悪人「悪党仲間の不幸自慢がすごすぎてついていけない」 (41)

ある居酒屋にて――

裏社会で名を上げつつある悪党三人が、仲良くビールを飲んでいた。



犯罪者「ぐへへへ……」

外道「クックック……」

悪人「ハッハッハ……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446792591

犯罪者「オレたち、今年もたっぷり悪事を働いたよな!」

外道「ああ、来年もこの調子で頑張っていこう」

悪人「平和ボケした奴らや正義ヅラした奴らに、悪の恐ろしさを思い知らせてやろう!」



三人「オーッ!」



悪人「……ところで、一度聞きたかったんだけどよ」

悪人「お前らってなんで悪に走ったんだ?」

犯罪者「悪に走った理由、ねぇ……」

犯罪者「へっ、たまには不幸自慢ってのも悪くねえかもな」

悪人「不幸?」

犯罪者「ああ。オレは、生まれてすぐ……親に捨てられてな」

外道「ほう」

悪人(……え!?)

犯罪者「物心つく頃には、泥水をすすり、雑草を食うような生活をしてた」

犯罪者「生ゴミから肉をみっけた時にゃ、大喜びしたもんさ」

外道「たくましい子供だったのだな」

悪人(マジで……!? 泥水!? 雑草!? 生ゴミィ!?)

犯罪者「しかし、チンピラにとっつかまって、オレはある孤児院に売られちまった」

悪人(えええ……売られた……!?)

犯罪者「そこの院長は、表向きは子供好きな善人を装ってたんだが」

犯罪者「本性はガキを痛めつけるのが大好きっていう変態ヤロウでな」

犯罪者「特にオレみたいな浮浪児は、どうせ死んでもバレやしないからって」

犯罪者「徹底的に痛めつけられた……」

外道「ああいう施設を経営してる人間は、案外腹黒いというからな」

悪人(腹黒いってレベルじゃねーぞ!)

犯罪者「耐えきれなくなったオレは、なんとか孤児院を脱走した!」

犯罪者「んで、あちこちをさまよってるうちに可愛い恋人ができた……」

犯罪者「思えばあの時が、オレの人生の絶頂期だな」

外道「ふむ」

悪人「へえ~、よかったじゃん!」

犯罪者「――だが」

犯罪者「忘れもしないクリスマスイブ、オレの恋人が強盗に人質にされた」

犯罪者「オレはなんとかそいつを説得し、どうにか恋人を解放させることに成功した」

犯罪者「だが、その時……バカな警官が銃を放って、銃弾は恋人に当たっちまった」

悪人「な……!」

犯罪者「即死だったよ……別れの言葉をいう暇すらなかった」

犯罪者「しかも警察は正当な手段だったと一連の事件をもみ消した」

犯罪者「ま、あれが決定的なきっかけだな。オレが悪に走った理由としては」

外道「警察としては、勇敢な警官が凶悪犯を射殺、という絵が欲しかったのだろうな」

悪人(えええ……重すぎるよ……悪に走った理由)

犯罪者「さて、オマエはどうなんだ?」

外道「私か? 私は……子供の頃から両親に虐待されて育った」

悪人(え!?)

外道「毎日のように、ガソリンやインクを飲まされ、動物や虫の死骸を食わされてた」

犯罪者「おいおい、いきなり飛ばしてくるねえ!」

悪人(ウソだろ……!? そんなことする親がいるのかよ……!)

外道「そんなある日、私を高額で買いたいという中年女性が現れた」

外道「両親は私をあっさりと売った」

外道「もっともおかげで、私は地獄から解放されたわけだがな」

外道「その女性はとても優しく、私は生まれて初めて人の優しさというものを知った」

犯罪者「ふうん」

悪人「よかったじゃん」ホッ…

外道「しかし、そうではなかった」

外道「あの女は私を鎖につなぎ、監禁し、性のはけ口にしたかっただけなのだ」

外道「まだ当時10歳にも満たぬ私をな……」

犯罪者「ったく、とんだ変態ババアだな」

悪人(えええええ!?)

外道「監禁生活が何年か続いたある夜、やっと待ちに待ったチャンスが訪れた」

外道「あの女は酔っ払って、私を鎖でつなぐのとドアに鍵をかけるのを忘れたのだ」

外道「すかさず私は脱出し、両親のもとにも戻らず、一人暮らしを始めた」

外道「あの頃は本当に楽しかった……」

外道「逃亡中に拾った野良犬と、穏やかな日々を過ごした……」

悪人「犬って可愛いもんなぁ」

外道「だが、まもなくあの女と私の両親が、私の居場所を探り当てた」

外道「そして逃げた罰として、私の親友だった犬をバットで殴り……命を奪った……!」

犯罪者「とことん腐ってやがるな、そいつら」

悪人「ひでえ……ひどすぎる……」

外道「私は激怒し……その三人に重傷を負わせた」

外道「すぐに警察に逮捕されたが、取り調べ中にスキを突いて脱走に成功し――」

外道「あとはずるずると人の道を外れ、悪党街道まっしぐらというわけだ」

犯罪者「なるほどねえ」

悪人「そうだったのか……」

悪人(重い、重すぎるよ……)

犯罪者「さてと、言い出しっぺのオマエはどうなんだよ」

悪人「え、俺!?」

外道「仲間にここまで話させたんだ。自分だけ話さないってのは無しだぞ」

悪人「わ、分かってるよ!」

悪人(やべえ、俺両親とは仲悪かったけど、高校卒業するまで普通に育ててもらったし)

悪人(別に変なもん食ったとか食わされたとかないし)

悪人(変態のもとに売られたとかそういうこともないし)

悪人(大切な人やペットが死んだなんてことももちろんないし)

悪人(なんとなくかっこいいから、で悪に走っちゃったんだよな)

悪人(どうしよう……)

悪人(こんなつまんない話をしたら、二人に幻滅されちゃうかも……)

悪人(こうなったら……しょうがない!)

悪人「俺には……両親はいないんだ」

外道「ほう」

犯罪者「つまり、オレみたく捨てられたってことか?」

悪人「いや……俺は無から生まれたんだ」

犯罪者&外道「!?」

犯罪者「無から生まれた!?」

外道「……どういうことだ!? そんなことがありえるのか!?」

悪人「ま、まぁ……それは置いておいて」

犯罪者「置いとくのかよ!」

外道「すごく気になるんだが……」

悪人「えぇと、話すと長いんだよ、これがまた……うん」

犯罪者「そりゃあ、一言じゃ済みそうもねえけどよ……」

悪人「そして……空気を食って生きてきた!」

犯罪者「空気!?」

外道「固体ですらないのか!」

悪人「そう、俺は空気だけで生きていけるからな!」

外道「たしかに仙人は、かすみを食っているだけで生きていけるというが……」

悪人「そっ、そうなんだよ! 俺、仙人なんだよ! 実は!」

犯罪者「すっげーっ!」

悪人「だけど、この特異体質に目をつけられて……悪い奴にブックオフに売られた!」

外道「ブックオフ!?」

犯罪者「よく買い取ってもらえたなぁ」

悪人「あ、ああ……なんとかな。50円ぐらいだった」

犯罪者「安っ!」

悪人「そんでもって……大切にしてたアリさんを踏まれた!」

犯罪者「アリさんを!」

外道「踏まれた!」

悪人「以上! これが俺が悪に走ってしまった経緯だ……」

犯罪者「すげー! やっぱオマエ、オレたちの中で格が違うよ!」

外道「うむ……驚きの人生だったぞ」

悪人「ハ、ハハハ……ありがとな」

悪人(俺のメチャクチャな嘘をこんなにもあっさり信じてくれるなんて……)

悪人(やっぱ、こいつらいい仲間だわ……悪党だけど)ジーン…

悪人「さて、盛り上がったところで追加のビールを頼も――」

ドゴォン!!!

正義マン「フハハハッ! 正義の味方、正義マン! 天井を破壊しながら参上!」スタッ

正義マン「若き悪党どもよ! 今ここで三人まとめて駆除してくれるわ!」



犯罪者「ゲッ……!」

外道「しまった! まさか、こんなところに現れるとは……!」

悪人「せ、正義マン……!」

悪人(どんな小さな悪でも滅するっていう、今話題のヒーローじゃないか!)

犯罪者「オマエら、逃げ――」

正義マン「死ねいっ!」

グシャッ!!!

犯罪者「ぐ、は……」ドチャッ…

正義マン「悪党一匹、駆除完了!」ビシッ



外道「なんてパワーだ! たった一撃で……!」

悪人「そ、そんな……」

正義マン「残り二匹も、駆除を実行する!」

正義マン「ぬんっ!」

ドゴォンッ!!!

外道「うぐっ……!」



悪人「あああっ……!」

外道「は、早く逃げ、ろ……」

正義マン「ハッハッハ、害虫らしく虫の息か。面白いが、くたばれっ!」

ズドォ!!!

外道「うぅ……」ガクッ

正義マン「虫ケラらしい最期だ。さて、残るは一匹!」ビシッ



悪人「て、てめえ……!」

悪人「なんで……なんで殺した? あいつらが抵抗したわけでもないのに!」

正義マン「当然だろう! 悪は死するべき存在だからだ!」

悪人「たしかに俺たちゃ、極悪人だ……。だけど、殺しだけはやってねえ!」

悪人「それにこいつらにだって、悪に走った理由はあるんだ! それも聞かずに――」

正義マン「どんな理由があろうと悪は悪! 害虫風情がいっぱしの口をきくな!」

正義マン「さぁ……貴様も地獄に送ってくれるわ!」

悪人「……」

悪人「そうかい……聞く耳持たずかい」

正義マン(――む? なんだこのとてつもない悪のオーラは!?)ピクッ

正義マン(感じるぞ……この虫ケラから、無尽蔵の悪のパワーを!)

悪人「ありがとよ……これでやっと俺も心おきなく突っ走ることができる」

悪人「悪の道ってヤツをよ……」

正義マン「う、うわっ! が、害虫め! ――駆除してくれるっ!」ビシッ



悪人「うおおおおおおおおおおおっ!!!」



……

…………


悪の帝王「……ん」

部下「帝王様、起こしてしまいましたか。申し訳ありません」

悪の帝王「なに、かまわん。久々に心地よい悪夢を見ることができたからな」

部下「悪夢……ですか」

悪の帝王「それより、俺に報告することがあるのだろう? 早く話せ」

部下「は、はいっ!」

部下「本日は大都市にて凶悪化ガスをばら撒き、その都市は完全な無法地帯となりました」

部下「また、優秀な子供1000人を拉致して参りました」

悪の帝王「ご苦労。子供たちには洗脳と教育を施し、立派な悪の戦士にせよ」

部下「かしこまりました!」

部下「ところで……帝王様」

悪の帝王「なんだ?」

部下「帝王様はどのような悪事であろうと、眉一つ動かさず実行なされますが……」

部下「帝王様にはどんな過去が? なにゆえ、悪に走られたのですか?」

悪の帝王「過ぎた好奇心は身を滅ぼすぞ」

部下「もっ、申し訳ありません! お許しを!」

悪の帝王「フフフ……まぁよい。答えてやろう」

悪の帝王「はっきりいって、私にはそう大した過去はないのだが……」

悪の帝王「あえていうなら……大切な仲間を二人失ったことがきっかけ、かな」







― おわり ―

ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom