうする。余計なやり取りは無しではなかったのか?」

シャル「…そうだね。じゃあ本題に入ろうか」

箒「ああ。とっとと終わらせてもらおうか」

シャル「単刀直入に言うね。もう一夏に近寄らないで」

箒「それは私が決めることだ。お前は口を挟むなシャルロット」

シャル「…あのさ箒。自分が何してるか分かってるの?」

箒「お前と同じことをしているだけだ」

シャル「…ッ」

箒「反応したな。やはり気にしているのか」

シャル「違うよ。箒がそんな風に思っていたことがショックなだけ」

箒「そうか。どうでもいい」

シャル「…本当に分かってるの? 箒がやろうとしていることってね、箒の大嫌いな妾の真似事なんだよ?」

箒「黙れ雌豚。息を吐くな。鼻が曲がる」

シャル「……」

箒「確かに否定はしない。私がしていることは唾棄すべき売女のしていることと同類だ」

シャル「……」

箒「だがな。私はそれでも構わない。一夏が私を好いてくれるのであれば、泥を啜るのも茨の道を進むのも顧みない」

シャル「……」

箒「どうだシャルロット。お前はここまで一夏を好いているか? お前に私の覚悟の何が分かる。
  分かりもしないで知ったような口をきくな」

シャル「そんなもの覚悟だなんて言わない。ただの落伍者の屁理屈って言うんだよ」

箒「ふっ、一般人と感性が相容れないのも当然か。所詮は妾の子だな」

シャル「惨めな負け犬よりはよっぽどマシだと思うけど?」

箒「負けてなどいない。今はただ、一夏をお前に預けているだけだ」

シャル「……」

箒「ラウラもよく言ったものだな。今は勝たなくてもいい。最後まで一夏の傍に立っていれば、それが勝者だ」

シャル「箒…箒は、立ってすらいないよ。そんなことも分からないの?」

箒「本当にお前とは馬が合わないな。まぁ好都合ではあるが」

シャル「ねぇ箒…もうやめようよ。こんなの、絶対におかしいよ」

箒「おかしいのはお前のほうだシャルロット。何故一夏を信用していない」

シャル「信用はしてるよ、一夏のこと」

箒「嘘付け。信用しているならばこうした搦め手を講じず、堂々と構えていればいいではないか」

シャル「煩い蝿がブンブン飛んでなきゃね」

箒「何故否定もせずに煽るような真似をする。暗に認めているようなものだぞ?
  一夏のことを心から信用しているのだろう? 心の底から、な」

シャル「…ッ」

箒「何故黙る? 何故言い返さない。動揺しているぞシャルロット。まるで昨夜一夏と喧嘩でもしていたみたいではないか」

シャル「……」

箒「一夏のことは信じてる。でも、一夏だけじゃ不安か…」

シャル「!?」

箒「お笑い種だな。矛盾した感情が並存していることに気付いているのか?」

シャル「なんで…そのことを…」

箒「これで確信した。お前に一夏の隣は相応しくない。一夏を心の底から信じられるのは私だけだ」

箒「信用しているだと? 冗談も大概にしろ。本当は怖いくせに」

シャル「怖くなんか…ない」

箒「いいや、お前は恐怖している。一夏がいつか私に盗られる事を危惧している」

シャル「そんなことない」

箒「あるさ。お前は誰よりも、他人に奪われる恐怖と悲しみを知っている。妾の子だからな」

シャル「……ッ」ギリッ

箒「怒ったな。そうだ、お前は慄(オノノ)いているんだよシャルロット。お前はいつか捨てられるのではないか、とな。
  所詮は愛人の子、決して本妻にはなれないのだと心の底で感じ取っているんだよ」

シャル「ふざけないでよ…」

箒「どうだ? やはり不安なのだろう。信用していたと思っていた一夏が、
  お前たち母子を鼻紙のように捨てていったお前の父親のように―――」

シャル「―――ッ!!」


パシーン!!

箒「……」ヒリヒリ

シャル「お父さんのこと…悪く言うな!!」

箒「…少々意外だぞシャルロット。一夏のことならともかく、お前が父親のことでここまで憤るとは」

シャル「一夏は自業自得だから。でも、お父さんをバカにするのだけは絶対に許さない」

箒「……」

シャル「……」

箒「…ほんの少しだけ興が沸いたぞシャルロット。何故そこまでお前を利用し、捨てていった父親のことを庇護する?」


ガタン!


シャル「お父さんはボクを捨ててなんかいない!!」


ザワザワ… キャーナニナニー シッ メヲアワセチャダメヨ コワイワー


箒「……」

シャル「…ねぇ箒。ボクのことさ、汚い妾の子だって思ってるよね」

箒「ああ。事実、そうだろう?」

シャル「汚い父親と汚い売女から出た娘。そう、思ってるんだよね」

箒「何が言いたい? そして座れ。お前に見下ろされるのは不愉快だと言っただろう」

シャル「……」

ストン…

シャル「本当はね…このことはボクと一夏と父さんだけの秘密なんだ。でも、特別。箒にだけ教えてあげる」

箒「……」





シャル「ボクはね。お父さんに愛されていたんだよ。本当に、心の底から」

箒「…どういうことだ?」

シャル「順を追って話すよ。そうだね、まずはきっかけから。あれは2年生の最後の春だったかな」

シャル「まだこの頃は会社の事とか全然気にも留めてなくてね。
     とりあえず安定するまで、卒業後は一夏の家に置いてもらうことになっていたんだ」

シャル「それで本当に久しぶりにフランスの実家に行って、荷物の整理をしていた時に、見つけたんだ」

箒「何をだ」

シャル「母さんの日記。それと、お父さんがボクに充てた手紙が山ほど」

箒「……」

シャル「勿論そんなことは知らされなかった。でも、手紙の事は隠されていたわけじゃなかった。
     時期が来たら、ボクに全部を打ち明ける。その時まで手紙は保管するように、母さんは言われていたらしいんだ」

シャル「まぁその時が来る前に母さんは他界しちゃって、お父さんは会社の経営危機でそれどころじゃなくなっちゃったけどね」

箒「……」


ちょっと今日の分は前作読んでないと分からない部分が山盛り
>>1の「前作読まなくてもおk」と矛盾するので一応

箒「…何が書いてあった?」

シャル「日記には、お父さんがボクとお母さんをどれだけ深く愛していたか。それと、2人の経緯」

箒「……」

シャル「お父さんはさ、そもそも良家の次男坊だったんだよ。お父さんの実家は名の知れた実業家でね。
     主に鉄道や貿易関係で、それなりに歴史のある名家だったんだ」

シャル「isが世間に発表された時お父さんの実家はそれに目を付けて、それに事業の枝を伸ばした。
     一部上場している企業を半ば強引に買収してさ。それでたまたま空いていた次男の父さんを、無理やり社長の椅子に座らせた」

箒「……」

シャル「苦労しただろうね。自分は経営の知識なんて全くない素人だったし、最初は本当に手探りだったらしいよ。

     でもね、いくら経営や技術が拙くても新技術の需要が落ちることなんてありえない。ましてやisのような
     画期的なモノなら尚更。実家の支援の後押しもあって、瞬く間にデュノア社は大企業へと成長した」

シャル「会社が軌道に乗っても、本当にてんやわんやだったそうだよ。あらゆる所にコネクションは作らなきゃならないし、
     利権を貪ろうとする輩にも気を払わなきゃいけない。内1人は政略結婚の形で強引に婚約させられたし」

シャル「そんな時お父さんがであったのが…お母さんだった」

箒「……」

シャル「決して裕福な家系じゃなかったんだけどさ。明るくて、気立てがよくて、お父さんがどんな時でも傍にいて、
     支えてくれた人。それがお母さんだった」

シャル「お母さんだけが、お父さんの拠り所だった。利権争いにはうんざりしていたお父さんだったけど、
     お母さんの前では素の自分で、お母さんを愛してくれた。そう、書かれていたよ」


箒「…ベタだな」

シャル「確かにね。でも、だからこそ素敵だと思う」

箒「続けろ。手紙の方にはなんて書いてあった?」

シャル「手紙には大抵は他愛もない話だよ。ボクが今日何をしていたか、何を覚えたか、友達は出来たか。
     そんな些細な質問と、お父さんがどれだけボクの事を想っていてくれていたかが書いてあった」

シャル「手紙は月に1通の割合で送られてきたの。でも、今の自分にはお前に会う資格はない。
     こんな形でしか気持ちを伝えられないことに許してくれ。手紙の最後は、決まってそれだった」

箒「……」

シャル「でも手紙が最近の物になっていくにつれてね。会社の状態が深刻に危うい状況になっていってたことも書いていたよ。
     状況が危うくなるにつれ、字はヨレヨレになるし紙もクシャクシャだったなぁ、そう言えば」

シャル「それでとうとうお母さんが他界しちゃって、本格的にボクは1人になった。

     このままでは私はお前を巻き込むかもしれない。それだけは絶対に避けたい。
     最後の1つ前の手紙は、そう終わっていた」

箒「……」

シャル「最後の手紙には、ボクを守るための最後の手段。ボクをis学園に転入させる旨が記されていた」

箒「何…?」


シャル「ボクがis学園に転入させられた経緯は知っているよね?」

箒「ああ、諜報と宣伝だろ。他isの情報収集と、話題づくりのための布石、ということだったな」

シャル「違うよ。ボクが言いたいのは、目的じゃなくて手段の方」

箒「は?」

シャル「ボクって男装して入学したでしょ? 男性でisを動かせる転入生として世間に注目されようとして、ね。まぁそれはいいの」

シャル「でもね、冷静に考えてみればおかしい事だって気づかない? いくら男性の格好をしていたとは言え、体は女の子なんだよ?
    特殊国立高校のis学園に、そんなこと看破できないわけがない。箒だって身体検査くらいはされたでしょ?」

箒「……」

シャル「でも結果的に、ボクは男としてis学園に転入できた。これがどういうことか分かる?」

箒「…いいや」

シャル「織斑せんせ…千冬さんに掛け合ったんだ。そしたら、話してくれたよ」

シャル「お父さんがボクを企業競争の策略や本妻の人の魔の手から救うために、is学園に嘆願したんだよ。
    デュノア社の社長としてではなくボクの父親個人として、ボクをこの学園に入れてくれ、って」

箒「……」

シャル「入学中だけとはいえ、is学園はいかなる国家、機関に属しない治外法権地帯。そこに賭けたんだね」

シャル「それを千冬さんや理事長を始め、学園は了承してくれた。だからボクはis学園に入ることが出来たの」

箒「…だとすれば妙だな。何故男装させる必要がある? お前をis学園に匿うのが目的であるとするならば、
  女子のままでも充分達成できただろうに」

シャル「それはね…お父さんが会社で孤立していたから」

箒「?」

シャル「その頃のデュノア社は、社内での派閥がかなり分かれていたんだ。他企業と合併して地盤を強化させる共存派、
     新しい技術を開発して独自に再興を図る存続派、そして潔く市場から撤退し、他企業に技術を譲渡する解体派。他にも色々ね」

シャル「お父さんは解体派の筆頭だった。さっき言ったように、経営に関しては素人だし。利権に溺れて派閥争いをする
     会社にこれ以上執着してもしょうがない。そう、考えていたんだと思う」

箒「……」

シャル「でも、解体派は社内でも圧倒的に少数派だった。いくら社長でもね…考え方が孤立してしまえば地位も何も意味がないんだよ」

シャル「お父さんの意向は無視されるまま、経営危機に直面したデュノア社が槍玉にあげたのが…ボクだった」

シャル「各派閥はボクをどう使うかで揉めたよ。無理やりに社長に就任させて、自分はそれを補佐する名目で実質的に実権を握るも良し。
     他大手企業の重役に接近してハニートラップで情報収集と企業のスキャンダルをでっち上げるも良し」

シャル「元々公には出来ない存在だからね、ボクは。だから道具のように使おうが、社内の誰もが気にも留めていなかったよ」

箒「……」


シャル「でも、お父さんだけは絶対にそんなことはさせないって反対してくれた。

     娘としてもデュノア社としても、そんな汚れたことを押し付けるような真似はさせられない。
     そう、言ってくれたんだ」

箒「……」

シャル「でもさっきも言ったとおり、父さんの反対は無駄に終わったよ。

     もうその頃には重役の内でお父さんの意見を聞く人は誰一人としていなくなっていた。
     そしてボクの使い道が決まりかけた頃…ボクにis適正が高いことが分かった」

シャル「お父さんはそれに賭けた。せめて少しの間だけでも、ボクを安全な場所に遠ざけたかったんだ」

シャル「他派を説得して、ボクを諜報と宣伝に送り込む名目で男装させてis学園に転入させるしか
     手立てはなかった。これは、お父さんが呑まざるを得なかったギリギリの妥協点だったんだ」

箒「……」


箒「…お前のisに仕掛けられた盗聴と盗撮のパッケージの件についてはどう説明する。
  あれはお前の父親が、お前を道具にしか思っていなかったことの証明ではないのか?」

シャル「あれはお父さんの意思じゃない。本妻の人が勝手に取り付けただけ。
     ちなみに、本妻の人は存続派の筆頭だったよ」

シャル「その証拠にパッケージの搭載もボクへのコンタクトも、
     お父さんには一切話すことなく自分1人で進めていたんだ。自分の保身と我欲のためにね」

シャル「笑っちゃうよね。ボクのことを散々泥棒猫扱いしてたのにさ。会社がいよいよ駄目になったら金だけ奪って

     お父さんから離れちゃうし、お父さんが復帰したらあっさり拠りを戻そうとしたんだもん。
     本当にお金のことしか考えてない人だったよ」

箒「……」

シャル「大体ね、本当に他のisの技術を盗むだけなら、わざわざ新装備を送る必要はない。
     元々isの基幹装備に組み込まれていたんだから、ボクを入学させた時点で悲願は達成できてた」

シャル「お父さんはね。純粋にボクを守るために、新装備とisを残してくれただけなんだよ。
     ボクがちゃんと自分自身を守れるように、ボクを守るために新しい武器を送ってくれたんだ」


箒「…ではかつて教室に来たデュノア社の連中も」

シャル「それもお父さんとは無関係。一夏をまんまと手に入れたと思い込んだ解体派以外の派閥が、

     一斉にボクたちに打診してきただけ。あの場にお父さんはいなかったしね。
     まぁあの頃のボクは、お父さんの使いに来たんだと思って怒って追い返しちゃったけど」

箒「……」

シャル「お父さんは不器用な人でね。物を送ることでしか、愛情を表現できなかったみたいなんだ」

シャル「母さんの時もそう。立派な屋敷、一面の花が咲く敷地、大勢の使用人…本当に色々なものを残してくれたよ」


箒「…解せないな」

シャル「何が?」

箒「潔く撤退しようと思うならば、何故今の『オリムラ社』がある。この結果だけを見れば、お前の父親がお前を利用し、
  見事に会社の再興を実現できて高笑いしている画しか思い浮かばないぞ」

シャル「違うよ。お父さんは本気で会社を畳むつもりだったよ」

箒「ならば何故だ。事実として、あの元社長は今や下請けとはいえ未だ会社の社長の座に君臨しているはないか」

シャル「ついでに言っちゃうとね。それもお父さんの意思じゃないんだ」

箒「…は?」

シャル「言い出してくれたのはね…一夏なんだよ」

箒「…ッ」

シャル「お父さんがボクに残してくれたものと、精一杯の愛情を知った時さ。傍にいてくれたのが一夏だったんだ」

シャル「ボクは本当に自分の行いに後悔したよ。こんなにまでボクの事を想ってくれていたお父さんに酷いことをいっぱい言って、
     それで、お父さんが本当に危ない状態だって今更になって知った自分が情けなくて…」

シャル「このまま会社が倒産して吸収されてしまえば、お父さんは間違いなく実家から破門されて、野垂れ死ぬしかなかった。
     どうすればいいか分からなくて途方に暮れていた時、助けてくれたのはまた一夏だった」

箒「……」


シャル「父親が娘の事を愛しているって分かったのなら、それに応えなきゃ娘じゃない。助け合わなきゃ、家族じゃない」

シャル「父さんだけじゃ会社のことが駄目なら、ボクたちが力を貸せばいい。
     そう言ってくれたのが一夏だった」

シャル「デュノア社は、ボクとお父さんを繋ぐ絆みたいなものだったから…。
     それを失わせるわけには絶対にいかない。だからボクたちで助けていこう、って」

箒「……」

シャル「勿論お父さんは、最初は反対した。そりゃそうだよね。ボクを血みどろの利権争いから
     遠ざけるためにボクを転入させたんだから、そうされたんじゃ意味がなくなっちゃうもん」

シャル「でも、一夏は折れないでいてくれた。何度も何度もお父さんに頼んで、頭を下げて…
     そう言えば一回本気で殴り合いの喧嘩をしたんだっけ。ははは…」

シャル「それでね。結果として、お父さんは折れてくれた。ボクたちのこと、認めてくれたんだ」

箒「……」

シャル「そして3年に進級した後は、2人で猛勉強したよ。まぁその途中で一夏は経営には向かないことがはっきりしたから、
     広報で活躍するためにデザインやis操縦の勉強に専念させたけど」

シャル「お父さんは今までの経営の経験を、全部ボクに教えてくれたよ。10年は社長をしていたからね。
     今のボクの経営のノウハウのほとんどは、お父さんから教わったものなんだ」

箒「…なるほどな」


箒「では何故首をすげ替える必要があった。会社を再建させるのであれば、一夏を引き入れるだけで充分ではないのか?」

シャル「言ったでしょ? デュノア社内は派閥争いまみれだったって。それってね。指揮系統も何も破綻して、
     会社全体の統率もまるで取れてない危険な状態なんだよ?」

シャル「そんな状態で一夏を引き入れても、効果は薄いどころか逆に働く可能性の公算が大きかった。
     だからそんな連中を一掃するために、本格的に会社を一新させるしかなかったんだよ」

シャル「膿を全部吐き出して、そして改めてこっちで厳選した人員を導入する。それが最善の手段であり最高の手段。
     ちなみに今の会社の重役は全部、お父さんが絶対の信頼を寄せる人たちばかりだよ」

シャル「そして一度経営不振に陥った会社が盛り返すよりは、若きカリスマ溢れる新社長と、is界で不動の注目を
     浴びている精鋭がいる新企業っていう方が世間体的にもいいし、何より上場しやすい」

箒「くだらんな。打算的だ」

シャル「素人が何言ってるの。打算なくして会社なんて経営できるわけないでしょ」


シャル「お父さんはボクに経営の知識を叩き込んだ後は、現役を退くはずだったんだけどね。
     でも、また一夏に押し切られちゃったんだ」

箒「……」

シャル「最初は副社長にしようかと思ったんだけど、本気で断られちゃってさ。それで、仕方ないから下請けの会社の社長で妥協してくれたよ」

シャル「一夏は『まだまだ若輩の俺たちを、近くから支えててください』って。
     お父さんは、『もう一度下積みからやり直して、誇れる父親になる努力をさせてくれ』って」

箒「……」

シャル「これは本当は企業機密なんだけどね。来期の専務にはお父さんが就任することになったんだ」

シャル「社長だっただけあって下請けの成績は絶大でさ。でも、やっぱり元とはいえ創設者なんだから、本当は会長にしたかったんだけど」

箒「……」

シャル「また断られちゃった。『私はお前の上に立つ資格はない。それに、この会社はもうお前の物だ』って」

箒「……」

シャル「…本当に不器用だよね、お父さん。こんな大きなもの残してくれなくても、
     お父さんがボクを愛してくれていることは知っているし、ボクだってお父さんの事を愛しているのに」

箒「……」

シャル「これでこの話はおしまい。驚いた?」

箒「……」


箒「つまりお前は、愛に恵まれた家庭の下で生まれた。そう自慢したいのか?」

シャル「自慢にする気はないよ。ただの事実だもん」

箒「…そうか」

シャル「…ねぇ箒。まだ分からない? 箒がボクを汚く仕立てたかった理由の汚らしい妾と男はね。
     どこにも存在しないんだよ? 箒が勝手に抱いていた酷い妄想だって気付いている?」

箒「何だ。結局は自慢ではないか。自分は汚くなどないという自己顕示か。下らん」

シャル「違うよ。ボクが言いたいのはそんなことじゃない」

箒「…何が言いたい?」

シャル「…今の箒の目ね、すごく嫌な目をしてる。あの本妻の人と同じ目だ。
     この世で一番嫌いな女と一緒の目だよ」

箒「そうか。お前に嫌われようと知ったことではないがな」

シャル「本当に…ボクの知っている箒は、どっか行っちゃったんだね」


シャル「ボク…いや、私はね。ほうk…君はもう逃げたか諦めたかしたものだと思ってた。
     だけどまさか今更になってこんなことしてくるなんて、夢にも思わなかったよ」

箒「巫山戯るな。諦めるどころか、逃げていただと」

シャル「だってそうでしょ。何で卒業式の日に、一夏に告白しなかったの?
     どうして一夏と真剣に向き合おうとしなかったの? らしくないよ」

箒「お前には関係ないだろう」

シャル「分からない? 告白すらもまともに出来なかった脱落者が、今更ノコノコ出てきても目障りなの」

箒「貴様…言わせておけば…」ギリッ…

シャル「怒るんだ。沸点が低いところは相変わらずだね、『篠ノ之さん』?」

箒「……!」ガタッ

箒「…まてよ」

ストン…

箒「…ふむ」

箒「告白、か」

箒「…それもいいな」


シャル「ん?」

箒「妙案が浮かんだぞシャルロット。1つ、賭けをしないか?」

シャル「は?」

箒「私は近いうちに、一夏に告白する」

シャル「―――ッ!?」

箒「動揺するな。不安なのか?」

シャル「…違うよ。あまりにも馬鹿馬鹿しくて突飛だったから驚いただけ」

箒「ほう。そうは思わんがな」

シャル「聞いて損した。ナンセンス過ぎて、取り付く島もないよ」

箒「まぁ待てシャルロット。お前にとっても悪い話ではない。もしそれで一夏が身を引いたなら、
  私も金輪際お前に関わらない。これでどうだ?」

シャル「…ッ!」

箒「どうだ? 悪い話ではないだろう? そう思わないか?」

シャル「……」

箒「出来るよな? 一夏のこと、信用しているんだろう?」

シャル「……」

箒「どうした? 何か言い返してみろ。何もしなければ、今度はお前が脱落者だぞ?」

シャル「…ッ!」

シャル「本当に何考えているの? 今更、何を言ったって無駄だよ?
     一夏は『篠ノ之さん』をただの『幼馴染』にしか見てないんだから」

箒「チッ…いちいち勘に障る部分を強調しおって」


箒「だがまぁ、そう思いたければ思うがいい。受けるのか受けないのかハッキリしろ」

シャル「…正直いって君の事、よく分からなくなってきた。陰険なのか、それともただのバカなのか」

箒「二度言わすな戯けが。受けるのか? 降りるのか?」

シャル「…受けるよ」

箒「そうか…くくくくく…そうかそうか」

シャル「いくら一夏が鈍感だからといって、そこまで甲斐性なしじゃないしね」

箒「言質は取ったぞ? 撤回はさせないからな」

シャル「こっちの台詞だよ。これで金輪際、ボクと一夏には近寄らないでね」

箒「ああ、約束しよう」

シャル「じゃあボク、そろそろ行くよ。何だかすごく疲れた」スクッ

箒「そうか、清々するな。お前と2人きりの同席など、息が詰まって敵わん」

シャル「お互い様だよ『篠ノ之さん』。出来ればもう二度と会いたくないな」

シャル「…約束、守ってね。それじゃ」スタスタ

箒「心配せずとも、約束は守るさ。もう近づかない」


キィ…バタン…カランカランカラン…
アリガトッシター マタオコシクダサイー


箒「『私から』は、な…」

箒「くくくくくくくくくくくくくくくく…何だあれは。まるで死に物狂いといった様ではないか」

箒「執拗に煽り、捲くし立て、言葉を連ねることで自分の安心を保っていたのが丸分かりだ。
  自分にも一夏にも、自信がないことを剥き出しにしたようなものだ」

箒「シャルロット。お前は大変な誤解をしている。一夏は別にお前を助けたかったわけではない」

箒「たまたま一夏の近くにお前がいて、たまたまお前が問題を抱えていただけだ。一夏のしたことは人助けではない。
  ただの成り行きだ。クズカゴの傍に横たわる空き缶を、戻す作業と何ら変わりない」

箒「一夏は誰にだって優しい。お前が特別だったからではない。単に一夏の近くにいて困っていたお前を助けただけに過ぎない」

箒「お前も分かりかけてはいるのだろう、シャルロット。だから一夏のことを本当に信用しきれないのだろう?」

箒「それで本当に一夏に好かれていたと思い込んでいたのか。おめでたいことだな。
  お前は一夏の同情心に漬け込んでいたに過ぎんというのに」

箒「くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく…だからお前は一夏の隣にいる資格などはないのだ」

箒「一夏の隣に居られるものは、一夏がどのような奴かを確りと理解し、受け入れられる者だけだ」

箒「一夏を最後まで信用できる者…そう、私のようにな…」

箒「ふふふ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」スチャッ

prrrrrr....
ガチャッ

箒「もしもし。こちら××社の※※の携帯電話とお見受けいたします」

箒「…私の素性などは詮無きことです。それより面白い話があるのですが、いかがでしょう?」

箒「…そう思われるのも無理はありません。悪戯と取って頂いても大いに結構。
  しかし都合が少しでもよろしいのであれば、お時間を頂けないでしょうか。さほど時間はかかりません」

箒「…そうですか。ではお話します。今話題の『オリムラ社』の広報部長、織斑一夏に関することです」

箒「…ああいえ。そういう意味ではありません。私が言いたいのは、『これから起こる事』です」

箒「…ええ。日時が決まり次第また連絡させていただきます。場所はそうですね…篠ノ之神社はご存知ですか?」

箒「…はい、是非お越しくださるほうがよろしいかと思います」




箒「面白いものが見れますよ?」

――数日後――

~篠ノ之神社~

ザッザッザッザッ…

一夏「……」

箒「来たか、一夏」

一夏「…ああ」

箒「まさか本当に来てくれるとは思ってなかったぞ」

一夏「シャルにはちゃんと了承を得たよ。それにこんなこと、逃げてちゃ駄目だろ」

箒「そうか。私は嬉しいぞ、一夏」

一夏「まどろっこしいのは無しにしようぜ。本題に入ろう」

箒「分かった。お前がそうしたいのなら、そうすればいい」

一夏「箒。俺、お前の気持ちをシャルから聞いたんだ」

箒「…そうか」

一夏「…何年もお前とは付き合っていたのに、人に言われないと分からないなんて本当に情けないよな。
   お前が俺の事、そんな風に考えてくれていたなんて思わなかったよ」

箒「……」

一夏「お前の気持ちはさ、その…嬉しいっていうか…いや、違うな、何ていうか、その、でも…」

箒「……」

一夏「…ごめん。まどろっこしいのは無しって言ったのにな。どうもこういうのはいつまで経っても慣れねぇや」

箒「……」

一夏「はっきり言うよ。箒、ごめん。俺はシャルの事が―――」

箒「一夏。私はお前が好きだ。愛している」

一夏「―――ッッ」

箒「お前の事を、心から慕っている。ずっと、ずっとだ」

一夏「…箒、ごめん。駄目なんだ…駄目なんだよ…」

ザッ…

箒「何が駄目なんだ。私はこんなにもお前のことを愛している。それでいいではないか」

一夏「駄目なんだよ。俺にはシャルがいる。シャルが好きなんだ」

ザッ…

箒「お前がそう思いたいなら、そう思えばいい。それでも私はお前が好きだ」

一夏「そう思いたいなら、って何だよ。俺は本気でシャルを愛しているんだ」

ザッ…

箒「お前がそう思っていようが、私は別に構わない。お前を愛してやれるのは私だ。だからお前は――」

一夏「いい加減にしろ、箒!! 俺はシャルが―――」



チュッ…



一夏「―――!!??」

箒「――――」

一夏「ッ、ッッ、~~~~~!!」


ドン!!


箒「おっと…いきなり押すな、一夏」

一夏「お、お前…何、してんだよ…」

箒「恥ずかしいこと言わせるな。ただのキスだ」

一夏「何してんだよ! 俺にはシャルがいるって言ってんだろ!!」

箒「吼えるな一夏。私は嬉しいぞ。お前とようやく、このようなことが出来てな」

一夏「なッ…」

箒「それともまた言い訳でもするか? キスくらいはスキンシップの範疇だ、と。欧米では当たり前だろ?」

一夏「バカなこと…言ってんじゃねぇよ」

箒「ああ、少なくとも私は言うつもりはない。何故なら私はお前を愛しているからだ」

一夏「箒!!」

一夏「何で、お前…こんなこと、するんだよ…」

箒「おいおい。この期に及んで何を言っている。だから私はお前が―――」

一夏「そうじゃねぇ!! お前、何考えてんだ!! 俺にはシャルがいるって言ってるだろ!! 結婚したんだよ!!」

箒「…シャルロットのこと、案じているのか?」

一夏「当たり前だ!! あいつを悲しませるようなこと、絶対に嫌だ!!」

箒「何故そこまで気にかける? シャルロットのことを信じているのだろう?
  アイツなら、これは誤解だとわかってくれるのではないか?」

一夏「そういう問題じゃないだろ!! 何で俺にシャルを傷つけることをさせるんだ!!」

箒「やれやれ。本当に学習しないな一夏」

箒「お前が好きだからしたことだ。シャルロットのことなど知るか」

一夏「…ッッ!!」

一夏「…シャルに言われたよ。お前、本当に変わっちまったんだな」

箒「だがお前の事は好きだ。この気持ちだけは絶対に変わらない」

一夏「何だよそれ…駄目なんだよ…いくらお前が俺の事…そんな風に思ってくれても…。
    もう、どうしようもないだろ…俺にはシャルがいるんだよ…何でそんなことも分からないんだよ…」

箒「……」


箒「…なぁ一夏」

一夏「…何だよ箒」

箒「シャルロットの事、好きか?」

一夏「当たり前だ! 俺はシャルを愛してる! 世界中の誰よりもな!!」

箒「…そうか」

一夏「お前、本当になんなんだよ…やめてくれよ、箒…」

箒「だがな一夏。私はシャルロットがお前のことを本気で好きだとは思えないぞ?」

一夏「…は?」

箒「……」

一夏「何…言ってんだよ……」

箒「言ったままの意味だ」

一夏「ふざけんな!! 俺はシャルが好きで、シャルも俺の事を愛してる!! これまでもそうだったし、これからだってそうだ!!」

箒「…そうだな。正直言って、今のあいつがお前にどんな感情を持ち合わせているのか、私には見当がつかん」

一夏「は…?」

箒「訂正しよう。そして断言してやる一夏。シャルロットはお前の事を信用などしてない」

一夏「何だよ…それ…」

箒「シャルロットはお前のことなど、信じてはいないさ。そんなあいつは、最早お前の妻でも何でもない。
  自分がいつ捨てられるのではないかと、ビクビクしてるだけのただの臆病者だ」

一夏「それは俺が不甲斐ないからだろ!! あいつは何も悪くない!!」

箒「本当にそうか? お前を信用しないシャルロットにも責はあるぞ?」

一夏「何言ってんだよ! 俺があいつを悲しませちまったから、こんな――」

箒「一夏。お前は大きな誤解をしている。お前が不甲斐ないこととアイツがお前を信じないことに因果関係は成立しない」

一夏「は…?」

箒「確かにお前の不徳でシャルロットを悲しませたのは事実だ。だがな、それでシャルロットがお前を信じないのは別問題だ。
  真にお前を信用しているならそんなことなど鼻で笑って、気丈に振舞うべきだろうが」

一夏「なッ…」

箒「要するにな。これしきのことで揺らぐようであるならば、そこに本物の愛などあると思うか? 私は思わん」

一夏「違う…違うよ箒…そんなの、ただの言い訳だよ…」

箒「違うな。事実として、お前には思い当たる節があるはずだ」

一夏「―――ッ!!」


――― 一夏はさ……本当に、ボクを助けたかったの?


箒「どうだ? 思い出したか? シャルロットがお前に不信を抱いていたことを」

一夏「違う…そんな…」

箒「違わないな。ちゃんと現実に向き合え一夏」

一夏「やめろ…やめてくれ、箒…」

箒「何度だって言ってやる。シャルロットはお前が自分を捨てるのではないか。
  そんな不安でお前を信用できない腰抜けだ。お前が信じていた女は、そういう奴だ」

一夏「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ピトッ…

一夏「ひっ!?」

箒「だが私は違う。私はお前のことを受け入れられる。お前を信じてやれる」

一夏「あ…あ…」

箒「たとえお前がどのような下衆に成り果てようとも、お前と進むことで地獄に落ちようとも、傍にいられる自信がある」

一夏「な…」

箒「だって私は…お前のことがこんなにも好きなのだからな」

一夏「ひぃッ…」

一夏(な、なんだこの箒の目は…こんなの、今まで見たことないぞ…!?)

一夏(まるで奈落の底のようにどす黒くて、得体の知れないような瞳をしてる…!)


箒「愛しているぞ、一k―――」


一夏「――ッ!!」


バッ

箒「……」

一夏「はぁ…はぁ…はぁ…」

箒「……」

一夏「お前が何て言おうと、俺はシャルを信じる。そう、決めたんだ。決めたんだよ、箒…」

箒「それは私に言っているのか? 必死に自分に言い聞かせているようにしか聞こえないぞ」

一夏「黙れ!!」

箒「……」

一夏「…ともかくそういうことだ。だから悪いけど、お前の気持ちには応えられない」

箒「…そうか」

一夏「それで出来れば…もうお前とは会いたくない」

箒「シャルロットが悲しむからか? だからそれは―――」

一夏「違う!! 俺が、お前に会いたくないんだ!!」

箒「……」

一夏「今日の…いや、ここ最近のお前は何か変だ…こんなの、箒じゃねぇよ…」

一夏「言ったことも正直言って筋が通ってねぇよ…お前の言ってること、目茶苦茶だ」

箒「そう思いたいたけではないか?」

一夏「違う…。やっぱり悪いのは俺だ。なのに、お前にはそれが分からないのか?」

一夏「俺の知ってる箒は、こんな奴じゃない…今のお前はっきり言えばすごく…気持ち悪い」

箒「…そう思いたければ、そう思うがいいさ」

一夏「何なんだよ…本当に、何があったんだよ箒…」

箒「何もないさ。何も変わってない。ずっと前からお前が好きなだけだ、一夏」

一夏「やめろよ…本当にやめてくれよ、箒…」

一夏「…そろそろ俺、行くよ。シャルが心配する」

箒「そうか。達者でな」

一夏「…そういうわけだから。俺の事は諦めてくれ…頼むよ、箒」

箒「……」

一夏「…じゃあな」

箒「一夏」

一夏「あ?」

箒「愛しているぞ」

一夏「…ッッ」

一夏「ばかやろう!!」


ザッザッザッザッザッザッ…


箒「…行ってしまったか」

箒「…いってらっしゃい」

箒「またここへ…おかえり」

箒「あぁ…ついに、キスしてしまった…一夏と、キスしてしまった…ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」

箒「キスとはいいものだ…こんなにも満たされ、こんなにも幸せなのか…あは、ははははははははははははははは…」

箒「お前が来なくなくともな…お前は私のもとに戻ってくるさ。そうするしかないんだよ、一夏…」

箒「お前がどう思っていようと、あいつはお前を信用しない。だからさ。お前は、シャルロットに捨てられる」

箒「お前がシャルロットを捨てるのではない。あいつが、お前を捨てるのだ」

箒「あぁ、やっとだ…やっと、一夏と結ばれる…こんな良き日など、他にはない…」

箒「ふふ、はは…ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…」
















記者「何だよコレ…すげぇモン撮れちまったよ…」

つーんで今日はここまで
明日はお休み
続きは明後日かその次かな?
じゃあの

ハッピーエンドで終わるんだろうけどバッドエンドも是非書いて欲しい。

幼馴染「もー...バカ!!」ブンッ
タタタッ
男「ぐえ」ボフ

男「枕投げんでいいしょ」




男「起きるかなっと」ガバ

ごめんなさい、載せるとこ間違いました

後どれくらい続く?頼む、答えてくれ。
でないとあまりにも生々しいから怖くて漏らしそうだ

アニメのシャルと母のあのワンシーンだけでここまで話を練れるとはすばらしい

修正レスなのです
昨日の投下分誤字脱字ひでぇなぁ…でも全部直すとキリないから、あまりにも酷いところとか演出上必要な部分だけ

>>237>>239
シャルの一人称「ボク」→「私」

>>255
箒「お前が来なくなくともな→箒「お前が来たくなくともな


>>264
ふむ…それもいいな…

>>268
もうちょいで終わる

>>275
デュノア社の社長がシャルを守るために云々は、キャラスレでは結構有名な話(らしい)

一応微妙にキリの良い所までは書けたけど、やっぱり明日一気に投下する方がいいよね
あと、今更だけどたくさんの乙とか支援とか本当にありがとう
じゃあの

――その日の夜――

~織斑家~

キィ…

シャル「あ…」

一夏「…ただいま」

シャル「…おかえり」

一夏「…ああ」

シャル「言ったの?」

一夏「…ああ」パタン…

シャル「…そう」

一夏「……」

シャル「…ねぇ」

一夏「…ん?」

シャル「何で、黙ってるの?」

一夏「……」

一夏「箒に会ってさ。お前の、言う通りだったよ…」

シャル「…うん」

一夏「言ってる事が支離滅裂で…おかしくて…それでなんか、怖かったよ」

一夏「本当にどうしちまったんだよ…箒」

シャル「……」

一夏「俺、どうしたらいいか、わかんねぇよ…」

シャル「それでもさ」

一夏「…?」

シャル「言ったんでしょ?」

一夏「…ああ、言った」

シャル「じゃあ多分大丈夫。あれでも約束くらいは守るだろうから。一夏はちゃんと言ったんでしょ?」

一夏「言ったさ…でも…」

シャル「…でも?」

一夏「…ごめん。何でもない」

シャル「…そっか」

シャル「ねぇ一夏」

一夏「…なんだ?」

シャル「何か、箒に言われた?」

一夏「…ッ」

シャル「……」

一夏「そ、それは」

シャル「やっぱりいいや。忘れて」

一夏「あ、ああ」

シャル「代わりに訊くけどさ」

一夏「な、何だよ」

シャル「箒に、何かされた?」

一夏「ッッ!!」

シャル「……」

シャル「…ごめん、何でもない」

一夏「あ…」

シャル「そろそろ寝よう。明日も早いし」

一夏「…シャル。俺――」

シャル「やめて」

一夏「―――ッ」

シャル「聞きたくない…」

一夏「シャル…」

シャル「じゃあボク、寝るね」ガチャッ

一夏「あ、ああ」


パタン
ガチャ


一夏「え」

一夏「…またソファーかよ」

――翌日:早朝――

~寝室~

シャル「……」パチリ

シャル「…朝、か」ムクリ

シャル「…何だか全然寝付けなかったな。すごくダルいや」

シャル「…もうちょっとだけ寝ちゃおう」ポスッ


ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ!!
ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ!!


シャル「ん…緊急コール? 何だろ…」ピッ

シャル「はいもしも…」

秘書『社長!! 今、ご自宅ですか!?』

シャル「あぁうん。今起きたところ。どうかしたの?」

秘書『ええと、何やら話せばいいやら…と、とにかく会社に!! あと5分ほどでご自宅に到着します!!』

シャル「え…? う、うん。分かったよ。急いで支度する。何があったの?」ガバッ

秘書『社長…本当に何も聞いてないんですか? 織斑部長から…』

シャル「一夏から?」

秘書『すみませんちょっと説明している時間がありません! 今、データを送ります!』

シャル「データ? 何の?」

秘書『スポーツ紙です! 今日の朝刊の一面に、織斑部長が載っているんですよ!!』

シャル「なんだって!?」

秘書『送りました! 確認してください!!』

シャル「分かった! すぐ出れる準備するから! 取り合えず安全運転でお願い!」

秘書『はい!!』

ピッ

シャル「一体何が…ええと、これか」

シャル「――――ッッ!!!」

~居間~

一夏「……」スゥー…スゥー…

ドンドンドンドン

一夏「ん…?」パチリ

ガチャッ

一夏「お、おぉシャル…おはよう。やけに早いな」

シャル「……」テキパキ

一夏「ど、どうしたんだよシャル。血相変えてさ。まだ出勤には随分と早いぜ?」

シャル「…一夏」

一夏「ん?」

シャル「一夏は今日、1歩も外を出ないで」

一夏「は?」

シャル「自宅謹慎命令。ボクがいいって言うまで出ないで」

一夏「な、何だよそれ!?」

シャル「邪魔なの。一夏が出てくるとはっきり言って迷惑」

一夏「は…?」

シャル「ともかくそういうわけだから。じゃあボク行くね。しばらくは帰れないと思うからそのつもりで」

一夏「お、おいシャル! 事情くらい説明しろよ!!」

シャル「したくもない。じゃあね」スタスタ

一夏「あ、おい!!」

バタン!

一夏「何なんだよ、一体…ただ事じゃない事くらいは俺にだって分かるけど…」

一夏「また箒に何か送られたのか? でも、それなら悠長に会社に行ってる暇なんて…」

一夏「…考えても仕方ないな。とりあえず、テレビでも見て落ち着こう」ピッ

『えー…引き続きニュースをお届けします…今朝の××スポーツ新聞の1面トップを飾った、
 オリムラ社広報部長、織斑一夏氏の不倫疑惑についてですが…』

一夏「なッ!?」

一夏「何だこれは!?」





『ウワサの織斑部長、禁断の熱愛発覚!? お相手は篠ノ之神社の巫女か』

~織斑家前~

秘書「社長!! 急いでお乗りください!!」

シャル「分かってる! 飛ばして!! でも安全運転ね!」

秘書「はい!!」

ブロロロロロロロロロロロロロロロロロロ…

シャル「会社の様子は?」

秘書「本社前は既に多数の報道陣でごった返してます。入り口も裏口も、おそらく待ち伏せされてます」

シャル「やりたくないけどis飛行で出勤するしかないね。管理局に電話して、27階の非常口を開けるように伝えて」

秘書「分かりました!」

シャル「ボクはこれからの対策を練るよ」prrrrr…ガチャッ

シャル「もしもし。状況は把握してるね? すぐに出来る限り情報規制をかけて」

シャル「それが終わったら謝罪会見の準備。セッティングはいつも通りで。同時に社内でも徹底的に緘口令を敷いて」

シャル「…それと、対策本部を打ち立てる。人員の選抜はそっちに一任するから」

シャル「…いいよ! 全責任は持つ! とにかく可及的早く! いいね!!」

ピッ

――しばらくして――

~社長室~

シャル「はぁ…やっと解放された…」

秘書「か、会見お疲れ様です社長…」

シャル「別に。社交的に頭を下げたに過ぎないよ。それより、様子は?」

秘書「依然として問い合わせや苦情の電話が殺到します。今にも回線がパンクしそうです」

シャル「午後からはもっとキツくなるよ。すぐに回線を増設させよう。電話応対マニュアルの作成も取り急ぎで」

秘書「は、はい!」

タッタッタ…

シャル「…やられたよ箒。まさかこんな手段に出るなんて」

シャル「本当に箒の思惑通りだよ…ボク、こんなんじゃ一夏のこと…」

prrrrrrr...

シャル「やれやれ。感傷に浸る暇もなし、か。内線もあと2台はこっちに持ってこなきゃ」ガチャッ

シャル「もしもし…うん、そうだね。市場は荒れると思う。常に最悪の場合を想定して動いた方がいい」

シャル「出来うる限りの市場介入を試みてみて。何なら新株の発行も視野に入れていいから」

シャル「…一k、いや織斑くんに今まで頼っていたツケかな。とにかく状況は一刻を争うから――」


バーン!!


秘書「しゃ、社長!! 大変です!!」

シャル「何? 要点だけを簡潔にお願い」

秘書「織斑部長が本社の前に! 報道陣に取り囲まれています!!」

シャル「……」

シャル「は…?」

~『オリムラ社』本社前~

パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

『今、織斑部長が出勤されました!』『何か一言お願いします!』『写真のことは事実なんですか!?』
『今のお気持ちをお願いします!』『これって不倫ですよね!?』『是非、真相をお聞かせください!!』

一夏「すみません! 通してください!!」

『自分を応援してくれるファンの皆さんに何て言うんですか!?』『社長はどのようにお考えですか!?』
『お相手はあの篠ノ之束博士の妹ということですが、その点を詳しく!』『何だその情報!? 俺にも教えろ!』

一夏「後でちゃんと話しますから! 今は通してください!!」

――――――――――
――――――
――

~社長室~

シャル「…何あれ」

秘書「どうしますか? 一応、警備員を何名か向かわせてますが…」

シャル「…いや、いいよ。ボクがプライベート・チャンネルで呼びかける」ピッ

パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

『何かカメラに向かって一言お願いします!』『会見でも社長は終始ダンマリだったんですよ!?』
『夫婦そろって逃げるんですか!?』『せめて、一言だけでも!』『皆さんに申し訳ないと思わないんですか!?』

一夏「だぁー! これじゃ埒が明かねぇー!」

biii...biii...

一夏「―――!!」ピッ

一夏「も、もしもし! シャルか!?」

シャル『何してんの?』

一夏「何って、見りゃ分かんだろ!」

シャル『出るな、って言ったよね?』

一夏『ふざけんな!! ここまで大事にさせて、責任も取らずに引きこもれってのか!?』

シャル『君が来ると余計に話がこじれるんだけど』

一夏「そんなの関係あるか! 今そっちに行くからな!!」

パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

『その通信の相手は奥さんですか!?』『それとも例の不倫相手ですか!?』『やっぱり怒ってらっしゃいますか!?』
『おい、マイク近づけろ! もっとだ!』『通信先のあなた、何か一言お願いします!』
『ばか! これはプライベート・チャンネルだ! 音は拾えねぇ! それよりカメラをアップで向けろ!』


シャル『…帰れって言っても無理そうだね』

一夏「当たり前だ! 皆にもだけど、まずはお前と話がしたい!!」

シャル『…はぁ、分かったよ。取り合えずそのまま屋上に来て』

一夏「え?」

シャル『そこからじゃ骨が折れるだろうから、isの使用を許可するって言ってんの。待ってるからね、一夏』

一夏「え…今、俺の事――」

シャル『ちなみに報道陣に掠り傷1つでも負わせたら殺すから。じゃあね』ピッ

一夏「わ、分かった! すみません、離れてください! 来い、白式!!」


<白式―――展開>


バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…
ア、ニゲタゾ! オエ! トニカクマワセ! キャーッヤッパリオリムラブチョウ、ステキー!

~社長室~

シャル「……」

秘書「だ、大丈夫なんですか? 織斑部長を社内に入れても、余計に火に油を注ぐだけでは?」

シャル「ごめん、また急用が出来たよ」スクッ

秘書「え」

シャル「ちょっと頼んでいいかな? ボクの全権限を一時的に君に貸与する」

秘書「いや、あの」

シャル「責任は全部ボクでいいから。じゃあ」ツカツカ

秘書「ちょ、ちょっと、社長!?」


パタン…


秘書「私、この仕事向いてないのかしら…」

~『オリムラ社』屋上~

シャル「……」

キィィィィィィィィィン…
シュタッ…

一夏「……」

<白式―――解除>

シャル「…来たんだね」

一夏「…ああ」

シャル「やっぱり」

一夏「当たり前だ」

シャル「…そっか」

一夏「シャル、でいいんだよな。今は」

シャル「うん」

シャル「…箒と、したんだね」

一夏「…ああ」

シャル「…そっか」

一夏「……」

シャル「否定でもするのかと思った」

一夏「言い訳みたいな真似はしたくない」

シャル「…そう」

一夏「でも一応言っておく。俺が好きなのはお前だけだ」

シャル「…うん」

一夏「お前は、さ」

シャル「ん?」

一夏「信じて…くれるのか?」

シャル「…それが箒に言われたこと?」

一夏「…ッ」

シャル「やっぱりか…」

一夏「……」

シャル「それはボクも言われた」

一夏「お前も…?」

シャル「うん。そして多分、それは本当のこと」

一夏「え…?」

シャル「ボクは一夏のこと…信じてない…の、かもしれない」

一夏「……」

シャル「ボクが前に言ってたこと、覚えてる?」

一夏「…アレか?」

シャル「うん。一夏は本当にボクを助けたかったのか、ってこと」

一夏「…ああ、覚えてる」

シャル「あの時は忘れて、って言ったけどね。今度はちゃんと訊くよ」

シャル「一夏はさ…本当に、ボクを助けたかったの?」

一夏「当たり前だ」

シャル「どうして?」

一夏「好きな女が死ぬほど困っているのに、黙って見ていられるわけないだろ」

シャル「そうだよね。一夏なら、そう答えてくれると思った」

一夏「…何が言いたいんだよ?」

シャル「…もう一回訊くね。今度は、別の言い方で」

シャル「告白してくれた時の一夏は…本当にボクが好きだったの?」

一夏「は…?」

シャル「それとも、あの時にボクを好きになったの?」

なんてこった死にたい。書き溜め終わったと思ったら保存し忘れてた…
書きながら書いても途中で抜けなきゃならんから続きは深夜に一気にやる
すまぬ…すまぬ…

一夏「お前…一体、何言ってんだよ…」

シャル「…ずっと、気になっていたんだよ。ボクはずっと、一夏の重荷になっていたんじゃないかって、さ」

一夏「おも、に…?」

シャル「だってそうでしょ? あの時のボクには頼れる人は一夏しかいなくて、自分だけじゃどうしようもなくて。
     結果的に言えば、ボクは泣きついて一夏に助けてもらった形になった」

シャル「ボクがあの時一夏に受け入れてもらわなければ、ボクはどうなっていたか分からない。
     でも、優しい一夏のことだから…そんなこと、出来るわけないよね」

一夏「おい、ちょっと待てよ…それって…」

シャル「だからボクはね…無意識ながらも一夏が受け入れざるを…
     ボクを好きにならざるを得ない状況を作ってしまった。そう、考えていたんだ…」

一夏「待てよシャル!! 俺が…俺が、お前を同情や憐れみで受け入れたと言ってんのか!?」

シャル「…うん」

一夏「ふざけんな!! そうじゃないって言ったじゃねぇか!!
    俺は決してそんな感情から、お前を好きになったわけじゃない!!」

シャル「どうして?」

一夏「ど、どうして、って…」


シャル「……」

一夏「…上手く、言えないけどさ。お前を助けたかった気持ちと、お前を好きな気持ちは…別だ」

シャル「別?」

一夏「俺からしたら、その…好きな子を助けたかったというよりは…俺の助けたかった子が、たまたま好きだった子だった。そういう、ことなんだと思う…」

シャル「…そっか」

一夏「ああ」

シャル「じゃあさ。仮に一夏がボクのこと好きでも何でもなくて、それであんな状態のボクを見つけたら…助けてくれる?」

一夏「……」

シャル「……」

一夏「あまり想像できないけど…多分、助けてた」

一夏「千冬姉に土下座して家に置いてくれるように頼んだのかもしれないし…。
    皆に協力を頼んで、お前の会社に殴りこみに行ったかもしれない」

シャル「…そう」


シャル「そっかぁ。やっぱり、一夏は優しいね」

一夏「俺は優しいつもりなんて、ないよ…」

シャル「ううん。本当に優しいの、一夏は」

一夏「だから、そんなこと―――」

シャル「あるんだよ。間違いなく。だって誰よりも一夏の優しさを愛し、誰よりも一夏の優しさに惹かれたのは…ボクだったから」

一夏「―――ッ」

シャル「お母さんが死んで、お父さんにも捨てられたと思っていた時、ボクは本当に1人だった」

シャル「それで男装がばれて、学園にも会社にいられなくなりそうで、もうおしまいだって思った」

シャル「でも一夏は見ず知らずのボクを庇ってくれた。助けてくれた。守ってやるって、言ってくれた」

シャル「一夏にそう言われた時、ボクがどれだけ嬉しかったか…ボクは本当に、一夏の優しさに救われた」

シャル「だからあの時からずっと…ボクには一夏しか見えなかったんだ」

シャル「ボクは本当に心の底から…暖かくて優しい一夏が、大好きだった…」

一夏「……」

シャル「でも、だからこそ言える。ボクは今も昔も、一夏の優しさに甘えていたんだよ」

シャル「一夏が優しいことを良いことに、ボクは一夏を縛っていたんじゃないかって」

一夏「え…」

シャル「一夏に積極的に近づいて、自分をアピールして、一夏に見てもらおうとした。
     一夏は優しいから、拒むなんて事はしないって分かっていたからね」

シャル「そして結果として一夏は優しいままにボクを受け入れて…ボクは一夏を手に入れた」

一夏「ふッざけんなシャル!!!」

シャル「……」

一夏「何だよそれ…シャル、お前は何も分かってねぇよ!! 俺はお前に選ばされたんじゃない!!
    お前だったから…他でもないお前だったから、俺はお前を選んだんだよ!!」

シャル「……」

シャル「…うん。そう、だね。そう思えたら、どんなに素敵なことだろう」

一夏「何言ってんだよシャル…そうに、決まってんだろ…何でそうだ、って…言ってくれないんだよ…」

シャル「何でって…そんなの、怖いからに決まってるじゃない」

一夏「なッ…」


シャル「ボク、正直言って怖いんだよ。一夏の優しさが大好きだったのは本当。

     でも、優しい一夏だから…ボクを選んだんじゃないかって。
     本当に選んだのが、ボクで良かったのか、って…」

一夏「違う…違うよシャル…俺はお前が本当に―――」

シャル「違わないんだよ。だって現に箒が近づいても、一夏は優しさのまま箒を受け入れてきたから」

一夏「ッ!」

シャル「箒もボクと同じように、一夏が優しいことは理解している。
     どんな事をしても、一夏は拒むことなく受け入れてくれるって分かっていたから」

シャル「あの頃のボクみたいに、一夏に接近して、打ち解けて、心に入り込む箒を見て…それを一夏が受け入れているのが、怖かった」

一夏「……」

シャル「正直言って、一夏のそういう流されやすくて、箒を受け入れてる様子を見るのはね…嫌だったよ」

一夏「―――ッ」

シャル「でも…でもね、一夏…もっと、本当に嫌だったことはね…」


ツーッ…


一夏「あ…」


シャル「ボクが本当は一夏の事を好きとかじゃなくて…ただ単に一夏の優しさを付け込んでいただけじゃないかって…」

シャル「そうすることで自分の安全を確保して、それを好きと思い込んでいたんじゃないかったって…」

シャル「自分が本当はそんな人間だったということが…すごく、嫌なの…」

ポタ…ポタ…

一夏「……」

シャル「全部、箒の言うとおりなんだよ。ボクは一夏を信じていたわけじゃない。
     一夏の優しさに依存することで、自分が一夏を信じていたと思い込むことしか出来なかったバカな女なんだ」

シャル「だからボクは一夏の隣にいる資格なんてない。一夏の優しさを利用していた女なんか、一夏の傍にいていいはずがない」

シャル「箒にさ…そういうことを思い知らされて……悲しいんだよ」

一夏「……」

シャル「でも、これだけは信じて欲しい。ボクは…一夏でよかった」

シャル「ボクだって、成り行きで一夏を好きになったって思いたくない。あの時傍にいたのが一夏だから」

シャル「たとえあの場にいたのが一夏以外の男の人で、ボクに優しくしてくれても、ボクが選んだのは一夏。
     他でもない一夏の優しさだったから、ボクは好きになった」

シャル「最初に優しくしてくれたのが一夏で…本当によかった…」

一夏「……」


シャル「そうすることで自分の安全を確保して、それを好きと思い込んでいたんじゃないかったって…」

シャル「そうすることで自分の安全を確保して、それを好きと思い込んでいたんじゃないかって…」

一夏「お前が前に、俺に言った約束のこと覚えてるか?」

シャル「…もう、誰にでも優しくするのはやめて、ってやつ?」

一夏「ああ。あれって―――」

シャル「うん、そういうことだよ。ボクは一夏の優しさを独占したかったんだよ。
     一夏の優しさを独り占めしたかったバカで強欲で汚い女だったってこと」

一夏「……」

シャル「でもね…もう、そんな約束なんて意味ないのかもしれない。だってボク、もう堪えられない」

シャル「これ以上一夏を縛るのも、これ以上一夏への想いを否定するのは嫌だ」

シャル「だからボクは、一夏から卒業しなきゃいけない…一夏から離れなきゃいけない…」

シャル「そうしなきゃ、いけないんだよぉ…」

一夏「……」

シャル「一夏は言ってくれたね。幸せに、なろうなって」

シャル「でもね…こんなの、幸せじゃないんだよ…一夏」

一夏「シャル…」


シャル「ねぇ一夏…覚えてる? ボクが言った…ボクとずっと一緒にいよう、って約束」

一夏「…ああ、覚えてる。忘れるわけ…ないだろ…」

シャル「うん…でもね。あの約束をしたボクにはね…ボクには一夏しかいなかったからなんだよ?」

一夏「……」

シャル「でも、今は違う。今のボクには会社があるし、部下がいるし、お父さんもいる」

シャル「あの頃のボクは…もういない。今のボクは…」

シャル「もう……ボクはね―――」クルッ


ポロ…ポロ…


一夏「シャ、ル…」

シャル「1人ぼっちじゃ…ないんだよ?」

シャル「だから一夏は、ボクに優しくする必要もなくなった。もう、ボクの事を構わなくていいの」

シャル「もう、一夏を縛るモノは、どこにもないから…だからお願い…一夏の好きにして」

一夏「…俺の優しさとお前への愛は別で…それでも俺はお前の事を愛している。そう言っても、信じてくれないのか?」

シャル「…うん。ボクはもう信じられない。一夏のことも、自分のことも」

一夏「シャル…?」

シャル「なんか、ね…心があの頃に逆戻りしているんだ。悔しさも悲しさも虚しさも憤りも、
     全部が頭の中でぐちゃぐちゃになって、一周して…訳が分からないんだよ」

一夏「シャル…」

シャル「でも、今度は一夏に助けてもらおうなんて思わない。もう一夏に依存したくないから」

一夏「シャル…俺は――」


スゥ…


シャル「来ないで!!」

一夏「…ッ!」ピタッ

シャル「お願い…これ以上、一夏を縛りたくない…縛りたく…ないよぉ…」

シャル「こないで…やさしく、しないで…いやだ…いやだよ、いちかぁ…」

一夏「シャル…」

一夏「……」


一夏「シャル。俺、箒に言われたんだ。お前は、俺の事を信じてないって」

シャル「……」

一夏「それを言われたとき、俺…ショックだった」

シャル「…ごめん」

一夏「違うんだよシャル。お前が信じてくれなかったことじゃなくて…
    俺がお前をそんな風にさせたことがショックだった」

シャル「……」

一夏「俺、やっぱり鈍感だったんだな。もうお前は大丈夫だって。俺の事を信じてくれているって、
    思い込んでいたんだな。こんなんじゃ…夫、失格だ」

シャル「一夏は気にする必要ないよ」

一夏「夫婦なのに、気付いてやれなくてごめんな。
    お前がそんな風に思ってるなんてこと、考えたこともなかった」

シャル「……」

一夏「だからごめん…ごめんな、シャル」

シャル「…いいよ」


一夏「シャル」

シャル「……」

一夏「だから俺は先に謝っておく。ごめん」

シャル「……」

一夏「お前との約束…守れないそうにない。ごめんな」

シャル「……」

一夏「じゃあ俺、行くよ」

シャル「……」

一夏「またな、シャル」クルッ


キィ…
バタン


シャル「……」

シャル「またな…か」

シャル「…さようなら、ボクの大好きだった人」

シャル「一夏…それでいい…それで、いいんだよ一夏…」

シャル「ボクなんかに、もう優しくしちゃダメだから…そうしないと、ダメだから…」

シャル「だからボクも、一夏から離れなきゃ…嫌いに、ならなきゃ…」

シャル「そうだ…そうだよ…一夏なんか嫌い…嫌い、優しくない一夏なんか嫌い、大嫌い…」

シャル「嫌い…きらい、きら、い、だぁ…うぐ…きらいだ、よぉ……う…うぅ…」

シャル「…ごめん一夏。今まで…ごめん…」

シャル「ごめん、なさい…本当に…ごめんね、一夏ぁ…利用して、ごめんなさい…」

シャル「ごめんなさい…汚い女で…ズルい女で…バカな女でごめんなさい…ごめんなさい…」

シャル「いぢ、がぁ…ごめ、ん、ね゛ぇ…ごめんね、いぢがぁ……」

シャル「いぢ、うぅ…ひっぐ……」



シャル「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

――しばらくして――

シャル「……」

シャル(もう、どれくらいこうしているんだろう…ボク、聞き分けの悪い子供みたい…)

シャル(戻るの、嫌だなぁ…)

シャル(……)

シャル(ダメだよね。ボクにはもう一夏はいない…会社の皆を、信じるしかないんだから…)

シャル(でも…)


バーン!!


秘書「しゃ、社長!! こんな所にいたんですか!? 探しましたよ!!」

シャル「…ごめん。ちょっと頭冷やしてた。もう大丈夫。すぐ戻るよ」スクッ

秘書「た、大変なんですよ!!」

シャル「何? 苦情? 株? もうこれ以上何言われたって驚かないよ」

秘書「ええと、その、あの…と、とにかく来てください! 見ていただいたほうが早いです!!」

シャル「?」

~社長室~

秘書「こちらを見てください!」

シャル「今更テレビなんて…」

秘書「いいですから!」ピッ


『というわけで、引き続き現場からお伝えします。今話題になっている「オリムラ社」広報部長、
 織斑一夏氏による不倫疑惑についての緊急記者会見の模様を、完全生放送でお届けします』


シャル「!!??」

秘書「お、織斑部長が…少し前に報道陣全員を、本社内に入れてしまいまして…」

シャル「何してんの!? 警備員は!? 社員全員がそれを黙って見ていたって言うの!?」

秘書「そ、それが…誰の静止も聞かず、織斑部長が勝手に本社の入り口を開放して…。
    isまで使って強引に、取材陣や関係者たちを招きいれてしまいまして…」

シャル「…すぐに会見を中断させたいんだけど」

秘書「無理ですよ。テレビでも映っているでしょう? 会場はおろか、廊下にも報道陣を始め関係者があふれ出てます。
    完全な鮨詰め状態なんですよ。蟻の這い出る隙間もない、ってやつです」

シャル「なんだって、そんな…」


秘書「…ダメ元で人員を向かわせましょう。ついさっき、社長専属のspが到着しました。彼らならあるいは――」

シャル「待って」

秘書「え…?」

シャル「もう引き返せないところまできてる。ここまでいったら、中断させる方が逆効果だよ」

秘書「……」

シャル「ここで見守ろう、事の顛末を。でも、念のためすぐ行けるようにspを配置させておいて」

秘書「は、はい!!」


『あ! 今、織斑部長が出てきました! カメラ切り替えます!!』

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『織斑部長! 一言お願いします!』『会見を開いたということは、あれは事実なんですか!?』
『今度はちゃんと答えていただけるんでしょうね!?』『事実確認がどうとかなんていうのはナシですからね!』

一夏『えー…お集まりの皆さん。お早い時間からご足労頂き、誠にありがとうございます』

一夏『本日は俺…失礼、私から皆さんに、非常に重大な事を伝えなければなりません』

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『前置きはいいから早く!』『引き伸ばしの魂胆が見え見えですよ!』『そんなのはもうウンザリなんです!』
『早く事実かどうかだけお願いします!』『言い淀んでいるという事は、やはり事実なんでしょ!?』

一夏『そうですね。まずは事実をハッキリさせることから始めましょう。皆さんがここにおられる理由は、私も充分に理解してます』

『……』シーン

一夏「結論から言います。あの写真の出来事は事実です」


ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ…
パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ


一夏『ただし、事実はそれだけです。あの記事の見出しは全くの出鱈目です』

一夏『私の愛する人は私の妻だけです。その写真の女性との交際は一切ありません』


『………』


ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!

『そんな見え透いた嘘が信じられると思ってるんですか!?』『実際キスしてるじゃないですか!』
『この方とはどれくらいのお付き合いなんですか!?』『奥さんとは倦怠期だったんですか!?』
『聞けば、社長のシャルロット氏は元デュノア社の社長の愛人の―――』

一夏『黙ってろそこのハゲ。ふざけんな』

『――――!!??』

一夏『今度俺の奥さんのこと悪く言ってみろ。問答無用で叩き切ってやる』


『………』シーン…


一夏『…失礼しました。皆さん、ご静粛にお願いします。そして、私の話を聴いて下さい』

――――――――――
――――――
――

シャル「え…」

秘書「アタタタ…織斑部長…記者に暴言吐くなんて何考えてんですか…」

シャル「いち、か…? どういうこと…?」

秘書「すいません…私ちょっと頭痛薬飲んできますね…」スタスタ

シャル(一夏…?)

一夏『…確かに言い訳にしか聞こえないのも無理はありません。このような事態を招いてしまったのは、全て私の責任です』

一夏『その点につきましては心より謝罪いたします。皆さん、お騒がせして本当に申し訳ありませんでした』スッ…

パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

一夏『…しかし何度も言いますが、その女性と交際関係にあったという記事は事実無根です』

一夏『これは言い訳以外の何物でもありませんが、私は自らの意思でそのような行為に及んだ訳ではありません。
    相手方の女性に関しても、プライバシー保護のため身元は伏せさせていただきます』

一夏『ただし残念ながら、私には潔白を証明する手立てはありません。
    皆さんには、私の言うことをただ「信じてくれ」と言うことしか出来ません』

『………』


一夏『私はこのような失態を招き、皆さんの信用を傷つけてしまったことを…心より情けなく思います』

一夏『しかし私には…それ以上に、後悔することがあります』

『……?』

一夏『それは、私の妻のことです。妻は、私が仕出かしてしまった今回の一件で、とても深く悲しんでいます』

一夏『私の不始末故に、自分の不甲斐なさ故に妻を傷つけてしまったことが…どうしても、許せないんです』

『……』

一夏『だから皆さん。この場を借りて改めて言わせてください』

一夏『私がこの世で愛する女性はただ1人だけです。私の妻、シャルロット・織斑だけです』

一夏『だけど私は、これ以上妻を悲しませたくない。本当にそういうのは…もう、嫌なんです…』

一夏『だから私……いや、俺。織斑一夏は……本日限りをもって……』

『……?』








一夏『俺………部長、辞めます!!!』

シャル「!!??」

秘書「!!??」

――――――――――
――――――
――

『!!??』『!!??』『!!??』『!!??』『!!??』『!!??』『!!??』『!!??』


一夏『………』


ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!!!

『ど、どういうことですか!?』『それは自主退職ということですか!?』『ふざけんな! 逃げんじゃねぇ!!』
『あまりにも無責任じゃないですか!!』『そんなことで許されるとでも思ってんですか!?』

一夏『…どう言われたって構いません。もう決めたことです。俺は今日で、広報部長を辞めます』

ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ!!!!

一夏『皆さん、本当にこんな急なことをお話することになってしまい申し訳ありません』

一夏『でも俺は…もう、堪えられないんです!!』

一夏『俺のしたことであいつを傷つけて、あいつが俺のせいで悲しんでる!!』

一夏『こんなバカな俺だけど…でも、あいつは俺の傍にいてくれた!』

一夏『ずっと支えてくれたあいつを、泣かせる真似なんかこれ以上したくない!!』

一夏『約束したんです!! 俺は絶対にあいつを幸せにして、2人で幸せになると!!』




一夏『だって俺が世界で一番好きなのは、シャルロットだけなんです!! 本当に、愛しているんです!!』

一夏『気付いたんです…俺は、あいつを信じています。今でも、心の底から信じています。でも、それだけじゃダメなんです』

一夏『俺がただ信じてるだけじゃダメなんです…俺がこんなにも信じてるって事、ちゃんとあいつに伝えないとダメなんですよ…』

『………』

一夏『でも今の俺じゃ出来ない…こんなフラフラで、ハッキリしない俺なんて…あいつを余計に不安にさせるだけだ…』

一夏『でも俺、バカだから…今まで難しいこと全部、あいつに頼ってきたバカだから…だけど、必死に何が出来るか考えて…』

一夏『それで出した結論が…これです』

一夏『あいつと一緒に、この会社を守っていこう。そんな約束も破らなきゃいけないほど…俺は不甲斐ない大バカなんです…』

『………』

一夏『でも…もう決めました! 俺はあいつだけを支えたい!! シャルロットだけしか見たくない!!』

一夏『今の俺があいつを不安にさせるなら、そんなもんいらない!! あいつをこれ以上悲しませたくない!!』

一夏『だから俺の残りの時間を全部、あいつのために使うって決めたんです!!』

一夏『応援してくださったファンの皆さん、上司の皆さん、部下の皆…本当にごめんなさい!!』

一夏『大切なんです!! シャルロットが…俺の最愛の人が、俺にとってかけがえのないただ1人の女性なんです!!』

一夏『だから皆さん、ごめんなさい!! 俺……辞めます!!』

『それとこれとは関係ないでしょう!?』『ファンの方々や会社には何て説明されるんですか!?』
『これはオリムラ社最大の汚点となってもおかしくないですよ!?』『結局は逃げてるだけでしょ!?』
『これは社長も了承してんですか!?』『もしそうだとしたら、社長は貴方を捨て―――』


ゴツン!!


『!!??』


一夏『……ッ』

――――――――――
――――――
――

秘書「え……これ、は…?」

シャル「土下座…?」

――――――――――
――――――
――

一夏『…確かにこれは逃げです。そう捉えられても仕方ありません』

一夏『今まで支えてくれた会社の皆や、応援してくださった皆さんには何てお詫びしたらいいか、正直わかりません…』

一夏『俺は俺の一番大事な人のために、他の人の全てを踏みにじっている…その、自覚はあります』


『………』シーン…


一夏『でも、これは俺の勝手な決断なんです!! あいつは何も悪くない!!』

一夏『俺がこんなにも不甲斐ないのも、俺がこんなバカな決断しか出来なかったのも、全部俺だけの責任なんです!!』

一夏『悪いのは全部俺です!! 汚い言葉とかは全部、俺の方に向けてください!!』

一夏『だから皆さん、お願いです!! あいつを…シャルを、シャルロットを見捨てないでやってください!!』

――――――――――
――――――
――

シャル「――――ッ!!」

一夏『この会社は、あいつにとってすごく大切なんです!! あいつの親父さんと、あいつを繋ぐ絆なんです!!』

一夏『俺はあいつを一番近くで支えたい! でも、この会社が大切である以上は俺だけじゃダメなんです!!』

一夏『俺の他の大勢の人が、あいつを支えないとダメなんです!!』
――――――――――
――――――
――

シャル「………」

――――――――――
――――――
――
一夏『だから皆さんにはこれからも、あらゆる手段であいつを支えてやって欲しいんです!!』

一夏『あいつの見えないところでも、見えるところでも、全部で支えて欲しいんです!!』

一夏『あいつが守りたかったこの会社を…見捨てないで下さい!!』

一夏『悪いのは全部俺です! 俺が責任を全部負います!! だから、どうか!!』


ゴツン!!


一夏『皆さん!! どうかお願いします!! これからもあいつを、助けてやってください!!!』

一夏『お願いします!!………お願いします!!!』

『………』シーン…

一夏『……』スクッ

一夏『…お見苦しいところを大変失礼しました。以上で会見を終わります』

ツカツカ…

『え、ちょっと!?』『まま、待ってくださいよ!?』『せめてもう一言だけでもお願いします!』
『織斑部長!! い、いや、元・織斑部長!? ええと…と、とにかく待ってください!』『詳しい話をどうか!!』

――――――――――
――――――
――

シャル「―――」

秘書「ど、どうしましょう…これは波乱なんてもんじゃないですよ…。ああもう、ちょっと…何が何やらで…」

シャル「……」

prrrrrrr....prrrrrrrr.....

秘書「しゃ、社長…のんびりしている暇はないと思いますよ? さっきから電話が…」


ツーッ…


秘書「――ッ!!」

秘書「……」

秘書「はぁ…」スッ

ガチャッ

秘書「もしもし、こちら社長室。…ええ見たわよ、当たり前じゃない」

秘書「そうね…もう、本当に大変になるでしょうね。数日は家に帰れないことを観念した方がいいわ」

秘書「社長? 社長は…」

シャル「……」

秘書「……」

秘書「もしもし。社長はちょっと…手が離せないわね」

秘書「…ええ、そうよ。重大な案件がこの後に控えているの」

秘書「重役会議よりも、株主総会よりも、この世で一番大事な『話し合い』が待っている。だから、ごめんなさい」

秘書「…心配しなくても、今から私が向かうわ。大丈夫よ。何年社長の右腕やってると思うの?」

秘書「…分かった。今から行くわ。じゃあね」ガチャッ

秘書「そういう訳ですので、今から私は向かいます。責任は社長持ちで構いませんね?」

シャル「…うん。あり、がと……」

秘書「いえ。では急を要するので、失礼します」ツカツカ


キィ…


秘書「…社長」

シャル「……」

秘書「どうか、お幸せに。織斑部ちょ…いえ、織斑一夏さんと」



パタン…



シャル「……」

シャル「うん…」

シャル「…バカ一夏」

シャル「…バカだな、一夏は。本当にバカだよ。
     こんな真似してさ。何考えてんの? こんなの、バカ過ぎるよ…」

シャル「皆、敵になっちゃうよ? 会社の皆も、ファンの皆も、友達の皆だって呆れてるよ?」

シャル「一夏…1人ぼっちじゃん…何やってなんだよぉ、もぉ…」

ポロ…ポロ…

シャル「こんなのさ…ボクしかいなくなっちゃうじゃん…。
     一夏の味方でいられるの、ボクだけになっちゃうじゃん…」

シャル「それなのにさぁ…なんで、ボクの心配ばかりするの…? ボクを見捨てるなとか、支えてやってくれとか…」

シャル「ボクのために、他の全部を投げ打つような真似なんかして…本当にバカ…」

シャル「あははははははは…本当に、バカだなぁ…なんでこんなに、ボクの事、信用してくれるんだろ…」

シャル「一夏に酷いこと言ったのに…信じてないって、優しくしないでって、いっぱい言ったのに…何で…」

シャル「こんなさ…一夏のことも満足に信用できないバカ女のこと…なんで、そこまで…」


――― 信じられないなら、俺はそれでも構わないぜ?


シャル「―――ッ」


――― シャルが信じられなくても、俺はシャルの事を信じているからな


――― いつかお前の不安とか心配とかが、全部なくなるって信じてる


シャル「…そっか」


――― それで、最後には俺を信じてくれるって信じているから


シャル「そう、だよね…バカなのは、ボクの方だったんだね」

シャル「一夏、ずっと信じてくれていたのに…ボクが信用してくれるってこと、ずっと信じてくれてたんだ…」

シャル「何でこんなこと、忘れていたのかなぁ…あはははは…本当にバカだ、ボク」

シャル「でも一夏だってバカだもん…人が良過ぎるよぉ…こんなの、宇宙一のお人好しだよぉ…」

シャル「優しすぎるよぉ……優しいにも程があるよぉ…ここまでだなんて思わないよ、普通…」

シャル「こんなことされたらさ…ボクの決意、無駄になっちゃうんじゃん…嫌いになれるはず、なくなっちゃうじゃん…」

シャル「はは、ははは…本当にバカだなぁ…バカ一夏…ばか…ば、かぁ…」

シャル「ほん、ど、に…ひっぐ…ばかぁ…う、うぅぅぅ…ばが、いぢ、かぁ…えっぐ…」

シャル「ありが、うぐ…うぅ…うぅぅ…」

――――――――――
――――――
――

――しばらくして――

~社長室~

コンコン

一夏「失礼します」

シャル『どうぞ』

ガチャッ

一夏「……」キィ…

シャル「……」パタン…

一夏「シャr―――」

シャル「社長」

一夏「…失礼しました、社長。お呼びでしょうか」

シャル「何考えてんの?」

一夏「え? で、ですから、その」

シャル「何 考 え て ん の ?」ニゴッ

一夏(ひ、ひぃ!?)

一夏「…その事で、責任を取りに参りました。こちらを」スッ

シャル「ん、何かな? 辞表?」

一夏「あ、いえ辞表も確かにあるのですが、その…け、契約書から」

シャル「契約書?」

一夏「ええ。一度目を通していただき、判を頂けないかと」

シャル「社員が社長に契約書? いったい何を――」ペラッ







『ずっと一緒にいてくれ』








シャル「――――ッ」

一夏「…差し出がましいのは重々承知してますが、今度は俺の方から言い出すのが筋かと思いまして」

シャル「……」

一夏「社長?」


ツーッ


一夏「!?」

シャル「……」スクッ

ツカツカ

一夏「え、ちょ、しゃちょ――」

ガバッ

一夏「うわ!?」

シャル「バカ…バカ…本当にバカだよ君は…バカ…バカァ…」

一夏「……」

一夏「バカなのはお互い様だ」

シャル「違うもん…バカは一夏だもん…せっかく…ボクがあんなに勇気出して、決心したのに…」

一夏「あんなもん勇気だとか決心だなんて言わねぇよ。
    都合悪いもんから目を逸らして、臭いもんには蓋して、回れ右して逃げただけだ」

一夏「…でも、俺の所為なんだよな。お前をここまで不安にさせたのは、俺が不甲斐ない所為なんだよな。
    本当にごめんな、シャル。お前を悲しませないって約束、果たせなかった」

一夏「…お前も箒も、お前が不安に思うことと俺が情けないのは別だって言うけど…。
    やっぱりそんなことないよ。俺がやっぱり、バカで鈍感でだらしない所為だよ」

シャル「だからって…こんな真似なんかして…本当にバカ…」

一夏「ははははは。ごめんな。これくらいしか思いつかなかったんだよ」

シャル「やっぱりバカじゃん…一夏の、大バカ…バカァ…」ギュゥゥゥゥ…

一夏「へいへい。バカですよーだ」ナデナデ


一夏「なぁシャル。俺、やっぱりお前が好きだよ。お前しか考えられないよ」

一夏「明るくて、気立てがよくて、何やらせても器用で、家庭的で、それですごく可愛くてさ」

一夏「自分は汚いだとか何とか言って、結局は俺の事を考えてくれる、優しいお前が大好きだ」

シャル「あ…あぁ…」

一夏「だからさ、シャル。お願いだからそんな悲しいこと言わないでくれよ。俺がお前以外を好きだなんて…考えたくないよ」

一夏「誰にでも優しくするのは辞める、って約束な…正直言ってまだ分からない。
   何度も言うけど、俺は自分が優しいだなんて思ってないからな」

シャル「………」

一夏「でも、1つだけ決めた。優しくするのをやめるとしたら…それはお前にだよ、シャル」

シャル「え…?」

一夏「俺は本当に心からシャルのことを愛している。優しいとかそんな曖昧な感情で、お前のことを見たくないんだよ」

一夏「だからこれからは、ちゃんと区別する。お前にだけは全力で愛を向ける」

一夏「お前が俺の気持ちを分からないって言うなら、分かるまでやる。ウンザリするほど愛してやるよ」

一夏「俺に出来ることを全部やって、俺の人生全部使って、俺はお前のことを愛し続ける。そう、決めたんだ」

一夏「だからシャル、お願いだ。もう一回約束してくれ。お前がいなくなったら…俺だって壊れちまうよ」

シャル「いち、か……」

シャル「一夏ぁ…一、夏ぁ…!」


ギュゥゥゥ…


一夏「……」ギュッ

シャル「ボクも…ボクも一夏が好き…大好き…」

シャル「格好よくて、明るくて、真っ直ぐで、守ってくれて、強くて…」

シャル「それでね…やっぱり優しい一夏が…バカな一夏が大好き…」

一夏「はははは、何だそれ。ひっで」

シャル「でも、やっぱりボク、不安で…」

一夏「だから付き合うって。不安がなくなるまで。今度こそ、最後までな」

シャル「…うん」

一夏「ずっと一緒にいてくれ、シャル」

シャル「うん…」

一夏「じゃあ、契約成立だな。判をくれ」

シャル「…押印欄なんてどこにもなかったけど?」

一夏「分かってるくせに」

シャル「ははははは、やっぱりバカだ」


チュッ


一夏「…シャル、好きだ。もう離れないでくれ」

シャル「ボクもだよ、一夏…もう放さない。逃げないから…」

一夏「ああ」ギュッ…

スッ…

シャル「さて、と。公私混同はここまで。夫婦の時間はおしまい」

一夏「ああ」

シャル「じゃあボクがこの椅子に座った瞬間から、また社長だからね」

一夏「分かった。それはこれ、これはこれ、だもんな」


ドカッ


シャル「で、織斑くん。君は一体…何 し て く れ て ん の ?」

一夏「ひッ!?(切り替え早ッ!)」

シャル「まさかそれ相応の覚悟くらいはあるよね?」

一夏「は、はい! 勿論でございます、社長!!」サッ

シャル「ふむ…辞表、ね」スッ


ビリビリ


一夏「え」

ビッビッビッ
ジャッジャッ
ポーイ

一夏「え!? ちょ、社長!?」

シャル「あのね織斑くん。あまり調子に乗らないでくれる?」

一夏「え?」

シャル「君、本当にこんな紙切れ1枚で君のやったことが全部、清算できると思ってるの?」

一夏「うッ…」

シャル「さっきから問い合わせや苦情の電話やメールが何件着てるか知ってる? 回線なんて増設分も含めてとっくに3回ほどパンクしたよ」

シャル「株価だって今日1日で最安値と最高値どっちも塗り替えるなんてはっきり言って異常。レート見てみる?
     すごいことになってるよ。ここまで巨大なv字回復なんて経済史上でも拝めないんじゃないかな」

シャル「大体ボクや部下になんの連絡もよこさずにあの判断は愚行以外の何物でもないよ。そんなんでよく今まで部長なんて務まったね」

シャル「その上辞職する旨についての理由もかなり利己的なものだったし、会社や社会全体への具体的な責任処置を
     講じることもなく、感情論で丸め込もうなんて論外。何? 世論を嘗めてんの?」

一夏「あ、あの社長…? もしかしなくても、怒ってます?」

シャル「君は目の前の人物が菩薩か何かに見えるの? あんな勝手な事されて怒らない人間がこの世にいると思う?
     もうね、ガンジーでも助走つけて顔面殴るレベル、ってやつだよ」

一夏(ま、満面の笑みなのが逆に怖ぇー…)


シャル「君のやったことはそういうこと。君は自分の都合ばかりを優先して、あらゆる信用を踏みにじった」

シャル「レートだけを見れば今回はたまたまいい方向に動いたけど、下手すればボクの首はおろか、社員全員が責任を取らなきゃならなかった」

一夏「……」

シャル「命令無視に独断専行。行動は考えなしで無責任。おまけに生放送で暴言を吐く始末。
     そんなんで自分から辞職して華々しく去ろうだなんてムシが良すぎ」

一夏「うぅ…」

シャル「だからクビね」

一夏「……」

シャル「…なぁに、その顔」

一夏「…いえ。解雇通達にしてはやけに嬉しそうに言うな、と思いまして」

シャル「まったく、この期に及んで減らず口なんていい度胸してるよ。じゃ、この書類に日付と名前をお願い」スッ

一夏「はい」サラサラ

シャル「当然だけど退職金も特別手当ても一切出ないからね。むしろ損害賠償を請求したいくらいだよ」

シャル「…まぁ、別の方向で賄ってもらうしかないかな」

一夏「はい。一生をかけて、必ず返済します」

シャル「そうしてね。期待してる」


一夏「あの…ああしておいて何なんですけど、俺が抜けても大丈夫なんですか?」

シャル「君は自分を買いかぶりすぎだね。ボクたちの会社のアドバンテージは、織斑くんだけじゃないよ」

シャル「大丈夫だよ。しばらくは荒れるだろうけど、すぐに立て直す。ボクが保証する」

一夏(ボクたち、か…)

シャル「…ねぇ」

一夏「はい?」

シャル「創設以来で解雇者をだしたのなんて初めてだけど」

シャル「一番最初にクビにするのが、君で本当によかった」

一夏「…俺もです、社長」

シャル「うん…」

一夏「書き終わりました。そろそろ行っていいですか?」

シャル「あ、ちょっと待って。君のスケジュール帳見せてくれる?」

一夏「え? どうぞ」サッ

シャル「ありがと。…ふむ。これなら3ヶ月…いや、1ヶ月でいけるかな」

一夏「どうかされましたか、社長?」

シャル「じゃあこれに書いてある契約、1ヶ月内に全部終わらせて。そしたら辞めていいから」

一夏「え?」

一夏「………」

一夏「……」

一夏「…」

一夏「えっ…?」

シャル「聞こえなかったの? 現時点で結んでいる契約を全部、ちゃんと済ませたら辞めていいよ。1ヶ月以内に」

一夏「え……でも、何で……」

シャル「あのね。何度も言うけどこのまま大人しく会社を去れるなんて思ったら大間違いだよ。
     こんだけ契約取っているのに、それを全部破棄にさせるような真似、ボクが許すと思う?」

シャル「この契約が全部不履行になったら、取引先とボクの会社の損失分がどれくらいになるか想像つく?
     合算した総額で言えば、この会社を10回は買い直せるぐらいにはなるよ」

シャル「お金の問題だけじゃない。そうまでされたら、ウチへの信用はガタ落ちどころか地の底の底だよ。
     企業にとっての信用問題はそのまま死活問題と等号なの。それくらいは分かるよね?」

一夏「え…いや、あの、でも、ええと、その…」

シャル「やれやれ、いいかい織斑くん。人を信じると書いて儲けると読むの。お分かり?」

一夏「で、で、でも…俺、たった今、解雇されて…」

シャル「書類の確認は初歩の初歩でしょ。それも満足に出来ないのかい君は。
     さっき書いた奴のここ、もっとよく読んでみなさい」ピッ

一夏「え」


『織斑一夏は現在時に契約した全ての事項を履行満了させた後、本社を退職するものとする』


一夏「え…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」


人を信じると書いて儲けると読むの→信じる者がいてこそ、儲けると読むの

シャル「そういうわけだから1ヶ月間、死ぬ気で消化してね」

一夏「い、いやいやいやいやいや!! 無理ですよ! だって半年先まで予定がビッシリで、案件によっては2年越しのも――」

シャル「大丈夫だって。人間、その気になれば80時間はぶっ通しで働けるから。ボクで立証済みだよ」

一夏「無茶ですから! 時間が圧倒的に足りません! 物理的に絶対不可能です!!」

シャル「1日が24時間で足りないなら、1日に30時間働けばいいじゃない」

一夏「何故マリー・アントワネット調!? フランス繋がりのつもりですか!? いや、奇跡でも起きないと本当に――」

シャル「暴挙こそが奇跡を生むのだよ、織斑くん」

ガチャッ

sp「失礼。ミスターオリムラ、オ迎エニ、上ガリマシタ」

一夏「え、ちょ、何ですか社長。この軍用ヘリと綱引きでも出来そうな屈強な御仁は?」

シャル「ボクのspの1人だよ。あ、でも今は君のマネージャーか」

一夏「マネージャー!? こんなにも逆三角形の胸筋が素晴らしいボディビル…いや、spが!?」

シャル「君が変な真似でもしたらあの手この手を使って止めてくれるプロフェッショナルだよ。
     ちなみにそこの彼は散弾銃受けてもピンピンしていられるから、抵抗してもis展開する前に潰されるよ色々と」

一夏「そんなグラップラーなマネージャーいやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


シャル「取りあえず先方に無理言って、今日の分はこっちの方で何件か入れてあげたから。その後の予定は自分で調整してね。
     やったね! 今からたったの17件だよ! 上手くいけば深夜に家に帰れるね!」

sp「早ク参リマショウ。time is money デス。時間ワ、砂金のゴトク流レテイキマス」ガシッ

一夏「え、ちょ、待って、せめて労災は!? それくらいおりますよね!?」ズルズル…

シャル「頑張ってね~」フリフリ

一夏「死ぬ~~~~~~~!! 俺、今度こそ死ぬ~~~~~~~~~~!!」ズル…ズル…

シャル「1ヶ月内に終わらなかったら離婚ね」

一夏「わわわわわわ分かりました!! 不肖織斑、死ぬ気で頑張らせていただきます!!」ズル…ズル…

シャル「あはははははは。最初からそう言えばよろしい」

ガチャッ

一夏「じゃあシャル! ちょっと死んでくるわ! あ、でもマジで死ぬ気はないぞ! 俺はお前をあいs――」

バタン…

シャル「……」

シャル「本当にバカだなぁ」

シャル「大好きだよ、一夏」


~篠ノ之神社社務所:篠ノ之箒の部屋~

箒「……」

箒「そうか…」

箒「それがお前の選択か、一夏…」

箒「……」

箒「シャルロット…」

箒「お前は親に恵まれるだけでは飽き足らず、今度は本当に一夏をモノにしようというのか…」

箒「ふふ、ふふふ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」

箒「………」

箒「……」

箒「…」

箒「ふざけるな…」

巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
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巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな

箒「巫山戯るな…ふざけ、るな…ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ドッゴォォォォォォォォォォォォォォ!!
パラパラ…


箒「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

箒「……」

箒「シャルロット…」

箒「お前は絶対に…」

箒「私が…」













箒「…殺してやる」

というわけで今日はここまで。ちなみに


次回が最終投下です


最後というわけで投下予告するけど勘弁してねー

2月29日:21時~

もうクライマックスと終わりまで一気にやる。ギリギリ今月中までに終わりそうでよかったー
それじゃお疲れ様でした。
じゃあの

なんかアレだよね。書き終えてから全部見返してみると、
ちょいちょい矛盾するところとか死にたくなるほど恥ずかしい誤字とかチラホラでてくるよね。

多分今日も色々と突っ込みどころとか誤字があるかもだけど…まぁ楽しんでいってくれ
あと10分ほどで始めっから

――翌日――

~織斑家~

prrrr...ガチャッ

シャル「はい、織斑です」

千冬『おお、デュノ…すまん、シャルロットか。私だ』

シャル「あ、千冬さんですか。ご無沙汰してます」

千冬『すまん…教育現場を離れていなかったせいか、どうも昔のままで呼んでしまう…』

シャル「気にしてませんよ。どうしたんですか?」

千冬『あの莫迦を出せ』

シャル「え?」

千冬『会って直接ぶん殴ってやりたいが、まずは一言怒鳴ってやらねば気がすまん。
   昨日からプライベート・チャンネルで呼びかけているが、一切応答しないからな』

シャル「あー…すいません。一夏は今―――」

――――――――――――
――――――
―――

千冬『…なるほどな、私が制裁するまでもなかったか』

シャル「すみません。昨夜の深夜には一度帰ったのですが、夜明けと同時に出勤してしまいまして」

千冬『そうか。こんな早朝からすまなかったな』

シャル「いえいえ。心配かけてすみません」

千冬『…無事そうで何よりだ』

シャル「…はい」

千冬『愚弟なんぞより、お前への心配の方が大きかったからな』

シャル「ありがとうございます。心遣い、感謝します」

千冬『決心はついたようだな。いや、これは…ふっ切れたというのか?』

シャル「はい。もう大丈夫です。一夏のことを最後まで信じます」

千冬『…そうか』

千冬『今だから言うがな、シャルロット』

シャル「はい?」

千冬『正直言って私は、弟は篠ノ之かボーデヴィッヒを選ぶものだと思っていたんだ』

シャル「……」

千冬『知人としての贔屓もあるが、あいつにはあの2人のどちらかが相応しいと思っていた』

千冬『だがなシャルロット。あいつがお前を紹介したとき…私は意外よりも安堵の方が大きかった』

千冬『お前があの5人の中でも、かなり危うい立場だったからな。
   傍に居てやれるものが見つかって本当に良かった。そう思っていた』

シャル「……」

千冬『…すまない。お前への侮辱だなこれは。そんな同情めいた真似を私は―――』

シャル「くすっ」

千冬『な、何を笑っている』

シャル「いえ。やっぱり千冬さんは、一夏のお姉さんなんだなぁ、って」

千冬『かか、からかうな莫迦者!!』

シャル「あはははは…」

千冬『まったくお前らときたら…』

シャル「あははは…すいません」

biii...biii...

