末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」(最終章と後日譚) (613)

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末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」 (旧タイトル【BとYとK】)
末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」 (旧タイトル【BとYとK】) - SSまとめ速報
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……の、続きです。あと少し、もうちょっとだけ、お付き合い願います。

本編投下は次回更新から
 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445949058


※取り合えず連絡のみ。投下は早くても明後日の予定です…すみません※

久しぶりの、商人の家。

長姉「ただいま……」カチャ

家政婦「お帰りなさいませ、長姉様。今日はお早いのですね」

長姉「ええ、料理教室はお休みで、先生との打ち合わせだけだったから」

長姉「……みんなはお店?」

家政婦「今日は旦那様と次姉様が出ておられます。長兄様は材木屋さんにお出かけですよ」

長姉「そ、ま、普段通りね……」



商人の店。

長姉「ただいま、お父さん、次姉。お疲れ様」

次姉「あら、姉さん」

商人「おや長姉、お帰り……次姉、お客さんの少なくなる時間だから長姉と休憩しておいで」

次姉「いいの? ありがとう、お父さん」

長姉「近くのカフェにでも行く? 私がおごるわ」

次姉「おやおや珍しいこと」

近所のカフェ。

長姉「あー久しぶり、ここのカフェオレが好きなのよー」

次姉「お父さんがコーヒー苦手だから、うちでは専ら紅茶だものね」

長姉「……お父さん、今日も平常通りよね」

次姉「ん? なんのこと?」

長姉「明日帰ってくるんでしょ、末妹…達。もっとソワソワしているかと思ったわ」

次姉「平常心で迎えるつもりでしょう、あの子達は『友達に会いに行っただけ』だからね」

次姉「どっしり構えた父親を目指すとも言っていたし」

長姉「……」

次姉「……私達に気を遣っている部分がないとは言わないけれど」

次姉「お父さんはお父さんで、変わるべきところは変えようとしているのよね」

次姉「ま、それでも明日になったらさすがにソワソワが隠せないのがうちのお父さんでしょうね」

長姉「……くす」

次姉「ん?」

長姉「お母様がお父さんのどこを好きになったのか、わかるような気がして来たの」

長姉「お父さんって、いい人 よね?」

次姉「ええ、いい人ね」

次姉「お父さんと結婚できたお母様は、きっと幸せだったと思うわ」

長姉「……うん」

長姉「私達のお母様は、幸せに生きたのよね……」

……


※今回これだけ…※

一週間前から風邪で体調を崩し、予想より回復が遅くて滞っています、すみません…
良くはなってきたので、近いうちに復活します。たぶん…

商人の店。

長兄「ただいま父さん……材料調達は無事にできそうだよ、喜んで話に乗ってくれた」

商人「お帰り長兄、ありがとう」

商人「これで、長姉の嫁入りにはお前がデザインした衣装箱を持たせることができるよ」

長兄「……本当に、俺みたいな素人に作らせていいのかな?」

商人「お前が手掛けるのは装飾部分の彫刻だけ、本体の組み立ては工房に頼むから実用には全く問題ないさ」

商人「何より、長姉自身が望んだんだ」

長兄「……全く、俺だって暇人じゃないのに、本業の傍ら婚礼までに仕上げろなんて」ヤレヤレ

商人「嬉しそうな顔して何を言うか」

長兄「ははは、実は楽しみなんだ、趣味の木彫だけどそんな大物は初めてだし」

長兄「……引き受けると返事した時のあの娘の喜びよう、小さい頃と同じ顔で」

長兄「あいつだって、俺の可愛い妹だよな、って久しぶりに…その気持ちを思い出した」

商人「……」

商人「酒を飲みながら嫁に出したくないと口を滑らせた私の気持ち……少しはわかるかい?」

長兄「……うん」

長兄「同じ町の中で、子供のころから知っている奴の所へ嫁ぐにしても……寂しさは、あるよ」

商人「ああ、長姉と同じ家で過ごせるのもあと1年もないかもしれんが……」

商人「悔いのないように、父として兄としてあの子への務めを果たし、晴れて花嫁として送り出そう」

長兄「ええ、父さん」

長兄「寂しいけれど、長姉と仲直りができて本当によかった、そして長姉が自分の幸せを見つけてくれてよかった」

長兄「早く、次兄と末妹にも話してあげたい」

商人「そうだな……」

商人「明日は皆で、誰一人欠けることなく、あの二人を出迎えよう……」

…………


※ごめん、これだけ…なかなか体力が戻りませんで…※

とりあえず、帰還前の自宅サイドはここまで。
今後はまた屋敷サイド、そして帰還、ちょこっとエピローグ…
…おおまかに、こんな予定です。

本当にあとちょっとなんだな…つらいぜ…
そして>>1は無理ダメ絶対
暖かくしてしっかり休んでくれ

野獣の屋敷、次兄の客間…

末妹「お兄ちゃん、荷物はまとまった?」

次兄「うん、元々たいした物は持ってこなかったから。お前は?」

末妹「ドレスとオルゴールの分、ちょっと荷物が増えたけど、大丈夫」

次兄「荷物が増えると言えば、例の鏡も忘れずに持ち帰らないとね」

末妹「そうね、馬車には割れないように積まなきゃ」

次兄「今夜にでも用意してくれるって、菫花さん言ってたけど……」

メイド「末妹様、こちらにいらしたんですね」ピョッコリ

末妹「メイドちゃん、何かご用?」

メイド「あのですね……末妹様のお家の家政婦様に、これを渡してくださいませんか……」スッ

末妹「封筒? お手紙かしら」

メイド「ええ。でも私、字が書けないので菫花様に代筆していただきました」

メイド「バスケットの事とか…お世話になったお礼です、短いお手紙なのですぐ読み終わると思いますが」

メイド「あと、私が見つけた四つ葉のクローバーを押し葉にしたものを同封しています」

末妹「幸運のお守りね」

メイド「……葉っぱが大きくて形が良くて、それはそれは美味しそうなクローバーでしたが……そこをグッと堪えて……」

次兄「メ、メイドさんが食欲を自制しただと!?」

末妹「メイドちゃんの『本気』が伝わってくる(ような気がする)……」

末妹「よくわかったわ、その真心、間違いなく家政婦さんに伝えるから!!」メイドノマエアシニギニギ

メイド「お願いします、ありがとうございます!」

メイド「……家政婦様が親切なかたで、本当によかった」

メイド「いきなり現れて、おまけに喋るウサギが普通でないことは私にもわかります、それなのに」

末妹「メイドちゃん……」

メイド「きっと、末妹様達を心から信頼されているから、私のこともすぐに受け入れてくれたのだと思いますよ」

次兄(それだけじゃないな、俺の勘では彼女、クールビューティーに見えて意外と可愛いもの好き)

末妹「そうよね……」

末妹「……不思議な体験に理解を示してもらえるって、本当にありがたいことだと今になって思うわ」

末妹「帰ったら、私からも改めてお礼を言おう……」

……


>>11-12 ありがとうございます。
お陰様で体調は良くなってきましたが、なかなかペースは戻らず、すみません…※

次回は来週のどこかで、たぶん。


※おしらせのみ※

風邪のようなものが9割治ったと思ったら、リアルの事情により週末まで無理そう…ごめんorz

最低でも金曜日まで更新できないです

快気祈願に描いてたんだが治ったようで何より
でも病み上がりで無理は禁物
http://m1.gazo.cc/up/24557.jpg

次兄は屋敷でなら寝込むのも悪くないかもとか思ってそう

>>18
本当にありがとう、微妙に嬉しそうな表情の次兄がw
周囲で心配している皆も可愛いよぉぉ


体調は9割9分回復したけど、忙しい事情が続いているのでorz
今週、せめて1レスだけでも更新したいぜ…
 

>>1が元気ならええんよ
待ち焦がれるのもまた一興

http://m1.gazo.cc/up/24744.jpg

今週末はやっぱり無理だった…でも見通しだけは立ちました
来週末~再来週で少し更新します

>>21
ありがとう! 相変わらず細部がなんとも「らしくて」嬉しい

野獣の屋敷、師匠の自室。

師匠「ふむ、あの子達に渡す鏡か」

王子「ええ、これです」

師匠「どれ、小さいがいちおう鏡台になっているのだな」

師匠「ガラスの鏡だが、枠も覆いもしっかりした木製だ、これなら馬車の揺れ程度では割れる心配もなかろう」

師匠「それに若い娘の部屋に置いてもさほど違和感のないデザイン」

師匠「お前にしては気が利いている」

王子「……野獣と話をしたくて、お茶会の後にひと眠りしたんですよ」

王子「『いくらでも余っている客間のひとつに据え付けではない小ぶりの鏡台が置いてあるから、それを使え』と」

王子「聞いてよかった、僕ならあの子の部屋との調和も考えずに、こんな鏡を渡す所でした」

王子「これも使わない客間にあったものですが」コトッ

派手な飾り付きの鏡:ゴテゴテギラギラー

師匠「……確かにこれも女性が使う鏡だが、なんというか…少なくとも清楚な少女の部屋には似合わんな」

師匠「いかにもな成金のマダムが使いそうな、と言うべきか」

王子「……やはりセンスが悪いですよね、僕って」ハァ

師匠「お前が図書館の娘に送ったドレスは、なかなか趣味が良かったのにな」

王子「…………あれは、彼女が好きだと言っていた色だけをこちらで指定して…デザインは仕立屋まかせです」

師匠「そうか、しかしあの明るい青は彼女の黒髪によく映えておったぞ」

王子「……そう言えば、師匠」

師匠「うん?」
 

王子「彼女には舞踏会の招待状を受け取ってからを夢と思わせたにしても、実物として存在するあのドレスは?」

師匠「うむ……」

師匠「証拠隠滅のために我々が没収する手もあったのだが、それも……どうにも忍びなくてな」

王子「師匠」

師匠「わ、儂ではないぞ!? 魔術師ギルド唯一の女性幹部、面識くらいあっただろ、主に彼女が強く反対して!?」

師匠「……検討の結果な……王子は魔術師ギルドに通うための私服を、自分の小遣いで新調しようとしていた」

師匠「が、そこで王子は何を間違ったのか、仕立屋に女性物のドレスを発注してしまい」

師匠「届いた現物を見て自分のミスを知った王子はさんざ悩んだ挙句、『どうしよう、返品は店に迷惑がかかるし』」

師匠「『それに父上母上にバレたらどうなるやら、頼むから娘さん引き取ってくれ』と」

師匠「必死に頼まれたあの娘は、やむにやまれず……というストーリーの暗示をかけてやった」

王子「」

師匠「他ならぬお前ならばさもありなん、というエピソードだろう?」

王子「……娘さんも、それを信じたのですね……」

師匠「誕生プレゼント、世話になっている感謝のしるし、他にも案は出たが」

師匠「間抜けてほほえましい思い出の方が負担にはならぬと思うのだが?」

王子「間抜け」

王子「……そうですね、本来、死をもって償うほどの過ちを犯した僕です……」

王子「彼女が王子という人間を間抜け程度の認識で済ませてくれるように図ってくださったのは、感謝こそすれ恨むのは筋違い」

師匠「少しは恨んでいるかのような言い草だのう」

師匠「……」

師匠「儂は、あの娘が図書館の仕事を辞めた後」

師匠「結婚して一人目の子供が生まれた頃までを直に見届けた、何度か会って話もした」

師匠「夫となる男の求婚を受け入れてから、あのドレスは処分しようかと思ったそうだが、それを男に止められたそうだ」

王子「……?」
 

師匠「不思議に思うか?」

師匠「男は娘にこう言ったそうだ」

師匠「『ドレスに纏わる思い出、生まれて初めて好きになった異性への想い、それもひっくるめて君という人間』」

師匠「『君をまるごと引き受ける覚悟で求婚したのだから、全て抱えて自分の元に来てくれ、捨てるものなど何もない』」

師匠「……こんな台詞、儂などは脇腹が痒くなって来るのだが」ボリボリ

師匠「その言葉があの娘には本当に嬉しかったと……」

師匠「…………何を泣いておるのだ?」

王子「彼女の夫と言う人は、心から彼女を、愛していたのですね……」グシュ

王子「本当によかった……いい人に巡り会えて」グシュグシュ

師匠「ふむ……」ボリ

師匠「あの娘はどうにか幸せな家庭を持てた、お前ももうちょっとまともな生活を送れるようになったら」

師匠「新しい恋でも探してみてはどうだ?」

王子「……」

王子「……彼女は何年もかけて自分を想ってくれる人を受け入れました」

王子「僕の人生の時間はまだ彼女を『失って日も浅い』のですよ?」

師匠「だからそんなこと考えられもしない、か」

師匠(ま、そうだな、いつか)

師匠(あの娘を愛した思い出ごと、お前という人間を引き受けてくれる女性が現れたら……)

師匠「……うむ」

師匠「先の話だな。まだまだ遠い未来の……な」

……
 


※お久しぶりでした。日付変わっちゃった…今回はここまで…※


※リアルが立て込んでいて…次回は早くて来週月曜日です…ごめんなさい※

夕食後、次兄の客間。

次兄「では、帰宅までのスケジュールを再確認しまーす」

末妹「はーい」

次兄「菫花さんから受け取った鏡はこれです」

末妹「はい、確認しました」

次兄「その他、各自の荷物は夕食前にチェックを済ませたのでヨシとします」

末妹「はい、問題ありません」

次兄「で、入浴と就寝はいつも通り、これもいいですね?」

次兄「次に就寝後ですが」

次兄「野獣様ともしばしのお別れ。どんな形になるかは野獣様次第……」

末妹「……はい」

次兄「……と思ったけど、今夜くらいこちらからお願いをしてみようではありませんか」

末妹「え?」

次兄「まず天井を見上げて…っと」

次兄「野獣様ー、今夜はまず俺達二人いっぺん、それから末妹とじっくりデートしてあげてくれませんかー?」

末妹「デ」

末妹「でででデートって、ううんそれより、お兄ちゃんは私と一緒でいいの!?」アワワ

末妹「お兄ちゃんだって、野獣様にお話ししたい事が……」

次兄「お兄ちゃん『だって』」

次兄「…末妹にはあるんだろ? 野獣様に今夜のうちに話したい事が」

次兄「俺は野獣様に『今回』話をしたい事は全部話せたから……」

次兄「次回ここに来るまでに、また話したい事をいっぱい溜め込んでおきます」

次兄「それに、溜めに溜めた末に一気に放出するのも、それはそれで気持ち良いもの」グフフ

次兄「おっと、一つ間違うと精神衛生上に問題をきたすので、お勧めはしませんよ」チッチッ

末妹(後半は何を言っているのかよくわからないけど)

末妹「……ありがとう、お兄ちゃん」
 

末妹「今のお願いを聞いてくださったかはわからないし、聞いてくださっても最後に決めるのは野獣様だけど」

末妹「帰る前にもう一度、ふたりだけでお話ししたかったから……お兄ちゃんのその気持ちが嬉しいの……」

次兄「……」ジワ

次兄(っ、やばいやばい、何の涙だこれは!?)ゴシィ

次兄「次、夜が明けたら朝です! 起床は6時半!!」ビシィ

末妹「はっはい!!」シャキーン

次兄「…まあ朝食まではいつも通り…だけど料理長さんのごはんはしばらく食べられないから」

次兄「いつも以上に心して美味しく味わい感謝して、いただきましょう」

末妹「はい」

次兄「食後の歯磨きが終わったら洗面用具も用済み、旅行鞄を完全に閉じたら、本格的な帰り支度」

次兄「…馬のチェックは末妹に任せます」

次兄「俺はその間に荷物を馬車に積み込むから、俺に触られても構わない荷物は廊下に出しておいて」

末妹「え、でも」

末妹(お兄ちゃんに力仕事してもらうのは…なんだか…)

次兄「気が引けるかもしれないけど、お願いだからたまには頼って。兄ちゃんに遠慮しないの」

次兄「大丈夫、無理な事なら最初から言わないからね、俺」

末妹(他の事では何かとお兄ちゃんに頼ってばかりだけどなぁ)

末妹「わかった。お願いします、ありがとう」ニコ

次兄「…うひひ」ニカ

次兄「で、荷物を積んだらいよいよ出発です」

末妹「……はい」

次兄「皆さんで見送ってくれるそうなので、真心はありがたく受け取りましょう」

次兄「お互い笑顔でお別れしよう、ね?」

末妹「うん、また…きっと……ううん絶対、会えるから、会いに来るから……」

…………


※お久しぶりです、割とまともっぽい次兄でした。とりあえずここまで、次回は近日中(たぶん)※
 

その夜……

(野獣「……次兄……」)

(次兄「…んぇ?」)

(野獣「次兄よ、こんばんは」ニコ)

(次兄「え……?」キョロキョロ)

(次兄「あれ、俺ひとり?」)

(次兄「野獣様、お願いやっぱり聞いてなかったんですね?」)

(次兄「って言うか、一応は最後の夜なんだからもっと末妹に時間を割いてあげてくださいよ」)

(野獣「お前のお願いならちゃんと聞いていたぞ」)

(野獣「その上で、最初にお前一人を呼び出すことにした」)

(野獣「……気になる涙だったからな」)

(次兄「……」)

(次兄「そんなにレアではないと思いますよ、俺の涙」)

(野獣「ああ、まるで冗談のように溢れ出る、ふざけた涙ならば見た事ある」)

(次兄「いつだって割と真剣に生きているのにひどい」ブワァ)

(野獣「ほら、今も」)

(野獣「……あの時は末妹に見つかるまいと慌てて拭っただろう、見ていたぞ?」)

(野獣「なぜ泣いたのだ?」)

(次兄「……野獣様は俺の友達。末妹は俺の妹」)

(野獣「ん?」)

(次兄「ふたりが仲良くしているのは友として兄として喜ばしいことだし」)

(次兄「お屋敷に戻ってからの二週間、俺は何ひとつとして、失ったものはない」)

(次兄「……なのに……野獣様と末妹の間には」)

(次兄「他の誰も、俺でさえ、どうあっても入り込めないふたりの世界が…いつの間にか出来ている……」)

(野獣「次兄……」)
 

(次兄「……へへ、我ながら何言ってんでしょうね?」)

(次兄「己の夢を叶えるになるため、妹と離れて家を出ると宣言した兄なのに」)

(次兄「妹がどんどん大人になって行くのは寂しいとか」)

(次兄「野獣様にとって俺はどういう存在か、じゅうぶん身に沁みているのに、改めて思い知らされると悲しいとか、身勝手な……」)

(野獣「…………私にとっての『友』という存在では、やはり不服か?」)

(次兄「……」フルフル)

(次兄「人生における初恋の相手が基本的に一人しかいないのなら、初めての友達だって唯一無二の存在」)

(次兄「野獣様が俺にとってのそれであり、俺もまた野獣様のそれであると思ってもらえるのは名誉以外の何物でも……」)

(次兄「……………………」)

(野獣(黙ってしまった、また泣くのではあるまいな??)オロオロ)

(次兄「……うへへ、そう考えたらやっぱり俺は幸せ者ですね」ニパ)

(次兄「俺の涙なんて子供じみた独占欲の現れですよ」)

(次兄「いっぽう野獣様との出会いをきっかけに末妹は少しずつ一人前の淑女へと成長しつつある、今この時も」)

(次兄「俺も大人に、真の意味での紳士にならねば」)

(次兄「頼りないままでは美術学校を父親に認めてもらうのも困難ってものですよ、ねえ?」)

(野獣「……焦って早足で大人にならんでもいいのだぞ、しかし、私に言わせれば、お前は立派な……」)

(野獣「……」)

(次兄「ん? 『立派な』何ですか、野獣様?」)

(野獣「……うむ、立派な、変な奴だ」ニッ)

(次兄「わーい(棒)、なんとなくそんな予感はしていましたー」)

(野獣「ふっ、冗談だ。すまんな、ふふ……」)

(次兄「むー、野獣様ったら、お茶目さんなんだから!」)

(野獣「ははは……」)
 


※今夜はここまで。イチャイチャ回(違)。うーむ、最近は2レス程度ずつしか投下できません…※
 

(野獣「さて、末妹も呼ぼうか……」)

(次兄「いつもどうやってこの夢の世界に俺達を呼び出しているんですか?」)

(野獣「ああ、今からやって見せよう。まず、私の指で『仮想の窓』を開く」シュパ)

(次兄「おお、まるであの銀板鏡みたいなものが空中に」)

(野獣「これに、ここへ来て欲しい者の姿を映し出し、呼び掛けるだけだ」)

(野獣「……さあ、おいで、末妹……」)

(次兄「あ、『鏡』が少しずつ薄くなって消えて行く、いや、代わりに目を瞑った末妹の立ち姿に……?」)

(末妹「……」フワーン)

(次兄「末妹が宙に浮いてるうううう!?」)

(野獣「声が大きい、お前も覚えていないだけでいつもこうやって出て来るのだぞ?」)

(末妹「……」ストン)ユルヤカニチャクチ

(末妹「野獣様……?」パチ)

(野獣「こんばんは、末妹」ニコ)

(末妹「野獣様、こんばんは」ニコリ)

(末妹「……そして、お兄ちゃん」)

(次兄「おいっす」)

(野獣「二人とも、帰還のための旅支度は万全なようだな、すっかり旅慣れたものだ」)

(野獣「お前達と知り合ってから一ヶ月と半月以上…二カ月近くが経とうとしているが……色々な事があったな」)

(末妹「……ええ」コクリ)

(次兄「なんか振り返ると、この間に一生分の大冒険をしちゃった気分ですよ」)

(野獣「ふふ、私もだよ」)

(末妹「冒険、確かにそうですね」)

(末妹「私、野獣様と出会う前より…ずいぶん強くなった気がします。冒険物語の主人公のように」)

(次兄「……ま、まさかお前も素手で薪が割れるようになったのかっ!?」アワワワ)

(末妹「そうじゃなくて」)

(末妹「心の話、心の強さの話よ」)

(野獣「……お前は私と知り合う前から強い子だったよ?」)

(野獣「父親の身代わりに自ら怪物の住処に飛び込んでくる女の子など、そうそういない」)
 

(末妹「…私、あの頃はきっと何もわかっていなかった、怖いもの知らずの子供なだけだった、と思います」)

(末妹「それに、前より強くなったと言ってもまだまだですよ、私なんて」)

(末妹「もっと……例えば、次姉お姉さんのように強くなりたい」)

(次兄「や、やはり目指すは剛腕系女子なのかっ!?」)

(末妹「お姉さんの強さは…確かにそっちも強いけど…本当は別の所だと思う」)

(末妹「私の事も守ってくれたのもそうだし、部屋に閉じこもった長姉お姉さんの事をずっと支えていたのも」)

(末妹「うまく言えないけど」)

(末妹「……まるで、私の事を命がけで産んでくれたお母様みたいな、そんな強さ……」)

(野獣「末妹……」)

(次兄「でもさ、以前はそんなんじゃなかっただろ?」)

(次兄「派手好きな浪費家で、お前や俺への態度もツンのみで」)

(次兄「姉さんも色々あった中で、変わって行ったんだと思う……今の方が本質なのかもしれないけど……」)

(野獣「以前の次姉とやらは私はよくわからんが、その本質を引き出した……思い出させた、かな」)

(野獣「それは末妹や次兄の存在があってこそだ、いや、お前の家の者、皆がそうかもしれん」)

(野獣「……羨ましいな、家族とは良いものだ」)

(末妹「野獣様だって素敵な家族と一緒ですよ」)

(末妹「執事さんも、料理長さんも、メイドちゃんと庭師くんも……」)

(末妹「お屋敷の皆さんがいたから、野獣様は長年のひとりぼっちから抜け出せた」)

(末妹「皆さんは野獣様を支えて、野獣様は皆さんを守って、このお屋敷で」)

(野獣「家族……」)

(野獣「ああ、そうだな。あの者達は私の大切な家族だ、紛れもなく……」)

(末妹「そして、今は…師匠様と菫花さんも」)

(野獣「……うむ、叱咤激励(時には罵倒)してくれる父親と、成長を見守って行く…なんだろうな、弟のような、息子のような…?」)

(末妹「ですから、家族の皆さんのためにも、野獣様はお元気でいてください」)

(末妹「私達が家に帰っても、寂しさのあまりご病気になったりでもしたら、叱りに来ますからね?」)

(野獣「ふふふ…末妹も言うようになったではないか」ナデナデ)

(末妹「えへへ…」)

(次兄「お、俺もそんなことになったらペロペロしに来ますからねっ!?」)

(野獣「う、うむ、次兄は相変わらずだな」ワシャワシャ)
 


※ここまででした。前回の続きと次回も続き、そこそこ長い一夜の話になりそうな、もうちょっとと言いながら…※

(次兄「必ずまた、会いに来ますよ。父親に将来の話をした結果も、俺自身の口から直接伝えたい」)

(野獣「……うむ、私も次兄自身から聞きたいよ」)

(野獣「頑張るのだぞ、願わくば……お前の夢が、良い形で叶うことを」)

(次兄「ありがと、野獣様」ケヘヘ)

(次兄「……さて、俺は体力もないことだし、明日に備えてもう寝ましょうかね」)

(末妹「もういいの?」)

(末妹(今夜の夢の世界から出てしまったら、野獣様としばらく会えないのに……))

(次兄「うん、寝る前にも話したけど、またの機会に取っておくさ」)

(次兄「おやすみなさい、野獣様。末妹、限られた時間だけど、楽しい思い出を作ってね?」)

(末妹「お兄ちゃん……」)

(次兄「それからね、やっぱり末妹が我が家では誰よりも強い人間だと思う」)

(次兄「次姉ねえさんだって、末妹よりも自分が『強い』なんて思っていないさ」)

(末妹「……次姉おねえさんも、確かにそう話していた事はあるけど……」)

(次兄「自分ではなかなか気が付かないもんだよ」)

(次兄「じゃあ二人とも、今度こそ本当におやすみなさいまし」)

(野獣「明日の道中、末妹の事をしっかり頼むぞ? 頼れる兄としてな」)

(野獣(次兄、お前だって自分では自分の強さに気付いていない))

(野獣(……図太さなら自覚して開き直っているようだがな))

(次兄「では、眠りの呪文いっちょお願いしやす」ペコリ)

(野獣「わかった。 おやすみ、次兄。 またな……」ポワンワ)

(次兄「ほぇぇ、この瞬間がね……きもちぃのぉ……」ホワンワ)

(次兄「……お先に失礼、末妹……」ムニョ)

(末妹「おやすみなさい、お兄ちゃん」)

(末妹「……柔らかい光に包まれて、消えて行く……」)

(末妹「野獣様が私達を見送る時、いつもこう見えているのですね」)

(野獣「ああ、この後は朝までぐっすりと眠っているよ」)

(野獣「さて、末妹。少しの時間だが……」)

(末妹「ええ、ほら、私もう着替えてしまいました、あのドレスに」イッシュンデデキルカラ)

(野獣「おやおや、今夜はお前からダンスに誘ってくれるのかい?」フフ)

(末妹「はい、私と踊っていただけますか、野獣様?」ニコッ)
 


※短いけど今夜はここまで。次兄は強いというより図太いのかもね、です※

…………

次兄の客間。

次兄「……すやすや」

次兄「んむう…わかりましたぁ、野獣さまあ…むにょ」

次兄「ぱんつ、パンツは毎日取り換えますぅ…だから怒らないでぇ…ぐうぅぅ」

寝言の夜は更けて行く……

…………

(野獣「ふふ、では…私も着替えようか。場所もバラ園に……」ハヤガワリー)

(オルゴール:♪~~♪~♪♪~♪~~)

(野獣「舞台が整った、さあ」)

(末妹「……はい!」ニコッ)

(~♪~♪~)

(野獣「……お茶会の様子、私も見ていたぞ。お前達なら安心して魔法の鏡を預けることができる、師匠も同じ気持ちだ」)

(末妹「何もかも、次兄(あに)の頭の良さと意志の強さです。私は兄について行くだけ」)

(野獣「次兄が強いのは、お前という妹がいてこそだよ」)

(野獣「……何度でも言う、この時代で出会った人間がお前達で、本当によかった」)

(野獣「『友』がいる喜び、使用人達を改めて家族として大事に思う気持ち、それから……全てお前達のお陰で呼び覚まされた」)

(末妹「私も……さっきも話しましたが、色々な事があって、皆さんとの出会いがあって」)

(末妹「……お陰でちょっとだけ変われた…大きくなれたような気がします」)

(末妹「背はちょっとも伸びていませんけど」ボソ)

(野獣(ううむ、気にしているのか……お年頃なのだなあ))
 

(野獣「そのドレスだが……実は、お前が今より成長しても着られるようになっているのだ。気付いていたか?」)

(末妹「え、これがですか?」)

(野獣「装飾のためにしか見えない折り返しだが、伸ばすことができる。多少の裁縫の技術があれば簡単に直せる」)

(野獣「そうだな、最大で身長150センチの、標準体形までは」)

(末妹「ひゃくごじゅう…………」)

(野獣「ハッ」)

(野獣「い、いや、お前の将来の身長がそこで頭打ちという意味ではないぞ!?」)

(野獣「当初の予定では毎年ドレスを送るつもりだった、成長期なら1年間でどれほど大きくなるかわからんではないか!?」)

(末妹「……私、この先、140センチにもなればいいほうかなって思っていたんです」)

(野獣「……は?」)

(末妹「でも、今のお話を聞いて、150センチまで、今より17センチも大きくなれたらいいなって」)

(末妹「野獣様の仰るように、このドレスの限界まで背が伸びたらいいなって、思ったところ……」クス)

(末妹「でもさすがにそれ以上は伸びないと思いますから、新しいドレスは必要ありませんよ」)

(末妹「だいいち、私にはこれが世界一素敵なドレスですもの、後にも先にも」)

(野獣「毎年新しいドレスというのは、別に体形が変わるからって意味ではないのだが」)

(野獣「お前の姉達も、町のちょっといい家の娘達も、何着でも持っているのではないか?」)

(野獣「……しかし、お前はドレスより宝石より……花一輪が嬉しい娘だったな」)

(末妹「ええ、ですから……またお花の季節にここへ必ず来ます」)

(末妹「前庭で、バラ園で、生まれた場所で瑞々しく咲き誇るお花を、メイドちゃん達や…野獣様と…一緒に見たいのです」)

(野獣「……楽しみにしているぞ。庭師にも、今まで以上に頑張って仕事をしてもらわんとな」)

(~♪~♪~)

 


※今夜はここまで。読んでくれてありがとうございます※

野獣様ちょっと気が利き過ぎて怖いっす!

(~♪~♪~)

(末妹「……ねえ野獣様、次兄(あに)は画家になれると思いますか?」)

(野獣「きっとなれる。信じている。その時が来るのが楽しみだ」)

(末妹「私もです」)

(末妹「そして、将来の夢を見つける事ができた兄が羨ましい……」)

(野獣「お前は店を継がないのか、いや、しかし、そうか、店を継ぐのは上の兄か」)

(野獣「次姉も商売の才能に目覚めているようだし……」)

(末妹「うちの店の手伝いは楽しいです、だけど最近」)

(末妹「もしかしたら他に『これだ!』って思えるような仕事があるかもしれないって…そう考えてしまうのです」)

(野獣「自分の将来をあれこれ考え始める年頃でもあるのだな」)

(野獣「お前もこれから見つける事が出来るだろう、まだ決まっていなくてもおかしくはないさ」)

(末妹「……でも野獣様、私も少しだけ……見えてきました」)

(野獣「うん? 見えてきた?」)

(末妹「ええ、これはまだ誰にも言った事はありませんが」)

(末妹「……私、人を教える仕事ができたらいいなって、思うようになってきました」)

(野獣「ほう、乗馬学校の教官にでもなるのかね?」)

(末妹「ふふ、馬は基礎の基礎がせいいっぱいですよ、しかも私によく慣れたうちの馬(こ)が一緒でなくちゃ」)

(末妹「…でも菫花さんも、きっかけのひとつです」)

(末妹「他には、少しお話しした事がありますが、私の友達……友3ちゃん」)

(野獣「お前が勉強を時々教えてやっている同級生だったな」)
 

(末妹「二人とも頑張る気持ちがあって、私は少しお手伝いをしただけ」)

(末妹「…私なんかよりもっともっと優秀で教えるのが上手な人はたくさんいるのでしょう、それでも」)

(末妹「私の教え方が『合っている』という『生徒』が他にもいるのだとしたら……」)

(末妹「まだ見ぬその子達のお手伝いがいつかできたら素敵かな、って」)

(野獣「……ああ、それは素敵だな」)

(野獣「私がかつて人として生きていた時代は、学問とは限られた者のための厳しく狭い道だったが」)

(野獣「今の時代、そしてこれからは、貧しい者や幼い者にも学ぶ場は必要になって行く」)

(野獣「末妹のような優しく根気強く教えてくれる教師も、今まで以上に必要とされるだろう」)

(末妹「優しいだけじゃ務まらないのも知っていますよ?」)

(野獣「ふふ、お前だったらそれも心配ない」)

(野獣「必要とあらば厳しくなれるさ、今から既に……怒らせたら実におっかないからな?」)

(末妹「おっかないって…やだ、野獣様ったら!」)

(野獣「ほぅら、怖い怖い」クワバラクワバラ)

(末妹「もう、知りません!!」プイッ)

(野獣「おや、本気で怒らせてしまったかな」)

(末妹「……」)

(末妹「…………くす」)

(野獣「お、笑ったな?」)

(末妹「わ、笑ってなんかいません…ふふふ…」)

(野獣「ふ、からかって悪かった、ははは……」)
 

(末妹「笑いながら謝っても許しませんよ、ふふ、あははは……」)

(野獣「おいおい、お前もどう見ても怒っていないではないか…はは」)

(野獣「……やはりお前には笑顔が一番だな、末妹」)

(末妹「誰だって同じですよ、野獣様も」)

(末妹「……初めてお会いした頃は、野獣様の表情が私にはわからなくて」)

(野獣「そりゃ、生まれて初めて見る毛むくじゃらの怪物の表情はわかりにくかろう」)

(末妹「怒っていらっしゃるのかな、もしかしたら今のは笑われたのかしら、とか」)

(末妹「考えないとわからなくて、いえ、考えても的外れだったのかもしれませんが」)

(末妹「いつの間にか……ごく自然に」)

(末妹「野獣様の笑顔がわかるようになっていました」)

(末妹「……そして、野獣様が笑ってくださると、私は嬉しいです」)

(野獣「末妹」)

(末妹「もちろん私だけじゃないですよ、執事さん達だって野獣様の笑顔が好きだと思います、絶対」)

(末妹「……次兄(あに)は『睨まれたい』とかたまに呟いていましたが」ボソ)

(末妹「……」)

(末妹「だから私、今回は泣かずに、笑って野獣様ともお別れします」)

(末妹「野獣様も、笑顔で見送ってくださいね?」)

(野獣「うむ、約束しよう」)

(野獣「だが、そのためにも、もう少しだけこのまま一緒に踊っておくれ?」ニコ)

(末妹「ええ、もちろんです」ニコ)

(~♪♪~♪~~♪)
 


※今回ここまで…細切れ投下だと色々作者の記憶がげふんげふん※

>>49
それだけ末妹を屋敷に迎えるのに気合が入っていたという事ですん

>>1
めりくりでやんす
前スレのだけどよろしければドゾー

http://m1.gazo.cc/up/25434.jpg

すごく良いシーンだなと思いました(小並感)

(野獣「それで……帰ったら父親に、教師になりたいという話をするのかね?」)

(末妹「ええ、私は来年で15歳になるので、今の学校に通えるのはあと1年くらいなのですが」)

(末妹「その後の進路について、卒業までに決めなくてはならないので」)

(末妹「いずれにせよ、そろそろ父とそういう話をしなくてはならない時期なのです」)

(野獣「ふうむ、それならば特に改まる必要もなく、自然に将来の話ができるわけだな」)

(末妹「……同級生の中でも、将来の事をはっきり決めている子達と比べたら、遅いくらいですけどね」)

(末妹「父は以前から『お前が望む道に進めばいい』と言ってくれています」)

(末妹「私達の先生が前にお話ししてくださった事がありますが、先生になる方法はいくつかあって」)

(末妹「方法によっては、きっと父も賛成してくれると思います」)

(野獣「つまり、必ずしも今の家を遠く離れるとは限らない、というわけか」)

(末妹「……やっぱりそれがうちの父にとって重要だって、野獣様にもわかりますか?」)

(野獣「そりゃあな、商人の人柄と言うか、お前への接し方を知れば…」)

(野獣「……」)

(野獣「……今ならば、彼がお前を、親が我が子を慈しむ心がどんなものか」)

(野獣「バラを折った行為を咎めた時とは比べ物にならぬほど、私にも理解できる…少なくともそのつもりでいる」)

(末妹「野獣様」)

(野獣「四週間前に、末妹と次兄とは二度と会わぬつもりで家へ帰した時は、お前たち家族への罪悪感でいっぱいだったが」)

(野獣「今はそれとは別の想いがある」)

(野獣「よくぞ再び、ふたりをこの屋敷へ送り出す事を許してくれたと……」)

(野獣「どれほど感謝しても足りないほど感謝している、お前達の父…お前達の家族に…心から」)

(末妹「ええ、野獣様……」コクリ)
 

(末妹「……野獣様、私、『ごめんなさい』って言葉はとても大切だと思っています、でも」)

(末妹「『ありがとう』に言い換える事が出来る『ごめんなさい』なら、そうした方がもっと素敵かな、って…そうも思います」)

(末妹「野獣様が私の家族に向けてくださるお気持ちが、今は罪悪感よりも感謝だ、って」)

(末妹「…そのお言葉がすごく…嬉しいです」ニコ)

(野獣「……そうか」フフ)

(野獣「お前は本当に……私の中のあらゆる『正の感情』を呼び覚ましてくれる」)

(野獣「何度でも言おう、末妹に出会えて、よかった」)

(末妹「私もですよ」)

(野獣「……話は尽きぬ、名残惜しいが夜は無限ではない、夜明けが近付いている」)

(野獣「しかし、また…そう遠くない未来に再会できるのだ」)

(野獣「約束通り、笑顔で今は別れよう」)

(末妹「ええ、必ず会いに来ます、またここへ」)

(野獣「さあ、目を閉じて……」)

(末妹「はい……おやすみなさい、野獣様……」)

(野獣「ああ、おやすみ、末妹。また会う日まで、どうか元気で、そして、お前の夢が叶うように……」)

(末妹「野獣様も……お元気で……」)

(野獣「……よ。……は……私の…………」)

…………



   眠りにおちる直前、それは本当に野獣様から出た言葉だったのでしょうか

   わからないけれど、でも

   目覚めた私の胸には、暖かくて幸せな想いが残っていました……



   『末妹よ。お前は、私の……生涯二度目に恋をした女性だ……』

   『だからこそ、どうか、お前の生きる世界で幸せになってくれ、幸せでいてくれ……』



…………
 


※ここまで…野獣の出番、後でもうちょっとあります。主に師匠とですが※


>>55
クリスマスプレゼントありがとうありがとうありがとう、転がりたいほど嬉しいよおおおお
末妹は相変わらず可愛いし次兄の目が開いているし王子まで描いてくれて、たまらんとです
 

※お知らせのみ※

諸事情により、次回更新は年明けになります。トシヲマタグトハオモワナカッタヨ
体調は問題ないのですが色々重なりまして……
というわけで、今年はありがとうございました。皆様どうかよいお年を!!ノシ
 

>>1
明けましておめでトーマス
昨年は素敵なSSに出会えて良い一年でした
今年も引き続き応援しております

http://m1.gazo.cc/up/25775.jpg
完結までガンバッテネ

翌朝、6時20分。次兄の客間。

次兄「……別れの朝、せめてカラッと秋晴れならばよいものを」

空:どんより

次兄「なんだと言うのだ、この曇天と来たら」

次兄「空一面、まるで俺の虹彩のごとき渋い灰色ではありませんか……」ハァ

次兄「…………とか言って」

次兄「わかっております、空の色にかこつけているが、窓の外を見る前から消沈しているのは我が心だ、と」

次兄「末妹に笑顔で別れようねって言ったのはどの口だ、この口かぁ!?」ムニュイイイイイイイ

次兄「……痛ぇ」ヒリヒリ

次兄「うむ、一時のちっぽけな感傷など吹っ飛んでしまうがよろしい」

次兄「最後の一瞬まで執事さんの姿でもこの網膜に焼き付けておく方がよほど有意義というものです」

次兄「さて、元気よく着替えて顔でも洗って来ましょうかね!」

……

末妹の客間。

末妹「……ぐっすり眠れたわ、着替えて顔を洗ったら、ご飯の前に馬さんの顔を見てこようかな?」

末妹「曇っているけど、雨は降っていない、よかった」

末妹「……」

末妹「私達が何をしていても、何を思っていても、こうして朝はやって来る」

末妹「皆さんと笑顔でお別れ、そして笑顔でお父さんの所に帰る……」

末妹「…うん、大丈夫、できる」コクリ

末妹「私は大丈夫です、約束守れます、野獣様」

末妹「野獣様も夢の世界から笑顔で見送ってくださいますよね?」

末妹「さあ、お兄ちゃんに会ったら元気に『おはよう』って言わなくちゃ!」

……


※ことよろ。またぼちぼち更新再開します、もうちょっとですが。今回はとりあえずこのスレに帰還報告※

>>62
ジャパニーズキモーノ! キュート(&一部変態)な初詣ありがとう!!


※再開と言いつつ諸々でなかなか腰据えて取り掛かれません、今週どこかで更新します※

馬の繋がれた東屋。

末妹「あ……」

馬「ひん!」

庭師「おはようございます。末妹様!」

王子「おはよう、末妹さん」

末妹「おはようございます、菫花さん、庭師くん」

末妹「……朝のお世話を、すっかりお任せしちゃったみたい」

末妹「もう少し早起きすればよかったかしら……ごめんなさい、ありがとう」

王子「この子、今日はすごく調子良さそうだけど……末妹さんから見てどうかな?」

末妹「ええ、お見立て通りですよ。毛艶も目の輝きも上々です、それにご機嫌で、だけど落ち着いていて」ポンポン

馬「ぶるる♪」

王子「よかった、僕も少しは馬を見る目が養われて来たかな……」

「庭師くーん! こっち手伝ってー!!」

庭師「あれ、メイドちゃんの声だ。どこから呼んでいるんだろ?」

末妹「庭師くん、あの窓」

メイド「あっ、菫花様と末妹様、おはようございます!!」ペコン

メイド「庭師くん、手と足を洗って厨房に来て!!」

庭師「わ、わかったよ! すみませんお二人とも、僕戻りますね!!」シュタタッ

末妹「馬さんのお世話ありがとうね、庭師くん」

王子「また後でね」

馬「ひん」

王子「……」

王子「本当にいい馬だった、この子に会えてよかった」ポン

王子「おかげで自分の馬(と言うか騾馬)を持つ事に自信が持てるようになった」

末妹「菫花さん」
 

王子「もちろんどんなに素質の良い馬が来ても、心を開いてくれるかは乗る人間しだい」

王子「お互い感情のある生き物、ましてや僕はこんなに未熟者、だけど」

王子「諦めずに、時間はかかっても、良い関係を作って行きたい」

王子「君も言ってたでしょう?」

王子「『相手に気持ちを伝え、相手を受け入れて、それは時には大変かもしれないけれど、そうして私達はわかり合える』」

王子「馬と付き合う時も同じ……ではないかと」

末妹「ええ、私もそう思います」コク

王子「そう考えるようになれたのも、君のおかげですよ。僕の馬の先生というだけではなく」

王子「末妹さん、そして次兄君、二人にはどれだけ感謝しても足りません」

王子「いえ、二週間前に目覚めてからの全ての出会いにも、だけど」

王子「……君と次兄君がこの屋敷の外から来た人、初めて出会った外の世界の人、そして」

王子「屋敷の皆さんが家族なら、君達は初めての友達」

王子「屋敷の皆さんが僕に我が家をくれたのなら、君達がくれたのは」

王子「『我が家』の外でも頑張れる、まだ見ぬ出会いを恐れない、そのための『勇気』」

末妹「私達が、勇気を……?」

王子「何度でも言います、ありがとう」

末妹「菫花さん」

馬「ひひん!!」カオスリスリー

末妹「きゃ、馬さん」スリヨラレ

末妹「ふふ、構って欲しかったのね」ナデナデ

王子「ごめんね、無視していたわけじゃないんだよ」

末妹「……朝ごはんの後にまた来るわ。いよいよ帰りの旅支度」

末妹「久しぶりに馬車を引いてもらうけど、よろしくお願いね、馬さん」ポン

馬「ひひんひんー」マカシトキー

王子「それじゃあ、道具を片付けて、と……」

師匠「おお、やはりここにいたか」

馬「ぶるる?」

王子「師匠」
 

末妹「師匠様、おはようございます。菫花さんにご用ですか?」

師匠「君にも、だよ。二人に、いや、君の兄さんも入れて三人に」

末妹「?」

師匠「執事がな、今朝は朝食の準備に少しばかり時間がかかりそうで、と」

師匠「普段通りにしても早い時間ではあるがな。とにかく」

師匠「馬の世話の道具は片付いたか?」

師匠「よし、手と靴を洗って、と」ポワン

末妹「あ、水が手に、足元にも?」シャワワワ

王子「師匠の魔法ですね、これ」パシャパシャ

末妹「水が動いて、こぼれもせずに手や靴を包み込んでくるくる回ってる……」

師匠「ここから井戸へ行くより手っ取り早いからな」ポヨン

末妹「今度は熱くもないのにみるみる乾いて行く、不思議」シュゥゥ

王子「師匠の魔法は、相変わらずなんでもありですねえ」

師匠「儂には使えても、お前には教えていない魔法なぞいくらでもあるからな」

師匠「さて、屋敷に入ろうか」

末妹「後でね、馬さん……」

馬「ひん」



屋敷の中。

次兄「……で、用ってなんです、おっさん?」

師匠「君の今朝の寝癖は一段と…とんがっているだけならまだしも、捻りが加わって」

師匠「……まあよいわ。昨夜…もう明け方か、とにかく野獣に呼ばれてな、夢の中に」

次兄「野獣様が!?」

末妹(私とお別れした後ね……)

師匠「早い話、ひとつ頼まれた」

王子「頼まれた?」

師匠「皆ついておいで、詳しくはそこで話す」

末妹「……」
 

とある部屋の前。

王子「……ここは……!」

次兄「このあいだの菫花さんの試練の部屋じゃないですか」

末妹「……王様と王妃様の、肖像画のお部屋……」

師匠「君達兄妹、この時代に生まれた人間には、単なる芸術作品だ」

師匠「少年」

次兄「お、俺?」

師匠「著名な画家の遺した、200年以上も歴史に埋もれ存在を殆ど忘れ去られた作品を」

師匠「芸術家の卵であるお前に見せたいと、野獣が望んでいると聞けば…どう思う……?」

次兄「……」

師匠「少女よ、君も」

師匠「野獣が菫花と共に乗り越えたものが何であったか、それを知って欲しいと」

師匠「野獣が望んでいるとすれば、どうする……?」

末妹「野獣様が……」

王子「……」

師匠「菫花よ、前にも言ったが、お前はこれからいつでもここに入るか入らないかを自由に選べる」

師匠「……そして、お前が拒むのならば、この子達を入れない事もできる、と」

師匠「これも野獣は言っていた」

王子「……師匠」

王子「拒む理由なんて、ありませんよ」

王子「絵は絵です、僕だってもう普通にこの部屋に入れます、友達と一緒に」

師匠「……ほう」

師匠「お前も一緒に、か。これは儂にも奴にも予想外だったかな」

王子「二人とも、僕からもお願いです、どうか一緒にこの部屋に」

師匠「儂もご一緒していいかね」

次兄(断る理由もないし断っても来るのがおっさんですよねー)

末妹「……お兄ちゃんは……」

次兄「うん、俺は見てみたい、いろんな意味でね」ニヘ

末妹「……じゃあ、私と同じね」ニコ
 


※ここまで。遅れてすみません、たいへんお待たせしました…… 来週じゃなくて今週、可能であればあと1回は※

朝食準備中の厨房。

庭師「ジャガイモ裏ごしたよ、これどうするの!?」

メイド「それはポタージュにするから、こっちに持って来て!!」

料理長「ふう、朝食にしては品数を増やしたので我ながらどうなるかと思ったが、ふたりのおかげで間に合いそうだ」

料理長「さてと、焼き上がり時間を逆算して……秋野菜と森のキノコのキッシュ、そろそろ、かまどに入れようか」ガチャリ

庭師「料理長さん! 僕が削ったチーズ忘れてる、焼く前にかけなくちゃ!!」シュババッ

執事「……食卓のセッティングは終わった。何か手伝おうか?」ガチャ

メイド「執事様!! 丁度よかったぁ、そこの木べらを取ってください!!」

執事「ああ、これか? 確かにこの高さではお前には届かないな」カチャ

メイド「そっちじゃないです! 右のほう!!」

執事「こっちだって木べらだろう」

メイド「とろみの濃い汁物を混ぜるのには穴あきの木べらが混ぜやすいんです!!」ピョンピョン

執事「そ、そうなのか? 悪かった、ほら、穴あき」スチャ

メイド「もう、執事様のせいでポタージュが焦げ付く寸前でしたよ!!」マゼマゼ

執事「……わたくしのせいなのか??」

庭師「火に掛ける前に用意してなきゃ駄目だよメイドちゃん……僕に言えば棚によじ登って取ったのに」

料理長「メイドちゃんや、張り切るのは良いが、料理はいつも通り落ち着いて取り組まないと」

メイド「むぅ……だって、末妹様に召し上がっていただくお食事は、今回で……」マゼマゼ

執事「気合が入ってしまうのは仕方ない、お前の気持ちもわかる」

メイド「……執事様には失礼な事を言ってしまいました……ごめんなさい」ペコリ

執事「わたくしの事は気にしなくて良い、美味しい料理を仕上げるほうに心を配れ。末妹様達に喜んでもらえるようにな」

メイド「はい!」マゼマゼ

料理長「わしが普段より時間がかかる献立を選んだばかりに、焦らせてしまっているのですよ」

執事「最大で、どれほど遅くなりそうだ? 料理長」

料理長「最大……15分弱といった所でしょうか」

執事「それならば問題ないな、いつもより多少遅くなっても構わないと師匠様も了承済みだ」

執事「師匠様から菫花様と次兄様、末妹様にも説明しておいてくださるとのことで」

執事「朝食待ちの時間を利用してお三方にご用があるとか……」

肖像画の部屋。

ドア:ガチャ…

次兄「…………暗い」

王子「窓に他の部屋よりも分厚いカーテンがかかっているので」

師匠「手っ取り早く魔法で開くか」指パッチン

カーテン:スルスルスル……

次兄「おお明るくなった、いよいよ名画とのご対め……ん?」

末妹「お部屋の中はよく見えるようになったけど……」

次兄「絵はどこっすか??」

師匠「肖像画が描かれた当時から、埃や日光から守るために覆いがかかっているのだ」

師匠「ほら、そこの壁。覆い布とさほど変わらんサイズの絵がこの下にある」

末妹「これが……だとすればすごく大きな絵が、ここに……」

次兄「さすが王様、巨匠画家においくら積んだのかしら」

王子「……」

王子「…皆さん、もう少し近付いて」

末妹「え、ええ……」

次兄「うーん、これだけでかい絵だと近過ぎるのもな。このくらいがベストポジションか」ビチョウセイ

師匠「妥当だな」

師匠「さて、魔法で御開帳と行くか」

王子「待ってください」

王子「僕が開けます。この紐を引いて」

末妹「菫花さん」

師匠「そうだな、お前が開いてくれ」

師匠「……」

……

師匠の回想、明け方の夢の世界……

(野獣「……師匠」)

(師匠「なんだ、儂を呼び出したりして」)

(師匠「少女との…兄妹との別れは済んだか?」)

(野獣「ええ」)

(師匠「寂しいだろう?」)

(野獣「……二人とも笑顔でここを発ち、笑顔で家に帰り、そしてまた…笑顔でここに来てくれますよ」)

(野獣「だから私も悲しい顔はしません」ニコ)

(師匠「ふふ、強がりおって」)

(野獣「菫花がずいぶん頑張りましたから、私とは違う数十年をこれから歩き出すために」)

(野獣「だから私だって負けずに頑張り通します」)

(師匠「確かに頑張ったわな、あいつにしては、と前置きが必要だが」)

(野獣「大抵の人にはどうってことない行為が、彼、いえ、彼と私には確かに試練でしたよ。馬に乗る、外の世界に踏み出す」)

(野獣「……両親の肖像画に向き合う」)

(師匠「あいつは『絵は絵』だと、『今度は普通にここへ立ち入れるようになる』と言った」)

(師匠「お前にとっても、そうか? 仮想の窓の術であの部屋を覗けるか?」)

(野獣「……半分は菫花の強がりでしょう」)

(野獣「それでも、次に入る時はもう倒れるほどの圧力を感じる事もないでしょう、その程度には間違いなく強くなった」)

(野獣「しかし私には……未だに……」)

(師匠「ん?」)

(野獣「……件の絵ですが、屋敷に師匠や菫花が暮らしているうちはともかく、数十年後、百年後」)

(野獣「あの絵を後世に残すべきか、世間に忘れ去られたまま静かに葬るべきか」)

(野獣「私は菫花が絵に向き合ったあの日以後、何度かそのことを考えました」)

(野獣「そして描いた画家の意志は、私にはどう考えても……願わくばなかった事にしたかった、としか」)

(師匠「……現在、この世に残っている過去の人物の肖像画は単なる芸術作品、あるいは単なる歴史的資料だ」)

(師匠「当時関わった人間が何を思っていたか窺い知れるのは、その中でもごく僅か」)

(師匠「ほとんどはわからんと言ってよいくらい」)

(師匠「第一にな、完成させて依頼主に渡した絵は、もう画家の所有物ではなくなっているのだぞ」)

(師匠「しかも絵をなかったことにしたい云々だって、お前の思い込みではないか」)

(野獣「それはそうですが」)

(師匠「後の人間に任せればよいと儂は思う」)

(野獣「……後の人間」)

(野獣「肖像画に描かれた人物を直接知らない、ずっと後に生まれた人々は、あの絵を見て何を思うのでしょう」)

(師匠「いるではないか、『後の世に生まれた人間』ならば」)

(野獣「あ」)

(師匠「あの子達から率直な感想が聞けたならば、お前も」)

(師匠「……両親の影から今度こそ完全に解放される、あの絵もお前から解放され、ただの芸術作品になれる」)

(師匠「儂はそう思うのだがな、どうだ?」)

(野獣「……やはり師匠は私の事を私自身以上におわかりですね」)

(野獣「画家を目指す次兄は、何を思うのか」)

(野獣「私と菫花をあらゆる呪縛からひとつずつ、縫い止める糸を解くように自由にしてくれた末妹は、何を思うのか」)

(野獣「…………師匠にお願いしてよろしいでしょうか?」)

……


※ここまで。次回は最低でも一週間後に…※


※お知らせのみ。次回投下はあと2~3日後の予定です…※

王子「では、覆いを開きます、皆さん……」グッ

末妹「はい……」

次兄「どきどきわくわく」

覆い:サーッ

師匠「……」

師匠(久し振りだな、王よ)

師匠(野獣よ、お前も仮想の窓で見ているのであろうな……)

(野獣「……父上、そして母上……」)

(野獣「菫花がこの部屋に入り、絵と向かい合ったあの日」)

(野獣「菫花はよくやった、頑張ったと私は思った、嬉しかった」)

(野獣「しかし、私自身は……」)

次兄「」

末妹「……っ」

菫花「!」

(野獣「お前達……」)

菫花「……なぜ、泣くのですか……?」

菫花「二人とも……」

末妹「……何故でしょう、この絵は……とても立派で美しいと、芸術の知識がない私にもわかります」グス…

末妹「そして描かれている王様と王妃様……お二人も奇麗なかた、でも、でも」

末妹「……この絵を見たとたん、胸のこのあたりがぎゅっと……苦しくなって、涙が……」グシ

(野獣「末妹」)

(野獣「あの場所は末妹が……『私の欠片』を押し当て、そのまま溶け込んだ場所……」)

次兄「……俺は、これ、あくまで直感なんだけど」グシュ

次兄「俺こええよ、この絵……」

次兄「描かれている対象そのものがじゃなくて、なんというか、その……」ズビー

次兄「依頼をこなすだけ、それだけでよかったんだこの画家は、なのに」

次兄「頼まれていないものまで描いちゃったんだ、そしてそれは描いちゃ駄目なものだった……」

(野獣「次兄、お前にはそれがわかるのか……」)
 

次兄「……なんて、さっきも言ったけどあくまでも直感」

次兄「見たとたん、俺の心にずっしり来たのを言葉にしたら、そんな感じなんだ……」グシュン

菫花「君たち……」

師匠「……」

師匠「君等の家は庶民とは言え裕福ではあるが……ご両親の肖像画は家にあるかね?」

末妹「……あります」コク

末妹「ふたりが結婚した頃に、祖父が王都の画家に依頼したという……」

次兄「今はそこそこ名も売れているけど、20年前はまだまだ新人で」

次兄「じいさんが知人の伝手で紹介してもらったと聞いたけど……」

末妹「勿論こんなに大きくはありません、今は母の部屋に飾ってありますが……」

末妹「………………」

菫花「きっと、幸せそうなお二人…ご両親の姿が描かれているのでしょうね」ニコ

末妹「菫花さん」

師匠「……次兄君、小国の歴史書を何冊か読み漁ったのならば……この王の先王は『何者』か、知っているか?」

次兄「ふぇ?」

次兄「……うん、確か、この王妃様のほうの父親が前の王様だって」

次兄「だから、王子様の……菫花さんの祖父には間違いないけど、王様は前の王様の子供じゃない」

菫花「……その通りだよ」

師匠「ああ、小国では、女性には王位継承権がなかった」

師匠「そして、王妃がまだ王女だった頃、彼女には三人の兄王子がいたので」

師匠「次代の王はその王子達に間違いないと、誰もがそう思っていたが……」

師匠「戦や思いがけぬ事故が原因で、王子達は立て続けに若くして亡くなってしまった」

師匠「王子達に続く王位継承権の高い者も、同じ戦で亡くなったり重い病の床にあったりと……」

師匠「結局は先王の従弟の息子である『この男』に回って来た」

師匠「そして、この王家にはもうひとつしきたりがあった」

師匠「先王の王子は不在だが王女だけは存在している場合、強制的に次の王の妃にならねばならない」

師匠「先王の『直系の血』は残さねばならんのでな」

末妹「……」
 

師匠「儂は『この男』を、そんな立場に立たされる前から知っているが」

師匠「…………彼の人生は彼の思い描いた通りに行かなかった」

師匠「おそらくは、『彼女』も」

次兄(……そうか、このきらびやかな衣装の美形王族カップルが漂わせる暗さは……)

師匠「だからってなあ、国を、民を、我が子を」

師匠「全てを王の名の元に自分の思い通りにしてやろうとはなあ、許された所業ではないぞ、わかっておるのか?」コンコン

次兄「お、おっさん、絵を杖で叩いたら絵具が剥がれるし」アタフタ

師匠「……この男とは少年の頃、机を並べて共に学んだこともあってな」

師匠「ま、それはどうでもいい」

師匠「この画家は間違いなく腕が良かった、天才と言っても良い」

師匠「……しかし既に名声が拡がっていたとは言え若くもあったのだ、思いがけず、彼らの複雑な心境まで筆に込めてしまった」

師匠「王と王妃自身が気付いていたかは今となってはわからんが」

師匠「……彼らの子である王子は、間違いなく敏感にそれを感じ取ったのは間違いない」

菫花「…………」

師匠「そして、赤の他人であるにもかかわらず」

師匠「芸術的センス、若さゆえの感受性の強さ、野獣への想い、他にもあるかもな」

師匠「あらゆる要因が、この絵に向かい合った君達兄妹に涙を流させた」

師匠「……正直、君達がここまでの反応を見せるとは予想外で」

師匠「まだ幼く柔らかな心が傷付いたとすれば、すまないことをしたと儂は思う」

(野獣「……」)

末妹「……(お兄ちゃん)」チラ

次兄「……(うん)」コクリ

末妹「いいえ、師匠様」

末妹「兄も私も、この部屋に入った事を後悔してはいません」

末妹「私の場合は、最初に胸がとても痛く、苦しくなりましたが、その後は次第に落ち着いて」

末妹「……それから、今度は同じ場所がほんのりと……暖かくなったのです」

末妹「野獣様が夢の中で、ご自分の欠片を、泣き続ける私に分けてくださった直後のように」

(野獣「!」)
 

末妹「今は、いつもと同じように何の違和感もありません」

末妹「……野獣様の欠片に野獣様の『心』が残っていたのかもしれません」

末妹「正直に言います、私は……あまりにも、自分の両親の結婚式の絵と、違い過ぎて」

末妹「とても切なくて、悲しくて……恐くって……」

(野獣「末妹……」)

末妹「その時…私自身のその感情と、野獣様の心が重なったような気がして、よけい辛くなって」

次兄「相乗効果で増幅されたのかもしれないな」

末妹「でも、涙と一緒に痛みも外へ流れたのでしょう、きっと」

末妹「だからもう大丈夫、ここにある野獣様の『心』の一部も」

末妹「……菫花さんや野獣様と同じように、絵に向き合う辛さを乗り越えたと思うのです」

菫花「野獣の、心の一部……」

末妹「ええ、こういう言い方はおかしいかもしれませんが、野獣様から切り離されたがために」

末妹「菫花さんと野獣様に置いてきぼりにされてしまったのでしょうね」

末妹「でも、ようやく私の目を通して向き合う事ができました」

末妹「……それを終えて、今度こそ本当に、この欠片は完全に私に溶け込んだ」

末妹「そう思うのです、そんな気がしてならないのです」

末妹「同時に私自身の心も……今は穏やかです」

末妹「この絵を見て、切ない、悲しい、という気持ちはまだ拭えませんが」

末妹「『恐い』という気持ちは、もうありません。何故かはわからないけれど……」

師匠「……一度あいつから切り離され君に吸収された『あれ』に、あいつの要素が残っていたとは到底考えられんのだが」

師匠「が、あいつと君達が関わることで、儂の思いもよらぬ事象が今までも何度も起きた」

師匠「世の人が呼ぶ『奇跡』という事象かもしれんが」

師匠「ま、奇跡などと大袈裟な物ではない、そんな事もアリか、くらいの話だ」

師匠「信じたからと、誰も損はしない」

師匠「……少年…次兄君、君はどう思う?」
 

次兄「うーん、俺の直感は案外当たっていたんでしょうね、おっさんの話によると」

次兄「この画家は天才で、この絵を描いたより後の時代にはもっと活躍した」

次兄「でもやっぱり、この絵はできるだけ忘れていたかったと思う」

次兄「……俺は画家になりたいし、そのために何でも描ける腕が欲しい」

次兄「そして、描いちゃいけないものまで描けるほどの力が欲しい、でも」

次兄「その上で、必要とあらばそれを抑える力も必要だと今は思うし」

次兄「抑える事で、絵としての完成度を上げる事が出来る、そんな力を身につけたい」

次兄「この画家もきっとそうすることで、より素晴らしい絵を残せたんだと思う」

次兄(でも趣味で描く絵はまた別の話)

次兄「だから、俺が最終的にこの絵からもらった物は前向きな気持ち」

次兄「夢を叶える意欲、そんな感じ……かな」ニヘヘ

(野獣「末妹、次兄、お前達は」)

(野獣「……お前達は……どれほど私から『ありがとう』という言葉を引き出したいのか……」)

菫花「……」グス

次兄「お、おいおい、今度はあんたが泣いちゃうのか!?」

師匠「どうしたのだお前は」

末妹「菫花さん!」

菫花「……はは、なんでしょうね、これは」グシュ

菫花「僕は今、ものすごく嬉しいのです……」

菫花「これは身勝手な思い込みですが……」

菫花「君達の涙で、ようやく……僕の両親の魂は……浄化された、救われたんじゃないかな、って」

菫花「君達にそんなつもりは毛頭ないとしても、結果として」

菫花「これでようやく、穏やかに眠りに着けたんじゃないかって」
 

菫花「……そう簡単に許されてはいけない罪を犯したと、わかってはいますがね……」グス

末妹「……救われた……おふたりの魂が……」

師匠「……」

師匠(本当の所はどうか知らんけが)

師匠(なあ、王よ王妃よ、どうだ、お人好しのド間抜けの息子の言う通りに…もう穏やかに眠ってみないか)

師匠(自分の立場を利用して好き勝手に振舞いながら決して幸福ではなかったあんた達だが)

師匠(菫花の言葉で、菫花にこんな友達ができた事で、充分過ぎるほど報われたではないか)

師匠(なあ野獣)

師匠(お前ももう、それでいいよな? 両親の魂は穏やかであれ、と願ってやれるよな……?)

(野獣「……師匠」)

(野獣「ええ、私も末妹と次兄に感謝していますよ……」)

メイドの声「皆さーん、朝食ができましたよー」

末妹「メイドちゃんが呼んでいる」

師匠「おお、思ったより時間を取ってしまったな」

師匠「冷めないうちにいただくとするか、ほら、行くぞ」

次兄「そういえば腹ペコだぁ」グゥ

菫花「ええ、用意してくれた皆を待たせてはいけませんね」

菫花「……」

菫花「父上、母上」

菫花「僕はこれからもこの世界で生きて行きます、皆と一緒に」

菫花「……またここに来る事もあるでしょう、しかし今は……」グイ

覆い:シャッ

菫花「……おやすみなさい、さよなら……」

……


※ここまででした。入れよか外そか迷ったエピソードだったり※

野獣と王子が両親の絵を恐れていたのはそんな理由もあったんだなぁ
ところで次兄がまともなことしか言ってなくて私心配

>>89
すぐいつもの次兄に戻るのでご心配なくw


※お知らせ※
リアルでの事情で最低でも2週間ほど?更新できなさそうです…
しかし必ず完結します

見返すと>>82-87で王子の表記名間違えたよギャーですが次回更新時に差替分も投下する かもしれません
それではまた…
 


※お久しぶり※
>>82-87で王子の表記名間違えたので、以下>>93-98に修正して差し替え。
表記名のみの修正なので、>>99まで読み飛ばしても問題ないですよ……
 

王子「では、覆いを開きます、皆さん……」グッ

末妹「はい……」

次兄「どきどきわくわく」

覆い:サーッ

師匠「……」

師匠(久し振りだな、王よ)

師匠(野獣よ、お前も仮想の窓で見ているのであろうな……)

(野獣「……父上、そして母上……」)

(野獣「菫花がこの部屋に入り、絵と向かい合ったあの日」)

(野獣「菫花はよくやった、頑張ったと私は思った、嬉しかった」)

(野獣「しかし、私自身は……」)

次兄「」

末妹「……っ」

王子「!」

(野獣「お前達……」)

王子「……なぜ、泣くのですか……?」

王子「二人とも……」

末妹「……何故でしょう、この絵は……とても立派で美しいと、芸術の知識がない私にもわかります」グス…

末妹「そして描かれている王様と王妃様……お二人も奇麗なかた、でも、でも」

末妹「……この絵を見たとたん、胸のこのあたりがぎゅっと……苦しくなって、涙が……」グシ

(野獣「末妹」)

(野獣「あの場所は末妹が……『私の欠片』を押し当て、そのまま溶け込んだ場所……」)

次兄「……俺は、これ、あくまで直感なんだけど」グシュ

次兄「俺こええよ、この絵……」

次兄「描かれている対象そのものがじゃなくて、なんというか、その……」ズビー

次兄「依頼をこなすだけ、それだけでよかったんだこの画家は、なのに」

次兄「頼まれていないものまで描いちゃったんだ、そしてそれは描いちゃ駄目なものだった……」

(野獣「次兄、お前にはそれがわかるのか……」)
 

次兄「……なんて、さっきも言ったけどあくまでも直感」

次兄「見たとたん、俺の心にずっしり来たのを言葉にしたら、そんな感じなんだ……」グシュン

王子「君たち……」

師匠「……」

師匠「君等の家は庶民とは言え裕福ではあるが……ご両親の肖像画は家にあるかね?」

末妹「……あります」コク

末妹「ふたりが結婚した頃に、祖父が王都の画家に依頼したという……」

次兄「今はそこそこ名も売れているけど、20年前はまだまだ新人で」

次兄「じいさんが知人の伝手で紹介してもらったと聞いたけど……」

末妹「勿論こんなに大きくはありません、今は母の部屋に飾ってありますが……」

末妹「………………」

王子「きっと、幸せそうなお二人…ご両親の姿が描かれているのでしょうね」ニコ

末妹「菫花さん」

師匠「……次兄君、小国の歴史書を何冊か読み漁ったのならば……この王の先王は『何者』か、知っているか?」

次兄「ふぇ?」

次兄「……うん、確か、この王妃様のほうの父親が前の王様だって」

次兄「だから、王子様の……菫花さんの祖父には間違いないけど、王様は前の王様の子供じゃない」

王子「……その通りだよ」

師匠「ああ、小国では、女性には王位継承権がなかった」

師匠「そして、王妃がまだ王女だった頃、彼女には三人の兄王子がいたので」

師匠「次代の王はその王子達に間違いないと、誰もがそう思っていたが……」

師匠「戦や思いがけぬ事故が原因で、王子達は立て続けに若くして亡くなってしまった」

師匠「王子達に続く王位継承権の高い者も、同じ戦で亡くなったり重い病の床にあったりと……」

師匠「結局は先王の従弟の息子である『この男』に回って来た」

師匠「そして、この王家にはもうひとつしきたりがあった」

師匠「先王の王子は不在だが王女だけは存在している場合、強制的に次の王の妃にならねばならない」

師匠「先王の『直系の血』は残さねばならんのでな」

末妹「……」
 

師匠「儂は『この男』を、そんな立場に立たされる前から知っているが」

師匠「…………彼の人生は彼の思い描いた通りに行かなかった」

師匠「おそらくは、『彼女』も」

次兄(……そうか、このきらびやかな衣装の美形王族カップルが漂わせる暗さは……)

師匠「だからってなあ、国を、民を、我が子を」

師匠「全てを王の名の元に自分の思い通りにしてやろうとはなあ、許された所業ではないぞ、わかっておるのか?」コンコン

次兄「お、おっさん、絵を杖で叩いたら絵具が剥がれるし」アタフタ

師匠「……この男とは少年の頃、机を並べて共に学んだこともあってな」

師匠「ま、それはどうでもいい」

師匠「この画家は間違いなく腕が良かった、天才と言っても良い」

師匠「……しかし既に名声が拡がっていたとは言え若くもあったのだ、思いがけず、彼らの複雑な心境まで筆に込めてしまった」

師匠「王と王妃自身が気付いていたかは今となってはわからんが」

師匠「……彼らの子である王子は、間違いなく敏感にそれを感じ取ったのは間違いない」

王子「…………」

師匠「そして、赤の他人であるにもかかわらず」

師匠「芸術的センス、若さゆえの感受性の強さ、野獣への想い、他にもあるかもな」

師匠「あらゆる要因が、この絵に向かい合った君達兄妹に涙を流させた」

師匠「……正直、君達がここまでの反応を見せるとは予想外で」

師匠「まだ幼く柔らかな心が傷付いたとすれば、すまないことをしたと儂は思う」

(野獣「……」)

末妹「……(お兄ちゃん)」チラ

次兄「……(うん)」コクリ

末妹「いいえ、師匠様」

末妹「兄も私も、この部屋に入った事を後悔してはいません」

末妹「私の場合は、最初に胸がとても痛く、苦しくなりましたが、その後は次第に落ち着いて」

末妹「……それから、今度は同じ場所がほんのりと……暖かくなったのです」

末妹「野獣様が夢の中で、ご自分の欠片を、泣き続ける私に分けてくださった直後のように」

(野獣「!」)

末妹「今は、いつもと同じように何の違和感もありません」

末妹「……野獣様の欠片に野獣様の『心』が残っていたのかもしれません」

末妹「正直に言います、私は……あまりにも、自分の両親の結婚式の絵と、違い過ぎて」

末妹「とても切なくて、悲しくて……恐くって……」

(野獣「末妹……」)

末妹「その時…私自身のその感情と、野獣様の心が重なったような気がして、よけい辛くなって」

次兄「相乗効果で増幅されたのかもしれないな」

末妹「でも、涙と一緒に痛みも外へ流れたのでしょう、きっと」

末妹「だからもう大丈夫、ここにある野獣様の『心』の一部も」

末妹「……菫花さんや野獣様と同じように、絵に向き合う辛さを乗り越えたと思うのです」

王子「野獣の、心の一部……」

末妹「ええ、こういう言い方はおかしいかもしれませんが、野獣様から切り離されたがために」

末妹「菫花さんと野獣様に置いてきぼりにされてしまったのでしょうね」

末妹「でも、ようやく私の目を通して向き合う事ができました」

末妹「……それを終えて、今度こそ本当に、この欠片は完全に私に溶け込んだ」

末妹「そう思うのです、そんな気がしてならないのです」

末妹「同時に私自身の心も……今は穏やかです」

末妹「この絵を見て、切ない、悲しい、という気持ちはまだ拭えませんが」

末妹「『恐い』という気持ちは、もうありません。何故かはわからないけれど……」

師匠「……一度あいつから切り離され君に吸収された『あれ』に、あいつの要素が残っていたとは到底考えられんのだが」

師匠「が、あいつと君達が関わることで、儂の思いもよらぬ事象が今までも何度も起きた」

師匠「世の人が呼ぶ『奇跡』という事象かもしれんが」

師匠「ま、奇跡などと大袈裟な物ではない、そんな事もアリか、くらいの話だ」

師匠「信じたからと、誰も損はしない」

師匠「……少年…次兄君、君はどう思う?」
 

次兄「うーん、俺の直感は案外当たっていたんでしょうね、おっさんの話によると」

次兄「この画家は天才で、この絵を描いたより後の時代にはもっと活躍した」

次兄「でもやっぱり、この絵はできるだけ忘れていたかったと思う」

次兄「……俺は画家になりたいし、そのために何でも描ける腕が欲しい」

次兄「そして、描いちゃいけないものまで描けるほどの力が欲しい、でも」

次兄「その上で、必要とあらばそれを抑える力も必要だと今は思うし」

次兄「抑える事で、絵としての完成度を上げる事が出来る、そんな力を身につけたい」

次兄「この画家もきっとそうすることで、より素晴らしい絵を残せたんだと思う」

次兄(でも趣味で描く絵はまた別の話)

次兄「だから、俺が最終的にこの絵からもらった物は前向きな気持ち」

次兄「夢を叶える意欲、そんな感じ……かな」ニヘヘ

(野獣「末妹、次兄、お前達は」)

(野獣「……お前達は……どれほど私から『ありがとう』という言葉を引き出したいのか……」)

王子「……」グス

次兄「お、おいおい、今度はあんたが泣いちゃうのか!?」

師匠「どうしたのだお前は」

末妹「菫花さん!」

王子「……はは、なんでしょうね、これは」グシュ

王子「僕は今、ものすごく嬉しいのです……」

王子「これは身勝手な思い込みですが……」

王子「君達の涙で、ようやく……僕の両親の魂は……浄化された、救われたんじゃないかな、って」

王子「君達にそんなつもりは毛頭ないとしても、結果として」

王子「これでようやく、穏やかに眠りに着けたんじゃないかって」

王子「……そう簡単に許されてはいけない罪を犯したと、わかってはいますがね……」グス

末妹「……救われた……おふたりの魂が……」

師匠「……」

師匠(本当の所はどうか知らんけが)

師匠(なあ、王よ王妃よ、どうだ、お人好しのド間抜けの息子の言う通りに…もう穏やかに眠ってみないか)

師匠(自分の立場を利用して好き勝手に振舞いながら決して幸福ではなかったあんた達だが)

師匠(菫花の言葉で、菫花にこんな友達ができた事で、充分過ぎるほど報われたではないか)

師匠(なあ野獣)

師匠(お前ももう、それでいいよな? 両親の魂は穏やかであれ、と願ってやれるよな……?)

(野獣「……師匠」)

(野獣「ええ、私も末妹と次兄に感謝していますよ……」)

メイドの声「皆さーん、朝食ができましたよー」

末妹「メイドちゃんが呼んでいる」

師匠「おお、思ったより時間を取ってしまったな」

師匠「冷めないうちにいただくとするか、ほら、行くぞ」

次兄「そういえば腹ペコだぁ」グゥ

王子「ええ、用意してくれた皆を待たせてはいけませんね」

王子「……」

王子「父上、母上」

王子「僕はこれからもこの世界で生きて行きます、皆と一緒に」

王子「……またここに来る事もあるでしょう、しかし今は……」グイ

覆い:シャッ

王子「……おやすみなさい、さよなら……」

……

朝の食卓……

師匠「ほう、手の込んだ朝食ではないか」

料理長「こちらは摘みたてのハーブ各種と薄く切った森の林檎、そこに胡桃をトッピングしたサラダです」

庭師「冬場は庭のハーブを鉢植えにして室内に持って来るので、一年中新鮮な物が手に入るのですよ」

料理長「こちらは商人様からおみやげにいただいたジャガイモで作ったポタージュです」

執事「さすがは末妹様のお父様が選んだ物です、味となめらかさ、日持ちも良くて最高級の品質だと料理長が」

次兄「俺の父親でもありますですよ?」

料理長「そして、これが庭で採れた秋野菜と森のキノコのキッシュ……チーズがトロトロのうちに召し上がってください」

メイド「新鮮な卵は、今朝、菫花様が魔法で手に入れてくださいました」

王子「前から思っていましたが師匠、鶏を飼えばもっと楽に卵が手に入るのでは?」

師匠「お前が騾馬も鶏も自分で面倒を見るのなら、考えてみるか」

料理長「あとは、紅茶と……無花果のコンポートです。物足りなければ、昨日のパンですが温めて」

次兄「これだけあれば物足りなくならないってば、昼食も兼ねて充分なくらいだ」

師匠「ふむ、君達がここを発って家に着く時間を考えたら、そのつもりだったのかもしれんな」

末妹「朝からこんなに、大変だったでしょうね……」

料理長「メイドちゃんや庭師くん、それに今朝は執事さんも手伝ってくださいました、そのおかげで」

次兄「執事さんがこの朝食をぉぉぉぉ!?」ババーン

執事「」

料理長「……そのおかげで助かりました、とにかく暖かいうちに、さあ、皆さん」

末妹「ありがとうございます、いただきます」

次兄「いただきますっ! 執事さん、執事さんは主に何を担当されましたかっ!?」

執事「…………主にポタージュでしょうか」

次兄「ポタージュですね!? うおおお、まったりとコクのある中に自然の甘み、これが執事さんの味ぃぃぃぃぃ!!」レロレロ

執事(手伝ったと言っても、メイドに調理器具や調味料を言われるまま取ってあげただけですがね)

師匠「ふむ、野生種の林檎の酸味を敢えて活かす事で、爽やかなサラダに仕上がっているな」

末妹「どれも本当に美味しい……あら、キッシュのチーズは種類を混ぜて使っているのね」

王子「味に深みが出るんですよ、具が野菜中心でも満足感が得られます」

王子「……ずっと前に料理長さんは野獣からそれを教わり、以来、料理に合わせてあれこれ自分で工夫しているそうです」

末妹「……野獣様」

末妹「野獣様はこの席にいなくても、教えを、野獣様の好みをお屋敷の皆さんは守り続けている」

末妹「……『野獣様の欠片』を持っているのは、私だけじゃないのね」

王子「末妹さん?」

末妹「もちろん、菫花さんはいつも共におられるのでしょうけど」

末妹「料理長さん、執事さん、庭師くん、メイドちゃんも」

末妹「野獣様の教え、野獣様の言葉、野獣様の心を受け取って」

末妹「それだって野獣様の一部だもの」

末妹「お兄ちゃんだって同じ」

次兄「はい? 何が?」ポリポリ

メイド「次兄様、サラダから胡桃だけ拾って食べるのはさすがにお行儀が」

次兄「ちゃんと他の物も完食するから安心してよ、でも胡桃のお替わりがあると嬉しいかしら」ポリポリ

料理長「そう思って、持って来ましたよ。はい次兄様」ザラザラザラー

師匠「もうトッピングどころか胡桃がメインだな」

末妹「……お兄ちゃんも、野獣様の欠片を持っている」

末妹「師匠様だって、きっと」

王子「……」

王子「……そうですね、この場に彼の姿を見ることはできなくても」

王子「今もこの先も、ずっと……僕だけじゃない、君とも、皆とも」

王子「野獣はすぐそばにいる、一緒に生きて行く」

王子「お互いを忘れない限り、いつまでもね」

末妹「ええ、いつまでも……」

……


※話の続きが短くてすみません、とりあえず今回はここまで、ネムイ※


※お知らせのみ。明日の夜かそれ以降に更新します。読んでくれてありがとう※

     /⌒ヽ
 (ゝrr<フ::. /⌒
ニ(゚д゚ ニ)ニ::{ 胡桃のお替わりがあると嬉しいかしら
 (つと ヽ::ノ
 ((  ) ノ
 ´^⌒^`

再び、東屋。

次兄「よっしゃ、馬車に積む荷物はこれで全部……」

馬「ひん」

次兄「末妹、乗馬服に着替えたんだな。俺はそのまんまだけど」

末妹「師匠様が馬車のチェックをしてくださったの」

次兄「おっさん何でもできるんだな、ありがと」

師匠「車軸の傾きや車輪の減り、ネジの緩み具合等を魔法で鑑定し、必要な部分には微調整を施した程度さ」

師匠「儂には大した労力ではないが、普段から君達の父上の手でしっかり整備されているのがわかったよ、それが何よりだ」

次兄「それじゃ、客間の最終確認をしようか」

末妹「また後で来るね馬さん。その時はいよいよ出発よ、よろしく」

馬「ひひひん!」マカセテ

次兄「忘れ物はないと思うけどね」

師匠(忘れ物より…少年は客間の片付けをしたのか不安だのぅ、自宅の部屋の惨状を見るに……)

……

執事「末妹様、次兄様」

末妹「執事さん」

次兄「執事さーん!」

執事「……荷物運びをお手伝いさせていただくつもりでしたが、その様子では既に終えられたようですね」

次兄「元々そんなに荷物なかったからね」

執事「他にもまだご用はおありですか?」

末妹「客間を確認しに行く所です。その後は、いつでも出発できますよ」

執事「出発の前に少しばかりお時間をいただけますか? おふたりとも」

次兄「うん、いいよね、末妹」ニヘ

末妹「お兄ちゃん」

末妹「ええ、執事さん」ニコ

執事「畏まりました。では、ご用がお済みになられましたら、主人の部屋へおいでください」

……

野獣の部屋……

ドア:カチャ……

執事「お待ちしておりました、さ、中へ」

メイド「末妹様ぁー!」ピョン

末妹「メイドちゃん」

王子「次兄君、末妹さん、いよいよお別れですね……」

庭師「へへ、わかってはいても、やっぱり寂しいです……」

料理長「お二人とも、いつも食事を美味しそうに召し上がってくださって、わしは本当に嬉しかった……」

次兄「みんな……」

末妹「お兄ちゃん……笑顔でお別れしようって言ったじゃない」

末妹「皆さんも、しんみりしないで。だって、私達はまた会う約束をしてお別れするのに」

執事「末妹様の仰るとおりですよ」

師匠「交流のための鏡も渡してあるのだ、この部屋の銀板鏡もそいつを使う日を楽しみにしているぞ?」

鏡「ワタシノモウヒトツノ『メ』ヤ『ミミ』トナルカガミデス、イイシゴトシマスヨー」

次兄「……そっか、俺達が預かった鏡台を通して、お前とつながるわけか」

次兄「これからもよろしくな、鏡」

末妹「そうね、これからも。皆さん、これからもよろしくお願いします!」

王子「これからも」

メイド「……これからも、そうですね、次兄様もたまには良いこと仰いますー!」

料理長「そうですな、気を取り直して……お二人に、これを」ヨイショット

末妹「何かしら、大きな蓋付きの缶……」

料理長「以前、貴方様達のために作った、胡桃のサブレと鏡のクッキーです」

執事「今回はご家族の分もあります、お家でお茶の時間に召し上がっていただければ、と」

末妹「家族の分も……嬉しい!! ありがとう!!」

次兄「どれどれ……ぎっしり入っているな、たくさん作ってくれたんだね、ありがとう」

次兄(これだけあるなら胡桃のサブレを数枚ポッケにないないしてもバレますまい)

料理長「今回も、メイドちゃんも庭師君も……執事さんも手伝ってくれました」

次兄「!! 執事さんっ、主にどのパートを!?」

執事「……出来上がってから、わたくし一人で缶に詰める作業を。その際に手袋はしましたよ」

師匠「狼の前足に合う特注品の手袋な」

次兄「では、では満遍なく執事さんの味が行き渡っているのですねぇぇぇぇぇ!?」

次兄「ああああ、家族で分け合うのが惜しいぃぃ!!」ジタバタ

末妹「お、お兄ちゃん、私のぶんなら分けてあげるから……ね?」

執事「……」ハァ

執事(改めて、描いてくださった絵のお礼を述べるつもりだったが……その気が失せてきた……)

王子「……えーと、あのですね、僕からも何か……君達に感謝の意味も込めて贈り物ができればと……」スッ

メイド「奇麗なガラス瓶に入っていますねー」

末妹「あら、これは……紅茶?」

王子「ええ、夢の中で野獣と相談しながら、数種類を調合したものです」

王子「料理長さんの焼き菓子に最適なお茶ができれば、と思って」

王子「お気に召してくれたら良いのですが……」

末妹「素敵、きっとこのお菓子に合うわ、ありがとうございます菫花さん!!」

次兄「野獣様のオリジナルレシピによる調合ですと!?」

王子「う、うん、僕の意見も取り入れてくれたけど」

次兄「野獣様の紅茶、執事さんが手をかけたお菓子、これでお茶会をするという事は……つまり」

次兄「つまり、野獣様と執事さんの共同作業の結晶ではありませんか!?」ドドォォォォン

王子「あの」

執事「いや、わたくしは詰めただけで、本当に」

末妹「お兄ちゃん、本当に何を言っているのか私わからない」

次兄「ありがとうありがとう! 心奮い立つ、じゃなかった心温まるお土産に感動しました!!」

庭師「あっ次兄様、鼻血が」

師匠「…………何が何だか」

師匠「とりあえずしんみりした空気は払拭されたから、まあ良し、か……」

……

野獣の屋敷、前庭。

庭師「馬さん、元気でね」スリスリ

馬「ぶるる……」マタネ

末妹「……何度も言うけど、またこのお屋敷に二人で来ますから」

メイド「待っていますー」

末妹「鏡でお話しもしましょうね、メイドちゃん。家に着いたら、すぐ家政婦さんにお手紙を渡すわ」

次兄「……」ジー

執事「……何か仰りたい事がおありで? 先程からずっとわたくしを見つめていらっしゃいますが……」ウンザリ

次兄「執事さんの姿を出来る限り鮮明にこの目に焼き付けているだけです、お構いなく」

庭師「魔法の鏡でまた姿を見る事ができるのに」

次兄「本日の執事さんは本日限定だよ、庭師君」キリッ

王子「……僕も何度でも言います、本当に感謝しています、次兄君と末妹さんには……」

王子「それで、あの……これから、君達を友達と思っても……良いでしょうか……?」

末妹「とっくに友達ですよ、これからも」ニコ

王子「あ」

王子「ありがとう」ニコ

末妹「次に来る時は、可愛い騾馬にも会えるのを楽しみにしていますね」

王子「それまでに騾馬と仲良くなれるよう、頑張るよ」

師匠「その前に馬小屋かな、あの東屋を改造してみようか……」

料理長「お父様にジャガイモのお礼をくれぐれもお伝えください」

料理長「一緒に入っていたお茶や岩塩も、質の良いものでした」

師匠「儂も気に入ったよ、今ある分がなくなったらまた欲しいくらいだが」

師匠「今後は父上のお店から、ちゃんと客として買うことにしよう」

次兄「おっさんまた瞬間移動で買いに来るのか。我が父親ながら、父さん商売上手ですなぁ」ジー

執事「他のかたの会話に加わる時くらい、視線はわたくしからお外しになってはいかがでしょう……」ゲンナリ
 


※眠いのでここまで。次回は、お別れセレモニーの続き&道中の兄妹(たぶん) です。※

>>106
可愛いAAありがとう、次兄もリスだったらまだ可愛げあるのに


まさかポケットに直接サブレを入れたりはしないだろうな次兄よ

師匠「……で、当面の間は緊急な出来事がない限り、鏡で話をするのは金曜日の夜。この約束で、良かったな?」

末妹「はい」コク

メイド「私、お屋敷中のカレンダーの金曜日に印をつけてしまいそうですー」ピョコピョコ

庭師「この先おいでになる時も、この馬さんと一緒ですか?」

末妹「……できればそうしたいわ、でもこの子は、私にも懐いているけどお父さんの馬だから……」

馬「ひん……」

次兄「こいつは魔法の地図を使った移動にもお屋敷の皆さんにも、すっかり慣れているからね、他の馬ならまた一から」

次兄「……って、あれ? 末妹」

末妹「なあに?」

次兄「この馬、いつのまにか執事さんが平気になっていないか?」

末妹「あ、そう言えば?」

執事「……………………」

馬「ぶるる……♪」ゴキゲン

庭師「へへへ、僕知ってますよ。執事さん、東屋の馬さんからギリギリ見える位置の窓を開けて、顔を出す所から始まって……」

庭師「その翌日は少しだけ近くの窓へ」

庭師「次は外に出て……最初は離れた場所から、少しずつ距離を詰めて来たんですよね?」

末妹「執事さんが……」

執事「うむ、まあ、その……これだけ良い馬であれば、警戒すべき野生の狼とわたくしを区別するくらい容易く……」オホン

メイド「馬さん、庭師君とは仲良くなったし料理長さんの事も最初から怖がっていないし」

メイド「執事様だけ仲間外れが寂しかったんですよねー?」

執事「こらメイド、またお前は、調子に乗って……」メゾピアノ

料理長「はは、いつもほど叱りつける時の迫力がありませんな」

末妹「執事さん……嬉しいです、ありがとう」ニコ

執事「は、はい、恐縮です……」
 

次兄「……むむむ」

次兄「執事さんが、うちの馬との親密さを深めようと陰で努力をしていた、ですと……?」

次兄「……こ、これはまさか執事さんの、将を射んと欲すればまず馬を射よ、作戦では!?」

馬(馬)「ひん?」

次兄(将?)「そんな回りくどい事しなくたって、俺はいつでも執事さんを受け入れる準備はできているのに」

次兄「執事さんったら恥ずかしがり屋さんなんだから……もぉ」ポッ

メイド「小声のおつもりでしょうが聞こえていますよー」

執事「と、とにかく、この馬がわたくしの姿に怯える事は今後ありませんから、安心してください」

王子「でも、これなら新しく来る騾馬も執事さんと仲良くなれる希望が持てます」

師匠「賢くて度胸の据わった騾馬を選ばなくてはな、菫花の目利きは少し心配だが」

メイド「今度はいつ、末妹様達がお見えになるかはまだわからないけれど……」

庭師「馬小屋を作って、そして……騾馬さんを迎える準備もしなくちゃね、寂しがってる暇はないかも」

メイド「忙しくなりそうですねー」

末妹「ふふ、そうね、私も……家に帰ったら、学校の勉強を頑張らないと」

次兄(二か月もお休みしちゃったからな)

末妹「ちゃんと来年の秋には、友1ちゃん達と一緒に卒業したいの」

次兄「俺も頑張るよ、まずは父さんと話をする所から」

末妹「二人で頑張ろうね、お兄ちゃん」

末妹(町の学校を卒業してからの、将来の私の夢)

末妹(ゆうべ野獣様にした話を、次に話す人はお兄ちゃんだから)

師匠「若い者には夢があっていいのぅ」

王子「……」

王子(末妹さんにも、将来の夢があるのでしょうね)

王子(いつか、ずっと先でもいいから、そのお話も聞かせて欲しいな……)

師匠「お前も頑張れよ菫花!」

王子「は、はいっ!?」ギクッ

師匠「隙あらば過去を振り返っては毛布の塊になりたがるからな、お前は」

王子「も、もうしませんよ、いや、しないように努力します」

末妹「……みんな、自分にできる事を頑張るんです、少しずつでも」

末妹「そんな毎日から、また会う時にお話ししたい事がいっぱい作られて、心の中に溜まって行く……」

末妹「私は、そう思います」

庭師「僕も、来年の春は今年よりもっと庭の花達をきれいに咲かせられるよう、頑張ります」

料理長「わしもこの歳ですが、もっと料理のレパートリーを増やしたいのです、頑張ります」

メイド「私は、えーと、食欲を自制して、もっともっと身軽な兎を目指します!」

次兄「そんなんでいいのメイドさん?」

執事「……わたくしは、皆の頑張りを守り支える執事でありたいですな」

末妹「ふふ……皆さんにまた会える時がますます楽しみです」

師匠「さあ、あまり引き留めては家に着く時間が遅くなってしまう」

師匠「……お父上も、やきもきしている頃ではないかな?」

次兄「うーん、日にちだけじゃなく家に着く時間も決めておけばよかったかなあ」

末妹「お父さん……」

(商人「ふたりで助け合って、そしてどうか笑顔で家に帰って来てくれ」 )

末妹「長兄お兄さん、長姉お姉さん、次姉お姉さん、家政婦さん……」

次兄「今度は、我が家の全員で迎えてくれるさ」

次兄「長姉ねえさんも一緒にね」

末妹「……そうね、きっと」コク

執事「さあ、門を開きました」

庭師「木に登って眺めたけど、周囲に危険な存在はなさそうですよ」

師匠(儂の魔法でも安全は確認済み、と)

メイド「次兄様、末妹様をどうか」

次兄「おぅ、みなまで言うな、まかして!!」ニヘ

メイド「……大好きです、末妹様」スリスリ

末妹「私も大好きよメイドちゃん、私の大切な、小さな友達……」モフモフ

次兄「ああ、俺にもいつかは執事さんとあのようなスキンシップを図れる日が来るのでしょうか?」

執事(来ません)

料理長「また会う日まで、すこやかにお過ごしください、おふたりとも……」

王子「次兄君も末妹さんも、魔法の地図を使うとは言え、どうか気を付けて……」

末妹「ええ、ありがとう、皆さんもお元気で……」

末妹(野獣様も……さようなら、またお会いしましょう……)

末妹「馬さん、お願いね」

馬「ひひひひん!」

馬車:ザシュ……ガラガラ

メイド「末妹様ー!!」

庭師「末妹様、次兄様、馬さん……」

王子「………………また会おう、僕の友達」

執事「……ご主人様、ご覧になっておられますよね……」

野獣(……また会おう、末妹、次兄よ)

野獣(二人とも明るい表情で馬車を進めている、嬉しいよ)

野獣(私も笑顔で見送るぞ、約束だからな……)


……………………


※ここまで※
予告と違ってすみません、細かい部分を回収しつつキリの良い所までやっぱり投下したかったので……
この後は、道中の兄妹とお屋敷の様子を挟みつつお送りする予定。

余談。この世界のこの国の学校は基本的に秋から新年度で、同年の1~12月に生まれた子は同学年というシステムです

>>112
次兄は帰宅後に実行するポッケないない計画を瞬時に3パターンほど立てた模様
だから準備も綿密であると予測されますです
 

…………………………………………

……………………

…………

夢の世界。

(師匠「……行ってしまったな」)

(野獣「はい、でも『しばしの別れ』ですから」)

(野獣「と言うか師匠、午前中からお昼寝ですか?」)

(師匠「眠りの魔法をかけてな、わざわざお前に会いに来てやったんだぞ」)

(野獣「それは恐れ入ります」)

(野獣「……魔法の地図の効果であっという間に森を出てしまったので、仮想の窓からも見えなくなってしまいました」)

(師匠「未練たらたらではないか」)

(野獣「そんなんじゃありません、笑顔で見送るという約束を果たしたかったのですよ」)

(野獣「……嘘の約束ではない、本当の約束を」)

(師匠「四週間前にお前があの子らについた嘘も、あの子らは本物に変えてくれたがな」)

(野獣「ええ、あんな素晴らしい兄妹を、もう裏切ることはできませんよ」)

(師匠「あの子らとお前の繋がりは、もう断ち切れないほど強いと思うぞ」)

(師匠「……200年以上の時を経て、形を変えて結ばれた、とでも言えば文学的かな」)

(野獣「……?」)

(野獣「師匠、今のはどういう意味でしょうか?」)

(師匠「図書館の娘の孫という男、5人いる中のひとりだが」)

(師匠「彼は北辺都市に生まれ育ち、そのままそこで嫁をもらい子もできた」)

(師匠「子は男ばかり3人」)

(師匠「うち三男は情熱的でな、親の猛反対を押し切って想い人と駆け落ちして王都へ行ってしまった」)

(野獣「はぁ」)
 

(師匠「三男はそこで名前を変え、周囲とやがて生まれた我が子達には孤児で通し」)

(師匠「職人として弟子入りした先に気に入られ、そこそこの暮らしは出来たらしい」)

(師匠「で、彼の娘だがそれはそれは美しく、仮にAとしようか」)

(師匠「Aは西端都市出身のある若者に気に入られ、彼の故郷で皆に祝福されて結婚し幸福に暮した」)

(師匠「若者はそれなりの家柄だったにもかかわらず、ほんの二代前の先祖がどこの誰かも知らない娘でも一向に構わん、と」)

(師匠「Aは本当に父親より前の先祖を知らなかった、当然、彼女の子や孫も」)

(師匠「だから、Aとその子孫達と、図書館の娘が血縁上は直系である証拠を見つけ出すのは、本当に苦労した」)

(師匠「苦労したが、事実なのは間違いない、と儂の弟子の子孫達が話しておったわ」)

(野獣「……何を仰りたいのかまだわかりませんが」)

(師匠「王家や貴族ならざる庶民が」)

(師匠「自分の数代前の先祖を知らないのは、理由によっては仕方がない、やむを得ない」)

(師匠「必ずしもその者の落ち度や恥ではない」)

(師匠「……そんなわけで、次兄や末妹が図書館の娘の話を聞いてもだ、自分達に繋がりがあるとは気付くはずもない」)

(野獣「……!?」)

(師匠「兄妹の母親……商人の妻は西端都市出身」)

(師匠「西端都市に嫁いで来たAという女性は商人の妻の父方の曾祖母、更に辿れば……」)

(野獣「……な」)

(野獣「なぜもっと早く教えてくれなかったのです!?」)

(師匠「知って、お前はどうした?」)

(野獣「」)

(師匠「商人の妻から生まれた子だけでも5人」)

(師匠「商人の妻には姉2人と弟がいる、それぞれの子供達は合計10人」)

(師匠「商人の妻の父方のいとこ達は、商人の妻と同じだけ曾祖母Aの血を引いている」)

(師匠「……(感じ悪い)親戚2と親戚3、あと(影の薄い)親戚1、その他にも4人くらいいるとか」)

(師匠「末妹達より一代前だから彼等の方が血は濃いわな」)

(師匠「ついでに彼らの子供らは……ああもう全部で何人いたか忘れてしまったぞ」)

(野獣「……」)

(師匠「な、『価値』は『そこ』ではないのだ」)

(師匠「図書館の娘の子孫は、いま生きているだけでも儂の頭脳でさえ覚え切れないほど存在するが」)

(師匠「それより、お前の友達のあの子達がどんな子で、お前とどんな会話をしてどんな思い出を作ったか」)

(師匠「その重さに比べたら、あの子達が図書館の娘と血の繋がりがあった、という事実は『ちょっとしたおまけ』程度なのさ」)

(野獣「ちょっとしたおまけ……」)

(野獣「……ですが、私にはこの上なく嬉しい、素晴らしいおまけですよ?」)

(師匠「とりあえず、お前は菫花には黙っておけよ? 本人にも言ったが、頃合いを見て儂が『会わせて』やる」)

(師匠「あいつには、時間と色々な物がまだまだまだまだ足りていない」)

(師匠「兄妹にもその時に知らせるつもりだ」)

(野獣「承知しました、でも」)

(野獣「……驚くでしょうね、三人とも」)

(師匠「うむ、ま、伝え方はじっくり考えるがな」)

(師匠「……嬉しい、か……」)

(師匠「ふ、ロマンチストのお前ならばそう考えるよな、運命とか奇跡とかそんな言葉を当てはめて」)

(野獣「時を経て形を変えて結ばれた、とかさっき仰っていたのは師匠ですよ?」)

(師匠「……ふふん」)

(師匠「運命や奇跡を当てにするだけの人生は実に阿呆らしいが、彩を添える程度であれば」)

(師匠「たまぁに起きても悪くはない、とはこの儂も思わんでもないのだぞ?」)

(野獣「師匠も丸くなりましたね」)

(師匠「お前達と付き合うからには、こちらも文学的発想に理解を持たないとな」)

……


※ここまで。ドライなおっさんと夢見がちなおっさん、いずれにせよおっさんしかいねえ回でした※

次回は来週のどこかで……3月中に終われるかな……

屋敷の廊下、裏庭へ続く扉の近く。

執事「おや菫花様、バラ園へ出られるのですか?」

王子「ええ、冬に向けてバラの雪囲いをどうするか、庭師君と二人で考えようかと」

執事「なるほど、普通のバラになったからには雪の中に放って置くわけにもいかないでしょうね……」

執事「ところで菫花様、師匠様がどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」

王子「ああ、師匠なら自室で二度寝してくる……とのことです」

王子「……野獣に『会いに行った』のだろうけど」

執事「……なるほど」

王子「でも、彼も今回は心から笑って見送ったと思いますよ、僕は」ニコ

執事「ええ、わたくしもそう思います」ニッ

王子「執事さん、師匠に用事が?」

執事「実はですね。さきほど玄関にこちらが」ピラ

王子「師匠宛の手紙?」

王子「……呪文か、いにしえの魔法道具を使ったかは、僕には判断できないけれど」

王子「いずれにせよ何らかの魔法で届けられたのでしょうね、ということは師匠のお弟子さんの子孫さんか」

王子(なんの用件だろう……?)

……

ふたたび、夢の世界。

(師匠「儂の弟子の子孫な、早々と、騾馬探しに取り掛かってくれている」)

(野獣「おお、それは楽しみですねえ……!」)

(師匠「早ければ今月中にでも、質の良い騾馬の生産者リストを送ってくれるらしい」)

(師匠「リストに従って、実際に訪れ実物を見て決めると、だいたいこんな予定だ」)

(師匠「確かな生産者を選んでくれるとは思うが」)

(師匠「どんな優れた騾馬でも菫花がうまく扱えるには時間も手間もどれほどかかるのかと、心配でもある」)

(師匠「特別に忍耐強い個体だと有難いものだ」)

(野獣「菫花だってがんばりますよ、そして騾馬相手にもそれは通じるはず」)

(師匠「そうあってほしいな」)

(師匠「……なんにせよ、乗馬教師のアドバイスも時には必要かな?」)

(野獣「末妹ですね」)

(師匠「鏡越しの会話、か」)

(師匠「それで思い出したが、お前が鏡の魔法で使った合言葉」)

(野獣「え?」)

(師匠「『かぐわしき小さな赤いバラ、陽だまりの庭に踊るそよ風、小雀のさえずりに耳を傾けまどろむひととき』」)

(野獣「だだだだだだ、誰から聞いて」)

(野獣「あ、そう言えば私が鏡を使う様子も……何度もご覧になっておられたのでしたっけ……」)

(師匠「第一印象からお前らしいとは思ったが」)

(師匠「……お前の掌で愛らしくさえずる小さな雀、お前の屋敷の庭に踊る心地よいそよ風」)

(師匠「お前の心に花開いた甘い芳香の小さな赤いバラ」)

(野獣「 」)

(師匠「今になって考えるに……お前にとってのあの少女を文学的というか詩的に形容しt」)

(野獣「わああああああああああああああああ!?!?!?」アセアセ)

(師匠「図星だな」)

(師匠「今さら照れることか」)

(野獣「……だから本当は次兄にも教えたくなかったのですよ……」ボソ)

(師匠「ん、あの子に話したのか。気付かれたか?」)

(野獣「……乙女チックなカフェのメニューみたい、とは言われましたが」)

(師匠「妹への口止めは?」)

(野獣「え? していませんよ、よけい怪しまれるじゃないですか」)

(師匠「ふむ、意外と妙なところでだけ鋭い勘の働く少年だ、少し考えれば正解に辿り着きそうな」)

(野獣「ちょ」)

(野獣「追い討ちかけないでください、ああ、ドキドキしてきた……」)

(師匠「それくらいなんだ、お前の情けない所はすでに散々さらけ出しているではないか」)

(師匠「お前の小心も簡単には治らんようだな……」)

……

南の港町へ進む馬車、肉眼ではその姿は見えない……

ガラガラガラガラ……

馬「ぶるる……」

次兄「……お前は学校の先生になりたいんだ」

次兄「うん、絶対いい先生になれるよ!」

末妹「ありがとう。そのためにはまず学校に戻って勉強を頑張らないと」

次兄「末妹なら、すぐ遅れを取り戻せるさ」

次兄「それで思い出した、美術学校の受験科目にも一般教養くらいあったはず」

次兄「去年まで家庭教師に習っていた勉強を復習せねば、まずは教科書を部屋の混沌から発掘し」

次兄「……見つかるはず、たぶん、いや、願わくば」ブツブツ

次兄「とにかく兄ちゃん、復習の鬼と化しますよ!!」バァーン

馬「ひん」

末妹「……最後だけよくわかんなかったけど、頑張ろうね、お互いの夢のために」

次兄「頑張ろうな、野獣様が喜んでくれる報告をしたいし!!」

次兄「家に着いて、落ち着いたら父さんとじっくり話を、俺と末妹それぞれの」

次兄「……その前に、魔法の鏡の話をするほうが先、だな」

末妹「ええ、お父さんは私達がお屋敷の皆さんと友達でいたい気持ち、わかってくれたけれど」

末妹「だからと言って……それに甘えて良いお返事を最初から期待しないよう、きちんとお話ししなくちゃね!」キリッ

次兄「」

次兄(……末妹が可愛くお願いしたら父さんはイチコロ、とか甘い作戦を考えていたが)

次兄(もうちょっと真面目な方向へ軌道修正しなくては、うむむ……)

末妹「ところで、お兄ちゃん」

次兄「はっはい?」

末妹「鏡の合言葉を野獣様から教わるって話、何日か前にしていなかった?」

次兄「確かにしてた、ね。結論から言うと、預かった鏡台に魔法がかかっているから、合言葉は不要になったけど」

次兄「でも、教えてはくれたよ」

末妹「あら、どんな言葉だったの?」

次兄「知りたい? ま、それも当然っちゃ当然か」

次兄「……『かぐわしき小さな赤いバラ、陽だまりの庭に踊るそよ風、小雀のさえずりに耳を傾けまどろむひととき』」)

末妹「……可愛い合言葉ね、優しい野獣様らしいな」フフ

次兄「ああ、実に乙女チックでポエミーでファンシーで野獣様らしいと、俺も思ったが」

次兄「……今にして思えば、これって全部……野獣様目線の、末妹の事じゃないかな?」

末妹「」

馬「ひんっ!?」ザシュ

次兄「ちょ、なんで馬を止める!? ど、何処だよここ!!??」

末妹「はっ……ご、ごめんなさい! 魔法の地図では普通ではありえない場所も通るって」アワアワ

手綱:ピシ!

馬「ひん!」カッ…カッポカッポ…カッカカッカカッ

次兄「……よかった、また周囲の風景が魔法の地図の道になった……」ホッ

末妹「止める気はなかったの、つい手綱を握る手に変な力が入っちゃって……本当にごめんなさい」

次兄(……ものの数秒間だったが、南の港町よりずっとでかい都会のど真ん中だった)

次兄(通行人から見れば、馬車が忽然と街の中に出現したように見えただろう)

次兄(もう少し止まっていたら、向こうにいた兵隊さんだか憲兵さんだかが近寄って来たかもしれないな……)ヒヤアセ

次兄「俺の方こそごめん、そんなに動揺するとは思わなかったから」

末妹「……そう、それが合言葉……」

次兄「あのね、俺けっこう強引な方法(精神的な意味)で聞き出しちゃったんだ」

次兄「恥ずかしそうにしてたし」

末妹「恥ずかしそう……」

次兄「でも末妹に秘密にしてくれとは言わなかった……」

次兄「……あっ、秘密にしろなんて言ったら、よけい怪しいからかな……?」

末妹「 」

次兄「いや、それでも末妹の事かなー、なんてのは俺の推測に過ぎないから!?」

末妹「……そうよ、野獣様自身が説明されていなかったら、推測しかないもの」

末妹「バラの花、爽やかなそよ風、小さな雀さん」

末妹「野獣様のお好きなものの名前を詰め込んだだけの合言葉よ」

末妹「私の事だなんて、無関係に決まってるわ、からかわないでお兄ちゃんたら」

次兄「……」

次兄(無関係と思うなら何故、棒読み気味で顔を真っ赤にして、こちらを見ようともしないでしょうねぇ)

次兄(うーん、乙女心は難しいっす)

馬「ひひん……」

ガラガラガラガラ……

……

(野獣「まさか、な、次兄……末妹……」)

…………

馬車が南の港町に着くまで、あと少し……

…………


※今夜はここまで。※

ガラガラガラガラ……

次兄(……そろそろ末妹も平常心かな?)

次兄「……時間的に、もう道中の半分以上は来ているな」

末妹「そうね」

次兄「この先の話より何よりも、お屋敷で起きた事を話すのが先、と言うか」

次兄「父さん達もそれを聞いてくるだろうねえ」

末妹「……そうね」

次兄「正直、どこからどう話そうか俺もわかんなくて……末妹と事前の打ち合わせも持たなかったんだけど」

末妹「うん、私も……いろんな事がありすぎて、どこから話していいかわからないの」

馬「ひひん」

末妹(……でもね、お兄ちゃん)

次兄「でもね末妹、今思うのは」

次兄「どう話すかなんて、あらかじめ決めなくてもいいかな、って」

次兄「魔法絡みの話とか、軽騎兵が押し寄せた話とか、慎重に扱うべき話題もあるけどさ」

次兄「父さん達が聞いてくるのに答える形で、後はそれぞれ心の赴くままに話せばいいような気がするよ?」

末妹「……お兄ちゃん」

次兄「ふぇ?」

末妹「私も、それでいいかなって、お兄ちゃんに提案しようと思ったところなの」ニコ

次兄「そっか、じゃあ決まりだな!」ヘヘ

……………………

…………

南の港町、商人の店の前……

看板:【本日は休業させていただきます】

通行人A「おや、今日は商人さんの店はお休み?」

通行人B「2、3日前にお断りとお詫びのチラシが配られていたよ」

通行人A「予定の用事か、まあ商人さんの病気とか悪い理由じゃなきゃいいよ」

……

商人の家。居間……

商人「……」ウロウロウロウロウロウロ

次姉「……お父さん、気持ちはわからないでもないけど、じっとしていなさいよ」

次姉(さすがに当日は予想通りになったわ)

長兄「父さんほら、とりあえず椅子に座って落ち着こうよ」

家政婦「皆様、ホットミルクをお持ちしました。旦那様も、どうぞ」

商人「あ、ありがとう……いただくことにするか」ガタ

長兄「家政婦さん、ナイスタイミング」

長姉「家政婦さん、私ホットミルクに蜂蜜入れたい。アカシア蜜がいいわ」

家政婦「はい、お持ちしますね長姉様」ニコ

長兄「全く……お前はマイペースにも程がある」

長姉「いつも通りで別にいいじゃないの。あ、ありがと家政婦さん♪」

長兄「到着時間の目安だけでも決めておけばよかったかな」

次姉「お父さんの話だと、町外れからは魔法関係なく普通に帰って来るんでしょ?」

次姉「それなら明るいうちに家に着くよう、あの子達も逆算して出発するわよ」

商人「明るいうち……か」

商人「ああ、日没までト」

次姉「日没までトイレにも行けやしない、なんて言わないでよお父さん?」

商人「あう」

次姉「落ち着いて笑顔で迎えなくちゃ、あの子達に無駄に気遣いさせるつもり?」

商人「あうう」

次姉の営業用ボイス「しっかりなさい、どっしり構えた父親を目指すのでしょう?」

商人「はい!」シャキーン

長兄「父さん、軽く仕事の話でもしようか。他にする事がないから余計に気を揉むんだよ」

商人「そ、それもそうだね」
 

商人「あの子達に、あの子達の強さを信じると言ったのは私なんだ……」

商人「私も信じてもらえるに値する父親でいなくては」

長姉「今、落ち着いていてもソワソワしてても、まさにその時が来たらグダグダになっちゃうから同じだわ」

長姉「ま、それでも別にいいと思うけどね……」

長姉「……ホットミルク美味しい」フゥ

長姉「私こそ、こんなに悠然としてあの子達を迎えていいのかしら」

次姉「いいに決まっているじゃない、姉さん。……私にもそれ頂戴?」

長姉「……いいのかな。はい蜂蜜の瓶」

次姉「ありがと」ハチミツトロー

次姉「笑顔の一つでも見せてあげたら、末妹は嬉しいと思う」

次姉「あ、次兄のリアクションは多少むかついても気にしないでサラッと流すように」

長姉「笑顔……」

長姉(そう言えばあの子に、どれだけ前からまともな笑顔を見せていないだろ……)

次姉「それに、姉さんは幸せな報告をしなくちゃね、驚くだろうけど祝福してくれるわ」

長姉「……祝福、してくれるかな……こんな私を」

次姉「しない理由がないじゃない」

次姉「あの子達の普通の姉になる、今日が第一歩なんだから、頑張って踏み出すのよ」

長姉「普通の姉になる」

次姉「自分で言ったんでしょ、お父さんを気の済むまでクッションで叩くのと引き換えに」

長姉「……うん」コクリ

長姉「あんたがそばにいてくれたら、私、できると思う!」

次姉「そうよ、私がついてるからね、姉さん」フフ

…………
 


※今回ここまで。読んでくれる皆さんありがとう、もう少しです……※

ガラガラガラガラ……

末妹「……ほんとはね、ちょっとだけドキドキしているの」

末妹「お家に帰るだけなのにね」

次兄「ドキドキ?」

末妹「お父さんと、野獣様と、約束した通りに精いっぱい笑うつもりでいるけど……ぎこちない笑顔にならないかな?」

末妹「……皆から聞かれて色んな話をする時に」

末妹「どんな出来事も涙ぐまないで話せるかな?」

末妹「……って」

次兄「…………」

次兄「……いいんじゃないかな、ぎこちなくても涙ぐんでも?」

次兄「逆に、ちゃんと笑えても涙が出なくても、いいんじゃないかなぁ?」

次兄「俺も、父さん達も、メイドちゃん達も、野獣様も」

次兄「末妹のしょっぱい顔よりは笑顔の方がきっと好き、でも」

次兄「俺は何より自然な末妹でいて欲しいし」

次兄「他の皆に聞いても、同じように答えると思う、きっと」

次兄「だからね、笑っても泣いてもそうじゃなくても、どれでも末妹なんだから」

次兄「どの末妹が出てきても、俺含めて皆は受けとめてくれる筈だから」

次兄「お前も、自分の中からどんな末妹が出て来ようとも……」

次兄「…………恐れる事は何もない、のよ?」

末妹「……」

末妹「……お兄ちゃんって、やっぱり凄いのね」

次兄「すごい?」

末妹「今の言葉で、私とっても気が楽になったの……ありがとう」

次兄「むぅ、むふふ……」

次兄「兄ちゃんは立派なこと語ったつもりはありませんが、少しでも末妹の助けになったのなら幸いですわよ」ニヘヘヘヘ

馬「ぶひひん♪」

ガラガラガラガラ……

次兄「……あれ? ねえ末妹、前をよく見てごらん?」

末妹「……!」

末妹「景色がはっきり見えて来た……町外れの、糸杉林の丘よ!!」

馬「ひっひーん」パカッパカッ

末妹「一度馬車を止めるわ、ここなら大丈夫」

次兄「おっし、了解」

末妹「馬さん」グイ

馬「ぶるるる……」ザシッ

次兄「……うん、間違いない」

次兄「地形といい、林の佇まいといい、羊の群れといい、南の港町の郊外だ」

羊たち「めへえええ」「むえええええ」「んめえええ」

末妹「……帰って来たのね……」ホッ

次兄「いやいや、一般的には見知った道こそが、気の緩みから来る事故多発危険地帯ですぞ」キリッ

末妹「そうね……街の中を通ることになるし」

末妹「この時間帯で人の少なそうな道を通りましょう? 少し遠回りだけど楽に通れる分、早く着けると思うの」

次兄「任せるよ、俺よりお前の方がその手の判断は正確だ」

末妹「馬さん、こっちへお願い」ピシ

馬「ひん」

カッポカッポ……

……

商人の家。

長兄「……で、来年の春はこれとこれを季節商品の目玉に」

商人「……予感がする」

長兄「父さ」

商人「あと5分もしないうちに、あの子達の馬車が我が家の門を通る!」

長兄「それ何回目だよ、さっきから15分おきのペースで」

商人「今度こそ間違いない、五度目の正直だよ!」

長兄「はいはいわかったから父さん、それより……この工房、いつから責任者の名義が変わったの?」

商人「あ、ああ……ここは確か、娘婿さんが引き継いで……」

次姉「やれやれ」フゥ

長姉「おっかしいの、お父さんたら……」フフ

長姉「……」

長姉「お父さんのこんな様子を見ても、嫉妬で腹が立ったりしないで笑っていられる」

次姉「姉さん」

長姉「……次姉、私ちょっとは大人になれたかな?」

次姉「うん、姉さん……」

長姉「えへへ……あんたが認めてくれるのは嬉しい……」

長姉「……?」

長姉「!!」ガタッ

次姉「姉さん?」

長姉「次姉! あんたの後ろの窓、見て!!」

次姉「え?」

長兄「へ?」

商人「!!」

家政婦「門の向こうに、小さな馬車が……!」

商人「末妹!! 次兄!!」

長兄「よし、外に出よう!」

次姉「皆で出迎えるのよ!!」

長姉「ええ、皆で……!」

…………


※今回ここまで。次回はおよそ一週間後……※

時節柄、予想より何かと立て込んでなかなか進められません、ごめんなさい……
あと何度「馬」を「梅」と打っては慌てて直したことか
 

完結したら人が来そうなので今のうちに貼るっす

癖の抜けない長姉と次姉
http://m1.gazo.cc/up/27753.jpg

幼馴染男と家政婦さんと旧長姉
http://m1.gazo.cc/up/27754.jpg

酒と涙と商人と長兄
http://m1.gazo.cc/up/27755.jpg

特にネタのない王子と師匠
http://m1.gazo.cc/up/27756.jpg

あとちょっとかな、頑張ってつかぁさい


※4月に突入するわ前回から一週間どころじゃないわ色々すみません※
※予告。次回のお話は明日更新です※

>>142
ありがとう!! 初見のキャラもいて嬉しい……
特に家政婦さんにめっちゃ感激です!

手綱:グイッ

末妹「馬さん、止まって……どうどう」

馬「ぶるるる……」ザシュ

末妹「ここからは馬車を降りて、馬を引いて行くわ」スタッ

次兄「おう、俺も降りる」ボテッ

次兄「……帰って来たな」

末妹「うん……」

商人「次兄! 末妹!!」

次兄「父さん!!」

末妹「お父さん!!」

馬「ひんひひひん(旦那様)!!」

長兄「待ってろ、すぐ門を開くよ」ガシャ

次兄「兄さん」

次姉「末妹、おかえり!!」

長姉「……おかえり……」ボソ

末妹「……長姉お姉さん!!」

家政婦「おかえりなさいませ、次兄様、末妹様」ニコ

末妹「家政婦さん、ただいま」ニコ

長兄「末妹、手綱を……馬は俺が繋ぐよ、お前もお疲れ様」ポンポン

馬「ぶるる♪」

商人「ああ末妹、よく帰って来た……」ウルウル

商人「さあ、私の広げた両腕に飛び込ん

次姉「末妹ぉ!!」ガバッ!!

