男「最近よく夢を見るんだ」(30)

書き溜めなし。のんびり書いてきます。
完結はさせる。

男「最近よく夢を見るんだ」

友「へぇ、どんな夢?」

男「なんつーか、懐かしいような、不思議な夢。起きた時にはほとんど忘れてんだけどさ」

友「ふぅん?まぁ、どんなのだったか覚えてたら教えてよ」

男「おう」

家に帰り、飯を食い、風呂に入ってゲームして……。そんな日常、そんな毎日。今日もまた変わらず夜になり、床につく。そして、夢を見る。

男「ん……?……あぁ、また夢か」

目を開けると辺りは深い森の中。そうだ、確かにこんな夢を毎日見ていた気がする。そしてこの後、女の子が出てくるんだ。

女「こんにちは、男くん」

男「……よう。また会ったな」

女「ね?昨日、最後に言ったじゃない。今日も会えるよって」

男「そういえば、そんな事言ってたな」

だんだんと、今までの夢を思い出してきた。彼女はこの森の奥にある家に一人で住んでいて、俺はいつもそこで彼女と話をしていたんだ。

彼女に付いて、森の中を歩く。夢の中だからだろうか、鳥の鳴き声がない、風もない。辺りの気配がとても希薄な感じだ。

森の中に、ポツンと小さなログハウスがあった。これが彼女の家。

女「今日のコーヒーはね、キリマンジャロにしてみようと思うの」

男「キリマンジャロ?どんなやつだ?」

夢を見る度、ここでコーヒーを飲んでいる。俺は普段コーヒーなんて飲まないから詳しくわからないけれど、彼女の淹れるコーヒーが美味いのは分かる。

女「んー、酸味が強いかな。慣れないと少し飲みづらいかもしれないね」

台所に向かう彼女を目で送り、俺はリビングへ向かった。

リビングに入って右側にある椅子、これが俺の定位置だった。テーブルを挟んで反対側が彼女の椅子。

リビングの窓から、少し離れた所に小川が流れているのが見えた。普段、あそこで水を汲んでいるのだろう。こんな森の中だ、水も綺麗な筈。

女「はい、お待ちどうさま」

俺にカップを一つ渡し、彼女も定位置に着く。二つのコーヒーカップから、香ばしいイイ香りが漂う。

渡されたコーヒーを一口啜る。唾が出るようなきつめの酸味と、仄かな苦味が口に広がる。

女「やっぱり酸っぱかった?ごめんごめん」

そう言って、彼女はズボンのポケットからミルクの入ったポーションとグラニュー糖のスティックを取り出し、俺に手渡した。

男「悪いな、せっかく淹れてくれたのにブラックで飲めなくて」

女「ううん。いいよ、普段飲まない人は、そもそもブラックで飲もうなんて思わないからね。気持ちだけで十分」

そう言って、彼女は自分のコーヒーカップを口に付けた。俺も、彼女から受け取ったミルクを入れ、スプーンで掻き混ぜてからまた一口、口に含んだ。

女「美味しい?」

男「あぁ、美味いと思うよ」

女「それはよかった」

彼女はクスクス笑うと、そのまま口を閉ざして俺を見つめた。俺も一旦コーヒーを置き、見つめ返す。

じー、っと。数分の間見つめ合っていたが、そのうち何だか可笑しくなってきて、どちらからともなく笑い出した。

穏やかで、平和な時間。けれどきっと、これは俺の生活唯一の非日常。毎日の繰り返しの中で、唯一歪んだ部分。

男「そういえば、俺がここに来たのって何度目ぐらいだっけ?」

彼女は少し不思議そうな顔をしたが、普通に返事をくれた。

女「えーっと………十回、かな」

男「そんなもんだったっけ?なんだか、お前とはもっと昔から一緒にいた気がするよ」

女「……そうだね。あはは」

男「そうか、まだ十回か」

女「そ、まだ十回。男には、まだまだ話してない事がいっぱいあるし、話してもらってない事だって沢山あるでしょ?」

男「そうだったな。……昨日は、確か友の話をしたんだっけ?」

女「うん、友くんの話。中学生のときに深夜の学校でキャッチボールしてたんだよね?」

男「そうそう、キャッチボールしてたら友が暴投して窓ガラス割っちまったんだよな。それで次の日に見付かって、何故か俺が怒られるはめになったんだ」

女「まぁ、教師なんてそんなもんだよね。成績がいい生徒の言い分を信じるんだから、頭のいい人は得だよ」

男「俺頭悪いからなぁ」

女「ん?私が教えてあげようか?」

男「いや、いい。夢の中でまで勉強したくない」

女「それもそっか。まぁ、必要ならいいなさい、お姉さんが教えてあげる」

男「お姉さんて。俺より背ひくいじゃん」

女「馬鹿ねぇ、身長が低くても私は貴方より精神年齢は上なの」

男「そうか?」

女「そうよ」

男「俺、精神年齢の鑑定受けたら30代って言われたんだけど」

女「じゃあ私は40代って事にしておいて」

男「適当だなぁ」

女「適当で結構。……あ、コーヒーお代わりいる?」

男「あ、頼む」

女「はいはい、ちょっと待ってね」

そう言って、彼女はキッチンへと向かった。

彼女との会話が、最近の俺の癒しになっている。起きたときには忘れているのだけれど。まぁ、忘れているからこそいつも通りに日常を過ごせるんだ。覚えていたら、俺はいつまでも夢の中に居たがるだろう。

ここには煩わしい親もいないし、煙たい排気ガスを撒き散らす車、意味の解らない説教をする教師、ガヤガヤと煩い女子もいない。ここにあるのは静寂。俺にとっての苦痛が存在しない。

まぁ、夢の中なんだから当然か。

寝る。
さ、明日は大学の入学式だ。
スーツ着るの怠いな

ふと、意識が浮ついているのに気付いた。首を振って、目を覚まさせようとする。そんな俺を、彼女が見ていた。

女「あ……そう、今日はもう時間かな」

男「いや、まだ大丈夫」

女「ううん。貴方は、その眠気には逆らえないわよ。だって貴方が目覚めようとしてるって事だもの」

そう、今俺は夢を見ている。夢の中で眠るという事は、現実世界を見るという事。

男「明日は……会えるかな?」

女「多分会えるわよ」

男「起きた……とき、覚えて…る…かな?」

これの返事は期待していなかった。俺はいつだって、目覚めた時には夢を忘れているのだから。そして、後に残るのは懐かしさ。

女「うん……そうだね。今日は覚えているかもね」

驚愕と共に、俺は夢の中で眠りについた。

目を覚ました俺の前に、一つの影。

妹「お兄、起きた?」

男「……んぁ?あぁ、起きた起きた。おはよう」

妹「おはよ。お母さんがもうご飯作ったから早く着替えなよ」

男「…おー」

妹が部屋を出ていくのを見届け、ベットから降りる。寝間着に使っていたジャージを脱ぎ、制服のズボンとインナー、ワイシャツを着ながら先程まで見ていた夢を思い出す。

何か、懐かしいような不思議な――――そうだ、確か女の子と話をしていたんだ。同い年ぐらいの女の子。背の低い女の子。

何か話をしていたような気がする。何を話していたんだっけ?思い出せない。まぁ、何も思い出せなかった昨日よりマシかな。

友「ふぅん?女の子ねぇ……」

帰り道、また友に夢について語った。彼は不思議そうに首を傾げ、暫く熟考した。

男「妙な夢だよな。あの女の子の事なんて全く知らないんだぜ?でも、なんだか懐かしい気持ちにさせられるんだ」

友「……まあ、まだ何とも言えないかな。もう少し思い出したら教えて。少し引っ掛かってる事があるんだ」

男「いいけど、何が引っ掛かってんだ?実際に見ている本人は気付かないのに」

友「そんなものだよ。近すぎると解らない事もあるんだ」

そう言った彼は、悪戯が成功した少女のようにニコニコと笑った。全く、男にしておくのは勿体ない可愛さだ。―――因みに、俺はゲイではない。

男「ん……」

また夢の中で目が覚める。今回は多少記憶が残っていたから、あまり驚きはない。

女「おはよ、男くん」

男「はよ……あぁ、昨日言ってた通り覚えてたよ」

女「でしょ?私の言葉は当たるのよ」

男「なんだか占い師みたいな返事だな。しかもペテン師の似非占い師」

女「失敬な。私みたいな占い師、世界類を見ないレベルよ。ノストラダムスと同じ」

男「あれって結局外れたよな?それと同じレベル?」

女「そうね。細木数子でもいいけど」

男「あれも占い、ってか予言外したよな」

女「震度8とか言ってね。自分の無学を晒しただけだったね」

そんな事を、俺と彼女は歩きながら話していた。相変わらず森の中は音がしない。鳥が鳴かなければ風もない。こんなにも彼女はリアルなのに、どうして森はフィクションのようなのだろう。

家に着き、いつも通りの位置に座る。

女「今日はちょっと趣向を変えて、紅茶にしてみたよ。有名所で、アールグレイに」

男「あぁ、それなら流石に知ってる。家でも今妹が飲んでるし」

女「あれ、妹が居るんだっけ?」

男「言ってなかったっけ」

女「言ってないよ」

男「うん、まぁ妹がいるんだ。二つ下の妹」

女「ていうと……十五歳かな?」

男「そう、中三。かいがいしく、毎朝起こしてくれるいい妹だよ」

女「そうだねぇ、確かにその年頃の娘は、兄とか父親を嫌う傾向にあるからね」

男「ま、少し素っ気ない気もするけど相手をしてくれるだけマシだな。俺の友達なんて、顔すら合わせてもらえないって言ってたもんな……」

女「それは少し可哀相だね。大人になれば変わってくると思うけど…」

男「そういうもんかね?」

女「そんなもんよ。だって、兄妹でしょ?血の繋がりって結構大きいよ。もちろん、義理の兄妹でもそれに負けない絆がある場合もあるけどね」

寝ます。

因みに俺、
使い魔「マスター、犯していいですか…?」男「えっ」
の♂ルート書いてた人だったりします、と宣伝してみる。
こ、今回は少し真面目に書いてるんだからねっ!

男「兄弟、か。そういや昔、母さんが流産したって言ってたな……。もし産まれてたら……二十七だったか?」

女「随分若いときに流産したのかな、男くんのお母さん」

男「そうだな、確か母さんが十八の時に産もうとしてたって聞いた」

女「それは……しょうがないね。その年齢だと、流しちゃう事多いらしいから」

男「二十歳過ぎないとしっかり産めないんだっけ」

女「人によると思うけど……まぁ、だいたいそんな感じだったと思うよ」

やはり、何故だか懐かしさが溢れてくる。この家の雰囲気が、それとも彼女がそうさせるのだろうか?

女「あ、そうだ」

男「ん?」

女「多分明日も来れるだろうから、何か飲みたいものとか、リクエストある?そろそろ起きる時間だと思うから、今のうちに聞いとくよ」

さて困った。そもそも、俺はコーヒーにも紅茶にも詳しくない。となると、彼女が今まで出してくれた中から選ぶしかないのだけれど……

男「……そうだな、1番初めに会ったときに飲んだのがいい」

女「おぉ、お目が高いねぇ旦那。あれは私が直々に選び、ブレンドしたコーヒーだ!」

男「へぇ、自分でやったんだ?」

男「ブレンドって難しくないのか?……こう、味のバランスとかさ」

女「まぁ、難しいんだろうね本当は。私のは適当に混ぜたら美味しくなっただけだからね」

男「へぇ、適当でも出来るもんなんだな」

女「皆初めはそうだと思うよ。適当にやって、試行錯誤して。そうやって美味しいものを作ってくの。私は直感が働いた、それか運が良かっただけよ」

男「私は天才だから、とか言い出さなくてよかったよ」

女「何それ、私をどんな目でみてるのよ男くん」

男「いや、その……うん」

女「目ぇ逸らさないで」

男「……あの、あ、あー、ナンダカ眠クナッテキタナー」

女「嘘ね。貴方が夢から覚めるまで後5分はあるもの」

どうやら俺の覚醒時間は、彼女に完全に把握されているらしかった。

友「コーヒー、ねぇ……。君、コーヒーなんてあんまり飲まないよね?」

夢から覚めたとき、俺はまた一つの事を覚えていた。それは、彼女と飲んだコーヒーの名称、味、香り。今度自分で買ってみて、現実でも飲んでみよう。

そんなことを思いながら高校に行き、友に話をした。

男「まぁ、飲まないな。だからいいきっかけになったよ」

友「……そうかい。君が疑問に感じてないならいいけど」

男「友は何が疑問なんだ?」

友「……まず僕が疑問に思ったのは、君が『知らない女性』を夢に見たって言った事だよ」

男「それが……どうかしたのか?」

友「うん、夢って言うのは、科学的には『脳の記憶を整理している』状態なんだ。だから、君の記憶にない『知らない女性』を夢に見る筈はないんだよ」

男「そうなのか?いや、でも―――」

友「もしかしたら、すれ違った程度の人が出てきたのかもしれないね。まぁ、だから昨日は言うのを止めたんだよ。でも、今日の話を聞いて、それは違うって確信した」

男「今日……コーヒー?」

友「そう、コーヒーだ。君は普段、コーヒーを飲まない。飲んでも精々が甘い缶コーヒー。そんな君が、どうしてコーヒーの銘柄を知っている。味を知っている。香りを知っている」

男「それは……そうだな。でも、それがなんだって言うんだ?」

友「……さあね。流石にそこまではわからないよ。オカルトに考えるなら、君の身近で亡くなられた方……そういった人が夢として出てきたって所だろうけど、それなら君が気付かない筈ないしね」

男「そもそも俺は、一度も葬式に出たことないしなぁ。親戚が死んだって話も――――いた」

男「俺の母さん、一度流産してるんだよ」

友「……というと、水子かい?」

男「あぁ」

友「それはないね」

男「そうなのか?」

友「基本、霊っていうのは成長しないからね。君が見たのは、少なくとも十代半ばぐらいだろ?コーヒーを淹れたりしてくれたんだから」

男「……そっか。じゃあ誰なんだろうな」

友「母親に聞いてみたらどうだい?案外、君が知らないだけで年上の従姉妹とかが亡くなられているかもしれないしね」

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