男「いじめて、ごめんなさい」後輩「…」 (65)

僕が少年の頃は野球に夢中だった。

女の子みたいに育てられた上に周りから女の子みたいだといじめられていた僕にとって、野球は僕が男だと主張できる格好の道具であった。

さらに親にやらされた裁縫料理茶道勉強等ことごとく駄目だった僕が唯一周りの大人に誉められたもので野球であったこともあり
それに気をよくした僕はますます野球に打ち込み努力した結果、成績も残すことができ その時期にありがちな自らを過信する癖も出てきてしまった。
中学生にもなると、周りに自分より上の人間はいなくなり推薦で 一応強豪の学校へ合格することができた。

その学校は、県内で4番目くらいといわれており 後輩いじめの話も聞かず練習や監督がキツいって話もきかなかったため そこにした。

寮生活だったが、親元から離れられるので嬉しかった。 父は渋々ながら納得してくれた。
僕にセクハラできないのが残念だったのだろうが母は喜んでいた。
父を取られずに済むと思っていたのだろう、息子に嫉妬するくらいなのだから 愛というのは恐ろしい。

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夢にまでみた寮生活。
某大阪の刑務所より酷いと噂の寮とは違い、ここの寮は楽なもんだよ、先輩の奴隷にされなくてもいいからと言われそれを鵜呑みにしていたその時の僕は馬鹿だった。

いざ入ってみると結局怖い先輩の機嫌を伺わなければいけなかった。
1年全員で先輩方の服の洗濯をし、朝は必ず先輩方より早く起きて掃除トンボがけ 先輩の配膳を行い、命令には絶対。

こんなことは野球部では当たり前で厳しい所では1年はもっと厳しく酷い扱いを受けるだなんて言われていたが、
中学生まで女の子のように育ててこられた僕にとってそれは非常に衝撃的だった。
人間扱いではなく、理不尽に怒鳴られたり足蹴にされたり普通に殴られる世界が最初はなかなか受け入れられなかった。

それに僕が野球の練習する時間も無能な先輩のために費やさなくちゃいけないなんてことも納得できなかった。
こんなことしてちゃ勝てる試合も勝てなくなるのではないかと思った。
「ここは全然マシなんやぞ 洗濯掃除配膳だけやからな 他はもっと酷い」と同期たちは呪文のように声を揃えて言っていたがそういう問題じゃないのだ

逆らえるわけはないが、納得できない悶々とした物を心に抱えていた。

そんな僕の思考は行動に出ていたのだろうか、先輩方はそんな僕に対し、生意気だとかなんだと難癖を付け、暴力という名の教育をしだした。

暴力を振るわれてもありがとうございましたと言わなきゃいけない狂った世界観だった。

いじめ反対と声高に叫ぶマスコミはまずここに切り込んでほしい マスコミたちが賛美する甲子園の裏ではこんな世界が広がっているんだと 世間へ広めてほしいもんだ。

僕はこんな狂った世界の犠牲者の1人となった。

毎日当然のように痛みや傷が身体上に重なっていった。
同期たちは、僕と同じように傷つくものもいれば 可愛がられて何一つ先輩方から教育されないような奴もいた。
奴らは「もっとうまいことやれよな…」だなんていうけど、そもそもそのうまいことやる方法がわからないんだからどうすることもできないのだ。
「やめずに頑張れよ!」だなんて薄っぺらい言葉を投げ掛けられても 心のどこにそれを引っ掛ければいいのかもわからなかった。

「僕のために生きてみてよ神楽坂」

先輩は真面目な顔で僕をみた。僕は一瞬固まってしまい、先輩はすぐ顔を赤くして「いやっごめっ…あのっそういう意味じゃ」とあたふたした後

「さっき、嬉しかったんだ。僕は不安だったんだ嫌われ役に徹しようとしてもやっぱり、どう思われてるか怖かった。
だから君がそれを受け止めてくれたのは嬉しかった、だからさ僕にも受け止めさせてよ。
正直、僕はどんな生き方をして君が一体どんな大きなものを抱えているかはわからない。
でも、力になりたいよ。そんな悲しい顔してたらさ」

先輩は臭い台詞を次から次へと紡ぎだした。恥ずかしくないのだろうか、そしてそんな陳腐な言葉で狂わしいほど心踊らせる僕は恥ずかしい男だった。

「また、僕で良かったら練習とかしようよ。普通に素でいいからさ 僕もこの喋り方にするからさ」

「…はい。」

僕は単純だ。こうなるともう柳場先輩が僕の心を占める比率が一気に増してしまった

次の日、いつも通り練習をした。最も、昨日までと心持ちは違っていた。
柳場「やる気あんのか声出せコラァ!いっちにーいっちにーコラァ!」

チンピラ丸出しの罵声を響かせながら柳場先輩はランニングで先導していた。昨日のことなどなかったかのように
1年たちは「はい!」と叫んでいたよくみるとまんざらでも無さそうだ。柳場先輩はなんやかんやで、後輩の中で慕われている。
アッサリしてるし口は悪いがなんやかんやで気使い屋だ、一部の1年たちは彼のすぐ後をつこうとやっきになってる。
最も僕はそいつらに譲ってやる気はないので全力で走り柳場さんの後ろにピッタリついた。

「神楽坂ァ!てめぇランニング終わってんだろうがストレッチしとけや!」

「はい!!」

僕は今度こそこの人に見捨てられないようにしないといけないのだ。

3年が卒業してから2年が主導となる。主将はエースの大舞子さん、副主将は柳場さん、お二人は1年の頃から試合に出ていた。
この学校は少し変わっており、代々レギュラーが主導力を持っていた。もっとも先輩後輩の上下関係を前提としたものだが。
それでも、後輩の指導にしても積極的に教育や指導を行うのはレギュラーの面々であった。それも伝統らしい、実力主義的な。

それでもレギュラーは複数いる、その中でNo.1みたいに突出した人はいない。だからどうしても派閥みたいなものもできてしまう。

副主将柳場さん派

主将大舞子さん派

そして輪島さん派


去年も青木さん派とかできていたらしいが気付かなかった、でも今年は明らかに違っていた。
三人は互いが接する時明らかに意識をしていたし、それに呼応するように後輩たちは互いの派閥を意識していた。
もっとも柳場さんは自分を慕っている後輩がいるとは気付いていないようだが。

僕は、柳場さんの部屋に行く日々を続けていった。
僕達は色々と話をした、僕は柳場さんの部屋を自分の部屋のようにくつろいだ。
横になったり、いろいろ話をしたりストレッチとかもしたり楽しかった、柳場さんが自分を頼ってくれているような感覚、柳場さんを独り占めしているような感覚がたまらなかった。

青木さんは家からポテチをおくってもらって布団に潜って食べてたらしい

青木さんが唯一後輩に怒鳴ったことは柳場さんが当時の3年らと共謀し青木さんが1人でお風呂に入っていた時に電気を消して 外から窓を手でばんばんと叩いた時らしい
あの青木さんはヒョエエエ!と驚いたらしい、その後はじめて青木さんは柳場さんを怒鳴ったらしい
「お化けかと思ったじゃないか!」とのことだ 面白かった。
練習では厳しいが、ここでは柳場さんは優しいのだ 自分の居場所だと思った。

思ったのに……

ある日、柳場さんと大舞子さんが寮内で怒鳴りあっているのをみた。
言い合いはあるが怒鳴りあっているのは僕ははじめてみた、だがあれだけ仲が悪いのだから珍しいことではないのだろう と考えていたのだが。

「…神楽坂……」「………神楽坂…」


何やらその怒鳴り内容に僕の名字が入っていた。珍しい名字だ聞き間違えではない。

気になる。何を話しているのか僕は壁にくっつき二人の話を聞いていた。ただやはりなかなか聞こえない何を言っているのか聞き取り辛い。

二人はやがてヒートダウンしたのか、ボソボソと声質が低くなっていった。どうしても聞きたかった、僕が何を言われていたのか。

だから自分がこんな安易な場所で隠れたつもりでいたのにこの後見つかるなんて思ってもいなかったのだ。

目の前に影、見上げると何もない、見下ろすと大舞子主将が立っていた。主将は身長158cmである。

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