シャル「あ、ごめんなさい。部下から通信が入りましたので、そろそろ失礼します」

千冬『分かった。忙しいのにすまなかったな』

シャル「いえ。では」

千冬『シャルロット』

シャル「はい」

千冬『…不出来な弟だが、これからもよろしく頼む』

シャル「もちろんです。こちらからもお願いします。これからも夫婦ともども見守ってください、『お義姉さん』」

千冬『はははははは。任せておけ。じゃあな』

ブツッ

シャル「…『お義姉さん』、か」

シャル「一夏は本当に、色々なものをくれたなぁ…」

シャル「おっと。忘れるところだった。はいもしもし」ピッ

秘書『お…おはようございます…社長…』

シャル「うわ…ひどい声だね…」

秘書『誰の所為だと思ってんですか…』

シャル「あ、あはは…申し訳ない…」

秘書『まったく…織斑部長も相当ですけど、貴女も大概ですよ。公私混同、職権乱用甚だしいです…』

シャル「うぅ…言い返せないや…ごめんね」

秘書『まぁいいですよ…その代わり、今後一切こういうのはナシですからね』

シャル「うん。約束するよ」

秘書『もう本当に…これっきりですからね…』

シャル「分かったって」

秘書『本当に本当ですからね…?』

シャル「う、うん…」

秘書『今度やったら本当に辞め―――』

シャル「うん、それ以上はやめた方がいいと思うんだ。色々と」

秘書『まぁいいですけどね…今日の重大案件さえ片付ければ、私もようやく肩の荷が下ります』

シャル「あっ、そっか。バタバタして忘れそうだったたけど、あれって今日だったっけ。宇宙開拓局との会合って」

秘書『忘れないでくださいよー…』

シャル「あはははは、ごめんごめん。isがようやく本来の用途を発揮させられるかどうか、でしょ?」

秘書『そうですよぉ…織斑部長の抜けた損失を補填できるかどうかは、
    今日の会合にかかっていると言っても過言ではないんですから』

シャル「分かった分かった」

秘書『…また途中で抜け出さないでくださいね?』

シャル「抜けない抜けない」

秘書『いいですか! 本当に今日のは重要なんですからね! 絶対に―――』

シャル「ねぇ君。さっきから良くないフラグ建てまくっているって気付いてる?」



秘書『ともかくそういうわけですので。もう少しで到着します』

シャル「分かった。あ、それと頼んでいたもの、用意してくれた?」

秘書『言われたとおり揃えましたが…何故、今になってコレを?』

シャル「まぁ…念のため、ね」


~織斑家から500mほど離れた雑木林~

箒「…目標距離473。風は南南西に風速1.2。視界、天候、その他あらゆる狙撃条件オールグリーン」

箒「目標出勤時刻確認。これより、撃墜準備に移行する」


<紅椿―――展開>

<展開装甲―――穿千>


箒「…やはりこのまま家屋ごとを狙ってみるか? この穿千なら一発で粉々に…」

箒「…いや、やめた方がいいな。『オリムラ社』は国家重要保護指定を受けている企業だ。
  最高経営責任者の住居となれば、何らかの防御対策を施していると考えるのが妥当…おそらくis学園と同等の」

箒「やはり、玄関から出てきて顔を覗かせたその一瞬を狙うが最も効果的か」

箒「貴様が…貴様さえいなければ! 一夏は絶対に渡さん…お前なんぞに一夏を渡すものか!」

箒「…迎えの車か。いいご身分だな」

箒「目標確認。射撃準備――」ジャキッ

箒「―――!?」

箒「こ、小癪な…! is装備のspだと!? 糞ッ! 照準が定まらない!」

箒(第4世代機が3体…。2体が量産機で1体は専用機か…。紅椿なら十分装甲を突き破って狙えるが…)

箒(…チッ。やはりな。装甲部分がかなり厚くなっている…貫通はできてもどうしても軌道が逸れてしまう。
  なら車に乗り込んだところで、車両ごと破壊してもろとも…)

箒(…周到なことだ。車は使わずにis飛行で出勤か。あのフォーメーションでは急所はとても狙えないな)

箒(ガードが固すぎる。射撃で仕留めるのは無理か)

箒(…行ってしまったか。忌々しいやつだ)



箒(…社内に乗り込んで襲撃するのは論外だな。あいつのことだ。厳戒態勢くらいとうに敷いているだろう)

箒(いっそのこと、ビルごと襲撃…いや、ダメだ。住居にセキュリティを講じて本社が疎かなんてこと、あるはずがない。
  防御対策さえなければ、紅椿で3分以内にビルを倒壊させられる自信があるのに…!)

箒(隙がなさすぎる…! モタモタしていたら逃げられるか、こちらの行動を特定されてしまう…!)

箒(糞…万事休すだ…一夏がいない今、仕留められる好機だと思ったのに…!)

箒(……一夏?)

箒(―――!!!)

箒(ふはははははは…そうか、なんだ、もっと簡単な方法があるじゃないか…)

――正午――

~とあるホテルの一室~

一夏「」チーン

sp「オ疲レ様デス。コレヨリ5分間ノ、インターバルヲ挟ミマス」

sp「休憩後ワ、コスメ、玩具、鉄道、出版、各企業カラノ撮影ガ控エテマス。時間ガナイノデ、
   スタディオ1室デ、カワルガワル撮影シテイキマス。ソノ後ワ自社用ジェットデ、ハワイニ飛ンデモライマス」

sp「ゴユックリ、オ休ミクダサイ。4分21秒後、オ迎エニアガリマス。デワ」キィ…バタン…

一夏「」

一夏(つ、疲れた…もう指の一本も動かせる気力がねぇ…)

一夏(時間が足りないからって…複数の取引先を一箇所に集めて全部に相手しろなんて無茶すぎだ…。

    10倍早く終わるけど疲労は10倍以上だよ…その上ほとんどが事前打ち合わせなしのぶっつけ本番ときたもんだ…。
    こんな芸当が出来るのはこち亀の両さんくらいなもんだろ…)

一夏(いや、考えるのはよそう…待ちに待った休憩だ…死ぬ気で休まなきゃ体が持たない…。
    しかしゆっくり休めって言われたときに限って頭って働くよな…あぁ、苦悩…)

ワッツ!? フゥアーユゥ!!
ズッガァァァァァァァァァァァァ!!
wooooooooooo!?

一夏(…何だか外が騒がしいな)


一夏(いや、気にしちゃダメだ…とにかく今は、寸暇を惜しんで体を休ませないと…)

コンコン

一夏(おいおい勘弁してくれよ…まだ1分かそこらじゃねぇか…)

『失礼。織斑部長の部屋はこちらでお間違いないでしょうか?』

一夏「(あぁーもう…)そーですけどー?」

『シャルロット社長がお見えになっております』

一夏「え…え!? シャルが!?」ガバッ

『はい。ここを開けていただいてもよろしいでしょうか、一夏』

一夏「は、はい! 今開けます!」

一夏(あ、あれ…? 今、俺の事名前で…それにこの声、どこかで――)ガチャッ

一夏「!!??」

一夏「な、なんでお前が――」

ドゴッ

一夏「かッ…はッ…?」ドサッ

箒「ふふ…ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」

――――――――――――
――――――
―――


――― 一夏! いーちか!


一夏(何だ…シャルが、俺を呼んでいるのか…?)

一夏(疲れてるせい、か…? 何だか、自分がどこにいるかもあやふやだ…)


―――女だってことがバレたらきっと本国に呼び戻されるだろうね…


一夏(この記憶…あの時のか…)

一夏(あの時は一時的とは言え、男の友達がいなくなっちまう気がして…それを失いたくなかったんだよな…)


――― 後の事はよく分からない…良くて牢屋行きかな…


一夏(…違うな。俺はあの時…ホッとしてたんだ)

一夏(誰にでもすごく明るくて、笑顔が眩しかったシャルをいつも目で追っていた…。
    男同士なのにそう思うのは変じゃないかって、何だか恥ずかしかった)

一夏(それが女の子だって分かったとき…すごくホッとしたんだ…)


――― 一夏…


一夏(…ああ、そうか。俺はこの時からシャルの事を守りたいって…)

一夏(俺はこの時から、とっくにシャルの事を…)


――― 庇ってくれて、ありがとう


一夏(シャル…)

一夏(今…どこにいるんだ…?)

――――――――――――
――――――
―――

「はぁ♥…いち、かぁ…♥あぁ、ぁ♥、ぁあッ♥♥♥!!」

一夏「う、ん…?」

一夏(夢、か…すごく久しぶりな夢を見た…気がする…)

「あぁッ♥! んあ♥♥、ぁあッ♥♥♥!! いい…いい、ぞ…いち…かぁ♥!」

一夏(体が重い…上手く体が動かない…それに、俺を呼ぶのは誰だ…?)

一夏(シャル…じゃない。誰だ…?)

「あぁ一夏ぁ! いっしょ、に…一緒にぃ…!」

一夏(何だろう…すごく声が、煩い…。聞き覚えのある、声のはずなのに…)

「はぁ、はぁ♥、ぁぁあッ♥♥! 一夏ぁぁぁあ♥♥♥♥!!」

一夏(誰なんだ…俺を、呼ぶのは…)パチッ

一夏「!!??」


ズチュッ ズチュッ ズチュッ ズチュッ ズチュッ!


箒「はぁ♥、はぁ♥♥、はぁぁん♥♥♥…一夏…! 愛してる! 愛しているぞ…!」

一夏「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」

箒「お…起きたか、一夏…おはよう…」

一夏「う、うわああああああ!? ほ、箒!?」

箒「ふふふ…『おはよう』、か…夫婦みたいだな」

一夏「お、お前ぇっ! 一体、何してんだぁぁ!?」

箒「恥ずかしいことを訊くな。見て分からないか?」


ズリュ…ズリュ…


一夏「うぁっ!? あぁぁっ!!」

箒「ただの夜伽に…決まっているだろうが。まぁまだ昼過ぎだが…ぁん♥!」

一夏「や、やめろおおおおおおおおお!! やめてくれえええええええ!!」グッ グッ

一夏「!?」

一夏(な、なんだ!? 手と足が縛られてる!? ベッドに括りつけられているのか!?)

一夏(ていうかここ…俺の家!?)

キュゥゥゥ…

一夏「あぅっ!? くぅぅ…」

箒「あぁぁ! いち、か…お前の一物…雄雄しいな…初めてだったから苦労したが…大分馴れたぞ…」

一夏「お前、こんな…俺の家で…俺と、シャルのベッドで…何してんだよ…?」

箒「何度も言わせるな。流石の私だって恥ずかしいぞ…あぁ♥!」

一夏「うぅ…! ば、ばかやろう!! 今すぐやめろ!!」

箒「やめてたまるか。それにな、一夏」


チュゥゥッ


一夏「!!??」

箒「はふぅ…んむぅ……」

一夏「~~~~~ッ!! ~~~~~~~~~~~ッッ!!」

箒「ふぅ…強情な奴だ。必死に口を閉じおって。そんなに抵抗しなくてもいいだろうが。
  そして一夏…今だけは、あの女の名前を出さずに、私の方だけを見てくれ…」ズチュッ ズチュッ ズチュッ

一夏「うあ…ぁぁあああ!! やめ、ろ…やめて、くれ……」

箒「薄情なやつめ。しかし、こっちの方はよほど…正直だな」

クイッ クイッ

一夏「うあぁぁぁ!?」

箒「あぁぁッ♥♥♥!! そう、だ、一夏…! もっと、もっと私を感じてくれぇ…あぁッ♥! あぁぁんッ♥♥!!」

一夏(や、やりたくないけど仕方ない!! 来い、白式!)


シーン…


一夏(ば、バカな!? 白式が展開しない!? いや、ガントレットが外されてる!?)

箒「お前の探しているのは…これか?」スッ

一夏「そ、それは…!? 返せ! 返せよ、箒!!」

箒「…ふん」ブンッ


ガツン カラカラ…


一夏「あ…あぁ……」

箒「そう抵抗するな。今はただ欲望の赴くままに、私を感じろ、一夏…」

一夏「ほ、箒…お願いだ…こんなこと、やめてくれ…」

箒「まったくお前という奴は…女にここまでさせておいてまだそんな事を言うのか。でも…」


クイッ クイッ ズリュ、ズリュ…


一夏「う、あぁ…ぁぁぁあ!?」

箒「ほら、こうすればいいのだろう…? お前が寝ている間に、お前の感じる仕草などは理解したからな」

一夏「ほう、き…その動き、やめ…」

箒「ぁ♥、ぁん♥♥、ぁぁあッ♥♥♥!! これ、私もいいぞ…気持ちいいところ、こすれるの、だ…あぁぁんッ♥♥♥!!」

一夏「ぅぁ、ぁぁぁぅ、ぐぅ…ぁあ!?」

箒「はぁ♥、はぁ♥、はぁぁ♥♥…一夏、好きだ…愛してる……!!」ガバッ

一夏「!!??」

箒「はむ…♥んん…♥んむぅ…♥♥はぁぁん…んん…♥♥♥」


ズチュッ ズチュッ ズチュッ ズブブッ…


一夏「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!??」

一夏「ほ、うき…やめ―――」

ニュルルル…

一夏「ッッ!!??」


レロ…レロ…チュゥゥ…ゴクゴク…


箒「はふぅ…♥いち、かぁ…♥♥んんん…♥♥♥」

一夏「んぶぅ…! んんんんんんんんん!!」

箒「はぁぁ…♥ 嬉しいぞ一夏…やっと、私を受け入れてくれて…」

一夏「バカ、言ってんじゃ…」


キュゥゥゥゥゥゥ…


一夏「くはッ!?」

箒「あぁぁぁぁぁぁ♥♥!! お前とのキス、すごく滾る!! ダメだ…もう、達してしまうぅぅ…♥♥♥!」

一夏「ば、か……はやく…ぬ、け…」

箒「あぁぁぁぁ♥!! あぁぁぁぁ♥♥!! 一夏…一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁ♥♥♥!!」


ズチュッ ズチュッ ズチュッ ズチュッ ズチュッ ズチュッ ズチュッ…


一夏「あ、が…!? 止めろ! 今すぐ止めろ、箒!!」

箒「ふふふ…お前も限界か…? 遠慮なく…出していいんだぞ?」

一夏「だ、ダメだ…それだけ、は…たの、む……」

箒「はぅぅぅん…♥!! 我慢、するな、一夏…お前のだって、果てたくてピクピクしているのを感じるのだ…!」


ズッ ズッ ズッ ズッ ズッ ズッ ズッ ズッ ズッ ズッ ズッ ズッ


一夏「あ、あぁ、あぁあぁ…! はや、く…するなぁぁ…!」

箒「ぁぁ♥、んあ♥♥、ぁぁッ♥!! いい! 遠慮などするな! 早く…楽になれ!!」

一夏「あ、あ、あぁぁ……ヤバイ…はや、く…ぬ…け…」

箒「あぁぁ♥、くぅぅぅぅぅ…♥♥! だ、ダメだ、イク…イってしまう…♥! 一緒に…一緒に果てるぞ、一夏!!」

一夏「いやだああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


バチンッッ!!

箒「はぅ、くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……♥!!」


ビックンビックン…キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…


一夏「が、ぁぁぁぁぁぁぁぁ…!(ダメ、だ…限界、だ…で、出ちまう…!)」

ドクン…

箒「♥♥ッ!」

一夏「あ…」


ビュルルルルルル…ビュゥゥゥゥゥゥゥゥ…


箒「あ、ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん♥♥♥!!!」ビックンビクン

一夏「あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

ドクン…ドクン…


箒「は、ぁぁぁぁぁぁ…♥♥! すごい…私の中で、お前の命が溢れていく…ぁぁあッ♥♥♥!!」

一夏「あ、あぁぁぁ…」

箒「嬉しい…私は、最高に幸せだ…ちゃんと、私で喜んでくれたのだな…」

一夏(ちく、しょう…シャルごめん、ごめんな……)

箒「ふふふ…もう何回目だと思っているんだ一夏…。まだまだこんなに出るとは…」

一夏(チクショウ…なんで、箒がこんな…)

一夏(……)

一夏「え…?」ゾクッ

箒「はぁ、はぁ…やはりお前と私は最高に相性がいいみたいだ…何度しても、し足りないくらい…」

一夏「おま…今、なんて…まさか……」

箒「おいおいそんな青ざめた顔をするな」


箒「もうとっくに、何度となく私の中で達しただろうに」

一夏「う、うあああああああああああああああ!! あああああああああああああああああああ!!??」ジタバタ

箒「はッ♥…!? ふぅぅ…♥♥ あ、暴れるな…イったばかりで、敏感になっているのだ…」

一夏「外せええええええええええええ!! 今すぐこれを外しやがれえええええええええええええ!!」ガタガタ

箒「あぅ…♥ だからそんなに激しくするな…母体に、響くではない、か…!」

一夏「!!??」

一夏「ぼた、い……え…」

箒「ふふふ…お前の素がまだ腹の中で泳いでいるのが分かるぞ…楽しみだな、一夏…」サスサス

一夏「うそ、だ……お前、まさか…」サァー…

箒「ああ…そうだとも…」


箒「今日の私はな……排卵予定日なのだよ一夏」


一夏「あ…あぁ…あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

一夏「う、うそだ…うそだあああああああああ!! うわあああああああああああああああああああああ!!」

箒「そう喚くな一夏。どうせなら祝福してくれ」

一夏「うああああああああああああああああああああ!! そんなあああああああああああああああ!!」

箒「やれやれ聞いてないか。なら……」


クイッ ズブブブッ…


一夏「あ、ぐぅあぁあああ!?」

箒「ふぅぅぅぅ♥♥…こう、動かせば…また元気になるのだろ?」


ズリュ クイッ クンッ


一夏「うあ、ああぁぁぁッ!?」

箒「ほら、こうだろう? 腰を捻りつつ、前後に揺らすこの動きが好きなのか一夏?」クイッ クイッ

一夏「いやだあああああああああああああああああ!! やめてくれえええええええええええええええええええ!!」

箒「まったく…まだそんな事をいう奴は、こうだ」ムギュッ

一夏「!!??」

箒「ふふふ…私の胸はどうだ? これでも自信はあるんだぞ?」

一夏「~~!! ~~~~~~~~ッッッ!!」

箒「唸るな。それでもここは反応するのだな? よくわかるぞ一夏…」

一夏「ッッッ!!」

箒「フフフッ…。私の胸で感じてくれてるのか。嬉しいな…あの女よりも興奮するだろう?」

一夏「―――ッ!!」

箒「安心してくれ一夏。私ならすべて受け入れる。お前の全てを受け止めてやれる」

箒「だからいっそ楽になれ。全部、欲望の丈を吐き出してしまえ」

ズチュッ ズチュッ ズチュッ

一夏「んんんんんんん!! んんんんんんんんん!!」ジタバタ

箒「はぁ♥…はぁ♥ …あぁ♥♥!! そんなにかき回すな…感じてしまうではないか…はぁん♥♥♥!!」

箒「もう渡さない。いずれあの女も消える…。お前は、私が守るから…」

箒「…愛しているぞ、一夏」

一夏「――――ッッ!!」


ガリッ

箒「痛ッ!!」

一夏「っぷはぁ! はぁ…はぁ…はぁぁ!!」


ドン!


箒「きゃあ!!」ズテッ

一夏「はぁ…はぁ…はぁ……どうせなら、猿轡と首輪も…させとくんだったな」

箒「……」

一夏「お前、本当に、何考えてんだ…これ、れっきとした、犯罪じゃねぇか……」

箒「…痛い」

一夏「…噛んで悪かったよ。とにかくこれ、外してくれよ。今、救急箱を――」

箒「一夏が、つけてくれた傷だ…」

一夏「…え」

箒「嬉しいなぁ…」

一夏「…ッッ」ゾワッ

一夏「おい嘘だろ…本当にどうしちまったんだよ、箒…」

箒「ははは…一夏が、私につけた傷だ…。血が出てるぞ…痛いなぁ…」

箒「なぁ一夏? これ、シャルロットが見たらどう思うかな? はは、ははははははははは…」

一夏「おい箒…やめろ……」

箒「シャルロットは幻滅して、今度こそお前を捨てるのかな? そうすれば私は嬉しいぞ。
  晴れてお前のものになる。ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」

一夏「やめてくれ…」

箒「初めてを貰ってくれただけでなく、お前の女という証までくれた…。ははは…本当に嬉しいぞ一夏」

一夏「もうやめてくれぇ!! 俺は…俺は、そんなお前なんか見たくない!!」

箒「何故だ一夏? 笑ってくれ。私は嬉しいんだぞ?」

箒「お前に抱かれて、お前に傷つけられて、嬉しいんだ。何故悲しむ?」

箒「笑ってくれ一夏。そして、私と一緒に行こう? あの女のことなど忘れて」

一夏「あ…あぁ……」

箒「お前に拒否権などないぞ? さっきも言ったとおり、もうお前の子供を孕んでしまった。
  まさかそれ相応の責任くらいは取ってくれるだろう?」

でもモップをここまで病ませたのは間違いなくワンサマーのせいだよね
自覚全然ないみたいだけど

このssのワンサマはそれについては謝罪するのだろうか

一夏「や、やめろ…こっちに…来るな……」ズリ…ズリ…

箒「そう怖がるな。お前を愛しているのは私だけだ。今やただ、私一人だけだ」

一夏「く、来るなぁ!! お前なんか箒じゃない!!」

箒「いや、私だ。世界で誰よりも織斑一夏を愛している、篠ノ之箒だ。
  …いや、もうすぐ織斑箒か。ふふふ…悪くないな」

スッ…

一夏「ひっ…」

箒「一夏。私を拒絶するな。受け入れろ。お前はそうするしかない」

箒「いずれ、すべてが終わる。お前は、私のもとに来るしかないんだ」

箒「…だから一夏。私と一緒に来い」スーッ

一夏「ひ…い、ぁ……」

箒「愛しているぞ―――いち」


カチン


箒「!?(何だ、今の音は―――)」

「いちかああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!


一夏「うわ!?」

箒「!!」

シャル「……」

一夏「シャ、シャル!?」

シャル「!!」

箒「……」

シャル「一夏から…離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


<高速切替(ラピッド・スイッチ)――アサルトカノン「ガルム」>


ダン!ダン!ダン!ダン!


一夏「うひぃ!?」

箒「―――!!」ヒュッ

シュタッ

シャル「はぁ…はぁ…はぁ…」

箒「…随分と荒れているな。壁をぶち抜いてまでの帰宅など聞いたことがないぞ。
  (さっきの音は家のセキュリティを解除した音だったのか…)」

シャル「箒…よくも、よくも一夏を!!」

箒「こんなにも早いとは予想外だ。会合ではなかったのか?」

シャル「全部蹴っちゃったよ。これで取引はご破算かもね」

一夏「え…ちょ、ちょっと待ってくれ…今日って確か…」

――――――――――――
――――――
―――

~取引先の会合場所~

秘書「もう辞める!! 絶対に辞めてやるんだから!!」

宇宙開発局局長「ミス・プレジテントマネージャー…そう言う人は大抵は辞めないものデース…」

箒「しかし酷いことをするな。一糸纏わぬ生身の人間にisとは」

シャル「よくもそんな口きけるね。ボクのこと、殺そうとしていたくせに」

一夏「なッ…!?」

箒「…気付いていたのか」

シャル「確信があったわけじゃないよ。でも、今の箒があの約束を守るだなんて毛頭思ってない。
     実際、すぐに逆上してボクに襲い掛かるものだと思っていたから」

シャル「…でも予想外に箒は冷静だった。ここまで最初から計画的に動けるなんて思わなかったよ。
    そういえば箒はボクたちの事情を知りすぎていたね…。用意が周到すぎるのはそれが原因か」

シャル「おそらくは一夏のisに盗聴と発信機のパッケージでも取り付けたんでしょ? 箒の身近には何の痕跡も残さずに
     そういうのを取り付けられる知人がいるってこと忘れてた。本当に姉がいないと何も出来ないんだね」

箒「……」


>>一夏「もうやめてくれぇ!! 俺は…俺は、そんなお前なんか見たくない!!」

こことかすげぇワンサマのダメっぷりをあらわしてるというか
こいつは自分の見たいものを見たいようにしか思わなかったんだろうなぁと
自分が誰かとくっついても他の女もそいつと仲良くしてくれる~みたいな
都合の良い事しか考えなかったツケというか

>>一夏「もうやめてくれぇ!! 俺は…俺は、そんなお前なんか見たくない!!」

こことかすげぇワンサマのダメっぷりをあらわしてるというか
こいつは自分の見たいものを見たいようにしか思わなかったんだろうなぁと
自分が誰かとくっついても他の女もそいつと仲良くしてくれる~みたいな
都合の良い事しか考えなかったツケというか

箒「何故ここが分かった。一夏が拉致されたことを知った直後にしては、あまりにも早すぎる」

シャル「簡単だよ。箒が本気でボクのことを殺そうとするなら、ボクを確実に殺せる手段をとる。
     家で待ち伏せて、ボクが帰ってきたところを殺すつもりだったんでしょ?」

一夏「え…」

箒「…正解だ」

シャル「わざわざ一夏を拉致したのはそのため。一夏の鍵でこの家に進入するためのさ。
     最高峰のセキュリティを施している住居も、一度入っちゃえば張子の虎だもんね」

箒「ご名答だ。流石だな」


箒「なるほどな…効率ばかり求めるのも考えものだな。すぐに動きが特定される」

シャル「…殺しにくるところまでは想像できたけど、まさか一夏をダシに使うなんて思わなかった。
     落ちるところまで落ちたね、箒」

箒「ダシに使ったとは心外だな。お前がノコノコと帰ってくるまでに一夏と愛を確かめ合って何が悪い?
  むしろ邪魔されたことに、私はひどく憤っているぞ」

シャル「利用したことには変わりないでしょ、この泥棒猫」

箒「ふっ…まぁ確かにな。否定はしないでおいてやる」

箒「しかし泥棒猫、だと? お前が言うのか、それを…」



箒「では貴様は何だトブネズミ」


<紅椿―――展開>

一夏「お、おい箒!! やめろぉ!!」ジタバタ

箒「まぁいい。どう言われようと、これで私の悲願は達成できる。お前をここで殺すことでな」ジャキッ

シャル「……」

一夏「シャル!! くそ…これ、解けよ! 解けぇ!!」グイグイ

箒「思えば意外だなシャルロット。罠だと分かっていながら、何故単身でここに来た?
  spなり警察なり、応援を呼ぼうと思えばいくらでも呼べただろう?」

シャル「……」

箒「一夏を寝取られるかもしれないという恐怖からか? それともただの自惚れからくる愚行か? もしくは―――」



シャル「頭足りてるの? 寝言は寝て言うものなんだよこの掃除用具」

箒「は…?」ピキッ

一夏「そ、掃除…」

シャル「あのさぁ…ボクの一番大切な人にここまでしといてさぁ…ボクが怒ってないわけないじゃん」

シャル「ボクがここまで怒っているのにさぁ…他の人に手を出させる真似なんて…するわけないでしょ?」


シャル「君はこのボクが直々に…ぶん殴ってやらないと気がすまないんだよ…!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


一夏(ひッ!? ヤバイ…! マジギレしたシャルは本当にヤバイ…!!)

箒「…ほう。いい度胸だな、シャルロット」

シャル「過去も清算できずに『箒』とか笑っちゃうよね。そんなチンケな掃除用具じゃ君の執着は
     掃ききれないよ? デッキブラシみたいにゴシゴシ擦らないと落ちないんじゃない?」

箒「き、さ、ま…」ビキ…ビキ…

シャル「怒るの? まぁどう思っていようが病院送りと修繕費の請求は覚悟してね『篠ノ之デッキブラシ』さん?
     昔からのよしみで慰謝料は勘弁してあげるから感謝してよね『篠ノ之デッキブラシ』さん?」

箒「―――」プチン

一夏(ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? 怖ぇぇぇぇぇ!! どっちも怖ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)


>>一夏「く、来るなぁ!! お前なんか箒じゃない!!」

これ一番いっちゃいけない事だよな

箒「ふふ、ふふふふふふふ……感謝するぞシャルロット。これでお前を存分に屠ることが出来る」

シャル「ふぅん。挑発されないと奮起できないなんて安い覚悟もあったもんだね」

箒「奢るなシャルロット。そんな時代遅れの代2世代機で、この紅椿と渡り合おうと言うのか?」

シャル「君と一緒にしないでくれる? ボクは君とは違って、過去は大切にするんだよ」

箒「なッ…」

シャル「このisはね…本当に大切なものなの。お父さんがボクに残してくれた最後のisで、
     一夏と一緒に戦った最初のisだから。君みたいに腐らせたくない」

箒「…ッ」ギリリ…

箒「どこまでも忌々しい奴だ。いいだろう。その大層な思い出を黄泉への手向けとして、死ね」


<高速切替(ラピッド・スイッチ)――近接ブレード「ブレッド・スライサー」>

ズパッ

一夏「うお!?」

ハラリ…

一夏「あ……」

シャル「拘束は解いたよ一夏。一夏はすぐに白式を拾って、身を守る準備をして」

シャル「それと、ごめん。せっかくのマイホーム……壊しちゃって」

一夏「お、おい! シャル!」

シャル「大丈夫だよ一夏。約束したでしょ?」

シャル「絶対に…帰ってくるから!!」

箒「最期の逢瀬は済んだか? …では、参る!!」


ドウッ!!

ドッゴォォォォォォォォ!!

一夏「うわぁぁぁ!?」

<白式――展開>

一夏「あ、あっぶねぇ…2人とも、メチャクチャだ…。天井を突き破るなんて…。
    あと一歩展開が遅かったらヤバかったぞ…」

一夏「でも無茶すぎだ、シャル…。いくらお前でも世代差がありすぎる…早く、何とかしないと…」




~織斑家から50kmほど離れた海岸線上空~


ガキン! ガキン! パラララララララ!!

箒「どうした!? 逃げてばかりでは私を仕留められないぞ!」

シャル(ぐ…やっぱり性能が桁違いすぎる…!)


<展開装甲――雨月>


箒「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

バシュッ!!


シャル「うわぁ!? …こんのぉ!!」


<高速切替(ラピッド・スイッチ)――連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」>


ドゥン!! ドゥン!! ドゥン!! ドゥン!! ドゥン!!


箒「遅いと言っている!!」

シャル「速すぎる…! 照準が定まらない…!」

箒「やっとだ…やっと、お前を殺せる!!」バシュッ!!


<展開装甲―――スラスター>

<展開装甲―――エネルギーソード>


箒「間合いは詰めさせてもらった! 一撃で楽に、ではない! 一太刀で、死ね!!」


<砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)―――近接格闘→近接射撃>


箒「!?」スカッ

<高速切替(ラピッド・スイッチ)――重機関双銃「デザート・フォックス」>


ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!

箒「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」ガギギギギギギギギ!!


シャル「……」シュゥゥ…

箒「砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)、か…」

シャル「懐かしいね。そういえばボクが学園でこの技を最初に見せた相手も箒だったね」

箒「……」

シャル「どうする? 忘れたわけじゃないでしょ? 箒じゃ分が悪いんじゃないかな?」

箒「貴様こそ失念したわけではあるまいな、シャルロット。
  私があの時お前の相手をしていたisは、ゴミクズ同然の量産機だ。あの頃とは違う」

シャル「機体は違えど…相性は変わらないで、しょ!!」バシュッ!!


<砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)―――近接射撃→近接格闘>

箒「自惚れるなシャルロット!! この紅椿の前には、相性も糞もあるものか!!」


<展開装甲―――空裂>


バシュッ!!


シャル「!!」


<砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)―――近接格闘→近接射撃>


箒「無駄だ!!」

シャル(ぐっ…!)クンッ


バシュゥゥウ…


シャル「ふぅ…危ない危ない」

箒「ふん…ギリギリでよけられて良かったな」

シャル(確かに相性も何もない…あの飛ぶ斬撃は遠近両用、攻防一体の技…すごく厄介だよ)

箒「鬱陶しく飛び回る奴め。ドブネズミというよりは蝿といったところだな」

箒「…なら、これで決めてやる!!」


<展開装甲―――スラスター>


シャル(突進!? 速い! 回避…間に合え!!)

ビュン!!

シャル(よし! 突進した直後なら、隙が出来て――)スチャ


<展開装甲―――空裂>


シャル「な!? ぐぅ…!」

ガガガガガ!!

シャル(回避が読まれてた!? 突進からの切り替えしでも充分に間に合うなんて、なんて機動性なの…!?)

シャル(ギリギリで防御できたけど、このままじゃ……!)

箒「もらったぞ! これで…終いだ!!」


<展開装甲―――穿千>

シャル(ぐッ…灰色の鱗殻(グレー・スケール)で相殺…)


「シャル!!!」ドン!


シャル「!?」


バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…


シャル「………あれ?」

箒「な……?」

シャル「き、来ちゃったんだ…」

箒「なぜ、お前がここに……」


一夏「…何とか間に合ったみたいだな」


<瞬時加速(イグニッション・ブースト)>


一夏「久しぶりだったから不安だったけど、ちゃんと動いてくれて助かったぜ」

箒「…一夏。何だそれは…」

一夏「………」

箒「ああ醜い…なんと醜いんだ一夏…。何だそのisは…。あの頃のお前はどこに行った?」

箒「単一仕様能力(ワンオフ・アビュリティー)を縮小し、代わりに拡張領域(バス・スロット)を無理やりねじ込んだそれは何だ?
  量産型の装備にまみれ、企業のロゴがデカデカとプリントされたその機体は…」

箒「そんなゴテゴテな装飾品ばかり纏っているお前は…無様以外の何物でもない。
  その雪片弐型がお前の最後の良心か? 嘆かわしいぞ、一夏…」

箒「あの頃の雄雄しく、気高く、凛とした白金色の輝きを放つ白式はどこにいった…?
  私はそんな俗物の観衆に晒されるためのお前など…見たくはなかった」

一夏「……」

箒「やはりお前の隣は私こそ相応しい。お前は私がいてこそ完全な存在になる」

箒「お前の白式と私の紅椿は対となり、この2機が揃ってこその私とお前だ。私の絢爛舞踏とお前の零落白夜。
  この2つは表裏一体であり一心同体だ。私とお前が結びつくのは必然以外の何物でもない」

箒「だから私と来い、一夏。お前は―――」

一夏「ふざけんじゃねぇぞ箒」

箒「なッ…!?」

一夏「このisはな…俺の、俺たちの覚悟の表れなんだよ。
    シャルの…シャルの親父さんの会社を守っていくために、俺自身が決めた標だ」

一夏「俺は見世物になりたかったわけじゃない。ましてや弱くなりたかったんじゃない。
    この世で一番大切な人と、大切な人の大切な人を、守りたかっただけだ」

一夏「『オリムラ社』の全てをこめた結晶が、今の俺だ。
    それを侮辱する奴はな箒。たとえお前でも許さない」

箒「いち、か…?」

一夏「…お前の気持ちには応えることは出来ないよ、箒。俺の傍にいる人は、俺が決めるから。
    その大切な人を手に掛けよう奴がいるなら…誰であれ、敵だ」

箒「――!?」

一夏「お前が俺たちの障害になろうっていうんなら、叩っ斬る。たとえ箒…お前でも」


<雪片弐型――零落白夜、始動>


箒「あ…あぁ…」ワナワナ

一夏「…本当はこんな真似、したくなかったんだけどな。ごめん、箒…。
    ちょっと頭、冷やしてもらう」


箒「嘘だ…一夏が、そんな…」


――― 俺は割りと身近な奴の指図は受ける。一夏な。俺の名前だ。織斑は2人いるから、紛らわしいだろ?


箒「………」


――― 久しぶり。6年ぶりだけど、箒ってすぐ分かったぞ


箒「ふっ…」


――― それにしても凄いな。様になってて驚いた。それに何ていうか…綺麗だった


箒「はははははははは…」


――― ほ、箒っ! 逃げるぞ!


箒「何だ…そういうことだったのか…」

箒「お前は…誰だ…一夏ではないな」

一夏「!?」

シャル「……」

箒「ふふ…はははははははははははははははは…そうだ、お前は一夏ではない」

箒「一夏は…いつだって私を守ってくれた…傍にいてくれた…。
  その一夏が私を敵にするなど…斬るなどと言う訳がない…」

一夏「箒…」

シャル「……」

箒「はははははははははははははははははははは…何で、こんなことにも、気付けなかったのだ…。
  そうさ…私の一夏が…私を捨てるはずはない」

箒「一夏が…私の傍を離れるわけない…そんなわけ、ないんだ…そうだ、とも…」


――― 俺の仲間は、誰一人としてやらせねぇ!!


箒「お前は…一夏ではない…!!」

箒「お前が一夏であって…なるのもかああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


パキン…

バチバチバチバチバチバチバチ!!

一夏「!?」

シャル「!?」

箒「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


ゴキ…ゴキ…ゴキ…


一夏「な、何だあれは!? 箒!!」

シャル「あれは…」


箒「薙ぎ払えええええええええええええええええ!!!紅椿いいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!
  目に映る全てが…お前の敵だああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

箒「私の体なら―――いくらでもくれてやる!!!」



ドクン…ドクン…ドクン…!

一夏「全身装甲(フル・スキン)…ラウラの時と一緒だ…まさか、vtシステム!?」

シャル「違う! 妹のために作った篠ノ之博士が、箒のisにあんなもの組み込むわけがない!
     あれはおそらく…絢爛舞踏!!」

一夏「絢爛舞踏だと!? あれが!?」

シャル「うん…絢爛舞踏の発動条件は、箒が一夏のために強く願うこと。
     その発動条件を満たすことで、無限ともいえるエネルギー供給を可能にする」

シャル「でも一夏への想いを否定された今、そのエネルギーをすべて逆の方に取り込んでいるんだ。
     一夏へではなく、全て自身のエネルギーに。一種の拒否反応…いや、暴走状態と言ったほうがいいかな」

一夏「暴走状態だと!? でも確か絢爛舞踏って、任意発動が可能なはずじゃ…!?」

シャル「任意かどうかは関係ないよ。きっかけ自体は変わってないんだから。
     むしろ発動条件が緩やかになったことが、マイナスに働いている。その証拠に、見て…」

一夏「あ……」


紅椿「……………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


シャル「…侵食は完了した」

シャル「あれはもう、箒でも紅椿でもない…ただの憎しみに囚われた、1つの『個』だよ」


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


一夏「そんな…箒が、また俺のせいで…」

シャル「ボーっとしないで!! 攻撃が来る!!」


<展開装甲―――空裂>


ズァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!


一夏「うわっ!? な、何だ今の赤い帯は!?」

シャル「気をつけて!! 紅椿の主力武装、空裂だよ!」

一夏「か、空裂!? 今のが!? 威力が段違いなんてモンじゃないぞ!!」

シャル「絢爛舞踏による膨大なエネルギーを斬撃に変換しているんだ!! 次、来るよ!!」


<展開装甲―――雨月>


ドウ!! ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ!!!


一夏「うおっ!?」

シャル「威力だけじゃない…! 連射性能、効果範囲に射程距離、全てが格段に向上してる…。
     本当に雨…いや、まるで嵐…!」


一夏「シャル!! 一旦引くぞ!! 捕まれ!!」ガシッ

シャル「え!?」


<瞬時加速(イグニッション・ブースト)>


紅椿「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


<展開装甲―――スラスター>


シャル「む、無理だよ一夏!! 放して!!」

一夏「ばかやろう!! 俺に、死ぬこと以上の後悔をさせるつもりか!?」

シャル「ダメだよ!! 紅椿の性能相手じゃ逃げ切れない!!
     同じ世代の白式単体なら分からないけど、ボクを抱えたままなんて絶対に無理!!」

一夏「シャル!! お前の推進機(スラスター)を開け!! 動力は脚部と背面部と腕部に集中させろ!
    俺の言いたいこと、分かるな!?」

シャル「!!」

シャル「わ、分かった!! やってみる!!」


<瞬時加速(イグニッション・ブースト)×2>


キィィィン…バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!


紅椿「!!??」

シャル「うわぁ、速い…! 少しずつだけど、紅椿を離している…!」

一夏「思ったとおりだ! 一方を基幹推進に、もう一方を完全に補助推進として組み込めば、

    速度は倍じゃなくて相乗で跳ね上がる!! しかも俺とお前で交互に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を
    発動させれば、連続で速度を持続させることも可能だ!!」

シャル「…でも、根本的な解決になってないよ!! 向こうのエネルギーは無尽蔵だけど、ボクらのはいつか底を着く!!」

一夏「シャル、忘れるな!! お前には、俺の他にも信じているモンがあるはずだ!!」

シャル「えっ…そ、それって!?」

一夏「説明は後だ!! とにかく今は、時間と距離を稼ぐぞ!!」

一夏「…でも、箒がこうなっちまったのは俺のせいだ!! 最後の責任は、俺が必ず果たす!!」

一夏「それまでは持ちこたえろ!! シャル!!」


バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…


~海岸線から数km離れた沖合い上空~



一夏「くそ、ここまでか…シャルは大丈夫か?」

シャル「エネルギーはもうほとんどないよ…。picでギリギリ浮くことくらい…」

一夏「俺も似たようなもんだ。でも、大分離したからしばらくは―――」


<展開装甲―――穿千>


一夏「!!」

シャル「一夏、危ない!!」ドン!!

一夏「え―――」


ゴォォォォォォォォォォゥゥッッッ!!!


一夏「シャ…」

一夏「シャルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

シュゥゥゥゥゥゥゥゥ…

一夏「あ…あぁ……」


<瞬時加速(イグニッション・ブースト>


シャル「だ、大丈夫だよ一夏…ギリギリ、間に合ったから…」

一夏「ばかやろう…心配、させてんじゃねぇよ…」

シャル「あはは…何とか瞬時加速(イグニッション・ブースト)一回分だけエネルギーが残ってたみたい…。
     でも、ごめん…今ので具現維持限界(リミット・ダウン)ギリギリ…あと数秒でも浮いていられるかどうか」

一夏「そんな…」


「ヴァア゛アアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


一夏(もう追いつきやがったか!!)

シャル「一夏お願い…逃げて…」

一夏「ふざけんな!!」

一夏(クソッ!! まだか…? まだなのか!?)


一夏「くそっ! かくなる上は…!!」ジャキッ!!

シャル「一夏やめて!! ボクだって一夏を捨石にしたくない!!」

一夏「そんな気はない!! もう少し…もう少しのはずなんだよ!!」

シャル「でも―――」

一夏「行くぞ、箒!!」バシュッ!!

シャル「一夏!! だめぇぇぇ!!」

一夏「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

紅椿「……」ガシャン


<展開装甲―――スラスター>


バシュゥゥゥ!!


一夏「なッ!?(俺の突進を無視してシャルの方に!?)」

紅椿「ギア゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


<展開装甲―――エネルギーソード>


ザシュッ!!

シャル「きゃぁぁぁ!?」バギャッ!!


<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ――具現維持限界(リミット・ダウン)>

<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ――強制解除>


シャル(いち、か…)

紅椿「グヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」ゴゥ!!

一夏「しまった!! シャルゥゥゥゥゥゥ!!」








???「何だお前ら。だらしないな」

※bgmを強く推奨します

ttp://www.youtube.com/watch?v=icoues6qsrk&feature=related


紅椿「!!??」ビタッ!!

一夏「な…箒のisが…止まっ、た…?」

シャル「いや、紅椿だけじゃない…ボクの体も、浮いてる…?」

???「まったく無茶をする。第4世代機が跋扈するこの時世に何を考えているんだ。
     そんな骨董品(アンティーク)を使うのはお前くらいなものだぞ?」

一夏「あ…あぁ…」

シャル「あ…」

???「だがまぁ…それでもかつて、私に片膝をつかせた機体なのだ。
     もっと気概を見せてもらわなければ困る」







ラウラ「なぁ……『シャル』?」ニッ






<aic(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)>


一夏「ラ、ラウラ!! 来てくれたのか!!」

ラウラ「久しぶりだな一夏。昨日の会見、中々だったぞ。男を上げたな」

シャル「ラウラ…どうして…」

ラウラ「無粋なことを訊くなシャル。親友の危機に駆けつけないでどうする?」

シャル「あはは…すごいね。aic、複数の捕捉も出来るようになったんだ」

ラウラ「当たり前だ。進化するのはisだけでは―――」


紅椿「ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


バシュッ!!


ラウラ「!!」

シャル「え、aicの拘束を力ずくで解いた!?」

ラウラ「規格外のパワーだな…私だけではどうにも―――」





??「あんただけじゃないわよ!!」

一夏「あ!」


<風(フェン)>


ドン! ドン! ドン! ドン!


紅椿「グガッ…!? ギィィ……!」ガキン! ガキン! ガキン!

鈴「遅れてごめん!!」

一夏「鈴! 待ってたぜ!!」

鈴「えっへへ! 真打登場、ってところかしら! それと久しぶりね、シャルロット!」

シャル「鈴!!」


紅椿「ギィィィィィアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


鈴「…ったく、煩いったらないわね。久々の対面ぐらいさせなさいっつーの」

紅椿「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」ゴゥッ!!

鈴「何? 踊ろうっての? いいわよ、やってやろうじゃん!!」バシュッ!!

<展開装甲―――雨月>


ドウ!! ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ!!!

鈴「へぇ…!! 威力は桁違いってわけね! でもあんたの技には華がないわ!!」

鈴「砲弾ってのはね…こうやって撃つの!!」


<複合技―――風(フェン)+崩山>


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
ズガガガガガガガガガガガガ!!

紅椿「!!??」ガギギギギギギギギンンン!!

鈴「やっぱあんた、アスリートには向かないわね!! そんなんじゃ初戦敗退どころか、予選通過もできないわよ!!」

一夏「すげぇ…鈴の奴、機体は変わってないのに紅椿を圧倒してる…! でも、何でだ…?」

シャル「確かに機動性は紅椿に遠く及ばないけど、鈴は並外れた瞬発力でそれをカバーしてるんだよ」

ラウラ「流石は現役のプロisアスリートだな。小回りの機転は、鈴の方が数枚上手だ」

一夏「くそ…! 俺にもエネルギーさえ残っていれば…!」


????「エネルギーなら、ありますわ」

一夏「え?」


<スターライトmkⅢ>


ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!


一夏「どわっ!?」ドガッ!!

セシリア「ご無沙汰してますわ。一夏さん」

一夏「セ、セシリア!? いきなり後ろから撃つなよ!」

セシリア「ちゃんと推進翼(スラスター)を狙いましたわ。威力は抑えて拡散放射に特化させました。
      その証拠に、ちゃんとエネルギーは補充されるはずでしてよ?」

一夏「え…? あ、本当だ。ちょっと回復してる。
    そっか、俺の推進翼(スラスター)はエネルギーを取り込む事も出来るんだっけ」

セシリア「やれやれ。学が足りないのは相変わらずですわね」

一夏「あははははは…」



シャル「……」

ラウラ「シャル、受け取れ。お前にもだ」スッ


シャル「え…それは、エネルギーポッド?」

ラウラ「学園の備品だ。急いでいたので一基持ってくるのがやっとだったが。受け取れ」

シャル「…いけない子だね」

ラウラ「文句言うのならやらん。黙って受け取れ」

シャル「あははははは、ごめんごめん。遠慮なく受け取るよ」


<コア・バイパス接続:エネルギーポッド―――ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>

<エネルギー流出:承認―――エネルギーポッド→ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>

<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ―――展開>


ラウラ「シャル。あくまで決着はお前と一夏の役目だ。それを忘れるな」

シャル「ラウラ、本当にありがとう。それとお待たせ、一夏」

一夏「シャル! さっきの攻撃は大丈夫だったのか!?」

シャル「問題ないよ。左腕部のアーマーがちょっとダメになったけど」

ラウラ「何はともあれ、これで全員だな」

鈴「セシリア! あんたも来たのね!」

セシリア「当たり前でしてよ。ここで『オリムラ社』のトップに死なれては、折角の株券も紙屑ですわ」

鈴「まっ、そーよね。あたしだってここに来たのはたまたまだし」

ラウラ「白々しいぞお前ら。大方、昨日の朝刊を見て急いで駆けつけたのだろう?」

セシリア鈴「「べべべべべべべ別にそんなつもりじゃ(では)!!」」

ラウラ「まったく。本当にお前らは仲が良い―――」


紅椿「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


ラウラ「…っと。感動の再会、という訳にもいかないようだな」

鈴「の、ようね…」

セシリア「あれが本当に…篠ノ之さんですの…?」

シャル「うん…」

ラウラ「さて一夏。私たちは見ての通りお前たちを助けに来た。命じてくれ。皆、覚悟は出来てる」

一夏「…すまない、皆」

一夏「皆聞いてくれ! あそこで苦しんでいるのは箒だ!!」

一夏「俺がひどい事を言っちまったばっかりに…あいつの気持ちに上手く応えられなかった俺の責任だ!!」

一夏「皆を巻き込んで本当にすまない…でも、俺はあいつを助けたい!!」

一夏「たとえ箒がどんな姿になろうが、あいつは俺たちの大切な仲間だ! 見捨てるなんて出来ない!!」

一夏「俺の尻拭いを押し付ける形になって申し訳ないけど…でも、皆の協力がないと無理なんだ!!」

一夏「頼む…! 俺の幼馴染を、皆の友達を助ける手助けをしてくれ!!
    あいつのとの清算は、絶対に俺が後で果たすから!!」



一夏「皆、お願いだ!! 力を貸して欲しい!!」



シャル「うん!!」

ラウラ「応!!」

セシリア「無論ですわ!!」

鈴「水臭いこと、言ってんじゃないわよ!!」


ラウラ「お前の覚悟、しかと受け取った!! まずは私から行くぞ!!」ビュン!!


ラウラ「箒!! 悲しかったのも苦しかったのも、お前だけではないぞ!!
     私だってあの日、一夏に思いを告げた! やはりどうしても堪えきれなくなり、一夏に告白した!!」

ラウラ「そして泣いたさ!! 朝も昼も夜も、涙を流し続けた!
     泣いている時は苦しくて、自分が惨めで、いっそ死んでしまいたいとすら思ったさ!!」

シャル「……」

ラウラ「だが私はあの日の事を否定しない! 一夏を愛し、過ごしてきた日々は何物にも代えがたい宝だ!
     むしろ一夏が選んでくれたのが私の親友で、本当に良かったとすら思える!!」

ラウラ「何故お前はそれを誇りにしない!? お前は一夏への想いを理由に、ただ暴れたいだけではないか!!」

ラウラ「お前は本当に……そんな奴だったのか!! ふざけるな、箒!!」


<レールカノン「ブリッツ」>


バチバチバチ…ドゥォォォォォォォォォォン!!!


紅椿「グォ…!? グォォォォォォォォォ!!」

ラウラ「ぐっ…大口径のレールカノンでもビクともしないか…」


鈴「下がって!! あたしが動きを止める!!」ヒュン!!


鈴「箒!! あたしだってあんたと一緒!! 一夏たちのことを受け入れられずに、スポーツやってごまかして、
  現実から目を背けてきた愚図よ!!」

鈴「あたしはそれでいいと思った!! 一夏への想いは大切だから、それを持ち続けることは悪いことじゃない!
  たとえ届かなくても、それでいいと思った!!」

セシリア「……」

鈴「でも…それじゃやっぱりダメなの!! いつまでも引きずっていたら、心の中で腐っちゃう!!
  一夏への大切な想いのはずなのに、それを腐らせるような真似はしたくない! 今のあんたみたいに!!」

鈴「不本意な形だけど、それを教えてくれたのはあんた!! あんたが、あたしを救ってくれた!!」

鈴「だからあたし、もう俯くのやめる!! 立ち上がって、前を向いて走っていく!! 立ち上がらせてくれたのはあんた!」

鈴「今度はあたしが、あんたを救う番!! だから一緒に、立ち上がりましょう! 箒!!」


<複合技:風(フェン)+龍砲>


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!


一夏「本当にすげぇよあいつ…完全に紅椿を翻弄してる…!」

セシリア(鈴さん。やはり貴女は立派ですわ)

セシリア「鈴さんが作ってくれたこの好機…逃しません!!」

セシリア(篠ノ之さん…いえ、箒さん。私は貴女を、尊敬してましたわ)

セシリア(恋敵としても友人としても、私は貴女を誇りに思っていました。
      不器用ながらもただひた向きに、一夏さんへの想いを貫く貴女の姿は…とても凛とされていました)

紅椿「ヴァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!ア゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

セシリア(でも、今の貴女は見るに耐えません! 一夏さんへの想いに囚われ、憎しみを撒き散らすお姿など見たくありません!!)

セシリア(ラウラさんは確かに言ってました! 最後まで一夏さんの隣に立っていた者が勝者であると!
      しかし貴女は立ってすらいない! ましてや、勝利者であるはずがありません!!)

セシリア(一夏さんの影にすがり、惨めに地面を這って立ち上がることも出来ないだけ!!
      そんな女性が、私の友人だなんて認めません!! だから―――)

セシリア「帰ってきなさい!! 篠ノ之箒!!!」


<複合技:スターライトmkⅢ+ブルー・ティアーズ>


キィィィィィィィィン…ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォ!!

紅椿「グヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!??」ジュゥゥゥゥ…


一夏「セシリア!? ブルー・ティアーズ使いながら、他の装備も撃てるようになったのか!?」

シャル「大口径レーザーライフルを軸に展開した超火力レーザー砲…すごい」


セシリア「ダメ押し行きます!! 鈴さん、合わせて!!」

鈴「オッケー! 龍砲!!」

セシリア「スターライトmkⅢ!!」


<複合技:スターライトmkⅢ+龍砲>


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…ドガアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!


一夏「うお!? な、なんちゅー威力だ…」

セシリア「当然! 私のレーザー砲に鈴さんの衝撃砲を纏わせた特性レーザー砲弾です!!」

鈴「圧空間作用で威力を何倍にも凝縮してるわ!! これを喰らったらゴジラだってイチコ―――」


紅椿「グア…ガッ…ァア、ァァアァァァァァアアアアアァァァアアアァアアァアァァアアアア!!!」


鈴「…ロ、のはずなんだけど」

ラウラ「いや、動きを止めてくれただけでもよくやってくれた!! あとは任せろ!!」


<aic(最大出力)>

紅椿「ガギッ!? ギ…ギィィィィィィィ……!!」グググ…


ラウラ「私が全力で抑える!! 一夏、シャル! 頼むぞ!!」

一夏「分かった! 任せろラウラ!!」

ラウラ「応!!」



一夏「シャル。残りのエネルギーは?」

シャル「あと1回きり。一夏は?」

一夏「俺もだ。でも…充分だ」

シャル「やれるかな?」

一夏「やれるさ。俺と、シャルなら」

シャル「…うん!」

一夏「行くぞシャル! 繋いでくれ!!」

シャル「うん!!」


<コア・バイパス接続:白式―――ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>

一夏「行くぞ、シャル!! 合わせろ!!」

シャル「任せて、一夏!!」




<複合技:瞬時加速(イグニッション・ブースト)+ 砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)>




ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!
ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!


紅椿「!!??」



ラウラ「!?」

鈴「!?」

セシリア「!?」

鈴「え…な、何あれ…。瞬時加速(イグニッション・ブースト)であんな動きが可能なの…?」

セシリア「た、確かに…急激な方向転換や緩急には、体に負担がかかり過ぎるはずでは…?」

鈴「しかもあたしの見間違いじゃなければ、シャルロットと一夏の像がダブって見えるんだけど…?」

セシリア「いえ…私のハイパーセンサーでも、反応が複数ほど確認できます…どういう、ことですの…?」

ラウラ「おそらくは『オリムラ社』最新鋭isスーツの性能だな。身体にかかる負担を効率的に分散し、最小限にしている。
     しかもデコイ・チャフと似た機能を付属させてるみたいだ。レーダーでも捉えられないのはそのためだろう」

セシリア「と、いうことは…相手は近接も遠距離でも攻撃を当てる事が出来ず、間合いに入られれば零落白夜でバッサリ…?」

鈴「はははは…何それ、勝てるわけないじゃん…」

ラウラ「一夏の動きをシャルが完璧に補助しているんだな。コア・バイパスを繋いだのはそのためか」

セシリア「一夏さんの大胆性、パワー、情熱。シャルロットさんの器用さ、技術、冷静さ。
      2つの相反する属性が、渾然一体となっているのですね」

ラウラ「…通りで強いわけだ」

鈴「本当に…いいコンビなのね」

ラウラ「性能差も力量差も、絆で乗り越えるか…。お前らしい…いや、お前たちらしいな、一夏…」


紅椿「バア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
    ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


<空裂><雨月><穿千><空裂><空裂><雨月><穿千><穿千><空裂><空裂><空裂>
<空裂><空裂><空裂><空裂><穿千><雨月><雨月><雨月><空裂><穿千><雨月>
<穿千><穿千><空裂><穿千><雨月><雨月><穿千><空裂><雨月><穿千><穿千>


一夏「!?」

シャル「!?」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!


ラウラ「なんて、パワーだ…まだ、抵抗、するのか……」ギギギギギギ…

鈴「最後の悪あがきよ! 四方八方に向けて、しっちゃかめっちゃか撃ってるだけ!!」

セシリア「私が突破口を開きます!! 鈴さんはラウラさんを!!」ビュン!!

鈴「了解!!」


セシリア「人の恋路を邪魔する淑女(レディ)は……」

キィィィィィィィィィン…

セシリア「黒コゲになってしまいなさい!!!」


<複合技:スターライトmkⅢ+ブルー・ティアーズ(一点集中最大火力)>


バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
ドッッッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


紅椿「ギィィィィィィィィィィィィィィィィィアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


セシリア「動きが止まりました!! 今です!!」

一夏「セシリア! 恩に着る!!」

シャル「いくよ、一夏!!」

一夏「ああ!!」

シャル(箒…! ボク、今はすごく幸せなんだ!! 幸せってどんな感じか分かる!?)

シャル(暖かいだけじゃないんだよ! 力がどんどん漲ってきて、絶対に負けないって思えるんだ!!)

シャル(叶うならね…箒にボクの幸せを分け与えても良い!! なんなら全部、あげちゃってもいい!!)

シャル(だって一夏とならボクは、幸せなんて無限に作れるから!!)

シャル(皆、なれるんだよ!! ボクにだってなれたんだから、箒にだって絶対になれる!!
     誰もがその権利を持ってる!! 誰にだって、こんな気持ちになれるんだ!!)

シャル(だから箒―――お願い!!)


シャル「箒も……幸せになってよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


<瞬時加速(イグニッション・ブースト)×2>


紅椿「!!??」


一夏(間合いに入った!! いける!! 零落白夜、発ど―――)


<展開装甲―――エネルギーソード>


一夏「なッ!?」

紅椿「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」ヒュンッ!!

一夏(バカな!? 絶対不可視の俺とシャルの合わせ技に、剣筋を合わせてきた!?)

一夏(まずい…! 避けきれな―――)

シャル「させない!!」


<高速切替(ラピッド・スイッチ)――盾殺し「灰色の鱗殻(グレー・スケール)」>


シャル「うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


バギャッッッッッッッ!!!


<エネルギーブレード―――消滅>

<盾殺し「灰色の鱗殻(グレー・スケール)」―――大破>


紅椿「ッッッ……!!! ッッッッッッッ!!!」

シャル「一夏!! 決めて!!」

一夏「感謝するぜ、シャル!!」

一夏(箒…ごめん!! 俺がお前の気持ちに気付けなかったばっかりに、こんなにさせて…!)

一夏(幼馴染だからって、友達だからって、分かってた気になっていた! 本当にごめん!!)

一夏(お前の気持ちには応えられないけど…こんなバカな俺を好きでいてくれて本当にありがとう!)

一夏(でも俺は、お前だって幸せにしたい! 助けたい! 守りたい!!)

一夏(お前が友達で、幼馴染で、仲間であるなら! 俺は全力でお前を救う!!)

一夏(こんなどうしようもない俺だけど…もし、それでも良かったら戻ってきてくれ!!)

一夏(頼む箒…! 俺だって、お前がいなくなるのは嫌なんだ!!)

一夏(だから―――)



ラウラ「決めろ!!」

鈴「いっちゃえ!!」

セシリア「お願い!!」


シャル「いちかああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

紅椿「ガア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」



一夏「箒っ!! 今…助けるからな!!!」




バシュッ!!!






<零落白夜>

~とあるの砂浜~

ザザーン…ザザーン…

箒「う……ん……」

箒「ここ、は……?」

箒「ッ…!!」


セシリア「....」

鈴「....」

ラウラ「....」


箒「セシリア…鈴…ラウラ…」


シャル「....」

一夏「....」


箒「シャルロット…一夏…皆…」

箒「そうか…私が、皆を……」

箒「一夏……」

一夏「....」

箒「ああ一夏…こんな…こんな、変わり果てた姿になってしまって…」

箒「…何が、いけなかったんだろうな。私は…ただ、お前に見てもらいたかっただけなのに…」

箒「私がお前を好きにならなければ…私とお前が出会わなければ良かったのか…? でも…でも…!」

箒「そんなの…私は―――」


ほう…き……


箒「―――!?」

一夏「ほう…き…よく、も…」

箒「ひッ!?」

よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな 
よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな 
よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな 
よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな 
よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな 
よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな 

箒「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

一夏「箒っ!!」

箒「うわぁぁぁぁ!?」ガバッ

一夏「うおっ!?」

シャル「だ、大丈夫…? ずっと、うなされてたよ?」

箒「はぁ…はぁ…はぁ…こ、ここは…?」

シャル「病院だよ。近くの」


~とある病院の一室~


箒「びょう、いん…?」

一夏「そうだよ。お前、あの後全然起きなかったから、ずっと心配してたんだぜ?」

シャル「仕方ないよ。あれだけのエネルギー体の媒介になっていたんだから。気を失うのも無理はない」

箒「私は…負けたのか」

シャル「…うん」

箒「…そうか」

シャル「取りあえず、体の方には異常は見られないって。すぐ退院できるよ」

一夏「でも紅椿が…」

シャル「大丈夫だよ。コアはちゃんと無事に回収したから」

一夏「まぁそうだけどさ…ごめんな箒。仕方なかったとはいえ、お前のisぶっ壊しちまって」

箒「…いや」

一夏「大丈夫か? 大事はないとは言え、まだ寝てなきゃダメだぜ?」

シャル「取りあえず、寝汗びっしょりかいちゃったから体拭こうか。一夏、出て行ってくれる?」

一夏「ああ、分かっ―――」

箒「憐れみのつもりか?」

シャル「……」

一夏「お、おい…箒……」

ワンサマーはおもいっきりぶん殴られたほうが良いよね

箒「無様に敗れた私を見下ろして自分はのうのうと同情か。いいご身分もあったもんだな、シャルロット」

一夏「お、おい箒!!」

箒「お前もだ、一夏。何故お前たちを殺そうとまでした私に、こんなにも情けをかける?」

一夏「…別に情けじゃねぇよ」

箒「……」

一夏「お前がこんなことしちまったのも、お前に色々と無理をさせちまったからだろ?
    まー要するになんつーか…今回の件は俺にも責任があったわけだし」

シャル「箒の憎しみは紅椿が全部引き受けて、それを一夏が壊した。だからもう、箒は大丈夫。
     もう立ち直れるって、信じてるから」

一夏「そんなんじゃねぇよ。仲間を信じるのは当然だろ」

シャル「あはは。まぁそう言う方が一夏らしいや」

一夏「おいおい、何だよその言い方は」

箒「…なんだそれは」


一夏「箒…?」

シャル「……」

箒「一夏はともかくとしてだ…。シャルロット…お前はどうしてそこまでうまく立ち回ろうとする?
  何故、私を気にかける? お前は一体何様のつもりだ?」

一夏「おい箒…そんな言い方――」

箒「蔑めばいいだろう! 嘲笑えばいいだろう! なのに何故、お前はそうしないんだ!
  私はそれだけのことをしたんだぞ!?」

箒「心配していただと!? 信じているだと!? よくもそんなことを言えるなこの偽善者め!!」

箒「そんな憐れみをかけられるくらいなら…! いっそ一思いに殺された方が良かった!!」

一夏「おい箒! いい加減に――」

シャル「一夏は黙ってて!!」

一夏「シャル…」

箒「…ああそうだ。お前のそういうところが気に食わない…!」

箒「誰にでも分け隔てなくヘラヘラと媚びへつらい、何にでも賢しく立ち回ろうとするその態度が!!
  あわよくば自分だけ漁夫の利を得ようと虎視眈々と付けねらうその姿勢が!!」

箒「私はお前が昔から……大嫌いだった!!」

シャル「……」

箒「シャルロット! お前は卑怯者だ!」

箒「隙あらば抜け駆けをして、一夏に近づいて! 何度もアプローチを仕掛けては、一夏に色目を使った!!
  しかも時にはわざと距離を置き一夏をおびき寄せ、まんまと一夏を誑かしたお前を…私は絶対に許さない!!」

箒「それだけのことをして、どうして一夏はお前を選んだ! 何故、一夏の隣は私じゃいけないんだ!?」

一夏「箒……」

シャル「……」

箒「一夏と一番時を共にしたのは私だ! 誰よりも、一夏を長く想っていたのは私なんだ!!」

箒「それなのになんだ! 私と一夏の間に割って入り込み、ポッと出のお前が一夏と結ばれるだと!?
  こんな莫迦な話があるか!!」

箒「お前はどこまで私を虚仮にすれば気が済む!? 恋に敗れ、isにまで無様に負けた私を見て楽しいか!!」

箒「そうまでして、私を弄んで満足か!! 答えろ、シャルロット!!」

シャル「……」

箒「―――ッッッ!! 何とか言ったらどうだ!!」ブン!!


ガシッ!!


箒「な……」

箒「あ……」

一夏「そこまでだ箒」グググ…

箒「いち、か……」

一夏「それ以上俺の奥さんに手を出したら、たとえお前でも容赦しない」

箒「……」

ストン…

箒「…なぁ一夏。もし私が…シャルロットのように機転が利き、可愛らしい女の子のように振舞えば…。
  お前は少しでも、私に靡いてくれただろうか…?」

一夏「……」

箒「もしそうなら私、何でもするぞ? シャルロットに近づけるように、努力するから…」

箒「もう、シャルロットを殺そうだなんて言わない。場合によっては、愛人でもいいから…」

箒「だから一夏…お願いだ…私を置いて行くな…何でも、するから……」

一夏「…箒」

モップさんの気持ちもわからないけど
ワンサマーみたいなのに惚れてしまった時点でアレなんだろうな

>>482
わからなくもないけど
だった

一夏「…箒。お前はとんだ思い違いをしているよ。俺は別にシャルに誑かされたわけじゃない。
    ただシャルだったから。シャルが好きだっただけなんだ」

一夏「たとえお前がシャルのように気立てが良くて明るくて…シャルが箒のように不器用で真面目でも。
    それでも俺は、シャルを選んでいたと思うんだ」

箒「いち、か……そんな…」

一夏「でもな、箒。お前はそのままでいいんだよ。不器用ながらも自分の決めたことは絶対に曲げない。
    大真面目でどこまでも真っ直ぐなお前が…箒なんだ」

一夏「俺はそんな幼馴染を持てたことを誇りに思ってる。そんなお前が友達として好きだ。
    だからお前には、お前らしさを決して捨てないで欲しい」

一夏「…そう、だよな。お前はずっと、真面目ながらも真っ直ぐに俺に向かっていってくれてたんだ。
    なのに俺はそれを、自覚がなかったとは言えのらりくらりとかわしてきたんだよな…」

一夏「お前をこうまでさせたのは、俺にも責任があるんだよな…本当にごめんな、箒。
    許してくれなんて言わないから…せめて元のお前に、戻ってくれよ」

箒「……」

一夏「頼むよ箒…俺、幼馴染としてのお前を失いたくない。お前の事だって大切だから」

箒「……」


箒「実直で律儀であることが是であっても……お前がいないのなら、もういらない」

箒「どんなに真面目で…義を貫いたところで…私の一番欲しいものは、もう手に入らない…」

箒「だから私は必死に自分を変えようとしたのに…お前はそれを…認めてくれないのか…?」

一夏「…認めるわけにはいかないよ。どんなに頑張っても、俺は取り繕ったお前を選ぶことは出来ない。
   ましてやこれ以上、お前がお前であることを否定するなら…俺もお前を幼馴染と認めることは出来ない」

箒「いち、かぁ……そんなこど、いわないでぐれぇ!!」

一夏「……」

箒「またみすてるのか、いちか…おまえはまた、わたしのもとから、はなれていってしまうのか…?」

一夏「そんな気はないよ。俺はこれからも、お前と一緒にいたいよ。ちゃんとした、幼馴染としてな」

箒「いちか…わたしのそばに、いてくれ…。わたしは…おまえがいないと…いきていけないんだぞ?」

一夏「そんな事ないよ。お前は俺なんかより芯が強くて立派だ。俺なんか傍にいなくたって大丈夫だ」

箒「やだぁぁぁ……!! いちかが、いないのは…いやらぁあああああああ!!!」

シャル「……」

一夏「…大丈夫だよ、箒」

「お友達のままでいましょ」をラノベ主人公が言うとこうなるのか

一夏「俺がいなくても、って言ったけどな。お前がどうしてもやばくなったり挫けそうになったら、
    今日みたいに全力で助けてやるよ。俺の届くところにいる限りは、お前のことも守ってやるから」

一夏「お前がお前でいてくれるなら、また元通りだ。これからも俺はお前に、優しくできるから」

シャル「……」

一夏「だから箒。お前は俺よりももっと近くでお前の事を守ってくれる奴を、これから見つけるんだ。
    大丈夫だよ。お前なら、絶対にすぐ見つかるよ。あの頃の箒なら…」

箒「いや、だ……わたしには、おまえしか…いちかしか、いない…」

一夏「そんなことない。そんなことないよ、箒。俺だけなんて寂しいこと言うな。お前は…1人じゃない」

箒「え…?」

一夏「なぁ、そうだろ!? 皆!!」


バーン!!


セシリア「当たり前ですわ!!」

鈴「当然じゃない!!」

ラウラ「無論だ」

箒「え……みん、な…?」


一夏「皆、お前の事心配してんだぜ? 忙しいってのに、そんな事してられかって。ずっと居てくれたんだ」

鈴「ま、あの時はこんなこと結局出来なかったし」

セシリア「これで大願が成就されましたわね」

ラウラ「ふっ。驚いたか箒?」

箒「あ、あぁ……」

一夏「俺だけじゃないんだよ。シャルも、セシリアも、鈴も、ラウラも、お前には守ってくれる奴が大勢いる。
    他にもお前の事を助けてくれる奴がいっぱいいるんだ。それって…すごい事じゃないか?」

セシリア「相談があれば、いくらでもお受けいたしましすわ」

鈴「愚痴ぐらい、いつでも聞いてあげるわよ」

ラウラ「友達なら当然だ。な、シャル?」

シャル「うん。ボクたちは絶対に箒を1人にはさせない」

箒「あ……あぁぁ…」

一夏「皆、お前の味方だ。箒」

箒「みん、な…ごめん……ほんとうに、ごめん…」

箒「でも…わたしは……わたしは…」


一夏「……」

ラウラ「…箒。堪えるな。逃げるな。これ以上傷つくお前を、私たちは見たくない」

鈴「言いたいことは全部吐き出したでしょ。後はね…思いっきり泣けばいいのよ」

セシリア「泣く人を咎める方は、誰もいませんわ。泣いてないのは、もう貴女だけでしてよ?」

シャル「ボクたちが支えるから。ね?」


ギュッ…


箒「あ…」

一夏「俺の胸でよければ、いくらでも貸すから…。だから箒、ごめん。俺のために…泣いてくれないか?」

一夏「これが…幼馴染の俺として出来る、最大限の譲歩だ」

箒「あ…うあぁぁ…」

ギュゥ・・・

一夏「これくらいはいいだろ、シャル?」

シャル「…今日だけ特別ね」

箒「いち、か…シャルロット……ごめん」

箒「…なぁ一夏」

一夏「ん…?」

箒「キスが…したい…」

一夏「……」

箒「それで忘れるから…もう、諦めるから…ダメ、か…?」

一夏「…ごめん、出来ない…。それは出来ないんだよ、箒」

箒「ひどいぞ…こんなの、むごすぎるぞ…! やさしくしてくれるって、いったではないか…!」

一夏「それをしたら優しさじゃなくなるからな。だから出来ないんだよ…ごめん」

箒「あ…あぁぁ…」


ギュゥ…


箒「そう、か…」

箒「そう、だよな…」

箒「ずるいぞ、一夏…」

箒「…ずっと好きだったんだぞ?」

一夏「うん」

箒「小学校の頃から、ずっと好きだったんだぞ?」

一夏「うん」

箒「また学園でお前と会えて…どれだけ嬉しかったか」

一夏「…うん」

箒「本当に分かっているのか? ずっとずっと、私の気持ちに気づかなかったくせに」

一夏「あはは…面目ない」

箒「本当だ。反省しろ」

一夏「はい…」

箒「どこまでお前は鈍感なんだ。この唐変木。朴念仁。甲斐性なしのノンデリカシー大魔神め」

一夏「だ、大魔神て…」


ツー…


箒「でも……でも……」

箒「それでも私は…お前が……」

箒「優しくて…真っ直ぐで…私を守ってくれるお前が…」

箒「私を…救ってくれたお前のことが……」

箒「本当に……本当に……」


ポタ…ポタ…


一夏「……」

箒「好き……」

一夏「……」

箒「……だっ…た」

一夏「……」

シャル「……」

箒「私はお前が…本当に好き……だったんだ」

一夏「…うん」

箒「一夏が……一夏のことが……」

一夏「……」


ギュゥ…


箒「私は、一夏が……」

セシリア「……」

鈴「……」

ラウラ「……」

箒「う……うぅ……」



うぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…!!

