白菊ほたる「IMCG・暗黒騎士」 (81)

あらすじ
薄幸の少女が産み出した暗黒騎士のIMCに、西島櫂とドルフィンが臨む。



IMCG第14話

前話
安部菜々「IMCG・月」
安部菜々「IMCG・月」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443434514/)

設定はドラマ内のものです。

それでは投下していきます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446899656

OPテーマ

METAL DAIVER
歌 梅木音葉・木場真奈美



某雑居ビル・3F

相川千夏「恵磨ちゃん、前に言ってたことだけど」

仙崎恵磨「ん、何の話だっけ?」

相川千夏
某雑誌記者。常に冷静を心がけている。

仙崎恵磨
某雑誌記者。アタシは気になったから調べただけ、とのこと。

千夏「工場の話よ、IMCGと関係があるとか」

恵磨「千夏、さすが早い!」

千夏「現在の所有者は、不動産会社よ。次に何が立つかも決まってる」

恵磨「それはアタシも知ってる。アパートっしょ?」

千夏「正解ね。知りたいのは、前の所有者でしょう?」

恵磨「そうそう。どうだった?」

千夏「不動産の前は、飲食チェーンよ」

恵磨「あれ、工場のままなのに?」

千夏「買ったけど使わなかったようね。そのウラまで調べてないわ」

恵磨「ふーん。で、その前は?」

千夏「不動産会社」

恵磨「その前」

千夏「個人投資家。ついでにその前は別の不動産会社よ」

恵磨「あーもう、IMCGに関係するのは!?」

千夏「その前。会社名は、ゼットテクニカ」

恵磨「ま、そうだよね。購入の経緯とかわかった?」

千夏「もう8年以上前ね、ゼットテクニカはここにあった会社ごと、建物と土地を買ったわ」

恵磨「買収かー。理由は?」

千夏「どうやらそこにいる人が欲しかったようね。従業員は全員ゼットテクニカに移籍してるわ。これが買収時のプレスリリースね」

恵磨「ありがと。理由は、業務提携?」

千夏「資金力に差がありすぎるわ。恵磨ちゃんが言った通り買収でしょう」

恵磨「よっぽど、欲しい技官でもいたのかな」

千夏「そうみたいよ。その工場は2年間で畳んだけど、ゼットテクニカに円満に移籍してるわ」

恵磨「IMCGに繋がる人はいた?」

千夏「この人物よ。ゼットテクニカに移籍した後は、先進技術開発部なる部署にいたの」

恵磨「んー、誰?」

千夏「買収前の会社にいた、唯一の設計担当よ。Y大学で博士号を取得してるわね」

恵磨「ふーん、なにか知ってるのかな」

千夏「残念だけれど、亡くなってるわ」

恵磨「えぇ、それはご冥福をお祈りしないと……あっ」

千夏「なにか気づいた?」

恵磨「上司の名前、財前時子?」

千夏「亡くなったのは2年ほど前ね。その時の上司は財前時子」

恵磨「IMCG発足も、IMCが出現したのもこの後だ」

千夏「この人のあだ名だけ聞けたわ」

恵磨「誰に?」

千夏「その時の同僚。名前は高峯のあって言うわ」

恵磨「思いっきり、IMCGの技術者じゃん。答えてくれたん?」

千夏「あだ名は教えてくれたわ。他はなしのつぶて」

恵磨「そのあだ名って?」

千夏「『天才』。財前時子からは『バカ』呼ばわりされて評価されてたようね」

恵磨「なるほど……なら、筋は通るかな」

千夏「聞かせて」

恵磨「シュリンクもIMCも増えないところから見ると、『天才』がいないとダメでしょ?」

千夏「関わってたでしょうね。断定はできないけど、否定できる要素もない」

恵磨「やっぱり、同じ出所の同じモノか」

千夏「私が調べたのはこれくらいよ」

恵磨「オッケー。それじゃ、これはアタシから」

千夏「IMCロゴが入ったオモチャね」

恵磨「意味がわかったよ。手作りの品につけたロゴだから登録とかされてない」

千夏「なるほど、ちょっとしたお遊びだったのね。深い意味はない?」

恵磨「いや、あるよ。その買われた会社の中で同じ苗字の人がいる」

千夏「えっ?」

恵磨「この人」

千夏「確かに……IMCGにもいるわね、同じ苗字の人が」

恵磨「別に会社ごと買う必要はゼットテクニカには無かったはずなんだ」

千夏「出来なかったということね」

恵磨「そーいうこと」

千夏「だから、シュリンクなんて名前なのね……」

恵磨「後は、これを実行できる人にコンタクトするしかない」

千夏「デスクに相談してみましょうか」

恵磨「ゼットテクニカの副会長さんに、理由を問いださないと」



IMCG・オペレーションルーム

古澤頼子「……」カタカタカタ

古澤頼子
IMCGのオペレーター。個人的な訓練中。

浜川愛結奈「頼子、お疲れさま。何してるの?」

浜川愛結奈
IMCGのオペレーター。財前時子の大学時代の先輩。

頼子「お疲れさまです。少しだけ訓練を」

愛結奈「そんなに頑張らなくていいのに」

頼子「備えあれば憂いなしですから」

愛結奈「真面目ね、それでどんな状況の訓練?」

頼子「一人で作動させられるかどうか、確かめていました」

愛結奈「一人で?確かに、権限は全てあるから出来ると思うわ」

頼子「ええ」

愛結奈「まぁ、何があるかわからないものね。頼子もいなかったこともあったわね」

頼子「もう少しで終わるなら、気を抜かずに終わらせてしまいましょう」

愛結奈「ねぇ、頼子ちゃん」

頼子「なんでしょうか」

愛結奈「頼子、って何者かしら?」

頼子「私は私ですよ。人材派遣会社からIMCGに正式に入社して、今は警察官の身分となっている、私ですよ」

愛結奈「本当は?」

頼子「ふふっ、変なこと聞くんですね。言った通りです」

愛結奈「……まぁ、いいわ。そう思うことにするわ」

頼子「私から一つ聞いていいですか?」

愛結奈「珍しいわね。いいわよ」

頼子「愛結奈さんから見て、財前時子副会長はどう思いますか」

愛結奈「別に皆が思ってるのと同じよ。気の強い女王様だわ」

頼子「本当ですか?」

愛結奈「女王様にだって、悩みだって情もあるわ。それをちょっとだけ知ってるから、ワタシと皆の印象は違うわね」

頼子「愛結奈さん」

愛結奈「なによ、改まって」

頼子「私は自分に従いますから。信じさせてくださいね」

愛結奈「信じてなかったら、ここまでアナタはいないわ。そんな気がする」

頼子「ふふっ」

愛結奈「仲良くしましょう、最後まで」

頼子「ええ」



H大学・構内

西島櫂「あっ」

西島櫂
シュリンク6、ドルフィンのパイロット。水泳練習のために夏休みも大学に通っている。

白菊ほたる「あ……こんにちは」

白菊ほたる
芸能事務所に所属する少女。夏休みの後半は舞台の合宿で終えた。

櫂「こんにちは、ほたるちゃん」

ほたる「……ふぅ」

櫂「大丈夫?」

ほたる「はい……東京は熱くて」

櫂「何か飲む?」

ほたる「おさいふをロッカーに忘れてしまって……」

櫂「大丈夫大丈夫、ごちそうするよ。スポーツドリンクがいいかな?」

ほたる「……」

櫂「ほたるちゃん?」

ほたる「あ……何か」

櫂「疲れてるみたいだね。休んだ方が良いよ」

ほたる「はい……心配をおかけしてすみません」

櫂「待ってて、すぐに行ってくるから」



H大学・構内

ほたる「すみません……」

櫂「そんなに謝らなくても。ちゃんと水分補給と塩分補給、ね?」

ほたる「はい」

櫂「演劇の稽古って、そんなにハードなの?」

ほたる「厳しい監督です……でも、がんばらないと」

櫂「楽しい?」

ほたる「はい……少しだけ大変ですけど」

櫂「そうなんだ、がんばって」

ほたる「あの、その」

櫂「なに?」

ほたる「チケットを用意したら来てくれますか?」

櫂「もちろん!あんまり演劇とか詳しくないけど、大丈夫?」

ほたる「ありがとうございます、嬉しいです」

櫂「でも、あんまり無理はしないでね」

ほたる「わかってます。倒れちゃったら、誰も幸せになれませんから」

櫂「そうそう」

ほたる「明日、合宿の最後なんです。がんばらないと」



IMCG女子寮・食堂

池袋晶葉「志保ー」

槙原志保「はーい、どうしました?」

池袋晶葉
IMCGの技術主任。ドルフィンは彼女がやれることをやった到達点とのこと。

槙原志保
IMCG女子寮の寮母さん。晶葉とは以前から知り合いだったらしい。

晶葉「櫂を見なかったか?」

志保「櫂さんは大学ですよ。プールに泳ぎに行ってます」

晶葉「そうか、時期に帰ってくるか。少し気になることがあってな」

志保「なんですか?」

晶葉「櫂はドルフィンと深く繋がってるんだ。そのダメージがあったりしないか、心配でな」

志保「最初は大変そうでしたけど、今は大丈夫ですよ。そうですねぇ、今は凛々しいというか」

晶葉「なんだ?」

志保「決意してるような表情です」

