楓「トリックオアトリート」 (43)

お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、だったかな

それはさておき

「楓さん」

「はい、何でしょう?」

にこり、と

それはもう満面の笑みで

これ以上ないくらいの笑顔で

俺の膝の上で返事をする

魔女の衣装を着た楓さん

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446469270

「そろそろ降りてくれませんか?」

「無理です」

即答ですか

「何故ですか?」

「降りたくないからです」

うん。実に分かりやすいですね

花丸をあげましょう

「ですが、これでは仕事ができません」

「明日にしましょう、仕事は」

簡単に言わないでください……

「明日の仕事はわーくわく、ですね」

全然わくわくできませんからね!?

むしろ、ちひろさんに怒られるビジョンしか思い浮かびませんよ……

「今日できることは今日やりたいんですよ」

きょとんとしていらっしゃる

鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔だ

「もぅ、ノリが悪いですね」

ぷくっと頬を膨らませて抗議された

子供みたいな仕草だが

この人がすると、不思議とそんな感じがしない

「貴女を膝を乗せている時点でノリも何もないでしょう……」

散々お願いをされて、こちらが折れてしまった訳なんだが

わーい! なんて飛び跳ねて喜ばれたら、流石に悪い気はしない


……だが、断言しよう

これはまずい

俺が色々とまずい

楓さんの体温、柔らかさ

そして、この良い匂い

変態みたいな言葉ではあるが、こんな言葉しか出てこない

軽いパニック状態だ

たまに、身じろぎするのだが

太ももに伝わる柔らかさにびくりとしてしまう

年少組のアイドルたちにお願いされて、膝に乗せる時はあるが

考えが甘かったようだ

大人と子供でこうも変わってしまうとは……

しかし、現在進行形な今

どうにかして乗り切らなくてはいけない

ちらりと元凶でもある楓さんを見てみると

「~♪」

こちらの考えなんてお構いなしに御機嫌だ

「どうしたんですか?」

こちらの視線に楓さんが気づく

どうしたものか

何か会話の糸口を見つけて、気持ちを切り替えなくては

「いえ。そういえば、その衣装はどうしたんです?」

目を凝らして衣装を見てみる

生地や裁縫がしっかりしていて、安物ではない事が一目でわかる


「凛ちゃんたちが奈緒ちゃんに用意したみたいなんです」

ほうほう

「でも、奈緒ちゃんが逃げちゃったらしくて」

あいつ恥ずかしがり屋だもんな

容易にイメージが想像できる

「で、それを譲り受けたと?」

よく逃げ切ったな、奈緒

「正解です」

ウィンクも頂きました、ありがとうございます

「でも、私には少し大きいみたいなんです」

ぴらり

指で胸のあたりを開けてみせる

「ほら」

瞬間的に顔を背ける

「はは、そうなんですか」

狙ってやってるのか無自覚でやってるのか

この人は無自覚なんだろうなぁ……

「丈は短いんですよ」

ぴらり

今度はスカートの裾を摘まむ

また顔を背ける

これは精神攻撃か何かですか?

男としての性とプロデューサーとしての理性

まだプロデューサーとしての理性が勝ってくれている

よし、まだまだ耐えられる




「あら? どうしたんですかプロデューサーさん」

にこにこと笑って顔を覗きこんでくる

貴女、分かっててやってますよね?

「あの、そういうのは自重してくれますか」

おずおずと切り返す

……何で俺がお願いする立場になっているんだ

「ふふっ」
 
俺の言葉を聞いてから、笑顔の質が変わった




アイドルの高垣楓としてではなく

女としての高垣楓

ファンを魅了するのではなく

男と虜にする笑み

「私、嬉しいんです」

嬉しい?

「プロデューサーさんが私を意識してくれて」

こんな状況で意識しない奴なんていないでしょうに

そんな奴がいたら是非見た見たいものだ

「貴女の周りには可愛い子がたくさんいます」

みんな俺がスカウトしてきた子たちですからね

自信を持ってプロデュースしていますし

どこに出しても恥ずかしくはないです

「そんな子たちが少なからず貴方に好意を持っています」

年上の異性への憧れを勘違いしてるだけじゃないですかね?

こんな男を好きになっても無駄だと思います

男なんて腐るほどいるし

あれだ。恋に恋するお年頃って奴だ

うん、きっとそうに違いない

「皆、それぞれアピールしています」

身に覚えがあるでしょう? と聞かれた時

まったく無いとは言えないが

そこまで言うほどのものかと思うと疑問が残る

弁当や差し入れなんて、感謝の気持ちなのではないだろうか

「ある時、私の中で変化があったんです」

淡々と楓さんが語る

自分の気持ちを、俺に対する感情を

「変化ですか?」

変化

変わること、変わってしまうこと

あるいは、変わらなければならなかったこと

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom