【艦これ】「私は今日も待っている」 (34)

ss初投稿です

注意
・ただの思いつきでかなり短いです
・独自設定、オリキャラあり
・文学オマージュ作品

それでよければ見てってください

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横須賀港にほど近い小さな公園で、私は毎日待っている。何かを……待っている。

 毎朝公園を一周し、夕方になるまで、海沿いに置かれた、キラキラと輝く海と同じ青いベンチに腰をおろし、被っていた帽子を膝に乗せ、ぼんやり海を眺める。

 あまり人が居ない。まるでこの世界に私だけしかいないような錯覚にも陥るくらいに波風と、時たまウミネコの鳴き声のみが響くこの公園。

 最近まで燦々と輝いていた日差しも少しずつ弱くなり、そろそろ風が冷たくなった。もう直ぐに、秋刀魚のおいしい季節になるだろう。

 今日も静かで、キラキラして、けど……その水面から深海まで沈んで行きたくなってしまうような不思議な引力の持つ海を、私はぼうっと眺めながら待つ。

『隣、失礼します』

ベンチに腰掛海をぼうっと眺める私に、可愛らしく、どこか懐かしさを感じさせる声で問いかけ、隣に座る。とても発音の良い英語。日本育ちの日本人になるのだろうが生まれは英国なので、英語も日本語もどちらもわかる。
そんな私でも見事だと思う綺麗な発音。きっと、普段から英語を聞きなれない方にはまず聞き取ることができないだろう。

私は今回は声の主がわかるからいいが、これが知らない方だとしたら……こわい。
それに、困る。緊張する。考えただけでも、背中に冷水をかけられたように、ぞっとして、息がつまる。動悸も激しくなる。
けれども私は、やはり待っている。

……どんな人を?






『』の中は英語と言うことでお願いします

いや……私の待っているものは、人間とは呼べないかも知れない。
私は、人間を好きではない。いいや、正直言うと、好きや嫌いなどの気持ちがまだよく……いや、少ししかわからない。

人と顔を合せて、お変りありませんか、寒くなりました、などとまるで仮面を被っているような笑顔で挨拶を、いい加減に言っている人間を見ると、何と言えばいいのか、生き辛くないのかと疑問に思い、とても……モヤモヤする。

こんな時代なのだ、少しくらい素直になっても罰はあたらないだろう。

しかし、そうしてまた、相手も、むやみに相手を警戒したり、面倒くさそうに当たり障りのない挨拶しているのを聞いて、私は人間のけちな用心深さで、世の中が嫌でたまらなくなる。

同族同士で警戒しあってる場合などではないだろうに。

 世の中の人間というものは、牽制のような挨拶をして、互いの顔色を窺い、そうして本心を隠して、一生を送るものなのだろうか?

 いや、少なくとも“あの方”は違った。

 しかし、他の人たちはあの方と同じではない。

 そう考えると、私は、どうして気持ちなど、感情など持ってしまったのだろうと自分ではわかるはずもない自問自答を繰り返すことになる。

 それが嫌になった私の日課は、基本は自分の居るべき場所にいて、閉じこもりながら姉達や友人達、そして……私を育ててくださったあの方のことを考えることだった。

けれども、彼女らが――――深海棲艦達が現れ、戦いが始まり、周囲がひどく緊張してから、私だけがあの場で毎日ぼんやりしていることが、何だか不安で、ちっとも落ちつかなくなった。

身を粉にして戦って、直接に、役に立ちたかった。しかし、私は、私の今までの生活に、時の流れの速さに自信を失ってしまった。

あの場に黙って座って居れない思いで、けれど、海に出たところで、私はただの足手まといだ。

だから、毎朝散歩をし、ぼんやり海沿いの冷い青いベンチに腰かけている。

誰かが、ひょいと私を呼びに現われたら。という期待と、現われたら困る、どうしようという恐怖。
しかし、現われた時には仕方が無い、その人に私を使わせよう、という決意。

私という存在が……今の何物でもない私という存在が、兵器か、人間であるか決まってしまう、あきらめに似た覚悟と、その他さまざまな空想などが、異様にからみ合い、息苦しくなり、体が震える。

生きているのか、死んでいるのか、わからぬような、白昼の夢を見ているような、なんだか頼りない私の現状。

海岸沿いの、様々な顔をみせる海の有様も、私が最も私で居るのに必要なはずの海面が、あんなに乗っていた波が、こんなにも深かったのか、あんなにも高かったのかと飲み込まれる恐怖すら覚える。

ああ……私はいったい、何を待っているのだろう。

ひょっとしたら、私は大変弱い存在なのかも知れない。
過去の大戦で、あの方が乗っていたから、それだけで私は今も丁重にここに住まわせてもらっている。

だからこそ、今が何だか不安で、身を粉にして働いて、お役に立ちたいというのは嘘で、本当は、そんな立派そうな口実を設けて、自身が戦いから遠ざかる言い訳を探して、この場から居なくなる機会をねらっているのかも知れない。

ここに、こうして座り、ぼんやりした顔をしているけれども、胸の中では、皆への後ろめたさで、もうぼろぼろになっているのかもしれない。

私は、なにを待っているのだろう……? はっきりしたビジョンは何もない。ただ、もやもやしている。

けれども、私は待っている。彼女達との戦争が始まってから、毎日、毎日、散歩の後に、この青いベンチに腰をかけて、待っている。

そして、今、この子が、ひとり、笑って私に声を掛けた。

人の姿になったが、魂が覚えている。この子はあの子だ。
よりにもよって、誰よりも、きっと、私というものを理解している。娘であり、妹である存在。かつて『世界最強』と呼ばれたこともあり、大戦争では『最功労艦』として武勲艦にもなった私の誇り。
今はまだ、何も言わない私の隣で海をじっと見つめているが、きっとこの子も今待っている。他の誰でもない、私の言葉を。

ああ……来てしまったか。けど、私の待っていたのは、あなたでない。いや、あなたじゃない方がよかった。

それではいったい、私は誰を待っているのだろう。

姉様方? ちがう。

この子? ちがいます。

友人? ……ああ、怖い。

あの方? なら是非に。

亡霊? ……私のことか。いや、生霊になるのか?

『……そろそろいいですか?』

悩める私に話しかける可愛らしい声。

『ええ。ごめんなさいね。少し……考え事をしていたの』

私も英語で返す。ここは日本で、私達も日本国籍なのに、英語と言うのは少しおかしい気もしないでもないが、気にはしない。大戦争中でもあるまいし、この子とは、この言語で話したい。

『そうですか……答えはでましたか?』

『いいえ、出ないわ。困ったものよ』

そう言い、私はクスリと一つ笑みを零す。彼女も笑みを零した。

『お久しぶりですね、三笠』

そうして、彼女は私の名を呼んだ。戦艦三笠。それが私の名だ。かつて連合艦隊旗艦を任され、あの方――――東郷平八郎が乗った艦として世間には知られ、今は記念艦としてこの三笠公園に“体”が保存されている。

『ええ、久しぶりね。金剛』

私も彼女の名を呼ぶ。世界一硬い鉱物の和名を持つ、その名に相応しい、力強さ、輝きを持つ少女になったものだ……実は○○歳だが。

この子なら○○歳でもいいや、それでも可愛いのだから。

……だが、噂だと随分とはっちゃけているようなので、少しだけでも落ち着きを……。

『何か失礼なこと考えてませんか?』

 何を言うか、娘の成長を喜んでいるだけだ。と私が返すと、『ならいいですけど』と金剛は言う。そして沈黙。

少しして、今度は私が口を開く。

『……何をしにきたんだ?』

結局、私も牽制のように聞いてしまった。これでは私が見ていて悲しくなっていた人々と同じになってしまった。

これが恥ずかしいと言う感情か。

人間は恥ずかしいと顔が赤くなると言う。今、私の顔は、きっと真っ赤に染まっているだろう。

『貴方の顔を見に来ました』

『……それだけか?』

金剛型は最前線で活躍していると見回りの兵が喋っていたのを覚えていた。

そんな前線にいる艦が本当にそれだけでここに来るのか? 軍はそれを許したのか?

『念のために言っておきますと、特別な遠征の帰り……と言う建前です。議事堂で提督に代わり、直接長門が戦果報告を……と。その帰りについでに寄らせてもらいました』

長門までいるのか。私が金剛から視線を外し、奥のほうを見ると、黒髪で凛とした女性がこちらを見つめていた。そして、私の視線に気付いたのか一礼する。……随分立派になったもんだ。

『で、長門まで連れて、本当に顔見せだけ……と言うつもりか?』

『ええ、言います。
寧ろ待ってくれている親に顔見せに来るだけではいけませんか?』

私はそう言われハッとした。

自分でも散々言っていたではないか。“待っている”と。

待つと言う選択をしていたではないか。

『待っている親……か』

『そうですよ。寧ろ他に何を?』

「斬る!!」

「ちょっ、刀具現化なんてどうやったデース!? 艦娘なら艤装展開してくだサイ!?」

私はまだ艦娘にはなってないぞ、憑喪神のような存在ではあるだろが。

暫く追いかけっこをしてたが、長門と護衛の駆逐艦達に止められた。

その後は長門や、護衛の駆逐艦達も混ぜて、暗くなるまでくだらないことを話し、私は彼女達を見送った。

そして、見送ってる最中に、

『待っていてください』

と、……よりにもよって、あの子にと言われてしまった。

私はおかしくなり、大きな声で笑う。

こんなに笑うのは久々だ。涙まで出てきた。

私は今まで何を悩んでいたのだろう。

そうだ、私はあの子たちを信じて、待っていればいいだけなのだ。

戦いたいのに戦えないことを情けなく思い、わざわざ自分を戦えないから戦いたくないと偽る必要などなかった。

だって……私の“誇り”がそう言ってくれたのだ。信じてくれと。

なごやかな、ぱっと明るい、素晴らしいものを私は待っている。

「また来マス」と、最後に少し片言の日本語でそう言いながら帰って言った。……そういえば、あの子の片言はいつになったら直るのだろう?

次に来たときには、その辺りについても追求してやろうかと考えながら、私は自身の体に帰る。

そして、明日もこの青いベンチに座り、待っている……待っているんだ。

ずっと、ずっと……。

私はここで待っている。胸を躍らせて待っているのだ。この、何処までも広がる海と蒼穹を眺め、ウミネコ達の鳴き声を聞きながら、まだか、まだか、と一心に一心に待っているのだ。

期待

>>18訂正
『ああ、待つよ。私はいつまでも待つ。金剛、君達がこの海に平和を取り戻し、また笑顔を見せに来ることを』

そうだ、私が待っているのは戦争なんて、殺伐で、暗くて、愚かなものではない。

なごやかな、ぱっと明るい、素晴らしいものを私は待っている。

「また来マス」と、最後に少し片言の日本語でそう言いながら帰って言った。……そういえば、あの子の片言はいつになったら直るのだろう?

次に来たときには、その辺りについても追求してやろうかと考えながら、私は自身の体に帰る。

そして、明日もこの青いベンチに座り、待っている……待っているんだ。

ずっと、ずっと……。

私はここで待っている。胸を躍らせて待っているのだ。この、何処までも広がる海と蒼穹を眺め、ウミネコ達の鳴き声を聞きながら、まだか、まだか、と一心に一心に待っているのだ。
だから――――私を置いていかないでくれ。

毎日、毎日、このベンチに座り、皆を待っていることしかできない私を笑わずに、どうか、笑顔で迎えに来て欲しい。会いに来て欲しい。

この、寂しがりな私に。

ここ、小さな小さな三笠公園で、いつも座っているこのベンチで……あなたも、いつか私を見掛ける。

私と同じ願いを待つ者を――――。

END

以上です。オマージュ元の作品が本当に4、5ページくらいしかない作品なのでこう短くなりました。
見てくださった方々ありがとうございました。
一応この三笠と他の艦娘の会話も少しだけ考えてあるので暫くは申請はしないで残しとくつもりです。


>>19
初スレだったのでレス嬉しかったです。
ありがとうございました

元ネタはグレイス・ペイリーかな
作品名は覚えてないけど、娘が玄関口で死んだ母親を待つ短編があったと思う

>>23
元ネタは太宰の「待つ」です。
女性が駅で何かを待っていると言う、1942年と戦争真っ只中に書かれた短編になってます。

最近三笠を見に行ってきたので、記念艦になった三笠は大戦中どういう思いで待っていたのかと考えて、そこから派生してこうなりました。
短い作品ですし、青空文庫にあるので機会があれば是非

>>24
元ネタ感謝
こういう作品好き
応援してる

今更ですが>>15>>16の間に抜けていた文です

『いや、てっきり前線に出ろと言われるかと……』

『え? 出る気があるのですか?』

驚かれた。そんなにか?

『いや、まぁ……』

歯切れが悪くなる。言われれば出る気だったとは言えない……。

『もう歳を考えてくださいよ……』

……歳……? ……年齢?

『そうか、歳か……』

『そうですよ。歳、ですよ』

二人ではははと笑う。

>>25
ありがとうございます。
少し風変わりにはなると思いますが、時間できればここに少し短いの書く予定なので機会があればのぞいてください

私、戦艦三笠は今日もこの三笠公園で深海棲艦達との終戦を待っているわけだが

『うぅ……』

私の膝に泣きついているこの○○歳児をどうすればいいだろうか……?

と、困惑していた。

一時間くらい前だろうか?

落ち込んだ様子のこの子を、この子の二番目の妹である金剛型三番艦の榛名が連れてきて、『申し訳ありません、三笠姉様。金剛お姉様をお願いします』とだけ言って置いていった。

ずいぶん慌てた様子で帰っていったが、何かあったのだろうか?

『……金剛……』

私は金剛の名を呼ぶ。

『三笠ー……提督は酷い人です』


……えっ? 何だ? 何をされたんだこの子?
私の娘に何をしたんだ?


「……よし、提督を斬ればいいんだな?」


立ち上がろうとする私を金剛は「たぶん誤解デース」と言いながら必死に抑えた。
どうやら何かされたと言うわけでもないらしい。

そして流石は私と金剛。言葉が足りなくともここまで言いたいことがわかるとは。

……と、冗談は置いといて、そろそろこの子がここに来た本当の理由を尋ねた。
金剛は顔を赤らめながら話し出す。
何だこの可愛い子。母親の顔が見てみたいぞ。
……私だった。
と、悪ふざけた思考を頭の片隅に追いやり、口を開いた金剛の話を聞く。

『昨日の夜の事です』

昨晩、金剛は秘書艦として結構な夜半まで提督と執務をこなしていたそうだ。
そして、それが一段落し、お茶を飲んでいると外から騒ぎ声が聞こえてきた。
二人が外を見ると、中庭で駆逐艦や軽巡を中心とした面々が外で団子などを食べていたそうだ。

『ああ……そういえば昨日は十五夜だったな』

金剛は頷く。
二人もそれを見て思い出したようで、折角だからと屋上へとのぼり、月を眺めていたそうな。

そうして、二人で酒を飲みながらのんびりと月を眺めて暫く、突如提督が金剛の方を向き、言ったのだ。

月が綺麗ですね――――――と。

金剛は普通に返そうとしたが、ここで思い出す。

「月が綺麗ですね」の夏目漱石の逸話を。

しかし、金剛も素直にそう言ったのかもしれないと思い、二葉亭四迷で返してみた。

「死んでもいいワ……」

提督はそうかとだけ言って何も言わず、そのまま二人で、波の音を聞きながら月見酒を楽しんだと言う。

その場はそれで終わってしまったが、翌日である今日。

食堂にやってきた素面の提督に月が綺麗ですねと言ってみたそうだ。後で金剛を向かえに来た榛名に聞いたら、(一部を除き)相当の艦娘が食堂であったために、聞き耳を立てていたという。

すると、提督は「今はまだ昼間だぞ」と普通に返してきたそうだ。……知らない者が増えたか……。

 金剛もそんな予感はしていたが、やはりそんな気はなかったと判るとショックだったらしく、思わず涙を流してしまったらしい。

 そして、その金剛を見て、霧島と比叡が提督を正座させてお説教が始まったそうだ。

『まあ……仕方が無いな。今はこんな戦時中だ。この話を知らないものが増えても仕方が無い』

『それもそうなのですが……』

『それに、お前、提督にはバーニングラブといつも伝えているのだろう? 相手にされないのは今更のことではないのか?』

『それは違います。私は確かに提督に愛を伝えています。
 しかし、提督からそれを伝えられたことはありません。この指輪を頂いていると言うのに……だから、昨日の言葉がそれならと、一人で勝手に浮かれてただけなのです。
 ……最初に提督が酷いと言いましたが、私が勝手に一人舞い上がり、勘違いをしていた話ですね……旗艦を任されながら、自己の精神を保てないなんて、我ながら情けないです』

 ……ケッコンカッコカリ指輪……。大本営のようせいさんが作り出した艦娘の限界突破の為の装備。
 しかし、名は体を表すもの。その為に、そこに一定以上の絆がなければそもそもケッコンカッコカリすらできないと、ある方に説明を受けた。
 それをした張本人でもこの子もそれは知っているはずなのだが……。

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