少女「これ、よかったら食べて下さい」 縁「・・・」 (22)

少女「これ、よかったら食べて下さい」

縁「・・・」

縁は、声がした方向に顔を向けてみた。そこには二人の少女がおり、一人は十歳くらいもう一人が八歳くらいであった。

少女妹「あんまり優しくしちゃ駄目だよお姉ちゃん、落人村ではみんなの団結力が大切なのにその人いつも日記持って座ってるだけなんだもん」

少女「だって私、この人が何か食べてるところ見たことなかったからお腹空いてないかなと思って」

少女「それに、いつもすごくさみしそうな顔をしていたし・・・」

少女妹「もう、優しすぎるのがお姉ちゃんの欠点なんだから」

少女「アハハ・・・これ、ここに置いておきますね」

そう言うと二人とも去って行った。子供二人でこんなところにいるのには何か事情がありそうだが、今の縁にはそんなことを気にしているほど心に余裕はなかった。










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翌々日もその姉妹は食べ物を持って来た。

少女「食べてくれたんですね」

少女妹「カラスが持っていったんじゃないの?」

少女「今日もまたここに置いておきますね」

縁「・・・いらなイ」

少女妹「しゃ、喋った・・・」

少女「ですが、何も食べずにいたら体に悪いですよ」

少女「ここに置いておくので気が向いたら食べてくださいね」

その翌々日も姉妹は食べ物をもってきた。

少女「今日もここに置いておきますね」

縁「・・・」

少女妹「黒い羽根が落ちてるんだけど本当にカラスが持っていったんじゃない?」

少女「そういえば、まだあなたの名前を知りませんでしたね」

少女「よかったら教えていただけませんか?」

縁「・・・そんなものを教えてなんになるんダ」

少女妹「ちょっと!せっかくお姉ちゃんが仲良くしようとしてるのに!」

少女「いいんです。教えたくなければそれで」

少女「また明後日ここに来ますね」

縁「・・・」

それから二日に一回のペースで姉妹は縁のところに来た。最初のうちは本当にカラスが持って行くだけだった食べ物も、縁はたまに食べるようになっていった。

少女は縁のところに行くのが楽しみになり、自分たちの両親がすでに亡くなっていることや、路頭に迷っているところをここの村長に拾われたこと、自分が妹の姉であると同時に母親の代わりであることを話していた。縁は基本喋らず、喋っても一言か二言なので会話が成立しているかは怪しかったが、それでも少女にとっては楽しかった。

少女の妹も、最初は縁を警戒していたが

少女妹「村長がカステイラを持って来たんだけど、二人じゃ食べきれないからアンタにあげる」

と言って持ってきたり、村長や姉のことを縁に話すようになっていった。

縁ってるろ剣?

>>5 そうです

ある日、姉妹の他にオイボレと呼ばれる老人が縁のもとにやってきた。

少女妹「あっ、オイボレさん!」

オイボレ「おぅ、元気のいい娘さんじゃのう」

オイボレ「さて、気のせい同士の知り合い君、元気だったかのぅ」

縁「・・・」

少女「気のせい同士の知り合い?なんですかそれは?」

オイボレ「それはな、わしも彼にどこかで会った覚えがあるし、彼もわしの顔に見覚えがあるということで気のせい同士の知り合いなんじゃ」

縁「・・・なんの用だ」

オイボレ「そうじゃ、わしはな、君に差し入れを持って来たんじゃよ」

そう言ってオイボレが懐から取り出したのは小さなびんだった。

オイボレ「いくつかあるから娘さん達にもあげるからのぅ」

と言いびんのふたを開けると優しい梅のような香りが辺り一面に広がった。

少女妹「なにこれ香水?」

少女「いい匂いですね」

縁「・・・・白梅香」








少女妹「ありがとうオイボレさん大切に使うね」

少女「オイボレさんありがとうございました。」

オイボレ「気に入ってくれたみたいじゃの」

少女「お兄さん、私たちこれから村長のお手伝いをしないといけないので帰りますね」

少女妹「また明後日ね」

姉妹は帰って行ったがオイボレはまだ縁のそばに残っていた。

オイボレ「いい子達じゃの、わしの娘と息子もあんなふうに仲がよかったから懐かしい気持ちになったわい」

縁「・・・なぜ俺にこれを?」

オイボレ「以前会ったときに君は元気がなかったからのぅ」

オイボレ「いい匂いの効果で少しでも君の心が改善に向かえばと思ったんじゃよ」

オイボレ「さて、わしもそろそろいくかの」

オイボレ「またのぅ、気のせい同士の知り合い君」

そう言って、ええじゃないか、ええじゃないかと連呼しながら去って行った。

縁は白梅香のびんと雑記帳を握りしめながら幕末に死んだ姉のことを考えていた。姉のことはひと時も忘れたことはなく、思い返せば様々な光景が蘇ってくるが、なぜか優しく微笑みかけてくれる姉は思い返せずにいた。

オイボレが、縁が雑記帳を持っているのを見て

オイボレ「君は、捨てていないからまた立ち直ることができるよ」

と言っていたのでなんとなしに雑記帳を読み返してみたが姉を失った時の悲しみが蘇ってくるだけだった。

答えはもう既に持っているのに、姉の笑顔の取戻し方がわからない。

縁「どうしたら笑顔になってくれるんだよ姉さン・・・」

もう一度自分の心に姉の笑顔を取り戻したいと考えながら縁は眠りについた

いつもは、二日に一度昼間に姉妹そろって来るのに、その日は昨日に続けて連日で夕方に妹だけが走ってきた。

少女妹「お兄さん・・・お姉ちゃんを・・・お姉ちゃんを助けて!!」

縁「・・・」

少女妹「さっき落人村に帰って・・・グスッぐる途中に変な人たちにかこまれで・・・」

少女妹「あだじは・・グスッお姉ちゃんのおかげで逃げられたけど」

少女妹「お姉ちゃんは連れでいかれちゃっで・・・グスッ」

少女妹「村長さんは・・・グスッまだ町で・・グスッ仕事してるからみつがらなくて」

縁「・・・警察に頼めばイ

少女妹「警察じゃあ準備してる間に連れていかれぢゃうよお!!!」

ここは落人村だから人がいなくなっても気づきにくい。そう考えた輩が姉をさらって海外に売りつけようとしているということだろう。武器商人だった縁にはあまり関わり合いがなかったが、東洋の魔都といわれていた上海では日常茶飯事だったのであまり驚かなかった。

縁には正直助けてやろうという気は起きなかった。会ってまだ間もないこの姉妹を助けなかったからといってここにくる者がいなくなるだけだし、この姉妹がいなくなろうとも心の中の姉がいれば十分だからだ。

ここで自分が動かなくてもこの子にとって姉であり母の代わりである姉がいなくなるだけで自分にはなんの関係もない。

そう思って縁は少女妹に向かって言った。

縁「・・・お前の姉サンをさらったヤツはどこへ行くと言っていたか分かるカ?」



少女妹「確か・・・おおs

縁は近くにあった竹竿を拾って京都から大阪へ向かった。人をさらって売り飛ばすなんてことをしている連中なので移動は夜になるだろう。

夜に港まで移動して夜が明け切らないうちに出港すると考えれば、今からでも十分に間に合う。

縁「いったい何をやっているんダ俺は」

縁「一人で集団・・組織と戦うなんて正気じゃないダロ」

などと言いながら足を速めた。

少女をさらった組織は亥の刻に京都を出た。

京都を出る時も、出てからの道のりもすべてが順調に進んでいた。

そんな中、京都と大阪の中間地点付近で道の真ん中に人影を発見した。

下っ端「どうします?迂回していたら夜が明けますよ?」

ボス「まっすぐ進むしかねぇだろ、場合によっちゃ奴を始末する」

そんなやり取りをしているうちに人影が寄ってきた。

人影の正体は、妙な中華服を着て、竹竿をもった長身の男だった。

ボス「お兄さん、なんか用ですかい?」

縁「その子達をこちらに渡セ」

ボス「こいつらは商品なんですよ。横取りしようとするなら容赦しねぇぜ」

ボス「おめぇら、こいつを片付けちまいな」

下っ端1「ヘイ」

下っ端2「お兄さーん、まさかその竹で戦うなんて言うんじゃないでしょうね?」

下っ端3「これじゃあ弱いものいじめもいいとこだぜ」

縁「・・・いくぞ」

縁「破亜亜亜亜亜亜ッ!!」





縁は強かった。スピードは銃弾を避ける程速く、蹴りの威力は大男を吹っ飛ばす程のパワーがあった。

下っ端1「なんだこいつ」

下っ端2「銃弾があたらねぇぞ」

三十人近くいた下っ端は馬鹿にしていた竹竿すら使われず、十分ほどで全員倒されてしまった。

下っ端「うぐっ・・・」

縁「あとは、貴様だけだナ、貴様がボスの様だガ」

ボス「なるほど、確かに強ぇえ」

ボス「だが、武術をやってる強さじゃねぇ、てめぇは単に戦い慣れてるだけの強さだぜ!」

縁は、倭刀術はおろか倭刀術の動きすら使っていなかった。使っていれば下っ端をさらに速く片付けられたはずだが、潜在意識にある剣術で人助けをする嫌悪感が制限をかけてしまっていた。

敵のボスは強く、どこの流派か分からないが安定した強さの剣術と、間合いの外からの銃撃でなかなか隙がない。

縁「クソッ・・・」

ボス「ホラホラ、さっきまでの勢いはどこに行ったんだよ!」

このままでは勝てない。そんな考えが頭をよぎったとき

少女妹「お兄さーーーーん!!」

と後ろで声がした。

縁「なんでこんな危険なところに来たんダ!」

ボス「商品が増えたみてぇだな、あとはてめぇを倒して終ぇだ!」

ボスが剣を構えて突っ込んできた。縁は無意識に腰を落として低く構えた。

ボス「うおおおおおお」

縁「破亜亜亜亜亜ッ!!」

ボスが振りかぶった瞬間、縁は技を繰り出した。


ーー虎伏絶刀勢ーー


竹竿は粉々に砕け散り、ボスの体は宙に吹っ飛ばされた。








ボス「剣・・術・・お前・・・素人じゃなかった・・・・のか」

ボスを倒した後、縁はつかまっていた少女と、一緒に売り飛ばされそうになっていた人たちを解放した。

つかまっていた人全員にお礼を言われたが、なぜ連れ去られそうになっている人たちを助けようと思ったのか自分自身でも解らなかった。

少女「ありがとうございました、お兄さん」

縁「妹が心配していたゾ、早く行ってやレ」

少女「はい!」

遠くから声が聞こえる。途中で少女妹が姿を現したのは警察を呼んできたことを知らせるためだったらしい。

縁は、これから京都まで警察から身を隠しながら戻る苦労や、自分の今回の行動の動機のことを考えていたので落ち着かないでいた。

しかし、同時に梅ような香りとともに流れてくる暖かい夜風を心地よく感じていた。

短いですがこれで終了します。ありがとうございました。

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