末妹「お、お姉ちゃん!?」ムギュ

商人「 」

商人の広げた両腕「 」

次姉「ああよかった、元気そうな顔しているじゃない……」ギュー

次姉「……野獣は助かって……生きているのね? あんたを裏切らなかったのね?」

末妹「……」

末妹「……そうよ、野獣様は今も、これからも、お屋敷の皆さんと一緒」

末妹「そして、私と……私とお兄ちゃんの、本当の友達になってくれたの……」

商人「……」

商人の広げた両腕「……」

次兄「……父さん、そのスペースに俺が収まるって案は、やはり却下……ですかね?」

商人「ハッ」

商人「何を言うんだ次兄、お前の帰りだって待ちわびていたんだぞ!?」ガバッ

次兄「むきゅ」

次兄「……ただいま、父さん」

商人「お帰り……お前達は、友達を救えたんだな……?」

次兄「……うん」

次兄「色々あったので結果だけ述べますと、野獣様とは確かな男の友情が芽生えました」

商人「そうか、それはよかった……」ギュ

次兄「……ついでに、俺より少し年上だけど精神年齢は大差ないであろう人間の男子とも、それなりに親しくなりました」

商人「」

商人「お、お前に……人間の友人ができたと言うのか……!?」

次兄「野獣様の関係者で……まあ、世間では友人と呼べる範疇に入るのかな」

次兄「彼はこっちに色々と曝け出してくれたし、なんだかんだで見捨てられないと言うか無下にできないタイプと言うかー」

商人「次兄に人間の友人……」

商人「……奇跡だああああああああああああ!!」ブワァ

次兄「父さん俺の顔の上で泣かないでしょっぱい」ペッペッ


※今回ここまで、短い上に半端でごめんなさい……今週中に最低もう一回は更新予定※


※お知らせとお詫び。今週中といいつつ週をまたいでしまいました、ごめんなさい。更新4/10(日)夜です…※

次姉「……後からでも、詳しい話を聞かせてもらっていい?」

末妹「うん、お話しするね。私も、聞いて欲しいことがあるの、お姉ちゃ……」

末妹「……!」ハッ

次姉「……!!」

次姉「末妹、さっき私をなんて呼んだっ!?」

末妹「ご、ごめんなさい!! 火を噴かないで!?」

長姉「火噴きドラゴンの妹を持った覚えはないんだけれど?」

次姉「……ごめんね、姉さんには話していなかった……というか誰にも秘密にしていたの」

次姉「末妹と一緒に店番にも出るようになった頃」

次姉「私がこの子に『お姉ちゃん』と呼ばれたいと思うようになって、でも」

次姉「……恥ずかしいから、私の許可もなく勝手に呼ばないように、とも頼んでいたの」

末妹「……私は私で、お屋敷に行っている間に誰もいない所で練習していたの……さっきはつい、思わず口から出ちゃった」

長姉「…………」

長姉「変な妹(こ)達ねぇ、許可だの練習だの」

長姉「私達が女学校に入る前は、末妹は私達二人のこと『お姉ちゃん』って呼んでいたのに」

末妹「」

次姉「え」

長姉「ちょ、小さかった末妹はともかく、頭のいい次姉まで忘れちゃったの!?」

長姉「そりゃ、私だっていつ頃から『お姉さん』呼ばわりに変わったか正確には覚えていないけど……」

末妹「……すっかり忘れていたわ……」

次姉「10年以上前の話だもの、4歳にもなるやならずだったあんたは仕方ないけど」

次姉「……」

次姉「私ったら、末妹への関心が薄れていたのね」

長姉「それは私だって」
 

長姉「私だって、さっきのあんた達の会話で昔のことを思い出したのよ」

長姉「そう言えば、いつの間にか末妹の私達への呼び方が変わったていたな、って」

長姉「実際にそのことが起きていた間は、気に留めずに流していたのよ」

末妹「……私……私は」

次姉「……末妹はあんまり小さかったからね」

次姉「年に2回の長期休暇にはこの家に帰省していたけれど」

次姉「私達と半年も離れていれば、当時のあんたには何年も離れていたのと変わらないでしょうに」

次姉「でも私も姉さんも、それだけの時間と空間の距離を埋める努力なんかしなかったし、末妹とは」

長姉「……うん」

長姉「お父さんの膝の上やお父さんの隣を争うライバルだったもの」

長姉「……実際のあんたはチビのくせに私達に遠慮して、お父さんから少し離れた場所で遊んでいたのにね、私達のいる場では」

末妹「……お姉さん」

長姉「あんたは心底から優しくて良い子だった、わかってるの、わかってたの」

長姉「今更だけど…………」

末妹「……」

次姉(過去の態度を謝るの? 姉さん……?)

長姉「……私のことも昔のように『お姉ちゃん』って呼んでくれるかしら!?」

次姉「はぃ?」

末妹「 」

長姉「どうなの、ねぇ、やっぱり私は駄目!?」ズイッ

末妹「…………だ、駄目なんかじゃないわ」

末妹「むしろ、私がそう呼んでも……いいの?」

長姉「いいの、色々言いたいことがあったような気がしたけど……それをどう言葉にしたらいいかわからなくて……」

長姉「途中はすっ飛ばして結論から伝えることにしたの」

長姉「それに次姉ばっかりそう呼ばれるのはなんだか悔しいんだもの!!」

次姉「あの、私のことは取っ掛かりにするつもりで、追い追い姉さんのこともそう呼んでもらおうかな、とは思ってたのだけど」

末妹「……」

末妹「それじゃあ……長姉お姉ちゃん……?」

長姉「」ピクッ

末妹「おね」

長姉「……ちょ、何よ、何よこれ」

長姉「小さい頃はそう呼ばれていたわ、確かに覚えている、なのになぜ」

長姉「ちょっと、やだ、何よ、なんでこんなにくすぐったいのよ!?」ジタバタ

末妹「……えーと」

長姉「次姉、あんたよくこれで平気でいられたわね!?」バシバシバシバシ

次姉「平気じゃなかったわ、だから『火を噴く』なのだけど……」

次姉「……私を叩かないでくれる?」

……

長兄「……馬を小屋につないで休ませて戻ってきたら」

長兄「妹達は3人で何やってんだろ??」

家政婦「ふふ、仲が良さそう……」

家政婦(もうすっかり心配はいらないようですね、長姉様も)

長兄「家政婦さん、馬の世話の手伝いまでさせて申し訳なかったね」

家政婦「あら、お気になさらないでくださいませ」

家政婦「……本当は私、動物は好きなほうですの」

末妹「あ、家政婦さん!」

家政婦「何か私にご用ですか、末妹様?」ニコ

末妹「さっき渡しそびれてしまったのですが、これを」ゴソゴソ

家政婦「お手紙……ですか?」

末妹「メイドちゃんから家政婦さんへ、って」

家政婦「……!!」

末妹「メイドちゃんは字が書けないから、代筆してもらったそうですが」

末妹「手紙と一緒に、メイドちゃんが摘んだ四つ葉のクローバーが」
 

家政婦「メイドさんが……あの可愛らしいふわふわの小さな手で……」ホワワワ

長兄「家政婦さんの表情がめっちゃゆるいんですがこれは」

家政婦「ありがとうございます、末妹様!!」

長兄「ウサギさんからお手紙着いた」

長兄「冷静に考えたら実に非現実的な状況だけど、嬉しそうだな家政婦さん」

長兄(……このひとも、こんな顔するんだなあ)

商人「末妹!!」

末妹「お父さん」

商人「お帰り、私の可愛い、そして勇敢な娘……!!」ギュ

末妹「お父さん……ただいま……」ギュ

次兄「兄さん」

長兄「お帰り、次兄」ニコ

長兄「……なんだか、少し逞しくなったんじゃないか?」ワシャワシャ

次兄「毎日のように朝食のパンはジャムか蜂蜜つけ放題でお茶会にはたくさんのお菓子」

次兄「多少、太ったのかもしれません」

長兄「いやいや、体型の話じゃなくて」

長兄「なんと言えばいいのか、子供から若者の目になりつつある、と言うか……」

長兄「意志の輝きが見られるとでも言えばいいのか」

次兄「意志……」

次兄「……うん、叶えたい夢ができたせいかもしれない」

次兄「将来の夢ね」

長兄「将来の……?」

次兄「兄さんにも近々話すよ」

長兄「……ああ、聞かせてくれるのを楽しみにしているよ」ワッシャラワッシャラ

次兄「いやん、寝癖が強調されるいじり方はほどほどにしてぇ」
 


※ここまで。昨夜は寝落ちしてしまいした、すみません!!※
 


※この週末は所用で身動きとれないため、次回はあと数日?お待ちください…※
※本編はあと2~3回更新分で終わり&あとはちょこちょこ後日譚、の「予定」です※

余談。
お蔵入り設定その1…執事(狼)がメイド(兎)に禁断(?)の片想い(種族&年齢的に)
お蔵入り設定その2…230年後に蘇った王子は女性扱い上手で何かとポンコツじゃない

……リメイク前の序盤あたりはなんとなくこんな想定していました。今になって思えば(以下略

長兄「そう言えば、次兄」

次兄「何?」

長兄「父さんがこのあいだ教会主催の行事に出席したんだけど、そこで図書館長さんに話しかけられて」

長兄「図書館に入ってからこの4年間で二人しか借りていない本を、王都の歴史学者が探していたそうだ」

長兄「なんでも、本屋からちっとも売れない本を買い取った中の一冊で」

長兄「まさかそれが、歴史学者の研究対象になるようなものとは館長さんもまるで予想できなかったらしい」

次兄「……?」ハテ

長兄「それがな、その本を最近……一人目から3年半ぶりらしいが……借りた二人目がお前だって言うので」

長兄「『どんなお子さん』か関心を持ったみたいだ」

長兄「埋もれた歴史に興味があるのなら将来そちらの方面に進んでは?……とか、ね」

長兄「父さんは普段のお前をありのまま話すのもどうかと思って、その場は適度かつ無難に話を合わせておいたようだが」

次兄「お父様の判断は大人として正しくってよ」トホホ

次兄「……うん、その本が何の本かはわかる、覚えている」

次兄「俺が先月借りた中の一冊、図書館が数年前に本屋から買い取るも、殆ど借りる人もおらず新品同様の本」

次兄「230年前に滅びた小国の機械オタ……機械いじりの好きな伯爵の手記、だろ?」

長兄「そうだよ、その学者はあの国の歴史についての通説に疑問を持ったとかで」

長兄「あちこちで資料になるものを探しているらしい」

次兄「……」

次兄(確か……なんちゃって貴族として、菫花さんのなんちゃって父上としておっさんが屋敷に来た次の日)

次兄(俺達に事情を話して謝ってくれた後、だっけ)

……

~~次兄の回想……野獣の屋敷……~~

次兄「……そうか、野獣様は、菫花さんもだけど、自分のせいで機械マニア伯爵が処刑されたと思っていたのか」

末妹「私はその伯爵様のお話、初めて聞いたわ」
 

次兄「このお屋敷が絡む話ではあるけど」

次兄「本で読んだ時はまだ野獣様に直接関わりがあるとは思っていなかったからね」

次兄「野獣様の正体を知るまでは……」

次兄「……夢の世界で会った時にタイミングを見て話そうとは思っていたけど、なんとなく話しそびれて」

次兄「そんなに悩んでいたのなら、早くあの手記の存在を教えてあげればよかった……」

師匠「気にせんでいい、昨夜、儂から夢の中で教えてやったからな」

師匠「あいつとは取り敢えず話しておきたい事が沢山あったので、その話は最後になってしまったが」

師匠「安心しておったわ、あいつの人生では40年近く胸に刺さっていた棘が取れた、とな」

末妹「野獣様は優しいお方、責任を感じておられたのでしょうね……」

次兄「でも……子孫が偶然見つけた手記とやらは、信用に値するとおっさんは思うの?」

師匠「ああ、細部を見るに信憑性は高い」

師匠「小国の当時を生きた者でなければ知り得ない情報が、ごく自然に当り前のように盛り込まれていた」

師匠「学術的には貴重な資料になるだろうが、その価値を理解できる現代の学者も今のところ殆どいなさそうだ」

末妹「菫花様にもそのお話しを?」

師匠「ああ、あいつが目を覚まし、儂とまともに会話できる程度に回復していたら話してやるさ」

次兄「……学術的な価値か」

師匠「正直、一般人には悪い印象しかなく、それ故に経済的には価値のないこの屋敷に」

師匠「そっちの方面では価値を見出す者が、このさき現れないとは言い切れないのだ、そう……明日にでもな」

師匠「学者という人種は物好きだからの」

次兄「そうなったら、ここを直接調べたい人も……」

師匠「ははは、儂の所有物になった時点で、曲がりなりにも戸籍を持った人間が暮らす一般家屋よ」

師匠「見学ぐらいさせてやるわ、但し、住民の生活を脅かさない範囲でな」

次兄「おっさん……」

師匠「……善意の一般人として、学問の発展には可能な範囲で協力もするが」

師匠「守るべきは守らんでどうする、それがこの時代での儂の存在意義と言うに」

師匠「……それに、今までは敢えて意図的にそうしていた部分が大きいとは言え」

師匠「あの小国も胡散臭い伝承から解放され、少しは正確な歴史が知れても良いのかもな、もう、な」

次兄「生き証人のおっさんが匿名で論文でも発表すれば、すぐのような気もしますが」

師匠「過去の歴史を掘り起こすのは後世の人間の仕事だ、と儂は思う」

師匠「苦労して掘り起こされ、世に広まった『それ』が」

師匠「どのくらい正確か、どのくらい間違っているか、ニヤニヤしつつこっそり眺めてやるのが過去から来た人間の役目よ」

次兄「あくまでおっさん個人としての役目にしか思えないけど」

師匠「……それを悪用して、この時代を不幸に陥れかねん存在が現れたら、そいつを止める努力はするぞ?」

師匠「ま、実のところ悪用できるほどの何かは出てこないだろうが」

師匠「さっきも言ったが、儂はこの屋敷とここに暮らす者達を守り抜く」

師匠「……そして、ここを訪れる親しき者達も守りたいと今は思う」

末妹「師匠様」

次兄「おっさん、俺達がここに来ることを認めてくれるの?」

師匠「世間的にはともかく、儂はここの番人なのだ、真の主ではない」

師匠「『主人』の友を番人として歓迎するさ」

師匠「あ、ちなみにこの部屋は魔法で遮断しているから、野獣も様子を窺うことはできんからな?」

師匠「君らも今の会話は秘密にしておくように」シー

末妹「どうして秘密に?」

次兄「うーん、弟子に対するお師匠としてのプライドと言うか、野獣様に対するツンとしてのキャラを貫きたいと言うか?」

末妹「…………よくわからないわ、お兄ちゃん」

次兄「うむ、お前はそれで良い」

次兄「とにかく態度や性格はどうあれ、おっさんが野獣様達を守ってくれるのは間違いないよ」

次兄「それどころか現状では世界最強の守護者だ」

末妹「そうね、本当によかった……本当に……」

……


※ここまで。次回は次兄の回想が終わった所から。※
読み返して自分ではとっくに入れていたつもりになっていた機械オタク伯爵のフォローがすっぽり抜けていたことに気付き
描写がなかった(作者がいい加減な)だけで、作中人物は忘れていませんでした!

……という事にしておいてください……すみません……

…………

長兄「……で、その本は既に図書館じゃなく歴史学者の所有になっただそうだ」

次兄「ハッ」

次兄「ぼーっと回想に浸っていた、いかんいかん」

長兄「館長さんが言うには、またどこかで見つかったら図書館に補充しておくって話だけどな」

次兄「そっか……」

次兄(例えあの場所に興味を持つ学者が出てきても、おっさんがいれば大丈夫だろう)

次兄(それに、もしも『ろくでもない王子』という世間の通説が訂正されるのなら、それは良いことかもしれない)

商人「さてと……いつまでも庭先でこうしているわけにも行かない。家に入ろう、二人ともお腹は空いてないか?」

玄関のドア:ギィ……

家政婦「皆さん、お茶の時間ですよー」

次兄「家政婦さんいつの間に家の中に」

家政婦「サンドイッチと栗のタルトを用意しました、軽いお食事代わりにもなりますよ」

商人「ありがとう」

商人「さ、次兄と末妹は旅装を解いて居間においで?」

末妹「はい!」

末妹(そうだ、近いうちにお土産でいただいた紅茶とお菓子を使ってくれるように、後で家政婦さんにお願いしよう)

末妹(それから……)

末妹(家政婦紹介所の決まりがあるから、我が家の飲食の場には同席はできないって聞いているけど)

末妹(家政婦さんにもあのお菓子を食べて欲しいな、メイドちゃんも一緒になって作ってくれたんだもの……)

次兄「朝食はたっぷり食べたけど、さすがにこの時間になればお腹も空いたかなぁ」

次姉「……どうしたの姉さん、なんかニヤニ……ニコニコしているけど」

長姉「えへへへへへ、家政婦さんには内緒にしてもらっているけど、今日のタルトは私が作ったの」

次姉「あら、いつの間に? うちのキッチンからお菓子を焼く匂いはしていなかったと思うけど」
 

長姉「昨日は料理教室がお休みだったから、打ち合わせの後で教室の厨房を貸してもらったの」

長姉「1日置いたほうが、味も馴染んで美味しいお菓子だから」

次姉「さすが姉さん。クッキーも初めてにしては上手だったものね」

長姉「……ま、まあね」

長姉(あれからお菓子だけでもせめて幼馴染男のレベルに追い付くよう、基礎を必死に勉強したし)

長姉(昨日も先生にも付きっきりで指導を受けながら作ったし、大丈夫!! なはず……)

次姉「でも……昨日作ったってことは」

次姉「あの子達に食べさせたくて、って意味よね?」

長姉「」

長姉「な、何よ、それのどこか悪い!?」

次姉「悪いわけないわ、なぁんだ、私が思っていたよりずっと良いお姉さんしてるじゃない♪」

長姉「……」ムー

長姉「……家政婦さんとあんた以外には秘密なんだから」

長姉「味の感想……具体的に客観的に、後で聞かせてよね?」

次姉「はいはい」

……

そんなこんなで帰宅日は過ぎて行き……その夜……

商人「……野獣の正体が、人間だったと」

商人「しかも、230年前に滅んだ小国の王子様だった、とはねぇ……」

長兄「……………………」

次兄「兄さん、大丈夫?」

長兄「……いやもう、もはやどんな話が出て来ても受け入れる以外ないからね、うん……」

次兄「というわけで、お屋敷に住んでいるのは、表向きは師匠のおっさんと菫花さん」

末妹「おふたりには戸籍もある……作った、と言うべきかしら」

次兄「使用人の皆さん4匹は、表向きは普通の動物……お屋敷のペットってことで」
 

商人「そうか、あの野獣にはもう会えないのか……」

商人「……なんだか寂しいな、いつか私も、彼とまともにゆっくり話をしてみたかったのに」

末妹「……お父さん」

次兄「でも、野獣様は消えてしまったわけでも死んでしまったわけでもない」

次兄「なあそうだろ、末妹?」

末妹「ええ、これからも野獣様はお屋敷の皆さんを見守っているし」

末妹「お屋敷に泊まれば、野獣様が望む限り、『夢の世界』でお話もできる」

次兄「だからこれからも……野獣様は執事さん達のご主人様であり、末妹と俺の友達なんだよ」

末妹「お父さんが寂しいと思っているって言葉、野獣様に伝えるわ」

末妹「きっと、嬉しいと言ってくださると思う」

次姉「…………」

長姉「ねえ、師匠さんって人がうちの店に来た事のあるお客様でしょ、あともうひとり」

長姉「野獣の正体の王子様……菫花さんって人?」

長姉「あんた達の友達になったのはわかったけど、どんな人なの?」

次兄「どんな人って、身長は父さんや次姉ねえさんと同じくらいでー、性別は男でー、本人の生活年齢は二十歳でー」

長兄「俺と同い年か(生年月日はさておき)」

次兄「うん、でもパッと見はせいぜい17かそこらかなあ、体型とか顔立ちとか」

次兄「兄さんと並んだら10歳差くらいには見えるかも」

長兄「ちょっと待て、それは遠回しに俺が実年齢より老けている、と?」

商人「……」ハッ

商人「次兄の友達……若い男性……末妹とも友達……若い男性……?」

次姉「!!」

次姉「ね、姉さん、そういう細かい話はまたの機会にしない!?」

長姉「で、でも、あんたも気にならない?」

次姉(姉さん、そういう話は私と末妹の三人だけの時にするものなの……)ヒソヒソ
 


※ここまで。>>153から本編は二週間近く休むわ、昨夜の更新では唐突に時系列戻るわ、何かと申し訳ありません……※

今後の大雑把な予定。可能ならGW前にもう1回、その次は5/7~8頃です。
今週の更新がなくても4/29~5/6間は更新なしです……ご参考までに……

次姉「ねぇ、次兄と末妹は疲ているでしょ? そろそろ休ませてあげましょう、ね、お父さん!!」

商人「え?」

商人「あ、ああ、そうか、そうかな、いや、そうだな、それがいいな、うん」

次姉「お父さんを頼むわ兄さん」

長兄「へ? 頼むって?」

次姉「二人が元気に帰ってきたお祝いとか言って飲みに誘うの、で、早く寝かせてしまいなさい」ヒソヒソ

次兄「まだまだ寝るには早いよ、俺もまったく疲れてな」

次姉「あんたはとっとと寝ちゃいなさい、明日は私と同じくらい早起きしてもらうから……開店準備手伝ってね!」

次兄「うぇえ!?」

次姉「そろそろ朝寝坊の習慣から抜け出さないと将来困るわよ、それに、次兄にももう少し店の仕事覚えてもらわないと」

次兄(ふぇぇ……こうなったら父さんになるべく早くカミングアウトして、進学のための勉強に専念させてもらわねば)

末妹「朝のお手伝いなら私が」

次姉「あんたは学校行かなくちゃ、ま、明日1日くらいお休みしてもいいけどね」

次姉「……で、今からきっかり30分後に私の部屋に来なさい? 寝間着で構わないから」ヒソヒソ

末妹「え??」

次姉「しっ、次兄にも内緒だからね?」コソコソ

次姉「姉さん、いいでしょ? 話の続きを心おきなく、ね」

長姉「う、うん」

長姉「……あんたが仕切る時はとにかく逆らっちゃ駄目な気がする、なんとなく」

長兄「さぁ父さん、二人で軽く飲もうか、明日の仕事に差し支えない程度に」

長兄「今夜はお祝いだ、次兄も末妹も元気に約束通り帰って来て」

長兄「それを我が家の全メンバーで出迎えることができたんだからね!! めでたいよ!」

商人「めでたい……か」

商人(確かにな……再び家族がひとつに、いや、再びどころか、今まで以上に……)

商人「ああ、そうだな。飲もう、長兄」

……

……30分後、次姉の部屋。

ドア:コンコン……

次姉「末妹? どうぞ」

ドア:カチャ……

末妹「……おじゃまします……」ソローリ

長姉「お先におじゃましてるわよー」

次姉「そんなにおそるおそる入って来なくても大丈夫」クス

長姉「でもさ、ここお父さんの書斎が近いでしょ? 話し声が聞こえちゃわない?」

次姉「二人は兄さんの部屋で飲んでるわ、ここからは少し離れているから大丈夫」

末妹「……なんのお話をするの? お姉……ちゃん」

次姉「何を畏まっているのよ、おいで、一緒にベッドに座ろう?」

末妹「……はい」ポス

次姉「ふふ……私と姉さん、よくこうやって寄宿舎の部屋で、一つのベッドに座って話をしたっけ」

長姉「そうだった、こんなフカフカのベッドじゃなかったけどね」

長姉「部屋で姉妹二人きりになれる時が、唯一の気が楽になれる時間だったわ……」

末妹「……」

次姉「もう、あんたにしんみりして欲しわけじゃないの」

次姉「今宵、ここは殿方禁制の空間……女同士でしかできない話をしましょ?」

末妹「」

末妹「わ、私……女同士でしかできない話って……そんな話題、持っていたかしら??」

次姉「難しく考えなくていいの、お父さんには聞かせにくい話、それならわかりやすいでしょ?」

末妹「」

長姉「あのさ、早速だけど菫花さんってあんたと次兄の『お友達』になった人」

長姉「もう少し詳しく聞いていい?」ワクワク

末妹(……友2ちゃんと友3ちゃんが、お屋敷の男の人達のことを聞きたがっていたの思い出したわ)

長姉「……あっ、言っておくけどこれは純然たる好奇心だからね?」

長姉「私の心は幼馴染男のものだから、誤解しないでね!!」

末妹「……幼馴染男さん??」

次姉「ちょ、姉さん」

長姉「……!!」ハッ

長姉「ややや、やだ私ったら、まだ末妹達は何も知らないんだった!!」アタフタ

次姉「このさいだから喋っちゃったら? そのほうが末妹も話しやすい雰囲気になるかも」

長姉「…………」

長姉「次は、ね。末妹……」

~かくかくしかじか~

末妹「……婚約……結婚するのね、幼馴染男さんと……」パァァ

末妹「素敵、素敵!! おめでとう!!」

長姉「あ、ありがとう……」

長姉「……なんか照れるわね」ボソ

末妹「明日、お兄ちゃんにも教えていい?」

長姉「いいけど……あのね、私のいない所で教えてね?」

長姉「きっと驚くだろうけど、それは予想の範囲内だけど」

長姉「目の前で奇声を発したりされたら私、あの子(次兄)をぶん殴りそう」

次姉(キョエーとかヒョヘーとかね、想像できるわ……)

末妹「わ、わかった、気をつける」コクコク

長姉「……私が喋ったんだから、今度は末妹の番」

長姉「ずばり聞くけど」

末妹「は、はいっ」


※ここまで。次回は5/8くらいかと思われます※
姉妹トークの続きの他、父と長兄飲みトークとかマロンタルトの感想とか次兄とか(たぶん)

長姉「ずばり聞くけど、その菫花さんって素敵な人なの!?」

末妹「…………」

末妹「……ひとつひとつ努力して、苦手を克服しようとしている人、よ」

末妹「自分が生きてきた時代の、200年も後の世界で生きて行こうって頑張って」

長姉「あー、そうじゃないの、そうじゃなくてねえ……なんと言ったらいいのかしら……」

次姉「そうね、次兄の説明よりもう少し詳しい見た目から話してもらったらいいかな?」

末妹「見た目」

末妹「……うんと、髪の毛は金灰色で、肌はすごく色白で……ひとみの色がね、薄紫……スミレの花のような色」

末妹「お父さんと同じくらいの背丈だけど、細くって……華奢と言えばいいのかな?」

末妹「お兄ちゃんが言うとおり、一見すると私やお兄ちゃんとそんなに離れているとは思えない感じ」

末妹「あ、実年齢とね。見た目年齢はやっぱり離れて見えると思うけど」

次姉「はいはい、そこは言わなくともよろし」

次姉(幼い外見を気にしているのねぇ、この子なりに)

長姉「…………終わり?」

末妹「う、うん」

長姉「……ええい、ド直球で行くわ!!」

長姉「その人、顔はどうなの!? 美形なの平凡なの残念なの!? 個人の感想でいいから!!」ズバーン

末妹「」

末妹「……うん、と……」

末妹「きれいな人、よ。絵本の挿絵から抜け出したみたいな……」

末妹「こんな男の人が本当にいるんだ、って思っちゃった」

末妹「……それくらい、きれいなお顔」

長姉「……そう」

長姉「色白、アッシュブロンド、薄紫のひとみ、どちらかと言えば童顔だけど絵に描いたような美形……と」

長姉「わかった。ありがとう!」スッキリ
 

末妹「長姉おねえちゃ……」

長姉「個人的な好みのタイプとはちょっとずれているけど、実際にいたら目の保養だわー」

次姉「好奇心が満たされて気が済んだのね、姉さん」

長姉「そ、さっきも言ったけどあくまで好奇心」

長姉「この先、どんなイイオトコが現れても私の愛は幼馴染男のものなんだからねー♪」

末妹「……どんな人が現れても……」ポツリ

次姉「……末妹?」

長姉「しかし、お父さんに知れたらえらいことになりそう」

長姉「そんな美男子が次兄だけじゃなく末妹とも友達なんて、ね」

次姉「お父さんなら顔はどうあれ(男子ってだけで)心配しそうだけど……」

末妹「……本当に『お友達』よ、お父さんが心配するようなことは」

長姉「わかってるって、あんたまだまだお子様だし」

長姉「初恋なんていつになるやら~」ゴロン

末妹「……っ」

長姉「……ちょ、何よ、あんたその思い詰めたような顔は」ガバッ

長姉「悪かった、悪かったわ、からかったりして……ねぇ怒ってる?」アワワ

末妹「……」フルフル

次姉「末妹……泣いているの?」

末妹「……ううん、大丈夫、泣いてない」

末妹「もう……いっぱいいっぱい、泣いたもの……」エヘ

次姉「末妹」

長姉「……どういうこと、何があったの?」

末妹「ええと……あのね、やっぱりお父さんに簡単には話しにくいこと、あった」

末妹「だから……女同士のお話として」

末妹「……お姉ちゃん達に、聞いてほしいな……」

……
 

次兄の部屋……

次兄「……うーん、眠れん」モゾ

次兄「明日は次姉ねえさんにどえらい早い時間に叩き起こされる予定が組まれてしまったと言うに」

次兄「……姉さんの場合、『叩き起こす』が文字通りなだけに」ガクブル

次兄「……」

次兄「父さんと兄さんはおチャケ飲んでるんだよな」

次兄「父さんの部屋はここから離れ……あれ?」

次兄「……ボソボソした男声が壁の向こう、隣の兄さんの部屋から」

次兄「今夜は兄さんの部屋なのか」

次兄「……お酒ひとくち飲んだらよく眠れるかな?」

次兄「我が国では18歳の誕生日からお酒に関しては大人と同じ扱いで」

次兄「16歳の誕生日から、お酒の種類と量の制限つきで一部解禁なのです」

次兄「というわけで、真面目な父さん兄さんでも強く拒むこともありますまい、合法ですからね」

次兄「美術学校に進学すれば嗜む機会もできるだろうし」ガバ

次兄「大人の階段を昇る一歩として……」

次兄「ここらでデビューしてみようではありませんか」カチャ

次兄「まぁ最初はマジで舐めるだけ、口に合わなければ即効やめるだけのこと」

長兄の部屋のドア:コンコン……

商人「……ん? 誰だい?」

長兄「次兄かな、起しちゃったか、小声で話していたつもりなんだが……」

ドア:カチャ……

次兄「……へへ、父さん、兄さん、こんばんはぁ」ソロリ

長兄「ごめんよ、うるさかったかい?」

次兄「ううん、どうせ眠れなかったから」

商人「よかったらお入り? 大丈夫、私達もそんなに酔っていないよ」ニコ

次兄「ではお言葉に甘えて……」ニュルー

長兄「お前のドアを全開しないで入ってくる癖は抜けないなあ」

……
 


※お久しぶりでした。今回ここまでです。次回は近いうち。誤字すみません何度も何度も※

次兄「ここに座っていい?」カタ

長兄「ああ、どうぞ」

商人「どれ、台所でミルクを温めて来てあげよう。それともココアがいいかい?」ガタ

次兄「いやいや、ホットミルクが欲しくば父さんにそんなお手間は」

次兄「……実はね、へへ、ちょびっとだけお酒をもらえたら、よく眠れるかなー、なんて?」チラッ

長兄「ああ……なるほどね」

商人「お酒」

商人「お、お前がお酒だなんて!?」

長兄「父さん、次兄ももう16歳だよ?」

長兄「俺が16になった時は、ワインを小さなグラスで『お祝いだ』って飲ませてくれたじゃないか」

商人「……」

商人「それもそうか……うむ、どうしても私の中では次兄と末妹はいつまでもおチビさんで」

商人「頭ではとうにわかっているのに、時々こうしてその思いが表れてしまう」

商人「つくづく駄目な父親だよな……」

次兄「まあまあ、父さんは(泥沼になるから)あまり自分を責めないで?」

商人「よし、次兄に友達ができたお祝いだ、男3人で乾杯しよう!!」

長兄「ちょうど甘口のシードルもあるんだ、これなら初心者向けだろう」

コルク栓:ポン

次兄「あ、いい香りがする」クフクフ

商人「最初は少しだけだよ?」

長兄「わかってるって、ほら」シュワワ

次兄「おー、香りもだけどこの色、昔ばあやが作ってくれた林檎ジュースを思い出すなあ」

次兄「もちろん泡立ちはしなかったけど、風邪で喉が痛い時もあれだけはすんなり飲み込めた」

商人「では、我々も次兄と同じこいつで」シュワワワ
 

商人「……次兄のこれまでの16年間と、これからの長い人生に」

長兄「家族の健康と幸福に」

次兄「えーとえーっと、この世界に満ち溢れるあらゆる生命体達に、っと」

長兄(次兄、大きく出たなあ)

3人「「「かんぱーい!!」」」

次兄「……どきどき」チビリ

次兄「………………」

次兄「……何これ想像と違うじゃん、渋い、からい!!」ウベー

次兄「もっと林檎しぼったままの味かと思ってた、わざわざ手間暇かけて不味くしてんじゃないの!?」

商人「うーん、お酒としてはかなり甘いし、果汁そのものではあるのだが」

長兄「果汁と言ってもそれを発酵させた酒だからね、子供の味覚では不味いとしか感じないだろうな」

次兄「……」ム

商人「はは、やっぱり次兄には少し早かったかな?」ナデナデ

次兄「…………」ムー

次兄「りょ、量が少なすぎて味がわからなかったんだもん!!」クイー

商人「あ、グラスの残りを一気に!?」

長兄「大丈夫、注いだ量は少なかったよ!?」

次兄「 」ゴクリ

次兄「……ぷっはぁ!!」ゲファー

商人「次兄、大丈夫かい、大丈夫か!?」サスサス

次兄「……………………」

次兄「にゃあああああなんだか暑くなってきたあああああああ!!」カァァァ

長兄「回るの早いよ!!」
 

次兄「脱ぐ、脱ぎます、脱ぐからね!!」ヌギカケ

長兄「ちょ、待て待て、落ち着け!!」

商人「ほら、水、水を飲んで次兄!!」

次兄「俺は落ち着いています、落ち着いていますよ!?」

長兄「顔まっ赤なんだけど」

次兄「その証拠に……今から」

次兄「大事な大事な話をしまああああす!」

次兄「二人ともお席にお戻りくださぁい!!」ビシッ

商人「は、はいっ!?」ガタッ

長兄「どう見ても酔っ払いなんだけど」

次兄「お父さん、お願いがあります!」

商人「お、お願い?」

次兄「18歳になったら……王都の美術学校に、進学させてください!!」

商人「   え」

長兄「 」

……

次姉の部屋。

長姉「……なんか聞こえない?」

次姉「なんとなく兄さんの部屋のあたりが騒がしいような気がするけど、ここからは離れているし」

次姉「ま、気にしないでおきましょ」

末妹「……大丈夫かしら」

次姉「いいからいいから、話を続けて?」

末妹「うん……」

……
 


※今回はここまで。なかなか進まなくてすみません……※

男性陣。

次兄「……以上、題して『芸術と野獣様への熱く滾る我が想い』でした、ご清聴ありがとうござりました」ペコリ

長兄「とりあえず熱弁お疲れさま」パチパチ

商人「……」

商人「野獣の言葉に励まされ、画家を将来の夢にしたくなった……か……」

商人「……我が子の夢を応援したい気持ちはあるが、お前を一人暮らしさせるのは……ううむ……」

次兄「うにょぅ、兄さんなんて9歳から家を出て勉強してたじゃないですかあああ!?」

商人「あの学校には寄宿舎があったから、小さな子供でも任せることができたんだよ……」

商人(正直、年齢だけの問題ではないが)

長兄「それなら賄い付きの下宿はどうかな、父さんの伝手があれば信用のおける家主を紹介してもらえるんじゃ」

商人「おいおい、長兄」

長兄「……父さん、応援したいと言ったよね?」

長兄「それなら俺達は頑張れと送り出してやろう」

長兄「そしていつでも、どんな結果になっても……帰って来れる次兄の『家』、それが俺達の役目じゃないかな?」

商人「……長兄」

商人「私は少し考える時間が欲しい、それだけなんだ」

商人「今すぐの話ではないと言っても、二週間も家を離れていたこの子が今日こうして元気に帰ってきたばかりで……」

商人「何よりも、酔っ払っていない次兄と改めて話をするのが先かと」

長兄「……確かに」

長兄「次兄、父さんの言うとおり今夜は結論を出すには相応しくない、部屋に戻……」

次兄「……むゆー……むゆー……」コレデモイビキ

長兄「……あれ?」

商人「いつから眠っていたんだ」
 

長兄「仕方ない、このまま部屋に運んで寝かせるよ」ヨイショ

商人「大丈夫かい、私は腰に自信がないから手伝えないが……」スマン

商人「あ、次兄の部屋は足場が悪いから気をつけて?」

長兄「うん知ってる、床を埋め尽くしている有象無象を足で掻き分けて進むしかない」

長兄「一人暮らしさせるならあれは改善させないとね」

長兄「……こいつもそれなりに大きくなったなあ……重いや」ハハ

商人「…………」

ドア:ガチャ…パタン

次兄「むにゃ……ひへへへ、野獣しゃまにお姫様抱っこ……うへへへぇ」

長兄「寝言か……小さすぎてよく聞こえないけど幸せな夢を見てるんだろうな、呑気な奴め」ガチャ

長兄「……ああ、マジでなんつー部屋だ」ゲンナリ

長兄「収納場所を決めて使ったらそこに戻すだけ、それだけなのに何故できないんだろ、理解不能」ガサガサ

長兄「どっこいしょ、ベッドはまあ余計な物が乗ってないだけマシか」

長兄「……次兄だって、あの状況であんな大事な話をするつもりはなかった筈」

長兄「酔っ払いの戯言とは思いたくない、もう一度きちんと話してくれたら俺は改めて応援するよ」

次兄「……んごー、すぴぃぃぃ、ふごー、しゅるるるる……」

長兄「……お前はやっぱり俺にはできないことができる男だ……正直、羨ましい」クス

長兄「さて、今度は当初の予定通り父さんを寝かしつけなくちゃ」

長兄「長姉の結婚が決まって、下の二人も日々成長して次第に親離れ、寂しい気持ちは俺にもわかるが……」ガチャ

商人「……ぐー……ぐー……」

長兄「……テーブルに突っ伏してる」

長兄「さすがに父さんを起こさず部屋まで運ぶのは無理だ、俺のベッドに寝かせるくらいはできるかな?」ウンショ

長兄「ふう、さて……俺も疲れた、床にクッション敷いて寝るか」ゴソゴソ

……

女性陣……

次姉「……そう、あんたは野獣に自分の想いを伝えることができたんだ」

末妹「うん……」コクリ

末妹「野獣様も、私の想いを受け止めてくれた」

長姉「」

長姉「想いを受け止めてくれたってどういうこ」

次姉「姉さん急かさないの」シー

末妹「……私が前に進めるように」

末妹「幸せを願い続けてくれると」

末妹「私がどこにいても何をしても……」

末妹「私らしく生きて欲しいと願っていると、それを夢の世界から、見守ってくださるって、そして」

末妹「……私に野獣様の一部を分けてくれた」

長姉「」

長姉「ぐ、具体的に説明してくれない!?」

末妹「……うーん、どう言えばいいのかしら、こんな小さくて、透き通ってガラス玉のようで、でも柔らかくて暖かい」

末妹「夢の世界の野獣様の一部……野獣様の心の欠片、かしら」

末妹「私にも実はよくわからないの、でも」

末妹「夢の中なのに、手に取ると野獣様に触れた時と同じ暖かさで」

末妹「こうしてね、胸に押し抱くと……そのまま溶け込んで行って……」

末妹「ああ、野獣様そのものだ……って、それだけはすぐにわかったの」

末妹「……今は、今も、これからも、私と一緒……」ニコ
 

次姉「末妹……」

長姉「……………………」

次姉「……よかったわね、末妹」キュッ

末妹「お姉ちゃん?」

次姉「素敵な恋だったのよ、あんたの初恋は、ね……」

末妹「……ええ、私は幸せ」

末妹「野獣様と出会えてよかった、野獣様を好きになってよかった……だから……」

次姉「うん、うん」

次姉「あんたはいい子、だから……幸せになれる、ううん、絶対幸せになるのよ……?」ギュー

末妹「……お姉ちゃん」

末妹「ありがとう……」ギュ

次姉「……ふふ」ナデナデ

長姉「……」

……

末妹「……すー……すー……」

次姉「眠っちゃった、さすがに疲れたかな」

長姉「……あのさ、次姉」

次姉「何、姉さん」

長姉「この子はいい初恋したって……あんた本気で?」

次姉「……結ばれないで終わる恋に意味なんかないって、姉さんは思うの?」

長姉「そ、そこまでは思ってないわよ」

長姉「……でも、末妹が自分の恋心に気付いた時には、もう、野獣は……」
 

次姉「えそうよ、辛かったでしょう、切なかったでしょう、どんなにか」

次姉「……それでも末妹は、後悔していない、幸せだって、笑うのよ」

次姉「だから素敵な恋だったの、違うかしら?」

長姉「……」

長姉「……そういうものかしら」

次姉「大丈夫、この子は強いもの」

次姉「いつかきっと……新しい恋だって見つけられる、何年先かわからないけどね」

長姉「…………人外で独身で優しい紳士でお父さんより年上なんて男(ひと)、また現れると思う?」

次姉「やだ姉さんたら、別に野獣が末妹の好みのタイプって話じゃないでしょ?」

次姉「好きになった相手があの野獣だっただけで、だいたい野獣も中身は人間で」

長姉「でも、初めて好きになった相手は『人外』で親子以上の年上」

長姉「……そんな思い出を聞かされたら、世の男性はだいたいドン引きするんじゃないかしら?」

次姉「……」

次姉「……つまり、それを理解して丸ごと受容してくれる相手でなくちゃ、って言いたいのね?」

長姉「現実問題よ、末妹が次に好きになる相手は、きっと人間だもの」

長姉「人間の女の子が人間の男性に人間の世の中で恋をするんだもの」

次姉「確かに(次兄じゃあるまいし)人間相手よね」

長姉「……私達の世の中は夢の世界みたいに、森の中の忘れられたお城みたいに」

長姉「なんでもありで、なんでも許されたりはしないもの……」

次姉「確かにそう簡単に理解ある男性には巡り逢えないかもしれないけど」

次姉「わかってくれない男なんか、こっちから願い下げよ」シュッ

長姉「」
 

長姉「今の拳の動き、目にもとまらなかったんだけど……」

次姉「大丈夫、少なくとも世の中には、好きな相手にはいくらでも寛容になれる人間がいるんだもの」

次姉「例えば正面から殴られても、靴を投げつけられても、板で叩かれても、首を捻じ曲げられても、相手が好きな人ならば」

長姉「え」

長姉「ちょ、ちょっと、何言ってるの、誰の話よそれは!?」

次姉「しーーーっ、末妹が起きちゃう」

長姉「あ」

末妹「……んん……すぅ、すー……すー……」

次姉「……大丈夫」

次姉「この子はね、絶対幸せになるんだから……」

長姉「……妹の心配してる場合かしらね」ボソ

次姉「もぉ……私の事はいいの、焦ってないって言ってるでしょ」

次姉「さてと、もう寝ない? 明日も早いからね」

長姉「あんたはここで寝るの? 末妹は?」

次姉「一緒でいいわ、このまま起こしたくないし、小さくて細いからこのベッドでも邪魔にならないもの」

長姉「……私もここで寝る」ボソ

次姉「あら、それなら私が姉さんの部屋で」

長姉「だめ、あんたも一緒」グイ

長姉「小さい頃は、ううん、寄宿舎でも時々こうして二人で同じベッドに潜って眠ったじゃない」

次姉「……でもねえ、さすがに狭くない?」
 

長姉「私達も今より少し小さかったけど、寄宿舎のベッドはもっともっともーっと狭かったもの、だから」

次姉「わかったわかった、ま、夜中になって冷えて来たし……3人でくっついて眠るのも悪くないかもね」

ムギュムギュ

長姉「……た、確かに、ちょっと……」キュウクツ

末妹「うーん……ん、すやすや……」

長姉「……やっぱり子供ね、一度眠ったらなかなか目が覚めない」

次姉「ふふ……可愛い顔しちゃって」

次姉「末妹とは小さい時も、こんな機会なかったわね」

末妹「……お母様……すー……」

次姉「……お母様の夢、見てるのかな」

長姉「記憶ないのにね……」

次姉「お父さんやばあや、あと兄さんから、話は聞かされているだろうけど」

長姉「……私と次姉しか知らないお母様の話も、教えてあげたいな」ボソ

次姉「ふふ、姉さん、すっかりいいお姉さんじゃないの」

長姉「な、何よ、お父さんとも約束したもの、普通の姉になるって」

長姉「そうよ、普通よ、普通の姉。別に特段いい姉なんて目指してないんだから」

次姉「ええ、普通のいいお姉さん」クスクス

長姉「……」ムー

長姉「もう眠っちゃう、邪魔しないでね」ゴロン

次姉「はいはい……」

次姉「……おやすみなさい、姉さん、末妹……」

末妹「くー……くー……」

…………


※今回はここまで。本編はあとちょっと(のはず)※

翌朝……

次姉「え? 次兄を起こさないでやって、って?」

長兄「明け方に様子を見に行ったら、頭が痛いんだと」

次姉「……どうして明け方に次兄の様子なんか見に行ったの?」

長兄「」

長兄(酒飲ませたから心配になって、とか、頭痛も二日酔いとか……とはちょっと言いづらいなあ)

次姉「ま、いいわ。なんだかんだ言って体力ない子だもの、疲れとか風邪気味とか、そんなところでしょ」

次姉「医者(せんせい)呼ぶの?」

長兄「っと……それは様子を見てからにするよ」

商人「……おや次姉、おはよう」フアァ

次姉「お父さん、おはよう……眠そうね、昨夜は遅くまで飲んだの?」

長兄「日付が変わる前に切り上げたけどね」

商人「私はさっき起きたんだ……馬の世話もすっかり末妹に任せてしまったよ」

商人「……そう言えば長兄、次兄は大丈夫かい? 昨夜はあんなになって……」

次姉「昨夜? あんなに?」

長兄「……えーと……実はね」



次姉「なあんだ、そういうこと。忘れがちだけど年齢は合法だし、保護者付きだし」

次姉「シードルそれっぽちで二日酔いねぇ、次兄らしいかも」

次姉「隠すこともなかったのに、兄さん」

長兄「なんとなく後ろめたくて……」

次姉「とにかく、どうやらお酒に弱い事はわかったんだから、ほどほどにするよう二人で言い聞かせてあげて」

商人「ああ、そうするよ」

長兄「本人がもう懲りているかもしれないけどね」

……

次兄の部屋。

次兄「…………」ドロドロ

次兄「……い、いかん……己の原形を保てない気分……」グニョグニョ

次兄「以前、兄さんが珍しく寝込んだのも二日酔いだったんだな……たぶん」

次兄「……似てない兄弟でも体質は似るのかしら……いやそもそも酒の摂取量が、まるで違うのでしょうがね……」

ドア:コンコン……

次兄「ぬ」

末妹の声「……お兄ちゃん?」

次兄「ぬぅお、末妹か……鍵は開いてるにょ……」ズルズル

ソロリ……

末妹「……辛そうね」

次兄「んむ、これは……病気ではないが、一種の中毒症状でな……」

末妹「知ってる。お父さん達から色々聞いたの」

末妹「……あのね、これから……大人になっても、お兄ちゃんはほどほどにした方が、良いと思う……お酒」

次兄「……ううううう、恥ずかしい……」メリメリメリメリ

末妹「お兄ちゃん、枕に顔が埋もれるほど押し付けたら息ができない」アワワ

次兄「……酔っている間、どのような醜態をワタクシは晒したのでしょうか」

次兄「グラスを空にしてからの記憶がね、全く無いのです……父さんと兄さんは何を見たか聞いたかと思うと……」

末妹「」

末妹「覚えていないんだ」

(商人「……末妹……次兄は末妹には話してあると言っていたが、実は……昨夜……」)
 

末妹「……大丈夫、恥ずかしがるような事は何もなかったわ、だってお父さん普通に心配していたもの」

次兄「普通に」

次兄「……そうなの、でもそこはそれ、大人の対応というモノではないのですかねぇ」

末妹「もう、そんなに心配なら後で単刀直入にお父さんやお兄さんに聞けばいいじゃない」フフ

末妹(……お父さん)

(商人「……次兄の口から改めて話を聞くことにするよ、お酒が完全に抜けてからね」)

(商人「返事はそれからだ、しかし……前向きに考えたい気持ちは私にもある」)

(商人「解決すべき現実的な課題は、あの子と一緒になって取り組まなくては」)

(商人「場合によっては、皆に……末妹にも協力してもらうことがあるかも、その時は……」)

末妹「……本当に大丈夫だからね、お兄ちゃん」

末妹(きっと、お父さんもわかってくれる、応援してくれるから大丈夫)

次兄「……うん、お前が大丈夫と言うのなら……」ニヘ

次兄「…………」シーン

末妹「お兄ちゃん?」

次兄「……むゅるるる……むゅるるる……」ヘンナイビキ

末妹「眠っちゃった」

末妹「酔っ払いさんは眠るのが一番で顔は横向けたほうがいいって、お父さんが」ヨイショ

次兄「……むゅるる……もふもふぅ……むゅるる……もふもふ……」

末妹「もふもふ……野獣様かな、執事さんかしら?」

末妹「……本当に、ほどほどにしてね……」クス

……


※今回ここまで。読んでくれてありがとうございます、また次回に……※

その日の夕方。

次兄「末妹よ」ヌッ

末妹「お兄ちゃん、起きてて大丈夫?」

次兄「寝て起きて家政婦さんの実家に伝わる秘伝の特濃ハーブティーを飲んでまた寝て起きたらスッキリですわ」

次兄「起き抜けに食事抜きで腹が減ったと言ったら、家政婦さんが昨日のマロンタルトの残りをくれた」

次兄「美味しくいただいたので、たぶん胃も回復です」

末妹「よかった……」ホッ

次兄「というわけで、今夜あたり父さんにあの話をしないか? 魔法の鏡を使ってお屋敷と」

末妹「……別の話はまだしなくていいの? 美術学校を受験したいって」

次兄「ん? 当初の予定通り、そっちはもう少し先で構わんでしょう」

次兄「俺達のお帰りなさいムードが完全に消え失せ、お前が学校に再び通い、完全な日常モードが戻ってからが良い頃合いかと」

末妹「……」

(商人「次兄は昨夜のことを覚えていないのか……それなら、すまんが末妹も黙っていてくれないか?」)

(商人「あの子なりに慎重に考えを巡らせながら機を窺っているはずだ」)

(商人「再び次兄からあの話題を切り出すまではね、お願いだから……」)

末妹「……うん、今日は魔法の鏡の話をしようね」

次兄「そうと決まれば、さっそく事前の打ち合わせをしようぞ!!」シュビシッ

末妹(そのポーズに何の意味があるの? とか聞かない方がいいのねきっと)

……

次姉「次兄、元気になったみたいね。さっき、末妹を連れて庭に出て行ったわ。明日こそは朝から働かせなきゃ」

長姉「しかしあの子達、いくつになっても仲がいいと言うか、いつまでも子供と言うか……」

長姉「あの分じゃ、末妹には次の恋なんてどれだけ先の話か」

次姉「姉さんこそ末妹の心配し過ぎ」

次姉「誰もが自分の速度で大人になって行くんだから」

次姉「私達は姉としてほどよく信頼してほどよく心配して……ゆったり見守りましょうよ」

長姉「……次兄のことも?」

次姉「次兄には次兄の世界での幸せがあるんだろうと最近は思うし」

次姉「あとこれはただの勘だけど」

次姉「あの子もなんだかんだ言って、自力で世の中にそれなりに居場所を見つけ出せるような気がする」

長姉「……私はよくわからないけど、最近」

長姉「誰よりひ弱だと思っていた次兄が、ある意味しぶといというか逞しいんじゃないか、とは思うようになったわ」

次姉「そ、だからあんがい大丈夫、あの子達は」

次姉「……それより兄さんの方が、少し心配になってきた……かな?」

長姉「どこが? 将来も安定して……お父さんが店を継いだ時と違って、今から取引先との顔繋ぎも順調ぽいし」

次姉「その安定感と、あれだけの見た目と町のおじさんおばさん連中からの評判の良さと……」

次姉「それでいてあんまりモテないのは逆に心配にならない?」

長姉「……あ」

次姉「私達が知らないだけで、今まで女の子と付き合った経験も皆無だとは思わないけど」

次姉「たぶん、長続きしないし彼女の方から振ってくるパターン……かと」

長姉「一時期、恋愛小説にはまっていただけあるわね、あんた」

長姉「しかし……確かに兄さんには、女心の勉強をもっとしてもらわないと駄目かも……」

……

商人の店。

長兄「……ぶぇっくしょん!?」

商人「おや長兄、風邪かい?」

長兄「……危なかった、帳簿を汚してしまう所だった」ズビー

商人「この季節だ、夕方になると冷え込んでくる」

商人「身体の丈夫なお前だが油断はいかん、上に何か羽織っておいで」

長兄「うん、そうする。部屋から取って来るよ」ガタ

……

家政婦「長兄様、ご休憩ですか?」

長兄「あ、家政婦さん。いや、ちょっと肌寒いからこの上着を取りに来ただけさ」

家政婦「あら、でもその上着ボタンが一つ取れかけていますわ」

長兄「ああ、これくらい平気ですよ、外出するわけでもなし」

家政婦「でもお店にはお客様がいらっしゃいますよ?」シュッ

長兄「家政婦さん、針と糸を持ち歩いているの?」

長兄(しかも今、ポケット以外の場所から取り出した? どうなっているんだこの人の服?)

家政婦「失礼致します、お召しになったままで構いませんわ」

長兄「っちょ、家政婦さん!?」

家政婦「動かないでくださいませ、すぐ済みますから……」

長兄(うわあ、近い近い!? 頭が俺の顔の真下に!?)

長兄(……この人の髪、次姉の黒褐色よりもっと黒々して)

長兄(いつも結い上げているからわかりにくいけど……まっすぐで、ツヤツヤなんだなあ)

長兄(あ、睫毛がけっこう長

糸を切る音:プツ

家政婦「終わりましたよ長兄様?」

長兄「 」ハッ

長兄「そ、そうですか、早かったですね、ありがとうございました……」ドキドキ

家政婦「突然で申し訳ありませんでした」

長兄「とんでもない、謝らないでくださいよ」ブンブン

長兄「……だいたい、家政婦さんには父が塞ぎ込んだり長姉が閉じこもったりした時期には」

長兄「何かと仕事以上、お給料以上の事をお願いしてしまって……それどころか」

長兄「俺が頼んだ以上に、あれこれ細やかに気を配って動いてくれた」

長兄「特に、長姉は家政婦さんが支えてくださらなかったら……どうなっていたかと……」

家政婦「さすがに買いかぶり過ぎですわ、長姉様を支えたのはご家族の皆様、そして幼馴染男様」

家政婦「……ですが、そう仰っていただけるのは正直……嬉しいですね」

長兄「……家政婦さんの所属する紹介所の契約は1年ごと、年が明けたらどうなるのか最終的には紹介所が決める」

長兄「しかし……ぜひ来年も、我が家との契約を続けてほしい」

長兄「父も弟や妹達も頼りにしているのです、もちろん俺、いや、私も」

家政婦「……」

家政婦「……光栄ですわ長兄様、家政婦として」ニコッ

長兄「あ」

家政婦「ですが今は、お店で商人様がお待ちではありませんか?」

長兄「っぅえ!? 忘れてた!?」

長兄「あ、改めてありがとうございました!! それじゃ!!」バタバタバタ

家政婦「……うふふ……」

家政婦「ばあや様、本当に素敵なご家族ですね、この家の皆様は……」



長兄「……ああ、何やってんだ俺、だいたい俺は年下」

長兄「って、いやいや、そーゆー話じゃないし!?」

長兄「……本当に何やってんだろ、俺……」ハァ

商人(……何をブツブツ言ってるんだろう、あ、溜め息)

商人(この子は一人で抱え込むからなあ……)

…………


※ここまででした。続きは近いうち……※

商人の家の庭……

……に置かれたテーブルを挟む兄妹……

次兄「……というわけで、今回はわりと簡単です」

次兄「いち・俺と末妹が魔法の鏡で何をしたいのか」

次兄「に・野獣様やおっさん始め屋敷のみんなと、どんな約束を交わしたか」

次兄「さん・これから父さん達とどんな約束をするのか」

次兄「……こんな感じ、実にシンプルでしょ?」

末妹「うん、でも『二』まではともかく、『三』はどうなるのかな?」

次兄「それは父さんの出方しだい」

次兄「しかし俺と末妹の目的地は明確ゆえに、其処へ至る道も自ずと見えて来ることでしょう!!」ビシィ

末妹(今のはわかりやすいカッコつけのポーズ……)

末妹「そうね、誠心誠意お話しして、わかってもらうことが全てよね」コクン

次兄「そういうこ、ふひぇっくしょんっっ!?」

末妹「だ、大丈夫!?」ガタッ

次兄「……さすがに夕方は冷え込みますわ」ジュル

末妹「もう中に入ろう、風邪ひいちゃう」

次兄「うむ、中であったかいお茶でも……お?」ピタ

末妹「どうしたの?」ピタ

次兄「ほらあの窓越し、兄さんの部屋の前の廊下だけど」

次兄「兄さんに家政婦さんがぴったり寄り添っとる!?」

末妹「えええっ!?」
 

末妹「……っと……よく見て、家政婦さんの手元」

次兄「お? あの動きは裁縫の……えらい高速ではあるが針と糸を持った手の動きだ」

末妹「ええ、ボタンをつけてあげてるみたい……」

末妹「糸を切って……終わったのかな?」

末妹「……何かお話ししているようね」

次兄「あ、兄さんが踵を返した」

末妹「……慌てた様子で走り去って……家政婦さん……後ろで笑っている」

次兄「…………」

次兄「……俺も、廊下で出くわした家政婦さんにシャツのボタンが取れかけていると指摘されて」

次兄「なんかどこからともなく取り出した針と糸で、着たままつけてもらったことはあります」

次兄「……だから、よくあることだよね?」

末妹「え、ええ……私はないけど……」

次兄「末妹の場合はボタン取れかけを放ったらかしで着ていること自体あり得ない」

末妹「それもそう……ね」

次兄「……よくあることだけど、なんとなく……誰にも黙っておかないか? いま見たことは……」

末妹「う、うん……私もそうした方がいいと思う……なんとなく」

…………


  お兄ちゃんと私が、お屋敷の皆さんとの『これから』を手探りしているのと同じように……

  皆も、誰もが、過ぎて行く日々の中で、自分の……または自分と他の誰かとの『これから』を手探りしているのでしょう。

  ある人は自分の信じる目的地に向かって、ある人は流れに任せて、ある人は自分がどうしたいのかもわからないまま

  ただひとつ言えるのは、誰もが今のままではいられないこと、遅かれ早かれ、多かれ少なかれ……


…………


※ここまで。そろそろサクサク進ませる予定です……ホントかな……orz※


家政婦は見られた!

