メロス「セリヌンティウス! 私を殴れ!!」 (30)

セリヌ「当たり前だこの野郎!!」バキッ


セリヌンティウスの強烈な右アッパーがメロスの下顎を砕く。

彼はぐしゃりと崩れ落ちた。


メロス「ああ、それでいい……。それでお前の気が晴れるなら……」

セリヌ「これくらいで晴れるか馬鹿たれ!! てめえ妹ちゃんの結婚式の披露宴のためにどれだけ準備してきたと思ってんだ!!」バキッバキッ

メロス「わ、分かっている……。お前がこの一か月、石工の仕事をほったらかして日がな宴会芸の練習をしてきたことは……」ウググ

セリヌ「100個の旬な下ネタを妹ちゃんに見せる日を心待ちにしていたのに!! てめえが王様暗殺とか下らんことを思いついたせいで全部パーだ!!」バキッバキッ


親友は目に涙を溜めながら、馬乗りになってメロスを殴り続ける。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446091341

メロス「ふふ……」

セリヌ「な、何がおかしい!」

メロス「やはりお前が用意していたのも下ネタだったか、友よ」

セリヌ「……!! まさか、お前も下ネタを……!?」

メロス「ああ!! 脱いだ!! 私のイチモツを股に挟んで『女の子』をやってやったのだ!!」

セリヌ「か、会場の様子は……?」

メロス「抱腹絶倒ってのはああいうのを言うんだな」フフフ

セリヌ「ちきしょう!! 羨ましすぎる!!!」バキッ

メロス「新郎も顔を真っ赤にして笑っていたよ。笑いすぎて段々紫色にまでなってな……」

セリヌ「し、新婦はどうなんだ!! 妹ちゃんは!?」

メロス「案の定、侮蔑の表情を浮かべていた」

セリヌ「くそう!! 勃ってきた!!」


そう言うが早いか、二人はボロボロになった衣服を引き下ろした。

立派な男根が天を仰ぐ。

群衆の中にどよめきが起こった。


メロス「用意していたのは『女の子』だけではない。陰毛を燃やす『花火』、女性の頭にアレを乗っける『ちょんまげ』なんかは勿論のこと、肛門にラッキョウを入れて『ウミガメの産卵』もやった」

セリヌ「『ウミガメの産卵』は俺がやるつもりだったのに!!」

メロス「新郎も爆笑する度に妹に睨まれてお尻をつねられて散々だったようだ。だがすっかり打ち解けてしまって『義兄さん、一生ついていきます!』だってさ!」

セリヌ「あー、妹ちゃんに蔑まれてー!! お尻つねられてー!!」


処刑台の下で語り合う二人の姿を見て、群衆は動けずにいた。

ポロリ……。

まだ腸内に残っていたラッキョウが、思わずメロスの肛門からこぼれる。

押し黙っていたディオニスは、ついにその口を開いた。


ディオ「お前たち……。恥ずかしくは……ないのか?」

メロス「……え?」

セリヌ「何をおっしゃいますやら……」

メロス「王は乱心か?」

ディオ「……いや、親族が集まる場で脱ぐのもそうなんだが……今、こうして人々の前で恥部をさらけ出すことは恥ずかしくないのか……?」

セリヌ「……」


セリヌンティウスは何も言わずに前へ進み出た。

そして何を思ったか、自分の玉袋を指で摘まんだ。

セリヌンティウスの玉袋に衆目が集まる。






セリヌ「おいなりさん」











ドッ!!!








まるで落雷でもしたのかというほどの笑い声。

人々は処刑台の下の玉袋を指さして笑い転げた。

あるものは涙を流し、またある者は腹がつってしまったようであった。


ディオ「……」


王は再び口を閉ざした。

開きかけていた王の心の扉には門番までついた。

何ということだ……。

メロスは確かにこの場に戻ってきたのだ。

てっきり逃げ出すと思っていた男は、今確かにここにいる。

しかし――。

そもそも友を身代りにしてまで結婚式に出たかった理由が、あのくだらん一発芸をすることだったのだ。

思い返せばあのセリヌンティウスを捕えたとき、激しく抵抗していたではないか。

そして肛門からこぼれていたラッキョウは、やはり見間違いではなかったのだ……。


メロス「王様!!」

ディオ「!?」


人間不信に陥っていく王に向かって、メロスは声を張り上げた。

メロス「王様も……。王様も私たちの仲間になりませぬか!?」

ディオ「……何?」

セリヌ「ご無礼を承知で申し上げます! どうか王様! 私たちの仲間になってください!!」

メロス「先ほどから王様のお顔を伺っていますと、『やはり処刑は無かったことにしよう。そしてこの者たちの仲間になりたい』という思いが感じられてなりません!!」

ディオ「お前が帰ってきたところまではそう思っていたが、今は一刻も早くお前ら二人とも処刑してやりたい気分なんだが……」

セリヌ「ははは、王様、ご冗談を」

メロス「まぁ脱げば分かりますよ!」

ディオ「ばッ馬鹿者ッ!! よさぬかッ!!!!!」


ズルリッ……。




無理やり衣服をはぎ取られ、露わになった老人の全裸。

今までの尊厳は跡形もなく、頭の上の冠だけが何とも言えない存在感を放っていた。


ディオ「殺せッ!! この無礼者どもを殺せッ!!!」


股間を押さえ、口角泡を飛ばしながら叫ぶ王。

痩せ細った肉体は怒りで小刻みに震えた。

しかし誰もメロスたちを捕えようとする者は無かった。

くくッ……。

プッ……。

それどころは人々は、彼らの王に向かって指をさし、笑い始めたのだ。

王の側近でさえも、とうとう我慢が出来ないといった様子だった。

あっはっはっはっはっはっは!!!!!!