一夏「……」

箒「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ…」

シャル「……」

箒「すぎだっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…すぎだっだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…!!」

一夏「…うん」

箒「いぢがあああああああああああああ…いぢがああああああああああああああああああああ!!」

セシリア「……」

鈴「……」

ラウラ「……」

箒「ほんどにぃ…ひっぐ…す、えっぐ…ずぎ…だっだぁ!!」

一夏「…うん」ギュッ…

箒「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…いぢがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

箒「いっぐ…うぅ…ぐす…う、う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ…あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

箒「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…
―――――――――――――
―――――――
―――

その後は、本当に色々なことがあった。

箒はあの後、すぐに身柄を拘束された。市街地でのisの無断使用、『オリムラ社』専属spへの傷害の容疑で逮捕された。
結論から言って、箒が罪に問われることはなかった。俺たちからの強い嘆願と、箒の精神状態がかなり不安定だったことが
理由となり、結局箒は数週間を留置所で過ごしただけで済んだ。
その時の箒は、まるでまるで何かを悟ったように大人しく、穏やかだったらしい。

ちなみに今日、シャルが蹴ってしまった取引は、ご破算になることはなかった。
相手方は『オリムラ社』の実績をとても高く評価しており、むしろ日を改めてこちらから伺うといってくれた。
『オリムラ社』のアドバンテージは、俺だけではない。俺は自分の認識不足を恥じると同時に、誇らしくもあった。
(シャルの秘書は結局辞めなかった)

慌しい1日を終えた後は、皆それぞれの場所に帰って行った。

ラウラはいつも通り平時はis学園、有事は部隊で活躍している。相変わらずどこまでも千冬姉の後を追っている。
今でも生徒たちの間では『小さいのにクールな姿勢が、背伸びしてる感が出て可愛い』という評判でかなり人気が高い。
本人はそれを気にしていたが、それでも笑いながら教師を続けていられることにホッとした。

セシリアは国と実家のために奮闘する日々を送っている。勤勉で頑張り屋な姿は、あの頃のセシリアのままだった。
久しぶりに会ったときのあいつは、また一段と気品が増しててすごく輝いて見えた。今の生活に不満はないものの、
『いい殿方と出会えないのがちょっと…』と愚痴をこぼしていた。セシリアなら、きっといい相手がすぐ見つかるだろう。

鈴はこの後、isオリンピックを始めとする数々のスポーツ大会でトロフィーとメダルを総なめにする、という快挙を成し遂げた。
これはさらに後の話になるが、今のメーカーの契約が満了した後、『オリムラ社』の専属アスリートになってくれた。
俺の抜けた穴を埋めるため、『ようやく友人として手助けできるから』と言っていたあいつの顔は、今でも印象深く覚えている。


そして俺は1ヶ月の激務を何とか消化し終え、たくさんの声援と拍手に見送られながら『オリムラ社』を退職した。
その後すぐ、思わぬ来訪者が俺たちのところにやってきた。

~織斑家(修繕済み)~

ピンポーン

一夏「ん? 客か」

『………』

一夏「…誰だろう? 知らない人だな」

一夏「はーい。今開けまーす」

ガチャッ

一夏「はいはい、どちらさ―――」

箒「…やあ」

シャル「一夏ー? お客さーん? 今、ボクも行くか――」

箒「家の修理が終わったそうだな。この間の無礼を詫びに来た」

シャル「え……嘘…?」

一夏「ほ…箒……だよ、な?」

箒「…なんだ2人して」

一夏「だ、だって…その、髪……」

箒「ん? あぁそうか。断髪して随分経つから、すっかり忘れていた」

一夏「な……」

シャル「…髪、切っちゃったんだ」

箒「…ああ。似合っているか?」

シャル「うん。とっても」

箒「そうか、良かった」

箒「…不思議な気持ちだ。物理的だけでなく、何だかとても心が軽くなったんだ。
  やっと憑き物が落ちたような…いや、これはむしろ解放されたというのかな」

シャル「…そっか」

一夏「で、でも…なんで髪を切っ――」

ゴツッ

一夏「いてっ」

シャル(もう一夏! そういうのって女の子に訊いちゃ駄目だよ!)コソコソ

一夏(え!? そ、そうなのか!?)コソコソ

箒「ははは…相変わらずだな2人とも」

シャル「ま、まぁ玄関先で話すのもなんだから! 家に入ってよ!」

一夏「そそそそうだな! あがれよ、箒!」

箒「その前に、シャルロット」

シャル「なに?」

箒「…少し、一夏と2人きりで話をさせてくれないか」

一夏「え…?」

シャル「……」

箒「大事な話があるんだ」

シャル「…ボクには話しづらいこと?」

箒「そういうわけではないが、できれば席を外してもらいたい」

シャル「…分かったよ。終わったら呼んでね。お茶、用意しておくから」

箒「…ああ。ありがとう、シャルロット」

~客間~

箒「まずは、この間の件は本当に申し訳なかった。すべて、私の不徳の致すところだ。
  この通りだ。許してほしい」

一夏「お、おい…いきなりそういうのはやめろよ…頭上げてくれ、箒」

箒「そういうわけにはいかない。全てがこちらの非なのだから、これぐらいの誠意は見させてくれ」

一夏「まったく…お前は昔から、言い出したら聞かないからなぁ…」



箒「…家。直ってよかったぞ」

一夏「…あぁ。束さんにかけあったら、全額負担してくれたよ」

箒「そうか…。もう謝罪は済ませてはいるが、いつかきっと姉さんに返す。それまで、待っていてくれ」

一夏「いや、そんな―――…いや、無駄か。お前が言い出したら」

箒「そういうことだ。理解が早くて助かる」

一夏「まったく…本当に真面目な奴だな」

箒「それぐらいしか取り得がないからな」

一夏「おいおい。褒め言葉なんだから、素直に受け取れよ」

箒「分かっている。お前をからかってみた」

一夏「何だよそれ、ぷっ」

箒「……くすっ」


 ハハハハハハハハハハハハハハ…


一夏「なんか久しぶりだな、こういうの」

箒「ああそうだな。ひどく懐かしい」

一夏「…で、話ってなんだよ。やっぱりその……アレだよな?」

箒「アレ、とは?」

一夏「いや、だから、その……あの時、お前に出来ちまったっていう…俺のこど―――」

箒「あぁ。あれは嘘だ」

一夏「そうそう、嘘の―――って、えぇ!?」

箒「あれはただの狂言だ。事実、私も先日生理を終えたばかりだからな」

一夏「そ、そうなのか…」

箒「…上手い具合に外れてくれたんだ。あの頃の私はひどく錯乱していた。
  精神状態は生理周期に大きく影響を及ぼす場合があるからな」

一夏「……」

箒「そんな顔をするな。今はむしろ取り返しのつかないことにならなくて、良かったと思っている」

一夏「…そう、だな」

箒「ああ」

一夏「じゃあ、何だよ? 話したいことって」

箒「…お前に、受けとって欲しいものがある」

スチャ

一夏「これは……竹刀か?」

箒「そうだ。小学校の頃から使っている、私の宝物だ」

一夏「おいおい…こんな大事なもの、受け取っちまっていいのか?」

箒「ああ。これは私なりの、ケジメでもあるからな」

一夏「ケジメ?」

箒「私が剣道を続けていたのはな、一夏。お前のためだったんだ」

箒「…私が引っ越こした後も剣道を続けていたのは、お前との繋がりが剣道だったからだ。
  だから私は来る日も来る日も、竹刀を振り続けた。お前との思い出を、忘れないためにな」

一夏「……」

箒「だけどな一夏。剣は確かに、誰かを守るために振るうものだ。しかし、いつまでも届かないもの
  ための言い訳にするための道具じゃない。私はそれに、やっと気づいたんだ」

箒「また剣道を始めるよ。私は、お前のための剣を捨てる。
  私はこれから、私のために剣を振るう。そう決めたんだ」

箒「そうと決めたなら、お前とのしがらみはここに置いていきたいんだ。
  だから一夏、頼む。どうかこれを…受け取って欲しい」

一夏「……」

一夏「…決別か」

箒「違う。友情の証だ。受け取ってくれ」

一夏「……」


パシッ


一夏(…重い)ハラッ

一夏「あ…」

箒「……」

一夏(この剣先についてる布は…俺があの時、箒にあげたリボンじゃないか…)

一夏「……」

箒「……」

一夏「分かったよ。そうまで言われちゃ、受け取らないわけにはいかないな」

箒「ああ。大切にしてくれ」

一夏「うん。大切にするよ。ありがとう、箒」

箒「…一夏」

一夏「ん?」

箒「…シャルロットと、幸せにな」

一夏「…ああ。ありがとう、箒」

~廊下~

シャル「あれ、箒? もういいの? お茶できたよ?」

箒「いや、いい。もう言いたいことは済ませた」

シャル「そうなんだ。なんかごめんね。大したもてなしもできないで」

箒「いや、こちらこそ済まなかった。突然の来訪、失礼した」

シャル「ううん。来てくれて嬉しかったよ」

箒「すまない。今は色々と立て込んでいてな。それらが済んで暇ができたら、改めてお邪魔させてもらおう」

シャル「ん? 何やるか決めたんだ」

箒「ああ。また道場に通うことにした。剣の修行をする傍ら、今度は剣道の指南をしようかと思っている」

シャル「へぇ…いいね、なんだか」

箒「神社の事やisの事などはあるが…今は、自分の可能性を見つめなおしたい」

シャル「うん。それがいいと思うよ。応援するよ」

箒「あぁ。ありがとう、シャルロット」

シャル「…シャルでいいよ」

箒「…わかった。ありがとう、シャル」

箒「…なぁシャル」

シャル「なに、箒?」

箒「一夏のこと、好きか?」

シャル「…うん。大好きだよ。心から」

箒「…そうか」

シャル「うん」

箒「あいつには色々と苦労するぞ」

シャル「あはは…うん。実感してるよ」

箒「いつか語り合えたらいいな」

シャル「一夏のいないところでね」


 アハハハハハハハハハハハハハハハ…


~居間~

一夏「…2人ともなんか楽しそうだな」←お茶のセッティング中

一夏「あれ? なんだ箒。帰っちまうのか」

箒「ああすまん。一夏には言ってなかったか。また日を改めることにするよ」

一夏「そっか。また来いよ。いつでも歓迎するから」

箒「うむ、了解した」

一夏「ところで2人とも、さっき何の話をしていたんだ?」

箒「内緒だ」

シャル「内緒だよ」

箒「な?」

シャル「ね?」


アハハハハハハハハハハ…


一夏「?」

箒「世話になったな」

一夏「おう。気をつけてな」

シャル「家の前まで送ろうよ、一夏」

一夏「ああ、そうだな」

箒「なんかすまないな。ありがとう、2人とも」

一夏「いいって、いいって」

シャル「じゃあ行こっか、一夏」

箒「ここでいい。見送り、感謝する」

シャル「うん。また来てね」

箒「ああ。必ず伺う」

シャル「うん。楽しみにしてる」

箒「…シャル」

シャル「なに?」

箒「…すまなかった」

シャル「…いいよ、もう」

箒「いいのか?」

シャル「うん。全部水に流す」

箒「…ありがとう、シャル」

箒「それともう1つ」

シャル「何?」

箒「こんなこと、私が言う資格などあるはずもないだろうが……」

シャル「……」

箒「一夏のこと、よろしく頼む」

シャル「……」

箒「……」

シャル「…うん。安心して」

箒「…あぁ」

箒「じゃあ、またな」

シャル「うん。またね、箒」



箒「どうか、幸せになシャル。一夏」

シャル「…行っちゃたね」

一夏「箒なら大丈夫だよ。あいつは強いから」

シャル「あーあ。一夏ってばやっぱり分かってない」

一夏「は? 俺の何が分かってないってんだよ?」

シャル「一夏には教えてあーげない」

一夏「はぁ…俺ってそんなに鈍感なのかな?」

シャル「鈍感すぎだよー。本当、朴念仁がそのまま形になっちゃったのが一夏みたいだよ」

一夏「お前それ、言い過ぎ……」

シャル「あはははは。まぁ一夏ってば誰にでも優しいからね」

一夏「それを言うならお前も大概だぞ? 世代差があるのに箒の喧嘩買ったり、何を言われても言い返さなかったとことかさ。
    正直横で見ていて、ヒヤヒヤしたんだからな?」

シャル「…あれは優しさじゃないよ」

一夏「え?」

シャル「箒の姿は…あったかもしれないボクだったから」


一夏「シャル?」

シャル「あの頃のボクには、本当に一夏しかいなくてさ」

一夏「そんなことないだろ。親父さんがいたじゃないか」

シャル「ううん。一夏がいなかったら、お父さんの愛情にも気付けずにいたよ。
     そしてそのまま本国に戻ってあとは誰かに寄生したり利用されたりの人生だったと思う」

シャル「そのボクを救ってくれたのは一夏だったから。一夏だけが、ボクの居場所だったから」

一夏「……」

シャル「だからね。たまに不安になるんだ。もし一夏がボクを選んでくれなかったら、どうなっていたんだろうって。
     一夏が他の誰かとくっついちゃうのは…ボク、絶対に耐えられないと思う」

シャル「もしそうなったらボクね…何が何でも一夏を手に入れようとしたと思うんだよ。
     箒以上に酷いことをいっぱいやって、皆や一夏を傷つけると思う」

シャル「そんな自分は本当に最低で…また大嫌いな自分に逆戻りしそうでさ…それを想像すると、本当に怖いんだ」

一夏「……」

一夏「俺がシャル以外の奴と、か…」

一夏「そんなこと、考えたこともなかったな」


一夏「俺さ。今まで色々な女の子と知り合ってきたよな」

シャル「…うん」

一夏「箒やセシリア、鈴、ラウラに簪、楯無さんに蘭、生徒や教員やis研究者、本当に色々な女性と知り合ったよ」

一夏「そいつらといる時は何だかんだあったけど楽しかったし、多分結婚してもそれなりに楽しいのかもしれない」

シャル「……」

一夏「でもさシャル。考えてみればそんな考え、馬鹿らしいって気づくはずだぜ?」

シャル「え?」

一夏「だってそうだろ? 起こりもしなかったことをアレコレ仮定したってさ。それは結局は無意味なんだよ。
    過ぎたのは過去、来るのは未来、そしてあるのは今だ。それ以外、考えたって無駄だ」

一夏「俺はシャルを選んだ。シャルを愛してる。そして、これからもずっと一緒だ。
    それ以上でもそれ以下でもないし、それ以外じゃまったく意味がない。そうだろ?」

シャル「…やっぱり一夏は優しいね」

一夏「そんなんじゃないって」

シャル「ううん。本当に優しい。何度でも惚れ直すくらい」

一夏「ははは、よしてくれよ」

シャル「だからさ一夏…もう、優しいのはやめよう?」


一夏「え…?」

シャル「だって一夏、誰にだって優しいから。でも、やっぱり優しいことは正しいことに直結しない」

一夏「…まぁ、今回の件でそれは身に染みたよ」

シャル「今回だけじゃない。一夏がこのまま優しかったらね…箒みたいな子が、また絶対に現れる」

一夏「……」

シャル「もしそうなったら今度は本当に一夏は身を滅ぼすかもしれない。ボク、一夏がいなくなったら…どうにかなっちゃうよ…」

シャル「だから一夏お願い…もう本当に、優しくなるのはやめて。お願いだから…」

一夏「……そのことなんだけどさ、シャル」

シャル「……」

一夏「俺…やっぱり優しくしない、ってのは出来ないよ」

シャル「…一夏はそんなにボクを困らせたいの?」

一夏「逆だよ。俺はお前のために、やっぱり優しくならなくちゃいけないと思う」

シャル「どういうこと?」

一夏「だってさ。少なくともシャルは、俺の優しさに救われていたはずだろ?」

シャル「――――!!」

一夏「自分が優しいなんて思っていないけど、俺が優しいって言うならそういう事だよ」

一夏「例え俺が苦労を引っ被っても、それが正しくないことでも、
    そいつがほんのちょっとでも報われるなら、俺は手を貸してやりたいと思う」

一夏「偽善でも何でもいい。俺がしたことでそいつを笑顔に出来るなら、俺はそうしてやりたい」

シャル「…もし、その子が優しさに依存して、間違った方向に行ったら?」

一夏「そしたら、またそいつを救ってやるよ。今度は正しい方にな。
    ちゃんと真っ直ぐ立って歩いていけるまで、俺は最後まで面倒を見るんだ」

一夏「そうやってちゃんと最後まで付き合ったら…最後は皆、笑っていられるだろ?」

シャル「……」

一夏「だからシャル。俺は優しいことはやめない。やめるなら、半端に優しくすることをやめる。
    そいつが正しい道に進めるまで、俺はそいつの傍で支えてやりたい。守ってやりたいと思う」

シャル「……」


一夏「…って、本当のところはよく分からないんだけどな。動機の言語化って難しいな」

一夏「これは前にも言ったけどな。お前だけには全力で愛情を向けたいんだ。
    お前を愛した上で、他の皆は精一杯、優しくしてやりたい」

一夏「シャルが好きって言ってくれたからな。だから俺のこの優しさだけは、絶対になくしちゃいけない気がするんだ」

一夏「お前が好きでいてくれた優しさを、俺はこれからも大切に生きていくよ」

シャル「……」

シャル「…そっか」フッ


ed

ttp://www.youtube.com/watch?v=zepe3govtta&feature=related


シャル「敵わないなぁ…一夏には」

一夏「見直してくれたか?」

シャル「まさか。かえって気苦労が増えたよ」

一夏「おいおい…そこは嘘でも感心してくれよ」

シャル「だって一夏の理想ってば誇大妄想の域じゃない。もしそんな大業残せるなら、
    間違いなく紙幣の顔になれるよ。マザーテレサだって裸足で逃げ出すくらいビックリ」

一夏「ははは…手厳しいなコリャ」

シャル「…でもさ」

一夏「ん?」

シャル「そんな一夏だから、ボクが傍で支えてないと不安になる」

一夏「そうしてくれると助かるな。シャルがいれば俺は無敵だ」

シャル「まったく…本当に敵わないなぁ。すぐ調子いいこと言うんだから」

一夏「ははははは」

シャル「…ねぇ一夏」

一夏「なんだ、シャル」

シャル「ボクね、本当に一夏で良かった」

一夏「…俺もシャルじゃなきゃダメだよ」

シャル「うん…」

一夏「シャル」

シャル「んー?」

一夏「今度こそ、幸せになろう。ずっと、2人で」

シャル「…ふふっ」

一夏「な、何だよ…」

シャル「本当に鈍感さんなんだから」

一夏「はぁ?」

シャル「もう、なってるよ。一夏から、ずっとずっと貰ってる」

一夏「…そりゃ良かった」

一夏「そろそろ戻ろうぜ。冷えちまう」

シャル「あ、うん。そうだね」

一夏「どうせならこのままお茶にでもするか。ちょうど箒から菓子折りもらったしな」

シャル「いいね。―――あ、そうだ一夏。さっきずっと2人で、って言ったよね?」

一夏「ん?」



シャル「あのね………実は――――

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前略 天国のお母さん


私、好きな人ができました。
その人と、結婚しました。

その人はちょっとおっちょこちょいで、頼りないけど、でもすごく優しい人です。
私のことをいっぱいいっぱ愛してくれる、私のかけがえのない大切な人です

お母さんは望んだ恋愛は出来なかったかもしれません。
お母さんが幸せだったかどうかは、今となっては分からないけど。でも、やっぱり幸せだったんだと思います。
私のお母さんならきっと、お父さんと幸せな愛を育んでいたんだと思います。
だって私が生きて幸せのままここにいることが、そのまま証明に思えるのです。

だからお母さん。私、死ぬまでこの人と生きていこうと思います。
お母さんの娘に恥じぬように、お父さんの娘であることを誇りに思うために。
2人の幸せを受け継いで、この人と幸せいっぱいに生きていきます。

これからも2人――
訂正。3人一緒で。
ずっとずっと、生きていこうと思います。



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お母さん。私を産んでくれてありがとう。愛してくれてありがとう。
叱ってくれてありがとう。褒めてくれてありがとう。育ててくれてありがとう。
おかげで私、大切な人に出会えました。
不安はまだまだあるけれど、この人となら絶対に大丈夫。
そう思えるほど、愛しい人にめぐり合えました。

お母さん。私は、幸せです。
世界一幸せな、貴女の娘を。
どうか誇りに思って、眠ってください。


私、幸せになれました。


早々 charlotte orimura



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追伸


今度、お父さんが帰ってきます。
孫の顔が早く見たいって、嬉しそうに言ってました。
そしてお母さんと私に、ありがとうって言ってくれました。
お母さん、天国で見守っていてください。

私、お母さんがもっと生きていたかった分まで絶対に幸せになります。
家族4人で、絶対に幸せになります。
だから母さん。見ていてください。

これからも、ずっと…。



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~never ending happy story~


シャル「幸せになりたい」【完】

あー終わったマジで。書きたいこと詰めすぎた。こんなん長くなるとか何だコレ
でもgdgdしたりもしたけど、ちゃんと終わってよかった。お前ら本当にありがとう。

これで本当に終わりです。じゃあの

最後にちょっと宣伝させてくれ。
近いうちにこっちも再開させる予定だからもし良ければ

楯無「安価で一夏くんにミッションインポッシブル!」一夏「」
楯無「安価で一夏くんにミッションインポッシブル!」一夏「」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1327403661/l50)


長いような短いような期間だったけど付き合ってくれてありがとな。
んじゃ


面白かった。箒のヤンギレっぷりもよかったしシャルも良い
だけどこのワンサマーは嫌い。
思い人を一人に決めたのに八方美人な所は全然変わらないって
まさに「まるで成長していない…」

キャラの性別を逆にして箒視点で見ると
ワンサマーがかなり酷いのが良くわかると思う

じゃあ子作りエロ、いってみようか

>>551
…即興でいいなら

すまん忘れてくれ。完全な蛇足になるし
エロみたいなら別スレで安価でもとってくれよ

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