……………………

…………

門扉:カシャン……

家政婦「おやすみなさいませ皆様、また明日……」

家政婦「さて、いつものカフェの前で辻馬車を拾いましょう」コツ

末妹「家政婦さん!!」ピョコ

家政婦「末妹様!?」

家政婦「もう暗いのにお一人で門の外におられるとは、いったいどうなさいました?」

末妹「これ……野獣様のお屋敷のお土産です、焼き菓子と紅茶……」スッ

家政婦「あら、けさ末妹様からお預かりした分は、全てお茶の時間に皆様に召し上がっていただいた筈ですが……?」

末妹「実はあらかじめ取り分けておいたのです、家政婦さんの分」

末妹(それより前にお兄ちゃんが胡桃のサブレだけ何枚か抜き取っているけど……)

末妹「ほんの少しですが、お裾分け」

家政婦「駄目です、受け取れませんわ、紹介所の規則ですから……」

末妹「知っています、だけど……家政婦さんは今日のお仕事の時間を終えて、我が家の門の外にも出ています」

末妹「それなら、プライベートな時間に知人からお菓子と紅茶をもらった」

末妹「……それだったら家政婦さんにご迷惑はかけませんよね?」

家政婦「…………」クス

家政婦「末妹様、本当に貴女には敵いませんわ」クスクス

家政婦「ありがたくいただきます、ね?」ニコッ

末妹「家政婦さん……ありがとう!!」

家政婦「まあ、お礼を言うのは私の方ではないでしょうか?」クスクス

…………

……………………

……………………

…………

末妹「短い時間だったけど、お互いの声が思っていたよりはっきり聞こえて、お話ししやすくて助かったわ」

末妹「メイドちゃん、すごく喜んでピョンピョン跳ねていたね」

末妹「菫花さんもお元気そうで……師匠様とお二人で、騾馬の生産者さん達に会いに行く旅の準備ですって」

末妹「料理長さんは冬の間の保存食の準備、庭師君は庭の植物を越冬させる準備……と季節のお仕事が忙しい」

末妹「執事さんは……自分のことは『相変わらずです』とだけ言ってたけれど」

末妹「……鏡越しに執事さんばかり見つめていたお兄ちゃんの事も『相変わらずですね』って……」

次兄「執事さん……相変わらず……」

次兄「そう、執事さんは相変わらず優雅で渋く気高く、内なる勇猛さを秘めてなお美しく……とにかく、よかった……」ウットリ

末妹「……」フゥ

末妹「これも魔法の鏡を使うのを許してもらったおかげ」

末妹「お父さんが私達の気持ちをわかってくれて、信用してくれて、本当によかった」

末妹「……この次は、それぞれの将来の夢の話」

末妹「菫花さんから野獣様の伝言もいただいたよね?」

末妹「『本当に心から望む夢を叶えるためには真の勇気と覚悟が必要だ、頑張れ』って……」

末妹「しっかり自分の気持ち、お父さんに伝えようね、お兄ちゃんも私も」

次兄「野獣様」

次兄「野獣様! 野獣様の激励! 野獣様の鼓舞! 野獣様の期待! そう……俺達には野獣様がついている!!」ドドーン

次兄「…………父さん、俺の口から美術学校に行きたいなんて聞いたらビックリ仰天するだろうなあ……」

末妹「……」

末妹(お酒を飲んだ夜のことは練習、次こそ一回きりの本番よ、頑張ってねお兄ちゃん……)