晶葉「……そうか」

志保「夏休みも終わりですね、晶葉ちゃんは課題は終わりました?」

晶葉「もちろんだ」

志保「ふふっ♪そろそろお夕飯の準備をします。何がいいですか?」

晶葉「ふーむ、任せる」

志保「もっとワガママでもいいんですよ?」

晶葉「志保の料理は何でもおいしいぞ?」

志保「それなら、今日はお好み焼きにしますね♪」



IMCG・体育館地下

井村雪菜「……」

木場真奈美「タイガーが気になるか?」

井村雪菜
IMCGのオペレーター。もう使われることはないシュリンク1、タイガーを眺めていた。

木場真奈美
IMCGの職員。シュリンク1とシュリンク4のパイロットを務めていた。

雪菜「真奈美さん」

真奈美「もうタイガーは動かさないぞ」

雪菜「わかってますぅ。でも、見ておきたくて」

真奈美「そうか」

雪菜「どうして、タイガーは止まってしまったんですかぁ?」

真奈美「わからない。だが、ある時から通信が明らかに遅くなった」

雪菜「そうなんですか?」

真奈美「今も動かせないことはないだろうが、戦いには適さない」

雪菜「そうですかぁ……」

真奈美「今よりずっと秘密裏に動いてきた時代の相棒だ。せめて、大切にしてくれ」

雪菜「でも、そろそろお別れですぅ」

真奈美「……最後の一体と言うのは本当なのか」

雪菜「これを。IMCの出現範囲とリストです」

真奈美「なるほど……」

雪菜「最後のIMCは、櫂さんのIMCと連番です」

真奈美「強い個体か、誰がこのリストを作った?」

雪菜「わかりません……作ったパソコンは特定できましたけど」

真奈美「どこだ?」

雪菜「オペレーションルームに置いてある、共用ノートパソコンです」

真奈美「時々、のあがゲームをしてるやつか……」

雪菜「ねぇ、真奈美さん」

真奈美「……すまないな」

雪菜「いいんですよぉ。私だから出来ることだってあるはずです」

真奈美「目的は、なんだろうな」

雪菜「わかりません、でも私は思うんですぅ」

真奈美「……」

雪菜「きっと、まごころがあります」

真奈美「まごころ、か」

雪菜「私は信じてます。私を助けてくれて、進ませてくれたここを信じてます」

真奈美「ああ……私も、だ」

雪菜「最後の一体ですから、がんばりましょうね」

真奈美「ああ、信じてるぞ」

雪菜「はい、信じてください」



IMCG・事務室

太田優「久美子ちゃん、この書類どうするー?」

松山久美子「処分してもらおうか」

太田優
IMCGの一般職員。事務室の掃除を進めている。

松山久美子
IMCGの一般職員。趣味はピアノ。

優「りょーかい、えっとぉ、業者はぁ、ここでいいんだよねぇ」

久美子「処分するのは、それくらい?」

優「そっちに粗大ゴミがあるのー。古いハードディスクとかぁ」

久美子「あー、壊さないとダメかな」

優「技官さん達にお願いする?」

久美子「そうしようかしら」

持田亜里沙「ただいま」

持田亜里沙
IMCGの事務室付け職員。本当はゼットテクニカの託児所に勤務するはずだった。

久美子「おかえりなさい」

優「亜里沙ちゃん、レナさんに何か言われたー?」

亜里沙「うん。異動だって」

久美子「やっぱり?」

優「そっかぁ」

亜里沙「ゼットテクニカ本社に託児室を作るみたいなの、そこにって」

久美子「やっとやりたい仕事ができる?」

亜里沙「ううん、今もしてるから」

優「うんうん、どこに行ってもがんばろうねぇ」

久美子「ええ。この事務室はそろそろ空けちゃうけど」

亜里沙「……ありがとう」

優「あたしはなーんにもしてない」

久美子「私も」

優「だからぁ、後はお任せ」

久美子「私達は、今回は主役じゃないから」

優「やれることをやって、見守るしかないよぉ」

亜里沙「うん、そうね」

久美子「それじゃ、はい」

優「掃除しちゃうよぉー♪」



IMCG・トレーニングルーム

櫂「音葉ちゃん、いるー?」

梅木音葉「はい……お帰りでしたか」

梅木音葉
かつてシュリンク5、ディアーのパイロットだった少女。

櫂「ただいま。志保さんがお夕飯の時間だから探してきてって」

音葉「あら……少し早いかと」

櫂「お好み焼だから、一緒に作ろ?」

音葉「そういうことなら……ぜひ」

櫂「オッケー。音葉ちゃんは何してたの?」

音葉「少し歌っていました……これも私の道ですから」

櫂「楽しそうだった」

音葉「……え?」

櫂「こんなに楽しそうに歌えるようになったんだ」

音葉「そうかもしれませんね……私はやっと」

櫂「ディアーの操縦のためでもなくて、お父さんにもお母さんにも誰にも遠慮しないで歌えてる」

音葉「楽しい……です」

櫂「良かった!そうだ、音葉ちゃんは演劇とか見る?」

音葉「昔は見てました……久しく行っていませんね」

櫂「仲良くなった子の劇を見に行こうと思うんだ」

音葉「ぜひ……ご一緒させてください」

櫂「約束だよっ」

音葉「お腹が空いてきました……行きましょうか」

櫂「惠さんを呼んでからね」



IMCG・警備室

伊集院惠「……」

伊集院惠
IMCGの警備室勤務の警察官。パソコンの画面を神妙な表情で眺めている。

櫂「惠さん、お疲れさまっ!」

音葉「おじゃまします……」

惠「……」

櫂「惠さん?」

惠「あ、櫂ちゃん、な、なにかしら」

音葉「珍しく……慌てています」

惠「それで、どうしたの?」

櫂「惠さん、なにかあった?」

惠「いいえ、何もないわ」

音葉「口調が強いですよ……動揺があります」

櫂「隠そうとしてるというか、何かを信じられない感じかな」

惠「……あなた達にはお見通しね。ちょっと驚いていただけよ」

櫂「聞いていい?」

惠「ええ、その、異動の話が来たの」

櫂「……」

音葉「……」

惠「驚かないのね」

櫂「覚悟はしてるから」

音葉「どちらから……でしょう」

惠「レナさんより上、警視庁の警備部から……」

櫂「悪い異動なの?」

惠「いいえ、そんなことはないわ……」

音葉「良い知らせだからこそ……認められないのですね」

惠「……ええ。私が希望している、いわゆるSPになれるの」

櫂「そうなんだ、おめでとっ!」

惠「ええ……次はここと決まってたのよ」

音葉「約束が……ありましたか」

櫂「次を保障するから……もしかしてIMCGに」

惠「そうよ……そうでもなければこんな所には」

櫂「嘘」

音葉「嘘をつくのが……下手です」

櫂「だから、警察官向きだよ」

惠「あ、ありがとう」

櫂「何か理由があるの?」

惠「……」

櫂「惠さん?」

惠「私は、理由だけは知ってるの」

音葉「理由ですか……」

櫂「IMCGが何のために動いているかの理由?」

惠「そう。その理由を聞いたら断れなかったわ……だって」

櫂「……」

音葉「待ってください……言わない方が」

櫂「そっか、惠さんの立場もあるもんね」

惠「ごめんなさい……」

音葉「いいんですよ……」

櫂「謝らないで、お祝いしたいくらい!」

音葉「ところで……大和巡査はどちらへ」

惠「亜季ちゃん?亜季ちゃんは今日は本来の職場に報告に行ってるわ」

櫂「亜季さんも異動かな」

惠「そうかもしれないわ」

櫂「まっ、後の話はなし!お好み焼きパーティーだから、すぐ来てねっ!」

惠「あら、楽しそう。すぐに行くわ」

10

某雑居ビル・3F

恵磨「……」

千夏「……」

柊志乃「ええ……お約束通りに」

柊志乃
恵磨と千夏の上司。通称はデスク。

恵磨「どうだったん?」

志乃「アポイントは取れたわ。ねじ込んだというのが正しいかしら?」

千夏「手ごたえはあるようね」

恵磨「よっし!会えるならなんとかなる!」

志乃「任せるわ」

千夏「デスクは行かないのですか」

恵磨「課長さんの時は行ったよね?」

志乃「面白そうだったからよ。今回はそうでもないの」

千夏「そうですか」

恵磨「で、いつ?」

志乃「明日の午後8時。場所はゼットテクニカ本社よ」

千夏「また遅いわね」

志乃「忙しいらしわ。会ってくれるだけで充分でしょう」

恵磨「よしっ、千夏準備しよう!」

11

IMCG・ドック

櫂「のあさーん!」

高峯のあ「……お疲れさま」

高峯のあ
IMCGの技術者。ゼットテクニカでも技術部に所属していた。

櫂「お仕事、終わった?」

のあ「もう終わりね……なにかご用かしら」

櫂「お夕飯のお誘いに。お好み焼きだって」

のあ「奈良の血が騒ぐわ……」

櫂「のあさん、関西出身だったんだ……」

のあ「ドルフィンともそろそろ……お別れね」

櫂「のあさんも、どこかに行っちゃうの?」

のあ「ゼットテクニカに……戻るでしょうね」

櫂「もう話は来てるの?」

のあ「来てはいないわ……要らないと言われても残るわ」

櫂「なんのために」

のあ「最後まで見届けるわ……何も話さずに黙っていたのはそのため」

櫂「のあさん、何を知ってるの?」

のあ「技術的なことなら全てよ。IMCとシュリンクの違いは……カタチを自動で作るか、私達が設計で作り上げるかの違いしかないわ」

櫂「……」

のあ「その様子だと……知っているのね」

櫂「うん……」

のあ「タイガーが動かないのは……生物としての寿命が来たからよ」

櫂「……そうなんだ」

のあ「人間も同じよ……残るのは命ではなく作ったモノだから」

櫂「ドルフィンも……そのうち」

のあ「IMCの残り数が少ない……その心配はいらないわ」

櫂「……」

のあ「櫂、あなたは次を考えているかしら」

櫂「えっ?」

のあ「考えていないようね……シュリンクのパイロットでいられる期間は少ないわ」

櫂「そっか……当たり前だよね」

のあ「なりたい……そう思ってはいけないかしら」

櫂「何の話?」

のあ「なんでもないわ……」

櫂「のあさん、聞いていい?」

のあ「どうぞ……答えるかはわからないけれど」

櫂「どうして、黙ってたの?」

のあ「……」

櫂「止められなかったの」

のあ「止められたわ……方法は幾らでもあった」

櫂「でも、しなかった」

のあ「私にはそれが最適だとは思わなかった……感情というしがらみは大きいわ」

櫂「……」

のあ「IMCを私に試したこともあったわ……何も反応しなかったわ」

櫂「え、本当に?」

のあ「いつだってただの傍観者よ……あなたはそうじゃないでしょう」

櫂「わかってる。私はパイロットだから」

のあ「……最後までお願いするわ」

櫂「うん」

のあ「お好み焼きが待ってるわ……志保はそうね」

櫂「志保さんになにかあるの?」

のあ「三重出身なのにオタフクソース信者なのよね……なぜかしら」

櫂「それはわかんない」

12

IMCG・課長室

兵藤レナ「清良ちゃん」

柳清良「どうしましたか」

兵藤レナ
IMCGの課長。全て知っていても、未来が当たるかどうかなんてわからない、とのこと。

柳清良
レナ付の職員。本職は看護師。

レナ「あっという間に解散までの道が出来てきたけど、清良ちゃんはどうするの?」

清良「課長こそ」

レナ「私は根無し草に戻るだけよ。ゼットテクニカの診療所にでも移る?」

清良「全てが終わってから自分で決めます」

レナ「そう?」

清良「だから、最後までここにいます」

レナ「そんなに律儀にならなくていいのに」

清良「全て自分の責任だと言うのは卑怯ですよ」

レナ「そうね。少しは私のやったことに対して責任を取ってくれる?」

清良「……ええ」

レナ「全てがわかって、彼女のIMCが目覚める頃にはあなたの立場もないわ。いい?」

清良「わかってます」

レナ「いつか来なくてはいけない時を、少しだけ早めたわ」

清良「……わかってます」

レナ「見ててくれる?」

清良「見ています。きっと、証明はされます」

レナ「ええ。櫂ちゃんなら、先も示してくれるでしょう」

清良「はい」

レナ「今日はお疲れさま、また明日ね」

清良「今日は寮でお好み焼きらしいの。たまにはいかがですか?」

レナ「ありがとう。だから、気持ちだけにしておくわ」

清良「……」

レナ「志保ちゃんによろしくね。あの子も清良ちゃんと一緒だから」

13

都内某所

大和亜季「しまったでありますなぁ」

八神マキノ「どうしたのかしら」

大和亜季
IMCGに派遣されている警察官。交通課所属。

八神マキノ
交通課所属の警察官。亜季の派遣元に所属している。

亜季「寮でお好み焼きパーティーをしてるであります。これを」

マキノ「あら、楽しそうね」

亜季「帰ったらおこぼれに預かるであります」

マキノ「仲良くなれたかしら」

亜季「とても」

マキノ「後ろめたいことはないわ」

亜季「わかってるであります」

マキノ「情報をありがとう。疑問を持った職員を使えたのは良かったわ」

亜季「ゼットテクニカの技官も、職員も異動が決まっているようであります」

マキノ「伊集院巡査もこれで栄転のようね」

亜季「それは、喜ばしいであります」

マキノ「だから、わかってるわね」

亜季「……もちろんであります」

14

幕間

和久井留美「副会長」

財前時子「何よ」

財前時子
ゼットテクニカの副会長。財閥系企業のご令嬢様。

和久井留美
財前時子の秘書。秘書に人格がついてるようなものね、と時子の談。

留美「もう遅いですから、上がられてはいかがでしょうか」

時子「……そうね。貴方も律儀に待っていなくてもいいわ」

留美「仕事ですので」

時子「趣味とかないのかしら、貴方は」

留美「仕事、でしょうか」

時子「まぁ、いいわ。貴方の言う通りにしましょう」

留美「一つ、お聞きしてよろしいでしょうか」

時子「短いならいいわ」

留美「明日の取材、受けてよろしかったのですか」

時子「いいわよ……黙っているのが嫌になっただけ」

留美「わかりました。従います」

時子「秘書としては優秀ね、本当に秘書としては」

留美「……」

幕間 了

15

翌日

IMCG女子寮・食堂

櫂「わっ、ソースの匂いが残ってる……」

志保「今日は換気しないとですねー」

櫂「志保さんがソース臭なの珍しい」

志保「そうですか?」

櫂「何かいつもいい匂いするもん」

志保「好きな匂いらしいんですよ、バニラの匂い」

櫂「へー、誰が?」

志保「秘密です♪」

雪菜「あっ、櫂さん」

櫂「雪菜ちゃん」

志保「お仕事ですか?」

雪菜「はい、レナさんに会ってきますぅ」

櫂「……」

雪菜「ちょっと雑談するだけですよぉ。櫂さんはお出かけですか?」

櫂「うん、大学まで。ほたるちゃんとお昼でも食べてから練習してくる」

雪菜「あの、アイドルのタマゴですねぇ。いいなぁ」

櫂「そろそろ出ないと、行ってきます!」

志保「いってらっしゃーい♪お夕飯までに帰ってきてくださいねー!」

16

IMCG・ドック

音葉「良い子ですね……」

真奈美「何してるんだ、ドルフィンなんて撫でて?」

音葉「櫂さんから聞きました……声が聞こえているそうです」

真奈美「そうなのか?」

音葉「ええ……好いてくれたようですので、激励を」

真奈美「調子はどうだ?」

音葉「元気そうですね……ドルフィンは」

真奈美「音葉君が、だよ」

音葉「幸せですよ……でも」

真奈美「でも?」

音葉「これくらいでは……満足できません」

真奈美「良いことだ」

音葉「真奈美さんは……いかがですか」

真奈美「私は平気だ。今は、ちゃんとそう言える」

音葉「次は……決めていますか」

真奈美「決めてはいない。でも、心配はいらないさ」

音葉「信じません……言ってください」

真奈美「全く、櫂君みたいな言い方をするようになったな。日本に留まるよ」

音葉「何を……するのですか」

真奈美「ボイストレーナーさ。いいだろう?」

音葉「ええ……きっと成功しますよ」

真奈美「ありがとう。音葉君もがんばれ」

音葉「もちろんです……」

真奈美「私達はやれることをやった」

音葉「ええ……だから、信じましょう」

音葉「そういえば……昨日志希さんからメールが来ました」

真奈美「本当か?」

音葉「これを……写真だけですが」

真奈美「海外なことはわかるが……この密林はどこだ?」

音葉「わかりません……お元気そうで安心しました」

真奈美「そうだな、そういうことにしておこう」

17

H大学・構内

櫂「お、いたいた。おーい、ほたるちゃん……」

ほたる「はい、わかりました。大丈夫です。失礼します」

櫂「こんにちは、ほたるちゃん」

ほたる「あ、櫂さん、こんにちは」

櫂「電話の邪魔しちゃった?」

ほたる「いいえ。今日は事務所の人が来れないという連絡でした」

櫂「今日、最終日なんだよね」

ほたる「はい、午後と夜で終わりです。事務所の人には少しは成長した姿を見せたかったです」

櫂「良い事務所なんだ」

ほたる「小さい事務所なんですけど……以前所属していたプロダクションが倒産した時に拾ってくれて」

櫂「意外と苦労してるんだ」

ほたる「いいえ、今回のお仕事もがんばって取ってきてくれた仕事なんです。恩返しできるようにがんばらないと」

櫂「ほたるちゃんのそういうところ、見習いたいな」

ほたる「あの、お腹が空いてきました。お昼ご飯にしませんか?」

櫂「うん。行こっか」

18

IMCG・課長室

雪菜「清良さんは、いないんですかぁ?」

レナ「ええ、私だけよ。座って」

雪菜「失礼しますぅ」

レナ「そんなにかしこまらなくていいのよ。こうやって話すのも久しぶりじゃない」

雪菜「はい」

レナ「ここに来た時以来かしら」

雪菜「そうですねぇ、なんだか緊張してました」

レナ「思い出すわ。でも、雪菜ちゃんはしっかりしてたわ」

雪菜「オペレーター業務も板についてきたと思いますぅ」

レナ「ええ、仮面に隠したあなたの素顔を見せてくれて、嬉しいわ。真奈美さんのおかげね」

雪菜「はい。レナさんの印象も、私は最初から変わないです」

レナ「そう?どう思ってるの?」

雪菜「優しい人です、いつもずっとそうでしたぁ」

レナ「良かったわ。怖い人とか思われてなくて」

雪菜「でも、信じられない、です」

レナ「そうね……仕方がないわ」

雪菜「レナさんは、何をしたんですか」

レナ「何をしたかは、わかってるはずよ。そんなに無能な部下を雇った覚えはないわ」

雪菜「シュリンクを完成させ、IMCを意図的に拡散させました」

レナ「肯定も否定もしないわ」

雪菜「警察に接収された時にはもう状況が作られてました。IMCを倒す、シュリンクとIMCGという構図が」

レナ「それで?」

雪菜「それも、後一体で終わりです。櫂さんのIMCと連番の、強い個体が最後の敵です」

レナ「一つ否定させて。敵じゃない。あなたのIMCも敵じゃなかった」

雪菜「わかってます。だから、どうして。IMCを拡散させたんですか」

レナ「……」

雪菜「目的は何だったんですかぁ、答えてください」

レナ「雪菜ちゃんが最後の仕事をする時に、きっとわかるわ」

雪菜「私を信用していませんか」

レナ「信用してる。そうね、謝らないといけないことがあるの」

雪菜「何をです、か」

レナ「私はあなたを騙して、利用してるわ。現在進行形で」

雪菜「え……」

レナ「ごめんなさい。だから、お願いね」

雪菜「やっぱり、答えてくれないんですね」

レナ「ええ、私はベットしたわ。負けるようなゲーム運びはしないものよ」

雪菜「レナさんはいつも同じですねぇ」

レナ「私はIMCGの責任者だから」

雪菜「わかりました……最後までがんばります」

レナ「雑談はこれくらいでいい?」

雪菜「はい、ありがとうございましたぁ」

レナ「待って待って。これからが本題だから」

雪菜「本題?」

レナ「雪菜ちゃん、次に行くところは決まってる?」

雪菜「そっかぁ……IMCGは終わっちゃうんですねぇ」

レナ「口は利くわよ。何になりたい?警察官の道もあるけど」

雪菜「あの、愛結奈さんと頼子さんはどこに行くのですかぁ?」

レナ「二人にはフラれちゃった。警察にもゼットテクニカにも残らないって」

雪菜「レナさんは……レナさんはどこに?」

レナ「私も消えるわ。マカオにでも行こうかしら」

雪菜「やっぱり、レナさんのことはわかりません」

レナ「私はいいの。雪菜ちゃんはどうしたい?」

雪菜「レナさんは、どうしてここにいるんですか。あなたには、何も残らないのに」

レナ「心配しないで。目的は本当に小さな代価だけなの。それをあなた達が証明してくれたら、私はそれだけでいいの」

雪菜「レナさん……?」

レナ「職員の今後を心配するのも私の仕事、質問に答えて。雪菜ちゃんは何になりたい?」

雪菜「……私は、憧れがいるんです」

レナ「憧れ、ね」

雪菜「私、強くて優しくて、ちょっとした弱さに寄り添えるような人に救われました。ずっとそんな人を見てきました。私もそうなりたいんです」

レナ「……そう」

雪菜「だから、レナさんは何も心配しないでください」

レナ「わかった。学費として少しだけ退職金を多めに払うわ。それくらいは許して?」

雪菜「はい」

レナ「ありがとう、雪菜ちゃん。私が選んだ、最後の2つのカードはアタリだったわ」

雪菜「2つ?」

レナ「櫂ちゃんと一緒に、あの子の小さな戦いに勝ってみせて」

19

H大学・食堂

櫂「暗黒騎士?」

ほたる「はい、私は敵役なんです。でも、大切なことを最後に思い出せるんです」

櫂「アイドルってもっと明るい役をやると思ってた」

ほたる「その、私が言うのも……変なのかもしれないですけど」

櫂「なに?」

ほたる「私がやれることを、やろうって」

櫂「うん」

ほたる「少しだけ幸せじゃない人の気持ち、わかりますから」

櫂「明るい役とかライブとかやりたい?」

ほたる「はい、でも笑顔のレッスンをしないとですね……」

櫂「……」

ほたる「うーん、表情が硬いでしょうか……」

櫂「ううん、そんなことない」

ほたる「そう、でしょうか」

櫂「あたしが言わなくても大丈夫!きっと、見てくれる人がわかってくれるよ」

ほたる「はい……今回の仕事、今の事務所が見つけてくれたんですよ」

櫂「成功したいね」

ほたる「監督は厳しい人ですし、大変ですけど」

櫂「うん」

ほたる「少し不幸体質ですけど……私、夢を叶えます」

櫂「きっと、成功するよっ!大変だと思うけど、諦めなければ」

ほたる「ふふっ、ありがとうございます。あの、櫂さんは」

櫂「あたし?」

ほたる「水泳選手としての夢はありますか?」

20

H大学・食堂

ほたる「櫂さん?」

櫂「水泳選手としての夢?」

ほたる「変な質問でした、か?いつもプールで練習してたから……」

櫂「ううん、そんなことないよ」

ほたる「良かった。櫂さんは、何を目指してますか?」

櫂「えっと、誰よりも速くかな」

ほたる「かっこいいです」

櫂「はは……そうでもないかも」

ほたる「大変なことがあっても、続けてきたんですね」

櫂「速くなるのは、好きだったから」

ほたる「櫂さんはいつも堂々としてて、明るくて、羨ましいです」

櫂「……」

ほたる「私も負けないように……負けなければきっと叶いますよね?」

櫂「あの、ほたるちゃん」

ほたる「どうしましたか?」

櫂「ううん、なんでもない。アイドル、がんばってね」

21

IMCG・オペレーションルーム

雪菜「お疲れさまですぅ」

頼子「雪菜さん、こんにちは」

雪菜「頼子さん、何か異常はありましたかぁ?」

頼子「いいえ、何もありませんよ」

雪菜「真剣に何かを見ていたので」

頼子「ふふ、旅行の計画を立てていたのですよ。いかがですか?」

雪菜「綺麗な建物ですねぇ、王宮みたい」

頼子「タシュケントにある美術館です。中央アジアやロシアにも興味が出てきました」

雪菜「頼子さんも、出て行ってしまうんですか」

頼子「ええ。IMCGは目的が終わったらなくなります」

雪菜「次は、決めていますか?」

頼子「いいえ」

雪菜「何かなりたいものはありませんか?」

頼子「私は、私です。何をやっても、私は私ですよ」

雪菜「いつまで、ここにいますか」

頼子「私の仕事が終わるまで、です」

雪菜「頼子さんの仕事……」

頼子「小さな代価を見せてくれるまで、とレナさんは言っていました。言ってませんでしたか?」

雪菜「言ってましたぁ。頼子さんは、それが何か知ってるんですか」

頼子「もちろんですよ」

雪菜「……」

頼子「クライアントの秘密は、守ります」

雪菜「守るべき人なんですねぇ」

頼子「雪菜さん、私のお仕事を受けませんか?」

雪菜「お仕事?」

頼子「こちらをどうぞ」

雪菜「これはオモチャですかぁ、あっ……」

頼子「トランシーバーのオモチャです。昔、言葉足らずな父親が娘に作ったものですよ」

雪菜「ロゴが、IMC……」

頼子「敷地内程度なら聞こえるはずです。小さいですから、肌身離さずに持っててください」

雪菜「……はい」

頼子「防水ですから、安心してください。作りもいいです」

雪菜「……」

頼子「無理にとは言いません。もし、その時に雪菜さんに気持ちがあるのならお願いします」

雪菜「危険なことをしようとしてませんか?」

頼子「ふふっ、私はこう見えてイタズラ好きです」

雪菜「そうでしたぁ。清良さんと一緒にレナさんにイタズラ出来るのは、頼子さんだけですぅ」

頼子「雪菜さん、聞いてください」

雪菜「はい」

頼子「最後のIMCはきっとあなたの助けが必要です。その時に、味方でいてください」

22

IMCG・事務室

真奈美「おや」

亜里沙「真奈美さん、こんにちは」

真奈美「亜里沙君だけか?」

亜里沙「ゴミを捨てに行ってるだけですよ。まだ就業時間ですもの」

真奈美「働いているようには見えないが」

亜里沙「働いてませんから。ねっ、ウサコちゃん(ウサー)」

真奈美「ここは撤退が早いな。何か言われてるのか?」

亜里沙「警察の事務組織はここ以外にもあって、せんせいの仕事もおしまいです」

真奈美「そうか」

亜里沙「今日は皆でお酒を飲みに行くんです。真奈美さんもいかがですか」

真奈美「辞めておこう。私はまだ、パイロットだ」

亜里沙「うふふ。事務室に来たご用はなにですか?」

真奈美「ああ、前に櫂君のトレーニンググッズを建て替えたのを忘れていた」

亜里沙「(タイヘンウサー)」

真奈美「……え?」

亜里沙「たぶん、出ません」

真奈美「そうか」

亜里沙「ドルフィンの改修費も絞られていますから。倉庫には何にもなくて、技官さんもほとんどいません」

真奈美「世知辛いな」

亜里沙「(サミシイウサー)」

真奈美「仕方がない。私の自腹としよう」

亜里沙「……無駄にしないでくださいね」

真奈美「何のことかは聞かないでおく。今日は楽しんでくれ」

亜里沙「はい。さようなら、真奈美さん」

23

IMCG・ドック

櫂「……」

晶葉「櫂、帰ってたのか?」

櫂「ただいま」

晶葉「練習は早々と切り上げたのか?」

櫂「うん。晶葉ちゃんは?」

晶葉「ドルフィンの様子を見にきた。異常はない」

櫂「いつも、ありがと」

晶葉「感謝をするのは私の方だ。ドルフィンは良いパイロットを持った」

櫂「そう、かな」

晶葉「どうした?今日は元気がないな」

櫂「あー、そうかも」

晶葉「どうした、話を聞くぞ」

櫂「晶葉ちゃんはさ」

晶葉「なんだ?」

櫂「諦めなければ、夢は叶うと思う?」

晶葉「残念だが、絶対とは言えないだろう」

櫂「……そっか」

晶葉「櫂だって、わかってるだろう」

櫂「わかってるよ、あたしは、その」

晶葉「恥じることじゃないさ。私も一緒さ」

櫂「晶葉ちゃんも?」

晶葉「私は全力を尽くしている。私を天才だと言ってくれた人のために、だ」

櫂「……」

晶葉「でも、私は天才じゃない」

櫂「そう?晶葉ちゃんはあたしにとっては天才博士だよ」

晶葉「そうか。櫂がそう言ってくれるなら、私も頑張った甲斐がある」

櫂「うん」

晶葉「そうか。それは良かった、本当に良かった」

櫂「……」

晶葉「そう落ち込むな、櫂!今日も志保の夕飯をいっぱい食べて元気を出すんだ!」

櫂「うん、そうする」

晶葉「そうだそうだ」

櫂「晶葉ちゃん、志保さんのこと好きだよね」

晶葉「志保には前から世話になっているからな。なにより料理が上手い!」

櫂「うん、女子寮に来てよかった」

晶葉「それにな……」

櫂「なに?」

晶葉「志保には、本当を話したことがある」

櫂「本当?」

晶葉「子供としての本音だ。私にも辛いことだって、ある」

櫂「そうだよね」

晶葉「そういう時は、甘いものでも食べて解決がいいらしい」

櫂「あはっ、志保さんらしいや」

晶葉「デザートもリクエストするとしよう」

櫂「いっぱい作ってくれそう」

晶葉「女子寮なら食べきれるだろう。帰るか?」

櫂「そうする。いこっか、晶葉ちゃん」

24

IMCG女子寮・玄関

櫂「あれ」

レナ「あら」

晶葉「珍しいな、どうした?」

レナ「社員と面談してただけよ。夕飯のお手伝いでもしてあげて」

櫂「そっか、志保さんも社員だもんね」

レナ「そうそう、一つだけ」

晶葉「なんだ?」

レナ「時子ちゃんに取材が入るわ」

櫂「そっか」

レナ「櫂ちゃんはわかってるみたいね」

櫂「うん、なんとなく」

レナ「ま、いいわ」

晶葉「……」

レナ「晶葉ちゃん、最後の一体よ」

晶葉「へ?」

レナ「そういうことだから、よろしく。お疲れさま」

櫂「お疲れさまでしたっ!」

志保「あっ、お帰りなさーい」

櫂「ただいま、志保さん。手伝うことある?」

晶葉「……」

志保「晶葉ちゃんも、お帰りなさい」

晶葉「ああ、ただいま」

志保「今日はハンバーグでも作ろうと思うんです。手伝っていただけますか?」

櫂「もちろんっ」

晶葉「うむ。櫂、頼んだ」

志保「晶葉ちゃんもですよー。さ、入りましょうか」

25

ゼットテクニカ・役員室

留美「お連れしました」

時子「入りなさい」

留美「どうぞ」

千夏「お邪魔します」

恵磨「わっ、凄い広い」

時子「適当なところに座りなさい。留美」

留美「はい」

時子「鍵を閉めて。お茶でも用意なさい」

留美「わかりました」

時子「それで、何がわかったのかしら」

恵磨「どこまで話した方がいい?」

千夏「そっちから全て話してくれると楽だわ」

恵磨「うんうん。吐いちゃった方が楽だよ」

時子「まったくもって礼儀がないわね」

恵磨「へりくだるとますます機嫌が悪くなるんでしょ?」

時子「その通りだけど、誰から聞いたのかしら」

恵磨「大学の同級生。あの冷めた態度は忘れられないって」

時子「取材はしているようね」

千夏「ええ」

留美「お茶をどうぞ」

恵磨「ありがとっ!」

時子「……」

千夏「本題に入りましょうか」

恵磨「IMCとその根源から」

時子「待ちなさい。私は大人しく人の話を聞くのが嫌いよ」

恵磨「それじゃ、話してくれるの?」

時子「ええ。それでいいでしょう」

恵磨「もちろん」

千夏「最初は、何の話かしら」

時子「期待しなくていいわ。ありふれた不幸の話をするだけよ」

26

IMCG・警備室

亜季「惠」

惠「亜季ちゃん、どうかした?」

亜季「あのお話したいことが、あるであります」

惠「改まっちゃって、どうしたの?」

亜季「あの」

惠「スパイの話ならしなくていいわ」

亜季「……」

惠「私に止める権利なんてないもの」

亜季「申し訳ないであります……」

惠「謝らなくていいわ。本当に」

亜季「惠は、どうしてここに来たでありますか」

惠「調べてないの?」

亜季「調べておりません。惠には聞いた方が良いと」

惠「落ち着いたら……ゆっくりと話しましょう」

亜季「そうで……ありますな」

惠「亜季ちゃんは、どこまで知ってるの?」

亜季「警察は、詳しい事情を知りません」

惠「……そう」

亜季「きっと真実に近づいているのは、記者だと思うであります」

惠「あの記者さん、ね」

亜季「ですが、私達は警察であります」

惠「状況証拠で、妄想を膨らませても仕方ない」

亜季「その通りであります」

惠「亜季ちゃん、自分の仕事は貫いて。いい?」

亜季「はい、もちろんでありますよ」

27

幕間

このお仕事が、小さな事務所の、駆け足アイドルに回ってくるような、理由は何個かありました。

監督さん、とても厳しい人でした。

色々な子が泣いちゃったらしいです。

私も、厳しいとうか、罵詈雑言も聞きました。

でも、今は褒めてくれます。頑張ってきて、良かった。

もう一つは、役の問題でした。

明確な敵役です。

でも、私らしいと思います。

最後に、大切なことを思い出せる、素敵な役なんです。

私の夢は、きっと、不釣り合いなほどに大きな夢です。

それでも、信じてくれる人がいて、私は夢を持ち続けられます。

そんなことを振り返っていたら、呼ばれました。

白菊さん、事務所の人からお電話ですよ、と。

どうして、ケータイに電話して来ないんだろう、と少しだけ疑問に思いました。

あれ……?

ネズミかな、何か走って行って……。

あ、はい。電話をありがとうございます。

白菊です、電話をかわりまし……え?

どういうことですか……?

どうして、私が役を降りないと……いけないんですか。

どうして、黙って……。

自分たちのせいだなんて、言ってもわかりません……お願い、何が。

白菊さん。

は、はい、話は今聞いて……。

そう……ですか。

……私の場所はなくなったんですね。

私のせい……でしょうか。

でも、私が諦めたら。こういう時は、スズラン……。

あれ……。

スズランのコサージュが、ない……!

すみません、すみません、私のスズランを知りませんか?

あっ、監督……あの。

お前が落ち込むことじゃない、はい、その。

残念ですか……そうですよね。

きっと次があるさ、はい、私、がんばります。

でも……もう中には行けませんね……今までありがとうございました……。

スズラン、そうスズランのコサージュはどこだろう。

あれがないと、幸せをもう一度のおまじないが、なくて。

どこ?どこにあるの、私の幸せは、どこにあるの?

このまま、終わるのは……イヤです。

だけど、このままだと。

ガシャン、と酷い音がしました。

照明が落ちて、ケガをしたのだと……聞こえました。

でも、私にはその場所に行く権利すらもうなくて。

慌てた人波が私の横を何度も何度も通り過ぎて行きました。

公演もなくなってしまうかもしれない、という言葉が聞こえてきました。

視界がぼやけてきました。

涙だと、少ししてから気づきました。

いつだってそうでした。

何かを望めば、失うしかなくて。

そんな時でも励ましてくれた、あのテレビの向こうのアイドルみたいになりたかった。

でも、今は私には何もないんです。

きっと、ここが、今が、私がいるべき場所なんだって、何もかもが言っているようで。

どうして、私を不幸にするのでしょう。

何が悪いのでしょう。

誰が悪いのでしょう。

そっか、そうですね。

私の役、もう私の役じゃないですね……は言ってました。

全ては、書かれていた運命の通りに。

世界が、私の嫌ってるの。

だから。

足元に何かが近づいていました。

この世界はあなたも嫌いでしょう?

だから。

バチンと世界が闇へと反転しました。

ふふ、そう、そんなに、私が嫌いなら。

嘘つき。夢がかなうなんて嘘。

あなた、こうは思わない?

私が我慢する必要なんてないの。だって悪いのはこの世界でしょう。

暗黒騎士は小さく笑って、諦めたように言いました。

『こんな世界は壊れてしまえ』

幕間 了

28

ゼットテクニカ・役員室

千夏「停電……?」

時子「製造ラインもあるから、自家電源で戻るわ」

恵磨「あっ、戻った」

時子「留美、調べておいて」

留美「承知しました」

恵磨「で、どこまで話したっけ?」

時子「事故の話はしたわね。IMCは、その不幸を隠すために、そして人の能力を埋め合わせるために、『バカ』が作ったの」

千夏「IMCは、やっぱりゼットテクニカが作ったものなのね」

時子「ええ。私が別のことをしないように与えられた人と資金と装置が産み出したわ」

恵磨「指示したの?」

時子「したわ。彼女の劣等感が消えるようなものを作れと」

千夏「劣等感?」

時子「IMCは、人の脳からインプットを得て、形を形成する半生物よ。怪物としてのカタチは失敗作に過ぎないわ」

留美「副会長」

時子「原因は?」

留美「変電所の緊急停止装置が働いたそうです。誤作動ですので、時期に復旧するかと」

時子「フン。広域停電じゃない、大事故だわ」

千夏「IMCは失敗作なの?」

時子「正確には、失敗した半生物が流出しただけよ」

恵磨「それも指示したの?」

時子「ええ」

留美「……」

千夏「全ての黒幕は、あなたなのね」

時子「そうね。きっと、そうだわ」

恵磨「そんなのは知ってる。理由はなんなのさ」

時子「本来のIMCは製造能力がない技術者を補うためのものよ」

千夏「とんでもないものを作ってる印象があるのだけど……」

時子「私も同感だわ。それぐらい優秀な頭脳が、天才がゼットテクニカにはいたわ。それを実現するために突き進む人間もね」

恵磨「……それが『バカ』?」

時子「ええ、『バカ』よ。勝手に死んで、本当にバカみたい。IMCの製造はそこで終わったわ」

恵磨「ということは、IMCって『天才』じゃなくて別の人のためのもの?」

時子「隠せてはいるようね。当たり前ね、名前は表には出てないもの」

千夏「……」

時子「わかってはいるようね。IMCとシュリンクの違いは何かわかるかしら?」

千夏「IMCは製造の不備を補うものだとしたら、違いはそこしかないと思う」

時子「正解。コアとなるユニットはIMCから派生して作った6体の半生体を使っているけれど」

恵磨「マジ?」

時子「そんなに驚くことかしら。明らかに通信機周りはオーバーテクノロジーじゃない」

千夏「要するに、シュリンクのコクピットとIMCのコアは同等のものなのね」

恵磨「櫂ちゃんがパイロットになるのも、パイロットがIMCを作り出すのも当然なんだ」

時子「IMCは特定の遺伝子配列がないと作動しないわ」

千夏「女性しかIMCにならないのも、それが理由?」

時子「そうよ。そもそも、それに特化したターゲットなんだから当然よ」

恵磨「ん?」

時子「IMCとシュリンクが違うのは、外よ。IMCがコアに呼応して作ったか、あるいは人が技術で作り上げたものか」

千夏「ふむ……」

恵磨「どっちが優れてるの?」

時子「私はこれでも、ゼットテクニカの端くれよ。後者であることを証明しないといけない」

恵磨「もしかして、それが目的?」

千夏「技術者としての矜持の証明」

時子「そんな高尚な理由はないわ……私はただ」

留美「副会長」

時子「なによ」

留美「停電が回復しました」

時子「それだけ?」

留美「いえ、IMCが出現しました」

29

IMCG・オペレーションルーム

頼子「IMCを確認しました」

レナ「招集をかけて」

愛結奈「ええ。総員集合!気合入れていくわよ!」

雪菜「真っ黒なIMCですねぇ」

清良「甲冑を着た騎士、かしら」

愛結奈「出現したIMCは南下を続けてるわ」

レナ「被害は?」

頼子「被害の情報は入っていません」

愛結奈「というか、どこに向かってるのかしら」

音葉「出現場所はどちらですか……?」

頼子「H大学構内です」

音葉「似ていますね……」

レナ「櫂ちゃんはどこにいるの?」

愛結奈「女子寮よ。今、晶葉ちゃんと出てくるわ」

雪菜「音葉さん、やっぱり似てると思いますかぁ?」

愛結奈「何の話?」

音葉「櫂さんのIMCと似ています……姿も振る舞いも」

のあ「分析をするわ……頼子、テレビ局の映像データを送って」

頼子「送りました。ご確認を」

愛結奈「そういえば、櫂ちゃんのIMCも人型ではあったわね」

雪菜「綺麗な人魚みたいでしたねぇ」

音葉「……こちらに向かっていると思います」

頼子「河川敷を移動しています。十分に予想されます」

雪菜「どうして、こっちに来てるのでしょう?」

のあ「わからないわ……」

愛結奈「いずれにせよ、こっちに来てくれるなら好都合だわ」

レナ「急いで迎え撃つ準備を」

30

IMCG女子寮・玄関

櫂「晶葉ちゃん!準備出来た!?」

晶葉「オッケーだ!先にドックに向かっててくれ!搭乗準備は出来てるはずだ!」

櫂「了解!行ってきます!」

志保「晶葉ちゃん」

晶葉「志保、行ってくる!」

志保「待ってください。これを持って行ってください」

晶葉「……私の部屋から持ち出したか?」

志保「大切なお守りがわりです。大丈夫!」

晶葉「わかった。ありがとう、志保」

志保「がんばってくださいね」

晶葉「もちろんだ!だが、相手は強い!どうなるかはわからん!」

志保「いいえ、きっと勝ちます」

晶葉「どうして、そう思う?」

志保「晶葉ちゃんが作って、櫂さんが乗るものだから、じゃダメですか?」

晶葉「違うさ。そんなに買いかぶらないでくれ。行ってくる!」

志保「いってらっしゃーい!」

晶葉「ああ!」

志保「……」

31

ゼットテクニカ・役員室

篠原礼『出現したIMCはゆっくりと進んでいます。危害を加える様子はありませんが、絶対に近づかないでください』

篠原礼
地元テレビ局のアナウンサー。声に艶があると評判。

時子「フムン……明確に形が出来てるわね」

恵磨「なんか違うの?」

時子「だいたいのIMCは感情優先で暴発した形状になることが多いわ。見てきたでしょう」

千夏「ええ」

時子「感情とイメージが綺麗に合致してる、理想的なIMCね」

恵磨「あんまりラッキーには聞こえないんだけど」

時子「おそらく、戦う形状をしている以上は行動も同じでしょう。強いと思うわ」

千夏「勝てますか、最後のシュリンクは」

時子「負けたら、終わりよ。全てが水の泡」

恵磨「そっか。そんなに大切なんだ」

時子「そうよ、そう思ってはいけないのかしら」

32

IMCG・オペレーションルーム

頼子「注水完了しました」

愛結奈「接続開始」

櫂『いち、に、さん……行くよ、ドルフィン』

頼子「接続完了しました」

愛結奈「ドルフィンシステムスタンバイ」

頼子「ハッチオープン」

雪菜「櫂さん、カルテを送りますねぇ。その、驚かないでくださいね」

櫂『驚くような人……だね』

雪菜「目撃情報を頂きまして、白菊ほたるちゃんだと断定しました」

櫂『なんで、ほたるちゃんが?』

清良「事務所が今日倒産したわ。役も降ろされたそうよ」

櫂『そんな、あんなに頑張ってきたのに』

雪菜「そのショックかもしれません」

頼子「ドルフィン、出撃準備完了しました」

レナ「話はゆっくりと聞いて。ドルフィン、出撃!」

櫂『ドルフィン、行きますっ!』

33

IMCG・オペレーションルーム

亜季「どうでありますか?」

真奈美「オペレーションルームにいるのは珍しいな」

亜季「戦闘予定地がここでありますから。惠は外で情報収集中であります」

真奈美「ふむ、それもそうだな」

櫂『IMCを視認しましたっ』

愛結奈「敷地まで誘導できる?」

櫂『やってみる』

晶葉「それにしても、美しいIMCだな」

のあ「禍々しさも装飾……美しいわ」

音葉「美しく響くような……」

真奈美「君らの言ってることはわからないな」

晶葉「櫂、IMCはどうだ?」

櫂『気づいた……かな』

雪菜「ドルフィンを睨んだ、ような」

頼子「眼球なんてありませんから、イメージです」

愛結奈「でも、確かにドルフィンの方を向いたわ」

レナ「どうやら、話し合いをするためじゃなさそうね」

頼子「所持している剣と思しき物を構えました」

雪菜「気をつけてくださいぃ」

櫂『あの剣もIMCの一部なの?』

晶葉「ああ。IMCには簡単なことだ」

櫂『暗黒騎士か……どうして、ほたるちゃん』

真奈美「櫂君、後退だ。住宅地に被害が出る」

櫂『了解、下がるよ』

音葉「なんでしょう……殺意と言うよりは」

真奈美「どうした?」

音葉「泣いているような……」

愛結奈「ドルフィン、敷地内に入りました」

レナ「櫂ちゃん、構えて」

櫂『あっ……』

音葉「なにか……聞こえたようですね」

櫂『こんな世界は、壊して、って、なに、ほたるちゃん』

晶葉「超音波か?」

真奈美「そのようだ」

愛結奈「目と思しき部分が赤く発光したわ!」

頼子「腰を落としました」

雪菜「IMC、攻撃開始!」

34

IMCG・オペレーションルーム

櫂『おっりゃあぁ!』

頼子「ドルフィンの右フックは剣の腹で受けました」

真奈美「落ち着てるな……IMCの動きとは思えん」

晶葉「良い音がしたが、材質はなんだ?」

愛結奈「詳細はわからないわね。炭素系だと思うけれど」

のあ「有機材料ね……ドルフィンの関節と同じかしら」

櫂『おっと!』

雪菜「IMCの剣は回避しましたぁ!」

頼子「IMCは剣先を降ろしました。にらみ合いです」

愛結奈「剣と鎧で硬そうに見えるけど、そう大きな変化があるわけではないわ」

晶葉「十分に勝てるな。IMCのコアには、そこまでの知識はなかったようだ」

レナ「絶望的な相手ではないわけね」

真奈美「絶望的でないだけだ。今の所は櫂君に良い所はない」

櫂『ふぅ……フェイズ1に移行できる?』

雪菜「接続圏内ですけど、危ないですよぉ」

櫂『だよね、なんとか止めないとか』

音葉「なんでしょう……」

真奈美「どうした?」

音葉「ここまで綺麗に画面に入っていると……現実感がありません」

のあ「同感よ……テレビゲームのよう」

真奈美「だが、現実だ。格闘ゲームのようにはいかない」

櫂『……』

レナ「のあちゃん、解析結果は?」

のあ「人魚のIMCと大きさは酷似してるわ……成分も」

雪菜「なぜ、ですか?」

レナ「同列のIMCだから」

のあ「出現場所からしても……櫂のIMCと一緒にいたかしらね」

晶葉「理由としてはもう一つだ。おそらく感情が似ている」

雪菜「感情ですか」

晶葉「櫂の感情はなんだ?」

櫂『……』

雪菜「櫂さん?」

頼子「IMCに動きなし」

櫂『夢破れて……でも、違うような』

レナ「櫂ちゃんのIMCに攻撃性はなかったわ」

櫂『何だろう、攻撃しないといけないのは』

愛結奈「話は後。構えたわよ」

櫂『よし……』

頼子「舞台で見られる剣の見せ方ですね。良く練習しています」

雪菜「そうみたいですねぇ」

レナ「来るわよ。まさか、それを見せたいだけじゃないでしょう」

35

IMCG・オペレーションルーム

櫂『うおっ!』

頼子「ドルフィン、剣を回避しました」

愛結奈「ドルフィンシステムは正常動作!」

雪菜「櫂さん、姿勢を立て直してくださいぃ!」

櫂『わかってる!』

頼子「IMCの剣は上段から」

櫂『よし、お返し!』

愛結奈「ドルフィンのカウンターは不発だわ!」

雪菜「足を引っかけられましたぁ!」

真奈美「櫂!無理に立とうとするな!」

愛結奈「あぶなっかしいわ!」

頼子「ドルフィン、地面を回転して剣を回避」

レナ「本当に映画ね。テレビ局に製作費でも請求しようかしら」

櫂『いち、に、の、さん!』

雪菜「ドルフィン、立ち上がりましたぁ!」

愛結奈「IMCはドルフィンの反撃を回避!」

真奈美「あっちは止まってる、ドルフィンは止まるな!」

音葉「……」

櫂『はっ!』

頼子「パンチが当たりました」

愛結奈「甲冑で受けてるわ!ダメージがあるとは思えない!」

頼子「2回目、3回目」

音葉「何か……やろうとしています」

櫂『っつ!』

愛結奈「右手を取られたわ!」

真奈美「最小動作で、やったか」

のあ「……ふむ」

雪菜「IMC、ドルフィンを突き飛ばしましたぁ!」

頼子「ショルダータックル」

愛結奈「櫂ちゃん、構えて!」

櫂『……!』

36

雪菜「……うっ」

頼子「雪菜さん、目を背けてはいけませんよ」

雪菜「櫂さん、無事ですかぁ!?」

愛結奈「片手でも振れるじゃないの……なめてたわ」

櫂『ああ!くっそ!』

頼子「ドルフィンの左腕部が損傷」

レナ「いえ、良く受けたわ。確実にコクピットを狙ってたのに」

晶葉「損傷度はどうだ!?」

櫂『痛い、結構深いかも……』

頼子「一部表皮センサーが破損してます。稼働に問題はありません」

真奈美「待て!櫂君、大丈夫なのか!?」

のあ「接続状況は完璧よ……聞くまでもないわ」

雪菜「心拍数上昇……呼吸も乱れてます」

愛結奈「来るわっ!」

真奈美「センサーの接続は切れ!」

櫂『ダメだっ!』

頼子「IMCの剣を回避しました」

レナ「動きが良くなってるわ。ドルフィンシステム切ったら避けられないわよ」

音葉「……櫂さん」

櫂『なんとか、するよっ!』

雪菜「ドルフィンとの接続状況は安定しましたぁ」

愛結奈「そこは強いわね。IMCは攻撃を継続中!」

頼子「ドルフィンのキックが当たりました」

雪菜「甲冑の一部を破壊しましたぁ!」

愛結奈「コアは、IMCの背中近くよ!気にせずやりなさい!」

晶葉「……」

37

IMCG・オペレーションルーム

櫂『はぁはぁ……』

レナ「ドルフィンの損傷状況は」

頼子「損傷個所は全てで15です」

雪菜「酷い箇所が、3ヶ所ですぅ。左腕部と右腰部、それと左つま先ですぅ」

愛結奈「IMCの損傷個所もほぼ同じくらいよ。負けてはないわ」

雪菜「胸部付近の甲冑は破壊しましたぁ、それと右肩も」

頼子「剣は無事です」

櫂『くっそ……』

真奈美「問題はパイロットだ」

雪菜「心拍数が落ちません、櫂さん」

櫂『大丈夫、まだほたるちゃんの方が大変なはず』

愛結奈「信じるわ」

雪菜「信じるって」

愛結奈「信じるしかないでしょう」

晶葉「ドルフィンは動く、つま先だけは気になるが」

のあ「IMCにダメージは……?」

雪菜「どうなのでしょう……フェイズ1進行の傾向はありません」

愛結奈「動いたわ、何をしてるのかしら」

頼子「殺陣、でしょうか」

雪菜「意味があるのでしょうかぁ」

音葉「……来ます」

櫂『来いっ!』

愛結奈「……」

頼子「取られました」

雪菜「櫂さんっ!」

櫂『がぁ……』

レナ「剣を立ててない……?」

頼子「IMCの剣は、ドルフィンの腹部に直撃」

愛結奈「ドルフィン転倒!」

のあ「完全に入った……でも」

真奈美「どうして、だ?」

雪菜「櫂さんっ!」

頼子「櫂さんとドルフィンの接続が乱れています。冷静に」

愛結奈「こっちが冷静になるだけじゃ動かないわよ!」

音葉「確実に……狙っていました」

真奈美「動きを止めることが目的か、それじゃあまるで」

櫂『う……』

頼子「IMCがドルフィンを押さえつけました」

雪菜「え、この反応は」

愛結奈「待って、IMC側から接続されてるわ!」

レナ「そう、そっちから来るのね」

真奈美「フェイズ1に入ろうとしてるのか」

のあ「目的さえあれば……可能でしょう」

レナ「櫂ちゃん」

櫂『動けな……』

レナ「今動いても勝てないわ。受け入れなさい」

頼子「こちらからも接続を開始します」

雪菜「櫂さん、お願いします」

櫂『……わかった。ほたるちゃんと話をしてくる』

レナ「ドルフィン、フェイズ1移行」

38

ゼットテクニカ・役員室

時子「フェイズ1に入ったかしらね」

千夏「劣勢のようですが」

時子「武器でも持てばいいのよ。それでも、してない」

恵磨「理由があるの?」

時子「ないわ。ただの意地よ」

恵磨「意地か、そういうの嫌いじゃないけど」

千夏「負けたら、どうするの?」

時子「それこそ、武器でどうにかするわ」

千夏「……」

時子「それだと、コアを助け出すことは出来ないわ」

恵磨「だから、シュリンクが必要」

時子「……元凶が何を言ってるか、そう思うわ」

千夏「……」

時子「悪いことだけじゃないわ。きっと、そうだと信じてるのよ」

恵磨「そう、って何?」

時子「ただ、女の子の小さな悩みをバカにすることは許さないわ」

39

イルカ泳ぐプールサイド

櫂「これ、あたしの世界かな。前よりはずっと明るくなった」

ほたる「……」

櫂「ほたるちゃん……」

ほたる「……」

櫂「それ衣装……」

ほたる「私の衣装ではありません、もう私の衣装じゃありません」

櫂「私服に戻った……」

ほたる「……」

櫂「ほたるちゃん、あの」

ほたる「嘘、つき……嘘つき!」

40

イルカ泳ぐプールサイド

櫂「……」

ほたる「櫂さんの嘘つき……」

櫂「ほたるちゃん……その」

ほたる「見てきました……櫂さんのこれまでを」

櫂「ここは、あたしの底か」

ほたる「諦めたのですか……」

櫂「あたしは……」

ほたる「答えてください、お願い、答えてください」

櫂「諦めた、よ」

ほたる「どうして、ですか」

櫂「どうして……か」

ほたる「わかりません、私にはわかりません、わかりたくない……」

櫂「……」

ほたる「どうして、諦めたんですか!まだ何も決まってないのに……」

櫂「……」

ほたる「なんで、私に、諦めないで、なんて、夢は叶うなんて」

櫂「ほたるちゃん……」

ほたる「嘘つき、櫂さんの嘘つき!」

櫂「ごめん、私は嘘をついた。私は諦めた側だから」

ほたる「どうして、戦わなかったのですか」

櫂「たぶん、どこかで限界が来ると思ってた」

ほたる「まだ、限界じゃありませんでした」

櫂「本当は辞めたかったから、かも」

ほたる「嘘つき。泳ぐことがあんなに好きなのに」

櫂「……そっか」

ほたる「どうして、ですか?」

櫂「あたしは、諦め方を知ってる」

ほたる「……」

櫂「あたしの、水泳種目知ってるよね」

ほたる「自由形です」

櫂「前は個人メドレーの選手だった」

ほたる「……」

櫂「少しずつ諦めてさ、最終的に短い距離の自由形だけになったんだ」

ほたる「知ってます、見てきましたから」

櫂「なら、わかるよね」

ほたる「どんな夢だって見れると、あなたは知ってます」

櫂「うん、次にだって行ける」

ほたる「でも、私は」

櫂「……うん」

ほたる「この夢を、何かに壊されたくなんてない……」

41

イルカ泳ぐプールサイド

ほたる「私、少しだけ不幸でした」

櫂「……」

ほたる「いつだって、悪いことが起こるんです。何かしようとするたびに」

櫂「……うん」

ほたる「勇気を振り絞って、上京してきたのに、最初の事務所は潰れてしまいました」

櫂「それは」

ほたる「仕方がありません、だって、私は疫病神ですから」

櫂「違う」

ほたる「思えば、上京出来たのも私を追い出したかったからかもしれませんね。ふふ……」

櫂「そんなこと……」

ほたる「見てくれる人はいたのに、幸せをもう一度と願ってくれたスズランのコサージュもなくしてしまいました。仕方がない、ですよね」

櫂「……」

ほたる「きっと、私には大きすぎた夢だったんです」

櫂「そんなことは、ないよ」

ほたる「櫂さんは、どうして諦めたのですか」

櫂「きっと、次が見えなくなったから。誰よりも速くなんて叶わないと思ったから」

ほたる「違います……それは自分の意思です。理由は違います」

櫂「……」

ほたる「櫂さんの理由は……体です」

櫂「そうだよ、その通り。昔みたいに動かないんだ」

ほたる「それに、若くて昔みたいに泳げるライバルが出てきてしまいました。二度と戻れない、昔の自分にあなたは嫉妬して、負けました」

櫂「わかってるよ、言いたくなかった。だって、それは」

ほたる「運命だから、ですか」

櫂「運命かどうかはわからないけど、どうにもならないことだってあるよ」

ほたる「どうにもならない、ですか」

櫂「タイミングも運だってあるんだ。それに愛されないとスポーツの女神様なんて微笑んでくれない」

ほたる「そうですね……」

櫂「だから、仕方がな……いんだ」

ほたる「認められますか……?」

櫂「受け入れないと前に進めないから、あたしは受け入れた」

ほたる「弱い人……なんて、弱い人」

櫂「……そうかもね」

ほたる「少しでもこうは思いませんでしたか、悪いのは世界だと」

櫂「もちろん、少しは思ったよ。でも、それでもここで生きて行かないと」

ほたる「綺麗ごとです。やっぱり……こんな世界、壊れてしまえばいいのに」

42

イルカ泳ぐプールサイド

ほたる「暗黒騎士は言いました」

櫂「……」

ほたる「仕えた国は滅び、愛する人と離れ、それでも戦い続けて言いました。最初は良くわかりませんでした。口調を強く言っても、いつもの私みたいに小さな声でもダメでした」

櫂「……」

ほたる「何度も何度も怒られて、でも諦めませんでした。『人はどうにもならなくなったらどうなるか知ってるか?』櫂さんは、知っていますか」

櫂「あたしは、目を閉じた。何も見たくなくなった」

ほたる「そうかもしれませんね……でも、目を閉じても世界は、あの騎士が嫌いな世界はなくなりません。そうなったら人は、笑うんです」

櫂「笑う……」

ほたる「諦めた笑いを浮かべてから、『こんな世界は壊れてしまえ』、って言うんですよ」

櫂「……上手だね」

ほたる「今なら凄くわかるのに、私はもう出れません……」

櫂「ほたるちゃん……」

ほたる「昔から少しだけ不幸でした。いつだって、テレビの向こうのアイドルは私を応援してくれました。憧れていました。いつか誰かを元気にできる、あのアイドルみたいになりたかった。不器用で笑うことも苦手です……それでもなりたかった」

櫂「……」

ほたる「笑顔の練習をして、歌の練習をして、ダンスの練習をして、怖かったけど、上京してきて、それで、最初の不幸がありました。それでもあきらめなくて、小さな事務所が拾ってくれました。それでもダメでした。きっと、私には大きすぎた夢だったんです」

櫂「……」

ほたる「こういう言葉があるんですよ、人は身の程を知るべきだって。自分が出来るところに着地して、満足するべきなんだって。前に別の事務所のプロデューサーに言われました。酷い人ですよね」

櫂「……」

ほたる「今ならわかります。何もかもが、私の邪魔をするんです。私には大きすぎる夢なんだって、身の程知らずなんだ、お前はって言うんです。あるべき姿でいるべきだって。地元で小さく生きていればいいんだって。夢なんて持たないで、希望なんて持たないで、そのまま少し不幸なままでいればいいんだって。だって、そう言われてるみたい」

櫂「ほたるちゃん」

ほたる「こんな世界、私は嫌いです」

43

真っ暗な舞台袖

ほたる「でも、良いんです」

櫂「良くないよっ」

ほたる「私、諦めます。次の夢を見る自由は、私にもありますよね?」

櫂「違う、違うよ」

ほたる「何がいいでしょうか……お嫁さんはまだ早いですか」

櫂「ほたるちゃん!」

ほたる「櫂さんは、私に何を期待してるのですか」

櫂「嘘つきっ!」

ほたる「えっ……」

櫂「自分に嘘までついて言いくるめようとしないでよ。そんなこと、出来るのだったら、IMCなんて出てこないよっ!」

ほたる「櫂さんもIMCでしたものね……」

櫂「ほたるちゃんは、言ったじゃん、こんな世界は壊れてしまえ、って。こんな世界で次の夢なんて、見れるの?」

ほたる「……見れません」

櫂「なら!」

ほたる「私の暗黒騎士で、IMCで、壊してしまえばいいんですかっ!?」

櫂「そんなこと言ってない!」

ほたる「私は、嫌です!夢すら見せてくれない、こんな世界は嫌です!」

櫂「何が、したいの?本当は、何がしたいか聞いてるんだ!」

ほたる「私は、私は諦めたくなんてない……私は」

櫂「私は?」

ほたる「私は……」

櫂「雪菜ちゃんが調べてくれた、カルテに書いてあった。事務所に入る時の言葉。ほたるちゃんのたいせつな言葉」

ほたる「……なりたい」

櫂「うん」

ほたる「私、負けたくない……それでも、どんなことがあっても」

櫂「……」

ほたる「どうしてもトップアイドルになりたいんです……!どんなに不幸でも!」

櫂「うん」

ほたる「ファンの人を幸せにしたいんです!私が憧れたあのアイドルみたいに!」

櫂「……本当に強い」

ほたる「なりたい、私はなりたいんです!」

櫂「ほたるちゃん、暗黒騎士は最後に何を思い出すの?」

ほたる「たいせつなことを思い出します。たった一つの幸福で、世界は変えられます」

櫂「ほたるちゃんは、どうやって、この世界を壊すの?」

ほたる「私は……」

櫂「あたしじゃ出来ない。それはほたるちゃんの夢で、皆の希望だと思うんだ」

ほたる「櫂さん」

櫂「お願い、こんな世界は壊して。大きな夢を、願うことすら許さない、こんな世界は壊して」

ほたる「私、諦めません!私はトップアイドルになります……!」

櫂「うん……お願い」

ほたる「夢を見ていい世界だって、私が……そんな世界じゃないって見せてあげます」

櫂「あたしなんかより強いよ、ほたるちゃんは」

ほたる「わっ……」

櫂「こんな言葉は無責任だけど、あたしにはこれしか言えないから。がんばって」

ほたる「……はいっ!」

櫂「お願い、少しだけ隙を作って」

ほたる「暗黒騎士のですか」

櫂「そう。絶対に負けない、私の今の夢は、壊れてと願ってるものになんかに負けないから」

44

IMCG・オペレーションルーム

櫂『あぁぁぁ!』

頼子「接続解除。ドルフィン、IMCを蹴り飛ばしました」

雪菜「フェイズ1完了ですぅ!」

音葉「やりました……櫂さん」

櫂『ほたるちゃん、少しだけ我慢してっ!絶対に助けるからっ!見せて、あたしにその世界を!』

真奈美「どうした?」

櫂『話は後で!晶葉ちゃん、聞いてる!?』

晶葉「聞いてるぞ、櫂!」

櫂『剣を受けられる場所はある!?』

のあ「……ドルフィンでかしら」

頼子「IMCが剣を構えなおしました」

愛結奈「コアは背中部!」

雪菜「櫂さん、来ますよぉ!」

晶葉「勧めないが、ある。肩だ。肩からコクピット上部にかけて。装甲が厚い」

櫂『ありがとっ!レナさん、良いよね!?』

レナ「許可」

雪菜「お願いしますぅ、櫂さん」

櫂『わかってる!』

愛結奈「本当に、アナタは無鉄砲ね」

櫂『よく言われる!脳筋とか単細胞とか!』

音葉「言ってませんよ……」

雪菜「IMC、来ますっ!」

のあ「頼子……準備を」

頼子「了解しました」

レナ「……」

愛結奈「ドルフィン、IMCの攻撃を回避!」

清良「……」

真奈美「早まるな!都合のいい状況を導け!」

櫂『はいっ!』

頼子「ドルフィンのパンチが当たりました」

雪菜「剣で振り払うしぐさを見せましたぁ」

レナ「次よ。上段から落とすしかないわ」

愛結奈「ドルフィン、構えて!」

櫂『ぐ、はぁっ!』

音葉「……っく」

真奈美「剣の半分は埋まったな……」

櫂『捕まえ、た!』

愛結奈「心拍数上昇!口元から出血!痛覚の反応が酷いわ!」

雪菜「櫂さん!お願い、もう少しだけ耐えてくださいぃ!」

のあ「センサー解除なさい!早く!」

頼子「センサー接続解除!」

晶葉「櫂!ドルフィンの性能なら行ける!やれ!」

櫂『せぇっ、のっ!』

レナ「折ったわ」

頼子「痛覚センサー解除」

のあ「櫂……無事かしら」

櫂『ふぅ……ドルフィンシステムもなくなっちゃったか』

のあ「大丈夫そうね……昔に戻っただけよ。大丈夫」

晶葉「ああ!ドルフィンなら負けない!」

頼子「IMC、折れた剣を捨てました」

レナ「剣は折ったわ。後は、わかるわね?」

雪菜「ドルフィンは負けませんよぉ!」

櫂『なぜなら、これは格闘戦だったら絶対に負けないから!』

愛結奈「……櫂ちゃんのバイタルが」ボソボソ

雪菜「伝えないでおきましょうねぇ……大丈夫です」ヒソヒソ

頼子「……少しだけ嘘をつきましょう」ヒソヒソ

櫂『よっと!』

真奈美「良い足払いだ」

亜季「おおっ、柔道も出来たでありますか」

櫂『よしっ!』

頼子「コア部摘出」

雪菜「やりましたぁ!」

亜季「惠、すぐに回収を!」

櫂『お願いっ!』

レナ「オーケー、櫂ちゃん」

櫂『はいっ!』

レナ「フェイズ1完了、フェイズ2移行!やっちゃって!」

45

IMCG・近郊

惠「勝ったわ」

ほたる「やった……」

惠「もう、大丈夫?」

ほたる「はい……ご迷惑をおかけしました」

惠「私は警察官だから、これが仕事なの」

ほたる「それでも……ありがとうございました」

惠「感謝の言葉は素直に受け取っておくべきね」

ほたる「櫂さん、大丈夫でしょうか」

惠「櫂ちゃん、平気?うん、わかった」

ほたる「なんて……?」

惠「平気よ。ほら、戻って行ったわ」

ほたる「良かった……」

亜季『伊集院巡査』

惠「こちら、伊集院。白菊さんは無事よ」

亜季『私の仕事をするであります。IMCGには戻らなくても構わないであります』

ほたる「……あの、なんの話でしょう」

惠「そう……大和巡査、ありがとうございました」

ほたる「……?」

惠「送るわ。私は帰る場所がないみたいだから」

46

IMCG・オペレーションルーム

亜季「抵抗はしないことであります」

レナ「まっ、仕事が早くて褒めたいところだわ」

亜季「私の仲間が既に詰めているであります。証拠の隠滅などしないように」

雪菜「……」

愛結奈「わかってるわよ。ドルフィンだけはドックに戻させて」

亜季「構わないであります」

のあ「晶葉」

晶葉「……」

のあ「晶葉!」

晶葉「なっ、驚かせるな!」

のあ「ドックへ。ドルフィンを迎え入れるのに人手が足らないわ。いいわね」

晶葉「……わかった。櫂、いつも通りに戻って来い!」

櫂『……ふぅ』

晶葉「ありがとう、のあ」

のあ「早く……行きなさい」

真奈美「櫂君は大丈夫、か?」

音葉「いいえ……危ないかと」

頼子「ドルフィン、ドックのエレベーターに到着」

のあ「真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「ドックへ行きなさい」

真奈美「なんでだ?」

のあ「誰もサポートする人物がいない……からよ」

真奈美「……そうか」

のあ「わかるのは後でいいわ……早く」

真奈美「行ってくる」

亜季「立ち入るなとは言わないであります。自由を制限しようとは思っていないであります」

レナ「あら、これはまた大勢で」

マキノ「あら、意外と大人しいじゃない」

亜季「全て、調べさせていただくであります」

愛結奈「ドルフィン、固定位置に到着したわ」

頼子「櫂さん、脳波が低下しています」

雪菜「気絶しちゃいましたぁ……」

頼子「排水開始。接続解除」

亜季「兵藤部長」

レナ「レナ殿で良いわよ。なに?」

亜季「こんなことをして、意味があったでありますか」

レナ「さぁ、勝手に調べればいいでしょう」

亜季「そうさせて、いただくであります」

レナ「でも、私達の方がが早かったわね」

亜季「どういうことで、ありますか」

レナ「IMCGはこれを以て活動を停止。しばらくの間、職員は自宅待機ね、お疲れさま」

愛結奈「はぁ、疲れたわ。先に、部屋に戻るわよ」

亜季「ん……」

頼子「真奈美さんがドックに到着しました」

雪菜「コクピットオープンまでもう少しですぅ」

亜季「……!」

レナ「どうしたの?」

亜季「池袋晶葉殿は、どこに行ったでありますか」

清良「……」

亜季「清良殿」

清良「わからないの」

レナ「頼子ちゃん、雪菜ちゃん、後はよろしく」

雪菜「レナさん……」

頼子「了解しました」

亜季「女子寮に向かうであります!マキノ殿、ここは任せたであります」

47

ゼットテクニカ・役員室

千夏「終わったわね」

恵磨「うん、最後のIMCが倒れた」

時子「違うわ」

千夏「違う……?」

恵磨「IMCは最後の一体だって」

時子「レナとレナの部下は本当に期待通りに動いてくれたわ」

千夏「嘘?」

時子「最後の一体は嘘じゃないわ」

恵磨「意味がわからないんだけど」

時子「本来、IMCというのは技術者を支援するためのツールよ」

千夏「……」

時子「本当のIMCは彼女のために作られて、この世にただ一つしかないわ。まがい物が全て消えたわ」

恵磨「彼女……」

時子「知ってるでしょう。そこまでたどり着いたなら、最後のIMCに勘付いてもおかしくないわ。だけど、貴方達は出来なかった」

留美「副会長」

時子「どうかしたかしら」

留美「警察がIMCGの停止を宣言しました。捜索に入るそうです」

時子「フン、構わないわ。警察の持ち物でしょう、好きにさせなさい」

恵磨「待って!本物のIMCはどこにいるの?」

時子「どこって、彼女が持ってるに決まってるでしょう」

恵磨「この状況も、そのためなの?」

時子「そうよ。私とレナが書いた、シナリオはこれで終わるわ」

48

IMCG女子寮・池袋晶葉の自室

亜季「明らかに、何かが持ち出された形跡があるでありますな」

志保「亜季さん」

亜季「志保殿は、知っていたでありますな」

志保「……」

亜季「ここに何があったでありますか」

志保「晶葉ちゃんの、IMCがありました」

亜季「最後の一体でなかったのでありますか」

志保「……はい」

亜季「どうして、でありますか。なぜこんなことを?」

志保「だって……」

亜季「だって、なんでありますか」

志保「見捨てられるわけ、ないじゃないですか……」

次回、最終回

西島櫂「IMCG・A.I.の証明」(終)

続く
製作・テレビ〇日

オマケ

CuP「ほたるちゃんは、僕にトップアイドルになりたいって言いました」

CoP「宣言されたら、叶えるしかありません」

PaP「確かにな」

CuP「ただ、また事務所が潰れるかどうかはいつも心配してます」

PaP「はっはっは、そこは心配するな!」

CoP「自信満々ですね」

PaP「一度潰れかかってるが、ウチの事務所は潰れてない!潰れないノウハウはあるぞ!」

CuP「あまり、アテにならないんですけど……」

おしまい

あとがき

ほたるちゃんは、初登場でトップアイドルになりたいと言ってる。そして、特技は「諦めない気持ち」。

IMCGは次回で最終回です。

それでは。

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