女「ねぇ、ビール奢ってよ」(21)

男「………お前、何歳だよ」

女「18歳」

男「じゃあ、ダメだろ」

女「今時、みんな飲んでるよ?」

男「だったら自分で買えよ」グビ

女「制服だし、お金ない」

男「何でこんな夜中に女子高生がいるんだ?」グビ

女「お酒飲みたいから」

男「そりゃ理由にはならないな」

女「1本、頂戴」スッ

男「20歳になったらな」グビ

女「アンタは何歳よ」

男「何歳に見える?」

女「43」

男「ぶっ殺すぞ、お前」

女「アンタは何歳の時に飲んでたの?」

男「ちゃんと大人になってからだ」グビ

女「……………嘘つき」ボソッ

男「ん……………?」グビ

女「……………」バシッ

男「おい…?!」

女「……………んっ」グビ

女「…苦い、まずい」

男「お前、初めてかよ…」

女「なんでこんなもんをグイグイ飲めるのよ」

男「この味がわからんようじゃまだガキの味覚ってことだ」グイ

女「なによ、偉そうに。あたしとそんな歳離れてないんでしょ、どうせ」

男「どうせ俺は外見43のおっさんだからな」

女「結構根に持つね、アンタ」

男「最初に言い出したのはお前だろ」

女「……もうビールはいい」

男「おう、それでいいんだよ。お子様はとっとと家に帰りな」グイ

女「チューハイ奢ってよ」

男「二十歳になったらな」

女「なによ、ケチ。あたしがアンタに付き合って飲んであげるって言ってるのに」

男「余計なお世話だよ」グイ

女「………」モグ

男「おい、それは俺のつまみだぞ」

女「あら、そうだったの?てっきりここに捨てられてるのかと思った」モグ

男「手をつけた以上、払うもんは払っていけよ」グイ

女「お金ないってさっきも言ったでしょ」

男「別に金で払ってもらえるとは思ってねーよ」

女「………スケベ」モグ

男「男はみんなスケベなもんなんだよ」

女「……ここじゃ嫌」モグ

男「は?」

女「どこか、ゆっくり休めるとこに連れってってよ」

男「………」

女「なに黙ってるのよ」モグ

男「お前、本気か?」

女「アンタから言いだしたんでしょ」

男「………わかった、俺の負けだ」

女「なにがよ」モグ

男「つまみで良けりゃ好きなだけ食っていけ。ただしアルコールはダメだぞ」

女「なにそれ、つまんないの。アンタ、もしかしてヘタレ?」

男「せっかく妥協案を提案してやってるのにその言い草はなんだよ」

女「間違ったことは言ってないでしょ。あたしはいいって言ってるんだから気にせずヤればいいのに」モグ

男「世間一般じゃ成人男性が未成年に手を出すのは犯罪行為なんだぞ」

女「知ってるよ、それくらい」

男「この歳でおまわりさんのお世話にはなりたかねーからな」

女「ふーん……変わってないね、アンタ」

男「……は?」

女「高校の頃となんにも変わってないって言ってんの」

男「………お前、俺の事知ってるのか?」

女「知ってるよ。名前は男、今は21歳で土木作業のお仕事をしてる」

男「…………」

女「なに?もしかして全く面識のない女子高生が絡んできてるとでも思ってたの?」

男「あ、ああ」

女「バッカみたい。そんなラノベみたいな話あるわけないでしょ」

男「悪いが、俺はお前のこと全く知らないぞ」

女「そりゃそうでしょうね。アンタが高3の時はあたしまだ高校に上がってないもん」

男「………もしかして、俺のストーカーかなんかか」

女「アンタ、自分がストーカーされるほどイケメンだとでも思ってるの?だとしたら自惚れ極まれりね」

男「…………」

女「別に、大した理由なんてない。体験入学で行った時に、2・3言葉を交わしただけだから、覚えてないのも無理ない」

男「ああ……そういや、そんなこともあったな」

女「アンタとあたしの接点はそれだけ。納得した?」

男「いや、それだけの接点でお前が覚えてるのも結構びっくりものだと思うが」

女「アンタから見たらこれから高校にあがる人たちに先輩として接しただけだろうけど、あたしから見たら入ろうとしてる高校で体験入学者相手に出来るくらいの優秀な生徒だったんだよ?」

男「まあ、そうと言えないこともないな」

女「アンタが考えてる以上に、あたしから見たアンタは雲の上のような存在に見えてたってことよ」

男「うん……うーん……?」

女「別に分からないなら分からないで無理に分かろうとしなくてもいいよ。変なこと言ってる自覚はあたしにもあるつもりだから」

男「それで、じゃあなんで俺に声なんて掛けたんだよ」

女「雲の上のように見えた人が、夜の公園で酒盛りなんてしてるの見かけたらどう思うと思う?」

男「………分からん」

女「想像力乏しいね」

男「やかましい。茶化さないで言えよ」

女「まあ、率直に言うと放っとけないなーって思っちゃったわけよ、あたしは」

男「ただの余計なお世話だな」

女「うるさいわね。余計なお世話焼かれたくなかったらこんなところでビールなんて煽らないでよ」

男「なんだよ、俺のせいか」

女「そう、アンタのせい。お酒を飲むならちゃんと家に帰ってから飲みなさい」

男「ずいぶんとまあ偉そうだな」

女「後輩からのありがたいお言葉よ。ちゃんとかみしめてほしいところだけどね」

男「………分かったよ」

女「分かったならチューハイ奢って」

男「二十歳になったらな」

女「………じゃあ、あたしが二十歳になるまではここでビール飲んでてもいいよ」

男「は?」

女「あたしも、気が向いたときにここに来てアンタの話相手になってあげるから」

男「上から目線だな」

女「いいじゃない。一人でビール飲んでたっておいしくないでしょ?」

男「まあ、話相手いる方が酒はうまいわな」

女「なら決定ね。それじゃ、あたしそろそろ帰る。あんまり遅くなるとお父さんとお母さん心配するし」

男「最初から素直に帰ってれば良かったのにな」

女「うっさい!」

女「あ、それともうひとつ」

男「なんだよ、まだなにかあるのか?」

女「あたしが二十歳になったら、ビールのおいしさをあたしに教えること」

男「ビールのうまさは教えられて覚えるもんじゃねーよ」

女「それなら、あたしがおいしいと思えるようになるまで付き合うこと」

男「……まあ、それくらいなら」

女「それまではここでお酒を飲む習慣をつけなさいよね」

男「家で飲めと言ってみたりここで飲めと言ってみたりわけわかんねー奴だな」

女「なんなら、アンタの家で飲んでもいいよ」

男「俺の家まで来たらそれだけで終わんねーからな」

女「大丈夫!その頃にはあたしも二十歳になってるだろうから、おまわりさんのお世話になることもないでしょ!」

男「いや、突っ込みどころそこじゃねえだろ!」

女「じゃーねー、男!また明日!」タッタッタ

男「………行っちまったよ。変な約束しちまったなぁ……」


男「って、また明日……?」


おしまい

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