塩見周子「お前のことが好きだったんだよ!」 (29)

P「………」

周子「……ちょいちょい、なんか反応してよ」

P「いや……なんだ? いきなり」

周子「Pさんが愛の告白をするとしたら、こんな感じかなーと」

P「君の中だと俺は随分情熱的な人間らしいな」

周子「まーね。で、実際はどんな感じなん?」

P「どんな感じもなにも、相手がいないのに告白の言葉なんて考えたことないけど」

周子「シューコちゃんは?」

P「本製品には対応しておりません」

周子「家電選びでたまにやらかすミスを挙げるのはやめよーよ」


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P「まあ冗談はさておき、今日はいい天気だな」

周子「そだね。気持ちのいい秋晴れ」

周子「って、あれ? さりげなくさっきのやり取り丸ごと冗談にされてる?」

P「アイドルが恋愛の対象になるわけないだろう」

周子「そっかー、対象にとれないかー」

周子「ならさ、対象をとらない効果ならセーフ?」

P「君が何を言っているのかさっぱりわからない」

周子「でもさ、実際一度くらいは告白のセリフ考えたことあるでしょ?」

周子「今まで恋のひとつもしたことないっていうんなら別だけど」

P「……まあ、確かにそういう時期もあったな。結局勇気を出せずに想いを伝えられずじまいだった」

周子「ほうほう。それで、どんな言葉を告げようって考えてたん?」

P「やけに食いつくな」

周子「女の子は恋バナ大好きな生き物だし。あたしも例に漏れずってね」

P「なるほど。でも告白のセリフは教えないぞ」

周子「えー、なんで」

P「恥ずかしいから」

周子「けちー。つまんなーい。お腹すいたーん」

P「最後関係ないだろう」

周子「どさくさに紛れて空腹を訴えることで何かおごってもらおう作戦」

P「果たしてその作戦にまともな効果はあるのか」

周子「効き目があるかどうかを決めるのは、Pさんだよ」

P「………」

P「……向こうにクレープの屋台があるから、買っていくか」

周子「あんがと♪」

P「俺も小腹が空いていたからな。他の人にその作戦使っても効果ないからな」

周子「うん、知ってる。やさしーPさんにだからこそ通る技だね」

P「まったく……」

P「着いたぞ」

周子「おー。ここがPさんのハウスかぁ」

周子「ひとり暮らし?」

P「両親と妹と4人暮らし。今は全員出かけてるはずだけど」

周子「だよね。こんな立派な一戸建てにひとりで住んでるはずないか」

P「プロデューサー業にも慣れてきたし、来年あたりにはこの家を出ようとも考えてる」

周子「ひとり暮らし始めたら教えてよ。毎日くつろぎに行くからさ」

P「一生教えないでおこう」

周子「わー、ひどいわー、傷つくわー」

P「本来アイドルが男の家に来るのはよくないことなんだから、しょうがないな」

周子「じゃあ今日は?」

P「君がライブを頑張ったご褒美に連れていけって言い出したんだろう。だから特別に許可したんだ」

P「……改めて聞くけど、本当にこんなことがご褒美でいいのか? この前のライブは本当によかったから、俺としてはもっとまともな報酬をあげたいんだが」

周子「いいんだって。あたし、前からPさんの家に行きたいと思ってたんだから」

周子「それでも納得できないっていうんなら……あ、そうだ。今日の晩御飯、ここでごちそうになってもいい?」

P「え? ああ……とりあえず、母さんに聞いてみないと」

周子「んじゃよろしく。それはそうと、早く中に入らない?」

P「そうだな。自分の家の前で立ち話っていうのもおかしい」

ガチャリ


P「さ、どうぞ」

周子「………」

P「どうかしたのか」

周子「あ、うん。今思いついたんだけどさ……幼なじみって、いいよね」

P「……はい?」

周子「だからさ、幼なじみが隣の家に住んでて、屋根づたいに2階の窓から入ってくるのとか。いいよね!」

P「いや、親指立てられても特に共感できるところがないんだが」

周子「えー? わかんない? そういうシチュエーションのよさ」

P「今時そんなの漫画とか小説の中でしか見たことないぞ……」

周子「だからこそ憧れるわけよ。というわけで、2階の窓からお邪魔してもいい?」

P「危ないからダメ。1階の窓からならいいぞ」

周子「それちがーう。なんかちがーう」ブーブー

周子「お邪魔しまーす」

P「結局玄関から普通に入ったな」

周子「へー、内装は結構洋風だね」

P「周子の実家は和風だよな」

周子「ま、和菓子屋だから。そーいうわけで、小さい頃から割とこういう家に憧れてたんだよね」

周子「将来ダンナと結婚して暮らすなら、こんな家がいいかもなー」

P「ふーん」

周子「………」

周子「結婚して暮らすなら、こんな家がいいかもなー!」

P「なんで2回言う」

周子「さあ、なぜでしょう」

15分後


周子「あはは、このお笑いコンビおもしろーい。これは伸びるね、あたしが保証しちゃう」ケラケラ

P「お茶のおかわりいるか?」

周子「うん、お願い。いやー、ここに来るまで結構歩いたから、喉渇いちゃってたみたいでさー」

P「それはいいんだが……君、すごくくつろいでるな」

周子「んー?」

P「テレビ見ながらソファーにゆったり腰かけている姿からは、とても初めてここに来て15分しか経っていないようには感じられない」

周子「そう? ま、あたし適応力高いし」

周子「もしくは……実は昔、ここに来たことあるとか?」

P「なんだそりゃ」

周子「ほら、小さい頃にあたしとPさんが出会っていた、なんて展開だと面白くなるかなーと」

P「面白くなるって、何が?」

周子「何がって……なんだろうね、あはは」

P「自分でもわからないのか……相変わらずテキトーだな」

周子「それがシューコちゃんのアピールポイントなので」

P「しかし、『幼なじみ』の次は『昔一緒に遊んだ仲』か。今日はそういう設定作りが好きだな」

周子「そうだねー。Pさんとそういう関係なら、なんか楽しそうかなって」

P「まあ、どのみちそういう展開は必要ないだろう」

周子「うん? なんで」

P「そういうエピソードがなくても、俺が周子に魅力を感じてスカウトして、君はそれに応えてくれた。それが一番大事なことで、それ以外はおまけみたいなものだからな」

周子「………」

P「……周子?」

周子「そういうこと真顔で言えるのは、ちょっとずるいなー」

P「ずるいって……というか、なんでそっぽを向いているんだ」

周子「なんでやろうねー、ポエマーさん」

P「おい、ポエマーってなんだ。そこまで詩的な表現使った覚えはないぞ」

周子「PさんのPはポエムのP~♪」

しばらく経って


P「そういえば、アイスあるけど食べるか?」

周子「アイス? 食べる食べるー♪」

P「食いつき早いな。さっきクレープ食べたのに」

周子「甘い物は別腹だから」

P「なるほど。わかった、とってくる」



P「持ってきたぞ」

周子「ありがとー。って、あれ。Pさんのぶんは?」

P「1個しか残ってないから。それはもともと俺のぶんだったやつ」

周子「だったらPさんが食べないと」

P「いや、俺はいいよ。アイスくらいまた買い直せばいいし」

周子「うーん……じゃあ、二人ではんぶんこしない?」

P「はんぶんこ?」

周子「はむっ……うん、冷たくておいしい」

周子「ほら、Pさんの番だよ」

P「……この120円アイスをはんぶんこ、しかもわざわざ交互に食べる必要があるんだろうか」

周子「たまにはいいんじゃない? 童心に返れるし、あたしはこういうの好き」

P「周子は童心に返るっていうか、今も十分童心を持ち合わせているような」

周子「細かいことは気にしなーい♪ほら、さっさと食べないと溶けちゃうよ」

P「……まあ、たまにはいいか」

夜 帰り道


周子「お母さんの料理おいしかったー。余は満足じゃ♪」

P「気に入ってもらえたようでなにより。でも周子、母さんとも父さんともすぐに打ち解けてたな」

周子「年上にはなぜか好かれるんだよねー。ま、妹ちゃんにはちょっと怖がられてたかな」

P「チャラそうだからな」

周子「あー、そういうこと言いますか。こんな純粋な子を捕まえといて」

P「ドーナツタダ食い狙いで献血に行く人間が純粋ねえ」

周子「それはそれ、これはこれじゃない?」

P「調子のいいやつだ」

P「女子寮到着、と。じゃあ、また明日」

周子「今日は楽しかったなー。またPさんの家にお邪魔していい?」

周子「あと、ひとり暮らし始めたらちゃんと教えてよ?」

P「……教えるのはかまわないけど、軽はずみにほいほい来るのはダメだぞ」

周子「ちぇー」

P「仕方ないだろう」



周子「………」

周子「ならさ。真面目な理由なら、行ってもいい?」

P「え?」

周子「なーんてね。ほんじゃ、おやすみー」スタスタ

P「………」

P「……女狐だな、あれは」



おしまい

終わりです。お付き合いいただきありがとうございました
周子のSSは書いたことなかったのですが、初めて描くキャラはやはり難しいですね。精進します

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