…………

……………………

……………………

…………

末妹の通う、南の港町の学校……

末妹「先生!!」タタタッ

女教師「あら、末妹さん」

女教師「二か月近くお休みして、どうなるかと思ったけれど……今の授業にも問題なくついて来ているようね」

女教師「お友達の皆も安心しているわね」ニコ

女教師「……で、何かご用かしら?」

末妹「あの……先生は、この町のご出身で母校の代用教員からお仕事を始めて」

末妹「隣の市の教員養成学校で集中講義や資格試験を何度も受けて……正規教員になった、と仰っていましたよね?」

女教師「ええ、当時は家庭の事情で長く実家を離れることができなかったので……」

女教師「……楽な道ではないわよ、養成学校に正式に入学し勉強に専念するのと、少なくとも同じくらい大変でしょう」

女教師「尤も、あなたは安易であることを理由に進路を選ぶような子ではないわね」

末妹「」

末妹「どうしてわかったんですか、先生!?」

女教師「おやおや、末妹さんには天職だなあ、とずっと前から思っていたのよ?」

女教師「友3さんにやる気を出させるのなんて、本職より上手なくらいですもの」フフッ

末妹「先生……」

女教師「さて、来年の卒業後の進路相談……で良いのかしら?」

末妹「は、はい、そうです……まだ父には話をしていませんが……」

女教師「それじゃ、取り敢えずはもう少し詳しく話を聞かせてね……相談室にいらっしゃい」

女教師「目標に向かって、これからどのような方法が本当にあなたに向いているのか一緒に考える、今日はその第一歩よ」

末妹「はい、よろしくお願いします!!」

…………

……………………

……………………

…………

次兄「父さん……兄さんもいるんだ、それではこの際だから一緒に聞いてもらっちゃいましょう」

次兄「何の話かって? 俺の将来に関する大事な大事な話です!!」バァーンッ

~~~~~~

次兄「えっ知ってた? えっ二人とも? えっお酒飲んだ夜? えっ?? えっ????」

……………………

次兄「なぁ末妹、俺は生涯お酒を飲まないと固く固く心に決めた……」ガックシ

末妹「それで、お父さんのお返事はどうだったの!?」

次兄「ああ、それはね……」

……………………

幼馴染男「やあ、次兄くんじゃないか」

次兄「ふへへ、こんにちはぁ……お義兄(にい)さん予定の幼馴染男さん」

長姉「っちょ、なんで次兄が料理教室にいるのよ!?」

次兄「賄い付きの下宿を探すとはいえ、これを機に料理の基礎だけでも覚えておくといいって、父さんが……」

次兄「俺の場合は食べたらアウトになる食材もあるから、それならなおさら自分で作れる方が、とも言ってた」

次兄「あと兄さんは『外に出て人間と関わる事にも慣れるべき』って」

長姉「…………お父さん達の意向なら仕方ないけど、私に恥かかせるような真似だけはしないでね!? く・れ・ぐ・れ・も!!」

幼馴染男「まあまあ……講師の先生も君の弟なら大歓迎さ」ノホホン

受講生1「……また新しく若い男性が入って来ると聞いたけど、アレの事?」

受講生2「ガキんちょじゃない、しかも将来性も乏しいわぁ(あくまで容姿の面で)」

…………

……………………

そのころ、野獣の屋敷……

……………………


※今回はここまで。次回は久しぶりに屋敷サイドを。あと女教師は既婚者※

>>205 あらやだ

…………

ある朝。

メイド「おはようございます、お庭が真っ白!! 雪ですよ、執事様!」

執事「おはよう。最近ちらつく程度にはあったが、ここまで降ったのは初めてだな」

執事「このまま根雪になるかもしれん」

庭師「通りで冷えると思ったよ、植物たちの冬囲いが終了していてよかった……おはようございまーす」

執事&メイド「「おはよう」」

メイド「そうだ、今日は金曜日ですよね!?」

メイド「今夜はお庭に銀板鏡を持って行って、末妹様達に雪を見ていただくのはいかがでしょう!?」

庭師「えー、この寒いのに外でお話しするのぉ?」

執事「そうだな、窓辺に鏡を持って行くのはどうだろう?」

執事「カーテンを開ければガラス越しに雪が見えるはず」

ドア:カチャ

料理長「メイドちゃん、厨房を手伝ってくれないかね」ノソリ

メイド「はぁい、今行きます!」ピョン

庭師「僕も……寒いけど、バラ達の様子を見て来ようっと」ヒタヒタ

執事「さて、わたくしも師匠様と菫花様がお目覚めになる前にもう一仕事しようか」カチャカチャ

…………

夢の世界。

(野獣「屋敷の庭に雪が積もったか」)

(王子「庭師君と僕の作業が済んだ後でよかったけど……バラ達はあれで本当に冬を越せるのかな……」フアンゲ)

(野獣「もう『魔法の』バラではないからな……」)

(師匠「ふむ」)

(師匠「昔、魔術師ギルドの花壇に誰も植えた覚えのないバラがあってな」)

(師匠「誰か出入りの者が鉢植えを持て余したかして、人目を忍んでこっそり植え替えて立ち去ったのだろうが」)

(野獣(花泥棒の逆は何と呼ぶのだろうか?))

(師匠「もちろんそんな状態だったから、皆、花壇の世話の際に水をやるくらいはしていたが基本ほったらかしで」)

(師匠「毎年、春先に雪の中からボロボロの茎だけの状態で表れるのに、時季にはしっかり花が咲いていた」)

(師匠「それよりは間違いなく屋敷のバラは手をかけられているのだ、心配するな」)

(王子「……丈夫な種類は本当に丈夫ですからね、でもうちのバラには本来は繊細な種類もあるのです」)

(野獣「それにうちのバラは末妹が楽しみにしているバラですよ、ただ咲けば良いのではなく『美しく』咲かせなくては」)

(師匠「わかったわかった、デリカシーに欠ける発言をして悪かった」)

(師匠「それはそれとしてな、菫花。お前と儂はしばらくこの屋敷を留守にするのだから、心配しても仕方ないのも事実だぞ」)

(師匠「庭師を信用して任せるがいい、野獣だって助言できるのだからな」)

(野獣「そう言えば明日からでしたか、紹介していただいた騾馬の牧場を訪ね歩く旅行は」)

(野獣「……しかし森を出るまで瞬間移動ならば、全部瞬間移動にしてしまえばすぐ済むのでは?」)

(師匠「お前はわかっとらん」)

(師匠「敢えて魔法は使わず普通の人間として旅をすることに意義があるのだ、菫花にとってはな」)

(師匠「この時代で人々がどんな暮らしをし、そして200年以上の間にどれほど人の世が変わったか肉眼で見て手で触れ」)

(師匠「あの兄妹以外の人間と出会うことで得るものも大きいだろう」)

(王子「……君の分まで外の世界を見て来るよ、野獣」)

(王子「僕が一生かかって見る世界の、今回はその第一歩に過ぎないけど」ニコ)

(野獣「……もう、恐れはないのか?」)

(王子「うん、末妹さんと次兄君が勇気をくれたし」)

(王子「……まあ、何よりも師匠が一緒ですから、ね?」)

(師匠「…………」ニヤリ)

(野獣「 」)

(野獣(企んでいる、絶対何か企んでいる……)ドキドキ)

(王子「どうしたの、野獣?」)

(野獣「い、いや……頑張れよ、何事にも負けるではないぞ?」ポン)

(王子「あ、ありがとう??」??)

(王子「……僕はそろそろ『目覚め』ますね、庭師君がバラ園の様子を見に行ったので、話を聞かないと」)

(師匠「ああ、また朝食の時にな」)

(野獣「また夜に会おう……」)

(野獣「……」)

(野獣「……鍛えるためとか言って、旅先であまり菫花を苛めないでやってくださいよ?」)

(師匠「うん? 何の事かなぁ?」ムフフ)

(野獣「……」フゥ)

(野獣「……少なくとも月末までは戻らないんでしたっけ」)

(師匠「ああ」)

(野獣「師匠達がいないと、使用人達には屋敷を守る以上の仕事がなくなりますね」)

(師匠「うむ、そう思って騾馬小屋の内装の仕事を頼んだ」)

(師匠「器……外観だけは出来上がっているが、今はまだ何もないただの小屋」)

(師匠「必要な材料は調達済みだが、何枚も図面を描いて、この通りに作ってほしいと」)

(野獣「それは……いくら一頭分の小さな飼育小屋とはいえ、あの者たちには荷が重い作業ではありませんか?」)

(師匠「執事は優秀だ、皆も働き者だ」)

(師匠「それに、困った時はお前が助けてやれる」)

(師匠「だいたい我々が旅から帰るまでに完成していなかったとて、彼らを責め立てるつもりは毛頭ない」)

(野獣「……優しいですね、師匠」)

(師匠「ん? 儂が厳しく当たるのはお前と菫花くらいだぞ?」)

(野獣「いや、執事達を叱らないという話ではなく、皆が寂しくならないように仕事を与えてくださったのでしょう?」)
 


※ごめん、めっちゃ半端だけど眠い。もう少し屋敷サイド続く……※

(師匠「本来はお前に尽くすことが、今はお前の意思に従って、菫花や儂のため目に見える仕事をすることが」)

(師匠「あの者たちの存在意義だからな」)

(野獣「本当に……師匠には感謝しています、私の使用人達を受け入れ、仕事を与え、守ってくださる」)

(師匠「儂が動物嫌いじゃなくてよかったな?」)

(野獣「全くです」)

(師匠「……お前達に、この屋敷に関与することができず、鏡で見守るしかできなかった頃」)

(師匠「獣の使用人達も、あの兄妹も、実に健気にお前の事を想い続け再会の日を楽しみにしていた」)

(師匠「……彼ら彼女らの存在を知らずにいたままならば、お前や菫花との儂の関わり方も、もしかしたら違ったかもしれん」)

(野獣「師匠」)

(師匠「もしもの話を始めたら果てしが無いわな。重要なのは未来と……現在だ」)

(師匠「さしあたって儂は現在、腹が減ったので目覚める」)

(師匠「で……今日は金曜日だな、末妹や次兄に伝言があれば承るぞ?」)

(野獣「二人も家族も息災ならば言う事はありませんが」)

(野獣「……師匠と菫花の旅の無事を二人にも祈っていてほしいと、それくらいでしょうか」)

(師匠「わはは、わかった、伝えておこう」)

(師匠「では、また今夜に、な」)

(野獣「は、はい。お疲れ様でした……」)

(野獣「……」)

(野獣「師匠と菫花のこの世界での旅……どんなものになるのか、不安要素がないでもないが」)

(野獣(今回の不安とは主に身内にあるわけで))

(野獣「それでも楽しみの方が大きい……菫花よ、私の分まで世界を見て来ると言ったな」)

(野獣「旅から帰った時、お前の目に映ったものを余すことなく私に教えておくれ……」)

……

その夜……

末妹「まあ、師匠様と菫花さんが?」

鏡越しのメイド『ええ、あっちこっちの騾馬さんの牧場を巡る旅行ですよ!』

鏡越しの王子『君達ふたりのおかげで、前向きな気持ちで旅立てます』

末妹「きっと素敵な旅になりますよ、それに師匠様がいらっしゃれば怖いものなしですね!」

末妹「野獣様も楽しみにしていらっしゃるでしょうね……」

王子『ええ、野獣も頑張れと応援してくれたし、彼にも良い報告ができる旅にしますよ』

鏡越しの師匠『……』ニヤァ

次兄(……今、執事さんの斜め背後にいたおっさんの口角がイヤな感じで持ち上がったような……?)

鏡越しの執事『おふたりが不在の間に、我々は馬小屋の内装作業を仰せつかりました』

鏡越しの庭師『へへ、お屋敷から渡り廊下でつながっているんですよ!!』

鏡越しの料理長『快適な場所になるよう、わしらも頑張ります』

王子『僕も今から完成が楽しみです』

次兄「……しかし、飼うとしたら若い騾馬でしょ? 執事さんを怖がらないかな」

執事『鏡越しにわたくしを見つめたまま普通に会話に参加されるのはいかがなものでしょう』

王子『執事さんの使い古しの手袋と、換毛期に出た抜け毛を少し、瓶に密封して持って行きます』

次兄「」ピク

王子『道中、執事さんの匂いに慣れさせておけば、家に来てから少しでも早く馴染んでくれるのではと……』

次兄「……その瓶詰め、旅行から戻ったら俺に譲っ、いや売ってくれません!?」

鏡越しの師匠『はいはいそろそろ時間切れだ、君達も儂とこいつの旅の無事を祈っていてくれ』

末妹「はい、お元気で……頑張ってくださいね菫花さん」

王子『ありがとう、今度は来月の第一金曜日にお会いしましょう』

メイド『また来週、末妹様ぁ』フリフリ

末妹「メイドちゃん、皆さんも……小屋造り頑張ってね、野獣様によろしく」

次兄「あのー、執事さんの瓶詰めはぁぁぁ」

鏡『ジカンギレデース』フッ

次兄「そんな殺生なぁぁぁぁぁ」

次兄「……くっ、今後も粘り強い交渉が必要だな……まだ諦めてはいけない」ブツブツ

末妹「……本当に、良い旅になりますように……野獣様のためにも……」

末妹「……あちこちって、この国のいろんな地方だっけ」

末妹「うちの馬が生まれたお父さんのお友達の牧場、確か騾馬も育てていたはず……」

末妹「旅の途中で、師匠様がまたうちの店にふらりと紅茶を買いに来たりとか?」

末妹「……なんて、そんなことないか」フフッ

……

師匠「さぁて、路程を確認するぞ菫花」ガサガサ

王子「はい、あれ……地図上のこの印、南の港町の郊外に?」

師匠「おお、ここの牧場も立ち寄るぞ、宿も儂の知っている宿に決めてある」

師匠「ついでに商人の店で買い物もしような」

王子「いいですね、商人さんのお店はいい品揃えだと思っていたんですよ」

師匠「……一人でお使いできるかなぁ?」ククク

王子「え? 何か言いました?」

…………


※今夜はここまで。こんどの週末はちょっと多忙なので更新ないと思ってください……※

少し時間を遡って数日前、野獣と師匠……

(師匠「お前、魔法を学びに来る時の色眼鏡とか平民らしい服とか……どうやって手に入れた?」)

(野獣「ああ、それは……まず、園丁の作業小屋にお金と欲しい物を書いた手紙を置きます。夜中にこっそりと」)

(師匠「ふむ」)

(野獣「数日くらい後、私が寝床に就く頃、掃除婦が私の部屋を5回ノックしたなら合図です」)

(野獣「園丁の作業小屋に届いている注文の品物を取りに行くのです。夜中にこっそりと」)

(師匠「ちょっと待て」)

(野獣「何か?」)

(師匠「王や王妃が用意した物以外の……」)

(師匠「お前の個人的な所有物は、何もかもその方法で手に入れたのか?」)

(野獣「その園丁はお金さえ払えば両親には秘密に頼まれた通りをこなしてくれる人物でしたから」)

(師匠「品物の代金、園丁自身の手数料、協力する掃除婦……だけではないな、実際に店に向かう者達の交通費と手数料……」)

(師匠「例えばお前がギルドに来る時にいつもかぶっていた帽子、あれにはいくら使った?」)

(師匠「帽子の代金とその他の経費全て込みで」)

(野獣「えーと……あの時は確か、金貨で……●●枚ほど」)

(師匠「…………釣り銭は受け取ったか?」)

(野獣「お釣りをもらったことはありませんが?」)

(野獣「余ったら全て園丁のものにしてくれと、あ、もちろん不足分は間違いなく請求してくれともちゃんと伝えています」)

(野獣「不足があったとは一度も彼は言いませんでしたが」)

(師匠「世間知らずにも程があるわ!!」)

(野獣「」)
 

(師匠「あの安物のペラッペラの帽子のために……金貨●●枚……」トホホ)

(師匠「……しかし、それから一人で外出するようになって理解しただろう? 世の中の、相場というものを」)

(野獣「……個人的な外出は魔法を習いに行く時だけでしたが」)

(師匠「寄り道もせず、城と魔術師ギルドを往復するだけだったのか?」)

(野獣「余計なことをして身分が知られても困りますし」)

(師匠「それはそうだが……」)

(野獣「あ、そう言えば園丁の小屋に取りに行く以外の買い物をした事ならありますよ?」)

(野獣「配達先をこの屋敷……当時の父王の別荘にしてもらったことはあります。バラ園のための肥料」)

(師匠「同じことだバカタレ、と230年前の貴様を今さら叱りつけたとて……」)

(師匠「…………」)

(師匠「今度の旅行で、儂はあいつに社会経験を積ませるつもりだが……」)

(師匠「……………………」)

(師匠(よし、決めた!!))

…………

……………………

旅先の師匠と王子……南の港町のとあるカフェにて

王子「え? 宿に入る前に買い物ですか?」

師匠「おう、主人と従業員二人だけで切り盛りしている宿だが、儂が長期滞在した際に何かと親切にしてくれて、な」

師匠「ちょっとした手土産でも渡して、感謝の気持ちを表したい」

王子「そうですか、では師匠にお供しますよ、お店に向かいましょう」
 

師匠「……話は終わっとらん。ここはぜひ、儂の自慢の息子が選んでくれた品を送りたくてなぁ」

王子「は?」

師匠「予算はこんなものか」チャリンチャリン

師匠「今の時代の貨幣に両替済みだ、商人の店だぞ、このカフェからはほど近い」

王子「商人さんの」

王子「……って、地図はあるんですか!?」

師匠「近いと言っただろう、通行人に聞けばすぐにお前ですらわかる」

王子「そうだ、手鏡に呪文をかけて魔法の鏡に」

師匠「今回の旅で魔法は使わせんと言っただろうが」

師匠「なあに、この町の人間は割と親切だぞ、心配するな」

王子「ぼ、僕のセンスの悪さはご存知でしょう!?」

師匠「店員にお勧めを聞けば良いではないか、予算と目的を伝えれば、いい感じに見繕ってくれる」

王子「いいかんじに」

王子「店員……そうか、末妹さんや次兄君がいるんだ」

王子「それなら安心です、気が楽になりました」ホー

師匠「ああ、頑張って行って来い。期待しているぞ?」

師匠「お前が戻るまでここで時間を潰している、カフェオレが美味い、気に入った」

王子「はい、行って来ます」

師匠「…………」

師匠「少女は学校にいる時間、少年はさきほど図書館へ出かけたばかり」

師匠「鏡の魔法でこっそり確認済み」

師匠「さて、誰が出るかな……」ククク


※今回はここまで。次回、王子に最大の試練が訪れる(のか?)※

師匠「……そう言えば『あの恰好』そのままで行かせてしまったが」

師匠「一人で行動中の姿が『アレ』では不審がられるかもしれん、ま、それも勉強の一環だわな」

師匠「世の中には様々な人間がいると改めて体で学ばせ、そして自分の頭でモノを考えて行動させなくては」

師匠「ああ給仕さん、カフェオレおかわり」

……

王子「……」ウロウロ

王子「あそこにいる男の人に道を聞いてみよう」

王子「あ、あの、すみません……」

中年男性「」ビクッ

中年男性(な、何者だ? 確かに今日は少し寒いがマフラーで口どころか鼻まで完全に覆って)

中年男性(帽子は目深に被って、どころか目元までほぼ隠れているぞ、人相がわからん)

中年男性(怪しい、ま、まさか辻強盗ではあるまいな!?)

中年男性「い、急いでいるので、じゃっ!!」ソソクササササササ

王子「あ、待っ……」

王子「……行ってしまった」

王子「もしかしたら、この恰好がまずかったかな?」

王子「……屋敷を出て、森を抜け、最初の町に着いたらやたらと女性がこっちを見てきたりじわじわ近付いて来たり」

王子「初めは『僕と師匠を』見ているのかなと思って口にしたら」

王子「師匠に馬鹿にされたっけ、『お前しか見とらんわ』って……」

王子「数日間の滞在中、だんだん町の女性達がやたらと親しげに話しかけて来るようになって」

王子「町の男性達は逆になんとなく冷たくなって」

王子「……考えた末、次の町では顔を隠すようにしたら、ぱたりと収まった」
 

王子「……」

王子「なんというか、女性が230年前に比べたら積極的と言うか」

王子「尤も、昔の僕の立場とか、あの時代の小国の庶民はみんな困窮していたのもあるし」

王子「とりあえず今の自分の気持ちだけで言うと」

王子「率直に、怖い」

王子「…………慣れれば平気になるのかなあ」フゥ

王子「しかし今の僕には優先すべき目的がある」

王子「こんどはあっちの若い男性に尋ねてみよう」トトト

王子「……あの、すみません、(こんな格好ですが)怪しい物ではありません」

幼馴染男「え、僕ですか?」

王子(よかった、警戒している様子はない)

王子「えーと、実は……商人さんのお店に行きたいのですが……」

幼馴染男「ああ、それでしたら……この道をこう行って、緑の屋根の三階建の家の角を左に曲がって……」

王子(わかりやすくて丁寧だ、ありがたいなあ)

幼馴染男「……本来ならご一緒して道案内差し上げたい所ですが」

幼馴染男「これから仕事の関係で、港まで人を出迎える用事があるので、申し訳ありません」

王子「いいえ、非常にわかりやすく教えていただき、これなら辿り着けそうです」

王子「お忙しいところ引きとめて申し訳ありませんでした、ありがとうございます」

幼馴染男「お役に立てたなら光栄ですよ、では」ニコ

王子「……いい青年だな、僕と同い歳くらいに見えたけど……」

王子「さて、方向はこっちだったな。緑の屋根緑の屋根……」

……

商人の店

次姉「無理して手伝ってくれなくてもよかったのに、私一人で充分よ」

長姉「だって……料理教室がない日、お父さんと兄さんは取り引き先へお出かけ」

長姉「末妹は学校、次兄には図書館へ逃げられた」

長姉「……天文学者先生ご夫婦が旅から戻られて、今日は西の島国から来る研究者さんをお迎えするからって」

長姉「幼馴染男も忙しい」

長姉「暇しているくらいならあんたと二人で店番している方がずーーーっと有意義だわ」

次姉「有意義、ね」

次姉「姉さんからそんな言葉が出てくるなんて、でも素直に嬉しいわ、ありがとう」フフ

呼び鈴:チリリン…

長姉「お客様ね」

次姉「いらっしゃいませ」

王子「」

長姉「」

次姉「……(顔が見えない)」

長姉「ちょ、次姉、お客様とは言えなんなのこの怪しいの!?」ヒソヒソ

次姉「しっ、様子を見て、話が通じそうな相手ならやんわり注意してみる」ヒソヒソ

次姉「とりあえず姉さんは私より後ろにいて?」ヒソヒソ

長姉「乙女だけの店番の日に限って、なんでこんなのが来るのよ……」ボソボソ
 

王子「…………」

王子(どうしよう……野獣として鏡越しに初めて見た時から)

王子(このお二人はなんか苦手だ)

王子(次兄君と末妹さんのお姉さんだし、最初の頃よりずっとあの子達への態度が柔らかくなったとは言え)

王子(実際にお会いしてわかった、自分でも認めざるを得ない)

王子(単純に僕自身、こういうタイプが怖いのだと……)

次姉(……なんなの、突っ立ったまんま動かないし一言も発しない)

次姉(だからと言って、敵意は全く感じないのだけど、それどころか)

次姉(なんだか……私の暴力を必要以上に恐れている時の次兄のような空気を纏っている……?)

次姉(あと……おそらく男性? で、身長は私と同じくらいだけど、まるで鍛えてはいない、明らかに鍛えた試しはない、と見た)

次姉(よし、変だけど少なくとも危険なお客様ではないと確信したわ!)

次姉「お客様、どのような品をお探しでしょう?」ニコリ

王子「」ビクッ

王子「えええええ、ええと、師しょ、いえ、父からですね、つつつつつ、使いを頼まれまして」カタカタカタカタ

長姉「……何これ?」

次姉「姉さん、声もっと潜めて」ヒソヒソ

次姉(……どうしよう、うちの店はそんなに格式高いつもりはないけれど、やはり顔が全く見えないお客様と言うのは……)

次姉(何か気の毒な深い事情があるのかもしれないから、無理強いはしないけれど)

次姉(一度だけ、注意を促してみようかしら?)
 


※今回ここまで。王子の受難(?)は現在進行形※


幼馴染男とかいう誰とでも仲良くなれそうな聖人

次姉「あのうお客様、失礼は承知で申し上げますが……」

次姉「店内では……そのマフラーは少々……暑苦しくはありませんでしょうか??」

王子「」ビクッ

王子(そ、そうだよな、こんな異様な風体の客を相手にするのは、しかも女性店員だけで)

王子(ちゃんとここで買い物をしなくては師匠のお使いにならないんだ、ここは……)グッ

次姉「あ、お客様がお困りでなければ」

スルスルスルスル……パサリ

王子「……仰る通りです、こちらこそ失礼致しました」

長姉「ちょ」

長姉「ちょちょちょちょっと、なんなのなんなの、このあり得ないほどの美形!?」ペチペチペチペチ

次姉「姉さん私の背中を連打しない」

次姉「お客様、気になる品物がありましたら、どうぞお手に取ってじっくりご覧くださいませ」エイギョウスマイル

王子「……は、はい」

長姉「あんたなんでそんな冷静でいられるのよ!?」ヒソヒソ

次姉「姉さんこそ何はしゃいでいるのよ、そもそも婚約中の身で」ヒソヒソ

長姉「目の保養よ、目の保養!! 恋愛感情とかテーソーカンネンなんかとは別のもの!!」ヒソヒソ

次姉「調子いいんだから、全く……」ハァ

次姉(……目の保養って言葉で思い出した)

次姉(このお客様、元王子様の菫花さんて人の、末妹が話していた容姿そのまんまな気がするけれど……?)

次姉(……元王子、元とは言え王族……)

王子「……」
 

王子(どうしよう、お手に取ってとか言ってくれたけど、そもそもどういう系統の物を買えば良いのかすら……)コンワク

次姉(……普通は若くても威厳とか貫禄とかを、もっと醸し出しているのでは??)

次姉(やっぱり違うのかしらねぇ)

長姉「ちょっとっ、次姉だって見惚れているじゃない!!」ヒソヒソ

次姉「って姉さん、そんなんじゃないわよ」ヒソヒソ

次姉「このお客様、末妹と次兄の友達って人じゃないかしら、って思っていたところ」ヒソヒソ

長姉「!?」

長姉「……た、確かに言われてみれば……」ヒソヒソ

長姉「背丈、体格、髪の色、ひとみの色、肌の白さ、見た目年齢……」ボソボソ

長姉「よーし、ここは長女の役目として可愛い弟妹のお友達を」ズイ

次姉「待って」グワッシィ

長姉「あう」

次姉「まだそうと決まったわけじゃないし、こうやって店に来たからにはお客様よ」グググ

次姉「私の勘ではこの人ちょっとめんどくさいタイプと見た、だから好奇心に任せた余分な行動は慎んで、ね?」ググググググ

長姉「わ、わかったわかった、だから両肩に食い込む指をちょっと緩めて……」

長姉「……あっ、でも、ちょっとツボに入っていい感じかも……」

次姉「確かに肩張っているのね、ついでだからちょっとだけマッサージしたげる」ワッシワッシ

長姉「はうう~」

次姉(やっぱり胸が重いせいかしら)

長姉「……ありがと、なんかおかげで気持ちも落ち着いたわ」ホゥ

次姉「たった5秒のマッサージに思わぬ効果が」

王子(……どうしよう、何を買おう、やはり相談したほうが良いのだろうか……うむむむ……)チギシュンジュン

……
 

再びとあるカフェ……

手鏡「……イカガデス?」

師匠「ふむ、次女はともかく、長女が店にいるとは読めなかったのう」

師匠「とは言うものの、菫花が世間に出れば顔で難儀するのはわかっておった」

師匠「女性をほどほどにあしらう技も少しは身につけねば」

師匠「それ以前に、気の強そうな女性はあいつの母親を思い出させて苦手かも知れんが……」

師匠「『気の強い女』で一括りにして逃げ回っていても進歩はないからな」

師匠「馬は乗ってみなければわからんのと同じ、人も接してみなければわからん」

師匠「……まあ、なんにせよ儂は楽しいぞ」グフフ

手鏡「ダンナモワルデスナァ」

師匠「どれ、ちょっと別の場所を」

師匠「……お、だれか住居側の玄関に帰って来たようだな?」

鏡越しの家政婦『……様、お帰りなさいませ……』

……

商人の店……

次姉「……迷っておられるようですねお客様、よろしければ用途を教えていただけますか?」

王子「よ、よーと……?」

次姉「ご自宅でお使いになりますか、ご贈答用ですか?」

王子「あ……」

(師匠「店員にお勧めを聞けば良いではないか、予算と目的を伝えれば、いい感じに見繕ってくれる」)

王子(よし、ここは意を決して……!)キリッ
 


※ここまで。お買いもの編、引っ張りすぎてすみません……※

>>232
長姉を子供のころから好きであり続ける男子……と思ったら、おおらかでやや天然系しか思い付かなかった

…………

家政婦「末妹様、お帰りなさいませ……と、次兄様もお帰りなさいませ」

次兄「ただいま」ニョン

末妹「帰り道でぐうぜん出会って、一緒に帰って来たの」

次兄「さて、俺は早いとこ店に出ねば」

次兄「末妹から聞くまで、兄さんが今日は家にいる日だと思ってたよ」

末妹「お父さん、今朝は冷え込んだせいか腰が痛いって話していたから……心配で一緒に行ったの」

次兄「マジで知らなかったんだよ」

次兄「姉さん達は俺が図書館に逃げて長姉ねえさんに店番を押し付けたと思っているだろうなあ」

次兄「今頃、俺の悪口大会で盛り上がっていると思うと」ガクブル

末妹「考え過ぎよお兄ちゃん、ありのまま話せばふたりとも怒ったりしないわ」

次兄「……末妹を疑うわけじゃないけれど、俺への信用なさはお前の想像を超えている……ん」

次兄「家政婦さん、そこの……籠に盛ったほんのり甘い香りの物体は?」

家政婦「あ、これはご休憩の際にお二人に召し上がっていただこうと用意した焼きメレンゲです」

家政婦「と言ってもお客様の訪れる合間に不定期なお休みしか取れませんから」

家政婦「口に長く残らず軽くつまめるお菓子を、と……」

次兄(……ひらめいた!)ピコーン

次兄(いかにも女子ウケの良いアイテムを携えて登場すれば、どさくさに紛れつつご機嫌取りができるに違いない!!)

次兄「家政婦さん! それ運ばせてください、俺どうせこれから店に出るんだし!!」

末妹「お兄ちゃん?」

…………

次姉「ご自宅でお使いになりますか、ご贈答用ですか?」

王子「あ……」

王子「…………あ、あの……お世話になった方への、お

住居と店舗を繋ぐドア:バーン!!

次兄「美しく働き者の素晴らしいお姉様がた、小休止にしませんこと!?」

末妹「待ってったら、今はお店にお客様が」

次姉「」

長姉「  」

王子「        」

末妹「……!?」

次兄「                    っうぇ??」

次姉「……お客様がいるのに何やってんのよあんたは!?」

末妹「ご、ごめんなさい!!」

次姉「末妹じゃなくて」

長姉「何が素晴らしいお姉様だか、逃げたくせに」

末妹「それは誤解で」

次兄「俺の口からちゃんと説明するよ、ささ、まずは座ってお菓子でも」

次姉「だから、お客様がいるのよ!」

王子「ぼ、僕のことならお構いなく、ご家族の問題を優先してください!!」

次姉「お客様は黙っててっ!!」クワッ

王子「 」

次姉「……じゃなかった!! あわわ、失礼しました!? ……ああもう何がなんなのよ!?」

長姉「あんたのせいよ次兄!!」

末妹「あの……菫花……さん……?」

次兄「……あ、立ったまま気絶してる」

次姉「なんですって!?」

長姉「た、確かにさっきの次姉は怖かったけど」

…………

師匠「……どうしたことだこの混沌は」

師匠「とりあえずもう少し見守るか」

…………

末妹「しっかりしてください、しっかりして、菫花さん」

長姉「ってことはやっぱり、この人あんた達の友達の」

次姉「あああ目は開いているのに意識がないわ」オロオロ

長姉「あれ、元凶(次兄)はどこ行ったの」

次兄「ちょっと皆よけて、これがあれば……」トテテ

毛布:ブワサァ

次姉「ちょ、あんた何を」

スボッ

次姉「お客様!?」

次兄「末妹、完全にくるんであげて」

末妹「う、うん」ゴソゴソ

毛布の塊「……」

末妹「……菫花さん……?」

毛布「…………はい」ボソッ

長姉「喋った」

毛布「……み、皆さんには、みっともない所を……」ボソボソ

次姉「ハッ」

次姉「お、お客様、椅子をお使いください」ズリズリ

末妹「ありがとうお姉ちゃん、ほら菫花さん、このまま座って?」ユウドウ

毛布「……」トン

末妹「……落ち着きました?」

毛布「ええ……お陰様で、ごめんなさい」

次兄「うーん、安定のメレンゲより脆いメンタル」

次姉「誰のせいで……いやそれより」

次姉「お客様、本当に先程は失礼致しました……勢いでつい」

次兄(鬼の形相でした)

毛布「わ、悪いのはこちらです、僕が頓珍漢な事を口走ったばかりに……」

毛布「……そもそも、買い物が目的であっても次兄君と末妹さんのご家族に、最初の挨拶もなしに」

次兄「おっさんは一緒じゃなかったの?」

毛布「僕一人で買い物に行けと……おつかいを頼まれました」

末妹「もしかして、この町の郊外の牧場へ?」

毛布「え、ええ……騾馬の生産もされているとのことで」

毛布「滞在はこの町の宿ですが、以前に師匠が泊まった時にお世話になったとかで」

毛布「ご主人と従業員の方に、手土産を渡したいと、それでおつかいを」

次姉「……先方様について、もう少し詳しく教えていただけますか?」

毛布「あ」

毛布「えーと、確か……北通りに位置する宿で……」

毛布「ご主人は40代半ばの男性、従業員さんは20歳前後の若い女性ひとり、と聞いています」

毛布「あ、あと預かった予算の金額は……」

次姉「……承知いたしました」スッ

次姉「ちょっと手伝って、姉さん」

長姉「私? いいけど」スッ

次姉「末妹と次兄はお客様のそばにいてね」

末妹「は……はい」

次姉「心当たりのある宿屋はあるわ、うちから年一回、宿泊者用の石鹸をまとめて届けている小さな宿よ」

長姉「ん? うちから消耗品を定期的に仕入れている宿は二軒、どっちもそこそこ大きな所じゃなかった?」

次姉「お得意様名簿に載ってはいるけど、正式契約してはしていないの」

次姉「ぶっちゃけた話、消耗品全てをうちから仕入れられるほど儲かっている宿じゃないもの」ヒソヒソ

次姉「それでもご主人のこだわりなのか、せめて石鹸だけでも良い品を使いたいらしく」

次姉「同じ品では微々たる差とは言えうちが一番安く、それ以上に粗悪品が混ざらないって信用もあるから……でしょうね」

次姉「ま、とにかく、予算内でとなると」サッサカ

次姉「姉さんはこっち持ってて」ホイ

長姉「う、うん」

次姉「お客様、こちらの商品はいかがでしょう……っと」

毛布「」

末妹「菫花さん、もう、大丈夫……ですよね?」ソッ

毛布「ハッ」

毛布「す、すみません、いつまでも何やっているのでしょう、僕ときたら本当に……」モゾモゾ

次兄「では御開帳~」ピラッ

毛布:バサリ

王子「……選んでくださったんですね」

次姉「宿のご主人にはこちらのサスペンダー」

次姉「従業員の女性には姉が手にしておりますこちらのスカーフを」

次姉「いずれも最近入った品ですので、お手持ちと被ることもまずないと思われます」

次姉「お値段は……になりますが、よろしいですか?」

王子「……どちらも素敵に見えます(が、僕のセンスでは正直よくわかりません)」

王子「(でも、選んでくださったのだから)きっと気に入ってくれますね(たぶん)」

次姉「ではこちら、お包み致しますね」

長姉「好みもわからない相手に装飾品?」ヒソヒソ

次姉「これなら価格的には普段使いのレベルよ、無難なデザインだし」

次姉「それにね、年一回の石鹸を届ける日がちょうど先月末でね、私が行ってきたの」

次姉「出迎えてくれたけど、革の擦り切れたサスペンダーと色褪せてほつれかけたスカーフで……そういうこと」

長姉「それを早く言ってよ、あんたったら」

次姉「ふふ、ごめん」
 

王子「…………」ボー

末妹「……菫花さん、のど乾いていませんか? はい、お水」ニコ

王子「は、はい、ありがとう……」ゴクゴク

次兄「うちのスタッフの休憩用でよければ、メレンゲの焼き菓子……お好きなフレーバーをお選びくだされ」ニヘヘ

次兄「あ、この薄茶色いのは胡桃が入っているから駄目(俺のもの)ね」

王子「は、はい……じゃあこのピンク色の、木苺味かな……」サクサク

王子「……甘酸っぱくておいしい」サクサク

王子「……ふう、ありがとう、おかげですっかり落ち着いたよ」

末妹「よかった」ホッ

次姉「お客様、緑のリボンが掛かっているのがサスペンダー、赤いリボンの包装がスカーフです」

師匠「これは丁寧な包装だの、ありがとうお嬢さん」ヌッ

次姉「!?」

末妹「師匠様!?」

次兄「おっさんっ!?」

長姉「いつの間に!?」

王子「し、師匠ぉぉ!?」

師匠「お、すまんすまん、驚かせるつもりはなかったのだが……呼び鈴をもっと派手に鳴らすべきだったかな?」

師匠「儂は、実に地味でおとなしくて物静かで目立たなくて控え目な人柄……とよく言われるのでなあ」ハッハッハ

王子(誰に?? 誰に言われるんですか??)

次姉(物音どころか気配すらしなかったけど……)

次兄(魔法だ、ぜったい魔法使って入って来たんだ)
 


※とりあえずはここまで※


※土日更新なしです、ごめんなさい…※

余談:留守番アニマルズの食事は王子による食材購入魔法を師匠の力で遠隔操作して解決
夢で毎晩野獣とお話ししています
いずれ閑話休題的に、獣しかいないお屋敷の様子も本当にちょっとだけ書くつもり…


※お知らせ※
今週入ってから熱出してダウンしていました……回復してきたので近日中に復帰予定です

商人の家の中庭……

馬「ぶるる……」

長兄「さてと……今日も馬車を引いてくれてごくろうさん」ポンポン

馬「ひん♪」

商人「長兄もありがとう、馬車の乗り降りに手を貸してくれたおかげで、腰も悪化せずに済んだ」

風:サァッ……

商人「ん、風向きが変わったか」

馬「!?」ピクッ

馬「ひひひんひぶひん、ぶるるひんー(懐かしい匂い、友達ー)!」

長兄「おっ、急にどうした? 落ち着け、どうどう」

商人「何かに怯えたり嫌がったりする時の騒ぎ方ではないが、どうしたんだろうな?」ナデナデ

商人「……落ち着いたか、じゃあ我々も家に入って休もうか」

長兄「うん、末妹も下校している頃だろう、夕食前にみんなで軽くお茶でも」

……

長兄「え、次兄と末妹が帰宅してすぐ店に出て、なのに長姉も次姉も戻って来ないって?」

家政婦「ええ、かなり時間は経っていますが」

商人「うーん、4人で手が離せないほど忙しいのかな……?」

長兄「様子を見てくる」タッ

商人「あ、私も行くよ」

……

……

師匠「さて……お嬢さんがた?」

長姉「わ、私達?」

次姉「そのようね」

師匠「この店を訪れる度、品揃えと接客に気持ち良くさせていただいているが」

次姉「ご贔屓にしてくださって、ありがとうございます……」

師匠「改めて……弟さんと妹さんには、『息子』が非常にお世話になっておりまして、な」

次姉「え、ええ、この子達からその話は」

師匠「だと言うのに、未熟者で世間知らずで小心者で臆病で内向的で卑屈で幼稚なこいつが、こちらで粗相を働いたようで」

末妹「し、師匠様……」オロオロ

王子「」

次兄「ボロクソ」

師匠「保護責任者として心からお詫びを申し上げます……お前も頭を下げい」

王子「は、はい、ごめんなさい!!」

長姉「王子様に頭を下げられるって……複雑」

次姉「そ、そんな、頭を上げてください!!」アワアワ

次兄「お客に頭を下げられるのは商売人の矜持が許さない次姉ねえさんであった」

師匠「その上で図々しいお願いではありますが、どうかこいつが弟さん妹さんの友人でいることを許してほしい」

長姉「許すも何も……ねえ」

次姉「私達こそ……この町でこの店を選んでくださった事、本当に感謝していますのよ?」

次姉「これからもご贔屓にしていただきますよう、お願いしたいのはこちらですわ」

次兄「リピーターのお客は絶対離さない次姉ねえさんでもあった」

師匠「本来ならばお父上にご挨拶をするのが筋でしょうが……お留守のようで」

次姉「申し訳ありません、父は取引先に」

師匠「はは、お忙しいのは繁盛の証拠、結構なことです」

師匠「3~4日この町には滞在する予定なので、日を改めてお伺いしましょう」

師匠「……時に菫花、支払いは済ませたか?」

王子「!? わ、忘れていましたっ!? こ、これ、代金です!!」チャリンチャリン

師匠「儂に払ってどうする阿呆」

末妹「慌てないで菫花さん、落ち着いて……次姉(あね)はこっちですよ」

王子「……は、はい……」チャリン

次姉「確かにいただきました、ありがとうございます」ニコ

王子「……こ、こちらこそ」

師匠「ふむ、生まれて初めての、店での買い物ができたな?」

末妹「生まれて初めて」

長姉「……さすがは王子様」

王子「は、はい…………」

王子「……その後に何が続くんですか師匠?」

師匠「ん?」

王子「例えば『小さな子供でもやってのける事をお前はどれだけ手間をかけて……』くらいは」

次兄(菫花さんマジ卑屈)

師匠「お前がこちらのお嬢さん達に迷惑をかけたことはもう謝った」

師匠「ちゃんと店は代金を受け取って品物は我々の手にある」

師匠「結果で言えば、お前は儂が頼んだおつかいをやってのけた」

師匠「今回に関してはこれ以上何もないわい」

王子「……そ、そうですか……」ホッ

末妹(よかった……)ホッ

師匠「というわけで、今日のところはこれで」

住居と店舗を繋ぐドア:ガチャ…

長兄「次姉、店で何かあったのか?」

商人「何か困った事になったのかい?」

次姉「兄さん」

末妹「お父さん」

王子「あ」

商人「え」

……

応接室……

家政婦「紅茶のおかわりはご遠慮なくお申し付けくださいませ」

師匠「ありがとう。うむ、きれいな色が出ている、それにこの香り……儂の好きな銘柄だな」

王子「……………………」

商人「…………………………………………」

師匠「クッキーにはオレンジの砂糖漬けが入っているのか、甘酸っぱさと渋みが良いアクセントだ」

……

応接室のドアの鍵穴……

誰かの目:ジー……

長姉「ちょっと、そろそろ代わりなさいよ」ヒソヒソ

次姉「代わり映えしないわ、あの二人は黙ったまま、お師匠様とやらはどこ吹く風」ヒソヒソ

長姉「末妹の『男友達』なんて、お父さんも身構えるだろうけど……」ヒソヒソ

次姉「うーん、あのお父さんの様子は……そういう意味なのかしら……?」ヒソヒソ

……

店舗……

末妹「……」

常連客「……末妹ちゃん?」

末妹「……は、はいっ!?」

常連客「びっくりさせちゃったか、ごめんよ」

末妹「い、いいえ、私がぼーっと考え事していたからです……ごめんなさい」

末妹「……こちらのロウソクですね? ……はい、おつりです」

常連客「疲れているのかい、学校終わればお店も手伝って……家でも勉強してるんだろ?」

常連客「立派だけど、無理はするんじゃないよ? ……じゃ、またね」チリンチリン

末妹「あ、ありがとうございました!!」

長兄「毎度ありがとうございます」

次兄「まいど」

長兄「……末妹、常連客さんも言ってたが、無理しなくていいんだぞ?」

長兄「店だったら俺がいるから心配いらないよ」

次兄「俺も頑張るよ(但し接客は除く)」

末妹「二人ともありがとう、でも大丈夫、もうボンヤリ考え事なんかしないから」

長兄「……気になるんだろ?」

長兄「お客さん……師匠さんだっけか、父さんに挨拶をしておきたいなんて言って」

長兄「あの二人と父さんが応接間に通されて話をしている所だからな」

次兄(更に言うなら、俺達と交代して休憩に入った姉さん達が……俺の勘では応接室のドアの前で聞き耳立ててる)

末妹「き、気になるなんて、そんな」フルフル

末妹「お父さんも、師匠様も、菫花さんも大人だもの」

末妹「大人のひと同士がどんなお話をしているかなんて、私があれこれ気にしても仕方ない……でしょう?」

次兄(現状での菫花さんは大人として分類してよいものでしょうか、社会的な意味で)

長兄「そうか、ま、お前が大丈夫だと言うのなら……」

長兄「……二世紀前の時代から来た魔法使いと王子様……動物達がお仕えする屋敷の住人、か」

長兄「お前達から話を聞いて、目の前で不思議な出来事を見て、それでも俺にはいまだにピンと来ないが」

長兄「少し変っちゃいるが、少なくとも悪い人ではないし、お前達のことを良く思って親切にしてくれる」

長兄「弟と妹の友達として、兄から文句をつけるような相手ではないよ」

次兄「兄さん」

末妹「お兄さん……」

長兄「……で、物は相談だが、末妹?」

末妹「なあに?」

長兄「お、俺のことも……『お兄ちゃん』って呼んでみてくれてみようとか物は試しでどうかなあ?」

末妹「 」

次兄「なんと」

……


※長らく休んですみません……今回ここまで。眠い……※


病み上がりだしお大事に

応接室の3人。

師匠「……家政婦さん? ちょっとこちらへ」

家政婦「はい」サッ

師匠「……鍵穴から…………」ヒソヒソボソボソ

家政婦「……畏まりました」コクリ

家政婦「それでは皆様、ごゆっくりお過ごしください」スッ

家政婦「……私にご用がございましたら、こちらの呼び鈴を鳴らしてください」リン♪

ドア:カチャリ……パタン

師匠「さてと……商人さん、でしたな?」

商人「! は、はい!?」

師匠「次兄君と末妹さん、ふたりとも本当によいお子です、お父上の教育が素晴らしかったのでしょうな?」

師匠「あの子達のおかげで、この不出来な息子もようやく真人間になりつつある……どころか」

師匠「あの子達に、生きていることを許されたとさえ思っております」

商人「そ……」

商人「そんな大それたことは、あの子達はただ……友達の力になりたくて、出来ることを頑張っただけです」

商人「出来ることを、皆さんと……貴方と、使用人の皆さんと……野獣と……何より王子さ……息子さん自身と」

商人「力を合わせて頑張った結果、息子さんが救われたと仰るのなら」

商人「……あの子達の親として、これほど嬉しいことはありません……」

……

廊下の2人→3人。

家政婦「……私にご用がございましたら、こちらの呼び鈴を鳴らしてください」リン♪

長姉「ちょ、家政婦さんが出て来るわ!」アワアワ

次姉「隠れて、姉さん、こっち!」バタバタ

ドア:カチャリ……パタン

家政婦「……」

観葉植物「…………」

家政婦「……隠れたりなさらなくても、旦那様に言いつけたりしませんよ?」クス

次姉「……ごめんなさい」ゴソゴソ

長姉「……家政婦さんの目はごまかせないって、わかっちゃいたけど」ゴソゴソ

長姉「子供っぽいことしたわ、次姉は私が誘ったの」

次姉「私も乗り気だったもの」

家政婦「これは独り言ですが……師匠様は偉大な魔法使いさんなのでしょう?」

家政婦「私が黙っていても、もしかしたら?」チラ

長姉「 」

次姉「た、確かにそうだわ……」

次姉「やっぱり私達、部屋に引っ込んでいましょう姉さん」

家政婦「大丈夫です、お客様達とどのようなやり取りがあったか、きっと旦那様は貴女達にもお話ししてくださいますよ」ニコ

……

店舗の3人。

末妹「え……と、長兄おにい……ちゃん……?」

長兄「」

長兄「…………ああああ、ごめん、俺が悪かったああああ」モジモジモジモジ

末妹「お兄……」

微振動:カタ……カタカタ……

次兄「兄さん、185cm83kg(推定)の図体でモジモジされたら割れ物の陳列棚が心配だ」

次兄「ちなみに体重の殆どは骨格と筋肉です」

長兄「……」フゥ

末妹「だ……大丈夫……?」オロオロ

長兄「マジで悪かった、ごめん末妹」

長兄「嫌だとか気持ち悪いとかそういう意味ではないが……やはり呼び慣れていないと違和感が……」

長兄「俺を『お兄ちゃん』呼ばわりしていたのは寄宿学校に進む前の長姉と次姉だけ」

長兄「その二人も寄宿学校に入った翌年に帰省の時に顔を合わせれば既に『兄さん』」

次兄「……そう言えば俺と末妹は兄さんに関してはチビの頃から今の呼び方……だったかな?」

次兄「物心つくかつかぬかで大人に教えられた通りの呼び方が定着し、すぐに年に数回しか会わなくなり」

次兄「そこへ来て姉さん達も『兄さん』になれば自然とそれに倣ったのかもしれん」

長兄「そうなんだ、既に人生においては『兄さん』『お兄さん』呼ばわりの方が長い」

長兄「そもそも……長姉達に『兄さん』と呼ばれるようになった時も」

著啓「ああこいつらも寄宿生活で大人びたのか、くらいの感想しか持たなかった……な」

次兄「じゃあ無理にお兄ちゃん呼ばわりさせることもなかったのに」
 

長兄「……な、仲間外れは……長姉と次姉もすっかり『お姉ちゃん』呼びが定着して……」

次兄「……」ジー

次兄「……誰かに何か言われたんでしょ?」

長兄「 」

長兄「……この間、町の初等学校で同学年だった連中と……幼馴染男の婚約祝いを口実に酒場で飲んだ」

長兄「で、幼馴染男が帰った後の残った奴らと、話の流れで」

次兄「ちょっと待った、主役が帰ったのにまだ飲んでたの?」

長兄「……酒の付き合いにはそんなしょーもない側面もあるんだよ、次兄」

長兄「話を戻すと、話の流れで幼馴染男の相手の長姉の話からうちの他の弟妹の話題になり……」

次兄「わかった。末妹が兄さんだけに他人行儀……ひいてはあまり好かれていないんじゃないか、とか言う人がいたんだろ?」

長兄「ああ、お前の読み通りだ、全員ではないが2~3人ほど」

末妹「そんな」

長兄「もちろん俺自身は末妹に好かれていないなんて思っちゃいないぞ」

長兄「ただ……そういうふうに見る人もいるんだな、とはその時に思った」

長兄「親兄弟はわかっていても、他の人から見れば……と」

次兄「だから、とりあえず形だけでも取り繕えないかと浅薄にも考えた」ズバッ

次兄「己の五感より世間体を優先する兄さんらしい」バッサリ

長兄「……うぐぐ……そこまではっきり言わんでも……」ダメージ大

末妹「お兄ちゃん……」

次兄「安心せい末妹、別に俺は兄さんを苛めたいわけではない」

次兄「兄さんとて酒の席での野郎どもの軽口なぞいちいち気に留めるほど細かい男ではありますまい」
 

次兄「……でも、もしかしたら『それ以外の誰か』にもそのように見られてるかもしれない」

次兄「そんな疑念が湧いて不安になっちゃったんでしょ?」

末妹「それ以外の誰か……?」

次兄「末妹が兄姉達をなんて呼んでいるか日頃から聞いている人ですよ」

末妹「あ」

長兄「う」

次兄「いい? 兄さん」

次兄「あのひとの、洞察力に優れ細やかな心遣いで我々家族を支えてくれる彼女の目は、しょーもない節穴だと思うのか!?」

長兄「ちょっ」

長兄「ちょっと待て!? 『彼女』って!? 『家族を支えてくれる』って!?」

次兄「しらばっくれてもダメ」チッチッ

次兄「ボタンつけの件は、たまたま目撃してしまった俺と末妹の秘密ですが」

長兄「ボタンつけ……」

長兄「……末妹……ほんとに?」

末妹「……二人で庭にいる時、窓から……見えちゃったの……」

長兄「い、いや、そもそも前提がおかしい、ボタンの取れかけをつけてもらうなんて、次兄だってあっただろ?」

次兄「ボタンつけ云々ではなく今の兄さんの様子のおかしさが何よりの証拠」ビシィ

長兄「おかしい……そうか、俺の様子、おかしいのか……」

次兄「ちょろい兄」グフフ

末妹「……お兄ちゃん」
 

次兄「ま、今回は家政婦さんの事は置いといて、っと」ゼスチャー

次兄「末妹の『お兄さん』には、愛情と尊敬と信頼が込められている、そうは思わないか兄さん?」

長兄「尊敬……信頼……」

次兄「次姉ねえさんが末妹に『お姉ちゃん』呼びを持ちかけたのにはそれなりに立派な経緯がある」

次兄「今まで冷淡で無関心だった態度を改め、末妹との新しい関係を築こうとする」

次兄「そんな想いが込められた、いわば通過儀礼だったと言えましょう」

次兄「長姉ねえさんの場合は半分くらい便乗ぽいけど、それも置いといて」ゼスチャー

次兄「兄さんと末妹の関係はずっと良好だったじゃないか?」

次兄「末妹とほぼ対等に遊べるし時には逆に諌められる俺とはまた違った関係になるけど」

次兄「兄さんは妹達を……弟も? ……ずっと慈しみ守り続けてきたと俺達は充分承知しているよ」

末妹「そうよ、私だってお兄さんのこと、ずっと頼りにしているし、ずっと大好きよ?」

長兄「大好き」

次兄「ね、兄さん、呼び方なんて兄さんと末妹の間ではどうでもいいじゃない」

次兄「父さんも姉さん達も、それから家政婦さん、遠くで隠遁生活を送るばあや、そして天国のお母さん」

次兄「少なくとも、我が家の皆はわかってくれているはずだよ?」

長兄「次兄……」

長兄「すまん……ありがとう、ありがとう!! 俺もお前達が大好きだぁ!!」ガバッ!!

末妹「きゃ、お兄さん……」クスクス

次兄「脳筋的愛情表現ですなあ」フヘヘ

……


※今回ここまで。次回は応接室の顛末です(たぶん)※

>>258 ありがとう


※次回はたぶん7/18頃に……※

体重は次兄の推測にすぎないのと着痩せするタイプなので見た目さほどガチムチでもないが
実家に戻る前はあらゆる肉体労働関係からスカウトが来たくらいにはいい体です、長兄

そして応接室。

商人「……道に迷い、屋敷に導かれた私がバラ一輪を盗むことなく帰宅すれば、あの子達はあなた達と出会うこともなく」

商人「……少なくとも次にバラを誰かが折るまでは、おそらくは野獣も何事もなく……その後もあの屋敷で」

王子「…………」

師匠「そのことは」

師匠「既に、あの子達もそしてこの子も、充分過ぎるほど思いを馳せ、何度も考えました」

商人「ええ、私もわかっているつもりです」

商人「ですから……野獣が私達と同じ世界に暮らせなくなったことを悲しむより、きっかけを作ってしまったことを悔いるより」

商人「いまだ夢を通じて彼の愛するひとびとと繋がっていられることを、素直に良かったと今は思いたい」

商人「と言うか……それを喜ぶあの子達に同意できる自分でありたい」

商人「……ありたいが、その前に」

商人「菫花君、でよかったですか?」

王子「! は、はいっ」

商人「君は、この世界でいま幸せですか?」

王子「はい、幸せです!!」

師匠(即答しおった)

王子「……目が覚めて、この姿だった時」

王子「野獣は僕ではなかった、そして僕が再び存在することで野獣が消えてしまった、と思うと」

王子「混乱して、絶望して、悲しくて、消えてしまいたくて」
 

王子「……それでも、使用人の皆さん、次兄君と末妹さん」

王子「野獣を好きだったみんなの為には、暫くは死ぬわけにはいかない」

王子「それがとりあえずの生きる理由になり」

王子「……そして、夢の世界で生きている野獣と、そして僕を追いかけてきてくれた師匠と出会い」

王子「みんなと屋敷で過ごす中で僕の考えも変わり」

王子「今ここにこうしていることは、本当に幸せだと思っています」

王子「……まだまだ知らなければならないことも乗り越えなくてはならないこともいっぱいですし」

王子「僕自身が必要以上の臆病者で、しかも簡単には治らないと思い知らされてはまた落ち込みますが」

王子「それでも、です」

商人「……そうか」

商人「それを聞いて、安心して君に頼むことができる」

王子「何を……でしょう」

商人「君から野獣に、私のさっきの言葉を、想いを伝えてほしい」

王子「……僕でいいのですか……?」

商人「ええ、ぜひ君に」

王子「……はい!」

師匠「ふむ」

…………


※短いけどここまで。次回は近いうちに※

店舗。

ドア:カチャ……

商人「次兄、末妹」

末妹「お父さん?」

次兄「どしたの?」

商人「お客様達がお帰りになる前にひとことお前達に挨拶したいと……どうぞ」

師匠「やあ、お忙しい所をお邪魔したね、我々はこのへんで失礼するよ」

師匠「今日はこのあと宿でゆっくりして、明日から牧場に行ってみようと思う」

王子「楽しみです、商人さんのお友達の牧場とかで」

末妹「ええ、うちにいるあの子の生まれた牧場です」

末妹「猫さんや犬さんもいるんです、みんな馬さんと仲良しで……素敵な牧場ですよ」

次兄「肉食獣は猫と小型犬と中型犬しかいないのでちょっと俺には物足りないです、まあ行ったことはないんですけど」ボソ

師匠「そんなわけで、この町には2~3日滞在するので……いずれまた君達に会いに来るよ」

師匠「なんだったら……道も覚えただろう、今度はこいつ一人でな」ポン

王子「え、僕ひとりで?」

師匠「『え』はないだろうが……いい歳して、友達に会いに行くのに保護者同伴がいいのか?」

王子「い、いいえ……ただ……そうか、友達に会いに……」

次兄「菫花さんも友達いなかったから、今までそういう発想なかったんだよねー?」

長兄(『も』か……次兄よ……)シンミリ

師匠「ま、とにかく今日はこれで……土産も早く渡したいしな」

王子「ええ、そうですね師匠……それじゃ」
 

商人「またおいで菫花君、この子達に会いに」ニコ

王子「……ありがとうございます!」

末妹「お父さん……!」

次兄「ほう、なんか父さんと菫花さんの間の雰囲気が変わったかも?」

次兄「……おっさん魔法で何かした?」ポツリ

師匠(そんなわけあるか、突っ込まんがな)

……

宿への道……

師匠「手紙で予約は入れてはいるが、チェックインはあまり遅くならん方がいいだろう」

王子「ええ」

通行人達「アノヒトステキー」「ホントダ、カワイイー」

師匠「……そう言えばお前、顔を隠すのはやめたのか?」

王子「はい」

王子「……面識なのない人や親しい人とは違うタイプの人は怖いです、でもそれは……自分にしか目が向いていないから」

王子「落ち着いて周囲を見渡せば……なんのことはない」

王子「…………のかもしれないと、そう思えるような気がしてきたので」

師匠「ふむ……それなりに実りのある訪問だったか?」

王子「はい、野獣に早く伝えたいことができました」

師匠「そうか、まあ……よかったな」フフ

……

安宿のフロント……

主人「ほ、本当にいいんですか、こんな高級品……」ジー

従業員「ほげぇ、綺麗だしすっごく手触りいいスカーフっす!!」スリスリ

師匠(価格帯的にはあくまでも普段使いの範囲で、『そこそこ良い』程度の品物なのだが)

師匠(新品というのはそれだけで価値があるのかな)

主人「こんなに喜んで……俺がいいもの買ってやれないばかりに」

従業員「何を言うんすかおやっさん!! あたしこそもっと亭主の服装を気遣ってあげなきゃならない立場なのに……」

師匠「ん? 亭主?」

主人「ああ、言ってませんでしたっけ」

主人「仕事中は宿の主人と従業員ですが、実はこれ……うちの女房でして」

従業員「えへへ……もちろん最初は従業員と雇い主として知り合ったから、おやっさん呼びの方が慣れてんすけどぉ」ポッ

師匠「……まあ、歳の差の夫婦も珍しくはないわな」

従業員「ははは、うちの亭主老け顔ですけど、こう見えてもまだ30代入ったばかりなんすよ?」

主人「10歳離れているから、そこそこ年齢差はあるのですがね」

従業員「でも老けているのは顔だけで、脱いだらいいカラダしてんす!! 男はやっぱ筋肉、筋肉ですよ!!」

主人「こ、こら、お客様の前で……すみません、こいつ筋肉に目がなくて」

従業員「だってそう思うでしょ、男は筋肉っすよ、あ、もちろん今となっちゃおやっさん以外の筋肉は目に入りませんよ!?」

師匠「…………道理で、菫花が顔を隠さず宿に入っても特に反応しなかったわけだ」

師匠「この宿では平穏に過ごせそうだな、菫花」

王子「……そのようです」

…………

その夜のこと……

(末妹「……あら?」)

(末妹「これは夢ね、野獣様の夢に似ているけど……でも、家にいるのに……?」)

(次兄「……あれ?」)

(末妹「お兄ちゃん!?」)

(次兄「よう、なんかお屋敷にいた時の、野獣様の夢みたいな感覚だよな?」)

(末妹「お兄ちゃんもそう思う?」)

(王子「……」)ポカーン

(末妹「菫花さん!?」)

(次兄「いつの間にそんなところに棒立ちで」)

(王子「……どうして、ふたりとも……僕は宿のベッドで休んでいたはず……」)

(師匠「ふむ、これはさすがに予想外」ヌッ)

(次兄「おっさん!?」)

(王子「師匠!」)

(師匠「気が付いたらここにいたのだ、まあいくつかの推測はできるが……その前に」)

(師匠「……そんな所に隠れて様子を窺っていないで、出て来んか?」)

(バラの茂み「……」)

(末妹「え……まさか……」)

(野獣「……私には何が何だかさっぱりで、執事達と話をした後、今夜はもう休むつもりでいたら……」ノソリ)

(末妹「野獣様!?」)

(王子「……ど、どういうこと?」)

(次兄「           」コキーン)

(師匠「……少年、嬉しさが振り切れて固まっておるわ」)

……


※今夜はここまでです。※

何故か、野獣の夢の世界。

(王子「……つまり、みんな気が付いたらここに、『バラ園』にいた……そういうわけですね?」)

(末妹「お兄ちゃん、動けるようになった?」)

(次兄「おっさんの魔法でなんとか」)

(野獣「師匠と菫花が旅立ってから日は浅いが、それでも森の外に出てから昨日まで何泊かしているはずなのに」)

(野獣「なぜ今夜いきなりこんな事が起きたのだろう」)

(師匠「儂等が旅立ってから、今まではなかった、今日が初めての出来事がひとつだけあるぞ?」)

(王子「……?」)

(師匠「商人の家と我々の宿、距離にして……屋敷のある森に当てはめると、どれくらいだ?」)

(王子「距離……そうですね、僕らが歩いた屋敷から北東の『森の出口』までの……半分にも満たないと思いますが」)

(次兄「ピクニックの時か」)

(師匠「それだけの近距離の範囲内に、儂の魔力に」)

(師匠「野獣を強く想っているこの子達、そして魔力を持つと同時に野獣と表裏一体の菫花」)

(野獣「あ」)

(師匠「これだけの条件が揃って……或いは、更にこの条件に引っ張られて、君の」)

(末妹「私?」)

(師匠「そう、君の持っている野獣の欠片が、またも何やらの作用を起こしたかもわからんが」)

(師匠「最低でも菫花と少女と儂が揃っていなければ起きなかったのだろう」)

(次兄「……俺は?」)

(師匠「そうだな……君は言うなれば末妹嬢の『おまけ』かな?」)

(次兄「むうう」プクー)
 

(末妹「お兄ちゃんも野獣様を想う気持ちは私と同じよ?」)

(末妹「今夜のことに私が何か関係していると言うのなら、私とお兄ちゃんと2人の……力? ……だと思う」)

(次兄「フォローありがとう末妹はやはり俺の最初にして最後の味方です」ウルウル)

(野獣「……あながち単なる慰めではないかもしれんぞ?」)

(野獣「次兄の私への思い入れと言うか執着と言うか欲望というか……は常軌を逸しているから」)

(野獣「常軌を逸したお前ならば、魔法云々を飛び越えて今回の事態に何らかの影響を及ぼしている可能性は否定できない」)

(次兄「常軌を逸したって2回も言われました」イマサラ)

(師匠「……可能性か、可能性なら儂もゼロとは言い切れんが」)

(師匠「ま、とにかく、君達兄妹と菫花と儂が狭い範囲に集合しているが故に、野獣の夢の世界が屋敷や森の外に現れた」)

(師匠「今のところ、起こっている事実から分析できる答えはこれしかないかな」ヨッコラセ)

(王子「師匠、どこかへ行かれるのですか?」)

(師匠「うむ、この夢の世界でどれくらい『遠く』まで行けるのか、一度試してみたかったのだ」)

(野獣「相変わらず旺盛な探究心ですねえ」)

(師匠「初冬の夜は長い、と同時に、明けない夜はない。限りある時間を有意義に楽しく過ごそうではないか、お互いな」スタスタ)

(王子「……バラ園の向こうまで行っちゃった」)

(末妹「……限りある時間を……」)

(次兄「有意義に楽しく……有意義に楽しく……よし」キリッ)

(次兄「菫花さん!! 有意義におっさんの後を追い魔法使いとして探究心を満たしていらっしゃい、ほれほれほれ!!」シッシッ)

(王子「えっ? ええ?」オロオロ)

(野獣「こ、こら、体良く追い出そうとするんじゃない!」)

(末妹「お兄ちゃんたら、菫花さんを仲間外れにするなんて!」)

(次兄「あう」)

(王子「ぼ、僕だって野獣に一刻も早く話をしたいことがあるんだ、そう簡単に追い出されないよ!!」)

(次兄「菫花さんが自己主張をしている!? 自我が芽生えたぁ!!」ショッキング)

(野獣「……次兄はどこまで菫花に失礼なのだ」ハァ)

(野獣「一応こいつは私と別人格でありながら同一人物でもあるのだぞ?」)

(末妹「そうよ、それにお兄ちゃんより年上なのに」)

(次兄「……しゅんまへん」ショボン)

(野獣「まあなんだ、この状況は言わば嬉しい摩訶不思議」)

(野獣「また屋敷に遊びに来た時には次兄と二人きりの時間も取ってやるから」)

(野獣「今夜はあり得ない状況を皆で楽しい物にしよう、な?」)

(次兄「……あい」コクリ)

(野獣「しおらしくしておればお前も少しは可愛げなくもないのに」)

(野獣「さて、菫花よ、私に話をしたいこととは何だ?」)

(王子「あ、えっと……」)

(王子「ぼ、僕より先に末妹さんのお話を……」)

(末妹「え、あの……な、何からお話ししましょうか」)

(野獣「なんでも構わんぞ、まとまっていなくても」ニコ)

(末妹「……そうだ」)

(末妹「ええと、私達がお屋敷から家に戻って、お屋敷の出来事を家族に話した時に……父が」)

(末妹「……父が……野獣様といつかゆっくりお話をしたかった、って、それができないのが寂しい、って……」)

(野獣「商人が」)

(野獣「……そうか、私に対して、彼がそう思ってくれるのか……」フフ……)


※このエピソードもうちょっとつづく※

(末妹(野獣様、優しい笑顔……))

(王子「それでは……僕は、その『続き』を伝えるよ」)

(末妹「続き?」)

(王子「商人さんは、僕から野獣に伝えて欲しい、と……」)

(王子「同じ世界に暮らせなくなったことを悲しみきっかけを作ってしまったことを悔いるよりも、野獣(きみ)が」)

(王子「……『いまだ夢を通じて彼の愛するひとびとと繋がっていられることを、素直に良かったと今は思いたい』って」)

(王子「続けて、『と言うか……それを喜ぶあの子達に同意できる自分でありたい』とも」)

(末妹「……今日、菫花さん達と父とは、そのことをお話ししていたのですね?」)

(王子「うん」)

(王子「それでね……商人さんは僕に、この世界で幸せか、って」)

(末妹「お父さんが」)

(王子「……230年ぶりに目を覚ました僕は、正直言って自分が幸せだとは思えなかった、それは知っているよね……」)

(王子「でも、野獣を大好きな皆のおかげで、野獣が消えずにいてくれたおかげで、今は幸せだと答えた」)

(王子「そしたら、安心して僕から野獣への伝言を頼める、って……」)

(末妹「お父さん……」)

(野獣「……商人がその心境に至るまでは色々と考えただろう、葛藤もあっただろう」)

(野獣「……私だって……しかし……今はただ彼の言葉が、彼の気持ちが嬉しい、心から嬉しい」)

(野獣「商人の言葉を伝えてくれてありがとう、末妹、菫花」)

(次兄「…………」)

(野獣「どうした、いつになくおとなしいではないか次兄?」)

(次兄「この心温まる場面には俺が口もしくはそれ以外の何かを挟める隙がないので」)

(王子「……でも次兄君、今日は機転を利かせて僕を助けてくれた」)

(王子「そうだ、あの時のお礼を言ってなかったね……ありがとう」)

(次兄「助け ?」)

(末妹「そうよ、お兄ちゃん、菫花さんに毛布を持って来てくれたじゃない」)

(末妹「私なら咄嗟に思い付かなかったわ」)

(王子「お陰で緊張がほぐれて、恐怖心も消えて、正気を取り戻せたんだよ」)

(野獣「ちょ、ちょっと待った、今日はどんな物騒な目に遭ったのだ!?」)

(次兄「……あれは、一番手っ取り早いと思ったから」)

(次兄「姉さん達にも、菫花さんは重度のヘタレで引き籠りで小心者で……とか説明するよりも百聞は一見になんちゃらで」)

(野獣「な、何があったのだ、本当に……」)

(王子「買い物……だよ」)

(野獣「……か……」)

(野獣(師匠が企んでいたのはそれか……))

(野獣「では……最初から話しておくれ」)

……………………

(野獣「……なるほどな……」フゥ)

(野獣(菫花の不安と混乱が、手に取るようにわかってしまう……わかりたくないのに))

(王子「でも、次からは大丈夫」)

(王子「……だと思う」ボソ)

(末妹「ええ、きっと大丈夫です」)

(末妹「菫花さんは、今までだって一つずつできなかった事を乗り越えて来たじゃないですか、だからこれからも」)

(王子「……末妹さんが大丈夫と言ってくれるなら今度も本当に大丈夫な気がする、不思議と、いつもそうだ……」)

(末妹「菫花さんの努力のたまものですよ」ニコ)

(野獣「…………」)

(野獣「ああ有言実行だ、今度からは最初から最後まで一人でうまくやれよ菫花、な!?」バンバン)

(王子「あぅ、君の大きな手で背中叩かないで……」ケホケホ)

(次兄「野獣様の言うとおりー、たかが買い物、男だったらドンと行けー」)

(野獣「さて、今度は……末妹、逆に私から聞きたい話はあるかね?」)

(末妹「あ、あります!」)

(末妹「メイドちゃん達の様子を聞きたいです、元気で過ごしているんですよね?」)

(次兄「俺も執事さんの様子聞きたいでっす!!」)

(野獣「うむ、4匹とも騾馬小屋の内装作業を毎日がんばっているぞ」)

(野獣「しかしな……メイドは、自分にできる仕事があまりないとこぼしていた」)

(末妹「メイドちゃんが」)

(野獣「今夜もな、あいつが言うには、菫花も師匠もきれい好きだから留守の部屋掃除はホコリを払うくらい」)

(野獣「二人が留守だから、料理の手伝いもなし」)

(次兄「言われてみれば執事さん達も食材そのままの方がいいから、料理長さんも4匹だけの時はわざわざ料理をしないよなぁ」)

(野獣「騾馬小屋の内装だって重い板を運んだり、高い所に登って釘を打ったり、なんてあいつには無理」)

(野獣「師匠が用意した材木は執事か料理長しか運べない、庭師は力仕事は無理でも高所の細かい作業を一手に」)

(王子「……でも、人間だってそもそも大工仕事は女の子の仕事ではないよね?」)

(野獣「だがな、メイドにとって今は家の中の仕事は無いに等しい」)

(野獣「師匠も菫花も、滞在する客人も……私も……いない状態では」)

(野獣「掃除も料理も、お茶の時間も必要ないのだから」)

(王子「それもそうだね……」)

(野獣「……あと、私の憶測だがな……単に手持無沙汰が不満なだけではあるまい」)

(野獣「屋敷の主の世話が必要なくとも、留守中に言いつけられた仕事を手分けしてこなしている執事、料理長、庭師」)

(野獣「実質それを見ているしかできないあいつは、きっと寂しさを感じている」)

(野獣「師匠もそこまでは読めなかったかもしれないが」)

(野獣「メイドがそのように思っている状況を望んでもいないだろう」)

(末妹「……寂しがっている……メイドちゃん……」)

(野獣「で、私は考えた」)

(野獣「……こういう時、末妹ならば何か考えついてくれないだろうか、と」)

(末妹「え?」)

(王子「確かに、末妹さんには僕らには思いもよらない思い付きがあるかもしれない!」)

(次兄「確かに、乙女心は乙女こそ理解できるかもしれない、少なくともここにいる男子達(自分含む)に比べたらー!」)

(末妹「メイドちゃんの……できること……?」)


※つづく。読んでくれてありがとうございます。あつはなついね※

(末妹「……メイドちゃんがうちの家政婦さんに送ったクローバーの押し葉ですけど」)

(末妹「自分で作った押し花のしおりを、お屋敷で読書している時に使っていたらメイドちゃんが興味を持ったので……」)

(末妹「簡単な押し花の作り方を教えてあげたのです」)

(末妹「だから……メイドちゃんが作った押し花を小さな額に入れて」)

(末妹「騾馬小屋とお屋敷をつなぐ渡り廊下に飾ったら素敵じゃないかな……と」)

(野獣「ほう、渡り廊下をね」)

(王子「確かに師匠も僕も実用的な内装ばかり考えて、装飾までには思い至らなかったな」)

(末妹「あ、でも……今の季節は、もうお花はないですよね」)

(野獣「うむ、現実世界は冬だからな……」)

(次兄「……そうだ末妹、昔ばあやに教わったアレは?」)

(末妹「え?」)

(次兄「小さい頃、裁縫の練習用にばあやが余った端切れをくれたじゃないか、その時に教えてくれただろ?」)

(末妹「ああ、あれなら季節に関係なくできるわ! メイドちゃん器用だし」)

(野獣「ふむ? 何を思い出したのだ?」)

(末妹「色とりどりの布でお花を作るんです、花びらや葉っぱに少しずつの布でいいから、端切れがあれば充分です」)

(王子「なるほど、造花ですか」)

(末妹「本物の花そっくりには作れませんが、あえて布の材質を活かしても可愛らしく仕上がりますよ」)

(野獣「……末妹、お前が作った造花は家のどこかに飾ってあるか?」)

(末妹「私が作った……ですか?」)
 

(末妹「ええと……友達にあげてしまったり、コサージュにして普段は箪笥にしまっていたり……飾ってあるのは……」)

(末妹「あ、2年前に作ったものを、父が書斎の机に飾ってくれています」)

(野獣「商人の書斎だな?」シュパッ)

(王子「あ、仮想の窓」)

(野獣「……ふむ、これか。なるほど、可愛らしいベゴニア……かな?」)

(末妹「……恥ずかしいです、そのつもりで作り始めたのですが、どんどん見たことないお花になってしまって……」)

(野獣「いやいや、きれいに作ってあるし、一株に黄色と白とピンクの花が同居しているのがまた可愛い」フフ)

(末妹「同じ色の布が足りなくて……」)

(野獣「うむ……これならばメイドも楽しく作業ができるだろう、あいつ裁縫は得意だものな」シュン)

(次兄「…………でも、それをメイドさんにどうやって作り方を伝えるの?」)

(次兄「また俺達がお屋敷に行く時より、おっさんや菫花さんが旅から戻る方が先ですよね?」)

(野獣「む、それは……鏡で末妹が造花をメイドに見せてだな」)

(王子「完成品を見せただけで作れというのは……いくらなんでも、ねえ末妹さん?」)

(末妹「ええ、菫花さんの仰る通りです……」)

(野獣「む」)

(王子「末妹さんが鏡の前で作る手順を見せては?」)

(野獣「いやいや待て、週に一回の交流で鏡を使える時間を考えると、完成まで何週間かかるのだ?」)

(野獣「時間を長くしたり、回数を増やすのか? 皆で決めた約束事を破るのもどうかと思うが?」)

(王子「そ、そうだね……でも、メイドさんのことを考えると……」)

(野獣「む、むむむ……」)

(末妹「……そうだ、私が野獣様に作り方を教えて、野獣様からメイドちゃんに教えてくだされば!!」)

(野獣「え」)

(次兄「いいね、仮想の窓だっけ? おっさん達がこの町に滞在中、あの魔法で家の様子が見えるなら……」)

(末妹「……私は野獣様が目の前にいらっしゃるつもりで……初心者向けのお花を、少しずつゆっくり作ればいいのね……うん」)

(野獣「あの」)

(末妹「基礎さえわかれば、色や形を変えたり花びらを増やしたりするのは応用ですもの」)

(野獣「……えーと」)

(末妹「……あ! ごめんなさい野獣様、私ったら勝手に……」)

(次兄「野獣様、この末妹のアイディアは机上の空論の先走りでしょうか……いかがでしょ?」チラッ)

(野獣「むむむむむ……」)

(次兄「そもそも末妹の力を借りたいと仰ったのは……ねえ?」チラチラッ)

(野獣「…………わかった、末妹……明日から、一番簡単な造花を作ってみせろ……」グウノネモデネエ)

(末妹「まあ、野獣様!!」パァァ)

(末妹「ありがとうございます、7歳の時に最初に教わった一番簡単なお花ですから、すぐに覚えられますよ!!」)

(野獣「う、うむ……頑張るぞ、メイドのためだ、頑張るぞ」)

(野獣「7歳児でも作れるならば……私でもなんとか、じゃなかった! 私には造作も無かろう!!」)

(野獣「何より人に教えるのが上手な末妹の事だ、うむ、心配ないぞハハハハ……ハァ」)

…………

(師匠「子供達(菫花含む)はもう眠りについて、この夢の世界にはお前と儂だけ」)

(師匠「……で……明日からお前は手芸の造花を教わるのか」)

(野獣「……メイドのため、そしてメイドのため一生懸命考えてくれた末妹のためですから」)

(師匠「自信ないか、まあ、魔法抜きで裁縫などやったことないものなあ」)

(師匠「魔法なしで出来なくては、メイドに教えることはできんしな、頑張れ」ニヤニヤ)

(野獣「い、一度約束したからには守りますよ、少なくとも努力しますよ!!」)

(野獣「それより師匠、遠くってどこまで行けたのですか!?」)

(師匠「強引に話題を変えおって」)

(師匠「そうだな、お前達にはこちらは見えていなかったようだが、儂からはお前達の様子が見えていたぞ」)

(野獣「……それはどういう仕組みで?」)

(師匠「儂にもよくわからんが、とりあえずお前が見えなくなってしまうほど遠く離れることは無理なようだな」)

(師匠「会話も全て聞こえていた、だからさっきの話も、実はお前から聞くまでもなかったのだ」)

(野獣「不思議ですね、今度いつか、逆に私が師匠のいる場所から離れてみる実験をしてみましょうかね……」)

(野獣「……見えていた、聞こえていた……」)

(師匠「……『末妹さんが大丈夫と言ってくれるなら今度も本当に大丈夫な気がする、不思議と、いつもそうだ』」))

(師匠「『菫花さんの努力のたまものですよ』……だったかな」)

(野獣「ちょ」)

(師匠「激励しつつ、ドサクサでばしばし叩いていたのは嫉妬か?」)

(野獣「ちょっと待ってくださいよおおおおおおおおお」)

(師匠「恥ずかしがらんでも」)

(師匠「前にも言ったろう、お前は生きて心がある限り、生身の存在に嫉妬するのは仕方ない、と」)

(師匠「それでも自分の心を手放したくない、とはっきり儂に告げたではないか?」)

(野獣「確かにそうですけど……」)

(師匠「まあ……今のところあの二人は教師と生徒、きょうだいの上と下、親と子、そんな関係だな」)

(野獣「どっちがどっちの……って、聞くまでもありませんね……」)

(師匠「末妹嬢は菫花相手にすら年長者としての敬意を払っておるが」)

(師匠「無意識の中では『手のかかる次兄が増えた』という認識が一番近いのではないだろうか?」)

(野獣「……彼女にとっての次兄のようなものですか……」フクザツ)

(師匠「今のところと、おそらくこの先しばらくは、な」)

(野獣「……」)

(野獣「……私は、末妹にも、菫花にも次兄にも、幸せな人生を送って欲しいと思っています」)

(師匠「ああ、その言葉に偽りがないのはわかっている」)

(師匠「だからお前は思う存分……泣いて笑って怒って沈んで凹んで萎れて腐って、構わんのだぞ?」)

(野獣「……構わないのですか」)

(師匠「儂はお前の味方だ、お前だけの味方ではないが」)

(野獣「……甘い父上ですね」フフ)

(師匠「甘いとも、出来の悪い『長男』よ」フフ)

……………………


※ここまででした、また次回※

翌日、末妹の部屋。

末妹「……野獣様と約束した時間になった、と……」

末妹「それでは……手芸教室を始めますよ、野獣様」

次兄「はーい、仮想野獣様の次兄ですー」オテテフリフリ

末妹「……野獣様がご覧になっているのはわかっていても、やっぱり目の前に誰かいた方がやりやすいと思いました……」

末妹「改めて」コホン

末妹「こちら……緑の布を切りぬいた葉っぱと『がく』です」

末妹「これは白い布で作った花びらです、それと……」

末妹「……切り抜いた部品はこうやって、並べておいて」

末妹「同じ物がこっちにあります、お花を作って行くのはこっちを使います」

……

同時刻、野獣。

(野獣「……なるほど、組み立ててしまうと部品の形がわからなくなってしまうから別に用意したのか」)

(野獣「さすが末妹は賢い」)

(野獣「……おっと、それより必要なものを用意せねば」ポワン)

(野獣「針と糸、それから末妹が用意したものと同じ切り抜いた布、と」ポワンポワン)

(野獣「思うだけで服を着替えるのと同じように」)

(野獣「現実世界に実際に存在するものはこっちの世界に出現させることができる」)

(野獣「但しごくありふれた無生物に限る、生き物のように『替えが効かない存在』では不可能だ」)

(野獣「要するに、厳密に言えば寸分たがわぬ作りの別物で」)

(野獣「末妹の部屋に同じ造花の部品が二つあるのと変わらん、私の目の前に三つめがある、こういうことだな」)

(野獣「……さて、針に糸を通す手順からやってくれるのか、いくらなんでもそれくらいの知識はあるぞ」)

(野獣「自分の手元が見えん老眼の爺さんでもないし、まだ、な」)

(糸→針穴)

(野獣「だから、ここまでは簡単……」)

(糸↑針穴:スカッ)

(野獣「……む」)

(糸↓針穴:スカッ)

(野獣「くっ……」ワナワナ)

(野獣「やむを得ん!」ポワン)

(糸→針穴→:シュルッ)

(野獣「い、糸通しの工程くらい魔法を使ってもバチは当たるまい、メイドには容易く出来て当たり前なのだからなっ!!」)

(野獣「……私の太い指にはかなり骨が折れるわ……」フゥ)

……

末妹「……野獣様、いまごろ糸が通せたかしら?」

次兄「野獣様のこと、自分の手のサイズに合わせた針穴のでかい太い針とか用意してんじゃない?」

(野獣「その手があったか……まあ今更変えてもな、布も大きくしなくてはつり合い取れんし……」)

(野獣「ふむ、花びらの部品を大きさの順番に重ねて……ふむふむ」)

……

末妹「……野獣様、お疲れさまでした」

次兄「ほんと初心者向けなんだなあ、もう完成しちゃったよ」

末妹「うん、ばあやに最初に教わったお花だもの……でも……」

……

(野獣「……」ゼェハァ)

(野獣「末妹、私は頑張ったぞ、お前が懇切丁寧に教えてくれたおかげで最後までやり通せたぞ!!」)

(野獣「……」)

(野獣「この世界でも針で指を刺すと痛いものだな……何十回刺した事やら」ハァ)

(野獣「傷も残らんし血も出ないから良いが、物質世界ならば造花が血まみれになっていた所だ……」)

(野獣「だが……初心者にしては、我ながらなかなか良い出来ではないか?」テマエミソ)

(野獣「……メイドに教える前に、『講師』に見てもらわんとな」)

……

……で、その夜。

(野獣「……どうだね末妹、私の初の作品は?」)

(末妹「わあ……初めてでここまでできるなんて、野獣様はお裁縫の才能があります!」)

(野獣「うふふふふ……」ニマニマ)

(師匠「少なくとも7歳児には劣らずに済んだようだな」ニヤニヤ)

(野獣「……なぜ今夜も全員お揃いなのでしょうか」)

(王子「師匠の話では、屋敷にいる時と違って、この世界に入る時だけはコントロールができなくなるらしいよ」)

(次兄「入る時『だけ』?」)

(師匠「ああ、全員が現実世界で眠りにおちた途端に各自の意志とは関係なく、こうなってしまう」)

(師匠「しかし出る時は今までと同じように、この世界で『眠れば』良いのだからな」)

(野獣「今夜は次兄や師匠の相手をする時間はありませんよ」)

(野獣「講師(末妹)にお墨付きをいただいたら、早速メイドに教えないと」)

(末妹「……それでは私も早速」コホン)

(末妹「野獣様おみごとです、免許皆伝ですよ……なぁんて、生意気ですね私ったら」テヘヘ)

(師匠「何、君はこの中では儂のつぎに精神年齢が高いから問題ない」)

(次兄「おっさんが言わんとしているのは……末妹は14歳相応の精神年齢で、野獣様はじめ俺達は……お察しください、だよね」)

(野獣「……師匠も頭の中は相当な悪童ですけどね」ボソ)

(師匠「何か聞こえたがまあよいわ、いずれまたゆっくりじっくりと」)

(師匠「では……我々は立ち去るとしよう、明日も早いからな菫花」)

(王子「はい、それではおやすみなさい、そしてありがとう末妹さん、次兄君……」)

(末妹「おやすみなさい、菫花さん、師匠様」)

(王子「……野獣、メイドさん達によろしくね」)

(野獣「ああ、きっとメイドも元気になるさ」)

(師匠「眠りの魔法……」ポワワン)

(野獣「……さてと」)

(次兄「……とっとと眠ったほうがいいんですよね、はいはい」フテクサレ)

(野獣「執事に伝言があれば聞くぞ、次兄」)

(次兄「!!」)

(次兄「そ、そんな野獣様、(俺をめぐる)恋敵(=執事さん)に塩を送るような真似とか、どういう風の吹きまわしで!?」ゲヘヘヘヘ)

(野獣「……お前のその台詞は理解できない、いや、理解したくもないが」)

(野獣「執事の気分を害するような内容ならば私が握り潰せば良いだけ、とりあえず言ってみろ」)

(次兄「えーとえーと、おっさん達が騾馬を慣らすのに使う執事さんの獣臭セット、あれと同じ物を今度会う時に俺用にひとつ」)

(次兄「使い古しのだけど可能な限りフレッシュな手袋と抜け毛はなるべく毛足の長い冬毛のー」)

(野獣「はい、とっとと眠るがよい」ドカン)

(次兄「きょええ!?」ゴトッ)

(末妹「……一瞬で眠って夢から出て行っちゃった」)

(野獣「特製の……超強力な眠りの魔法だからな」)

(末妹「それじゃ、私もそろそろ」)

(野獣「まあ待て、改めて末妹には礼を言いたい」)

(末妹「そんな……思い付きを採り入れてくださって、私こそ光栄です」)

(野獣「無論、今回のこともだが……それだけではない」)

(野獣「メイドだがな、使用人の中で、いや、屋敷で最初にお前と仲良くなったのはあいつで……」)

(野獣「お前と触れ合う中で、あいつも変わって行った」)

(末妹「メイドちゃんが? 変わった?」)

(野獣「ああ、使用人になった時から、従順で素直なのは変わっていないが……」)

(野獣「自分の頭でいろいろ物を考えたり、言いつけ以上のことをやってみようと工夫したり」)

(野獣「お前と出会ってから、次第にそういう姿が見られるようになって来たのだよ」)

(末妹「……」)

(野獣「あいつなりに、家族と離れて暮らすお前のために心を砕いていたのだろうな」)
 

(末妹「……私が初めてお屋敷に来て、2~3日たった頃」)

(末妹「メイドちゃん、私の押し花のしおりを見て、初めは絵かと思ったそうですけど」)

(末妹「乾燥させた植物の匂いがするから……それは何ですか、って聞いて来たのです」)

(末妹「乾燥させた花をお茶や薬にするのではなく眺めて楽しむ……というのは初めて知ったらしくて……」)

(末妹「不思議がっていましたが、前の季節に咲いたお花を忘れないように……って話したら納得してくれました」)

(野獣「末妹はあいつに新しい世界を見せてくれたのだ」)

(末妹「そんな大げさなものでは」)

(野獣「いやいや、お前はあいつの初めての『女の子の友達』だからな」)

(野獣「お前もメイドを『同年代の少女』として扱ってくれた」)

(野獣「末妹の振る舞いや考え方、女の子の遊び、私や執事達だけと触れ合っていては得られなかったもの」)

(野獣「それらがあいつを成長させ、賢くさせた」)

(野獣「正直言うと……メイドをただの子兎から使用人にする魔法をかけた私自らが……」)

(野獣「あの子が従順で愛らしければ、それ以上は要求も期待もしていなかった、それでいいと思っていた」)

(野獣「なのに、末妹から得たもので私の魔法以上に育ってくれた」)

(野獣「お前が意図していなかったとは言え、それでもお前のおかげなのだ、ありがとう」)

(末妹「野獣様……」)
 


※今夜はここまで。お盆休み?に入ります……8月半ばに再開します、皆様お元気で※

300超えてしまった……500レス以内には終わらせる予定……
 

(末妹「私も、メイドちゃんのおかげでお屋敷により早く馴染めたと思います」)

(末妹「……野獣様や執事さんは、最初のころはやっぱり……ちょっぴり怖くって……」)

(末妹「でも、小さな兎さんのメイドちゃんが生き生きと明るく働いているのを見ていたら」)

(末妹「ずっと大きな生き物の私が怖がるのもおかしいかな、って」)

(野獣「……確かにメイドより大きな生き物には違いないな」))

(末妹「知れば知るほど皆さんは優しくて……メイドちゃんも野獣様や執事さんを尊敬しているって伝わってきて」)

(末も妹「皆さんと知り合えてよかったって私も思うようになって」)

(末妹「そうなった最初の目を開かせてくれたのは、きっとメイドちゃんです」)

(野獣「……それを聞いたら飛び跳ねて喜ぶぞ」フフ)

(末妹「ええ、ですから早くメイドちゃんに」)

(野獣「そうだな、私だけが末妹に会えたと言ったら、むくれるかもしれんが」)

(末妹「私だって鏡越しじゃなく会いたいから、再会を前よりもっと楽しみにしている、って伝えてください」)

(野獣「わかった……末妹、また明日な」)

(末妹「はい、おやすみなさい野獣様」ニコ)

(野獣「おやすみ……眠りの魔法……」フワッ)

(野獣「……さあ、手順を忘れぬうちにメイドに教えてやらねば」)

…………

そして、メイドと野獣……

(メイド「……ふぇ、不思議ですねえ」)

(メイド「でもすっごく嬉しいです、末妹様が私のことを想ってくださるのは」)

(メイド「やっぱり末妹様、大好きです!!」ピョーン)

(野獣「……思いがけずとは言え私だけ会えて、なんだか申し訳ない気がするが」)

(メイド「よかったですね、ご主人様」)

(野獣「え?」)

(メイド「末妹様にお会いできて、よかったですね!!」)

(野獣「う、うむ」)

(メイド「だって私達はご主人様と違って短い時間とは言え週一回鏡でお話しできるし」)

(メイド「末妹様と違って毎晩夢でご主人様とお話しできますもの」)

(メイド「だから、お二人がお会いできてよかったです!!」)

(野獣「……そ、そうだな、ありがとう……」)

(野獣(てっきり羨ましがってむくれると思っていたが……))

(野獣「……メイドよ、お前も大人になったなあ」)

(メイド「??」)

…………

二日後の夜、夢の世界のバラ園。

(師匠「……この町の牧場の騾馬はとてもよかったが、とりあえず予定の牧場は全て回ろうと思う」)

(王子「なので、明日僕等はここを発ちます」)

(次兄「ということは野獣様ともまたお別れええええええ」ミョキャピェー)

(野獣「変な泣き声を上げるんじゃない」)

(末妹「思いがけない再会、嬉しかったです……」)

(野獣「ああ、私もな」)

(次兄「俺も嬉しかったでっすっ!!」ゴリゴリゴリ)

(野獣「わかってるわかってる、顔をごりごり押し付けながら主張せんでも良いわ気色悪い」ムギュ)

(王子(僕と元は同じなのにハッキリ言う時は言うなあ野獣は)) 

(次兄(びゃああ野獣様の大きな手で顔を鷲掴みとか荒々しい御褒美いぃぃぃぃ)モゴモゴ)

(師匠「おいおい、口を塞いでいないか?」)

(野獣「鼻は塞いでいないから呼吸はできますよ」)

(末妹(お兄ちゃんなんだか嬉しそうだから、心配はいらないみたいね……))

(末妹「……良い騾馬って、どんな子がいたんですか菫花さん」)

(王子「うん、まず見た目が僕の理想の毛色をした、きれいな若い騾馬でね……」)
 

(王子「それに、執事さんのにおいを嗅がせても怯えた様子がなかったんだ」)

(王子「大きな犬が一頭いてね、牧場主さんの話では生後半年なのに他の犬達より大きくて、その騾馬とも仲がいいんだって」)

(末妹「あら、その犬さんの話は知らなかったわ……最近牧場に来た子なのね」)

(師匠「山岳地帯の猟師の家で生まれた子犬を譲り受けたと話していたが、儂の見たところ幾らか狼の血が入っているな」)

(末妹「あ……」)

(野獣「どうした末妹、複雑な顔をして」)

(末妹「……『狼の血を引く大型犬』がわりと近所にいるって、お兄ちゃんに聞かせてよかったのかしら、と思って……」)

(師匠「ああ……少年の好みのタイプと言うやつか」)

(野獣「大丈夫、執事の獣臭セットの話題が出たあたりから指で両耳を塞いでいるので」ガッシリ)

(次兄(みんなの話は聞こえないけど野獣様臭を間近で嗅げるからもう少しこのままでいいや)クンカクンカ)

(師匠「とにかく有力候補として、我々が旅を終えて返事をするまで、他には売らないでくれる約束をしたよ」)

(末妹「そうですか、幸先が良い……と言うのですよね、こういう時は」)

(王子「うん、最初からいい子に出会えて、これから何軒も牧場を回るけどこの先も楽しみだよ」)

(師匠「ま、君達とも野獣ともまたしばらく会えないが……明日この町を発つ前、菫花を君の家に顔出しさせるよ」)

(王子「そう言えば約束していましたね」)

(師匠「商人の家まで送り届けてやろうか? それとも宿屋まで迎えに来てもらおうか?」)
 

(王子「もう大丈夫ですってば!!」)

(末妹「ふふ……お待ちしております菫花さん」)

(末妹「そうだ野獣様、メイドちゃんすっかり元気になって布の造花を作り始めたそうですけど」)

(末妹「今日の昼間の様子はどうでしたか?」)

(野獣「ああ、私が教えた花はすぐ作れるからと……」)

(野獣「執事から早くも自粛するよう忠告されたそうだ」)

(末妹「ええっ!?」)

(野獣「昨日の朝から今日の昼までかかって、すでに渡り廊下の壁がお花畑になる勢いだとか」)

(野獣「……そんなんだから、応用編として一つ作るのに時間のかかる凝った造りの花を自分で考えることにしたらしい」)

(末妹「自分で……」)

(野獣「料理長が料理をあれこれ自分の考えで工夫するように、自分にも教わった通りから更に工夫できるはずだと」)

(野獣「とにかく、寂しがっている暇はないくらい張り切っているようだ」)

(末妹「よかった、本当によかった……」)

(王子「僕も安心したよ……末妹さんと野獣のおかげだね」)

(野獣「花と言えば……師匠、このバラ園の片隅に、現実世界の屋敷では見たことのない色が一輪咲きましてね」)

(師匠「おお、それなら儂も見つけたぞ、少し珍しい色だなと思ってはいたが」)
 

(師匠「まさか屋敷のバラ園にない色とまでは思わなんだ」)

(王子「ええっ、不思議ですね」)

(野獣「もしかしたら、来年以降に屋敷で咲くバラかもしれない」)

(師匠「ほう、それについてお前はどう考察しているのだ?」)

(野獣「230年の間に自然交雑が起きて……しかしバラ園には枯れない魔法と同時に新しい芽も出ない呪縛もかかっていた」)

(野獣「魔法が解けて、新しく生えて来るバラが……きっとそれなのですよ」)

(末妹「わあ……どんなお花なのかしら」)

(王子「見てみたいなあ……」)

(師匠「どれ、儂が案内してやろう、二人とも……ついておいで」)

(王子「あっ次兄君も」)

(次兄「……」ウットリ)

(末妹「……この上なく幸せそう」)

(王子「顔の下半分が隠れているにも拘わらずそれがわかるって余程だね……」)

(師匠「邪魔しちゃ可哀想だ、もっと正直に言うと構いたくない、さ、我々だけで見に行こう」)

(王子&末妹「「はい!」」)

(野獣「……」)

(野獣の手:スッ……)
 

(次兄「はぅん?」ハッ)

(野獣「我に返ったか」)

(次兄「……皆は? なんかあっちの方に行ったみたいですが」)

(野獣「私があっちの方に咲いた珍しいバラの話をしたら、見に行こうとなってな」)

(次兄「……つまり、理由をつけて人払い……」)

(次兄「そんにゃ回りくどい真似をしてまで俺と二人っきりになりたかったなんてえええええええええええ」ガバァァァ)

(野獣「私を押し倒そうとか200年早い!!」ヒョイ)

(次兄「お約束ぅ!!」ビターン)

(野獣「……せっかくお前との時間を取ってやろうと思ったのに、調子に乗ると『また』超強力眠りの魔法をおみまいするぞ?」)

(次兄「そ! それだけはご勘弁を」)

(次兄「末妹には野獣様に余計な気遣いさせたくないからと口止めしていましたが、実は昨日の朝はですね!!」)

(野獣「ん?」)

(次兄「長兄に(扉を)ノックされても次姉に(尻を)キックされても目が覚めないのでお医者が呼ばれたんですよ?」)

(野獣「う、それは済まなかったな、午前10時には自動的に目覚める効果も加味されていたのだが……」)

(次兄「ええ、お医者が部屋に入った途端に何事もなかったように目覚め、おかげで事情を知らない姉達は呆れるわ」)

(次兄「同じく事情を知らない父と兄と家政婦さんはその後も一日じゅう心配するわ」)

(次兄「唯一事情を知る末妹は大ごとになる前に学校行ったから帰宅して話を聞いてびっくりするわ、散々でしたー」)
 

(野獣「悪かった本当に悪かった、しかし……お前が好き勝手してよい理由にはならんからな、それはそれこれはこれ」)

(次兄「くっ流石は野獣様、付け入る隙を与えてくれない……」)

(野獣「……限られた時間、一方的に欲望を満たすより」)

(野獣「我々双方のそこそこ良い思い出になるよう、お互い譲歩する方が有意義とは思わんか?」)

(次兄「むう……正論です」)

(次兄「それでは野獣様のペースでこの場を進めてくださいどーぞ」)

(野獣「やれやれ、自分本位かと思えば人任せ、お前は本当に良く言えば不器用、悪く言えば……」)

(野獣「……泣かれると面倒だからやめておこう」)

(次兄「いいんですよどうせ俺ですから何と言われたって」イジイジ)

(野獣「機嫌を治せ、それより……勉強を頑張っているか? 今はどんなことを学んでいる?」)

(次兄「……がんばっていますよ、家庭教師に習った勉強の復習はほぼ完璧ぽいので、各教科のもう少し上を」)

(野獣「ほう、図書館に通っているのはそのためか」)

(野獣「絵の方は?  動物しか描けないのでは通用しない、のだろう?」)

(次兄「……まだ誰にも見せられませんが……人知れず影の特訓は絶やしていません」)

(野獣「特訓(絵の練習とも言うが)の成果が実を結ぶ日が楽しみだな!」)

(次兄「……うへへ、少なくとも無駄にはしませんから」)
 


※とりあえず再開。今夜はここまででした※

いつもと違う機種で書き溜めしたせいかカッコの半角全角がおかしな感じに……
投下してから気づきましたごめんなさい……

乙。ピョーンってするメイドちゃん可愛い

あ、あと>>1に残暑お見舞い申し上げます。
http://s3.gazo.cc/up/59983.jpg
昨年より大きく育ったもよう


※お知らせだけ。今週はあと1回もしくは2回更新予定です※

>>314
去年の続き&アニマルズ可愛く描いてくれて、ありがとうありがとう!
設定もこんな感じのサイズ比なんだけど、こうして見ると執事やっぱりでかいわ……

(末妹「お兄ちゃーん、野獣様ー」)

(野獣「お、戻って来たな」)

(野獣「……またお前とゆっくり話ができる日を楽しみにしているぞ」フフッ)

(次兄「社交辞令でも嬉しっす……」ウヒヒ)

(野獣(本音なのだがまあ良い、あまり調子に乗せてもな、こいつに限っては))

(次兄「末妹、見たことないバラがあったって?」)

(末妹「あのね、今まで見たことのない色でね、すごく綺麗なの!」)

(王子「まるで朝焼けが青空に変わって行く途中のようで」)

(王子「しかも光の加減で微かに色合いの変わる、不思議な色だったよ」)

(末妹「……野獣様や菫花さんの、ひとみの色にも似ているの」)

(次兄「バラなのにスミレ色なんだ」)

(野獣「ははは、確かにそう言えない事もないか」)

(師匠「あれが本当にバラ園に咲いたら新種発見かな」)

(師匠「鳥が種を運んだとか、既存の品種が紛れ込んだ可能性も全く無いとは言えんが」)

(王子「どちらでも、僕らには初めての出会いには変わりありません……楽しみです」)

(野獣「本当に咲くと良いな、『正夢』になることを願うぞ」)

(末妹「ええ、私も願っています……」コクン)

……………………

(野獣「……というわけだ」)

(野獣「庭師よ、もし本物のバラ園に新しい芽が生えてきたら、大事に世話をしてやってくれ」)

(庭師「はい!!」)

(庭師「楽しみだなあ……今度の春だといいな、早く春が来ないかな!!」ワクワク)

(メイド「ご主人様、私、バラの造花を作ってみようかと思います!!」)

(野獣「ほう」)

(メイド「花びらがいっぱいで、作るのに手間暇がかかりそうで、出来上がりはえーと、ごおじゃす? ですから!!」)

(野獣「おお、やる気に満ちているな、頑張れよ」)

(執事「急いで仕上げるより、ていねいに仕上げるほうを心がけるのだぞメイド?」)

(メイド「はい、最初は自分の手で『お花』が作れることそのものが楽しかったけれど……」)

(メイド「今はどうしたらもっときれいにできるか、作りながらあれこれ考えるの楽しいです!!」)

(野獣「ふふ、本当に楽しくてたまらない様子だ」)

(料理長「沈み気味だったメイドちゃんが、こんなに元気になって……」)

(執事「我々も負けずに素晴らしい馬小屋を仕上げなければ、な」)

(野獣「ああ、師匠達も楽しみにしている、頼んだぞ……」)

……………………


※今週は急用が入ったりで進まなんだ、すみません……明日はもう来週になっちゃうけど少し更新します※

なお現実では薄紫(青系)のバラは品種改良を重ねてできた新しい品種……ですがフィクションなので……

翌日、商人の店。

長兄「次姉、そっちの棚にこれ並べて」

次姉「はい」

長兄「長姉は料理教室か、だけど次兄は今日は行かないって話していたな」

次姉「お客さんが来るからよ、次兄と末妹に」

長兄「ああ、あの子だね」

次姉「『あの子』って……兄さんと同い年よ?」

長兄「……言われてみればそうだった」

長兄「見た目だけじゃなく、あの二人の友達だと思うと」

長兄「どうも感覚的に『俺より3つくらいは年下』って認識から抜け出せないようだ」ハハ

次姉「同い年どころか、生まれ年で言えばとんでもない『年上』だけど」

次姉「兄さん、自分の常識と相容れない『事実』は敢えて素通りしないと自分が保てない人だものね」フフ

長兄「おいおい、お前まで次兄みたいな批評は勘弁してくれ」

次姉「あら、次兄ってこんな感じだった?」

長兄「……前から思っていたけど、お前と次兄って見た目以外が……どこか似ているよな」

次姉「」

…………

商人の家、応接間。

家政婦「お客様が席に着かれたら、すぐに紅茶とお菓子をお持ちしますね?」

末妹「ありがとう、家政婦さん」

家政婦「それでは、また後ほど……」パタン

次兄「10時ごろ来るって言ってたのに……8分過ぎたよ、無事に辿り着けるかなあ」

末妹「師匠様お気に入りのカフェまでは二人で来るって、だからそんなに長い距離じゃないし……大丈夫よ」

次兄「距離が短くても、途中で何かトラブルがあれば」

末妹「そんな物騒な場所じゃないわ、しかも昼間から」

次兄「いやいや菫花さんのこと、顔の怖い人と目が合っただけで容易に挫折、いや気絶しかねない」

末妹「お兄ちゃんたら、いくらなんでも……」

末妹「……さすがにそこまでは……ねぇ……うん……うーん……」ミケンニシワ

次兄「ほぉら、不安になってきたでしょ?」

末妹「で、でも菫花さん自分であれだけ『大丈夫』と力説していたし、頑張る時は頑張る人だもの、私、信じる!!」

(仮想の窓で見ている野獣「…………」)

(野獣「師匠と菫花が完全に南の港町を発つまではこうして様子も窺えるが」)

(野獣「カフェから商人の家まで1.5km……14の女の子にその距離の一人歩きを心配されるハタチの男…………」)

(野獣「…………『自分』を客観的に見るのは、なかなか辛いものがある……」ハァ)
 


※今夜はここまで……台風で天気図もすごいことになっていますが、皆様何事もなく済みますように……※

時期が過ぎてしまったけど、せっかくだから俺はお盆絵の続きも描くぜ!
次兄の瞳の色は想像なんだぜ!

http://s3.gazo.cc/up/60751.jpg


※日曜深夜から音沙汰なくてごめんなさい、土曜日の夜くらいに更新します……※

>>325
胡瓜と茄子を乗りこなす兄妹シリーズ(?)+野獣&王子、めっちゃ可愛くて嬉しいぜ!!
あと次兄の瞳は一応灰色という設定だが周囲の明暗で薄茶にも見えることに今なったので問題なしだぜ?

…………

そのころ、料理教室は休憩時間……

幼馴染男「へえ、それで次兄君は来ないのか」

幼馴染男「しかし……次兄君と末妹ちゃんの友達にしてはちょっと歳が離れているかな?」

長姉「でも違和感なかったわ、なんだか子供みたいな人でね、おまけに極端に内気だとかで」

長姉「うちの店に買い物に来たって話したでしょ?」

長姉「実はその時にね、マフラーで顔をぐるぐる巻きにして入って来たのよ」

幼馴染男「あれ……それって料理教室が休みで、うちの先生に外国のお客さんが来た日……だったよね?」

長姉「ええ、私と次姉で店番した日よ」

幼馴染男「その日なら……ほら、あのカフェオレが評判のカフェの近くで、それらしき人に道を聞かれたよ」

長姉「え」

幼馴染男「君んちの店に行きたいって、顔は隠れていたけど、体形と声からすると若い男性だなとは思ったよ」

幼馴染男「困っていたふうだったから、教えてあげたら礼儀正しいお礼を言われてね」

幼馴染男「顔は隠したままだったけれど」

長姉「……あんた、そんな怪しい風体の人物を、か弱い乙女である私のいる店に……」

幼馴染男「え」

長姉「たまたまあの子らの友達だったからいいものを、本当に悪漢だったらどうするのよ!?」

幼馴染男「……確かに顔を隠して怪しくはあったけど、悪い人には思えなかった」

幼馴染男「君んちの近所には憲兵隊の詰所もあるし」

幼馴染男「それに悪事を働こうって人間なら、あからさまに怪しい姿で通行人に道を聞くような真似はしないよ」

長姉「そ、それはそうかもしれないけど……」

幼馴染男「……それなりに財産持ちの父が亡くなったら、いろんな人が遺産目当てで現れて」

幼馴染男「借金が発覚したら、今度は別のいろんな人が現れて」

幼馴染男「先生に出会って何かと救われたけど、学者の世界も思っていた以上に……世知辛くてね」

幼馴染男「ぬくぬく育った子供のころとは違って、世の中にはいろんな人間がいるのを知ってからは」

幼馴染男「……なんというか、本当に勘ではあるけど」

幼馴染男「少なくとも『この人は悪い人じゃない』という印象は外れたことがないよ」

長姉「…………」

幼馴染男「……ってね、ごめん、君に責められて初めて君が怖い思いをしたと気付いた」

幼馴染男「言い訳だね、本当に……何事もなくてよかった、結果オーライに過ぎないよね、ごめん」

長姉「……じゃない」ボソ

幼馴染男「ん?」

長姉「バカね、真面目に謝ることないじゃない」

長姉「そうよ……あんたが桁違いのお人好しなんて前から知ってたもの」
 

長姉「そんなあんたじゃなきゃ私みたいな女と付き合ってくれないって、それも知ってるもの」

幼馴染男「……えーと……」

長姉「……それに次姉も言ってた、変だけど少なくとも危険なお客様ではないと、すぐにわかったって」

長姉「私も店に入って来た時はびっくりしたけど」

長姉「確かに顔を出す前から気が弱そうな中身は丸見えだったわ」

長姉「だから、あんたが悪い人じゃないと思ったのも間違ってない」

長姉「……さっきのは私が怖い思いをしたからと言うより、あんたのお人好しにちょっと呆れただけ」

幼馴染男「うん、確かに呆れられても仕方ないね……」トホホ

長姉「だからって鈍感で何も考えていない世間知らずなんかじゃないのよね、あんたは」ギュ

幼馴染男「っ、長姉!?」ボワッ

長姉「やだ、手を握られただけで真っ赤になって」クス

長姉「……もういいの、何事もなかった済んだ話は」

長姉「でもね、本当に悪い人が現れたら……私のこと、守ってくれる?」

幼馴染男「も」

幼馴染男「ももももももももももももも、もちろんだとも!?」

長姉「……ありがと、頼りにしているわ」フフ
 

そうです、今は料理教室の休憩時間。

受講生1「……何の話をしているかわからないけど、あの二人の周囲の空気が甘ったるいのはわかるわ」

受講生2「やだ、まだあの彼に未練あったの?」

受講生1「そんなんじゃないけど……私も早く彼氏ほしいなって思っただけ」

受講生2「ねえ、このあいだ町で素敵な人見かけたじゃない、アッシュブロンドの美少年」

受講生1「ああ、旅行者ぽかったけど……すっごい可愛かった」

受講生2「あそこまでのレベルはさすがに求めていないけど、望みを捨てなければいつかきっと私達にも」

受講生1「そうね、そのためにも頑張らなくちゃ、料理の腕磨き!」

未亡人「……」

未亡人「何の話をしているかよくわからないけど、あの子達からやる気が伝わってくるのは間違いないわ」

未亡人「長姉さんと幼馴染男さんもいい雰囲気だし、若い皆さんから私まで元気を貰える気分よ」

未亡人「料理教室を開いて本当によかったわ……」

…………

いっぽう、自分が話題にされているとはつゆ知らずの王子……

王子「……カフェからここまで、何事もなかった……」ホッ

王子「えーと、個人的な客なのだからお店から入っては駄目、ちゃんとお住まいの玄関に回って、と……」

王子「深呼吸深呼吸……」スーハー

王子「呼び鈴、これだな、さあ……鳴らすぞ!!」
 


※今回はここまで……呼び鈴は紐を引いて鳴らすタイプです※

ダレカラブシーンノカキカタヲオシエテクレェ
 

商人の家、玄関の扉の外側……

王子の手:グイッ

呼び鈴の紐:ブツッ

王子「」

切れた紐:ダラーン

王子「…………あああああやってしまったあああああ!!」

商人の家、玄関が見える窓の内側……

次兄「……菫花さん、何やってんの?」

家政婦「真下に引いて耐え得る構造ではなかったようですね、そもそも引きながら前後か左右に振らなくては鳴らせませんが」

次兄「それくらい常識でしょーに、て言うかどれだけ力込めて引っ張ったんだろ?」

末妹「緊張しているのよ……」

家政婦「呼び鈴の日常点検も甘かったのです、私の役目ですのに……」

家政婦「丈夫な紐につけ替えるのは後にしても、とにかくお客様を招き入れなくては」

末妹「待って家政婦さん、私が行きます」

……

王子「どど、どうしよう、台や梯子なしにあそこ(呼び鈴の位置)まで届かないし……」ブツブツ

王子「いや、ここは家の人に素直に謝る一択……」ブツブツ

ドア:カチャ

末妹(……ドアが開いたのも気付かないみたい)

王子「あああ恥ずかしいいいいい歳して呼び鈴ひとつ満足に鳴らせないのかあああ」

末妹「菫花さん!」

王子「はっひゃっ!?」
 


※前回以来音沙汰なしの上に短くてすみません、明日にでも続きを…※

末妹「ようこそ、お待ちしておりました」

王子「あ、あの、実は僕」アワワワ

末妹「ええ、窓から見ていました……でも大丈夫です、今度は丈夫な紐につけ替えれば」

王子「見(られ)ていた……」

末妹「だから、何も心配いりません」

末妹「……菫花さん怒られるのが怖かったわけじゃないって、わかっていますよ私?」ニコ

王子「あ」

王子「……ご、ごめんなさいっ!!」

末妹「大丈夫ですから、本当に」

末妹「さあ、次兄(あに)も待っています、どうぞ」

……

商人の家、応接間。

次兄「こんちはー菫花さん」ウヘヘ

王子「次兄くん……こんにちは」

次兄「意外と力持ちっすね?」

王子「」

末妹「お兄ちゃんたら!」

家政婦「いらっしゃいませ、菫花様……」ペコリ

次兄(家政婦さん良いタイミングで登場)

王子「あ、家政婦さん……あの……すみません、僕さきほど」

家政婦「呼び鈴の紐は既につけ替えました、以前より丈夫なものに交換したのでご安心を」ニコ

王子「はう(素早い……いつの間に)」

家政婦(こちらの点検の不備を謝ったりしようものなら、余計に取り乱される……と、次兄様からは伺いましたが……)

王子「あ、ありがとう、ございます……」

家政婦(……これでよろしかったのでしょうか?)アイコンタクト

次兄(完璧です)グッ

末妹「ありがとう家政婦さん!」

家政婦「どういたしまして」フフ

家政婦「さて、今日はココアと軽い口当たりの焼き菓子を用意しました」カチャカチャ

次兄「おー、ココアは久しぶり、嬉しいなっと♪」

家政婦「ごゆっくりどうぞ……」ペコリ

王子「……」

末妹「菫花さん、南の港町を発ったら、次はどちらへ?」

王子「ぅはいっ」
 


※今夜ここまで、なかなか進まなくてすみません、おやすみなさい……※



※予告のみ。早くても次の土曜日更新です。しばしお待ちを※

次兄「菫花さん、リラックスリラックス」

王子「そ、そうだよね、もうこの場には君達しかいないのに」ココアゴクー

王子「……おいしい……」ホッ

王子「ええと、師匠のプランでは……このあとは東側の国境付近に紹介された牧場があるので、それが次の目的地です」

王子「ある程度北上したら、今度は国の西側に横断しつつ、騾馬の産地をいくつか巡って再び南下」

王子「南側の国境都市に入ったら、内陸を通って北上しながら森へ帰ります」

末妹「移動手段はどのように?」

王子「森からここまで内陸の道を来た時のように、乗合馬車を乗り継いで、時々は徒歩で」

次兄「優雅な旅ですなあ」

王子「うん、それはそうだけど……これから地道に暮らすための準備の旅でもある」

王子「……師匠の言葉だけどね」

末妹「この旅で騾馬さんを連れ帰って……そして、お屋敷に帰った菫花さんはどんなお仕事を?」

王子「しごと」

次兄「地道な暮らしは労働が前提だもんね」

王子「……………………」シーン

末妹「……き、聞いてはいけない質問だったかしら」オロオロ
 

次兄「何もこの場で『具体的に』答えて欲しいわけじゃないんだろ、末妹?」

末妹「え、ええ」

末妹「……でも、菫花さんを悩ませてしまうなら、取り消しま」

王子「いいいいいえ、いいえ、答えるよ、答えられるよ!!」

王子「考えてはいるんだ……でも、今はまだはっきりとした道は見えない」

王子「と言うより『何を』『どう』『どこから』考えたらいいのかさえ、わからなくって、だから」

王子「この旅で、少しはヒントが見つかればいい、とは思っている」

王子「……今現在、答えられるのはここまで……」

末妹「……見つかればいいですね」

王子「あ」

末妹「菫花さんは……この世界で暮らし始めて日が浅い、今は考える時期で当たり前だって……思いますよ?」

王子「……うん……ありがとう、末妹さん」ヘヘ

王子「……」

王子「今さら取り繕っても意味ないよね、特に君達相手に」ポツ

末妹「取り繕う?」

王子「……君達より年上なのに、もう大人なのに、何かと情けないと、最近思うようになって……」

王子「でも末妹さんがさっき言ってくれたように、君達よりこの世界での経験は全然足りないし」

王子「……ううん、君達と同じ時代にこの年齢差で生まれても、きっと僕の方が世間知らず」

王子「二十年間の人生で、見て来たものがあまりにも少ない、触れて来たものがあまりにも少ない」

王子「……自分の力を使って何かをした経験があまりにも少ない」

王子「そして、どこかでそれを認めたくない自分もいる、だから取り繕ってみたり」

王子「……過剰に恥ずかしがったり落ち込んだりも、きっと認めたくないが故の……」

末妹「……」

王子「……と、自覚ができても、すぐに受け入れることはできないと思う」

王子「恐らく、行ったり来たりしないと前に進めないんだ、僕は」

次兄「三歩進むまでに二歩下がる動作が不可欠なのですな?」

王子「さ、下がる頻度は減らしたいとは思っているけど……」

末妹「……それ全部ひっくるめて、菫花さんですよ」

末妹「取り繕ってしまうのも、そうやって取り繕うのを意味がないと思ってしまうのも」

末妹「行ったり来たりしながら前に進むのも全部」

次兄「そうです、そして俺達そんな菫花さんが好きなのですっ!!」ババーン

王子「    」
 

末妹「……こ、今度こそ固まっちゃった……?」

次兄「……そんなにショック受けなくてもいいじゃん……」ヨヨヨ

王子「」ハッ

王子「だ、大丈夫、ちょっと意表を突かれて面食らっただけで、意識までは失っていないよ!!」

王子「……ありがとう、末妹さん、次兄君」

王子「君達の言葉はいつも……僕は無理をしなくて良いのだと、そんな安心を与えてくれて」

王子「同時に、僕はこのままではまだまだ駄目なんだ、変わらなきゃならない、そんな決意も新たにさせてくれる」

王子「……矛盾しているよね、おかしい……かな?」

末妹「……」フルフル

末妹「おかしくなんかないですよ」

末妹「これから少しずつ、無理をしないで、私達や菫花さん自身がまだ知らない菫花さんに変わって行く」

末妹「私や次兄(あに)も同じ、少しずつ、自分のできることを増やしながら大人に近づく」

末妹「……ね、何もおかしくなんかないでしょう?」ニコ

王子「末妹さん」

次兄「そうだよ、うちの二人の姉達だって昔より……」

次兄「……なんだろう、毒が抜けた? 牙と爪を引っ込めた?? 鬼そのものから普通に怖い女子にレベルダウンした???」
 

次兄「とにかく昔よりすごく丸く……体形がじゃないですよ? 態度が丸くなって、普通に俺達とも話してくれるようになった」

王子(野獣と話す時もだけど、どうして次兄君はリスクの高い言葉を選ぶんだろう?)

末妹(まかり間違っても一連のお兄ちゃんの言葉が二人の耳に入りませんように……)オイノリ

次兄「脳筋の堅物かと思われていた長兄だって最近は何かと柔軟になって」

次兄「たまに家政婦さんの甲斐甲斐しく働く姿を眺めている間の抜けた表情をうっかり見せたりもする」

末妹「……私それは知らなかった」

次兄「見せると言っても数日に数秒間くらいの頻度だから学校や店番の時間の長い末妹が気付かなくても当然」

次兄「……みんな生きている限り少しずつ変わって行くのです、我々若者ならば尚更、成長という名前の変化を」キリッ

王子「みんな……生きている限り……」

王子「……そうだね、明日のその先が見えないのも、それを恐れているのも、僕だけではない」

王子「でも……多くの人は縮こまったりも隠れたりしもしないで立ち向かっている……君達のように」

末妹「何度も言いますが、無理することはないのですよ?」

王子「うん、わかっている」ニコ

王子「……今なら……話せるかな」

末妹「え?」

王子「この旅の中で……本来の行程からは寄り道だけど、ひとつ……やってみたい事、いや、行ってみたい場所があってね」
 

王子「まだ師匠にも持ちかけていないけれど……」

王子「……小国の王と王妃と……そして王子の墓、に」

末妹「!」

次兄「って、確か地味ながら観光地になっている場所……だよね?」

王子「そうだよ、その場所……かつての小国の王の城が合った場所を、訪れたい」

次兄「あれ、歴史書では、お城と歴代王族の墓所は土地が離れていたような?」

王子「……暗殺された『彼等』は、先祖達の墓所には葬られなかったと、師匠が」

王子「だから、そこに眠っているのはその3人だけ、正確には王と王妃と骨格模型だけど」

末妹「模型?」

王子「魔術師ギルドに、教材用に置いてあった出来の良い骨格模型、それが王子の白骨死体の正体」

王子「師匠が言うには動物の骨すら使っていない『木と石膏と粘土と顔料と企業秘密』だそうで」

王子「……まあそれはいいとして、『僕の両親のお墓』に行ってみたい……」

次兄「……その、大丈夫、なの?」

末妹「……菫花さん……」

王子「たとえその前で気絶しても、と師匠には話すつもりだよ……とは言え」

王子「牧場を巡り終えた帰途の更に終盤になるはずだから、少し先の話で……それまでに僕の決心は鈍るかもしれないけど」
 


※昨夜はほぼ寝落ち状態ですみません、今夜はここまで※
 

……

(野獣「……やれやれ、師匠に旅程を教えてもらった時から、薄々こうなる予感はしていたのだが」)

(野獣「往路は小国の王都だった地域を遠巻きにするように南下し」)

(野獣「復路はその土地を通りながら屋敷のある森へ戻る……?」)

(野獣「……まさか、最初から狙っていたのだろうか、師匠……」)

……

師匠お気に入りのカフェ。

給仕1「あれ、あのお客さんさっきから手鏡を見つめている……そこそこ年配のおじさ……紳士なのに」

給仕2「自分大好き? それとも鼻毛が気になる?」

店長「そこ2人、くだらないお喋りはやめて働く!!」

師匠「……ふむ」

師匠「野獣もあっちの世界から仮想の窓で、この子らの様子を見ているのだろうが……」

師匠「あいつの事だ、儂が仕向けたくらいは思っていそうだなあ」

師匠「あの土地を通る時にさりげなく話題にしてみようか、程度には考えていたが……あくまでその程度だ」

師匠「正直、儂だってこれでも驚いているのだぞ?」

師匠「ま、菫花がどういう心境でどんな意図であろうとも」

師匠「あちらから切り出すまで、こちらからは振らないでおいてやろう」

……

次兄「おっさんに話しをするのはまだ先……と」

王子「うん」

次兄「……詰めが甘い、菫花さん」キリッ

王子&末妹「「!?」」

次兄「あのおっさんの事です、鏡の魔法でこちらの様子を窺うくらいワケないですよ?」

王子「あ」

次兄「この旅行中、菫花さんに魔法の使用を禁じても、自分はヘーキで使うような御仁に決まっています」

次兄「あと、もしかしたら野獣様も見ている可能性あるけど」

末妹「……そうか、師匠様と菫花さんが私達の町にいる間は……」

次兄「まあ菫花さん的には野獣様に知られるのは良しとしても」

次兄「あのおっさんの事です、菫花さんがいつどこでどのように切りだすのか……」

次兄「心の中で、ワクワクしながらほくそ笑みながらニヤニヤしながら待ち構えることになるでしょうな」

王子「……」

王子「……でも僕は、君達にはあらかじめ話しておきたかったから」

王子「さっきは決心が鈍るかもとは言ったけど……本当は、話しておくことで自分の退路を断ちたかったんだと思う」

王子「いいや、断ちたかったんだ」

次兄「……菫花さんが『だ』と言い切った……」オオオ


※時間開いちった…この続きは明日に…おやすみなさい※

王子「お墓に行きたい理由は……今は、まだ話せないけど」

次兄(おっさんも聞いてますしね)

王子「でも、決意だけは君達に」

王子「次兄君と末妹さんは、僕の友達だから」

王子「家族にまだ言えない話でも、先に打ち明けられる存在が、友達……だと」

王子「……そう思ったから、君達ふたりに話したんだ……」

末妹「……私……」

末妹「さっきまでは菫花さんに、無理はしないで、と言うつもりでいたのだけど」

末妹「今は、頑張って、と言いたくなりました」ニコ

王子「……ありがとう……」

次兄「俺も俺も俺も、応援しますよ?」ニュイ

次兄「内面の弱さにもおっさんによる趣味の試練にも負けまいと」

次兄「初心を貫こうとする意志をごく稀に垣間見せる菫花さんも、俺達は好き」

王子「    」ニドメ

末妹「……お兄ちゃん、今日はいったい……どうしたの……?」

次兄「末妹まで俺を今まで見たことない昆虫に遭遇したかのような目で見ないでください」
 

次兄「最初に釘を刺しておくけど、野獣様が見ているかもだからエエカッコしいしているわけでは無くてよ?」

次兄「菫花さんは確かに、我々兄妹の愛する野獣様の原点にして素材にして表裏一体」

次兄「末妹はともかく、俺が菫花さんをなんとかどうにか助けねばと思った理由はそれのみ」

次兄「……だったんだけど」

次兄「野獣様とは別人格の菫花さんが、もしも、今とは違うタイプの人だったら、とある時ふと考えてみたら」

次兄「タイプによっちゃ今こうして一緒にお茶の席を囲んでいるかはわかんないし?」

次兄「菫花さんがこんな人だから俺も安心してツッコミ入れられるし?」

次兄「目の前で気絶されたら対処もしようと思うし?」

次兄「大事な末妹があれこれ世話を焼いている様子も安心して見ていられるし?」

末妹「お兄ちゃん……」

次兄「……で、結論としては」

次兄「やっぱり俺と末妹の大切な友達だから、それはやっぱり、この俺ですら、ほらあの」

次兄「菫花さん自身に好意を持ってんじゃないかなー? って、気付いちゃったわけですよって言わせんじゃないわよぉ!!」

王子「        」シロメ

末妹「菫花さん、今度は本当に意識が!?」

王子「……っ大丈夫、戻って来れたよ、辛うじて持ちこたえたよ!!」
 


※今回これだけです、寝ますごめんなさい※

……

(野獣「次兄が菫花自身を快く思ってくれているとわかって、私も安心したし嬉しいが」)

(野獣「その……もう少し伝え方を……こちらまで赤面してしまう、と言うか……」カァァ)

(野獣「いやわかっているぞ、次兄はあれでも優しいし、人間関係でおそろしく不器用なのも……わかってはいるがなあ……」)

……

王子「ぼ、僕は……こんなふうに好意を示されるのに慣れていなくて……ましてや今の時代に来る前の、人生の大半は……」

王子「……だからこういう時、どう返せばいいのかわからない、けど」

王子「僕も次兄くんのこと、好きだよ……!!」ダッ

次兄「菫花さんっ……!!」ダダッ

……

師匠「うわあ」

……

末妹「……私よくわからないけれど」

末妹「世に言う『男同士の友情』って、こんな感じ……なのかしら??」

……

師匠「……末妹嬢はまだ子供だから仕方ないが」

師匠「こいつらを男子の見本にしないでくれんかなあ……」

……

(野獣「……次兄と菫花がお互い駆け寄るあたりで、抱擁し合うと思ってハラハラしたが」)

(野獣「固い握手で済んだ……」ホッ)

……


※続きは土日かな。最近コマギレですみません※

商人の家、玄関。

家政婦「お帰りなさいませ、旦那様」

商人「ただいま……菫花君は来ているのかい?」

家政婦「ええ、次兄様と末妹様と応接間でご歓談されていますわ」

商人「ふむ、それでは少し顔を出して、ご挨拶させていただくかな?」

……

応接間……

扉:コンコン……

商人の声「私だよ、ちょっといいかな?」

末妹「お父さんね、どうぞ」

扉:ガチャ

商人「いらっしゃい、菫花く…………」

商人「…………次兄、何があったんだい?」

次兄「何って、固く握手を交わし男の友情を確認している最中ですが?」ギュー

王子「こんにちは商人さん、お邪魔しています」ギュー

商人「……そ、そうなんだ」

商人「……何か見たことも聞いたこともない異国の格闘技か何かと思ったよ」
 

次兄「普通に握手しているだけなんですがねえ」

商人「うん、友情を確かめ合うのは大いに結構だが」

商人「なんだか二人とも握り合う手の血が止まりそうな勢いで……ほら怪しい色になって来た、痛くないかい?」

次兄「言われてみれば手の感覚が……今日の所はこんなもんにしておきましょう」パッ

王子「そ、そうだね……」パッ

王子「……あ、血流が戻ってきた」

次兄「本当だ、手がじわーってするぅ」

商人「ははは……せっかく家政婦さんが用意してくれたココアが冷めてしまうぞ?」

商人「菫花君、これからもこの子達と仲良くしてあげてね」

王子「は、はい、僕の方こそ……」

商人「ではまた後でね、帰る時は見送らせておくれ」

王子「はい、あ、ありがとうございます」

末妹「お父さん、私達にご用があったんじゃないの?」

商人「いやいや、軽く挨拶したかっただけさ」

商人「それじゃ私はこれで、ごゆっくり……」

扉:パタン……

商人「……」

商人「……改めて思うが、次兄は我が子ながら風変わりで」

商人「その風変わりな所も受け入れてくれそうな友達ができるなんて、あの子には悪いけど少し前までは思ってもみなかった」

商人「親としては素直に嬉しい物だな」フフ

商人「……さっきの様子は勢い余って危険な方向へ行ってしまわないかちょっと心配になったけど」

……

(野獣「ないない、それだけは断じてないからな商人!!」ブンブン)

……

師匠「(息子の友人が)こいつでいのか、商人?」

……

少しのち。

商人「またおいで菫花君、師匠様……お父上にもよろしく」

王子「美味しいココアとお菓子ご馳走様でした、それと」

王子「あの……呼び鈴の事、本当にごめんなさい」

家政婦「本当に、お気になさらないでくださいませ」ニコリ

商人「旅の無事を祈っているよ」

王子「ありがとうございます」

次兄「おっさんにも負けないでね? まあ勝てないのはわかっているけど」

王子「あ、ありがとう」

末妹「……この先も、実りの多い旅になりますよ」

王子「うん、今日の事も含めてね」

王子「野獣もきっと、応援してくれると思う」

末妹「そうですね、きっと」ニコ

王子「また会おうね、次兄君、末妹さん」

末妹「ええ、次はお屋敷で」

次兄「お屋敷の皆様を交えての再会、楽しみにしています!」

……

(野獣「友達と友達の家族に笑顔で見送られる菫花……」)

(野獣「……よかったな、お前にそんな平凡で、平穏で、それゆえに尊いひとときが訪れるとは」)

(野獣「それをこうして見守れる私も幸せだ」)

(野獣「……両親の墓、か……」)

(野獣「もはやお前の真意は語ってもらわなくては理解できないが、おそらくは」)

(野獣「その先に待っているのは、間違いなく今より少し成長した菫花自身だろうな……」)

……


※ここまででした。この後はある程度まとまった量を書き溜めようと思うので、更新間隔すこし開くかもです※


※お知らせのみ。来週をめどに、復帰予定です※


※予告。今週の土曜日の夜に更新します、遅くなりました…※

……………………

それからしばらく日が経った金曜日の夜、魔法の鏡を通してのおしゃべり……

末妹「……もうすぐ師匠様や菫花さんがお帰りになるから、楽しみですね皆さん」

執事『師匠様のことですから、きっちりとあらかじめ決めた日付でお戻りになるでしょう』

料理長『それに合わせて晩餐の準備も進めなくてはなりません、久しぶりに腕が鳴ります』

メイド『うふふ、お屋敷や騾馬さんの小屋があちこち華やかになりました、早くご覧になっていただきたいですー』

庭師『立派に完成した騾馬さんの小屋そのものも見てほしいです!!』

メイド「ええ、きっとお二人も楽しみにしていらっしゃるわ……」

次兄(おっさんと菫花さんがいようがいまいが、俺の熱い視線は執事さんに注がれ続けるのであった)ジー

執事『……ほんと、変わり映えしないお方で』ハァ

末妹「……」

末妹(師匠様と菫花さんがお屋敷に戻る前、かつての小国の王都)

末妹(予定では明日に通るはず……)

末妹(……頑張ってくださいね、菫花さん……)

…………

翌日正午の少し前、南の港町……

トコトコ……

末妹「あ、お兄ちゃん、図書館からの帰り?」

次兄「おお末妹、今日は土曜授業だったそうだが……もう終わったの?」

末妹「ええ、お昼で終わり。希望者だけの補習授業だから」

次兄「そっか……んじゃ一緒に帰ろ、今日の昼ごはんは長姉ねえさんが用意してくれるはずだから」

末妹「……『だから』とはどういう意味?」

次兄「長姉ねえさんの料理とドヤ顔を前に、俺がうっかり余計な発言をしそうになったら止めて欲しい」

末妹「余計だとわかっているなら、言わなければ良いのに」

次兄「それができるくらいなら今の俺はこんな俺じゃない、そう思いませんこと?」

次兄「……自助努力はするけど」

末妹「うん、『間に合えば』止めるからね?」

次兄「ありがとう、俺の理性の守護天使様……別名、社会的な意味での安全装置様」

トコトコ……

末妹「本を借りて来たの? 3冊も」

次兄「ああ、2冊は勉強用だけど……これだけは個人的に」スッ

末妹「どれどれ……『歴史の中の魔法』……?」

次兄「そうだよ」

次兄「末妹は、なぜ野獣様が、菫花さんが……『王子様』が魔法を使えるのか、考えたことある?」

末妹「なぜ……」

末妹「『王子様』は……私達くらいの年頃から師匠様達の魔術師ギルドで魔法を習って、だけど」

末妹「……元々魔法の素質がなくては習おうとは思わない、それに王子様は生まれつきの能力が高かったと」

末妹「でも当時は師匠様のような魔法使いの人も何人もいたのでしょう?」

末妹「師匠様と野獣様達は何かが違うのか、何が違っているのか……と」

末妹「少し不思議に思ったことならあるわ」

次兄「俺もだいたい同じように考えていたよ」

次兄「でね、俺はあの小国がなくなる辺りの歴史書ならたくさん読んだけど」

次兄「この本には今まで知らなかった小国が誕生したころの話が書いてあって……」

次兄「『王子様』が生まれた頃より更に何百年も昔、人間とも動物とも違う、本物の『魔物』があちこちにいて」

次兄「中には人間の脅威になる魔物もいて、人間との大きな争いも何度か起きた時代に」

次兄「『まっとうな方法』ではとても魔物達に対抗できないと考えた『英雄』のひとりが」

次兄「『強引な方法』で人間に敵対する魔物の力を敢えて我が身に取り込んで」

次兄「人間としては、同時代のどんな魔術師より強力な魔法の使い手になった」

次兄「で、結論を言うと、その魔力を使って戦った末に、自分達の土地を守り抜いた」

次兄「その英雄が、小国を建国した人物……小国の初代の王、野獣様達のご先祖」

末妹「……!」

次兄「この本によると、初代王が強引に身に付けた魔力は彼の子孫にも受け継がれた」

次兄「しかし代を重ねるごとに少しずつ血は薄れ、また初代より後の世代の魔力の現れ方は不規則でまちまちだった」

次兄「あと、魔術師ギルドは大陸各地にあったけれど、小国で特に発展したのもその影響だったそうだ」

次兄「……記述はこれだけ、簡単なものだったけれどね」

末妹「……野獣様達の、あの優しい魔法に使われる魔力が」

次兄「人畜無害な魔法とも言うよな」

末妹「元々は戦うための力で、しかも人間に敵対する魔物から取り込んだものだったなんて」

末妹「……なんだか複雑な気持ち」

次兄「なんでも使う人次第だよ」

次兄「初代の王様だって人々を守るために使ったし」

次兄「おっさんなんて、今でも物凄い危険な魔法も使えるはずだけど」

次兄「末妹はそんなおっさんが怖い?」

末妹「……ううん」フルフル

次兄「逆に、野獣様達の父王様は魔法を使えなかったみたいだけど」

次兄「話を聞く限りの性格と生き方じゃあ、使えなくてよかったなあってしみじみ思う」

末妹「……」

末妹「野獣様も、菫花さんも、自分は弱い人間だったと仰るけれど……」

末妹「実のご両親から役立たずと否定されても、そのために孤独になっても、もしかしたら」

末妹「自分を譲らなかった、譲らないものがあったのかも……」

次兄「?」

末妹「本当に弱かったら、きっと流されてしまう」

末妹「寂しさに耐えきれず、自分を曲げてでも父王様に認められるために魔法の力を使ったかもしれない」

末妹「でも、なんと言われようと、邪険に扱われようと」

末妹「王子様は人を傷つけない魔法だけを覚え、花や小鳥に心を寄せて、身分違いの図書館の娘さんを愛した……」

末妹「それって、本当に弱い人にはできないと思うの」

次兄「……そういう考え方もできるか」フム

次兄「確かに国民にとっての最大の脅威が他国でも魔物でもなく自分達の王様、なんて異常な状況で」

次兄「王子様がその王様に染まらないでいられるのも並大抵ではないのかもしれん」

次兄「……なんて話している間に家に着いたな」

末妹「ふふ、誰かとお話ししながら歩く道って一人で歩くより短いものね」

末妹「あ、郵便受けにお手紙が来ている」カタン

次兄「ほとんど父さんの仕事関係だね、いつもの事だが」

末妹「そうね、えーと、これは領収書在中だって、こっちは見積書……これもお父さん宛だけど、普通のお手紙……」

末妹「あ」

次兄「この差出人……」

末妹「……親戚1さんと……」

次兄「……親戚2さんと親戚3さんの連名だ」

……………………

…………

とある国の北部、かつての小国、王都の跡地……

師匠「……ふむ、この近くだな」

王子「……」

師匠「ほれ、観光客がちらほらと」

王子「……地味ながらちょっとした名所化しているとは、本当だったのですね」

師匠「ま、お前から話を聞くのは後にして、まずは目的地に向かうぞ」

王子「はい」

…………


※お待たせしました。今回ここまで。次回は来週のどこかで?※

「野獣様達」とは野獣&王子(菫花)のことですはい


※お知らせのみ。所用により更新少し延期します…ごめんなさい…※

……………………

商人の家。

商人「うん、親戚1さんが設けてくれる、彼等と私の話し合いの場についての件だよ」

商人「初めはあちらの3人が南の港町に来てくれるつもりでいたのだが」

商人「私の方に、仕事で西端都市を訪れる用事ができたのでね、彼等さえよければ……とこちらからお願いしたんだ」

長兄「今回はそれを承諾してもらえた返事なんだね」

次兄「敵陣に単騎で乗り込んで行くとは……父さんの戦法やいかに?」

次姉「何を言ってるのよ」ハァ

商人「敵陣も何も……別に戦いに行くわけじゃないし、勝った負けたって話でもないからね」

商人「彼らの自宅でもない、3人でゆっくり話せる部屋を予約してくれたそうだ」

商人「……まあとにかく、そんな不安げな顔をしないでおくれ、な、末妹?」ニコ

末妹「あ」

末妹「私、そんな顔していたのね……ごめんなさい」

次姉「……」

次姉「これはもう、あんたとおじさま達だけの問題じゃないのよ?」

次姉「自分ひとりのためにお父さんに労力を使わせているとか、そんな風に思っちゃ駄目」

長兄「そうだよ、これは家族みんなの問題なんだから」

次姉「そうよ、更に言うなら、私達家族とおじさま達の家族、みんなのね」

末妹「みんなの、問題……」

……………………

商人の家。

商人「うん、親戚1さんが設けてくれる、彼等と私の話し合いの場についての件だよ」

商人「初めはあちらの3人が南の港町に来てくれるつもりでいたのだが」

商人「私の方に、仕事で西端都市を訪れる用事ができたのでね、彼等さえよければ……とこちらからお願いしたんだ」

長兄「今回はそれを承諾してもらえた返事なんだね」

次兄「敵陣に単騎で乗り込んで行くとは……父さんの戦法やいかに?」

次姉「何を言ってるのよ」ハァ

商人「敵陣も何も……別に戦いに行くわけじゃないし、勝った負けたって話でもないからね」

商人「彼らの自宅でもない、4人でゆっくり話せる部屋を予約してくれたそうだ」

商人「……まあとにかく、そんな不安げな顔をしないでおくれ、な、末妹?」ニコ

末妹「あ」

末妹「私、そんな顔していたのね……ごめんなさい」

次姉「……」

次姉「これはもう、あんたとおじさま達だけの問題じゃないのよ?」

次姉「自分ひとりのためにお父さんに労力を使わせているとか、そんな風に思っちゃ駄目」

長兄「そうだよ、これは家族みんなの問題なんだから」

次姉「そうよ、更に言うなら、私達家族とおじさま達の家族、みんなのね」

末妹「みんなの、問題……」

次兄「そだね、考えようによっちゃ……あの3人……て言うか、(感じ悪い)あの2人も」

次姉「どこかですっぱり、けじめを付けなくちゃ……世の中で暮らして、それぞれ守るべき家族もいる限り、ね」

次兄「そんな感じのセリフ、俺が言おうと思っていたのに……」フシュン

末妹「けじめ……」

長姉「みんな、お話は終わった!?」ババン

末妹「長姉お姉ちゃん」

長姉「幸い私が手間取って、スープのパイ包み焼きが正午に間に合わなかったからいいけれど……」

長姉「さすがにこれだけ待たされたら冷めちゃうわ、待っていられない!!」プンスコ

商人「わかった悪かった、とりあえずお昼ご飯にしよう」

次兄「うん、実はさっきからはらぺこ」グー

長姉「じゃあ、すぐ用意するからね!!」

末妹「私、手伝うわ」ガタ

次姉「ふふ、私も」ガタ

長姉「ありがとう、ああ、これで家政婦さんも一緒に食卓についてくれたら完璧なのにぃ」

長兄「……」

商人「規則だからね、仕方ないよ……彼女はとくべつ職務熱心だし」

次兄「残念だったね兄さん」ニヤニヤ

長兄「な、なんの話だ」ヒヤヒヤ

末妹「……」

末妹(けじめ、か……)

……………………

…………


※超短くてすみません、王子サイドまで行けなかった……今週末はちょっと厳しいので次回は来週です※

あと>>383はなかったことにしてください、作者は3超えた数がまともに数えられない模様……
(親戚達と商人の合計人数をミスりました)


本編もsageてた_| ̄|○

ほんとごめんなさい、もう寝る、おやすみなさい…


※お知らせのみ。とりあえず、明日土曜日に少し更新。時間帯未定です…※

師匠と王子……

師匠「ほれ、見てみるがいい」

王子「……本当だ、お墓に花が供えてある」

師匠「儂も実際にここに来たのは初めてだが」

師匠「聞いた話では、30年ほど前から、真冬を除いて花が絶えたことはないそうだ」

王子「30年前……」

師匠「小国がとある国に併合されて200周年の年、ちょっとした催し物があったとかで」

師匠「それがきっかけらしいな」

王子「……人々の生活に余裕ができ始めた時代に(小国の存在を)思い出してもらえた、そんな所でしょうね」

師匠「ははは、お前にしてはいい考察ではないか」

師匠「さて……どうする? 魔法でさりげなく人払いをしてやろうか? ん?」

王子「へ?」

師匠「半径50メートル以内に足を踏み入れた人間がふと他の場所に行きたくなるような、緩く且つ強固な結界をだな」

王子「い、いりませんよそんな、大きな声で師匠と話をしたいわけでもないし」

王子「……世間からただの観光客に見えるくらい、自然にこの場にいたいのです」

師匠「ふむ」
 


※遅れてごめんなさい。昨日(土曜)は色々ありまして……続きは今日中のどこかで……※

あれ、しかもまたsageていた…なにやってんだまじでorz

王子「……城は跡形もありませんが、庭園の一部はそのまま公園の花壇として活かされているのですね」

師匠「ああ、今の時季さすがに咲いている花はないが」

王子「二人とも、城の彩りとして代々受け継いだ庭園の花を育てさせてはいましたが」

王子「花そのものはあまり好きではなかったから、自分達の身近には置かなかった」

師匠「王はともかく王妃も、というのは珍しいかな、女とは花を好むものではないかと」

王子「茶色く枯れたり、花粉や葉を落としたり、虫を呼んだり」

王子「花も生きていますから、当たり前なのに」

王子「……実用以外の動物を好まなかったのと同じ理由ですよ」

王子「なので、当時のものとは銘柄が違いますが……花の代わりにワインを」コト

師匠(そこそこの高級品、我々が立ち去れば速攻盗まれそうだな)

親子連れ:キャーキャー コラ、ハシッタラアブナイヨー ハハハ…

王子「……」

王子「血を分けた我が子であろうと、出来が悪かった故に愛さなかった」

師匠「菫花」

王子「二人に安らかに眠りに就いてほしいと、肖像画の部屋で話したのは嘘ではありません、今もその想いは持っています」

王子「それでも、知りたいという想いも拭えない……」

師匠「何を、知りたいのだ?」

王子「……僕が生まれる前の両親、二人はどんな人達だったのでしょう」

王子「師匠は、ご存じ……なのですよね……?」

師匠「……顔色がいつにも増して青白いぞ、大丈夫か?」

王子「平気です、少しばかり寒いだけです!!」

師匠「強がりおって」ゴソゴソ「儂のマフラーも巻いとけ」ポイ

師匠「耳を塞がず喋れるようにもしておけば、顔も隠して構わん……儂は寒ければ魔法で暖まるからな」

王子「……師匠……ありがとうございます」

師匠「さて……どのへんから聞きたい?」


※これっぽっちですみません、次回は今週の後半あたりで※

師匠の過去語り、あまり長くはしない予定です……


※ごめんなさい週が変わっちゃう、でもこの日曜日中に更新あります※

王子「……僕が習った『王家のはじまり』は、都合良く書き換えられたものだった、そうでしょう?」

王子「当然、国民達に知らされた歴史も」

師匠「お前どころか、お前の両親も儂も生まれる前の話ではないか」

師匠「……そこから知りたいならざっくりと話してやるがな、儂の知る範囲で」

王子「お願いします」

師匠「そうだな、まずは……もともと小国は、周辺の国とあまり変わらない大きさだったのは知っているか?」

王子「え、知りませんでした」

師匠「400年ほど前……いや『現在から』600年ほど前、王家の始祖の『英雄』が王になる前の話だ」

師匠「で、その英雄、彼が人間に害をなす魔物から土地や人々を守った……それは嘘ではない」

師匠「そもそも、なぜ魔物と人間の間に争いが起こったかというと……」

師匠「……菫花、今のこの時代の常識は全て、お前が育った230年前から常識だったと思うか?」

王子「はい?」

王子「……いいえ、その……この時代には当時存在しなかったものがたくさんありますし」

王子「人々の生活もずいぶん変わりましたから」

師匠「だよな」

師匠「逆に今は存在が失われたものもあるが、それはさておき」

師匠「魔物の中でも知性があり文化を持つ種族」

師匠「600年前の彼等の『常識』の中には、後の世で言う『迷信』と呼ばれる考え方があった、人間がそうであったのと同じだ」

師匠「簡単に言うと、地表の世界を一度全て滅ぼせば太陽も滅び夜の世界になると、そう思ったらしく」

師匠「……太陽が滅びようものならこの星は『夜になる』どころでは済まされないし」

師匠「魔物でさえ半分くらいの種族は死に絶えるだろう」

師匠「それ以前に、この星の地表、薄皮一枚の上で何が起ころうが太陽はお構いなしだがな」

師匠「ま、自分達が住みやすい土地をもっと増やしたいために、人間に攻撃を仕掛けてきたわけだ」

師匠「儂のような魔術師達は当時から存在してはいたが、上位の……知性を持ち魔法を駆使する種族にはとても敵わず」

師匠「そこで英雄はかなり無茶な方法を選んだわけさ」

王子「……魔物達を倒すためですね」
 

師匠「どうあっても聞き分けのない奴らは、確かに力でねじ伏せ叩き潰さねばならなかったが」

師匠「英雄が魔物と渡り合える力を手に入れた主目的は、『話し合い』をするためだ」

師匠「何しろ魔物の代表という奴……お前も知っての通り、便宜上は人間達に魔王と呼ばれている奴だが」

王子「便宜上ですか」

師匠「そいつは自分が強いと認めた相手でなければ話すら聞かんという価値観だったとか」

師匠「裏を返せば強い奴なら話を聞いてやると……そして見事に魔王と英雄は話し合うことになり」

師匠「魔物と人間は完全に棲み分けることで落ち着いた」

師匠「詳細は省くが、魔物達は自分達が安定して暮らすには充分過ぎる場所で今も生活しているはずだ」

王子「え」

王子「……始祖が結局は魔王はじめ半数以上の魔物を滅ぼしたのではなかったのですか?」

師匠「それさえも都合よく作り変えられた歴史よ」

師匠「逆に魔物の世界では、人間に勝利はしたが地表は棲み辛い土地だとわかった、そんな感じで言い伝えられているだろう」

王子「魔物の世界が、今この時にも存在している……」

師匠「お互い行き来する方法を敢えて破棄したから、あちらからこちらに来ることもなければこちらからあちらへ行くこともない」

師匠「……未来永劫そうだとは誰も保障できんがな」ボソ

王子「」

師匠「独り言だから聞き流せ」

師匠「とにかく英雄の活躍で、彼の故郷含むこの大陸のみならず、世界中に平和は訪れた」

師匠「英雄は周囲から国ひとつ治める王となることを強く望まれ、彼もそれを承諾した」

王子「そのくだりは僕が教わった通りですね」

師匠「……しかし英雄は信心深かった」

師匠「この大陸でもっとも力を持つ教会の熱心な信者であったが故に、魔物の力を自分に取り込んだことを後悔していた」

王子「……で、でもそれはあくまで手段に過ぎないでしょう、人間の世界が壊されてしまえば教会も信仰も成り立たない」

師匠「と、皆も説得したが、それでも彼は自分が手に入れた力の恐ろしさを知るが故に……」

王子「手に入れた力の、恐ろしさ?」

師匠「彼が魔物から得た魔力は、我々のような人間の魔術師の魔力とは異質なものだが」

師匠「英雄と呼ばれるほどの人間だ、本来は魔物のものであった力を使いこなし同時に制御する」

師匠「それは彼が持って生まれ、また鍛錬により研ぎ澄ませた、自身の実力」

師匠「……それでも人間には過ぎたものでもあった、本人がどこの誰より知っていた」

師匠「最初にしたことは持ち得る権力を最低限にするため」

師匠「名目上は自分への罰のため没収されたという形で、周辺国へ自分の領土の多くを分け与え」

師匠「もちろん該当する土地に住んでいた民に対しては最大限の配慮をした上でな」

師匠「あと、自分とまだ見ぬ自分の子孫達に監視役をつけさせた」

師匠「大陸中の魔術師ギルドの総本山をすぐ近くに置いたのだ」

王子「……魔術師ギルドが……王家の監視役……」

師匠「もちろん、常に掲げていた旗印『民のため』が存在理由の主たるものだが」

王子「……ええ、ですから……民が望んだから、ギルドはあの夜……」

師匠「……」

師匠(儂が許可したとは言えマフラーで隠した表情はわからんな)

師匠「……さて、そんなわけで小国とその王家の歴史は始まった」

師匠「英雄改め初代王にも子が生まれ……しかし逞しい肉体を持つ彼とは似ても似つかぬ虚弱な赤ん坊」

師匠「他の虚弱な子供達と違っていたのはその原因だ」

師匠「地表の水や空気や日の光、魔物のいくつかの種族には不快どころか生命を脅かすほどの毒となる」

師匠「初代王は魔物の力と同時に魔物の負の要素まで自分の肉体に取り入れてしまい」

師匠「どちらも彼の血に乗って子へと引き継がれてしまったのだ」

師匠「心身ともに強靭な彼自身にはともかく、生まれたての赤ん坊にはあまりに負担が大きすぎた」

王子「……」

師匠「初代王と魔術師ギルドは協力して対処方法を見つけた」

師匠「……王家の子供が生まれてから数年間、毎月行う『儀式』、お前も受けただろう?」

王子「……ええ、普通は物心つく前に必要無くなると聞きましたが、僕は極端に弱かったから5歳くらいまで」

師匠「成長と共に体力がつき、地表の環境に体質が順応するまでの数年間」

師匠「定期的にある種の魔力を浴びせることで、悪影響を最低限に抑える」

師匠「本来はギルドの高位魔術師がちょちょっと呪文を唱えてやれば済むのだが」

師匠「何故か……我々の時代には、わざわざ勿体つけた動作も取り入れて『儀式』になってしまったらしいがな」

師匠「話を戻して……初代王と当時の魔術師達は代を重ねて血が薄まれば影響も薄れると考え」

師匠「そして初代王はそのまま薄れ行くことを願った」

師匠「……仮説は正しかったが、代を重ねて薄れるのは血だけではない」

師匠「外部の血を取り入れて魔物由来の魔力を薄めながらも、初代王の子孫となる家系が拡がった頃」

師匠「国を統べる王室とそれに近い王家の者は敢えて血縁者同士の婚姻を選ぶようになった」

師匠「教会が禁止している近すぎる血族は避けて、あくまで合法の範囲でだが」

師匠「それでも祖先を何代も辿れば、みな初代王に行き着く」

師匠「初代王の意図に反し、彼の血は、魔物の力を得た代償は、再び濃くなった」

師匠「民や王家の子供に伝えられる歴史が書き換えられたのも、その頃からと言われる」

王子「……代を重ねて薄れたのは、始祖の願い……」

師匠「うむ、その頃の王家には領土を広げたいとか他国への影響力を高めたいとか、とにかく欲が芽生えて来た」

師匠「そのため、かつての英雄の魔力を取り戻したいと考えたのだろう」

師匠「しかし戦闘に使えるほどの魔力を持つ子は殆ど生まれることなく」

師匠「自然な状態では乳児期を乗り越えられない虚弱さだけが引き継がれた」

師匠「しかたなく王家は、英雄の魔力以外の方法で武力を強化する方針に乗り換え」

師匠「一方では英雄の血を残すそのものを目的として、しきたりを作り、血縁同士の婚姻を結び続ける」

師匠「……お前の父と母が従わざるを得なかった『しきたり』だ」

王子「……」

師匠「……ようやくお前の両親の話になるかな」

師匠「儂がお前の父親に初めて会ったのは……」


※ここまででした。次回は今週のどこかで……※


※明日、じゃなかった今日中に更新します…※

……………………

…………

商人の家。

長兄「……ごちそうさま。おいしかったよ、料理の腕が上がったなあ」

長姉「ふふ、ありがとう兄さん」カチャカチャ

長兄「お前が生まれて初めて作った『鱒のムニエル』なんて、油と混じった焦げ臭いほぐし身だったのに……」シミジミ

末妹「えっ?」

次兄「何何、それいつの話?」

長姉「ちょっ、兄さん、そんな昔の話を持ち出して!?」

次姉「……思い出した、兄さんが寄宿学校に行く前の年でしょ、私は今の今まですっかり忘れていたわ」

長姉「12年も前……7歳で作った料理と比べてどうするのよ!!」

次兄「そんな昔なら俺と末妹はほぼ記憶ないよな」

商人「そうだね、あれは夏だったから次兄は4歳になったばかり、末妹は2歳の誕生日も来ていなかった」

長姉「……ばあやに教えてもらいながら作ったけど、フライパンにくっついてどんどん焦げ臭くなってきて」

長姉「焦ってヘラで剥がそうとしたら崩れちゃったの……」

長姉「でも3枚だけよ、残りはばあやが焼いたからきれいにできたわ」

商人「ああ、私とばあやと長兄で、焦げ付いたムニエルを引き受けたんだよ」

商人「でも長兄にはやめておけと私もばあやも止めたのだが……お前ときたら聞かなくてね」

長兄「え? そうだったっけ?」

商人「そうだよ、それで私も根負けして、ばあやに『長兄の気の済むようにしてやってくれ』とね」

長兄「……なんか俺の記憶では、ベソかいてる長姉に無理矢理食べさせられたように……捻じ曲げられていたみたい」

長姉「ひどい!! 私、兄さんが食べると言ってくれたの」ベチーン「すごく嬉しかったのに!!」

長兄「」

末妹「 」
  

次兄「おお……兄さんのほっぺに手形がくっきり」

次姉「わ、私も止める暇がなかった……」

次姉「でもお父さんの言うとおりよ……兄さん『僕が食べるんだ!』と言い張って譲らなかったもの」

次姉「私は小さかったけどそれは覚えている」

長兄「……長姉がベソかいていたのは、間違いないはず」ヒリヒリ

長兄「色々と記憶が混じって、いつの間にか俺の中で無理矢理って……」

長兄「……ごめん、長姉!!」ドゲザ

長姉「……」

長姉「……私は引っ叩いたらスッキリしちゃったみたい」ケロリン

長姉「あのぐちゃぐちゃムニエル、私もばあやに一口だけ味見させてもらったの、ひっっっどい味だった」ベー

長姉「余りの味のひどさに兄さんの記憶が捻じ曲っても……おかしくないかも」

次兄「記憶が歪むレベルって、どれほどの不味さだったのでしょうか……」ゾゾー

末妹「でも長姉お姉ちゃん、本当は小さい時からお料理好きだったのね」

長姉「そうね……料理教室に通うまで、すっかり自分でも忘れていたけれど」

長姉「あの頃から……私、料理好きなお母様みたいになりたいって思っていたのね」

次姉「あら、じゃあ何年か空白があるけど、今もお母様みたいになりたいって思っているの?」

長姉「ええ、お母様のような……奥さんに、ね」

商人「……長姉……」フルフルフルフルカタカタカタカタ

次兄「と、父さんが小刻みに振動している」

商人「……うっうっうっ……長姉、幸せに……幸せになるんだよ……」ポロポロポトポトボタボタボタボタ

長兄「あああ、俺が余計なこと言ったばかりに父さんの変なスイッチが」オロオロ

次姉「ふふ、いいじゃない兄さん」
 

次姉「お父さんもこうやって場数を踏んで精神を鍛えないと、姉さんが本当にお嫁に行っちゃう時にはどうなるやら」

商人「本当に……お嫁に」

商人「……びにゃあああああああ!!」ジョバー

長姉「っちょ、お父さん、お父さんたら!!」アワワ

長姉「やだなあもう、まだ1年くらい? 先の話でしょ、そして同じ町に嫁ぐのよ?」

長姉「それにまだ次姉だって末妹だってお父さんのそばにいるんだから……ね?」ポンポン

長姉(ほら、あんた達も慰めて!!)

次姉「お、お父さん、もう……どんどん天文学者さんと結婚式のお話を進めているくせに、何やってるの」ヨシヨシ

末妹「ねえ、どこに行っても、誰といても、この先もお姉ちゃんはお父さんの娘だもの……そうでしょ?」ヨシヨシ

商人「うううう、お前達……」グスグス

商人「すまんな……悲しいとか寂しいとかじゃないんだ、嬉しいんだよ……」グス

商人「お母さんが天に召されてからも、いつか私に寿命が来ても……」ズル

次兄「あ、父さんこれハンカチっす!!」ササッ

商人「ありがとう」グシュ

長兄「正確には食卓の椅子のカバーでは?」ヒソヒソ

次兄「咄嗟でハンカチは用意できず、でも鼻水が垂れるよりマシです」ヒソヒソ

商人「……私や妻の思い出や教え、こちらが意識していなくてもお前達がこの両親から受け取ってくれた色々なもの」グシュ

商人「それらを確実にお前達が引き継いでくれている……そう思うと……私はなんて、幸福なのだろうと……」ズビー

長姉「お父さん……」

末妹「お父さんやお母様から、引き継いだもの……」

…………
……………………


※ここまで。遅れがちですみません、12月前半は少しだけペースが上がる予定です……※


※更新明日です。作者のカレンダーは月曜始まり、ということで…すみません※

師匠と王子。

師匠「……お前も知っての通り、小国の王族の子供らは」

師匠「王子や王女、王の弟妹あたりは、城から出ることなく多くの家庭教師から勉強を教わっていた」

師匠「お前の母親、そして若くして亡くなったその兄王子達も」

師匠「そして……もう少し王位継承権が下位の者は、多くが近隣国のいわゆる名門校へ留学させられていた」

師匠「お前の父親……お前の祖父の従弟の息子であった彼も、その一人だった」

師匠「現在、この国の王都で最も古い男子校となっている学校に」

王子「……もしかして」

師匠「そう、今の時代は庶民でもそこそこの金と実力があれば普通に入学できるからな」

師匠「あの商人と長兄の母校だよ」

師匠「当時と現在は学校の制度だの教える分野だのなんだの少し違うが」

師匠「とにかくお前の父は13歳でそこへ留学してきた」

師匠「……で、実は、当時から信用ある推薦人と入学試験で上位を取れる力があれば、金持の子供でなくとも入学は可能でな」

師匠「同じ時期に同じ年齢で同じ国から留学してきた少年がひとりだけいた」

師匠「それがこの儂だ」

王子「師匠が……師匠にも、少年時代が……」

師匠「突っ込みどころはそこか」

師匠「儂だって生まれた時から『おっさん』ではないわい間抜けめ!」

師匠「……話を戻す」

師匠「同い年で出身も同じとのことで、儂とお前の父は同じクラスに入れられた」

師匠「子供の頃は王族だの貴族だのとの面識も一切なく、もちろん彼とも初対面でな」

師匠「彼からかけられた最初の言葉はこうだ」

師匠「『授業以外で俺に話しかけるなよ貧乏人』」

王子「 」

師匠「……ま、当時から可愛げはなかったわなあ」

王子「た、確かに……父の言動を思い起こせば、違和感はありませんが……」
 

 


※これだけでごめんなさい…こんな感じで少し師匠の昔語りを…※


※諸事情で思ってた以上に多忙でした、ごめんなさい※

※明日か明後日に少し更新します……※

師匠「……当時は次代の王となる3人の王子達の『はとこ』」

師匠「将来、自分が王位を継ぐなどとは夢にも思っていなかった彼は、どちらかと言えば気ままで奔放な性格で」

師匠「……第一王子は3歳上、第二王子と第三王子は2歳上の双子、王女は3歳下」

師匠「割と年代が近いのもあり、幼い頃から彼等は交流もあったが」

師匠「とことん生真面目な兄王子達とも、対照的に周囲から甘やかされ我儘に育った末の王女とも合わなかったらしく」

師匠「親しくなった学友に漏らしていた愚痴や悪口は、巡り巡って儂の耳にも入ってきた」

王子「僕にとっての伯父上達や、母上の」

師匠「優秀と言われた王子達と事あるごと比較される愚痴、幼いながらも気位の高い王女に対する……こちらは子供らしい悪口」

師匠「とりあえず、彼は自分の家も王家とも離れた異国の生活で、ようやく羽を伸ばせたらしい」

師匠「……伸ばし過ぎて、色々あったが」

王子「」

師匠「聞きたいか?」

王子「は、はい、両親の過去を知りたいと言い出したのは僕ですから」

師匠「最初の2年くらいはそれこそ子供らしい悪戯を……悪童仲間と一緒になって」

王子「子供らしい」

師匠「礼拝の最中に開いていた窓から、ヒキガエルを20匹ばかり放り込む」

師匠「お前の父親は見張りを進んで引き受けたらしいが、後で思うにカエルに触らんで済む係だな」

師匠「他にはそいつら一同で昼休みに酒を飲んで午後の授業は丸々サボるなど、しょっちゅうだった」

王子「こ、子供らしい……?」

 

師匠「とまあ、小さな悪戯は枚挙にいとまがなく」

師匠「やがて15、6歳にもなると、まあなんだ……主に女関係かな」

王子「お」

師匠「……お前も知っての通り、彼の右目は水色で左が赤のひとみ」

師匠「左右の色違いも血の透けて見える虹彩も、小国の王族には時々現れるが、留学先ではあまりに目立つと」

師匠「国を出る時、侍医達と当時の魔術師ギルドが彼の左目に魔法的処置を施した」

師匠「隠蔽魔法の応用でな、左目も右目と同じ水色に見えるというものだ」

師匠「しかし、銀髪と青い目、加えてあの容貌、十代にして今のお前より長身、それだけで十分に人目を惹き」

師匠「ものすごくわかり易く言うと、女にもてた」

王子「」

師匠「更に言うなら、彼も選り好みはしたが好みのタイプには、それなりに相手をしてやったそうで」

王子「 」

師匠「そんなこんなで、留学期間を終えて17歳で帰国した際には、彼の名を呼び泣きながら馬車を追う若い娘達が……」

師匠「…………」

師匠「……おい大丈夫か? 気絶してないか?」ユサユサ

王子「だ、大丈夫です、言葉が出ないだけです……」

王子「……しかし、そんなに派手な女性関係で、その……あの、大丈夫……だったのでしょうか……」

師匠「ん? 異国の地にお前の腹違いの兄や姉がいたかもという心配か?」

王子「そ、そんな露骨に」アワワ

 

師匠「彼だけではなく、王族の長期留学の際には決まった魔法もかけるしきたりになっていてな」

師匠「帰国して魔法を解除するまで、もしも『そういうこと』になっても身籠らせることはできなかったのだ、安心しろ」

王子「……そんな魔法もあったのですか」

師匠「いわゆる尻軽な連中にしてみれば喉から手が出るほどの『便利な』魔法だろうが」

師匠「準備も魔力の消費も半端ではないし」

師匠「身体の構造を大きく変えてしまう魔法ゆえに、副作用もある」

師匠「十代の若者、一生に一度、数年間限りという条件が揃わんとな」

師匠「歴代の王族の男子が監視の緩い留学に出る年代が、だいたい決まっていたのはそのせいだ」

王子「でも、そこまでしなければならなかったのは」

王子「小国の英雄……初代王の血をひく子を、異国の民として産ませるわけには行かなかったからですね……」

師匠「ああ、魔法の補助なしではすぐに命を落とす子供、あるいは万が一、奇跡的に幼年期を乗り越えて成長する子供」

師匠「どちらであっても、な」

王子「……この先は、帰国してからの話ですね」

師匠「うむ」

王子「師匠も同じ時期に帰国を?」

師匠「そうだ、ほぼ同じだな」

王子「…………師匠はどんな少年だったのでしょう?」

師匠「儂はこう見えても真面目な優等生だった、成績上位の維持は後見人が儂に課した援助の条件だったからな」

師匠「……って、儂の話はさて置いて」

師匠「帰国の翌年、彼が18歳になった年だ……」

 
 


※次回は今週の後半で…近頃タイプミスが多くて時間かかります…※


※作者です※

こまごました諸事情が重なって、予定よりも何かと余裕がなくなってしまい、ご覧の有様です……
次回更新はとりあえず年内です
少しの間、更新をお休みして書き溜めて来ます……お待ちの方がいましたら、本当に申し訳ありません
 


※ごめんなさい、年内更新はけっきょく無理みたいです……嘘こきました※

本編はキリのいい部分までは一気に更新したいので(書き溜め中)年明けは閑話休題なエピソードで始める予定です。
それでは皆様、良いお年を……


※あけました。ことよろ。近日中に更新します、報告のみでした……※

閑話休題。執事とも出会う前、独り暮らしの野獣……

…………

野獣「『よくも大切なバラを折ってくれたな、この代償はどう払う!?』」

野獣「……ううむ、いまいち……かな?」

野獣「幸い、この前ここに迷い込んできた旅人はバラに手を出さなかったが」

野獣「いつかそんな人間が現れた時のために、準備はしておくに越したことはない……よな?」

野獣「しかし人を怖がらせるのは父の真似をすればなんとかなると思っていたが、意外とうまく行かないものだ」フゥ

野獣「……」

(師匠「そしてバラの花が折り取られた時…正確には、バラを欲した人間が花一輪でも手にした時」)

(師匠「代償としてその日のうちに相手に手を下さなければ、残りのバラも枯れ、枯れ切った時にお前も死ぬだろう」)

野獣「……お前の命で償え、と、告げるまではまあ……できたとしても」

野獣「問題は……私が、本当に、その人間に手を下すことはできるのか、と……」

野獣「この腕、この爪、私の背丈なら熊のように振り下ろせば……普通の人間ならばひとたまりもなかろうが」

野獣「できるのか? この手で人間の脳天を、首筋を、叩き潰す」

野獣「この爪で人間の喉を、腹を、引き裂けるのか?」
 

野獣「……銃でも手に入れようか、一思いに、苦しませず」

野獣「それとも……」

野獣「直接殺傷能力のある魔法は使えないが、眠らせることはできる」

野獣「いくつか魔法を組み合わせれば、眠らせたままでそっと心臓を止められないか?」

野獣「いや、それよりも眠らせてから毒薬を飲ませようか?」

野獣「苦しまずに逝ける毒……まず毒薬の調合の本が必要か」

野獣「うちにある調合の本は、美味しい薬草茶や治療薬ばかりだからな……」

野獣「……」

野獣「……相手と心が通じ合い、信頼が生まれたら、バラの呪縛は解けて相手を殺さずに済む」

野獣「が、私にとっては……そちらの方が容易だとも思えない……」

野獣「もしも『その日』が訪れたなら」

野獣「バラには申し訳ないけれど、共に枯れて朽ちるしか……私には選べないのかもな……」

…………

まだ、執事達という守るべき『家族』もいなかった野獣……

……………………


※お久しぶりです。本編も近いうちに※

気が向けば今回の「続き」、商人が屋敷に泊まった時の舞台裏を書くかも(書かないかも)※

閑話休題。森で迷った商人が野獣の屋敷を訪れた夜……

…………

野獣「そうか、旅人は眠ったか」

メイド「ベッドに入るなり、ぐっすりでした」

野獣「ごくろうだった、メイド、庭師」

庭師「へへ、あの人間さん、僕らの存在にはまるで気付きませんでした」

庭師「家具に隠れながら忍び足で歩くのはちょっと楽しかったです」

メイド「私はちょっと大人の男性の人間さんは怖いから、部屋の外で庭師君を待っていましたけど……」

メイド「でもなんだか、お腹のプヨッとしたのんびりした顔の人間さんです、よく見たらそんなに怖くなかったですー」

野獣「はは、では朝の目覚めの茶はお前が枕元に運んでやれ」

野獣「さあ、こんな遅い時間までご苦労だった……もうお休み、メイド」

メイド「はい、おやすみなさいませ!」ペコリン

庭師「じゃあ僕、今度は馬車に地図を置いて来ますね!」

野獣「頼むぞ、終わったらそのまま部屋に戻って休んでいいからな」

庭師「はい!」ピュン

執事「……わたくしが行ってもよかったのですが、馬を怖がらせたくはないので」

野獣「仕方ない、森での様子を見ていた庭師の話では、狼の遠吠えに怯えていたらしいからな」

料理長「では……お客様に明日の朝はミルクで煮出した紅茶を振舞いましょうか」

野獣「そうだな、頼むぞ」

野獣「……」
 

野獣(本当に、何事もなく……旅人を送り出してやれれば良いのだが)

執事「ご主人様、お疲れですか? 黙り込んだりして」

野獣「ん……ああすまん、考え事をしていた」

野獣「人間を屋敷の中まで招き入れ、一泊の宿を与えたのは今回が初めて、しかし」

野獣「付き合いの長いお前達には話したこともあると思うが」

野獣「執事もまだいなかった頃、森に迷い込んだ人間に、食事と一時の休息を提供したことは2回ばかりあってな」

執事「ええ、そのお話でしたら確かに」

料理長「最初はお祈りをする仕事の人、二度目は犬を連れた二人連れ、でしたよね?」

野獣「そうだ」

執事「……ご主人様は『そのあと』の話が気がかりなのでしょう?」

執事「わたくしは忘れてはいませんよ、ご主人様に従います」

料理長「わしも覚えていますよ」

執事「ただ、お話を伺った時点との違いは、庭師とメイドの存在ですが」

野獣「……」

野獣「そうだな、あの時私は……」

……

(野獣「……もし今後この屋敷を訪れた人間が裏庭のバラを折り取ったら」)

(野獣「その時には私はその人間を……罰さなくてはならない」)

(野獣「厳密に言うと、罰さなくてならない可能性ができる」)

(野獣「理由は明かせないが、いちど屋敷の門に入ることを許した人間に対して、裏庭を遮断するのは不可能で」)

(野獣「だから私が人間を罰するかどうかは」)

(野獣「バラ園に立ち入るのか、バラに手を出すのか、その人間の行動……意思次第というわけだ」)

(執事「罰する」)

(野獣「……罰する場合は、その者の命を奪うことになるのだよ」)

(料理長「ご主人様が、人間を」)

(執事「……穏やかな話ではありませんが、それがご主人様にとって必要であるのなら」)

(執事「当然それを妨害はしませんし、お手伝いできることがあれば」)

(料理長「わしもです、ご主人様のためであれば、なんでもお申し付けください」)

(野獣「……ありがとう」)

……

野獣「……お前達はいつでも詳しい訳など聞かずとも、私に従ってくれる」

野獣(実際に罪を犯すのは、手を汚すのは私だけで良いが)

野獣「明日……万が一の際には、ほんの少し手を貸してもらいたい」

野獣「あくまでも万が一、残り九千九百九十九は何事もなく過ぎるとしても、だ」

野獣「料理長よ」

料理長「は、はいっ」

野獣「明日の朝、客人が寝室から出たら、庭師とメイド……あの子達を裏庭からできるだけ遠い部屋に連れて行ってほしい」

野獣「何か仕事を与えて、ふたりともお前の傍から離さないでくれ、執事か私が呼びに行くまでは」

料理長「……かしこまりました」

野獣「執事」

執事「はい、ご主人様」

野獣「お前には私の近くに控えていてもらいたいが」

野獣「もしも私が裏庭に出る必要が起きたならば、私が呼ぶまでは出入り口から顔を出さずに待機していてくれ」

執事「はい」

野獣「……お前には何を頼むかはその時になってみないとわからんが」

野獣「人間の亡骸を運び出しどこかに埋める……最悪の場合はそれを手伝ってくれ」

執事「仰せのままに」

野獣「まあ、万が一の話だからな? ふたりとも」

執事「ええ、今の心構えが無駄に終われば、それが一番よい結果に決まっています」

料理長「メイドちゃんが恐れないほど優しそうな人間ですよ」

料理長「人間の世の中できつく禁じられている盗みを働くようなお方とは思えません」

野獣「そう、あの実直そうな、しかもバラがそう珍しくもない程度には裕福そうなあの男が」

野獣「他人の庭のバラをもぎ取るなど、するはずもないと……信じたい」

野獣(……それでも、起きてしまったら?)

野獣(その状況で、彼を生かし且つ屋敷での暮らしを守れる道を探れるだろうか?)

野獣(……私はもう簡単には死ねない、執事達と出会ってしまったから)

野獣(なのに……森で迷う旅人を放ってもおけなかった)

野獣(どうか、九千九百九十九であってくれ)

野獣(今となっては願うしか、祈るしかできない)

野獣(何事も起きるな、無事に過ぎてくれ、と……)

…………

万に一つが起きる、その前夜の野獣たち……

……………………


※結局書いてしまった、前回の続き。次回更新は本編です、たぶん※


今にして思えば、あの商人が花泥棒なんてなぁ
魔法の力で心も惑わす美しさだったのかな

次兄(実際に を犯すのは、手を汚すのは私だけで良いが)


※生存報告。こんどの金土日のどこかで、とりあえず更新あります※


>>435 >>436
登場人物の性格よく見ててくれて嬉しいです


※更新2月5日、とりあえず5レス以上は。時間帯未定…今夜は寝ます※

師匠「お前の母親,当時の王女」

師匠「彼女の15歳の誕生日を祝う祝宴が城で開かれた」

師匠「王族達……もちろんお前の父親も呼ばれ、あとは有力者連中」

師匠「魔術師ギルドの幹部もそこには含まれる」

師匠「……うち一人が儂の後見人でな、18歳の儂を自分の助手兼従者としてその場に連れてきた」

王子「師匠のそのまたお師匠様ですね」

師匠「幼いうちから魔法の修行は積んでいたとはいえ、庶民の生まれのまだまだ駆け出しの魔術師」

師匠「煌びやかな場所でお歴々に囲まれ、なんとも居心地の悪い思いの儂に向かって」

師匠「魔術師達を除けば、その場では数少ない顔見知りの『彼』が声をかけてきた」

師匠「居心地悪さにとどめを刺しにな」

王子「……ですよね」ハァ

師匠「とはいえ儂は少しばかり反骨心の強い若者だったから」

師匠「周囲の評価ではひねくれているとか天の邪鬼とか表現されたが」

師匠「彼の一言で逆に開き直ってどーんと構えて過ごす覚悟が出来たので、そこは少しだけ感謝しとるわ」

王子(そんなに若い時分からこんな感じだったのですね師匠)

師匠「……また脱線したな、それで……」

師匠「儂がお前の母親の姿を間近で見たのはその日が初めて」

王子「……」

師匠「確かに美人ではあった、お前とよく似た髪の色と目鼻立ち、違うのはくっきりと青いひとみの色と全体的な印象」

師匠「客観的に見ても、周囲がちやほやするのは理解できる」
 

師匠「……そんな彼女を見て、お前の父親がつぶやいた言葉、儂は自分の耳で聞いた」

師匠「『いい気なものだ、口ばかり達者で一人では何にも出来ないお人形さんが』」

王子「……」

師匠「お前の祖父の代、儂の師匠は王城によく出入りしていて」

師匠「子供の頃からの彼等のことも知っていたし、殊のほか仲が悪かったのがお前の両親だったことも知っていたので」

師匠「儂にはこっそり教えてくれていた」

師匠「尤も、その頃はさすがにどちらも露骨に態度に出すほど幼くはない」

師匠「彼も低い声で呟いた一言が、儂の耳に入っていたとはまさか思うまい」

王子「……まさか、何か魔法を使って父の呟きを……?」

師匠「阿呆、ギルドの幹部にも囲まれた公式のお堅い場で、助手身分の魔法使いが勝手に呪文の詠唱など出来るか」

師匠「通りすがりにたまたま聞いてしまっただけだわい」

師匠「彼は何かと神経質な男ではあったが、自分より下に見ている相手に対しては、だいたい油断していたからな」

王子「……」

師匠「そろそろ、そのふたりが結婚に至った話をしようか」

師匠「……お前がよければ、の話だが?」

王子「続けて……ください」

師匠「では歴史の授業の復習」

王子「は?」
 

師匠「第一問、今のこの『とある国』と、西の島国の戦はいつ始まったか?」

王子「え、えーと……僕が生まれた年の6年前だから……」

王子「今から256年前、です」

師匠「うむ、では第二問」

師匠「……当時、とある国の他に小国と国境を接していたのは?」

王子「……北の大国、いえ、後に北の大国の領土となる『山の王の国』です」

師匠「そうだ」

師匠「山の王の国は我らの小国よりは大きかったが、それでも周辺に比べれば小さく」

師匠「数百年ばかり周辺国と争いを繰り返した末に、山岳地帯のみが手元に残った……そんなところだな」

師匠「山の王には『とある国』の肥沃な大地は手が出るほど欲しいもの」

師匠「そこに件の戦の知らせが飛び込んできたものだから」

師匠「とある国が西の島国との戦に戦力を割いている状況を好機と見なし」

師匠「隣接するとある国の北半分を手に入れるべく」

師匠「二つの大きな国同士の戦が始まった翌年に」

師匠「まずは通過点にある小国を伸(の)して潰して魔術師ギルドの総本山も手に入れてから意気揚々と本命を攻め落とす!」

師匠「……山を越えて乗り込んで来た軍隊の総大将はそう宣言しおった」

王子「そ……そんな都合よく事が運ぶものでしょうか……」

師匠「お前ですらそう思うのだから」

師匠「そのような舐めた作戦を取った理由、山の王には山の王の事情とやらがあったのかもしれん」
 

師匠「しかし攻め込まれた側はそんなもの思い遣ってやる義理もない」

師匠「小国は全力で迎え撃つしかない」

王子「記録上、魔術師ギルドが関わった最後の戦争、ですよね?」

師匠「……などと呼ばれてはいるが」

師匠「お前が少年時代に本で読んだ、英雄と魔術師対魔王軍の時のような……派手な魔法戦はなかった」

王子「派手な魔法」

師匠「瞬時に町ひとつ焼き尽くす大火炎魔法、沖に見える島まで千人の兵士が渡れる氷の橋を作れる大氷結魔法……」

王子「『大』が重要なのですね?」

師匠「その他、あまりに強大な破壊の力を持つ攻撃魔法の数々だ」

王子「ということは、師匠もそのような魔法は使えないのですか?」

師匠「お前はお前の使った心を読む魔法がギルド最大の禁忌だと思っているだろうが、更に上の禁忌がある」

師匠「使えば罰せられるどころではない、もちろん習得からして禁じられてはいるが」

師匠「秘密裏に習得できたとて、いざ使うために詠唱を始めた瞬間にその者の心臓は止まる」

師匠「魔術師ギルドの正式な構成員になる際、そのための小さな魔方陣を心臓に刻まれるからな」

師匠「当然、儂にも刻みこまれているぞ」

王子「……使ったから罰を受ける、どころではないのですね」

師匠「お前の始祖、英雄王の時代は使われていたが、彼の在位中に破棄された」

師匠「英雄王いわく……これから後の時代の戦とは、人間同士のものだけになるだろう」

師匠「人間同士の戦いに、あまりにも強大な呪文は必要ない」

師匠「王や魔術師達に、それらを破棄する理性のある時代のうちに……と」
 

師匠「魔法に取って代わって、人間は武器をもっと発達させるだろう、とも」

王子「始祖達の、悩んだ末の決断でしょうね……」

師匠「それが本当に正しかったのかどうか、儂には正直わからんが」

師匠「また脱線してしまったな……要するに、我々の生まれた時代の魔術師達も」

師匠「攻撃魔法が得意と言っても……目に見える弓を持たぬ射手、目に見える銃を持たぬ銃士、に過ぎなかった」

師匠「しかも実際は補助魔法や治癒魔法のほうが重宝された」

師匠「要は最前線で戦う兵達の支援だわな」

師匠「……王が、魔術師達を戦場に駆り出しておきながら最前線に立たせ数を減らすのを惜しんだ、とも言われたし」

師匠「当時のギルド長がそのように王と約束を交わした、とも言われたが」

師匠「儂の師匠もそのへんは教えてはくれなんだ」

師匠「なんにせよ……儂にもあまり楽しい思い出ではない」

王子「……ですよね」

師匠「ので、手短に」

師匠「この戦には、お前の父親も、母親の三人の兄達も従軍していた」

師匠「戦の後半になるにつれ、小国は優勢に傾くという戦況だったが」

師匠「第三王子、彼は優秀なれどもやや短慮なところがあって……悪く言うなら『功を焦った』」

師匠「早い話、そのために命を落とし……双子の弟を助けようとした第二王子は深手を負う」

師匠「……ほどなく山の王の国を退ける形で一年間続いた戦は終わり」

師匠「お前の父親と第一王子はほぼ無傷で王都に戻れたが、ついでに儂も」
 

王子「……しかし第三王子は亡くなって、第二王子は……」

師匠「どうにか生きては戻ってきたが、起き上がることもできぬまま一ヶ月後には亡くなってしまった」

師匠「当時の王、お前の祖父の悲しみはどれほどの物であったか」

師匠「戦の後に国内が落ち着く頃には、病の床に就いてしまった」

師匠「その代行を務めたのは言うまでもなく第一王子」

師匠「病床の父、悲しみにくれる妹、戦の直前に結婚した妻、そして何より小国の民を」

師匠「それらが一気に彼の肩に」

王子「……」

師匠「元より、物心つくと同時に次代の王としての自覚と覚悟は持ち続けていたのだろうし」

師匠「陰では父親以上の立派な王になるだろうと、誰もが期待していただけはあった」

師匠「周囲の助けを借りつつ、少なくとも無難にはやるべき事柄をこなしていた」

師匠「一方で、王女には結婚の予定が前からあったが、戦と、二人の兄の喪に服すため、婚礼は延期され続けた」

師匠「……王族は異国人と、そうでなくても存在が認められない『隠し子』を持つことは許されなかったが」

師匠「正式な婚姻を結ぶのであれば、異国へ嫁ぐことは問題なかった」

師匠「お前の母は、『とある国』の第二王子……西の国との戦で成果を上げたその人物と、婚約していた」

王子「え……それって確か、南の港町にある、『英雄の像』の」

師匠「ああ、彼がのちに小国の民が安全に暮らせるよう尽力してくれたのは……果たして偶然かどうか」

王子「でも、母とは結ばれることはなかった……」

師匠「そうだ、王女の兄も妹のため手を尽くし、先方は何の問題もなく喪が明けるのを待ってくれるはずだったが」
 

師匠「その矢先、王女の兄さえも父親に先立ち逝ってしまった、理由は知っているか?」

王子「……一番上の伯父は事故で、とは聞きましたが、詳しくは」

師匠「彼は部下や下々の者にも思い遣りのある人物でな」

師匠「例えば国の大きな事業の現場に赴いて労いの言葉をかける、その行為が仇になった」

師匠「小国にあった『白い月の橋』を覚えているか?」

王子「ええ、僕が生まれる前からあって、今も残っている大きな橋でしょう?」

師匠「うむ、実は件の戦で一度は壊された橋でな、戦後に掛けられた仮設橋を本格的に掛け直す工事が始まったのだが」

師匠「嵐の日に現場に慰問に訪れ……土砂崩れに巻き込まれた」

王子「……」

師匠「お前の祖父が後を追うように亡くなったのは言うまでもなかろう」

師匠「そして、唯一の先王の実子となった王女は、異国へ嫁ぐことは叶わなくなり」

師匠「婚約は破棄された」

王子「その時の、『とある国』の王子様や王様は怒らなかったのですか?」

師匠「万一、王女が新しい小国の王妃となる場合はこの婚約は破棄される」

師匠「これは婚約当初からの条件だったので……国同士は『恨みっこ無し』」

師匠「当人の想いは置いといて、だがな」

王子「……」

師匠「あとはお前も知ってのとおりだ」

師匠「存命で、なるべく直系に近くありながらも王女の夫となれるほど離れた血筋の、男の王族」

王子「……父しかいなかったのですね」
 


※小休止。続きは数時間後に※

王子「それもまた……当人達の想いは置き去りにして」

師匠「……」

師匠「正直……周囲も、人柄や適性の面で先王や第一王子には及ばないと充分理解はしていた」

師匠「当人達もお互い気の進まぬ婚姻ではあったが逆らえるはずもなく」

師匠「二人とも自尊心と義務感はあった、これからは国を支配する存在として生きなくてはならないとは決意したのだろう」

師匠「だから、世継ぎとなる子を成すのも必要だと理解していた」

王子「師匠」

師匠「ん?」

王子「……僕を身籠った頃の母は……父は……」

王子「何を、思った……でしょう……?」

師匠「ふむ……」

師匠「お前の母親が身籠った頃が、お前の父が王になって最も王宮の雰囲気は良かった頃かもしれん」

師匠「立て続きの兄や父の死、婚約破棄、それらからようやく王妃が立ち直ってきた時期でもあり」

師匠「亡くなった父や兄とも血の濃い世継ぎが生まれるのは喜ばしかったに違いない」

師匠「先王の直系ではなかった王も」

師匠「先王の孫である子の父となることで、その引け目を払拭できると思ったのだろう」

王子「……でも、期待されて生まれて来たのは……」

王子「今ならわかりますよ、比べられた義兄達に負けないほど優秀な王子が息子ならば、父はもっと僕を」

王子「自分の兄達の生まれ変わりのように優秀な息子ならば、母はもっと僕を……」

師匠「菫花……」
 

師匠「……儂が知る、お前の生まれる前の両親の話、は、これで終わりだ」

師匠「お前に接していた両親の様子は、お前が誰より知っている」

王子「ええ、そうです」

王子「二人とも、あの舞踏会の夜まで、最期まで……」

王子「……最期……まで……」

師匠(声が震えているな)

王子「……我儘に付き合ってくださって、ありがとうございました、師匠」

王子「想像していた両親と……だいたい同じでした」

王子「僕がそばにいるのも構わず、母が時々つぶやいてた独り言」

師匠「?」

王子「繋ぎ合せると、こんな感じでした」

王子「『上のお兄様の奥方、聡明なお義姉(ねえ)様、今は修道院に入っておられるけれど』」

王子「『お義姉様とお兄様との間にお子さえ生まれていたならば、今ごろ私は……』と」

師匠「お前……」

王子「…………父にはもっと面と向かって色々言われました」

王子「その中には、僕を結婚させて生まれた孫にこそ期待をかける、とも」

王子「全ては仕方がなかったのです、次々と周囲で悲劇が起きて、自分達にはどうすることもできなくて」
 

王子「望まずに国の頂点に立たされた二人の……期待をかけた王子が、期待外れと来ては」

王子「人間として、八つ当たりくらいしたくもなりますよね?」

師匠「おい、菫花」

王子「ええ、その八つ当たりの対象が何より大切な国民達なんて、それは決して許せません」

王子「王としても、人間としても……それは僕も充分わかっています、230年……いえもっと前から」

師匠「……親としてだけは、少しでもまともな面もあったとか、期待していたか?」

王子「そっそんなつもりでは!!」ブンブン

王子「そんなつもりでは……いいえ……だけど……」

王子「……もしかしたら両親の事が、少しは理解できるようになるかも、とは、期待したかもしれません……」

師匠「両親について、振り切れたわけではなかったのだな」

師匠「ま、それも当然か」

王子「……おかしいですよね、今の僕は」

王子「野獣の代わりに、どこにでも行ける自由を手に入れて」

王子「血は繋がらなくとも僕には勿体ないほどの家族ができて、素晴らしい友達もできて」

王子「今までにないほど幸せなのに……まだ、過去に囚われている……なんて」

師匠「……」フゥ

師匠「……今のお前は、ただ自分の過去と上手に折り合いをつけたい、それだけなのだ」

王子「……折り合いを……?」

師匠「過去の出来事は、忘れることはできても消せはしない」
 

師匠「しかしお前からは前向きにしか見えない人々だって、過去を綺麗さっぱり忘却したから前を向けるわけではない」

師匠「自分の過去とどうにか上手くやる方法を見つけたから、前を向けるようになっただけだ」

師匠「お前はそれを見つけるのがド下手なので、何度も行きつ戻りつしながら足掻いている、それだけさ」

王子「……」

師匠「……いずれ話すつもりではあったが」

師匠「お前の両親の最期がどうだったか、気にはならんか?」

王子「……!!」

王子「そ、それは……師匠があの夜、教えてくださった以上のことが……!?」

王子「師匠達は、ふたりの心臓が止まるまでの一瞬の間に『悪夢』を見せた」

王子「その夢の中での『数ヶ月間』で、国に革命が起き王と王妃は捕えられ裁判にかけられて」

王子「民衆の手によって『彼らの行いに見合った最期』を遂げた、と……」

師匠「嘘ではないが、あの状況では可能な限り端折って話さねばならなかった」

師匠「お前の……お前がどう捉えるかは、お前の勝手」

師匠「この話はお前にとって救いになるとは限らん、却って苦しむかも、それは儂には判断できん」

王子「……」

師匠「……どうする?」

王子「……教えて……ください」

師匠「……わかった」

…………
 


※ここまで。次回は師匠の語りでなく回想シーン形式で……王と王妃の過去話だけに、内容暗くてすみません…※

過去の出来事、王子20歳の誕生日、舞踏会の夜。

魔術師ギルド幹部…以下「幹部」

幹部2「……王と王妃はこのまま、『革命の悪夢』の中で死ぬ、もう後戻りはできん」

幹部1「王子はどうだ?」

幹部3「予定通り、両親の命が尽きるまでは目覚めない……我に返った時には過ぎた時間を一瞬にしか感じないだろう」

師匠(=幹部4)「本当に、心を読む魔法を使ってしまうとは、な……」

幹部3「幹部4……王子のほうも、もう後戻りはさせられない」

師匠「ああ、百も承知だ」

幹部3「……」

師匠「幹部1、そろそろ良いか?」

幹部1「そうだな、彼等の悪夢も終焉に近づいているだろう」

幹部2「既に記憶の中では数か月間の牢獄生活を送っているはずだ」

幹部1「いま王妃の暗示の『一部』を解いた、幹部4の言葉にだけは反応するようになっている」

師匠「わかった、では……」

師匠「……王妃様」

王妃「だから私は……止めたのよ、一のお兄様……あの嵐の日……」ブツブツ

王妃「なぜ世継ぎの王子自ら、橋を造る人足達を労いに行かなくてはならないの……」ブツブツ

師匠「王妃様?」

王妃「」ハッ

王妃「……誰? 看守ではなさそうね……では処刑の執行人かしら?」

師匠「いいえ、以前にお会いしたことがありますよ」

王妃「ああ……魔法使いね、父王の代に王宮に出入りしていた老魔術師の弟子で、王の留学先での『学友』だとか」

師匠「よく覚えておいでで」

王妃「こんな監獄に足を運んで、惨めな囚人を見物に来たの?」

師匠「先ほど、何かつぶやいておられたようですが……?」

王妃「あら、魔法使いを相手に懺悔をしろ、と」

王妃「ふふふ……心底、惨めなものね……どんな重罪人も、処刑の前に教会の司祭を寄越して貰えるでしょうに」

師匠「……ええ、私は貴女のため祈ることはできません、ただ少しの間お話し相手になれるならば、と……」

王妃「なんのつもりか知らないけれど……よくよくの暇人なの?」

王妃「でも確かに、ひととき気を紛らわすのも悪くはないかも」

王妃「それに……地獄だって今の状況に比べれば……少しはマシでしょうね、ふふ……」

師匠(少なくとも、生き延びる可能性は諦めているようだな)

師匠(彼女の記憶では、どんな『数か月』を過ごしたのやら……)

王妃「暇人の魔法使いや、私の一番上の兄……先王の第一王子がなぜ亡くなったか、知っていて?」

師匠「はい、存じております」

王妃「私は止めたのよ、こんな嵐の日に、橋を造る現場へわざわざ慰問に行くことはない、と」

王妃「でもお兄様は『こんな日だからこそ、私が直に励ましの言葉を掛けなくてはならないのだ』と」

王妃「こうも言われたわ、『父上も我々三兄弟も、幼くして母を亡くしたお前を不憫だと甘やかしすぎた』」

王妃「『今さら私にはどうもしてやれそうにないが、隣国の第二王子に嫁げば色々とお前の世界も開けるだろう』」

王妃「『私よりずっと素晴らしい、自国の民の事をよく考えておられる王子だから』って……」

王妃「それが、一のお兄様との最後の会話だった」

王妃「ねえ魔法使い」

王妃「お前は兄の……世継ぎの王子としての最後の行いを愚かだと思うかしら、それと立派だと思うかしら?」

師匠「国を背負う者として、実に立派な行いだと思っております」

師匠「……直後の出来事は非常に残念でしたが、それはどなたの落ち度でもありません」

王妃「やはり、お前もそう答えるのね」

王妃「……お兄様はあの日、行くべきではなかったと言っていたのは私を含め二人だけ、誰だと思う?」

師匠「……お兄上様の、奥方様ですか?」

王妃「ふふ、違うわ」フルフル

王妃「お義姉様は強くて聡明で立派な方よ、お兄様の選択を他の誰より正しかったと信じている」

王妃「私と子供の頃は会えば喧嘩ばかりしていた、相性最悪の、あの男……私の夫、国王よ」

師匠「王が」

王妃「『民は国のために在るのだから、国のために働くのは当然だ』と」

王妃「『国はすなわち王なのだから、危険を冒してまで次代の王から民のご機嫌伺いに出向く必要などなかったのに』と」

王妃「……後から考えたら」

王妃「一のお兄様が亡くなったせいで自分の人生を変えられてしまった腹いせとしか思えないけれど」

王妃「『兄上を誇れ』と言うばかりの周囲の慰めより、彼のその言葉に、私と同じ、愚かで身勝手で見識の狭い彼の存在に」

王妃「私は慰められたの……」

師匠「……」

王妃「そんな王家が国を支配しているのですもの」

王妃「二人とも人生で何かひとつでも思い通りにしたくて、そんな二人がこの小さな国で『一番偉い人間』だった」

王妃「そうよ、民を、国を、玩具にしていたの」

師匠「王妃様……」

王妃「その通りでしょう? だから民の怒りが今の有様を引き起こしたのでしょう?」

王妃「この期に及んで言い逃れもしなければ誰に許しを斯うつもりもないわ、結末は同じですもの」

王妃「夫も……王も、この監獄のどこかにいるのでしょう? もうずっと会っていないけれど」

王妃「それとももう死んでしまった?」

師匠「いいえ……王妃様と同じような状況におられますよ」

王妃「お前は王とも話をしたの?」

師匠「……これから伺うつもりです」

王妃「そうなの、それではしっかりと話を聞いてあげてね」

王妃「あの人はお前の事が、本当は嫌いではなかったようだから」

師匠「……っ!?」

王妃「あ、その理由までは私はわからないから、質問なんか受け付けないわ。知りたかったら本人に聞くのね」

王妃「だからそろそろお行き、役人の許可を得てはいるのだろうけど、私もこれ以上話すことはないもの」

王妃「それに少し疲れた、一人になりたい」

師匠「……王子様のことはお聞きにならないのですね」

王妃「やめて」

王妃「せっかく王子の話題が出る前に会話を打ち切ったのに」

王妃「両親の所業の巻き添えで首を撥ねられるあの子のことなど考えたくもない、思い出したくもない!」

師匠「母親としては当然の感情です、しかし」

王妃「違うの、王子を可愛がっていたお前に、最後だけは愛情深い母親だったとか思って欲しいのではない」

王妃「お兄様達にも流れていた父上の血を、その孫であるあの子で絶やしてしまうのが辛い」

王妃「あの子のそのまた子供は、もしかしたらお兄様達のように賢く強いかもしれない、それが潰えるのが悲しい」

王妃「ご先祖様達だって、無能な王の後に名君と呼ばれる王が出たことだってあったでしょう?」

王妃「あの子の、王子の罪は……罪があるとすれば、弱かったことだけ、親に逆らえなかっただけ」

王妃「民に対し処刑されるほどの事はしていないわ、できないわ、あっ、それに貧民の娘とも友人だったのよ!?」

王妃「そうだ魔法使い、庇ってあげられないの? お前はあの子を」

師匠「王妃様、王子……様は、民に対する罪を負わされてはおりません」

師匠「ただし残念なことに……魔法使いとして、我々に対する罪を犯してしまいました」

師匠「ですから、魔術師ギルドの掟によって罰せられます……が、『生きて償う義務』も課せられます」

師匠「王子様は生きて罪を雪ぐ、そして……」

師匠「私もまた王子様の魔法の師として、生涯かけて弟子が犯した罪の責任を取る所存でいます」

王妃「……あの子は、私達と一緒に死ぬことはないのね? 少なくとも生き延びられるのね? 神に誓える?」

師匠「誓いますとも」

王妃「そうなの、よかった……この監獄に来てからの数カ月、こんなに安堵できたのは初めて……」

師匠「王妃様、本当に貴女は、王子様のことを……?」

王妃「ふふ……自分でもよくわからないわ」

王妃「民への罪と同じよ、今さら言い逃れもしないし許しも請わない、あの子に対しても、ね」

王妃「さあ……本当にもう王の所へ行って頂戴、あの人によろしくね」

師匠「王様にお伝えするお言葉はありませんか?」

王妃「よろしく伝えて、それだけよ、どうせまた地獄で出会うでしょう……その前に処刑場かもね」

師匠「……畏まりました」

師匠「王妃様は少しご休息をお取りください、本当にお疲れのようですから」

王妃「ええ、そうさせてもらうわ、なんだか眠い」

王妃「……ありがとうね、暇人の魔法使い……」

師匠「……おやすみなさいませ」

師匠「……」

師匠「幹部1……幹部2、幹部3……王妃との話は終わった」

幹部1「では、彼女への最期の呪術を施そう……苦痛無き眠るような死、それで良いな、皆?」

幹部2「ああ、異存はない」

幹部3「彼女の現実での表情を見るに、そうは思えないけれど、ね……」

幹部2「明日の朝には人々に知れ渡り、一夜で滅びた王家として歴史に刻まれなければならないのだ」

幹部1「安らかな死に顔をさせるわけにも行かないだろう?」

幹部3「……わかっている」

師匠「では、次は王だな?」

幹部1「ああ、王も君の言葉にだけ反応するようにした……頼む」

師匠「……」コクリ

(王妃「あの人はお前の事が、本当は嫌いではなかったようだから」)

師匠(王妃のあの言葉は真実なのか?)

師匠(王……)

…………


※ここまで。次回も王の最期をこんなふうに一気に、日時未定ですがなるべく早く投下できたら、と※

……………………

そして、その頃……

(野獣「……」)

(野獣(……夢だな、これは……この世界でも、肉体のない私にも、休息や睡眠は必要だし))

(野獣(眠れば『夢』を見ることもあるが……この夢は……私の記憶や知識から湧き出したものと言うより))

(野獣(実際に起きていること……そう、師匠の声で……過去の出来事が語られている、きっと実際に師匠は語っているのだ))

(野獣(その相手は、紛れもなく菫花))

(野獣(二人の旅も終盤、かつての小国の領土に入って、距離が近くなったせいなのか))

(野獣(師匠の言霊の力なのか、それとも菫花の、過去を知りたいという強い思いが私と共鳴したのか))

(野獣(それら全ての要素が合わさったせいか))

(野獣(始祖である英雄王とギルドの関係、若い頃の両親、そして……))

(野獣(母上の、最期……))

(野獣(見かけは苦悶を浮かべた死に顔だったが、苦痛と絶望の中で息絶えたのではなかったのだな))

(野獣(師匠達、魔術師ギルドの幹部達が掛けてくれたせめてもの情け……慈悲を))

(野獣(これから罰せられる王子には明かせる筈もない))

(野獣(……))

(野獣(屋敷で獣の姿で目覚め、30年間暮らした中で))

(野獣(私も相当、身勝手な振る舞いをして来た……罪と呼んでいい))

(野獣(気まぐれで旅人を助け……何も知らない彼らがバラを折ったらどうなっていたかわからないのに))

(野獣(そして森の獣を使用人に作り変え))

(野獣(またもや私の気まぐれで招き入れた商人の命を、実際に奪う寸前まで行き))

(野獣(末妹を家族から引き離した))

(野獣(結果的に、使用人達も末妹とその家族も私を許してくれただけの違い))

(野獣(……私の両親は、民に許されなかっただけの違い))

(野獣(しかし菫花は、昔の私として禁忌の魔法を使った罪は負ったが))

(野獣(野獣の罪とは無縁))

(野獣(私が、数々の過ちを犯した前には戻れないように、あいつも今の私ではない))

(野獣(師匠の話に何を思うか……私には想像しかできない))

(野獣(……そして今度は、父の最期が語られるのか……))

……………………

…………


※ここまで。一気に、と言いつつ後で出す予定のシーンをここで挟みたくなった…なのでsage更新です※

……

師匠「王様……国王陛下」

王「……なんだ、貴様か」

王「看守達もいなくなり、ようやく一人になれると思ったが……よりにもよって貴様とは」フン

師匠(記憶の中では彼もそれなりの獄中生活を送っているはずだが)

師匠(こういう所は相変わらず)

王「で……余に何の用だ?」

師匠「私ごときでも、しばし話し相手にでもなれれば、と」

王「ごとき、ね」

王「はん、学校でも成績優秀だった上に魔法の才能もあった貴様が何を言う」

王「どうせこの場に二人きりなのだ、『俺』を王とは思うな、昔の調子で口を聞いて構わん」

王「それとも、それもできないほどの臆病者だったか?」

師匠「……」フゥ

師匠「わかったよ、『君』はもう少し消沈していると思ったが……『学友』」

王「ははは、それで良い……」

王「……くだらんよな」

師匠「?」

王「俺の一生がだ、どうせ貴様もそう思っているのだろう?」

師匠「……くだらないかどうかはわからない、が……正直に言って、君は道を誤った、とは思う」

王「俺を王にしたのが一番の間違いだ」

師匠「……」

王「ふん、わかっている、王になってからの振る舞いを言っているとは」

王「反発する者は処分し、忠告する物は追放し、逆らわぬが無力な者から枯れるまで搾り取り、役に立つ者へ与える」

王「先王ならばこんな愚かな事は……先王の王子が生きていれば……」

王「彼等が健在だった頃と同じようにまたも比べられた」

王「俺はこう思ったものだ、山の王の国から領土を分捕ってでも来れば文句を言ってた連中も黙るだろう、と」

王「山しかないと言いながら、あの国には近年発見された鉱物資源があり」

王「我が国に仕掛けた先の戦で消耗し、十年以上経ってもまだ立ち直れていなかった」

王「しかし失敗は許されん、俺なりに慎重に準備を進めた」

王「『あの屋敷』を手に入れたのもその一環だ、機械仕掛けを新しい戦術に活かせないか、とな……」

師匠(あの屋敷と言っても、我々は今まさにその屋敷にいるのだが)

師匠「……それが血も流さずあっさりと北の大国の領土になってしまったのは、今から2年ほど前だったな」

王「ああ、またも物事は俺の思い通りにはならなかった」

王「その上、高い魔力を持つくせに腰抜けで役立たずの王子は『戦がなくてよかった』と安堵している」

王「本格的に息子に期待するのを諦めたのはその頃だ」

師匠「……」

王「ふん……何故か貴様はあれをお気に入りだったよな」

王「人一倍ひ弱な赤ん坊だと知った時から、新たな子供を成さねばと思ったが、妃には拒まれた」

王「あの女はもともと義務で世継ぎを産んだのだ、身籠り、産むという苦痛を、俺相手にこれ以上は味わいたくなかったのだろう」

王「だったら期待するのは孫しかないだろう?」

王「あれは始祖の血を濃く引いている」

王「従順で血統のよい嫁を取らせて三人も産ませれば一人くらいは当たるだろう」

師匠「王妃の発案した誕生祝いの舞踏会を承諾したのは、そのためか」

王「ああ、目を付けていた娘を何人か招いていた」

王「まさかあれ自身が貧民の小娘を招いていたとは思わなかったが」

師匠「そのことで王子を咎めたのか?」

王「妃は泊まらせずに追い返せと怒っていたが、俺は……こいつも男だったのかと見直したよ」

王「俺の選んだ娘を正式な妻に娶りさえすれば、あの小娘を寵姫にさせてやっても構わないとは考えたさ」

師匠「……君と言う男は……」

王「ははは……貴様が自分の娘のように目をかけて仕事まで世話してやったそうだな?」

王「なあに、俺と王妃がいなくなればお前の好きにしてやれば良いだろう、王子も小娘も」

師匠「……」

師匠「……それは、させてやりたくても……」ギリ

王「ん? あいつも反乱軍に捕まっているのか?」

師匠「……」

師匠(王妃にした話を、この男にもするか……)

王「……ふむ、魔法使いとしての罪か」

王「くくくく……本当に馬鹿馬鹿しい、全てはくだらない……はーっはっは……」

師匠「何がそんなにおかしいのだ」

王「はは……もう恍けるはやめにしないか、ギルドの幹部よ」

師匠「どういう意味だ?」

王「……」

王「……山の王の国へ攻め入る準備を進めていた頃だ、俺は数代前から忘れ去られていた城の地下倉庫を探っていた」

王「固く封をされた一冊の書物」

王「150年、いやもっと前か、当時の先祖は本当に忘れたのか、敢えて封印したのか、そこまでは窺い知れなかったが」

王「……英雄王、我ら王族の始祖、人間でありながら魔物の力を取り入れた男」

王「子や孫の成長を見届けて亡くなったと言われているが……本当なのか?」

王「400年前の活躍を見るだけでも、既に人間の範疇を超えていたのは間違いない」

王「そんな男が、たった70年か80年しか生きなかった、と?」

師匠「……まさか」

王「貴様等の魔術師ギルドでも、幹部に選ばれた際に初めて知らされるらしいな」

王「……魔術師ギルド総本山の長とは、400歳を超えた英雄王『本人』であると」

師匠「……」

師匠「……ああ、儂も知った時には驚いた」

師匠「我々でさえ直接顔を合わせることは滅多にないお方ではあるが」

王「そして小国王家の監視者の長でもある」

王「子子孫孫が自分の教えを忘れ去っても、自分の願いとは異なる振る舞いをしても、見守るだけで放置せよ、と」

王「他国との戦に勝とうが負けようが、民が反発しようが、流れに任せよ、と」

王「栄えようが滅ぼうが、子孫が選んだ道だと突き放す傍観者、そいつが我々の血の繋がった始祖だ」

師匠「……学友」

王「……その顔は、俺を哀れんでいるのか?」

王「はは、大概の先祖とは子孫のやる事なす事に干渉のしようがないのは当たり前」

王「始祖は過去の人間、つまり死人としての立場を貫いただけ」

王「最も悪いのは、次代への伝承を怠った150年前の王だ」

王「次に悪いのは、先祖を恐れ敬う心を失った俺自身だ」

王「貴様等の長を責める気はない」

王「ただ……ただ、くだらん、馬鹿らしい……王としての人生が」

王「俺は読み終えたそれら複数の書物を燃やした」

王「それまでの生き方を変える気も起きなかった」

王「自分の人生を気の済むように生きて、自分が死んだ後はどうなろうと知ったことではない」

王「そうでなければ不公平だと思った」

師匠「……」

王「挙句の果て、今こうして民の反乱に屈し……死を待つ身になった」

王「王妃も、同じように死んで行くのだろう?」

師匠「……ああ」

王「ふ、今ごろ泣き喚いているだろうな」

師匠「……王妃様とは、先ほど少し話をしてきた」

王「ほう?」

師匠(この男が儂をどう思っているか云々は除いて、王妃との会話を教えてやるか……)

王「……は、妃なりに覚悟はできているのか」

王「まあ元から自尊心だけは高い女だ、取り乱さないだけ立派だと褒めてやろう」

師匠「王妃様は……君の事を気遣っていたぞ」

王「……」

王「共に過ごせば愛はなくとも情は沸く、女とは大なり小なりそういう生き物だ」

王「妃も夫が俺でさえなければこんな最期は迎えなかった、哀れだとは俺も思わないわけでもない」

王「王子も……」

王「……」

王「俺の望みを、王子に伝えてはもらえないか? 遺言だ」

師匠「?」

王「憎めと、お前を不幸にしたのは父だと、父を憎めと」

王「母を憎む時もあるかもしれない、しかしそれも元はと言えば父のせいだ、だから父だけを憎めと」

王「……なんてな、俺の遺言をあれに伝える義務は貴様にはない、好きにしろ」

師匠「……」

王「またその顔か」

王「くく、本当に貴様は面白い、俺が嫌いなのではなかったか?」

王「貴様が本当のところ何を思っているかは知らん、しかし」

王「俺は……妙だな、貴様の前では己を取り繕う気が失せるのだ」

王「貴様は身分が低いのに、子供の頃から俺を恐れも媚もせず堂々と振舞っていた、他の人間を前にしたのと同じように」

王「羨ましかった、貴様は頭も良いし才能もある、しかし……それ以上に貴様の強さが羨ましかった」

師匠「な、何を言うんだ」

王「こいつは状況的に他人だの運命だのに振り回されていても、自分の今の全てを自分の責任にできるのだろう」

王「いつも……周囲の連中、親、先祖、立場、とにかく全てを他者のせいにしてきた俺とは違うのだ、と」

王「異国の学校で出会った時からそう思っていた」

王「貴様のような人間になりたかったと……牢獄に来てからはその想いが強くなって」

師匠「学友」

王「……時間があれば、時間をかければ、いつでも変われる」

王「しかし、もう俺に時間はない」

王「全ては遅い、遅かったのだ……」

師匠「学友、君は」

幹部3「幹部4!!」

師匠「っ!?」

幹部1「……幹部4、あのままでは王の暗示も、偽りの記憶も解けるところだった」

幹部2「君の集中力が乱れて、この場の魔力に影響を与え始めていたのだ」

幹部3「強引ではあったが王との会話を打ち切らせてもらった、悪く思わないで欲しい」

師匠「彼……王は?」

幹部3「そこだよ」

師匠「……苦しんだのか?」

幹部1「表情はどうあってもこうする以外にないが」

幹部1「眠るような安らかな死を、とは行かなくとも……自分が死んだのにも気づいていまい、あっという間もなく心臓を止めた」

幹部2「自己を哀れむばかりで、王妃ほどの僅かな反省すらなかったけれどね」

師匠「……哀れ、か……」

幹部1「……王がギルド長の正体を知っていたとは」

幹部1「しかし、長がどれほど苦しんで暗殺の依頼を受けたかなぞ、想像もつかなかっただろうな」

幹部2「長は小国の民の今後のために、我々と共に働くと約束してくださった」

幹部2「……民の行く末を見届けてから、ようやく永遠の眠りにつかれるのだ」

幹部1「悲しいが、それが長の望みだからな」

師匠「……」

幹部3「……大丈夫か? 次は、王子に……」

師匠「心配いらん、すまんな、幹部3」

幹部2「王子に……罰を宣告するのだな」

幹部1「やはり幹部4しか出来ない役目だ」

師匠(王子……菫花……)

師匠(いま我々が、いや、儂がお前にしてやれることは他にはない)

師匠(しかし……儂はお前の師匠として責任を取ろうと思う)

師匠(贖罪のさ中にいる間は見守るしかできないが)

師匠(子孫を見守る立場に徹した故に、長い年月を苦悩されたギルド長のようにな)

師匠(両親と違うのは、お前は贖罪を終えたら自由になれるのだ)

師匠(既に図書館の娘もいない世界だが……それでも、お前の幸せを……)

…………

……………………

…………

王子「…………」

師匠「……これが、お前の両親の最期だ」

師匠「ギルド長……かつての英雄王は、小国の民がどうにか無事に暮らして行く姿を見届けると、永遠の眠りにつかれた」

師匠「舞踏会の夜から5年後のことだ」

師匠「不老長寿の身ではあったが、いつでも死ぬ事は出来たのだ」

師匠「ただ、魔物の血を子孫に残した責任感から、監視役の立場を選ばれた……」

王子「…………」

師匠「……衝撃だろうな、まさか英雄王が、お前の生まれた時代まで生存していたとは」

師匠「そして、我々がお前達親子に何をしたか、改めて知らされたのだ」

王子「……」グス

師匠(顔は覆ったままだが……泣いているな、当然だ)

師匠「……やはり人払いをしてやる、思う存分に泣くがいい」

師匠「半径50メートル以内に足を踏み入れた人間がふと他の場所に行きたくなるような、緩く且つ強固な結界を張ってやる」

師匠「ただし2時間だけだ、いろいろな意味でそれが限界だからな?」

師匠「……それから、少し……ゆっくり、儂とお前で話をしよう」

王子「……」グシュ

師匠(頷きもしないか)

師匠「儂は結界の外にいる、結界の中は見ないぞ、一人になりたいだろう?」

師匠「では、2時間後にな……」

結界:もよんもよん……

師匠「……結界の外からは、無人の墓しか見えん」

師匠「この結界に近付いても強制的に弾かれることはないが、通常の人間は、なんとなくそれ以上入って行く気が失せてしまう」

師匠「効果は実に地味だが実は非常に強い魔力が働いている」

師匠「周囲への思わぬ影響を考えても2時間が限度なのだ」

師匠「……」

師匠「結果的に、英雄王の子孫は、英雄王とその意思を受け継ぐ魔術師ギルドの掌の上にあった」

師匠「菫花も儂の掌の上にあった……」

師匠「綺麗事を並べてもそれが真実だ」

師匠「菫花と再会して数カ月、儂は話せなかった、まだ早いと、機は熟していないと思っていた」

師匠「……本当は、話したくなかった」

師匠「お前と共に過ごす時間がもう少し長くなるまでは」

師匠「……恨むならば、王でもなく、王妃でもなく、民でもなく、ギルド長でもなく」

師匠「儂を恨め、今こうして生きている儂を……」

師匠「……そう、虫のよい話ではないか」

師匠「自由になったお前を引き続き見守る立場に徹すればよかった」

師匠「お前のためお前を受け入れるこの時代の人々ため関わる、それこそ綺麗事よ」

師匠「……使用人達と少年と少女、彼等彼女等がいる、あいつには」

師匠「夢の世界には、野獣もいる」

師匠「何が……儂の息子だ、あいつの父親だ、そんな虫のいい話があるか……」

師匠「考えたら、あの話をするまでもなく、あいつに好かれる理由があるものか」

師匠「いつも罵倒してばかりだったではないか……」ハァ

師匠「……儂も弱いぞ、学友よ、買い被り過ぎだ……」

…………

結界の内側。

王子「う……うう……」

王子「うわああああん」

王子「……父上、母上」グシュ

王子「僕は……どうしたら」グスグス

王子「……僕は……どうしたいんだろう……?」グス

王子「う……うわあああああああああ……ん」

(野獣「……」)

(野獣「菫花、私もまさか始祖がギルドの長とは思わなかったが」)

(野獣「始祖の立場も師匠達の立場も……今の私は理解できる」)

(野獣「師匠が自分の全てを捨てて、私をお前を追いかけて来た決意のほども」)

(野獣「父と母は、改めて『ただの人間』であったと思い知らされて、悲しくなったか、哀れになったか?」)

(野獣「だが父と母の罪は罪なのだ、どれほどの人々が両親のために苦しんだか」)

(野獣「それに対し何もしなかった私も」)

(野獣「両親を哀れむ気持ちとは分けて考えなくては」)

(野獣「……私の声は、しかし、届かないのだな」)

(野獣「お前の嘆きは、まるで目の前にいるかのように感じるのに……」)



…………



   誰かが、泣いている、嘆く声が聞こえる



   不思議なことに、耳からではなく胸のあたりから、野獣様のかけらが溶け込んだあたりから……



…………

※ここまで。ごぶさたしてすみませんでした。余談ですが幹部1・2・3のうち、3だけは女性です。
師匠と同い年ですが見た目は凄く若いという誰が得をするんだ設定があったりする※

商人の家……末妹の自室。

末妹「明日は友3ちゃんの家で、友1ちゃんや友2ちゃんと一緒に、次の試験に向けての勉強会」

末妹「……半分くらいはお茶しながらのお喋り会になっちゃうかも?」

末妹「でも楽しみ」フフッ

末妹「さてと……宿題は済ませておかなくちゃ」パラ

末妹「……?」

末妹「人の泣き声?」

末妹「誰か……泣いているの?」

末妹「なんだか遠くから聞こえるような、微かな……でも、外からじゃないわ?」

末妹「かと言って、家の中というわけでもない……」

末妹「……」

末妹「あ」

末妹「……そうなのね、これは……わかった」

末妹「……どうすればいいの?」

末妹「……そうね、そうすればいいのね」

末妹「目を閉じて、心を落ち着けて……」

末妹「……」

……
 

同じく、次兄の自室。

次兄「……あれ?」

次兄「地理の勉強用に借りて来た本の世界地図、なんかおかしい?」

次兄「うーん、このあたりは確か数年前に正確な測量が終わった地域と聞いたが……少し古い資料なんだな」

次兄「俺が家庭教師から習っていた時の地図帳は行方不明だし」

次兄「正直、発掘の手間を惜しんでいるだけですが」

次兄「最新の地図帳はやはり現役で学校に通っている末妹に借りましょう」スック

……

ドア:コンコン?

次兄「……返事はないがドアに隙間は空いている」

次兄「入るよ末妹……」カチャ

次兄「……ありゃ」

末妹「……すやすや」

次兄「シー」

次兄(勉強机に突っ伏して眠ってる、この子にしては珍しいなあ)ソロリ

次兄(フッ、優しいお兄様は毛布をかけてあげましょうね)ソロソロ

次兄(ベッドの上に綺麗に畳まれている毛布を持ち上げの)ソローリ

次兄(毛布を広げの)ファサ

次兄(末妹に近付きの)ソロソロ

次兄(そっとかけーの……)
 

次兄(あ、あれ?)グラリ

次兄(なんだろう、末妹の肩に触れた途端、強烈な眠気)フラフラ

次兄(やばいやばい、いったい何が……)ヘナヘナ

次兄(あ、もうらめ……床と仲良くなっちゃう……)ズルズル

次兄「……ぐー」コテン

末妹「……すー、すー……」

…………

(末妹「……やっぱり、ここは……野獣様の夢の中……」)

(末妹「……に、よく似ているけど……なんとなく違うような気もする?」)

(次兄「……あれ、末妹」)

(末妹「あ、お兄ちゃんも来たのね」)

(次兄「いったいどうして……俺は末妹に地図帳を借りようとして部屋に入ったんだけど……」)カクカクシカジカ

(末妹「……そうだったんだ、私は……たぶんだけど、野獣様の欠片に導かれてここに来たの」)

(次兄「え、野獣様の欠片は、もう完全にお前に溶け込んだんじゃなかった?」)

(末妹「うん、その通りよ、だけど……だから、これはきっと」)

(末妹「野獣様から分けていただいて、今は私の力になった……私のたったひとつの魔法……かもしれない」)

(次兄「末妹の魔法????」)

(末妹「そんな気がするだけ、とにかく……私を呼んでいるの、だから行かなくちゃ」)

(次兄「な、なんかわからんけど俺も一緒に行くぞ?」)

(次兄(なんか一人じゃ帰れる自信ないし!!))

(末妹「もちろんよ、きっとお兄ちゃんがここに来たのにも意味があるはず……」)

…………
 


※ここまで。ちょっと今後の更新は期間も投下数も不定期になります※

(野獣「……ん?」)

(野獣「深い霧の向こうから誰かがやって来る……まさか」)

(末妹「あ……」)

(次兄「野獣しゃまああああ!?」)

(野獣「お、お前達、何故ここに!?」)

(末妹「野獣様からいただいた欠片に従ったら、ここにいたのです」)

(末妹「呼ばれていると思って……」)

(末妹「……やっぱりここは野獣様の夢の世界だったのですね」)

(末妹「なんだか違うような感じもしたけれど……」)

(次兄「野獣様! 野獣様!!」ヒシッ)

(野獣「……『違う』というのがわかるのか、いや何よりも、ここにお前達が来れたなんて」)

(次兄「愛の力!! 愛の力なのですうううう!!」スリスリスリスリ)

(野獣「あーはいはい」ウンザリ)

(野獣「少し不快だが次兄は放置しておくとして……末妹よ、実はお前が感じたとおり」)

(野獣「ここはいつもの私の夢の世界とは少しばかり違う世界なのだ……おそらくは」)

(末妹「どういうことでしょう……?」)

(野獣「私は師匠と菫花が墓所を訪れた時から、なぜか二人の声を聞けるようになった」)

(野獣「と同時に、いつも私がいる世界とは何かが違うと感じていた」)
 

(野獣「師匠と菫花の魔力、そして師匠と菫花が小国の領土に入り、屋敷に接近してきたこと」)

(野獣「私や菫花の両親の墓所に師匠と菫花がいること、そして」)

(野獣「菫花に、自分がまだ知らぬ過去の話を知りたいというとても強い思いがあること」)

(野獣「あの二人の行動や精神状態、魔力、それらに大きく影響されたのか」)

(野獣「いつもとは違って、私の力が及ばない現象がところどころ起きている」)

(野獣「まず風景、私がいくらバラ園や屋敷を思い浮かべても変わらず周囲は見ての通り白い霧に覆われたまま」)

(野獣「それに私の魔法……仮想の窓が使えない、そして全く予想外の……呼び出していないお前達が現れた」)

(末妹「では、呼んでいたのは野獣様ではないのですね」)

(野獣「師匠が現実世界で、墓所の周囲に強力な魔法による結界を張った」)

(野獣「菫花が誰にも邪魔されず泣けるようにな」)

(末妹「泣いていたのは菫花さん」)

(末妹「私、誰かの泣き声を聞いたのです、誰の声かわからないほど微かだけど、本当に悲しそうな……」)

(末妹「でも耳から聞こえたのではなくて……野獣様の欠片を受け取った胸のあたりから、『聞こえた』のです」)

(野獣「!?」)

(末妹「だから私、欠片にどうすればいいのか尋ねてみました、そしたら『わかった』のです」)

(末妹「心を落ち着けて、目を閉じて……そうすればきっと泣き声の主の元にたどり着ける、って」)

(次兄「俺が見た時は部屋で末妹は眠っていました、俺も肩に触れた途端に眠くなって」スリスリスリスリ)

(野獣「会話をしたいのならその高速頬擦りをやめい、暑苦しい」グイ)

(次兄「うむぎゅ」グエ)

(次兄「……しかし、現実世界で肉体が眠ったから俺達はここに来れた、やはり野獣様の夢の世界なのでは?」)

(野獣「うむ、夢の世界に、師匠の結界が重なってしまったのかもしれない」)

(野獣「師匠の結界は入れない者を弾く力は弱く緩やかだが、その代わり例外なく弾く、見た目以上に強力な魔法」)

(野獣「周囲と完全に遮断された結界の内側と、現実とは混じる事のない夢の世界が、二重になっているのだろう」)

(末妹「野獣様の夢の世界でもあり、師匠様の作った場所でもあるのですね」)

(野獣「そうだな、しかし師匠は我々がこうしているとは思いもよらないだろう」)

(野獣「私だって、今の時点で全てを理解できているとも思えんが、それより」)

(野獣「……さっきも言ったが、菫花が心置きなく泣けるように師匠が張った結界」)

(野獣「菫花自身は現実世界にいるわけだが……泣き声は聞こえるか、末妹」)

(末妹「……そう言えば、野獣様に近付くにつれはっきり聞こえるようになって来たけれど」)

(末妹「今は聞こえなくなってしまいました」)

(野獣「私も少し前から聞こえなくなってしまった……泣きやんだのだろうか?」)

(末妹「現実世界の様子を見ることはできないのですか?」)

(野獣「ああ、仮想の窓が使えなかったのだ、しかし……お前達が来る前と今とでは状況が違う」)

(野獣「駄目元で、もう一度試してみるか……」スッ)

(野獣「仮想の窓」シュパ)

(野獣「お、開いたぞ……ああ、かつての王城の庭園と、一部とは言え殆ど変っていないな」)

(末妹「あ、あれは菫花さん……?」)

(次兄「……なんかぶっ倒れていません?」)

(野獣「泣き伏しているのか、いや、あれは」)

(末妹「……お顔、マフラーか何かぐるぐる巻きですけど」)

(次兄「この状態で大泣きしたら涙やらなんやらでマフラーが湿って、呼吸できなく……?」)

(末妹「!? た、大変!!」)

(次兄「そうだ、菫花さんが死んじゃったら野獣様の存在も!?」)

(野獣「菫花、しっかりしろ!!」)

(王子「……み、皆さん……?」)

(末妹「菫花さんっ!」)

(野獣「菫花!?」)

(野獣「お前がここにいる……つまり、現実世界では意識がないという意味ではないか!!」)

(次兄「戻って帰って!! 自分の肉体なんとかして!!」ワタワタ)

(王子「え、し、しかし、どうすれば!?」アタフタ)

(野獣「ええい、手荒な方法を使うか……末妹、目をつぶっていろ」)

(末妹「え」)

(次兄「あ、こういうことですね?」メカクシ)

(末妹「え」ミエナイ)

(次兄「念のため耳も」ミミフサギ)

(末妹「え」キコエナイ)

(次兄「俺も目をつぶります、紳士同士の礼儀」)

(野獣「次兄、恩に着る!」ブン)

ドフッ

(王子「 」)

(次兄「……聞き覚えのある鈍い音、俺も次姉ねえさん相手に何度やられたか」)

(野獣「……こっちで意識を失って姿が消えた、あっちに戻ったか」フー)

(次兄「野獣様が暴力とか、と言っても腕力とガタイを生かして腕を振るだけでけっこうなダメージでしょうね」)

(次兄「しかも普通の男子ならともかく、菫花さんならどう考えても避けたりしないしできないし」)

(野獣「緊急事態でやむを得なかった」)

(野獣「腹を適当に殴ったので生身の体ならば危険だが……精神体だ、痛手は一瞬、引き摺らない」)

(野獣「……その手を離してもいいぞ次兄」)

(次兄「お、ごめん末妹、乙女になるべく見せたくないシーンだったので」パッ)

(末妹「お兄ちゃん、野獣様、菫花さんは……?」)

(次兄「現実世界に戻って倒れたままもぞもぞ動き出した」)

(野獣「……なんとか口と鼻を覆うマフラーをずらす事ができたようだ」)

(末妹「あ、息ができるようになった……よかった……」ホー)

(次兄「ああ一時はどうなるかと、ほんっと生きる力に乏しい人だなあ」フー)

(野獣「そのまま眠ってしまったようだ、つまり……」)

(王子「……」ボー)

(末妹「菫花さん!!」)


※ここまで。次回までちょっとお待たせするかもしれません……※


※ごぶさたです…諸事情あってとりあえず復帰は今月下旬になりそうです※
生存報告でした


(王子「……末妹さん」)

(末妹「はい」)

(王子「次兄君……それに野獣……」)

(次兄「うぃーす」)

(王子「な、なぜ君達が……ここに……?」)

(野獣「その前に、お前は『ここ』をどこだと思っている?」)

(王子「え、ここは……両親の、小国の最期の王と王妃の墓……」)

(王子「……あれ?」キョロキョロ)

(王子「……どこ……だろう……ここは……」)

(野獣「まあ正直、私も理解し切れているとは思わないのだが」)

(野獣「まずは、我々が今に至るまでをな、3人それぞれから……」)

~かくかくしかじか~

(王子「……不思議なことが起きているんだね」)

(王子「ここはおそらく、師匠の結界と夢の世界が重なった……ような……場所」)

(王子「野獣はいつもの夢の世界にいた時から、墓所での僕と師匠の話を聞いていた」)

(王子「末妹さんは野獣の欠片に導かれるようにここへ」)

(王子「次兄君は……説明にいろいろ文学的な表現を付け加えていたけれど……眠くなったらここにいた」)

(次兄「端的に言えばそれだけですよーだ」)

(野獣「拗ねるな」)
 

(野獣「まあ、理由はわからんが我々が置かれている状況は、そういうことだ」)

(野獣「師匠ならばもっと正確に分析できると思うが」)

(末妹「師匠様……今、菫花さんと私達がこうなっていること、本当に気付いていないのでしょうか?」)

(次兄「いないよ、たぶん」)

(次兄「おっさんの事だもん、気付いていたら自分も乗り込んで来るでしょ?」)

(王子「……師匠」)

…………

師匠「……何故か、結界を構成する儂の魔力に何かが『重なって』いるように見えたので」

師匠「集中して結界に目を凝らしてみると、『こんなこと』になっていたとは」

師匠「……末妹と次兄、それに野獣」

師匠「菫花が無意識に彼等を求めて呼びかけたのかもしれん」

師匠「……ここからは会話までは聞こえん、儂ならばあの中に入り込む事もできるが」

師匠「今回ばかりは入らない方が良いな」

師匠「3人とも、どうか菫花の心を癒してやってくれ」

師匠「それは儂にはできないことだ……」

…………
 


※とりあえず、おひさしぶりです※

3月末からずっとバタバタしておりまして、書き溜めも進まず、すみませんでした
次回更新はGW明けの予定です……

(王子「師匠……」ポロッ)

(次兄「およ、涙」)

(末妹「菫花さん……」オロオロ)

(野獣「また泣くのか、末妹と次兄の前だぞ、いい加減にしろ」)

(王子「そ、そうだね……皆、ご、ごめんなさ……っ、えぐっ」グシグシ)

(末妹「……師匠様が語ったのは、辛いお話……だったのですか?」)

(王子「……」グス)

(王子「僕は……目を背けていた」)

(王子「父上も母上も……罪は犯したけれど、それでも『人間』だって事実……そして」)

(王子「師匠達、魔術師ギルドの幹部が暗殺したのは……その『人間』という事実……」)

(野獣「そんな話は……」)

(野獣「師匠達が民の依頼で何をしたのか、そんな話は……我々にはそれこそ『今さら』だろう?」

(王子「……他の、あのことに関わった人々は、200年以上過ぎた今はとうにいない……だけど……」)

(王子「一人だけこの時代に生きている師匠が、あのことを今も背負っている事実、そして……」)

(王子「一人だけ生き残った僕のために、師匠があのことを今も悲しんでいる事実……から……」)

(野獣「お前」)

(末妹「菫花さん……師匠様に申し訳なくて、泣いていたの……?」)

(次兄「……おっさんのメンタル、菫花さんに心配されるほどヤワかしらん?」)


※とりあえずここまで。次回はもうちょっと書き溜めてから投下します※


※今週中に再開します…一か月になる所だった、書き込み感謝です※

(王子「……父も母も、許されない事をした」)

(王子「罪を引き起こしたのは、ふたりの人間性……弱さや我が儘から」)

(王子「弱くて我が儘になったのは理由がある」)

(王子「子供の頃から周囲がもっと違う接し方をしていたら……背負えないほどの重荷を背負わされずに済んだら……」)

(王子「それでも罪は罪、あんな形でしか償えないほどの重い罪」)

(王子「師匠は、それら全てを理解した上でふたりに手を下した、下さなくてはならなかった」)

(王子「ふたりの息子の僕よりも、ふたりがどんな人間かを理解した上で……」)

(野獣(師匠……))

(王子「……小国の王家が滅びて、師匠達、事情を知る魔術師の皆さんは暗殺しか引き受けていないと言いながら」)

(王子「小国の人々を守るために水面下であれこれ動いて、隣の国に受け入れられるように計らってくれた」)

(王子「230年前の……その時代にいれば、暗殺はどこから見ても正しかった」)

(王子「師匠達もそう思いながら、人々のために働いたことでしょう」)

(王子「そして、師匠以外の皆さんは……元小国の人々を行く末を見守って」)

(王子「次の世代に残すべき物は残し、残さずに消した物はその記憶を抱え、あの時代で天寿を全うした」)

(王子「でも……師匠は」)

(王子「王家の遺児である王子を追って、ずっと後の時代にやって来て、そしてそこでこれからも生きて行く」)

(王子「僕の近くで、僕を目の当たりにしながら……」グシュグシュポロポロ)

(末妹(また泣いちゃった……ハンカチ、確かポケットにあった筈)ゴソゴソ(あ、あった))

(末妹のハンカチ:スッ)

(王子「……あ、ありが、とぅ……」フキフキ)

(野獣「……」)

(次兄「……うーん、菫花さんは安易じゃなかった容易に泣く人ではあるけれど、今回は理由がかなり重い感じ?」)

(野獣「聞こえるように言うな、特に前半」)

(野獣「……まあ確かに重いというか、私も菫花と同じように、今まで知らなかった話も多くてな」)

(王子「……」グシュグシュ)

(野獣「菫花が泣きやむまでの間に、末妹と次兄にも(刺激の強い部分はなるべく省いて)かいつまんで話すか……」)

…………

(次兄「……おっさんと王様には、そんな繋がりがあったのか……」)

(次兄「それに、野獣様達のご先祖……初代王が正体を隠して何百年も生きていたなんて」)

(末妹「……王様と王妃様の……人知れない悲しみ……孤独……失ったもの、得られなかったもの……」)

(末妹「……私には、及びもつかないし計り知れない」)

(次兄「俺だってそうだよ」)

(次兄「そんな俺達から今の菫花さんには、どんな慰めの言葉をかけても上辺になっちゃう気がする」)

(野獣「……すまん、お前達に精神的重圧をかける意図はなかったのだが」)

(野獣「ただ、泣きやまないこいつに対し、次兄のような言い回しをするなら『どん退かないで』いてやって欲しいのだ」)

(次兄「今さら菫花さんに対してソレはないのでご心配なく、ほんと今さら」)

(末妹「……私も、とても慰めの言葉は持てません、でも……」)

(末妹「今の菫花さんには……本当は、他の誰よりも師匠様が……師匠様の言葉が、必要ではないでしょうか?」)

(王子「……!?」)

(末妹「菫花さんの悲しみは、遠く離れた私の……私の持つ野獣様の欠片に届くほどの、強い悲しみ」)

(末妹「それは……師匠様を大切に想ってこその、強い悲しみ」)

(末妹「師匠様も……菫花さんのために、心置きなく泣けるように、誰も入れない場所を作ってくださった」)

(末妹「きっと師匠様は『ここ』に野獣様や兄や私がいるのも、もう知っているはず」)

(末妹「知っているからこそ、いつでも師匠様の力があれば入って来れるのに、来ないのだと思います」)

(次兄「おっさんは敢えて入って来ない、ってわけ……?」)

(末妹「ええ、ですから……菫花さんと師匠様は、今、すれ違っている、と思うのです……」)
 


※ごめん、寝ます…「今日」中に続きを投下します。あとちゃんとあげます※

(野獣「すれ違っている」)

(野獣「なぜ……そう思うのだ、末妹よ?」)

(末妹「師匠様は……菫花さんをいつも見守って、何かあればすぐに側に来て」)

(次兄「うんうん、過保護と呼んでも過言ではないレベルで」)

(末妹「もうひとつ、師匠様ほどの魔法使いが、今こうなっていることに気付かないはずがない」)

(末妹「気付いているのなら、これが誰にとっても予想外の出来事なのもわかるでしょう」)

(末妹「だったら、きっと菫花さんや私達を安心させるため、助言をしに来てくださる」)

(末妹「優しいかたですから」)

(野獣「……」)

(末妹「菫花さんは……ご自分が師匠様を悲しませていると、さっき言いました」)

(末妹「だからひとりで泣いていたのですよね?」)

(王子「……」)

(王子「……う、うん……」)

(次兄「ああ、そっか」)

(次兄「おっさんは菫花さんを気遣うがゆえに放置プr……放置、菫花さんもおっさんを気遣うあまり放置に甘んじてるわけか」)

(野獣(何か言い直した気もするが追求したくない))

(野獣「ふむ……そうか、それがすれ違っている、か……」)

(野獣「なあ菫花……師匠が結界を解いたら、お前は師匠になんと言うつもりだ?」)

(王子「師匠に」)

(王子「……謝りたい、です」)

(野獣「何をだ?」)

(王子「……僕のために師匠の人生が……今も僕のために師匠は……」)

(野獣「師匠がどれ程の覚悟で我々を追ってきたか、お前はもう知っているだろう?」)

(王子「で、でも」)

(王子「僕はっ……君と違う、君には30年間の贖罪の日々があった、でも僕は!」)

(末妹「菫花さん」)

(野獣「そこが引っ掛かる、か……」フゥ)

(野獣「もう許してやれ菫花、お前自身を……両親を、師匠を」)

(王子「!?」)

(末妹「野獣様、菫花さんは、ご自分以外を責めたりしてはいないのでは……」)

(野獣「とうぜん自覚はあるまい、しかしな」)

(野獣「なあ、このあとお前が謝って、師匠が何も感じないと思うか?」)

(王子「……あ……」)

(野獣「父と母の罪は、両親自身が背負って逝った」)

(野獣「二人のため不幸になった人々がこれ以上苦しまないよう、師匠はじめ魔術師達も、始祖も……自分の役目を成し遂げた」)

(野獣「私の過ごした30年間に、内情はどうあれ、バラの呪縛は完遂された」)

(野獣「お前が師匠の覚悟に対して謝るのは、それらの否定、無意味だと言うようなものだ」)

(王子「……っ」ボロ)
 

(末妹「あ」)

(次兄「ありゃー、またまた泣いちゃった」)

(野獣「ここで涙を堪えられないのがお前であり、昔の私、だな」)

(野獣「泣きやんだら……その時もお前は、師匠に会ったら謝ると答えるか?」)

(王子「……っ」ブンブン)

(次兄「おお、菫花さんがこんなに勢いよく頭を振れるとは」)

(次兄「側にいる俺も末妹も背が低いから、頭同士ぶつかる危険はありません」)

(末妹「これ使ってください菫花さん」)

(王子「あ、また君に迷惑を……ごめん、ありがとう……」)

(次兄「あれ、既に菫花さんがぐっしょぐしょにしたハンカチでは?」)

(末妹「どういうわけか、ここでは私のハンカチだけは私が乾けと願えばすぐに乾くみたい……」)

(野獣「菫花も、願い事をしてみてはどうだ?」)

(王子「え……願い……?」グシ)

(野獣「師匠に、ここに来て欲しいと願い呼び掛けるのだ、お前が」)

(野獣「まさか、向こうから結界を解いてもらうのを待つつもりではあるまいな?」)

(末妹「野獣様」)

(王子「野獣……」)
 


※ここまで。続きは早くて週末、でなければ来週のどこかで…の予定※

(次兄「ちょ、ちょっとお待ちになって野獣様」)

(野獣「なんだ次兄、不服があるのか?」)

(次兄「おっさん召喚については異議なしです、が……準備が少し足りないのでは」)

(末妹「準備?」)

(次兄「今の段階ではきっと菫花さん、なーんも考え無しでおっさんを呼んでしまいますよ?」)

(野獣「な」)

(王子「え」)

(次兄「確かに謝罪は不適切だと菫花さんも気付いたはず、だからってそれに代わる言葉をすぐに発明発見できるでしょうか?」)

(次兄「菫花さんに豊かな感受性はあっても、言葉とは流れ動くもの、思考は追いついたためしがない」)

(次兄「その状態でおっさんに対峙しても菫花さんはへどもど、心配性の野獣様と末妹はおろおろ……」)

(次兄「事態がグダグダの渦中で菫花さんの精神はひとり飽和状態を迎えてその場で人事不省」)

(次兄「……それがいつもの菫花さんですよ?」)

(野獣「そ……それは、その……なんだ、あの……うむ……」)

(野獣「……すまない菫花」)

(王子「」)

(末妹(……『そんなことない』って言葉では簡単だけど、そこから先は、正直どうしたら……)ムム)

(次兄「末妹のこの表情……」)

(次兄「ねっ、最後の味方の二人も庇いきれなくなっているでしょ?」)

(王子「…………」ドヨーン)

(次兄「あ、菫花さんが重い空気を背負ってしまった」)

(野獣「……魔力と精神力の影響が強い空間のせいか、鉛色の空気(?)がなんとなく目視できるのだが……」)

(末妹「菫花さん……」オロオロ)

(次兄「うーん、これって結果的に俺がいじめた感じ?」)

(野獣「ここまで自覚なかったのか?」)

(末妹「えーと、毛布……は、さすがに念じても出て来ない……私の羽織っているカーディガンじゃ小さすぎるし」)

(野獣「おお成程、では私のマントを」)

(師匠「……来るつもりはなかったのだが」フー)

(野獣「師匠!?」)

(次兄「おっさん!?」)

(末妹「菫花さ……反応がない……顔を上げて、聞いてください! 師匠様ですよ!?」)

(王子「…………え?」ハッ)

(王子「しっしししししししし師匠っ!?」)

(師匠「会話は聞こえずとも、見ていれば場の雰囲気は何となく伝わったからな」)

(野獣「やはり我々の様子をご覧になっていたのですね」)

(師匠「……菫花」)

(王子「ははははっはい!?」)

(師匠「今まで……すまなかった。お前を叱咤激励するとか言いながら、専ら叱咤一辺倒で」)

(師匠「230年前から、儂はずっとお前にひどいことしかしていないのに、な……」)

(王子「……師匠?」)

(野獣「いつもと様子が違う……」)

(師匠「しかしそれも今日までだ、儂はお前を離れた場所から見守る事に決めた」)

(末妹「!?」)

(次兄「は?」)

(師匠「屋敷ごと、菫花、野獣、使用人達を一生かけて守るという、最低限の責任を放棄はしない……だが」)

(師匠「……お前の『父親』を名乗れる立場ではなかったのだ、それにようやく気付いた」)

(師匠「実に勝手な願いだが……君たち兄妹には、引き続き菫花たちの事をお願いしたい」)

(師匠「一番の理解者でいてやってくれ、君たちにしかできない……」)

(王子「……」)


※ここまで。続きは今月中にはなんとか……※


※7/1~2のどこかで更新します※

(野獣(私も師匠に言いたい事がないわけではないが……))

(野獣「……次兄、末妹……気になるだろうが、とりあえず口を挟まず見守ろう、いいな?」ヒソヒソ)

(末妹「は、はい」ヒソ)

(次兄「ええ、空気読みまっせ」ヒソソ)

(師匠「まずは君たち兄妹を体に……家に帰さねばならんが」)

(師匠「それはいつでも出来る、だからもう少しのあいだ菫花と話をしてやってくれないか?」)

(師匠「儂は終わるまで『外』にいる、すまんが野獣、頃合いを見て合図をしてくれ」)

(師匠「それでは……」クル)

(王子「……!!」ガッシ)

(師匠「なんだ」)

(王子「……」ギュー)

(師匠「なんだ菫花、儂のローブを雑巾でも絞るように握りしめて」)

(王子「…………師」)

(王子「……匠」)

(王子「師匠、は……」)

(王子「師匠は、勝手、です……」ギュウウ)

(師匠「菫花」)

(末妹「菫花さん……」)

(師匠「……勝手か、そうだな……お前の気持ちも考えず」)

(師匠「勝手に姿を現し、お前に全てを語るよりも前、言わば真実を隠したまま勝手に父親を名乗ったのだから」)

(王子「! ち、違、そっちではなくて……」ギュウウウ)
 

(王子「僕がどんなに嬉しかったか、幸せか、僕なんかを、貴方に息子と呼んでもらえて……!」)

(師匠「……『僕なんか』だと?」)

(師匠「自分を卑下するな菫花、お前はいい奴だぞ、第一お前の友人達にも失礼ではないか」)

(次兄「そこかなあ、おっさん?」ボソ)

(王子「それでも敢えて言います、僕は駄目な王子、いや、駄目な男です」)

(王子「王子として駄目なのは言うまでもなく、両親の息子としても出来損ない、好きになった女性を幸せにする力もなく」)

(王子「魔法使いとしても禁忌を犯し師匠を裏切り……」)

(野獣「……」)

(王子「それでも、それを承知で、何もかもひっくるめて、僕がこの時代(せかい)で生きる事を許してくれて」)

(王子「僕の『家』を作ってくれて、僕を教え導く『親』となってくれたのは、師匠です」)

(王子「この時代で出会った皆さんと、僕でも繋がりを持って良いと思えるのは、師匠がいてくれるからです」)

(王子「師匠の息子として外に出て、人と出会って、また帰って来れる」)

(王子「それがどんなに心強いか……」ギュウウウウウウ)

(師匠「……もう今のお前には、儂がいなくとも」)

(末妹(菫花さん、もっと簡単な言葉でいいのですよ……))

(王子「なんでもいいから側にいてほしいんです、それでは駄目ですか?」)

(王子「僕は師匠が好きなんです、それでは駄目ですか!?」)

(師匠「菫花」)

(師匠「……………………」)

(野獣「師匠」)

(野獣「我々に向かって『なぜ黙って見ているのだ』なんて顔をして見せても、駄目ですよ?」)
 


※毎回短くてごめんなさい、次回そろそろ解決編です…※


※お知らせのみ。重ね重ねのお待たせ申し訳ありません…次回更新は7/20以降になります…※

(野獣「逃げずに向き合ってあげてください、菫花の精一杯なのですから」)

(師匠「逃げ……儂が逃げているだと……」)

(末妹「師匠様……」)

(次兄「おっさん」)

(師匠「……」)

(野獣「今この二人が口を開くとすれば、菫花の後押しになる言葉だけでしょうね」)

(野獣「ここにいる誰も師匠を逃がしたりはしませんよ」)

(師匠「儂は……」)

(師匠「……このまま、お前の屋敷で暮らせるならば、菫花の側にいられるのならば……幸せになってしまうではないか」)

(師匠「『王子』を追い掛けて長き眠りに入る決意をしたのは……儂が幸せに暮らすためではなかった、考えもしなかった」)

(末妹「でも……でも、師匠様は……王子様に……野獣様に菫花さんに、幸せになって欲しかったのでしょう?」)

(師匠「末妹嬢」)

(末妹「ごめんなさい、口出しをしない約束だったのですが……」)

(野獣「続けて良いぞ、末妹」)

(末妹「……」コクリ)

(末妹「どうなっているかわからない200年後の世界で……王子様を守るため、それだけではなく」)

(末妹「王子様がこの世界で生きていける手助けをするために……何もかも置いて、追い掛けて来られたのでしょう?」)
 

(末妹「そして、菫花さんの幸せには……師匠様が必要……です……だから」)

(師匠「もうよい」)

(師匠「わかった、皆まで言うな、儂は……自分の間違いを、認めるしかなさそうだ……」)

(末妹「師匠様」)

(師匠「菫花」)

(王子「っはいっ!?」)

(師匠「改めて聞くが……良いのか、儂がお前の父親、いや、家族で?」)

(王子「……さっきも言いましたよ、良いとか悪いとかではなく」)

(王子「なんでもいいから……僕の家族でいてください、いいえ、家族でいて欲しいのです、『お父さん』に」)

(師匠「……」)

(次兄「貴重な菫花さんの意思表示」)

(末妹「お兄ちゃん」)

(次兄「あらうっかり口に出してた」テヘ)

(野獣「……確かに貴重だな」フフ)

(師匠「……」)

(王子「……」キュッ)

(師匠「また今にも泣きそうな顔をして、お前は本当に……」)

(師匠「……儂がいないと、まだまだ……だな」フゥ)

(王子「!!」)

(師匠「儂は逃げないから……そろそろローブから手を離してくれ、ねじ切れそうだ」)

(王子「! はははいっ、ごめんなさい!!」パッ)

(ローブ:ブロロロロン)

(次兄「おお、すごい勢いで元に戻って行く」)

(師匠「旅から帰ったら、もっとゆっくり話をしよう、時間はある……お前と儂が共に過ごす時間はな」)

(王子「……はいっ!!」グス)

(末妹「よかった……」ホッ)

(師匠「さて、そろそろ……物質世界に戻らねばな、だが」)

(師匠「その前に、君等を無事に戻さなくては」)

(末妹「私達を……?」)

(師匠「いつも通り普通に来たのでなければ、いつも通り普通に戻れる保証もないからな」)

(末妹「あ……」)

(次兄「確かに今回はイレギュラーだからなあ」)

(野獣「師匠にはなぜこうなったか、分析できますか?」)


※ご無沙汰していました。師匠と王子解決編でした……次回もなるべく近いうちに※

(師匠「そうだな……お前が末妹嬢に与えた『かけら』があってこそ起きたのは間違いないだろう」)

(師匠「そして菫花が、儂の作った結界の中で無意識にこの子ら兄妹とお前に助けを求め」)

(師匠「条件が揃ったことで、お前の夢の世界と同じ現象が起きた」)

(野獣「私達の憶測はおおよそ当たっていたようですね」)

(師匠「……まあ、正直儂にも今のところそれ以上はわからんということだ」)

(師匠「屋敷に戻ったら、参考になる事例はないか文献を調べてみようとは思っているが……」)

(野獣「すっかりいつもの師匠ですねえ」)

(師匠「ふん、過去のことでクヨクヨしないと決めたからには、今後のことだけ考えるしかないわい」)

(師匠「話を戻す。原因は完全にはわからんが、対処方法はある」)

(師匠「まずは、我々が今立っておるこの世界の地面に、魔法陣を……ちょちょいっと」)

(次兄「すごい、本当にちょちょいっで描いちゃった」)

(末妹「見たことあるわ、この……」)

(野獣「ああ、私が以前、お前達を家に帰す時に使った魔法陣と同じだ」)

(王子「……物質世界で生身の人間を移動させるのと、同じ術を使うのですか」)

(次兄「ってことは、この魔法陣の内側で本体に戻りたいって願えば戻れるのか」)

(師匠「これでいつでもすぐ帰れるから……久し振りに会ったのだ、別れを惜しむ時間くらいは取れるかな」)

(末妹「……ありがとうございます、師匠様!」)

(師匠「ただし手短に頼む、そろそろ物質世界のあの場所を隠蔽し続けるのも限界だ」)




※お久しぶりでした。短いけれど、生存報告も兼ねて…※
 

(末妹「もう……大丈夫ですね、菫花さん?」ニコリ)

(王子「ええ、もう大丈夫……」コクリ)

(王子「君達の、おかげだ……」)

(末妹「師匠様を引きとめたのは、他の誰でもなく菫花さんですよ」)

(王子「一人ではできなかった、末妹さんや次兄君や野獣がいたから」)

(次兄「ありゃ、俺もカウントされてんの?」)

(王子「うん、君が予防線を張ってくれなかったら、あんなふうに師匠に意思表示ができなかった……と思う」)

(野獣(予防線ね、本当に物は言いようだ))

(末妹「野獣様も……これで安心ですね」)

(野獣「ああそうだな、私からも礼を言う、何よりも末妹がここに」)

(次兄「……」ジーットギョウシ)

(野獣「……末妹が、次兄を連れて、ここに辿り着いてくれたお陰だ」)

(野獣「しかし末妹、お前が異変に気付いた時は、菫花や私に会える保証はなかったのに……恐くはなかったのか?」)

(末妹「……ええ、野獣様の欠片が導いてくださると、絶対それは間違いないと信じていました」)

(末妹「それと……私の意思の力で迷わず辿り着けると、兄も力を貸してくれると、自信もあったのです」)

(野獣「お前の意思の力で……」)

(師匠「ふむ、なるほど」)
 

(野獣「師匠?」)

(師匠「儂の推測に、ひとつ抜けていた要素があった……末妹嬢自身の力、か」)

(師匠「……君は魔法を習った経験は?」)

(末妹「あ、ありません」)

(師匠「だろうな、百も承知で尋ねたが」)

(師匠「……呪文、または呪文を込めた魔法具がなければ魔法は発動しないのはもちろんだが」)

(師匠「術者本人にそれを習得した自信、自分の力として使えるという自信がなくては成功しないのだ」)

(師匠「もしかしたら、野獣の欠片が末妹嬢にたったひとつの魔法の力を与えたのかもしれん」)

(末妹「!」)

(師匠「今回のように条件が揃って、そこに次兄少年という支えがいなければ発動しなかった力、そして」)

(師匠「末妹嬢の強い意志があったから無事に菫花達の元へ辿り着けた」)

(師匠「……と、いまだに推測の域だが、末妹嬢が終始受け身で巻きこまれただけ、と考えるより腑に落ちる」)

(次兄「へえ……末妹も、これが自分のたったひとつの魔法かもしれない、って言ってたな?」)

(末妹「うん、そんな気がしただけ、だけれど……あの時はそう思ったわ」)

(師匠「ふむ、では儂の説に自信を持っていいわけだ」)

(野獣「……末妹、お前は本当にすごい娘だな」)

(末妹「え、いいえ、そんな」)

(末妹「私の持つ力だとしても、何もかもが、私ひとりの物ではありません」)

(野獣「それでも、末妹であればこそ、この魔法になったと思うぞ?」)

(野獣「お前の……私や菫花を、師匠を、執事やメイド達を想う心が、私の欠片をそのように作り変えた」)

(野獣「私はそう信じている」)

(末妹「野獣様……」)

(次兄「ふむぅ」)

(次兄「ということは、欠片をもらったのがこの俺だったら……?」)
 

(野獣「……私の口からは言えないような魔法ができあがったかもな」)

(次兄「試してみる価値は!?」ズイッ)

(野獣「無いから」グイ)

(次兄「お約束」グエ) )

(師匠「……む?」)

(王子「師匠、どうしました?」)

(師匠「墓所の周囲の人々が、そろそろ『場の不自然さ』に気がつき始めた」)

(王子「『見て』いないのにわかるんですか?」)

(師匠「説明は省くが儂の張った結界の仕様だ」)

(師匠「それ以上に心配な事が……野獣よ、仮想の窓を開いて見てくれんか?」)

(野獣「は、はい」シュパ)

(師匠「今回の状況ならば……そいつを兄妹にかざしてみてくれ」)

(野獣「は、はい?」スッ)

(野獣「!? 師匠、どういうことでしょう、これは……商人の家の様子が見えますよ!?」)

(師匠「やはりか、お前の屋敷と取り巻く森を除けば」)

(師匠「兄妹と儂と菫花が同じ場所にいる限り、その近辺しかお前の仮想の鏡では見えないが」)

(師匠「兄妹と、儂と菫花、それぞれの肉体が離れた場所にいるこの状況……ここでも例外が起きても不思議ではない」)

(師匠「で、どうなっておる? 今現在この子達の肉体は」)

(野獣「あ……末妹の部屋で……家族が集まっています、二人の体を取り囲むように」)

(末妹「ええっ!?」)

(次兄「やべえっ!?」)
 


※長らく音沙汰なしで本当に申し訳ありませんでした、再開です。最後まで終わらせますよ※
 


※すっかり月刊になってしまった…続きはもう少しお待ちください※

…………

商人の家、末妹の部屋……

商人「ああああ、どうしたんだいったいこの子達は、お医者の先生を呼ぼうか……」アタフタ

長姉「呼びかけても揺さぶってもさっぱり反応無しなんて……」

次姉「でも具合が悪そうな様子はないみたい、二人とも静かに眠っているだけに見えるわ」

長兄「とにかく、机に突っ伏したまま(末妹)、床に転がしたまま(次兄)にもしておけない」

長兄「ベッドに運ぼう、俺は次兄を」ウンショ

次姉「じゃあ私は末妹を」ヨイショ

長姉「次兄も末妹のベッドに寝かせるの?」

長兄「ベッドの大きさは十分余裕あるし、同じ場所にいれば目も届き易いじゃないか」

長兄「それに……『二人同時に』というのは意味があると思う、たぶん」

長兄「俺達の、いや、俺の常識では認めがたい現象が、今回も二人に起きている最中ではないかと……」

次姉「兄さんも頭が柔軟になったのね、私もそんな気がしていたの」

商人「ほ、本当に病気ではないのだろうか?」オロオロ

次姉「病気だとこんな短時間のうちに、家の中で二人同時は不自然でしょう?」

次姉「だいいち呼吸も規則正しいし、顔色もいつも通り」

次姉「それに次兄だけならともかく、末妹も一緒だったら何か悪いもの……毒キノコとか? 口にするのもあり得ないし」

長姉「なるほど、次兄だけなら何かの自業自得の可能性もあるけど、末妹も一緒だものね」

商人「……」ウーム

商人「……よし、お前達の言うとおり、暫くはこのまま見守ろう。もしも容態に変化があればすぐ先生を呼ぶことにして」

次姉「そろそろ夕食の準備に家政婦さんが来る頃ね、彼女にも説明しなくちゃ」

…………

(師匠「……どうだ? 仮想の窓を儂の術で大きく拡げたら、この場の皆にもよく見えるだろう?」)

(王子「会話もはっきり聞こえますよ」)

(次兄「姉さん達……」)

(次兄「俺には一人にしておくと己の行動から自滅する機能が搭載されているとでも?」)

(野獣「改めて、日頃の言動とは重要だと思う」)

(末妹「お父さん、すごく心配している……」)

(野獣「うむ、これは一刻も早く戻らないと」)

(王子「そうだね、早くご家族を安心させて」)

(野獣(ちょっと残念だが……))

(王子(ちょっぴり残念だけど……))

(末妹「せっかく思いがけずお会いできたのに、少し残念ですけれど……」)

(末妹「野獣様、菫花さん、そして師匠様」)

(末妹「必ずまたお屋敷に兄妹(ふたり)で伺います、それまでお元気で」)

(末妹「お屋敷の皆さんにもよろしく」)

(野獣「あ、ああ、何より家の皆を安心させてやるがいい」)

(王子「う、うん、早くお家に戻ってあげて」)

(次兄「俺は少しと言わずひっじょおおおおおおおに残念ですが野獣様!!」)

(次兄「執事さんに次兄は変わりないから案ずるなとお伝えくださいませ!」)

(野獣「少しは変われ」)

(師匠「それでは……二人ともそろそろ魔法陣に入りたまえ」)

(末妹「はい、師匠様、よろしくお願いします……」)

(次兄「おっさんの魔法なら絶対ですわ」)
 

(師匠「目を閉じて、気を鎮めて……と言っても、儂の魔法ならば君達がそんなに集中していなくても問題ないからな」)

(師匠「目を閉じたまま口も聞かずにおれば充分だ」)

(野獣(つられて目を閉じてしまうな私も……))

(王子(僕もつい目を閉じちゃった、でも場を静かにしておくのに越したことはないからね))

(師匠「……では詠唱を始める」ブツブツ……)

(末妹「……」)

(次兄「……」)

(王子「……」)

(野獣「………………?」)

(野獣(……師匠にしては、時間がかかり過ぎている?))

(師匠「……? おかしい、二人とも、一度目を開けていいぞ?」)

(次兄「へ?」)

(末妹「まだ……夢の世界?」)

(メイド「……え?」)

(料理長「こ、ここは……?」)

(庭師「あれ?? 僕どうしたんだろ??」)

(執事「ご、ご主人様!?」)

(野獣「お、お前達!?」)

(次兄「しししししちゅじしゃんんんんんん!?」)

(執事「」)

(末妹「メイドちゃん!?」)

(メイド「末妹さまっ!?」ピョーン)
 

(メイド「お会いしたかったんですよおおぉ!!」ポフッ)

(末妹「私も……でも、どうして皆、ここにいるの?」ナデナデ)

(王子「目を開けたら、魔法陣の中に執事さん達が……?」)

(野獣「そうだな、まず……お前達は直前まで何をしていたのだ?」)

(師匠「執事、次兄は儂が魔法で捕縛しておくから安心して説明してくれ」)

(次兄(沈黙魔法もかかってますぅ)ジタバタ)

(執事「……助かります師匠様」フー)

(執事「ええと……我々使用人は、師匠様と菫花様がお帰りになる準備が一段落したので」)

(執事「皆で短時間の休憩を取り、それからまた仕事にかかろうと考えて」)

(メイド「ぱっと眠ってぱっと起きるの得意ですから、私達」)

(庭師「僕らだけでお留守番している間は四匹一緒に仕事することが多いですしね」)

(メイド「厨房のかまどや灯りの火に危険がないことを確認して、料理長さんと庭師君と私が横になって」)

(料理長「執事さんは、わしらが休むのを見届けてくれましたよ」)

(執事「そう、そしてわたくしも目を閉じ、次に目を開いたら、周囲に使用人たち皆と、ご主人様方が……」)

(師匠「ふむ……誘発となったのは、全員が仮眠に入った頃に、こちらで移動の魔法陣が発動した……そんなところか」)

(師匠「彼らの場合、おそらくは自分達の意志ではなく、この場に引っ張られたのだろう」)

(末妹「私達を家に帰すための師匠様の魔法が、お屋敷の皆さんを呼び出してしまったのですね」)

(料理長「とりあえずこの場所のこの感じは……ご主人様の夢の世界、ということで?」)

(野獣「うーん、厳密に言うと正解でもあり違ってもいるが……説明している余裕はなくてな」)

(王子「次兄君と末妹さんのお家では、二人の体が突然に眠ってしまって大変なことになっているのですよ」)

(庭師「えー、じゃあなんかよくわかりませんが、お会いできたと思ったらお別れぇ?」)
 

(メイド「むー、寂しいけど、仕方ないですぅ……」スリスリ)

(末妹「私も残念、でもまた鏡でお話ししようね?」モフモフ)

(次兄(相変わらず羨ましくも眩しい末妹とメイドさんの触れ合い……)シクシク)

(執事「……」チラ)

(執事「……忘れ物をひとつ、思い出しました」スタスタ)

(次兄(!? 執事さんから俺に接近してきた!?))

(執事「貴方様が身動きもお話もできないのならば好都合です、手短に済ませましょう」コホン)

(執事「いつぞやは、お土産の絵、主人や皆だけではなくわたくしの姿絵までも、ありがとうございました」)

(次兄(!?))

(執事「正しくお礼を述べるべき機会を逃してしまいましたからね、たいへん失礼いたしました」)

(次兄(執事さんが俺に、俺だけに向かって謝意と謝罪だとおおおおおお!?)カタカタフルフル)

(執事「……ついでに。あの絵は皆それぞれ自分の部屋に飾っていますよ」)

(執事「わたくしも含めて」)

(次兄(ふしゅうううううう……)ショウテン)

(王子「な、なんか次兄君がいつもより全体的に白っぽく……?」)

(野獣「……魔力と精神力の影響が強い空間のせいで、そう見えるのだろうな」)

(執事「さあメイド、お二人がお帰りになる邪魔をしてはいけない、末妹様から離れて魔法陣から出るのだ」)

(メイド「……はーい……末妹様、ごきげんようです」ポテッ)

(末妹「ええ、お互い元気でまた会おうね……」)

(野獣「……とは言うものの」)

(野獣「魔法陣で確実に帰れるかどうか、わからなくなって来ましたね師匠」)

(師匠「ええい儂もわかっとる、今あれこれ考えている所だ」)
 


※お久しぶりでした。とりあえずここまで※
>>538 師匠のセリフ ×仮想の鏡 → ○仮想の窓
※他にも色々間違えているかもしれませんが脳内保管お願いします……※
 


あ、脳内補完だった……保管してどうする_| ̄|○


※次の土日に更新予定です※

商人の家、末妹の部屋。

家政婦「……状況は理解致しました」

次姉「今までのことを考えると、さほど心配はいらないと思うけど……家政婦さんはどう思う?」

家政婦「私も、お二人とも自然にお目覚めになると思います」

家政婦「ただ、それがいつになるのか予想できないのは不安ですわ」

商人「だよねえ……このまま明日も明後日も眠り続けてはお腹も空いてしまう、可哀相に」オロオロ

長姉「寝言でもいいから『いつ戻る』って教えてくれないものかしら?」

長兄「う~ん、耳元で呼びかけたら通じないかな……?」

次姉「兄さんがそんな発想をするなんて」

長兄「意識のない病人に耳元で呼びかけたら、その言葉だけは目覚めてからも覚えていたって話は何度か聞いた」

長兄「根拠はあるんだよ」

…………

(野獣「仮想の窓、皆見えるな?」

(次兄「やっぱり心配してる、当たり前だけど」)

(メイド「家政婦さん……」)

(師匠「儂だって今すぐにでも安心させてやりたいのだぞ」)

(王子「こちらの状況を伝えることはできませんからね……」)

(末妹「……仮想の窓……」)
 

(末妹「……この場所ではいつもと違うことが起きているのなら……もしかしたら?」)

(次兄「末妹?」)

(末妹「野獣様、師匠様、『仮想の窓』はお屋敷の銀板鏡のような魔法なのですよね?」)

(師匠「うむ、まあ……原理は変わらんのだが、物質としての鏡の存在と、物質のない世界との違いだけで」)

(末妹「私の部屋の鏡台に今の私達の様子を映し出すことはできませんか?」)

(野獣「え?」)

(師匠「なんと……」)

(師匠「……ふむ……なるほどなるほど……そうだな、試す価値はありそうだ」)

(師匠「家の者達はあの鏡台が何の目的で君の部屋にあるか知っているのだろう?」)

(師匠「それに家の者達は君の部屋にいる、きっと気付くはず」)

(王子「あれ……でも……」)

(末妹「……ただ」)

(師匠「ん?」)

(末妹「鏡台の覆いを開かなくてはなりませんが……」)

(師匠「……なんと」)

(次兄「ああ、末妹は几帳面だから、使い終わる度に鏡台の覆いを閉じているんだよなあ……」)

(執事「まあ普通はそうですよね」)

(メイド「次兄様ならいちいちそんなことなさいませんのに、ねえ」ハァ)
 


※短いけどここまで。次回は月間になる前に更新の予定です……※

またもや商人の家、末妹の部屋。

家政婦「……お二人ともただ眠っておられるのではない、と、皆さんもそう思っていらっしゃるのですよね?」

次姉「え、ええ、私は、この子たちの意識は別の場所にあると思っているわ」

次姉「夢の中で『実際に』野獣のお屋敷のお友達に会って来た、って話しているもの」

長姉「そうだとしても、今ごろ何をしているやらまるで知りようがないけれど、ねえ」

家政婦「……」

家政婦「お二人が旦那様のお許しを得て、野獣様のお屋敷に向かおうとした時に、移動の魔法が働かず」

家政婦「その理由もお屋敷で何が起きているかもわからず、不安や焦りが募る中……」

家政婦「メイドさんが現れて、野獣様達のお心やご様子を伝えてくださったおかげで」

家政婦「お二人は決意も新たに、ご家族の皆さんの支えを得て、旅立つことができました」

家政婦「また同じようにどなたかがこの場所に現れて有益な伝言をくださるとは……さすがに考えにくいですが」

家政婦「今回のことにもお屋敷の方々が関わっておられるとすれば」

家政婦「今は……まるで知りようがない、とも言い切れないのではないのでしょうか?」

次姉「……!!」

次姉「そうよ、鏡! 末妹が貰って来た鏡があるじゃない!!」

次姉「今頃あの子達も私達が心配しているのを知っているかも」

商人「なるほど、私達に伝えたいことがあってもできなくて、向こうでもやきもきしているのかもしれない」

長兄「確か、木枠の小さな鏡台だったはず……ああ、これだ」ヒョイ

長姉「落とさないでね兄さん!!」

長兄「大丈夫、ほら、次姉に渡すよ」

次姉「覆いを開けば使える、って言ってたわね……」

…………

(メイド「さすがは家政婦さんですー!!」)

(野獣「よく気付いてくれた……」)

(王子「師匠師匠、早く末妹さん達の様子を魔法で!!」)

(師匠「お前に言われんでもわかっておるわ!!」)

(次兄「えーとえーと、まずは心配しないでって、あとはどう帰ったらいいかわからない、って話をしたらいいかな?」)

(庭師「後半はむしろ心配かけてしまうかと」)

(料理長「説明は必要……とはいえ、話しかた、ですよね」)

(執事「次兄様は口を開かないほうが宜しいでしょうな」)

(末妹……話しかた……か」)

(師匠「よし、仮想の窓と鏡台が繋がったようだ……どうやら成功したぞ」)

(師匠「引き続き、君達を家に帰す方法も考えねば」)

(次兄「あ、家の皆が『こっち』を見ている」)

(野獣「次兄は黙ろうな?」)

(末妹「お父……さん……?」)

商人「ああ、末妹と次兄だ!! 見えるかい、父さんだよ!!」

長兄「よかった、とにかく無事なんだな!!」

(末妹「ええ、私達は無事です……心配かけてごめんなさい」)

次姉「いいのよ、事前に私達に告げて行く手段や時間があれば、そうしたはずでしょ?」

次姉「できない理由があったのよね、それはいいから……」

長姉「ねえ、いつ戻って来るの?」

(末妹「……」)

(野獣「ううむ……」)

 


※ここまで。できれば次回も週間で更新したい…※


※今夜は更新なし、すみません。今週中に更新予定…※

次姉「ちょ、姉さん割り込まないでくれる?」

長姉「でも一番重要な点でしょ?」

商人「……わ、私も心配だよ、お前たちの身体はこのままで大丈夫なのかい?」

(師匠「商人殿……出しゃばって申し訳ありませんが」ズイ)

商人「師匠様!? 貴方もご一緒でしたか……それは心強い」ホッ

(師匠「……むむ」タラリ)

(師匠「……とりあえずは、安心なさい。お子達の肉体は安らかに眠っているだけ」)

(師匠「必ず戻るので……もう少し、お待ちを」)

商人「ええ、どうかお願いします、師匠様……」

(師匠「……うむ」ヒヤアセ)

(メイド「家政婦さん! 鏡台に気付いてくださって、ありがとうございます!!」ピョン)

家政婦「まあ、メイドさん!」ホワワ

長兄(あ、家政婦さんの頬が緩んだ)

(執事「こらメイド、割り込むんじゃない!!」)

長兄「でっかい狼!?」ビクッ

次姉「兄さん、きっと『執事さん』よ……大きくて銀色の毛並みって言ってたもの」

長姉「後ろにアナグマと猫もいるわ、職業は料理長と庭師……だったかしら?」

(庭師「僕は山猫ですよ……」)

(料理長「さあメイドちゃん、嬉しいのはわかるが邪魔にならない場所に戻ろう、ほら」)

(野獣「料理長の言うとおりだ、お前達は少し離れて見守っていてくれ」)

商人「その声は、野獣」
 

(野獣「あ、ああ……私も仮想の窓に入らない位置に敢えて立っていたが……」)

商人「……少しでいいんだ、姿を見せてくれないか……?」

(野獣「…………では、顔だけ」ニュ)

商人「嬉しいよ、確かに今の状況は何かの変事なのかもしれないが、その中で君とまた出会えるなんて」

(末妹「お父さん……」)

(野獣「久しぶりだ、商人……貴さm……貴殿には感謝してもし切れない……それと……」)

次姉(これが、野獣の顔……話には聞いていたけど、あの菫花さんとはやはり似ても似つかない)

長姉(あら、確かに元王子様の面影は全くないけど、思っていたほど怖い顔じゃないかも)

長兄(……しっかりしろ俺、これは現実、現実現実……)

家政婦(優しい目をされています、末妹様やメイドさんの仰る通りですね)

(野獣「……末妹と次兄の兄と姉達……そして家政婦か、初対面になるのだな」)

(野獣「ゆっくり話をしている余裕もないのは残念だが,君達にも私はたくさん感謝している」)

(野獣「自分の口で使えることができてよかったよ」)

次姉「野獣……」

(次兄「あっ次姉ねえさん微笑んでる!? 野獣様の魅力に目覚めてくれるのは嬉しいが、惚れちゃ駄目だからねっ!?」ズズイッ)

(野獣「」)

次姉「はぁ!? あんた何言ってるのバカじゃないの!? 帰って来たら……覚えておきなさい!!」クワァッ
 

(野獣(……やはり怒らせると凄く怖い))

(王子「 」フラッシュバック中)

長姉「あら、目立たない場所にいたのね元王子様……何だか、また固まっていない?」

(末妹「帰って来たら……」)

(末妹「……」)

(野獣「末妹、どうした?」)

(末妹「お父さん聞いて、正直に言います」)

商人「な、何だい、末妹?」

(末妹「実は私たち……ここにいる皆さんも……私たちが家に戻れる方法を探っている最中なのです」)

(商人「え」)

(次兄「へ?」)

(野獣「末妹っ!?」)

次姉「っちょ、って事は、戻れなくなっているって意味!?」

(末妹「ええ、そして、おそらく……私とお兄ちゃんだけじゃなく……」)

(師匠「……君ら兄妹が戻らなければ、執事達も屋敷にある自分の身体に戻れない」)

商人「たたたた、大変な事態じゃないか!?」

(末妹「不安にさせてごめんなさい、でも……」)

(末妹「お父さん達の力も借りたいの、みんなで考えた方がきっと早く答えが出せる、私はそう思う……」)

(末妹「メイドちゃん達のためにも、助けが必要なんです……」)

(野獣「……」)
 


※はい、昨日の更新は寝落ちました…次回は近いうちに……※

あっ誤字発見

>>564
×(野獣「自分の口で使えることができてよかったよ」)
〇(野獣「自分の口で伝えることができてよかったよ」)

ごめんなさい

長兄「状況はなんとか理解できたし、末妹の気持ちもわかる、なんとかしなきゃならない……とは言うもの」

長兄「俺達にどんな助言ができるやら……」

次姉「うーん……そうねえ……」

次姉「……あんた達がそっちに行ってから今までに起きた出来事の中に……ヒントはないかしら?」

(末妹「これまでの出来事……」)

(末妹「野獣様のかけらを通じて、どこかに呼ばれているような気がして……」)

(次兄「俺が居眠りしていると思しき末妹の方に触れた途端、眠くなって……気がついたらここへ」)

(野獣「二人が最初に出会ったのが私、3人で現実世界にいる菫花の様子を覗いて見ると……」)

(野獣(このあたりは菫花の名誉に関わるから具体的なことは口に出さない方がいいな))

(野獣「ここに現れた菫花をある理由から一旦現実世界に戻して、また改めて来てもらって、色々あってやがて師匠も現れた」)

次姉「……現実世界に戻して……?」

商人「そ、そこだよ、どうやって戻したんだい!?」

(野獣「あ」)

(野獣(し、しまった……))

(師匠「ふむ……いや、現実世界の菫花と儂の肉体はすぐそばにあるのだ」)

(師匠「この場所は野獣の夢の世界に儂が張った結界が重なった世界、結界は我々が訪れた旧小国王城の庭に張られている」)

(師匠「だから儂と菫花だけは、いつもの夢の世界から戻るのと同じ方法で肉体に戻れる」)

長姉「なんだ、要するに参考にならないってことね」

次姉「……でも何かひかっかるのよね」

家政婦「次姉様、なぜ一旦戻す必要があったのでしょうね?」

次姉「ああ、それよ、どうせまた呼ぶなら、なぜ戻したの?」
 

(野獣「そ、それは……」チラ)

(王子「ぼ、僕が粗忽で迂闊で間抜けで不注意だったからです!」ダダッ)

商人「遠くにいた菫花君が駆け込んできた」

(次兄「……そうだった、菫花さんがまたもや自らのドジでピンチに陥って」)

(次兄「と、いうことは……つまり……?」)

(次兄「!!」ピコーン)

(末妹「何かわかったの?」)

(次兄「父さん、俺達に現実世界での危険が迫れば戻れるかもしれません!!」)

(次兄「現実世界での皆の力を借してほしいのは、むしろこれから!!」)

次姉「は?」

商人「ど、どういうことだい!?」

長姉「あんたの話はいつもぶっ飛びすぎてわかんないのよ」

(次兄「菫花さん、そのー、最初よくわからないまま俺達の前に現れて、一時的に強制退去となったわけですが」)

(次兄(末妹には具体的な退去方法は伏せておきたいので))

(次兄「現実世界に戻っている僅かな間、自分が何をしたか記憶はありますか?」)

(王子「え」)

(王子「ええと……一度現実世界に戻って、そしてまたここへ来た時には、戻っていた時の記憶はなかったんだ」

(王子「……でも直前には、僕の肉体が瀕死だと君達に教えてもらっていたので……」)

(王子「たぶん、僕の肉体は自覚のないまま動いて危機を回避したのかな、と……思う」)

商人「瀕死? 危機の回避?」

(野獣「……ここでは、窒息寸前まで口と鼻を塞いでいたマフラーを緩めて呼吸を再開させた行為を指す」)
 

長姉「わかるようなわからないような状況ね」

次姉「次兄が言いたいことは、要するに……」

次姉「あんた達の身体がこっちで死にそうになったら、回避するために強制的に戻れる、そういう意味?」

商人「!?」

商人「だだだだだっだだだ、駄目だよ、いくらなんでもお前達の身体を危険に晒すなんて!!」

(次兄「うん、俺も次姉ねえさんに俺の肉体だけをぶん殴ってもらう方法とか考えたけど」)

次姉「ちょ、死ぬほどぶん殴るって、さすがに私にもそれはできないわよ!!」

長兄(物理的にだろうか心情的にだろうか)

長姉「仮にその方法であんたが危なくなっても、末妹のほうはどうなるのよ?」

(次兄「俺が現実世界で末妹の肩に触れたために一緒に連れて来られたならば」)

(次兄「逆にこっちで手を繋いででもいれば、一緒に戻れるはず」)

次姉「だから私には無理だってば!」

(末妹「お姉ちゃんの言う通りよ、違う方法を考えよう!」)

(次兄「まあ聞け末妹、俺も瞬時に第一案は却下した」)

(次兄「それよりもっと……俺にとっての危機的状況を作り出す方法があるのです」)

(次兄「兄さん……と、やっぱり次姉ねえさん!!」)

長兄「な、なんだ!? 暴力には手を貸さないぞ!!」

次姉「私を何だと思っているのあんたは!!」

(次兄「暴力じゃない、単なる力仕事をお願いしたい」)

(次兄「そこにいるメンバーで腕力のツートップはその二人なので」)

商人「力仕事って何だい? とにかく話してごらん」

(次兄「俺の部屋から、俺の机をそこへ……俺達の肉体の傍ら、鏡台に映るように持ってきてほしい」)
 

次姉「……は?」

(次兄「机の上の物は全部て下ろし外せる引き出しは全て外せば本体と施錠された引き出しのみ、そこそこ軽くなるはず」)

長兄「それくらい持ってくるのは困難なさそうだが……なんの意味が?」

(次兄「とにかくお願いします、話はそれからです」キリッ)

(末妹「お兄ちゃん??」)

(野獣「とにかく我々は見守るしかないか」)

(王子「いったい何があると言うのだろう……」)

~数分後~

次兄の机:ドン!!

次姉「……ほんっと、なんであんな汚い部屋で生活できるのよ!?」プンスカ

長兄「あれでもこのあいだ俺が入った時よりマシになったんだ……どこが足の置き場かわかるようになっていた」

商人「次兄、二人が机を持って来てくれたよ……お前の言う通り、本体と、鍵のかかった引き出しだけになっている」

(次兄「ありがとう……さて次のステップ」)

(次兄「兄さん、眠っている俺のズボンの左ポケットを探ってみて」)

長兄「……わかった、えーと、左ポケット、と」ゴソゴソ

長兄「なんだこれ、ポケットが二重になって、中に何か固い小さな物?」ゴソゴソ

家政婦「確かに、次兄様のズボンの左ポケットはほとんど二重になっていました」

(次兄「ふふふ、自分で改造したのです家政婦さん」)

(野獣「そう言えば次兄は裁縫が一応できると以前に」)

家政婦「洗濯するたびに不思議には思っていましたが、ご家族の皆さんはご存じなかったのですね」

長兄「入っていたのは小さな鍵……か」

長兄「次兄、これが必要なのか?」チャラ
 

(次兄「そうです、では……しばしそのままで自宅組の皆様はお待ちくださいませ」)

(次兄「さて、これからが本番です末妹、そして野獣様をはじめとする皆様」)

(野獣「これから何が始まるのだ」)

(次兄「俺の人生にとって、一世一代の賭けです」)

(王子「何が何だかわからないよ」)

(次兄「念のため俺達はおっさんの魔法陣の中で待機します」)

(次兄「通常の方法とイレギュラーな方法の両方を併用することで成功率は高まるかと」)

(次兄「末妹、手を繋ごう」)

(末妹「う、うん」キュ)

(次兄「ここで、ご一同にお願いがあります」)

(次兄「この先どのような展開が現実世界の末妹の部屋で繰り広げられようとも、一切を不問に付すと、約束してほしいのです」)

(次兄「末妹も、鏡の向こうの父さん達も含めて」)

(末妹「わかったわ、何も聞いたりしない」コク)

(野獣「……ますますわからん」)

(王子「わかんないけど……約束したらいいんだね?」)

(師匠「……約束するしかない、な、これは」)

(師匠「そもそも今回は儂の力と知識が及ばぬためにこうなったのだ」)

(師匠「君達が無事にご家族のもとへ帰れるのなら、何があろうとも我々に口を挟む権利なぞありはしない」)

商人「私も約束する、皆にも約束させるよ!!」

次姉「お父さんが言うなら」

執事「本当にわかりませんが、我々もご主人様達に従う以外ありませんね」
 

(次兄「感謝します……さてあまり時間もない、皆さんまたお会いしましょう」キリリ)

(執事「次兄様がずっと神妙な表情で薄ら恐ろしい」)

(料理長「次兄様はわしらのためにも今回のご帰還を成功させたいのです」)

(庭師「大丈夫です、みんな無事に帰ってまた会えるって信じます!!」)

(メイド「家政婦さん、いつかまたお手紙書きますね、末妹様、お屋敷でお待ちしています!!」)

(末妹「ええメイドちゃん、執事さん、料理長さん、庭師君……またね」)

(野獣「私達とはさっきお別れをしたから、もう良いな?」)

(末妹「……ええ、またゆっくりお会いできた時に、たくさんお話しをしたいです」ニコ)

(王子「改めて、ありがとう……」)

(末妹「菫花さん、私は父の待つ家に帰ります……菫花さんもお父様と一緒に、ご無事にお屋敷に帰ってくださいね」)

(王子「うん、僕の大好きなお父さんとね」ニコ)

(師匠「えーと、あのな」オホン)

(師匠「次兄君、そろそろ先に進めてはどうだね?」)

(次兄「そうですね、兄さん!!」)

長兄「はいはい」

(次兄「その鍵はその机の鍵なのです」)

長兄「そんな気はしていたよ」

(次兄「合図をしたら、手にした鍵で固く封印された引き出しを長き眠りから開放してください!!」)

長姉「単に引き出し開けてって言えばいいのに」

次姉「なぜ合図が必要なの」

(次兄「物事にはタイミングというものがあります」)

(次兄「おっさん、兄が開錠するタイミングで帰還の魔法が成功するよう詠唱をお願いします」)
 

(師匠「ふむ……それならば、誰か、次兄君兄妹と儂と長兄君以外の者に数を数えてもらおう」)

(師匠「十、数えてくれるのに合わせ魔法を発動させ、あちらでは鍵を開く」)

(野獣「では、私が……練習してもいいですか?」)

(師匠「ああ」)

(野獣「いーち、にーい、さーん……こんな間隔で」

(師匠「うむ、それで大丈夫だ」)

長兄「こちらも大丈夫です」

(次兄「では皆さん、頼みましたよ!!」キリリリ)

(師匠「詠唱を……」ブツブツ)

(野獣「いーち」)

長兄「よし、鍵を鍵穴にあてがって、数え終わりを待つ、と……」

(末妹「お兄ちゃん……」ギュッ)

(次兄(さあ、俺だけの人生最大の危機が訪れようとしている)ゴクリ)

(野獣「にーい」)

(次兄(あれがある限り、俺はどこに行こうとも、何が何でも生きて再びあの部屋に帰らねばならぬ運命(さだめ))ググッ)

(メイド「次兄様、本当に真剣な表情です……」)

(庭師「すごい、銃を持った人間達がお屋敷に近付いてきた時のよう……いや、それ以上に張り詰めているかも」)

(料理長「何かを守ろうとする雄(おとこ)の顔ですな……」)

(執事「なんという緊迫した空気……何があの次兄様をあそこまで……」)

(次兄(開錠までは頼んだが、引き出しをどうするかは敢えて指示を出していない、つまり、あちら任せ……)ドキドキ)

(次兄(引き出しの内側は白日の下に晒されるのか、だとすれば俺の肉体はそれを阻止できるのか、間に合うのか)ドクンドクン)

(野獣「さーん」)
 


※カウントアップの途中ですが今回はここまで※
 


※少し書き溜めて投下したいので次回は年明けです、ごめんなさい※

みなさま良いお年を……


※長々休んでしまってごめんなさい。次回の週末ぐらいに更新できると思います。予定。※

(師匠(よし、魔法の発動もこの分だと問題ない))

(野獣「……しーい」)

商人(とにかく、この子達が無事に戻ることを信じるしかない……)

(野獣「ごーお」)

長兄(半分か、長く感じるなあ)

(野獣「ろーく……」)

(末妹(繋いだ手から、お兄ちゃんの張り詰めた想いが伝わって来そう……))

(野獣「しーち」)

(次兄(……追い込まれてきました追い込まれてきました追い込まれてきました追い込まれてきました)ドキドキドキドキ)

(野獣「はーち」)

(次兄(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい)ドッドッドッドッ)

(野獣「きゅーう」)

(次兄(帰らねば破滅帰らねば破滅帰らねば破滅帰らねば破滅)ドドドド゙ドドドド)

(野獣「じゅーう……!!」)

長兄(今だ!!)カチャリ

鍵:カシィィィン

(王子「!?」)

(野獣「おお……!!」)

(師匠「……魔法陣が光に包まれた、成功だ……!!」)
 

執事「……っ!?」ハッ

庭師「……帰って来た……?」

メイド「ここお屋敷です、私達帰って来ましたよぉ!!」ピョンピョン

料理長「いつぞやのように魔法陣が光ったと思ったら……ほんの一瞬、いや、それより短かったかも……」

執事「我々が無事に戻れたと言うことは……末妹様達も……」

メイド「きっとご無事で、ご家族にお会いできているはずです!!」

…………

商人「……」

次姉「…………」

長兄「……次兄、わかった、わかったから、俺から一旦離れてくれないか」

長兄「と言うか、俺の顔の正面にあるのはお前の股間としか思えないのだが……?」

次姉「……次兄が逆さまになって、兄さんの上半身にしがみ付いているのよ」

長姉「腕で兄さんの胴体に、足で兄さんの頭にね」

末妹「……」ポカーン

商人「末妹、無事に帰って来たんだね!!」ブワァァァ

末妹「お、お父さん……!!」

次姉「この子達の身体はベッドに横たわっていたのに、鏡が一瞬光ったと思ったら」

長姉「次の瞬間、次兄は兄さんにしがみ付いて、末妹は机の引き出しの前に座り込んでいるなんて」
 

次兄「兄さん約束して引き出しをこれ以上開けないで兄さん約束して引き出しをこれ以上開けないで兄さん約束し」フェイスハガー

長兄「約束する、約束するから、今だって5ミリも開いていない、だから降りてくれ……」

次姉「ひっぺがすの手伝うわ、ほら、降りなさいよホントにこの子は……」ベリベリ

末妹「帰って来たのね、私達……」

家政婦「ええ、お帰りなさいませ」ニコ

末妹「家政婦さん……」

次兄「末妹まだそこ(引き出しの前)から動かないで!!」

末妹「え、ええ!?」ビクッ

次兄「そのままゆっくり、少しだけ後ろに体重掛けて?」

末妹「こ、こう?」ギシ

引き出し:コトン

次兄「兄さん、引き出しが閉まったところで、鍵穴に差し込まれたままの鍵を今度は逆に回して?」

長兄「今度は施錠すればいいんだな?」カチャリ

次兄「鍵は返してくださいな」

長兄「ああ、返すよ」ホラ

次兄「……ふー……」

次兄(読みどおり、切羽詰まった状況を敢えて創り出し、おっさんの魔法との相乗効果で最高の結果が生まれた)

次兄(引き出しの中身も見られずに済んだ……間に合った、間に合ったぞおおおおおお!!)

次兄「あ、もう動いていいよ末妹」

末妹「お兄ちゃん……」ヨイショ
 

商人「改めて、無事でよかった、帰って来てくれてよかったああああああ!!」ガバッ

末妹「お父さんたら」ムキュ

次兄「無事に帰宅できたのも、家族のみんなの協力と祈りのおかげ……ありがとう、特に兄さん!!」キラキラ

長兄「次兄、鏡の向こうでは見たことないほど真剣な顔をしていたが」

長兄「今のその、晴天のように爽やかな表情も見たことないぞ……正直不気味だ」

次兄「いやぁ、俺は人生最大の危機を無事に回避できたことに安堵しているのです」

次姉「人生の危機とかなんなの」

次兄「おっと、何も尋ねない約束ですぞ?」チッチッ

次姉「そりゃそうだけど……」

末妹「心配かけてごめんなさい、本当にありがとう、皆のおかげで戻って来れたの」

末妹「お家の皆と、そして……」

末妹「……メイドちゃん達はちゃんと帰れたのかしら」

長姉「そう言えばこの鏡台、あんた達が戻って来てから『あちら側』を映さなくなっちゃったわね」

家政婦「そのことでしたら……」

家政婦「たった今、師匠様が瞬間移動の魔法で現れて……お屋敷の様子も同じように確認して来られたとのこと」

次姉「は? たった今?」

家政婦「数秒間のご滞在でした」

家政婦「でも、皆それぞれ家に戻れて安心した、と仰っていましたし」

家政婦「これから師匠様と菫花様は広場に戻り、野獣様もいつもの場所に戻られた……そうです」

次兄「全員無事なんだね、よかったー」

末妹「皆さんお屋敷に戻れたのね……」ホッ

末妹「野獣様、菫花さんも……師匠様も……よかった」

…………

現実世界の、かつての王城の庭園……

師匠「菫花、そんなわけで執事達も末妹嬢達も無事だ、安心せい」

王子「ああよかった、本当によかった……」ウルウル

師匠「我々と野獣の三人だけになった途端、儂の魔力の一部を制御していたものが外れた……そんな感覚になった」

師匠「野獣もこんなことを言ってたな」

(野獣「どうやら、今の私は自分の意志でいつもの夢の世界に戻ることができそうです」)

(野獣「自力で戻れるという強い確信があります……屋敷の応接間から寝室に入るように容易く」)

師匠「そう言って、あいつは『帰った』……末妹嬢が持つ欠片の影響がなくなったせいだろう」

師匠「野獣から離れた欠片は、本体と影響しあう時はあっても、すでに別物として……成長もしている」

師匠「……ま、そのへんは後でいくらでも考える時間はあるな、それより……」

師匠「ほれ、いつまで感慨に浸っとる」

師匠「もう人払いの結界も解いた、大の男が涙ぐんでいては、人々が不審に思うではないか?」

王子「は、はいっ」

師匠「儂らはこれから、敢えて歩いて屋敷に帰らねばならんのだぞ?」

師匠「とは言え少し疲れた、魔力も使い果たした……宿に戻って休もう」

王子「ええ、そうですね……」

王子「……今夜はよく眠れそうです」

師匠「さあ、行くぞ……と、その前に、別れの挨拶をして行くか?」

王子「……ここにはまた来ることができます、来ようと思えばいつでも、そんな場所の一つになりました」

王子「ですから……今回は」スッ

王子「……また来ますね、父上、母上」

王子「今度は230年も間を開けませんから、必ず……」

王子「……終わりました。行きましょう、師匠」

師匠「ああ……また来よう、お前と儂でな……」

……


※ここまでです。寝落ちます…※


※一か月過ぎてしまうので…近日中に更新するので少々お待ちを…※


>>1です、マジごめんなさい
 2~3月ちょっと、いやかなり多忙というか余裕なくこの有様でした。必ず完結させますので……※

商人の店。

長兄「……」

次姉「兄さん?」

長兄「……」

次姉「兄さん!! 何ボーッとしてるの?」

長兄「はっ……次姉」

次姉「もう、そんな調子じゃまたいつぞやみたいに手でもケガするわよ」

長兄「すまない」シュン

次姉「まあ……さっきまであの子達が無事に戻るかどうかって緊張した空気だったものね」

次姉「その中で文字通り『カギを握る』役目だったんだもの、疲れるのも無理ないか」

長兄「本当にすまん、もう大丈夫だ……次兄と末妹は?」

次姉「本人達は普通に元気そうだけど、お父さんが大事を取らせて、目の届く居間のソファで休ませてる」

次姉「家政婦さんは夕食の準備で忙しいけど、姉さんも同じ居間で編み物を始めたわ」

長兄「そうか、元気ならよか……長姉が編み物!?」

次姉「そこ?」

次姉「姉さんなりに料理だけじゃなく家事全般の腕を上げようと頑張っているの」

長兄「そうだな、長姉なら料理の腕もあっという間に上達したし、きっと編み物や裁縫もやる気になりさえすれば」

次姉「まあでも、今日は短い時間に色々考えたり力仕事したり気を揉んだりと」
 

次姉「私も正直疲れたわ、お父さんに確認して早めに店を閉めましょ」

長兄「ああ、先に上がっていいぞ」

長兄「午後から臨時休業にしていたところを、お客様のために少しの時間でもと開いたんだ」

長兄「通常の閉店時間まで俺一人このままやるよ」

次姉「……それなら私も」

次姉「兄さん一人にして、またさっきみたいにボーッとされても困るもの」

長兄「はは、本当に大丈夫……でもありがとな」

長兄「……」

長兄(本当は疲れてボーッとしていたとは微妙に違うんだよな)

長兄(鍵が開いたと同時に、引き出し自体の重みでほんの僅か……3ミリばかり……自然と、開いた)

長兄(あの重みが手にかかった瞬間、俺はその手で引き出しを押し戻すべきかそのままで維持するべきか)

長兄(それとも重さにまかせて更に引き出すべきか、迷った)

長兄(でも、それは本当の本当に一瞬だけの迷いだった)

長兄(次兄達がすぐに戻ってきたせいではない)

長兄(あの3ミリほどの隙間から……俺が感じた物は……)

長兄(我ながら滑稽だとか陳腐だとか思う)

長兄(……でも確かに感じたんだ、何か、例え難い……物理的な重さとはまた違う……圧迫感……)

長兄(……そして、寒気と恐怖感と……)
 

長兄(とにかく、何かわからんがこれ以上この引き出しを開いてはいけない)

長兄(この内にあるものに関わってはいけない、と頭の中で警鐘が鳴り立てた)

長兄(そこで次兄が戻って来て、ようやく俺も現実に引き戻され)

長兄(あの時感じた『何か』は……過ぎてしまえば気のせい、錯覚、あるいは)

長兄(実際になにかがあったとして、魔法の力が働いた作用……なのかもしれない)

長兄(……・)

(次兄「おっと、何も尋ねない約束ですぞ?」チッチッ)

長兄(次兄が言う通り、尋ねてはならない、問うてはならない……)

長兄(正体はわからずじまいだが、それが正解であり)

長兄(なんであれ、それで二人と二人の友人……友獣(?)達が無事に帰れたのなら、正しい使われ方をしたんだ)ウム

次姉「……」

次姉(兄さんまた何か考え事して一人で頷いているけど)

次姉(まあいいか、何であれそこまで真剣に考え込むほどでもない話だろうと真面目に考えるのが兄さんだもんね)フゥ

呼び鈴:チリリン…

次姉「! 兄さんお客様よ、いらっしゃいませ!」

長兄「はっ……いらっしゃいませっ!!」

……
 


※ごぶさたしてすみませんでした。読んでくれた方ありがとう※


※念のため。一か月早い…※


※お久しぶりです。来月頭までちょっとバタバタしてますが7月前半に更新します※


※すみません、自分で「上旬」と書いておきながら「7月中」のつもりでいました…も少し待っててください…※

商人の家、居間。

商人「そうか、菫花君にとっては本当に良い旅になったようだな」

末妹「ええ、本当に」

商人「それに……親が子供とわかり合えるのは簡単なようで難しいものだが」

商人「だからこそ、お互いの想いが通じたと実感できる瞬間はどんなに尊いか」

商人「師匠様にも、きっと良い旅になっただろう……」

長姉「お父さん……」ニコ

次兄(あの長姉ねえさんとは思えぬ穏やかな微笑)

次兄(これも元を辿れば幼馴染男さんの愛の影響力とやらなのか……)ムムム

商人「次兄、ややこしい顔して黙り込んでいるけど、体の具合が悪いのかい?」

次兄「はっ!? い、いいえ、なんともありません、何ひとつやましいことなどありませんよ!?」アセアセ

長姉「何をうろたえているんだか、変な子」

末妹「……」

末妹「あのね、お父さん」

商人「ん?何だい?」

末妹「今の学校を卒業してからのこと……そろそろ話をした方がいいと思うの…」

次兄(お、いよいよですな末妹)

商人「そうだな、お前も来年は15歳、町の学校に通うのもあと1年くらいか……早いものだ」

商人「で……お前はどうしたいのかな」

末妹「……私、将来は学校の先生になりたいんです」

商人「そ 長姉「いいじゃない!?末妹には向いてるわあ!!」

商人「あ 長姉「教員養成学校に行くのね、あんたなら大丈夫、絶対合格するから!!」

商人「え 長姉「ね、お父さん、素敵な話よね!!」

商人「……う、うむ……」
 

商人「が、頑張りなさい……応援するよ、末妹……」

末妹「お父さん……」

次兄「……えーっと……」

次兄「もうちょっと具体的な話をした方が、よくないですかねえ?」タスケブネ

商人「は」

商人「そ、それもそうだね……末妹、どのくらい考えているんだい?」

末妹「はい、あの……一番近い、隣町の養成学校に正式に入学するか、それとも」

末妹「市内の学校で代用教員として働きながら、養成学校の集中講義や資格試験を受けて、正式教員になるか」

末妹「今考えられるのは、これくらいだと思うの」

商人「……」

商人「うん、なかなか現実的な発想だね末妹……さすがはしっかり者だ」

商人「我が家には……お前を卒業後すぐに働きに出せねばならぬような理由はない」

商人「商売が最低でも現状維持であれば、の話だが」

商人「座学のみならず実践を積みたくば、養成学校から短期間の派遣を斡旋してもらう手もある」

商人「と言うわけで、まず初めの1~2年だけでも、養成学校で学ぶことに集中してみてはどうかな?」

末妹「え」

末妹「正式入学になったら……隣の市で寮か下宿か、とにかく家を離れることになるけれど……」

商人「もちろん知ってるよ、住む場所は私も一緒に探すが、お前なら心配ない」ニコ

末妹「お、お父さん……!?」

次兄「」

次兄「父さんが……末妹までも家を離れることを承知したと……!?」

商人「離れると言っても隣の市じゃないか」ニッコリ

次兄「天変地i 長姉「やったじゃない、末妹!!がんばるのよ!!」

末妹「う、うん……ありがとう、お姉ちゃん」

末妹「ありがとう……ありがとうお父さん、私、頑張ります……!!」

商人「うん、うん……」ニコニコ

商人「……さて、そろそろ夕食ができた頃かな、ちょっと様子を見てこよう」

長姉「あ、私が行くわ」

商人「いいよいいよ、お前はこの子達と一緒にいてくれ」

ドア:ガチャ…パタン

商人「…………」スタスタ

商人「……これくらい離れたらいいかな」ピタ

商人「いつかこんな日は来ると思っていなかったわけではない……」

商人「うええええええんん頑張ったよ妻、私は頑張ったよおおおおおおん」

商人「お前がいたらきっと、必ず末妹を応援しただろう、そう思ったから私も……」グスングスン

商人「……そうだよ、隣の市、毎週とは言わなくても月に1回以上の週末は帰省するじゃないか……たぶん」スンスン

商人「長姉の言う通り、あの子には向いている、いい仕事だよ」

商人「……」ジワ

商人「……こ、今夜は長兄に、お酒に付き合ってもらおうかな……」グシュ

……
 


※短いけれど、お久しぶりです。次回更新は8月に※

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※一か月経ってしまう…健在報告のみしておきます、すみません※

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