とある書店員の話 (19)

「いらっしゃいませ。お預かりいたします」
「880円になります」
「当店のポイントカードはお持ちですか」
「こちら、ブックカバーはお付けいたしますか」
「お先、お会計のほう失礼いたします」
「1000円お預かりいたします」
「120円とレシートのお返しです」
「こちら、商品でございます」
「ありがとうございました」


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今月に入ってから阿藤乱鬼とかいう作家の本が飛ぶように売れている。
そんなに面白いのだろうか。
……駄目だ。同じ事ばかり考えてしまう。
同じ店の同じレジで同じ本ばかり売っていれば仕方ないと言い訳もしたいが、
成見家の長男たる者、もう少しためになることを考えておくべきだろう。
例えば、安保法案は通るべきだったのだろうかだとか、
消費税は上げてしまって良かったのだろうかだとか、
安見さんとどうしたら付き合えるだろうかだとか、
俺はこのままここで働いていてよいのだろうかだとか。

最初の二つはどうでもいいな。問題は安見さんだ。
あんなに綺麗で優しくて頭もいい女性だ。誰かにとられるのも時間の問題だろう。
何よりも黒髪ロングだ。黒髪ロングだぞ黒髪ロング。
ただの黒髪ロングじゃないぞ。美人で優しくて頭もいい黒髪ロングだ。
そんな淑女が、俺みたいな冴えないメガネn……
「いらっしゃいませ。お預かりいたします」
「こちら880円になります」


―――

「ありがとうございました」
今月に入ってから阿藤乱鬼とかいう作家の本が飛ぶように売れている。
そんなに面白いのだろうか。
……気が付くと、阿藤乱鬼のことばかり考えている。
俺は、安見さんよりも阿藤のほうが好きなのではないか。
こんなことを考えるのも今週で三度目だな。
やはり同じこと考えてしまう。俺は、こんなところで働いていいのだろうか。
冴えないメガネなら冴えないメガネなりに、もっといい仕事に就くべきだったのではないか。
そう例えば……


―――

「作家になりたかった」
「は?」
「だから、本屋の従業員なんかより作家になりたかったって」
「なんて言ったかはわかってるよ。そうじゃなくて、なんで急にそんな話?」
「なんでって言われても困るけど、俺、このまま本屋の従業員でいいのかなって思って、一番俺のことを知っている田口に相談してみようと思った」
「まあな。成見マイスターの俺にかかれば、成見のことなら何でも分かるぞ」

たった今、分からないことがあったような気がするなどと思いながら俺は話す。

「それでだな、俺が相談したいと言っているわけだ。お前なら俺が何を考えているかわかるな?」

「オーケーオーケー、とりあえず本を読むのをやめるよ」

「俺からわかるなと言っておいてなんだが、お前が本を読むとかいう珍しいシチュエーションにおける俺の思考がよく読めたな」

「本を使って読む練習をしてるからな」

「相変わらずのセンスだな。惚れ惚れするよ」

「まあ、阿藤乱鬼のセンスには負けるけどな」

「なんだ、お前も阿藤か」

「この冷めた反応はお前やはり読んでないな」

「そうやってなあ、書店で平積みにされているからだとか、みんなが読んでいるからだとか、俺は絶対に……」

「「そういう百匹目の猿になりたくない」」

「だろ?成見がよく言うし、俺はよく聞かされるし、意味はよくわからない」

「そんなことよりだな、本屋の従業員でいいのかって話だろ。意見を聞かせてくれよ」

「お前、本好きだろ?仕事の愚痴も聞いたことないし、それに、安見さんがいるんだろ?」

「そうなんだけど……。夢は追いたいものじゃないか」

「オーケーオーケー、だったら答えは出ている。追いたかったら追えばいい」

「才能がなかったらその時間無駄だろ?やっぱり躊躇っちゃうというかなんというか……」

「お前は何でもかんでもやらないことの理由付けはうまいな。何でもやってみたらいいんだって。
いくつも書いてみたら一つぐらい面白いものが書けるっていうことは科学的に証明されてる」

「本当かよ」

「本当だよ。無限の猿定理っていって、ランダムな文字列の中にもシェイクスピアの名作が隠れてるっていう定理だ」

「凄いな」

「凄いよ」

「喫茶店でコーヒーを飲みながら眠くなるとは思わなかった」

「……。兎に角な、やってみて悪いことはないからやってみろって。小説を書いてみたり、阿藤の本も読んでみたり、安見さんに告ってみたり」

「最後おかしくないか?まあ、小説は書いてみるが、阿藤の本は読まんぞ。そんな簡単に説得されてたまるか」


――

買ってしまった。

田口に言われると簡単に買ってしまうな。

自分でも悪い癖の一つだと思うが、残りの六癖は何だろうか。

これは少し面白くないか?このジョークは小説に入れてみよう。

『夜分にすみません。明日なんですが、ランチに付き合ってもらえますか?
一度は行ってみたいと思ったパンケーキ屋があるのですが、男一人だと入りづらくて…』



気が付けば、安見さんに送る予定のメッセージまで打ち終わっている。

送った。返答までの間隙の恐ろしさは自分の恋愛経験の少なさからだろうか。

……。何もしていないと落ち着かないな。仕方がない、本でも読むか。

「ザ・デフ・アンド・ダム」 

直訳して、聾唖者か。前々から思っていたが前衛的な題名だな。

権利団体とかなんとかいうところから苦情が来てもおかしくないだろう。

そんなことを考えながら、電気ケトルのスイッチを入れて、コーヒーがわくまでの間にすでに本を読み始める。


――――



気が付いたら、日付が変わっている。

そろそろ寝るか……。違う。返信を確認しなければ。

どうやら、まだ来ていないようだ。


♪~


来た!

『すみませんm(_ _)m今流行りの本を読んでいたら遅くなってしまって……ヾ(^-^;)
いいですね!ヽ( ´¬`)ノ是非、行きましょう(^^)』

よし!!一緒に行ってくれるみたいだ。

そうか、安見さんもこの本を読んでいたのか。同じときに同じことをやっていたことに喜びを感じることもできるが、

物書きに憧れた者としては嫉妬の感も現れる。

しかし、面白いなこの本は。嫉妬しつつも尊敬してしまう。

小説よりも先に阿藤へのファンレターを先に書くことになりそうだ。

面白いと感じたご存命の作家さんにはファンレターを書くことにしている。

作家を少しでも目指していたものとして、読者の反応が返ってくる機会が嬉しいことを知っているし、

自分のファンレターでより面白い作品を書けたとしたら、俺もうれしい。

――――



「明石さん、明石さん。阿藤宛てのファンレターはどうしたらいいですかね?」

後輩の吉戸がいつも通りうるさく話しかけてくる。

「もう少し静かに話しかけられないのか。ファンレターぐらい煮るなり焼くなり好きにしろよ。コンピューターがファンレターなんぞ読みやしないんだから」

「分かりました!! いやー、それにしてもすごいっすよね、ランダムな文字列の中にこんな名作があるだなんて」

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おわり

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