ひぃひぃ!!!

王様が裸だ!!!

あの恐怖の象徴だった王様がすっぽんぽんだ!!!


ディオ「き、貴様らァ……!!! /////」


激しい怒りと羞恥。

これほどの感情の昂ぶりを、未だかつて経験したことはなかった。

メロス「セリヌンティウス、タバコはあるか?」

セリヌ「ここにあるぞ、友よ」


いつの間にか辺りは薄暗くなっていた。

太陽の沈んだ西の方が、やや紫を残している。


シュボッ――。


ディオ「よせ! 貴様ら何をする!!」


火のともったタバコは王の肛門に差し込まれた。

メロスとセリヌンティウスも自分の肛門にタバコを突きさす。


――ここに綺麗な『蛍』が三匹生まれた。


***


かがり火と酒、料理。

処刑台の下には宴会場が出来上がっていた。

この国に住む者たちはここ数年見せたことも無いような笑顔で踊り、そして騒いだ。


ディオ「嫌だと言っている!! そんな下品なマネが出来るか!!」

メロス「王様!! 王様がここで『ねっしー』をやらなきゃ誰がやるんです!?」

ディオ「何で誰かがやらなきゃならん!! だいたい知性の欠片も感じぬこのネタのどこが面白いというのだ!!」

セリヌ「王様、ならとりあえず飲みましょう! 飲まずにこんな恥ずかしいことができる人間なんてそりゃいませんもの!!」

ディオ「お前らはずっとシラフじゃないか!!」


ディオニスの~!!


ちょっといいとこ見てみた~い!!!


それイッキ!! イッキ!! イッキ!!


群衆のコール。

まるで革命を匂わせるかのような圧力を、ディオニスは感じた。

よくよく見ると、群衆の自分を見る目がどれひとつとして笑っていない。

膝が震える。



ディオ「……ええい!! やんぬるかな!!」グイッ



オオォ~……。







早すぎてみえな~い!!



もう一杯!! もう一杯!!!



ディオ「……」ガクガク


ディオニスの盃には再びなみなみと酒が注がれた。


***


ディオ「あっはっはっはっはっは!! そ~れそれ!! 『扇風機』~!!」


すっかり時刻も遅くなり、夜空には白い三日月が昇っている。

ぷるぷると自分の陰茎を振り回すディオニスは、今や酒の力に屈して上機嫌に遊びまわっていた。

市民が普通に呼び捨てにしてくることは癪に障るが、今宵は無礼講だ。

今まで圧政によって苦しめてきたのだ。

今自分に出来る罪滅ぼしはこのくらいのことなのかもしれない。


ディオ「がはははは!! メロスよ! セリヌンティウスよ!! 最初はお前たちのことをキチガイだと思ったこのわしをどうか許して欲しい」

メロス「いえ、よく間違われるので気にしないでください」

セリヌ「それよりも王様、お迎えがいらしたようですが」

ディオ「ん? 迎え?」


王が目をやると、すぐ近くに騎馬を組んだ男たちがニコニコ笑いながら王を待っていた。

騎馬を百人近くの人々が取り囲んでいる。

そのなかには貧相な身なりをした女子供までいた。


ディオニス様~!!

どうかこの騎馬に乗ってください!!


ディ・オ・ニスッ!!!

ディ・オ・ニスッ!!!

ディ・オ・ニスッ!!!


鳴りやまない掛け声。

皆がディオニスを待ち望んでいた。

かつてこれほど民に必要とされたことがあっただろうか?


ディオ「よし! 今行くぞ!!」


王は上機嫌で飛び乗った。


メロス「では私も帰るとしよう」

セリヌ「俺もメロスについていく。妹ちゃんにご祝儀を渡さねばならん」

ディオ「何、帰ってしまうのか? 私の城でゆっくりしていけ! 二次会をやろう!! 二次会を!!」

メロス「いえ、新婚夫婦が私の帰りを待っていますので」

セリヌ「絶対妹ちゃんは待ってないよな」ククク

ディオ「そうか……それは残念だ。だが近いうちに顔を見せに来るのだぞ、友よ」

メロス「さようなら、王様」

セリヌ「さようなら」




二人はくるりと背をむけると、処刑台をあとにした。


***


バンザイ! バンザイ!!

ディオニス様バンザイ!!


ディオ「おい、この行進はどこまで続くのだ? あはは! 城に帰るのではないのか?」


城下町に響き渡る万歳の声。

どこに行く気かは分からないが、ここまで褒め称えられたらついつい気分もよくなってしまうではないか。




共和制バンザイ!!




誰かがそう叫んだ。



ディオ「がはは!! 共和制の意味も知らずに叫んどる者がおるぞ!! わしの国は王政だ! なんたって王であるわしがおるからな!!」



共和制バンザイ!!

共和制バンザイ!!


みんなニコニコ笑いながら共和制バンザイと叫び出す。



ディオ「お、おいおい……。だから……」



そこで王は気づいた。

この一団は前に自分が処刑した者の親族だということを。



ディオ「お、おいよせ!! どこに連れていく気だ!!! やめろ!! 降ろせ!!!」







この日、この国は共和制になった。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年12月10日 (木) 15:06:06   ID: 39jJC0pl

ジョジョssに分類されてたけど・・・
全然ちがうんスけど・・・

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom